説明

生体内利用効率の改善されたアミノイソキノリントロンビン阻害薬

本発明は、化合物N−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドまたは医薬的に許容されるその塩、該化合物を含む医薬組成物、ならびに、トロンビン媒介疾患の治療用または予防用医薬を製造するための化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノイソキノリン基を含むトロンビン阻害薬、該阻害薬を含有する医薬組成物、トロンビン媒介疾患の治療用または予防用医薬を製造するための該阻害薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
文献に報告されたペプチド様トロンビン阻害薬の多くはいわゆるP−位に塩基性基を含有している(R.Pfau,“Structure−based design of thrombin inhibitors”,Current Opinion in Drug Discovery & Development,,437−450,2003)。このような塩基性基の例は、塩基性アミノ酸であるアルギニンおよびリシンを含み、また、グアニジンおよびベンズアミジンを含む。これらの化合物中の塩基性部分は抗血栓活性に必須であると考えられている。しかしながら、このような極めて塩基性の基は一般に生理的pHではプロトン付加され、その結果としてこのような化合物は経口投与後に胃腸管から吸収され難く、経口による生体内利用効率が低い。
【0003】
経口で与えられる治療薬は使用し易いという固有特性を有するので、一般に極めて好まれており、市場の拡大が見込まれる。
【0004】
国際特許出願WO 98/47876(Akzo Nobel N.V.)には、アミノイソキノリン部分を塩基性基として有しているトロンビン阻害薬のクラスが開示されており、これらの化合物は経上皮的輸送特性が改善されている。特に該特許出願は、化合物N−(カルボキシメチル)−D−フェニルアラニル−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミド(WO98/47876:実施例77)およびN−(カルボキシメチル)−D−(4−メトキシフェニル)アラニル−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミド(WO98/47876:実施例111as)ならびにプロドラッグであるそれらのエステル誘導体を例示している。
【0005】
より高度に効率的なトロンビン阻害薬、特に経口投与に適したこのようなトロンビン阻害薬の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許出願公開第98/47876号明細書(Akzo Nobel N.V.)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アール・ファウ(R.Pfau)著、“ストラクチャーベースド・デザイン・オブ・トロンビン・インヒビター(Structure−based design of thrombin inhibitors)”、カレント・オピニオン・イン・ドラッグ・ディスカバリー・アンド・ディベロップメント(Current Opinion in Drug Discovery & Development)、第6巻、2003年、p.437−450
【発明の概要】
【0008】
本発明は、経口投与による生体内利用効率の高い新規な化合物N−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドに関する。
【0009】
別の目的において本発明は、N−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドまたは医薬的に許容されるその塩を担体または希釈剤と共に含む医薬配合物に関する。
【0010】
別の目的において本発明は、化合物N−(カルボキシメチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドに関する。これは、経口投与後にN−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドから用時生成される選択的トロンビン阻害薬であり、本発明のn−プロピル−プロドラッグ誘導体の合成中間体として有用である。
【0011】
本発明の化合物N−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドは構造式1A
【0012】
【化1】

によって表される。
【0013】
本発明の知見は、経口投与したときのn−プロピル−エステル誘導体1Aが、WO 98/47876に開示されたN−(カルボキシメチル)−D−フェニルアラニル−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミド(2A)およびN−(カルボキシメチル)−D−(4−メトキシフェニル)アラニル−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミド(3A)のような構造的に極めて近縁のアミノイソキノリントロンビン阻害薬のn−プロピルエステル誘導体の生体内利用効率に比べて、極めて高い生体内利用効率を有していることである。
【0014】
すなわち、本発明の化合物1Aの経口投与は、循環に入ると速やかにインビボ産生される1Aの遊離酸誘導体であるトロンビン阻害薬1Bの血漿濃度を顕著に上昇させる。
【0015】
対応するフェニルアラニン誘導体2Aまたはメトキシフェニルアラニン誘導体3Aに比べて予想外に改善された新規なジフェニルアラニン誘導体1Aの経口活性は、比較的低い用量で経口投与できる抗血栓薬の開発を可能にする。
【0016】
【化2】

