説明

現場造成杭の築造方法

【課題】現場造成杭を無排土で築造する方法及びそれに伴う残土などの産業廃棄物の発生や泥状コンクリートの投入などに伴う地下水汚染を防止する方法の提供。
【解決手段】先端部を下窄まりのテーパー状に成形し、先端に掘削ヘッドを装着してある鋼製の外管と側壁に複数の排土口を設けてある鋼製の内管とによって土砂収容部を形成し、内管にオーガーを挿入してオーガーを外管と同一方向又は逆方向に回転させて杭穴を掘削しつつ、掘削した土砂の一部を内管の排土口から土砂収容部に収容し、残りの土砂は一時的に地上に上げておいて所定の深度まで掘削した後、オーガーを引き揚げて鉄筋篭を挿入し、コンクリートを打設した後、外管と内管を引き揚げて、その空洞部分へ地上に上げた土砂の全量を埋め戻して現場造成杭を築造する方法。杭穴に板紙を巻き付けた鉄筋篭を挿入することで、泥状コンクリート投入による汚水の浸出を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現場造成杭の新規な築造方法に関する。詳しくは、現場造成杭を無排土工法によってる築造する方法に関する。さらに詳しくは、現場で杭を築造することによって惹起される産業廃棄物の発生や地下水の汚染を防止できる現場造成杭の築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から現場造成杭を築造(埋設)するための杭穴の掘削は、ロッドの先端に装着したバケットによって掘削し、排土することを反復しながら推進する「アースドリル」と呼ばれる工法を採っている。また、別の工法として、先端に掘削刃を装着してある掘削ヘッドを取り付けた外管(以下、外管のことを「ケーシング」ともいう。)を使用し、これを全旋回させながら掘削を推進し、同時に、掘削された土砂をクラブハンマーによって排出することを反復しながら掘削を推進する「ベノト工法」という掘削方法も採られている。しかし、これら従来の工法では、現場造成杭を無排土で築造することはできず、また、コンクリート打設に伴う地下水汚染を防止することは不可能とされている。
【0003】
近時、構造物の大型化と高層化に伴い、現場造成杭、既製杭、鋼管杭(これら3杭を合わせて「杭基礎」と呼ばれている。)も大口径のものに移行しつつある。このため、杭の埋設ないし築造によって排出される土砂は大量となり、産業廃棄物としての土砂(残土)の処理が大きな社会問題となっている。杭基礎の年間需要量は、1000万トン前後と推定されるが、その排土処理に要する費用は数千億円に達し、排土の処理場の建設費用を含めると、さらに膨大な金額となっている。
【0004】
このような事情から、土砂を地上に残留させない、いわゆる無排土による杭の埋設工法について従来から多くの研究がなされているが、今日に至っても抜本的な解決法は見いだされていない。特に現場造成杭については、残土の問題に加えて、泥状コンクリート投入による地下水汚染を防止する必要があるが、現場造成杭の築造に由来する環境汚染の防止法については、未だ検討もなされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−155531号公報
【特許文献2】特開2004−218303号公報
【特許文献3】特開2003−129475号公報
【特許文献4】特開平9−49229号公報
【0006】
例えば、特許文献3に記載の工法は、掘削によって排出した土砂の全量をフィルタープレスで処理して処理後の容積を処理前の容積に対し約半分に減少させるなどの容積減少処理を施してから埋め戻す方法であり、低容積排土にするために多大の手間を要すると共にコストも嵩む工法である。また、特許文献4に記載の工法は、埋設する杭を直管状の円筒部と先細り状の先端部に分離すると共に、円筒部を薄肉の鋼管として容積を増加させ、その内部に土砂を収容する方法であるから、強度的に問題が残るおそれがあり、少なくとも大口径の杭の埋設に適用できる工法ではない。このように、従来公知の既製杭や鋼管杭の無排土埋設方法は、未だ完成されたとは言いがたい。また、現場造成杭の無排土築造方法に関する文献は、ほとんど見当たらないのが現状である。
【0007】
