説明

環状オレフィン系重合体、それを用いた光学材料、偏光板および液晶表示装置

【課題】冷却流延製膜法に適用可能な環状オレフィン系重合体を提供すること。
【解決手段】少なくとも、下記一般式(1A)で表される繰り返し単位と下記一般式(1B)で表される繰り返し単位とを含む環状オレフィン系重合体であって、共重合比率x、yが、0.03≦y/(x+y)≦0.50であり、数平均分子量が7万〜30万かつ重量平均分子量が20万〜70万である環状オレフィン重合体。


(AはCOORまたはOCORを表し、Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却流延製膜法に適用可能な環状オレフィン系重合体、それを用いた光学材料、偏光板および液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のフィルムとして、セルロースアシレート系フィルムと環状オレフィン系重合体フィルムが主に用いられている。これらのフィルムのコストは、素材自体のコストのみならず、フィルム製造(製膜)方法の生産性に依存する。
【0003】
セルロースアシレートフィルムを製膜する方法は、冷却流延製膜法が一般的となっている(特許文献1)。この方法はセルロースアシレートの高濃度溶液を流延し、ほとんど乾燥せずに直ちに冷却することによってフィルムに自己支持性をもたせ、ダイから剥離して乾燥する方法である。この方法では、乾燥の初期から両面乾燥を行うため、フィルムの乾燥が極めてはやい。従って毎分百数十mという高速製膜ができる。すなわちフィルムの生産性にすぐれている。
【0004】
一方、環状オレフィン系重合体、特に炭化水素のみからなる環状オレフィン系重合体を製膜する代表的方法として、溶融製膜法があげられる(特許文献2)。この手法は、製膜速度が毎分十数m程度と低く、上記の高速製膜に比べ生産性がきわめて劣る。極性基を含有する環状オレフィン系重合体において、溶液製膜する手法も見られるが、上記のような高速製膜可能な製膜方法に関する記述はみられない(特許文献3,4)。
【特許文献1】特開2004−98512号公報
【特許文献2】特許第3846567号公報
【特許文献3】特開2001−354755号公報
【特許文献4】国際公開第04/049011号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷却流延製膜法の適用条件は、ポリマー溶液(ドープ)が冷却されたときにゲル化(固化)することとされている。この冷却ゲル化能は、特定のポリマーのみに見られる性質であるため、冷却流延製膜法への適用例はあまり知られていない。特に環状オレフィン系重合体への適用例は皆無である。特許文献3,4に見られるような一般的な環状オレフィン系重合体には冷却ゲル化能はなく、したがって高速製膜は困難である。
本発明の目的は、冷却流延製膜法に適用可能な環状オレフィン系重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、環状オレフィン系重合体に冷却ゲル化能を発現させるべく取り組んだ。まず、十分に高い分子量を有するポリマー間でネットワークを形成させるように水酸基を導入した環状オレフィン系重合体に注目した。その中でも、重合体にエステル基またはアシル基と水酸基とをある比率で適当に共存させることで環状オレフィン系重合体も冷却ゲル化能を発現できることを見出した。即ち、下記手段により、上記課題は解決された。
【0007】
[1]
少なくとも、下記一般式(1A)で表される繰り返し単位と下記一般式(1B)で表される繰り返し単位とを含む環状オレフィン系重合体であって、共重合比率x、yが、0.03≦y/(x+y)≦0.50であり、数平均分子量が7万〜30万かつ重量平均分子量が20万〜70万である環状オレフィン重合体。
【0008】
【化1】

【0009】
(一般式(1A)および一般式(1B)中、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。L、Lはそれぞれ独立に単結合、または2価の連結基を表す。m、pはそれぞれ独立に0または1の整数、n、qはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。一般式(1A)中、AはCOORまたはOCORを表し、Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す。)
[2]
前記AがOCOR(Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す)である[1]記載の環状環状オレフィン系重合体。
[3]
さらに下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む[1]または[2]に記載の環状オレフィン系重合体。
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(2)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアシル基、カルボキシル基のいずれかを表す。rは0または1の整数を表す。)
[4]
前記一般式(1A)中のnと前記一般式(1B)中のqがともに1であって、置換基L−AおよびL−OHの合計のエンド比率が50〜100%である[2]または[3]に記載の環状オレフィン系重合体。
[5]
[1]〜[4]のいずれかに記載の環状オレフィン系重合体を用いてなる光学材料。
[6]
前記光学材料が、薄膜、フィルムまたはシート形状である[5]に記載の光学材料。
[7]
ReとRthが下記の範囲であることを特徴とする[6]に記載の光学材料。
(1) 0≦Re≦100nm
(2) 0≦Rth≦400nm
(式中、Re,Rthは、波長590nmにおける面内のレターデーション(Re)および厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
[8]
偏光子と、その両側に配置された2枚の保護フィルムからなる偏光板において、前記保護フィルムのうちの少なくとも1枚が、[7]に記載の光学材料である偏光板。
[9]
[8]に記載の偏光板を少なくとも1枚使用した液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の環状オレフィン系重合体は、分子量を十分に高くし、エステル基またはアシル基と水酸基とを特定の比率で共存させることで、冷却ゲル化能を発現でき、冷却流延製膜法に適用可能であり、生産性が極めて良好となる。また、本発明の環状オレフィン系重合体からなる光学材料を保護フィルムとして用いた偏光板は、偏光子との密着性に優れ、加工時の接着が良好である。さらに該偏光板を用いた液晶表示装置は、優れた画像を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
[重合体の構造]
(構造)
本発明の重合体は、下記一般式(1A)で表される繰り返し単位と下記一般式(1B)で表される繰り返し単位とを含む環状オレフィン系重合体であって、数平均分子量が7万〜20万かつ重量平均分子量が20万〜70万であって、下記一般式(1A)で表される繰り返し単位と下記一般式(1B)で表される繰り返し単位との共重合比率x、yが、0.03≦y/(x+y)≦0.50を満たす。
【0014】
【化3】

【0015】
(一般式(1A)および一般式(1B)中、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。AはCOORまたはOCORを表し、Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す。L、Lはそれぞれ独立に単結合、または2価の連結基を表す。m、pはそれぞれ独立に0または1の整数、n、qはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。)
【0016】
本発明の重合体を適当な溶剤に溶かしたとき、OH基を有するために、重合体同士が水素結合を形成し、ゲルを形成することができる。一方、重合体の他の側鎖Aがエステルまたはアシル基でないと、ドープが透明にならず、透明なフィルムが得られない。これらの条件を同時に満たすには、上記のy/(x+y)の範囲を満たすことが必要となる。
【0017】
下記一般式(1A)で表される繰り返し単位についてさらに説明する。
【0018】
【化4】

【0019】
一般式(1A)で表される繰返し単位は、下記一般式(3)で表される環状オレフィンの付加重合により形成することができる。
【0020】
【化5】

【0021】
一般式(3)中のR、L、A、m及びnはそれぞれ前記一般式(1A)に示すものと同じ意味である。
【0022】
は水素原子または置換基を表し、置換基の好ましい例としては後述の一般式(4)で述べる置換基Rの例で挙げるものを適用できる。
AはCOORもしくはOCORを示し、Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、さらに好ましくは1〜4の直鎖アルキル基であり、もっとも好ましくはメチル基、エチル基、またはブチル基である。Rが分岐状であると、加水分解を受けてフイルムの劣化が生じやすいことから、フィルム用素材として好ましくない。L、m及びnの好ましい範囲は、それぞれ、後述の一般式(4)のL2、p及びqの好ましい範囲と同様である。
【0023】
一般式(1A)におけるAはOCORで表されることが好ましい。すなわち一般式(1A)は、下記一般式(1C)で表されることが好ましい。一般式(1A)および一般式(1B)の各繰り返し単位を含む環状オレフィン系重合体は、下記一般式(1C)で表される繰返し単位を含む環状オレフィン系重合体を加水分解または加溶媒分解することによっても得ることができる。
【0024】
【化6】

【0025】
一般式(1C)で表される繰返し単位は下記一般式(5)で表される環状オレフィンの付加重合により形成することができる。
【0026】
【化7】

【0027】
一般式(5)中のR、L、R、m及びnはそれぞれ前記一般式(1A)に示すものと同じ意味である。
【0028】
は水素原子または置換基を表し、置換基の好ましい例としては後述の一般式(4)で述べる置換基R3の例で挙げるものを適用できる。
は炭素数1〜10の直鎖アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、さらに好ましくは1〜4の直鎖アルキル基であり、もっとも好ましくはメチル基、エチル基、またはブチル基である。
、m及びnの好ましい範囲は、それぞれ、後述の一般式(4)のL2、p及びqの好ましい範囲と同様である。
【0029】
一般式(1B)で表される繰り返し単位についてさらに説明する。
【0030】
【化8】

【0031】
一般式(1B)中、R、L、p、q、およびyはそれぞれ前記一般式(1)に示すものと同じ意味である。
【0032】
前記一般式(1B)で表される繰り返し単位は、下記一般式(4)で表される環状オレフィンの付加重合により形成することができる。
【0033】
【化9】

