説明

生体信号処理装置及び医療装置制御方法

【課題】生体信号に基づきアラームを発生させる等の所定処理を行う場合に適切な判定を行う。
【解決手段】生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率を提供する提供手段と、生体から時系列的に生体信号を得て、この生体信号の値に対応する状態確率を前記提供手段から提供された状態確率に基づき取得する取得手段52と、前記取得手段52により時系列的に取得される状態確率の変化に基づき所定処理を実行するか否かを判定する判定手段53とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体信号に基づき医療装置においてアラームを発生させる等の所定処理を行わせる場合に好適な生体信号処理装置及び医療装置制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アラーム発生の判断を行う場合には、頻回なアラーム発生を回避するために生理学的なパラメータの安定を条件とする医療診断装置が知られている(特許文献1参照)。また、生体パラメータの計測値がスレッショルドを通過した時間量及びスレッショルドをどれだけ超えているかを条件とする医療装置のアラーム制御方法も知られている(特許文献2参照)。
【0003】
また、血圧の測定を行う場合に、脈波伝播時間(PWTT)が所定閾値を超えたことを条件とするものが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3817586号明細書
【特許文献2】特表2003−517320号明細書
【特許文献3】特許第3054084号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来の医療装置において所定処理を行うか否かについては、生体信号の値が閾値を超えたか否かに基づいており、より適切に患者状態に応じたアラーム発生や生体信号収集を行うことのできる生体信号処理装置及び医療装置制御方法が求められている。
【0006】
本発明は上記のような要望に鑑みてなされたもので、その目的は、生体信号に基づきアラームを発生させる等の所定処理を行う場合に適切な判定を行うことのできる生体信号処理装置及び医療装置制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生体信号処理装置は、生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率を提供する提供手段と、生体から時系列的に生体信号を得て、この生体信号の値に対応する状態確率を前記提供手段から提供された状態確率に基づき取得する取得手段と、前記取得手段により時系列的に取得される状態確率の変化に基づき所定処理を実行するか否かを判定する判定手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る生体信号処理装置では、判定手段は、アラームを発生させる処理を実行するか否かを判定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る生体信号処理装置では、判定手段は、アラーム一時消去状態から復帰する処理を実行するか否かを判定することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る生体信号処理装置では、取得手段は、第1の生体信号を用いる一方、判定手段は、第2の生体信号を取得する処理を開始するか否かを判定することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る生体信号処理装置では、判定手段は、閾値を用いて判定を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る生体信号処理装置では、閾値は上方閾値と下方閾値とからなり、判定手段は上記上方閾値と下方閾値とを用いて判定にヒステリシスを持たせることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る生体信号処理装置では、判定確率は、ベイズの定理に基づき作成されたものであることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る生体信号処理装置は、情報を表示するための表示手段と、取得手段により取得された状態確率を前記表示手段へ表示する表示制御手段とを具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る生体信号処理装置は、取得手段により取得された状態確率を、前記生体信号と同一または異なる生体信号に基づき補正する補正手段を具備することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る医療装置制御方法は、医療装置を制御する医療装置制御方法において、所定幅に区分