本発明者は、無排土工法による杭の埋設方法について長年の間研究を続けており、地上に土砂を残置することなく、確実に無排土によって杭を埋設する方法をすでにいくつか開発し、その一部を特願2000−354183号(特開2002−155531:特許文献1)及び特願2003−008028号(特開2004−218303:特許文献2)並びに特願2004−056223号(未公開)として特許出願している。これらは、現場造成杭にも適用できるが、主として既製杭や鋼管杭の無排土埋設に適用できる工法である。
【0008】
本発明者は、杭基礎の中心的存在は現場造成杭であることに鑑み、主として現場造成杭の築造に適用できる工法であって、残土や泥状コンクリートなどの産業廃棄物の発生防止やそれに伴う環境汚染を防止できる工法の開発を志向し、種々研究を続けた結果、一対のケーシングと内管で形成した土砂収容部に掘削した土砂の一部を収容すると共に、土砂の掘削にオーガーを併用することによって、現場造成杭の無排土築造を実現できることを見いだし、さらに泥状コンクリートの投入に伴う環境汚染を防止する方法についても、鉄筋篭の外周に紙材を巻き付ける方法を採ることによって解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の状況に鑑み、本発明は、現場造成杭を無排土で築造する方法を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、現場造成杭の築造に伴って惹起される残土や泥状コンクリートなどの産業廃棄物の発生やそれに伴う環境汚染を防止する方法を提供することを第2の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明のうち特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、先端部を下窄まりのテーパー状に成形してあると共に先端に掘削ヘッドを装着してある鋼製の外管と側壁に複数の排土口を設けてある鋼製の内管とによって外管と内管の隙間に土砂収容部を形成できる一対の外管・内管を用い、内管の内方にオーガーを挿入して外管・内管とオーガーとを杭の築造地点に同心円状に配置し、オーガーを外管と同一方向又は逆方向に回転させて杭穴の掘削を推進しつつ、掘削した土砂の一部を内管の排土口から土砂収容部に収容すると共に残りの土砂は一時的に地上に上げておき、所定の深度まで掘削した後、オーガーを引き揚げた跡の杭穴に鉄筋篭を挿入し、コンクリートを打設した後、外管と内管を引き揚げて、その空洞部分へ地上に上げた土砂の全量を埋め戻して地上に土砂を残さないようにすることを特徴とする現場造成杭の築造方法である。
【0011】
同請求項2に記載する発明は、請求項1に記載の現場造成杭の築造方法において、外管の先端部内側に設けた突出部に内管の先端を載置して外管と内管の隙間に土砂収容部を形成し、杭穴に挿入した鉄筋篭にコンクリートを打設した後、内管を引き揚げ、次いで外管を引き揚げる方法を採る現場造成杭の築造方法である。
【0012】
同請求項3に記載する発明は、請求項1に記載の現場造成杭の築造方法において、外管と内管とを複数の連結桿によって固定して外管と内管の隙間に土砂収容部を形成し、杭穴に挿入した鉄筋篭にコンクリートを打設した後、外管と内管とを同時に引き揚げる方法を採る現場造成杭の築造方法である。
【0013】
また、同請求項4に記載する発明は、請求項1から3のいずれかに記載の現場造成杭の築造方法において、杭穴に、板紙などの紙材を巻き付けた鉄筋篭を挿入する方法を採る現場造成杭の築造方法である。
【0014】
《作用》
本発明は上記の構成からなり、一対のケーシング(外管)と内管によってケーシングと内管の隙間に土砂収容部を形成してあるので、掘削された土砂は、オーガーロッドのスクリューを伝って上方に運ばれ、その大半は内管に設けた複数の排土口から土砂収容部に収容され、残りの土砂は地上まで運ばれることになる。地上に運ばれた土砂は、施工完了時における杭頭部の微調整に使用されることもあるが、ケーシングと内管を引き揚げた跡の空洞部分にその全量を埋め戻すことができる。すなわち、ケーシングと内管を引き揚げた後、その空洞部分には十分な余裕があるので、大径の礫や埋め戻し不可の夾雑物を除き、地上に運ばれた土砂の全量を埋め戻すことができ、完全な無排土工法を実現できる。
【0015】