【0017】
実験
全般
LC−MSデータはApplied Biosystems API 150EX質量分析計で採取した。H NMRスペクトルはBruker DPX 400またはDRX 400分光計で記録した。
【実施例1】
【0018】
(スキーム1)
N−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミド(1A)
N−[2−(1,1−ジメチルエトキシ)−2−オキソエチル]−β−フェニル−D−フェニルアラニン(a)
ジオキサン/水(1:1(v/v),100ml)中のD−ジフェニルアラニン,H−D−Dpa−OH(20.0g,82.9mmol)および炭酸カリウム(17.2g,125mmol)の撹拌混合物に、tert−ブチルブロモアセテート(12.2ml,83.0mmol)を添加した。一夜撹拌後、水(100ml)を添加し、0.5Mクエン酸溶液でpHを5.5に調整した。得られた沈殿物を濾別し、水次いでジエチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥すると、10.4gの標題化合物が得られた。
【0019】
【化3】

(S)−2−[[[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]アミノ]カルボニル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチルエステル塩酸塩(b)
アルゴン雰囲気下の無水N,N−ジメチルホルムアミド(100ml)中のN−tert−ブトキシカルボニル−L−プロリン,Boc−Pro−OH(6.73g,31.25mmol)の撹拌溶液に、微粉砕1−アミノ−6−アミノメチルイソキノリン塩酸塩(10.0g,40.63mmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(16.17g,125.00mmol)を添加した。スラリーを室温で15分間撹拌後、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(17.67g,46.88mmol)を部分量ずつ5分間で添加すると、懸濁していた1−アミノ−6−アミノ−メチルイソキノリン塩酸塩が最終的に完全溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気下、室温でさらに90分間撹拌した後に、(S)−2−[[[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]アミノ]カルボニル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチルエステル塩酸塩()の黄色沈殿物が形成された。沈殿物を濾過によって収集し、濾液が無色になるまでジクロロメタン(300ml)で洗浄し、次に真空下で乾燥すると、7.8g(56%)の標題化合物が得られた(純度94%、HPLC−Luna C18(2) 46×30mm、勾配移動相アセトニトリル:水5−100%/4分、一定割合0.1%のトリフルオロ酢酸)。真空下に蒸発させてジメチルホルムアミドおよび余剰のジイソプロピルアミンを除去し500mlのジクロロメタンを添加することによって濾液から追加量の生成物を単離した。得られた沈殿物を濾過によって取り出し、ジクロロメタン(300ml)で洗浄し、真空下で乾燥すると、4.6g(33%)が得られた(純度91%、HPLC−Luna C18(2) 46×30mm、勾配アセトニトリル:水5−100%/4分、一定割合0.1%のトリフルオロ酢酸)。
【0020】
N−[2−(1,1−ジメチルエトキシ)−2−オキソエチル]−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩(c)
ジクロロメタン(20ml)中の(S)−2−[[[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]アミノ]カルボニル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチルエステル塩酸塩(4.14g,9.34mmol)の溶液に、トリフルオロ酢酸(8ml)を添加した。溶液を2時間撹拌後、溶媒および余剰のトリフルオロ酢酸を真空下で除去した。次に残渣をN,N−ジメチルホルムアミド(41ml)に溶解させ、2−(tert−ブトキシ−カルボニルメチル−アミノ)−3,3−ジフェニル−プロピオン酸(Boc−D−Dpa−OH)(3.30g,9.3mmol)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(5.31g,13.9mmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(9.75ml,56mmol)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌し、次に沈殿物が形成されるまで水を添加した。湿性沈殿物を濾過によって収集し、次に酢酸エチルに入れ、乾燥し(MgSO)、濾過し、蒸発乾固すると、粗生成物が得られた(7.2g)。カラムクロマトグラフィー(シリカ,ジクロロメタンとメタノール(0−10%)との混合物で勾配的に溶出)によって精製すると、4.6gの標題化合物がガムとして得られた。
