説明

生体情報処理装置及び生体情報処理方法

【課題】算出脈拍数の適否を判定するための新しい手法の提案。
【解決手段】脈拍計1において、脈拍数算出部120は、脈波センサー10の検出結果に基づいて被検者の脈拍数を算出する。そして、脈拍数差算出部130は、基準脈拍数と算出脈拍数との差(脈拍数差)を算出し、当該脈拍数差に基づいて基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合を判定する。また、SN比算出部140は、脈波センサー10によって検出された脈波信号のSN比を算出し、当該SN比に基づいて脈拍数算出部120の算出結果の信頼性を判定する。そして、脈拍数適否判定部160は、脈拍数差算出部130によって算出された脈拍数差(乖離度合)とSN比算出部140によって算出されたSN比(信頼性)とに基づいて算出脈拍数の適否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置及び生体情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検者の運動管理や健康管理に供する生体情報処理装置として、被検者の身体の一部に装着し、被検者の脈拍数を測定する脈拍計が知られている。脈拍計は、装置を装着した被検者の血流量の変化を検知して被検者の脈拍数を算出し、算出した脈拍数(以下、「算出脈拍数」と称す。)を測定結果として被検者に報知するものである。脈拍計としては、光を利用するものや、超音波を利用するもの、心電を利用するものなどが知られている。
【0003】
脈拍数を正しく算出することができるかどうかは、被検者の血流量の変化を検知する精度に依るところが大きい。しかし、外気温の変化といった外乱による影響や、脈拍計の装着位置及び当該装着位置のズレといった物理的な影響等に起因して、血流量の変化を検知する精度が低下する場合がある。そこで、算出脈拍数に対する変動許容範囲を設定して、算出脈拍数の適否を判定する手法が考案されている(例えば特許文献1や特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−113309号公報
【特許文献2】特開平9−154825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1や特許文献2の技術のように、変動許容範囲を利用した手法では、脈拍数の算出タイミングが到来する毎に、その都度適切な変動許容範囲を設定することが要求される。特に、被検者の運動状況(運動開始や運動停止等)が変化する場面では、被検者の脈拍数が急激に変化するため、脈拍数の時間変化に変動許容範囲を追従させることが困難な場面が生じ得た。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、算出した脈拍数の適否を判定するための新しい手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の形態は、被検者の脈拍数を算出する脈拍数算出部と、所与の基準脈拍数と前記脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数との乖離度合を判定する乖離度合判定部と、前記脈拍数算出部の算出結果の信頼性を判定する信頼性判定部と、前記乖離度合と前記信頼性とに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する適否判定部と、を備えた生体情報処理装置である。
【0008】
また、他の形態として、被検者の脈拍数を算出することと、所与の基準脈拍数と前記算出された算出脈拍数との乖離度合を判定することと、前記脈拍数の算出結果の信頼性を判定することと、前記乖離度合と前記信頼性とに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定することと、を含む生体情報処理方法を構成してもよい。
【0009】
この第1の形態等によれば、所与の基準脈拍数と脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数との乖離度合が乖離度合判定部によって判定される。また、脈拍数算出部の算出結果の信頼性が信頼性判定部によって判定される。そして、乖離度合と信頼性とに基づいて算出脈拍数の適否が適否判定部によって判定される。
【0010】
乖離度合は、基準脈拍数と算出脈拍数とが、どの程度離れているかの尺度である。通常、短時間で被検者の脈拍数が急激に変化する状況は稀である。そのため、所与の基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合から、算出脈拍数の正確性をある程度判断することができる。その上で、脈拍数算出部の算出結果の信頼性を併せて用いて算出脈拍数の適否を判定することで、算出脈拍数の適否判定を確実に行うことができる。基準脈拍数は、脈拍数の基準となる値であればよく、例えば適否判定によって適切と判定された最新の算出脈拍数を設定することができる。
【0011】
また、第2の形態として、第1の形態の生体情報処理装置において、前記適否判定部は、前記乖離度合が小さいほど前記算出脈拍数を適切と判定し易くなるように定められた所定の信頼性条件を満たすか否かを判定する信頼性条件判定部を有し、前記信頼性条件判定部の判定結果に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0012】
この第2の形態によれば、所定の信頼性条件を満たすか否かが信頼性条件判定部によって判定される。信頼性条件は、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が小さいほど算出脈拍数を適切と判定し易くなるように定められている。従って、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合に応じて適正化された信頼性条件に従って算出脈拍数の適否判定を行うことが可能となる。
【0013】
また、第3の形態として、第2の形態の生体情報処理装置において、前記適否判定部は、前記乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、前記信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0014】
基準脈拍数と算出脈拍数との乖離の程度が大きいほど、算出脈拍数が誤っている可能性は高くなる。そこで、第3の形態によれば、乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定する。継続的に肯定判定がなされているのであれば、算出脈拍数は信頼できる値である可能性が高い。つまり、肯定判定の連続回数から算出脈拍数の適否を判定することができる。
【0015】
