説明

環状ジアミン化合物及びこれを含有する医薬

【課題】
副作用が少なく、効果の高い高脂血症及び動脈硬化症等の予防・治療剤の提供。
【解決手段】
2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド又はその塩、その製造中間体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強力なACAT阻害活性及び高い代謝抵抗性を有し、優れた血管脂質沈着抑制効果を発揮する環状ジアミン化合物又はその塩及びその製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
アシル コエンザイム A コレステロール アシルトランスフェラーゼ(ACAT)は、コレステロールからコレステロールエステルへの合成を触媒する酵素であり、コレステロールの代謝と消化管での吸収に重要な役割を果たすものである。これまでの抗高脂血症剤、抗動脈硬化剤としてのACAT阻害剤の多くは小腸、肝臓のACATに作用し、血中コレステロールの低下作用を促すものであったが、腸管出血、腸管障害、下痢や肝障害等の副作用が問題とされていた。
【0003】
最近の研究によれば、粥状動脈硬化の病巣では泡沫化したマクロファージが観察され、このマクロファージの泡沫化が病変の進展に深く関わっていることが明らかにされ、当該マクロファージの泡沫化を抑えることにより動脈硬化病巣そのものの退縮が期待できると考えられている。また、動脈硬化病変部位では、血管壁に存在するACATの活性が亢進しており、血管壁にコレステロールエステルが蓄積していることから血管壁のACAT活性と動脈硬化症との関わりが強いと考えられている(非特許文献1)。従って、血管壁におけるACATの活性を阻害すれば、ACATによる遊離コレステロールからコレステロールエステルへの変換が抑制され、一方、細胞内に存在する遊離コレステロールは高比重リポ蛋白質(HDL)により細胞内から取り去られ肝臓に運ばれ(HDLによる逆転送)、代謝されることから、動脈硬化病変部位でのコレステロールエステルの蓄積は抑制されることが期待される(非特許文献2)。
【0004】
かように、血管壁に存在するACATを阻害するACAT阻害物質は、直接的な動脈硬化治療剤になり得ると考えられ、斯かる物質の創製が望まれていた。
【0005】
斯かる状況の下、本発明者らは、下記の一般式(A)
【0006】
【化1】

【0007】
〔式中、Arは置換基を有してもよいアリール基を示し、
【0008】
【化2】

【0009】
は、置換基を有してもよいベンゼン、ピリジン、シクロヘキサン、又はナフタレンの2価残基を示し、XはNH、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは硫黄原子等を示し、Zは単結合等を示し、lは0から15の整数を示し、mは2又は3の整数を示し、nは1から3の整数を示す〕
で表される環状ジアミン化合物、これらの塩又はこれらの溶媒和物が、血管壁に存在するACATを強く阻害し、副作用の少ない動脈硬化症の予防・治療剤になりうることを見出し、先に特許出願した(特許文献1)。更に、本発明者らは、当該一般式(A)に包含される化合物のうち、下記の化合物(B)、この塩又はこの溶媒和物が、血管壁選択的なACAT阻害剤として優れた作用を有し、且つ経口吸収性に優れることを見出し、特許出願した(特許文献2)。
【0010】
【化3】

【0011】
しかしながら、化合物(B)は、in vitroにおけるヒト肝臓ミクロソーム試験において、代謝抵抗性が低いことが明らかになった。従って、高い代謝抵抗性を兼ね備えた血管壁に存在するACATを強く阻害するACAT阻害剤が望まれている。
【特許文献1】国際公開第98/54153号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/018564号パンフレット
【非特許文献1】Exp. Mol. Pathol., 44, 329-339 (1986)
【非特許文献2】Biochim. Biophys. Acta. 2001 15, 1530(1): 111-122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、血管壁に存在するACATを強く阻害し、しかも肝臓ミクロソームの代謝に対して高い抵抗性を示し、且つ副作用が少なく、動脈硬化症の予防・治療剤として臨床上有用な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
斯かる実情の下、本発明者らは、更に研究を重ねた結果、上記環状ジアミン化合物(A)のうち、新たに見出された4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)アセトアミド基と7−トリフルオロメチルベンズオキサゾールチオエチル基を有する2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド(化合物(1)、当該構造を下記に示す。)又はその塩が、血管壁に存在するACATの阻害作用を有すると共に、前記化合物(B)と比べて、ヒト肝臓ミクロソームに対して遙かに高い代謝抵抗性を有し、且つin vivoにおいて優れた血管脂質沈着抑制効果を発揮し、コレステロール類の蓄積を伴う各種疾患の予防・治療剤として極めて有用であることを見出した。化合物(1)の構造を下記式(1)に示す。
【0014】
【化4】

【0015】
すなわち、本発明は、2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド(化合物(1))又はその塩を提供するものである。
