説明

生体信号検出機構

【課題】人の状態をより正確に把握する技術を提供する。
【解決手段】人体支持機構の背部支持部に張って張力構造体として設けられる背部支持用クッション部材201とベースクッション部材220とが袋状部材210により一体化され、さらに、背部支持用クッション部材201とベースクッション部材220との間に配置されるセンシング機構部230を備えた3層構造である。センシング機構部230の下方には、背部支持用クッション部材201の骨盤・腰部支持領域を付勢する骨盤・腰部支持部材240を有する。背部支持用クッション部材201とベースクッション部材220との間にセンシング機構部230が配置されるため、各クッション部材には面方向に張力が生じる。これを人体支持機構の背部支持部に張って設けられることにより、背部支持用クッション部材201の裏側に配置されるセンシング機構部230は、生体信号を感度高く検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体を支持し、人の状態推定に用いる生体信号を人の上体から採取するのに好適な生体信号検出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の運転者の生体状態を監視することは、近年、事故予防策等として注目されている。本出願人は、特許文献1〜3において、シートクッション部に圧力センサを配置し、臀部脈波を採取して分析し、入眠予兆現象を判定する手法を開示している。
【0003】
具体的には、脈波の時系列波形を、それぞれ、SavitzkyとGolayによる平滑化微分法により、極大値と極小値を求める。そして、5秒ごとに極大値と極小値を切り分け、それぞれの平均値を求める。求めた極大値と極小値のそれぞれの平均値の差の二乗をパワー値とし、このパワー値を5秒ごとにプロットし、パワー値の時系列波形を作る。この時系列波形からパワー値の大域的な変化を読み取るために、ある時間窓Tw(180秒)について最小二乗法でパワー値の傾きを求める。次に、オーバーラップ時間Tl(162秒)で次の時間窓Twを同様に計算して結果をプロットする。この計算(移動計算)を順次繰り返してパワー値の傾きの時系列波形を得る。一方、脈波の時系列波形をカオス解析して最大リアプノフ指数を求め、上記と同様に、平滑化微分によって極大値を求め、移動計算することにより最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形を得る。
【0004】
そして、パワー値の傾きの時系列波形と最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形が逆位相となっており、さらには、パワー値の傾きの時系列波形で低周波、大振幅の波形が生じている波形を、入眠予兆を示す特徴的な信号と判定し、その後に振幅が小さくなったポイントを入眠点と判定している。
【0005】
また、特許文献4として、内部に三次元立体編物を挿入した空気袋(エアパック)を備え、このエアパックを人の背部に対応する部位に配置し、エアパックの空気圧変動を測定し、得られた空気圧変動の時系列データから人の生体信号を検出し、人の生体の状態を分析するシステムを開示している。また、非特許文献1及び2においても、腰腸肋筋に沿うようにエアパックセンサを配置して人の生体信号を検出する試みを報告している。このエアパックの空気圧変動は、心臓の動きに伴う下行大動脈の揺れによるものであり、特許文献1及び2の臀部脈波を利用する場合よりも、心臓の動きにより近い状態変化を捉えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−344612号公報
【特許文献2】特開2004−344613号公報
【特許文献3】WO2005/092193A1公報
【特許文献4】特開2007−90032号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「原著・指尖容積脈波情報を用いた入眠予兆現象計測法の開発」藤田悦則(外8名)、人間工学 Vol41、No.4(’05)
【非特許文献2】「非侵襲型センサによって測定された生体ゆらぎ信号の疲労と入眠予知への応用」、落合直輝(外6名)、第39回日本人間工学会 中国・四国支部大会 講演論文集、平成18年11月25日発行、発行所:日本人間工学会 中国・四国支部事務局
【非特許文献3】「非侵襲生体信号センシング機能を有する車両用シートの試作」、前田慎一郎(外4名)、第39回日本人間工学会 中国・四国支部大会 講演論文集、平成18年11月25日発行、発行所:日本人間工学会 中国・四国支部事務局
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4及び非特許文献1〜3の技術は、上記したように、パワー値の傾きの時系列波形と最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形が逆位相となり、かつ、パワー値の傾きの時系列波形で低周波、大振幅の波形が生じた時点をもって入眠予兆現象と捉えている。
【0009】
また、本出願人は、特願2009−237802として次のような技術も提案している。すなわち、生体信号測定手段により得られる生体信号の時系列波形から周波数の時系列波形を求め、この周波数の時系列波形から求められる周波数傾き時系列波形と周波数変動時系列波形を用いた技術であり、周波数傾き時系列波形の正負、周波数傾き時系列波形の積分波形の正負、周波数傾き時系列波形と周波数変動時系列波形とを重ねて出力した場合における逆位相の出現(逆位相の出現が入眠予兆を示す)等を組み合わせて人の状態を判定する技術である。
【0010】
