説明

環境に優しい湿式硬質繊維板

【課題】環境汚染に大きな影響を与えているフェノール樹脂に替わる、環境汚染に影響しない補強剤を見出すことにより、環境に優しい湿式硬質繊維板を提供する。
【解決手段】環境に優しい湿式硬質繊維板は、補強剤として、従来のフェノール樹脂に替えて、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂を使用するものである。 両補強剤とも熱硬化性樹脂であって、100℃以下では、殆ど反応が進まず、140℃を越えると、急激に反応が進み硬化するタイプであり、環境保護の面から、使用水を殆ど外に出さないで、何回も循環使用している湿式硬質繊維板にとっては、うってつけの補強剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建物の内装材、養生材、自動車の内装材等に使用される湿式硬質繊維板に係わり、特に補強剤としてアクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂を使用することによる環境に優しい湿式硬質繊維板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿式硬質繊維板(別名:ハードボード)は、チップ化した木材を主原料として、これを蒸煮・解繊した後、多量の水に分散させて、パルプ液とし、補強剤及び耐水剤を添加し、一定の厚さに脱水抄造後、熱圧成型した密度が0.80g/cm3以上の繊維板である。従来、湿式硬質繊維板の補強剤としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、澱粉等があったが、そのうちでもフェノール樹脂の効果が、強度のみならず耐水性の面でも著しいので、もっぱらフェノール樹脂が使われてきた。
ところが、最近の環境問題をきっかけとして、フェノール樹脂の環境に対する影響(臭気及び残留フェノール)を懸念する声が出始め、とくに自動車内装市場での規制が厳しく、フェノール樹脂を使用する材料は、残留フェノールがゼロになるぐらい微量でも、フェノール樹脂を原料として使用しているという理由で、採用不可という姿勢を打ち出すところがでてきた。
同時に、湿式硬質繊維板の工場環境も、より美しくしたいという機運が高まっているが、これを実現させるためには、湿式硬質繊維板の工場汚染の根源となっているフェノール樹脂を排除する必要がある。
というのも、フェノール樹脂は、湿式硬質繊維板に使われるパルプ液を汚染し、これが設備や床面に付着し、周辺環境を著しく悪化するからである。
このような背景があるにもかかわらず、湿式硬質繊維板は、容易に代替補強剤を見つけることができなかったこと、また長い間、フェノール樹脂は安価で、しかも必要なボード性能が出やすいという特長もあって、フェノール樹脂を重宝し、フェノール樹脂一辺倒でやってきたため、フェノール樹脂に替わる補強剤の開発には、まだ至っていない。
【0003】
ところで、上記する補強剤に関する公知技術として、特許文献1〜8を挙げることが出来る。特許文献1に開示の技術は、補強剤として、フェノール樹脂等、ホルムアルデヒドを原料のひとつとする接着剤を使用した湿式硬質繊維板を、含水状態にして、高温を付与するとともに、高圧プレスすることによって該繊維板を圧密化する方法である。
【0004】
また、特許文献2には、補強剤として、フェノール樹脂等、ホルムアルデヒドを原料のひとつとする接着剤を使用した湿式硬質繊維板の一側面または両側面の側面内部に、カルボジヒドラジドを少なくとも含むアルデヒド捕捉剤を浸透固化させて、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの双方を効果的に捕捉分解することのできる該繊維板を提供する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、アクリルエマルジョン等を熱圧工程前の、あらかじめ熱硬化性樹脂が添加された抄造マット上に塗布して、マット表面の強度、結着性及び耐水性を増大させる方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、パルプは、セルロースの利用を目的とするため、リグニンを殆ど利用してこなかったが、補強剤として多官能性化合物(フェノール樹脂より熱圧による早期硬化性がすぐれている化合物のひとつとして、ポリエポキシ化合物を記載し、その例のひとつとして、フェノールノボラックが例示)を使用することにより、該リグニン系材料の利用を図り、環境に優しいセルロース系繊維板を製造する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