説明

環状オレフィン付加重合体及びその製造方法

【解決手段】下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。


(式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、jは0又は1を示す。)
【効果】本発明によれば、上記環状オレフィン官能性シロキサンを単量体とすることにより、優れた透明性、耐熱性、有機溶媒及びポリシロキサン溶媒への溶解性、保存安定性及び取扱い性を有する環状オレフィン付加重合体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン構造を含む環状オレフィン付加重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシクロオレフィンは、優れた透明性、熱安定性、強度、ガス透過性及び良好な製膜性を有することから、光学材料、ガス分離膜材料、被膜形成材料用途の機能性プラスチックとして注目されている。一方、オルガノポリシロキサンは、耐熱性、耐水性、耐薬品性に優れた機能性ポリマーとして幅広い分野で実用化されている。かかるポリシクロオレフィン構造とポリシロキサン構造を備えた樹脂は、双方の特性を併せ持つ高機能性ポリマーとなり得る。
【0003】
これまでに、優れた透明性、耐熱性を有する材料として、下記の環状オレフィン化合物の開環重合体及びその水素化物、あるいは環状オレフィン化合物の付加重合体が提案されている。
【0004】
特開昭60−26024号公報(特許文献1)、特許第3050196号公報(特許文献2)、特開平1−132625号公報(特許文献3)、特開平5−214079号公報(特許文献4)、特開昭61−292601号公報(特許文献5)、特開2006−117077号公報(特許文献6)及びMakromol. Chem. Macromol. Symp. Vol 47, 83 (1991)(非特許文献1)に記載の重合体は、環状オレフィン化合物の開環重合体及びその水素化物、あるいは環状オレフィン化合物と直鎖状オレフィン類の付加重合体であり、優れた加工性や溶解性を有する。しかしながら、そのガラス転移温度は、170℃に満たない場合が多く、耐熱性の点で不十分である場合が多い。また、開環重合体に関しては、耐熱性を向上させるために、二重結合の水素化を行わなければならないという製造上の問題がある。
【0005】
特開平4−63807号公報(特許文献7)、特開平8−198919号公報(特許文献8)、特表平9−508649号公報(特許文献9)、特許第3476466号公報(特許文献10)、特開平7−196736号公報(特許文献11)、国際公開第97/20871号パンフレット(特許文献12)、国際公開第98/20394号パンフレット(特許文献13)、特許第3801018号公報(特許文献14)及びAm. Chem. Soc. Polymer Preprints Vol 40(2), 782 (1999)(非特許文献2)に記載の重合体は、ノルボルネン系化合物の付加重合体であり、透明性と耐熱性がある。しかしながら、これらの重合体は、極性の強い有機溶媒、たとえば、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒への溶解性は示すものの、極性の弱いヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒、ヘキサメチルジシロキサン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のポリシロキサン溶媒への溶解性は乏しく、その用途が著しく限定されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−26024号公報
【特許文献2】特許第3050196号公報
【特許文献3】特開平1−132625号公報
【特許文献4】特開平5−214079号公報
【特許文献5】特開昭61−292601号公報
【特許文献6】特開2006−117077号公報
【特許文献7】特開平4−63807号公報
【特許文献8】特開平8−198919号公報
【特許文献9】特表平9−508649号公報
【特許文献10】特許第3476466号公報
【特許文献11】特開平7−196736号公報
【特許文献12】国際公開第97/20871号パンフレット
【特許文献13】国際公開第98/20394号パンフレット
【特許文献14】特許第3801018号公報
【特許文献15】国際公開第02/062859号パンフレット
【特許文献16】特開2003−252881号公報
【特許文献17】独国特許出願公開第4128932号明細書
【特許文献18】特開2007−77252号公報
【特許文献19】特開2007−70337号公報
【特許文献20】特開2007−291150号公報
【非特許文献1】Makromol. Chem. Macromol. Symp. Vol 47, 83 (1991)
【非特許文献2】Am. Chem. Soc. Polymer Preprints Vol 40(2), 782 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、環状オレフィン官能性シロキサンを単量体とし、ポリシクロオレフィン及びシロキサン双方の機能を併せ持つ環状オレフィン付加重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる少なくとも1種のシロキサンを付加重合することで得られる特定構造の環状オレフィン付加重合体が、優れた透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、保存安定性及び取扱い性を有する材料になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記に示す環状オレフィン付加重合体及びその製造方法を提供する。
〔請求項1〕
下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【化1】