また、本発明では、板紙などの紙材を巻き付けた鉄筋篭を用いると、現場造成杭が紙材を巻き付けた状態で築造されるので、硬化する前の泥状コンクリートから生ずる水分が地中に浸出することが抑止される。そのため、現場造成杭の築造に伴って発生しやすい地下水汚染などを十分に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記のとおり、地上に土砂を残留させることなく、完全無排土の状態で現場造成杭を築造できるので、残土が全く発生せず、したがって、産業廃棄物処理費用を大幅に節減することができる。また、本発明は、泥状コンクリート投入によるコンクリート水の地中への浸出を防止できるので、飲料水、工業用水、農業用水などに使用される地下水を汚染することがない。また、本発明は、築造する杭の大小や地盤の硬軟・強弱にかかわらず実施できる工法である。
【0017】
今後、建築工事の大半は、古い建物の建替工事が多くなることが予想されるが、従来の建替工事では、旧建物を解体した後、旧基礎の引抜き・撤去作業を行ない、続いて整地作業をした後あらためて新基礎を埋設ないし築造している。この場合、新基礎は旧基礎の位置を避けることが多く、そのため、新建物の位置は旧建物の位置から移動させるのが一般的である。しかしながら、本発明のようにケーシングを用いて杭穴を掘削する工法を採ると、旧基礎を引抜き・撤去した跡に新基礎を埋設ないし築造することができ、新建物を旧建物と同じ位置に建築することが可能となる。そのため、本発明の工法を用いると、施工費の大幅な節減と工期の大幅な短縮が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る現場造成杭の埋設方法について、実施例に基づいて説明する。
なお、以下は、杭径=1200mm、杭長=20mの現場造成杭を築造する場合の実施例であって、ケーシングは口径=1800mmで100HPのもの、内管は口径=1200mmのもの、オーガーは100HPのものを用いることを予定している。しかし、本発明は、これら実施例で用いる機器に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る現場造成杭の築造方法の一実施例の工程の説明図である。すなわち、図1の(イ)は、現場造成杭の埋設地点にケーシング1、内管2、オーガー3を同心円状に配置した状態の説明図である。同(ロ)は、ケーシング1とオーガー3を起動して杭穴の掘削を進行途中で、掘削した土砂(斜線で示す)の一部を土砂収納部22へ収容している状態の説明図であり、判りやすいように、オーガー3を途中まで引き揚げた状態で図示している。同(ハ)は、所定の深度まで掘削した後、オーガー3を地上へ引き揚げた状態の説明図であり、土砂収納部22は概ね土砂で充満されている。また、同(ニ)は、オーガー3を引き揚げた跡の杭穴に鉄筋篭4を挿入した状態の説明図であり、鉄筋篭4の全周には予め地上において板紙5を巻き付けてある。さらに、同(ホ)は、鉄筋篭4にコンクリート6を打設した状態の説明図である。さらに、同(ヘ)は、ケーシング1と内管2を地上に引き揚げて杭の埋設を終了した状態の説明図であり、全周に板紙5を巻き付けた現場造成杭が築造されている状態を示している。以下、(イ)〜(ヘ)の各工程について、さらに詳細に説明する。
【0020】
図1の(イ)において、1は、先端部を下窄まりのテーパー状に成形してあると共に先端に掘削ヘッド11を装着してある鋼製のケーシング(外管)であり、2は、その側壁に複数の排土口21・21・・を設けてあり、ケーシング1よりも口径が小さい直管状の鋼製の内管である。ケーシング1の先端と掘削ヘッド11の間にはケーシング1の内側に少し突出した突出部12が設けてあり、ケーシング1の掘削ヘッド11は突出部12を介してケーシング1に装着されている。また、内管2の先端は突出部12の上端に載置してある。なお、本実施例では、より正確には、内管2はケーシング1の先端に装着した掘削ヘッド11の内側上端に載置しているが、このように、掘削ヘッド11の上端を突出部12として兼用しても差し支えない。また、本実施例では、内管2はケーシング1の突出部12の上に載置してあるだけで、固定していない。したがって、現場造成杭の築造後、地上からの操作によって、ケーシング1と内管2は、それぞれ別々にかつ容易に引き揚げることができる。
