球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法
【課題】 黒鉛球状化処理や接種処理の施された鋳鉄溶湯の段階で、それから得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を、迅速に且つ容易に判定し得る方法を提供すること。
【解決手段】 黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれら温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]に基づき、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する。
【解決手段】 黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれら温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]に基づき、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法に係り、特に、溶解炉等で溶解して得られる鋳鉄溶湯に黒鉛球状化処理や接種処理を施してなる、球状黒鉛鋳鉄溶湯の凝固後における球状黒鉛の粒数を、効果的に把握し得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳鉄の主要成分である炭素は、非特許文献1(平成7年1月30日、産業図書株式会社発行、中江秀雄著、「鋳造工学」、第17〜27頁)にも明らかにされている如く、鋳鉄溶湯の凝固温度を下げ、溶融時の流動性を良くすると共に、炭素が黒鉛として晶出して体積が膨張するために、凝固による体積収縮を減少させることが知られている。そして、それらの性質は、鋳鉄が多用されてきた理由でもあり、その晶出した黒鉛相が、基地であるフェライト相やパーライト相と比較して、圧倒的に強度が低く、熱伝導性や振動減衰能が高いために、鋳鉄の材料特性は、黒鉛の晶出量や分布に強く影響されることとなる。
【0003】
そして、そのような鋳鉄の一つであるダクタイル鋳鉄、即ち球状黒鉛鋳鉄は、晶出する黒鉛の形状を球状化して、強度や延性の向上を意図したものであり、そこにおいて、球状化した黒鉛の粒数を増加させると、強度や伸びの増加の他、組織の均一性、チル化傾向・ひけ巣の発生の低減、フェライト率の上昇等、材料としての特性の向上が期待されるのである。
【0004】
ところで、球状黒鉛鋳鉄において、その黒鉛粒数を確認するためには、一般に、黒鉛球状化処理及び接種処理を終了した鋳鉄溶湯を、所定形状の試験片鋳型に注入して、凝固せしめ、その凝固完了を待って、得られた鋳物から、顕微鏡検査用試験片が作製される。かかる試験片は、鋳物から切り出されて、研磨された後、その顕微鏡検査や画像処理によって、単位面積当たりの黒鉛粒数を数視野から得て、その平均黒鉛粒数が求められているのである。また、それに代えて、鋳造後の製品の一部から試験片を切り出して、同様に、黒鉛粒数を求める試験も、採用される場合があった。
【0005】
しかしながら、そのような方法で得られた黒鉛粒数に関するデータは、球状黒鉛鋳鉄製品の品質管理に供されてはいるものの、そのデータを取得するまでに時間がかかるところから、黒鉛球状化処理や接種処理の改善に利用したり、鋳造に際してのリスク回避に利用したりすることは、殆ど為されることがなかった。また、鋳鉄溶湯を鋳型に鋳込む前に、得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を推定することが出来ることとなるならば、鋳鉄溶湯の接種処理や黒鉛球状化処理の良否判断や、凝固後の鋳鉄製品の性状を予知することが、可能となるのである。
【0006】
一方、鋳鉄溶湯を鋳型に鋳込む前に、凝固後の鋳鉄の性状を予知する手法として、本発明者等のうちの一人は、他の発明者と共に、特許文献1(特許第2750832号公報)において、鋳鉄溶湯が凝固するときに、炭素が黒鉛として晶出する場合(安定系)と、セメンタイトとして晶出する場合(準安定系)とがあることに着目して、黒鉛共晶温度(TEG)とセメンタイト共晶温度(TEC)を測定し、被検査鋳鉄溶湯の過冷最低温度(TEL)との関係から、黒鉛核生成能力を判定して、指数化する方法を提案し、これによって、片状黒鉛鋳鉄における微量元素等の影響も含めたチル化傾向等の、鋳鉄溶湯の性状と凝固後の鋳鉄の性状の把握を可能ならしめたのである。
【0007】
そして、そこでは、3個の熱分析用試料採取容器が使用され、その第一の容器にチル化剤を添加して、セメンタイト共晶温度(TEC)を測定し、また第二の容器には、添加剤を加えることなく、被検査鋳鉄溶湯の共晶凝固温度変化を把握し、更に第三の容器には、黒鉛化剤を添加して、黒鉛共晶温度(TEG)を測定して、第二の容器から得られた共晶凝固温度変化との関係から、鋳鉄溶湯の性状を判定しているのであるが、かかる手法は、片状黒鉛鋳鉄の溶湯性状を判定するに過ぎないものであって、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数を求めることは出来ないものであった。
【0008】
上記特許文献1にて提案の方法は、片状黒鉛鋳鉄の溶湯(元湯)の性状を把握するに過ぎないものであって、球状黒鉛鋳鉄用の鋳鉄溶湯で、その凝固後の黒鉛粒数を推定することは困難であったのであり、また、第一の容器にテルル等のチル化剤を添加して、セメンタイト共晶温度(TEC)を測定する場合において、CV黒鉛鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄の球状化処理後の鋳鉄溶湯では、球状化剤であるマグネシウムとテルルが反応するために、チル化が困難となるのであり、そのために、セメンタイト共晶温度(TEC)を測定することが出来ないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2750832号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】中江秀雄著、「鋳造工学」、第17〜27頁(平成7年1月30日、産業図書株式会社発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
かかる状況下、本発明者等が、黒鉛球状化処理や接種処理の施された鋳鉄溶湯と、それから得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数との関係について、鋭意検討した結果、そのような黒鉛球状化処理等された鋳鉄溶湯の冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]が、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数に対して、良好な相関関係を有していることを見出し、そして、その相関関係に基づいて、検査対象とされた鋳鉄溶湯から同様にして求められた黒鉛化度より、鋳造される球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を良好に判定乃至は推定し得ることに到達し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
従って、本発明の解決課題とするところは、黒鉛球状化処理や接種処理の施されてなる球状黒鉛鋳鉄溶湯の段階で、それから得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を、迅速に且つ容易に判定し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また以下に記載の各態様は、任意の組合せにて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載及び図面に記載の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0014】
(1) 黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]に基づき、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(2) 前記黒鉛共晶温度が、前記冷却曲線の微分曲線における谷部に相当する温度及び共晶最高温度のうち、何れか高い方の温度として求められる上記態様(1)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(3) 前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理の施されていない前記鋳鉄溶湯を、チル化剤と共に、試料採取容器に収容して、冷却せしめることにより、得られた冷却曲線から求められる上記態様(1)又は(2)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(4) 前記黒鉛共晶温度及び/又は前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理の後に接種処理が施されてなる前記鋳鉄溶湯の化学成分から求められる上記態様(1)乃至(3)の何れか一つに記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(5) 前記黒鉛共晶温度(TEG)が、下式:
TEG=1149.6+4.7×Si%−4×Mn%−44×P%+2.7×Cu %+1.0×Ni%−10.5×Cr%−17.7×Mo%−14.8× V%−6.1×W%−80.3×B%−9.3×Sn%−3.7×Nb% −5.2×Sb%+13.9×Al%+1.8×Co%
に基づいて算出される上記した態様(4)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(6) 前記セメンタイト共晶温度(TEC)が、下式:
TEC=1142.7−11.6×Si%−0.75×Mn%−46.2×P%− 1.4×Cu%−1.1×Ni%+5.9×Cr%−14.5×Mo%+ 3.3×V%−2.8×W%−26.0×B%−6.0×Sn%−0.0 ×Nb%−5.1×Sb%−1.8×Al%−0.7×Co%
に基づいて算出される上記した態様(4)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(7) 黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]を算出すると共に、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を測定して、それら得られた黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係を、予め求める工程と、
