説明

環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】優れた耐熱性及び外観を有し、ウエルド衝撃強度が向上された環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に関するもので、このポリ乳酸樹脂組成物は、(A)(a1)ポリ乳酸(PLA)樹脂及び(a2)ポリカーボネート樹脂を含む基礎樹脂、及び(B)前記ポリ乳酸(PLA)樹脂とステレオコンプレックスを形成できる相溶化剤を含む。
本発明による環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、親環境樹脂組成物として、優れた外観を有し、ウエルド衝撃強度が向上されると同時に機械的強度及び耐熱性が改善されて、自動車、機械部品、電機電子部品、事務機器、雑貨のように、耐熱性及び機械的強度が要求される成形品の製造に有用に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に関するもので、より詳細には、優れた耐熱性及び外観を有し、ウエルド(weld)衝撃強度を向上させた環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近まで、高分子材料の研究は、強靭な特殊用高分子材料の開発及び高分子物質の安全性に関する研究が主に行われてきた。しかし、全世界的に廃棄される高分子による環境汚染問題が社会問題となり、地球環境に優しい環境親和性高分子材料の必要性が高まっている。
【0003】
このような環境親和性高分子は、大きく分けて光分解性及び生分解性高分子があり、特に生分解性高分子は、主鎖構造に微生物による分解が可能な作用基を有する。
【0004】
このような生分解性高分子のうち脂肪族ポリエステル高分子は、加工性に優れて、分解特性の調節が容易で最も多く研究されており、特にポリ乳酸(Polylactic Acid、PLA)の場合、全世界的に15万トン規模の市場を形成し、食品包装材及び容器、電子製品ケース等の一般プラスチックが使用されていた分野までその適用範囲が広がっている。現在までのポリ乳酸樹脂の主な用途は、ポリ乳酸樹脂の生分解性特性を利用した使い捨て製品、例えば、食品容器、ラップ、フィルム等である。このようなポリ乳酸樹脂は、現在米国のNature Works社、日本のトヨタ自動車等で生産されている。
【0005】
しかし既存のポリ乳酸樹脂は、成形性、機械的強度、耐熱性が不足し、薄膜製品が破損しやすく、温度に対する抵抗性が低くて、外部温度が60℃以上上昇すると成形製品が変形するという問題点があった。
【0006】
このような問題点を解決するために、ポリ乳酸樹脂と石油由来の熱可塑性プラスチック、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアセタール樹脂等を混合する試みがあった。
特許文献1にはポリ乳酸樹脂とアクリロニトリルスチレン樹脂との組成物(段落「0041」〜「0050」)、特許文献2にはポリ乳酸樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂との組成物を用いて、耐熱性を向上させる方法が提案されており、 特許文献3および4等にはポリ乳酸−ポリアミド樹脂組成物を用いて、バイオマス(Biomass)含量を高める方法が提案されている。また、特許文献5および6には、ポリオキシメチレン−ポリ乳酸樹脂組成物を用いて耐熱性等を高める方法が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献7および8では、ポリ乳酸−ポリカーボネート樹脂組成物を用いて、耐熱性等を高める方法を提案している。非特許文献1および2では、L−異性体ポリ乳酸とD−異性体ポリ乳酸を溶融混合して、結晶化を向上させた研究が発表されている。また、特許文献9および10では、ステレオコンプレックスポリ乳酸を用いて、高い結晶性を誘導し、熱安定性及び機械的強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開1999−279380号公報
【特許文献2】特開2006−070224号公報
【特許文献3】特開2006−143772号公報
【特許文献4】米国特許第5,272,221号
【特許文献5】特開2003−147180号公報
【特許文献6】特開2003−138119号公報
【特許文献7】特開2005−048067号公報
【特許文献8】特開2006−199743号公報
【特許文献9】特開2007−023083号公報
【特許文献10】特開2006−241607号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macromolecules、20、904(1987)
【非特許文献2】Macromolecules、26、6918(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記の先行技術文献における発明に記載されているポリ乳酸樹脂とポリカーボネート樹脂とでは相溶性が低く、物性向上に限界があり、表面にフローマーク(flow mark)やウエルドライン(樹脂の合流点)が目立つという問題点が解消されていない。そこで、本発明の目的は、優れた耐熱性及び外観を有し、ウエルド衝撃強度が向上された環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物を提供することである。
【0011】
また本発明の目的は、自動車、機械部品、電機電子部品、事務機器、雑貨のように、耐熱性及び機械的強度が要求される成形製品に好適な環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
しかし、本発明の技術的課題は、上記課題に限定されず、その他の技術的課題は、下記の説明により明らかになるであろう。
【0013】
