環状金属コード及び無端金属ベルト
【課題】破断強度に優れ、且つ製造が容易な環状金属コード及び無端金属ベルトを提供する。
【解決手段】環状金属コードは、環状コア部3と外層部4とを備えている。環状コア部3は、第1の金属素線5を6本撚り合わせた第1のストランド材1の両端を結合することによって形成される。外層部4は、第2の金属素線6を6本撚り合わせた第2のストランド材2を環状コア部3に螺旋状に6周巻き付けることによって形成される。第2のストランド材2は、環状コア部3の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられており、巻き付け始端部と巻き付け終端部とは結合されている。第2のストランド材2を6本巻き付けるのではなく6周にわたって巻き付けるので、第2のストランド材は1本で済み、結合箇所も1箇所となる。その結果、環状金属コードの破断強度を大きくすることができ、製造を容易とすることができる。
【解決手段】環状金属コードは、環状コア部3と外層部4とを備えている。環状コア部3は、第1の金属素線5を6本撚り合わせた第1のストランド材1の両端を結合することによって形成される。外層部4は、第2の金属素線6を6本撚り合わせた第2のストランド材2を環状コア部3に螺旋状に6周巻き付けることによって形成される。第2のストランド材2は、環状コア部3の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられており、巻き付け始端部と巻き付け終端部とは結合されている。第2のストランド材2を6本巻き付けるのではなく6周にわたって巻き付けるので、第2のストランド材は1本で済み、結合箇所も1箇所となる。その結果、環状金属コードの破断強度を大きくすることができ、製造を容易とすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状金属コード及び無端金属ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無端金属ベルトの一種として、例えば特許文献1に記載されているように、圧延帯材を曲げ、両端を溶接して円筒状としたものを所定の幅に切断してなる、断面が矩形状のものが知られている。
【0003】
また、例えば特許文献2に記載されているように、芯材に金属コードを用いた無端ベルトが知られている。芯材となる金属コードは、中心コアとなる少なくとも1本のフィラメントと、中心コアを取り巻く複数本のフィラメントとを備えている。
【特許文献1】特開2003−236610号公報
【特許文献2】特開平4−307146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の無端金属ベルトは、断面が矩形状であるため捩れに弱く、破断が生じ易い。また、特許文献2に記載の金属コードを無端金属ベルトに適用する場合には、金属コードの両端部を結合して環状にする必要がある。金属コードの両端部を結合する方法としては、金属コードの両端部を突き合わせて結合する方法と、金属コードを構成するフィラメント毎に両端部をそれぞれ結合する方法とが考えられる。金属コードの両端部を突き合わせて結合する方法では、結合箇所が一箇所となるため、金属コードの完全破断が生じやすくなる。一方、フィラメント毎に両端部を結合する方法では、フィラメントの端部を解撚してから結合し、結合後にフィラメントの端部を再び撚り合わせなければならないので、結合部分と他の部分とで撚りの状態が異なり、結合部分の機械的強度が低下するおそれがある。その結果、金属コードの破断が生じやすくなる。また、フィラメント毎に両端部を結合する方法では、結合にかかる工程が煩雑となり、製造が困難となってしまう。
【0005】
そこで、本発明の目的は、破断が生じにくく、且つ製造が容易な環状金属コード及び無端金属ベルトを提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の環状金属コードは、(1)第1の金属素線を複数本撚り合わせてなる第1のストランド材の両端を結合することによって形成された環状コア部と、(2)第2の金属素線を複数本撚り合わせてなる第2のストランド材を、環状コア部に対して螺旋状に且つ複数周にわたって巻き付けることによって形成され、環状コア部の外周面を覆う外層部と、を備え、(3)外層部を形成する第2のストランド材は、環状コア部の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられており、当該第2のストランド材の巻き付け始端部と巻き付け終端部とは結合されていることを特徴とするものである。
【0007】
このように、金属素線を複数本撚り合わせてなる第1のストランド材に、同じく金属素線を複数本撚り合わせてなる第2のストランド材を巻き付けるので、環状金属コードを丈夫なものとすることができる。第1のストランド材の両端は環状コア部とする際に結合され、第2のストランド材の両端は巻き付けが終わった後に結合されるため、第1のストランド材及び第2のストランド材は、別々に結合されることとなる。したがって、第1のストランド材及び第2のストランド材をまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードが完全に破断する可能性を抑制できる。第1のストランド材の両端を結合して環状コア部とするため、この環状コア部をベースとして第2のストランド材を巻き付けることが可能となる。その結果、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。
【0008】
外層部を形成する際には、第2のストランド材を複数本巻き付けるのではなく第2のストランド材を複数周にわたって巻き付ける。よって、第2のストランド材は少なくとも1本あればよい。その結果、第2のストランド材を複数本必要とする場合に比べて結合箇所を少なくできるため、環状金属コードの破断強度をより大きくすることができると共に、製造を容易とすることができる。第2のストランド材の巻き付けは所定の巻き付け角度で行なわれるので、第2のストランド材の巻き乱れがなく、表面状態が均一な環状金属コードを得ることができる。表面状態が均一な環状金属コードには外からの力が均一に付与されることとなるため、破断強度をさらに向上させることができる。
【0009】
好ましくは、第1のストランド材の結合部分と第2のストランド材の結合部分とは、環状コア部の周方向における位置が異なっている。結合部分の位置を互いにずらすことにより、環状コア及び外層部の同時破断が生じにくくなる。その結果、環状金属コードにおける破断強度の低下を抑制することができる。
【0010】
好ましくは、第1のストランド材の両端は溶接によって結合されており、第2のストランド材の巻き付け始端部と巻き付け終端部とは金属からなる接続部材によって結合されている。第1のストランド材の両端を溶接によって接合するため、結合部分の増径が殆ど無い環状コア部を得ることができる。このような環状コア部には、第2のストランド材を容易に巻き付けることができる。また、第2のストランド材の結合には接続部材を用いるため、結合作業を容易に行なうことができる。
【0011】
好ましくは、接続部材は略円柱形状を呈しており、当該接続部材には、第2のストランド材の巻き付け始端部及び巻き付け終端部が挿入される断面多角形状の穴部が設けられている。穴部の角に相当する部分では、接続部材7の内壁と第2のストランド材2との間に間隙が形成されることになる。この間隙は、例えば、穴部に第2のストランド材を挿入したのち接続部材をかしめた際に、肉盗み(肉逃げ)として機能することとなる。よって、接続部材の外面の変形を抑制できるため、表面状態が均一な環状金属コードをより確実に得ることができる。
【0012】
好ましくは、穴部は接続部材の両端に設けられた凹部であって、接続部材の一端側の凹部と接続部材の他端側の凹部との間には仕切り壁が設けられている。凹部と凹部との間、すなわち接続部材の中央部分に仕切り壁を設けることで、接続部材を折れ曲がりや割れが生じにくいものとすることができる。
【0013】
好ましくは、第1の金属素線の材質は、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含み、且つ、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有するとともに、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼である。これにより、第1のストランド材を、溶接性が良好で且つ耐熱性に優れたものとすることができる。
【0014】
好ましくは、前記第1の金属素線の直径は、0.06〜0.40mmである。これにより、第1のストランド材に適度な剛性をもたせることができると共に、耐疲労性を向上させることができる。また、環状コア部を形成する第1のストランド材は、当該環状金属コードの断面中心に位置するため、環状金属コードを曲げた状態で第2のストランド材と比較して応力が小さくなる。そのため、第1の金属素線の直径を0.06〜0.40mmの範囲内で第2の金属素線より太径として剛性を高めることができる。
【0015】
好ましくは、前記第2の金属素線の直径は、0.06〜0.30mmである。これにより、第2のストランド材に適度な剛性をもたせることができると共に、耐疲労性を向上させることができる。なお、より好ましくは、前記第2の金属素線の直径は、0.06〜0.22mmである。
【0016】
好ましくは、第1のストランド材と第2のストランド材とが同一の直径を有する、または前記第1のストランド材の直径が前記第2のストランド材の直径より大きい。これにより、環状コア部の外周面に沿って、第2のストランド材を実質的に隙間無く巻き付けることが可能となる。特に、当該環状金属コードを省スペース化に有利な横断面細密充填撚り構造とする場合、環状コア部を1本とし、その周りに1層目の外層部では第2のストランド材を6本配置する構成、2層目の外層部では第2のストランド材を12本配置する構成を基本とするが、第1のストランド材と第2のストランド材とが同一の直径である場合、線径公差によっては、1層目の外層部で第2のストランド材を6周させると、断面上、6本分の配列が困難となり第2のストランド材同士が干渉しあったり、環状コア部との接触が不均一となったりする。そこで、第1のストランド材の直径が第2のストランド材の直径より大きいと、このような不具合を回避することができる。
【0017】
好ましくは、第1のストランド材における第1の金属素線の撚り方向と、第2のストランド材における第2の金属素線の撚り方向とは同一であり、且つ、第1のストランド材における第1の金属素線及び第2のストランド材における第2の金属素線の撚り方向と、第2のストランド材の巻き付け方向とは逆である。これにより、第2のストランド材の巻き付け後において、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードを得ることができる。また、環状金属コードを捩れにくいものとすることができる。
【0018】
好ましくは、環状コア部の中心軸に対する第2のストランド材の巻き付け角度が4.5〜13.8度である。これにより、第2のストランド材の巻き付け作業が容易となる。また、適度な伸度を有し、且つ第2のストランド材の巻き緩みがない環状金属コードを得ることができる。
【0019】
好ましくは、第2のストランド材が、環状コア部の外周面に沿って6〜8周巻き付けられている。これにより、外層部が環状コア部を密に覆うこととなるため、環状金属コードを幾何学的に安定したものとすることができる。その結果、破断強度に優れ、径方向における変形が生じにくい環状金属コードを確実に得ることができる。
【0020】
好ましくは、環状コア部及び外層部には低温焼鈍処理が施されている。これにより、第1の金属素線及び第2の金属素線の内部歪みを除去することができる。
【0021】
また、本発明の無端金属ベルトは、上述の環状金属コードを備えることを特徴とするものである。上述の環状金属コードを用いることによって、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ製造が容易な無端金属ベルトを得ることができる。
【0022】
好ましくは、前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードに当接するとともに少なくとも一部を収容する収容溝を備えている。これにより、エレメントに対する環状金属コードの位置ずれを抑えて、環状金属コードがエレメントから外れてしまうことを防止することができる。
【0023】
好ましくは、前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードの外周側及び内周側でプーリに当接可能なプーリ当接面を備えている。これにより、プーリに対するエレメントの接触面積を大きく確保することができ、トルク伝達量の向上を図ることができる。
【0024】
好ましくは、前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントのピッチ位置と、前記環状金属コードの回転走行面が略一致した位置である。これにより、プーリへの噛み込み時などに環状金属コードの走行に対してエレメントがスリップすることなく、伝達効率を良好にできる。なお、ピッチ位置とは、無端金属ベルトの巻き掛け時に、前後のエレメントが接する位置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ製造が容易な環状金属コード及び無端金属ベルトを提供することができる。したがって、本発明の環状金属コード及び無端金属ベルトを産業機械に用いれば、当該産業機械を耐久性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0027】
本実施形態に係る環状金属コードについて図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る環状金属コードの斜視図であり、図2は本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。図3は、本実施形態に係る環状金属コードが備える環状コア部に第2のストランド材を1周巻き付けた様子を示す斜視図である。図4(a)は、本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面図であり、図4(b)は、本実施形態に係る環状金属コードの側面図である。図5は、本実施形態に係る環状金属コードの一部を示す拡大斜視図であり、図6(a)は、本実施形態に係る環状金属コードに含まれる接続部材の側面図であり、図6(b)は、本実施形態に係る環状金属コードに含まれる接続部材の断面図である。
【0028】
図1及び図2に示されるように、環状金属コードC1は、環状コア部3と環状コア部3の外周面を覆う外層部4とを備えるものである。
【0029】
環状コア部3は、第1のストランド材1の両端を結合することによって形成される。そのため、環状コア部3は、図3に示されるように結合部分3aを有している。本実施形態では、第1のストランド材1の両端は溶接によって結合されている。溶接で結合した場合には、他の方法で結合した場合と比較して結合部分の増径が生じにくい。そのため、結合部分においても第2のストランド材2の巻き付けがスムーズな環状コア部3を得ることができる。
