説明

生体吸収性インプラント及びその製造方法

【課題】優れた骨癒合性とハンドリング性とを併せ持つ生体吸収性インプラント、及び、その製造方法を提供すること。
【解決手段】生体吸収性ポリマーとこのポリマーに分散した生体活性セラミックスとを含有し、連通径の平均気孔径に対する比が0.35以上であり、質量減少率が10質量%以下である多孔体から成る生体吸収性多孔質インプラント、並びに、生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3にある可溶性物質の顆粒と複合体の顆粒とを混合して顆粒混合物を調製する工程と、顆粒混合物を可溶性物質の融点及び生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲となる加熱下で加圧成形する工程と、この成形体を溶媒に浸漬する工程とを含有する生体吸収性インプラントの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体吸収性インプラント及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、優れた骨癒合性とハンドリング性とを併せ持つ生体吸収性インプラント、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨又は歯等が欠損した場合に骨又は歯等を再生させるための治療方法に用いられる生体インプラントとして、例えば、金属材料、セラミックス、ポリマーとセラミックスとの複合体等を材料とした生体インプラントが盛んに開発されている。
【0003】
このような生体インプラントの一例を挙げると、例えば、「微細な連続した空孔が全体に亙って均一に分布し、かつ実用上に十分に高い強度を有するリン酸カルシウム多孔体」が特許文献1([発明が解決しようとする問題点]欄参照。)に、また、「生吸着性重合体成分と生物活性充填材とを含む生分解性材料から形成され、前記充填材の粒子が前記成分の表面内に埋設されていることを特徴とする部材」が特許文献2に、さらに、「熱可塑性素材−セラミック組成物を含む素材を包含する生体適合性インプラント」が特許文献3(請求項1参照)に、それぞれ、記載されている。
【0004】
他の例として、例えば、「GPC法による重量平均分子量が40万未満のラクタイド含有ポリマーを含み、ラクタイドの含有量が4000ppm以下である医療材料」が特許文献4に、また、「生体吸収性ポリマー及び生物活性セラミックフィラーの複合材料を含有する生体吸収性インプラントであり、インプラントの外側表面の一部はセラミックフィラーが配置されているインプラント」が特許文献5に、それぞれ、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2597355号公報
【特許文献2】特表2005−508219号公報
【特許文献3】特表2004−531292号公報
【特許文献4】国際公開第99/61082号パンフレット
【特許文献5】特表2006−516435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、特許文献1に記載された「リン酸カルシウム多孔体」等のセラミックスを材料とした生体インプラントは、セラミックスであるが故に脆く、カケ等が発生するなど損壊しやすいという問題がある。そこで、ポリマーとセラミックスとの複合体等を材料とした生体インプラントが注目されている。
【0007】
前記生体インプラントは、骨又は歯等が欠損した場合の治療方法に用いられるものであるから、骨欠損部又は歯欠損部等に補填されたときに、気孔内に骨芽細胞等の生体組織が侵入しやすく、優れた骨癒合性を発揮することが要求されると共に、カケ等が発生するなど損壊しにくく例えば生体への補填操作時等に崩壊も解体もしにくく、ハンドリング性に優れていることも要求されている。ところが、これらの特性を高い水準で両立する複合体等を材料とした生体インプラントは、あまり知られていない。
【0008】
例えば、前記複合体は、ポリマーとセラミックスとを含有して成るから、一般に、前記「リン酸カルシウム多孔体」と比較すると強度が高く損壊しにくい。しかし、骨癒合性を向上させるために、このような複合体を多孔質とすると、一般に、多孔質とされた複合体は崩壊しやすく、及び/又は、解体されやすくなることがあり、生体インプラントが崩壊及び/又は解体しないように、その取扱いに十分配慮する必要がある。
【0009】
この発明は、優れた骨癒合性とハンドリング性とを併せ持つ生体吸収性インプラント、及び、その製造方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としてのこの発明は、生体吸収性ポリマーと前記生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスとを含有する多孔体から成る生体吸収性多孔質インプラントであって、前記多孔体は、気孔が連通して成る連通部の径の平均気孔径に対する比が0.35以上であり、周波数70Hzで5分間振とうしたときの質量減少率が10質量%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、前記課題を解決するための手段としてのこの発明は、生体吸収性ポリマー及びこの生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスを含有する複合体の顆粒と可溶性物質の顆粒とを混合して、顆粒混合物を調製する工程と、前記顆粒混合物を加熱下で加圧成形して、成形体を得る工程と、前記成形体を前記可溶性物質が溶解する溶媒に浸漬して、前記可溶性物質を溶出させる工程とを含有する生体吸収性多孔質インプラントの製造方法であって、前記可溶性物質の顆粒は、前記生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、前記複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3であり、前記加圧成形は、前記可溶性物質の融点及び前記生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲となる加熱下で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る生体吸収性インプラントは、気孔が連通して成る連通部の径の平均気孔径に対する比が0.35以上であるにもかかわらず、周波数70Hzで5分間振とうしたときの質量減少率が10質量%以下であるので、骨癒合性とハンドリング性とを高い水準で両立することができる。したがって、この発明によれば、優れた骨癒合性とハンドリング性とを併せ持つ生体吸収性インプラントを提供することができる。