本出願人は、上記のように生体信号を用いた人の状態を把握する技術を提案しているが、人の状態をより正確に把握する技術の提案が常に望まれている。そのためには、生体信号の解析アルゴリズムの工夫はもちろんのこと、生体信号をできるだけ正確に採取することが望ましい。また、上記した技術は、生体信号を採取するに当たり、座席構造のシートバック部にエアパックなどを組み込んだものとして製作されている。すなわち、生体信号を採取することを目的とした専用の座席構造タイプとなっており、汎用性に乏しい。そのため、生体信号の採取機能が組み込まれていない一般の座席構造その他の人体支持機構において、既存の人体支持機構にセットするだけで生体信号の検出を可能とする生体信号検出機構の新たな提案が望まれていた。本発明はこれらの課題に鑑みなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の生体信号検出機構は、背部支持用クッション部材と、前記背部支持用クッション部材の裏面側に配置されるベースクッション部材と、前記ベースクッション部材の外面を被覆し、側縁部が前記背部支持用クッション部材の側縁部に接合され、内部に前記ベースクッション部材を支持する袋状部材と、前記背部支持用クッション部材とベースクッション部材との間に中間層として配置され、着座者の背部からの生体信号を採取するセンシング機構部と、前記背部支持用クッション部材の裏面側において前記センシング機構部の下方に離間して配置され、前記背部支持用クッション部材を前方に付勢し、前記背部支持用クッション部材と前記ベースクッション部材との間に前記センシング機構部を配置するためのクリアランスを形成すると共に、前記背部支持用クッション部材に入力される荷重を低減し、かつ、呼吸及び体動による骨盤の動きを吸収する骨盤・腰部支持部材とを有し、人体支持機構の背部支持部に張設して使用されることを特徴とする。
前記背部支持用クッション部材の外方に延びるベルト部材により、前記人体支持機構の背部支持部に張設される構成とすることができる。前記骨盤・腰部支持部材による荷重分担率が前記背部支持用クッション部材に付与される着座者の全荷重に対して50%以上であることが好ましい。前記背部支持用クッション部材にかかる着座者の全荷重に対する荷重分担率が、前記センシング機構部が配置される中間領域では20%以下に設定され、前記骨盤・腰部支持部材が配置される骨盤・腰部支持領域と肩胛骨支持領域では両者を合わせて80%以上に設定されていることが好ましい。前記骨盤・腰部支持部材は、その前面に沿ったラインが上縁部に向かうに従って支持対象である人の背部の外形ラインから離間し、かつ、前面に沿ったラインと支持対象である人の背部の外形ラインとのなす角が5〜45度の範囲に設定されていることが好ましい。前記ベースクッション部材及び背部支持用クッション部材が、三次元立体編物から構成されることが好ましい。
前記センシング機構部が、所定の厚さを有し、厚み方向に貫通された所定面積の貫通孔を有するコアパッドと、前記コアパッドに形成された貫通孔に配置されるスペーサパッドと、前記スペーサパッドと共に前記貫通孔に配置されるセンサと、前記貫通孔に配置された前記スペーサパッド及びセンサを被覆し、前記コアパッドの表面及び裏面にそれぞれ密着して積層されるフロントフィルム及びリアフィルムとを有してなることが好ましい。前記コアパッドがビーズ発泡体から形成され、前記スペーサパッドが三次元立体編物から形成されていることが好ましい。
前記人体支持機構が座席構造であり、その背部支持部に張設され、座席構造に載置して使用されるシート用クッション型である構成とすることが好ましい。また、座席構造の背部支持部のバックフレームに前記ベースクッション部材及び背部用クッション部材が支持され、両者間に前記センシング機構部が配設され、座席構造に一体に組み込まれた座席構造一体型とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、人体支持機構の背部支持部に張って張力構造体として設けられる背部支持用クッション部材とベースクッション部材とが袋状部材により一体化され、さらに、背部支持用クッション部材とベースクッション部材との間に配置されるセンシング機構部を備えた3層構造であり、センシング機構部の下方には、背部支持用クッション部材の骨盤・腰部支持領域を付勢する骨盤・腰部支持部材を有する構成である。背部支持用クッション部材とベースクッション部材との間にセンシング機構部が配置されるため、各クッション部材には面方向に張力が生じる。その上、さらに、人体支持機構の背部支持部に張って設けられる。そして、骨盤・腰部支持部材が背部支持用クッション部材を押圧しているため、この骨盤・腰部支持部材が運動の起点となって、姿勢を支持・維持する要となり、呼吸や体動による骨盤の動きを吸収することになると共に、着座による支持圧は、背部支持用クッション部材で多く受け止められ、裏面側のベースクッション部材では支持圧の影響が小さくなる。これに対し、センシング機構部が配置される中間領域は、荷重分担率が小さくなるため、抗重力筋はリラックス状態となる。従って、背部支持用クッション部材の裏側に配置されるセンシング機構部は、生体信号を感度高く検出できる。また、骨盤・腰部支持部材が、呼吸や体動の動きを吸収するため、呼吸や体動による周波数成分をあまり含まない生体信号、特に、人の背部からの体表脈波(Aortic Pulse Wave(APW):心房や心室及び大動脈の揺動によって生じる生体信号(心部揺動波))を好適に採取できる。
また、センシング機構部は、背部支持用クッション部材とベースクッション部材とに挟まれていると共に、ベースクッション部材及びセンシング機構部は、背部支持用クッション部材には固定されずに袋状部材内に支持されているため、人体支持機構の背部支持部に対して上下方向(せん断方向)に運動可能である。従って、人体支持機構(例えば自動車の座席構造)において、座部支持部から入力される振動を吸収できると共に、背部支持部から伝達される振動も、ベースクッション部材が吸収できる。すなわち、本発明は、外部振動の影響も低減できる構造であるため、その意味でも、センシング機構部において背部の体表脈波を高い感度で検出できる。
また、本発明の生体信号検出機構を座席構造に載置して使用するシート用クッション型とすることにより、座席構造の種類を問わず、座席構造に載置するだけで生体信号を正確に検出できる。しかも、専用の座席構造を製造する場合よりも安価に製作でき、コスト的メリットも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態の生体信号検出機構にかかるシート用クッションを示した図である。
【図2】図2は、上記シート用クッションを座席構造に装着した状態を示した図である。
