説明

生体サンプル判別用プレートおよび生体サンプル判別装置

【課題】 DNAなどの生体サンプルを電気泳動させる微細な流路を形成してなる生体サンプル判別用プレートに、流路の位置を検出する特別な目印を形成したり、また、判別装置側にその目印を検出する検出手段を設けたりする必要があった。
【解決手段】 生体サンプル判別用プレートに形成された流路21にDNAコンジュゲートを充填し、一定量を採取した生体サンプルをその中で電気泳動させるにあたって、流路21の位置の検出を、サンプル保持部9または流路20に保持した生体サンプルを検出することによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAやタンパクその他の生体サンプルを緩衝剤中で移動させ、その輸送反応を検出して生体サンプルを判別する生体サンプル判別用プレートおよび生体サンプル判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体の微細加工技術や、光学をはじめとする検出技術の進歩により生体サンプルなどの分析が微小空間で行なわれるようになってきた。
【0003】
例えば、キャピラリー電気泳動もその一つである。キャピラリー電気泳動とは、任意の試料を電荷量や分子量別に分離する技術であり、従来、内径100ミクロン程度、長さ数十センチのガラスからなるキャピラリー管を利用していた。
【0004】
キャピラリー電気泳動によりDNAの分離を行う場合は、まずpH緩衝液とポリマー等をキャピラリー管内全体に充填し、次にキャピラリー管の片端にDNAを数十ナノリットル充填する。その後、両端に電圧を印加すると、DNAは負の電荷を有しているので正極側へ移動しようとする。ポリマー内でのDNAの移動速度は電荷量と分子量、形状によって異なるので、結果としてDNAの塩基長別に分離が可能となる。
【0005】
このようなキャピラリー電気泳動は1990年代の前半に、極細溝の流路を形成したプレート、いわゆるマイクロ化学チップ上で行なえるようになり、最近では、いままでビーカー等を利用したバッチ実験などもマイクロ化学チップ上の微小空間で行なえるようになってきたのである。
【0006】
このように微小空間で反応を行なうと、サンプルを少量で抑えることができ、反応速度が速いので分析が短時間で済み、小型であるので温度制御も簡便にできるなどのメリットがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第2005/012898号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように生体サンプルなどの分析において、近年マイクロ化学チップが汎用的に利用されるようになってきているが、キャピラリーの流路が極細溝であるがゆえに、検出を行う装置側との位置あわせの整合性が困難になってきている。
【0008】
流路を移動する生体サンプルを光学的に走査して、光検出を行う場合には、生体サンプルの種類にあわせて光の波長を変更したり焦点の位置調整をしたりして検出を行うのだが、特に流路が光透過性のガラスや樹脂のプレートに形成してある場合には、きちんと流路に沿って走査することが極めて困難となる。
【0009】
そこで位置調整のためプレートの流路とは異なる部分に、流路の位置確認用の目印を印刷などにより付ける方法がある。しかしながらこの場合、印刷工程は、流路形成とは異なる工程であるため、位置精度が十分でなく、また、更に生体サンプルの検出手段とは別に位置検出用の手段を設ける必要も出てくる。
【0010】
本発明は、プレート上の流路に充填された緩衝剤中で生体サンプルを移動させた際の輸送反応を、流路を走査して検出する時に、簡単な構成で正確な走査を行うことができる生体サンプル判別用プレートおよび生体サンプル判別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の生体サンプル判別用プレートは、注入された生体サンプルが保持されるサンプル保持部と、前記サンプル保持部に保持された生体サンプルが流入する第1の流路と、緩衝剤が注入される緩衝剤注入部と、前記緩衝剤注入部に注入された緩衝剤が流入して充填される第2の流路と、第1の流路に流入した生体サンプルの一部を第2の流路に一部を取り込むための定量部と、前記第2の流路に電圧を印加するために設けられた電圧印加部と、を備え、前記電圧印加部に電圧を与えて