被検査鋳鉄溶湯について、上記の相関関係を求めた場合と同様にして、黒鉛化度を算出する工程と、
該被検査鋳鉄溶湯について得られた黒鉛化度に基づき、前記予め求められた黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該被検査鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する工程と
を含むことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(8) 前記相関関係が、前記被検査鋳鉄溶湯から球状黒鉛鋳鉄を得るに際しての冷却速度を考慮して求められる上記態様(7)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明にあっては、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を鋳型に鋳込む前に、その一部を採取して、その冷却過程から、冷却曲線とその微分曲線を得て、少なくとも過冷反転温度(TSC)乃至は共晶最低温度(TEL)を求める一方、更に、黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求めて、黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)を算出するだけで、その算出された黒鉛化度に基づいて、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、凝固後の黒鉛粒数を迅速に且つ容易に把握することが出来るのであり、これによって、黒鉛球状化処理や接種処理が適正に行なわれ得たか、否かの確認も、容易に可能となったのである。
【0016】
また、そのような黒鉛球状化処理や接種処理が施された鋳鉄溶湯の凝固後の黒鉛粒数を予測することで、溶融状態の鋳鉄を最適化することが可能となり、これによって、ひけ巣対策のために設置される押湯の最適化も可能となるのであり、以て、生産コストの低減にも寄与せしめ得た他、更に、凝固後の球状黒鉛鋳鉄製品の品質が安定して、工業上においても有益な利点がもたらされ得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施に好適な装置構成の一例を示す説明図である。
【図2】本発明方法において求められた冷却曲線とその微分曲線の代表例を示す説明図である。
【図3】本発明に関連する実験において得られた過冷度(ΔT)と球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数(N)との関係をプロットした説明図である。
【図4】本発明の実施例において実測された過冷反転温度及び、鋳鉄溶湯の化学成分から算出された黒鉛共晶温度及びセメンタイト共晶温度を用いて求められた黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数(N)との関係を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例において得られた過冷反転温度と黒鉛共晶温度の実測値及び、鋳鉄溶湯の化学成分から算出されたセメンタイト共晶温度を用いて求められた黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数(N)との関係を示す説明図である。
【図6】鋳造されるテストピースの大きさが異なる場合の過冷度(ΔT)と黒鉛粒数(N)との関係を示す、図3に対応する説明図である。
【図7】鋳造されるテストピースの大きさが異なる場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図4に対応する説明図である。
【図8】鋳造されるテストピースの大きさが異なる場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図5に対応する説明図である。
【図9】鋳造されるテストピースの大きさが異なる他の場合の過冷度(ΔT)と黒鉛粒数(N)との関係を示す、図3に対応する説明図である。
【図10】鋳造されるテストピースの大きさが異なる他の場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図4に対応する説明図である。
【図11】鋳造されるテストピースの大きさが異なる他の場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図5に対応する説明図である。
【図12】図4、図7及び図10の結果から求められた、球状黒鉛鋳鉄(製品)の鋳造に際しての冷却速度(R)と黒鉛粒数(N)との関係を、黒鉛化度に応じて示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
要するに、本発明は、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理が施された、所謂球状黒鉛鋳鉄溶湯の冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれら3つの温度から算出される黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)が、そのような鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄製品の黒鉛粒数(N)に良好な相関関係を有していることに基づいて、かかる鋳鉄溶湯の状態において、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品中の黒鉛粒数(N)を判定乃至は推定するようにしたものであって、そのような本発明に従う方法の実施に際して好適に採用されるシステムの一例が、図1に示されている。
【0019】
そして、そのような図1において、2は、熱電対等の温度を検知する公知の温度検知センサが具備せしめられた試料採取容器であって、そこには、測定されるべき鋳鉄溶湯が収容せしめられるようになっている。また、試料採取容器2は、支持台4にて支持されると共に、温度検知センサからの信号が、導線6を通じて取り出され得るように、かかる支持台4に対する電気的な接続が図られている。そして、導線6は、信号変換装置8に接続され、温度検知センサからの信号を検出・増幅して、アナログ信号をデジタル化するようになっている。更に、かかる信号変換装置8は、そのデジタル化したデータを演算装置10に送り、そこにおいて、図2に示される如き冷却曲線及びその微分曲線が作成されるようになっている。
【0020】
なお、かかる図示のようなシステムにおいて、試料採取容器2に収容せしめられる測定用の鋳鉄溶湯は、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯であって、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品を与える通常の処理溶湯である。ここで、黒鉛球状化処理は、一般に、マグネシウムを用いて、従来と同様にして実施されるものであり、また接種処理も、黒鉛系、Ba系、Ca−Si系、Ce系、Bi系等の公知の各種の接種剤を適宜に用いて、従来と同様にして実施され、そうして得られる鋳鉄溶湯が用いられることとなる。
【0021】
また、そのような黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理の後に接種処理が施されてなる鋳鉄溶湯は、その所定量が試料採取容器2内に収容されて、冷却せしめられる際に、その冷却過程において温度検知センサにて検知される溶湯温度信号に基づいて、信号変換装置8を介して、演算装置10において、冷却曲線(イ)とその微分曲線(ロ)が、図2に示されるように作成されるのである。
【0022】
さらに、その得られた冷却曲線(イ)及び微分曲線(ロ)からは、少なくとも過冷反転温度(TSC)、即ち冷却曲線(イ)における谷部に相当する温度(B点の温度)、所謂共晶最低温度(TEL)が決定されて、求められることとなる。また、そのような冷却曲線(イ)と微分曲線(ロ)より、共晶開始温度、換言すれば微分曲線(ロ)における谷部に相当する温度(A点の温度)を決定して、それが、共晶最高温度(TEH)である、冷却曲線(イ)における山部に相当する温度(C点の温度)よりも高い温度であれば、かかる共晶開始温度を黒鉛共晶温度(TEG)と見做し、またそれよりも低ければ、共晶最高温度(TEH)が黒鉛共晶温度(TEG)として用いられることとなる。
【0023】
ここで、図2においても一部示されているところであるが、本発明において定義される共晶温度差(ΔTE)、共晶最低温度(TEL)乃至は過冷反転温度(TSC)とセメンタイト共晶温度(TEC)の温度差(ΔT1)、更には、黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)及び過冷度(ΔT)は、以下の通りである。
ΔTE=TEG−TEC,ΔT1=TSC−TEC
ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)
ΔT=TEH−TSC
【0024】
また、上述の黒鉛共晶温度(TEG)やセメンタイト共晶温度(TEC)は、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施されている鋳鉄溶湯の化学成分から、又は黒鉛球状化処理前の鋳鉄溶湯(元湯)の化学成分から、計算により求めることが可能であり、具体的には、本発明者等の一人が他の研究者と共に発表した、「鋳鉄の共晶温度に対する各種合金元素の影響」なる論文[「鋳造工学」第70巻(1998)第7号、第465〜470頁]に明らかにされている如く、それぞれ、以下の計算式に従って、算出されることとなる。
TEG=1149.6+4.7×Si%−4×Mn%−44×P%+2.7×Cu %+1.0×Ni%−10.5×Cr%−17.7×Mo%−14.8× V%−6.1×W%−80.3×B%−9.3×Sn%−3.7×Nb% −5.2×Sb%+13.9×Al%+1.8×Co%
TEC=1142.7−11.6×Si%−0.75×Mn%−46.2×P%− 1.4×Cu%−1.1×Ni%+5.9×Cr%−14.5×Mo%+ 3.3×V%−2.8×W%−26.0×B%−6.0×Sn%−0.0 ×Nb%−5.1×Sb%−1.8×Al%−0.7×Co%
