説明

環状オレフィン重合体フィルムの製造方法

【課題】 位相差フィルム等に用いることができる優れた光学等方性を有する光学フィルムをTダイ溶融押出法により高生産性で製造する方法を提供する。
【解決手段】 特定の環状オレフィン重合体をTダイ溶融押出法により溶融フィルムとして押し出し、該溶融フィルムを一個又は複数個の冷却ロールにて冷却しフィルムを製造する際に、引き取り速度10〜100m/分の範囲で引き取ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン重合体よりなる表面平滑性、厚み精度に優れる光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機EL、PDPなどに代表されるフラットパネルディスプレイは、薄型、軽量である特徴が市場ニーズにマッチし、急速に普及、あるいはその利用範囲を拡大している。これらのフラットパネルディスプレイにおいては、数々の光学フィルムが用いられており、例えば偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、透明電極フィルム、光拡散フィルム、光反射フィルム、電磁波遮蔽フィルム、ディスプレイ表面保護フィルムなどに利用されている。そして、これら光学フィルムには、ディスプレイの視認性を低下させないよう、非常に高い透明性と優れた表面平滑性および厚み精度が要求されることが一般的である。フラットパネルディスプレイに利用される光学フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、直鎖状ポリオレフィンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、熱硬化型樹脂フィルムなどを代表例として挙げることができる。
【0003】
これら光学フィルムの製造方法としては、溶液キャスト法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。溶液キャスト法は、高粘度溶液(ド−プ)を支持基板上に流延した後、加熱して大部分の溶媒を除去して自立性のあるフィルムとして支持基板から剥離し、さらに加熱乾燥して残りの溶媒を除去するフィルムの成膜法であり、フィルムに張力が加わらないため、光学等方性に優れる光学フィルムを得ることができるが、溶媒乾燥設備や溶媒回収設備を伴った非常に大規模、且つ高価な製造設備を必要し、さらに溶媒の乾燥に要する時間が長いため、生産性が乏しく、フィルムコストが高くなる問題がある。溶液キャスト法で生産性を向上させるためには、溶媒の乾燥工程を拡張する手段および溶媒の乾燥時間を短縮する手段が考えられるが、溶媒の乾燥工程を拡張する場合、製造設備はさらに大規模、且つ高価なものとなり、また、溶媒の乾燥時間を短縮する場合は、成形したフィルムに溶媒が残留し易くなり、環境への影響が懸念される。
【0004】
また、Tダイを用いた溶融押出法(以下、Tダイ溶融押出法と述べる。)は、押出機内で樹脂を溶融させ、Tダイのスリットからフィルム状に溶融樹脂を押出した後、ロールやエアーなどで冷却しつつ引き取る成形法であり、溶液キャスト法に比べて、製造設備が安価なうえに、生産性にも優れるが、フィルムの引き取り時に張力が加わるため、光学的に等方な光学フィルムとするためには引き取り速度を非常に遅くせざるを得ず、高い生産性が得られないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−189828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されている製造方法により得られる光学フィルムは、透明性、耐熱性、表面硬度等に優れるといった特徴を有するが、溶液キャスト法の問題点である溶媒乾燥設備、溶媒回収設備等の点に関しては依然として解消されていない。
【0007】
さらに、Tダイ溶融押出法は、表面平滑性の高いフィルムを高い生産性で製造できる方法として広く一般的に知られているにもかかわらず、光学等方性に優れた光学フィルムを製造するためには、引き取り速度を小さくする必要があり、経済性に劣るものである。
【0008】
そこで、本発明は、表面平滑性および厚み精度に優れた環状オレフィン重合体からなる光学フィルムの経済性にすぐれるTダイ溶融押出法により製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の環状オレフィン重合体を溶液キャスト法に対してコスト的に有利であるTダイ溶融押出法により、特定の引き取り速度で引き取ることにより、表面平滑性および厚み精度に優れる光学フィルムが生産効率良く得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の一般式(1)
【0011】
【化1】

(ここで、X及びYは独立にメチレン基、酸素原子、硫黄原子又はテルル原子を表わし、nは0または正の整数を表わす。)
で表わされる繰り返し単位からなる環状オレフィン重合体をTダイ溶融押出法により溶融フィルムとして押し出し、該溶融フィルムを一個又は複数個の冷却ロールにて冷却しフィルムを製造する際に、引き取り速度10〜100m/分の範囲で引き取ることを特徴とする光学フィルムの製造方法に関するものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明で用いる環状オレフィン重合体は一般式(1)で表される重合体であり、一般式(1)中のX及びYは独立にメチレン基、酸素原子、硫黄原子又はテルル原子を表わし、nは0または正の整数を表わす。