、生体サンプルを第2の流路に充填された緩衝剤中で移動させながら、第2の流路を走査して検出を行う間、前記第1の流路またはサンプル保持部は、第2の流路の前記走査線上の位置において、前記生体サンプルを保持することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の生体サンプル判別装置は、上記生体サンプル判別用プレートが装着されて、前記生体サンプルの判別を行うための装置であって、前記生体サンプル判別用プレートの電圧印加部に電圧を印加するための電圧印加手段と、前記生体サンプル判別用プレートに対して相対的に走査しながら、生体サンプルから得られる光を検出する光学検出部と、を備え、前記光学検出部は、前記第1の流路またはサンプル保持部に保持された生体サンプルの検出位置を基準に、第2の流路における走査位置を特定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明の生体サンプル判別用プレートおよび生体サンプル判別装置によれば、第2の流路において生体サンプルを緩衝剤中で移動させた際に得られる輸送反応を、光学的に走査して検出するにあたり、生体サンプルのみが流れる第1の流路とサンプル保持部とを検出し、その検出位置を基準に前記第2の流路を判別し検出を行なうことを特徴とする。
【0014】
これにより、簡単なプレートおよび装置の構成で、正確な位置を判別し検出することができるので、極めて正確な観察結果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、図1〜図10を用いて、本実施の形態1における生体サンプル判別用プレートおよび生体サンプル判別装置について説明する。
【0016】
本発明は、生体サンプルを緩衝剤中で移動させて、生物学的、酵素的、免疫学的、及び化学的反応を行い、生体サンプルを容易かつ安価に精度よく短時間で判別することを実現するものである。
【0017】
なお、本実施の形態1では、説明を具体的にするために、生体サンプルがDNAサンプルで、緩衝剤が分離用DNAコンジュゲート及びDNA結合制御剤を含むものであるとし、本生体サンプル判別用プレートが、流路中に充填させた分離用DNAコンジュゲート中に、定量されたDNAサンプルを添加して電気泳動させ、流路中の蛍光度あるいは吸光度を検出して、DNAサンプルのSNPs(一塩基多型)のタイプを判別するものとする。
【0018】
まず、図1〜図5を用いて、生体サンプル判別用プレートの構成について説明する。図1は、生体サンプル判別用プレートの流路形成面からみた図である。生体サンプル判別用プレート1には、破線で囲んだ流路パターン2が7個と、破線で囲む流路パターン3が1個、合計8パターンの流路が生体サンプル判別用プレート1の重心5を中心に放射方向に形成されており、同時に8検体のDNA判別が可能となっている。また、各流路パターンの内周側に微細流路によって各パターンの番号が付与されている。すなわち、パターン番号2から8までが同じ流路パターン2で形成されている。
【0019】
生体サンプル判別プレート1の外形は、8センチ四方の正方形で、4隅にはRが設けられており、プレートの厚みは2mmである。材料についてはアクリル系の樹脂を使用している。また重心5の部分に穴4が設けてられているが、これは生体サンプル判別装置に固定するときに使用する穴である。さらに生体サンプル判別用プレート1の流路形成面には厚さ50μm程度のアクリルやポリカーボネートなどからなるフィルムが接着され、流路面を閉塞し微小空間を形成している。
【0020】
図2は、図1に示す生体サンプル判別用プレート1に形成された流路パターン2の詳細形状を示す図である。ここで、図1に示す流路パターン3も一部を除き、そのほとんどが流路パターン2と同様のパターンであるので図2を用いて説明する。
【0021】
流路パターン2と流路パターン3は、生体サンプルの判別に用いる微小な幅と深さを持つ溝形状の流路と、比較的大きな容積を有するチャンバー部とからなる。
【0022】
流路は深さ50μm程度であり、幅は場所によって異なるが70μmから200μmである。チャンバー部は、直径2〜6mmで、深さ1.5mmのほぼ円筒形であり、生体サンプルを一旦保持する場所に設置されている。本実施の形態1においては、サンプル注入部7、緩衝剤注入部6、オーバーフローチャンバー8、サンプル保持部9、加圧チャンバー10、正電極部11および負電極部12である。各チャンバーは流路で接続される。