【0025】
なお、上記の計算式において、Si%やMn%等の元素記号と百分率記号の組合せは、それぞれ、鋳鉄溶湯中の元素の含有量(質量基準)を示すものであるが、特に本発明にあっては、黒鉛球状化剤や接種剤の添加によって溶湯中の化学成分が少し変化するようになるところから、好ましくは、黒鉛球状化処理若しくはその後に接種処理が施されてなる鋳鉄溶湯の化学成分量を用いて求められることとなる。また、上記のTEC計算式における0.0×Nb%は、Nbの寄与率が0であることを明らかにしている。更に、それら2つの計算式におけるSi以外の元素の含有量は少なく、従って全体として、その寄与率が低くなるところから、Siの含有量のみを考慮して、それら2つの計算式を、簡略的に、TEG=1149.6+4.7×Si%及びTEC=1142.7−11.6×Si%として、用いることも可能である。
【0026】
さらに、本発明において用いられるセメンタイト共晶温度(TEC)は、また、他の公知の手法に従って実測することも可能であり、例えば、前述の特許文献1に明らかにされている如く、黒鉛球状化処理や接種処理が施されていない鋳鉄溶湯(元湯)を用いて、それを、テルルやその一部をSe,Bi,Cr等に置き換えてなるもの等の公知のチル化剤と共に、試料採取容器に収容して、冷却せしめることにより、その得られる冷却曲線から求めるようにすることも、可能である。
【0027】
そして、上記で規定せる黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)が、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数と如何なる関係を有しているかを調べるべく、以下の熱分析実験が行なわれたのである。
【0028】
先ず、高周波炉を用いて鋳鉄材料を溶解した後、黒鉛球状化剤としてマグネシウムを用いて、置注ぎ法にて黒鉛球状化処理を施し、Si含有量が1.9%、2.0%、2.1%、2.5%、2.7%又は3.0%である各種の鋳鉄溶湯50kgを調製した。なお、各鋳鉄溶湯の他の化学成分は、それぞれ、3.7%C、0.20%Mn、0.060%Mg及び0.0040%Sbとなるように調整された。ここで、%は、何れも、質量基準にて表されるものである。
【0029】
次いで、このSi含有量の異なる、各種の黒鉛球状化処理済みの鋳鉄溶湯を、それぞれ別個に高周波炉に戻して、1350℃で保持するフェーディング試験を行なった。このとき、各溶湯には、黒鉛系、Ba系、Ca−Si系、Ce系又はBi系の各種接種剤を、種々のタイミングで添加し、0分、1分、2.5分、5分、7.5分、10分、15分、20分毎に、熱分析用のCEメータカップ(直径30mm×高さ50mm)(試料採取容器)に注湯して、自然冷却させることにより、図1に示される装置構成に基づき、その冷却過程から得られる冷却曲線及びその微分曲線から、それぞれ、過冷反転温度(TSC)及び黒鉛共晶温度(TEG)を求めた。また、それぞれの溶湯のセメンタイト共晶温度(TEC)については、黒鉛共晶温度(TEG)と共に、発光分析機器を用いた成分分析値から、先の計算式に基づいて求めた。
【0030】
また、それぞれの鋳鉄溶湯から得られた、直径30mm×高さ50mmのサイズの球状黒鉛鋳鉄(鋳塊)からなるテストピースを用いて、それから、顕微鏡検査用試験片を切り出し、研磨した後、顕微鏡検査によって、単位面積当たりの黒鉛粒数(N、個/mm2 )を測定した。なお、黒鉛粒数は、直径が10μm以上の大きな粒子について数え、それよりも小さなものはカットすると共に、各試験片について、28箇所で測定した値の平均値として求めた。
【0031】
かくして得られた、黒鉛粒数(N)と熱分析曲線(冷却曲線)から得られた過冷度(ΔT)との関係を、図3にプロットして示すが、そこでは、それら黒鉛粒数(N)と過冷度(ΔT)との間には、何等の相関関係も認めることが出来ないのである。なお、この図3において、それぞれの接種剤の右側に括弧して示されるSiと%の数字は、鋳鉄溶湯(元湯)中のSi含有量を示すものであり、また、図中におけるCa−Si系接種剤を用いた結果を示す記号において、矢印にて示されるもののみが、そこに示されたSi含有量の鋳鉄溶湯を用いて実験されたものであり、矢印のついていないCa−Si系の記号は、全て、Si含有量が2.1%の鋳鉄溶湯を用いた場合の結果を示している。なお、このような表示形態は、以下に説明する図4〜図11においても、同様である。
【0032】
また、上記の熱分析によって得られた、各種の鋳鉄溶湯についての冷却曲線とその微分曲線から、過冷反転温度(TSC)を求める一方、それぞれの溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を、それぞれの溶湯の成分分析結果から、前記したTEG計算式及びTEC計算式に基づいてそれぞれ算出し、そして、それら3つの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE]を算出して、その得られた黒鉛化度と、それぞれの鋳鉄溶湯から得られた球状黒鉛鋳鉄(テストピース)における黒鉛粒数(N)との関係をプロットすると、図4に示される如く、良好な相関関係を得ることが出来た。
【0033】
すなわち、図4では、接種剤の種類や溶湯中の化学成分(Si)の含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数の間には高い相関が認められるのであり、そこにおいて、黒鉛化度をΔT1/ΔTE、黒鉛粒数をNとすると、N=613×(ΔT1/ΔTE)−126として示される近似直線式(相関係数r=0.97)を認めることが出来るのである。
【0034】
また、過冷反転温度(TSC)に加えて、黒鉛共晶温度(TEG)を、上記の熱分析により得られた冷却曲線とその微分曲線から実測して、セメンタイト共晶温度(TEC)のみを前記計算式から算出して、黒鉛化度[ΔT1/ΔTE]を求め、それぞれの球状黒鉛鋳鉄(テストピース)中の黒鉛粒数(N)と対比しても、図5に示される如く、良好な相関関係を認めることが出来た。即ち、接種剤の種類や溶湯中の化学成分たるSiの含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数との間には高い相関が認められ、黒鉛化度をΔT1/ΔTEとし、黒鉛粒数をNとしたときに、近似直線式として、N=614×(ΔT1/ΔTE)−205(相関係数r=0.95)を得ることが出来たのである。
【0035】
さらに、上記の熱分析実験において、熱分析用のCEメータカップ(試料採取容器)の大きさを変えて、得られるテストピースのサイズを変化させ、鋳造条件、特に冷却速度を変化させた場合にあっても、黒鉛化度と黒鉛粒数との間には良好な関係が認められるのであり、その結果が、図6〜図11に示されている。即ち、図6〜図8は、直径が40mm、高さが50mmのCEメータカップを用い、従ってテストピースとしては、直径が40mm、高さが50mmのサイズのものを鋳造したときに得られた結果を示す、それぞれ図3〜図5に対応する説明図であり、また図9〜図11は、直径が200mm、高さが200mmのテストピースを鋳造した際に得られた結果を示すものであって、それぞれ、図3〜図5に対応する説明図である。
【0036】
そこにおいて、直径が40mm、高さが50mmのテストピースを作製した場合における、黒鉛化度と黒鉛粒数との関係を示す図7及び図8から明らかな如く、それら黒鉛化度と黒鉛粒数とは、接種剤の種類や溶湯中のSi含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数の間には高い相関が認められ、図7においては、近似直線式:N=564×(ΔT1/ΔTE)−132(相関係数r=0.97)が得られ、また図8においては、近似直線式:N=529×(ΔT1/ΔTE)−173(相関係数r=0.95)が得られるのである。
【0037】
また、テストピースのサイズが直径200mm、高さ200mmの場合における、黒鉛化度と黒鉛粒数の関係を示す図10及び図11は、それぞれ、先の図4及び図5に対応するものであるが、それらの図と同様に、接種剤の種類や溶湯中のSi含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数の間には高い相関が認められるのである。なお、図10における近似直線式は、N=154×(ΔT1/ΔTE)−29(相関係数r=0.96)となり、図11における近似直線式は、N=155×(ΔT1/ΔTE)−48(相関係数r=0.97)である。
【0038】
以上のことより、球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数は、溶湯成分を考慮した核生成能力、即ち黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)に比例するものであるところから、そのような黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係を予め求めておき、それに基づいて、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯から、同様な手順にて求められた黒鉛化度と対比し、かかる黒鉛球状化処理・接種処理された鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数を、効果的に判定乃至は推定することが出来るのであり、また、そのような黒鉛化度は、基本的には、冷却曲線とその微分曲線や計算式にて得られる値を用いて求めることが出来るところから、迅速に且つ容易に、黒鉛粒数の判定乃至は推定が可能となるのである。
【0039】
なお、黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係は、図4と図5との対比や図7と図8との対比、更には図10と図11との対比から明らかな如く、黒鉛化度の算出に際して、一つの実測値(TSC)を用いるか、二つの実測値(TSC及びTEG)を用いるかによって、少し異なる近似直線式を与えるものとなるところから、目的とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数の判定に際しては、相関関係を求めるための黒鉛化度の算出条件と該球状黒鉛鋳鉄を与える鋳鉄溶湯の黒鉛化度の算出条件とを統一する、換言すれば用いられる実測値の対象数を同じくすることが望ましく、これによって、黒鉛粒数の判定の精度がより高められ得ることとなる。
【0040】