【0013】
また、この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法は、前記工程を有する方法において、可溶性物質の顆粒は、生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、複合体の顆粒との粒径比が0.8〜1.3であり、可溶性物質の融点及び前記生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲となる加熱下で加熱成形を行うので、気孔が連通して成る連通部の径の平均気孔径に対する比及び周波数70Hzで5分間振とうしたときの質量減少率をいずれも前記範囲内にある多孔体を製造することができる。したがって、この発明によれば、優れた骨癒合性とハンドリング性とを併せ持つ生体吸収性インプラントの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例2の生体吸収性インプラントの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】図2は、比較例1の生体吸収性インプラントの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図3は、比較例3の生体吸収性インプラントの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る生体吸収性インプラントは、生体吸収性ポリマーとこの生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスとを含有して成る多孔体から形成される。この多孔体は、生体吸収性ポリマーとこの生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスとを含有して成る複合体に多数の気孔が形成された多孔体であり、換言すると、前記複合体を主骨格とする多孔体である。そして、この発明に係る生体吸収性インプラントは、この多孔体のまま、又は、この多孔体を成形等して、形成される。
【0016】
前記生体吸収性ポリマーは、生体吸収性インプラントを生体内に補填後、徐々に分解及び/又は生体に吸収されうるポリマーであればよく、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン及びポリブチルサクシネートの重合体、並びに、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン、及び、コハク酸/ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも二種の単量体を共重合してなる共重合体等が挙げられる。この発明において、前記生体吸収性ポリマーは、前記重合体の群より選択される少なくとも一種の重合体、及び/又は、前記少なくとも二種の単量体を共重合してなる共重合体であるのが好ましい。前記少なくとも二種の単量体を共重合してなる共重合体において、共重合する前記単量体のモル比、ブロック共重合体又はランダム共重合体等の単量体の重合様式等は特に限定されない。前記生体吸収性ポリマーは、一種単独で使用することもできるし、また、二種以上を併用することもできる。なお、この発明において、ポリ乳酸には、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸及びポリ−DL−乳酸が含まれ、乳酸には、L−乳酸、D−乳酸及びDL−乳酸が含まれる。
【0017】
前記生体吸収性ポリマーは、より生体吸収性に優れ、生体内でより容易に分解・吸収されより速やかに生体組織に置換される生体吸収性インプラントとすることができる点で、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリ−ε−カプロラクトンの少なくとも一種の重合体であるのが好ましく、補填時の損壊等が生じにくい生体吸収性インプラントとすることができる点で、ポリ−L−乳酸が特に好ましい。
【0018】
前記生体吸収性ポリマーは、使用する目的に応じて、使用するポリマーの種類及び平均分子量等によって生体吸収性インプラントの分解速度及び強度等を適宜に調整することができる。例えば、前記生体吸収性ポリマーがポリ−L−乳酸である場合には、その重量平均分子量は、30,000〜300,000であるのが好ましい。前記範囲内で重量平均分子量を調整することにより分解速度を調整することができるから、生体内で適度な速度で分解・吸収され、生体組織への置換が十分かつ速やかな生体吸収性インプラントとすることができる。また、ポリ−L−乳酸の結晶化度は、前記重量平均分子量と同様の理由から、30〜70%であるのが好ましく、30〜65%であるのがさらに好ましく、30〜55%であるのが特に好ましい。前記重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された標準ポリスチレン換算分子量であり、前記結晶化度は示差走査熱量計により測定される結晶融解に伴う吸熱量及び結晶生成に伴う発熱量から算出された値である。
【0019】
