説明

生体情報計測装置

【課題】照射光のエネルギー吸収により誘起される非常に微弱な音響信号を高い精度で計測すること。
【解決手段】非侵襲の生体情報計測装置は、光源8と、光源で発生された特定波長成分を含む光を出射する照射部10と、特定波長成分に対して透過性を有するとともに被検体と照射部との間に配置され、被検体に存在する特定物質が光のエネルギーを吸収することにより生じる音響信号を検出する音響信号検出部11を備え、照射部から出射された光は、音響信号検出部を介して被検体に照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康管理や疾病の治療等のために、被検体の血液や細胞液などの体液あるいは生体組織に含まれる物質成分の濃度や物性情報を光音響分光学的に測定し分析する非侵襲の生体情報計測装置に関し、特に可視光、近赤外光、もしくは中間赤外光などを照射して、体液中や生体組織に含まれる水、グルコース、コレステロール、中性脂肪、ヘモグロビン、ビリルビン、コラーゲンなどの物質濃度、酸素や二酸化炭素などのガス濃度、及びアルコールや薬物などの濃度、あるいは皮膚癌や乳癌等の腫瘍、アトピー性皮膚炎、動脈硬化等に代表される生体組織の変性に関する生化学情報や物性情報等を非侵襲的に測定して正確な被検体の組織性状の定量分析あるいは定性分析を行うことができる非侵襲の生体情報計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体内に存在する物質の成分や濃度を測定するための代表的な従来装置例としては、血液中もしくは体液中のグルコース濃度(血糖値)を測定する血糖計がある。現在広く用いられている血糖計は、被検体の指や腕などの部位の一部に針を刺して採取した少量の血液サンプルを利用するもので、この採取した血液中のグルコースを化学反応させてその濃度を測定する。最も一般的なグルコース濃度の計測法としては、酵素電極を用いた方法がある。グルコース検知に使われる酵素は、グルコースオキシダーゼ(GOD)と呼ばれる酵素で、これを高分子膜などに固定化しておき、被検体物質中のグルコースがGOD固定化膜に接触することによって酸素が消費され、この酸素の変化を捕らえることでグルコース濃度を定量する。このような採血式の血糖計は携帯可能な大きさであり、糖尿病患者の血糖値の管理に利用されている。
【0003】
しかしながら、上記方法では採血のために指や腕などの一部に針を刺す必要があり被検者の皮膚を損傷するとともに苦痛を伴う。そのために、糖尿病患者の血糖値を厳密に管理するためには一日に5、6回以上の測定が望ましいにもかかわらず、現状では一日に2、3回程度の測定回数に留まっている。被検者の皮膚損傷や苦痛を軽減する目的で、微小な針やレーザを用いて痛みを伴わない程度の微小な穴を皮膚表面に開け微量の細胞間質液を採取して測定する方法や、皮膚表面に電圧や超音波を印加して皮膚の浸出透過性を良くし細胞間質液等の浸出液を抽出して測定する方法等が研究されているが、実用には至っていない。
一方、採血や細胞間質液の抽出を必要としない非侵襲のグルコース測定法としては、特公平3-47099号公報あるいは特公平5-58735号公報に示されているような近赤外光を利用した方法がある。ここで、波長帯域が380〜770nm程度の電磁波を可視光、770〜1,500nm程度の電磁波を近赤外光、1,500〜3,000nm程度の電磁波を中赤外光、3,000〜25,000nm程度の電磁波を遠赤外光とする。
【0004】
これらの公報には、被検体の皮膚表面などに異なる複数の波長の近赤外光を照射し、それらの検出信号を基準信号と測定信号とに分け、これらの値を演算処理することによりグルコース濃度を測定する方法が開示されている。上記方法において近赤外光の光源としては、タングステン・ハロゲンランプ等の白色光源から発せられる光を干渉フィルタ等の分光手段により所定の波長に分光する光源系や、単色光もしくはそれに近い半導体レーザ(LD)や発光ダイオード(LED)が用いられる。また、被検体を透過、拡散した近赤外光の検出器としては、フォトダイオード(PD)などの受光素子が用いられる。
【0005】
上記のような近赤外光、更には可視光を用いた生体物質の非侵襲分光分析は近年注目されている方法であり、中遠赤外光を用いた分光分析と比較して生体の構成要素として大部分を占める水の吸収が小さいために、水溶液系の分析が可能であることや、生体を透過する能力が高いという長所を有する。反面、分子振動に帰属する信号が中赤外光領域と比較すると100分の1程度と小さく、信号の帰属が特定しにくいという短所を有する。すなわち、近赤外領域において目的とする生体物質の信号を検知する場合、目的とする生体物質の濃度変化に対応する信号が非常に小さく、またその信号の帰属が明瞭でない場合が多いという問題を抱えている。