【0034】
一般式(4)中、R、L、p、qはそれぞれ前記一般式(1B)に示すものと同じ意味である。
【0035】
3は水素原子または置換基を表すが、置換基として好ましくはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1から30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3から30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5から30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、
【0036】
アルケニル基(好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3から30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル、プロパルギル)、アリール基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p−トリル、ナフチル)、ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3から30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3から20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)、
【0037】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ、例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールチオ、例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)、
【0038】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6から30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6から30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2から30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル、ピバロイルベンゾイル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイル、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3から30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)、シリル基(好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)を表わす。
【0039】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていても良い。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル、アセチルアミノスルホニル、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0040】
また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0041】
3としてさらに好ましくはハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、シアノ基、炭素数2〜10のアシルオキシ基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、または水素原子である。
【0042】
2は単結合または2価の連結基を表す。ただし、L2とOHの結合によりアルコールが形成される。2価の連結基として好ましくは、置換されていてもよいアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基およびこれらの2価基を2つ以上組み合わせて得られる基であり、2つ以上の組み合わせにより構成される際、さらに他の2価の連結基で連結されていても良い。このような2価の連結基としては、例えば、−NR9−(R9は水素原子、置換基を有していても良いアルキル基またはアリール基を表す)で表される基、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−SONR9−、−NR9SO−、−CONR9−、−NR9CO−、−COO−、および−OCO−が挙げられる。ここで、置換基としては前述のR3における置換基の例が適用できる。
【0043】
2はさらに好ましくは単結合もしくは炭素と水素と酸素からなる基、最も好ましくは単結合、または炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6の置換されていても良いアルキレン基、または−COOC−である。
【0044】
pは0または1の整数であり、さらに好ましくは0である。qは1〜4の整数であり、さらに好ましくは1〜2である。R3、L2は互に結合して5〜7員の環を形成していても良いが5〜6員の環であることがより好ましい。また、炭素環であっても複素環であってもよいが炭素環が好ましい。
【0045】
このような一般式(4)で表される環状オレフィンの具体例を以下に示すが本発明はこれらに限定されない。
【0046】
【化10】

【0047】
【化11】

【0048】
【化12】

【0049】
【化13】

【0050】
前記一般式(4)で表される環状オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組合わせて用いることができる。
【0051】
前記一般式(1B)におけるR、L、p、qについては、以上の一般式(4)のR、L、p、qと同様である。
【0052】
本発明の環状オレフィン系重合体は、前記一般式(1A)および一般式(1B)に示した各繰り返し単位のみからなってもよいが、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有することもできる。前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む場合は、重合体中、1〜50モル%の割合が望ましい。
【0053】
前記一般式(2)に示す繰り返し単位は、下記一般式(6)に示す特定の環状オレフィンにより導入することができる。
【0054】
【化14】

【0055】
一般式(6)中、R、R、R、Rおよびrは、それぞれ前記一般式(2)に示すものと同じ意味である。
【0056】
、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアシル基、カルボキシル基のいずれかを表す。また、可能な場合には互いに連結して5〜7員環を形成してもよいが、5または6員の環であることがより好ましい。また、炭素環であっても複素環であってもよい。rは0または1の整数を表すがより好ましくは0である。
【0057】
このような一般式(6)で表される環状オレフィンの具体例を以下に示すが本発明はこれらに限定されない。
【0058】
【化15】

【0059】
【化16】

【0060】
【化17】

【0061】
【化18】

【0062】
前記一般式(6)で表される環状オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明で使用する環状オレフィンは文献既知の方法を参考に合成することができる。例えば、Bull.Chem.Soc.Jpn.,48,3641−3644(1975)に記載の方法、およびJ.Chem.Soc.Perkin Trans.,2,17−22(1974)に記載の方法などが挙げられるが本発明の環状オレフィンはこれらの方法に限定されない。
【0063】
本発明の一般式(1A)で表される繰り返し単位および一般式(1B)で表される繰り返し単位を有する環状オレフィン系重合体は、一般式(5)で表されるモノマーを重合させたのちに重合体を加水分解または加溶媒分解することにより得ることもできる。環状オレフィン系重合体中に一般式(2)に示す繰り返し単位を導入する場合には、一般式(5)で表されるモノマーと一般式(6)で表されるモノマーを共重合させたのちに、共重合体を加水分解または加溶媒分解することにより得ることもできる。一般に、水酸基を有するノルボルネン系のモノマーを重合する場合、収率が低く、分子量が上がらない等の問題が生じることから、この加水分解または加溶媒分解する手法をとることが好ましい。
【0064】
上記の加水分解、加溶媒分解は、例えばT.W.GREENE,R.G.M.WUTS著“PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS SECOND EDITION”(JOHN WILEY & SONS, Inc.刊、1991年刊)87頁から113頁に記載の、酸触媒加水分解、塩基触媒加水分解、アルコリシス、アミノリシスなど公知の方法を適用できる。塩基触媒加水分解の手法では、例えば重合体を親水的な溶媒(例えばテトラヒドロフランなど)に溶解し、塩基性水溶液(水酸化ナトリウム水溶液など)を添加し、加熱攪拌する。これによりアシル基を部分的に水酸基に変換することができる。なお、水酸基の変換率は、反応時間、塩基量、水量などで適宜調整できる。一方、重合体を可溶な溶媒とアルコールに溶解し、触媒を添加することで、加溶媒分解する手法が簡便である。例えば、メチレンクロライドとメタノールの混合溶媒に環状オレフィン重合体を溶解し、ナトリウムメトキシドのような金属アルコキシドを触媒に用いて、反応させる。適当な時間を経て、酢酸等のクエンチ剤を添加することで、反応を停止させることができる。これによりアシル基を部分的に水酸基に変換することができる。なお、水酸基の変換率は、反応時間、アルコール量、触媒量などで適宜調整できる。
【0065】
本発明の重合体は、以下の方法で得ることもできる。
[Pd(CHCN)][BF、ジ−μ−クロロ−ビス−(6−メトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−エンド−5σ,2π)−Pd(以下、「I」と略す)とメチルアルモキサン(MAO)、IとAgBF、IとAgSbF、[(η−アリル)PdCl]とAgSbF、[(η−アリル)PdCl]とAgBF、[(η−クロチル)Pd(シクロオクタジエン)][PF]、[(η−クロチル)Ni(シクロオクタジエン)][B((CF]、[NiBr(NPMe)]とMAO、Ni(オクトエート)とMAO、Ni(オクトエート)とB(CとAlEt、Ni(オクトエート)と[phC][B(C]とAli−Bu、Co(ネオデカノエート)とMAO等の周期律表8族のNi、Pd.Co等のカチオン錯体またはカチオン錯体を形成する触媒を用いて、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールジメチルエーテル、ニトロメタン等の極性溶媒から選ばれた溶媒中で−20〜100℃の範囲で特定の環状オレフィン化合物を(共)重合することにより得ることができる。
また、マクロモレキュールス(Macromolecules)、1996年、29巻、2755ページ、マクロモレキュールス(Macromolecules)、2002年、35巻、8969ページ、国際特許公開WO2004/7564号に記載の方法も好適に用いられる。
【0066】
本発明において、一般式(1A)と一般式(1B)との比率(モル比率)であるxとyは、0.03≦y/(x+y)≦0.50の関係式を満たす。y/(x+y)<0.03である、すなわちOH量が少ないと冷却ゲル化能(剥ぎ取り性)が低くなる。一方、y/(x+y)>0.5である、すなわちOH量が多いと溶媒に溶解しない。両者の性質を好適にするには、0.03≦y/(x+y)≦0.50を満たすことが必要となり、好ましくは0.05≦y/(x+y)≦0.50であり、さらに好ましくは0.05≦y/(x+y)≦0.40であり、最も好ましくは0.10≦y/(x+y)≦0.40である。この範囲にx、yを設定するには、公知の加水分解または加溶媒分解の手法で、その程度を適宜調整することで可能である。
【0067】
y/(x+y)、すなわちOH基の比率は、IRなどの分光学的な手法で測定できる。また、重合体のOHを過剰の塩基とベンゾイルクロライドでベンゾイル化し、そのHNMRを測定して、ベンゾイル部位と他の部位との積分比より算出することもできる。これはもとのOHの割合に相当することから、もとのポリマーのOH含有率すなわちyを算出できる。
【0068】
一般式(1A)および一般式(1B)において、n=q=1でA=OCORの場合、OCORとOHを有する側鎖の立体化学、すなわちエンド/エキソ比率は、冷却ゲル化能(剥ぎ取り性)に影響を与える。剥ぎ取り性をさらに好適にするためには、合計のエンド比率は50〜100%が好ましく、50〜90%がさらに好ましく、60〜90%が最も好ましい。この範囲にエンド/エキソ比率を設定するには、重合前のモノマーのエンド/エキソ比率を適当な値に設定する、または重合の条件や収率を調整することで可能である。
【0069】
なお、ここでいうエンド/エキソは、下記で示すように、ノルボルネン環の橋頭位とそれに結合した置換基Aが同じ方向にあるものをエキソ体、反対方向にあるものをエンド体という。このエンド/エキソの比率は、A−炭素結合が切断されない限り、変化しない。
【0070】
【化19】

【0071】
重合体中のエンド/エキソの比率は、13CNMRなど分光学的に求めることもできるが、以下のようにして正確に算出することもできる。エンド/エキソ=x/(100−x)の原料モノマーを重合し、重合体をw%の収率で得るときに発生する残存モノマーのエンド/エキソ=y/(100−y)とする。なお、重合反応において、エンド体とエキソ体の反応速度は異なることが知られていることから(マクロモレキュラーケミストリー1992年193巻2915ページ、オルガノメタリックス2004年23巻1680ページなど)、x/(100−x)とy/(100−y)の比率は同じであるとは限らない。
【0072】
【化20】

