説明

生体情報算出装置及び生体情報算出方法

【課題】 本発明は、血液の採取を行なわずに、専門家以外の誰でも手軽に血流速度を計測することができるとともに、ノイズによる影響を低減して血流速度を高精度に算出することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、生体を流れる血液に向けて超音波を送信する送信部2と、超音波が前記生体により反射されてくる反射波を受信して反射波に対応する信号を出力する受信部3及び受信部4と、受信部3により受信された信号の振幅と、受信部4により受信された信号の振幅との差分を増幅する差動増幅部23とを備える。受信部3及び受信部4のそれぞれは、互いに逆相となる信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内を流れる血液の流動性の評価をするものであり、特に生体内における血管を流れている血液の流速を測定する生体情報算出装置及び生体情報算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の健康状態を判断する検査項目のひとつとして、血液の流動性に着目した血液レオロジー測定が注目されている。血液レオロジー(流動性)を測定する部として、被験者より採血した一定量の血液が微小流路(マイクロチャネル)を通過する時間を測定する微小流路流動分析装置が開発されている(非特許文献1参照。)。現在においては、微小流路流動分析装置は、血液レオロジー測定における標準機とされている。
【0003】
しかし、微小流路流動分析装置による測定においては上記のように必ず採血を行う必要があり、測定が行えるのは医療機関に限られ、いつでもだれでもが手軽に健康状態を検査する目的には大きな不都合がある。また、採血は被験者に対する肉体的および心理的な負担も大きく、1日あたりに測定作業が可能な回数もせいぜい数回まででしかないため、時系列的に連続したデータが得られないという問題がある。
【0004】
血液レオロジーを示す指標のひとつとして血液粘性と生体内を流れる血液の速度(以下、血流速度)とは強い相関があると考えられる。すなわち、血液の流動性が低い(粘性が高い)場合、血流速度は遅いと考えられる。一方、流動性が高い(粘性が低い)場合、血流速度が速いと考えられる。そのため、生体内の血流速度を計測することにより、間接的に血液粘性を知ることが可能となる。
そこで従来から、血液粘性と強い相関のある血流速度を計測するため、生体内を伝播し、血管内を流れる血液に反射する超音波のドップラシフト信号から血流速度を計測する発明である非侵襲ドップラ方式生体情報算出装置が提案されている(特許文献1参照)。この技術において、ドップラ方式で計測される血流速度Vhを生体(人体)の最高血圧値Phで補正し、血液レオロジーを示すひとつの指標として、補正血流速度Vcを以下の式により定義することができる。
【0005】
Vc=Vh/Ph (式1)
上記式によりVcが大きい場合は、血液の流動性が高く(粘性が低い)、逆にVcが小さい場合は、流動性が低い(粘性が高い)といえるのである。
【特許文献1】特開2003−159250号公報
【非特許文献1】菊池佑二「毛細血管モデルを用いた全血流動性の測定」(食品研究成果情報,NO.11 1999年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生体内を伝播し、血管内を流れる血液に反射する超音波のドップラシフトを計測する技術においては、受信した反射波に対応する微小な信号を大きく増幅する必要がある。このため、センサやセンサと増幅回路とを接続する配線部に入り込むノイズの影響も大きく、S/N比(信号対ノイズ比)の優れた信号が得にくいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、血液の採取を行なわずに、専門家以外の誰でも手軽に血流速度を計測することができるとともに、ノイズによる影響を低減して血流速度を高精度に算出することができる生体情報算出装置及び生体情報算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の特徴は、 生体を流れる血液に向けて超音波を送信する送信部と、前記超音波が前記生体により反射されてくる反射波を受信して前記反射波に対応する信号を出力する第1受信部及び第2受信部と、前記第1受信部により受信された前記信号の振幅と、前記第2受信部により受信された前記信号の振幅との差分を増幅する差動増幅部と、前記差動増幅部により増幅された前記信号の周波数と前記送信部により送信された前記超音波の周波数との差分をドップラシフト周波数として算出するドップラシフト周波数算出部と、前記送信部により送信された前記超音波の周波数、及び前記ドップラシフト周波数算出部により算出された前記ドップラシフト周波数に基づいて、前記血液の流速を算出する流速算出部とを備え、前記第1受信部及び前記第2受信部のそれぞれは、互いに逆相となる信号を出力することを要旨とする。