【0030】
第1のストランド材1は、図4(a)に示されるように、第1の金属素線5を複数本撚り合わせたものである。本実施形態においては、第1のストランド材1は、図2に示されるように、1本の第1の金属素線5を中心とし、この第1の金属素線5の外周面に6本の第1の金属素線5をS撚りに巻き付けたものである。このように、第1のストランド材1は幾何学的に安定した7本撚りであるため、丈夫で破断が生じにくいものとなっている。
【0031】
第1の金属素線5は合金鋼であり、材質として、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含んでいる。また、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有している。更に、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなっている。このような材料からなる第1の金属素線5を第1のストランド材1に用いているため、第1のストランド材1は溶接性が良好で且つ耐熱性に優れたものとなっている。
【0032】
第1の金属素線5は、0.06〜0.40mmといった直径を有している。仮に、第1の金属素線5の直径が0.06mmよりも大きいので、第1のストランド材1の剛性が十分となり、環状コア部3を変形しにくいものとすることができる。第1の金属素線5の直径が0.40mmよりも小さいので、第1のストランド材1の剛性が過度に大きくならず、環状金属コードC1を繰り返し応力による疲労破断が生じにくいものとすることができる。
また、環状コア部3を形成する第1のストランド材1は、環状金属コードC1の断面中心に位置するため、環状金属コードC1を曲げた状態で第2のストランド材2と比較して応力が小さくなる。そのため、第1の金属素線5の直径を0.06〜0.40mmの範囲内で第2の金属素線6より太径として剛性を高めることもできる。
【0033】
外層部4は、環状コア部3を軸芯として第2のストランド材2を巻き付けることにより形成される。第2のストランド材2は、図4(a)に示されるように、第2の金属素線6を複数本撚り合わせたものである。
【0034】
第2の金属素線6は、材料として0.70質量%以上のCを含む高炭素鋼を用いる。0.70質量%以上のCを含む材料を選定することで、第2の金属素線6をより破断強度に優れた鋼線とすることができる。なお、第2の金属素線6は、第1の金属素線5と同質の材料からなっていてもよいが、溶接接合をしない第2の金属素線6には、0.70質量%以上のCを含む材料を用いることがより好ましい。
【0035】
第2の金属素線6の直径は、第1の金属素線5の直径と同一もしく第1の金属素線5の直径より小径であって、0.06〜0.30mmとなっている。より好ましくは、第2の金属素線6の直径は0.06〜0.22mmである。このような直径の第2の金属素線6で第2のストランド材2を形成すると、第1のストランド材1と同様、適度な剛性を有する第2のストランド材2を得ることができる。そのため、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けが容易となり、且つ第2のストランド材2の巻き緩みが生じにくくなる。
【0036】
本実施形態において、第2のストランド材2は、図2に示されるように、第2の金属素線6の外周面に6本の第2の金属素線6をS撚りに巻き付けたものである。つまり、第2のストランド材2は幾何学的に安定した7本撚りであるため、丈夫で破断が生じにくいものとなっている。第2のストランド材2と第1のストランド材1とでは、用いる素線の直径、本数、及び撚り方が同一である。もしくは、第2のストランド材2より第1のストランド材1の方が用いる素線の直径が大きい。したがって、第2のストランド材2は第1のストランド材1と同一の直径を有するか、または第1のストランド材1の直径が第2のストランド材2の直径より大きい。
【0037】
第2のストランド材2は、環状コア部3に対して複数周にわたって巻き付けられると共に、図2及び図3に示されるように、螺旋状に巻き付けられる。第2のストランド材2は、捩れが無いように巻き付けられる。捩れ無く巻き付けることによって、第2のストランド材2の巻き緩みを抑制することができる。
【0038】
本実施形態において、第2のストランド材2は環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けられている。第2のストランド材2は第1のストランド材1と同一の直径を有しているので、環状コア部3の外周面には、第2のストランド材2が実質的に隙間無く巻き付けられる。よって、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなる。環状金属コードC1の断面は、図4(a)に示されるように、環状コア部3である第1のストランド材1の周りに6つの第2のストランド材2が配列された形状となる。この断面形状は、第1のストランド材1あるいは第2のストランド材2を7本撚りした場合の断面形状と同一である。このように、環状金属コードC1は幾何学的に安定した構造を有しているため、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ径方向における変形が生じにくいものとなっている。
【0039】
環状金属コードC1は、図4(a)に示されるように、省スペース化に有利な横断面細密充填撚り構造であり、1本の環状コア部3の周りに1層目の外層部では第2のストランド材を6本配置した構成、2層目の外層部では第2のストランド材を12本配置した構成となるが、第1のストランド材1と第2のストランド材2とが同一の直径である場合、線径公差によっては、1層目の外層部で第2のストランド材2を6周させると、断面上、6本分の配列が困難となり第2のストランド材2同士が干渉しあったり、環状コア部3との接触が不均一となったりする。そこで、第1のストランド材1の直径が第2のストランド材2の直径より大きいと、このような不具合を回避することができる。
【0040】
第2のストランド材2は、図3に示されるように、環状コア部3の外周面にZ撚りに巻き付けられる。第1のストランド材1及び第2のストランド材2自体はS撚りで形成されているため、環状金属コードC1はS撚りとZ撚りとが混在したものとなる。よって、捩れにくく、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードC1を得ることができる。
【0041】
また、第2のストランド材2は、環状コア部3の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられている。このため、第2のストランド材2が乱れなく巻かれ、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。本実施形態においては、図4(b)に示されるように、X方向、すなわち環状コア部3の中心軸が延びる方向、に対する第2のストランド材2の巻き付け角度θは、4.5〜13.8度となっている。巻き付け角度θを4.5度より大きくすることで、第2のストランド材2の巻き緩みが生じにくくなる。巻き付け角度θを13.8度より小さくすることで、第2のストランド材2の伸度が過度に大きくなることを防ぐことができる。つまり、第2のストランド材2の巻き付け角度θを4.5〜13.8度とすることで、適度な伸度を有し、且つ曲げやすい環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1を、例えば後述する無段変速機の無端金属ベルトに用いた場合、駆動側プーリと被駆動側プーリとの間の動力伝達を精度よく行なうことができる。
【0042】
図5に示されるように、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとは接続部材7によって結合されている。接続部材7を用いることにより、第2のストランド材の巻き付け始端部2a及び巻き付け終端部2bの結合が容易となる。環状コア部3の周方向において、第2のストランド材2の結合部分の位置は、環状コア部3の結合部分の位置と異なっている。結合部分の位置を互いにずらすことにより、環状コア部3及び外層部4の同時破断を抑制できる。
【0043】
接続部材7は例えば真鍮といった金属からなっている。接続部材7は略円柱形状を呈している。接続部材7の寸法は、例えば直径W1が約1.1mm、長さL1が約8mmとなっている。接続部材7の両端には、図6(a)及び図6(b)にも示されるように、断面多角形状の凹部8(穴部)がそれぞれ設けられている。一方の凹部8には第2のストランド材2の巻き付け始端部2aが挿入されており、他方の凹部8には第2のストランド材2の巻き付け終端部2bが挿入されている。凹部8は、より具体的には略正六角形状を呈している。凹部8の寸法は、例えば深さL2が約1.5mm、幅W2が約0.7mmとなっている。
【0044】
接続部材7において、各凹部8の外壁に相当する部分はかしめ治具等によってかしめられている。この部分をかしめることによって、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを、接続部材7を介して結合することができる。凹部8の断面は略正六角形状となっているため、角に相当する部分7aでは、接続部材7の内壁と第2のストランド材2との間に間隙が形成されることになる。この間隙が、かしめた際に肉盗みとして機能するため、接続部材7の外面の変形を抑制することが可能となる。
【0045】
接続部材7の軸方向における略中央部分、すなわち凹部8と凹部8との間には、仕切り壁7bが設けられている。
【0046】
ここで、例えば、内部に貫通孔を有する円筒形状の接続部材を考える。このような形状の接続部材を用いる場合には、貫通孔の両端から第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを挿通し、貫通孔内でこれらを突き合わせて結合することとなる。このため、円筒形状の接続部材に折れ曲がりや割れが生じ易くなる可能性がある。接続部材に折れ曲がりや割れが生じると、貫通孔内の第2のストランド材2が破断するおそれがある。本実施形態のように、接続部材7の略中央部分に仕切り壁7bを設けた場合には、接続部材7に折れ曲がりや割れが生じにくくなり、接続部材7の機械的強度を上げることができる。
【0047】
このように、外層部4は、第2のストランド材2を環状コア部3に巻き付けた後に、接続部材7で第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを結合することによって形成されている。
【0048】
続いて、環状金属コードC1の製造方法について説明する。図7は、環状金属コードC1を製造するための製造装置の一例を示す正面図である。図8は、環状金属コードC1を製造する際のリールの移動状態を上面から見たときの概念図である。図9は、環状金属コードC1を製造する際のリールの移動状態を正面から見たときの概念図である。
【0049】
図7に示されるように、製造装置M1は、ドライビングユニット40と、サプライ部50と、スライドユニット60とを備えている。
【0050】
ドライビングユニット40は、ピンチローラ41a,41bを有している。ピンチローラ41a,41bは、環状コア部3を周方向に回転させるための駆動モータ(図示せず)と連結されている。ピンチローラ41a,41bの上部には、環状コア部3を案内するためのクランプユニット44が設けられている。クランプユニット44は、図8に示されるように、ローラ44a,44bからなっている。ローラ44a,44bは、環状コア部3を垂直にして横揺れを抑え、且つ、環状コア部3を周方向に回転させる。
【0051】
スライドユニット60は、移動台61と、スタンド62と、レール66とを有している。移動台61は、駆動モータ(図示せず)によりレール66に沿って往復動する。移動台61にはスタンド62が設けられており、当該スタンド62にはサプライ部50が設置されている。サプライ部50は、第2のストランド材2を巻き取ったリール51を有している。サプライ部50は、第2のストランド材2を環状コア部3の配設方向に供給する。
【0052】
このような構成を有する製造装置M1を用いた場合、環状金属コードC1は以下の工程を経て製造される。
【0053】
まず、第2のストランド材2の巻き付け始端を、粘着テープ等を用いて環状コア部3に仮止めする。仮止め後、環状コア部3を周方向に回転させて、第2のストランド材2の環状コア部3への巻き付けを開始する。
【0054】
第2のストランド材2を巻いたリール51は、図9に示されるように、環状コア部3の内側と外側との間を往復動する。往復動はレール66に沿って行われる。より具体的には、図8(a)に示されるように環状コア部3の外側に位置したリール51は、環状コア部3に近づく方向に移動する。リール51は、図8(b)に示されるように環状コア部3の内側に到達すると、図8(c)に示されるように環状コア部3の輪をくぐる。環状コア部3の輪をくぐったリール51は、環状コア部3から離れる方向に移動し、図8(d)に示されるように環状コア部3の外側に再び到達する。到達後、リール51は図8の(a)に示される位置に戻る。図8(a)〜(d)を繰り返すことにより、第2のストランド材2は環状コア部3の外周面に螺旋状に巻き付けられることとなる。
【0055】
第2のストランド材2の巻き付け終了後、図5に示されるように、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを接続部材7の凹部8にそれぞれ挿入し、挿入部分をかしめ治具等で外からかしめる。これにより、第2のストランド材2からなる外層部4を得ることができる。
【0056】
接続部材7をかしめた後、上述の環状コア部3及び外層部4に低温焼鈍処理を施す。より具体的には、真空中又は減圧雰囲気中にアルゴンを導入した圧力室内で、環状コア部3及び外層部4に対して熱処理を施す。熱処理する際の温度は、70〜380度である。これにより、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の内部歪みを除去することができ、歪みのない環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1を、例えば後述する無段変速機の無端金属ベルトに用いた場合、蛇行せずに回転する無端金属ベルトを得ることができる。蛇行せずに回転する無端金属ベルトは、周囲の部品と接触して磨耗することが無いため、長期間にわたって高性能を維持することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、第1の金属素線5を7本撚り合わせてなる第1のストランド材1に、第2の金属素線6を7本撚り合わせてなる第2のストランド材2を巻き付けるので、環状金属コードC1を丈夫なものとすることができる。第1のストランド材1及び第2のストランド材2は別々に結合されるので、第1のストランド材1及び第2のストランド材2をまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードC1が完全に破断する可能性を抑制できる。第1のストランド材1から環状コア部3を形成し、かかる環状コア部3を軸芯として第2のストランド材2を巻き付けるため、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。外層部4を形成する際には、第2のストランド材2を複数本巻き付けるのではなく第2のストランド材2を6周にわたって巻き付けるので、第2のストランド材2は少なくとも1本あればよい。よって、第2のストランド材2を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少なくなるため、環状金属コードC1の破断強度をより大きくすることができる共に、製造を容易とすることができる。第2のストランド材2の巻き付けは所定の巻き付け角度で行なうので、第2のストランド材2の巻き乱れがなく、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1には外からの力が均一に付与されることとなるため、破断強度をさらに向上させることができる。