【0006】
もう一つの非侵襲のグルコース測定法としては、近赤外光などの光を被検体に照射し、被検体内のグルコースが前記照射光のエネルギーを吸収することによって生じる音響信号を検出する方法及び装置が米国特許第5,348,002号、特開平10-189公報、特開平11-235331公報に示されている。これらの公報で開示されている光音響分光技術では、一般的に音響信号の検出にマイクロフォンやジルコン−チタン酸鉛系セラミックス(PZT)等の圧電振動子が用いられる。しかしながら、被検体に損傷を与えないレベルの入射エネルギーによってグルコース等の物質より生じる音響信号は、非常に微弱であり、繰り返し測定による加算平均化などを行っても、なお被検体内のグルコース濃度等の測定に十分な信号検出能が得られないという問題がある。
【0007】
上記実施形態以外にも、被検体のコレステロール、中性脂肪、ヘモグロビン、ビリルビン、酸素量等を非侵襲的に計測する方法や装置が種々開発されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、照射光のエネルギー吸収により誘起される非常に微弱な音響信号を高い精度で計測することができる非侵襲の生体情報計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、光源と、前記光源で発生された特定波長成分を含む光を出射する照射部と、前記特定波長成分に対して透過性を有し、チタン酸鉛を含む圧電単結晶から形成される圧電素子を有するともに被検体と前記照射部との間に配置され、前記被検体に存在する特定物質が光のエネルギーを吸収することにより生じる音響信号を検出する音響信号検出部を備え、前記照射部から出射された光は、前記音響信号検出部を介して前記被検体に照射されることを特徴とする非侵襲の生体情報計測装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、照射光のエネルギー吸収により誘起される非常に微弱な音響信号を高い精度で計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係わる生体情報計測装置の実施形態の構成を示すブロック図である。
光源部8は、所望の一つもしくは複数の単色光あるいはそれに近い光を発生する。光源部8で放射された光が複数の場合には、必要に応じて光合波・導波部9で同一光軸に重ね合わせる。そして、光源部8から放射された光、もしくは光合波・導波部9で合波された光は、光ファイバ、薄膜光導波路、あるいは自由空間等で構成される前記光合波・導波部9の一部により照射部10へ導かれ、照射部10より被検体14の所望の部位へ照射される。また、光源部8は、放射する各単色光あるいはそれに近い光の放射強度に比例した電気的な参照光信号16を発生する。
【0012】
光の照射により被検体内で生じた音響波は、音響信号検出部11で検出され、電気信号に変換される。電気的な音響信号と前記参照光信号16は、信号増幅部12において所望の振幅に増幅され、データ収集部7に送られる。
【0013】
音響信号検出部11は少なくともチタン酸鉛を含む固溶系圧電単結晶(a solid solution piezoelectric single crystal (または、a piezoelectric member constituted a solid-solution based single crystal))を用いた圧電素子により構成される。
【0014】
圧電単結晶は、例えば出発原料としてPbO、ZnO、Nb2O5、TiO2を用い、亜鉛ニオブ酸鉛(zinc lead niobate, Pb[Zn1/3Nb 2/3]O3 )(PZN)とチタン酸鉛 (lead titanate, PbTiO3 ) (PT)とが91:9のモル比で秤量し、1260℃の温度まで5時間で昇温し、0.8℃/hrの速度で800℃まで徐冷した後、室温まで冷却することにより得られる。その後、前記単結晶をラウエカメラ(Laue camera)を用いて〈001〉軸の方位を出し、この軸に垂直にカッターで切断する。0.2〜5mmの厚さに研磨後、スパッタ法(sputter method)によりTi/Au電極を両主面に形成する。次に単結晶をシリコーンオイルに浸して200℃に上げた後、1kV/mmの電界を印加したまま40℃まで冷却して分極処理を施す。このようにして得られた振動子をダイシングソー(dicing saw)を用いて5〜10mm角に形状加工し、音響信号検出部として用いる。以下、このようにして得られた単結晶をPZNT単結晶と呼ぶことにする。このPZNT単結晶の電圧出力係数g33は約43x10-3Vm/Nであり、音響信号検出に一般的に用いられている圧電セラミクスのg33 = 25x10-3Vm/Nなる値に比べ約1.7倍も大きく、より高い音響信号検出感度が得られる。