【図3】図3は、図2のセンター断面図である。
【図4】図4(a)は、座席構造に装着したシート用クッションの構造を示すために一部切り欠いた図であり、図4(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】図5は、上記シート用クッションの分解斜視図である。
【図6】図6は、図5の分解斜視図を反対側からみた図である。
【図7】図7は、骨盤・腰部支持部材、センシング機構部、及びベースクッション部材の配置関係を示した図である。
【図8】図8は、センシング機構部の分解斜視図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施形態の生体信号検出機構にかかる座席構造を示した正面図である。
【図10】図10は、図9の座席構造に設けたセンシング機構部、骨盤・腰部支持部材を示した図である。
【図11】図11は、試験例1の体圧分布を示した図である。
【図12】図12(a),(b)は試験例2において圧力最大時の体圧分布を示した図である。
【図13】図13(a),(b)は試験例2において圧力通常時の体圧分布を示した図である。
【図14】図14(a),(b)は試験例2において圧力最小時の体圧分布を示した図である。
【図15】図15(a),(b)は試験例3において圧力最大時の体圧分布を示した図である。
【図16】図16(a),(b)は試験例3において圧力通常時の体圧分布を示した図である。
【図17】図17は、試験例4の体圧分布を示した図である。
【図18】図18は、試験例5において被験者Aの振動伝達率を示した図である。
【図19】図19は、試験例5において被験者Cの振動伝達率を示した図である。
【図20】図20は、図19の被験者Cの振動伝達率の周波数解析結果を示した図である。
【図21】図21(a)は、試験例6において、座部の上下方向加速度パワースペクトルの従来型シートと開発センシングシートによる比較を示した図であり、図21(b),(c)は従来型シートと開発センシングシートにおける胸部における上下方向と前後方向の加速度パワースペクトルを示した図である。
【図22】図22は、試験例6において、APWの信号パワースペクトルと、車両走行時にフロアに発生する加速度パワースペクトルと、従来型シートの上下方向振動入力に対する尻下の振動伝達特性の比較を示した図である。
【図23】図23(a),(b)は、試験例7において、被験者の指尖容積脈波のウェーブレット解析による自律神経系の活動レベルを表した図である。
【図24】図24(a),(b)は、試験例7において、センシング機構部から採取した被験者のAPWを解析して、自律神経系の活動レベルを表した図である。
【図25】図25(a)は、4象限マップを利用した官能評価の乗り心地の定量化評価結果を示し、図25(b)は、APWを用いた感覚応答マップによる振動乗り心地の定量化の評価結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に示した実施の形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1〜図8は、本発明の第1の実施形態を説明するための図であり、これらの図に示したように、本実施形態の生体信号検出機構は、人体支持機構である座席構造100に重ねるように載置されるシート用クッション200から構成される。本実施形態のシート用クッション200は、背部支持用クッション部材201と座部支持用クッション部材202を有して構成され、背部支持用クッション部材201と座部支持用クッション部材202との境界に、後方に突出する突出片203が形成されている。そして、突出片203が座席構造100のシートバック部101とシートクッション部102との間隙に差し込まれ、背部支持用クッション部材201が座席構造の背部支持部(シートバック部101)に後述の張設手段により引っ張られて張設される(図1〜図3参照)。
【0015】
図3〜図6に示したように、背部支持用クッション部材201の裏側には、センシング機構部230とベースクッション部材220が配設される。具体的には、背部支持用クッション部材201の周縁部に布材からなる袋状部材210の両側部が接合されており、この袋状部材210の内部に、ベースクッション部材220とセンシング機構部230が挿入配置される。従って、ベースクッション部材220及びセンシング機構部230は、背部支持用クッション部材201に対して固定されているわけではなく、袋状部材210内で上下方向に変位可能となっている。
【0016】
背部支持用クッション部材210及びベースクッション部材220は、張力方向に対して高剛性となる三次元立体編物を用いることが好ましい。なお、三次元立体編物は、例えば、特開2002−331603号公報、特開2003−182427号公報等に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。三次元立体編物は、伸び率0%で張設して面方向に略垂直に加圧した際の荷重−たわみ特性から求められるバネ定数として、直径30mmの圧縮板で加圧した際の荷重−たわみ特性から求められるバネ定数よりも直径98mmの圧縮板で加圧した際の荷重−たわみ特性から求められるバネ定数が高いことを特徴とするものである。この構成により、人の筋肉の荷重特性と同様の特性を有することになり、フィット感の増加、姿勢支持性の向上等を図ることができる。
【0017】
センシング機構部230は、図8に示したように、コアパッド231、スペーサパッド232、センサ233、フロントフィルム234、リアフィルム235を有して構成される。
【0018】
コアパッド231は、板状に成形され、脊柱に対応する部位を挟んで対称位置に、縦長の貫通孔231a,231aが2つ形成されている。コアパッド231は、板状に形成されたビーズ発泡体から構成することが好ましい。コアパッド231をビーズ発泡体から構成する場合、発泡倍率は25〜50倍の範囲で、厚さがビーズの平均直径以下に形成されていることが好ましい。例えば、30倍発泡のビーズの平均直径が4〜6mm程度の場合では、コアパッド231の厚さは3〜5mm程度にスライスカットする。これにより、コアパッド231に柔らかな弾性が付与され、振幅の小さな振動に共振した固体振動を生じやすくなる。