【0014】
一般式(1)で表される環状オレフィン重合体の製造方法としては、一般式(1)で表される環状オレフィン重合体が得られる限り如何なる方法でも可能であり、その中でも容易に一般式(1)で表される環状オレフィン重合体が得られることから、ビニルエーテル類と脂環式ジエン類のディールスアルダー反応により製造される重合性モノマーを重合し未水素添加重合体を得た後、水素化する方法を用いることが好ましい。
【0015】
重合性モノマーを得るのに用いられるビニルエーテル類としては、例えばトリシクロデカンビニルエーテルが挙げられ、脂環式ジエン類としては、例えばシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0016】
ビニルエーテル類と脂環式ジエン類のディールスアルダー反応における脂環式ジエン類のビニルエーテル類に対する仕込みモル比は0.6〜15が好ましく、特に好ましくは1.5〜10である。反応は無溶剤あるいは反応に不活性な溶媒中で行うことが可能であり、該溶媒としては、例えばペンタン、オクタン、ノナン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ハロゲン化アルカン類;ハロゲン化芳香族炭化水素類;カルボン酸エステル類;環状エーテル類;ジアルキルエーテル類等が例示される。また、反応温度は50〜300℃が好ましく、特に好ましくは100〜250℃、更に好ましくは180〜240℃である。反応方法は何ら制限はなく、バッチ反応及び連続反応の何れも用いることができ、その中でも経済性の面から連続反応が好ましい。
【0017】
本発明で用いる環状オレフィン重合体を製造する際のディールスアルダー反応により製造される重合性モノマーを重合する方法としては、特に制限はなく、その中でもメタセシス開環重合が好ましい。その際に、重合を効率よく行うことが可能であることから、メタセシス開環重合触媒を用いることが好ましく、該メタセシス開環重合触媒としては、公知のものを用いることができ、例えばルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、白金、タングステン、モリブデン、レニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(I)及び周期表1族、2族、3族、4族の金属化合物(II)を併用して用いることができる。
【0018】
具体的なタングステン、モリブデン、レニウム化合物としては、例えばハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、カルボン酸塩、アセチルアセトナート配位物、酸化物のアセチルアセトナート配位物、アセトニトリル配位物、ヒドリド錯体等が例示され、その中でも高い重合活性が付与できることからハロゲン化物、オキシハロゲン化物等が好ましく、特にWCl、WOCl、MoCl、MoOCl、ReCl、WCl(OC、MoO(acac)、W(OCOR)が好ましく、さらにWCl、MoClが好ましい。
【0019】
また、具体的な周期表1族、2族、3族、4族の金属化合物としては、例えばn−ブチルリチウム、ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、トリメチルガリウム、トリメチルスズ、n−ブチルスズ等が例示され、特にジエチルアルミニウムクロライド、テトラメチルスズ、テトラフェニルスズが好ましい。
【0020】
金属化合物(I)及び金属化合物(II)の比率は金属原子のモル比として1/1〜1/30が好ましく、特に好ましくは1/2〜1/20の範囲である。また、活性向上剤としてアルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類等を添加してもよい。
【0021】
メタセシス開環重合の際に分子量調節剤を用いることが可能であり、該分子量調節剤としては、例えばエチレン、1−ヘキセン、1−ヘプテン等のα―オレフィン類が好適に用いられ、これらは2種類以上併用することができる。分子量調節剤の使用量は重合温度、重合触媒種及び重合触媒の量により適宜選択することが可能であり、その中でも仕込みモノマー1モルあたり0.001から0.5モルが好ましく、特に0.002から0.4モルが好ましい。
【0022】
メタセシス開環重合に用いられる溶剤としては、例えばペンタン、オクタン、ノナン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ハロゲン化アルカン類;ハロゲン化芳香族炭化水素類;カルボン酸エステル類;環状エーテル類;ジアルキルエーテル類等が例示される。
【0023】
また、メタセシス開環重合の際には、他のモノマーを用い共重合することも可能であり、該他のモノマーとしては、例えば1−ヘキセン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン、トリシクロ[5.2.1.02,6]−3−デセン、トリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン、トリシクロ[6.2.1.01,8]−9−ウンデセン、トリシクロ[6.2.1.01,8]−4−ウンデセン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−11−ペンタデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−ペンタデカ−4,11−ジエン等が例示され、その中でも1−ヘキセン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン等が好ましく、特に1−ヘキセンが好ましい。