【0023】
ここで各チャンバー部の構成を図3、図4を用いて説明する。なお図3、図4では、図1、図2に対して上下方向が逆転している。図3は緩衝剤注入部6、サンプル注入部7の構成を示した断面図であり、斜線でハッチングした部分が生体サンプル判別用プレート1である。30は試料を一旦保持する空間であり、31は他のチャンバー部につながる流路であり、32は生体サンプルを注入するための開口であり、図1の緩衝剤注入口13およびサンプル注入口14にあたる。また33は生体サンプル判別用プレート1の流路形成面に接着されたフィルムである。
【0024】
図4がその他のチャンバー部の構成を示した断面図であり、こちらも斜線でハッチングした部分が生体サンプル判別用プレート1である。34が試料を一旦保持する部分、35と36がチャンバー部につながる流路、33が生体サンプル判別用プレート1の流路形成面に接着されたフィルムとなる。
【0025】
つぎに前述したDNAサンプルのSNPs(一塩基多型)のタイプを判別するまでの具体的操作、動作および各流路、チャンバー部の機能について図2により説明する。
【0026】
まず、検体となるDNAサンプルを準備する。本来DNAは2本鎖の螺旋構造をしたものであるが、本実施の形態1においては、判別したいSNPs部位を含む約60塩基長の1本鎖DNAを準備する。抽出方法や1本鎖化については本発明とは直接関係がないので詳細な説明は省略する。
【0027】
次に、緩衝剤としてDNAコンジュゲートを準備する。DNAコンジュゲートとは、6〜12塩基長の1本鎖DNAの5’末端に高分子のリニアポリマーが共有結合したものである。さらにプローブとなるDNAは、正常型に対しては相補であるが変異型に対しては相補ではない配列であり、正常型DNAに対しての結合力が強く、変異型DNAに対しては結合力が弱い特性がある。また、電気泳動した場合、5’末端に結合したリニアポリマーがおもりとなり泳動速度がかなり遅いという特性もある。以後に記述する「DNAコンジュゲート」とは、電解質の役目もするpH緩衝剤およびMgClなどのDNA結合力制御剤を含んだ物性とする。
【0028】
試料の準備が終わったところで、DNAコンジュゲートおよびDNAサンプルをプレート内へ注入する。DNAコンジュゲートはピペッター等により定量を緩衝剤注入口13から緩衝剤注入部6へ分注する。DNAサンプルも同様に定量をサンプル注入口14よりサンプル注入部7へ分注する。
【0029】
分注量としては、パターンのスケールにより異なるが本実施の形態1においては、DNAコンジュゲートは18マイクロリットル、DNAサンプルは2マイクロリットルとする。
【0030】
次に、生体サンプル判別装置の回転駆動手段、例えばモータ等に生体サンプル判別用プレート1を固定し、重心5を軸心に回転させる。この時、分注されたDNAコンジュゲートとDNAサンプルは、遠心力により外周方向へと移動する。
【0031】
緩衝剤注入部6内のDNAコンジュゲートは、流路15と流路16を通り電圧印加部となる正電極部11と負電極部12へ等分され、正電極部11へ移動したDNAコンジュゲートは、さらに流路21(流路21を第2の流路の例として示した)を通りサンプル定量部23まで移動する。負電極部12へ移動したDNAコンジュゲートも同様に、流路22を通りサンプル定量部23まで移動する。
【0032】
生体サンプル判別用プレート1を軸心回りに回転しているとき、正電極部11と負電極部12内に存在するDNAコンジュゲートの液面位置とサンプル定量部23にあるDNAコンジュゲートの液面位置は、重心5を中心とする同一円周上となる。
【0033】
次に、サンプル注入部7に注入されたDNAサンプルの移動について説明する。サンプル注入部7内のDNAサンプルは、流路17を通りサンプル保持部9さらには流路18、流路19を通り外周側に位置する加圧チャンバー10まで達する。しかしながら、図2に示すように流路19は加圧チャンバー10の外周側に接続され、かつ加圧チャンバー10には空気抜き用の穴が存在しない。そのため加圧チャンバー10内に残った空気は抜けることはなく加圧された状態となる。
【0034】
以上のようにして充填された試料の状態を図5(a)に示す。図5(a)は回転開始から2分後のDNAサンプル40とDNAコンジュゲート41の状態であり、加圧チャンバー10内の空気は圧縮されている。回転中のみこのようなDNAサンプルにかかる遠心力と空気の加圧力とが平衡となった状態を維持する。本例では回転数4000rpmである。