また、第4の形態として、第2の形態の生体情報処理装置において、前記被検者の体動を検出する体動検出部と、前記体動検出部の検出結果を用いて前記被検者の周期的な体動の周波数を判定する体動周波数判定部と、を更に備え、前記適否判定部は、前記周期的な体動の周波数と前記算出脈拍数の周波数とが近似していないことを示す所定の周波数条件を満たすか否かを判定する周波数条件判定部を有し、前記乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、前記周波数条件判定部の判定結果と前記近似条件判定部の判定結果とを用いて前記算出脈拍数の適否を判定する、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0016】
この第4の形態によれば、体動検出部の検出結果を用いて被検者の周期的な体動の周波数を判定する。周期的な体動とは、被検者の腕振りといった周期的な動作による体動のことを意味する。この周期的な体動の周波数と算出脈拍数の周波数とが近似していないことを示す所定の周波数条件を満たすか否かを判定する。この周波数条件により、周期的な体動を脈拍数として捉えている可能性を判定することができる。前述したように、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離の程度が大きいほど、算出脈拍数は誤っている可能性が高くなる。そこで、乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合は、信頼性条件判定部の判定結果と周波数条件判定部の判定結果とを用いて適否判定を行うことで、算出脈拍数の適否判定の確度をより一層高めることができる。
【0017】
また、第5の形態として、第4の形態の生体情報処理装置において、前記適否判定部は、前記信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、前記周波数条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、前記信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0018】
この第5の形態によれば、信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、周波数条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定する。算出結果の信頼性が高いとしても、周期的な体動の周波数と算出脈拍数の周波数とが近似しているのであれば、算出結果は誤った結果である可能性が高い。そこで、この場合は、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定する。
【0019】
また、第6の形態として、第2の形態の生体情報処理装置において、前記被検者の体動を検出する体動検出部と、前記体動検出部の検出結果を用いて前記被検者の身体動作状態を判定する身体動作状態判定部と、を更に備え、前記適否判定部は、前記身体動作状態と前記算出脈拍数とが所定の整合条件を満たすか否かを判定する整合条件判定部を有し、前記乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、前記信頼性条件判定部の判定結果と前記整合条件判定部の判定結果とを用いて前記算出脈拍数の適否を判定する、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0020】
この第6の形態によれば、体動検出部の検出結果を用いて被検者の身体動作状態を判定する。身体動作状態とは、被検者の身体の動作状態であり、例えば平静状態や運動状態といった状態がこれに含まれる。この身体動作状態と算出脈拍数とが所定の整合条件を満たすか否かを判定する。例えば、身体動作状態が平静状態であるにも関わらず、算出脈拍数が想定以上に高い値を示しているのであれば、身体動作状態と算出脈拍数とが整合していない(矛盾している)と言える。また、身体動作状態が運動状態であるにも関わらず、算出脈拍数が想定以上に低い値を示しているような場合も、身体動作状態と算出脈拍数とが整合していないと言える。前述したように、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離の程度が大きいほど、算出脈拍数は誤っている可能性が高くなる。そこで、乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合は、信頼性条件判定部の判定結果と整合条件判定部の判定結果とを用いることで、算出脈拍数の適否判定の確度をより一層高めることができる。
【0021】
また、第7の形態として、第6の形態の生体情報処理装置において、前記適否判定部は、前記信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、前記整合条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、前記信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0022】
この第7の形態によれば、信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、整合条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定する。算出結果の信頼性が高いとしても、身体動作状態と算出脈拍数との整合がとれていないのであれば、算出結果は誤った結果である可能性が高い。そこで、この場合は、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】脈拍計の正面図。
【図2】(A)脈拍計の背面図。(B)脈拍計の使用状態図。
【図3】脈波センサーの動作の説明図。
【図4】脈範囲の設定方法の説明図。
【図5】条件定義テーブルのテーブル構成図。
【図6】適否判定用テーブルのテーブル構成図。
【図7】脈拍計の機能構成を示すブロック図。
【図8】脈拍数測定処理の流れを示すフローチャート。
【図9】第2の適否判定用テーブルのテーブル構成図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、本発明の生体情報処理装置を腕時計型の脈拍計に適用した実施形態である。なお、本発明を適用可能な形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0025】
1.外観構成
図1は、本実施形態における脈拍計1の正面図である。脈拍計1は、リストバンド2を備え、ケース3には、時刻や脈拍計1の動作状態、各種生体情報(脈拍数、運動強度、カロリー消費量等)を文字や数字、アイコン等によって表示するための液晶表示器4が配置されている。
【0026】