【0073】
このとき、エンド体のみに注目すると、以下の物質収支の関係式が成り立つ。
x=z×w/100+y×(100−w)/100
原料モノマーと残存モノマーのエンド/エキソの比率、すなわちx/(100−x)とy/(100−y)は、NMRやガスクロマトグラフィー等で正確に測定できる。収率wも求めることができる。これらの値を代入することで、重合体中のエンド/エキソ=z/(100−z)がもとまる。
【0074】
本発明の環状オレフィン系重合体は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエションクロマトグラムで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が70,000〜300,000で、好ましくは70,000〜250,000である。また、ポリスチレン換算の重量平均分子量は200,000〜700,000で好ましくは200,000〜500,000である。ポリスチレン換算の数平均分子量が70,000未満、重量平均分子量が200,000未満であると、フィルム作製時の剥ぎ取り性が不十分で、破壊強度が不十分となることがあり、ポリスチレン換算の数平均分子量が300,000を超え、重量平均分子量が700,000を超えると、シートとしての成形加工性が低下し、またキャストフィルム等とするときに溶液粘度が高くなり、扱い難くなることがある。
【0075】
本発明の環状オレフィン系重合体の好ましいガラス転移温度は、走査型示差熱量計(DSC)の測定において100〜400℃、好ましくは、150〜380℃、さらに好ましくは200〜350℃であり、100℃未満であると、光学材料として使用するときに熱変形を生じ易くなる。また、400℃を超えると、熱による成形加工を行う場合、重合体が熱分解することがある。
【0076】
本発明の環状オレフィン系重合体の好ましい引張弾性率は、好ましくは1200MPa以上、さらに好ましくは1500MPa以上である。引張弾性率が低い場合はフィルムの自己支持性が不足し、偏光板などの光学材料としての取り扱いが難しくなることがある。
【0077】
本発明の環状オレフィン系重合体は、過酸化物、イオウ、ジスルフィド、ポリスルフィド化合物、ジオキシム化合物、テトラスルフィド等を含むシランカップリング剤等の架橋剤を、本発明の重合体100重量部に対して0.05〜5重量部を添加し、熱等により架橋体に変換することもできるし、直接、光、電子線により架橋体に変換することもできる。
【0078】
[重合体の物性]
(冷却ゲル化能の判別)
本発明の環状オレフィン系重合体は冷却ゲル化能を有する。冷却ゲル化能を有する重合体を判別するには、レオメーター等で粘弾性を測定することでできる。これは重合体のドープを冷却し、ある温度で急激な粘度の上昇がみられる温度を有することである。しかし、本発明の目的は、高速製膜可能な重合体を判別することであるから、実際に冷却流延製膜を検討して判定することが好ましい。小スケールで簡易的にテストすることもできる。実際に冷却された金属板で重合体のドープを少量スケールで流延製膜し、剥ぎ取り性を確認することができる。例えば、重合体をメチレンクロライド/メタノール/ブタノール/水などの混合溶媒に溶解させ、得られたドープを0℃〜−40℃で設定されたSUS板上でアプリケーターを用いて、流延製膜を行う。このフィルムの剥ぎ取りを行い、SUS板上に剥ぎ残りがなければ、高速製膜可能と判断できる。
【0079】
[重合体フィルム]
本発明の光学材料は、環状オレフィン系重合体を用いてなることを特徴とし、該光学材料は、薄膜、フィルムまたはシート形状であることが好ましい。以下、フィルムを例にとり説明する。
本発明のフィルムは、環状オレフィン系重合体をフィルムに含有するものをいう。該重合体を用いて作製されたフィルムは、液晶表示素子の基板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルム、液晶バックライト、液晶パネル、OHP用フィルム、透明導電性フィルム等をはじめとする光学用途のフィルムに適する。
【0080】
[重合体フィルムの製造方法]
本発明のフィルムは、環状オレフィン系重合体を含有し、該重合体を原料として製膜することで作製することができる。製膜は、面状の優れたフィルムを得ることのできる溶液製膜方法を用いることが好ましい。本発明のフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供するのと同様の溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープを貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。
【0081】
特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平7−032391号、特開平3−193316号、特開平5−086212号、特開昭62−037113号、特開平2−276607号、特開昭55−014201号、特開平2−111511号、及び特開平2−208650号の各公報に記載のセルロースアシレート製膜技術を本発明では応用できる。以下に溶液製膜方法について記述する。
【0082】
(溶媒)
本発明の溶液流延製膜方法に用いられるドープを調製するための溶媒は、公知のいずれの溶媒をも用いることができる。特には、メチレンクロライド(ジクロロメタン)などのハロゲン化炭化水素類、酢酸メチルなどのエステル類、エーテル類、アルコール類(例えば、メタノール,エタノール,n−ブタノールなど)、ケトン類(例えば、アセトンなど)などが好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。また、これら溶媒を複数混合させた溶媒からドープを調製し、そのドープからフィルムを製膜することもできる。特に、本発明においてはメチレンクロライドを主溶媒とした混合溶媒、例えばメチレンクロライド/メタノール/ブタノール/水、を用いることが好ましい。
【0083】
(添加剤)
本発明のフィルムは、前記重合体以外の添加剤を含有していてもよく、かかる添加剤は、フィルムを作製する工程のいずれの段階で添加されてもよい。添加剤は、用途に応じて選択することができ、例えば、可塑剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、微粒子、剥離促進剤、赤外吸収剤、など)などが挙げられる。これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。添加する時期は溶液流延法によるフィルム作製の場合、ドープ調製工程中のいずれかの時期に添加してもよいし、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。
【0084】
フィルム劣化防止の観点から、劣化(酸化)防止剤が好ましく用いられる。例えば、2,6−ジ−t−ブチル,4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、重合体100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0085】
偏光板又は液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、ノルボルネン系重合体に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0086】
フィルム面のすべり性を改良するためには、微粒子(マット剤)が好ましく用いられる。これを用いることで、フィルム表面に凹凸を付与し、すなわちフィルム表面の粗さを増加させることで(マット化)、フィルム同士のブロッキングを減少させることができる。フィルム中、又はフィルムの少なくとも片方の面上に微粒子が存在することにより、偏光板加工時の偏光子とフィルム間の密着性が著しく向上する。本発明に使用するマット剤は、無機微粒子であれば、平均粒径0.05μm〜0.5μmの微粒子であり、好ましくは0.08μm〜0.3μm、より好ましくは0.1μm〜0.25μmである。微粒子は、無機化合物としては二酸化ケイ素、シリコーン及び二酸化チタンが好ましく、高分子化合物としてはフッ素樹脂、ナイロン、ポリプロピレン及び塩素化ポリエーテルが好ましいが、さらに好ましくは二酸化ケイ素であり、特に好ましくは有機物により表面処理されている二酸化ケイ素である。
【0087】
フィルムの剥離抵抗を小さくするため、剥離促進剤が好ましく用いられる。好ましい剥離剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸あるいはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸あるいはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。剥離剤の添加量はノルボルネン系重合体に対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がさらに好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。
【0088】
(ドープの調製)
前述した固形分(ポリマー及び添加剤)を前述したメチレンクロライド系溶媒に仕込んだ後に、公知のいずれかの溶解方法により溶解させドープを調製する。このドープは濾過により異物を除去することが一般的である。濾過には濾紙、濾布、不織布、金属メッシュ、焼結金属、多孔板などの公知の各種濾材を用いることが可能である。濾過することにより、ドープ中の異物,未溶解物を除去することができ、製品フィルム中の異物による欠陥を軽減することができる。
【0089】
また、一度調製したドープを加熱して、さらに溶解度の向上を図ることもできる。加熱には静置したタンク内で撹拌しながら加熱する方法、多管式、静止型混合器付きジャケット配管等の各種熱交換器を用いてドープを移送しながら加熱する方法などがある。また、加熱工程の後に冷却工程を実施することもできる。また、装置の内部を加圧することにより、ドープの沸点以上の温度に加熱することも可能である。これらの処理を行うことにより、微小な未溶解物を完全に溶解することができ、フィルムの異物の減少、濾過の負荷軽減をはかることができる。
【0090】
本発明において、ドープの固形分の重量百分率(ドープ固形分濃度)は、15重量%〜30重量%が好ましく、より好ましくは20重量%〜25重量%である。15重量%未満であると、ドープの固形分濃度が低すぎるため、ドープから形成されるゲル膜が好ましいフィルム応力を有するまでに長時間必要になりコスト高になる場合がある。また、固形分濃度が低すぎるとドープを流延した際に、ゲル膜が形成されない場合もある。また、30重量%を超えると、ドープの粘度が高くなりすぎてビードのレベリング効果(平滑化)が発現しにくくなり、均一なフィルムの形成が困難になる場合がある。
【0091】
(溶液流延製膜方法)
溶液流延製膜方法については多くの文献に記載がある。最近の溶液流延製膜法では、ドープを支持体上へ流延してから、支持体上の成形フィルムを剥離するまでに要する時間を短縮して、制膜工手の生産性を向上させることが課題になっている。例えば、特公平5−17844号公報には、高濃度ドープを冷却ドラム上に流延することにより、流延後、剥ぎ取りまでの時間を短縮することが提案されている。本発明における製膜では、このドラム製膜法を用いることが好ましい。以下にドラム製膜法を説明する。
【0092】
図1は本発明に係る溶液流延製膜方法を実施するために用いられるフィルム製膜ライン10の概略図を示している。また、図2及び図3にフィルム製膜ライン10の要部概略図を示した。ミキンシングタンク11内には、前述した方法で調製されたドープ12が仕込まれて、撹拌翼13で撹拌されて均一になっている。ドープ12は、ポンプ14により濾過装置15に送られて不純物が除去される。その後に、一定の流量で流延室20内に設置されている流延ダイ21に送られる。流延ダイ21は、回転ドラム22上に配置している。回転ドラム22は、図示しない駆動装置により回転駆動する。回転ドラム22上に流延ダイ21からドープ12を流延して流延ビード23を形成する。なお、本発明において流延ビード23が回転ドラム22上に着地した位置を着地線(図2参照、なお図は、フィルムの走行方向に対して直交方向から示しているので点で記されている)22aと称する。流延ビード23は、支持体である回転ドラム22上でゲル化が進行してゲル膜24となる。ゲル膜24が回転ドラム22の走行に伴って移動すると、冷却されることによりさらにゲル化が進行する。ゲル膜24が剥取線(図2参照)22bに達すると、剥取ローラ25により回転ドラム22から剥ぎ取られ、フィルム26となる。なお、回転ドラム22の回転方向と逆向きに乾燥風19を送風機(図示しない)から送風することがより好ましい。
【0093】
回転ドラム22には、図3に示すように支持体回転軸(以下、回転軸と称する)40,41が取り付けられ、それら回転軸40,41には軸受け42,43が取り付けられており、図示しない流延装置本体に設置されて回転駆動する。回転軸40と回転ドラム22と回転軸41とは、それら内部に媒体の流路(図示しない)が設けられている。その流路に不凍性熱媒体である冷却用媒体(以下、冷媒と称する)44が冷媒供給装置45から供給されることにより、回転ドラム22が冷却される。なお、本発明において回転ドラム22の表面温度が10℃以下とすることが好ましく、より好ましくは−5℃以下、最も好ましくは−20℃以下まで冷却することである。しかしながら、本発明はそれらの温度範囲に限定されるものではない。
【0094】
冷媒44には、グリコール系冷媒,フッ素系冷媒,アルコール系冷媒などが用いられ、最も好ましくはフロリナート(登録商標)FC−77,HFE7100,コールドブライン(登録商標)FP60を用いることであるが、それら冷媒に限定されるものではない。また、本発明に用いられる回転ドラムの冷却方法は、必ずしも図3に示したように冷媒を通液させる方法に限定されるものではない。
【0095】
さらに、本発明に用いられる回転ドラム22は、低温脆性材料を用いて作製されたものを用いると低温冷却した際に、設備の衝撃、繰り返し荷重に対する体力が低下することを防止できるためより好ましい。具体的には、SUS材,SLA材,STPL材などを用いて作製されたものが好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0096】