【0024】
本発明で用いる環状オレフィン重合体を得る際の未水素添加重合体の水素化としては、特に制限はなく、その中でも、反応効率よく一般式(1)で表される環状オレフィン重合体が得られることから、水素化触媒を用いることが好ましく、該水素化触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素化触媒を用いることができ、例えばパラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム等をカーボン、シリカ、アルミナ、チタニアに坦持させた坦持触媒;ナフテン酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、オクテン酸コバルト、チタノセンジクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ルテニウムハイドライドトリフェニルホスフィン等の均一触媒が例示される。また、水素化を促進するために、触媒とともに助触媒を用いることが好ましく、該助触媒としては、例えばトリエチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム類、n−ブチルリチウム等のアルキルリチウム類を使用することができる。
【0025】
用いる水素化触媒の形態は特に制限はまく、粉末状でも粒状でも問題なく用いることができる。水素化触媒の使用量は水素化するものに対して重量比で0.5〜2ppmが好適に用いられる。また、水素化率は通常60%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは98%以上である。
【0026】
水素化の際の反応圧力は、常圧〜300気圧が好ましく、特に好ましくは3〜200気圧である。反応温度としては、0〜200℃が好ましく、特に好ましくは20〜180℃である。
【0027】
水素化溶剤は特に制限はなく、上記の水素化反応条件において水素化されないものであればどのような溶剤を用いても良く、経済性、作業性の点から好ましくはメタセシス開
環重合と共通のものを用いることが好ましい。
【0028】
本発明の光学フィルムの製造方法は、光学等方性に優れる光学フィルムの製造方法に関するものであり、上記環状オレフィン重合体をTダイ溶融押出法により溶融フィルムとして押し出し、該溶融フィルムを一個又は複数個の冷却ロールにて冷却しフィルムを製造する際に、引き取り速度10〜100m/分の範囲で引き取ることを特徴とする光学フィルムの製造方法に関するものであり、本発明の光学フィルムの製造に用いることのできるフィルム製造装置の一例を図1に示し、本発明の説明を行うが本発明はこの製造装置によりなんら限定されず、さらに他の装置を付加したものであってもよい。
【0029】
ここで、図1中の符号は以下のもの、1:二軸押出機、2:真空ベント、3:ダイバーターバルブ、4:ギアポンプ、5:スクリーンチェンジャー、6:Tダイ、7:第1冷却ロール、8:巻取りフィルム、のそれぞれを示す。
【0030】
本発明でいうTダイ溶融押出法とは、押出機内で溶融混練した後、Tダイからフィルム状に押出し、この溶融フィルムを冷却ロールで冷却しつつ引き取ることを特徴とするフィルムの製造方法である。ここで、Tダイ溶融押出法では、溶融したフィルムを引き取る際にフィルムに張力が加わり、得られるフィルムは分子配向による複屈折が生じ易いことが一般的であり、従来、該Tダイ溶融押出法により光学等方性に優れる光学フィルムを製造する際には、できる限りフィルムに張力を与えず、分子配向による複屈折が生じないように、例えば10m/分未満という低速度で引き取ることが必要であった。つまり、Tダイ溶融押出法は、表面平滑性の高いフィルムを高い生産性で製造できる方法として広く一般的に知られるにもかかわらず、光学等方性に優れた光学フィルムを製造するためには、その特徴が活かし切れていないことが実状である。
【0031】
これに対し、本発明の光学フィルムの製造方法は、Tダイ溶融押出法により引き取り速度10〜100m/分、好ましくは10〜80m/分、更に好ましくは10〜50m/分と言う高速で光学フィルムを引き取ることを特徴とし、光学等方性に優れる光学フィルムを高い生産性で製造することができる。フィルムの引き取り速度は上記範囲であれば、特に制限はなく、引き取り速度の上昇により厚み精度が低下する傾向にあるため、生産性と厚み精度や光学特性のバランスを考慮して、適宜選択すればよい。
【0032】
また、Tダイ溶融押出法において、上記引き取り速度の他、フィルム特性に影響を与える成形条件として、溶融する際の温度、冷却ロールの表面温度、その中でも特に冷却ロールが複数個ある場合のTダイ側の最も上流位にある第1冷却ロールの表面温度が挙げられる。そして、本発明の製造方法において、溶融する際の温度は、吐出量や厚み等に応じて適宜選択すればよく、その中でも熱分解によるフィルム外観性の悪化を避けるため、溶融させた後Tダイから吐出されるまでの間を300℃以下に維持することが好ましく、特に290℃以下であることが好ましい。
【0033】