(式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、jは0又は1を示す。)
〔請求項2〕
下記式(2)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【化2】

(式中、R2は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、tは2〜5の整数であり、kは0又は1を示す。)
〔請求項3〕
下記式(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【化3】

(式中、R3は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、R0はアルキレン基であり、R’は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基である。xは0又は1を示す。m1,m2,m3,m5,m6,m7は0又は1であり、m4は1以上の整数を示す。)
〔請求項4〕
請求項1,2,3にそれぞれ記載の式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる少なくとも2種を付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
〔請求項5〕
下記式(4)で表される環状オレフィン化合物と請求項1,2,3にそれぞれ記載の式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる少なくとも1種を付加重合することで得られ、上記式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンに由来する構造単位の割合が、共重合体中50モル%以上である環状オレフィン付加重合体。
【化4】

(式中、A1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子とともに脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。iは0又は1を示す。)
〔請求項6〕
薄膜、シート又はフィルム形状である請求項1乃至5のいずれか1項記載の環状オレフィン付加重合体。
〔請求項7〕
上記式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる1種又は2種以上、又は該環状オレフィン官能性シロキサンの1種又は2種以上50モル%以上と上記式(4)で表される環状オレフィン化合物50モル%以下とを、重合触媒であるニッケル、コバルト及びパラジウムから選ばれた遷移金属の化合物及び/又は該遷移金属化合物と超強酸との変性化合物と、ルイス酸性のアルミニウム化合物、ルイス酸性のホウ素化合物、イオン性アルミニウム化合物及びイオン性ホウ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を用いて付加重合することを特徴とする環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記環状オレフィン官能性シロキサンを単量体とすることにより、優れた透明性、耐熱性、有機溶媒及びポリシロキサン溶媒への溶解性、保存安定性及び取扱い性を有する環状オレフィン付加重合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の環状オレフィン付加重合体は、下記式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンの少なくとも一つを付加重合することで得られる。
【化5】

(式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、jは0又は1を示す。)
【化6】

(式中、R2は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、tは2〜5の整数であり、kは0又は1を示す。)
【化7】

(式中、R3は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、R0はアルキレン基であり、R’は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基である。xは0又は1を示す。m1,m2,m3,m5,m6,m7は0又は1であり、m4は1以上の整数を示す。)
【0012】
上記式(1)〜(3)中、R1、R2、R3は、互いに同一又は異なってよい脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ブチル基、ペンチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基等や、これらの水素原子の1個又はそれ以上がフッ素、塩素、臭素原子等のハロゲン原子と置換された基等が挙げられる。
【0013】
上記式(3)中、R0のアルキレン基としては、炭素数1〜4、特に1〜2のものが挙げられ、このアルキレン基は直鎖状又は分岐状のものが用いられる。R’の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基としては、R1、R2、R3と同様の炭素数1〜20、特に炭素数1〜10のものが挙げられる。
【0014】
式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンとしては、以下の化合物が例示できるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。ここで、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。
【0015】
【化8】

【0016】
式(2)で表される環状オレフィン官能性シロキサンとしては、以下の化合物が例示できるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。ここで、Meはメチル基を表す。
【0017】
【化9】

【0018】
式(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンとしては、特に下記式(5),(6)で示される基が好ましい。
【0019】
【化10】

【0020】
上記式(5),(6)中、m4は1以上の整数であるが、好ましくは2〜80の整数、更に好ましくは2〜60の整数である。なお、R3、R0、R’、xは上記の通りである。
【0021】
上記式(3),(5),(6)で表される環状オレフィン官能性シロキサンとしては、以下の化合物が例示できるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。ここで、Meはメチル基、Buはブチル基を表す。
【0022】
【化11】

【0023】
式(1)〜(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンは、それぞれ1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、2種以上組み合わせて用いるときは、例えば、式(1)の化合物を2種以上組み合わせて用いる場合もあるし、また、例えば式(1)と式(2)の化合物を組み合わせて用いる場合もある。
【0024】
本発明においては、式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンの少なくとも一つに、下記式(4)で表される環状オレフィンを添加して共重合化させることで、得られる本発明の環状オレフィン付加重合体の耐熱性、有機溶媒への溶解性、保存安定性及び取扱い性を、使用目的に合わせて調節することができる。
【0025】
【化12】