、木質繊維板を製造する過程で、ネオニコチノイド系化合物を含有するフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の接着剤を添加することによって、防蟻・防虫性能を有する木質繊維板を得る方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献6と7には、木質繊維板ではない、鉱物質繊維を含む硬質繊維板を製造する課程で、フェノール樹脂、アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂等を結合剤として使用し、湿式抄造及び乾燥してセミキュアマットを得、該セミキュアマットにアクリルエマルジョン等を含浸させて、熱圧プレスし、寸法安定性、耐水性、耐傷性及び耐衝撃性に優れた硬質繊維板を製造する方法が開示されている。なお、該文献に開示されているアクリルエマルジョンは、80℃〜110℃で低温硬化するため、本発明のような熱硬化性樹脂ではなくて、熱可塑性樹脂であると判断される。
【0009】
さらに、特許文献8には、湿式軟質繊維板(別名、インシュレーションボードといい、密度が0.35g/cm3未満の湿式繊維板である。)を製造する過程で、補強剤として、カチオン性基を有する水溶性高分子と、カチオン性基を有しない水溶性高分子を併用することにより、繊維分散液の電荷バランスを大きく変動させないで、十分な強度を有する繊維板を製造する方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003―39413号公報
【特許文献2】特開2008―80714号公報
【特許文献3】特開平07―214518号公報
【特許文献4】特開2006―7534号公報
【特許文献5】特開2007―118261号公報
【特許文献6】特開2005―280030号公報
【特許文献7】特開2005―288713号公報
【特許文献8】特開2001―200497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記する特許文献1〜8にかかる技術では、本発明の目的である環境に優しい湿式硬質繊維板の提供はむずかしい。というのも、該特許文献1〜8のうち、1〜7は、従来のフェノール樹脂が使われる可能性が除かれていないからであり、特許文献8の技術で、湿式軟質繊維板ではなくて湿式硬質繊維板をつくると、該繊維板に要求される耐水性が十分確保できないばかりか、外観も斑点状の欠点を生じる可能性が高まるからである。
【0012】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、環境汚染に大きな影響を与えているフェノール樹脂に替わる環境汚染に影響しない補強剤を見いだすことにより、環境に優しい湿式硬質繊維板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前目的を達成すべく、本発明による環境に優しい湿式硬質繊維板は、補強剤として、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂からなることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、湿式硬質繊維板とは、チップ化した木材を主原料として、これを蒸煮・解繊したのち、多量の水(昨今の湿式硬質繊維板では、環境保護の面から、該水をリサイクルして使用。該水温は、通常40〜60℃であり、100℃を越えることはない。)に分散させて、パルプ液とし、補強剤及び耐水剤を添加し、一定の厚さに脱水抄造後、熱圧成形した密度が0.80g/cm3以上の繊維板であるが、主原料は、チップ化した木材のほか、竹・バガスなどでもよい。
【0015】
従来、該繊維板の補強剤には、もっぱらフェノール樹脂が使われてきたが、該樹脂は、パルプ液を汚染するため、周辺環境を悪化させるばかりか、該樹脂に基づく臭気や残留フェノールを懸念する声もある。
そこで、鋭意研究を進めた結果、このような心配のない補強剤として、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の組み合わせが好適であると、結論するに至った。
【0016】
両補強剤とも熱硬化性樹脂であって、100℃以下では、殆ど反応が進まず、140℃を越えると、急激に反応が進み硬化するタイプであり、環境保護の面から、使用水を殆ど外に出さないで、何回も循環使用している湿式硬質繊維板にとっては、うってつけの補強剤である。