【0009】
かかる特徴によれば、第1圧電体及び第2圧電体のそれぞれの分極方向が逆であり、第1圧電体及び第2圧電体のそれぞれから出力された信号の位相が逆相となるため、差動増幅部により反射波に対応する信号を確実に増幅することができる。一方、第1圧電体及び第2圧電体のそれぞれと差動増幅部とを接続する各配線にノイズが混入しても、当該ノイズが上記分極作用により発生した信号ではなく、その信号の位相が略同相であるため、差動増幅部により各配線に混入したノイズを打ち消すことができる。
【0010】
これにより、各配線に混入したノイズによる影響を低減して第1圧電体及び第2圧電体のそれぞれから出力される信号のS/N比を高めることができ、血流速度を高精度に算出することができる。
【0011】
すなわち、本発明によれば、血液の採取を行なわずに、専門家以外の誰でも手軽に血流速度を計測することができるとともに、ノイズによる影響を低減して血流速度を高精度に算出することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、前記第1受信部は前記信号を出力する第1圧電体を備え、前記第2受信部は前記信号を出力する第2圧電体を備えており、前記第1圧電体及び前記第2圧電体のそれぞれは、前記信号の振幅方向を決定する分極方向が他の圧電体の分極方向とは逆であることを要旨とする。
【0013】
本発明の第3の特徴は、前記第1圧電体及び前記第2圧電体が一体に形成されていることを要旨とする。
【0014】
本発明の第4の特徴は、前記第1圧電体と前記第2圧電体との境界部分には溝が形成されていることを要旨とする。
【0015】
本発明の第5の特徴は、前記送信部は前記超音波を発生する第3圧電体を備え、前記第1圧電体、前記第2圧電体及び前記第3圧電体は一体に形成されていることを要旨とする。
【0016】
本発明の第6の特徴は、前記第3圧電体は前記第1圧電体の隣に配置されており、前記第1圧電体と前記第3圧電体との境界部分には溝が形成されていることを要旨とする。

本発明の第7の特徴は、超音波が生体により反射されてくる反射波を受信して前記反射波に対応する信号を出力する第1受信部及び第2受信部を備える生体情報算出装置において動作する生体情報算出方法であって、前記第1受信部により受信された前記信号の振幅と、前記第2受信部により受信された前記信号の振幅との差分を増幅するステップと、増幅された信号の周波数と送信された前記超音波の周波数との差分をドップラシフト周波数として算出するステップと、送信された前記超音波の周波数、及び算出された前記ドップラシフト周波数に基づいて、前記血液の流速を算出するステップとを備え、前記第1受信部及び前記第2受信部のそれぞれは、互いに逆相となる信号を出力することを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、血液の採取を行なわずに、専門家以外の誰でも手軽に血流速度を計測することができるとともに、ノイズによる影響を低減して血流速度を高精度に算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施形態)
以下、図面に基づき実施例の構成を説明する。図1は、本発明に係る生体情報算出装置の構成を示すブロック図である。図2は、本発明で用いた血流速度センサの構成図である。図2(a)は血流速度センサの平面図であり、図2(b)は血流速度センサの側面図である。図3は、各血流速度センサに指が載置された状態を示す図である。
【0019】
本実施形態に係る生体情報算出装置100は、生体を流れる血液の流速を算出するものであり、超音波計測部50と、流速算出部51とを備えている。
【0020】