冷却ロールの表面温度、特に第1冷却ロールの表面温度設定は、得られる光学フィルムの外観性や光学特性に与える影響の大きい重要な製造条件の一つであり、溶融フィルムの冷却ロールへの密着性および離型性のバランスを考慮して最適化されるものである。本発明の製造方法においては、溶融フィルムの冷却ロールへの密着性が十分保持され、フィルム表面の筋模様の発生が抑制され、均一な厚みを有する光学フィルムが得られるように、冷却ロールの表面温度、特に第一冷却ロールの表面温度を示差走査熱量計(以下、DSCという。)により昇温速度10℃/minで測定した環状オレフィン重合体のガラス転移温度−40℃〜ガラス転移温度+20℃とすることが好ましく、特にガラス転移温度−35℃〜ガラス転移温度+10℃とすることが好ましい。
【0034】
本発明におけるTダイ溶融押出法の上記以外の成形条件として、スクリュー回転数、吐出量等が挙げられる。これら条件はフィルムの厚みや引き取り速度等に応じて適宜選択すればよい。また、溶融する際の酸化による熱分解や黄変を抑制するため、ホッパー、押出機シリンダー内部等を窒素パージあるいは真空にすることが好ましい。
【0035】
以下に、本発明の製造方法を実施する際の成形装置の一例を述べるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0036】
本発明に用いることのできる押出機としては、例えば単軸押出機、同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機、タンデム型押出機等が代表例として挙げられる。押出しの際に水などの揮発性成分が含まれていると、光学フィルム押出時にフィルム外観性が悪化するため、これら押出機には揮発性成分を除去するための真空ベント、ホッパドライヤー等が具備されたものが適宜使用される。また、シリンダー径、シリンダー長さとシリンダー径の比(L/D)、圧縮比、スクリューデザインは生産速度、フィルムの寸法などに応じて最適化すればよく、特に光学フィルムを製造する場合、吐出速度が安定し、摩擦発熱が抑制され、また樹脂の溶融温度を分解温度以下に維持できるように最適化すればよい。
【0037】
本発明の製造方法においては、吐出速度を安定化し、光学フィルムの流れ方向の厚み精度を向上させる為に、昇圧機能および計量機能を備えたギアポンプを押出機と組み合わせて用いることが好ましい。また、後述するフィルターシステムを通過させて異物をろ過する場合、容器内の圧力損失が押出機の押出圧力を上回る場合には、ギアポンプで昇圧することが必要となる。ただし、ギアポンプ内で溶融樹脂が滞留し、熱分解あるいは黄変する可能性があるため、滞留を防止できる構造であることが望ましい。
【0038】
また、繊維、金属、砂、樹脂あるいは添加物等の凝集物に代表される異物を除去する目的で、或いは押出機やギアポンプ内で発生した樹脂の劣化物を除去する目的で、Tダイ溶融押出工程内にフィルターを設置することが好ましい。そのようなフィルターは一般的にはスクリーンメッシュと呼ばれるステンレス等の合金製金網を用いて異物をろ過するものでもよく、特に光学フィルムを製造する場合には、フィルムの外観に対する要求が厳しいため、上記スクリーンメッシュによるろ過では異物が除去しきれない場合がある。このような場合、上記ステンレス等の合金からなる金網を積層し、各層を焼結したフィルター;ステンレス鋼の微細繊維を複雑に編み込んだ金網であり、かつ繊維間の接点を焼結したフィルター;金属粉末を焼結したフィルター(以下、これらを総称して焼結金属フィルタ−と述べる。)などを用いることが好ましく、該焼結金属フィルターはスクリーンメッシュに対して、高いろ過効率および低いろ過抵抗が得られることが一般的に知られている。該焼結金属フィルターは、例えば特開平07−124426号公報、特開平08−10521号公報、特開平10−337415号公報、特開平11−76721号公報などに開示されている。また、焼結金属フィルターをチューブ状やディスク状の形状として容器に多数組み込んだフィルターシステムを通過させて異物をろ過する方法が例えば特開平08−10522号公報などに開示されており、焼結金属フィルターを単独で用いるよりも、さらに高いろ過効率および低いろ過抵抗が得られるため、本発明の製造方法にて好適に使用することができる。ただし、フィルターシステム内で熱分解あるいは黄変する可能性があるため、フィルターシステム内の滞留時間には注意する必要があり、また、フィルターシステムは、デットスペース等に滞留が起こり難いような構造であることが望ましい。
【0039】
本発明の製造方法において、Tダイ内で幅広のフィルムに賦形されるため、フィルムの寸法は主にTダイより決定される。Tダイ内の流路は、適宜選択すればよく、ダイスとしては一般的にストレートマニホールド型、コートハンガー型、フィッシュテール型、コートハンガーマニホールド型が挙げられ、その中でも得られる光学フィルムの厚み精度を重視する場合、マニホールド型のダイスを用いることが好ましい。また、出口部分であるリップの隙間調整は、フィルムの厚み精度を決定する重要な因子の一つである。
【0040】
光学フィルムには非常に厳しい厚み精度が要求される。その一例として、位相差フィルムへの利用では、位相差量は媒体の複屈折と光路長の積であるため、複屈折がフィルム内でいかに一定であっても、フィルムの厚みむらにより位相差にむらが生じる。しかし、リップの精密な厚み調整作業には熟練者を要しても時間が掛かるため、近年ではコンピューターを駆使した自動厚み制御システムが導入され、フィルム厚み精度の向上のみならず、歩留まりの向上に大きく寄与している。そして、そのような方法として、オンラインでフィルムの厚みを計測し、その結果をもとに自動でリップの隙間調整やギアポンプの速度調製を行う方法が挙げられ、例えば特開平10−58518号公報、特開2000−127226号公報などに開示され、自動でリップを調整する方法としては、例えばヒートボルト方式、ロボット方式、リップヒータ方式、圧電素子方式などが挙げられ、本発明の製造方法においてもこれら方法を付加的に用いることもできる。