【0035】
それでは次の動作を説明する。生体サンプル判別用プレート1を一定時間回転させ、DNAサンプル40とDNAコンジュゲート41の移動が停止した図5(a)の状態で、プレートの回転を急停止させる。(例えば、2秒間で4000rpmより停止させる。)すると遠心力が無くなるため、加圧チャンバー10内に存在していたDNAサンプルは加圧チャンバー10内の空気の圧力により流路19へ逆流しようとする。
【0036】
さらにDNAサンプル40は、加圧チャンバー10内の空気が大気圧となるまで、流路19より流路18、流路20(流路18,19,20を第1の流路の例として示す)へと移動しようとするが、この時、図示したように流路18は流路20にくらべ細く形成されているため、DNAサンプル40は流路18よりも流路20へ多く流れようとする。
【0037】
そこで急停止した直後の状態を図5(b)に示す。DNAサンプル40は、加圧チャンバー10内の空気の膨張により、サンプル定量部23およびオーバーフローチャンバー8まで達しており、サンプル定量部23では充填されたDNAコンジュゲート41と接することになる。
【0038】
次に、生体サンプル判別用プレート1を中速、例えば1500〜3000rpmにて数秒間(例えば3秒間)もう一度回転させることで、定量部23に一定量の生体サンプルを分離して残す。定量部23に一定量の生体サンプルが残存したら回転を徐々に停止する(例えば30秒かけて停止)。この一連の動作では、減速を緩やかにすることが重要であり、停止後の状態を図5(c)に示す。
【0039】
流路20に充填されていたDNAサンプル40は、加圧チャンバー10とサンプル保持部9へ再度流れ込み、サンプル定量部23にはDNAサンプル40が微量残存する。残存したDNAサンプル40は、他のDNAサンプルに対して電気的にも絶縁された状態となる。
【0040】
また1回目の回転に対して速度を落とし、減速を緩やかにする理由は、回転速度が遅く速度が緩やかであるため、加圧チャンバー10内の空気が強く圧縮されることがなく、プレートを停止したときに、逆流してサンプル定量部23へ再度充填されることを防止するためである。
【0041】
以上の動作で、サンプル定量部23に残存したDNAサンプル40がSNPsの判別を行なう最終試料となる。
【0042】
次に、電気泳動を行なう。電気泳動は、正電極部11に正電極、負電極部12に負電極を挿入し、数百Vの電圧を印加する。すると、流路21さらにはサンプル定量部23において電界が発生し、サンプル定量部23に一定量残存したDNAサンプル40は、流路21(第2の流路)中を正電極側(図5(c)中、A方向)へ泳動する。
【0043】
電気泳動時のDNAサンプルの様子を図6(a)から(c)に示す。図6(a)は、泳動開始直後、図6(b)は泳動開始から1分後、図6(c)は泳動開始から2分後のDNAサンプルの位置を示した図である。
【0044】
流路21中にはDNAコンジュゲートが充填されており、DNAサンプル40はDNAコンジュゲートとの結合を繰り返しながら電気泳動する。この時、上述したようにDNAサンプル40中の正常型DNAはDNAコンジュゲートとの結合力が強いため泳動速度が遅くなり、変異型DNAは結合力が弱いため正常型に比べ泳動速度は速くなる。つまりDNAサンプル中に正常型、変異型両方が存在した場合は、正常型のDNAと変異型のDNAが分離していくことになる。
【0045】
最後に分離の様子を観察するために図2に示す流路21の円弧部分上をスキャン(走査)する。本実施例におけるDNAの検出は、蛍光標識(FITC)を修飾したDNAを470nmの光で励起し、520nm付近の光検出により行なうが、260nmの吸光度により行なってもよい。生体サンプル判別装置の光学的な検出は、蛍光検出あるいは吸光度検出のいずれを用いてもよい。
【0046】
スキャンは生体サンプル判別装置の光学検出部を固定し、プレート重心5を軸心に生体サンプル判別用プレート1を回転させることで行なう。この時、流路21を通過する同心円状を1周すべてスキャンしてしまうので、その中から全8流路パターンの番号と流路21部分のみのデータを抽出する必要がある。また、各流路パターンにおいても、円弧状の流路のどの位置をスキャンしているのかを特定することが分析に役立つ。
【0047】