【0026】
式(4)中、A1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、炭素数1〜10のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリーロキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(パーフルオロブチル)エチル基、2−(パーフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基から選ばれる基、又はオキセタニル基、メトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等の好ましくはアルコキシ基の炭素数が1〜10、特に1〜6のアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とは、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。iは0又は1を示す。
【0027】
この場合、脂環構造としては炭素数4〜10のものが挙げられる。これらの構造を例示すると下記の通りである。なお、下記例において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0028】
【化13】

【0029】
式(4)で表される環状オレフィン化合物としては、以下の化合物が例示できるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロピル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−デシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸メチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸エチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸ブチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸プロピル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸トリフルオロエチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エニル酢酸エチル、アクリル酸2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル、メタクリル酸2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸ジメチル、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等を例示することができる。これらは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
式(1)〜(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンは、下記に示す方法により、製造することができる(国際公開第02/062859号パンフレット(特許文献15)、特開2003−252881号公報(特許文献16)、独国特許出願公開第4128932号明細書(特許文献17)、特開2007−77252号公報(特許文献18)、特開2007−70337号公報(特許文献19)、特開2007−291150号公報(特許文献20)参照)。
【0031】
第1の方法として、末端オレフィンを有するシロキサンとジシクロペンタジエンとのDiels−Alder反応により合成することができる。ここで、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。
【0032】
【化14】

【0033】
第2の方法として、ノルボルナジエンと相当するSiH官能性ポリシロキサンを白金触媒存在下で付加反応させて合成することができる。ここで、Meはメチル基、Buはブチル基を表す。
【0034】
【化15】

