説明

生体状態判定装置

【課題】被験者の生体状態の移行傾向を判定する
【解決手段】生態状態判定装置1は、搭乗者の脳波を計測する脳波計測装置2と、刺激を発生する刺激発生装置3と、脳波計測装置2及び刺激発生装置3を制御するECU4とを備えている。そして、ECU4は、刺激発生装置3から刺激を発生させるとともに、脳波計測装置2で計測した搭乗者の脳波を取得することで、覚醒時の搭乗者の生体状態の移行傾向として、搭乗者が覚醒維持状態と睡眠突入状態の何れであるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の生体状態の移行傾向を判定する生体状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者に、リファレンス用の第1刺激を与えた皮膚電位反応と状態推定用の第2刺激を与えた皮膚電位反応とを比較し、これらの皮膚電位反応の相対値の大きさに基づいて、運転者の覚醒度を判定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−117608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、第1刺激を与えた皮膚電位反応に対する第2刺激を与えた皮膚電位反応の相対値に応じて運転者の覚醒度を判定するものであるため、生体状態の移行傾向、すなわち、今後も覚醒状態が維持されるのか、睡眠状態に移行していくのか、までは判定することができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、被験者の生体状態の移行傾向を判定することができる生体状態判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、覚醒している被験者に刺激を与えると、覚醒状態が維持される覚醒維持状態時には、この刺激に対する脳波反応から刺激に注意を向けた場合に現れる脳波反応の第1指標が観察され、睡眠状態に突入する睡眠突入状態時には、この刺激に対する脳波反応から刺激を聞き流して注意を向けなかった場合に現れる脳波反応の第2指標が観察されるとの知見に至った。
【0007】
そこで、本発明に係る生体状態判定装置は、この知見に鑑み、覚醒状態が維持される覚醒維持状態のときに現れる刺激に対する脳波反応の第1指標と、睡眠状態に移行する睡眠突入状態のときに現れる刺激に対する脳波反応の第2指標とに基づいて、覚醒時における被験者の生体状態の移行傾向を判定することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る生体状態判定装置によれば、覚醒時の被験者に刺激を与えた場合に、脳波反応の第1指標と第2指標の何れが現れるかによって、被験者の覚醒状態が維持されるのか被験者が睡眠状態に移行するのかの、被験者の生体状態の移行傾向を判定することができる。
【0009】
この場合、第1指標は、刺激に注意を向けた場合に現れる脳波反応であり、第2指標は、刺激に注意を向けない場合に現れる脳波反応であることが好ましい。このように、刺激に対して注意を向けた場合に現れる脳波反応の指標を、覚醒維持状態のときに現れる脳波反応の第1指標とし、刺激に注意を向けない場合に現れる脳波反応の指標を、睡眠突入状態のときに現れる脳波反応の第2指標とすることで、適切に生体状態の移行傾向を判定することができる。
【0010】
また、本発明に係る生態状態判定装置は、被験者に刺激を与える刺激発生部と、被験者の脳波を計測する脳波計測部と、刺激発生部から刺激を与えたときに脳波計測部が計測した脳波から、覚醒状態が維持される覚醒維持状態のときに現れる刺激に対する脳波反応の第1指標、又は、睡眠状態に移行する睡眠突入状態のときに現れる刺激に対する脳波反応の第2指標を検出する脳波反応検出部と、脳波反応検出部で検出された脳波反応の指標に基づいて、被験者の生体状態の移行傾向を判定する移行傾向判定手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る生体状態判定装置では、刺激発生部が被験者に刺激を与え、脳波計測部がこの刺激に対する被験者の脳波を計測し、脳波反応検出部が脳波計測部により計測された脳波から第1指標と第2指標の何れかを検出する。このとき、被験者の覚醒状態が維持される場合は、刺激に対する脳波反応から第1指標が現れ、被験者が睡眠状態に移行する場合は、刺激に対する脳波反応から第2指標が現れる。このため、移行傾向判定手段は、脳波反応検出が第1指標と第2指標の何れを検出したかを判定することにより、被験者の生体状態の移行傾向を判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被験者の生体状態の移行傾向を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】睡眠深度と生体状態との関係を例示した図である。
【図2】覚醒維持状態での脳波を示している。
【図3】睡眠突入状態での脳波を示している。
【図4】本実施形態に係る生体状態判定装置の概略構成を示した図である。