従来は、生体サンプル判別用プレート上に目印を印刷などにより印字し、生体サンプル判別装置側に反射型の検出器を別途設けるなどして行なっていた。しかしながら、前述した通り、プレート上に流路やチャンバーの作製工程と異なる工程にて印字などを行なった場合、印字位置のずれなどによって、スキャン位置の精度不良が発生する。また、生体サンプル判別装置側にも、生体サンプルのための光学検出部とは別に、目印のための位置検出部を設ける必要があり、さらに制御も煩雑なものとなってしまう。
【0048】
そこで、本発明における生体サンプル判別用プレート1には、流路21を通過する同心円状に生体サンプル(本実施例においてはDNA)を保持する第1の流路(流路18,19,20からなる)またはサンプル保持部9を設置し、これをトリガーにして生体サンプルを検出するための光学検出部のみで、第2の流路(流路21)の位置確認を行なえるように構成したのである。また、8つの流路パターンのうち1パターンのみ、他のパターンと流路形状を異ならせることにより、流路パターンの番号も確認できるように構成している。
【0049】
具体的に、図7〜図8を用いて説明する。図7(a)は流路番号1の流路パターンを示した図であり、図7(b)は流路番号2から流路番号8の流路パターンを示した図である。
【0050】
図7(a)中の50および図7(b)中の51に示すように、第1の流路を構成する流路20と、サンプル保持部9の間隔を、流路番号1の流路パターンのみ、他の流路パターンのそれに比べ長くなるよう形成している。これが、後述するが流路番号を特定する手段となる。
【0051】
図8は、プレートの重心5を軸心に生体サンプル判別用プレート1を等速で回転させ、第2の流路となる流路21を通過する同心円をスキャンし、光学検出部で得られた波形の一部である。横軸が円弧部分の位置を表し、縦軸が蛍光強度を表す。
【0052】
ここで図8の波形を説明すると、P1、P2のような山が繰り返し出現していることがわかる(図8中、Q1,Q2,R1,R2,S1,S2)。
【0053】
これは、各流路パターンにおける流路20とサンプル保持部9中に残存する生体サンプルを検出したものであり、幅が狭いP1,Q1,R1,S1が流路20、幅が広いP2,Q2,R2,S2がサンプル保持部9に対応したものである。
【0054】
また、P1とP2の間隔は、他の波形の間隔にくらべ広いことがわかる。つまり、これは流路20とサンプル保持部9の間隔が広いことを意味しており、流路番号1のパターンであると判断できる。さらに流路21と、サンプル保持部9または流路20の位置関係や、さらには各流路パターン間の位置関係が事前にわかっていれば、図8中のどの部分が本来検出すべき流路21の部分であるか、どの位置を検出しているのかを正確に判断できることになる。
【0055】
以上の方法で図8の波形から流路21部のみ抽出した波形を図9に示す。図9(a)が図8のX部であり、流路番号1の流路パターンにおける流路21部を示す波形である。また、図9(b)が図8のY部であり、流路番号2の流路パターンにおける流路21部を示す波形である。
【0056】
流路番号1で分析されたサンプルは、2山出現したので「多型である」という結果になる。また、流路番号2で分析されたサンプルは、1山なので「単型(正常型もしくは変異型のみ)」という結果になる。
【0057】
ここで、図10は、本実施の形態における生体サンプル判別装置の構成を示す図であり、生体サンプル判別装置400では、上述の生体サンプル判別プレート1を用いる。そして判別を行う際には、生体サンプル判別用プレート1の流路内にDNAサンプルとDNAコンジュートとを注入した後にトレイ422上に搭載し、高速回転モータ421によりプレート1を高速回転させる。
【0058】
高速回転により、第1の流路には生体サンプルを移送させ、第2の流路にDNAコンジュゲートを充填する。この後、高速回転モータ421の回転を停止することで、生体サンプルを定量部に導く。そして再度、高速回転モータ421により、先ほどと比べてゆっくりと回転させて、定量部に一定量の生体サンプルを分離して残す。これにより第2の流路中のDNAコンジュゲートに対して一定量の生体サンプルを添加する。
【0059】
そして、モータ451によって上下移動される昇降ステージ450により、生体サンプル判別プレート10を上昇させ、クランパ436によって生体サンプル判別用プレート1を保持固定させ、プレートの正電極部、負電極部に電極ピン432a,432bを挿入させる。この状態で、DNAコンジュゲートに対して電極ピン432a,432bにより所定の電位勾配をかけて、DNAコンジュゲート中で生体サンプルを電気泳動させる。
