説明

生体材料吐出装置

【課題】タンパク質の吸着を未然に防止し、液滴に含まれるタンパク質量を確保することが可能な生体材料吐出装置を提供する。
【解決手段】生体材料を溶解、分散した液体を液滴として吐出するノズル31と、ノズル31に連通し且つノズル31から吐出される液体を加圧するキャビティ32と、キャビティ32に連通し且つキャビティ32に供給される液体を貯留するリザーバ33と、リザーバ33に液体を供給する供給路と、振動板35を変位させてキャビティ32の容積を拡大縮小させるノズルアクチュエータ22と、ノズルアクチュエータ22を駆動制御する制御装置とを備え、ノズル31及びノズル31の近傍、キャビティ32、リザーバ33、供給路の液体の接する部分に、生体高分子を吸着しない表面処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料を溶解、分散した液体を、微小な液滴としてノズルから吐出する生体材料吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出ヘッドを利用する液滴吐出型印刷装置は、家庭用の印刷装置として開発された技術であり、微小液滴を高精度に吐出することができる。この種の液滴吐出ヘッドの利点は、必要な量の液滴を、必要な部分だけに吐出、着弾させるところであり、印刷装置に止まらず、工業、医療の分野でも使用され、省エネルギー、省資源など環境負荷低減にも有効である。
液滴吐出ヘッドに代表される液滴吐出装置は、液滴を吐出するノズル、ノズルに連通し且つノズルから吐出される液体を加圧する圧力室、圧力室に連通し且つ圧力室に供給される液体を貯留する貯留室、貯留室に液体を供給する供給路、振動板を変位させて圧力室の容積を拡大縮小させるノズルアクチュエータ、ノズルアクチュエータを駆動制御する制御装置などを備えて構成される。
【0003】
一方、近年、医療分野における様々なテーマで微小液滴制御技術が用いられている。近年の応用分野として、タンパク質溶液の微量定量吐出や、細胞を吐出し、人工的に組織、臓器を作り上げる再生分野などへの応用も行われている。例えば、下記特許文献1に記載される微小液滴吐出装置は、市販の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドを用い、DNAやタンパク質などの生体材料を溶解、分散した液体を液滴吐出ヘッドのノズルから吐出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−58304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載される生体材料吐出装置では、生体材料の吸着を防止する対策がなされていない。生体材料は、ヘッド構成材料などの異物に接すると、材料中のタンパク質が壁面に吸着する性質がある。そのため、液滴に含まれるタンパク質量は、本来調製した状態と、実際に吐出される状態とが大きく異なってしまう。そのため、最終的なマイクロアレイに吐出される生体材料の状態も設計値から大きく外れ、評価結果に大きな影響を与える。
本発明は、これらの諸問題に着目して開発されたものであり、タンパク質の吸着を未然に防止し、液滴に含まれるタンパク質量を確保することが可能な生体材料吐出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記諸問題を解決するため、本発明の生体材料吐出装置は、生体材料を溶解、分散した液体を液滴として吐出するノズルと、前記ノズルに連通し且つ前記ノズルから吐出される前記液体を加圧する圧力室と、前記圧力室に連通し且つ前記圧力室に供給される前記液体を貯留する貯留室と、前記貯留室に前記液体を供給する供給路と、振動板を変位させて前記圧力室の容積を拡大縮小させるノズルアクチュエータと、前記ノズルアクチュエータを駆動制御する制御装置とを備え、前記ノズル及びノズルの近傍、前記圧力室、前記貯留室、前記供給路の液体の接する部分に、生体高分子を吸着しない表面処理を施したことを特徴とするものである。
この生体材料吐出装置によれば、ノズル及びノズルの近傍、圧力室、貯留室、供給路の液体の接する部分に、生体高分子を吸着しない表面処理を施したことにより、タンパク質の吸着を未然に防止し、液滴に含まれるタンパク質量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の生体材料吐出装置の一実施形態を示す概略構成全体図である。