また、ケース3の周部(側面)には脈拍計1を操作するための操作ボタン5が配設されている。脈拍計1は、例えば内蔵する二次電池を電源として動作する。ケース3の側面には、外部の充電器と接続されて、内蔵二次電池を充電するための充電端子6が配設されている。
【0027】
図2(A)は脈拍計1の背面図であり、ケース3の背面から脈拍計1を見たときの外観図を示している。また、図2(B)は脈拍計1の使用状態図であり、被検者の手首WRに装着された状態の脈拍計1の側面図を示している。
【0028】
ケース3の背面には、被検者の脈波を検出して脈波信号を出力する脈波センサー10が配設されている。脈波センサー10は、ケース3の背面に接触している被検者の手首WRにおいて脈波を検出する。本実施形態において、脈波センサー10は光電脈波センサーであり、脈波を光学的に検出するための機構を備えている。
【0029】
図3は、脈波センサー10の内部構造をケース3の側面から見たときの拡大図である。脈波センサー10は、ケース3の背面側に形成された円形底面を有する半球状の収納空間内に設置されている。そして、この収納空間内に、LED(Light Emitting Diode)などの光源12と、フォトトランジスターなどの受光素子13とが内蔵されている。半球の内面は鏡面とした反射面11であり、半球の底面側を下方とすると、受光素子13及び光源12は、それぞれ基板14の上面及び下面に実装されている。
【0030】
光源12によって利用者の手首WRの皮膚SKに向けて光Leが照射されると、その照射光Leが皮下の血管BVに反射して半球内に反射光Lrとして戻ってくる。その反射光Lrは、半球状の反射面11においてさらに反射して、受光素子13に上方から入射する。
【0031】
この血管BVからの反射光Lrは、血液中のヘモグロビンの吸光作用により、血流の変動を反映してその強度が変動する。脈波センサー10は、拍動よりも早い周期で光源12を所定の周期で点滅させる。そして、受光素子13は、光源12の点灯機会毎に受光強度に応じた脈波信号を光電変換によって出力する。脈波センサー10は、例えば128Hzの周波数で光源12を点滅させる。
【0032】
また、図2(A)に示すように、脈拍計1は、被検者の体動を検出するための体動センサー20を内蔵している。本実施形態において、体動センサー20は加速度センサーを有して構成される。加速度センサーは、図1に示すように、例えば、ケース3のカバーガラス面の法線方向であって表示面側を正とするZ軸、時計の12時方向を正とする上下方向をY軸、時計の3時方向を正とする左右方向をX軸とする3軸の加速度センサーである。
【0033】
脈拍計1を装着した状態において、X軸は、被検者の肘から手首に向かう方向と一致する。体動センサー20は、X軸,Y軸及びZ軸の3軸の加速度を検出し、その結果を体動信号として出力する。脈拍計1は、体動センサー20によって検出された体動信号に基づいて、歩行やジョギングなどに伴う被検者の周期的な体動(例えば、腕の動きや体の上下動)を検出する。
【0034】
2.原理
脈拍計1は、脈波センサー10によって検出された脈波信号を利用して被検者の脈拍数を算出する。具体的には、脈波信号に対して所定の周波数分解処理を行い、周波数帯毎の信号強度値(スペクトル値)を抽出する。周波数分解処理は、例えば高速フーリエ変換FFT(Fast Fourier Transform)を適用した処理とすることができる。そして、抽出した信号強度値から被検者の脈波に相当する周波数スペクトルを特定し、その周波数(或いは周期)に基づいて脈拍数を算出する。脈拍計1は、所定時間間隔(例えば1〜5秒間隔)で脈拍数を算出する。本実施形態では、上記のようにして算出した被検者の脈拍数のことを「算出脈拍数」と呼称する。
【0035】
脈拍計1は、算出脈拍数を測定結果の脈拍数(測定脈拍数)として液晶表示器4に表示させるなどして、被検者に報知する。しかし、例えば、外気温の変化といった外乱による影響や、脈拍計1の装着位置及び当該装着位置のズレといった物理的な影響等に起因して、被検者の実際の脈拍数から大きく乖離した算出脈拍数が測定結果として得られてしまう場合がある。この場合に得られる算出脈拍数は異常値であり、その値を被検者に報知することは適切ではない。そこで、本実施形態では、以下説明する手順に従って算出脈拍数の適否を判定する。
【0036】
最初に、所与の基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合を判定する。基準脈拍数は、脈拍数の算出時刻(算出タイミング)における脈拍数の基準値である。基準脈拍数は適宜設定可能であるが、本実施形態では、適否判定によって適切と判定された算出脈拍数のうちの最新の算出脈拍数を基準脈拍数として設定する。具体的には、算出脈拍数が適切と判定された場合に、当該算出脈拍数で基準脈拍数を更新する処理を算出時刻毎に繰り返し行う。
【0037】
乖離度合は、基準脈拍数と算出脈拍数とが、どの程度離れているかの尺度である。基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合を判定することは、基準脈拍数と算出脈拍数との相対関係を判定することであるとも言える。
【0038】
図4は、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合の説明図である。図4は、一の算出時刻において、基準脈拍数を中心として、算出脈拍数が取り得る脈範囲を図示したものである。横軸は脈拍数であり、中心が基準脈拍数に相当する。
【0039】
図4に示すように、基準脈拍数を中心とする脈範囲であって、高低の方向それぞれに対して幅“ΔH1”を有する脈範囲を「第1脈範囲」として設定する。第1脈範囲の境界を基準とする外方範囲であって、幅“ΔH2”で区切られる範囲を「第2脈範囲」として設定する。第2脈範囲の境界を基準とする外方範囲であって、幅“ΔH3”で区切られる範囲を「第3脈範囲」として設定する。また、上記以外の範囲を「第4脈範囲」として設定する。なお、脈範囲を定める“ΔH1〜ΔH3”の値は適宜設定可能であるが、例えば“ΔH1=10拍、ΔH2=10拍、ΔH3=20拍”と設定する。
【0040】
短い時間間隔を想定した場合、被検者の脈拍数が当該時間間隔で急激に変化する状況は稀である。そのため、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が小さいほど、算出脈拍数が正しい可能性は高くなる。しかし、被検者が運動を開始した場合や、運動を停止した場合など、脈拍数が急激に変化する状況も想定される。
【0041】
そこで、本実施形態では、基準脈拍数と算出脈拍数との差(以下、「脈拍数差」と称す。)を算出し、当該脈拍数差に基づいて基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合を判定する。その一方で、脈拍数算出による算出結果の信頼性を判定する。そして、判定した乖離度合と信頼性とに基づいて算出脈拍数の適否を判定する。