【0019】
スペーサパッド232は、コアパッド231の貫通孔231a,231a内に装填される。スペーサパッド232は、三次元立体編物から形成することが好ましい。三次元立体編物が人の背によって押圧されることにより、三次元立体編物の連結糸に張力が生じ、生体信号に伴う人の筋肉を介した体表面の振動が伝播される。また、コアパッド231よりも、三次元立体編物からなるスペーサパッド232の方が厚いものを用いることが好ましい。これにより、フロントフィルム234及びリアフィルム235の周縁部を貫通孔231a,231aの周縁部に貼着すると、三次元立体編物からなるスペーサパッド232が厚み方向に押圧されるため、フロントフィルム234及びリアフィルム235の反力による張力が発生し、該フロントフィルム234及びリアフィルム235に固体振動(膜振動)が生じやすくなる。一方、三次元立体編物からなるスペーサパッド232にも予備圧縮が生じ、三次元立体編物の厚み方向の形態を保持する連結糸にも反力による張力が生じて弦振動が生じやすくなる。なお、フロントフィルム234の上部に面ファスナー234aが貼着され、ベースクッション部材220の上部に貼着した面ファスナー220aに接合されることにより、ベースクッション部材220にセンシング機構部230が保持される。また、センシング機構部230の四隅も、テープ部材230aを介してベースクッション部材220に保持される。
【0020】
センサ233は、上記したフロントフィルム234及びリアフィルム235を積層する前に、いずれか一方のスペーサパッド232に固着して配設される。スペーサパッド232を構成する三次元立体編物は一対のグランド編地と連結糸とから構成されるが、各連結糸の弦振動がグランド編地との節点を介してフロントフィルム234及びリアフィルム235に伝達されるため、センサ233はスペーサパッド232の表面(グランド編地の表面)に固着することが好ましい。センサ233としては、マイクロフォンセンサ、中でも、コンデンサ型マイクロフォンセンサを用いることが好ましい。
【0021】
背部支持用クッション部材201の裏面側であって、センシング機構部230の下方には、骨盤・腰部支持部材240が配設される。骨盤・腰部支持部材240は、図7に示したように、三次元立体編物の上縁部及び下縁部を内方に向けて折り曲げてその中央付近を縫製することにより上側と下側に膨らみ241a,241bが生じるようにした付勢部材241と、この付勢部材241の前面に配置され、上下の膨らみ241a,241bの前面を被覆する面積を有する略長方形に形成され、撓むことにより弾性が機能する合成樹脂製の可撓性板状部材242を有して構成される。付勢部材241は、折りたたんで縫製して両側に膨らみ241a,241bを生じさせることにより、弾性が高くなり支持圧を高めることができると共に、ストローク感を生じさせる。可撓性板状部材242は、付勢部材241の前面を被覆することにより、付勢部材241の当たり感を軽減する。従って、本実施形態の骨盤・腰部支持部材240は、簡易な構成でありながら、骨盤・腰部支持領域において高い支持圧を機能させることができる。
【0022】
なお、本実施形態では、下側の膨らみ241bの内部空間に発泡ウレタン241cを挿入配置している。ベースクッション部材220は、その下端縁が、上側の膨らみ241aを被覆する位置までの大きさを有しており、下側の膨らみ241b及び発泡ウレタン241cはベースクッション部材220では被覆されていない。そのため、荷重がかかった際には、下側の膨らみ241b及び発泡ウレタン241cは、可撓性板状部材242が撓む際の起点となる役割を果たし、人の骨盤から腰部付近を斜め下方から斜め上方に支持する力を作用させる。
【0023】
ここで、骨盤・腰部支持領域とは、骨盤・腰部支持部材240の弾性と背部支持用クッション部材201の張力により、人の骨盤から腰部付近に所定の支持圧を作用させる領域である。その位置は、後述の試験例1では、骨盤・腰部支持領域を座部支持用クッション部材202の座面から上方に350mmまでの領域とし、そのさらに100mm上方の範囲を中間領域とし、それよりもさらに上方の領域を肩胛骨支持領域とした(図11参照)。そして、本実施形態では、座席構造100にシート用クッション200をセットし、そのシート用クッション200上に人を静的状態で着座させ、背部支持用クッション部材201における体圧分布を測定した際に、背部支持用クッション部材201にかかる着座者の全荷重に対する荷重分担率が、骨盤・腰部支持領域で50%以上となるようにすることが好ましい。より好ましくは、背部支持用クッション部材200にかかる着座者の全荷重に対する中間領域の荷重分担率が20%以下となるように設定し、さらに、骨盤・腰部支持領域と肩胛骨支持領域では両者を合わせた荷重分担率が80%以上となるように設定する。さらに好ましくは、中間領域の荷重分担率が10%以下で、骨盤・腰部支持領域と肩胛骨支持領域では両者を合わせた荷重分担率が90%以上である。これらの比率は相対的なものであるため、後述の試験例のように、背部支持用クッション部材201にかかる圧力の違いに拘わらず、ほぼこの範囲になる(試験例2、3参照)。また、リクライニング角度が変化しても同様であり、例えば、座席構造100のシートバック部101をシートクッション部102に対してフラットになるまで傾動させた状態(寝具に仰向けで寝た状態とほぼ同じ状態)でも同様である(試験例4参照)。なお、骨盤・腰部支持部材240の付勢部材241を構成する三次元立体編物の厚みや膨らみ241a,241bの大きさ等、可撓性板状部材242の厚さや材質等の調整により、骨盤・腰部支持部材240の弾性を調整し、荷重分担率を上記の範囲となるように設定できる。
【0024】
また、骨盤・腰部支持領域、中間領域及び肩胛骨支持領域の位置設定は、上記した範囲に固定されるものではない。上記した範囲は、日本人男性成人の平均身長付近の人が着座した際の、骨盤・腰部に対応する領域、肩胛骨が対応する領域に合わせて設定したものである。もちろん、体型に個人差があるため、使用者それぞれに合わせて各領域の位置(骨盤・腰部支持部材240の配設位置、センシング機構部230の配設位置等)を個別に設定することもできる。