【0016】
また本発明は、上記化合物(1)又はその塩を有効成分とする医薬を提供するものである。
【0017】
また本発明は、上記化合物(1)又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を提供するものである。
【0018】
また本発明は、上記化合物(1)又はその塩を投与することを特徴とする動脈硬化症又は高脂血症の処置方法を提供するものである。
【0019】
更に本発明は、下記式(2)で表される2,6−ビス(トリフルオロメチル)アニリン化合物及びそのアニリド誘導体を提供するものである。
【0020】
【化5】

【0021】
〔式中、R1は水素原子又はXCH2CO−基(ここで、Xはハロゲン原子を示す)を示し、R2は置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよいベンジル基及び置換基を有していてもよいシリル基から選ばれる保護基を示す。〕
【発明の効果】
【0022】
本発明の環状ジアミン化合物は、血管壁に存在するACATの阻害作用を有すると共にヒト肝臓ミクロソームに対して極めて高い代謝安定性を有し、in vivoにおいて優れた血管脂質沈着抑制効果を発揮することから、副作用が少なく、効果の高い高脂血症及び動脈硬化症等の予防・治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明化合物(1)は、下記式で示すとおり、ベンズオキサゾール環上に1個のトリフルオロメチル基を有するベンズオキサゾールチオエチル部位と、ベンゼン環上に2個のトリフルオロメチル基を有するヒドロキシフェニルアセトアミド部位をピペラジンで結合した環状ジアミン化合物である。斯かる構造を有する化合物は、前記特許文献には全く記載されていない。
【0024】
【化6】

【0025】
本発明化合物(1)の塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、及びメタンスルホン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、酪酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、サリチル酸塩、パントテン酸塩、タンニン酸塩、エタンジスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、パモ酸塩、グルコン酸塩等の有機酸塩などが挙げられる。
【0026】
また、本発明化合物(1)又はその塩は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物としては、製造時、精製時などに用いた溶媒、例えば、水、アルコールなどが付加したものであり、ACAT阻害作用などに悪影響を及ぼさないものであれば特に制限されるものではない。溶媒和物としては水和物が好ましい。
【0027】
本発明化合物(1)は、任意の方法で製造されるが、その一例を示せば以下のとおりである。
【0028】
【化7】

【0029】
〔式中、Xはハロゲン原子を示し、R2は置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよいベンジル基及び置換基を有していてもよいシリル基から選ばれる保護基を示す。〕
【0030】
すなわち、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノール(3)をニトロ化して、4−ニトロ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノール(4)を得、当該化合物の水酸基をR2で示される保護基で保護して化合物(5)とし、当該化合物のニトロ基を還元して化合物(2a)とし、次いでこれにハロゲノ酢酸又はその反応性誘導体を反応させることによりハロゲノアセトアミド化合物(2b)が得られる。次いで、当該化合物(2b)に1−[2−[7−トリフルオロベンズオキサゾール−2−イルチオ]エチル]ピペラジン(6)を反応させて化合物(7)とし、次いで保護基R2を脱離することにより、本発明化合物(1)を得ることができる。
【0031】
上記反応式中、化合物(1)、化合物(2a)、化合物(2b)は新規化合物であり、化合物(2a及び2b)は、化合物(1)の製造中間体として有用である。
【0032】
尚、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、臭素原子が好ましい。
【0033】
2で示される置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよいベンジル基及び置換基を有していてもよいシリル基から選ばれる保護基としては、水酸基を種々の反応から保護し、加水分解、加水素分解、還元反応等により容易に脱離し得るものであれば使用できる。ここで、「低級」とは炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を意味する。具体的には、置換基を有していてもよい低級アルキル基としては、例えばメチル基、tert−ブチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられ、置換基を有していてもよい低級アルケニル基としては、例えばアリル基等が挙げられる。また、置換基を有していてもよいベンジル基としては、例えばベンジル基、4−メトキシベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、2,6−ジメチルベンジル基等が挙げられ、置換基を有していてもよいシリル基としては、例えばtert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基等が挙げられる。