図1に示すように、超音波計測部50は、血流速度センサ10と、差動増幅部23(23a,23b)と、検波・フィルタ回路24(24a,24b)と、後段増幅回路25(25a,25b)と、A/D変換部26(26a,26b)とを備えている。
【0021】
図2に示すように、血流速度センサ10は、2対の超音波センサ、すなわち、送信部2a、受信部3a、受信部4aから成る超音波センサ1aと、送信部2b、受信部3b、受信部4bから成る超音波センサ1bとを組み合わせたものである。
【0022】
送信部2a(2b)は、指71を流れる血液に向けて超音波78a(78b)を送信する。受信部3a(3b)、受信部4a(4b)は、送信部2a(2b)により送信された超音波が指71により反射されてくる反射波79a(79b)を受信して反射波79a(79b)に対応する信号を出力する。
受信部3a(3b)及び受信部4a(4b)のそれぞれは、互いに逆相となる信号を出力する。本実施形態では、受信部3a(3b)及び受信部4a(4b)のそれぞれは、出力信号の振幅方向を決定する分極方向が他の圧電体の分極方向とは逆である。
【0023】
なお、受信部3a(3b)及び受信部4a(4b)のそれぞれの分極方向が逆となるように、受信部3a(3b)及び受信部4a(4b)のそれぞれには極性の異なる電圧が印加されている。
【0024】
受信部3a、3b(第1受信部)は第1圧電体を備え、受信部4a、4b(第2受信部)は第2圧電体を備え、送信部2a、2bは第3圧電体を備える。各圧電体は、いずれも圧電性セラミックス板からなり、電極薄膜が形成されている圧電振動素子である。
【0025】
ここで、図2乃至図4を参照しながら、受信部3と受信部4の構成について詳細に説明する。なお、送信部2a,受信部3a,受信部4aは、送信部2b,受信部3b,受信部4bの構成と同様である。このため、送信部2a,受信部3a,受信部4aの構成についてのみ詳細に説明する。
【0026】
図2に示すように、送信部2aは、受信部3aと隣り合うように配置されている。また、受信部3aは、受信部4aと隣り合うように配置されている。図3に示すように、具体的には、受信部3a、受信部4aは、送信部2aにより送信された超音波が指71により反射されてくる反射波を受信し得る位置に備えられている。
【0027】
図4に示すように、本実施形態に係る血流速度センサ1は、電極5として金などの金属膜を表面にめっきした分極処理済の単一の圧電体から切り出した圧電体をそれぞれに送信部2、受信部3、受信部4として圧電素子支持部材17上に実装したものである。
【0028】
本実施形態では、2対の超音波センサ1a、1bを用い、超音波の射出および受信の指向性の方向が互いに平行にならない角度αを成すようにセンサ支持基板10上に配置してある。図3に示すように、この血流速度センサ10に、測定対象である生体71(被験者の指先など)を接触させて、その内部の血流速度を計測する。
【0029】
超音波センサ1aの送信部2aから送信された超音波(送信波78a)は生体組織中を伝播し、血管中を流れる血液で反射される。反射波79aは、血液の流れる速度に従いドップラシフトを受けた信号に変化している。この反射波が受信部3aおよび受信部4aで受信される。
【0030】
超音波センサ1bについても同様に、送信部2bから送信された超音波(送信波78b)は血流によるドップラシフトを受けて反射される。そして、反射波が受信部3b、受信部4bで受信される。
【0031】
このように、送信された超音波の周波数と受信された反射波の周波数との差であるドップラシフト周波数に基づいて、体内を流れる血液の速度が算出される。
【0032】
ここで、超音波センサ1a及び超音波センサ1bのいずれか一方を用いて、体内を流れる血液の速度を算出することができるのは勿論であるが、超音波センサ1a及び超音波センサ1bの双方を用いて、体内を流れる血液の速度を算出することもできる。
【0033】
具体的には、超音波センサ1aと超音波センサ1bでは超音波の放射される方向が異なる。この超音波センサ1aと超音波センサ1bとの角度の差αと、超音波センサ1a及び超音波センサ1bのそれぞれに対応するドップラシフト周波数ΔFa、ΔFbを用いて、体内を流れる血液の速度を計算することができる。血液の速度を算出する詳細な説明については後述する。
【0034】