【0021】
ケーシング1とその突出部12に先端を載置した内管2と内管2の内方に挿入したオーガー3とを、杭の築造地点に同心円状に配置する。そうすると、ケーシング1と内管2の隙間に土砂収容部22が形成される。なお、ケーシング1の表面には回転に伴う土砂の摩擦抵抗を減少させるために摩擦カット鉄筋13をスパイラル状に巻き付けてある。準備が整ったら、オーガー3をケーシング1に連動して起動し、それぞれの機器を同一方向又は逆の方向に回転させながら杭穴の掘削を推進する。
【0022】
図1の(ロ)において、ケーシング1とオーガー3によって掘削された土砂は、オーガー3のロッド31に設けたスパイラル状のオーガースクリュウ32を伝って上方へ運ばれ、その大半は内管2の側壁に設けた複数の排土口21・21・・から土砂収容部22へ収容される。残りの土砂はそのまま地上まで搬出されて一時的に地上に残置される。地上へ運ばれた土砂の中に大きな礫や埋め戻ししない方がよい夾雑物などがあるときは、これらを取り除いておく。地上の土砂は、工程の最終段階で杭頭部の微調整などに使用されることがある。
【0023】
図1の(ハ)において、所定の深度まで掘削した後、オーガー3を地上へ引き揚げる。この段階では、土砂収容部22は概ね土砂(斜線で示す)で充満されているが、土砂の一部は地上に搬出されているため、土砂収容部22は十分に余裕がある状態であり、内管2の内方(オーガー3を引き揚げた跡の杭穴)は空洞状態になっている。
【0024】
図1の(ニ)において、オーガー3を引き揚げた後、杭穴に鉄筋篭4を所定の位置まで挿入する。鉄筋篭4の全周には予め地上において板紙5を巻き付けておく。すなわち、鉄筋篭4は横の鉄筋棒41を縦の鉄筋棒42の約100mm外側まで伸ばしてあるので、板紙5は横の鉄筋棒41の外周に任意の手段によって剥がれないように巻き付ける。例えば、鉄筋篭4 の全周に巻き付けた板紙5の表面にさらにスパイラル鉄線を巻き付けて固定する方法を採るとよい。
【0025】
図1の(ホ)において、鉄筋篭4にトレミ管によってコンクリート6を計量した分量だけ投入する。鉄筋篭4に投入された直後のコンクリート6は泥状である。しかし、一般にコンクリートの硬化は3〜5時間経過後から徐々に始まるので、板紙5は、コンクリート体積による重圧に3時間以上耐えられるもので、かつ、そのまま地中に残留させても二次汚染の心配のないものを使用する。この工程によって杭穴に鉄筋コンクリーの現場造成杭が板紙5を巻き付けた状態で築造されることになる。
【0026】
図1の(ヘ)において、ケーシング1と内管2を地上へ引き揚げる。本実施例では、まず内管2を引き揚げ、次いでケーシング1を引き揚げるようにすればよい。ケーシング1と内管2を引き揚げた跡の空洞部分には、大径の礫や埋め戻し不可の夾雑物を除いて、地上に残置してある土砂の全量を埋め戻す。この空洞部分の容量は大きいので、地上の土砂を余裕をもって収容することができる。これら一連の工程を経て、現場造成杭を築造する基本的な作業は終了する。
【0027】
本実施例では、鉄筋篭に板紙を巻き付けたが、板紙は泥状コンクリートから生ずる水分が地下水に浸出・混入するのを防止するために用いるのであるから、板紙だけに限るものではなく、鉄筋篭に巻き付けやすいこと、地中に埋設して放置しても数時間は耐えることができること、数時間耐えた後は自然に消化されること、自然に消化されても二次汚染を引き起こす心配がないことという4つの条件を充足する材質のものであれば、板紙以外の紙材を用いても何ら差し支えない。
【0028】
また、本実施例では、板紙は鉄筋篭の全周に巻き付けたが、板紙などの紙材は必ずしも鉄筋篭の全周・全長に巻き付ける必要はない。要は、全周でなくても、泥状コンクリートから生ずる水分の地中への浸出を防止できる程度に鉄筋篭に巻き付けることでよい。しかし、鉄筋篭の全周に巻き付けると水分の浸出防止効果が最も高くなるので、紙材は、鉄筋篭の全周に巻き付けるのが好ましい。
【0029】
また、本実施例では、内管2の先端をケーシング1の突出部(掘削ヘッド11の上端で兼用)に載置してケーシング1と内管2の隙間に土砂収容部22を形成したが、内管2の先端を載置するのは、ケーシング1の突出部でなくてもよい。要は、ケーシング1の内壁を直管状の内管2で閉塞して、ケーシング1と内管2の隙間に掘削した土砂を収容できる土砂収容部を形成するように構成すればよいのである。(したがって、後記する実施例2の方法を採っても差し支えない。)
