説明

球面軸受

【課題】 ガタが無く摩擦抵抗が小さく、しかも許容傾斜角を比較的大きくとることのできる、転がり軸受構造の、球面軸受を提供する。
【解決手段】 球面軸受は、軸体部3と、この軸体部の先端に形成された球体部4を有する軸部材1と、前記軸部材を、軸体部を外部に露出した状態で球体部を収容する室空間7が形成されたハウジング2と、前記ハウジングに、当該ハウジングの外部から前記室空間へ向けて形成されたネジ孔12に螺合された調整ネジ13と、前記室空間内において、収容された球体部の先端部に当接可能に設置された調整板8と、前記室空間内において、収容された球体部の側面に当接可能に設置され、当該球体部への当接部分において球体部に沿って湾曲したスライド片14とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンプルでコンパクトな構造を持ち、しかも旋回運動範囲を大きくとることができる球面軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボット技術の進歩にともない、例えばロボットのアームの連結部分に用いるための継手或いは軸受部分の小型化、及びアームの作動範囲が広いことなどに対する要求が高まっている。
【0003】
このような継手或いは軸受の従来例としては、例えば特許文献1に示すようなものがある。この特許文献1では、それまでのいわゆる滑り軸受方式による球面軸受に対して、このような球面軸受では、ロッドの先端部と外周部材との間に、隙間が必要になるのでガタが生じるとか、この隙間を小さくすれば、ロッドの先端部と外周部材との接触抵抗が大となり、動きが鈍くなるとの欠点が指摘されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−304039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明のような多数のボールを組み込んだころがり軸受け構造の球面軸受は、どうしても部品点数の増大を招いて製作が困難になる上、構造を簡潔にするという点では困難が生じる。これに比べて滑り軸受方式による球面軸受にはころがり軸受方式による球面軸受に比べて構成をシンプルにでき、且つ長年使用しても性能が低下しにくいという利点もある。
【0006】
本発明は、かかる背景から提案されたものであって、構造がシンプルであり、ガタが無く摩擦抵抗が小さいすべり軸受構造の、球面軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の球面軸受は、軸体部と、この軸体部の先端に形成された球体部を有する軸部材と、前記軸部材を、軸体部を外部に露出した状態で球体部を収容する室空間が形成されたハウジングと、前記ハウジングに、当該ハウジングの外部から前記室空間へ向けて形成されたネジ孔に螺合されたネジと、前記室空間内において、収容された球体部の先端部に当接可能に設置された調整板と、前記室空間内において、収容された球体部の側面に当接可能に設置され、当該球体部への当接部分において球体部に沿って湾曲したスライド片とから成るものである。かかる構成において、前記ネジは、前記ネジ孔に沿って前進し、前記調整板に当たって押進し、当該調整板を球体部の先端部に当接させて前記軸部材とハウジングの奥面との隙間を調整する。これにより、すべり軸受構造の球面軸受が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ハウジングの室空間内に軸部材の球体部を収容する一方で、前記室空間内において調整板を球体部の先端部に当接させ、また、スライド片を球体部の側面に当接させて支持するようにしたから、球体部は、調整板に対して点接触し、また、スライド片に対しても線または面接触して相対的に滑り動作することになり、ガタが無く摩擦抵抗の小さな球面軸受を実現することができる。また、調整板は球体部の先端部に当接し軸部材を軸体部の方(軸方向、室空間から押し出す方向)へ押進するから、軸部材が回動運動するときの許容傾斜角を可変させることができ、且つ傾斜角を比較的大きくとることができるという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係る球面軸受の構造を示す正面断面図である。
【図2】前記実施の形態に係る球面軸受に用いられるスライド片の構造を示す部分断面図及び底面図である。
【図3】前記実施の形態に係る球面軸受の内部構造を示す一部破断斜視図である。