次に、超音波センサ1a,1b以外の超音波計測部50の構成について説明する。差動増幅部23は、受信部2により受信された信号の振幅と、受信部3により受信された信号の振幅との差分を増幅する。ここで、受信部3と受信部4とは、圧電対の分極方向を逆転させて圧電素子支持部材17上に実装されている。このため、出力信号は位相が反転しているが、それぞれの信号は差動増幅部23の反転増幅入力端子と非反転増幅入力端子から入力され、一方の位相が反転されて合成される。これにより、結果として2つの受信部の信号の和の信号として増幅される。
【0035】
一方、センサやその信号配線が外部より雑音にさらされた場合、差動増幅部23における反転増幅入力端子及び非反転増幅入力端子のそれぞれに入力されたノイズ成分が互いに打ち消し合うことになる。このため、結果としてノイズ成分は低減されることになり、S/N比が向上する。
差動増幅部23から出力された信号は、検波・フィルタ回路24a、24bで検波され、超音波の搬送波成分(ベース成分)を取り除いたドップラシフト信号成分のみが抽出される。さらに、当該抽出された信号は、A/D変換処理によって不要な周波数成分が取り除かれ、後段増幅回路25a、25bでそれぞれA/D変換器26の入力レベルに適当な振幅までさらに増幅される。このドップラシフト信号はアナログ信号であるが、A/D変換器26によりデジタルデータに変換され、バッファメモリ31に一時蓄積される。
【0036】
次に、流速算出部51は、バッファメモリ31(31a,31b)と、演算処理装置43とを備えている。バッファメモリ31は超音波センサ1からの計測データを一時的に保持する機能を有し、それぞれのバッファメモリ内のデータは一定量ごとに演算処理装置43に送られる。
【0037】
演算処理装置43は、以下に説明するように、デジタル入力部44、主記憶部41、前記計測部から出力された前記検波信号を演算処理して周波数分布データを算出する周波数解析部45(ドップラシフト周波数算出部)、前記周波数分布データを演算処理して血流の方向角を算出する角度演算部46、前記角度演算部において算出した前記方向角の値と対応させながら前記血液の流速値を算出する流速算出部48を備えている。
【0038】
デジタル入力部44は、各A/D変換器26a、26bによりデジタル化された各超音波センサ1a、1bからのデータをバッファメモリ31a、31bを介して受取った後、主記憶部41に転送し記憶させる機能を有している。
【0039】
なお、上述の演算部(周波数解析部45、角度演算部46、流速算出部48)は、具体的には、コンピュータ機能を用いて演算処理及び制御を行う信号演算処理部及び汎用演算処理部からなり、詳しくは後述するが、主記憶部41に記憶したデジタルデータを適宜取り出して演算処理を行い、必要に応じて、再度、主記憶部41に記憶させながら演算処理を行う機能を有するものである。
【0040】
以下、周波数解析部45、角度演算部46、流速算出部48について詳しく説明する。
【0041】
まず、周波数解析部45は、上記測定で得られた超音波センサ1aと超音波センサ1bのそれぞれのドップラシフト信号のデジタルデータを演算処理装置43の信号演算処理部および汎用演算処理部においてフーリエ変換(FFT)処理により、周波数分布(スペクトル)データに変換し、変換した周波数分布データを主記憶部41に記憶させる機能を有する。
【0042】
例えば、周波数解析部45は、A/D変換器26a、26bのサンプリング周波数をfs=20kHz、FFT処理の個数をNf=256個とし、0.0128秒毎の周波数分布データが、Nf=512個とすると、0.0256秒毎の周波数分布データ(ドップラシフト周波数と、そのドップラシフト周波数に対応するドップラシフト信号の強度分布)が得られる。ただし、FFT処理のデータ個数とFFT処理の時間間隔は必ずしも一致しなくてもよく、例えば、0.01秒間隔で256個ずつのデータを処理することも可能である。
【0043】
すなわち、周波数解析部45は、超音波センサ1a,1bにより出力された信号の周波数と送信部により送信された超音波の周波数との差分をドップラシフト周波数として算出する。
【0044】
次に、角度演算部46及び流速算出部48について説明する前に、超音波センサ1a、1bから得られたドップラシフト信号(ドップラシフト周波数)から血流速度を算出する算出原理について説明する。
【0045】