された生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率の提供を受け、生体から時系列的に生体信号を得て、この生体信号の値に対応する状態確率を提供された状態確率に基づき取得し、前記時系列的に取得される状態確率に基づき前記医療装置に所定処理を実行させるか否かを判定する判定確率を求め、この判定確率を用いて制御を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る医療装置制御方法では、制御においては、アラームを発生させる処理を実行するか否かを制御することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る医療装置制御方法では、制御においては、アラーム一時消去状態から復帰する処理を実行するか否かを制御することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る医療装置制御方法では、取得においては、第1の生体信号を用いる一方、判定においては、第2の生体信号を取得する処理開始するか否かを制御することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る医療装置制御方法では、制御においては、閾値を用いて判定を行うことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る医療装置制御方法では、閾値は上方閾値と下方閾値とからなり、判定においては上記上方閾値と下方閾値とを用いて判定にヒステリシスを持たせることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る医療装置制御方法では、制御においては、状態確率にからベイズの定理に基づき判定確率を作成することを特徴とする。
【0023】
本発明に係る医療装置制御方法では、取得された状態確率を、前記生体信号と同一または異なる生体信号に基づき補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率の提供を受け、生体から時系列的に生体信号を得て、この生体信号の値に対応する状態確率を上記提供された状態確率に基づき取得し、前記時系列的に取得される状態確率に基づき所定処理を実行するか否かを判定する判定確率を求め、この判定確率を用いて判定するので、生体信号における一瞬の変化などに幻惑された判定を排除でき、生体信号に基づきアラームを発生させる等の所定処理を行う場合に適切な判定及び制御を行うことができる。
【0025】
本発明によれば、アラームを発生させる処理や制御、アラーム一時消去状態から復帰する処理や制御、更には、第1の生体信号を用いて第2の生体信号を取得する処理開始するか否かを判定する処理や制御について、生体信号における一瞬の変化などに幻惑された判定及び制御を排除でき、適切な判定及び制御を行うことができる。
【0026】
本発明によれば、判定確率が表示手段へ表示されるので、生体信号ではなく生体状態の状態確率から得られた判定確率を目視して直観的に生体状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態を示す構成図。
【図2】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態において用いられる状態確率と生体信号の値との対照テーブルを示す図。
【図3】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態における動作を示すフローチャート。
【図4】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図5】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図6】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図7】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図8】本発明に係る生体信号処理装置の第2の実施形態において用いられる状態確率と生体信号の値との対照テーブルを示す図。
【図9】本発明に係る生体信号処理装置の第2の実施形態における動作を示すフローチャート。
【図10】本発明に係る生体信号処理装置の第2の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図11】本発明に係る生体信号処理装置の第1の実施形態において処理を行った場合及び従来手法により処理を行った場合のアラーム音一時消去の際の経時変化を示す図。
【図12】本発明に係る生体信号処理装置の第2の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図13】本発明に係る生体信号処理装置の第2の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図14】本発明に係る生体信号処理装置の実施形態において処理を行った場合の上方閾値と下方閾値による効果を説明するための経時変化を示す図。