前記生体活性セラミックスは、生体吸収性インプラントを生体内に補填後、生体組織に結合され、置換されるセラミックスであればよく、リン酸カルシウム系セラミック、炭酸カルシウム系セラミック、バイオガラス等が挙げられる。前記生体活性セラミックスは、リン酸カルシウム系セラミック及び炭酸カルシウム系セラミック、バイオガラスからなる群より選択される少なくとも一種であるのが好ましく、これらの中でも、生体内で速やかに分解・吸収され、生体組織に置換される生体吸収性インプラントとすることができる点で、リン酸カルシウム系セラミックが好ましい。リン酸カルシウム系セラミックとしては、例えば、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、水酸アパタイト、リン酸四カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられ、生体内で特に速やかに分解・吸収される生体吸収性インプラントとすることができる点で、β−リン酸三カルシウムが特に好ましい。前記炭酸カルシウム系セラミックとしては、例えば、炭酸カルシウム等が挙げられ、前記バイオガラスとしては、例えば、SiO−CaO−NaO−P系ガラス、SiO−CaO−NaO−P−KO−MgO系ガラス、及び、SiO−CaO−Al−P系ガラス等が挙げられる。前記生体活性セラミックスは、一種単独で使用することもできるし、また、二種以上を併用することもできる。
【0020】
前記セラミックスは、前記生体吸収性ポリマーと実質的に均一に混合可能な点で、前記セラミックスを粉砕又は破砕等して成るセラミックス粉末であるのがよい。セラミックス粉末の形態及び平均粒径は、前記生体吸収性ポリマーと実質的に均一に混合可能な形状及び平均粒径であればよく、例えば、球状、楕円状、扁平球状及び多面体状等の形状が挙げられ、例えば、その平均粒径は0.1〜100μmの範囲内にあるのがよい。なお、前記の平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名「LA−750」、株式会社堀場製作所製)によって測定することができる。
【0021】
前記複合体は、前記生体吸収性ポリマーと前記生体活性セラミックスとに加えて、この発明の目的を損なわない範囲で、これら以外の成分例えば分散剤等を含有してもよい。
【0022】
前記複合体において、前記生体活性セラミックスは、前記生体吸収性ポリマーと前記生体活性セラミックスとの合計質量に対して、20〜70質量%含有されているのが好ましい。前記範囲で生体活性セラミックスが生体吸収性ポリマーに含有されると生体吸収性インプラントが高い骨癒合性を発揮する。
【0023】
前記複合体において、前記生体吸収性ポリマー中における前記生体活性セラミックスの分散状態は、その表面及び内部に実質的に均一に分散しているのが好ましい。前記生体活性セラミックスが前記生体吸収性ポリマー中に「実質的に均一に分散している」とは、前記複合体の表面及び内部を複数観察したときに、各観測点において、この発明の目的を達成することができる限りにおいて前記生体活性セラミックスが不均一な存在率等で分散していてもよく、前記生体活性セラミックスが正確に一定の存在率等で分散していることを要するものではない。
【0024】
前記多孔体は、前記複合体を主骨格とし、前記複合体の表面及び内部に複数の気孔が形成された多孔質構造を有している。この多孔質構造は、複数の気孔が連通した連通部が形成された連通孔を有している。多孔質構造が連通孔を有していると、生体吸収性インプラントとされた多孔体内に生体組織が侵入可能になる。気孔同士の連通は規則的であっても不規則的であってよい。また、一部の気孔は独立して、すなわち、他の気孔と連通していなくてもよく、一部の気孔は数個の他の気孔と連通していてもよい。
【0025】
このような多孔質構造を有する多孔体は、気孔が連通して成る連通部の径(以下、連通径と称することがある。)の平均気孔径に対する比が0.35以上である。前記比(連通径/平均気孔径)が0.35未満であると、生体吸収性インプラントとされたときに、連通径が相対的に小さく気孔に侵入した生体組織が連通部を通過して奥深い気孔にまで到達することができず、高い骨癒合性を発揮することができないことがある。生体吸収性インプラントとされたときにより一層高い骨癒合性を発揮することができる点で、多孔体の前記比(連通径/平均気孔径)は、0.4以上であるのが好ましく、0.45以上であるのが特に好ましい。この発明においては、前記比は0.35以上であればよいが、あまりにも大きくなりすぎると多孔体の強度が低下することがあるので、実用的な前記比の上限は、例えば、0.55である。前記比(連通径/平均気孔径)は、後述する平均気孔径及び連通径から算出される。
【0026】
前記多孔体は、前記比(連通径/平均気孔径)が前記範囲にあればよく、好ましくは平均気孔径が300〜500μmの範囲にある。前記平均気孔径が前記範囲内にあると、生体吸収性インプラントとされたときに高い骨癒合性と高い強度とを発揮することができる。多孔体の平均気孔径は、多孔体の内部に形成された気孔の平均直径であり、通常、後述する可溶性物質の平均粒径と略同一の値となる。多孔体の平均気孔径を測定するのであれば、前記多孔体の断面を電子顕微鏡等で観察し、電子顕微鏡写真における複数の気孔の直径それぞれを円相当直径として測定し、それらを算術平均することによって、算出することができる。
【0027】
前記多孔体は、前記比(連通径/平均気孔径)が前記範囲にあればよく、好ましくは、連通径が150μm以上であり、より好ましくは175μm以上である。前記連通径が150μm以上であると、生体吸収性インプラントとされたときに迅速に高い骨癒合性を発現させることができる。連通径の上限は、特に限定されないが、多孔体の高い強度を大きく低下させない点で、例えば、300μmであるのが好ましく、250μmであるのが特に好ましい。前記連通径は、隣接する気孔が連通して形成された、前記気孔径よりも径の小さな部分、通常、最も径の小さくなる部分であり、水銀ポロシメーターによって平均換算直径として測定される。
【0028】
前記多孔体の気孔率は、45〜75%であるのが好ましく、45〜65%であるのがより好ましく、45〜55%であるのが特に好ましい。前記気孔率が前記範囲にあると、生体吸収性インプラントとされたときに高い骨癒合性と高い強度とを発揮することができる。多孔体の気孔率は、多孔体に含有される生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスの各質量割合とそれぞれの密度とから算出される真密度と、多孔体の質量及び体積から算出される見掛け密度とから、式 (1−見掛け密度/真密度)×100(%)により、算出される。