【0035】
式(4)で表される環状オレフィンを用いる場合、式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンとの仕込み比率は、得られる本発明の環状オレフィン付加重合体の物性(透明性、耐熱性、溶解性、保存安定性、取扱い性等)を考慮し、使用目的に応じて任意に調節するが、得られた共重合体中の式(1)〜(3)由来の構造は合計で50モル%以上、好ましくは70モル%以上となるように使用することが好ましい。式(4)で表される環状オレフィン由来の構造が、本発明の環状オレフィン付加重合体中に50モル%以上の場合、有機溶媒への溶解性が低下する場合がある。
【0036】
本発明の環状オレフィン付加重合体は、式(1),(2)及び(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンの少なくとも1種を、付加重合触媒存在下、目的に応じて式(4)で表される環状オレフィンに添加し、付加重合することにより製造される。付加重合触媒としては、下記の単一成分触媒(A)又は多成分系触媒(B)を用いることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(A)単一成分触媒としては、以下に示す(A−1)〜(A−3)の化合物が例示できる。
【0038】
(A−1)下記式(a)で表される化合物
[L12ML3+[A]- (a)
(式(a)のMはニッケル(Ni)、コバルト(Co)、又はパラジウム(Pd)を表す。L1、L2、L3はMの配位子を示し、そのうち一つはσ結合を有し、すべての配位子で1〜3のπ結合を有する。Aは対アニオンを示す。L1、L2、L3は炭素数が6〜12のシクロジエン、ノルボルナジエン、炭素数が10〜20のシクロトリエン、炭素数が6〜20の芳香族化合物から選ばれる。Aの対アニオンとしては、BF4-、PF6-、SbF5SO3-、AsF6-、SbF6-、CF3CO2-、C25CO2-、B[C654-、B[C63(CF324-であることが好ましい。)
式(a)で表される化合物の具体例としては、
[(η3−クロチル)Ni(シクロオクタ−1,5−ジエン)][B(C63(CF324]、
[(η3−クロチル)Ni(シクロオクタ−1,5−ジエン)][PF6]、
[(6−メトキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−エンド−5σ,2π)Pd(シクロオクタ−1,5−ジエン)][SbF6]、
[(η3−ally)Pd][BF4]、
[(シクロオクタ−1,5−ジエン)Pd(CH3)Cl][B(C63(CF324
等が挙げられる。
【0039】
(A−2)下記式(b)で表される化合物
[Pd(II)(L44][A]2 (b)
(ここで、Aは、対アニオンであり(A−1)で記載したものと同じである。L4はニトリル化合物、3級アミン化合物、トリアリールホスフィン化合物から選ばれる。)
式(b)で表される化合物の具体例としては、
[Pd(C65CN)4][BF42
[Pd(C65CN)4][SbF62
[Ph3PdCH3][B(C63(CF324
(ここで、Phはフェニル基を示す。)
等が挙げられる。
【0040】
(A−3)Ni(C652又はNi(SiCl32のアーレーン錯体
この具体例としては、トルエン・Ni(C652、キシレン・Ni(C652、トルエン・Ni(SiCl32等が挙げられる。
【0041】
(B)多成分系触媒としては、以下に示す(B−1)〜(B−3)が例示できる。
【0042】
(B−1)遷移金属化合物
遷移金属化合物として、以下に挙げる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が挙げられる。
a)ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びパラジウム(Pd)の有機カルボン酸塩、有機亜リン酸塩、有機リン酸塩、有機スルフォン酸塩、β−ジケトン化合物等から選ばれた化合物。具体的には、酢酸ニッケル、オクタン酸ニッケル、2−エチルヘキサン酸ニッケル、オレイン酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、ジブチルリン酸ニッケル、ジオクチル酸ニッケル、ドデシルベンゼンスルフォン酸ニッケル、ビス(アセチルアセテート)ニッケル、ビス(アセチルアセトナート)ニッケル、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、2−エチルヘキサン酸コバルト(III)、ドデカン酸コバルト(II)、トリス(アセチルアセトナート)コバルト(III)、酢酸パラジウム、2−エチルヘキサン酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム等が挙げられる。
b)上記のニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びパラジウム(Pd)の有機カルボン酸塩と超強酸との変性化合物。超強酸の具体例としては、六フッ化アセトン、六フッ化アンチモン酸、四フッ化ホウ素酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。
c)ニッケルジエンもしくはニッケルトリエン錯体。
具体的には、
[(η3−クロチル)Ni(シクロオクタ−1,5−ジエン)][B(C63(CF324]、
[bis(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,5−ジエン)Ni]、
[(シクロドデク−1,5,9−トリエン)Ni]
等が挙げられる。