【0025】
上記したセンシング機構部230は、センサ233の位置が、中間領域の範囲となる位置に設定されると共に、センシング機構部230が、正面から見て、骨盤・腰部支持部材240の上縁部から所定距離離間した位置となるように配設する。これは、骨盤・腰部支持部材240の動きがセンシング機構部230に影響しないようするためであり、その離間距離としては、10mm以上、好ましくは30mm以上、より好ましくは50mm以上に設定する。
【0026】
なお、骨盤・腰部支持部材240は、人の骨盤・腰部付近を支持するが、その際に上記したように斜め下から斜め上方向に押圧するように作用することが好ましく、そのため、可撓性板状部材242の前面に沿ったラインが上縁部に向かうに従って支持対象である人の背部の外形ラインから離間し、かつ、前面に沿ったラインと支持対象である人の背部の外形ラインとのなす角が5〜45度の範囲に設定されるように取り付けることが好ましい。前面に沿ったラインと支持対象である人の背部の外形ラインとのなす角が5〜20度の範囲に設定することがより好ましい。
【0027】
本実施形態の生体信号検出機構であるシート用クッション200は、張設手段を設け、この張設手段を座席構造100のシートバック部101に取り付けて張設する。背部支持用クッション部材201をシートバック部101に張設する張設手段としては、周縁部から外方に引き出すことができ、肩胛骨支持領域の両側に設けられる第1のベルト部材251と、骨盤・腰部支持領域の両側に設けられる第2のベルト部材252とを有する構造とすることができる。この第1及び第2のベルト部材251,252をシートバック部101に掛け回し、長さ調整して固定することにより、背部支持用クッション部材201が張力構造体として張設される。また、背部支持用クッション部材201と座部支持用クッション部材202の境界の突出片203をシートバック部101とシートクッション部102との間に差し込んで挟持させる。
【0028】
このようにして配設することにより、骨盤・腰部支持部材240が配設されている骨盤・腰部支持領域において受ける荷重が相対的に高く、中間領域において受ける荷重が相対的に低くなる。すなわち、本実施形態によれば、例えば、ウレタン材をクッション材として用いた一般的な座席構造100であっても、シート用クッション200を配置することで、背部支持用クッション部材201における骨盤・腰部支持領域の支持荷重が相対的に高く、それらの中間領域の支持荷重が相対的に低くなる構造を容易に作り出すことができる。従って、背部支持用クッション部材201の中間領域にセンサ233が配設されることにより生体信号を感度よく検出できる。また、本実施形態では、センシング機構部230は、背部支持用クッション部材201とベースクッション部材220との間に設けられ、背部支持用クッション部材201、センシング機構部230及びベースクッション部材220の3層構造となっていると共に、袋状部材210内に配置されているため、センシング機構部230及びベースクッション部材220は上下方向に変位可能である。従って、座席構造100から伝達される振動は、ベースクッション部材220及びその変位により除振される。そして、さらに、センシング機構部230が、骨盤・腰部支持部材240から所定距離離間させて配置することにより、センシング機構部230が外部振動の影響を受けにくい。特に、本実施形態では、人の背部からの体表脈波(Aortic Pulse Wave(APW):心房や心室及び大動脈の揺動によって生じる生体信号(心部揺動波))を採取するが、上記した構成とすることにより、このAPWの周波数成分に近い他の振動(外部振動、体動成分等)の影響を抑制でき、APWの正確な検出に寄与する。
【0029】
上記実施形態に係るシート用クッション200は、取り付け対象の座席構造100の種類を問わず、すなわち、ウレタン材をクッション材として用いたものでも、生体信号(特にAPW)のより正確な検出を実現するものであるが、座席構造自体を生体信号の採取に適した生体信号検出機構とすることもできる。図9及び図10は、その実施形態(第2の実施形態)を示すものである。
【0030】
すなわち、この第2の実施形態では、座席構造500として、シートバック部501が一対のサイドフレーム511,512と、該サイドフレーム511,512の上部間に配置される上部フレーム513,514と、該サイドフレーム511,512の下部間に配置される下部フレーム515とを備えた枠状のバックフレーム510を有してなる。このバックフレーム510に取り囲まれた範囲内には、他の骨格部材は配置されておらず、空間となっている。
【0031】
下部フレーム515よりもやや上方位置において、すなわち、着座者の骨盤上部から腰部付近に対応する位置(骨盤・腰部支持領域)において、骨盤・腰部支持部材520が設けられる。骨盤・腰部支持部材520は、正面からみて所定の面積を有する略長方形に形成された合成樹脂製の板状部材又はビーズ発泡体から形成され、サイドフレーム511,512間に掛け渡されたSバネ521により付勢される。Sバネ521の弾性力により骨盤・腰部支持部材520は、着座者の骨盤から腰部付近を押圧し、前後方向へのストローク感を出すと共に、骨盤に生じた回転・往復運動に対する復元力を作り出す。そして、骨盤・腰部支持部材520の上端縁側が押圧されると下端縁側を中心として後方に回動し、骨盤を、斜め下から斜め上方向にバネによる反力で支持できる。
【0032】
バックフレーム510のサイドフレーム511,512、第1及び第2上部フレーム513,514には、バック用ベースネット530が支持される。バック用ベースネット530をこのようにして張設することで、着座者の体側部に対応するサイドフレーム511,512寄りの部分は前後への撓みの小さな部位となり、バック用ベースネット530のセンターラインに沿った脊柱に対応した部分が、前後に撓み易くなる。これにより、コーナリングの際に左右方向に慣性力が作用すると、脊柱を中心とした回転運動が生じやすくなる。回転運動が生じた際に、センターラインに沿った部分が前後に撓むと、骨盤・腰部支持部材520の支持圧が強く作用する。これにより、体が左右方向にずれるのを防止する。なお、バック用ベースネット530は、三次元立体編物、二次元ネット材、二次元ネット材に薄いウレタン材を積層したもの等から形成できるが、張力方向の剛性に優れた三次元立体編物を用いることが好ましい。