【図15】本発明に係る生体信号処理装置の実施形態において上方閾値と下方閾値による処理を行った場合に表示される波形と各時点のバーグラフを示す図。
【図16】本発明に係る生体信号処理装置の第3の実施形態における動作を示すフローチャート。
【図17】本発明に係る生体信号処理装置の第3の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム発生の経時変化を示す図。
【図18】本発明に係る生体信号処理装置の第4の実施形態において用いられる状態確率と生体信号の値との対照テーブルを示す図。
【図19】本発明に係る生体信号処理装置の第4の実施形態における動作を示すフローチャート。
【図20】本発明に係る生体信号処理装置の第3の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及びアラーム音一時消去期間の経時変化を示す図。
【図21】本発明に係る生体信号処理装置の第5の実施形態を示す構成図。
【図22】脈波伝播時間を説明するための波形図。
【図23】本発明に係る生体信号処理装置の第5の実施形態において用いられる状態確率と生体信号の値との対照テーブルを示す図。
【図24】本発明に係る生体信号処理装置の第5の実施形態における動作を示すフローチャート。
【図25】本発明に係る生体信号処理装置の第5の実施形態において処理を行った場合の生体信号、状態確率及び非観血血圧測定開始対応信号の経時変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明に係る生体信号処理装置及び医療装置制御方法の実施形態を説明する。各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1には、本発明の実施例に係る生体信号処理装置を用いた医療装置の構成図が示されている。
【0029】
センサ部10には、心電図電極11、SpO2プローブ12、血圧センサ13、SvO2カテーテル14が含まれている。このセンサ部10からは生体信号が生体信号処理部20へ送られる。生体信号処理部20は、センサ部10から送られた生体信号を受け取り、心拍数やECG(Electrocardiogram)信号等、SpO2(酸素飽和度)、血圧、SvO2(混合静脈血酸素飽和度)などのコンピュータ処理が可能な信号へ加工して演算制御部30へ送出する。
【0030】
演算制御部30は例えばコンピュータにより構成され、心拍数やECG信号等、SpO2、血圧、SvO2などの信号を用いて、心電図やSpO2、血圧、SvO2などの波形や数値を表示するための画像を作成して表示装置52にて表示する他、所定処理であるアラームを発生させる処理の制御を行うものである。このため、演算制御部30には、記憶手段31、取得手段32、判定手段33、制御手段34が備えられている。
【0031】
記憶手段31は所定幅に区分された生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率を提供する提供手段であり、記憶手段31には、所定幅に区分された生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた確率テーブルが記憶されている。ここでは、図2に示すように、SpO2の値に対応して、低酸素状態である確率(低酸素状態確率)と低酸素状態でない確率とが対応付けられて記憶されている。この例では、1%毎に均等(リニア)に確率が変化するようにされているが、リニアに変化するものでなくともよい。
【0032】
取得手段32は、生体から時系列的に得られる生体信号の値に対応する状態確率を上記記憶手段31の確率テーブルに基づき取得するものである。判定手段33は、取得手段32により時系列的に取得される状態確率に基づき所定処理を実行するか否かを判定する判定確率を求め、この判定確率を用いて判定を行うものである。
【0033】
判定手段33は、ここでは患者の重篤度判定確率P(t)を次の式1から求める。ここに、Ps(t)は、時刻tにおけるSpO2の値(St)に対応する低酸素状態確率を示す。重篤度判定確率P(t)は、漸化式であり、P(t−1)は、1サンプル前におけるSpO2の値を用いて求めた重篤度判定確率である。この式1は、ベイズの定理に基づく式である。
【0034】
P(t)=P(t-1)×Ps(t)/{P(t-1)×Ps(t)+(1-P(t-1))×(1-Ps(t))} ・・・(式1)
【0035】
判定手段33は、閾値を用いて上記重篤度判定確率P(t)と比較し、アラームを発生するか否かを判定する。ここでは、閾値は上方閾値と下方閾値により構成され、判定にヒステリシスを持たせるものとなっている。具体的には、上方閾値として0.65を採用し、下方閾値として0.35を採用している。もっとも、ヒステリシスを持たせることは必須ではなく、一つの閾値を用いて判定を行ってもよい。