【0058】
また、第1のストランド材1の結合部分と第2のストランド材2の結合部分とは、環状コア部3の周方向における位置が異なっている。結合部分の位置を互いにずらすことにより、環状コア部3及び外層部4の同時破断が生じにくくなるので、環状金属コードC1の破断強度を更に向上させることができる。
【0059】
また、第1のストランド材1の両端は溶接によって結合されており、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとは接続部材7によって結合されている。この場合、第1のストランド材1においては結合部分がより破断しにくくなり、第2のストランド材2においては結合が容易となる。
【0060】
このとき、接続部材7は略円柱形状を呈しており、接続部材7の両端には、第2のストランド材2の巻き付け始端部2a及び巻き付け終端部2bが挿入される略正六角形状の凹部8が設けられている。接続部材7において、略正六角形の角に相当する部分7aでは、接続部材7の内壁と第2のストランド材2との間に間隙が形成されることになる。したがって、第2のストランド材2の両端部を凹部にそれぞれ挿入した後に、接続部材7をかしめた場合、かかる間隙が肉盗みとして機能する。その結果、接続部材7の外面の変形を抑制できるため、表面状態が均一な環状金属コードC1をより確実に得ることができる。
【0061】
また、接続部材7において、凹部8と凹部8との間には仕切り壁7bが設けられている。凹部8と凹部8との間、すなわち接続部材7の中央部分に仕切り壁7bを設けることで、接続部材7を折れ曲がりや割れが生じにくいものとすることができる。
【0062】
また、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の材質は、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含み、且つ、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有するとともに、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼である。これにより、第1のストランド材1を溶接性が良好で且つ耐熱性に優れたものとすることができる。
【0063】
また、第1の金属素線5の直径は、0.06〜0.40mmであり、第2の金属素線6の直径は、0.06〜0.30mmである。この場合、第1のストランド材1及び第2のストランド材2に適度な剛性をもたせることができ、第1のストランド材1及び第2のストランド材を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。なお、より好ましい第2の金属素線6の直径は、0.06〜0.22mmである。
また、環状コア部3を形成する第1のストランド材1は、環状金属コードC1の断面中心に位置するため、環状金属コードC1を曲げた状態で第2のストランド材2と比較して応力が小さくなる。そのため、第1の金属素線5の直径を0.06〜0.40mmの範囲内で第2の金属素線6より太径として剛性を高めることができる。
【0064】
また、第1のストランド材1と第2のストランド材2とは同一の直径を有している場合、環状コア部3の外周面に沿って、第2のストランド材2を実質的に隙間無く巻き付けることが可能となる。
また、第1のストランド材1の直径が第2のストランド材2の直径より大きい場合、外層部4において第2のストランド材2同士が干渉しあったり、環状コア部3との接触が不均一となったりすることを防止できる。
【0065】
また、第1のストランド材1及び第2のストランド材2はそれぞれ第1の金属素線5及び第2の金属素線6をS撚りしたものであるが、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けはZ撚りとなっている。この場合、捩れにくく、且つ環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き緩みが生じにくい環状金属コードC1を得ることができる。
【0066】
また、環状コア部3の中心軸に対する第2のストランド材2の巻き付け角度は4.5〜13.8度となっている。この場合、第2のストランド材2の巻き付け作業が容易となる。また、適度な伸度を有し、且つ第2のストランド材2の巻き緩みがない環状金属コードC1を得ることができる。
【0067】
また、第2のストランド材2は環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けられている。これにより、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなるため、環状金属コードC1を幾何学的に安定したものとすることができる。その結果、破断強度及び耐疲労性に優れ、径方向での変形が生じにくい環状金属コードC1を確実に得ることができる。
【0068】
また、環状コア部3及び外層部4には低温焼鈍処理が施されている。この場合、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の内部歪みを除去することができる。
【0069】
次に、上述した構成を有する環状金属コードC1を備える無端金属ベルトについて説明する。図10は本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す図である。図11は本実施形態に係る無端金属ベルトを示す一部斜視図である。図12は、本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの側面図である。
【0070】
無端金属ベルトB1は、例えば図10に示されるような、自動車やその他の産業機械で使用されている無段変速機10用に用いられる。無端金属ベルトB1は、溝幅可変のV形の駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14との間の動力伝達を担っている。無端金属ベルトB1を駆動側プーリ12及び被駆動側プーリ14に掛け渡すことにより、駆動側プーリ12の回転力が無端金属ベルトB1を介して被駆動側プーリ14に伝達される。
【0071】
無端金属ベルトB1は、図11に示されるように、上述した環状金属コードC1と、この環状金属コードC1が両側からそれぞれ4本ずつ挟み込まれる多数のエレメントE1とを備えている。
【0072】
エレメントE1は、金属板材から打ち抜いて成形したものである。エレメントE1は、図12に示されるように、概略台形状のエレメント本体部20と、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22,22間に位置するネック部24と、ネック部24を介してエレメント本体部20の上部に接続される略三角形状を呈したイヤー部26とを備えている。エレメント本体部20の左右方向外端部には、駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28,28が形成されている。また、前後に隣接するエレメントE1を結合すべく、イヤー部26の前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0073】
収容部22,22の上縁および下縁にはそれぞれサドル面32,32及びイヤー部下面36,36が形成されている。サドル面32,32には、4つの円弧形状の収容凹部34がそれぞれ設けられている。4つの収容凹部34には、4本の環状金属コードC1の下面が当接する。各環状金属コードC1の上面はイヤー部下面36,36との間に僅かな隙間を有している。
【0074】
環状金属コードC1は、先に述べたように破断強度が非常に大きい。また、環状金属コードC1は、断面が略円形状であるため、断面が矩形状のものと比べて捩れに強い。したがって、環状金属コードC1を上述の構成を有するエレメントE1に挟み込んだ無端金属ベルトB1は、耐屈曲性及び耐久性に非常に優れたものとなる。
【0075】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。
【0076】
例えば、本実施形態の環状金属コードC1では、第2のストランド材2を環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けるとした。これを、第1のストランド材1と第2のストランド材2との直径が異なる場合には、7周或いは8周巻き付けるとしてもよい。
【0077】
また、本実施形態の環状金属コードC1では、図4(a)に示されるように、環状コア部3の外周面を1層の第2のストランド材2が覆っている。これを、環状コア部3の外周面を複数層の第2のストランド材2が覆うようにしてもよい。例えば、環状コア部3の外周面を2層の第2のストランド材2で覆う場合には、第2のストランド材2を環状コア部3の外周面に6周巻き付けて1層目を形成した後、かかる1層目の外周面に第2のストランド材2を12周巻き付けて2層目を形成することとなる。
【0078】
また、本実施形態の環状金属コードC1では、第1のストランド材1及び第2のストランド材2をS撚りとし、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けをZ撚りで行なうとしたが、第1のストランド材1及び第2のストランド材2をZ撚りとし、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けをS撚りで行なうとしてもよい。
【0079】
また、本実施形態の環状金属コードC1は、図4(a)に示されるように、断面が略円形状となっているが、断面を扁平形状としてもよい。この場合、略円形状の環状金属コードC1にプレス等を施して、変形させることとなる。このように環状金属コードC1を扁平形状とすることによって、かかる環状金属コードC1を備える無端金属ベルトB1と、エレメントE1との接触面積を大きくすることができる。その結果、駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14との間の動力伝達をより効率よく行なうことができる。なお、扁平率は66%以上であることが好ましい。
【0080】
また、本実施形態の無端金属ベルトB1において、エレメントE1の両側に環状金属コードC1がそれぞれ4本ずつ挟み込まれるとしたが、挟み込まれる環状金属コードC1の本数はこれに限られない。求められる耐屈曲性及び耐久性に応じて、環状金属コードC1の本数を調整することが可能である。
【0081】
また、本実施形態は、環状金属コードを、無段変速機において動力を伝達する無端金属ベルトに適用したものであるが、本発明の環状金属コードは、無段変速機以外で使用される無端金属ベルトにも適用することができる。例えば、プリンタをはじめとする印刷機において紙送りローラ間の動力伝達を担う無端金属ベルト、一軸ロボットの直行駆動を担う無端金属ベルト、X−Yテーブル機構の駆動や三次元のキャリッジ駆動を担う無端金属ベルト、光学機器や検査機、あるいは測定器内において精密駆動を担う無端金属ベルト等に適用可能である。
【0082】
また、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の材料は、上記のものに限られない。
【0083】
また、本実施形態の無端金属ベルトB1において、使用されるエレメントの形態は図11及び図12に示したものに限られない。
例えば、図13〜図17に示すように、様々な形態のエレメントが使用可能である。次に示すエレメントE2〜E6も、エレメントE1と同様、金属板材から打ち抜いて成形したものである。
【0084】
図13に示すエレメントE2は、概略台形状のエレメント本体部20aと、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22a,22a間に位置するネック部24aと、ネック部24aを介してエレメント本体部20aの上部に接続される略三角形状を呈したイヤー部26aとを備えている。ネック部24aは、エレメントE1のネック部24と比較して角部の湾曲凹部がないため、強度が向上している。すなわち、エレメントE2を使用する無端金属ベルトB1の使用寿命が向上する。
【0085】
エレメント本体部20aの左右方向外端部には、駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28a,28aが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE2を結合すべく、イヤー部26aの前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38a及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。収容部22a,22aの上縁及び下縁にはそれぞれイヤー部下面36a,36a及びサドル面32a,32aが形成されている。サドル面32a,32aには、3本の環状金属コードC1を収容する収容凹部(収容溝)34aがそれぞれ設けられている。各収容凹部34aには、3本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容し、環状金属コードC1の飛び出しを抑制している。各環状金属コードC1の上面はイヤー部下面36a,36aとの間に僅かな隙間を有している。
【0086】
図14に示すエレメントE3は、概略台形状のエレメント本体部20bと、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22b,22b間に位置するネック部24bと、ネック部24bを介してエレメント本体部20bの上部に接続される略三角形状を呈したイヤー部26bとを備えている。ネック部24bは、エレメントE1のネック部24と比較して角部の湾曲凹部がないため、強度が向上している。すなわち、エレメントE3を使用する無端金属ベルトB1の使用寿命が向上する。
【0087】