【図2】図1の生体材料吐出ヘッドのノズル近傍の縦断面図である。
【図3】図1の生体材料吐出装置の制御装置のブロック図である。
【図4】図1の生体材料吐出ヘッド内のノズルアクチュエータを駆動する駆動信号の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の生体材料吐出装置の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の生体材料吐出装置の概略構成図であり、医療分野にて、生体材料を溶解、分散した液体を微小液滴として吐出するものである。生体材料が吐出される吐出試料1は搬送部の搬送テーブル2に載置固定され、吐出試料1を搭載した搬送テーブル2は搬送レール3に沿って図の右手前から左奥方に往復搬送される。搬送レール3の長手方向中間部上方には、キャリッジ搬送軸4が当該搬送レール3を横切るように横架されており、キャリッジ搬送軸4を支持する支持脚5は搬送レール3の長手方向側方に固定されている。このキャリッジ搬送軸4には、搬送レール3を横切る方向に摺動自在にキャリッジ6が取付けられており、このキャリッジ6に生体材料吐出ヘッド12が搭載されている。従って、前記搬送テーブル2や搬送レール3、キャリッジ搬送軸4及びそれらを駆動するアクチュエータが本実施形態の搬送部を構成する。
【0009】
図2には、生体材料吐出ヘッド12のノズル近傍の縦断面を示す。図中の符号31が、キャリッジ6の下面のノズル面に開設されたノズルである。ノズル31には、吐出する液体を加圧するためのキャビティ(圧力室)32が連設されており、このキャビティ32の上面に振動板35を介してノズルアクチュエータ22が取付けられている。キャビティ32には、液体を貯留するためのリザーバ(貯留室ともいう)33が連設されており、このリザーバ33に液体タンクからチューブを経て吐出液体が供給される。このチューブが本発明の供給路を構成する。
【0010】
生体材料吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出する方法としては、静電方式、ピエゾ方式、膜沸騰液滴吐出方式などがあり、本実施形態ではピエゾ方式を用いた。ピエゾ方式は、ノズルアクチュエータである圧電素子に駆動信号を与えると、キャビティ(圧力室)32の振動板35が変位してキャビティ32内に圧力変化を生じ、その圧力変化によって液滴がノズルから吐出されるというものである。そして、駆動信号COMの波高値や電圧増減傾きを調整することで液滴の吐出量を調整することが可能となる。なお、本発明は、ピエゾ方式以外の液滴吐出方法にも、同様に適用可能である。
【0011】
この生体材料吐出装置内には、自身を制御するための制御装置が設けられている。この制御装置は、図3に示すように、パーソナルコンピュータ等のホストコンピュータ60から入力されたデータに基づいて、搬送部17や生体材料吐出ヘッド12等を制御することにより吐出試料1に生体材料の微小な液滴吐出処理を行うものである。そして、ホストコンピュータ60から入力されたデータを読込むための入力インタフェース61と、この入力インタフェース61から入力されたデータに基づいて液体吐出や搬送のための演算処理を実行するマイクロコンピュータで構成される制御部62と、前記搬送部17を駆動制御する搬送部ドライバ63と、生体材料吐出ヘッド12を駆動制御するヘッドドライバ65と、搬送部ドライバ63、ヘッドドライバ65と搬送部17、生体材料吐出ヘッド12とを接続するインタフェース67とを備えて構成される。
【0012】
図4には、本実施形態の生体材料吐出装置の制御装置から生体材料吐出ヘッド12に供給され、圧電素子からなるノズルアクチュエータを駆動するための駆動信号COM、駆動信号COMのタイミングを決定するラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHの一例を示す。本実施形態では、中間電位を中心に電位が変化する信号とした。この駆動信号COMは、ノズルアクチュエータを駆動して液滴を吐出する単位駆動信号としての駆動パルスPCOMを時系列的に接続したものであり、駆動パルスPCOMの立上がり部分がノズルに連通するキャビティ(圧力室)の容積を拡大して液体を引込む(液体の吐出面を考えればメニスカスを引き込むとも言える)段階であり、駆動パルスPCOMの立下がり部分がキャビティの容積を縮小して液体を押出す(液体の吐出面を考えればメニスカスを押出すとも言える)段階であり、液体を押出した結果、液滴がノズルから吐出される。
【0013】