図2に示すように流延ダイ21には、ビード背面23b側にガス供給装置27に接続されたガス管路27aが取り付けられていることが好ましい。ビード背面23bにガス管路27aを通してガス(以下、第1ガスとも称する)28を送風することで、ビード背面23bのガス濃度を低下させ、露点を下げることができる。これにより、回転ドラム22の表面の結露を防止することができ、フィルム26の面状品質を損なうことが抑制される。さらに、結露した回転ドラム22表面に結露が生じている場合、ゲル膜24を形成すると着地線22aから剥取線22bの間でゲル膜24が回転ドラム22から脱落し、連続運転に支障をきたす。本発明によれば、回転ドラム22表面の結露を防止できるので、ゲル膜24の脱落も防止できる。なお、ガス28は、窒素ガス,ヘリウムガスなど(通常、不活性ガスと呼ばれるもの)フィルムの特性に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。
【0097】
また、露点が回転ドラム22の表面温度より1℃以上低くなるようにガス28をガス供給装置27で温度調整した後に送風することが好ましい。なお、回転ドラム22表面の温度の測定は公知のいずれの装置を用いても良い(温度計の図示は省略している)。この温度差が1℃未満であると工程条件のわずかな変動によって、結露が発生してしまう。さらに、ガス28の風速を0.5m/s以上2m/s以下の範囲とすることが好ましい。風速が0.5m/s未満では流延ビード23近傍のガス濃度を低下させる効果が少ない。また、風速が2m/sより大きいと流延ビード23に風ムラが発生する場合があり、フィルムの面状品質が低下することがある。また、第1ガス28の温度は、30℃〜50℃の範囲であることが好ましい。しかしながら、本発明においてガス(第1ガス)の風速,温度は、他の実験条件を変更することにより、前述した範囲に限定されるものではない。
【0098】
回転ドラム22表面に流延されたドープ12は冷却ゲル化によりゲル膜24の強度(フィルム強度)が増加して、さらに剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜24の強度(フィルム強度)が増加する。剥取時におけるゲル膜24の延伸による応力(フィルム応力)が45万Pa未満では、フィルムとしての強度が不足し、剥ぎ取りに必要な自己支持性が得られない場合がある。本発明において、延伸による応力値としては45万Pa以上が好ましく、より好ましくは60万Pa以上であり、最も好ましくは75万Pa以上である。なお本発明において、フィルムの延伸による応力値は、ロードセルを用いた延伸により測定した値を用いる。
【0099】
また、ゲル膜24をフィルム26として剥ぎ取る際、回転ドラム22の周速度(V0)と剥取ローラ25の周速度(V1)との速度比V1/V0を1.001≦(V1/V0)≦1.5の範囲とすることが好ましく、より好ましくは、1.002≦(V1/V0)≦1.3であり、最も好ましくは、1.005≦(V1/V0)≦1.2の範囲にすることである。(V1/V0)の比を前述した範囲にすることで、フィルム26に加わる延伸力が増加し、剥ぎ取りが安定になる。速度比が1.001未満ではフィルムの延伸力が不足して、剥取線22bが上昇し、フィルムを均一に剥ぎ取ることが困難になる。また、速度比が1.5より大きいと揮発分の高い剥取直後のフィルム(軟膜フィルム)は急激な延伸により耳端部からの「ちぎれ」や「ツレシワ」といった問題が発生する場合がある。なお、本発明において速度比(V1/V0)は前述した範囲に限定されるものではない。
【0100】
回転ドラム22と剥取ローラ25とのクリアランスC1を狭くすると、延伸速度が大きくなるため、延伸力が増加して、剥ぎ取りが安定する。しかしながら、クリアランスC1が1mm未満であると、フィルムカスといった異物が挟まることでフィルムが切断してしまう場合がある。また、クリアランスC1が100mmより大きいとフィルムの延伸力を増加する効果が低減し、剥ぎ取り位置が上昇し、剥取が不安定になる場合がある。そこで、本発明において、クリアランスC1は、1mm≦C1≦100mmの範囲であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。なお、本発明においてクリアランスC1とは、回転ドラム22と剥取ローラ25とを同一面に配置したとき、それぞれの中心を結ぶ線aが、それぞれ外周と交わる交点の間隔を意味している。また、剥取ローラ25は、回転ドラム22の基準線(基準線とは、図示したように回転ドラムの中心から鉛直上方の線を意味している)bと中心線aとの角度Dが45°〜180°が好ましく、より好ましくは60°〜120°の位置に配置されていることである。
【0101】
回転ドラム22からゲル膜24の剥ぎ取りを容易にするために、回転ドラム22の表面張力とドープ12の表面張力との差が、3×10−2(N/m)以上であると回転ドラム22が溶媒で濡れにくくなり、ゲル膜24と回転ドラム22との接触面積が少なくなる。これにより、剥ぎ取り時の剥離抵抗を低下できるため、剥ぎ取りが安定する。本発明において表面張力の測定方法は、公知のいずれの方法も用いることが可能である。また、本発明において、表面張力の差は前述したものに限定されるものではない。
【0102】
図2に示した剥取線22bとビード着地線22aとの間の回転ドラム22上にはゲル膜24が存在していない。本発明では、この面を無ゲル膜面22cと称する。前述したように回転ドラム22は、その内に冷媒を供給して冷却している。そのため、この無ゲル膜面22cの表面温度が露点に達していると、この面に結露が生じる場合がある。また、回転ドラム22は無端で走行しているため水滴や凝縮溶媒が付着している面にドープ12が流延されると、製膜されるフィルムの面状の悪化を招くおそれが生じる。そこで、前記無ゲル膜面22cに送風機29を用いてガス(以下、第2ガスとも称する)30を吹き付け、無ゲル膜面22cの温度を流延ビード23近傍の露点より1℃以上高くすることで水滴、液化溶媒の付着を防止することができる。なお、前記ガス(第2ガス)30の温度は50℃〜100℃、風速は2m/s〜10m/sの範囲であることが好ましいが、本発明はそれらの範囲に限定されるものではない。
【0103】
図3に示したように回転軸40,41の内部にも冷媒44が通液されている。そのため、回転軸40,41及び軸受け42,43近傍の大気が冷却されて露点に達すると、その大気中に含まれている水蒸気が凝縮して水滴が生じる。また、流延室20内には、ドープ12から揮発した気化溶媒も含まれており、それら気化溶媒も液化して回転軸40,41及び軸受け42,43に付着する場合もある。付着が激しくなると、回転不良が生じ、連続フィルム製膜に支障をきたすおそれもある。そこで、本発明では、回転軸40,41及び軸受け42,43近傍に送風機46,47を設けてガス(以下、第3ガスとも称する)48,49をそれぞれ回転軸40,41及び軸受け42,43に送風することで、回転軸40,41及び軸受け42,43に結露が生じることを防止することが可能となる。なお、送風するガス48,49は、回転軸40,41近傍の温度が露点以下とならない温度であれば特に限定されないが、具体的には20℃〜30℃の範囲が好ましい。また、風速は2m/s〜10m/sの範囲であることが好ましいがこの範囲に限定されるものではない。また、本発明において送風機の実施形態は図3に示したものに限定されない。例えば図3では、回転軸40,41それぞれに送風機46,47を設置しているが、1台の送風機を用いて回転軸40,41の両軸にガスを送風しても良い。
【0104】
本発明に係る溶液流延製膜方法を行う際に、流延室20内に流延ダイ21及び回転ドラム22等が備えられていると、流延ビード23にランダムな風があたる事が抑制され、面状が均一なフィルム26が得られるために好ましい。しかし、流延室内で結露が生じると、ゲル膜24表面に水滴などが付着してフィルムの表面にスジなどの欠陥が生じるおそれもある。液体が回転軸40,41、軸受け42,43(図3参照)などに付着して凝結すると、回転ドラム24の回転数の制御が困難になる場合もある。また、全く動かなくなる場合さえある。そこで、流延室20内に気化溶媒を凝縮して回収する回収装置31を備えていることが好ましい。
【0105】
回収装置31は、流延室20内の大気に含まれている水蒸気やゲル膜24中の溶媒が気化した気化溶媒を凝縮させる凝縮面31aを備えている。凝縮面31aの温度は、ドープ12を構成している溶媒の種類などにより規定され特に限定されるものではない。しかしながら、本発明においては、フィルム26の表面温度より1℃以上低くすることが好ましく、より好ましくはフィルム26の表面温度より1℃〜20℃低くすることが好ましい。温度差が1℃未満であると流延している工程の条件がわずかに変動した際に、フィルム26表面に水滴などの液体が付着するおそれがある。また、20℃より低くするとコストの点で不利である。なお、本発明において、フィルム表面温度とは、図2に示した測定点26aの近傍に非接触式の温度計32を用いて測定することが好ましいが、温度測定方法はそれに限定されるものではない。また、温度計32で測定された温度に基づいて回収装置31がその凝縮面31aの温度を調整することがより好ましい。
【0106】
フィルム26を更に乾燥させるため、流延室20の下流側にテンタ室60と乾燥室61とが設置されている(図1参照)。テンタ室60のテンタ乾燥機62によりフィルムの幅方向を延伸しながら乾燥すると、フィルム26の面状を均一にするために好ましい。さらに、多数のローラ63が配置されている乾燥室61にフィルム26が送り込まれる。フィルム26は、それらローラ63に巻きかかりながら搬送されながら乾燥される。さらに、冷却室64でフィルム26は室温程度まで冷却することが好ましい。その後に巻取機65で巻き取ることが好ましい。なお、本発明において巻き取られる前に、耳切りが行われたり、ナーリングが付与されたりしても良い。また、本発明にかかる溶液流延製膜方法に用いられるフィルム製膜ライン10は、図1ないし図3に示したものに限定されるものではない。
【0107】
本発明の溶液流延製膜方法は、剥ぎ取る際のフィルム応力が大きいため20μm〜120μmの範囲の厚さに製膜されたフィルム(薄手のフィルム)の製膜方法に最も適している。
【0108】
図1では、1種類のドープを単層で流延した形態を示したが、本発明は図示した形態に限定されるものではない。例えば、流延ダイの上流側にフィードブロックを取り付け、多数のドープをそのフィードブロックに送り込み、フィードブロック内で、それらのドープを合流させて流延する共流延法などにも適用することが可能である。また、図では回転ドラム22を支持体とした図示した。しかしながら、本発明は図示した形態に限定されずに、例えば回転ローラによって無端走行する流延ベルト上にドープを流延する溶液流延製膜方法にも適用することが可能である。
【0109】
[フィルム延伸]
前記溶液流延製膜法にて作製したフィルムを、さらに延伸処理する場合は、剥離のすぐ後の未だフィルム中に溶剤が十分に残留している状態で行うのが好ましい。延伸の目的は、(1)しわや変形のない平面性に優れたフィルムを得るため及び、(2)フィルムの面内レターデーションを大きくするために行う。(1)の目的で延伸を行うときは、比較的高い温度で延伸を行い、延伸倍率も1%からせいぜい10%までの低倍率の延伸を行う。2から5%の延伸が特に好ましい。(1)と(2)の両方の目的、あるいは(2)だけの目的で延伸する場合は、比較的低い温度で、延伸倍率も5から150%で延伸する。
【0110】
フィルムの延伸は、縦あるいは横だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよい。VA液晶セルやOCB液晶セル用位相差フィルムの複屈折は、幅方向の屈折率が長さ方向の屈折率よりも大きくなることが好ましい。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。
【0111】
本発明のでき上がり(乾燥後)のフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常20から500μmの範囲であり、30〜150μmの範囲が好ましく、特に液晶表示装置用には40〜110μmであることが好ましい。
【0112】
(フィルムの光学特性)
本発明のフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。以下に、フィルムの厚みを80μmとして換算した、面内レターデーション(Re)及び厚さ方向レターデーション(Rth)の、各用途における好ましい範囲を示す。
【0113】
偏光板保護フィルムとして使用する場合:Reは、0nm≦Re≦5nmが好ましく、0nm≦Re≦3nmがさらに好ましい。Rthは、0nm≦Rth≦50nmが好ましく、0nm≦Rth≦35nmがさらに好ましく、0nm≦Rth≦10nmが特に好ましい。
【0114】
位相差フィルムとして使用する場合:位相差フィルムの種類によってReやRthの範囲は異なり、多様なニーズがあるが、0nm≦Re≦100nm、0nm≦Rth≦400nmであることが好ましい。TNモードなら0nm≦Re≦20nm、40nm≦Rth≦80nm、VAモードなら20nm≦Re≦80nm、80nm≦Rth≦400nmがより好ましく、特にVAモードで好ましい範囲は、30nm≦Re≦75nm、120nm≦Rth≦250nmであり、一枚の位相差膜で補償する場合は、50nm≦Re≦75nm、180nm≦Rth≦250nm、2枚の位相差膜で補償する場合は、30nm≦Re≦50nm、80nm≦Rth≦140nmである。これらはVAモードの補償膜として黒表示時のカラーシフト、コントラストの視野角依存性の点で好ましい態様である。なお、上記Re,Rthは、波長590nmで測定した値である。
【0115】
本発明のフィルムは、共重合比率、添加剤の種類及び添加量、延伸倍率、剥離時の残留揮発分などの工程条件を適宜調節することで所望の光学特性を実現することができる。
【0116】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定するができる。
【0117】
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0118】
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がセ゛ロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(1)及び式(2)よりRthを算出することもできる。
【0119】
【数1】