【0034】
以下、本発明化合物(1)の上記各反応工程毎に説明する。
【0035】
化合物(3)のニトロ化は、特開平7−167862号公報の実施例1に準じて製造すればよい。
【0036】
化合物(4)の保護基R2の導入は、THEODORA W. GREEN. PETER G.N. WUTS著「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS 3rd Ed.」,JOHN WILEY.SOPS,INC.を参考に行うことができる。
【0037】
化合物(5)の還元は、1)亜二チオン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素等の含硫還元剤、2)亜鉛、鉄、塩化第一スズ等の金属還元剤による還元反応、又は3)水素雰囲気下、接触還元反応によるのが好ましい。含硫還元剤による反応は、例えば化合物(5)をイソプロパノール、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解し、80℃にて、含硫還元剤の水溶液を加え、10分〜2時間反応させることにより行なわれる。金属還元剤による反応は、例えば化合物(5)をエタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒、酢酸及びそれらの含水溶媒に溶解し、0〜100℃にて30分から24時間反応させることにより行なわれる。反応は、必要に応じて、塩酸、硫酸等の酸を加えてもよい。また、接触還元反応は、化合物(5)をジオキサン、酢酸、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の単一又は混合溶媒に溶解し、ラネーニッケル、パラジウム炭素、水酸化パラジウム、パラジウム黒等の触媒存在下、水素雰囲気下で、0〜50℃にて30分〜12時間、好ましくは、室温にて、30分〜3時間反応させることにより行なわれる。
【0038】
化合物(2a)と反応させるハロゲノ酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸が挙げられる。ハロゲノ酢酸の反応性誘導体としては、ハロゲノ酢酸ハライド、ハロゲノ酢酸無水物等が挙げられる。化合物(2a)とハロゲノ酢酸ハライドを反応させるのが好ましい。化合物(2a)とハロゲノ酢酸ハライドの反応は、例えば塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエン等の溶媒中、N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン等の塩基の存在下、0〜120℃にて10分〜5時間反応させる。好ましくは、トルエン中、N,N−ジメチルアニリン存在下100℃にて3〜5時間反応させることにより行なわれる。
【0039】
斯くして得られた化合物(2b)と化合物(6)との反応は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩基の存在下、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、THF、アセトニトリル単一又はそれらの含水溶媒中、室温〜50℃にて5時間〜30時間、好ましくは室温にて10〜20時間反応させることにより行なわれる。
【0040】
化合物(7)の保護基の脱離は、既知の方法、例えば加水分解、加水素分解、還元反応等により行なえばよい。
【0041】
尚、化合物(6)は、国際公開03/018564号パンフレットの実施例8等の製造法によって得ることができる。
【0042】
得られた本発明化合物(1)の単離精製手段は、洗浄、抽出、再結晶、各種クロマトグラフィー等を適宜組み合せて行うことができる。また、前記酸付加塩への変換も常法によって行うことができる。
【0043】
斯くして得られた化合物(1)及びその塩は、前述した化合物(B)と同等以上の強いACAT阻害活性を有すると共に(試験例1)、in vitroでのヒト肝臓ミクロソームに対する代謝抵抗性試験において、30分後の未変化体の残存率が、化合物(B)が1%であるのに対して化合物(1)は38%と、約40倍高い代謝抵抗性を示す(試験例2)。そして、動脈硬化モデル動物を用いた脂質沈着抑制試験においては、化合物(1)投与群の大動脈の脂質沈着抑制率が43%であるのに対し、化合物(B)投与群は28%であり、化合物(1)はin vivoで血管における顕著な脂質沈着抑制効果を発揮する(試験例3)。従って、本発明の化合物(1)は、血管壁におけるコレステロールの蓄積に伴う各種疾患に対して、より有用な医薬となり得る。当該疾患としては、例えば高脂血症、動脈硬化症、頸部及び脳動脈硬化症、脳血管障害、虚血性心疾患、虚血性腸疾患、冠状動脈硬化症、腎硬化症、動脈硬化性腎硬化症、細動脈硬化性腎硬化症、悪性腎硬化症、虚血性腸疾患、急性腸管膜血管閉塞症、慢性腸管アンギーナ、虚血性大腸炎、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症(ASO)等が挙げられる。
【0044】