エレメント本体部20bの左右方向外端部には、駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28b,28bが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE3を結合すべく、イヤー部26bの前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38b及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。収容部22b,22bの上縁及び下縁にはそれぞれイヤー部下面36b,36b及びサドル面32b,32bが形成されている。サドル面32b,32bは、それぞれ3本の環状金属コードC1を収容する湾曲凹部(収容溝)として形成されている。各サドル面32bには、3本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容し、環状金属コードC1の飛び出しを抑制している。各環状金属コードC1の上面はイヤー部下面36b,36bとの間に僅かな隙間を有している。
【0088】
図15に示すエレメントE4は、概略台形状のエレメント第1本体部20cと、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22c,22c間に位置するネック部24cと、ネック部24cを介してエレメント第1本体部20cの上部に接続される概略台形状のエレメント第2本体部26cとを備えている。ネック部24cは、エレメントE1のネック部24と比較して角部の湾曲凹部がないため、強度が向上している。すなわち、エレメントE4を使用する無端金属ベルトB1の使用寿命が向上する。
【0089】
エレメント第1本体部20c及びエレメント第2本体部26cの左右方向外端部には、それぞれ駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28c,28cが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE4を結合すべく、エレメント第2本体部26cの前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38c及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。収容部22c,22cの上縁及び下縁にはそれぞれ収容部上面36c,36c及びサドル面32c,32cが形成されている。サドル面32c,32cは、それぞれ3本の環状金属コードC1を収容する湾曲凹部(収容溝)として形成されている。各サドル面32cには、3本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容し、環状金属コードC1の飛び出しを抑制している。各環状金属コードC1の上面は収容部上面36c,36cとの間に僅かな隙間を有している。
【0090】
このエレメントE4は、収容部22cに収容した環状金属コードC1の上下(外周側及び内周側)においてプーリ当接面28cが設けられているため、プーリに対する接触面積を確保しやすくなっている。そのため、エレメントE4を使用する無端金属ベルトB1のトルク伝達量の向上が図れる。また、エレメントE4の高さ(図15の上下方向長さ)を小さくして、エレメントE4の軽量化、延いてはエレメントE4を使用する無端金属ベルトB1の軽量化を図ることができると共に、無端金属ベルトB1のレシオカバレージ(駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14の径の大小の比率)を拡大することができる。
【0091】
図16に示すエレメントE5は、概略台形状のエレメント本体部20dと、エレメント本体部20dの中央に形成された環状金属コードC1が嵌合する収容部22dと、収容部22dと連通しエレメント本体部20dの中央上部に開口した開口部24dとを備えている。すなわち、エレメント本体部20dは収容部22d内に嵌合した環状金属コードC1を囲む形状となっている。収容部22dの下縁には湾曲凹部(収容溝)32dが形成されており、湾曲凹部32dには5本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容している。また、収容部22d内の環状金属コードC1は、上方の開口部24dを除きエレメント本体部20dにより囲まれているため、環状金属コードC1の飛び出しは防止されている。また、各環状金属コードC1の上面は収容部上面36dとの間に僅かな隙間を有している。
【0092】
エレメント本体部20dの左右方向外端部には、それぞれ駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28d,28dが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE5を結合すべく、エレメント本体部20dの中央下部における前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38d及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0093】
このエレメントE5は、収容部22dに収容した環状金属コードC1の上下(外周側及び内周側)にわたってプーリ当接面28dが設けられているため、プーリに対する接触面積を確保しやすくなっている。そのため、エレメントE5を使用する無端金属ベルトB1のトルク伝達量の向上が図れる。また、エレメントE5の高さ(図16の上下方向長さ)を小さくして、エレメントE5の軽量化、延いてはエレメントE5を使用する無端金属ベルトB1の軽量化を図ることができると共に、無端金属ベルトB1のレシオカバレージ(駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14の径の大小の比率)を拡大することができる。
【0094】
図17に示すエレメントE6は、概略台形状のエレメント本体部20eと、エレメント本体部20eの中央に形成された環状金属コードC1が嵌合する収容部22eと、収容部22eと連通しエレメント本体部20eの右側に開口した開口部24eとを備えている。すなわち、エレメント本体部20eは収容部22e内に嵌合した環状金属コードC1を囲む形状となっている。収容部22eの下縁には湾曲凹部(収容溝)32eが形成されており、湾曲凹部32eには5本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容している。また、収容部22e内の環状金属コードC1は、右方の開口部24eを除きエレメント本体部20eにより囲まれているため、環状金属コードC1の飛び出しは防止されている。また、各環状金属コードC1の上面は収容部上面36eとの間に僅かな隙間を有している。
【0095】
エレメント本体部20eの左右方向外端部には、開口部24eを除き、それぞれ駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28e,28eが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE6を結合すべく、エレメント本体部20eの中央上部における前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38e及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0096】
このエレメントE6は、収容部22eに収容した環状金属コードC1の上下(外周側及び内周側)にわたってプーリ当接面28eが設けられているため、プーリに対する接触面積を確保しやすくなっている。そのため、エレメントE6を使用する無端金属ベルトB1のトルク伝達量の向上が図れる。また、エレメントE6の高さ(図17の上下方向長さ)を小さくして、エレメントE6の軽量化、延いてはエレメントE6を使用する無端金属ベルトB1の軽量化を図ることができると共に、無端金属ベルトB1のレシオカバレージ(駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14の径の大小の比率)を拡大することができる。
【0097】
また、このエレメントE6は、開口部24eが図17に示したものとは反対側の左方に設けられているものと組み合わせて使用されることが好ましい。例えば、1枚または複数枚毎に開口部24eの向きの異なるエレメントE6を組み合わせると、プーリに対する左右のバランスを均一化することができ、プーリ噛み込み時の接触力の変化を小さくして、ノイズを低減することができる。また、摩耗も抑えることができる。
【0098】
また、各エレメントE1〜E6におけるピッチは、図12〜図17に符号CLにて示す鎖線部であり、エレメントE4〜E6では、環状金属コードC1の回転走行面と略一致した位置となっている。したがって、エレメントE4〜E6においては、プーリへの噛み込み時などに環状金属コードC1の走行に対してエレメントE4〜E6がスリップすることなく、伝達効率を良好にできる。
【0099】
なお、各エレメントE1〜E6において使用する環状金属コードC1の本数は、上記の例に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態に係る環状金属コードの斜視図である。
【図2】本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図3】本実施形態に係る環状金属コードに含まれる環状コア部に第2のストランド材を1周巻き付けた様子を示す斜視図である。
【図4】(a)は本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面図であり、(b)は当該環状金属コードの側面図である。
【図5】本実施形態に係る環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【図6】(a)は本実施形態に係る環状金属コードに含まれる接続部材の側面図であり、(b)は当該接続部材の断面図である。
【図7】本実施形態に係る環状金属コードを製造するための製造装置の一例を示す正面図である。
【図8】本実施形態に係る環状金属コードを製造する際のリールの移動状態を上面から見たときの概念図である。
【図9】本実施形態に係る環状金属コードを製造する際のリールの移動状態を正面から見たときの概念図である。
【図10】本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す図である。
【図11】本実施形態に係る無端金属ベルトを示す一部斜視図である。
【図12】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの側面図である。
【図13】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図14】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図15】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図16】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図17】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0101】
1・・・第1のストランド材、2・・・第2のストランド材、3・・・環状コア部、3a・・・結合部分、4・・・外層部、5・・・第1の金属素線、6・・・第2の金属素線、7・・・接続部材、7b・・・仕切り壁、8・・・凹部、B1・・・無端金属ベルト、C1・・・環状金属コード。
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状金属コード及び無端金属ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無端金属ベルトの一種として、例えば特許文献1に記載されているように、圧延帯材を曲げ、両端を溶接して円筒状としたものを所定の幅に切断してなる、断面が矩形状のものが知られている。
【0003】
また、例えば特許文献2に記載されているように、芯材に金属コードを用いた無端ベルトが知られている。芯材となる金属コードは、中心コアとなる少なくとも1本のフィラメントと、中心コアを取り巻く複数本のフィラメントとを備えている。
【特許文献1】特開2003−236610号公報
【特許文献2】特開平4−307146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の無端金属ベルトは、断面が矩形状であるため捩れに弱く、破断が生じ易い。また、特許文献2に記載の金属コードを無端金属ベルトに適用する場合には、金属コードの両端部を結合して環状にする必要がある。金属コードの両端部を結合する方法としては、金属コードの両端部を突き合わせて結合する方法と、金属コードを構成するフィラメント毎に両端部をそれぞれ結合する方法とが考えられる。金属コードの両端部を突き合わせて結合する方法では、結合箇所が一箇所となるため、金属コードの完全破断が生じやすくなる。一方、フィラメント毎に両端部を結合する方法では、フィラメントの端部を解撚してから結合し、結合後にフィラメントの端部を再び撚り合わせなければならないので、結合部分と他の部分とで撚りの状態が異なり、結合部分の機械的強度が低下するおそれがある。その結果、金属コードの破断が生じやすくなる。また、フィラメント毎に両端部を結合する方法では、結合にかかる工程が煩雑となり、製造が困難となってしまう。
【0005】
そこで、本発明の目的は、破断が生じにくく、且つ製造が容易な環状金属コード及び無端金属ベルトを提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の環状金属コードは、(1)第1の金属素線を複数本撚り合わせてなる第1のストランド材の両端を結合することによって形成された環状コア部と、(2)第2の金属素線を複数本撚り合わせてなる第2のストランド材を、環状コア部に対して螺旋状に且つ複数周にわたって巻き付けることによって形成され、環状コア部の外周面を覆う外層部と、を備え、(3)外層部を形成する第2のストランド材は、環状コア部の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられており、当該第2のストランド材の巻き付け始端部と巻き付け終端部とは結合されていることを特徴とするものである。
【0007】
このように、金属素線を複数本撚り合わせてなる第1のストランド材に、同じく金属素線を複数本撚り合わせてなる第2のストランド材を巻き付けるので、環状金属コードを丈夫なものとすることができる。第1のストランド材の両端は環状コア部とする際に結合され、第2のストランド材の両端は巻き付けが終わった後に結合されるため、第1のストランド材及び第2のストランド材は、別々に結合されることとなる。したがって、第1のストランド材及び第2のストランド材をまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードが完全に破断する可能性を抑制できる。第1のストランド材の両端を結合して環状コア部とするため、この環状コア部をベースとして第2のストランド材を巻き付けることが可能となる。その結果、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。