【0120】
注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。
【0121】
【数2】

【0122】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0123】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0124】
[重合体フィルムの物性]
本発明のフィルムを偏光板の保護フィルムとして用いる場合は、光弾性の値が0.5×10−13〜9.0×10−13[cm/dyn]であり、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)が180〜435[g/cm24h]であるのが好ましい。光弾性の値は、0.5×10−13〜7.0×10−13[cm/dyn]であるのがより好ましく、0.5×10−13〜5.0×10−13[cm/dyn]であるのがさらに好ましい。また、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)は、180〜400[g/cm24h]であるのがより好ましく、180〜350[g/cm24h]であるのがさらに好ましい。本発明のフィルムが上記特性を有すると、偏光板の保護フィルムとして用いた場合に、湿度の影響による性能の低下を軽減することができる。
【0125】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明のフィルムと偏光膜とを少なくとも有する。通常、偏光板は、偏光膜およびその両側に配置された二枚の保護フィルムを有する。両方または一方の保護フィルムとして、本発明のフィルムを用いることができる。他方の保護フィルムは、通常のセルロースアセテートフィルム等を用いてもよい。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のフィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、フィルムは後述の如き表面処理を行い、しかる後にフィルム処理面と偏光膜を接着剤を用いて貼り合わせる。使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス、ゼラチン等が挙げられる。偏光板は偏光膜およびその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。本発明のフィルムの偏光膜への貼り合せ方は、偏光膜の透過軸とフィルムの遅相軸を一致させるように貼り合せることが好ましい。
【0126】
(フィルムの表面処理)
本発明では、偏光膜と保護フィルムとの接着性を改良するため、フィルムの表面を表面処理することが好ましい。表面処理については、接着性を改善できる限りいかなる方法を利用してもよいが、好ましい表面処理としては、例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理および火炎処理が挙げられる。ここでいうグロー放電処理とは、低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことである。本発明では大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。その他、グロー放電処理の詳細については、米国特許第3462335号、米国特許第3761299号、米国特許第4072769号および英国特許第891469号明細書に記載されている。放電雰囲気ガス組成を放電開始後にポリエステル支持体自身が放電処理を受けることにより容器内に発生する気体種のみにした特表昭59−556430号公報に記載された方法も用いられる。また真空グロー放電処理する際に、フィルムの表面温度を80℃〜180℃にして放電処理を行う特公昭60−16614号公報に記載された方法も適用できる。
【0127】
表面処理の程度については、表面処理の種類によって好ましい範囲も異なるが、表面処理の結果、表面処理を施された保護フィルムの表面の純水との接触角が、50°未満となるのが好ましい。前記接触角は、25°以上45°未満であるのがより好ましい。保護フィルム表面の純水との接触角が上記範囲にあると、保護フィルムと偏光膜との接着強度が良好となる。
【0128】
(接着剤)
ポリビニルアルコールからなる偏光膜と、表面処理された本発明のフィルムとを貼合する際には、水溶性ポリマーを含有する接着剤を用いることが好ましい。前記接着剤に好ましく使用される水溶性ポリマーとしては、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルイミダゾールなどエチレン性不飽和モノマーを構成要素として有する単独重合体もしくは重合体、またポリオキシエチレン、ボリオキシプロピレン、ポリ−2−メチルオキサゾリン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースゼラチン、などが挙げられる。本発明では、この中でもPVAおよびゼラチンが好ましい。接着剤層厚みは、乾燥後に0.01〜5μmが好ましく、0.05〜3μmがより好ましい。
【0129】
(反射防止層)
偏光板の、液晶セルと反対側に配置される保護フィルムには反射防止層などの機能性膜を設けることが好ましい。特に、本発明では保護フィルム上に少なくとも光散乱層と低屈折率層がこの順で積層した反射防止層または保護フィルム上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層が好適に用いられる。
【0130】
(光散乱層)
光散乱層は、表面散乱および/または内部散乱による光拡散性と、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。従って、ハードコート性を付与するためのバインダー、光拡散性を付与するためのマット粒子、および必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機フィラーを含んで形成される。光散乱層の膜厚は、ハードコート性を付与する観点並びにカールの発生および脆性の悪化抑制の観点から、1〜10μmが好ましく、1.2〜6μmがより好ましい。
【0131】
(反射防止層の他の層)
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0132】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた保護フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0133】
(帯電防止層)
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10−8(Ωcm−3)以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10−8(Ωcm−3)の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。
【0134】
[液晶表示装置]
本発明のフィルム、該フィルムからなる位相差フィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。このうち、OCBモードまたはVAモードに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0135】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0136】
[ノルボルネン系化合物の合成]
本発明で用いるノルボルネンカルボン酸メチル(NBCO2CH3)およびノルボルネンオール(NBOH)とノルボルネン(NB)は、東京化成社およびアルドリッチ社から購入した。ガスクロマトグラフィーにより、NBCO2CH3の純度は98.5%、エンド/エキソ比率は49/51、NBOHの純度は98.0%、エンド/エキソ比率は78/22、NBの純度は98.1%であった。これをNBCO2CH3(49/51)、NBOH(78/22)、NBのように表記し、以下同様とする。その他のノルボルネン系化合物は、以下の合成例のように製造した。
【0137】
【化21】