【0015】
照射部10、音響信号検出部11、温度制御部13、及び接触感知センサ15は被検体14と接するインタフェース部17を構成する。温度制御部13は前記被検体14の所望の測定部位近傍に配置され、測定部位の温度を制御する。温度制御部13に用いる温度制御素子としては,ペルチェ素子のような,印加電流や印加電圧を可変することにより温度制御可能な熱電変換デバイスを用いることができる。例えば、ペルチェ素子により測定部位の温度を所望の温度、例えば20℃〜40℃の範囲で一定の温度に制御する。光音響計測は測定温度条件に影響を受けるので、前記のような温度制御部13を設けることにより被検体14の測定部位の測定温度条件を一定に保つことができ、測定精度を向上させることができる。
また、被検体14の測定部位とインタフェース部17の接触度も光音響計測に影響を与える。接触感知センサ15は前記被検体14の測定部位とインタフェース部17の接触度(接触圧力)を検出し、被検体14の測定部位とインタフェース部17の接触度が所望の条件になった時に測定を行うように測定を制御する。例えば、インタフェース部17を測定部位に当てる際に、接触検知センサ15を動作状態にしておき、接触度を検知しながらインタフェース部17を測定部位に近づけていき、接触度が定められた正常範囲に入ったらインタフェース部17を測定部位に近づける動作を停止させて測定動作(照射光の照射)を開始するようにする。また、インタフェース部17に接触する物体がない場合に制御部3において前記照射部10より当該装置外部に照射光を放射しないよう制御することにより、照射光による生体の眼球損傷等の危険を回避することも可能となる。前記前記接触感知センサ15としては、例えば圧力や電気抵抗の変化から測定部位の接触度を検知する素子を用いることができる。
また、インタフェース部17には、被検体14の測定部位とインタフェース部17の接触度を調整する接触度調整機構18を設け、接触感知センサ15の信号によりその接触度を調整することができる。その接触度を調整する機構18としては、機械的にインタフェース部17、あるいはその一部を可動させるようにしても良いし、圧電体の変位を利用する機構とすることもできる。また、接触感知センサ15により検知された接触度が過度に高い場合は、被検体14の測定部位に対して過度に強い刺激あるいは損傷も考えられるので、それらの危険を回避するために照射光の照射停止等測定動作自体を停止させて安全性を確保するようにする。その際、制御部3は、測定動作停止に連動させてインタフェース部17を測定部位から離すように接触度調整機構18を制御することでさらに安全性を高めることができる。このように、接触感知センサ15により検知された接触度に応じて、検知値が定められた正常範囲に無い場合は、安全性を確保すべく接触度を調整したり、照射光の照射停止等測定自体を停止する制御を行う。
【0016】
前記データ収集部7に送られた電気信号は、データ収集部7においてデジタル信号に変換され収集される。収集されたデジタル信号は、信号処理部6において所望の信号処理が行われ、その結果はデータ記憶部4に保存されると共に、必要に応じて表示部1に所望の情報が表示される。表示部1の情報表示方法は、画面への表示などによる視覚情報伝達手段の他にも、音声などによる聴覚情報伝達手段、あるいは振動などによる触覚情報伝達手段などを用いることもできる。更には、それら複数の手段を併用することも可能である。当該装置の操作は操作部2より行う。操作の方法としては、キーボード、マウス、ボタン、タッチキーパネル、音声など当該装置の使用者に適した所望の操作手段を用いることができる。
制御部3は、当該装置の使用者が操作する操作部2の信号や接触感知センサ15の出力信号等に基づき、表示部1、データ記憶部4、電源部5、信号処理部6、データ収集部7、光源部8、信号増幅部12、温度制御部13などの当該装置の動作を制御する。また、電源部6は、表示部1、制御部3、光源部8、信号増幅部12などへ電力を供給し、更に制御部3は、必要に応じてデータ記憶部4、信号処理部6、データ収集部7、接触感知センサ15などへ電力を供給する。
本実施形態の光源部9において使用する単色光あるいはそれに近い光を発生させる光源としては、半導体レーザ(LD)や発光ダイオード(LED)等の小型の発光素子が望ましく、所望の波長で発光するそれらの素子を一つもしくは複数使用することができる。