【0036】
制御手段34は、ここでは、判定手段33による判定結果に基づき出力装置部50に含まれているアラーム発生装置51のアラーム発生について制御を行うものである。
【0037】
出力装置部50には、アラーム発生装置51、表示装置52、他の装置53が含まれている。アラーム発生装置51は、アラームを発生するスピーカなどを含む装置であり、表示装置は、LCDなどを含んだモニタ装置であり、他の装置53はプリンタや通信装置などの他の出力装置を示している。
【0038】
以上の通りに構成された医療装置においは、図3に示すフローチャートのプログラムに基づき演算制御部30が取得手段32、判定手段33、制御手段34として処理を実行するので、このフローチャートに基づき動作を説明する。
【0039】
医療装置の電源が投入されるなどにより動作がスタートとなり、ここででは生体信号としてSpO2の取り込みが行われ(S11)、演算制御部30は、取り込んだSpO2に対応する低酸素状態確率Psを記憶手段31に記憶されている図2に示したテーブルから求める(S12(取得手段32))。
【0040】
続いて演算制御部30は、記憶している前回の重篤度判定確率を取り出し(S13)、ステップS12において求めた低酸素状態確率Psと上記前回の重篤度判定確率P(t−1)を用いて、上記の式1に基づき今回の重篤度判定確率P(t)を算出し、所定のレジスタに記憶する(S14(判定手段33)。更に、演算制御部30は、フラグを参照して現在はアラーム発生中であるか否かを判定する(S15)。
【0041】
上記ステップS15において、現在はアラーム発生中でないことが検出されると、今回の重篤度判定確率P(t)が上方閾値(0.65)を超えているかの比較を行い(S16)、上方閾値(0.65)を超えているかの判定を行う(S17)。このステップS17において超えていることが検出されると、アラーム発生装置51を制御してアラームを発生させると共にアラーム発生中フラグをセットして(S18)、ステップS11へ戻る。ステップS11以降は1サンプリング毎に繰り返される。
【0042】
上記ステップS15において、現在はアラーム発生中であることが検出されると、今回の重篤度判定確率P(t)が下方閾値(0.35)を下回っているかの比較を行い(S16A)、下方閾値(0.35)を下回っているかの判定を行う(S17A)。このステップS17Aにおいて下回っていることが検出されると、アラーム発生装置51を制御してアラームを発生停止させると共にアラーム発生中フラグをリセットして(S18A)、ステップS11へ戻る。ステップS11以降は1サンプリング毎に繰り返される。
【0043】
以上の通りに処理が行われる結果、例えば図4に示されているように、C1により示すSpO2(%)が計測されているときに、SpO2(%)が一気に85%以下に低下して、その後に、この状態が継続するような場合には、C2により示す重篤度判定確率P(t)は定常的に1となり、C3により示すように同期的にアラーム発生がなされる。その後、SpO2(%)が上昇して、これに伴って重篤度判定確率P(t)が下限閾値(0.35)を下回るようになると、アラーム発生が停止される。
【0044】
また、例えば図5に示されるように、C1により示すSpO2(%)が計測されているときに、SpO2(%)が90%に低下して、その後に、この状態が継続するような場合には、C2により示す重篤度判定確率P(t)は徐々に増大して、上限閾値(0.65)を超えるときが来ると、このときからC3により示すアラーム発生がなされる。その後、SpO2(%)が上昇して、これに伴って重篤度判定確率P(t)が下限閾値(0.35)を下回るようになると、アラーム発生が停止される。
【0045】
更に、例えば図6に示されるように、C1により示すSpO2(%)が測定され、或る瞬間(1サンプリングのとき)において、SpO2(%)が90%に低下して、その後にすぐに上昇に転じるような変化があっても、C2により示す重篤度判定確率P(t)は対応して僅かに上昇するが、上限閾値(0.65)を超えることはなく、C3により示すようにアラーム発生がなされることはない。これ以降のSpO2(%)の変化については、図5において説明したものであり、説明を省略する。
【0046】
また、例えば図7に示されるようにC1により示すSpO2(%)が計測されて、SpO2(%)が91%と89%とを連続的に繰り返して変化するような場合には、C2により示す重篤度判定確率P(t)は対応して連続的に上昇と下降を繰り返して変化すると共に全体として時間経過に伴って僅かに上昇するような変化となる。そして、重篤度判定確率P(t)が上限閾値(0.65)を超えるときが来ると、このときからC3により示すようにアラーム発生がなされる。更に、連続的にSpO2(%)の上昇と下降が繰り返されるが、重篤度判定確率P(t)が下限閾値(0.35)を下回るようなことはなく、アラーム発生が停止されることはない。従って、傾向的に重篤である状況が捕らえられてアラームの発生が継続され、適切なアラーム発生が確保される。