本発明の一実施態様によれば、(A)(a1)ポリ乳酸(PLA)樹脂及び(a2)ポリカーボネート(Polycarbonate)樹脂を含む基礎樹脂、及び(B)前記ポリ乳酸樹脂とステレオコンプレックス(stereo−complex)を形成できる相溶化剤を含む環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
前記相溶化剤としては、前記ポリ乳酸樹脂と立体ステレオコンプレックスを形成できる光学異性体のポリ乳酸及びポリカーボネートの共重合体が好ましい。即ち、前記基礎樹脂を構成するポリ乳酸樹脂の大部分がL体乳酸であれば、相溶化剤を構成するポリ乳酸はD体であり、基礎樹脂を構成するポリ乳酸樹脂の大部分がD体であれば、相溶化剤を構成するポリ乳酸はL体である。特に前者が経済的な面で好ましい。
【0015】
本発明の他の実施態様によれば、前記環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物で製造された成形品を提供することができる。
【0016】
その他の本発明の実施態様の詳細については後述する。
【0017】
本発明による環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、親環境樹脂組成物として、優れた外観を有し、ウエルド衝撃強度が向上されると同時に機械的強度及び耐熱性が改善されて、自動車、機械部品、電機電子部品、事務機器、雑貨のように耐熱性及び機械的強度が要求される成形品の製造に有用に用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、親環境樹脂組成物として、優れた外観を有し、ウエルド衝撃強度が向上されると同時に機械的強度及び耐熱性が改善されて、自動車、機械部品、電機電子部品、事務機器、雑貨のように、耐熱性及び機械的強度が要求される成形品の製造に有用に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施態様を詳細に説明する。しかし、これは単なる実施態様を示したものにすぎず、本発明を何ら限定するものではないことを理解されたい。よって、本発明の見解及び範囲は特許請求の範囲の各請求項及びそれらの等価物によってのみ定義されるものとする。
【0020】
本発明の第一は、ポリ乳酸(PLA)樹脂及びポリカーボネート樹脂を含む基礎樹脂と、前記ポリ乳酸(PLA)樹脂とステレオコンプレックスを形成できる相溶化剤とを含む環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物である。
【0021】
すなわち、本発明は相溶化剤を用いて、ポリ乳酸樹脂とポリカーボネート樹脂の相溶性を向上させた環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に関するものである。
【0022】
本発明の一実施態様による環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、(A)(a1)ポリ乳酸(PLA)樹脂及び(a2)ポリカーボネート樹脂を含む基礎樹脂、及び(B)前記ポリ乳酸樹脂とステレオコンプレックス(stereo−complex)を形成できる相溶化剤を含む。
【0023】
以下、本発明の一実施態様による環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
(A)基礎樹脂
(a1)ポリ乳酸(Polylactic Acid、PLA)樹脂
一般的にポリ乳酸樹脂は、例えば、トウモロコシ澱粉を分解して得た乳酸(Lactic acid)をモノマーとして作製されるポリエステル系樹脂であって、本明細書において単に「ポリ乳酸」と称呼されるものは、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とし、「ポリ−L−乳酸」とすると、L−乳酸のみを構成成分とし、「ポリ−D−乳酸」とすると、D−乳酸のみを構成成分とし、商業的に市販のされているものの購入が容易な樹脂である。前記ポリ乳酸樹脂は、L−乳酸、D−乳酸、又はL、D−乳酸で構成されており、これらポリ乳酸樹脂は、単独又は複合で用いることができる。また、本発明に係るポリ乳酸樹脂は、市販のものを利用しても合成してもよく、合成する場合は、例えば、L−乳酸、およびD−乳酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合により得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチドから必要とする構造のものを選んで開環重合することで得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。
【0024】
本発明に係るポリ乳酸樹脂に使用されるとしては、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−ポリ乳酸、ポリ乳酸(D体、L体を含む)であってもよく、本発明に係るポリ乳酸樹脂に使用されるポリ乳酸は、耐熱性、成形性及び経済性のバランスの面でL−乳酸が95重量%以上含まれるものがより好ましく、より好ましくは耐加水分解性を考慮してL−乳酸95〜100重量%、及びD−乳酸0〜5重量%からなるポリ乳酸樹脂を用いることができる。また、当該ポリ乳酸(D体、L体を含む)は、ランダムでもブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0025】
また、前記ポリ乳酸樹脂は、成形加工が可能であれば分子量や分子量分布に特に制限はないが、重量平均分子量8万以上が成形体の機械的強度及び耐熱性のバランスが良いので好ましい。より好ましくは重量平均分子量が9万〜50万のポリ乳酸樹脂である。
【0026】
本発明の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に含まれる基礎樹脂のうち、前記ポリ乳酸樹脂の含量は25〜80重量%が好ましく、40〜80重量%がより好ましい。ポリ乳酸樹脂の含量が前記範囲である場合、成形性及び耐熱性のバランスが良いので好ましい。