例えば、本発明に関わる一実施形態として被検体内のグルコース濃度を測定する場合には、波長が400〜2,500nmの範囲内にある複数の光を照射する。この際に使用するLDやLEDとしては、発光波長が550〜650nm程度ではInGaAlP、発光波長が650〜900nm程度ではGaAlAs、発光波長が900〜2,300nm程度ではInGaAsもしくはInGaAsPなどの材料を用いたLDやLEDを使用することができる。また最近では、波長が550nm以下で発光する InGaNを用いた発光素子も使用可能になりつつある。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係わる光源部8、及び光合波・導波部9の構成例を図2に示す。4個の光源(20−1、20−2、20−3、20−4)はそれぞれ異なる波長の光を放射する。また、放射される光の強度や変調周波数は、制御部からの信号によって前記各光源に印加する電流量を可変することによって制御する。各々の波長の光は、コリメートレンズ (collimate lens)(21−1、21−2、21−3、21−4)により平行光線にし、更にNDフィルタ(22−1、22−2、22−3、22−4)により所望の光強度にされる。そして、直角プリズム(right-angle prism)23及びダイクロイックプリズム(dichroic prism)(24−1、24−2、24−3)により4波長の光を同一光軸に重ね合わせる。重ね合わせられた光はビームスプリッタ (beam splitter)28により2つに分割され一方は出力光29とし、他方は参照光として参照光用NDフィルタ27とフォーカスレンズ26を介して参照光用光検出器25に入射する。参照光用光検出器25は、入射した光信号を電気信号に変換して参照光信号16を発生する。
本実施形態では、4個の光源の場合を示しているが、同様な構成により任意の光源数の光を同一光軸に合波することが可能である。本実施形態に示したような構成とすることにより、比較的小型の合波光学系とすることができる。また、本実施形態以外にも光通信用に開発されている市販の多重波長合波・分波器を用いることもできる。更に、出力光29は空間伝搬により照射部10へと導いても良いし、或いは光ファイバや薄膜光導波路を介して照射部へと導くことも可能である。
照射部10より被検体14に照射するビームの大きさとしては、例えば直径0.4mm程度のほぼ均一な光強度分布を有する円形状のビームを用いる。また、照射する光強度は、被検体の生体組織に損傷を与えない程度とし、例えばレーザ光を用いる場合にはJIS C 6802 「レーザ製品の放射安全基準」に規定されている最大許容露光量(MPE)以下の強度とする。
【0018】
図3は、本発明に係わる生体情報計測装置の第2の実施形態の構成を示す図である。音響信号検出部11には上述のPZNT単結晶30を用いる。PZNT単結晶は可視光から赤外領域の波長において透過性が高く、その透過率は波長400〜6,000nmの光に対して約70%である。電極31としては、例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等に用いられているITO (Indium Tin Oxide, In2O3(Sn))等の透明導電性物質を用い、両主面にスパッタ法(sputter method)により形成する。さらに被検体14(生体)との音響インピーダンスの整合をとるために、音響整合層32、33を形成する。音響整合層には例えば光学的に透明なエポキシ樹脂 (epoxy resin)等を用い、第1音響整合層32には約7x106kg/m2sの音響インピーダンスを有する樹脂を、第2音響整合層 33には約3x106kg/m2sの音響インピーダンスを有する樹脂を夫々用いる。
【0019】
音響信号検出部の被検体14との接触部には薄い保護膜34を形成すると、信号検出部の信頼性が向上する。この保護膜34にも、光学的に透明なシリコーン樹脂を用いる。このような構造とすることで、音響信号検出部11を光学的に透明に構成することができ、照射部より照射するビームを音響信号検出部11を透過して被検体14に照射することが可能となる。
【0020】
このとき、照射光が通過するPZNT単結晶30、音響整合層32、33、及び保護膜34の屈折率は等価であるかもしくは類似していることが望ましい。また、必要に応じて音響整合層33と保護膜34の間に被検体14の照射領域を制御するための対物レンズや光導波路を配置してもよい。照射部10より照射するビームを音響信号検出部11を透過して被検体14に照射することにより、照射部10と音響信号検出部11を一体的に構成することが可能となり、例えば複数個の測定系をマトリクス状に配列して測定する場合など、集積度を増加させることができる。また、ビーム照射位置と音響信号検出位置が同一となるので、音響信号の検出効率を高める事ができ測定精度も向上する。
【0021】