【0138】
(合成例1:M-1(83/17) の合成)
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)10940g、酢酸アリル(和光純薬社製)17720gとヒドロキノン(和光純薬社製)10gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で9時間攪拌した(回転速度=300rpm)。残存物を精密蒸留(カラム長さ=120cm、カラム充填物=Propak、還流比=10/1、圧力=10mmHg、トップ温度=89℃)に付して、無色透明なM-1を得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度99.9%、エンド/エキソ比率83/17であった。
【0139】
(合成例2:M-2(83/17)の合成)
合成例1において酢酸アリルをヘキサン酸アリル(和光純薬社製)とする以外は、合成例1と同様に行い、無色透明なM-2を得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度99.0%、エンド/エキソ比率83/17であった。
【0140】
【化22】

【0141】
(合成例3:M-1(49/51)の合成)
脱水テトラヒドロフラン4000mLとリチウムアルミニウムハイドライド203gをフラスコ内に仕込み、氷浴で冷却した。これに、NBCO2CH3(49/51)1173gと脱水テトラヒドロフラン1000mLの混合物を滴下した。室温にもどし、27%水酸化ナトリウム水溶液1000gを滴下した。これをセライトろ過し、エバポレーションすると、白濁した液体の租ノルボルネンメタノールを得た。これと酢酸エチル1000mL、ピリジン900mL、無水酢酸1050gをフラスコに仕込み、室温で3時間攪拌した。これを氷浴にあけて、分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、エバポレーションした。残存した液体を減圧蒸留に付すと、無色のM-1を得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は99.7%、エンド/エキソ比率は49/51であった。
【0142】
(合成例4:M-2(49/51) の合成)
合成例3において無水酢酸を無水ヘキサン酸(和光純薬社製)に変えて、合成例3と同様の操作で、M−2を得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は99.8%、エンド/エキソ比率は49/51であった。
【0143】
【化23】

【0144】
(合成例5:M-1(3/97))
NBCO2CH3(49/51)2390gを精密蒸留(カラム:直径30mm、長さ1800mmL、還流比1/30(開/閉)、10mmHg)に付した。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は99.9%、エンド/エキソ比率は3/97のNBCO2CH3(3/97)を得た。これを合成例3のように、還元、アセチル化、蒸留精製を行った。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は99.5%、エンド/エキソ比率は3/97のM-1(3/97)を得た。
【0145】
【化24】

【0146】
(合成例6:M-3(78/22) の合成)
NBOH(78/22)を原料とし、合成例5と同様の操作でアセチル化と蒸留精製を行いM−3を得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は99.8%、エンド/エキソ比率は78/22であった。
【0147】
(合成例7:M-4(78/22) の合成)
NBOH(78/22)を原料とし、合成例5と同様の操作でヘキサノイル化と蒸留精製を行いM−4を得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は99.2%、エンド/エキソ比率は78/22であった。
【0148】
【化25】

【0149】
(合成例8:M−3(0/100)の合成)
ノルボルナジエン(東京化成社製)1790g、酢酸(和光純薬社製)1040gとトリス(トリフェニルホスフィン)白金30gをオートクレーブ内に仕込み、120℃で75時間連続で攪拌した。得られた液をエバポレーションし、減圧蒸留を行った。無色のM−1を得た。ガスクロマトグラフィーにより、純度は99.5%、エンド/エキソ比率は0/100であった。
【0150】
(合成例9:M−4(0/100)の合成)
合成例8で得たM−3(0/100)を1390g、メタノール4500mL、水1500mLに溶かした水酸化カリウム1430gをフラスコに仕込み、4時間還流を行った。濃塩酸2000mLで中和し、酢酸エチルで抽出した。これを硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過、エバポレーションを行った。得られた茶色の液体、アセトニトリル2000mLをピリジン790gを仕込み、ヘキサン酸クロライド1260gを滴下し、70℃で2時間還流した。これを酢酸エチル/水で抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過、エバポレーションを行った。これを減圧蒸留に付し、無色の液体M−4を得た。ガスクロマトグラフィーにより、純度は99.7%、エンド/エキソ比率は0/100であった。
【0151】
【化26】

【0152】
(混合による調整)
上記でえられたM−1〜M−4を適宜混合し、以下のエンド/エキソ比率のM−1〜M−4を合成した。いずれもガスクロマトグラフィーにより、純度は99%以上であった。
【0153】
【化27】

【0154】
(合成例10:NBCOOHの合成)
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1600g、2−ヒドロキシエチルアクリレート(和光純薬社製)2810gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で4時間攪拌した(回転速度=300rpm)。残存物を単蒸留に付して、無色透明なNBCOOHを得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度98.0%、エンド/エキソ比率45/55であった。
【0155】
【化28】

【0156】
(合成例11:NBCOの合成)
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1150g、ブチルアクリレート(和光純薬社製)2230gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温240℃で4時間攪拌した(回転速度=300rpm)。残存物を単蒸留に付して、無色透明なNBCOを得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度98.9%、エンド/エキソ比率45/55であった。
【0157】
【化29】

【0158】
(合成例12:NBC13の合成)
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1854g、1−オクテン(和光純薬社製)3635gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温200℃で6時間攪拌した(回転速度=300rpm)。残存物を単蒸留に付して、無色透明なNBC13を得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度97.8%、エンド/エキソ比率80/20であった。
【0159】
【化30】

【0160】
[ノルボルネン系重合体の合成]
(重合例1)
精製トルエン6000mLとモノマーM-1(83/17) 1190gを反応容器に仕込んだ。次いでトルエン100mLに溶解したパラジウムアセチルアセトナート(東京化成社製)480mgとトリシクロヘキシルフォスフィン(ストレム社製)460mg、塩化メチレン100mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)2560mgを反応容器に投入した。加熱を開始し90℃で6時間300rpmで攪拌した。なお、この間反応溶液の粘度の上昇とともに、トルエンを適宜追加した。得られた反応溶液を、過剰のメタノール中に投入し、重合物P1を沈殿させた。沈殿を採取し、メタノールで洗浄した。得られた重合体を110℃で6時間真空乾燥した。白色固体1130g(収率95%)を得た。再沈殿のろ液を濃縮し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、残存モノマーM−1のエンド/エキソ比率は98/2であった。この結果より、P1中におけるエンド/エキソ比率は、82/18と算出した。ここで得られたP1は、P1(82/18)と表す。なお、以下同様に表記する。得られたポリマーをテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより(ポリスチレン換算)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定した。結果を表1に示す。
【0161】
(重合例2〜11)
表1のとおりのモノマーを等モル量用い、重合例1と同様に重合した。さらに、収率と再沈殿ろ液中の残モノマーのエンド/エキソ比率を分析し、重合体中のエンド/エキソ導入率を算出した。分子量も同様に測定した。結果は表1にまとめた。
【0162】
(重合例12)
モノマーをM-1(83/17) 1190gとNB75gとする以外は、重合例1と同様に重合を行った。収率は98%であった。再沈殿ろ液中の残モノマーをガスクロマトグラフィーで測定したところ、残存NBは含まれていなかった。生成ポリマーのM−1/NBの導入率は90/10である。残存M−1のエンド/エキソ比率は、98/2であった。重合体中のエンド/エキソ導入率を算出した。分子量も同様に測定した。結果は表1にまとめた。
【0163】
(重合例13)
M-1を等モル量のM−2(83/17)とする以外、重合例12と同様に重合した。さらに、収率と再沈殿ろ液中の残モノマーのエンド/エキソ比率を分析し、重合体中のエンド/エキソ導入率を算出した。分子量も同様に測定した。結果は表1にまとめた。
【0164】
上記で合成したP1〜6の構造式を以下に示す。M1〜M4を原料とした重合体がP1〜4、M1〜2とNBを原料とした重合体がP5〜6である。表1では、同じ構造で側鎖のエンドエキソ比率が異なる場合、P1(82/18)のように記述した。下記のP5とP6の()の右上の数値は、共重合比率を示す。
【0165】
【化31】

【0166】
(重合例14)
NBC13を713gとM-1(83/17)を166g反応容器に仕込んだ。次いでトルエン10mLに溶解したパラジウムアセチルアセトナート(東京化成社製)152mgとトリシクロヘキシルフォスフィン(ストレム社製)150mg、塩化メチレン10mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)805mgを反応容器に投入した。さらにトルエン3.5Lを添加した。内容物を300rpmで攪拌し、加熱を開始した。内温90℃として、6時間攪拌した。トルエン14Lで希釈し、この溶液をメタノール40L中に滴下し、重合体を沈殿させた。沈殿を採取し、メタノールで洗浄した。得られた白色固体を110℃で6時間真空乾燥した。P7を871g(収率99%)得た。HNMRを測定したところ、3.5〜4.5ppmのM−1のユニットのメチレンピークと、0.5〜3.0ppmの残りのピークの積分値の比較より、NBC13由来のユニットとM−1由来のユニットの比率は、79/21であった。分子量の測定結果は表1に示した。
【0167】
【化32】