【0008】
外層部を形成する際には、第2のストランド材を複数本巻き付けるのではなく第2のストランド材を複数周にわたって巻き付ける。よって、第2のストランド材は少なくとも1本あればよい。その結果、第2のストランド材を複数本必要とする場合に比べて結合箇所を少なくできるため、環状金属コードの破断強度をより大きくすることができると共に、製造を容易とすることができる。第2のストランド材の巻き付けは所定の巻き付け角度で行なわれるので、第2のストランド材の巻き乱れがなく、表面状態が均一な環状金属コードを得ることができる。表面状態が均一な環状金属コードには外からの力が均一に付与されることとなるため、破断強度をさらに向上させることができる。
【0009】
好ましくは、第1のストランド材の結合部分と第2のストランド材の結合部分とは、環状コア部の周方向における位置が異なっている。結合部分の位置を互いにずらすことにより、環状コア及び外層部の同時破断が生じにくくなる。その結果、環状金属コードにおける破断強度の低下を抑制することができる。
【0010】
好ましくは、第1のストランド材の両端は溶接によって結合されており、第2のストランド材の巻き付け始端部と巻き付け終端部とは金属からなる接続部材によって結合されている。第1のストランド材の両端を溶接によって接合するため、結合部分の増径が殆ど無い環状コア部を得ることができる。このような環状コア部には、第2のストランド材を容易に巻き付けることができる。また、第2のストランド材の結合には接続部材を用いるため、結合作業を容易に行なうことができる。
【0011】
好ましくは、接続部材は略円柱形状を呈しており、当該接続部材には、第2のストランド材の巻き付け始端部及び巻き付け終端部が挿入される断面多角形状の穴部が設けられている。穴部の角に相当する部分では、接続部材7の内壁と第2のストランド材2との間に間隙が形成されることになる。この間隙は、例えば、穴部に第2のストランド材を挿入したのち接続部材をかしめた際に、肉盗み(肉逃げ)として機能することとなる。よって、接続部材の外面の変形を抑制できるため、表面状態が均一な環状金属コードをより確実に得ることができる。
【0012】
好ましくは、穴部は接続部材の両端に設けられた凹部であって、接続部材の一端側の凹部と接続部材の他端側の凹部との間には仕切り壁が設けられている。凹部と凹部との間、すなわち接続部材の中央部分に仕切り壁を設けることで、接続部材を折れ曲がりや割れが生じにくいものとすることができる。
【0013】
好ましくは、第1の金属素線の材質は、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含み、且つ、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有するとともに、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼である。これにより、第1のストランド材を、溶接性が良好で且つ耐熱性に優れたものとすることができる。
【0014】
好ましくは、前記第1の金属素線の直径は、0.06〜0.40mmである。これにより、第1のストランド材に適度な剛性をもたせることができると共に、耐疲労性を向上させることができる。また、環状コア部を形成する第1のストランド材は、当該環状金属コードの断面中心に位置するため、環状金属コードを曲げた状態で第2のストランド材と比較して応力が小さくなる。そのため、第1の金属素線の直径を0.06〜0.40mmの範囲内で第2の金属素線より太径として剛性を高めることができる。
【0015】
好ましくは、前記第2の金属素線の直径は、0.06〜0.30mmである。これにより、第2のストランド材に適度な剛性をもたせることができると共に、耐疲労性を向上させることができる。なお、より好ましくは、前記第2の金属素線の直径は、0.06〜0.22mmである。
【0016】
好ましくは、第1のストランド材と第2のストランド材とが同一の直径を有する、または前記第1のストランド材の直径が前記第2のストランド材の直径より大きい。これにより、環状コア部の外周面に沿って、第2のストランド材を実質的に隙間無く巻き付けることが可能となる。特に、当該環状金属コードを省スペース化に有利な横断面細密充填撚り構造とする場合、環状コア部を1本とし、その周りに1層目の外層部では第2のストランド材を6本配置する構成、2層目の外層部では第2のストランド材を12本配置する構成を基本とするが、第1のストランド材と第2のストランド材とが同一の直径である場合、線径公差によっては、1層目の外層部で第2のストランド材を6周させると、断面上、6本分の配列が困難となり第2のストランド材同士が干渉しあったり、環状コア部との接触が不均一となったりする。そこで、第1のストランド材の直径が第2のストランド材の直径より大きいと、このような不具合を回避することができる。
【0017】
好ましくは、第1のストランド材における第1の金属素線の撚り方向と、第2のストランド材における第2の金属素線の撚り方向とは同一であり、且つ、第1のストランド材における第1の金属素線及び第2のストランド材における第2の金属素線の撚り方向と、第2のストランド材の巻き付け方向とは逆である。これにより、第2のストランド材の巻き付け後において、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードを得ることができる。また、環状金属コードを捩れにくいものとすることができる。
【0018】
好ましくは、環状コア部の中心軸に対する第2のストランド材の巻き付け角度が4.5〜13.8度である。これにより、第2のストランド材の巻き付け作業が容易となる。また、適度な伸度を有し、且つ第2のストランド材の巻き緩みがない環状金属コードを得ることができる。
【0019】
好ましくは、第2のストランド材が、環状コア部の外周面に沿って6〜8周巻き付けられている。これにより、外層部が環状コア部を密に覆うこととなるため、環状金属コードを幾何学的に安定したものとすることができる。その結果、破断強度に優れ、径方向における変形が生じにくい環状金属コードを確実に得ることができる。
【0020】
好ましくは、環状コア部及び外層部には低温焼鈍処理が施されている。これにより、第1の金属素線及び第2の金属素線の内部歪みを除去することができる。
【0021】
また、本発明の無端金属ベルトは、上述の環状金属コードを備えることを特徴とするものである。上述の環状金属コードを用いることによって、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ製造が容易な無端金属ベルトを得ることができる。
【0022】
好ましくは、前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードに当接するとともに少なくとも一部を収容する収容溝を備えている。これにより、エレメントに対する環状金属コードの位置ずれを抑えて、環状金属コードがエレメントから外れてしまうことを防止することができる。
【0023】
好ましくは、前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードの外周側及び内周側でプーリに当接可能なプーリ当接面を備えている。これにより、プーリに対するエレメントの接触面積を大きく確保することができ、トルク伝達量の向上を図ることができる。
【0024】
好ましくは、前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントのピッチ位置と、前記環状金属コードの回転走行面が略一致した位置である。これにより、プーリへの噛み込み時などに環状金属コードの走行に対してエレメントがスリップすることなく、伝達効率を良好にできる。なお、ピッチ位置とは、無端金属ベルトの巻き掛け時に、前後のエレメントが接する位置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ製造が容易な環状金属コード及び無端金属ベルトを提供することができる。したがって、本発明の環状金属コード及び無端金属ベルトを産業機械に用いれば、当該産業機械を耐久性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0027】
本実施形態に係る環状金属コードについて図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る環状金属コードの斜視図であり、図2は本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。図3は、本実施形態に係る環状金属コードが備える環状コア部に第2のストランド材を1周巻き付けた様子を示す斜視図である。図4(a)は、本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面図であり、図4(b)は、本実施形態に係る環状金属コードの側面図である。図5は、本実施形態に係る環状金属コードの一部を示す拡大斜視図であり、図6(a)は、本実施形態に係る環状金属コードに含まれる接続部材の側面図であり、図6(b)は、本実施形態に係る環状金属コードに含まれる接続部材の断面図である。
【0028】
図1及び図2に示されるように、環状金属コードC1は、環状コア部3と環状コア部3の外周面を覆う外層部4とを備えるものである。
【0029】
環状コア部3は、第1のストランド材1の両端を結合することによって形成される。そのため、環状コア部3は、図3に示されるように結合部分3aを有している。本実施形態では、第1のストランド材1の両端は溶接によって結合されている。溶接で結合した場合には、他の方法で結合した場合と比較して結合部分の増径が生じにくい。そのため、結合部分においても第2のストランド材2の巻き付けがスムーズな環状コア部3を得ることができる。
【0030】
第1のストランド材1は、図4(a)に示されるように、第1の金属素線5を複数本撚り合わせたものである。本実施形態においては、第1のストランド材1は、図2に示されるように、1本の第1の金属素線5を中心とし、この第1の金属素線5の外周面に6本の第1の金属素線5をS撚りに巻き付けたものである。このように、第1のストランド材1は幾何学的に安定した7本撚りであるため、丈夫で破断が生じにくいものとなっている。
【0031】
第1の金属素線5は合金鋼であり、材質として、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含んでいる。また、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有している。更に、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなっている。このような材料からなる第1の金属素線5を第1のストランド材1に用いているため、第1のストランド材1は溶接性が良好で且つ耐熱性に優れたものとなっている。
【0032】
第1の金属素線5は、0.06〜0.40mmといった直径を有している。仮に、第1の金属素線5の直径が0.06mmよりも大きいので、第1のストランド材1の剛性が十分となり、環状コア部3を変形しにくいものとすることができる。第1の金属素線5の直径が0.40mmよりも小さいので、第1のストランド材1の剛性が過度に大きくならず、環状金属コードC1を繰り返し応力による疲労破断が生じにくいものとすることができる。
また、環状コア部3を形成する第1のストランド材1は、環状金属コードC1の断面中心に位置するため、環状金属コードC1を曲げた状態で第2のストランド材2と比較して応力が小さくなる。そのため、第1の金属素線5の直径を0.06〜0.40mmの範囲内で第2の金属素線6より太径として剛性を高めることもできる。
【0033】
外層部4は、環状コア部3を軸芯として第2のストランド材2を巻き付けることにより形成される。第2のストランド材2は、図4(a)に示されるように、第2の金属素線6を複数本撚り合わせたものである。
【0034】
第2の金属素線6は、材料として0.70質量%以上のCを含む高炭素鋼を用いる。0.70質量%以上のCを含む材料を選定することで、第2の金属素線6をより破断強度に優れた鋼線とすることができる。なお、第2の金属素線6は、第1の金属素線5と同質の材料からなっていてもよいが、溶接接合をしない第2の金属素線6には、0.70質量%以上のCを含む材料を用いることがより好ましい。
【0035】
第2の金属素線6の直径は、第1の金属素線5の直径と同一もしく第1の金属素線5の直径より小径であって、0.06〜0.30mmとなっている。より好ましくは、第2の金属素線6の直径は0.06〜0.22mmである。このような直径の第2の金属素線6で第2のストランド材2を形成すると、第1のストランド材1と同様、適度な剛性を有する第2のストランド材2を得ることができる。そのため、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けが容易となり、且つ第2のストランド材2の巻き緩みが生じにくくなる。
【0036】
本実施形態において、第2のストランド材2は、図2に示されるように、第2の金属素線6の外周面に6本の第2の金属素線6をS撚りに巻き付けたものである。つまり、第2のストランド材2は幾何学的に安定した7本撚りであるため、丈夫で破断が生じにくいものとなっている。第2のストランド材2と第1のストランド材1とでは、用いる素線の直径、本数、及び撚り方が同一である。もしくは、第2のストランド材2より第1のストランド材1の方が用いる素線の直径が大きい。したがって、第2のストランド材2は第1のストランド材1と同一の直径を有するか、または第1のストランド材1の直径が第2のストランド材2の直径より大きい。
【0037】
第2のストランド材2は、環状コア部3に対して複数周にわたって巻き付けられると共に、図2及び図3に示されるように、螺旋状に巻き付けられる。第2のストランド材2は、捩れが無いように巻き付けられる。捩れ無く巻き付けることによって、第2のストランド材2の巻き緩みを抑制することができる。
【0038】
本実施形態において、第2のストランド材2は環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けられている。第2のストランド材2は第1のストランド材1と同一の直径を有しているので、環状コア部3の外周面には、第2のストランド材2が実質的に隙間無く巻き付けられる。よって、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなる。環状金属コードC1の断面は、図4(a)に示されるように、環状コア部3である第1のストランド材1の周りに6つの第2のストランド材2が配列された形状となる。この断面形状は、第1のストランド材1あるいは第2のストランド材2を7本撚りした場合の断面形状と同一である。このように、環状金属コードC1は幾何学的に安定した構造を有しているため、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ径方向における変形が生じにくいものとなっている。