つまり、図4に示すように、音響整合層33と保護膜34の間に、被検体14の照射領域を制御するための前後移動可能な対物レンズ35、又は光導波路を配置してもよい。照射部10より照射するビームを音響信号検出部11を透過して被検体14に照射することにより、照射部10と音響信号検出部11を一体的に構成することができ、装置の小型化が可能になる。
【0022】
それにより、図5に示すように、複数の音響信号検出部11を複数の照射部10とともに、高い集積度で、平面的に(例えば、マトリクス状に)配列することが可能となる。このような配列構造により、複数の音響信号検出部11で検出された検出位置の異なる複数の生体情報アイテムに基づいて、制御部3において、2次元又は3次元で、生体情報の空間分布、例えばグルコースやヘモグロビンの被検体内濃度分布を生成することができる。また、複数の音響信号検出部11を平面的に配列したので、ビーム照射位置と音響信号検出位置との距離を一定に保つことができる。したがって、その距離を最適化して音響信号の検出効率を最大化することができ、測定精度も向上する。
【0023】
その他、2次元又は3次元の生体情報の空間分布を得るには、照射部10を複数設ける代わりに、照射部10を移動させる移動機構を設け、複数の音響信号検出部11を、図5に示すように、アレイ状にすることにより、移動機構により照射部10を移動させて光の照射位置を変更させて異なる検出位置(2次元又は3次元的位置)での生体情報を検出するようにすればよい。アレイ状の音響信号検出側は、全ての音響信号検出部11を信号検出可能にしておくか、あるいは光の照射位置の変更に応じて信号検出可能な音響信号検出部11を切り換えて信号を検出するようにすればよい。また、照射部10および音響信号検出部11を移動させる移動機構を設け、移動機構により照射部10を移動させて光の照射位置を変更させ、その変更に応じて音響信号検出部11も移動させることにより異なる検出位置(2次元又は3次元的位置)での生体情報を検出するようにしてもよい。
【0024】
以上のように本実施形態によれば、音響信号検出器を、チタン酸鉛を含む固溶系圧電単結晶を用いた透明性を有する圧電素子で構成することにより、光照射部と被検体との間に音響信号検出器を配置することができる。それにより、光を被検体に垂直に照射し、それとともに、被検体からの音響を圧電素子で垂直に受けることができ、したがって音響信号の検出効率を高めると共に高感度に検出することが可能となり、測定精度を向上させることができる。また、照射部と音響信号検出部を一体的に構成でき装置小型化を実現することができる。
【0025】
図6に本発明に係わる生体情報計測装置の第3の実施形態の構成を示す図である。本実施形態では、光源40−1、40−2、40−3より放射される複数の波長の光を光合波部41によって同一光軸に合波し、光ファイバ42を介して光分波・光スイッチ部43にて所望の数に合波された光を分波又は分岐すると共に、光照射・音響信号検出部44への照射光を伝搬させるか否かを制御する。光照射・音響信号検出部44は前記本発明の第2の実施形態で示した照射部10より照射するビームを透過して被検体14に照射可能な音響信号検出部11を複数有しており、信号増幅部12において所望の信号強度に増幅された後、サンプルホールド&マルチプレクサ45及びデータ収集部7において同時に全ての音響信号検出器からの音響信号を収集することもできるし、一部の音響信号検出器の音響信号のみを収集することもできる。収集した音響信号は信号処理部6において適時処理され、被検体の組織性状の定量分析あるいは定性分析に用いられる。図6に示す生体情報計測装置により2次元又は3次元の生体情報の空間分布を得るには、例えば次のようにすればよい。光分波・光スイッチ部43により、複数の光ファイバ42のうちの照射光を伝搬させる光ファイバを選択的に切り換えて、光の照射位置を変更するようにする。そして、音響信号検出部44は、図5に示すように、複数の音響信号検出部をアレイ状にすることにより、異なる検出位置(2次元又は3次元的位置)での生体情報を検出する。あるいは、光分波・光スイッチ部43により、複数の光ファイバ42のうちの照射光を伝搬させる光ファイバを選択的に切り換えて、光の照射位置を変更するようにするとともに、音響信号検出部を移動させる移動機構を設け、光分波・光スイッチ部43による光照射位置の変更に応じて移動機構が音響信号検出部を移動させるようにして、異なる検出位置(2次元又は3次元的位置)での生体情報を検出するようにしてもよい。このようにして、検出された、異なる位置(2次元又は3次元的位置)での生体情報に基づいて、信号処理部6において、2次元又は3次元の生体情報の空間分布、例えばグルコースやヘモグロビンの被検体内濃度分布を生成することができる。
【0026】