【0029】
前記多孔体は、周波数70Hzで5分間振とうしたときの質量減少率が10質量%以下である。前記質量減少率が10質量%以下である場合には、多孔体自体が容易に崩壊も解体もすることもないから、この多孔体で生体吸収性インプラントを形成すると、補填操作時及び/又は補填後等にも生体吸収性インプラントが崩壊も解体もしにくく、生体吸収性インプラントのハンドリング性に優れる。特に、前記多孔体は、前記比(連通径/平均気孔径)が0.35以上であるにもかかわらず、前記質量減少率が10質量%以下となっているから、生体吸収性インプラントとしたときに優れた骨癒合性とハンドリング性とを発揮する。より一層高いハンドリング性を発揮することができる点で、前記質量減少率は、5質量%以下であるのが好ましく、3質量%以下であるのが好ましい。前記質量減少率の下限値は、理想的には0質量%であり、現実的には0.01質量%程度である。
【0030】
前記質量減少率は、直径10mm×高さ10mmの円柱体を成す多孔体又は測定対象の多孔体と同様にして前記寸法の円柱体を成す試験体を作製し、この多孔体又は試験体を自動篩の篩目2mmの篩上に載置した状態で、この篩を周波数70Hzで5分間振とうし、振とう前後における多孔体又は試験体の質量を測定して、式 [(振とう前の質量−振とう後の質量)/振とう前の質量]×100(%) から、算出される。このようにして算出される前記質量減少率は、補填操作等に生体吸収性インプラントに与えられる振動、衝撃等によってその崩壊及び/又は解体のしやすさを想定した特性であって、生体吸収性インプラントの崩壊及び/又は解体のしやすさを評価できる指標として非常に有効であることを見出し、ハンドリング性に優れる生体吸収性インプラントを形成できる多孔体の特性として規定したものである。
【0031】
前記多孔体は、その圧縮強度が2MPa以上であるのが好ましく、10MPa以上であるのが好ましい。多孔体の圧縮強度が2MPa以上であると、生体吸収性インプラントとされたときに生体内に補填される部位及び多様な用途等にかかわらず損壊しにくくなる。すなわち、圧縮強度が2MPa以上である多孔体は、優れた骨癒合性及びハンドリング性に加えて、損壊しにくいという特性を有する。このような多孔体で形成される生体吸収性インプラントは、多様な補填部位及び多様な用途に問題なく使用することができる。圧縮強度は、直径10mm×高さ10mmの円柱体を成す多孔体又は測定対象の多孔体と同様にして前記寸法の円柱体を成す試験体を作製し、この多孔体又は試験体をロードセルを用いて1mm/minの速さで圧縮応力を負荷して、応力−ひずみ曲線を作成し、この曲線において応力が最大となった点から算出される。
【0032】
前記生体吸収性インプラントは、前記特性を満足する前記多孔体のままとされ、又は、前記多孔体を所望の形状に成形して製造される。したがって、この発明に係る生体吸収性インプラントもこの多孔体と同様に前記特性を満足している。前記所望の形状は、補填される部位の形状と同様の形状、又は、この形状に相当する形状例えば相似形等が挙げられ、具体的には、顆粒状、粉末状、繊維状、ブロック状又はフィルム状等が挙げられる。
【0033】
この発明に係る生体吸収性インプラントは、前記多孔体から形成され、前記特性を有し、特に、前記範囲の比較的大きな前記比(連通径/平均気孔径)を有しているから、生体内に埋設されると、生体組織が容易に侵入して速やかに置換され早期に癒合することができる。また、この発明に係る生体吸収性インプラントは、前記多孔体から形成され、前記特性を有し、特に、前記範囲の前記質量減少率を満たしているから、補填操作時及び/又は補填後等にも生体吸収性インプラントが崩壊も解体もしにくく、生体吸収性インプラントのハンドリング性に優れる。したがって、この発明に係る生体吸収性インプラントは、生体内に補填される生体インプラントとして、非常に有用である。そして、前記特性を満足する前記多孔体は、優れた骨癒合性と優れたハンドリング性とを併せ持つ生体吸収性インプラント又はその材料として非常に好適に用いられる。
【0034】
さらに、前記多孔体が前記範囲の圧縮強度を有していると、優れた骨癒合性及びハンドリング性に加えて、補填時等にも、また多様な補填部位及び用途等に使用されても損壊しにくく、この多孔体から成るこの発明に係る生体吸収性インプラントは、生体内に補填される生体インプラントとしてきわめて有用である。故に、この発明によれば、優れた骨癒合性と優れたハンドリング性と高い強度とをすべて兼ね備えた生体吸収性インプラント、及び、その製造方法を提供するという目的を達成することができる。
【0035】
この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法(以下、この発明に係る製造方法と称することがある。)は、生体吸収性ポリマー及びこの生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスを含有する複合体の顆粒と可溶性物質の顆粒とを混合して、顆粒混合物を調製する工程と、前記顆粒混合物を加熱下で加圧成形して、成形体を得る工程と、前記成形体を前記可溶性物質が溶解する溶媒に浸漬して、前記可溶性物質を溶出させる工程とを含有する生体吸収性インプラントの製造方法であり、この製造方法において、前記可溶性物質の顆粒は、前記生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、前記複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3であり、前記加圧成形は、前記可溶性物質の融点及び前記生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲となる加熱下で行われることを特徴とする。この発明に係る製造方法は、前記特徴を有する多孔体及び生体吸収性インプラントを製造するのに特に好適な方法である。
【0036】