【図5】ECUの処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る生体状態判定装置の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、本発明に係る生体状態判定装置を、覚醒している搭乗者の生体状態の移行傾向を判定する生体状態判定装置に適用したものである。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0015】
まず、本実施形態に係る生体状態判定装置を説明する前に、生体状態の移行傾向を判定する考え方について説明する。
【0016】
図1は、睡眠深度と生体状態との関係を例示した図である。図1に示すように、搭乗者の生体状態は時間と共に変化し、破線Aのように覚醒状態が維持する場合や、破線Bのように覚醒状態から睡眠状態に突入する場合がある。なお、破線Aのように、今後も覚醒状態が維持する移行傾向を覚醒維持状態と称し、破線Bのように、覚醒状態から睡眠状態に突入する生態状態の移行傾向を睡眠突入状態と称する。
【0017】
そこで、本発明者らは、覚醒時の搭乗者に刺激を与えたところ、搭乗者が覚醒状態を維持する睡眠維持状態の場合と、搭乗者が睡眠に突入する睡眠突入状態の場合とでは、その脳波反応に違いが生じることが分かった。
【0018】
図2は、覚醒維持状態での脳波を示しており、図3は、睡眠突入状態での脳波を示している。図2及び図3では、音刺激を与えてから所定時間経過するまでの脳波を示しており、横軸に、刺激を発生(提示)してからの時間(sec)を示し、縦軸に、脳波計測装置が計測した脳波の出力(μV)を示す。なお、横軸の刺激を発生してからの時間は、通常、潜時と称される。図2及び図3に示すように、脳波は、脳波計測装置により、人の頭部に発生する僅かな電位差を計測したものであり、自発的に発生するものと、刺激に対して誘発されるものがある。そして、後者の刺激に対して誘発される脳波が、刺激効果を示す脳波指標となる。このため、脳波指標の潜時や振幅を計測することで、刺激効果を評価することができる。
【0019】
脳波指標は、そのピーク(頂点)の極性と、刺激を与えてからピークが現れるまでの潜時との組合せで表される。例えば、P300は、潜時300msec付近で観測される陽性(Positive)方向の脳波指標を示し、N350は、潜時350msec付近で観測される陰性(Negative)方向の脳波指標を示す。なお、脳波をグラフで表す際は、一般的に、陽性(Positive)が下向き、陰性(Negative)が上向きとなっており、P成分は刺激に対する判断を示し、N成分は刺激に対する単純反応を示していると考えられている。
【0020】
図2及び図3を比較すると分かるように、覚醒維持状態では、P300の指標が現れ、睡眠突入状態では、N350の指標が現れる。
【0021】
指標P300は、音刺激に対して注意を向けた場合に現れる脳波反応である。すなわち、覚醒維持状態では、意識がハッキリしており、音刺激に対して意識的に注意が向けられるため、覚醒維持状態のときに音刺激が与えられると、脳波反応からP300の指標が現れる。そこで、この脳波反応の指標P300を、覚醒維持状態のときに現れる脳波反応の指標とする。
【0022】
一方、指標N350は、音刺激に注意を向けない場合に現れる脳波反応である。すなわち睡眠突入状態では、意識レベルが下がり(意識が朦朧として)音刺激を明確に認識することができないため、音刺激を聞き流して注意を向けなくなる。しかしながら、睡眠突入状態であっても、音刺激に対して脳波が誘発されるため、睡眠突入状態のときに音刺激が与えられると、脳波反応からN350の指標が現れる。そこで、この脳波反応の指標N350を、睡眠突入状態のときに現れる脳波反応の指標とする。
【0023】
そして、本実施形態では、以上のような考え方に基づき、刺激に対する脳波反応から指標P300及び指標N350の何れが現れるのかを判定することで、覚醒している搭乗者の生体状態が覚醒維持状態と睡眠突入状態の何れであるのかを判定する。
【0024】
図4は、本実施形態に係る生体状態判定装置の概略構成を示した図である。図4に示すように、本実施形態に係る生体状態判定装置1は、脳波計測装置2と、刺激発生装置3と、ECU4と、により構成される。
【0025】
脳波計測装置2は、搭乗者の頭部に発生する僅かな電位差(数10μV程度)を計測して、搭乗者の脳波を計測する装置である。そして、脳波計測装置2は、脳波を計測すると、この脳波をECU4に送信する。
【0026】
刺激発生装置3は、ECU4の制御に基づいて刺激を発生する装置である。なお、本実施形態では、刺激発生装置3は、音刺激を発生するものとして説明するが、電流、風、匂い、光など、搭乗者に刺激を与えることができれば、如何なる刺激を発生させてもよい。
【0027】
ECU4は、脳波計測装置2及び刺激発生装置3と電気的に接続されており、刺激発生装置3から刺激を発生させるとともに、脳波計測装置2で計測した搭乗者の脳波を取得することで、覚醒時の搭乗者の生体状態の移行傾向として、覚醒維持状態と睡眠突入状態の何れであるかを判定するものである。
【0028】
次に、図5を参照して、本実施形態に係る生体状態判定装置1の処理動作について説明する。図5は、ECUの処理動作を示すフローチャートである。
【0029】
図5に示すように、まず、ECU4は、脳波計測装置2を制御して、搭乗者の脳波を計測する(ステップS1)。