というのも、フェノール樹脂が40〜60℃のパルプ液中で長時間曝されたり、熱圧時の機械的脱水(最大100℃)を受けると、前硬化(硬化速度は、温度が高くなるほど早くなる。)が進み、本来のボード性能が付与できない状態となるゆえ、該前硬化物(一般に、湿式硬質繊維板の場合、補強剤や耐水剤の歩留まりは、50%程度と考えられる。従って、残りの50%は再循環し、次の歩留まりの機会を窺うことになる。)が、直接パルプと結合したり、直接フェノール樹脂と結合して、該フェノール樹脂の本来の性能を損なったり、パルプと新鮮フェノール樹脂との間に介在したりして、ボード性能にマイナスの影響を与えるのに対し、両補強剤は、該温度では前硬化せず、熱圧時(180〜220℃)にのみ硬化するため、該前硬化物が生じないため、ボード性能にマイナスの影響を与えないからである。
【0017】
また、フェノール樹脂の前硬化物は、黒紫色でしかも水分を含んだ状態では粘着性があり、乾くと剥がしにくくなるので、周辺環境や周辺設備を大きく汚染するのに対し、本発明の補強剤は、透明で、しかも熱圧までは前硬化しないので、周辺環境や周辺設備を清潔に維持する。
【0018】
さらに、湿式硬質繊維板の熱圧プレスは、後述するように、通常、3段階圧締法で行われるが、この第1段階の機械的脱水時に、マット(前述の、パルプ液から抄造機にて一定の厚さに脱水抄造されたもの)から、大量の水分が排出される。該水分には、補強剤や耐水剤が含まれているが、とくに補強剤がフェノールの場合、前述のごとく、該樹脂は黒紫色でしかも水分を含んだ状態では、かなりの粘着性があるゆえ、該樹脂が周辺設備や周辺環境に付着すれば、該設備や該環境を著しく汚染するばかりか、湿式硬質繊維板の平滑面を得るために使用されている鏡面板(ステンレス製プレート)も著しく汚染するので、該鏡面板の取替洗浄周期を短くしているのが現状である。
これに対し、本発明の補強剤は、前述したように、透明で、熱圧脱水時に排出されても前硬化しないので、周辺設備や周辺環境を清潔に維持するばかりか、鏡面板の取替洗浄周期の大幅な延長を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の発明から理解できるように、湿式硬質繊維板の補強剤として、本発明のアクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂を用いれば、従来の補強剤であるフェノール樹脂に比べて、大幅に環境に優しい湿式硬質繊維板を得ることができる。
ところで、本発明のアクリル樹脂としては、熱架橋をさせるためにカルボン酸を有する高分子体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸をモノマーとする重合体、及びその塩類が挙げられる。
また、本発明のビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂としては、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンの反応物、ビスフェノールADとエピクロルヒドリンの反応物、ポリアミンとエピクロルヒドリンの反応物、酸無水物とエピクロルヒドリンの反応物、フェノールノボラックとエピクロルヒドリンの反応物、オルト・クレゾールとエピクロルヒドリンの反応物等が挙げられる。
ちなみに、ビスフェノールAを含むエポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの反応物である。
なお、本発明では、次のような理由により、ビスフェノールAを含むエポキシ樹脂を、権利の範囲外とした。
理由1:ビスフェノールAを含むエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の代表格であるが、該エポキシ樹脂に残留しているビスフェノールAが環境ホルモン作用を及ぼす、という問題がある。
理由2:ビスフェノールAを含むエポキシ樹脂は、主剤と硬化剤の組合せである2液タイプが多く、湿式硬質繊維板の補強剤としては、不適である。というのも、2液タイプは、混合すると、すぐに硬化がはじまるので、熱圧時に必要なボード性能が出ないばかりか、該反応物がリサイクルされる白水中に浮遊することにより、斑点等のボード外観状の欠点を生じる可能性が大きくなるからである。ちなみに、本発明のビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂は、1液タイプである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に、湿式硬質繊維板10を示す。
該繊維板の表面1は平滑であるが、裏面2は、後述する熱圧工程で、脱水を容易にするための金網に面しているため、図2に示すような網目3となっている。以下、該繊維板の製造方法について詳述する。