【0047】
従来においては、例えばSpO2(%)の閾値を90%とされた場合には上記図4から図7の例では、この閾値を下回るとき及び超えるときにおいてアラームの発生とアラーム発生の停止とが繰り返されるものであるが、本実施例により的確に重篤状態が検出されてアラーム発生及び停止がなされ好適である。なお、従来例において、閾値を二つとしてヒステリシスを持たせるようにしても、上記図4から図6の例では上記の従来例の問題は解決されず、また、図7の例では適切な二つの閾値の選定が困難である。
【0048】
第2の実施形態においては、SpO2(%)に代えて収縮期血圧(以下、単に血圧という)を取得して低血圧状態確率を取得する。このため、記憶手段31には、図8に示すように100mmHgから80mmHgまでに、0.0から1.0まで、0.05刻みで低血圧状態確率が対応付けられたテーブルが備えられている。医療装置が処理を行うためのフローチャートが図9に示されている。処理は図3のフローチャートにおいてSpO2(%)に代えて血圧を用いている以外は上方閾値及び下方閾値を含めて同一であるので、フローチャートによる説明を省略する。
【0049】
この第2の実施形態によるアラーム発生とアラーム発生停止の変化をC3として、更に、従来例によるC4により示す80mmHg(閾値)との単純比較及びC5により示す90mmHg(閾値)との単純比較を併せて、図10に示す。この図10に示されているように血圧(C1)が変動すると、90mmHg(閾値)との単純比較では頻回にアラーム発生とアラーム発生停止とが繰り返されるのに対し、本実施形態では、低血圧状態確率から先の式1を用いて作成したC2として示す低血圧判定確率が遷移するので、アラーム発生とアラーム発生停止との繰り返しが抑制され、一連のアラーム発生がなされている。また、80mmHg(閾値)との単純比較では殆ど重篤とは判定されないのに対し、本実施形態ではこれより早く重篤と判定してアラーム発生により報知がなされる。
【0050】
ところで、操作部40には、アラーム音一時停止スイッチ(以下、単に一時停止スイッチ)が設けられ、アラーム発生を認識した医療従事者がアラーム音を一時停止可能とされている。しかし、図11(a)に示すように、頻回にアラーム発生とアラーム発生停止とが繰り返される場合に、一時停止スイッチが例えば、図11のT1のタイミングで操作されたとしても、T2においてアラーム発生停止となるために、一時停止がリセットされ、その後にアラーム発生とアラーム発生停止とが繰り返されると、意図せぬアラーム音が放出される(図11(b))。
【0051】
上記に対し、本実施形態によれば、図11(d)の如くアラーム発生とアラーム発生停止とが繰り返されることなく、一度アラーム発生となるため(図11(c))、一時停止スイッチが図11のT1のタイミングで操作されると、以降アラーム音が放出されることなく、意図通りに一時消去を継続させることができる。
【0052】
図12は、急激な血圧低下場合における本第2の実施形態によるアラーム発生と、従来例による80mmHg(閾値)との単純比較及び90mmHg(閾値)との単純比較を併せて示したものである。C1からC5は図10と同一対象の変化を示すものである。本実施形態は、90mmHg(閾値)との単純比較に匹敵するほど迅速に重篤と判定してアラーム発生制御がなされ、また、80mmHg(閾値)との単純比較のようなアラーム発生とアラーム発生停止との繰り返しが見られず、安定して状態検出がなされていることが分かる。
【0053】
図13は、本実施形態による重篤度判定確率の変化において、確率の低下が見られても閾値が上方閾値と下方閾値とにより構成されヒステリシスを持った判定がなされているため、一連のアラーム発生期間となることを示すものである。C1からC5は図10と同一対象の変化を示すものである。詳細に説明すると、図14に示すように、上方閾値を一度超えてアラーム発生となると、下方閾値を下回ることのない重篤度判定確率の低下によってはアラーム発生停止となることがなく、頻回にアラーム発生とアラーム発生停止とが繰り返される不具合を解消可能である。
【0054】
各実施形態においては、演算制御部30は表示装置52に対し、重篤度判定確率を表示する。この場合において、時刻と共に重篤度判定確率の数字やこれに対応の折れ線グララフを表示する。更に、図15に示すように、上部に示す折れ線グラフ、アラーム状態及び適宜なタイミングのバーグラフ(下部に示す)を作成してこれを表示する。これにより、直観的に重篤度を把握することが可能となる。
【0055】
図16に示すフローチャートは、第2の実施形態を改良した第3の実施形態による処理を示す。この実施形態では、SvO2により低酸素状態確率を補正するものである。即ち、軽度な血圧低下であっても酸素需要に対して供給が不足している場合には患者重篤度は高く、早期にアラーム発生がなされることが要望されている。臨床の現場においては、酸素の需要と供給のバランスをモニタリングするパラメータとしてSvO2が用いられる。SvO2の低下は、全身の酸素需要に対して供給が不足していることを示す。