(a2)ポリカーボネート樹脂
本発明に係るポリカーボネート樹脂は、下記化学式1で表されるジフェノール類をホスゲン、ハロゲン酸エステル、炭酸エステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される化合物と反応させて製造できる。
【0027】
【化1】

【0028】
(前記化学式1において、Aは単一結合、置換または非置換されたC1乃至C30の直鎖状または分枝状のアルキレン基、置換または非置換されたC2乃至C5のアルケニレン基、置換または非置換されたC2乃至C5のアルキリデン基、置換または非置換されたC1乃至C30の直鎖状または分枝状のハロアルキレン基、置換または非置換されたC5乃至C6のシクロアルキレン基、置換または非置換されたC5乃至C6のシクロアルケニレン基、置換または非置換されたC5乃至C10のシクロアルキリデン基、置換または非置換されたC6乃至C30のアリレン基、置換または非置換されたC1乃至C20の直鎖状または分枝状のアルコキシレン基、ハロゲン酸エステル基、炭酸エステル基、CO、S、及びSOからなる群より選択され、R11及びR12はそれぞれ独立して置換又は非置換の炭素数1〜30のアルキル基、及び置換又は非置換の炭素数6〜30のアリール基からなる群より選択され、n11及びn12はそれぞれ独立して0〜4の整数である。上記の‘置換’とは、水素元素がハロゲン基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のハロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基で置換されるものを意味する。
【0029】
上記炭素数1〜30のアルキレン基の例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、プチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ドデシレンなどがある。
【0030】
上記炭素数2〜5のアルケニレン基の例としては、エテニレン(ethenylene)、プロフェニレン、ブテニレンなどがある。上記炭素数2〜5のアルキリデンの例としては、メチリデン、1,1−エチリデン、1,1−または2,2−プロピリデンまたは1,1−ブチリデンのような直鎖または分枝鎖が挙げられる。
【0031】
上記炭素数1〜30のハロアルキレン基の例としては、フルオロメチレン、フルオロエチレン、フルオロロピレン、フルオロプチレン、フルオロペンチレン、フルオロへキシレン、フルオロヘプチレン、フルオロオクチレン、フルオロノニレン、フルオロデシレン、フルオロドデシレンなどがある。
【0032】
上記炭素数5〜6のシクロアルキレン基の例としては、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレンなどが挙げられる。
炭素数5〜6のシクロアルケニレン基の例としては、シクロペンテニレン(cyclopentenylene)、シクロヘキセニレン(cyclohexenylene)などがある。
【0033】
上記炭素数5〜10のシクロアルキリデンとしては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデンまたはシクロヘキシリデンである。上記炭素数1〜30のアルキル基の例として、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、1−メチルペンチル基、1,3,−ジメチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルヘキシル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、n−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、1−メチルウンデシル基、ドデシル基、1,3,3,5,5−ヘキサメチルヘキシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、エイコシル基やドコシル基が挙げられ、上記炭素数1〜30のハロアルキル基は、これらアルキル基における1以上の水素原子をハロゲン原子で置換したものが挙げられる。
【0034】
上記炭素数1〜20のアルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどが挙げられる。
【0035】
上記炭素数6〜30のアリール基の例としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル等を挙げることができる。上記炭素数6〜30のアリレン基の例としては、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレンなどがある。
【0036】
前記化学式1で表されるジフェノール類は、2種以上が組み合わされて、ポリカーボネート樹脂の反復単位を構成することもできる。前記ジフェノール類の具体的な例としては、ハイドロキノン、レゾシノール(Resorcinol)、4、4’−ジヒドロキシジフェニル、2、2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2、4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1、1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2、2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2、2−ビス−(3、5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が挙げられる。
【0037】