【0060】
同時に低速回転モータ431でプレート1を回転させながら、光学検出部440によりプレートの第2の流路中を電気泳動する生体サンプルに付与した蛍光物質に対してレーザやLEDなどで光を照射して、該蛍光物質が発光する蛍光の強度分布を検出する。
【0061】
このときの光学検出部440による第2の流路位置の位置検出は上述の図8で説明したとおりであり、生体サンプル判別用プレート1におけるサンプル保持部9または流路17において検出する生体サンプルをもとに、第2の流路位置を検出することができる。また、サンプル保持部9と第1の流路(ここでは流路20)との検出間隔をもとに、複数ある流路パターンを特定することができるのである。
【0062】
この生体サンプル判別装置400によれば、生体サンプル判別用プレートに特別な目印を印刷などにより予め設けておき、そして生体サンプル判別装置にその目印の検出手段を、生体サンプルの検出手段とは別に設けておくようなことをしなくても、生体サンプルの検出手段、それ自身を用いて、流路位置の検出や、流路パターンの特定を行うことができるようになり、小型、低コスト化に有利となる。
【0063】
以上のように、本実施の形態1によれば、検出経路上にサンプル保持部9および流路20を設け、そこに残存させたサンプルを第2の流路21と一連で検出することによって、正確な位置を検出して精度の良い結果を得ることができる。さらには、生体サンプル判別用プレート1に設けられた流路パターンのうち1つのみ検出経路上の形状を異ならせることで流路番号の検出と泳動流路中の反応検出が同一の検出部で行なえるようにしたことで、細胞や血液等から特定のDNAを取り出したDNAサンプルを本生体サンプル判別用プレートにおいて測定する際に、極めて精度の良い検出結果を得ることが可能となる。
【0064】
なお、上記実施の形態においては、生体サンプル判別用プレートを回転させる例を示したが、プレートを固定し、生体サンプル判別装置の光学検出部をプレートに対してスキャンする構成にすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の生体サンプル判別用プレートは、DNAサンプル等の生体サンプルの判別を、安価で、且つ簡便に行えるようにするものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる生体サンプル判別用プレートのパターン形成面を示す平面図
【図2】同生体サンプル判別用プレートに形成されるパターンを拡大して示す図
【図3】同生体サンプル判別用プレートのサンプル注入部、および緩衝剤注入部の断面図
【図4】同生体サンプル判別用プレートの正電極部および負電極部の断面図
【図5】(a)同生体サンプル判別用プレートの流路に、生体サンプル及びDNAコンジュゲートの充填処理を施す状態を示す図、(b)生体サンプル及びDNAコンジュゲートの充填処理を施した後に回転を停止した時の状態を示す図、(c)生体サンプルを一定量のみDNAコンジュゲートに取得した状態を示す図
【図6】(a)同生体サンプル判別用プレートにおいて電気泳動を開始した直後の状態を示す図、(b)電気泳動を開始した1分後の状態を示す図、(c)電気泳動を開始した2分後の状態を示す図
【図7】(a)同生体サンプル判別用プレートに形成される流路番号1の流路パターンを示す図、(b)同生体サンプル判別用プレートに形成される流路番号2から8の流路パターンを示す図
【図8】同生体サンプル判別用プレートを用いて、生体サンプルの電気泳動を行った際にスキャンして検出された蛍光強度波形を示す図
【図9】同生体サンプル判別用プレートを用いて、生体サンプルの電気泳動を行った際に、第2の流路部分よりえられる蛍光強度の検出波形を抜粋して示す図
【図10】本実施の形態1における生体サンプル判別装置を示す構成図
【符号の説明】
【0067】
1 生体サンプル判別用プレート
2,3 パターン
4 穴
5 プレート重心
6 緩衝剤注入部
7 サンプル注入部
8 オーバーフローチャンバー
9 サンプル保持部
10 加圧チャンバー
11 正電極部
12 負電極部
13 緩衝剤注入口
14 サンプル注入口
15,16,17,18,19,20,21,22,35,36 流路