この発明に係る製造方法においては、まず、生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスを準備する。生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスは、前記した、この発明に係る生体吸収性インプラントにおける生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスと基本的に同様である。生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスは、顆粒(粉末)、ペレット等の形態であってもよいが、これらを容易に混合することができる点で、顆粒であるのがよく、生体吸収性ポリマーよりも生体活性セラミックスの方が小さな粒径を有しているのがよい。生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスは、例えば、凍結粉砕等の公知の粉砕方法又は破砕方法等で顆粒とされ、この顆粒を所望により例えば篩等によって分級することができる。生体吸収性ポリマーの顆粒は、その粒径が、例えば、100〜500μmに、生体活性セラミックスの粒径は、その粒径が、例えば、0.1〜100μm程度、好ましくは0.5〜10μm程度にすることができる。
【0037】
この発明に係る製造方法においては、このようにして準備した生体吸収性ポリマー及び生体活性セラミックスを混合して、複合体を調製する。生体吸収性ポリマーと生体活性セラミックスとの混合は、例えば、加熱混練方法、より具体的には、ドライブレンド等によって混合した後に押出機等を用いて所定温度で溶融混練する方法が挙げられる。前記所定温度は、生体吸収性ポリマーの融点以上であると、生体吸収性ポリマー中に生体活性セラミックスが分散した複合体を調製することができる。この混合工程において、生体吸収性ポリマーと生体活性セラミックスとの混合割合は、これらの合計質量に対して、生体活性セラミックスが20〜70質量%であるのがよい。この範囲で生体活性セラミックスが生体吸収性ポリマーと混合されると、製造される生体吸収性インプラントが高い骨癒合性を発揮する。
【0038】
この発明に係る製造方法においては、次いで、調製した複合体を粉砕又は破砕等して顆粒状にする。複合体は、凍結粉砕等の公知の粉砕方法又は破砕方法等で粉砕又は破砕されて顆粒とされ、この顆粒を所望により例えば篩等によって分級することができる。複合体の顆粒の粒径は、例えば、100〜600μmにすることができる。
【0039】
この発明に係る製造方法においては、このようにして調製した複合体の顆粒と可溶性物質の顆粒とを混合して顆粒混合物を調製する。混合方法は、複合体の顆粒と可溶性物質の顆粒とを混合できれば特に限定されず、ドライブレンド法等の乾式混合等が挙げられる。
【0040】
このときに混合される可溶性物質は、前記複合体の顆粒の粒径に応じて、粉砕又は破砕等して、顆粒にされる。すなわち、この顆粒は、前記複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3となる粒径を有していることが重要である。可溶性物質の顆粒が前記範囲の粒径比を有していると、顆粒混合物中で複合体の顆粒のみ及び可溶性物質の顆粒のみが集合又は凝集することなくこれらがよく混合され、後述する成形体において、可溶性物質の顆粒同士の接触部分及び複合体の顆粒同士の接触部分を共に十分に確保できる。その結果、製造される多孔体及び生体吸収性インプラントは、前記範囲の前記比(連通径/平均気孔径)を有する三次元的に連通した複数の気孔が形成されるにもかかわらず、複合体で形成される骨格部分によって前記質量減少率を十分に抑えることができる。故に、生体吸収性多孔質インプラントの骨癒合性とハンドリング性とを高い水準で両立することができる。骨癒合性とハンドリング性とを高い水準で両立することができる点で、前記粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)は、0.8〜1.2であるのが好ましく、0.9〜1.1であるのが特に好ましい。
【0041】
可溶性物質は、凍結粉砕等の公知の粉砕方法又は破砕方法等で粉砕又は破砕され、所望により例えば篩等によって分級することができる。可溶性物質の顆粒は、篩による分級でその粒径を調整することができる。なお、粒径は、例えば、前記レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することもできる。
【0042】
前記可溶性物質の顆粒は、複合体の顆粒と可溶性物質の顆粒との合計体積に対して、40〜80体積%の割合であるのが好ましく、45〜75体積%の割合で混合されるのが特に好ましい。前記割合でこれらの顆粒が混合されると、製造される多孔体及び生体吸収性インプラントの骨癒合性、ハンドリング性及び強度を高い水準で両立することができる。
【0043】
この工程で用いられる可溶性物質は、後述する溶媒に溶解する物質であればよく、例えば、前記溶媒が水系溶媒である場合には水溶性化合物、前記溶媒が有機溶媒である場合には有機化合物等が挙げられる。前記水溶性化合物としては、例えば、糖類、セルロース類、タンパク質、無機化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、スルホン化ポリイソプレン、スルホン化ポリイソプレン共重合体等が挙げられる。前記糖類としては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、デキストリン及び澱粉等の多糖類、ショ糖、麦芽糖、乳糖及びマンニット等が挙げられ、前記セルロース類としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース及びメチルセルロース等が挙げられ、前記無機化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩類が挙げられる。前記有機化合物としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等の樹脂等が挙げられる。可溶性物質は、一種単独で使用することもできるし、また、二種以上を併用することもできる。