【0021】
N−(カルボキシメチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩(1B)
ジクロロメタン(25ml)中のN−[2−(1,1−ジメチルエトキシ)−2−オキソエチル]−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩(4.6g,7.1mmol)の溶液にトリフルオロ酢酸(4.6ml)を添加した。一夜静置後、溶液を蒸発乾固し、ジクロロメタンに溶解し、ジエチルエーテル中の塩酸を過剰量で添加した。無水ジエチルエーテルの添加によって生成物を沈殿させ、次に濾過によって収集し、真空下で乾燥すると、2.8gが得られた。母液からの沈殿によってさらに0.8gが得られた。H NMR δ(CDOD)1.32(m,1H),1.83(m,3H),2.86(m,1H),3.53(m,1H),3.68(dd,2H;J=17.1Hz),3.80(d,2H;J=17.1Hz),4.15(m,1H),4.52(d,1H;J=16.6Hz),4.59(d,1H;J=11.5Hz),4.69(d,1H;J=16.1Hz),5.3(d,1H;11.5Hz),7.2−7.6(m,10H),7.66(d,2H;J=7.5Hz),7.72(dd,1H;J=1.5,8.0Hz),7.89(s,1H),8.38(d,1H;J=9Hz);MS m/z552.2(M+H)
【0022】
N−(2−プロポキシ−2−オキソエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド二塩酸塩(1A)
n−プロパノール(5ml)中のN−(カルボキシメチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩(1B;300mg,0.5mmol)の懸濁液に、チオニルクロリド(0.4ml)を滴下した。3日間撹拌後、溶液をジクロロメタンで希釈し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、蒸発乾固した。粗生成物を逆相HPLCによって精製し、次に少量のメタノールに溶解させジエチルエーテル中の1Mの塩酸で沈殿させることによって塩酸塩に変換した。追加量の無水ジエチルエーテルの添加後に、得られた沈殿物を濾過によって収集し、真空下に乾燥すると、185mgの標題化合物が白色粉末として得られた。H NMR δ(CDOD)0.85(t,3H;J=7.5Hz),1.33(m,1H),1.57(sext,2H;J=7Hz),1.83(m,3H),2.88(m,1H),3.51(m,1H),3.73(d,1H;J=17.6Hz),3.84(d,1H;J=17.6Hz),4.07(m,2H),4.16(dd,1H;J=5.0,8.0Hz),4.53(d,1H;J=16.6Hz),4.56(d,1H,;J=13.6Hz),4.70(d,1H;J=16.6Hz),5.20(d,1H;J=11Hz),7.23−7.44(m,7H),7.50(t,2H;J=7.5Hz),7.56(d,1H;J=7.0Hz),7.65(d,2H;J=7.5Hz),7.72(dd,1H;J=1.5,8.0Hz),7.90(s,1H),8.39(d,1H;J=8.5Hz);MS m/z594.4(M+H)
【0023】
上記に記載しスキーム1に図示した方法と同様の方法を使用し、D−ジフェニルアラニンの代わりにD−フェニルアラニンまたはO−メチル−D−チロシンを出発材料として対応する誘導体を製造した。化合物2Bおよび3Bを単離しトリフルオロ酢酸塩として以後の試験に使用した。
【実施例2】
【0024】
2BN−(カルボキシメチル)−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミドトリフルオロ酢酸塩
【0025】
【化4】

【0026】
H NMR δ(CDOD)1.41(m,1H),1.85(m,2H),1.99(m,1H),2.47(m,1H),3.35(dd,1H;J=5.0,13.1Hz),3.40(dd,1H;J=10.6,13.1Hz),3.45(m,1H),3.73(d,1H;J=6.6Hz),3.80(d,1H;J=16.6Hz),4.34(dd,1H;J=4.5,8.1Hz),4.5(dd,1H;J=5.0,10.6Hz),4.51(d,1H;J=16.1Hz),4.72(d,1H;J=16.6Hz),7.23(d,1H;J=7.1Hz),7.27−7.43(m,5H),7.52(d,1H;J=7.1Hz),7.71(dd,1H;J=1.5,8.6Hz),7.90(s,1H),8.34(d,1H;J=8.6Hz);MS m/z476.0(M+H)
【0027】
2AN−(2−プロポキシ−2−オキソエチル)−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩
【0028】
【化5】