【図4】前記実施の形態に係る球面軸受をパラレルリンク機構に使用した例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態について図を用いて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る球面軸受の構造を示す正面断面図である。図1において、1は球面軸受の作動部となる軸部材、2は軸部材1を収容保持するハウジングである。軸部材1は、当該軸部材1に外部からの作動力を伝える棒状の軸体部3と、この軸体部3の先端において一体的に形成された球体部4とを有する。軸体部3の基端部(球体部4とは反対側の端部)には軸部材1を他の機械要素に結合するためのネジ部5が設けられている。ハウジング2は、第1凹部7aを有しハウジング2の基部を構成するブロック構造の第1のハウジング分割体2aと、第2凹部7bを有し上記第1のハウジング分割体2aに組み合わせられ天井部を構成する第2のハウジング分割体2bとから成り、両ハウジング分割体2a、2bは結合ネジ6により結合されてハウジング2を構成する。ハウジング2の内部には、第1凹部7aと第2凹部7bが合わせられて形成され、軸部材1を、軸体部3を外部に露出した状態で球体部4を収容する室空間7が形成されている。室空間7は、概略円筒空間の形状に形成され、室空間7の底面付近には収容された球体部4の先端部に当接して球体部4を支持する調整板8が設けられている。調整板8は、合成樹脂など摩擦抵抗の小さな材料からなる。室空間7の上下方向中間部分においては、室空間7の円筒空間の直径が下部から上部へかけて段状に拡開する棚部9が形成されている。さらに棚部9から所定の寸法だけ上方のハウジング2の天井部分には開口10が形成され、室空間7を外部に連通させている。また、開口10は、天井の厚み方向(上下方向)へ上面側(表面側)から下面側(裏面側)へかけて次第に縮径する逆円錐台のテーパ形状に形成され、開口10に対応するハウジング2の天井下面が室空間7に対して半径方向内側へ延びた庇(ひさし)部11を形成している。他方、ハウジング2の基部においては、第2のハウジング分割体2bの底板に当該ハウジング2の外部から室空間7へ連通するネジ孔12が形成され、このネジ孔12には調整ネジ13がネジ係合されている。調整ネジ13はネジ孔12にねじ込まれることにより室空間7内へ進行し、調整板8に突当って球体部4を支持するように設置されている。また、調整ネジ13のねじ込み量を増減することにより室空間7内における球体部4の支持具合をきつくしたり緩くしたり加減することができる。
【0011】
さらに、ハウジング2の室空間7内においては、上述の棚部9と庇部11とに挟まれた段状の拡開部分にスライド片14が配置されている。スライド片14は、調整板8と同様、合成樹脂など摩擦抵抗の小さな材料からなる。なお、ハウジング分割体2a、2bは金属材料からなる。図2は上記スライド片14の構成を示す図で、図2(a)はスライド片14の略右半分を断面で示す部分断面正面図、図2(b)はスライド片14の底面図である。図2(a)、図2(b)に示されているように、スライド片14は、全体がリング構造に成形され、その内周面がリングの中心軸に対して非平行に延びるように成形されて成る。すなわち、図2(a)に示されているように、スライド片14は、その上下方向の幅を中間部から上側のa部と下側のb部に分けたとき、a部についてはスライド片14の内周面が内部位置から上端の開口位置にかけてわずかに縮径するように曲線部15が設けられている。この曲線部はスライド片14の内周面において円周方向に延びて形成されている。他方、b部についてはスライド片14の内周面が内部位置から下端の開口位置にかけてまっすぐに延びる直線部16となっている。スライド片14の内周径について、直線部16の直径は球体部4の直径とほぼ同じであり、曲線部15の直径は球体部4の直径よりも小さい。このような構造を有するスライド片14は、ハウジング2の中に軸部材1を装着したとき、室空間7に収容された球体部4の側面に当接して当該球体部4を支持し、軸部材1がハウジング2の天井部分の開口10から抜け出ることを防止する。
【0012】
なお、本実施の形態に係る球面軸受を組み立て上げるには次のような手順で作業が行われる。先ず第2のハウジング分割体2bの第2凹部7bにスライド片14の上端を庇部11に当接させて配置する。次に軸部材1を、その軸体部3が第2のハウジング分割体2bの開口部10を内側から外側へ抜け出るようにして配置する。スライド片14は上述したように曲線部15が形成された構造を有するから、球体部4はスライド片14により支持され、開口部10から抜けることはない。他方、第1のハウジング分割体2aにおいては、その第1凹部7a内に調整板を配置する。以上の各部材の配置作業の後、第1のハウジング分割体2a(下側)と第2のハウジング分割体2b(上側)とを組み付けて結合ネジ6により結合するとハウジング2が構成される。その後、第1のハウジング分割体2aに形成されたネジ孔12に調整ネジ13をネジ係合させて調整板8に当接させる。
【0013】
以上により、軸部材1の球体部4は室空間7内において、調整板8及びスライド片14により先端部と側面部が支持され、これら調整板8及びスライド片14に対して滑り運動可能な状態となり、軸部材1全体としては、3自由度回転体となる。図3は、本実施の形態に係る球面軸受の内部構造を示す一部破断斜視図である。さらに、調整ネジ13をねじ込むと、この調整ネジ13は、ネジ孔12に沿って前進し、調整板8に当たって押進し、当該調整板8を球体部4の先端部に当接させて当該球体部4をスライド片14の曲線部15に押し付け、やや強力な支持力で支える。これにより、すべり軸受構造の球面軸受において軸部材1が回動運動するときにおける球体部4と調整板8及びスライド片14の間の接触はより緊密となり、ガタなどは全くといってよいくらいに生じない。そして、軸部材1は許容傾斜角(図1中θで表す)の範囲で回転運動することができる。本実施の形態では調整板8を球体部4の先端に当接させ、またスライド片14を球体部4の側面を取り囲むように当接させて支持するようにしたから、球体部4は、調整板8に対して点接触し、また、スライド片14に対しても線接触または面接触して相対的に滑り動作することになり、ガタが無く摩擦抵抗の小さな球面軸受を実現することができる。