d)ニッケルにリン(P)、窒素(N)、酸素(O)等の原子を有する配位子が配位した錯体。
具体的には、
(PPh32NiCl2、(PPh32NiBr2、(PPh32CoCl2
Bis[N−(3−tert−ブチルサリシリデン)フェニルアミナト]Ni、
Ni(OC(O)(C64)PPh2)(H)(PCy3)、
Ni(OC(O)(C64)PPh2)(H)(PPh3)、
Ni(COD)2とPh3P=CHC(O)Phの反応物
(ここで、Phはフェニル基、Cyはシクロヘキシル基、CODは1,5−シクロオクタジエンを示す。)
等が挙げられる。
【0043】
(B−2)有機アルミニウム化合物
具体的には、メチルアルモキサン、ブチルアルモキサン、トリアルキルアルミニウムが部分混合されたメチルメチルアルモキサン、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。
【0044】
(B−3)重合活性向上のために添加する化合物
具体的には、三フッ化ホウ素あるいは三フッ化アルミニウムのエーテル、アミン、フェノール等の錯体、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリ(3,5−ジ−トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム等のルイス酸性を示すホウ素化合物及びアルミニウム化合物が挙げられ、また、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)アルミナート等のイオン性ホウ素化合物及びイオン性アルミニウム化合物が挙げられる。
【0045】
これらの中でも、ニッケル、コバルト及びパラジウムから選ばれた遷移金属の化合物及び該遷移金属化合物と超強酸との変性化合物を重合触媒の一成分とし、ルイス酸性のアルミニウム化合物、ルイス酸性のホウ素化合物、イオン性アルミニウム化合物及びイオン性ホウ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を重合活性向上のために添加することが好ましい。
【0046】
これらの触媒成分は、以下の範囲の使用量で用いられる。
ニッケル化合物、コバルト化合物及びパラジウム化合物等の遷移金属化合物は、単量体1モルに対して0.01〜100ミリモル原子、有機アルミニウム化合物は遷移金属化合物1モル原子に対して1〜1,000モル、またルイス酸性のホウ素化合物及びアルミニウム化合物、あるいはイオン性のホウ素化合物及びアルミニウム化合物は、ニッケル又はコバルト1モル原子に対して0.5〜100モルである。
【0047】
本発明の環状オレフィン付加重合体は、上記単一成分触媒又は多成分系触媒を用い、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状ポリシロキサン溶媒等から選ばれる1種又は2種以上の溶媒中で重合を行うことにより得ることができる。
【0048】
溶媒の使用量は、溶媒(S)と上記環状オレフィンからなる単量体(上記式(1)〜(4)で表される化合物)(M)の質量比(S/M)が、1〜30の範囲、特に1〜20の範囲とすることが好ましい。溶媒の使用量が、上記質量比より少ないと溶液粘度が高く、取り扱い性が困難になる場合があり、上記質量比より多いと重合活性の点で劣る場合がある。
【0049】
重合方法としては、窒素又はアルゴン雰囲気下、上述した溶媒と、上記環状オレフィンからなる単量体と、上記付加重合触媒とを反応容器中に仕込み、−20℃〜100℃の範囲の温度で重合する。
重合反応は、−20℃〜100℃、特に0〜80℃の温度範囲で行うことが好ましい。反応温度が低すぎると重合活性の点で劣る場合があり、高すぎるとゲル化を引き起こしたり、分子量の調節が困難になる場合がある。
【0050】
また、必要に応じて、分子量調節剤を重合系中に添加してもよい。分子量調節剤としては、水素、エチレン,ブテン,ヘキセン等のα−オレフィン、スチレン,3−メチルスチレン,ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、トリス(トリメチルメトキシ)ビニルシラン,ジビニルジヒドロシラン,ビニルシクロテトラシロキサン等のビニル珪素化合物が挙げられる。
【0051】
なお、上述した溶媒と単量体の比率、重合温度、重合時間、分子量調節剤の量は、用いる触媒、単量体構造等に著しく影響を受けるため、一概に限定することが難しい。目的に応じて使い分ける必要がある。
【0052】
重合触媒の量と分子量調節剤の添加量、単量体から重合体への転化率、あるいは重合温度によって、重合体の分子量が調節される。
【0053】
重合の停止は、水、アルコール、ケトン、有機酸等から選ばれた化合物によって行われる。重合体溶液に、乳酸、リンゴ酸、シュウ酸等の酸の水とアルコール混合物を添加することで、触媒残渣を重合体溶液から分離・除去することができる。また、触媒残渣の除去には、活性炭、珪藻土、アルミナ、シリカ等を用いての吸着除去や、フィルター等によるろ過分離除去等が適用できる。
【0054】
重合体は、重合体溶液をメタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類中に入れて、凝固し、減圧乾燥することにより得ることができる。この工程で、重合体溶液中に残存する触媒残渣や未反応モノマーも除去される。
【0055】
このようにして得られた本発明の環状オレフィン付加重合体は、式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを単量体として付加重合することにより形成される下記式(7),(8),(9)で示される繰り返し単位のいずれか1種あるいは2種以上を含む。
【0056】
【化16】