【0041】
また、Tダイのリップは、出口部分であるため、接触するリップ部に凹凸がある場合、光学フィルム表面に凹凸が転写されてしまい、冷却ロールにより形状が固化され、いわゆるダイラインなどになる。よって、特にリップ部は、電解研磨などの方法によって表面粗さを小さくすることが望ましい。さらにリップ部の表面粗さが小さくても、熱分解した樹脂がリップ部に付着していわゆる目やにとなると、リップの表面に凹凸が生じることになりダイラインが発生する原因となる。目やに防止のためには、樹脂がリップに付着し難くすることが重要であり、本発明の製造方法においてはクロムやセラミックでコートしたリップを好適に用いることができる。また、リップのエッジ部分には樹脂が滞留し易いため、リップのエッジはできる限り鋭くすることが好ましく、特に0.1mmR以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法においては、Tダイのスリットより押出された溶融フィルムを冷却ロールに密着させて冷却する。このような冷却ロール、複数個ある場合の第一冷却ロールは一般的にキャストロールやキャスティングロールと呼ばれる。そして、溶融フィルムが接触する第一冷却ロールの表面は、Tダイのリップと同様の理由により、表面粗さが小さいことが望まれる。さらに、冷却ロールが複数個ある場合、第一冷却ロールとその他の冷却ロールは、ロールの回転速度を一定に保つことが重要であり、回転速度にムラがあると、フィルム表面に幅方向のスジが発生する場合がある。
【0043】
そして、得られる光学フィルムをより効率的に冷却するためには、第一冷却ロールに巻き付かせた光学フィルムを第一冷却ロールの反対面から冷却する方法を用いることが好ましく、そのような方法としては、例えばエアーチャンバー法、タッチロール法、エアーナイフ法、ラバーロール法、冷却ドラム法、耳押えロール法、静電ピーニング法が挙げられる。また、タッチロール法として、例えば特開2002−36332号公報、特開WO97/28950号公報、特開平11−235747号公報等に弾性変形が可能なタッチロールが提案されており、これらの場合、高剛性のタッチロールを用いるよりも薄いフィルムが成形可能であり、本発明にもこれら方法を採用することができる。また、タッチロールでフィルムを第一冷却ロールの反対面から抑えることにより、表面粗さを平坦化させたり、引取り方向の分子配向を起こり難くさせる効果があるため、これらタッチロールは好ましく用いることができる。無論、第一冷却ロールの反対面からの冷却は特に行わず、放冷としてもよい。
【0044】
冷却ロールの表面温度は、得られる光学フィルムの外観に大きく影響するため、冷却ロールの表面温度は0.1℃の精度で制御することが望ましく、その際は上述したようにDSCで測定した環状オレフィン重合体のガラス転移温度−40℃〜ガラス転移温度+20℃に設定することが好ましく、その際、加圧水やオイルがロール温調の媒体として使用される。なお、温度制御の精度に優れることからオイル温調が好ましい。
【0045】
得られる光学フィルムの両端部を切断するためのスリッターを設置してもよく、その際のスリッターに制限はない。その中でも、本発明により得られる光学フィルムは比較的に硬質であるため、フィルムの破断面に微細なクラックが発生することを抑制し易いため、回転刃をフィルムの両面から押さえつけて切断するシェアカッターと呼ばれるスリッターを用いることが好ましい。
【0046】
また、得られた光学フィルム表面に繊維等の異物が付着することを防止するため、フィルムの片面、もしくは両面をマスキング処理することが好ましく、マスキング処理する装置を付加する事が好ましい。
【0047】
得られた光学フィルムの巻取り機に特に制限はなく、その中でも引き取り速度と巻き取り速度のバランス調整を行うためのアキュムレーター設備を用いることが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、機械強度の向上、光学特性の調整など目的に延伸することができ、延伸フィルムを製造する際には、延伸加工できる。延伸加工は、例えばTダイ溶融押出工程内で連続して行う工程;光学フィルムを一旦巻き取った後、該フィルムを延伸加工装置に供して延伸加工する工程;等がある。また、延伸方向はその目的により、一軸方向または二軸方向が選ばれ、一軸方向に延伸する場合、フィルム幅方向の長さが延伸前の長さに対して、延伸途中に変化しないよう拘束することが光学特性の均一な延伸フィルムを得るうえでより好ましい。一軸延伸方法として、例えばテンターにより延伸する方法、カレンダーにより圧延して延伸する方法、ロール間で延伸する方法などが挙げられ、ニ軸延伸方法としては、例えばテンターにより延伸する方法、チューブ状に膨らませて延伸する方法などが挙げられる。
【0049】
本発明により得られる光学フィルムを延伸された光学フィルムとする場合、その延伸条件としては、フィルムに厚みむらが発生し難く、得られるフィルムが機械的特性、光学的特性に優れることからDSCで測定した環状オレフィン重合体のガラス転移温度に対して1〜40℃高い延伸温度条件のもと、延伸倍率1.1〜3倍の範囲に延伸することが特に好ましい。
【0050】