【0021】
(スラリー調整)
使用するパルプは、主として木材を原料とするが、竹、ハガスなどでもよい。
該原料を機械的処理してパルプ化するメカニカルパルプ、化学処理してパルプ化するケミカルパルプ、機械的処理と化学的処理を併用してパルプ化するセミグランドパルプ、のいずれも使用可能である。このパルプは、通常3質量%程度の濃度で水に分散され、スラリーとされる。
次に、本発明のアクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂が補強剤として、スラリーのパルプ100部に対し、アクリル樹脂が0.05〜2.0質量%程度、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂が0.1〜2.0質量%程度、耐水剤としてパラフィンワックスが、スラリーのパルプ100部に対し、0.1〜1.5質量%、そのほか必要に応じて、防腐剤や老化防止剤が添加されスラリー調整が行われる。
後ほど詳述するが、補強剤の添加量としては、アクリル樹脂が0.05〜0.25質量%、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂が0.50〜1.00質量%とするのが最も好ましい。これらの範囲の組み合わせで、最も良好なボード性能が得られるからである。
なお、耐水剤は、パラフィンワックスのほか、シリコン化合物、ジルコニウム化合物等の撥水剤も使用可能である。
【0022】
(抄造)
上記するスラリーは、通常、パルプ濃度として1.0〜1.5質量%程度に希釈して抄造に使用される。抄造には、丸網法、長網法、チャップマン法等、公知の方法が適用される。いずれの方法においても、金網上に該スラリーを流し出し、金網裏面から真空吸引脱水を行って、ウェットマットをフォーミングする。このウェットマットにあっては、表面側では、パルプの長手方向が略水平方向になるように配向され、裏面側(金網側)では、真空吸引力によって、長手方向が略垂直になるよう配向され、かつパルプ密度は、表面側では比較的高く、裏面側では比較的低くなっており、さらに裏面は、金網の網目が転写されることによって粗面になっている。このウェットマットは、所望なれば、冷間プレスによって、ドライネス[パルプ質量÷(パルプ質量+水質量)×100%]が約30〜40%になるまで脱水される。
【0023】
(熱圧)
上記するウェットマットは、次いで熱圧プレスされる。熱圧プレスは、通常180〜220℃程度の温度で行われるが、プレス圧力は、例えば2.5mm厚の該繊維板を製造する場合、40kg/cm2で50〜60秒、8〜10kg/cm2で60〜90秒、20〜35kg/cm2で60〜90秒の三段階圧締法によって行われる。この三段階圧締法では、二段階目で圧力を下げて、ウェットマットに含まれている水蒸気を抜け易くすることで(息抜き工程という。)、ウェットマットのパンク現象が防止される。なおプレス装置は、上型と下型を備えるが、下型の型面に金網や多孔板をスペーサーとして敷設することで、ウェットマットから搾り出される水の排水が図られる。
上記するように、ウェットマットの裏面側においては、パルプが長手方向に略垂直に配向され、比較的低密度となっているため、ウェットマットからの水の搾出は、パルプ間にガイドされて、円滑に行われる。
【0024】
(調湿・養生)
熱圧後、湿式硬質繊維板は、水打ちまたは調湿処理されて、所定の含水率に調整されたのち、一定期間養生され、製品とされる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について、従来の補強剤であるフェノール樹脂と比較して説明する。
ここで供試したボード性能測定用試験片は、発明を実施するための最良の形態の段落0020から段落0024に準じて、実験機で作製された厚さが2.5mmで、大きさが30cm角の湿式硬質繊維板から切り出したものであり、曲げ強さ測定用試験片は3cm×11cm(スパン:6cm)、吸水率測定用試験片は5cm×5cmとした。
通常、パルプはアニオンに荷電しているので、補強剤や耐水剤をパルプに歩留まらせるためには、アニオンとの良好な反応性を考慮して、カチオンに荷電させておくのがよい。
従って、通常、湿式硬質繊維板で使用されるパラフィンワックスもカチオンに荷電されているが、パルプへの歩留まりは、パラフィンワックス単独では悪く、他の補強剤と併用してはじめて歩留まるようである。この理由として、パラフィンワックスの粘性が他の補強剤に比べて小さい、ということがあげられる。つまり、パルプへの歩留まりには、アニオンとカチオンの化学的結合よりも、粘性という物理的結合の方が大きく寄与しているものと考えられる。
【表1】