【0030】
本実施例で用いるオーガー3のロッド31には、図示のように、その全長にわたってスパイラル状のオーガースクリュウ32を巻着してあるが、掘削する地盤などの状況によっては全長スパイラルにすることなく、一部をロッドのみとし、又はロッド径を大きく、スパイラル幅を小さくするなど任意に調節して差し支えない。
【0031】
また、現場造成杭では杭の支持力を大きくするため、杭の先端部2〜3mを拡大した杭を用いることが多いので、本発明で用いるオーガーには、先端を開閉できる開閉型の掘削ヘッドを装着することが好ましい。
【実施例2】
【0032】
一対のケーシングと内管を用いて土砂収容部を形成する別の方法について、図2に基づいて説明する。図2は、本発明の別の実施例に用いるケーシングと内管の構成の説明図である。
【0033】
図2において、1は、先端部を下窄まりのテーパー状に成形してあると共に先端に掘削ヘッド11を装着してある鋼製のケーシング(外管)である。2は、側壁に複数の排土口21・21・・を設けてあり、ケーシング1よりも口径が小さい直管状の鋼製の内管であるが、その長さはケーシングよりも短くしてあるので、内管2の先端は、ケーシング1の掘削ヘッド11(突出部を兼用)には達していない。(したがって、本実施例では、ケーシング1突出部を設ける必要はない。)
【0034】
本実施例では、図2に示すように、ケーシング1と内管2は、複数の連結桿23・23・・によって連結・固定してある。そのため、ケーシング1と内管2の隙間には土砂収容部22が形成されている。なお、例えば、最下段の連結桿を連結板に替えて、土砂の落下を止めるようにしてもよい。その他の構成は実施例1と同じである。
【0035】
なお、図2では、ケーシング1の先端部分(下窄まりのテーパー状の部分)1aとそれに続く直管状の部分1bとは、図中に点線で示すように、切り離すことができるように図示しているが、1aと1bは必ずしも分離できるようにする必要はない。岩盤や極密地盤など硬い地層で、先端部分を下窄まりのテーパー状に成形したケーシングを用いたのでは掘削が困難な地盤の場合は、ケーシングの先端部分を下窄まりのテーパー状のものから直管型のもの(ケーシングの直管状部分と同径のもの)に付け替えて掘削を容易に進め、掘削が適度に進行した後でケーシングの先端部分を下窄まりのテーパー状のものに付け替えることがある。そのため、ケーシングの先端部分1aは直管状部分1bと分離できるようにしておくと便利であり、図2の点線はそのことを示すものである。すなわち、通常の地盤の場合は、下窄まりのテーパー状に成形した先端部分1aと直管状部分1bを連結・固定したケーシングで十分に掘削できるから、あえて、ケーシングの先端部分1aを直管状の部分1bと分離できるような構造にしたケーシングを用いる必要はない。また、先端部分1aを切り離すことができる構造のケーシングを用いる場合でも、先端部分1aを付け替えることなく、そのまま使用して差し支えない。
【0036】
したがって、本実施例では、実施例1と同様、掘削された土砂は、オーガーのロッドスクリュウによって上方へ運ばれ、その大半は内管2の側壁に設けた複数の排土口21・21・・から土砂収容部22へ収容される。そして、オーガーを引き揚げた跡の杭穴に鉄筋篭を挿入し、コンクリートを打設して、現場造成杭として築造した後、地上からの操作によってケーシング1と内管2を引き揚げるが、このとき、本実施例では、ケーシング1と内管2を同時に引き揚げることができる。よって、本実施例は、ケーシングと内管を引き揚げる作業工程を一体化して施工の効率化を図ることができるという利点がある。
【0037】
このように、本発明の無排土工法は、ケーシングと内管とを組み合わせて土砂収容部を形成する方法やケーシングと内管の引き揚げ方などに関して、実施例1と実施例2のように、いくつかの方法が考えられるが、どのような方法を採るかは、築造する杭の口径や地盤の硬軟・強弱を考慮して逐次決定すればよい。すなわち、本発明は、実施例1・実施例2の方法の他にもいくつかのバリエーションが考えられ、実施例1・実施例2の方法に限定されるものではない。