【0042】
図5は、算出脈拍数の適否判定の説明図であり、適否判定に使用する条件を定義した条件定義テーブルを図示したものである。条件定義テーブルには、条件の番号である条件Noと、条件の項目を示す条件項目と、条件の内容を示す条件内容とが対応付けて定められている。
【0043】
条件Aは、脈拍数の算出結果の信頼性に関する所定の信頼性条件の一例であり、その条件内容として「脈波信号のSN比(Signal to Noise ratio)>θ」が定められている。つまり、脈波信号の信号対雑音比であるSN比に基づいて脈拍数の算出結果の信頼性を判定することを示す条件を定めたものである。
【0044】
SN比の算出は、例えば次のようにして行う。デジタル化された脈波信号(脈波データ)に対する周波数分解処理を行う。そして、スペクトル値が最大となった基線を選択し、その基線を被検者の脈を示す脈基線とする。また、脈基線の近傍所定範囲に含まれる基線を除外した基線のうち、例えばスペクトル値が2番目に大きい基線をノイズ基線として選択する。そして、脈基線のスペクトル値“P”と、ノイズ基線のスペクトル値“P”とを用いて“SN比=P/P”を算出する。
【0045】
スペクトル値が大きい基線が混在しており、信号成分とノイズ成分との区別がつきにくい状況では、周波数分解処理の結果に基づいて算出される脈拍数の信頼性は低下する。かかる状況では、脈波信号のSN比は小さくなる傾向がある。そこで、SN比に対する閾値“θ”を定めておき、SN比が閾値“θ”を超えている場合は、脈拍数の算出結果の信頼性が高いと判定する。
【0046】
条件Bは、体動成分の可能性に関する条件であり、条件内容として「|脈周波数−周期体動周波数|<φを満たす周期体動周波数が存在しないこと」が定められている。“φ”は周波数差の閾値である。この条件は、周期的な体動の周波数と算出脈拍数の周波数とが近似していないことを示す所定の周波数条件の一例である。この周波数条件を満たす場合は、算出脈拍数が被検者の体動成分を捉えたものである可能性は低いと判断することができる。
【0047】
脈波信号は、被検者の拍動成分信号と体動ノイズ成分信号とが重畳された信号となる。そのため、被検者の周期的な体動の周波数(以下、「周期体動周波数」と称す。)を脈周波数として捉えてしまう可能性がある。より具体的には、脈拍計1は被検者の腕に装着されるため、被検者の周期的な腕振りによって、被検者のピッチ(歩調)に相当する周波数が周期体動周波数として検出される。そこで、脈周波数との間で所定の近似条件を満たす周期体動周波数が存在しないことを適否判定用の周波数条件として定めている。
【0048】
体動センサー20によって検出された体動信号に対する周波数分解処理を行い、そのスペクトル値が最大となった基線の周波数(ピーク周波数)から動作の基準波となる基線を判定することで、周期体動周波数を判定する。なお、周波数分解処理を行うと、基準波の周波数の整数倍の周波数(高調波周波数)にもスペクトル値が高い基線が現れる傾向がある。そこで、基準波の周波数の高調波周波数も周期体動周波数として併せて検出し、これら複数の周期体動周波数について条件Bの判定を行うと効果的である。
【0049】
条件Cは、身体動作状態と算出脈拍数との整合性に関する条件であり、条件内容として、条件C1「運動状態・・・算出脈拍数>HR1」が定められており、条件C2「平静状態・・・算出脈拍数<HR2」が定められている。“HR1”は運動状態における算出脈拍数の閾値であり、“HR2”は平静状態における算出脈拍数の閾値である。これらの条件は、身体動作状態と算出脈拍数との整合条件の一例である。なお、条件C1及びC2のうちの何れか一方の条件のみを整合条件として定めておくこととしてもよい。
【0050】
身体動作状態とは、被検者の身体に関する動作の状態であり、例えば平静状態や運動状態といった状態がこれに含まれる。身体動作状態は、体動センサー20の検出結果に基づいて判定することができる。例えば、加速度センサーの出力が所定の閾値を超えている場合は、被検者は運動状態であると判定することができる。
【0051】
被検者が運動状態であれば、通常は、被検者の脈拍数はある程度高い値となっているはずである。それにも関わらず、算出脈拍数が想定以上に低い値を示しているのであれば、算出脈拍数は誤っている可能性が高い。また、被検者が平静状態であれば、通常は、被検者の脈拍数はある程度低い値となっているはずである。それにも関わらず、算出脈拍数が想定以上に高い値を示しているのであれば、算出脈拍数は誤っている可能性が高い。そこで、被検者の身体動作状態と算出脈拍数との相関関係に矛盾が生じていないかを、上記の条件に従って判定する。
【0052】
条件Dは、信頼性条件の連続成立性に関する条件であり、条件内容として「過去所定時間内に条件Aが成立した連続数>N」が定められている。条件Aの「脈波信号のSN比>θ」が所定時間に亘って継続して成立しているのであれば、算出脈拍数は信頼できる値であると判定する。
【0053】
図6は、算出脈拍数の適否判定の説明図であり、算出脈拍数の適否判定に使用するための適否判定用テーブルを図示したものである。適否判定用テーブルには、脈範囲と、SN比に対する閾値であるSN比閾値と、算出脈拍数を適切と判定するための基準である適切判定基準とが対応付けて定められている。
【0054】
脈範囲には、図4で説明した第1〜第4脈範囲が定められている。SN比閾値は、図5の条件Aに定められた脈波信号のSN比に対する信頼性条件の閾値であり、脈範囲に応じて異なる値が定められている。具体的には、基準脈拍数から近い脈範囲であるほど、より小さな値が定められている。但し、第1脈範囲には例外的にSN比閾値が定められていない。これは、算出脈拍数が第1脈範囲に含まれる場合は無条件で適切と判定することにしているためである。
【0055】
他の脈範囲については、SN比閾値として、第2脈範囲に“θ2”が、第3脈範囲に“θ3”が、第4脈範囲に“θ4”がそれぞれ定められている。これらの大小関係は“θ2<θ3<θ4”である。前述したSN比の算出式によれば、SN比が大きいほど脈波信号が高品質であり、算出結果の信頼性は高くなる。そのため、SN比閾値を低く設定することは、信頼性条件を満たす基準を緩和することを意味する。つまり、条件Aの信頼性条件は、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が小さいほど算出脈拍数を適切と判定し易くなるように定められていることになる。
【0056】
適切判定基準は、適否判定において算出脈拍数を適切と判定する基準である。第1脈範囲については「常に」が定められている。つまり、算出脈拍数が第1脈範囲に含まれる場合は、無条件で算出脈拍数を適切と判定する。
【0057】
第2脈範囲については、「条件Aが成立」が定められている。これは、算出結果の信頼性に関する条件が成立した場合に、算出脈拍数を適切と判定することを意味する。
【0058】