【0044】
この発明に係る製造方法において、前記可溶性物質は、前記生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有する可溶性物質を、用いることが重要である。このように、前記生体吸収性ポリマーの融点と近い融点を有する可溶性物質を選択して用いると、後述する顆粒混合物の成形時に、複合体の顆粒に含まれる生体吸収性ポリマーが溶融又は軟化することで複合体の顆粒が変形、溶着して複合体からなる強固な主骨格が形成されると共に、可溶性物質が溶融又は軟化することで可溶性物質が変形、溶着してなる、気孔の連通部となる気孔形成部分が形成される。ここで、融点差が10℃未満であると、生体吸収性ポリマーと可溶性物質との溶融状態又は軟化状態をほぼ同じ程度にすることができ、前記強固な主骨格と前記気孔形成部分とを所望のように形成できると推測される。その結果、成形体は、複合体から成る主骨格と可溶性物質からなる比較的大きな連通径を形成しうる気孔形成部分とで、形成されるから、製造される多孔体及び生体吸収性インプラントは、前記範囲の前記比(連通径/平均気孔径)を有する三次元的に連通した複数の気孔が形成されるにもかかわらず、複合体で形成される骨格部分によって前記質量減少率を十分に抑えることができる。骨癒合性とハンドリング性とを高い水準で両立することができる点で、前記可溶性物質と前記生体吸収性ポリマーとの融点差は、5℃以下であるのが好ましく、3℃以下であるのが特に好ましい。なお、前記可溶性物質の融点は、前記生体吸収性ポリマーの融点との融点差が前記範囲内にあれば、前記生体吸収性ポリマーの融点よりも高くても低くてもよいが、前記可溶性物質の融点は、前記生体吸収性ポリマーの融点よりも前記融点差の範囲内で低いのが好ましい。
【0045】
この発明に係る製造方法においては、次いで、得られた顆粒混合物を加熱下で加圧成形して、成形体を得る。成形方法は、特に限定されず、例えば、金型プレス等を用いる方法が挙げられる。成形圧力は、特に限定されず、例えば、10MPa以上とすることができ、その上限は例えば100MPaに設定することができる。
【0046】
成形温度は、前記可溶性物質の融点及び前記生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲とされることが重要である。成形温度を前記温度範囲に設定すると、可溶性物質及び生体吸収性ポリマーが融解することなく、顆粒混合物を成形することができるうえ、前記したように、複合体からなる強固な主骨格と可溶性物質からなる気孔形成部分とを形成することができる。その結果、生体吸収性多孔質インプラントの骨癒合性とハンドリング性とを高い水準で両立することができる。骨癒合性とハンドリング性とを高い水準で両立することができる点で、成形温度は、前記低い方の融点から25℃低い温度以下の温度範囲とされるのが好ましく、前記低い方の融点から20℃低い温度以下の温度範囲とされるのが特に好ましい。なお、前記前記可溶性物質の融点及び前記生体吸収性ポリマーの融点は、例えば、示差走査熱量計(DSC)による測定値を採用することができる。
【0047】
この発明に係る製造方法において、成形温度は前記温度範囲に設定されるのが重要であり、顆粒混合物を容易に成形するには、成形温度は、前記温度範囲内であって前記生体吸収性ポリマーのガラス転移点Tg以上であるのがよい。例えば、前記生体吸収性ポリマーとしてポリ−L−乳酸(Tg60℃、融点180℃(示差走査熱量計(DSC)による測定値))を用いる場合には、成形温度は、150〜180℃の範囲から、前記温度範囲を満たす温度に設定することができる。なお、生体吸収性ポリマーのガラス転移点Tgは、JIS K7121により測定することができる。
【0048】
このようにして成形された成形体は、複合体の生体吸収性ポリマーが溶着してなる強固な骨格部分と可溶性物質が溶着してなる気孔形成部分とから成り、前記骨格部分の内部又は表面に前記生体活性セラミックスが実質的に均一に分散されている。
【0049】
この発明に係る製造方法においては、次いで、得られた成形体を前記可溶性物質が溶解する溶媒に浸漬して、前記可溶性物質を溶出させる。成形体の浸漬方法は、特に限定されず、前記溶媒の中に成形体をそのまま浸漬させてもよく、また、前記溶媒を攪拌してもよい。このとき、溶媒に浸漬させる成形体は、前記可溶性物質を溶出することができる程度の量であればよく、例えば、溶媒の質量に対して1〜10質量%の割合である。浸漬条件は特に限定されず、例えば室温下で前記可溶性物質が溶出するまで行うことができる。
【0050】
この工程において用いられる溶媒は、前記可溶性物質の種類に応じて選択される。例えば、可溶性物質として水溶性化合物を用いる場合には、この水溶性化合物を溶解させる水系溶媒、例えば、水、アルコール、アルコール水等が挙げられる。一方、可溶性物質として有機化合物を用いる場合には、この有機化合物を溶解させ、かつ前記生体吸収性ポリマーを溶解させない有機溶媒、例えば、前記生体吸収性ポリマーとしてポリ−L−乳酸を用いる場合には、アセトン、イソプロパノール等が挙げられる。生体吸収性インプラントは生体内に補填されるから、前記溶媒は、水系溶媒であるのが好ましく、水であるのが特に好ましい。
【0051】
成形体を前記溶媒に浸漬させると、成形体を構成する可溶性物質すなわち前記気孔形成部分が徐々に溶出して、三次元的に連通した連通孔が形成され、複合体からなる骨格部分が残存した多孔質構造を有する多孔体となる。そして、この多孔体は、前記範囲の前記比(連通径/平均気孔径)及び前記質量減少率を有する。
【0052】
この発明に係る製造方法においては、所望により、浸漬処理の後に、得られた多孔体の洗浄工程、乾燥工程等の後処理を行うこともできる。乾燥工程は、例えば、20〜60℃での減圧乾燥、加熱乾燥を採用できる。
【0053】
この発明に係る製造方法においては、このようにして製造された多孔体又は乾燥した多孔体をそのまま、この発明に係る生体吸収性インプラントとすることができる。また、この発明に係る製造方法においては、所望により、前記のようにして製造された多孔体又は乾燥した多孔体を、補填部等の形状と同様の形状等に整形して、この発明に係る生体吸収性インプラントとすることもできる。