【0026】
表1から、アクリル樹脂が供試補強剤の中では、ボード性能が最も劣ることが明らかである。この理由として、本発明のアクリル樹脂はアニオンに荷電しているため、当然アニオンに荷電しているパルプとの反応性が小さくなったためと考えられる。ただ、この場合のボード性能は、パラフィンワックス単独添加より良くなっている。これは、アクリル樹脂のアニオンがパラフィンワックスのカチオンと反応すると、大きな凝集物(フロック)をつくるので、これが物理的にパルプに歩留まるためと考えられる。数値そのものが、それほど優れていないのは、大きなフロックゆえ、パルプへの分散が悪くなったため、と考えられる。
【0027】
一方、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂は、カチオンに荷電しているため、アニオンに荷電しているパルプとの化学的結合と、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂が本来備えている粘性という物理的結合により、パルプに歩留まり、フェノール樹脂よりすぐれたボード性能を発現する。
表2に、補強剤の添加量水準を増加させた場合の、フェノール樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂に関するボード性能の比較を示す。当表からも、フェノール樹脂に比し、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂のボード性能に関する優位性が明らかである。
【表2】

【0028】
ところで、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂とパルプとの化学的結合は、例えばビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂のアゼチジニウム環(化1)がパルプのセルロースのカルボキシル基(化2)および水酸基(化3)と次のように反応して生じるものと考えられる。つまり、このような反応によってパルプ繊維間の結合が強化されるものと考えられる。
【化1】


【化2】

【化3】

【0029】
なお、表2では、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の添加量が1.00%以上で、吸水率が急激に悪化している。これは、エポキシ樹脂の増加に伴い、パラフィンワックスが析出してくるので、この影響により、パラフィンワックスの分散が悪くなったものと考えられる。
【0030】
次に、本発明による、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の組合せ効果をみてみると、表3および表4のようになる。
【表3】

【表4】

表3および表4から、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の組合わせ効果は(アクリル添加量:エポキシ添加量)=(0.125:0.75)、(0.125:1.00)、(0.25:0.75)、(0.25:1.00)のところで出ていると判断できる。従って、トータルコストを考慮すれば、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の組合せ効果は、(アクリル添加量:エポキシ添加量)=(0.125:0.75)が最適と判断出来る。
【0031】
表3および表4で、アクリル樹脂が増えるにつれ、ボード性能が落ちる傾向が見られるが、これには、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の凝集力の強さが影響していると考えられる。つまり、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の凝集物は、凝集力が強く、アクリル樹脂が増えるにつれ、糊状となり、大きな塊状物に成長していくため 、その分、パルプへの分散性が低下してくる。この現象がボード性能の低下となってあらわれてくるものと判断できる。
【0032】
ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の添加量が1.00%の場合、アクリル樹脂の添加量が増えても、吸水率が殆ど変化しないのは、パラフィンワックスにビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂を増やしていくと、パラフィンワックスの粒子が析出してくるが、アクリル樹脂が同時に増えると、該析出物の塊状生長が、アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の糊状の物理的結合力の制限を受けて止まるため、パラフィンワックスの分散性が低下しない、というところに原因があると考えられる。
【0033】
次に水をリサイクル(※1)して使用した場合の、本発明の補強剤〔アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の組合せ。以下本発明樹脂という。〕(※2)と従来の補強剤であるフェノール樹脂(※3)について、ボード性能比較を表5に示す。
※1 水を繰り返して使用する場合、次サイクルで使用する水量は、前サイクルのマットに含まれている水量のみ不足するので、相当分(全水量の約1/12)を新水で補充。
※2 アクリル樹脂:0.25%、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂:0.75%、パラフィンワックス:0.4%を添加。
※3 フェノール樹脂:1.0%、パラフィンワックス:0.4%を添加。
【表5】