上記の方法で超音波センサ1aのデータから得られたドップラシフト周波数をFa、超音波センサ1bのデータから得られたドップラシフト周波数をFbとすると、血流速度Vhは、下記の式で導出できる。ここで、θは血流速度センサ10(超音波センサ1a又は1b)と血流の方向のなす角度である。αは2つの超音波センサの超音波の射出及び受信の指向性のなす角度である。cは生体中での音速である。Fsは超音波センサの発信周波数(駆動周波数)である。
【0046】
Vh = cFa/2Fscosθ (式1)
θ=atan( (−cosα − Fb/Fa)/sinα ) (式2)
ここで、上記のθを算出する機能を有するものが角度演算部46であり、上記のVhを算出する機能を有するものが流速算出部48である。これらの角度演算部46及び流速算出部48は、周波数解析部45により算出された周波数分布データを用いて演算処理を行って上記のθ(血流の方向角)やVh(血流速度)を算出する。なお、θは、式2に示すように算出されていてもよいし、予め定められていてもよい。
【0047】
このように、流速算出部48は、超音波センサにより出力された信号の周波数、及び算出されたドップラシフト周波数に基づいて、血流速度を算出するものとして機能する。
【0048】
超音波センサ1a,1bの出力信号は小さいため、A/D変換を行うには大きな増幅率が必要であり、外部からのノイズの影響を受けやすい。信号にノイズが混入すると、周波数分布に大きな変動を与え、正確なドップラシフト周波数が得られず、算出される血流速度にも大きな誤差が生じてしまう。そこで、本発明のように雑音を除去または低減させる対策が必要とされるのである。
【0049】
また、血液は生体の血圧Pで押し出されて流動するものであるため、血流速度Vhは、生体の血圧の影響も受けるものと考えられる。そのため、被検者の血流速度と血圧値との関係をも考慮し、流速算出部48において、血圧の影響を補正するために、血流速度Vhを血圧測定器で測定した最高血圧Phで割り算し、このVh/Phの値を用いて補正血流速度Vc(=Vh/Ph)を算出する演算処理を行うことも可能である。
【0050】
この補正血流速度Vcが大きければ、相対的に生体中の血液の流動性が高く(粘性が低い)、補正血流速度Vcが小さければ血液の流動性が低い(粘性が高い)ということで生体内の血液の流動性をより正確に評価することが可能である。
【0051】
かかる特徴によれば、受信部3を構成する圧電体及び受信部4を構成する圧電体のそれぞれの分極方向が逆であり、圧電体のそれぞれから出力された信号の位相が逆相となるため、差動増幅部23により反射波に対応する信号を確実に増幅することができる。一方、圧電体のそれぞれと差動増幅部23とを接続する各配線にノイズが混入しても、当該ノイズが上記分極作用により発生した信号ではなく、その信号の位相が略同相であるため、差動増幅部23により各配線に混入したノイズを打ち消すことができる。
【0052】
これにより、各配線に混入したノイズによる影響を低減して圧電体のそれぞれから出力される信号のS/N比を高めることができ、血流速度を高精度に算出することができる。
【0053】
すなわち、被験者から採血を行うことなく、非侵襲にて血液レオロジーと強い相関を持つ血流速度を測定することができ、また、超音波センサから得られる信号からノイズ成分を低減でき、S/N比が向上し、より正確な血流速度の測定が可能となり、被験者から採血を行うことなく、医療専門家以外の誰でも手軽に正確なレオロジーを調べることができ、被検者の健康状態の確認に利用することができるようになる。
(変更例)
なお、血流速度センサ1は、図4に示す構成に限定されるものではなく、図5に示す構成であってもよい。図4に示す構成では、受信部3及び受信部4の圧電体は、別々に構成されているが、図5に示す構成では、受信部3及び受信部4の圧電体は、一体に構成されている。
【0054】
図5に示すように、受信部3及び受信部4の圧電体には、受信部3に対応する電極7,GND電極6が備えられていることに加えて、受信部4に対応する電極8,GND電極6が備えられている。図6に示すように、電極7,GND電極6と、電極8,GND電極6とは、出力信号の振幅方向を決定する分極方向が互いに逆になるように、互いに逆の電圧が印加されている。なお、送信部2、受信部3及び受信部4の位置関係は、図7に示す通りである。
【0055】