(式中、R1、s及びjは式(1)と同じ。)
【0057】
【化17】

(式中、R2、t及びkは式(2)と同じ。)
【0058】
【化18】

(式中、R3、R0、R'、m1〜m7は式(3)と同じ。)
【0059】
また、本発明の環状オレフィン付加重合体は、式(4)で表される環状オレフィンを単量体として付加重合することにより形成される下記式(10)で示される繰り返し単位を含んでもよい。
【0060】
【化19】

(式中、A1〜A4、iは式(4)と同じ。)
【0061】
ここで、式(7)〜(10)で示される繰り返し単位は、2,3付加構造単位を示すものであるが、式(1)〜(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサン及び式(4)で表される環状オレフィン化合物を単量体として付加重合することによる2,7付加構造単位となっているものが含まれていてもよい。
【0062】
本発明の環状オレフィン官能性シロキサン付加重合体中において、式(10)で表される構造単位を含む場合、その合計の割合は、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下である。式(10)で表される構造単位の合計の割合が、50モル%を超えると、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒、ヘキサメチルジシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のポリシロキサン溶媒への溶解性が低下する場合がある。また、式(10)で表される構造単位は、環状オレフィン官能性シロキサン付加重合体中にランダムに存在してもよく、またブロック状に偏在してもよい。
【0063】
本発明の環状オレフィン付加重合体の分子量は、トルエンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜1,000,000、好ましくは30,000〜500,000であり、重量平均分子量(Mw)が20,000〜2,000,000、好ましくは40,000〜1,600,000である。数平均分子量が10,000未満、あるいは重量平均分子量が20,000未満では、薄膜、フィルム及びシートとした際、脆く割れやすくなることがある。一方、数平均分子量が1,000,000を超え、あるいは重量平均分子量が2,000,000を超えると、成形加工性が低下したり、溶液粘度が高くなり、取扱い性が低下する場合がある。
【0064】
本発明においては、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、2.0〜5.0の範囲である比較的分子量分布の狭い環状オレフィン付加重合体が容易に得られる。このため、コーティング被膜、フィルムあるいはシート等の薄膜にしたとき、割れや脆さの点で優れたものとなる。
【0065】
本発明の環状オレフィン付加重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量分析計(DSC)を用いて測定される。こうして評価される本発明の環状オレフィン付加重合体のガラス転移温度は、とくに制限されないが、あまり低すぎる場合、本発明の環状オレフィン付加重合体を含む成形体の加工時あるいは使用時に、熱変形等の問題が生じる可能性がある。また、ガラス転移温度が高すぎる場合、熱加工を行う際に、加工温度が高すぎて、本発明の環状オレフィン付加重合体を含む成形体が熱劣化する可能性がある。故に、本発明の環状オレフィン付加重合体のガラス転移温度は、170〜350℃の範囲で目的に応じて調節するのがよい。
【0066】
本発明の環状オレフィン付加重合体は、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR,29Si−NMR)を用いて、その構造を確認することができる。例えば、1H−NMR(重クロロホルム中)においては、7.8〜6.5ppmの−Si−C65、−O−Si(C65)−O−のC65による吸収、0.6〜3.0ppmの脂環式炭化水素に由来する吸収、0.0〜0.6ppmの−Si−CH2−、−Si−CH3、−O−Si−CH3の吸収、−0.1〜0.0ppmの−O−Si(CH3)−O−の吸収、また29Si−NMR(重ベンゼン中)においては、下記式(11)に記載のM単位(R4:メチル基、10.0〜5.0ppm)に由来する吸収、D単位(R4:メチル基、−15.0〜−25.0ppm、R4:フェニル基、−35.0〜−55.0ppm)に由来する吸収、T単位(R4:アルキル基、−65.0〜−70.0)に由来する吸収とその積分比から構造を確認することができる。
【0067】
【化20】