また、図4,5と図7,8と図10,11との対比から明らかなように、テストピースの大きさが変化した場合、即ち鋳造条件、特に冷却速度(条件)が異なる場合にも、黒鉛粒数と黒鉛化度との相関関係は影響を受けることとなるために、相関関係を求めるためのテストピースの大きさを、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品の大きさと一致させたり、それらの鋳造に際しての冷却条件を一致させたりする等、鋳造条件を一致させて、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品により近いものの黒鉛粒数と黒鉛化度との相関関係を求めるようにすることによって、更に黒鉛粒数の判定の精度を高めることが出来る。
【0041】
さらに、上記とは別に、そのような黒鉛粒数と黒鉛化度との相関関係を、検査対象とされた鋳鉄溶湯から、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品を鋳造するに際しての冷却速度を考慮して(加味して)求めるようにすることも、有効であり、その一例が、図12に示されている。この図12は、図4、図7及び図10に示される結果を用いて、黒鉛化度に応じて、各テストピースの製造時の冷却速度と黒鉛粒数の関係をプロットしたグラフであって(但し、黒鉛化度が0.3及び1.0の場合は、前記近似直線式からの推定値であり、冷却速度200℃/minの場合は、何れも、経験値又は推定値をもって示されている)、何れの黒鉛化度の場合においても、有効な近似直線式をもって、冷却速度と黒鉛粒数とが関連付けられ得るのである。そして、それらの近似直線式から、冷却速度(R)を考慮した黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)との関係式:N=[4.26×(ΔT1/ΔTE)−0.9]×(R+30)(相関係数r=0.99)を求めることが出来るのであり、以て、テストピースと球状黒鉛鋳鉄製品との鋳造時の冷却速度(製品サイズ)が異なっていても、球状黒鉛鋳鉄製品の冷却速度が明らかであれば、テストピースで求められる黒鉛化度を用いて、前記関係式より製品中の黒鉛粒数を判定乃至は推定することが出来るのである。なお、黒鉛化度が0.3以下となると、「チル」が発生するようになるところから、図12において、黒鉛化度が0.3の近似直線式:N=0.56×R+18を基準にして、チルの発生の判定にも用いることが出来る。
【0042】
その他、テストピースにおける黒鉛粒数と目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数との関係を求めて、その関係に基づき、相関関係を換算して、該テストピースを与える鋳鉄溶湯の黒鉛化度より、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数を求めることも出来、更には、テストピースを与える鋳鉄溶湯から得られる黒鉛化度を、直接に、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数に関連付けて、その相関関係を求め、そしてその相関関係に基づいて、テストピースを与える鋳鉄溶湯から得られる黒鉛化度より、黒鉛粒数を判定することも可能である。
【0043】
何れにしても、球状黒鉛鋳鉄製品中の黒鉛粒数と、それを与える球状黒鉛鋳鉄溶湯との間には、基本的に、所定の相関関係が存するものであり、そして、そのような相関関係に基づいて、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品中の黒鉛粒数を有効に判定乃至は推定することが出来るのである。
【0044】
ところで、本発明を具体的に実施するに際しては、一般に、(a)黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]を算出すると共に、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を測定して、それら得られた黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係を、予め求める工程と、(b)被検査鋳鉄溶湯について、上記の相関関係を求めた場合と同様にして、黒鉛化度を算出する工程と、(c)該被検査鋳鉄溶湯について得られた黒鉛化度に基づき、前記予め求められた黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該被検査鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する工程とを含む手法が、好適に採用されることとなる。そして、その際、相関関係を求めるための鋳鉄溶湯と被検査鋳鉄溶湯とは、一般に、Si以外の化学成分を略同様な割合において含有しており、更に、基本的には、冷却速度を含む鋳造条件も略同様に設定することにより、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数の判定の精度を、より一層高めることが可能となる。また、そこでは、前述の如く、相関関係を、前記被検査鋳鉄溶湯から球状黒鉛鋳鉄を得るに際しての冷却速度を考慮して求めることも、有利に採用されることとなる。
【0045】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0046】
例えば、黒鉛球状化処理や接種処理の施された鋳鉄溶湯を冷却して、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線は、図2の如く実際に図示する必要はなく、温度検知センサからの信号に基づいてコンピュータにて処理して、過冷反転温度(TSC)や黒鉛共晶温度(TEG)を直接取り出すようにすることも可能であり、そうすることによって、より一層迅速且つ簡便な黒鉛化度の検出が可能となるのであり、更に、それに基づいて、コンピュータにて予め記憶せしめられている黒鉛化度と黒鉛粒数との相関関係から、目的とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を有利に求めることが可能である。
【0047】
また、図1に示される、本発明を実施するに好適なシステムの例において、信号変換装置8は、演算装置10に一体化して組み込むことが可能であり、更に、指数のみの表示・伝送としたり、或いは、印刷装置を設けて、印刷による出力としたりすることも可能である。
【0048】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0049】
2 試料採取容器
4 支持台
6 導線
8 信号変換装置
10 演算装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法に係り、特に、溶解炉等で溶解して得られる鋳鉄溶湯に黒鉛球状化処理や接種処理を施してなる、球状黒鉛鋳鉄溶湯の凝固後における球状黒鉛の粒数を、効果的に把握し得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳鉄の主要成分である炭素は、非特許文献1(平成7年1月30日、産業図書株式会社発行、中江秀雄著、「鋳造工学」、第17〜27頁)にも明らかにされている如く、鋳鉄溶湯の凝固温度を下げ、溶融時の流動性を良くすると共に、炭素が黒鉛として晶出して体積が膨張するために、凝固による体積収縮を減少させることが知られている。そして、それらの性質は、鋳鉄が多用されてきた理由でもあり、その晶出した黒鉛相が、基地であるフェライト相やパーライト相と比較して、圧倒的に強度が低く、熱伝導性や振動減衰能が高いために、鋳鉄の材料特性は、黒鉛の晶出量や分布に強く影響されることとなる。
【0003】
そして、そのような鋳鉄の一つであるダクタイル鋳鉄、即ち球状黒鉛鋳鉄は、晶出する黒鉛の形状を球状化して、強度や延性の向上を意図したものであり、そこにおいて、球状化した黒鉛の粒数を増加させると、強度や伸びの増加の他、組織の均一性、チル化傾向・ひけ巣の発生の低減、フェライト率の上昇等、材料としての特性の向上が期待されるのである。
【0004】
ところで、球状黒鉛鋳鉄において、その黒鉛粒数を確認するためには、一般に、黒鉛球状化処理及び接種処理を終了した鋳鉄溶湯を、所定形状の試験片鋳型に注入して、凝固せしめ、その凝固完了を待って、得られた鋳物から、顕微鏡検査用試験片が作製される。かかる試験片は、鋳物から切り出されて、研磨された後、その顕微鏡検査や画像処理によって、単位面積当たりの黒鉛粒数を数視野から得て、その平均黒鉛粒数が求められているのである。また、それに代えて、鋳造後の製品の一部から試験片を切り出して、同様に、黒鉛粒数を求める試験も、採用される場合があった。
【0005】
しかしながら、そのような方法で得られた黒鉛粒数に関するデータは、球状黒鉛鋳鉄製品の品質管理に供されてはいるものの、そのデータを取得するまでに時間がかかるところから、黒鉛球状化処理や接種処理の改善に利用したり、鋳造に際してのリスク回避に利用したりすることは、殆ど為されることがなかった。また、鋳鉄溶湯を鋳型に鋳込む前に、得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を推定することが出来ることとなるならば、鋳鉄溶湯の接種処理や黒鉛球状化処理の良否判断や、凝固後の鋳鉄製品の性状を予知することが、可能となるのである。
【0006】
一方、鋳鉄溶湯を鋳型に鋳込む前に、凝固後の鋳鉄の性状を予知する手法として、本発明者等のうちの一人は、他の発明者と共に、特許文献1(特許第2750832号公報)において、鋳鉄溶湯が凝固するときに、炭素が黒鉛として晶出する場合(安定系)と、セメンタイトとして晶出する場合(準安定系)とがあることに着目して、黒鉛共晶温度(TEG)とセメンタイト共晶温度(TEC)を測定し、被検査鋳鉄溶湯の過冷最低温度(TEL)との関係から、黒鉛核生成能力を判定して、指数化する方法を提案し、これによって、片状黒鉛鋳鉄における微量元素等の影響も含めたチル化傾向等の、鋳鉄溶湯の性状と凝固後の鋳鉄の性状の把握を可能ならしめたのである。
【0007】
そして、そこでは、3個の熱分析用試料採取容器が使用され、その第一の容器にチル化剤を添加して、セメンタイト共晶温度(TEC)を測定し、また第二の容器には、添加剤を加えることなく、被検査鋳鉄溶湯の共晶凝固温度変化を把握し、更に第三の容器には、黒鉛化剤を添加して、黒鉛共晶温度(TEG)を測定して、第二の容器から得られた共晶凝固温度変化との関係から、鋳鉄溶湯の性状を判定しているのであるが、かかる手法は、片状黒鉛鋳鉄の溶湯性状を判定するに過ぎないものであって、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数を求めることは出来ないものであった。