図8は、本発明に係わる生体情報計測装置の第4の実施形態の構成を示す図であり、図7は音響信号検出部11や光照射・音響信号検出部44に用いる複合圧電体の構造を示した図である。まず図7に示す複合圧電体について説明する。はじめに、前述の如くPZNT単結晶ウェハを作製する。厚さ0.5〜5mm程度に研磨し、単結晶をダイシングソーで、0.1〜0.6mm厚のブレードにより、0.5〜1mmピッチで低部50mm程度を切り残す深さの溝をアレイ状に入れた後、エポキシ樹脂を切断溝に充填して硬化させた。なお、用いたエポキシ樹脂の音響インピーダンスは、3x106kg/m2sであり、光学的に透明な樹脂を使用した。次に、先の切断溝に対して直角に同様の切断溝を形成して同様なエポキシ樹脂を充填し、硬化させた。その後、切り残し部を研磨除去し、両面にITO電極をスパッタにより形成して複合圧電体とした。図7に示す複合圧電体は1−3型構造と呼ばれ、樹脂50の母相に圧電体柱30がマトリクス状に配置された構造となっている。この状態で電気機械結合係数を測定したところ85%となり、極めて大きな値が得られる。このように、PZNT単結晶の圧電素子と樹脂を組み合せて複合圧電体とすることにより、さらに感度を向上させることができる。
【0027】
図8に示すように、複数の圧電素子30の共通電極31の背面には、音響整合層32、33、保護膜34が積層される。音響整合層32、33及び保護膜34を形成する。これらは第2の実施形態と同様に光学的に透明な樹脂を用いる。このような構造にすることで、音響信号検出部11や光照射・音響信号検出部44を光学的に透明に構成することができ、照射部より照射するビーム29を音響信号検出部11や光照射・音響信号検出部44を透過して被検体14に照射することが可能となる。また、光学的に不透明なPZTセラミクスを圧電体部30に用いても良い。この場合は、照射部より照射するビームは、複合圧電体の樹脂部50を透過して被検体14に照射する。
【0028】
本実施形態では、以上の方法で1−3型複合圧電体を作製したが、作製方法はこれに特定する必要はない。例えば、単結晶を最初からフルカットしても良いし、最初からマトリクス状にカットして、その後樹脂を充填しても良い。また、切り残し部を完全に除去しなくても良い。以上のことは2−2型構造においても同様である。さらに、本実施形態のようにエポキシ樹脂を2段階に分けて充填する場合は、その種類を変えても良い。複合圧電体を作製後、再分極処理を施しても良い。
【0029】
以上、圧電単結晶は、亜鉛ニオブ酸鉛とチタン酸鉛の固溶系についての実施形態や比較例を示したが、Znの代わりにMg、Ni、Sc、In、Ybの少なくとも一部を用いた場合、またNbを一部Taで置換したものでも同様の結果が得られる。
【0030】
また、圧電単結晶はフラックス法(flux method)、ブリッジマン法(Bridgman method)やキロプーロス法(溶融引き上げ法)(Kyropoulous method(a melt pulling method))、ゾーンメルティング法(zone melting method)、水熱育成法(hydrothermal growth method) などで作製してもよい。
【0031】
前記実施形態では、電極をスパッタ法により形成したが、焼き付け法(a baking method)や蒸着法(a vapor deposition method)を用いてもよい。前記樹脂と圧電体により形成される複合圧電体は、圧電単結晶30と複合圧電体樹脂部50の光学的な屈折率と透過率を等価にするかもしくは類似させ、前記照射光は複合圧電体の任意の場所を透過して前記被検体に照射できるようにしてもよい。
【0032】
また、光ファイバ42を採用しないで、図9に示すように、圧電素子30と樹脂部50との複合圧電体の直上に照射部10を配置するようにしても良い。
【0033】
また、図10に示すように、複数の圧電素子30を稠密に配列し、光照射経路上の部分だけ透明樹脂50で形成するようにしても良い。より具体的な生体情報計測の例として、被検体14内のグルコース濃度を非侵襲的に計測する場合を以下に示す。まず、被検体14に存在する所望の分子由来の音響信号を得るため、被検体14の皮膚表面にグルコース分子や水分子等の吸収スペクトル帯にある波長が400〜2,500nmの複数波長の光(電磁波)を個別にパルス的に印加する。その時、各々の光は前記インタフェース部17の一部を構成する照射部10を介して被検体14に照射される。この時、被検体14に照射された各々の光のエネルギーを吸収した所望の分子は音響信号を発生する。ここで、少なくとも前記所望の分子由来の音響信号の一つはグルコース分子由来の音響信号であるとする。音響信号は被検体14の皮膚表面部(例えば、指の関節位置の表皮に近いところに血管が通っている部分)において音響信号検出部11によって検出される。それらの信号は信号処理部6において処理され、グルコース分子由来の音響信号が抽出され、その信号強度から被検体14内に存在するグルコース濃度が算出される。