【0056】
本第3の実施形態では、SvO2が基準値Sref%以下のときに、低血圧状態確率Psを大きくするように以下の式2により補正する図1に図示しない補正手段を備える。
【0057】
補正低血圧状態確率MODPs=Ps×(Sref−SvO2)/k・・・式2
【0058】
上記式2におけるSrefとkとは、多パラメータ関与の程度により任意に設定可能であり、この実施形態においては、Sref=60、k=2を採用した。なお、ここでは、同一患者における別の生体信号に基づき補正を行うことを示すが、同一患者における同じ生体信号を用いて補正を行ってもよい。本第3の実施形態では図16のフローチャートに示すように、ステップS21においては、収縮期血圧とSvO2を取得する。そして、図9と同じ処理であるため説明を省略するステップS12に続き、SvO2が基準値以下であるか判定し(S22)、YESとなると上記式2により補正低血圧状態確率MODPsが求められる(S23)。ステップS14においては、ステップS23により補正低血圧状態確率MODPsが求められている場合には、これが用いられる。その他は、第2の実施形態と変わらない。
【0059】
既に示した図10の例において、本第3の実施形態を適用した場合の結果を図17に示す。C1からC5は図10と同一対象の変化を示すものであり、C6は SvO2の変化を示すものである。図17においては、補正の結果、重篤度判定確率が図10のものに比べて急峻となり、早期にアラーム発生がなされることが分かる。
【0060】
次に、第4の実施形態を説明する。本実施の形態では、記憶手段31に、SpO2の値に対応して、図18のように、低酸素状態である確率(低酸素状態確率)と低酸素状態でない確率とが対応付けられたテーブルが記憶されている。そして、演算制御部30は、図19のフローチャートに基づき処理を実行する。
【0061】
ステップS11、S12は、第1の実施形態と同様である。次のS33においては、記憶している前回の低酸素判定確率を取り出し、ステップS12において求めた低酸素状態確率Psと上記前回の低酸素判定確率P(t−1)を用いて、上記の式1に基づき今回の低酸素判定確率P(t)を算出し、所定のレジスタに記憶する(S34(判定手段33)。更に、演算制御部30は、フラグを参照して現在はアラーム音の一時消去継続期間中であるか否かを判定する(S35)。
【0062】
上記ステップS35において、現在はアラーム音の一時消去継続期間中でないことが検出されると、今回の低酸素判定確率P(t)と上方閾値(0.65)を比較し(S36)、今回の低酸素判定確率P(t)が上方閾値(0.65)を超えていることの検出を行う(S37)。今回の低酸素判定確率P(t)と上方閾値(0.65)を超えていることが検出されると、アラーム発生装置51を制御してアラーム音の一時消去継続期間へ移行させると共にアラーム音一時消去継続期間中フラグをセットして(S38)、ステップS11へ戻る。
【0063】
また、上記ステップS35において、現在はアラーム音の一時消去継続期間中であることが検出されると、今回の低酸素判定確率P(t)と下方閾値(0.35)を下比較し(S36A)、今回の低酸素判定確率P(t)が下方閾値(0.35)を下回っていることが検出を行う(S37A)。今回の低酸素判定確率P(t)が下方閾値(0.35)を下回っていることが検出されると、アラーム発生装置51を制御してアラーム音の一時消去継続期間を解除させると共にアラーム音一時消去継続期間中フラグをリセットして(S38A)、ステップS11へ戻る。
【0064】
以上の通りに処理が行われる結果、例えば図20に示されているようにSpO2(%)が測定されたときには、本実施形態によって次の通りの処理結果がもたらされる。測定されたSpO2(%)が100%と89%の間において激しく変化するような場合には、90mmHg(閾値)との単純比較では、対応してオンオフを繰り返すような変化となる。しかしながら、低酸素判定確率P(t)は一度1となると、下方閾値(0.35)を下回るような変化を生じ難くなり、一連のアラーム音一時消去継続期間が続くことになり、操作部40から一時停止スイッチを操作した以降には、アラーム音一時消去が意図せずに解除される煩わしさを回避することができる。この図20において、C1はSpO2(%)を示し、C2は低酸素判定確率P(t)を示し、C5は90mmHg(閾値)との単純比較を示し、C6はアラーム音の一時消去継続期間を示している。
【0065】
図21には、第5の実施形態に係る医療装置の構成図が示されている。この医療装置においては、血圧センサ13Aは、非観血血圧測定装置であり、例えば、カフと加圧ポンプと排気弁とを含むものであり、演算制御部30の制御手段34Aが加圧ポンプと排気弁とを制御して非観血血圧測定を制御する構成である。
【0066】