第3脈範囲については、「(1)条件A&Bが成立」、又は、「(2)条件Aが成立&条件Bが不成立&条件Dが成立」、又は、「(3)条件Aが成立&条件Cが不成立&条件Dが成立」が定められている。算出脈拍数が第3脈範囲に含まれることは、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が所定の高乖離条件を満たすことに相当する。
【0059】
(1)は、信頼性条件及び周波数条件が何れも成立した場合に、算出脈拍数を適切と判定することを意味する。(2)は、信頼性条件は成立したが、周波数条件は不成立であった場合に、信頼性条件の連続成立性に関する条件が成立すれば、算出脈拍数を適切と判定することを意味する。これは、信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、周波数条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定することに相当する。
【0060】
(3)は、信頼性条件は成立したが、身体動作状態と算出脈拍数との整合条件が不成立であった場合は、信頼性条件の連続成立性に関する条件が成立すれば、算出脈拍数を適切と判定することを意味する。これは、信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、整合条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて算出脈拍数の適否を判定することに相当する。
【0061】
第4脈範囲については、条件A〜Dが全て成立することが定められている。つまり、A〜Dの全ての条件が成立しない限り、算出脈拍数を不適と判定することになる。第4脈範囲は、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が最も大きいため、算出脈拍数を適切と判定するための基準を最も厳しく定めている。
【0062】
3.機能構成
図7は、脈拍計1の機能構成の一例を示すブロック図である。脈拍計1は、脈波センサー10と、体動センサー20と、脈波信号増幅回路部30と、脈波形整形回路部40と、体動信号増幅回路部50と、体動波形整形回路部60と、A/D(Analog/Digital)変換部70と、処理部100と、操作部200と、表示部300と、報知部400と、通信部500と、時計部600と、記憶部700とを備えて構成される。
【0063】
脈波センサー10は、脈拍計1が装着された被検者の脈波を捉えた脈波信号を検出するセンサーであり、例えば光電脈波センサーを有して構成される。脈波センサー10は、身体組織への血流の流入によって生じる容積変化を脈波信号として検出し、脈波信号増幅回路部30に出力する。
【0064】
脈波信号増幅回路部30は、脈波センサー10から入力した脈波信号を所定のゲインで増幅する増幅回路である。脈波信号増幅回路部30は、増幅した脈波信号を脈波形整形回路部40及びA/D変換部70に出力する。
【0065】
脈波形整形回路部40は、脈波信号増幅回路部30によって増幅された脈波信号を整形する回路部であり、高周波のノイズ成分を除去する回路やクリッピング回路等を有して構成される。処理部100は、脈波形整形回路部40によって整形された脈波形に基づいて、脈波の検出有無を判定する。
【0066】
体動センサー20は、脈拍計1が装着された被検者の体動を捉えた体動信号を検出するセンサーであり、例えば加速度センサーを有して構成される。体動センサー20は、被検者の体動を検出する体動検出部に相当する。
【0067】
体動信号増幅回路部50は、体動センサー20から入力した体動信号を所定のゲインで増幅する増幅回路である。体動信号増幅回路部50は、増幅した体動信号を体動波形整形回路部60及びA/D変換部70に出力する。
【0068】
体動波形整形回路部60は、体動信号増幅回路部50によって増幅された体動信号を整形する回路部であり、高周波のノイズ成分を除去する回路や、重力加速度成分とそれ以外の成分とを判定する回路、クリッピング回路等を有して構成される。処理部100は、体動波形整形回路部60によって整形された体動波形に基づいて、体動の検出有無を判定する。
【0069】
A/D変換部70は、脈波信号増幅回路部30によって増幅されたアナログ形式の脈波信号と、体動信号増幅回路部50によって増幅されたアナログ形式の体動信号とを、それぞれ所定のサンプリング時間間隔でサンプリング及び数値化して、デジタル信号に変換する。そして、変換したデジタル信号を処理部100に出力する。
【0070】
処理部100は、記憶部700に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って脈拍計1の各部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサーを有して構成される。処理部100は、記憶部700に記憶された脈拍数測定プログラム710に従って脈拍数測定処理を行い、脈拍計1が装着された被検者の脈拍数を算出・測定して表示部300に表示させる制御を行う。
【0071】
処理部100は、例えば、周波数解析部110と、脈拍数算出部120と、脈拍数差算出部130と、SN比算出部140と、身体動作状態判定部150と、脈拍数適否判定部160と、表示制御部170と、基準脈拍数更新部180とを機能部として有する。但し、これらの機能部はあくまでも一例であり、必ずしも全ての機能部を必須構成要件としなければならないわけではない。
【0072】
周波数解析部110は、A/D変換部70から入力した脈波信号(脈波データ)に対してFFT等の周波数分解処理を行って、脈波信号の周波数スペクトルを取得する。また、A/D変換部70から入力した体動信号(体動データ)に対してFFT等の周波数分解処理を行って、体動信号の周波数スペクトルを取得する。周波数解析部110は、体動検出部の検出結果を用いて被検者の周期的な体動の周波数を判定する体動周波数判定部に相当する。
【0073】
脈拍数算出部120は、周波数解析部110によって抽出された脈波信号の周波数スペクトルから被検者の脈波に相当する周波数スペクトルを検出し、その周波数(或いは周期)に基づいて脈拍数を算出する。脈拍数算出部120は、被検者の脈拍数を算出する脈拍数算出部に相当する。
【0074】
脈拍数差算出部130は、記憶部700に記憶された基準脈拍数780と算出脈拍数770との差(脈拍数差)を算出する。脈拍数差算出部130は、所与の基準脈拍数と脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数との乖離度合を判定する乖離度合判定部に相当する。
【0075】
SN比算出部140は、周波数解析部110による脈波信号の周波数分解結果に基づいて脈波信号のSN比750を算出する。SN比算出部140は、脈拍数算出部の算出結果の信頼性を判定する信頼性判定部に相当する。
【0076】