【0039】
環状金属コードC1は、図4(a)に示されるように、省スペース化に有利な横断面細密充填撚り構造であり、1本の環状コア部3の周りに1層目の外層部では第2のストランド材を6本配置した構成、2層目の外層部では第2のストランド材を12本配置した構成となるが、第1のストランド材1と第2のストランド材2とが同一の直径である場合、線径公差によっては、1層目の外層部で第2のストランド材2を6周させると、断面上、6本分の配列が困難となり第2のストランド材2同士が干渉しあったり、環状コア部3との接触が不均一となったりする。そこで、第1のストランド材1の直径が第2のストランド材2の直径より大きいと、このような不具合を回避することができる。
【0040】
第2のストランド材2は、図3に示されるように、環状コア部3の外周面にZ撚りに巻き付けられる。第1のストランド材1及び第2のストランド材2自体はS撚りで形成されているため、環状金属コードC1はS撚りとZ撚りとが混在したものとなる。よって、捩れにくく、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードC1を得ることができる。
【0041】
また、第2のストランド材2は、環状コア部3の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられている。このため、第2のストランド材2が乱れなく巻かれ、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。本実施形態においては、図4(b)に示されるように、X方向、すなわち環状コア部3の中心軸が延びる方向、に対する第2のストランド材2の巻き付け角度θは、4.5〜13.8度となっている。巻き付け角度θを4.5度より大きくすることで、第2のストランド材2の巻き緩みが生じにくくなる。巻き付け角度θを13.8度より小さくすることで、第2のストランド材2の伸度が過度に大きくなることを防ぐことができる。つまり、第2のストランド材2の巻き付け角度θを4.5〜13.8度とすることで、適度な伸度を有し、且つ曲げやすい環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1を、例えば後述する無段変速機の無端金属ベルトに用いた場合、駆動側プーリと被駆動側プーリとの間の動力伝達を精度よく行なうことができる。
【0042】
図5に示されるように、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとは接続部材7によって結合されている。接続部材7を用いることにより、第2のストランド材の巻き付け始端部2a及び巻き付け終端部2bの結合が容易となる。環状コア部3の周方向において、第2のストランド材2の結合部分の位置は、環状コア部3の結合部分の位置と異なっている。結合部分の位置を互いにずらすことにより、環状コア部3及び外層部4の同時破断を抑制できる。
【0043】
接続部材7は例えば真鍮といった金属からなっている。接続部材7は略円柱形状を呈している。接続部材7の寸法は、例えば直径W1が約1.1mm、長さL1が約8mmとなっている。接続部材7の両端には、図6(a)及び図6(b)にも示されるように、断面多角形状の凹部8(穴部)がそれぞれ設けられている。一方の凹部8には第2のストランド材2の巻き付け始端部2aが挿入されており、他方の凹部8には第2のストランド材2の巻き付け終端部2bが挿入されている。凹部8は、より具体的には略正六角形状を呈している。凹部8の寸法は、例えば深さL2が約1.5mm、幅W2が約0.7mmとなっている。
【0044】
接続部材7において、各凹部8の外壁に相当する部分はかしめ治具等によってかしめられている。この部分をかしめることによって、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを、接続部材7を介して結合することができる。凹部8の断面は略正六角形状となっているため、角に相当する部分7aでは、接続部材7の内壁と第2のストランド材2との間に間隙が形成されることになる。この間隙が、かしめた際に肉盗みとして機能するため、接続部材7の外面の変形を抑制することが可能となる。
【0045】
接続部材7の軸方向における略中央部分、すなわち凹部8と凹部8との間には、仕切り壁7bが設けられている。
【0046】
ここで、例えば、内部に貫通孔を有する円筒形状の接続部材を考える。このような形状の接続部材を用いる場合には、貫通孔の両端から第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを挿通し、貫通孔内でこれらを突き合わせて結合することとなる。このため、円筒形状の接続部材に折れ曲がりや割れが生じ易くなる可能性がある。接続部材に折れ曲がりや割れが生じると、貫通孔内の第2のストランド材2が破断するおそれがある。本実施形態のように、接続部材7の略中央部分に仕切り壁7bを設けた場合には、接続部材7に折れ曲がりや割れが生じにくくなり、接続部材7の機械的強度を上げることができる。
【0047】
このように、外層部4は、第2のストランド材2を環状コア部3に巻き付けた後に、接続部材7で第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを結合することによって形成されている。
【0048】
続いて、環状金属コードC1の製造方法について説明する。図7は、環状金属コードC1を製造するための製造装置の一例を示す正面図である。図8は、環状金属コードC1を製造する際のリールの移動状態を上面から見たときの概念図である。図9は、環状金属コードC1を製造する際のリールの移動状態を正面から見たときの概念図である。
【0049】
図7に示されるように、製造装置M1は、ドライビングユニット40と、サプライ部50と、スライドユニット60とを備えている。
【0050】
ドライビングユニット40は、ピンチローラ41a,41bを有している。ピンチローラ41a,41bは、環状コア部3を周方向に回転させるための駆動モータ(図示せず)と連結されている。ピンチローラ41a,41bの上部には、環状コア部3を案内するためのクランプユニット44が設けられている。クランプユニット44は、図8に示されるように、ローラ44a,44bからなっている。ローラ44a,44bは、環状コア部3を垂直にして横揺れを抑え、且つ、環状コア部3を周方向に回転させる。
【0051】
スライドユニット60は、移動台61と、スタンド62と、レール66とを有している。移動台61は、駆動モータ(図示せず)によりレール66に沿って往復動する。移動台61にはスタンド62が設けられており、当該スタンド62にはサプライ部50が設置されている。サプライ部50は、第2のストランド材2を巻き取ったリール51を有している。サプライ部50は、第2のストランド材2を環状コア部3の配設方向に供給する。
【0052】
このような構成を有する製造装置M1を用いた場合、環状金属コードC1は以下の工程を経て製造される。
【0053】
まず、第2のストランド材2の巻き付け始端を、粘着テープ等を用いて環状コア部3に仮止めする。仮止め後、環状コア部3を周方向に回転させて、第2のストランド材2の環状コア部3への巻き付けを開始する。
【0054】
第2のストランド材2を巻いたリール51は、図9に示されるように、環状コア部3の内側と外側との間を往復動する。往復動はレール66に沿って行われる。より具体的には、図8(a)に示されるように環状コア部3の外側に位置したリール51は、環状コア部3に近づく方向に移動する。リール51は、図8(b)に示されるように環状コア部3の内側に到達すると、図8(c)に示されるように環状コア部3の輪をくぐる。環状コア部3の輪をくぐったリール51は、環状コア部3から離れる方向に移動し、図8(d)に示されるように環状コア部3の外側に再び到達する。到達後、リール51は図8の(a)に示される位置に戻る。図8(a)〜(d)を繰り返すことにより、第2のストランド材2は環状コア部3の外周面に螺旋状に巻き付けられることとなる。
【0055】
第2のストランド材2の巻き付け終了後、図5に示されるように、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとを接続部材7の凹部8にそれぞれ挿入し、挿入部分をかしめ治具等で外からかしめる。これにより、第2のストランド材2からなる外層部4を得ることができる。
【0056】
接続部材7をかしめた後、上述の環状コア部3及び外層部4に低温焼鈍処理を施す。より具体的には、真空中又は減圧雰囲気中にアルゴンを導入した圧力室内で、環状コア部3及び外層部4に対して熱処理を施す。熱処理する際の温度は、70〜380度である。これにより、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の内部歪みを除去することができ、歪みのない環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1を、例えば後述する無段変速機の無端金属ベルトに用いた場合、蛇行せずに回転する無端金属ベルトを得ることができる。蛇行せずに回転する無端金属ベルトは、周囲の部品と接触して磨耗することが無いため、長期間にわたって高性能を維持することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、第1の金属素線5を7本撚り合わせてなる第1のストランド材1に、第2の金属素線6を7本撚り合わせてなる第2のストランド材2を巻き付けるので、環状金属コードC1を丈夫なものとすることができる。第1のストランド材1及び第2のストランド材2は別々に結合されるので、第1のストランド材1及び第2のストランド材2をまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードC1が完全に破断する可能性を抑制できる。第1のストランド材1から環状コア部3を形成し、かかる環状コア部3を軸芯として第2のストランド材2を巻き付けるため、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。外層部4を形成する際には、第2のストランド材2を複数本巻き付けるのではなく第2のストランド材2を6周にわたって巻き付けるので、第2のストランド材2は少なくとも1本あればよい。よって、第2のストランド材2を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少なくなるため、環状金属コードC1の破断強度をより大きくすることができる共に、製造を容易とすることができる。第2のストランド材2の巻き付けは所定の巻き付け角度で行なうので、第2のストランド材2の巻き乱れがなく、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1には外からの力が均一に付与されることとなるため、破断強度をさらに向上させることができる。
【0058】
また、第1のストランド材1の結合部分と第2のストランド材2の結合部分とは、環状コア部3の周方向における位置が異なっている。結合部分の位置を互いにずらすことにより、環状コア部3及び外層部4の同時破断が生じにくくなるので、環状金属コードC1の破断強度を更に向上させることができる。
【0059】
また、第1のストランド材1の両端は溶接によって結合されており、第2のストランド材2の巻き付け始端部2aと巻き付け終端部2bとは接続部材7によって結合されている。この場合、第1のストランド材1においては結合部分がより破断しにくくなり、第2のストランド材2においては結合が容易となる。
【0060】
このとき、接続部材7は略円柱形状を呈しており、接続部材7の両端には、第2のストランド材2の巻き付け始端部2a及び巻き付け終端部2bが挿入される略正六角形状の凹部8が設けられている。接続部材7において、略正六角形の角に相当する部分7aでは、接続部材7の内壁と第2のストランド材2との間に間隙が形成されることになる。したがって、第2のストランド材2の両端部を凹部にそれぞれ挿入した後に、接続部材7をかしめた場合、かかる間隙が肉盗みとして機能する。その結果、接続部材7の外面の変形を抑制できるため、表面状態が均一な環状金属コードC1をより確実に得ることができる。
【0061】
また、接続部材7において、凹部8と凹部8との間には仕切り壁7bが設けられている。凹部8と凹部8との間、すなわち接続部材7の中央部分に仕切り壁7bを設けることで、接続部材7を折れ曲がりや割れが生じにくいものとすることができる。
【0062】
また、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の材質は、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含み、且つ、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有するとともに、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼である。これにより、第1のストランド材1を溶接性が良好で且つ耐熱性に優れたものとすることができる。
【0063】
また、第1の金属素線5の直径は、0.06〜0.40mmであり、第2の金属素線6の直径は、0.06〜0.30mmである。この場合、第1のストランド材1及び第2のストランド材2に適度な剛性をもたせることができ、第1のストランド材1及び第2のストランド材を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。なお、より好ましい第2の金属素線6の直径は、0.06〜0.22mmである。
また、環状コア部3を形成する第1のストランド材1は、環状金属コードC1の断面中心に位置するため、環状金属コードC1を曲げた状態で第2のストランド材2と比較して応力が小さくなる。そのため、第1の金属素線5の直径を0.06〜0.40mmの範囲内で第2の金属素線6より太径として剛性を高めることができる。
【0064】
また、第1のストランド材1と第2のストランド材2とは同一の直径を有している場合、環状コア部3の外周面に沿って、第2のストランド材2を実質的に隙間無く巻き付けることが可能となる。
また、第1のストランド材1の直径が第2のストランド材2の直径より大きい場合、外層部4において第2のストランド材2同士が干渉しあったり、環状コア部3との接触が不均一となったりすることを防止できる。
【0065】
また、第1のストランド材1及び第2のストランド材2はそれぞれ第1の金属素線5及び第2の金属素線6をS撚りしたものであるが、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けはZ撚りとなっている。この場合、捩れにくく、且つ環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き緩みが生じにくい環状金属コードC1を得ることができる。