かかる特徴によれば、受信部3及び受信部4の圧電体が一体に構成されることにより、当該圧電体を単一の工程で一括して配置することができるため、受信部3及び受信部4の圧電体が別々に構成されるよりも、受信部3及び受信部4を少ない工程で配置することができ、血流速度センサ10を短時間で製造することができる。
【0056】
なお、受信部3及び受信部4の圧電体が一体に構成されている場合には、血流速度センサ1は、図5に示す構成に限定されるものではなく、図8に示す構成であってもよい。図8に示すように、具体的には、受信部3(第1圧電体)及び受信部4(第2圧電体)との境界部分には、溝14が形成されている。この構成においては、当該溝14に向かい合う溝16がさらに形成されていてもよい(図10参照)。
【0057】
ここで、図8に示すセンサは、電極膜をエッチングなどの方法で加工することで、図8に示すように1つの圧電体に2つの領域を作り、その後、図6に示すように互いに逆方向となるように分極処理を行い、2つの受信部が一体となった素子として圧電素子支持部材17上に実装される。
【0058】
かかる特徴によれば、受信部3及び受信部4の圧電体が一体に構成されていても、受信部3及び受信部4との境界部分には溝14が形成されていることにより、受信部3により受信された反射波と受信部4により受信された反射波との干渉が低減される。
【0059】
これにより、他の受信部により受信された反射波が混入し難い状態になるため、受信部3及び受信部4のそれぞれは、他の受信部による反射波の影響が低減された信号を出力することができ、生体情報算出装置1は、生体内を流れる血液の速度をより高精度に算出することができる。
【0060】
なお、図9に示すように、受信部3(第1圧電体)及び受信部4(第2圧電体)に加えて、送信部2(第3圧電体)も一体に構成されていてもよい。
【0061】
かかる特徴によれば、受信部3及び受信部4の圧電体のみならずに、送信部2の圧電体も一体に構成されることにより、当該圧電体を単一の工程で一括して配置することができるため、送信部2、受信部3及び受信部4の圧電体が別々に構成されるよりも、血流速度センサ10を短時間で製造することができる。
【0062】
なお、図9に示すように、送信部2、受信部3及び受信部4の圧電体が一体に構成されている場合には、送信部2と受信部3との境界部分には、溝15が形成されていてもよい。この構成においては、当該溝15に向かい合う溝16がさらに形成されていてもよい。
【0063】
かかる特徴によれば、送信部2、受信部3及び受信部4の圧電体が一体に構成されていても、送信部2と受信部3との境界部分には溝15が形成されていることにより、送信部2により送信された超音波が受信部3及び受信部4に混入し難くなる。
【0064】
これにより、送信部2により送信された超音波が各受信部に混入し難い状態になるため、受信部3及び受信部4のそれぞれは、送信部による超音波の影響が低減された信号を出力することができ、生体情報算出装置1は、生体内を流れる血液の速度をより高精度に算出することができる。
【0065】
また、複数の素子を設けるセンサの構造を採用しても、同じ材料の同形状の素子を用いたり、一体の圧電体に複数の素子を形成することで、最小限のコスト上昇で、より正確に血流速度を測定可能な計測系を実現できる。
【0066】
なお、本発明は、医療および健康維持・増進を目的として、血液の流動性(流れやすさ)を計測することが可能であるだけでなく、生体(人体)の活動状況と生体各部における血流状態の相関を知るための計測においても利用可能である。
【0067】
なお、本実施形態及び各変更例では、生体として指を例にして説明したが、これに限定されるものではなく、腕などであってもよいのは勿論のことである。
【0068】
なお、本発明の一例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、実施形態における具体的構成等は、適宜設計変更可能である。また、実施形態及び各変更例の具体的構成のそれぞれは、組み合わせることが可能である。さらに、実施形態の作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る生体情報算出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る血流速度センサの構成を示す図である。
【図3】本発明に係る超音波センサに指が載置された状態を示す図である。
【図4】本発明に係る超音波センサの構成を示す図である。