【0038】
ここで、本発明における土砂の発生量と収容量の関係について検討する。
本発明において、掘削する土砂の発生量と収容量は、以下のように計算できる。
土砂の発生量=掘削口径又はケーシングの内径×掘削長さ
土砂の収容量=ケーシングが占めていた容積−築造する現場造成杭の占める容積
【0039】
しかし、一般に、土砂の発生する容積は掘削によって増加する。その要因として、オーガーによって礫が破砕されて小片礫となり、掘削前の原形に比べて容積が増加することが挙げられる。また、地盤によって含水量が大きく変化する上、地盤を形成する粘土、砂、礫などの混合の状態によっても容積は変化する。このため、掘削によって土砂容積の増加を予測することは極めて困難である。さらに、掘削された土砂の中には、地中に放置したり収容するには不適と考えられる礫その他の夾雑物もある。よって、本発明では、掘削によって土砂の発生量は、計算値よりも10%増加するものと想定してその収容量を検討する。具体的には以下の計算方法による。
【0040】
例えば、本発明の実施例1の無排土工法のように、杭径1200mm、杭長20mの現場造成杭を築造する場合の土砂の発生量と収容量について検討すると、杭径1200mmであれば、ケーシングの口径は1800mm、内管の口径は1200mmのものが必要である。しかし、本発明では、環境汚染防止のために、外周に紙材を巻き付けた鉄筋篭を用いることがあるので、その紙材の分の空間も必要となる。そこで、内管は口径1260mmのものを用い、コンクリートの打設径は1200mmとする。この60mmの隙間の中に紙材が入るが、その位置は鉄筋篭の外側約100mmの位置である。この条件の下で土砂の発生量と収容量について以下に検討する。
【0041】
《掘削側》
内管の口径は1260mmであるから、
計算上の土砂の発生量は、630mm×630mm×3.14×20m=2492m3
土砂の変化量(増加量)は、発生量の10%=249m3
よって、土砂の発生量は、2492m3 +249m3 =2741m3 である。
《収容側》
コンクリート打設径は1200mmであるため、土砂の収容可能部は600mmと考えて差し支えない。また、土砂の収容量は、ケーシングが占めていた容積と築造する現場造成杭の占める容積の差であるから、
ケーシングが占めていた容積
=900mm×900mm×3.14×20m=5080m3(φ1800−20) 現場造成杭の占める容積
=600mm×600mm×3.14×20m=2260m3(φ1200−20)
となり、この差2820m3 が土砂の収容可能量である。これは、土砂の発生量2741m3 に対して79m3 大きい。
すなわち、掘削による土砂の発生量よりも収容量の方が大きい。よって、本発明では、発生する土砂の収容について何ら問題のないことが確認された。
【0042】
次に、本発明に係る現場造成杭の築造方法の説明を整理すると、以下のとおりである。(1)先端部を下窄まりのテーパー状に成形してあると共に先端に掘削ヘッドを装着してある鋼製のケーシングと側壁に複数の排土口を設けてある鋼製の内管とを、内管の隙間に土砂収容部を形成するように組み合わせる。
(2)内管の内方にオーガーを挿入する。
(3)ケーシングと内管とオーガーとを杭の築造地点に同心円状に配置する。
(4)オーガーを外管と同一方向又は逆方向に回転させて杭穴の掘削を開始する。
(5)掘削した土砂の一部を内管の排土口から土砂収容部に収容しながら掘削を推進し、土砂収容部に収容されなかった土砂は一時的に地上に上げておく。
(6)所定の深度まで掘削した後、オーガーを地上へ引き揚げる。
(7)掘削した杭穴に鉄筋篭を挿入する。
(8)鉄筋篭には、板紙などの紙材を予め巻き付けておくことが好ましい。
(9)鉄筋篭に泥状コンクリートを投入して、常法のとおり硬化させ、鉄筋コンクリートの現場造成杭を築造する。
(10)コンクリートを打設した後、外管と内管を同時に又は別々に地上に引き揚げる。
(11)外管と内管を引き揚げた跡の空洞部分へ地上に残置した土砂の全量を埋め戻す。このとき、埋め戻すのに不適である大きな礫や夾雑物は除去する。
かくして、地上に土砂を全く残さない状態で現場造成杭を築造することができる。
【0043】