本発明化合物(1)を医薬又は医薬組成物として用いる場合には、本発明化合物(1)又はその塩を単独で又は薬学的に許容される賦形剤、結合剤、希釈剤などの担体を用いて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、注射剤、坐剤等の剤型とすることができる。これらの製剤は公知の方法で製造することができる。例えば経口投与用製剤とする場合には、本発明化合物(1)を澱粉、マンニトール、乳糖等の賦形剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤:結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤:タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤:軽質無水ケイ酸等の流動性向上剤などを適宜組み合せて処方することにより製造することができる。
【0045】
本発明の医薬は、経口投与又は非経口投与により投与されるが、経口投与により投与するのが好ましい。
【0046】
本発明の医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、本発明化合物(1)として、通常成人の場合、1日1〜500 mg、好ましくは5〜200 mgを1〜3回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
製造例1 4-ニトロ-3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノールの合成
3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノール (28.5 g, 123.9 mmol) の酢酸 (300 mL) 溶液に、約10℃の温度で発煙硝酸 (8.22 mL, 198.2 mmol) を滴下した。室温に昇温後、43時間攪拌した。反応液を氷水中に注ぎ、得られた溶液を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、水及び飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒;ヘキサン:アセトン = 15:1→10:1) を用いて精製し、粗生成物を得た。得られた粗生成物を、エバポレーターを用い、減圧 (3 mmHg) 下、80℃にて異性体を昇華分離によって、2-ニトロ-3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノールを留去し、4-ニトロ-3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノール 10.1 g (収率 29.7 %) を黄色針状晶として得た。
【0049】
融点:156−158 ℃
IR (KBr):3412, 3111, 3071, 1611, 1549, 1464.
1H-NMR (CDCl3) δ:6.36 (1H, s), 7.39 (2H, s).
EIMS m/z (relative intensity):275 (M+), 245 (100).
【0050】
実施例1 4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ニトロベンゼンの合成
4-ニトロ-3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノール (12.0 g, 43.6 mmol) のアセトン (250 mL) 溶液に氷冷下、炭酸カリウム (7.23 g, 52.3 mmol) 及び臭化ベンジル (5.45 mL, 45.8 mmol) を加えた。50℃で13時間攪拌後、反応液を濾過し、不溶物をアセトンで洗浄した。濾液を減圧留去して得られた残渣に酢酸エチル及び水を加えて有機層を分離し、水層を更に酢酸エチルで2回抽出した。有機層を合わせ、水及び飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をヘキサン-アセトンより再結晶し、4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ニトロベンゼン 15.0 g (収率 94.3 %) を淡黄色針状晶として得た。
【0051】
融点:141−143 ℃
IR (KBr):3433, 3118, 3033, 2916, 1617, 1605, 1546.
1H-NMR (CDCl3) δ:5.20 (2H, s), 7.37-7.45 (5H, m), 7.47 (2H, s).
EIMS m/z (relative intensity):365 (M+), 91 (100).
【0052】
実施例2 4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)アニリンの合成
4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ニトロベンゼン (9.00 g, 24.6 mmol) にイソプロパノール (450 mL) を加え、70℃にて加熱溶解し、そこに亜二チオン酸ナトリウム (14.1 g, 81.2 mmol) の水 (150 mL) 溶液を滴下した。同温度で30分間攪拌後、更に亜二チオン酸ナトリウム (7.28 g, 41.8 mmol) の水 (150 mL) 溶液を滴下した。同温度で14時間攪拌後、イソプロパノールを減圧留去した。得られた懸濁液に、酢酸エチルを加えて有機層を分離し、水層を更に酢酸エチルで2回抽出した。有機層を合わせ、水及び飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)アニリン 8.26 g (収率 100 %) を無色針状晶として得た。
【0053】
融点:58−59 ℃
IR (KBr):3500, 3425, 3041, 2903, 1645, 1595, 1494.