(式中、R4は、式(1)中のR1、式(2)中のR2及び式(3)中のR3と同じ。)
【0068】
本発明の環状オレフィン官能性シロキサン付加重合体は、薄膜、シートあるいはフィルム形状として用いることが好ましい。薄膜、シートあるいはフィルム厚さとしては、特に制限されないが、通常100nm〜3mmの範囲で目的に応じて調整される。薄膜、シートあるいはフィルム形状とする方法は、特に限定されることなく、任意の方法で成形することができるが、熱履歴による重合体の劣化を抑制できる点で、本発明の重合体を溶媒に溶解させて支持体に塗工し、しかる後に溶媒を乾燥させる溶液流延法(キャスト法)や、本発明の重合体溶液を水面に滴下後、支持体等で掬い取る水面展開薄膜法により成形するのが好ましい。
【0069】
溶液流延法や水面展開薄膜法に用いられる溶媒は、本発明の付加重合体を溶解させる溶媒である必要がある。本発明にかかる付加重合体の多くは、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒、ヘキサメチルジシロキサン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のポリシロキサン溶媒に溶解し、これらの溶媒を1種単独あるいは2種以上の混合溶媒として使用することができる。本発明の環状オレフィン付加重合体は、上記いずれの溶媒にも優れた溶解性を示すが、膜厚や塗工条件によっては、乾燥時に残留溶媒が除去できない場合がある。このため、比較的沸点の低い、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等を主成分とした溶媒が好ましい。また、人体への影響や環境への負荷を考慮した場合は、安全性の高いポリシロキサン溶媒、例えば、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、デカメチルシクロペンタシロキサン等を主成分とした溶媒が好ましい。
【0070】
なお、上記本発明の環状オレフィン付加重合体を含む溶液には、公知の酸化防止剤を配合して、酸化安定性を向上させることができる。
【0071】
酸化防止剤としては、
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、
4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、
1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、
ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系あるいはヒドロキノン系、
トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、
トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、
ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系、更にはチオエーテル系、ラクトン系化合物等が挙げられる。これらの化合物の中でも、その分解温度(5%の質量減少温度)が250℃以上のものが好ましい。また、これら酸化防止剤の配合量は、本発明の環状オレフィン付加重合体100質量部に対し、0.05〜5.0質量部の範囲である。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0073】
分子量、全光線透過率、屈折率、ガラス転移温度、有機溶媒への溶解性は下記の方法で評価した。
(1)分子量(重量平均分子量、数平均分子量):
東ソー(株)製(HLC−8220GPC)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置を用い、トルエンを溶媒として、40℃で測定した。得られた分子量は、標準ポリスチレン換算値である。
(2)全光線透過率:
(株)日立ハイテクノロジーズ製(U−3310)スペクトロフォトメーター装置を用い、所定の厚さ(100μm)のフィルム及びプレートにて、全光線透過率を測定した。
(3)屈折率:
アタゴ(株)製(DR−M2/1550)多波長アッベ屈折計を用い、25℃におけるD線(589nm)の屈折率n25Dを測定した。
(4)ガラス転移温度:
メトラー社製DSC(DSC820)装置を用い、室温から10℃/minで昇温して測定した。
(5)有機溶媒への溶解性:
溶媒として、トルエン、キシレン、デカン、シクロへキサン、ヘキサン、ジクロロメタン、ヘキサメチルジシロキサン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、デカメチルシクロペンタシロキサンを用い、10質量%溶液になるように調製し評価した。
【0074】
[実施例1]
単量体として、下記に示す化合物Aを500ミリモル、溶媒としてトルエン522gを1Lの反応容器に窒素雰囲気下で仕込んだ。そこに、ビス(アセチルアセテート)ニッケルを0.50ミリモル、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボランを2.50ミリモル仕込み、重合を行った。50℃で24時間重合を行い、メタノールで重合を停止した。
得られた重合体溶液を3Lのメタノールに入れ、重合体を凝固し、未反応単量体と触媒残渣を除去した。凝固した重合体を乾燥し、重合体P(1)を得た。
【化21】

図1に重合体P(1)の1H−NMRのチャートを示す。
また、重合体P(1)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は29,100、重量平均分子量(Mw)は61,100で、Mw/Mnは2.1であった。重合反応の結果を表1に、重合体の有機溶媒への溶解性を表2に示す。
重合体P(1)をトルエンに溶解し、10質量%の重合体溶液を調製した。この溶液をキャストして、厚さ100μmのフィルムF(1)を作製した。このフィルムの各種物性評価結果を表3に示す。
【0075】
[実施例2]
単量体として、下記に示す化合物Bを250ミリモル用いた以外は、実施例1と同様に行い、重合体P(2)を得た。
【化22】

図2に重合体P(2)の1H−NMRのチャートを示す。
また、重合体P(2)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は29,000、重量平均分子量(Mw)は78,300で、Mw/Mnは2.7であった。重合反応の結果を表1に、重合体の有機溶媒への溶解性を表2に示す。
重合体P(2)をトルエンに溶解し、10質量%の重合体溶液を調製した。この溶液をキャストして、厚さ100μmのフィルムF(2)を作製した。このフィルムの各種物性評価結果を表3に示す。
【0076】
[実施例3]
単量体として、下記に示す化合物Cを500ミリモル用いた以外は、実施例1と同様に行い、重合体P(3)を得た。
【化23】