本発明により得られる光学フィルムは、発明の主旨を超えない範囲で添加剤を含有してもよく、添加方法としては、環状オレフィン重合体を製造する工程で添加する方法、Tダイ溶融押出工程にて環状オレフィン重合体および添加剤をドライブレンドしてホッパーに供給し、押出機内で溶融混練する方法などが挙げられる。添加剤としては、例えば界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等の一般的な添加剤が挙げられる。
【0051】
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤等が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独で用いてもよく、それぞれを併用して用いても良い。そして、相乗的に酸化防止効果が向上することからヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100〜500重量部で混合して使用することが好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、樹脂100重量部に対して通常0.001〜2重量部が好ましく、特に0.01〜1重量部の範囲であることが好ましい。
【0052】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド)、ジエチル((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスフェート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート)、ヘキサメチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス((4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。
【0053】
リン系酸化防止剤としては、例えばトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト、テトラキス(2,4−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ジ−t−ブチル−m−クレジル−ホスフォナイト、などが挙げられる。
【0054】
また、ヒンダードアミン系光安定剤としては、熱着色抑制効果に優れることから分子量が1,000以上のものが好ましく、特に1,500以上であることが好ましい。さらに、ヒンダードアミン系光安定剤の添加量は、熱着色防止効果および光安定化効果に優れることから樹脂100重量部に対して0.01重量部〜1.5重量部を用いることが好ましく、特に0.05重量部〜1.0重量部が好ましく、さらに0.1重量部〜0.5重量部であることが好ましい。
【0055】
このようなヒンダードアミン系光安定剤としては、例えばポリ((6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))(分子量1,600)、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5―トリアジン−2、4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))(分子量2,000〜3,100)、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス( N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物(分子量2,000以上)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン縮合物(分子量3,100〜4,000)などが挙げられ、これらは一種類以上で用いることができる。
【0056】
紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて添加することもできる。
【0057】
また、本発明の製造方法においては、Tダイ溶融押出時の摩擦発熱の抑制、押出安定性の向上などを目的として滑剤を添加してもよく、滑剤の添加量は1〜10000ppmが好ましく、特に5〜2000ppmが好ましく、さらに10〜500ppmであることが好ましい。そのような滑剤としては、例えば流動パラフィン、天然パラフィン、ポリエチレンワックスなどの脂肪族炭化水素系滑剤;セチルアルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸などの高級脂肪族系アルコール・高級脂肪酸系滑剤;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミドなどの脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウムなどの金属石鹸系滑剤;ステアリン酸ブチル、ステアリン酸エチレングリコールなどの脂肪酸エステル系滑剤;複合滑剤などが挙げられる。
【0058】
本発明により得られる光学フィルムは、光学部品として用いられるフィルムとして優れたものとなることから全光線透過率85%以上、ヘイズ2%以下であるフィルムであることが好ましい。光学フィルムの厚みは、フィルムの厚み精度、機械特性、外観に優れるものとなることから10〜300μmであることが好ましく、特に10〜200μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0059】