前記ジフェノール類のうち、2、2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2、2−ビス−(3、5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、又は1、1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンを好ましく使用できる。ビスフェノールAとも呼ばれる2、2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンを使用することがより好ましい。
【0038】
前記ポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)が10,000〜200,000が好ましく、15,000〜80,000がより好ましいが、これに限定されない。
【0039】
前記ポリカーボネート樹脂は、2種類以上のジフェノール類から製造された共重合体の混合物であってもよい。また前記ポリカーボネート樹脂としては、線状ポリカーボネート樹脂、分枝状(branched)ポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート共重合体樹脂等を使用することができる。
【0040】
前記線状ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA系のポリカーボネート樹脂等が挙げられる。前記分枝状ポリカーボネート樹脂としては、トリメリト酸無水物、トリメリト酸等の多官能性芳香族化合物をジフェノール類及びカーボネートと反応させて製造されるものがある。前記多官能性芳香族化合物は、分枝状ポリカーボネート樹脂総量に対して0.05〜2モル%含有されることが好ましい。前記ポリエステルカーボネート共重合体樹脂としては、二官能性カルボン酸をジフェノール類及びカーボネートと反応させて製造されるものがある。この時、前記カーボネートとしてはジフェニルカーボネートのようなジアリルカーボネート、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)等が使用できる。
【0041】
本発明の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物に含まれる基礎樹脂のうち、前記ポリカーボネート樹脂の含量は20〜75重量%が好ましく、20〜60重量%が因り好ましい。ポリカーボネート樹脂の含量が前記範囲内である場合、バイオマス(Biomass)適正含量を維持し、かつ成形性及び耐熱性のバランスの面で好ましい。
【0042】
(B)相溶化剤(Compatibilizer)
本発明における相溶化剤としては、基礎樹脂(A)を構成するポリ乳酸(a1)とステレオコンプレックス(Stereo−complex)を形成できる共重合体を使用することが好ましい。
【0043】
当該基礎樹脂を構成するポリ乳酸(a1)とステレオコンプレックスを形成できる共重合体としては、基礎樹脂を構成するポリ乳酸(a1)の光学異性体のポリ乳酸及びポリカーボネートの共重合体を好適に使用することができる。即ち、前記基礎樹脂を構成するポリ乳酸樹脂(a1)がポリ−L−乳酸であれば、相溶化剤を構成するポリ乳酸はポリ−D−乳酸であり、基礎樹脂を構成するポリ乳酸樹脂(a1)がポリ−D−乳酸であれば、相溶化剤を構成するポリ乳酸はポリ−L−乳酸である。また、前記基礎樹脂を構成するポリ乳酸樹脂がポリ乳酸(D体、L体を含む)の場合は、当該ポリ乳酸を構成するD体ユニットまたはL体ユニットのうち、ユニット数の少ない方の乳酸とポリカーボネートとの共重合体を、本発明の相溶化剤に用いることが好ましい。前記D−異性体のポリ乳酸とポリカーボネートの共重合体とを使用する場合、経済的な面でより好ましい。
【0044】
基礎樹脂のポリ乳酸樹脂及びポリカーボネート樹脂は、両樹脂間の相溶性が悪くて、射出品の表面にフローマーク(flow mark)が発生しやすく、ウエルドラインが目立ち、この結果ウエルド衝撃強度が低下するという不具合が生じた。
【0045】
そこで本発明では、基礎樹脂のポリ乳酸樹脂、好ましくはポリ−L−乳酸樹脂とステレオコンプレックスを形成できる光学異性体のポリ乳酸、好ましくはD−ポリ乳酸とポリカーボネートとの共重合体を相溶化剤として用いることにより、ポリ乳酸樹脂及びポリカーボネート樹脂界面にポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成させて、結果的に界面でポリ乳酸の結晶化度を向上させ、両樹脂間の相溶性を高めることができる。
【0046】
前記ポリ−D−乳酸については、基礎樹脂で説明したポリ−D−ポリ乳酸と同様であり、また前記ポリ−L−乳酸については、基礎樹脂で説明したポリ−L−乳酸と同様である。前記ポリカーボネートとしては、基礎樹脂に用いられるポリカーボネート樹脂をどれでも使用できるので、詳細な説明は省略する。ただし、相溶化剤として使用されるポリカーボネート樹脂において、基礎樹脂に使用されるポリカーボネート樹脂より重量平均分子量が小さいものを適宜用いることができ、その例として、重量平均分子量(Mw)が1,000〜100,000のものを好適に使用できる。
【0047】
また、前記ポリ−D−乳酸を使用する場合、重量平均分子量(Mw)が1,000〜200,000であるものを好適に使用できる。前記適正水準の分子量を有する相溶化剤の場合、ポリ乳酸樹脂とポリカーボネート樹脂の二つのポリマーの界面に効果的に配置(deposition)されて相溶化の役割を好適に行うことができ、分子量が低すぎると、それぞれのポリマーとの反応性や混和性(miscibility)が低くなり、また、分子量が高すぎると、流動性が低下して二つのポリマーの界面に移動しなかったり、自ら相分離を起こす可能性がある。 また共重合体において、基礎樹脂を構成するポリ乳酸の光学異性体、好ましくはポリ−D−乳酸とポリカーボネートとは5:95〜95:5重量比で用いることがウエルド衝撃強度、耐熱性及び外形の物性バランスの面で好ましく、30:70〜70:30重量比がより好ましい。
【0048】