【0168】
(重合例15)
NBCO 421gとM-1(83/17) 360gを反応容器に仕込んだ。次いでトルエン10mLに溶解したパラジウムアセチルアセトナート(東京化成社製)187mgとトリシクロヘキシルフォスフィン(ストレム社製)195mg、塩化メチレン10mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)994mgを反応容器に投入した。内容物を300rpmで攪拌し、加熱を開始し、内温90℃として、6時間攪拌した。なお、反応の推移とともに反応液の粘度が上昇するにつれて、合計3Lのトルエンを添加していった。トルエン10Lで希釈し、メタノール40Lを3時間かけて滴下し、重合体を沈殿させた。沈殿を採取し、メタノールで洗浄した。得られた白色固体を110℃で6時間真空乾燥した。P8を586g(収率75%)得た。13CNMRを測定し、ブチルエステルとアセチルのカルボニル炭素の積分値の比較より、P8のNBCO由来のユニットとM−1由来のユニットの比率は、35/65であった。分子量の測定結果は表1に示した。
【0169】
【化33】

【0170】
(重合例16)
M-1(83/17)を510g反応容器に仕込んだ。次いでトルエン20mLに溶解したパラジウムアセチルアセトナート(東京化成社製)187mgとトリシクロヘキシルフォスフィン(ストレム社製)195mg、塩化メチレン20mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)994mgを反応容器に投入した。さらにトルエン0.5Lを添加した。内容物を300rpmで攪拌し、加熱を開始した。内温90℃として、1時間経過した後、NBCOOHを140g3時間かけて滴下した。なお、反応の進行とともに、トルエンを合計2.0Lを適宜添加した。内温90℃に達した後、6時間攪拌した。トルエンを4L添加し、メタノールを3時間かけて8L滴下し、重合体P9を沈殿させた。沈殿を採取し、メタノールで洗浄した。得られた白色固体を110℃で6時間真空乾燥した。P9を455g(収率70%)得た。13CNMRを測定し、ヒドロキシエチルエステルとアセチルのカルボニル炭素の積分値の比較より、P9のNBCOOH由来のユニットとM−1由来のユニットの比率は、20/80であった。分子量の測定結果は表1に示した。
【0171】
【化34】

【0172】
(重合例17)
M−1の代わりに等モル量のNBCOを用いて、重合例16と同様の操作で、P10(収率67%)を得た。重テトラクロロエタンにサンプルを溶かし、120℃で13CNMRを測定した。ヒドロキシエチルエステルとブチルエステル炭素の積分値の比較より、P10のNBCOOH由来のユニットとNBCO由来のユニットの比率は、17/83であった。分子量の測定結果は表1に示した。
【0173】
【化35】

【0174】
【表1】

【0175】
(実施例1〜5および比較例1)
メチレンクロライド9100g、メタノール1080g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬社製)10gを混合し、上記で得られたポリマーP1(82/18)1000gを添加し、室温で攪拌した。5分後、40分後、50分後、80分後、130分後、200分後に、ドープ約1500gずつ採取した。これらを酢酸100mLとメタノール5Lの混合溶媒中で再沈殿した。得られた白色固体を吸引ろ過し、120℃で4時間真空乾燥した。かように水酸基を導入されたポリマーの分子量は、もとのポリマーの分子量からアシル部位が消失した分が減少していた。すなわち、主鎖の切断はなく、側鎖すなわちアシル基の加溶媒分解反応のみ進行したことを示す。すなわち、アシル基と水酸基の合計のエンド/エキソ比率は変動がないことを示す。
【0176】
これら水酸基を導入されたポリマーのうち1gをとり、メチレンクロライド10mLに溶かした。ピリジン10mL、ベンゾイルクロライド10mLを添加した。ベンゾイルクロライドの量は、ポリマー中のアシル基と水酸基の全量の過剰量であることから、水酸基は全てベンゾイル化される。この溶液を1時間還流した。これを再沈殿し、120℃で4時間真空乾燥した。得られたポリマーを重メチレンクロライドに溶かし、1HNMR測定した。7ppm付近のフェニル基のピークと3.2〜4.7ppmのメチレンピークの積分比より、ベンゾイル置換された割合をもとめた。これはもとの水酸基の割合に相当することから、もとのポリマーの水酸基含有率を示す。結果を表2の実施例1〜5と比較例1に示す。分子量の結果も表2に示した。
【0177】
上記で得られた重合体をメチレンクロライド/メタノール/ブタノール/水(83/16/0.6/0.4重量比率)に溶解させ、固形分濃度22%とした。これを加圧ろ過した。得られたドープをA3大の−5℃と−10℃で設定されたSUS板上でアプリケーター(クリアランス800μm)を用いて、流延製膜した。これを10秒間放置し、フィルムの剥ぎ取り性テストを行った。重合体の種類、SUS板の温度、剥ぎ取り性の結果を表2の実施例1〜5に示す。なお、水酸基含率75%の重合体は、不溶性で評価に至らなかった(比較例1)。
【0178】
(実施例6〜8および比較例2)
ポリマーP1(57/43)のポリマーを用いて、反応時間を調整しながら、各水酸基含有率をかえたポリマーを合成した。分子量の結果を表2に示した。水酸基導入率は、上記と同様にベンゾイル化することで算出した。剥ぎ取り性テストも、上記と同様に行った。結果を表2の実施例6〜8に示す。なお、水酸基含率72%の重合体は、不溶性で評価に至らなかった(比較例2)。
【0179】
(実施例9〜20)
表2のポリマーを用いて、上記と同様に各水酸基含有率をかえたポリマーを合成した。水酸基導入率は、上記と同様にベンゾイル化することで算出した。剥ぎ取り性テストも、上記と同様に行った。結果を表2の実施例9〜20に示す。分子量の結果を表2に示した。
【0180】
(比較例3〜13)
重合例で合成したポリマーを加水分解せずに、上記と同様にドープを作製し、剥ぎ取り性テストを行った。いずれも自己支持性はなく、剥ぎ残りが残った。結果を表2の比較例3〜13に記す。分子量の結果を表2に示した。
【0181】
(比較例14)
メチレンクロライド4550g、メタノール540g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬社製)50gを混合し、上記で得られたポリマーP7を500g添加し、室温で12時間攪拌した。これらを酢酸50mLとメタノール2.5Lの混合溶媒中で再沈殿した。得られた白色固体を吸引ろ過し、120℃で4時間真空乾燥した。分子量の測定結果は表2に示した。
【0182】
この水酸基を導入されたポリマーを前記と同様に、ベンゾイル化した。上記と同様にベンゾイル置換された割合をもとめ、もとのポリマーの水酸基含有率を算出したところ、100%であった。また、HNMR測定では、アセチル基は観測されなかった。したがって、アセチル基が全て水酸基に変換されたことを示す。すなわち、水酸基含有ユニットは全ユニットの21%である。
【0183】
この水酸基を導入されたポリマーを、上記と同様にドープを作製したが、ドープは白濁し、透明にはならなかった。これを製膜したが、フィルムは白化し、評価はできなかった。
【0184】
(比較例15)
M-1(83/17)を532gとNBCOOHを146g用いて、特表2006−518779号公報の合成実施例98と同様に合成し、P11を285g(収率42%)得た。13CNMRを測定し、ヒドロキシエチルエステルとアセチルのカルボニル炭素の積分値の比較より、P11のNBCOOH由来のユニットとM−1由来のユニットの比率は、20/80であった。分子量の測定結果は表2に示した。
【0185】
この重合体を、上記と同様にドープを作製し、剥ぎ取り性テストを行った。自己支持性は極めて弱く、剥ぎ取りは全くできなかった。結果を表2に記す。
【0186】
【化36】

【0187】
(比較例16)
M-1(83/17)とノルボルネンメタノール(アルドリッチ社製)とNBを用いて、特開2007−131704号公報の実施例1と同様に合成し、P12(収率57%)を得た。上記と同様にベンゾイル化を行い、アセチル基と水酸基の比率を求めたところ、P12のM-1(83/17)由来のユニットとノルボルネンメタノール由来のユニットの比率は、90/10であった。さらに、1HNMRで、3.2〜4.7ppmのメチレンピークの積分値と0.3〜3.0ppmの残りのプロトンの積分値より、M-1(83/17)由来のユニットとノルボルネンメタノール由来のユニットとNB由来のユニットの比率は、60/7/33であった。分子量の測定結果は表2に示した。
【0188】
この重合体を、上記と同様にドープを作製し、剥ぎ取り性テストを行った。自己支持性は弱く、剥ぎ取りは困難だった。結果を表2に記す。
【0189】
【化37】

【0190】
(比較例17)
エチリデンノルボルネン(アルドリッチ社製)とNBOH(78/22)を用いて、特開2006−16606号公報の実施例13と同様に合成し、P13を得た。共重合比率と分子量の測定結果は、特開2006−16606号公報の実施例13と同様であった。表2に示した。
【0191】
この水酸基を導入されたポリマーを、上記と同様にドープを作製したが、ドープは白濁し、透明にはならなかった。これを製膜したが、フィルムは白化し、評価はできなかった。
【0192】
【化38】