表5から明らかなように、ボード性能のレベルは、従来の補強剤であるフェノール樹脂に比べて、本発明の補強剤の方が、特に曲げ強さにおいて、格段に優位であると判断できる。
【0034】
ところで、環境対策としてVOC低減が進んでおり、該VOC低減に対し、本発明樹脂が従来の補強剤であるフェノール樹脂に比べて、どれくらい優れているかを調べるため、2.5mm厚湿式硬質繊維板の試片(面積:80cm2)を用意し、これを純窒素ガス4リットルを入れた10リットルのテドラーバッグに入れ、65℃で2時間加熱後、DNPHカートリッジで4リットル全量採気し、高速液体クロマトグラフにてアルデヒド類の揮発量を測定した。表6にその結果を示す。
【表6】

表6から本発明樹脂を補強剤として使用した場合、従来のフェノール樹脂を補強剤として使用した場合に比べて、アルデヒド類が半減していることが明らかである。
【0035】
また臭気について、以下に示すにおい試験方法、すなわち、容積4リットルのスチール缶に試片(4cm×7cm)を入れ、DRY試験(容器に蓋をし、80℃で60分加熱後、室温まで冷却し、臭いを嗅ぐ。)とWET試験(試験片に試験片重量の5%の蒸留水を均一塗布後、蓋をし、23±2℃、50±5%の恒温恒湿器で60分放置後、臭いを嗅ぐ。)を実施した。なお、本におい試験では、サンプラーが5人以上必要なのでサンプラーは6人とした。従って該容器は、3人/缶が限度のため2個準備した。表7にその結果を示す。
【表7】

※1 基準臭をイソ吉草酸(濃度105)とし、この強度を3(楽に感知できるにおい)、快不快度を−2(不快)として、各サンプラーが点数評価〔強度は、0(無臭)〜5(強烈なにおい)、快不快度は、−3(非常に不快)から3(非常に快)までの段階がある。〕し、結果は平均値で表す。
※2 規格値
表7から、においについても、本発明樹脂を補強剤として使用した方が従来のフェノール樹脂を補強剤として使用するよりも、有利であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上、詳述したように、本発明樹脂を補強剤として使用した湿式硬質繊維板は、従来のフェノール樹脂を補強剤として使用した湿式硬質繊維板に比べて、生産時に大量に使用する水(通常、白水と称し、リサイクルして使用。)を殆ど汚さないので生産設備や周辺環境を清潔に維持できるばかりか、残留フェノールの心配もなく、当然フェノール臭もなく、臭気の問題も未然に防止できるほか、アルデヒド類も減らせるので、VOC低減にも寄与できる。すなわち、本発明樹脂を補強剤として使用した湿式硬質繊維板は、従来のフェノール樹脂を補強剤として使用した湿式硬質繊維板に比べて、大幅に環境に優しいものとなり得ることは勿論、ボード性能も、従来のフェノール樹脂を補強剤として使用した湿式硬質繊維板より優れたものにすることができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面と表を用いて詳述してきたが、具体的には、この実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更等は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例における硬質湿式繊維板の表面図
【図2】実施例における硬質湿式繊維板の裏面図
【符号の説明】
【0039】
1・・表面
2・・裏面
3・・網目
10・湿式硬質繊維板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強剤がアクリル樹脂とビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂である湿式硬質繊維板。
【請求項2】
前記補強剤が、アクリル樹脂よりもビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂の方が多く含まれる請求項1に記載の湿式硬質繊維板。
【請求項3】
前記補強剤が、アニオン化アクリル樹脂とビスフェノールAを含まないカチオン化エポキシ樹脂である請求項1に記載の湿式硬質繊維板。
【請求項4】
前記補強剤が、100℃以下の温度では、硬化反応が殆ど進まないアクリル樹脂およびビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂である湿式硬質繊維板。
【請求項5】
前記補強剤のアクリル樹脂およびビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂が、ともに熱硬化性樹脂である湿式硬質繊維板。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−121058(P2010−121058A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296641(P2008−296641)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】