本発明で相溶化剤として使用される共重合体の例としては、重量平均分子量(Mw)が1,000〜100,000のビスフェノールAポリカーボネートを開始剤として、D、D−ラクチド単量体(D、D−lactide monomer)を開環重合してポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)が1,000〜200,000のポリ乳酸−ポリカーボネート共重合体が挙げられる。
【0049】
本発明の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物において、前記相溶化剤は、基礎樹脂100重量部に対して0.01〜30重量部を用いることが好ましく、より好ましくは2〜10重量部である。前記相溶化剤の範囲内では、耐熱性、外形、ウエルドライン改善の物性バランスに優れている。
【0050】
(C)衝撃補強剤
本発明の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、衝撃強度を向上させるために、衝撃補強剤をさらに含むことができる。
【0051】
本発明に係る衝撃補強剤は、ポリ乳酸樹脂と親和力を有する衝撃補強剤として、コアシェル(core−shell)タイプの共重合体、鎖状の補強剤及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0052】
前記コアシェルの共重合体は、ゴムのコア構造に不飽和単量体がグラフトされて硬いシェルを形成することによってコアシェル構造を有するものであって、ジエン系ゴム、アクリレート系ゴム及びシリコン系ゴム単量体が重合されたゴム重合体に、スチレン、アルキル又はハロゲン置換スチレン、(メタ)アクリロニトリル、メタクリル酸エステル類、メタクリル酸アルキルエステル類、無水物、及びアルキル又はフェニル核置換マレイミドからなる群から選択された不飽和単量体がグラフトされて形成されたコアシェルの共重合体である。
【0053】
前記ゴム重合体は、炭素数4〜6のジエン系ゴム、アクリレート系ゴム、及びシリコン系ゴムの単量体からなる群より選択された1種以上のゴム単量体を重合して製造されたものを好適に使用できる。
【0054】
前記ジエン系ゴムとしては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン/プロピレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンの三元共重合体(EPDM)等が使用できる。
前記アクリレート系ゴムとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、又は2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアクリレート単量体を用いることができ、この時エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート又は1、4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、又はトリアリルシアヌレート等の硬化剤を使用することができる。
前記シリコン系ゴムとしては、シロキサンから製造され、ジメチルシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、及びオクタフェニルシクロテトラシロキサン等のうちの1種以上を選択してシリコン系ゴムを製造でき、この時トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、又はテトラエトキシシラン等の硬化剤が使用できる。
【0055】
前記ゴム重合体は、シリコン系ゴムを単独で使用したり、またシリコン系ゴムとアクリレート系ゴムとを混合して用いたりすることで構造的安定性を向上できる。また前記ゴムは、ゴムの平均粒径が0.4〜1μmであるものが、耐衝撃性及び着色性のバランス維持に効果的である。
【0056】
また前記ゴム重合体にグラフト可能な不飽和単量体としては、スチレン、アルキル又はハロゲン置換スチレン、(メタ)アクリロニトリル、メタクリル酸エステル類、メタクリル酸アルキルエステル類、及びメタクリル酸エステル類、無水物、アルキル又はフェニル核置換マレイミドからなる群より選択される1種以上の不飽和化合物が使用できる。
【0057】
前記メタクリル酸アルキルエステル類又はアクリル酸アルキルエステル類におけるアルキル基はC1〜C8のアルキル基であって、メタクリル酸アルキルエステル類又はアクリル酸アルキルエステル類は、それぞれメタクリル酸又はアクリル酸のアルキルエステル類である。例えば、アクリル酸と1〜8の炭素原子を有するモノヒドリルアルコールを反応させて製造されたアクリル酸 C1〜C8アルキルエステル類が得られる。これらの具体的な例としては、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル又は(メタ)アクリル酸プロピルエステル等が挙げられ、特に(メタ)アクリル酸メチルエステルが好ましい。
【0058】
前記無水物としては酸無水物を用いることができ、より好ましくは無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸無水物が使用できる。
【0059】
前記コアシェルの共重合体におけるゴムのコア物質及びグラフト可能な不飽和単量体の混合比率は50〜90:5〜30重量比が好適である。前記範囲内では、樹脂との相溶性に優れて、優れた衝撃補強効果を得ることができる。
【0060】
また鎖状のエステル系又はオレフィン系共重合体は、熱可塑性ポリエステル又はポリオレフィン系の主鎖にエポキシ基又は無水物の官能基がグラフトされた共重合体である。例えば、前記オレフィン系共重合体は、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン又はイソブチレン等のオレフィン系単量体の中から一つ以上を選択して製造することができる。オレフィン系共重合体は、一般的なオレフィン重合触媒であるチーグラ・ナッタ触媒を利用して製造でき、より選択的な構造のためにメタロセン系触媒を利用して製造することができる。分散性向上のために、無水マレイン酸、グリシジルメタクリレート、オキサゾリン等の官能基をオレフィン系共重合体にグラフト反応させることも可能である。