生体信号処理部20Aは、心電図電極11により得られるECG信号とSpO2プローブにより得られる脈波に基づき脈波伝播時間を求め、これに基づき血圧の推定を行う。具体的には、図22に示すように指や耳などの末梢血管側では特異点が大動脈波の特異点から送れて現れる。この遅れ時間が脈波伝播時間である。そして、安静時と運動時など血圧が異なるときに、血圧と脈波伝播時間を測定し、被検者によって異なる固有定数を求めておけば、以降は脈波伝播時間を測定するだけで血圧を推定できる(詳細は、特開平7−313472号公報)。この手法を用いるために、固有定数は演算制御部30に設定されている。
【0067】
記憶手段31には、図23に示すように90mmHgから70mmHgまでに0から1.0まで0.05刻みで、血圧変動状態確率が対応付けられたテーブルが備えられている。上方閾値と下方閾値は、それぞれ0.65と0.35とする。
【0068】
演算制御部30は、図24に示されるフローチャートを用いて動作を行う。生体信号としてSpO2の取り込みが行われ、これが生体信号処理部20Aにおいて推定血圧に変換され(S41)、演算制御部30は、この変換された血圧を取り込んで対応する血圧変動状態確率を記憶手段31に記憶されている図23に示したテーブルから求める(S42(取得手段32))。
【0069】
続いて演算制御部30は、記憶している前回の血圧変動判定確率を取り出し(S43)、ステップS42において求めた血圧変動状態確率Psと上記前回の血圧変動判定確率P(t−1)を用いて、前述の式1に基づき今回の血圧変動判定確率P(t)を算出し、所定のレジスタに記憶する(S44(判定手段33)。更に、演算制御部30は、フラグを参照して現在は非観血血圧測定中であるか否かを判定する(S45)。
【0070】
上記ステップS45において、現在は非観血血圧測定中でないことが検出されると、今回の血圧変動判定確率P(t)と上方閾値(0.65)を比較する(S46)。このステップS46の比較により、今回の血圧変動判定確率P(t)が上方閾値(0.65)を超えていることの検出を行い(S47)、YESと判定されると、血圧センサ13Aを制御して非観血血圧測定させると共に測定中フラグをセットして(S48)、ステップS41へ戻る。ステップS41以降は1サンプリング毎に繰り返される。
【0071】
上記ステップS45において、現在は非観血血圧測定中であることが検出されると、今回の血圧変動判定確率P(t)と下方閾値(0.35)を比較する(S46A)。このステップS46の比較により、今回の血圧変動判定確率P(t)が下方閾値(0.35)を下回っていることの検出を行い(S47A)、YESと判定されると、測定中フラグをリセットして(S48A)、ステップS41へ戻る。ステップS47においてNOへ分岐した場合にもステップS41以降は1サンプリング毎に繰り返される。
【0072】
以上の通りに構成された第5の実施形態に係る医療装置によれば、例えば、図25に示すようにC7により示す推定血圧が変化し、参考としてC8により示す観血血圧が変化するものとする。この場合に、血圧が低下して第1回目に80mmHg以下になる部分においては血圧変動状態確率Psが1となるものの、C9により示す血圧変動判定確率P(t)が上方閾値(0.65)を超えることはない。このため、C4により示す80mmHg(閾値)との単純比較においては、非観血血圧測定開始(C10により示す)のトリガとなるものの、第5の実施形態に係る医療装置ではトリガ発生はない。
【0073】
次に、血圧が低下して第2回目に80mmHg以下付近において留まる部分においては血圧変動状態確率Psが1を継続し、血圧変動判定確率P(t)が上方閾値(0.65)を超える。このため、80mmHg(閾値)との単純比較において非観血血圧測定開始のトリガ発生があり、次に第5の実施形態に係る医療装置では血圧変動判定確率P(t)が上方閾値(0.65)を超えたと判定されて、血圧変動が確実で血圧測定が必要不可欠となった時点でトリガ発生となる。その後暫くして血圧変動判定確率P(t)が下方閾値(0.35)を下回った場合に、非観血血圧測定中のフラグはリセットされており、次の非観血血圧測定開始の判断が血圧変動判定確率P(t)に基づきなされることになる。
【0074】
即ち、この第5の実施形態によれば、非観血血圧測定を行う必要のない短時間の計測変動や患者体動などの影響に基づくノイズによる計測変動を受けた不要なトリガ発生を抑制して、適切な計測開始のトリガ発生を確保することができる。
【0075】
また、各実施形態において、所定幅に区分された生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率を提供する提供手段としては、所定幅に区分された生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた対照テーブルを用いたが、生体信号を連続値とみなしその都度計算に基づき状態確率を提供するものにより構成してもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 センサ部