【0033】
バック用ベースネット530及びバックフレーム510を被覆するように、表側被覆部材540が所定の張力で被覆される。この表側被覆部材540も薄型で張力方向の剛性に優れた三次元立体編物が用いることが好ましい。なお、表側被覆部材540の外側にさらに皮革等の表皮を配設することは任意である。
【0034】
座席構造500は、骨盤・腰部支持部材520を有すると共に、所定の張力で張設され、張力構造体となっているバック用ベースネット530と表側被覆部材540を有し、上記したように姿勢支持性が高く、外部振動の低減機能も高い。そこで、バック用ベースネット530及び表側被覆部材540を、上記実施形態のベースクッション部材及び背部支持用クッション部材に相当するものとし、両者間に上記実施形態と同様のセンシング機構部550を配設する。この際、上記実施形態と同様に、骨盤・腰部支持部材520に対して、センシング機構部550を上方に所定距離離間させて配設する。これにより、センシング機構部550は、骨格部材等の剛体に支持されるのではなく、張力構造体であるバック用ベースネット530と表側被覆部材540の張力を利用し、いわば半浮動で支持されることになる。
【0035】
バックフレーム510が上記のように枠状に形成されているため、骨盤・腰部支持部材520が配設される骨盤・腰部支持領域の上部の中間領域には、骨格部材が存在しない。従って、本実施形態においても、骨盤・腰部支持領域の荷重分担率が相対的に高く、中間領域では荷重分担率が相対的に小さくなり、抗重力筋をリラックス状態で支持できる。そのため、中間領域にセンシング機構部550のセンサを設けることでAPWの正確な検出に寄与する。
【0036】
換言すると、本実施形態は、骨格と張力構造体との間に剛性差を生じさせる構造であり、この剛性差によりシートバック部501のシート骨格による前後振動とシートクッション部502から発生する上下振動を剪断方向で緩和する緩衝帯(「シェアストレス構造帯」と呼ぶ)を作っている。すなわち、本実施形態では、センシング部位である中間領域に、シートバック部501の骨格からくる高剛性の、例えばSバネ、硬鋼線などの姿勢支持部材がなく、シートバック部501の骨格に生じる前後振動や左右の動揺を緩和する緩衝体を有する張力構造体を利用した姿勢支持構造であると共に、体幹の体重の大部分の支持を、質量の大きい骨盤・腰部支持領域(骨盤及び腸骨稜近辺)で支える体側支持構造である。さらに、底部から入力される上下方向振動入力を低い周波数帯域で位相制御ができるシェアストレス構造帯を有し、かつ、センシング機構部が体幹と一緒に運動する一方で、センサとシェアストレス構造帯の間が柔らかなばね特性で結ばれているため、生体信号の正確な検出に寄与する構造である。
【0037】
(試験例1)
図1〜図8に示した第1の実施形態の生体信号検出機構であるシート用クッション200をウレタン製のクッション材を有する座席構造100に男性被験者A(身長167cm、体重70kg)を着座させ、静的着座状態における背部支持用クッション部材210の体圧分布を測定し、各領域の荷重値を調べた。結果を図11に示す。
【0038】
骨盤・腰部支持領域を座部支持用クッション部材202の座面から上方に350mmまでの領域とし、骨盤・腰部支持領域の上縁から100mm上方の範囲を中間領域とし、それよりもさらに上方の領域を肩胛骨支持領域とした。その結果、全荷重に対し、骨盤・腰部支持領域の荷重値:14062.28g、荷重分担率:62.36%であり、中間領域の荷重値:2085.34g、荷重分担率:9.25%であり、肩胛骨支持領域の荷重値:6403.69g、荷重分担率:28.40%であった。
【0039】
従って、図1〜図8に示した構成により、中間領域の荷重分担率を10%以下に設定でき、骨盤・腰部支持領域及び肩胛骨支持領域を合わせた荷重分担率を90%以上に設定できることがわかる。
【0040】
(試験例2)
試験例1と同じく、ウレタン製のクッション材を有する座席構造100に第1の実施形態のシート用クッション200をセットして、男性被験者B(身長179cm、体重96kg)を着座させ、体圧分布を測定した。この際、被験者Bが背を背部支持用クッション部材201に強く押しつけた場合(圧力最大)、通常の静的着座状態で背を背部支持用クッション部材201にもたれさせた場合(圧力通常)、背を通常よりも軽めに背部支持用クッション部材201にもたれさせた場合(圧力最小)について測定した。
【0041】
図12(a)、図13(a)及び図14(a)は、袋状になっている背部支持用クッション部材201の表面の体圧分布を示す。これらの図に示したように、上記実施形態のシート用クッション200によれば、背部支持用クッション部材201に押しつける力を変化させても、中間領域の荷重値が相対的に最も低くでき、多くの荷重が表層の背部支持用クッション部材201と骨盤・腰部支持領域と肩胛骨支持領域に付与されていることが分かる。
【0042】
図12(b)、図12(b)及び図12(b)は、袋状部材210内に配置されているベースクッション部材220の内面の体圧分布を示したものである。これらの図に示したように、袋状部材210により、ベースクッション部材220と背部支持用クッション部材201は、袋状に形成されているため、背部支持用クッション部材201は面方向に所定の張力が生じていると共に、シートバック部に張設されているため、表面に押圧力が作用しても、ベースクッション部材220の中間領域には、ほとんど荷重がかかっていないことがわかる。
【0043】
従って、上記実施形態のシート用クッション200によれば、中間領域における人体の支持圧が極めて小さくなり、この範囲が外部振動の伝達経路として機能しないことがわかる。そのため、この範囲にセンシング機構部230のセンサ233をセットすることにより、生体信号の検出を従来よりも正確に行うことができることがわかる。
【0044】
(試験例3)