【0061】
当該オレフィン系共重合体に反応性作用基をグラフトする方法は、本発明の属する技術分野の通常の知識を有する者であれば容易に実施することができる。
【0062】
本発明に係る衝撃補強剤は、(A)(a1)ポリ乳酸樹脂及び(a2)ポリカーボネート樹脂を含む基礎樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましい。衝撃補強剤が前記含量範囲である場合、衝撃補強効果を得ることができ、かつ引張強度、屈曲強度、及び屈曲弾性率等の機械的強度を改善することができる。
【0063】
(D)その他の添加剤
本発明の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で酸化防止剤、耐候剤、離型剤、着色剤、紫外線遮断剤、充填剤、核形成剤、可塑剤、接着助剤、粘着剤及びこれらの組み合わせからなる群より選択される添加剤をさらに含有することができる。
【0064】
前記酸化防止剤としては、フェノール類、フォスファイド類、チオエーテル類又はアミン類の酸化防止剤が使用でき、耐候剤としては、ベンゾフェノン類又はアミン類が使用できる。
【0065】
前記離型剤としては、フッ素含有重合体、シリコンオイル、ステアリン酸の金属塩、モンタン酸の金属塩、モンタン酸エステルワックス又はポリエチレンワックスが使用でき、前記着色剤としては、染料又は顔料が使用できる。
【0066】
前記紫外線遮断剤としては、酸化チタン又はカーボンブラックが使用でき、前記充填剤としては、シリカ、粘土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム又はガラスビードが使用でき、前記核形成剤としては、タルク又はクレイが使用できる。
【0067】
また、本発明に係る添加剤の量は、(A)(a1)ポリ乳酸樹脂及び(a2)ポリカーボネート樹脂を含む基礎樹脂100重量部に対して0〜30重量部が好ましい。
【0068】
上記組成の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、一般的な樹脂組成物を製造する公知の方法で製造することができる。例えば、前記構成成分とその他の添加剤を同時に混合した後、押出機内で溶融押出して、ペレット状に製造することができる。前記押出工程で基礎樹脂を構成するポリ乳酸と相溶化剤がステレオコンプレックスを形成するようになる。
【0069】
前記環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、種々の製品の成形に使用できるが、特に優れた耐熱性及び機械的強度が同時に要求される分野の成形製品、例えば、自動車、機械部品、電機電子部品、コンピュータ等の事務機器や雑貨等に使用することができる。特にテレビ、コンピュータ、プリンタ、洗濯機、カセットプレーヤ、オーディオ、携帯電話機等の電機電子製品のハウジングに好適に使用できる。
【0070】
上記のように本発明の他の実施態様により、前記環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物で製造された成形品を提供することができる。
【実施例】
【0071】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、単なる実施例を示したものにすぎず、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0072】
「実施例」
下記実施例及び比較例で用いる(A)(a1)L−異性体のポリ乳酸樹脂、(a2)ポリカーボネート樹脂、(B)相溶化剤、及び(C)衝撃補強剤の仕様は以下のとおりである。
【0073】
(A)基礎樹脂
(a1)L−ポリ乳酸(PLA)樹脂
米国Nature Works LLCで製造されたL−乳酸の含量が97.5重量%の4032Dを使用した。
【0074】
(a2)ポリカーボネート樹脂
日本テイジン(Teijin)社のPANLITE L−1250WP樹脂を使用した。
【0075】
(B)相溶化剤
以下の工程で製造されるものを使用した。
(b1)PC−PDLA−1:ビスフェノールA(Bisphenol A)とジフェニルカーボネート(Diphenyl carbonate)とを1.04:1重量比で混合した混合物を10−7〜10−6モル%の触媒(水酸化カリウム、KOH)とともに配置タイプ反応器で反応させた。この時、反応温度は、反応媒質の粘度上昇に応じて180℃から300℃に順次上昇させた。また、前記反応器にリフラックスコラム(reflux column)及び真空ポンプを前記反応器に順次連結して、反応副産物のフェノール(phenol)を1トル(torr)以下の真空を加えて形成し、フェノールと共に揮発するジフェニルカーボネートはリフラックスコラムから再び反応器に復帰させてフェノールのみを除去した。反応時間は約8〜12時間程度の反応時間と真空度によって合成されるポリカーボネートの分子量を調節して、重量平均分子量(Mw)5,000のビスフェノールA−ポリカーボネートを合成した。
Purac社から入手したD、Dラクチド単量体(D、D−lactide monomer)を上記方法で得られたビスフェノールA−ポリカーボネートを開始剤とし、下記のように開環重合してポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)10,000のポリ乳酸−ポリカーボネート共重合体を製造した。
【0076】
開環重合はD、D−ラクチド200gを予め窒素でパージ(purging)した配置タイプミキサーに加え、前記低分子量ポリカーボネート100〜200gを開始剤とし、触媒としてオクチル(octyl)酸錫(tin)12mgを加えて、190℃で1〜2時間重合を行った。このように製造された相溶化剤から未反応モノマーを除去するために100℃で真空乾燥した。