23 サンプル定量部
30,34 試料保持部
31 流路
32 試料挿入部
33 フィルム
40 DNAサンプル
41 DNAコンジュゲート
400 生体サンプル判別装置
421 高速回転モータ
431 低速回転モータ
432a、b 電極ピン
436 クランパ
450 昇降ステージ
451 モータ
440 光学検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入された生体サンプルが保持されるサンプル保持部と、
前記サンプル保持部に保持された生体サンプルが流入する第1の流路と、
緩衝剤が注入される緩衝剤注入部と、
前記緩衝剤注入部に注入された緩衝剤が流入して充填される第2の流路と、
第1の流路に流入した生体サンプルの一部を第2の流路に一部を取り込むための定量部と、
前記第2の流路に電圧を印加するために設けられた電圧印加部と、
を備え、
前記電圧印加部に電圧を与えて、生体サンプルを第2の流路に充填された緩衝剤中で移動させながら、第2の流路を走査して検出を行う間、前記第1の流路またはサンプル保持部は、第2の流路の前記走査線上の位置において、前記生体サンプルを保持するものである生体サンプル判別用プレート。
【請求項2】
生体サンプル判別用プレートは、軸心回りに回転可能であり、
前記第2の流路は、前記軸心を中心とした円の一部をなす円弧形状であり、
前記第1の流路またはサンプル保持部は、第2の流路と同一円周上にその一部が位置することを特徴とする請求項1記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項3】
サンプル保持部または第1の流路と、第2の流路との間隔が予め定められた所定の距離間隔にて形成されたことを特徴とする請求項1記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項4】
前記サンプル保持部、第1の流路、緩衝剤注入部、第2の流路、定量部および電圧印加部を有する流路パターンを、前記軸心回りに複数有するとともに、各流路パターンの第2の流路は、互いに同一円周上に位置することを特徴とする請求項2記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項5】
前記各流路パターンのうちの一つの流路パターンにおける、第1の流路とサンプル保持部との間隔は、他の流路パターンにおけるそれと比べて異なる間隔であることを特徴とする請求項4に記載の生体サンプル判別用プレート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の生体サンプル判別用プレートが装着されて、前記生体サンプルの判別を行うための装置であって、
前記生体サンプル判別用プレートの電圧印加部に電圧を印加するための電圧印加手段と、
前記生体サンプル判別用プレートに対して相対的に走査しながら、生体サンプルから得られる光を検出する光学検出部と、を備え、
前記光学検出部は、前記第1の流路またはサンプル保持部に保持された生体サンプルの検出位置を基準に、第2の流路における走査位置を特定することを特徴とする生体サンプル判別装置。
【請求項7】
生体サンプル判別用プレートをその軸心回りに回転駆動する回転駆動手段をさらに備え、
前記回転駆動手段により、前記生体サンプル判別用プレートを回転駆動させながら生体サンプルの光学的な検出を行うことを特徴とする請求項6に記載の生体サンプル判別装置。
【請求項8】
請求項5に記載の生体サンプル判別用プレートが装着されて、前記生体サンプルの判別をおこなう装置であって、
各流路パターンについて、第1の流路とサンプル保持部との間隔を、前記サンプル保持部および第1の流路に存在する生体サンプルより検出し、第1の流路とサンプル保持部との間隔が異なる一つの流路を基準にして、生体サンプル判別用プレートにおける各流路パターンの位置を特定することを特徴とする請求項7記載の生体サンプル判別装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−285854(P2007−285854A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113167(P2006−113167)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】