図3に重合体P(3)の1H−NMRのチャートを示す。
また、重合体P(3)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は41,800、重量平均分子量(Mw)は83,600で、Mw/Mnは2.0であった。重合反応の結果を表1に、重合体の有機溶媒への溶解性を表2に示す。
重合体P(3)をトルエンに溶解し、10質量%の重合体溶液を調製した。この溶液をキャストして、厚さ100μmのフィルムF(3)を作製した。このフィルムの各種物性評価結果を表3に示す。
【0077】
[比較例1]
単量体として、化合物Cを300ミリモル、下記に示す化合物Dを200ミリモル、溶媒としてトルエン522gを1Lの反応容器に窒素雰囲気下で仕込んだ。そこに、ビス(アセチルアセテート)ニッケルを0.50ミリモル、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボランを2.50ミリモル仕込み、重合を行った。25℃で5時間重合を行い、メタノールで重合を停止した。
得られた共重合体溶液を3Lのメタノールに入れ、共重合体を凝固し、未反応単量体と触媒残渣を除去した。凝固した共重合体を乾燥し、共重合体P(4)を得た。
【化24】

共重合体中の化合物Dに由来する構造体の含有量は61.2モル%であった。測定は、1H−NMR測定により行った。
また、共重合体P(4)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は99,000、重量平均分子量(Mw)は198,000で、Mw/Mnは2.0であった。重合反応の結果を表1に、共重合体の有機溶媒への溶解性を表2に示す。
共重合体P(4)をトルエンに溶解し、10質量%の共重合体溶液を調製した。この溶液をキャストして、厚さ100μmのフィルムF(4)を作製した。このフィルムの各種物性評価結果を表3に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】


評価)○:溶解,△:わずかに溶解,×:ほとんど溶解しない。
ポリシロキサン溶媒)D5:デカメチルシクロペンタシロキサン,M3T:メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン,M2:ヘキサメチルジシロキサン。
【0080】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の環状オレフィン官能性シロキサン付加重合体を含む材料は、優れた光学透明性、耐熱性を有するので、導光板、偏光フィルム、表面保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、光ディスク、光ファイバー、レンズ、LED素子等の光学部品、電子部品、封止剤等に有用である。更に、本発明の環状オレフィン官能性シロキサン付加重合体は、優れた有機溶媒及びポリシロキサン溶媒への溶解性と製膜性も有する。よって、酸素富化膜、コンタクトレンズ、化粧品用被膜形成材等への応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1で得られた重合体P(1)の1H−NMRチャートである。
【図2】実施例2で得られた重合体P(2)の1H−NMRチャートである。
【図3】実施例3で得られた重合体P(3)の1H−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【化1】

(式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、jは0又は1を示す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【化2】

(式中、R2は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、tは2〜5の整数であり、kは0又は1を示す。)
【請求項3】
下記式(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【化3】

(式中、R3は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、R0はアルキレン基であり、R’は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基である。xは0又は1を示す。m1,m2,m3,m5,m6,m7は0又は1であり、m4は1以上の整数を示す。)
【請求項4】
請求項1,2,3にそれぞれ記載の式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる少なくとも2種を付加重合することで得られる環状オレフィン付加重合体。
【請求項5】
下記式(4)で表される環状オレフィン化合物と請求項1,2,3にそれぞれ記載の式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる少なくとも1種を付加重合することで得られ、上記式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンに由来する構造単位の割合が、共重合体中50モル%以上である環状オレフィン付加重合体。
【化4】

(式中、A1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子とともに脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。iは0又は1を示す。)
【請求項6】
薄膜、シート又はフィルム形状である請求項1乃至5のいずれか1項記載の環状オレフィン付加重合体。
【請求項7】
下記式(1),(2),(3)で表される環状オレフィン官能性シロキサンから選ばれる1種又は2種以上、又は該環状オレフィン官能性シロキサンの1種又は2種以上50モル%以上と下記式(4)で表される環状オレフィン化合物50モル%以下とを、重合触媒であるニッケル、コバルト及びパラジウムから選ばれた遷移金属の化合物及び/又は該遷移金属化合物と超強酸との変性化合物と、ルイス酸性のアルミニウム化合物、ルイス酸性のホウ素化合物、イオン性アルミニウム化合物及びイオン性ホウ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を用いて付加重合することを特徴とする環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【化5】

(式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、jは0又は1を示す。)
【化6】

(式中、R2は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、tは2〜5の整数であり、kは0又は1を示す。)
【化7】

(式中、R3は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、R0はアルキレン基であり、R’は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基である。xは0又は1を示す。m1,m2,m3,m5,m6,m7は0又は1であり、m4は1以上の整数を示す。)
【化8】

(式中、A1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子とともに脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。iは0又は1を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249610(P2009−249610A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103229(P2008−103229)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】