【0077】
(b2)PC−PDLA−2:重量平均分子量(Mw)10,000のビスフェノール−Aポリカーボネートを開始剤としてD−ポリラクチド(D−polylactide)を開環重合してポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)30,000のポリ乳酸−ポリカーボネート共重合体を製造した。相溶化剤の重合方法は、分子量を除いて前記PC−PDLA−1の方法と同じである。
【0078】
(b3)PC−PDLA−3:重量平均分子量(Mw)15,000のビスフェノール−Aポリカーボネートを開始剤としてD−ポリラクチド(D−polylactide)を開環重合してポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)60,000のポリ乳酸−ポリカーボネート共重合体を製造した。相溶化剤の重合方法は、分子量を除いて前記PC−PDLA−1の方法と同じである。
【0079】
(C)衝撃補強剤
MRCのMETABLENE S−2001(コアシェルのMBS:Methyl Methacrylate−Butyl Acrylate And Dimethyl Siloxane Copolymer)を衝撃補強剤として用いた。
【0080】
(D)SAN−GMA相溶化剤
スチレン(Styrene):アクリロニトリル(Acrylonitrile):グリシジルメタクリレート(GMA、Glycidylmethacrylate)=70.6:28.9:0.5重量比で通常の方法で製造された化合物として、スチレン/アクリロニトリル(Styrene/Acrylonitrile)の共重合体にGMAがグラフトされたのを用いた。
【0081】
「実施例1」
ポリ乳酸(PLA)樹脂50重量%及びポリカーボネート樹脂50重量%を含有する基礎樹脂に、この基礎樹脂100重量部に対してPC−PDLA−1相溶化剤2重量部を加えて、環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物を製造した。このように製造されたポリ乳酸樹脂組成物を通常の二軸押出機で200〜230℃の温度範囲で押出した。得られた押出物をペレット状に製造した。
【0082】
製造されたペレットを80℃で4時間乾燥した後、6 ozの射出能力を有する射出成形機を利用して、シリンダ温度230℃、金型温度80℃、成形サイクルを60秒に設定し、ASTMダンベル試験片を射出成形して物性試験片を形成した。
【0083】
実施例2
相溶化剤の使用量を基礎樹脂100重量部に対して5重量部に増量した以外は前記実施例1と同様にして行った。
【0084】
実施例3
相溶化剤の種類をPC−PDLA−1の代わりにPC−PDLA−2に変更した以外は前記実施例2と同様にして行った。
【0085】
実施例4
相溶化剤の種類をPC−PDLA−1の代わりにPC−PDLA−3に変更した以外は前記実施例2と同様にして行った。
【0086】
実施例5
衝撃補強剤を5重量部添加した以外は前記実施例2と同様にして行った。
【0087】
実施例6
ポリ乳酸とポリカーボネートの含量比を4:6に変更した以外は前記実施例2と同様にして行った。
【0088】
比較例1
相溶化剤を用いないこと以外は前記実施例1と同様にして行った。
【0089】
比較例2
衝撃補強剤を5重量部添加したことと、相溶化剤を用いないこと以外は前記実施例1と同様にして行った。
【0090】
比較例3
一般相溶化剤を2重量部添加したこと以外は前記実施例1と同様にして行った。
【0091】
参考例1 相溶化剤使用量を35重量部に増量した以外は前記実施例1と同様にして行った。前記実施例1〜6、比較例1〜2、及び参考例1により製造された物性試験片を下記方法で物性を測定し、その結果を表1及び2に示す。
【0092】
物性評価方法
(1)機械的物性:ASTM D 638とD 790に準じて測定した。
(2)熱変形温度(HDT):ASTM D 648に準じて測定した。
(3)notched IZOD:ASTM D 256に準じて測定した。
(4)外観:厚さが2mmのピンポイント(pin−point)試験片50mm×200mm)の表面うぃ肉眼で観察して、フローマークや表面状態等を総合的に判断して測定(○:フローマークがなく表面外観優秀、△:射出品のゲート部分だけ外観不良で、大部分の外観が良好、X:全ての製品表面にフローマーク発生)(5)ウエルド衝撃強度:このゲート(2gate)金型で作製した衝撃強度試験片をノッチなしでASTM D 256に準じて測定した。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
前記表1及び2に示すように、実施例1〜2は、耐熱性が向上し、衝撃強度及びウエルド衝撃強度がいずれも向上し、外観も優れている。これに比べて相溶化剤を用いない比較例1は、衝撃強度、ウエルド衝撃強度及び耐熱性が著しく低下し、外観も不良である。
【0096】
また実施例5と比較例2を比較すれば、衝撃補強剤が添加された状態で相溶化剤を用いた実施例5では、外観、耐熱性、衝撃強度、ウエルド衝撃強度等が大きく向上した。
前記表1に示すように、相溶化剤の使用量が増加すれば(実施例1→2)物性が向上した結果が得られるが、これは基礎樹脂のL−ポリ乳酸樹脂と相溶化剤のD−ポリ乳酸のセグメント(segment)が結晶化核剤として作用し、その結果、結晶化度が高くなり、さらに機械的物性が向上したものと考えられる。
【0097】
実施例2、3及び4を比較すれば、相溶化剤における各セグメントの分子量が重要であることが分かる。即ち、重量平均分子量が1,000〜200,000のD−異性体のポリ乳酸樹脂と重量平均分子量が1,000〜100,000のポリカーボネートの共重合体を相溶化剤として用いる場合、好適な効果が得られることが分かる。
【0098】