【0008】
上記特許文献1にて提案の方法は、片状黒鉛鋳鉄の溶湯(元湯)の性状を把握するに過ぎないものであって、球状黒鉛鋳鉄用の鋳鉄溶湯で、その凝固後の黒鉛粒数を推定することは困難であったのであり、また、第一の容器にテルル等のチル化剤を添加して、セメンタイト共晶温度(TEC)を測定する場合において、CV黒鉛鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄の球状化処理後の鋳鉄溶湯では、球状化剤であるマグネシウムとテルルが反応するために、チル化が困難となるのであり、そのために、セメンタイト共晶温度(TEC)を測定することが出来ないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2750832号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】中江秀雄著、「鋳造工学」、第17〜27頁(平成7年1月30日、産業図書株式会社発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
かかる状況下、本発明者等が、黒鉛球状化処理や接種処理の施された鋳鉄溶湯と、それから得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数との関係について、鋭意検討した結果、そのような黒鉛球状化処理等された鋳鉄溶湯の冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]が、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数に対して、良好な相関関係を有していることを見出し、そして、その相関関係に基づいて、検査対象とされた鋳鉄溶湯から同様にして求められた黒鉛化度より、鋳造される球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を良好に判定乃至は推定し得ることに到達し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
従って、本発明の解決課題とするところは、黒鉛球状化処理や接種処理の施されてなる球状黒鉛鋳鉄溶湯の段階で、それから得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を、迅速に且つ容易に判定し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また以下に記載の各態様は、任意の組合せにて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載及び図面に記載の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0014】
(1) 黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]に基づき、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(2) 前記黒鉛共晶温度が、前記冷却曲線の微分曲線における谷部に相当する温度及び共晶最高温度のうち、何れか高い方の温度として求められる上記態様(1)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(3) 前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理の施されていない前記鋳鉄溶湯を、チル化剤と共に、試料採取容器に収容して、冷却せしめることにより、得られた冷却曲線から求められる上記態様(1)又は(2)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(4) 前記黒鉛共晶温度及び/又は前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理の後に接種処理が施されてなる前記鋳鉄溶湯の化学成分から求められる上記態様(1)乃至(3)の何れか一つに記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(5) 前記黒鉛共晶温度(TEG)が、下式:
TEG=1149.6+4.7×Si%−4×Mn%−44×P%+2.7×Cu %+1.0×Ni%−10.5×Cr%−17.7×Mo%−14.8× V%−6.1×W%−80.3×B%−9.3×Sn%−3.7×Nb% −5.2×Sb%+13.9×Al%+1.8×Co%
に基づいて算出される上記した態様(4)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(6) 前記セメンタイト共晶温度(TEC)が、下式:
TEC=1142.7−11.6×Si%−0.75×Mn%−46.2×P%− 1.4×Cu%−1.1×Ni%+5.9×Cr%−14.5×Mo%+ 3.3×V%−2.8×W%−26.0×B%−6.0×Sn%−0.0 ×Nb%−5.1×Sb%−1.8×Al%−0.7×Co%
に基づいて算出される上記した態様(4)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(7) 黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]を算出すると共に、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を測定して、それら得られた黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係を、予め求める工程と、
被検査鋳鉄溶湯について、上記の相関関係を求めた場合と同様にして、黒鉛化度を算出する工程と、
該被検査鋳鉄溶湯について得られた黒鉛化度に基づき、前記予め求められた黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該被検査鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する工程と
を含むことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
(8) 前記相関関係が、前記被検査鋳鉄溶湯から球状黒鉛鋳鉄を得るに際しての冷却速度を考慮して求められる上記態様(7)に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明にあっては、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を鋳型に鋳込む前に、その一部を採取して、その冷却過程から、冷却曲線とその微分曲線を得て、少なくとも過冷反転温度(TSC)乃至は共晶最低温度(TEL)を求める一方、更に、黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求めて、黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)を算出するだけで、その算出された黒鉛化度に基づいて、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、凝固後の黒鉛粒数を迅速に且つ容易に把握することが出来るのであり、これによって、黒鉛球状化処理や接種処理が適正に行なわれ得たか、否かの確認も、容易に可能となったのである。
【0016】
また、そのような黒鉛球状化処理や接種処理が施された鋳鉄溶湯の凝固後の黒鉛粒数を予測することで、溶融状態の鋳鉄を最適化することが可能となり、これによって、ひけ巣対策のために設置される押湯の最適化も可能となるのであり、以て、生産コストの低減にも寄与せしめ得た他、更に、凝固後の球状黒鉛鋳鉄製品の品質が安定して、工業上においても有益な利点がもたらされ得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施に好適な装置構成の一例を示す説明図である。
【図2】本発明方法において求められた冷却曲線とその微分曲線の代表例を示す説明図である。
【図3】本発明に関連する実験において得られた過冷度(ΔT)と球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数(N)との関係をプロットした説明図である。
【図4】本発明の実施例において実測された過冷反転温度及び、鋳鉄溶湯の化学成分から算出された黒鉛共晶温度及びセメンタイト共晶温度を用いて求められた黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数(N)との関係を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例において得られた過冷反転温度と黒鉛共晶温度の実測値及び、鋳鉄溶湯の化学成分から算出されたセメンタイト共晶温度を用いて求められた黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数(N)との関係を示す説明図である。
【図6】鋳造されるテストピースの大きさが異なる場合の過冷度(ΔT)と黒鉛粒数(N)との関係を示す、図3に対応する説明図である。
【図7】鋳造されるテストピースの大きさが異なる場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図4に対応する説明図である。
【図8】鋳造されるテストピースの大きさが異なる場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図5に対応する説明図である。
【図9】鋳造されるテストピースの大きさが異なる他の場合の過冷度(ΔT)と黒鉛粒数(N)との関係を示す、図3に対応する説明図である。
【図10】鋳造されるテストピースの大きさが異なる他の場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図4に対応する説明図である。
【図11】鋳造されるテストピースの大きさが異なる他の場合の黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)の関係を示す、図5に対応する説明図である。
【図12】図4、図7及び図10の結果から求められた、球状黒鉛鋳鉄(製品)の鋳造に際しての冷却速度(R)と黒鉛粒数(N)との関係を、黒鉛化度に応じて示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