【0054】
この発明に係る製造方法においては、生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3にある可溶性物質の顆粒と複合体の顆粒とを混合して顆粒混合物を調製し、この顆粒混合物を可溶性物質の融点及び生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲となる加熱下で加圧成形するので、得られる成形体の可溶性物質を溶出させると、前記比(連通径/平均気孔径)及び前記質量減少率が共に前記範囲内にある多孔体及び生体吸収性インプラントを製造することができる。
【0055】
この発明に係る生体吸収性インプラント及びその製造方法は、前記開示内容に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
平均粒径約350μm、重量平均分子量280,000、結晶化度70%のポリ−L−乳酸(融点180℃(DSC(リガク社製、型式「DSC8230」)による測定値))、PLLAと表記することがある。)の顆粒と、平均粒径約2μmのβ−リン酸三カルシウム(以下、β−TCPと表記することがある。)の顆粒とを、質量比で70:30となるように混合し、200℃に加熱しながら混練して、ポリ−L−乳酸にβ−TCPが分散してなる複合体を作製した。この後、この複合体を凍結粉砕にて粉砕し、篩分けによって平均粒径が350μmの複合体の顆粒を得た。
【0057】
この複合体の顆粒と、平均粒径が428μmの球形をなすショ糖(融点180℃(DSC(リガク社製、型式「DSC8230」)による測定値))の顆粒とを、体積比で50:50となるように混合して、顆粒混合物を調製した。このときのショ糖と生体吸収性ポリマーとの融点差及び粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)を第1表に示した。
【0058】
次いで、この顆粒混合物を160℃で加熱しながら60MPaの圧力で加圧成形して、成形体を得た。このときの成形温度とポリ−L−乳酸又はショ糖の融点との温度差を第1表に示した。次いで、この成形体1gを100mLの純水に12時間浸漬してショ糖を溶出させ、ポリ−L−乳酸/β−TCPからなる複合体を主骨格とする多孔体を得た。この多孔体を乾燥して、実施例1の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は250,000、結晶化度は40%であった。
【0059】
ポリ−L−乳酸の重量平均分子量はGPCにより測定した。GPC(東ソー社製、型式「HLC−8120GPC」)、及び、カラムとして、商品名「TSKgel Super HM−H」(東ソー社製)2本と、商品名「TSKgel Super 2000」(東ソー社製)1本とを直列に接続して使用した。測定は、クロロホルムを溶媒として、流速0.3mL/min、試料濃度0.5mg/mL、試料量10μL、カラム温度40℃の条件で行った。また、ポリ−L−乳酸結晶化度は、示差走査熱量計(リガク社製、型式「DSC8230」)を用いて、測定温度30〜200℃、昇温速度5℃/minの条件で測定した。
【0060】
(実施例2)
前記複合体の顆粒の平均粒径を428μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は260,000、結晶化度は35%であった。
(実施例3)
前記ショ糖の顆粒の平均粒径を350μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は240,000、結晶化度は38%であった。
【0061】
(比較例1)
前記成形温度を120℃に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は270,000、結晶化度は33%であった。
(比較例2)
前記複合体の顆粒の平均粒径を283μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は260,000、結晶化度は34%であった。
(比較例3)
前記ショ糖の顆粒の平均粒径を283μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして比較例3の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は260,000、結晶化度は31%であった。
【0062】
(比較例4)
実施例1と同様にして、平均粒径が200μmの複合体の顆粒を得た。この複合体の顆粒と、平均粒径が200μmの麦芽糖一水和物(融点120℃(DSC(リガク社製、型式「DSC8230」)による測定値))の顆粒とを、体積比で50:50となるように混合して、顆粒混合物を調製した。このときの可溶性物質の生体吸収性ポリマーとの融点差及び粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)を第1表に示した。次いで、この顆粒混合物を160℃で加熱しながら60MPaの圧力で加圧成形したところ、成形温度が麦芽糖一水和物の融点よりも40℃高いため、麦芽糖一水和物が溶融して成形金型から流出し、成形体を得ることができなかった。
【0063】
(比較例5)
比較例4と同様にして顆粒混合物を調製した。成形温度を110℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、この顆粒混合物を成形して、比較例5の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は260,000、結晶化度は36%であった。
(比較例6)