以上から明らかなように、本発明の製造方法ではTダイ溶融押出法にて高い生産性で光学フィルム供給することが可能となる。本発明により得られる光学フィルムは、優れた表面平滑性及び厚み精度に優れることから、LCDなどで使用される透明電極フィルム、偏光膜保護フィルム、位相差フィルムなどとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を説明するが、本実施例は何ら本発明を制限するものではない。実施例に用いた原料及び入手は下記の通りであり、他の試薬については断りのない限り市販品を用いた。
【0061】
ジシクロペンタジエン:和光純薬 試薬一級
トリシクロデカンビニルエーテル:丸善石油化学製TCD−VE
ヒドロキノン:和光純薬 試薬一級
実施例に示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0062】
〜重量平均分子量〜
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製 HLC−802A)を用い、ポリスチレン換算により求めた。
【0063】
H−NMR測定
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GSX270型)を用い、60℃重トルエン中にてH−NMRを測定することにより、組成、水素化率を算出した。
【0064】
〜ガラス転移温度〜
示差走査熱量計(セイコー電子工業株式会社製、商品名DSC200)を用い、昇温速度10℃/分で測定した。
【0065】
〜全光線透過率〜
日本分光(株)製 紫外可視分光器(V530)を用い、フィルム中心部の全光線透過率を測定した。
【0066】
〜表面平滑性〜
(株)キーエンス製 レーザー顕微鏡(VK−8550)を用い、中心線平均粗さ(Ra)を求め、この値が小さい場合に表面平滑性に優れることとした。
【0067】
参考例1(重合性モノマーの合成)
300mlのガラス製蒸留装置に100mlのジシクロペンタジエンを仕込み、マントルヒータ−で220℃に加熱して、熱分解により生成したシクロペンタジエンの沸点39.5℃の留分をドライアイスメタノール浴で冷却した受器中に液化させる手法で分離した。
【0068】
次に、シクロペンタジエン16.26グラム(0.247モル)、トリシクロデカンビニルエーテル76g(0.37モル)、及びヒドロキノン0.1グラム(1ミリモル)を300mlのステンレス製オートクレーブに仕込み、窒素置換した後、220℃に加熱し、加熱状態で5間反応させた。その後、反応器を冷却し、内容物から原料であるトリシクロデカンビニルエーテルを減圧蒸留により分離し、更にシクロペンタジエンが付加したトリシクロデカンビニルエーテル(トリシクロデカニル−トリシクロデセニルエーテル)(モノマー1)を主成分として含むモノマー1を分離した。収量は8グラムであった。
【0069】
なお、得られたモノマー1は、一般式(2)で表されるシクロペンタジエン1モルが付加したもの(成分I)に加えて、一般式(3)で表される成分Iに更にシクロペンタジエンが付加したもの(成分II)を含んでおり、これら成分の存在比は成分I:成分II=90:10(重量比)であった。生成物の存在比はH−NMRによる二重結合部分、メチン、及びメチレン部の水素の強度比から計算したものと一致した。
【0070】
【化2】

合成例1(環状オレフィン重合体の合成)
窒素置換した300mlの反応器に、シクロヘキサン100ml、参考例1で得られたモノマー1 8グラム、触媒として六塩化タングステンの濃度0.1モル/lのクロロベンゼン溶液2ml及びジエチルアルミニウムクロライドの濃度0.1モル/lのクロロベンゼン溶液0.2mlを仕込み、窒素気流下、60℃で、攪拌速度100rpmにて攪拌下、5時間反応させた。得られた反応溶液をメタノールに注ぎ単離し、メタノールで数回洗浄を行った後、40℃で一昼夜減圧乾燥を行い、7.9gの未水素添加重合体を得た。GPC測定により、得られた未水素添加重合体の重量平均分子量は120000であった。
【0071】
得られた未水素添加重合体7グラム、トルエン30グラム、ルテニウムハイドライドトリフェニルホスフィン錯体0.1mgを100ccのステンレスオートクレーブに仕込み攪拌して、均一溶液を得た。引き続き、水素ガス圧10MPa、温度160℃において、4時間攪拌下、水素化反応を行った。反応溶液を冷却後、過剰な水素を放出、脱圧後、反応溶液を大量の塩酸―メタノール溶液に注ぎ、単離し、50℃で一昼夜減圧乾燥して7gの環状オレフィン重合体を得た。この環状オレフィン重合体の重量平均分子量は150000、ガラス転移温度は171℃であった。また、水素化率は99.5%であった。
【0072】
合成例2(環状オレフィン重合体の合成)
窒素置換した500mlの反応器に、シクロヘキサン180ml、参考例1で得られたモノマー1 20グラム、触媒として六塩化タングステンの濃度0.1モル/lのクロロベンゼン溶液4ml及びジエチルアルミニウムクロライドの濃度0.1モル/lのクロロベンゼン溶液0.4mlを仕込み、窒素気流下、60℃で、攪拌速度100rpmにて攪拌下、5時間反応させ、続いて、ルテニウムハイドライドトリフェニルホスフィン錯体0.2mgを仕込み、更に水素ガスを圧入し10MPaの圧力下、温度160℃において、5時間攪拌下、水素化反応を行った。反応溶液を冷却後、過剰な水素を放出、脱圧後、反応溶液を大量の塩酸―メタノール溶液に注ぎ、単離し、50℃で一昼夜減圧乾燥して14gの環状オレフィン重合体を得た。この環状オレフィン重合体の重量平均分子量は120000、ガラス転移温度は171℃であった。また、水素化率は99.4%であった。