【0066】
また、環状コア部3の中心軸に対する第2のストランド材2の巻き付け角度は4.5〜13.8度となっている。この場合、第2のストランド材2の巻き付け作業が容易となる。また、適度な伸度を有し、且つ第2のストランド材2の巻き緩みがない環状金属コードC1を得ることができる。
【0067】
また、第2のストランド材2は環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けられている。これにより、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなるため、環状金属コードC1を幾何学的に安定したものとすることができる。その結果、破断強度及び耐疲労性に優れ、径方向での変形が生じにくい環状金属コードC1を確実に得ることができる。
【0068】
また、環状コア部3及び外層部4には低温焼鈍処理が施されている。この場合、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の内部歪みを除去することができる。
【0069】
次に、上述した構成を有する環状金属コードC1を備える無端金属ベルトについて説明する。図10は本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す図である。図11は本実施形態に係る無端金属ベルトを示す一部斜視図である。図12は、本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの側面図である。
【0070】
無端金属ベルトB1は、例えば図10に示されるような、自動車やその他の産業機械で使用されている無段変速機10用に用いられる。無端金属ベルトB1は、溝幅可変のV形の駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14との間の動力伝達を担っている。無端金属ベルトB1を駆動側プーリ12及び被駆動側プーリ14に掛け渡すことにより、駆動側プーリ12の回転力が無端金属ベルトB1を介して被駆動側プーリ14に伝達される。
【0071】
無端金属ベルトB1は、図11に示されるように、上述した環状金属コードC1と、この環状金属コードC1が両側からそれぞれ4本ずつ挟み込まれる多数のエレメントE1とを備えている。
【0072】
エレメントE1は、金属板材から打ち抜いて成形したものである。エレメントE1は、図12に示されるように、概略台形状のエレメント本体部20と、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22,22間に位置するネック部24と、ネック部24を介してエレメント本体部20の上部に接続される略三角形状を呈したイヤー部26とを備えている。エレメント本体部20の左右方向外端部には、駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28,28が形成されている。また、前後に隣接するエレメントE1を結合すべく、イヤー部26の前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0073】
収容部22,22の上縁および下縁にはそれぞれサドル面32,32及びイヤー部下面36,36が形成されている。サドル面32,32には、4つの円弧形状の収容凹部34がそれぞれ設けられている。4つの収容凹部34には、4本の環状金属コードC1の下面が当接する。各環状金属コードC1の上面はイヤー部下面36,36との間に僅かな隙間を有している。
【0074】
環状金属コードC1は、先に述べたように破断強度が非常に大きい。また、環状金属コードC1は、断面が略円形状であるため、断面が矩形状のものと比べて捩れに強い。したがって、環状金属コードC1を上述の構成を有するエレメントE1に挟み込んだ無端金属ベルトB1は、耐屈曲性及び耐久性に非常に優れたものとなる。
【0075】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。
【0076】
例えば、本実施形態の環状金属コードC1では、第2のストランド材2を環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けるとした。これを、第1のストランド材1と第2のストランド材2との直径が異なる場合には、7周或いは8周巻き付けるとしてもよい。
【0077】
また、本実施形態の環状金属コードC1では、図4(a)に示されるように、環状コア部3の外周面を1層の第2のストランド材2が覆っている。これを、環状コア部3の外周面を複数層の第2のストランド材2が覆うようにしてもよい。例えば、環状コア部3の外周面を2層の第2のストランド材2で覆う場合には、第2のストランド材2を環状コア部3の外周面に6周巻き付けて1層目を形成した後、かかる1層目の外周面に第2のストランド材2を12周巻き付けて2層目を形成することとなる。
【0078】
また、本実施形態の環状金属コードC1では、第1のストランド材1及び第2のストランド材2をS撚りとし、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けをZ撚りで行なうとしたが、第1のストランド材1及び第2のストランド材2をZ撚りとし、環状コア部3に対する第2のストランド材2の巻き付けをS撚りで行なうとしてもよい。
【0079】
また、本実施形態の環状金属コードC1は、図4(a)に示されるように、断面が略円形状となっているが、断面を扁平形状としてもよい。この場合、略円形状の環状金属コードC1にプレス等を施して、変形させることとなる。このように環状金属コードC1を扁平形状とすることによって、かかる環状金属コードC1を備える無端金属ベルトB1と、エレメントE1との接触面積を大きくすることができる。その結果、駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14との間の動力伝達をより効率よく行なうことができる。なお、扁平率は66%以上であることが好ましい。
【0080】
また、本実施形態の無端金属ベルトB1において、エレメントE1の両側に環状金属コードC1がそれぞれ4本ずつ挟み込まれるとしたが、挟み込まれる環状金属コードC1の本数はこれに限られない。求められる耐屈曲性及び耐久性に応じて、環状金属コードC1の本数を調整することが可能である。
【0081】
また、本実施形態は、環状金属コードを、無段変速機において動力を伝達する無端金属ベルトに適用したものであるが、本発明の環状金属コードは、無段変速機以外で使用される無端金属ベルトにも適用することができる。例えば、プリンタをはじめとする印刷機において紙送りローラ間の動力伝達を担う無端金属ベルト、一軸ロボットの直行駆動を担う無端金属ベルト、X−Yテーブル機構の駆動や三次元のキャリッジ駆動を担う無端金属ベルト、光学機器や検査機、あるいは測定器内において精密駆動を担う無端金属ベルト等に適用可能である。
【0082】
また、第1の金属素線5及び第2の金属素線6の材料は、上記のものに限られない。
【0083】
また、本実施形態の無端金属ベルトB1において、使用されるエレメントの形態は図11及び図12に示したものに限られない。
例えば、図13〜図17に示すように、様々な形態のエレメントが使用可能である。次に示すエレメントE2〜E6も、エレメントE1と同様、金属板材から打ち抜いて成形したものである。
【0084】
図13に示すエレメントE2は、概略台形状のエレメント本体部20aと、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22a,22a間に位置するネック部24aと、ネック部24aを介してエレメント本体部20aの上部に接続される略三角形状を呈したイヤー部26aとを備えている。ネック部24aは、エレメントE1のネック部24と比較して角部の湾曲凹部がないため、強度が向上している。すなわち、エレメントE2を使用する無端金属ベルトB1の使用寿命が向上する。
【0085】
エレメント本体部20aの左右方向外端部には、駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28a,28aが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE2を結合すべく、イヤー部26aの前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38a及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。収容部22a,22aの上縁及び下縁にはそれぞれイヤー部下面36a,36a及びサドル面32a,32aが形成されている。サドル面32a,32aには、3本の環状金属コードC1を収容する収容凹部(収容溝)34aがそれぞれ設けられている。各収容凹部34aには、3本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容し、環状金属コードC1の飛び出しを抑制している。各環状金属コードC1の上面はイヤー部下面36a,36aとの間に僅かな隙間を有している。
【0086】
図14に示すエレメントE3は、概略台形状のエレメント本体部20bと、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22b,22b間に位置するネック部24bと、ネック部24bを介してエレメント本体部20bの上部に接続される略三角形状を呈したイヤー部26bとを備えている。ネック部24bは、エレメントE1のネック部24と比較して角部の湾曲凹部がないため、強度が向上している。すなわち、エレメントE3を使用する無端金属ベルトB1の使用寿命が向上する。
【0087】
エレメント本体部20bの左右方向外端部には、駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28b,28bが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE3を結合すべく、イヤー部26bの前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38b及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。収容部22b,22bの上縁及び下縁にはそれぞれイヤー部下面36b,36b及びサドル面32b,32bが形成されている。サドル面32b,32bは、それぞれ3本の環状金属コードC1を収容する湾曲凹部(収容溝)として形成されている。各サドル面32bには、3本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容し、環状金属コードC1の飛び出しを抑制している。各環状金属コードC1の上面はイヤー部下面36b,36bとの間に僅かな隙間を有している。
【0088】
図15に示すエレメントE4は、概略台形状のエレメント第1本体部20cと、環状金属コードC1が嵌合する左右一対の収容部22c,22c間に位置するネック部24cと、ネック部24cを介してエレメント第1本体部20cの上部に接続される概略台形状のエレメント第2本体部26cとを備えている。ネック部24cは、エレメントE1のネック部24と比較して角部の湾曲凹部がないため、強度が向上している。すなわち、エレメントE4を使用する無端金属ベルトB1の使用寿命が向上する。
【0089】
エレメント第1本体部20c及びエレメント第2本体部26cの左右方向外端部には、それぞれ駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28c,28cが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE4を結合すべく、エレメント第2本体部26cの前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38c及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。収容部22c,22cの上縁及び下縁にはそれぞれ収容部上面36c,36c及びサドル面32c,32cが形成されている。サドル面32c,32cは、それぞれ3本の環状金属コードC1を収容する湾曲凹部(収容溝)として形成されている。各サドル面32cには、3本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容し、環状金属コードC1の飛び出しを抑制している。各環状金属コードC1の上面は収容部上面36c,36cとの間に僅かな隙間を有している。
【0090】
このエレメントE4は、収容部22cに収容した環状金属コードC1の上下(外周側及び内周側)においてプーリ当接面28cが設けられているため、プーリに対する接触面積を確保しやすくなっている。そのため、エレメントE4を使用する無端金属ベルトB1のトルク伝達量の向上が図れる。また、エレメントE4の高さ(図15の上下方向長さ)を小さくして、エレメントE4の軽量化、延いてはエレメントE4を使用する無端金属ベルトB1の軽量化を図ることができると共に、無端金属ベルトB1のレシオカバレージ(駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14の径の大小の比率)を拡大することができる。
【0091】
図16に示すエレメントE5は、概略台形状のエレメント本体部20dと、エレメント本体部20dの中央に形成された環状金属コードC1が嵌合する収容部22dと、収容部22dと連通しエレメント本体部20dの中央上部に開口した開口部24dとを備えている。すなわち、エレメント本体部20dは収容部22d内に嵌合した環状金属コードC1を囲む形状となっている。収容部22dの下縁には湾曲凹部(収容溝)32dが形成されており、湾曲凹部32dには5本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容している。また、収容部22d内の環状金属コードC1は、上方の開口部24dを除きエレメント本体部20dにより囲まれているため、環状金属コードC1の飛び出しは防止されている。また、各環状金属コードC1の上面は収容部上面36dとの間に僅かな隙間を有している。
【0092】
エレメント本体部20dの左右方向外端部には、それぞれ駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28d,28dが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE5を結合すべく、エレメント本体部20dの中央下部における前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38d及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0093】