この電圧台形波からなる駆動パルスPCOMの電圧増減傾きや波高値を種々に変更することにより、液体の引込量や引込速度、液体の押出量や押出速度を変化させることができ、これにより液滴の吐出量を変化させて異なる大きさの液滴を得ることができる。従って、複数の駆動パルスPCOMを時系列的に連結する場合でも、そのうちから単独の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエータに供給し、液滴を吐出したり、複数の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエータに供給し、液滴を複数回吐出したりすることで種々の大きさの液滴を得ることができる。即ち、液滴が乾かないうちに複数の液滴を同じ位置に着弾すると、実質的に大きな液滴を吐出するのと同じことになり、液滴の大きさを大きくすることができるのである。
【0014】
そして、本実施形態では、生体材料を液滴として吐出するために、前記ノズル31の内部、ノズル31の外側の近傍、キャビティ32の内壁、振動板35の液体側、リザーバ33の内壁、液体タンクの内部、液体タンクからリザーバ33に液体を供給する供給路、即ちチューブの内壁の全てに、生体高分子、例えばタンパク質の吸着を防止する表面処理を施した。生体高分子の吸着を防止する表面処理の材料としては、ホスホリルコリンやジメチルシロキサンなどが挙げられる。そして、これらの生体高分子吸着防止材料でキャビティ32の内壁などをコーティングする。なお、振動板35がキャビティ32の内壁をなさない場合には、振動板35に生体高分子吸着防止表面処理を施す必要はない。
【0015】
前述したように、タンパク質などの生体高分子は、異物に接すると吸着してしまう性質がある。そのため、液体の生体高分子量が設計値と変わってしまう。また、吸着された生体高分子は、洗ってもとれない。従って、生体材料からなる液体の内容を変更することもできなくなる。これに対し、本実施形態のように、生体材料が接する部分に、生体高分子吸着防止表面処理を施せば、タンパク質などの生体高分子が壁部に吸着されるのを防止することができるから、液体の生体高分子量を確保することができるし、使用後に内壁を洗えば、例えば生体材料からなる液体の内容を変更することもできる。
【0016】
このように本実施形態の生体材料吐出装置では、生体材料を溶解、分散した液体を液滴として吐出するノズル31と、ノズル31に連通し且つノズル31から吐出される液体を加圧するキャビティ32と、キャビティ32に連通し且つキャビティ32に供給される液体を貯留するリザーバ33と、リザーバ33に液体を供給する供給路と、振動板35を変位させてキャビティ32の容積を拡大縮小させるノズルアクチュエータ22と、ノズルアクチュエータ22を駆動制御する制御装置とを備え、ノズル31及びノズル31の近傍、キャビティ32、リザーバ33、供給路の液体の接する部分に、生体高分子を吸着しない表面処理を施したことにより、タンパク質の吸着を未然に防止し、液滴に含まれるタンパク質量を確保することができる。
【符号の説明】
【0017】
1は吐出試料、2は搬送テーブル、3は搬送レール、4はキャリッジ搬送軸、5は支持脚、6はキャリッジ、12は生体材料吐出ヘッド、31はノズル、32はキャビティ(圧力室)、33はリザーバ(貯留室)、65はヘッドドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体材料を溶解、分散した液体を液滴として吐出するノズルと、
前記ノズルに連通し且つ前記ノズルから吐出される前記液体を加圧する圧力室と、
前記圧力室に連通し且つ前記圧力室に供給される前記液体を貯留する貯留室と、
前記貯留室に前記液体を供給する供給路と、
振動板を変位させて前記圧力室の容積を拡大縮小させるノズルアクチュエータと、
前記ノズルアクチュエータを駆動制御する制御装置と、
を備え、
前記ノズル及びノズルの近傍、前記圧力室、前記貯留室、前記供給路の液体の接する部分に、生体高分子を吸着しない表面処理を施したことを特徴とする生体材料吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−210502(P2010−210502A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58264(P2009−58264)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】