1H-NMR (CDCl3) δ:4.38 (2H, br s), 5.02 (2H, s), 7.28 (2H, s), 7.31-7.43 (5H, m).
EIMS m/z (relative intensity):335 (M+), 91 (100).
【0054】
実施例3 N-[4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-2-ブロモアセトアミドの合成
アルゴン雰囲気下、4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)アニリン (4.90 g, 14.6 mmol) の無水トルエン (150 mL) 溶液に、氷冷下でN,N-ジメチルアニリン (2.78 mL, 21.9 mmol) 及びブロモアセチルブロミド (1.91 mL, 21.9 mmol) を滴下した。直ちに加熱還流し、1時間攪拌した。反応液を冷却後セライト濾過し、不溶物をトルエンで洗浄した。濾液を減圧留去して得られた残渣を、シリカゲルカラムカラムクロマトグラフィー (展開溶媒;ヘキサン:アセトン = 10:1→6:1→5:1) を用いて精製し、得られた粗生成物をヘキサン-アセトンより再結晶し、N-[4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-2-ブロモアセトアミド 4.31 g (収率 64.7 %) を無色針状晶として得た。
【0055】
融点:173−175 ℃
IR (KBr):3246, 3028, 2997, 1682, 1622, 1516, 1483.
1H-NMR (DMSO-d6) δ:4.01 (2H, s), 5.32 (2H, s), 73.1-7.51 (5H, m), 7.67 (2H, s), 10.2 (1H, s).
EIMS m/z (relative intensity):457(M++1), 455 (M+-1), 91 (100).
【0056】
実施例4 2-[4-[2-(7-トリフルオロメチルベンゾオキサゾール-2-イルチオ)エチル]ピペラジン-1-イル]-N-[4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミドの合成
4-[2-[7-トリフルオロベンズオキサゾール-2-イルチオ]エチル]ピペラジン・2トリフルオロ酢酸塩(国際公開2003/018564号パンフレット、実施例8) (5.73 g, 10.24 mmol) 及び炭酸カリウム (6.06 g, 43.9 mmol) のアセトニトリル (400 mL) 溶液に氷冷下でN-[4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-2-ブロモアセトアミド (4.45 g, 9.75 mmol) のアセトニトリル (100 mL) 溶液を滴下した。50℃に昇温して13時間攪拌した。溶媒を減圧留去後、水及び酢酸エチルを加え、有機層を分離した。水層を更に酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、水及び飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒;クロロホルム:アンモニア飽和メタノール = 200:1) を用いて精製し、2-[4-[2-(7-トリフルオロメチルベンゾオキサゾール-2-イルチオ)エチル]ピペラジン-1-イル]-N-[4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド 8.50 g (収率 91.1 %)を得た。更に得られた結晶をアセトンより再結晶し無色針状晶として得た。
【0057】
融点:156−158 ℃
IR (KBr):3313, 2947, 2828, 1719, 1702, 1625, 1599.
1H-NMR (CDCl3) δ:2.56-2.80 (8H, m), 2.85 (2H, t, J = 6.9 Hz), 3.15 (2H, s), 3.50 (2H, t, J = 6.9 Hz), 5.13 (2H, s), 7.34-7.50 (9H, m), 7.76 (1H, d, J = 7.8 Hz), 8.82 (1H, s).
EIMS m/z (relative intensity):706 (M+), 91 (100).
【0058】
実施例5 2-[4-[2-(7-トリフルオロメチルベンゾオキサゾール-2-イルチオ)エチル]ピペラジン-1-イル]-N-[4-ヒドロキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミドの合成
2-[4-[2-(7-トリフルオロメチルベンゾオキサゾール-2-イルチオ)エチル]ピペラジン-1-イル]-N-[4-ベンジルオキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド (6.5 g 9.20 mmol) 及びチオアニソール (54 mL, 460 mmol) のトリフルオロ酢酸 (100 mL) 溶液を室温にて22時間攪拌した。溶媒を減圧留去後、水およびクロロホルムを加えて、有機層を分離した。水層を更にクロロホルムで抽出した。有機層を合わせ、水及び飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:アセトン = 5:1) を用いて精製し、2-[4-[2-(7-トリフルオロメチルベンゾオキサゾール-2-イルチオ)エチル]ピペラジン-1-イル]-N-[4-ヒドロキシ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド 4.91 g (収率 86.6 %)を得た。更に得られた結晶をアセトンより再結晶し無色微少針状晶として得た。
【0059】
融点:176−177 ℃
IR (KBr):3203, 2947, 2827, 1679, 1621, 1601, 1507.