【0014】
なお、図1及び図3において符号17はスペーサ板を示す。これは、軸部材として寸法に何種類かのバリエーションをもたせた場合、球体部4の寸法が異なることになり、調整ネジ13のねじ込み量が異なるのを補完するために調整板8の下側に配置されるものである。さらに、図1において符号18は本発明の球面軸受を他の機械装置に取り付けるための取付ネジを表す。
【0015】
本発明による上述のような構成を有する球面軸受は継手装置としても各種機構に利用することができる。図4は、その応用例として、球面軸受をパラレルリンク機構に使用した例を示す斜視図である。このパラレルリンク機構は、ベースとなるテーブル20と、テーブル20に取付られた駆動部材である複数のモータ21と、モータ20に連結されて駆動される複数の駆動側アーム22と、駆動側アーム22に作動連結された複数の従動側アーム23と、従動側アーム23の先端に取り付けられた作動テーブル24とから成る。作動テーブル24には工作物が取り付けられ、各モータ21の種々の作動により作動テーブルが様々な動作をして工作物を加工したりする。或いは作動テーブル24に加工ユニットを取り付け、加工ユニットの移動先にある工作物を加工したりすることもできる。このようなパラレルリンク機構において、例えば駆動側アーム22と従動側アーム23との連結部に本実施の形態の球面軸受25を設けることにより、駆動側アーム22と従動側アーム23間の動力の伝達を円滑に行い、且つ駆動側アーム22からの複雑な動きを従動側アーム23が作動テーブル24に正しく追従して伝えることができる。なお、図4においては、作動テーブル24と従動側アーム23との連結部にはトラニオン構造の継手が用いられているが、この部分においても本実施の形態の球面軸受25を設けることができる。また、上述の説明では、ハウジング2は金属製とし、調整板8及びスライド片14は合成樹脂製として説明したが、ハウジング2及びスライド片14を合成樹脂により一体成形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明では、ハウジングの室空間内に軸部材の球体部を収容する一方で、前記室空間内において調整板を球体部の先端部に当接させ、また、スライド片を球体部の側面に当接させて支持するようにしたから、構造がシンプルであり、ガタが無く摩擦抵抗の小さな球面軸受を実現することができる。また、調整板を球体部へ向けて押進することにより、軸部材が回動運動するときの許容傾斜角を可変させることができるなどの産業上の有用性が得られる。
【符号の説明】
【0017】
1 軸部材
2 ハウジング
3 軸体部
4 球体部
5 ネジ部
6 結合ネジ
7 室空間
8 調整板
9 棚部
10 開口
11 庇部
12 ネジ孔
13 調整ネジ
14 スライド片
15 曲線部
16 直線部
17 スペーサ板
18 取付ネジ
24 球面軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体部と、この軸体部の先端に形成された球体部を有する軸部材と、
前記軸部材を、軸体部を外部に露出した状態で球体部を収容する室空間が形成されたハウジングと、
前記ハウジングに、当該ハウジングの外部から前記室空間へ向けて形成されたネジ孔に螺合されたネジと、
前記室空間内において、収容された球体部の先端部に当接可能に設置された調整板と、
前記室空間内において、収容された球体部の側面に当接可能に設置され、当該球体部への当接部分において球体部に沿って湾曲したスライド片と、から成り、
前記ネジは、前記ネジ孔に沿って前進し、前記調整板に当たって押進し、当該調整板を球体部の先端部に当接させて当該球体部をスライド片に押し付け、前記軸部材をハウジング内で支持することを特徴とする球面軸受。
【請求項2】
調整板は合成樹脂などの摩擦抵抗の小さな材料からなることを特徴とする請求項1記載の球面軸受。
【請求項3】
スライド片は全体がリング構造に成形され、その内周面において、上側部分には下方から上端にかけてわずかに縮径するように曲線部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の球面軸受。
【請求項4】
スライド片は合成樹脂など摩擦抵抗の小さな材料からなることを特徴とする請求項1記載の球面軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−172764(P2012−172764A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35512(P2011−35512)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(591117413)株式会社菊池製作所 (33)
【Fターム(参考)】