【図5】本発明に係る超音波センサの構成を示す図である。
【図6】本発明に係る圧電素子の分極方法の概略を示す図である。
【図7】本発明に係る超音波センサの構成を示す図である。
【図8】本発明に係る超音波センサの構成を示す図である。
【図9】本発明に係る超音波センサの構成を示す図である。
【図10】本発明に係る超音波センサの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1a、1b 超音波センサ
2a、2b 送信部
3a、3b 受信部
4a、4b 受信部(分極反転)
5 圧電基板
6 GND電極
7 電極
8 電極
9 絶縁保護層
10 血流速度センサ
11 センサ支持部材
12 GND電極
13 電極
14 分離溝
15 分離溝
16 分離溝
17 圧電素子支持部材
18 圧電体分極方向
19 接着層
21a、21b 発振回路
23a、23b 差動増幅回路
24a、24b 検波・フィルタ回路
25a、25b 後段増幅回路
26a、26b A/D変換器
27 増幅回路
28 フィルタ回路
29 A/D変換器
31a、31b バッファメモリ
41 主記憶部
44 デジタル入力部
45 周波数解析部
46 角度演算部
47 エラー判定部
48 流速算出部
49 データ補完部
50 超音波計測部
51 流速算出部
71 生体(指先)
72 動脈血管
78 送信波
79 反射波
81 分極用直流電源
82 分極用直流電源
83 圧電体分極方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を流れる血液に向けて超音波を送信する送信部と、
前記超音波が前記生体により反射されてくる反射波を受信して前記反射波に対応する信号を出力する第1受信部及び第2受信部と、
前記第1受信部により受信された前記信号の振幅と、前記第2受信部により受信された前記信号の振幅との差分を増幅する差動増幅部と、
前記差動増幅部により増幅された前記信号の周波数と前記送信部により送信された前記超音波の周波数との差分をドップラシフト周波数として算出するドップラシフト周波数算出部と、
前記送信部により送信された前記超音波の周波数、及び前記ドップラシフト周波数算出部により算出された前記ドップラシフト周波数に基づいて、前記血液の流速を算出する流速算出部とを備え、
前記第1受信部及び前記第2受信部のそれぞれは、互いに逆相となる信号を出力することを特徴とする生体情報算出装置。
【請求項2】
前記第1受信部は、前記信号を出力する第1圧電体を備え、
前記第2受信部は、前記信号を出力する第2圧電体を備えており、
前記第1圧電体及び前記第2圧電体のそれぞれは、前記信号の振幅方向を決定する分極方向が他の圧電体の分極方向とは逆である請求項1に記載の生体情報算出装置。
【請求項3】
前記第1圧電体及び前記第2圧電体は、一体に形成されている請求項2に記載の生体情報算出装置。
【請求項4】
前記第1圧電体と前記第2圧電体との境界部分には溝が形成されている請求項3に記載の生体情報算出装置。
【請求項5】
前記送信部は、前記超音波を発生する第3圧電体を備え、
前記第1圧電体、前記第2圧電体及び前記第3圧電体は、一体に形成されている請求項3に記載の生体情報算出装置。
【請求項6】
前記第3圧電体は、前記第1圧電体の隣に配置されており、
前記第1圧電体と前記第3圧電体との境界部分には溝が形成されている請求項5に記載の生体情報算出装置。
【請求項7】
超音波が生体により反射されてくる反射波を受信して前記反射波に対応する信号を出力する第1受信部及び第2受信部を備える生体情報算出装置において動作する生体情報算出方法であって、
前記第1受信部により受信された前記信号の振幅と、前記第2受信部により受信された前記信号の振幅との差分を増幅するステップと、
増幅された前記信号の周波数と送信された前記超音波の周波数との差分をドップラシフト周波数として算出するステップと、
送信された前記超音波の周波数、及び算出された前記ドップラシフト周波数に基づいて、前記血液の流速を算出するステップとを備え、
前記第1受信部及び前記第2受信部のそれぞれは、互いに逆相となる信号を出力することを特徴とする生体情報算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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