【0034】
グルコース濃度以外にも、例えば、血液中のヘモグロビンに特徴的な吸収帯をもつ電磁波(望ましくは、500〜1600nmの領域から選択された1つ以上の波長の光)を印加することによって被検体内の血管血液の分布を測定することもできるしすることができ、例えば癌組織など血液の含有量の多い生体内の変性組織を識別することが出来る。或いは、水分子の吸収体の電磁波を印加することによって被検体組織の含水量を測定することもできる。
【0035】
本発明は、上記以外にも種々変形して実施可能であり、例えば、音響信号検出部11や光照射・音響信号検出部44の近傍にフォトダイオード等の光検出器を配置する事により、照射光が被検体14の表面や内部で散乱や反射して戻ってくる光信号を音響信号と同時に計測し、音響信号と共にその光信号の情報を被検体の組織性状の定量分析あるいは定性分析に用いることもできる。
【0036】
以上詳述したように本発明によれば、音響信号を少なくともチタン酸鉛を含む固溶系圧電単結晶を用いた圧電素子により検出することで高感度に検出することが可能となる。さらに圧電単結晶を樹脂との複合圧電体とすることでより感度を向上させることができる。また、圧電単結晶は可視光から赤外領域の波長において透過性が高く、透明導電性物質を電極に用いて、また音響整合層にも光学的に透明なエポキシ樹脂等を用いて、音響信号検出部を光学的に透明に構成することにより、照射部より照射するビームを音響信号検出部を透過して被検体(生体)に照射することが可能となり、照射部と音響信号検出部を一体的に構成でき装置をコンパクトにできる。また、音響信号の検出効率を高める事ができ、測定精度も向上する。
【0037】
(変形例)
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係わる生体情報計測装置の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係わる光源部8、及び光合波・導波部9の構成を示す図である。
【図3】本発明に係わる生体情報計測装置の第2の実施形態の構成を示す図である。
【図4】第1実施形態において、対物レンズを有する音響信号検出部の断面図である。
【図5】第1実施形態において、音響信号検出部アレイの斜視図である。
【図6】本発明に係わる生体情報計測装置の第3の実施形態の構成を示す図である。
【図7】音響信号検出部11や光照射・音響信号検出部44に用いる複合圧電体の構造を示した図である。
【図8】本発明に係わる生体情報計測装置の第4の実施形態の構成を示す図である。
【図9】本実施形態において、他の音響信号検出部の断面図である。
【図10】本実施形態において、他の音響信号検出部の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…表示部
2…操作部
3…制御部
4…データ記憶部
5…電源部
6…信号処理部
7…データ収集部
8…光源部
9…光合波・導波部
10…照射部
11…音響信号検出部
12…信号増幅部
13…温度制御部
14…被検体
15…接触感知センサ
16…参照光信号
17…インタフェース部
20−1…光源1
20−2…光源2
20−3…光源3
20−4…光源4
21−1…コリメートレンズ1
21−2…コリメートレンズ2
21−3…コリメートレンズ3
21−4…コリメートレンズ4
22−1…NDフィルタ1
22−2…NDフィルタ2
22−3…NDフィルタ3
22−4…NDフィルタ4
23…直角プリズム
24−1…ダイクロイックプリズム1
24−2…ダイクロイックプリズム2
24−3…ダイクロイックプリズム3
25…参照光用光検出器
26…フォーカスレンズ
27…参照光用NDフィルタ
28…ビームスプリッタ
29…出力光
30…圧電素子
31…透明電極
32…第1音響整合層
33…第2音響整合層
34…保護膜
40−1…光源1
40−2…光源2
40−3…光源3
41…光合波部
42…光ファイバ
43…光分波・光スイッチ部
44…光照射・音響信号検出部
45…信号線
45…サンプルホールド&マルチプレクサ
50…複合圧電体樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源で発生された特定波長成分を含む光を出射する照射部と、
前記特定波長成分に対して透過性を有し、チタン酸鉛を含む圧電単結晶から形成される圧電素子を有するともに被検体と前記照射部との間に配置され、前記被検体に存在する特定物質が光のエネルギーを吸収することにより生じる音響信号を検出する音響信号検出部を備え、