以上の説明によって容易に理解できるように、本発明に係る無排土工法のポイントは、(イ)先端に掘削ヘッドを装着してあるケーシング(外管)とオーガーとを併用して、いわゆるダブルオーガーの状態で掘削を進めること、
(ロ)ケーシングと内管を組み合わせて、ケーシングと内管の隙間に土砂収容部を設けること、
(ハ)掘削した土砂の一部を地中の土砂収容部に収容して、地上に上げて一時的に残置する土砂の量を少なくすること、
(ニ)コンクリートを打設した後、ケーシングと内管を引き揚げた跡の空洞部分へ地上に残置した土砂を埋め戻すこと、
(5)好ましくは、予め板紙などの紙材を巻き付けた鉄筋篭を用いること、
の5点である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳細に説明したとおり、本発明は、地上に土砂を残留させることなく、完全無排土の状態で現場造成杭を築造できるので、残土が全く発生せず、したがって、産業廃棄物処理費用を大幅に節減することができる。また、本発明は、泥状コンクリート投入によるコンクリート水の地中への浸出を防止できるので、現場工事に伴う環境汚染の問題を十分に解消できる。このように、本発明に係る現場造成杭の築造方法は、無排土工法を実現できる画期的な方法であり、しかも、従来に比べて施工費の節減と工期の短縮が可能であるので、産業上の利用性はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る現場造成杭の築造方法の一実施例の工程の説明図
【図2】本発明の別の実施例に用いるケーシングと内管の構成の説明図
【符号の説明】
【0046】
1:ケーシング、 11:掘削ヘッド、 12:突出部 13:摩擦カット鉄筋
1a:ケーシングの先端部、 1b:ケーシングの直管部
2:内管、 21:排土口、 22:土砂収容部、 23:連結桿
3:オーガー、 31:オーガーのロッド、 32:オーガースクリュウ
4:鉄筋篭、 41:横の鉄筋棒、 42:縦の鉄筋棒
5:板紙
6:コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を下窄まりのテーパー状に成形してあると共に先端に掘削ヘッドを装着してある鋼製の外管と側壁に複数の排土口を設けてある鋼製の内管とによって外管と内管の隙間に土砂収容部を形成できる一対の外管と内管を用い、内管の内方にオーガーを挿入して外管・内管とオーガーとを杭の築造地点に同心円状に配置し、オーガーを外管と同一方向又は逆方向に回転させて杭穴の掘削を推進しつつ、掘削した土砂の一部を内管の排土口から土砂収容部に収容すると共に残りの土砂は一時的に地上に上げておき、所定の深度まで掘削した後、オーガーを引き揚げた跡の杭穴に鉄筋篭を挿入し、コンクリートを打設した後、外管と内管を引き揚げて、その空洞部分へ地上に上げた土砂の全量を埋め戻して地上に土砂を残さないようにすることを特徴とする現場造成杭の築造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の現場造成杭の築造方法において、外管の先端部内側に設けた突出部に内管の先端を載置して外管と内管の隙間に土砂収容部を形成し、杭穴に挿入した鉄筋篭にコンクリートを打設した後、内管を引き揚げ、次いで外管を引き揚げる方法を採る現場造成杭の築造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の現場造成杭の築造方法において、外管と内管とを複数の連結桿によって固定して外管と内管の隙間に土砂収容部を形成し、杭穴に挿入した鉄筋篭にコンクリートを打設した後、外管と内管を同時に引き揚げる方法を採る現場造成杭の築造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の現場造成杭の築造方法において、杭穴に、板紙などの紙材を巻き付けた鉄筋篭を挿入する方法を採る現場造成杭の築造方法。



























【図1】
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【図2】
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