【0193】
(実施例21)
メチレンクロライド4550g、メタノール540g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬社製)5gを混合し、上記で得られたポリマーP8を500g添加し、室温で60分攪拌した。これらを酢酸50mLとメタノール2.5Lの混合溶媒中で再沈殿した。得られた白色固体を吸引ろ過し、120℃で4時間真空乾燥した。1HNMR測定したところ、ブチルエステル基の部位は未反応のまま、アセチル基の部位のみメタノリシスされていることが確認された。分子量の測定結果は表2に示した。
【0194】
この水酸基を導入されたポリマーを前記と同様に、ベンゾイル化した。得られたポリマーを重メチレンクロライドに溶かし、1HNMR測定した。3つのユニットのメチレンピーク(3.4〜4.8ppm)とベンゾイルのピーク(7ppm付近)の比較より、ベンゾイル部位を有するユニットが全体の20モル%と決定できた。これはもとの水酸基の割合に相当することから、もとのポリマーの水酸基含有率を示す。
【0195】
ドープの作製と剥ぎ取り性テストを、上記と同様に行った。結果を表2の実施例21に示す。
【0196】
(実施例22〜23)
重合例16、17で合成したポリマーP9、P10を、上記と同様にドープを作製し、剥ぎ取り性テストを行った。結果を表2の実施例22〜23に記す。
【0197】
表2において、水酸基含有率とは、ポリマー中の水酸基含有ユニットとエステル基もしくはアシル基含有ユニットの合計において水酸基含有ユニットの割合を示す。これは、前記一般式(1A)および一般式(1B)において、y/(x+y)に相当する。水酸基以外の置換基とは、共重合成分のエステルもしくはアシルもしくはその両方を示す。これは、一般式(1A)において、Aに相当する。
【0198】
【表2】

【0199】
溶解性評価:
完全に溶解し、ドープが透明(◎)
溶解はしているがドープが完全に透明でない(○)
溶解しない(×)
剥ぎ取り性評価:
剥ぎ残りなし(◎)
剥ぎ残りが生じたが、フィルム面積の1%以下(○)
剥ぎ残りあり(×)
【0200】
以上のように水酸基含有量が本発明の範囲にある重合体は、溶解性が良好で、冷却時に剥ぎ取り性を有する。特に、水酸基とアシル基の合計のエンド体含有量が50%以上である場合、−5℃という比較的高い温度でも良好な剥ぎ取り性を示す。水酸基量が多すぎる場合や水酸基以外の置換基がエステルまたはアシル以外である場合、溶媒への溶解性が悪く、製膜に至らない。一方、水酸基を有さない場合、剥ぎ取りができない。さらに、分子量が本発明の範囲外であるとフィルムの剥ぎ取りが悪い。
【0201】
(実施例24:高速流延製膜)
実施例2で得られた重合体を、スケールアップ製造した。メチレンクロライド/メタノール/ブタノール/水(83/16/0.6/0.4重量比率)の混合溶媒に、実施例2で得られた重合体26.8重量部、トリフェニルフォスフェート(TPP)2.1重量部、ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)1.1重量部、イルガノックス1010(IRG1010:チバガイキー社製)0.13重量部を添加し、公知の方法により調製した。固形分濃度は23重量%であった。なお、本発明において溶質の重量部とは、混合溶媒を100重量部とした場合の重量比を意味している。
【0202】
図1のフィルム製膜ライン10を用いてフィルムの製膜を行った。流延ダイ23にはコートハンガー型ダイを用いた。また、支持体である回転ドラム22の表面粗さが0.04Sになるように鏡面仕上げをした。回転ドラム22に冷媒供給装置45から冷媒を供給することで、その表面温度を−5℃に保持した。また、周速度の比(V1/V0)を1.1とするために、回転ドラムの周速度V0(流延速度)を100m/minとし、剥取ローラ25の周速度V1を110m/minとした。回転ドラム22と剥取ローラ25とのクリアランスC1は、5mmとした。また、第1ガス28は風速1m/s,温度35℃、第2ガス30は風速5m/s,温度80℃、第3ガス48,49は風速5m/s,温度25℃としたものを吹き付けた。
【0203】
前述した条件に設定した後に、30℃のドープ12を乾燥後のフィルム26の膜厚が80μmとなるように回転ドラム22上に流延した。剥ぎ取り時にゲル膜24を目視で観察したところ、剥ぎ残り、剥取位置の上昇は全く見られなかった。さらに、このフィルム26をテンタ乾燥機62で135℃,3分間乾燥した後に、135℃の乾燥ゾーン61で10分間乾燥した後、80℃の冷却室64で1分間冷却した。最後に、巻取機65で巻き取った。さらに、目視でフィルム26の表面を観察したところ、極めて平滑性が良いことが分かった。この製膜を48時間連続で行ったが、剥ぎ残りは全く見られなかった。
【0204】
(実施例25〜27:高速流延製膜)
実施例3,12,15で得られた重合体をスケールアッフ゜製造し、実施例24と同様に製膜した。いずれの場合も、フィルムの平滑性はよく、剥ぎ残りが見られずに高速製膜できた。連続製膜は、48、24,24時間行った。
【0205】
(実施例28〜31:延伸)
実施例24〜27で得られたフィルムを井元製作所製の自動延伸機を用いて、温度220℃において20%の固定端延伸を行い、延伸フィルムを得た。波長590nmにおけるレターデーションを測定した。フィルムの厚みは、デジタルマイクロメーターで任意の部分を3点測定し、その平均値dをとった。これを以下の数式により、フィルム厚み80μmのRe、Rthを求めた。結果を表3に記す。
Re=実測Re/dx80
Rth=実測Rth/dx80
【0206】
【表3】

【0207】
(実施例32:偏光板の作製と評価)
実施例28〜30で作製したフィルムF1〜F3とフジTAC(富士フイルム社製)を60℃の水酸化ナトリウム1.5N水溶液中で2分間浸漬した。この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通し、鹸化処理した。
【0208】
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与えて、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム“9X75RS”{(株)クラレ製}を、長手方向に延伸し、偏光膜を得た。
【0209】
このようにして得た偏光膜と、鹸化処理したF1〜F3を、PVA“PVA−117H”(クラレ社製)3質量%水溶液を接着剤として、フィルムの長手方向が45゜となるように、『鹸化処理したF1〜F3/偏光膜/鹸化処理したフジTAC』 の層構成で貼り合わせて偏光板Pol1〜3を作製した。貼り合わせは良好であり、乾燥後のそり等は見られなかった。
【0210】
(実施例33:液晶表示装置の作製と評価)
VA型液晶セルを使用した26インチおよび40インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、粘着剤を用い、代わりに上記偏光板Pol−1〜3を貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。本発明のフィルムを観察者側に配置した。得られた液晶表示装置の色ムラを観察した。本発明の偏光板Pol−1〜3を組み込んだ液晶表示装置は色ムラが無く、非常に優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明の環状オレフィン系重合体およびそれを用いた光学材料は、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルム等の各種機能フィルムに有用である。また、本発明の環状オレフィン系重合体およびそれを用いた光学材料は、低コストで製造が可能であり、また優れた光学特性を備えているので、偏光板および液晶表示装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】本発明に係る溶液製膜方法に用いられるフィルム製膜ラインの概略図である。
【図2】図1に示したフィルム製膜ラインの要部拡大概略図である。
【図3】図1に示したフィルム製膜ラインの要部拡大概略図である。
【符号の説明】
【0213】
10 フィルム製膜ライン
11 ミキシングタンク
12 ドープ
13 撹拌翼
14 ポンプ
15 濾過装置
19 乾燥風
20 流延室
21 流延ダイ
22 回転ドラム
22a 着地線
22b 剥取線
22c 無ゲル膜面
23 流延ビード
23b 流延ビード背面
24 ゲル膜
25 剥取ローラ
26 フィルム
27 ガス供給装置
27a ガス管路
28,30,48,49 ガス
29 送風機
31 回収装置
31a 凝縮面
32 温度計
40,41 支持体回転軸
42,43 軸受け
44 冷媒
45 冷媒供給装置
60 テンタ室
61 乾燥室
62 乾燥機
63 ローラ
64 冷却室
65 巻取機
C1 クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記一般式(1A)で表される繰り返し単位と下記一般式(1B)で表される繰り返し単位とを含む環状オレフィン系重合体であって、共重合比率x、yが、0.03≦y/(x+y)≦0.50であり、数平均分子量が7万〜30万かつ重量平均分子量が20万〜70万である環状オレフィン重合体。
【化1】

(一般式(1A)および一般式(1B)中、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。L、Lはそれぞれ独立に単結合、または2価の連結基を表す。m、pはそれぞれ独立に0または1の整数、n、qはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。一般式(1A)中、AはCOORまたはOCORを表し、Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記AがOCOR(Rは炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す)である請求項1記載の環状環状オレフィン系重合体。
【請求項3】
さらに下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む請求項1または2に記載の環状オレフィン系重合体。
【化2】

(一般式(2)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアシル基、カルボキシル基のいずれかを表す。rは0または1の整数を表す。)
【請求項4】
前記一般式(1A)中のnと前記一般式(1B)中のqがともに1であって、置換基L−AおよびL−OHの合計のエンド比率が50〜100%である請求項2または3に記載の環状オレフィン系重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系重合体を用いてなる光学材料。
【請求項6】
前記光学材料が、薄膜、フィルムまたはシート形状である請求項5に記載の光学材料。
【請求項7】
ReとRthが下記の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の光学材料。
(1) 0≦Re≦100nm
(2) 0≦Rth≦400nm
(式中、Re,Rthは、波長590nmにおける面内のレターデーション(Re)および厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
【請求項8】
偏光子と、その両側に配置された2枚の保護フィルムからなる偏光板において、前記保護フィルムのうちの少なくとも1枚が、請求項7に記載の光学材料である偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を少なくとも1枚使用した液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−291219(P2008−291219A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94238(P2008−94238)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】