1H-NMR (CDCl3) δ:.2.55-2.80 (8H, m), 2.85 (2H, t, J = 6.9 Hz), 3.21 (2H, s), 3.50 (2H, t, J = 6.9 Hz), 6.99 (2H, s), 7.37 (1H, t, J = 7.9 Hz), 7.47 (1H, d, J = 7.9 Hz), 7.76 (1H, d, J = 7.9 Hz), 8.89 (1H, s), 9.09 (1H, s).
EIMS m/z (relative intensity):616 (M+), 98 (100).
元素分析:C24H21F9N4O3S1として
計算値:C, 46.76; H, 3.43; N, 9.09; F, 27.73.
実測値:C, 46.66; H, 3.51; N, 9.07; F, 27.85.
【0060】
試験例
本発明の化合物(1)について、コレステロールエステル蓄積抑制作用、ヒト肝臓ミクロソーム代謝安定性、大動脈脂質沈着抑制作用に対する各試験結果を試験例1〜3に示す。尚、比較化合物として、国際公開第03/018564号パンフレットに記載の2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)アセトアミド(化合物(B))を用いた。
【0061】
試験例1 J774細胞におけるコレステロールエステル蓄積抑制作用(ACAT阻害活性)
24wellプレートにJ774細胞(2×105cells/well)を播種し、500 μLのDMEM(10%FBS)で24時間培養した。培地を交換後、25-hydroxycholesterol(10 μg/mL)及び供試化合物(終濃度 0, 10-9〜10-5 mol/L)を添加し18時間培養した。0.9 % NaClで洗浄後、ヘキサン-イソプロパノール(3:2) 250 μLで脂質を抽出した。ヘキサン-イソプロパノール(3:2) 250 μLで再度脂質を抽出し、抽出液を合わせ、留去後、得られたコレステロールエステル(CE)を蛍光酵素法により定量した。また、脂質抽出後の細胞についてタンパク定量(micro BCA法)を実施し、1 mg protein当たりのCE量を求めた。コントロールに対する供試化合物のCE生成比からIC50(CE生成を50 %抑制する薬剤濃度)を算出した。N=4で実施した。結果を表1に示す。
【0062】
本発明の化合物(1)は、表1に示す比較化合物(B)とほぼ同等の強いACAT阻害活性を有することが確認された。
【0063】
【表1】

【0064】
試験例2 ヒト肝ミクロソーム代謝安定性試験
下表2に従って、0.1 mol/Lリン酸緩衝液(3.3 mM塩化マグネシウム入り)(pH 7.4)にNRS(NADPH生成系)試液、16 %ヒト血清アルブミンを加え、そこに供試化合物(100 μM)のアセトニトリル(0.01 mL)溶液を加えた。37℃温浴中で5分間プレインキュベーション後、ヒト肝臓ミクロソーム(POOLED HUMAN LIVER MICROSOMES、Lot.No.20 GENTEST社)を添加し、37℃温浴中で30分間反応を行った。反応開始0及び30分後に反応液を0.25 mL分取し、抽出操作*を行い、HPLCを用いて検体量を測定した。30分後の検体の残存率は(30分後のピーク面積/0分のピーク面積)×100で算出した。
【0065】
その結果、図1に示すように本発明化合物(1)は比較化合物(B)と比べ、ヒト肝臓ミクロソームの代謝に対する抵抗性が大幅に向上した(約40倍)ことが確認された。
【0066】
【表2】

【0067】
抽出操作:
各サンプルにグリシン緩衝液(pH 10)1.0 mL、内標準物質 0.1 mL及びtert−ブチルメチルエーテル 5.0 mLを添加し、10分間振盪し、2500回転で10分間遠心分離を行い、有機層を分取した。
【0068】
試験例3:大動脈脂質沈着抑制試験
ニコロシらの方法に準じ、動脈硬化モデル動物試験:F1Bハムスターを用いた脂質負荷モデルにおいて弓部大動脈の脂質沈着面積を測定し、供試化合物の脂質沈着抑制効果を検討した[ニコロシ RJ等、Atherosclerosis 137, 77-85 (1998) 参照]。
【0069】
試験方法:
日本チャールスリバー(株)より入手したBio F1B系雄性ハムスターに各群6匹となるようにランダムに割り当て3組に群分けを行った(化合物(1)投与群、比較化合物(B)投与群、薬物非投与群(対照群))。8週齢より高脂肪食(0.3 %コレステロール、10 %ココナツ油)を10週間負荷し、薬物はそれぞれ 1mg/kgで1日2回経口投与を行った。10週後、大動脈に沈着した脂質の面積を画像解析により計測した。