身体動作状態判定部150は、体動センサー20の検出結果に基づいて被検者の身体動作状態を判定する。身体動作状態判定部150は、体動検出部の検出結果を用いて被検者の身体動作状態を判定する身体動作状態判定部に相当する。
【0077】
脈拍数適否判定部160は、記憶部700に記憶された脈拍数適否判定用データ720を参照し、上記の原理に従って算出脈拍数770の適否を判定する適否判定部である。図示は省略するが、脈拍数適否判定部160は、乖離度合が小さいほど算出脈拍数を適切と判定し易くなるように定められた所定の信頼性条件を満たすか否かを判定する信頼性条件判定部を有する。また、周期的な体動の周波数と算出脈拍数の周波数とが近似していないことを示す所定の周波数条件を満たすか否かを判定する周波数条件判定部や、身体動作状態と算出脈拍数とが所定の整合条件を満たすか否かを判定する整合条件判定部を有する。
【0078】
表示制御部170は、脈拍数適否判定部160の判定結果に基づいて脈拍数を表示部300に表示制御する。具体的には、脈拍数適否判定部160によって算出脈拍数770が適切と判定された場合は、当該算出脈拍数770を測定脈拍数(測定結果)として表示部300に表示制御する。他方、脈拍数適否判定部160によって算出脈拍数770が不適と判定された場合は、最新の基準脈拍数780を測定脈拍数(測定結果)として表示部300に表示制御する。
【0079】
基準脈拍数更新部180は、脈拍数適否判定部160によって算出脈拍数770が適切と判定された場合に、当該算出脈拍数770で基準脈拍数780を更新する。
【0080】
操作部200は、ボタンスイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたボタンの信号を処理部100に出力する。この操作部200の操作により、脈拍数の測定指示等の各種指示入力がなされる。操作部200は、図1の操作ボタン5に相当する。
【0081】
表示部300は、LCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成され、処理部100から入力される表示信号に基づく各種表示を行う表示装置である。表示部300には、各種の生体情報(脈拍数、運動強度、カロリー消費量等)が表示される。表示部300は、図1の液晶表示器4に相当する。
【0082】
報知部400は、スピーカーや圧電振動子等を有して構成され、処理部100から入力される報知信号に基づく各種報知を行う報知装置である。例えば、アラーム音をスピーカーから出力させたり、圧電振動子を振動させることで、被検者への各種報知を行う。
【0083】
通信部500は、処理部100の制御に従って、装置内部で利用される情報をパソコン(PC(Personal Computer))等の外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。この通信部500の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、クレイドルと呼ばれる充電器と兼用の中間装置を介して接続する形式、近距離無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。
【0084】
時計部600は、水晶振動子及び発振回路でなる水晶発振器等を有して構成され、時刻を計時する計時装置である。時計部600の計時時刻は、処理部100に随時出力される。
【0085】
記憶部700は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、脈拍計1のシステムプログラムや、脈拍数測定機能、運動強度測定機能、カロリー測定機能といった各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0086】
記憶部700には、プログラムとして、処理部100によって脈拍数測定処理(図8参照)として実行される脈拍数測定プログラム710が記憶されている。また、記憶部700には、データとして、脈拍数適否判定用データ720と、脈波信号周波数分解データ730と、体動信号周波数分解データ740と、SN比750と、SN比閾値760と、算出脈拍数770と、基準脈拍数780とが記憶される。
【0087】
脈拍数適否判定用データ720は、脈拍数適否判定部160が算出脈拍数770の適否判定に用いるデータである。例えば、図5で説明した条件定義テーブルや、図6で説明した適否判定用テーブルといったデータがこれに含まれる。
【0088】
脈波信号周波数分解データ730は、周波数解析部110が脈波信号に対する周波数分解処理を行うことで取得した周波数帯毎の信号強度値(スペクトル値)のデータである。同様に、体動信号周波数分解データ740は、周波数解析部110が体動信号に対する周波数分解処理を行うことで取得した周波数帯毎の信号強度値(スペクトル値)のデータである。
【0089】
4.処理の流れ
図8は、記憶部700に記憶されている脈拍数測定プログラム710が処理部100によって読み出されることで、脈拍計1において実行される脈拍数測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0090】
最初に、処理部100は、初期設定を行う(ステップA1)。具体的には、例えば、基準脈拍数780の初期値として所定値(例えば安静時脈拍数)を設定する。
【0091】
次いで、処理部100は、脈波センサー10及び体動センサー20の検出結果を取得する(ステップA3)。そして、周波数解析部110が、脈波センサー10によって検出された脈波信号に対する周波数分解処理を行い、その結果を脈波信号周波数分解データ730として記憶部700に記憶させる(ステップA5)。
【0092】
次いで、脈拍数算出部120は、脈波信号周波数分解データ730を用いて脈周波数を抽出する(ステップA7)。そして、脈拍数算出部120は、抽出した脈周波数に基づいて被検者の脈拍数を算出し、その算出結果で記憶部700の算出脈拍数770を更新する(ステップA9)。
【0093】
SN比算出部140は、脈波信号周波数分解データ730を利用して脈波信号のSN比750を算出し、記憶部700に記憶させる(ステップA11)。身体動作状態判定部150は、体動センサー20の検出結果に基づいて被検者の身体動作状態を判定する身体動作判定処理を行う(ステップA13)。
【0094】
その後、周波数解析部110は、体動センサー20によって検出された体動信号に対する周波数分解処理を行い、その結果を体動信号周波数分解データ740として記憶部700に記憶させる(ステップA15)。そして、周波数解析部110は、周波数分解結果に基づいて周期体動周波数を検出する(ステップA17)。
【0095】
その後、脈拍数差算出部130は、基準脈拍数780と算出脈拍数770との差(脈拍数差)を算出する(ステップA19)。そして、処理部100は、脈拍数適否判定用データ720に含まれる適否判定用テーブル(図6参照)を参照し、算出した脈拍数差に対応する脈範囲に定められているSN比閾値760を設定する(ステップA21)。