【0030】
次に、ECU4は、刺激発生装置3を制御して、搭乗者が覚醒しているときに音刺激を発生させる(ステップS2)。なお、ステップS2において刺激発生装置3から音刺激を発生させているときも、脳波計測装置2は搭乗者の脳波を計測し続けている。
【0031】
次に、ECU4は、ステップS1において脳波計測装置が計測した脳波から、ステップS2において刺激発生装置3が発生した音刺激に対する脳波反応を検出する(ステップS3)。すなわち、ステップS3では、音刺激に対して現れる指標P300又は指標N350の脳波反応を検出する。
【0032】
次に、ECU4は、ステップS3で検出した脳波反応が、指標P300及び指標N350の何れであるかを判定する(ステップS4)。そして、ステップS3で検出した脳波反応が指標P300であると判定すると、ECU4は、搭乗者が覚醒維持状態である判定する(ステップS5)。一方、ステップS3で検出した脳波反応が指標N350であると判定すると、ECU4は、搭乗者が睡眠突入状態である判定する(ステップS6)。
【0033】
そして、ECU4は、このようにして搭乗者の生体状態の移行傾向を判定すると、覚醒維持状態であるのか睡眠突入状態であるのかによって、様々な制御を行う。例えば、搭乗者である運転者が睡眠突入状態であると判定すると、アラーム音などを与えて運転者を覚醒させる覚醒制御を行い、助手席搭乗者や後席搭乗者が睡眠突入状態であると判定すると、温度調節や音楽のボリュームを下げるなど仮眠を促進させるための仮眠促進制御を行う。
【0034】
このように、第1の実施形態に係る生体状態判定装置1によれば、覚醒時の被験者に刺激を与えた場合に、脳波反応の第1指標と第2指標の何れが現れるかを判定することで、被験者が覚醒維持状態と睡眠突入状態の何れの状態であるのかを判定することができる。
【0035】
そして、音刺激に対して注意を向けた場合に現れる脳波反応の指標P300を、覚醒維持状態のときに現れる脳波反応の指標とし、音刺激に注意を向けない場合に現れる脳波反応の指標N350を、睡眠突入状態のときに現れる脳波反応の指標とすることで、適切に生体状態の移行傾向を判定することができる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、搭乗者の睡眠状態を制御するものとして説明したが、睡眠状態の制御対象者は、車両に搭乗する者であれば誰であってもよく、運転者、助手席搭乗者、後席搭乗者などであってもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、車両に搭乗する搭乗者の生体状態の移行状態を判定するものとして説明したが、例えば、睡眠室における睡眠用や医療施設における医療用などの様々な分野において、被験者の生体状態の移行状態を判定するものとしてもよい。例えば、被験者が入眠しない場合に、生体状態判定装置1で被験者の生体状態の移行傾向を判定することで、被験者が眠たくないのか眠いのに寝られないのかを判定することができる。そして、睡眠突入状態であると判定すると、虫の羽音や照明の灯りなどが入眠を阻害していると考えられるため、睡眠環境の改善を行うことで被験者を快適に入眠させることができる。一方、覚醒維持状態であると判定すると、温熱刺激などを与えることで被験者を入眠させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1…生体状態判定装置、2…脳波計測装置、3…刺激発生装置、4…ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
覚醒状態が維持される覚醒維持状態のときに現れる刺激に対する脳波反応の第1指標と、睡眠状態に移行する睡眠突入状態のときに現れる刺激に対する脳波反応の第2指標とに基づいて、覚醒時における被験者の生体状態の移行傾向を判定することを特徴とする請求項1に記載の生体状態判定装置。
【請求項2】
前記第1指標は、刺激に注意を向けた場合に現れる脳波反応であり、
前記第2指標は、刺激に注意を向けない場合に現れる脳波反応であることを特徴とする請求項1に記載の生体状態判定装置。
【請求項3】
被験者に刺激を与える刺激発生部と、
前記被験者の脳波を計測する脳波計測部と、
前記刺激発生部から刺激を与えたときに前記脳波計測部が計測した脳波から、覚醒状態が維持される覚醒維持状態のときに現れる前記刺激に対する脳波反応の第1指標、又は、睡眠状態に移行する睡眠突入状態のときに現れる前記刺激に対する脳波反応の第2指標を検出する脳波反応検出部と、
前記脳波反応検出部で検出された脳波反応の指標に基づいて、前記被験者の生体状態の移行傾向を判定する移行傾向判定手段と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の生体状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−110261(P2011−110261A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270153(P2009−270153)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】