【0070】
薬物調製及び投与方法:
高脂肪食(0.3 %コレステロール、10 %ココナツ油)は、コレステロール:ココナツ油:飼料(CE-2)=0.03:1:9の配合比で調製した。薬物は 0.5 %メチルセルロース液に懸濁して経口投与した。投与容量は 5 mL/kg とした。
大動脈における脂質沈着面積の観察及び検査方法
【0071】
心尖部に18-G注射針を刺し、生理食塩液(120 mmHg)で約5分間灌流した。さらに、4 %パラホルムアルデヒド液(120 mmHg)で約5分間灌流した。心臓及び胸部大動脈を摘出して、10 %ホルマリン緩衝液中で固定した。固定後、大動脈の小彎と一部の大彎を切開して、Oil red O 染色を行った。これをゴム板上に開いて張り付け、デジタルカメラ(カメディア10、オリンパス)で撮影し、その画像をコンピュータに取り込み、Oil red O 染色部の面積および内腔表面の面積を画像解析ソフトウエア(ウィンルーフ、三谷商事)により測定した。各群の各例でOil red O 染色部の面積の内腔表面の面積に対する比を求め、これを大動脈脂質沈着率とした。大動脈脂質沈着抑制率は、薬物投与群の大動脈脂質沈着率を対照群の大動脈脂質沈着率に対する比を求め算出した。以下の式で指標を算出した。
【0072】
大動脈脂質沈着率(%)=(Oil red O 染色部の面積)/(内腔表面の面積)×100
【0073】
大動脈脂質沈着抑制率(%)=1−[(各群の大動脈脂質沈着率)/(対照群の大動脈脂質沈着率)×100]
【0074】
結果を図2に示す。これより、本発明化合物(1)は比較化合物(B)に比べ、大動脈における脂質沈着抑制率が大幅に改善したことが確認された。
【0075】
以上の各試験結果より、本発明化合物(1)は、比較化合物(B)に比べ強いACAT阻害作用を維持し、肝臓ミクロソームに対する代謝抵抗性を著明に改善し、それに基づき、動物試験において大動脈における脂質沈着抑制を大幅に改善することから、医薬品の有効成分として極めて有用な物質であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】供試化合物のヒト肝臓ミクロソームに対する代謝抵抗性を示す図である。
【図2】供試化合物の動脈硬化モデル動物における脂質沈着抑制作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド又はその塩。
【請求項2】
2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド又はその塩を有効成分とする医薬。
【請求項3】
動脈硬化症の予防・治療薬である請求項2記載の医薬。
【請求項4】
2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項5】
2−[4−[2−(7−トリフルオロメチルベンゾオキサゾール−2−イルチオ)エチル]ピペラジン−1−イル]−N−[4−ヒドロキシ−2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド又はその塩を投与することを特徴とする動脈硬化症又は高脂血症の処置方法。
【請求項6】
下記式(2)
【化1】

〔式中、R1は水素原子又はXCH2CO−基(ここで、Xはハロゲン原子を示す)を示し、R2は置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよいベンジル基及び置換基を有していてもよいシリル基から選ばれる保護基を示す。〕
で表される2,6−ビス(トリフルオロメチル)アニリン化合物及びそのアニリド誘導体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−518681(P2007−518681A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519014(P2006−519014)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001297
【国際公開番号】WO2005/070907
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】