前記照射部から出射された光は、前記音響信号検出部を介して前記被検体に照射されることを特徴とする非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項2】
前記圧電単結晶は、x=0.05〜0.55、B1がZn,Mg,Ni,Sc,In,Ybの何れか、B2がNbまたはTaとして、Pb[(B1、B2)1−XTi]Oであることを特徴とする請求項1記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項3】
前記圧電素子は、前記特定波長成分に対して透過性を有することを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項4】
前記音響信号検出部は、複数の圧電素子が平面的に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項5】
前記音響信号検出部は、前記特定波長成分に対して30%以上の透過率を有することを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項6】
前記特定波長は、600〜5,000nmの範囲に含まれることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項7】
前記圧電素子の両主面には、前記特定波長成分に対して透過性を有する透明電極が形成されることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項8】
前記音響信号検出部は、前記圧電素子及び樹脂から形成される複合圧電体からなることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項9】
前記音響信号検出部は、前記圧電素子間のギャップに樹脂を重鎮することにより形成されることを特徴とする請求項5に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項10】
前記樹脂は、前記特定波長成分に対して透過性を有することを特徴とする請求項8または9に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項11】
前記圧電素子の光学的な屈折率及び透過率は、前記樹脂の光学的な屈折率及び透過率と略等価であることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項12】
前記被検体の測定部位の温度を制御する温度制御部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項13】
前記被検体に対する前記音響信号検出部の接触を感知するセンサをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項14】
前記センサにより感知された接触度に応じて、前記音響信号検出部を移動する接触度調整機構又は前記照射部からの光照射を停止する機構をさらに備えることを特徴とする請求項13に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項15】
複数の前記音響信号検出部が平面的に配列されることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項16】
前記特定物質はグルコースであり、前記照射光は、少なくとも400〜2,500nmの領域から選択された全領域又は一部の領域からなる一種類以上の波長の光であることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。
【請求項17】
前記特定物質はヘモグロビンであり、前記照射光は、少なくとも500〜1,600nmの領域から選択された全領域又は一部の領域からなる一種類以上の波長の光であることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲の生体情報計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−191160(P2008−191160A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32310(P2008−32310)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【分割の表示】特願2002−317801(P2002−317801)の分割
【原出願日】平成14年10月31日(2002.10.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】