身長169cm、体重61kgの男性被験者Cを座席構造1に着座させ、背を背部支持用クッション部材201に強く押しつけた場合(圧力最大)、通常の静的着座状態で背を背部支持用クッション部材201にもたれさせた場合(圧力通常)について、試験例2と同様の試験を行った。
【0045】
その結果、図15(a)及び図16(a)に示したように、背部支持用クッション部材201の表面では、いずれの場合でも中間領域の荷重値は、骨盤・腰部支持領域及び肩胛骨支持領域を合わせた荷重値よりも相対的に低かった。また、図15(b)及び図16(b)に示したように、ベースクッション部材220の内面では、いずれの場合も、中間領域には、ほとんど荷重がかかっておらず、着座者の体格差に拘わらず、中間領域における人体の支持圧を低くでき、生体信号検出機構として適した構造であることがわかる。
【0046】
(試験例4)
ウレタン製の座席構造100に上記実施形態のシート用クッション200をセットし、座席構造100のシートバック部をシートクッション部とフラットになるまでリクライニングさせ、身長171cm、体重67kgの男性被験者Dを仰臥させた。その際の圧力分布が図17である。この図からも明らかなように、背部支持用クッション部材201の荷重値は、このような仰臥姿勢でも、中間領域の荷重値が相対的に最も低く、多くの荷重が骨盤・腰部支持領域と肩胛骨支持領域に付与されていることが分かる。従って、このような仰臥姿勢でも、本発明のシート用クッション200の構成によれば、生体信号をより正確に検出することができることがわかる。
【0047】
(試験例5)
上記実施形態のシート用クッション200をウレタン製のクッション材を有する座席構造100にセットしてそれを加振機上に設置し、試験例1の男性被験者A、試験例3の男性被験者Cをそれぞれ座位姿勢で着座させ、入力振動を0.5Hz〜15Hzまで変化させ、片側振幅1mm(ピーク間振幅2mm)の正弦波ログスウィープによる上下方向振動で加振し、振動伝達率を測定した。図18は被験者Aの試験結果であり、図19は被験者Cの試験結果である。
【0048】
これらの図から、生体信号の周波数帯における中間領域の表層の振動伝達率は、10Hz近傍で0.2〜0.3であり、中間領域において外部振動が伝達されにくく、この中間領域にセンシング機構部を配設すれば、生体信号の検知精度が向上できることがわかる。
【0049】
図20は、図19の被験者Cの背部支持用クッション部材201の表面(図20では「圧力通常/表側」と表示)における中間領域の振動伝達率及びベースクッション部材220の内面(図20では「圧力通常/袋内」と表示)の振動伝達率の周波数解析結果を示した図である。この図から明らかなように、ベースクッション部材220(袋内)では、外部振動の伝達が極めて小さく、外部振動の遮断ができていることがわかる。
【0050】
(試験例6)
第2の実施形態に係る座席構造500(開発センシングシート)と、シートバック部及びシートクッション部においてSバネやクッションパン上にクッション材として平均50〜70mm厚のウレタン材が積層された従来型のウレタンシート(従来型シート)との比較を行った。試験は、加振機上に各シートを設置し、男性被験者Aを着座させ、入力振動を0.5Hz〜15Hzまで変化させて、片側振幅1mm(ピーク間振幅2mm)の正弦波ログスウィープによる上下方向振動で加振し、振動伝達率を測定した。
【0051】
図21(a)は座部の上下方向加速度パワースペクトルの従来型シートと開発センシングシートによる比較を示す。座部上下方向の加速度応答では5Hz近傍までは大きな差がなく、開発センシングシートの方が5Hz以降では振動吸収性が高いことがわかる。図21(b),(c)は従来型シートと開発センシングシートにおけるいわゆるセンシングスペースである胸部(上記中間領域に相当)における上下方向と前後方向の加速度パワースペクトルを示す。開発センシングシートは、上下前後方向振動による加速度が5Hz以上の帯域から高い振動吸収性を示し、加速度値0.1m/s2を下回る傾向となり、振動感受性から見た場合、うまく振動制御されているといえる。これはシートバック部における上記したシェアストレス構造体による効果と考えられ、5Hz以上の帯域で位相制御によるものである。一方、従来型シートは、5Hz以上の帯域でも0.1m/s2を超える場合が発生している。これは振動感受性という観点から見ると振動を感じやすいもので、位相制御されておらず、背上部に配置されているSばねによる振動吸収効果は小さく、背上部の支持体、この場合Sばねであるが、逆に振動伝達経路になっていることがわかる。
【0052】
図22はAPWの信号パワースペクトルと、車両走行時にフロアに発生する加速度パワースペクトルと、従来型シートの上下方向振動入力に対する尻下の振動伝達特性の比較を示したものである。この図から、背部骨格の固有振動数は、車両から入力される周波数帯を避け、矢印aで示す40〜50Hz間にもっていくことが好ましいと言える。また、シェアストレス構造帯となる張力構造体とシートバック部に設けられるクッション材の固有振動数は、体幹の内臓共振周波数となる8Hzと、上下方向振動で感受性の高い目地ショックを感じる10Hzを避け、矢印bで示す4〜5Hz近傍に設定することが好ましい。
【0053】
(試験例7)
第1の実施形態に係る生体信号検出機構に係るシート用クッション200と、第2の実施形態に係る生体信号検出機構に係る座席構造500について、生体信号の採取実験を行った。具合的には、第2の実施形態の座席構造500はそのまま上下方向動電型1軸加振機に取り付け、第1の実施形態のシート用クッション200は、ウレタン材をクッション材として用いた従来型シートにセットし、その状態で上記と同じ1軸加振機に取り付け、それぞれ、1時間の加振を行い、動的条件下における生理指標の計測実験を行った。被験者は30歳代の健康な成人男性で行った。励振波形は上下方向成分の平均加速度振幅:0.98m/sで、最大加速度:4.9m/sのランダム波形である。なお、このランダム波形は、SUVでアメリカ合衆国ミシガン州の高速道を時速100km前後で走行した時のフロアより採取した波形である。被験者は、両シートに着座させ、各センシング機構部230,550のセンサの検出信号を捉えることにより、APWを計測した。APWを用いた感覚応答マップによる振動乗り心地の定量化による被験者の状態の評価を行い、比較指標として4象限マップを利用した官能評価の乗り心地の定量化評価も合わせて行った。