11 心電図電極
12 SpO2プローブ
13、13A 血圧センサ
14 SvO2カテーテル
20、20A 生体信号処理部
30 演算制御部
31 記憶手段
32 取得手段
33 判定手段
34、34A 制御手段
40 操作部
50 出力装置部
51 アラーム発生装置
52 表示装置
53 他の装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率を提供する提供手段と、
生体から時系列的に生体信号を得て、この生体信号の値に対応する状態確率を前記提供手段から提供された状態確率に基づき取得する取得手段と、
前記取得手段により時系列的に取得される状態確率に基づき所定処理を実行するか否かを判定する判定確率を求め、この判定確率を用いて判定を行う判定手段と
を具備することを特徴とする生体信号処理装置。
【請求項2】
判定手段は、アラームを発生させる処理を実行するか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項3】
判定手段は、アラーム一時消去状態から復帰する処理を実行するか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項4】
取得手段は、第1の生体信号を用いる一方、
判定手段は、第2の生体信号を取得する処理を開始するか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項5】
判定手段は、閾値を用いて判定を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項6】
閾値は上方閾値と下方閾値とからなり、
判定手段は上記上方閾値と下方閾値とを用いて判定にヒステリシスを持たせることを特徴とする請求項5に記載の生体信号処理装置。
【請求項7】
判定手段は、取得手段により取得された状態確率からベイズの定理に基づき判定確率を作成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項8】
情報を表示するための表示手段と、
判定手段により作成された判定確率を前記表示手段へ表示する表示制御手段と
を具備することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項9】
取得手段により取得された状態確率を、前記生体信号と同一または異なる生体信号に基づき補正する補正手段を
具備することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項10】
医療装置を制御する医療装置制御方法において、
所定幅に区分された生体信号の値毎に生体状態の状態確率が予め対応付けられた前記状態確率の提供を受け、
生体から時系列的に生体信号を得て、この生体信号の値に対応する状態確率を前記提供された状態確率に基づき取得し、
前記時系列的に取得される状態確率に基づき前記医療装置に所定処理を実行させるか否かを判定する判定確率を求め、この判定確率を用いて制御を行う
ことを特徴とする医療装置制御方法。
【請求項11】
制御においては、アラームを発生させる処理を実行するか否かを制御することを特徴とする請求項10に記載の医療装置制御方法。
【請求項12】
制御においては、アラーム一時消去状態から復帰する処理を実行するか否かを制御することを特徴とする請求項10に記載の医療装置制御方法。
【請求項13】
取得においては、第1の生体信号を用いる一方、
判定においては、第2の生体信号を取得する処理開始するか否かを制御することを特徴とする請求項10に記載の医療装置制御方法。
【請求項14】
制御においては、閾値を用いて判定し、制御を行うことを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載の医療装置制御方法。
【請求項15】
閾値は上方閾値と下方閾値とからなり、
判定においては上記上方閾値と下方閾値とを用いて判定にヒステリシスを持たせることを特徴とする請求項14に記載の医療装置制御方法。
【請求項16】
制御においては、状態確率にからベイズの定理に基づき判定確率を作成することを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項に記載の医療装置制御方法。
【請求項17】
取得された状態確率を、前記生体信号と同一または異なる生体信号に基づき補正する
ことを特徴とする請求項10乃至16のいずれか1項に記載の医療装置制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−56018(P2011−56018A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208516(P2009−208516)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】