【0096】
その後、脈拍数適否判定部160は、算出脈拍数770の適否を判定する脈拍数適否判定処理を行う(ステップA23)。具体的には、脈拍数適否判定用データ720に含まれる条件定義テーブル(図5参照)及び適否判定用テーブル(図6参照)を参照し、当該脈範囲に定められている適切判定基準が満たされているか否かを判定する。
【0097】
適否判定結果が適切であれば(ステップA25;適切)、表示制御部170は、算出脈拍数770を測定脈拍数として表示部300に表示制御する(ステップA27)。そして、基準脈拍数更新部180は、算出脈拍数770で記憶部700の基準脈拍数780を更新する(ステップA29)。一方、適否判定結果が不適であれば(ステップA25;不適)、表示制御部170は、基準脈拍数780を測定脈拍数として表示部300に表示制御する(ステップA31)。
【0098】
ステップA29又はA31の後、処理部100は、脈拍数の測定を終了するか否かを判定する(ステップA33)。例えば、操作部200を介して被検者によって脈拍数の測定終了の指示操作がなされたか否かを判定する。そして、測定を終了しないと判定した場合は(ステップA33;No)、ステップA3に戻る。また、測定を終了すると判定した場合は(ステップA33;Yes)、脈拍数測定処理を終了する。
【0099】
5.作用効果
脈拍計1において、脈拍数算出部120は、脈波センサー10の検出結果に基づいて被検者の脈拍数を算出する。そして、脈拍数差算出部130は、基準脈拍数と算出脈拍数との差(脈拍数差)を算出し、当該脈拍数差に基づいて基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合を判定する。また、SN比算出部140は、脈波センサー10によって検出された脈波信号のSN比を算出し、当該SN比に基づいて脈拍数算出部120の算出結果の信頼性を判定する。そして、脈拍数適否判定部160は、脈拍数差算出部130によって算出された脈拍数差(乖離度合)とSN比算出部140によって算出されたSN比(信頼性)とに基づいて算出脈拍数の適否を判定する。
【0100】
脈拍数差は、基準脈拍数と算出脈拍数とがどの程度離れているかの尺度である。通常、短い時間間隔で被検者の脈拍数が急激に変化する状況は稀である。そのため、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合から、脈拍数算出部120によって算出された算出脈拍数の正確性がある程度判断できる。その上で、SN比算出部140によって算出されたSN比を併せて参照することで、算出脈拍数の適否判定を正しく行うことが可能となる。
【0101】
また、脈拍数適否判定部160は、脈拍数差(乖離度合)及びSN比(信頼性)に基づいて、脈拍数差が小さいほど算出脈拍数を適切と判定し易くなるように定められた所定の信頼性条件を満たすか否かを判定する。具体的には、脈拍数差が小さい脈範囲ほど、SN比に対する閾値が低く設定されている。かかる構成により、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合に応じて適正化された信頼性条件に従って算出脈拍数の適否判定を行うことが可能となる。
【0102】
6.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明する。
【0103】
6−1.生体情報処理装置
上記の実施形態では、生体情報処理装置として腕時計型の脈拍計を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な生体情報処理装置はこれに限られない。例えば、指先に装着して脈拍を測定する指装着形の脈拍計に適用することも可能である。また、脈波信号の検出方法も光を用いた検出方法に限られず、超音波を用いた検出方法や、心電を用いた検出方法であってもよい。
【0104】
6−2.体動検出部
上記の実施形態では、体動検出部である体動センサーが加速度センサーを有して構成されるものとして説明したが、加速度センサーではなく他のセンサーを有して構成されることとしてもよい。例えば、体動センサーがジャイロセンサーを有して構成されることとし、ジャイロセンサーによって検出された角速度に基づいて被検者の体動を検出することとしてもよい。勿論、加速度センサー及びジャイロセンサーの両方を有して構成されることとし、これらのセンサーの検出結果を併用して被検者の体動を検出してもよい。
【0105】
6−3.乖離度合
基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合を、基準脈拍数と算出脈拍数との差(脈拍数差)に基づいて判定するのではなく、例えば基準脈拍数と算出脈拍数との比(脈拍数比)に基づいて判定してもよい。つまり、乖離度合は、基準脈拍数と算出脈拍数との相対関係を判定することのできる指標値であればよい。
【0106】
6−4.適否判定条件
図5の条件定義テーブルに定めた条件や、図6の適否判定用テーブルに定めた適否判定基準等は一例であり、適宜設定可能である。例えば、図6の適否判定用テーブルを次のように定めてもよい。
【0107】
図9は、変形例における第2の適否判定用テーブルのテーブル構成図である。第2の適否判定用テーブルでは、第1脈範囲のSN比閾値として“θ1”が定められており、適切判定基準として「条件Aが成立」が定められている。第2脈範囲のSN比閾値として“θ2”が定められており、適切判定基準として「(1)条件A&Bが成立」、又は、「(2)条件Aが成立&条件Bが不成立&条件Dが成立」が定められている。
【0108】
また、第3脈範囲のSN比閾値として“θ3”が定められており、適切判定基準として、「(1)条件A&B&Cが成立」、又は、「(2)条件A&Bが成立&条件Cが不成立&条件Dが成立」、又は、「(3)条件A&Cが成立&条件Bが不成立&条件Dが成立」が定められている。また、第4脈範囲のSN比閾値には値が定められておらず、適切判定基準として「適切と判定する場合なし」が定められている。
【0109】
SN比閾値の大小関係は、図6の第1の適否判定用テーブルと同様の基準に従って定められている。つまり、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が小さいほど算出脈拍数を適切と判定し易くなるように、基準脈拍数に近い脈範囲ほどSN比閾値として小さな値が設定されている。具体的には、SN比閾値の大小関係は“θ1<θ2<θ3”である。
【0110】
また、第1の適否判定用テーブルと同様に、基準脈拍数と算出脈拍数との乖離度合が大きいほど算出脈拍数を適切と判定するための基準を厳しくするように適切判定基準が定められている。特に、第4脈範囲については、条件A〜Dの成否に関わらず、算出脈拍数を必ず不適と判定するように基準が定められている。