実施例6はポリカーボネート含量を増量した場合であり、表1から分かるように、実施例2に比べてさらに物性が向上する。これはポリカーボネートの物性がポリ乳酸に比べて優れているためであり、使用された相溶化剤は媒質の組成比と無関係に作用することが分かる。
【0099】
表2の比較例3において、既存相溶化剤を用いる場合、本発明で提示した相溶化剤を用いた実施例1に比べて、耐熱性とその他の機械的強度が著しく低下し、特に外観が不良である。即ち、相溶化剤と基礎樹脂のポリ乳酸とのステレオコンプレックス(Stereo−complex)の形成と、これによる結晶性の誘導が一般相溶化剤を用いては実現することが難しく、よって良好な物性及び外観が期待できないことが分かる。
表2の参考例1によれば、高い含有量の相溶化剤を用いた場合、機械的強度及びウエルド衝撃強度、外観の面で好ましくないことが分かる。これは相溶化剤により媒質間の接着力の向上を誘導する所定含量(fraction)を超える部分が自体の低分子量のため物性を低下させ、さらに、過量の相溶化剤によってしみが生じて表面状態が悪くなるものと考えられる。
【0100】
前記表1及び2の結果から、基礎樹脂のL−異性体のポリ乳酸と相溶化剤中のD−異性体ポリ乳酸の高い親和力(affinity)により、ポリ乳酸とポリカーボネート間の優れた相溶性を示し、その結果、衝撃強度、耐熱性、外観等の物性が向上する結果が得られることが分かる。
【0101】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく多様な変形が可能である。該当技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明に基づいて様々な変形及び均等な他の実施例が可能であることが理解できるであろう。よって、上記実施例は例示的なものであり限定的なものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)ポリ乳酸(PLA)樹脂及び(a2)ポリカーボネート樹脂を含む基礎樹脂と、
(B)前記ポリ乳酸(PLA)樹脂とステレオコンプレックスを形成できる相溶化剤と、を含む環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
前記相溶化剤は、前記ポリ乳酸樹脂(a1)の光学異性体ポリ乳酸とポリカーボネートとの共重合体である、請求項1に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸樹脂(a1)はL−乳酸からなり、かつ前記相溶化剤はD−乳酸からなるポリ乳酸樹脂とポリカーボネートとの共重合体である、または
前記ポリ乳酸樹脂(a1)はD−乳酸であり、かつ前記相溶化剤はL−乳酸からなるポリ乳酸樹脂とポリカーボネートとの共重合体である、請求項1または2に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記基礎樹脂は、(a1)ポリ乳酸樹脂及び前記(a2)ポリカーボネート樹脂を25〜80:20〜75重量%の比率で含有し、
前記相溶化剤の含量は、前記基礎樹脂100重量部に対して0.01〜30重量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリ乳酸樹脂(a1)の重量平均分子量(Mw)は90,000〜500,000であり、かつ前記ポリカーボネート樹脂(a2)の重量平均分子量(Mw)は10,000〜200,000である、請求項1に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
前記相溶化剤のD−乳酸かなるポリ乳酸樹脂(a1)の重量平均分子量(Mw)は1,000〜200,000であり、前記相溶化剤のポリカーボネート(a2)の重量平均分子量(Mw)は1,000〜100,000である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂は、線状ポリカーボネート樹脂、分枝状(branched)ポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート共重合体樹脂、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
前記環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、衝撃補強剤をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
前記衝撃補強剤の含量は、前記基礎樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部である、請求項8に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項10】
前記衝撃補強剤は、コアシェルの共重合体、鎖状の補強剤及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8または9に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項11】
前記環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物は、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、着色剤、紫外線遮断剤、充填剤、核形成剤、可塑剤、接着助剤、粘着剤及びこれらの組み合わせからなる群より選択される添加剤をさらに含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11項のいずれか1項による環境親和性ポリ乳酸樹脂組成物で製造された成形品。

【公開番号】特開2010−59423(P2010−59423A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203026(P2009−203026)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】