【0029】
H NMR δ(CDOD)0.89(t,3H;J=7.6Hz),1.41(m,1H),1.62(sext,2H:J=7.6Hz),1.83(m,2H),2.00(m,1H),2.44(m,1H),3.16(dd,1H;J=1.5,0.6Hz),3.37(dd,1H;J=5.5,13.1Hz),3.47(m,1H),3.93(d,1H;J=17.1Hz),4.06(d,1H;J=17.1Hz),4.14(m,2H),4.36(dd,1H;5.0,9.1Hz),4.54(m,2H),4.71(d,1H;J=17.1Hz),7.26(d,1H;7.1Hz),7.29−7.44(m,5H),7.56(d,1H;J=7.1Hz),7.73(d,1H;J=8.6Hz),7.92(s,1H),8.38(d,1H;J=8.6Hz);MS m/z518.2(M+H)
【実施例3】
【0030】
3BN−(カルボキシメチル)−O−メチル−D−チロシニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミドトリフルオロ酢酸塩
【0031】
【化6】

【0032】
H NMR δ(CDOD)1.46(m,1H),1.87(m,2H),2.02(m,1H),2.56(m,1H),3.08(dd,1H;J=10.6,12.6Hz),3.27(dd,1H;J=5.5,13.6Hz),3.47(m,1H),3.71(d,1H;J=16.1Hz),3.79(d,1H;J=15.6Hz),3.79(s,3H),4.36(dd,1H;J=4.0,8.6Hz),4.46(dd,1H;J=4.0,8.66Hz),4.51(d,1H;J=16.6Hz),4.72(d,1H;J=16.6Hz),6.92(d,2H;J=8.6Hz),7.21(d,2H;J=8.6Hz),7.24(d,1H;7.1Hz),7.52(d,1H;J=7.1Hz),7.71(d,1H;J=8.1Hz),7.90(s,1H),8.35(d,1H;J=9.1Hz);MS m/z506.3(M+H)
【0033】
3AN−(2−プロポキシ−2−オキソエチル)−O−メチル−D−チロシニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩
【0034】
【化7】

【0035】
H NMR δ(CDOD)0.88(t,3H;J=7.1Hz),1.47(m,1H),1.61(sext,2H:J=7.1Hz),1.86(m,2H),2.04(m,1H),2.54(m,1H),3.10(dd,1H;J=10.6,15.1Hz),3.31(m,,1H),3.49(m,1H),3.79(s,1H),3.91(d,1H;J=16.6Hz),4.04(d,1H;J=16.6Hz),4.13(m,2H),4.38(dd,1H;5.0,9.1Hz),4.48(dd,1H;J=5.0,10.6Hz),4.54(d,1H;J=16.1Hz),4.71(d,1H;J=16.1Hz),6.93(d,2H;J=8.6Hz),7.22(d,2H;J=8.6Hz),7.26(d,1H;7.1Hz),7.55(d,1H;J=7.1Hz),7.73(dd,1H;J=2.0,8.6Hz),7.92(s,1H),8.38(d,1H;J=8.6Hz);MS m/z548.3(M+H)
【実施例4】
【0036】
トロンビン活性のアッセイ
様々な濃度の被験化合物をヒトα−トロンビンと共に37℃で前温置することによってトロンビン阻害活性を測定した。10分後、色素産生性基質H−D−Phe−ピペコリニル−Arg−p−ニトロアニリド(S−2238)を混合物に添加し、その後の8分間の吸光度変化を測定した。1Aおよび1Bの双方が濃度依存的に有効なヒトα−トロンビン阻害薬であり、IC50値はそれぞれ13.0nMおよび12.6nMであった(双方ともn=5;図1)。S−2238の濃度も変化させた別の実験では、[S]/V対[S]のプロットがS−2238の各使用濃度で平行であり、阻害が拮抗阻害であることを示した。これらのデータのHanes−Woolf分析で得られたKi定量値は、1Bについては0.9nM(n=5)であり、1Aについては1.0nM(n=3)であった。化合物およびの活性パラメーターとの比較を表1に示す。
【0037】
【表1】