【0111】
なお、上記の実施形態では、脈範囲の段数を4段とする場合を例示したが、脈範囲の段数や脈範囲の決め方は設計事項であり、上記の実施形態の例に限定されるわけでないことは勿論である。
【0112】
6−5.脈拍数の算出結果の信頼性
上記の実施形態では、脈波センサー10によって検出された脈波信号の信号対雑音比(SN比)に基づいて脈拍数の算出結果の信頼性を判定した。しかし、SN比は信頼性を判定するための指標の1つに過ぎず、他の指標に基づいて信頼性を判定することも可能である。
【0113】
例えば、脈波信号の強さに基づいて算出結果の信頼性を判定してもよい。具体的には、脈波信号の振幅が極端に小さい場合は、被検者の脈波をうまく捉えることができていない可能性が高いため、算出された脈拍数の信頼性は低いと判定することができる。また、脈波信号が急に振り切れるような場合は、ノイズが混入している可能性が高いため、この場合にも信頼性は低いと判定することができる。
【0114】
この場合は、図5の条件定義テーブルの条件Aについて、例えば脈波信号の信号強度に応じた条件を脈拍数の算出結果の信頼性に関する条件として定めておくことができる。また、脈波信号のSN比及び信号強度を組み合わせた条件として信頼性条件を定めておくこととしてもよい。
【0115】
6−6.基準脈拍数
上記の実施形態では、適否判定によって適切と判定された最新の算出脈拍数を基準脈拍数として設定することとして説明した。つまり、算出脈拍数が適切と判定された場合に、当該算出脈拍数で基準脈拍数を更新する処理を算出時刻毎に繰り返すものとして説明した。
【0116】
しかし、基準脈拍数として設定可能な脈拍数は何もこれに限られるわけではない。例えば、現在の算出時刻から過去所定期間(例えば過去5算出時刻分の期間)において適切と判定された算出脈拍数の平均値や中央値を求めて基準脈拍数として設定することとしてもよい。
【符号の説明】
【0117】
1 脈拍計、 10 脈波センサー、 20 体動センサー、 30 脈波信号増幅回路部、 40 脈波形整形回路部、 50 体動信号増幅回路部、 60 体動波形整形回路部、 70 A/D変換部、 100 処理部、 200 操作部、 300 表示部、 400 報知部、 500 通信部、 600 時計部、 700 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の脈拍数を算出する脈拍数算出部と、
所与の基準脈拍数と前記脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数との乖離度合を判定する乖離度合判定部と、
前記脈拍数算出部の算出結果の信頼性を判定する信頼性判定部と、
前記乖離度合と前記信頼性とに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する適否判定部と、
を備えた生体情報処理装置。
【請求項2】
前記適否判定部は、前記乖離度合が小さいほど前記算出脈拍数を適切と判定し易くなるように定められた所定の信頼性条件を満たすか否かを判定する信頼性条件判定部を有し、前記信頼性条件判定部の判定結果に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、
請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記適否判定部は、前記乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、前記信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、
請求項2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記被検者の体動を検出する体動検出部と、
前記体動検出部の検出結果を用いて前記被検者の周期的な体動の周波数を判定する体動周波数判定部と、
を更に備え、
前記適否判定部は、前記周期的な体動の周波数と前記算出脈拍数の周波数とが近似していないことを示す所定の周波数条件を満たすか否かを判定する周波数条件判定部を有し、前記乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、前記信頼性条件判定部の判定結果と前記周波数条件判定部の判定結果とを用いて前記算出脈拍数の適否を判定する、
請求項2に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記適否判定部は、前記信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、前記周波数条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、前記信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、
請求項4に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
前記被検者の体動を検出する体動検出部と、
前記体動検出部の検出結果を用いて前記被検者の身体動作状態を判定する身体動作状態判定部と、
を更に備え、
前記適否判定部は、前記身体動作状態と前記算出脈拍数とが所定の整合条件を満たすか否かを判定する整合条件判定部を有し、前記乖離度合が所定の高乖離条件を満たす場合に、前記信頼性条件判定部の判定結果と前記整合条件判定部の判定結果とを用いて前記算出脈拍数の適否を判定する、
請求項2に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記適否判定部は、前記信頼性条件判定部の判定結果が肯定判定であり、且つ、前記整合条件判定部の判定結果が否定判定である場合に、前記信頼性条件判定部による肯定判定の連続回数に基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する、
請求項6に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
被検者の脈拍数を算出することと、
所与の基準脈拍数と前記算出された算出脈拍数との乖離度合を判定することと、
前記脈拍数の算出結果の信頼性を判定することと、
前記乖離度合と前記信頼性とに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定することと、
を含む生体情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−13644(P2013−13644A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149802(P2011−149802)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】