【0054】
図23(a),(b)は、被験者の指尖容積脈波のウェーブレット解析による自律神経系の活動レベルをあらわしたものである。図24(a),(b)は同様にセンシング機構部230,550から採取した被験者のAPWを解析して、自律神経系の活動レベルとしたものである。いずれも(a)は第2の実施形態に係る座席構造500の結果であり、(b)は従来型シートに装着した第1の実施形態に係るシート用クッション200の結果である。図23及び図24共に、HF、LF/HFの増減傾向は比較的一致していることがわかる。従来型シートに装着した第1の実施形態のシート用クッション200の場合、3300〜3600秒間で相関は認められないものの、その相対的傾向は捉えられていると言える。
【0055】
図25(a)は、4象限マップを利用した官能評価の乗り心地の定量化評価結果を示し、図25(b)は、APWを用いた感覚応答マップによる振動乗り心地の定量化の評価結果を示す。これは、APWの原波形から傾き時系列波形を作成し、これを周波数解析し、さらに、一定の基準に基づいて、周波数解析結果の波形を得点化してプロットしたものである。
【0056】
第2の実施形態の座席構造500及び従来型シートに装着した第1の実施形態のシート用クッション200のどちらの場合も、時間の経過とともに憂鬱方向にシフトしており、官能評価とAPWによる感覚応答マップの相対比較はできたものと考えられる。この結果からも、第2の実施形態の座席構造500及び従来型シートに装着した第1の実施形態のシート用クッション200は、よくAPWを捉えていることがわかり、またほぼ同等のセンシング性能になっていることがわかる。
【符号の説明】
【0057】
200 シート用クッション
201 背部支持用クッション部材
210 袋状部材
220 ベースクッション部材
230 センシング機構部
233 センサ
240 骨盤・腰部支持部材
241 付勢部材
242 可撓性板状部材
500 座席構造
510 バックフレーム
520 骨盤・腰部支持部材
530 バック用ベースネット
540 表側被覆部材
550 センシング機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背部支持用クッション部材と、
前記背部支持用クッション部材の裏面側に配置されるベースクッション部材と、
前記ベースクッション部材の外面を被覆し、側縁部が前記背部支持用クッション部材の側縁部に接合され、内部に前記ベースクッション部材を支持する袋状部材と、
前記背部支持用クッション部材とベースクッション部材との間に中間層として配置され、着座者の背部からの生体信号を採取するセンシング機構部と、
前記背部支持用クッション部材の裏面側において前記センシング機構部の下方に離間して配置され、前記背部支持用クッション部材を前方に付勢し、前記背部支持用クッション部材と前記ベースクッション部材との間に前記センシング機構部を配置するためのクリアランスを形成すると共に、前記背部支持用クッション部材に入力される荷重を低減し、かつ、呼吸及び体動による骨盤の動きを吸収する骨盤・腰部支持部材と
を有し、人体支持機構の背部支持部に張設して使用される生体信号検出機構。
【請求項2】
前記背部支持用クッション部材の外方に延びるベルト部材により、前記人体支持機構の背部支持部に張設される請求項1記載の生体信号検出機構。
【請求項3】
前記骨盤・腰部支持部材による荷重分担率が前記背部支持用クッション部材に付与される着座者の全荷重に対して50%以上である請求項1記載の生体信号検出機構。
【請求項4】
前記背部支持用クッション部材にかかる着座者の全荷重に対する荷重分担率が、前記センシング機構部が配置される中間領域では20%以下に設定され、前記骨盤・腰部支持部材が配置される骨盤・腰部支持領域と肩胛骨支持領域では両者を合わせて80%以上に設定されている請求項3記載の生体信号検出機構。
【請求項5】
前記骨盤・腰部支持部材は、その前面に沿ったラインが上縁部に向かうに従って支持対象である人の背部の外形ラインから離間し、かつ、前面に沿ったラインと支持対象である人の背部の外形ラインとのなす角が5〜45度の範囲に設定されている請求項1〜4のいずれか1に記載の生体信号検出機構。
【請求項6】
前記ベースクッション部材及び背部支持用クッション部材が、三次元立体編物から構成される請求項1〜5のいずれか1に記載の生体信号検出機構。
【請求項7】
前記センシング機構部が、所定の厚さを有し、厚み方向に貫通された所定面積の貫通孔を有するコアパッドと、
前記コアパッドに形成された貫通孔に配置されるスペーサパッドと、
前記スペーサパッドと共に前記貫通孔に配置されるセンサと、
前記貫通孔に配置された前記スペーサパッド及びセンサを被覆し、前記コアパッドの表面及び裏面にそれぞれ密着して積層されるフロントフィルム及びリアフィルムと
を有してなる請求項1〜6のいずれか1に記載の生体信号検出機構。
【請求項8】
前記コアパッドがビーズ発泡体から形成され、前記スペーサパッドが三次元立体編物から形成されている請求項7記載の生体信号検出機構。
【請求項9】
前記人体支持機構が座席構造であり、その背部支持部に張設され、座席構造に載置して使用されるシート用クッション型である請求項1〜8のいずれか1に記載の生体信号検出機構。
【請求項10】
座席構造の背部支持部のバックフレームに前記ベースクッション部材及び背部用クッション部材が支持され、両者間に前記センシング機構部が配設され、座席構造に一体に組み込まれた座席構造一体型である請求項1〜8のいずれか1に記載の生体信号検出機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−52108(P2013−52108A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192204(P2011−192204)
【出願日】平成23年9月4日(2011.9.4)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】