要するに、本発明は、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理が施された、所謂球状黒鉛鋳鉄溶湯の冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれら3つの温度から算出される黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)が、そのような鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄製品の黒鉛粒数(N)に良好な相関関係を有していることに基づいて、かかる鋳鉄溶湯の状態において、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品中の黒鉛粒数(N)を判定乃至は推定するようにしたものであって、そのような本発明に従う方法の実施に際して好適に採用されるシステムの一例が、図1に示されている。
【0019】
そして、そのような図1において、2は、熱電対等の温度を検知する公知の温度検知センサが具備せしめられた試料採取容器であって、そこには、測定されるべき鋳鉄溶湯が収容せしめられるようになっている。また、試料採取容器2は、支持台4にて支持されると共に、温度検知センサからの信号が、導線6を通じて取り出され得るように、かかる支持台4に対する電気的な接続が図られている。そして、導線6は、信号変換装置8に接続され、温度検知センサからの信号を検出・増幅して、アナログ信号をデジタル化するようになっている。更に、かかる信号変換装置8は、そのデジタル化したデータを演算装置10に送り、そこにおいて、図2に示される如き冷却曲線及びその微分曲線が作成されるようになっている。
【0020】
なお、かかる図示のようなシステムにおいて、試料採取容器2に収容せしめられる測定用の鋳鉄溶湯は、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯であって、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品を与える通常の処理溶湯である。ここで、黒鉛球状化処理は、一般に、マグネシウムを用いて、従来と同様にして実施されるものであり、また接種処理も、黒鉛系、Ba系、Ca−Si系、Ce系、Bi系等の公知の各種の接種剤を適宜に用いて、従来と同様にして実施され、そうして得られる鋳鉄溶湯が用いられることとなる。
【0021】
また、そのような黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理の後に接種処理が施されてなる鋳鉄溶湯は、その所定量が試料採取容器2内に収容されて、冷却せしめられる際に、その冷却過程において温度検知センサにて検知される溶湯温度信号に基づいて、信号変換装置8を介して、演算装置10において、冷却曲線(イ)とその微分曲線(ロ)が、図2に示されるように作成されるのである。
【0022】
さらに、その得られた冷却曲線(イ)及び微分曲線(ロ)からは、少なくとも過冷反転温度(TSC)、即ち冷却曲線(イ)における谷部に相当する温度(B点の温度)、所謂共晶最低温度(TEL)が決定されて、求められることとなる。また、そのような冷却曲線(イ)と微分曲線(ロ)より、共晶開始温度、換言すれば微分曲線(ロ)における谷部に相当する温度(A点の温度)を決定して、それが、共晶最高温度(TEH)である、冷却曲線(イ)における山部に相当する温度(C点の温度)よりも高い温度であれば、かかる共晶開始温度を黒鉛共晶温度(TEG)と見做し、またそれよりも低ければ、共晶最高温度(TEH)が黒鉛共晶温度(TEG)として用いられることとなる。
【0023】
ここで、図2においても一部示されているところであるが、本発明において定義される共晶温度差(ΔTE)、共晶最低温度(TEL)乃至は過冷反転温度(TSC)とセメンタイト共晶温度(TEC)の温度差(ΔT1)、更には、黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)及び過冷度(ΔT)は、以下の通りである。
ΔTE=TEG−TEC,ΔT1=TSC−TEC
ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)
ΔT=TEH−TSC
【0024】
また、上述の黒鉛共晶温度(TEG)やセメンタイト共晶温度(TEC)は、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施されている鋳鉄溶湯の化学成分から、又は黒鉛球状化処理前の鋳鉄溶湯(元湯)の化学成分から、計算により求めることが可能であり、具体的には、本発明者等の一人が他の研究者と共に発表した、「鋳鉄の共晶温度に対する各種合金元素の影響」なる論文[「鋳造工学」第70巻(1998)第7号、第465〜470頁]に明らかにされている如く、それぞれ、以下の計算式に従って、算出されることとなる。
TEG=1149.6+4.7×Si%−4×Mn%−44×P%+2.7×Cu %+1.0×Ni%−10.5×Cr%−17.7×Mo%−14.8× V%−6.1×W%−80.3×B%−9.3×Sn%−3.7×Nb% −5.2×Sb%+13.9×Al%+1.8×Co%
TEC=1142.7−11.6×Si%−0.75×Mn%−46.2×P%− 1.4×Cu%−1.1×Ni%+5.9×Cr%−14.5×Mo%+ 3.3×V%−2.8×W%−26.0×B%−6.0×Sn%−0.0 ×Nb%−5.1×Sb%−1.8×Al%−0.7×Co%
【0025】
なお、上記の計算式において、Si%やMn%等の元素記号と百分率記号の組合せは、それぞれ、鋳鉄溶湯中の元素の含有量(質量基準)を示すものであるが、特に本発明にあっては、黒鉛球状化剤や接種剤の添加によって溶湯中の化学成分が少し変化するようになるところから、好ましくは、黒鉛球状化処理若しくはその後に接種処理が施されてなる鋳鉄溶湯の化学成分量を用いて求められることとなる。また、上記のTEC計算式における0.0×Nb%は、Nbの寄与率が0であることを明らかにしている。更に、それら2つの計算式におけるSi以外の元素の含有量は少なく、従って全体として、その寄与率が低くなるところから、Siの含有量のみを考慮して、それら2つの計算式を、簡略的に、TEG=1149.6+4.7×Si%及びTEC=1142.7−11.6×Si%として、用いることも可能である。
【0026】
さらに、本発明において用いられるセメンタイト共晶温度(TEC)は、また、他の公知の手法に従って実測することも可能であり、例えば、前述の特許文献1に明らかにされている如く、黒鉛球状化処理や接種処理が施されていない鋳鉄溶湯(元湯)を用いて、それを、テルルやその一部をSe,Bi,Cr等に置き換えてなるもの等の公知のチル化剤と共に、試料採取容器に収容して、冷却せしめることにより、その得られる冷却曲線から求めるようにすることも、可能である。
【0027】
そして、上記で規定せる黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)が、球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数と如何なる関係を有しているかを調べるべく、以下の熱分析実験が行なわれたのである。
【0028】
先ず、高周波炉を用いて鋳鉄材料を溶解した後、黒鉛球状化剤としてマグネシウムを用いて、置注ぎ法にて黒鉛球状化処理を施し、Si含有量が1.9%、2.0%、2.1%、2.5%、2.7%又は3.0%である各種の鋳鉄溶湯50kgを調製した。なお、各鋳鉄溶湯の他の化学成分は、それぞれ、3.7%C、0.20%Mn、0.060%Mg及び0.0040%Sbとなるように調整された。ここで、%は、何れも、質量基準にて表されるものである。
【0029】
次いで、このSi含有量の異なる、各種の黒鉛球状化処理済みの鋳鉄溶湯を、それぞれ別個に高周波炉に戻して、1350℃で保持するフェーディング試験を行なった。このとき、各溶湯には、黒鉛系、Ba系、Ca−Si系、Ce系又はBi系の各種接種剤を、種々のタイミングで添加し、0分、1分、2.5分、5分、7.5分、10分、15分、20分毎に、熱分析用のCEメータカップ(直径30mm×高さ50mm)(試料採取容器)に注湯して、自然冷却させることにより、図1に示される装置構成に基づき、その冷却過程から得られる冷却曲線及びその微分曲線から、それぞれ、過冷反転温度(TSC)及び黒鉛共晶温度(TEG)を求めた。また、それぞれの溶湯のセメンタイト共晶温度(TEC)については、黒鉛共晶温度(TEG)と共に、発光分析機器を用いた成分分析値から、先の計算式に基づいて求めた。
【0030】
また、それぞれの鋳鉄溶湯から得られた、直径30mm×高さ50mmのサイズの球状黒鉛鋳鉄(鋳塊)からなるテストピースを用いて、それから、顕微鏡検査用試験片を切り出し、研磨した後、顕微鏡検査によって、単位面積当たりの黒鉛粒数(N、個/mm2 )を測定した。なお、黒鉛粒数は、直径が10μm以上の大きな粒子について数え、それよりも小さなものはカットすると共に、各試験片について、28箇所で測定した値の平均値として求めた。
【0031】
かくして得られた、黒鉛粒数(N)と熱分析曲線(冷却曲線)から得られた過冷度(ΔT)との関係を、図3にプロットして示すが、そこでは、それら黒鉛粒数(N)と過冷度(ΔT)との間には、何等の相関関係も認めることが出来ないのである。なお、この図3において、それぞれの接種剤の右側に括弧して示されるSiと%の数字は、鋳鉄溶湯(元湯)中のSi含有量を示すものであり、また、図中におけるCa−Si系接種剤を用いた結果を示す記号において、矢印にて示されるもののみが、そこに示されたSi含有量の鋳鉄溶湯を用いて実験されたものであり、矢印のついていないCa−Si系の記号は、全て、Si含有量が2.1%の鋳鉄溶湯を用いた場合の結果を示している。なお、このような表示形態は、以下に説明する図4〜図11においても、同様である。
【0032】
また、上記の熱分析によって得られた、各種の鋳鉄溶湯についての冷却曲線とその微分曲線から、過冷反転温度(TSC)を求める一方、それぞれの溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を、それぞれの溶湯の成分分析結果から、前記したTEG計算式及びTEC計算式に基づいてそれぞれ算出し、そして、それら3つの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE]を算出して、その得られた黒鉛化度と、それぞれの鋳鉄溶湯から得られた球状黒鉛鋳鉄(テストピース)における黒鉛粒数(N)との関係をプロットすると、図4に示される如く、良好な相関関係を得ることが出来た。