実施例1と同様にして、平均粒径が350μmの複合体の顆粒を得た。この複合体の顆粒と、平均粒径が350μmの塩化ナトリウム(融点800℃(DSC(リガク社製、型式「DSC8230」)による測定値))の顆粒とを、体積比で50:50となるように混合して、顆粒混合物を調製した。このときの塩化ナトリウムと生体吸収性ポリマーとの融点差及び粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)を第1表に示した。次いで、実施例1と同様にして、この顆粒混合物を加圧成形し、得られた成形体を純水に浸漬して塩化ナトリウムを溶出させて、比較例6の生体吸収性インプラントを製造した。この生体吸収性インプラントを構成するポリ−L−乳酸の重量平均分子量は240,000、結晶化度は42%であった。
【0064】
このようにして製造した実施例1〜3及び比較例1〜6の生体吸収性インプラントの気孔率、平均気孔径、連通径、前記質量減少率及び圧縮強度を前記測定方法により測定し、また、前記比(連通径/平均気孔径)を算出して、その結果を第1表に示した。なお、連通径は、水銀ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、型式「オートポアIV 9510」)を用いて、測定圧力2〜207MPaの条件で測定した。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例2並びに比較例1及び3の生体吸収性インプラントを切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、観察断面の写真を撮影した。得られた写真をそれぞれ図1〜図3に示す。これらの図において、白色部分は複合体から成る骨格部分であり、黒色部分が気孔である。
【0067】
第1表に示されるように、実施例1〜3はいずれも、生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3にあるショ糖の顆粒と複合体の顆粒とを混合して顆粒混合物を調製し、この顆粒混合物をショ糖の融点及び生体吸収性ポリマーの融点から20℃低い温度で加圧成形して、生体吸収性インプラントを製造している。
【0068】
したがって、実施例1〜3の生体吸収性インプラントはいずれも、前記比(連通径/平均気孔径)が0.35以上であり、前記質量減少率が10質量%以下であった。このように、これらの生体吸収性インプラントはいずれも、前記比(連通径/平均気孔径)が比較的大きいから、生体内に補填されると、生体組織が容易に侵入することができ、その結果、優れた骨癒合性を発揮することが容易に推測される。また、これらの生体吸収性インプラントはいずれも、前記比(連通径/平均気孔径)が比較的大きいにもかかわらず、10質量%以下の前記質量減少率を有しており、補填操作時及び/又は補填後等に崩壊も解体もしにくくハンドリング性に優れることが容易に推測される。
【0069】
また、図1に示されるように、実施例2の生体吸収性インプラントの写真は、白色部分の複合体から成る骨格部分も黒色部分の気孔も共に散在することも孤立することもなく形成されており、前記推測を十分に裏付けるものであった。
【0070】
これに対して、比較例1の生体吸収性インプラントは、成形温度が前記範囲内に設定されてないから、前記質量減少率が大きかった。比較例2の生体吸収性インプラントは、粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8未満であるから、前記比(連通径/平均気孔径)が小さかった。比較例3の生体吸収性インプラントは、粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が1.3超えているから、前記質量減少率が大きかった。比較例4〜6の生体吸収性インプラントは、可溶性物質の融点と生体吸収性ポリマーの融点との差が大きいから、前記比(連通径/平均気孔径)が小さく、及び/又は、前記質量減少率が大きかった。このように、前記比(連通径/平均気孔径)が小さいと、生体内に補填されても、生体組織が生体吸収性インプラントに侵入することができず、優れた骨癒合性を発揮することができないと容易に推測される。また、前記質量減少率が大きいと、補填操作時及び/又は補填後等に崩壊又は解体しやすくハンドリング性に劣ることが容易に推測される。
【0071】
また、図2及び図3に示されるように、比較例1の生体吸収性インプラントの写真は前記骨格部分が孤立しており、比較例3の生体吸収性インプラントの写真は細く小さな複数の骨格部分が散在しており、前記推測を十分に裏付けるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性ポリマーと前記生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスとを含有する多孔体から成る生体吸収性多孔質インプラントであって、
前記多孔体は、気孔が連通して成る連通部の径の平均気孔径に対する比が0.35以上であり、周波数70Hzで5分間振とうしたときの質量減少率が10質量%以下であることを特徴とする生体吸収性多孔質インプラント。
【請求項2】
生体吸収性ポリマー及びこの生体吸収性ポリマーに分散した生体活性セラミックスを含有する複合体の顆粒と可溶性物質の顆粒とを混合して、顆粒混合物を調製する工程と、
前記顆粒混合物を加熱下で加圧成形して、成形体を得る工程と、
前記成形体を前記可溶性物質が溶解する溶媒に浸漬して、前記可溶性物質を溶出させる工程とを含有する生体吸収性多孔質インプラントの製造方法であって、
前記可溶性物質の顆粒は、前記生体吸収性ポリマーの融点との差が10℃未満の融点を有し、前記複合体の顆粒との粒径比(複合体の顆粒/可溶性物質の顆粒)が0.8〜1.3であり、
前記加圧成形は、前記可溶性物質の融点及び前記生体吸収性ポリマーの融点のうち低い方の融点から30℃低い温度未満の温度範囲となる加熱下で行われることを特徴とする生体吸収性多孔質インプラントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−178957(P2010−178957A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25892(P2009−25892)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】