このエレメントE5は、収容部22dに収容した環状金属コードC1の上下(外周側及び内周側)にわたってプーリ当接面28dが設けられているため、プーリに対する接触面積を確保しやすくなっている。そのため、エレメントE5を使用する無端金属ベルトB1のトルク伝達量の向上が図れる。また、エレメントE5の高さ(図16の上下方向長さ)を小さくして、エレメントE5の軽量化、延いてはエレメントE5を使用する無端金属ベルトB1の軽量化を図ることができると共に、無端金属ベルトB1のレシオカバレージ(駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14の径の大小の比率)を拡大することができる。
【0094】
図17に示すエレメントE6は、概略台形状のエレメント本体部20eと、エレメント本体部20eの中央に形成された環状金属コードC1が嵌合する収容部22eと、収容部22eと連通しエレメント本体部20eの右側に開口した開口部24eとを備えている。すなわち、エレメント本体部20eは収容部22e内に嵌合した環状金属コードC1を囲む形状となっている。収容部22eの下縁には湾曲凹部(収容溝)32eが形成されており、湾曲凹部32eには5本の環状金属コードC1の下面が当接して環状金属コードC1の一部を収容している。また、収容部22e内の環状金属コードC1は、右方の開口部24eを除きエレメント本体部20eにより囲まれているため、環状金属コードC1の飛び出しは防止されている。また、各環状金属コードC1の上面は収容部上面36eとの間に僅かな隙間を有している。
【0095】
エレメント本体部20eの左右方向外端部には、開口部24eを除き、それぞれ駆動側プーリ12および被駆動側プーリ14に当接可能な一対のプーリ当接面28e,28eが形成されている。また、前後に隣接するエレメントE6を結合すべく、エレメント本体部20eの中央上部における前面および後面に、相互に緩く嵌合可能な円形断面の凸部38e及び凹部(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0096】
このエレメントE6は、収容部22eに収容した環状金属コードC1の上下(外周側及び内周側)にわたってプーリ当接面28eが設けられているため、プーリに対する接触面積を確保しやすくなっている。そのため、エレメントE6を使用する無端金属ベルトB1のトルク伝達量の向上が図れる。また、エレメントE6の高さ(図17の上下方向長さ)を小さくして、エレメントE6の軽量化、延いてはエレメントE6を使用する無端金属ベルトB1の軽量化を図ることができると共に、無端金属ベルトB1のレシオカバレージ(駆動側プーリ12と被駆動側プーリ14の径の大小の比率)を拡大することができる。
【0097】
また、このエレメントE6は、開口部24eが図17に示したものとは反対側の左方に設けられているものと組み合わせて使用されることが好ましい。例えば、1枚または複数枚毎に開口部24eの向きの異なるエレメントE6を組み合わせると、プーリに対する左右のバランスを均一化することができ、プーリ噛み込み時の接触力の変化を小さくして、ノイズを低減することができる。また、摩耗も抑えることができる。
【0098】
また、各エレメントE1〜E6におけるピッチは、図12〜図17に符号CLにて示す鎖線部であり、エレメントE4〜E6では、環状金属コードC1の回転走行面と略一致した位置となっている。したがって、エレメントE4〜E6においては、プーリへの噛み込み時などに環状金属コードC1の走行に対してエレメントE4〜E6がスリップすることなく、伝達効率を良好にできる。
【0099】
なお、各エレメントE1〜E6において使用する環状金属コードC1の本数は、上記の例に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態に係る環状金属コードの斜視図である。
【図2】本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図3】本実施形態に係る環状金属コードに含まれる環状コア部に第2のストランド材を1周巻き付けた様子を示す斜視図である。
【図4】(a)は本実施形態に係る環状金属コードを示す径方向の断面図であり、(b)は当該環状金属コードの側面図である。
【図5】本実施形態に係る環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【図6】(a)は本実施形態に係る環状金属コードに含まれる接続部材の側面図であり、(b)は当該接続部材の断面図である。
【図7】本実施形態に係る環状金属コードを製造するための製造装置の一例を示す正面図である。
【図8】本実施形態に係る環状金属コードを製造する際のリールの移動状態を上面から見たときの概念図である。
【図9】本実施形態に係る環状金属コードを製造する際のリールの移動状態を正面から見たときの概念図である。
【図10】本実施形態に係る無端金属ベルトの使用状態を示す図である。
【図11】本実施形態に係る無端金属ベルトを示す一部斜視図である。
【図12】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの側面図である。
【図13】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図14】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図15】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図16】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【図17】本実施形態に係る無端金属ベルトが備えるエレメントの他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0101】
1・・・第1のストランド材、2・・・第2のストランド材、3・・・環状コア部、3a・・・結合部分、4・・・外層部、5・・・第1の金属素線、6・・・第2の金属素線、7・・・接続部材、7b・・・仕切り壁、8・・・凹部、B1・・・無端金属ベルト、C1・・・環状金属コード。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属素線を複数本撚り合わせてなる第1のストランド材の両端を結合することによって形成された環状コア部と、
第2の金属素線を複数本撚り合わせてなる第2のストランド材を、前記環状コア部に対して螺旋状に且つ複数周にわたって巻き付けることによって形成され、前記環状コア部の外周面を覆う外層部と、を備え、
前記外層部を形成する前記第2のストランド材は、前記環状コア部の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられており、当該第2のストランド材の巻き付け始端部と巻き付け終端部とは結合されていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項2】
前記第1のストランド材の結合部分と前記第2のストランド材の結合部分とは、前記環状コア部の周方向における位置が異なることを特徴とする請求項1に記載の環状金属コード。
【請求項3】
前記第1の金属素線の材質が、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含み、且つ、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有するとともに、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼であることを特徴とする請求項1または2に記載の環状金属コード。
【請求項4】
前記第1の金属素線の直径は、0.06〜0.40mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項5】
前記第2の金属素線の直径は、0.06〜0.30mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項6】
前記第1のストランド材と前記第2のストランド材とが同一の直径を有する、または前記第1のストランド材の直径が前記第2のストランド材の直径より大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項7】
前記第1のストランド材における前記第1の金属素線の撚り方向と、前記第2のストランド材における前記第2の金属素線の撚り方向とは同一であり、且つ、前記第1のストランド材における前記第1の金属素線及び前記第2のストランド材における前記第2の金属素線の撚り方向と、前記第2のストランド材の巻き付け方向とは逆であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項8】
前記環状コア部の中心軸に対する前記第2のストランド材の巻き付け角度が4.5〜13.8度であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項9】
前記第2のストランド材が、前記環状コア部の外周面に沿って6〜8周巻き付けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項10】
前記環状コア部及び前記外層部には低温焼鈍処理が施されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の前記環状金属コードを備えることを特徴とする無端金属ベルト。
【請求項12】
前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードに当接するとともに少なくとも一部を収容する収容溝を備えていることを特徴とする請求項11に記載の無端金属ベルト。
【請求項13】
前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードの外周側及び内周側でプーリに当接可能なプーリ当接面を備えていることを特徴とする請求項11または12に記載の無端金属ベルト。
【請求項14】
前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントのピッチ位置と、前記環状金属コードの回転走行面が略一致した位置である請求項11〜13のいずれか一項に記載の無端金属ベルト。
【請求項1】
第1の金属素線を複数本撚り合わせてなる第1のストランド材の両端を結合することによって形成された環状コア部と、
第2の金属素線を複数本撚り合わせてなる第2のストランド材を、前記環状コア部に対して螺旋状に且つ複数周にわたって巻き付けることによって形成され、前記環状コア部の外周面を覆う外層部と、を備え、
前記外層部を形成する前記第2のストランド材は、前記環状コア部の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられており、当該第2のストランド材の巻き付け始端部と巻き付け終端部とは結合されていることを特徴とする環状金属コード。
【請求項2】
前記第1のストランド材の結合部分と前記第2のストランド材の結合部分とは、前記環状コア部の周方向における位置が異なることを特徴とする請求項1に記載の環状金属コード。
【請求項3】
前記第1の金属素線の材質が、C:0.08〜0.27質量%、Si:0.30〜2.00質量%、Mn:0.50〜2.00質量%、Cr:0.20〜2.00質量%を含み、且つ、Mo:0.01〜1.00質量%、Ni:0.10〜2.00質量%、Co:0.10〜2.00質量%、及びW:0.01〜1.00質量%のうち少なくともいずれか1種類を含有するとともに、Al、Nb、Ti、及びVをそれぞれ0.001〜0.10質量%の範囲で少なくともいずれか1種類含有し、残部がFe及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼であることを特徴とする請求項1または2に記載の環状金属コード。
【請求項4】
前記第1の金属素線の直径は、0.06〜0.40mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項5】
前記第2の金属素線の直径は、0.06〜0.30mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項6】
前記第1のストランド材と前記第2のストランド材とが同一の直径を有する、または前記第1のストランド材の直径が前記第2のストランド材の直径より大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項7】
前記第1のストランド材における前記第1の金属素線の撚り方向と、前記第2のストランド材における前記第2の金属素線の撚り方向とは同一であり、且つ、前記第1のストランド材における前記第1の金属素線及び前記第2のストランド材における前記第2の金属素線の撚り方向と、前記第2のストランド材の巻き付け方向とは逆であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項8】
前記環状コア部の中心軸に対する前記第2のストランド材の巻き付け角度が4.5〜13.8度であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項9】
前記第2のストランド材が、前記環状コア部の外周面に沿って6〜8周巻き付けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項10】
前記環状コア部及び前記外層部には低温焼鈍処理が施されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の環状金属コード。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の前記環状金属コードを備えることを特徴とする無端金属ベルト。
【請求項12】
前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードに当接するとともに少なくとも一部を収容する収容溝を備えていることを特徴とする請求項11に記載の無端金属ベルト。
【請求項13】
前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントが、前記環状金属コードの外周側及び内周側でプーリに当接可能なプーリ当接面を備えていることを特徴とする請求項11または12に記載の無端金属ベルト。
【請求項14】
前記環状金属コードの環状方向に複数組み付けられるエレメントのピッチ位置と、前記環状金属コードの回転走行面が略一致した位置である請求項11〜13のいずれか一項に記載の無端金属ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−154401(P2007−154401A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302616(P2006−302616)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
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