【0033】
すなわち、図4では、接種剤の種類や溶湯中の化学成分(Si)の含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数の間には高い相関が認められるのであり、そこにおいて、黒鉛化度をΔT1/ΔTE、黒鉛粒数をNとすると、N=613×(ΔT1/ΔTE)−126として示される近似直線式(相関係数r=0.97)を認めることが出来るのである。
【0034】
また、過冷反転温度(TSC)に加えて、黒鉛共晶温度(TEG)を、上記の熱分析により得られた冷却曲線とその微分曲線から実測して、セメンタイト共晶温度(TEC)のみを前記計算式から算出して、黒鉛化度[ΔT1/ΔTE]を求め、それぞれの球状黒鉛鋳鉄(テストピース)中の黒鉛粒数(N)と対比しても、図5に示される如く、良好な相関関係を認めることが出来た。即ち、接種剤の種類や溶湯中の化学成分たるSiの含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数との間には高い相関が認められ、黒鉛化度をΔT1/ΔTEとし、黒鉛粒数をNとしたときに、近似直線式として、N=614×(ΔT1/ΔTE)−205(相関係数r=0.95)を得ることが出来たのである。
【0035】
さらに、上記の熱分析実験において、熱分析用のCEメータカップ(試料採取容器)の大きさを変えて、得られるテストピースのサイズを変化させ、鋳造条件、特に冷却速度を変化させた場合にあっても、黒鉛化度と黒鉛粒数との間には良好な関係が認められるのであり、その結果が、図6〜図11に示されている。即ち、図6〜図8は、直径が40mm、高さが50mmのCEメータカップを用い、従ってテストピースとしては、直径が40mm、高さが50mmのサイズのものを鋳造したときに得られた結果を示す、それぞれ図3〜図5に対応する説明図であり、また図9〜図11は、直径が200mm、高さが200mmのテストピースを鋳造した際に得られた結果を示すものであって、それぞれ、図3〜図5に対応する説明図である。
【0036】
そこにおいて、直径が40mm、高さが50mmのテストピースを作製した場合における、黒鉛化度と黒鉛粒数との関係を示す図7及び図8から明らかな如く、それら黒鉛化度と黒鉛粒数とは、接種剤の種類や溶湯中のSi含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数の間には高い相関が認められ、図7においては、近似直線式:N=564×(ΔT1/ΔTE)−132(相関係数r=0.97)が得られ、また図8においては、近似直線式:N=529×(ΔT1/ΔTE)−173(相関係数r=0.95)が得られるのである。
【0037】
また、テストピースのサイズが直径200mm、高さ200mmの場合における、黒鉛化度と黒鉛粒数の関係を示す図10及び図11は、それぞれ、先の図4及び図5に対応するものであるが、それらの図と同様に、接種剤の種類や溶湯中のSi含有量を変化させても、黒鉛化度と黒鉛粒数の間には高い相関が認められるのである。なお、図10における近似直線式は、N=154×(ΔT1/ΔTE)−29(相関係数r=0.96)となり、図11における近似直線式は、N=155×(ΔT1/ΔTE)−48(相関係数r=0.97)である。
【0038】
以上のことより、球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数は、溶湯成分を考慮した核生成能力、即ち黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)に比例するものであるところから、そのような黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係を予め求めておき、それに基づいて、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯から、同様な手順にて求められた黒鉛化度と対比し、かかる黒鉛球状化処理・接種処理された鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数を、効果的に判定乃至は推定することが出来るのであり、また、そのような黒鉛化度は、基本的には、冷却曲線とその微分曲線や計算式にて得られる値を用いて求めることが出来るところから、迅速に且つ容易に、黒鉛粒数の判定乃至は推定が可能となるのである。
【0039】
なお、黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係は、図4と図5との対比や図7と図8との対比、更には図10と図11との対比から明らかな如く、黒鉛化度の算出に際して、一つの実測値(TSC)を用いるか、二つの実測値(TSC及びTEG)を用いるかによって、少し異なる近似直線式を与えるものとなるところから、目的とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数の判定に際しては、相関関係を求めるための黒鉛化度の算出条件と該球状黒鉛鋳鉄を与える鋳鉄溶湯の黒鉛化度の算出条件とを統一する、換言すれば用いられる実測値の対象数を同じくすることが望ましく、これによって、黒鉛粒数の判定の精度がより高められ得ることとなる。
【0040】
また、図4,5と図7,8と図10,11との対比から明らかなように、テストピースの大きさが変化した場合、即ち鋳造条件、特に冷却速度(条件)が異なる場合にも、黒鉛粒数と黒鉛化度との相関関係は影響を受けることとなるために、相関関係を求めるためのテストピースの大きさを、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品の大きさと一致させたり、それらの鋳造に際しての冷却条件を一致させたりする等、鋳造条件を一致させて、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品により近いものの黒鉛粒数と黒鉛化度との相関関係を求めるようにすることによって、更に黒鉛粒数の判定の精度を高めることが出来る。
【0041】
さらに、上記とは別に、そのような黒鉛粒数と黒鉛化度との相関関係を、検査対象とされた鋳鉄溶湯から、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品を鋳造するに際しての冷却速度を考慮して(加味して)求めるようにすることも、有効であり、その一例が、図12に示されている。この図12は、図4、図7及び図10に示される結果を用いて、黒鉛化度に応じて、各テストピースの製造時の冷却速度と黒鉛粒数の関係をプロットしたグラフであって(但し、黒鉛化度が0.3及び1.0の場合は、前記近似直線式からの推定値であり、冷却速度200℃/minの場合は、何れも、経験値又は推定値をもって示されている)、何れの黒鉛化度の場合においても、有効な近似直線式をもって、冷却速度と黒鉛粒数とが関連付けられ得るのである。そして、それらの近似直線式から、冷却速度(R)を考慮した黒鉛化度(ΔT1/ΔTE)と黒鉛粒数(N)との関係式:N=[4.26×(ΔT1/ΔTE)−0.9]×(R+30)(相関係数r=0.99)を求めることが出来るのであり、以て、テストピースと球状黒鉛鋳鉄製品との鋳造時の冷却速度(製品サイズ)が異なっていても、球状黒鉛鋳鉄製品の冷却速度が明らかであれば、テストピースで求められる黒鉛化度を用いて、前記関係式より製品中の黒鉛粒数を判定乃至は推定することが出来るのである。なお、黒鉛化度が0.3以下となると、「チル」が発生するようになるところから、図12において、黒鉛化度が0.3の近似直線式:N=0.56×R+18を基準にして、チルの発生の判定にも用いることが出来る。
【0042】
その他、テストピースにおける黒鉛粒数と目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数との関係を求めて、その関係に基づき、相関関係を換算して、該テストピースを与える鋳鉄溶湯の黒鉛化度より、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数を求めることも出来、更には、テストピースを与える鋳鉄溶湯から得られる黒鉛化度を、直接に、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数に関連付けて、その相関関係を求め、そしてその相関関係に基づいて、テストピースを与える鋳鉄溶湯から得られる黒鉛化度より、黒鉛粒数を判定することも可能である。
【0043】
何れにしても、球状黒鉛鋳鉄製品中の黒鉛粒数と、それを与える球状黒鉛鋳鉄溶湯との間には、基本的に、所定の相関関係が存するものであり、そして、そのような相関関係に基づいて、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品中の黒鉛粒数を有効に判定乃至は推定することが出来るのである。
【0044】
ところで、本発明を具体的に実施するに際しては、一般に、(a)黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]を算出すると共に、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を測定して、それら得られた黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係を、予め求める工程と、(b)被検査鋳鉄溶湯について、上記の相関関係を求めた場合と同様にして、黒鉛化度を算出する工程と、(c)該被検査鋳鉄溶湯について得られた黒鉛化度に基づき、前記予め求められた黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該被検査鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する工程とを含む手法が、好適に採用されることとなる。そして、その際、相関関係を求めるための鋳鉄溶湯と被検査鋳鉄溶湯とは、一般に、Si以外の化学成分を略同様な割合において含有しており、更に、基本的には、冷却速度を含む鋳造条件も略同様に設定することにより、目的とする球状黒鉛鋳鉄製品における黒鉛粒数の判定の精度を、より一層高めることが可能となる。また、そこでは、前述の如く、相関関係を、前記被検査鋳鉄溶湯から球状黒鉛鋳鉄を得るに際しての冷却速度を考慮して求めることも、有利に採用されることとなる。