【0073】
合成例3(環状オレフィン重合体の合成)
窒素置換した500mlの反応器に、シクロヘキサン180ml、参考例1で得られたモノマー1 20グラム、1−ヘキセン0.015g、六塩化タングステンの濃度0.1モル/lのクロロベンゼン溶液4ml及びジエチルアルミニウムクロライドの濃度0.1モル/lのクロロベンゼン溶液0.4mlを仕込み、窒素気流下、60℃で、攪拌速度100rpmにて攪拌下、5時間反応させ、続いてルテニウムハイドライドトリフェニルホスフィン錯体0.2mgを仕込み、更に水素ガスを圧入し10MPaの圧力下、温度160℃において、5時間攪拌下、水素化反応を行った。反応溶液を冷却後、過剰な水素を放出、脱圧後、反応溶液を大量の塩酸―メタノール溶液に注ぎ、単離し、50℃で一昼夜減圧乾燥して14gの環状オレフィン重合体を得た。この環状オレフィン重合体の重量平均分子量は60000、ガラス転移温度は170℃であった。また、水素化率は99.8%であった。
【0074】
実施例1
合成例1により得られた重合体を図1で示すフィルム成形装置に投入した。その際のフィルム化条件は、Tダイ出口の温度265℃、引取り速度10m/分、第一冷却ロール表面温度135℃とし、幅約500mm、厚み約100μmのフィルムとした。フィルムを一片200mmの正方形に裁断し、全光線透過率、Raを測定した。その結果を表1に示す。
【0075】
得られたフィルムは光学等方性に優れる光学フィルムであり、かつ表面平滑性および厚み精度に優れるものであった。
【0076】
実施例2
合成例2により得られた重合体を図1で示すフィルム成形装置に投入した。その際のフィルム化条件は、Tダイ出口の溶融樹脂温度270℃、引取り速度30m/分、第一冷却ロール表面温度135℃とし、幅約500mm、厚み約100μmのフィルムとした。フィルムを一片200mmの正方形に裁断し、全光線透過率、Raを測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
得られたフィルムは光学等方性に優れる光学フィルムであり、かつ表面平滑性および厚み精度に優れるものであった。
【0078】
実施例3
合成例3により得られた重合体を図1で示すフィルム成形装置に投入した。その際のフィルム化条件は、Tダイ出口の溶融樹脂温度275℃、引取り速度50m/分、第一冷却ロール表面温度135℃とし、幅約500mm、厚み約100μmのフィルムとした。フィルムを一片200mmの正方形に裁断し、全光線透過率、Raを測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
得られたフィルムは光学等方性に優れる光学フィルムであり、かつ表面平滑性および厚み精度に優れるものであった。
【0080】
比較例1
合成例1により得られた重合体を図1で示すフィルム成形装置に投入した。その際のフィルム化条件は、Tダイ出口の溶融樹脂温度275℃、引取り速度8m/分、第一冷却ロール表面温度135℃とし、幅約500mm、厚み約100μmのフィルムとした。フィルムを一片200mmの正方形に裁断し、全光線透過率、Raを測定した。その結果を表1に示す。
【0081】
得られたフィルムはRaが大きく表面平滑性に劣っていた。
【0082】
比較例2
合成例1により得られた重合体を図1で示すフィルム成形装置に投入した。その際のフィルム化条件は、Tダイ出口の溶融樹脂温度275℃、引取り速度110m/分、第一冷却ロール表面温度135℃とし、幅約500mm、厚み約100μmのフィルムとした。フィルムを一片200mmの正方形に裁断し、全光線透過率、Raを測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
得られたフィルムはRaが大きく表面平滑性に劣っていた。
【0084】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】;本発明の製造方法に用いられる光学フィルム成形装置の一例。
【符号の説明】
【0086】
1;二軸押出機
2;真空ベント
3;ダイバーターバルブ
4;ギアポンプ
5;スクリーンチェンジャー
6;Tダイ
7;第一冷却ロール
8;巻取りフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
【化1】

(ここで、X及びYは独立にメチレン基、酸素原子、硫黄原子又はテルル原子を表わし、nは0または正の整数を表わす。)
で表わされる繰り返し単位からなる環状オレフィン重合体をTダイ溶融押出法により溶融フィルムとして押し出し、該溶融フィルムを一個又は複数個の冷却ロールにて冷却しフィルムを製造する際に、引き取り速度10〜100m/分の範囲で引き取ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
冷却ロールの中でTダイ側の最も上流位に設置した第一冷却ロールの表面温度を示差走査熱量計により昇温速度10℃/minで測定した環状オレフィン重合体のガラス転移温度−40℃〜ガラス転移温度+20℃の範囲に設定し、溶融フィルムを冷却することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−299110(P2006−299110A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123844(P2005−123844)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】