【実施例5】
【0038】
ラットにおける化合物1A、2Aおよび3Aの生体内利用効率の測定
動物
雄のウィスター・オーラ(Wistar Ola)ラット(〜250g)。試験中、餌および水は任意量を摂取できるようにした。
【0039】
外科的準備
静脈内薬物動態試験のために、イソフルラン麻酔下で右頚静脈にカテーテル(Portex polythene−内径0.58mm、外径0.96mm、SF Medical silicone tubing製のSFM1−1350チップ付き)を挿入した。チューブを頚の背部で体外に出し、ヘパリン化生理食塩水(100IU/ml)を充填して、閉栓した。投薬前に動物に最小48時間の回復時間を与えた。
【0040】
化合物の投与
化合物1A2Aおよび3Aは経口投与した(PO)。化合物1B2Bおよび3Bは静注した(IV)。3分から24時間までの時点に連続血液サンプル(血漿)を外側静脈から(最終サンプルは心臓穿刺によって)マトリックスデザインプロトコル(各時点で3サンプル)に従って採取した。血漿サンプルを分析するまで−20℃で保存した。
【0041】
血漿サンプル分析
LC−MS法を使用し、血漿サンプルの関連遊離酸トロンビン誘導体1B2Bおよび3Bを分析した。平均血漿濃度−時間プロフィルからCmax(最大血漿濃度)およびAUC値を決定した。
【0042】
実験
以下の一連実験を行った
−化合物1Bを、生理食塩水中、静注で(IV)、5匹のラットに、5mg/kg基準で投与(5mg/ml溶液を1ml/kgで投与)。
−化合物1Bを、生理食塩水中、経口で(PO)、4匹のラットに、10mg/kg基準で投与(2mg/ml溶液を5ml/kgで投与)。
−化合物1Aを、5%マルゴフェン(mulgofen)/95%生理食塩水中、経口で、5匹のラットに、10mg/kg基準で投与(2mg/ml溶液を5ml/kgで投与)。
−化合物2Bを、生理食塩水中、静注で、4匹のラットに、2mg/kg基準で投与(2mg/kgを1ml/kgで投与)。
−化合物2Aを、生理食塩水中、経口で、4匹のラットに、10mg/kg基準で投与(2mg/ml溶液を5mg/kgで投与)。
−化合物3Bを、生理食塩水中、静注で、4匹のラットに、2mg/kg基準で投与(2mg/ml溶液を1mg/kgで投与)。
−化合物3Aを、生理食塩水中、経口で、4匹のラットに、10mg/kg基準で投与(2mg/ml溶液を5mg/kgで投与)。
【0043】
結果
WinNonlin Professional 3.1および4.1を使用して非区分化(noncompartmental)薬物動態分析を行った。得られた薬物動態パラメーターを表2に示す。
【0044】
AUC(IV)/AUC(PO)×100%として表される生体内利用効率を比較すると、ジフェニルアラニン誘導体N−(カルボキシメチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリル)メチル]−L−プロリンアミド塩酸塩(1B)のn−プロピルエステル誘導体(1A)が、対応するフェニルアラニン(2A)およびp−メトキシフェニルアラニン(3A)トロンビン阻害薬の生体内利用効率に比べて極めて高い値(58%)を有することが知見された。
【0045】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物N−(2−オキソ−2−プロポキシエチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドまたは医薬的に許容されるその塩。
【請求項2】
二塩酸塩である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物と医薬的に許容される助剤とを含む医薬組成物。
【請求項4】
治療に使用するための請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
トロンビン媒介疾患の治療用または予防用医薬を製造するための請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項6】
化合物N−(カルボキシメチル)−β−フェニル−D−フェニルアラニル−N−[(1−アミノ−6−イソキノリニル)メチル]−L−プロリンアミドまたは医薬的に許容されるその塩。

【公表番号】特表2010−500321(P2010−500321A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523262(P2009−523262)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/058111
【国際公開番号】WO2008/017650
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】