【0045】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0046】
例えば、黒鉛球状化処理や接種処理の施された鋳鉄溶湯を冷却して、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線は、図2の如く実際に図示する必要はなく、温度検知センサからの信号に基づいてコンピュータにて処理して、過冷反転温度(TSC)や黒鉛共晶温度(TEG)を直接取り出すようにすることも可能であり、そうすることによって、より一層迅速且つ簡便な黒鉛化度の検出が可能となるのであり、更に、それに基づいて、コンピュータにて予め記憶せしめられている黒鉛化度と黒鉛粒数との相関関係から、目的とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を有利に求めることが可能である。
【0047】
また、図1に示される、本発明を実施するに好適なシステムの例において、信号変換装置8は、演算装置10に一体化して組み込むことが可能であり、更に、指数のみの表示・伝送としたり、或いは、印刷装置を設けて、印刷による出力としたりすることも可能である。
【0048】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0049】
2 試料採取容器
4 支持台
6 導線
8 信号変換装置
10 演算装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]に基づき、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項2】
前記黒鉛共晶温度が、前記冷却曲線の微分曲線における谷部に相当する温度及び共晶最高温度のうち、何れか高い方の温度として求められる請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項3】
前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理の施されていない前記鋳鉄溶湯を、チル化剤と共に、試料採取容器に収容して、冷却せしめることにより、得られた冷却曲線から求められる請求項1又は請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項4】
前記黒鉛共晶温度及び/又は前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理の後に接種処理が施されてなる前記鋳鉄溶湯の化学成分から求められる請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項5】
前記黒鉛共晶温度(TEG)が、下式:
TEG=1149.6+4.7×Si%−4×Mn%−44×P%+2.7×Cu %+1.0×Ni%−10.5×Cr%−17.7×Mo%−14.8× V%−6.1×W%−80.3×B%−9.3×Sn%−3.7×Nb% −5.2×Sb%+13.9×Al%+1.8×Co%
に基づいて算出される請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項6】
前記セメンタイト共晶温度(TEC)が、下式:
TEC=1142.7−11.6×Si%−0.75×Mn%−46.2×P%− 1.4×Cu%−1.1×Ni%+5.9×Cr%−14.5×Mo%+ 3.3×V%−2.8×W%−26.0×B%−6.0×Sn%−0.0 ×Nb%−5.1×Sb%−1.8×Al%−0.7×Co%
に基づいて算出される請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項7】
黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]を算出すると共に、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を測定して、それら得られた黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係を、予め求める工程と、
被検査鋳鉄溶湯について、上記の相関関係を求めた場合と同様にして、黒鉛化度を算出する工程と、
該被検査鋳鉄溶湯について得られた黒鉛化度に基づき、前記予め求められた黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該被検査鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する工程と
を含むことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項8】
前記相関関係が、前記被検査鋳鉄溶湯から球状黒鉛鋳鉄を得るに際しての冷却速度を考慮して求められる請求項7に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項1】
黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、かかる鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から算出される黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]に基づき、予め求められている黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項2】
前記黒鉛共晶温度が、前記冷却曲線の微分曲線における谷部に相当する温度及び共晶最高温度のうち、何れか高い方の温度として求められる請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項3】
前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理の施されていない前記鋳鉄溶湯を、チル化剤と共に、試料採取容器に収容して、冷却せしめることにより、得られた冷却曲線から求められる請求項1又は請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項4】
前記黒鉛共晶温度及び/又は前記セメンタイト共晶温度が、黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理の後に接種処理が施されてなる前記鋳鉄溶湯の化学成分から求められる請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項5】
前記黒鉛共晶温度(TEG)が、下式:
TEG=1149.6+4.7×Si%−4×Mn%−44×P%+2.7×Cu %+1.0×Ni%−10.5×Cr%−17.7×Mo%−14.8× V%−6.1×W%−80.3×B%−9.3×Sn%−3.7×Nb% −5.2×Sb%+13.9×Al%+1.8×Co%
に基づいて算出される請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項6】
前記セメンタイト共晶温度(TEC)が、下式:
TEC=1142.7−11.6×Si%−0.75×Mn%−46.2×P%− 1.4×Cu%−1.1×Ni%+5.9×Cr%−14.5×Mo%+ 3.3×V%−2.8×W%−26.0×B%−6.0×Sn%−0.0 ×Nb%−5.1×Sb%−1.8×Al%−0.7×Co%
に基づいて算出される請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項7】
黒鉛球状化処理若しくは黒鉛球状化処理後に接種処理の施された鋳鉄溶湯を、所定の試料採取容器に収容して冷却せしめ、その冷却過程から得られる冷却曲線とその微分曲線から、少なくとも過冷反転温度(TSC)を求める一方、該鋳鉄溶湯の黒鉛共晶温度(TEG)及びセメンタイト共晶温度(TEC)を求め、そしてそれらの温度から黒鉛化度[ΔT1/ΔTE=(TSC−TEC)/(TEG−TEC)]を算出すると共に、かかる鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を測定して、それら得られた黒鉛粒数と黒鉛化度との間の相関関係を、予め求める工程と、
被検査鋳鉄溶湯について、上記の相関関係を求めた場合と同様にして、黒鉛化度を算出する工程と、
該被検査鋳鉄溶湯について得られた黒鉛化度に基づき、前記予め求められた黒鉛粒数と黒鉛化度の相関関係より、該被検査鋳鉄溶湯から得られる球状黒鉛鋳鉄における黒鉛粒数を判定する工程と
を含むことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【請求項8】
前記相関関係が、前記被検査鋳鉄溶湯から球状黒鉛鋳鉄を得るに際しての冷却速度を考慮して求められる請求項7に記載の球状黒鉛鋳鉄中の黒鉛粒数を判定する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−69711(P2011−69711A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220760(P2009−220760)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000155366)株式会社木村鋳造所 (23)
【出願人】(592103497)日本ファンドリーサービス株式会社 (3)
【出願人】(509267177)ノヴァカスト ファンドリー ソリューションズ エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】NOVACAST FOUNDRY SOLUTIONS AB
【住所又は居所原語表記】SOFT CENTER SE−372 25 RONNEBY SWEDEN
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000155366)株式会社木村鋳造所 (23)
【出願人】(592103497)日本ファンドリーサービス株式会社 (3)
【出願人】(509267177)ノヴァカスト ファンドリー ソリューションズ エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】NOVACAST FOUNDRY SOLUTIONS AB
【住所又は居所原語表記】SOFT CENTER SE−372 25 RONNEBY SWEDEN
【Fターム(参考)】
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