生体状態解析システム
【課題】生体データに関する時系列信号に基づきカオス解析を行うカオス解析装置において、計測時間(時系列信号のデータ点数)の要求を緩和し、より短い時系列信号を信頼性高く解析することを可能とする。
【解決手段】生体データに関する時系列的信号から再構成軌道を作成し、該再構成軌道に基づき生体データの評価を行うカオス解析装置において、前記時系列信号を分割し、断片的な時系列データを切り出し分類する断片データ切り出し・分類手段と、該断片データ切り出し・分類手段により切り出された、前記断片的な時系列データに基づいて、個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、該第一の再構成軌道作成手段により作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて軌道を復元する第2の再構成軌道作成手段とを備え、該第2の再構成軌道作成手段により作成された再構成軌道の特徴量により、前記生体データの評価を行えるようにする。
【解決手段】生体データに関する時系列的信号から再構成軌道を作成し、該再構成軌道に基づき生体データの評価を行うカオス解析装置において、前記時系列信号を分割し、断片的な時系列データを切り出し分類する断片データ切り出し・分類手段と、該断片データ切り出し・分類手段により切り出された、前記断片的な時系列データに基づいて、個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、該第一の再構成軌道作成手段により作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて軌道を復元する第2の再構成軌道作成手段とを備え、該第2の再構成軌道作成手段により作成された再構成軌道の特徴量により、前記生体データの評価を行えるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば心電図に基づく心機能性の診断のほか、疲労度、覚醒度、熟練度、ストレスなどの心身の状態や各種刺激に対する生体の応答を解析し、評価、診断するための生体状態解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体のような複雑な現象を解析する手法の一つとして、時系列信号から再構成軌道を作成し、再構成軌道の特徴量より現象のダイナミクスの定量的評価を行う解析手法(以下、カオス解析と呼ぶ。)がある。
再構成軌道の作成にはいくつかの手法が提案されているが、最も広く用いられている1変数時系列信号から時間遅れ座標系に軌道を再構成する例を説明する。
まず、サンプリング周期Fsで計測された時系列信号xを[x(1), x(2), x(3),…]とする。この時系列信号xからτ点おきにm個の要素を取り出し、m次元時間遅れベクトルz(k)=[x(k), x(k+τ),…, x(k+(m−1)τ]を作成する。kを1から順次増やしてm次元空間において時間遅れベクトルzをプロットしていくと、再構成軌道が構成される。図1は、時間遅れτ=3、再構成次元m=3で軌道再構成を行った例である。
【0003】
カオス解析理論によれば、再構成軌道には時系列信号を生み出したシステムの非線形的特性に関する全ての情報が含まれているとされる。
したがって、再構成軌道の特徴を調べることにより、平均・分散等の統計量やパワースペクトル解析といった線形解析では得られなかった生体の複雑な非線形的特徴に関する新たな情報を得ることが可能となる。
再構成軌道の代表的な非線形特徴量として相関次元やリアプノフ指数がある。相関次元は非線形システムの自由度、リアプノフ指数は不安定性の指標とされている。これらはいずれもデータ点数(観測時間)無限大の極限で定義されている量であり、データ点数の増大により真の値に漸近的に収束していく。
このような手法では、具体的には、十分大きな有限のデータ点数を用いた近似的な解析が行われ、脈波、発話音声等に基づく生体の状態評価に用いられている。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、ヒトの疲労度評価のために加速度脈波の最大リアプノフ指数が用いられている。
また、下記特許文献2では発話音声信号のカオス解析が行われ、ストレスの評価が行うことが、そして、下記特許文献3では生体信号の最大リアプノフ指数の変化により疲労度の評価が行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開 WO2005/000119号公報
【特許文献2】特開2009−116888号公報
【特許文献3】国際公開 WO2005/039415号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Phys.Rev.E、65、041917(2002)
【非特許文献2】Phys.Rev.E、64、056207(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カオス解析理論においては、解析対象のダイナミクスを表す軌道と再構成軌道は微分同相であるとされる。したがって、解析対象が複雑になるほど再構成軌道も複雑化する。
このため、高次元空間における複雑な再構成軌道を表現するためには多数のデータ点が必要となり、データ点数が不足した場合は、軌道の一部のみを評価することになったり、軌道の微小構造を判別できなくなったりするため、相関次元やリアプノフ指数といったカオス解析で用いられる非線形特徴量の推定精度が低下してしまい推定そのものが不可能となることもある。
【0008】
また、時系列信号に混入したノイズは再構成軌道の形状を歪め微細構造を判別しにくくするため、カオス解析はノイズに敏感であるという欠点を有する。
したがって、カオス解析においては、複雑な軌道構造を表現するのに十分な長さの計測時間(時系列信号のデータ点数)を採れること、その計測時間内で解析対象の特性が大きく変動しないこと、ノイズの混入が小さいことが必要とされる。例えば、心電図や脈波を対象としたカオス解析では、解析データ区間長として数分程を設定する例が多い。
【0009】
姿勢や肉体的・精神的負荷が変化した場合、生体は循環器系及び神経系の特性を調整して新たな状態へと適応していく。適応に要する時間等には個体差があり、その時点の体調や疲労・ストレス等によっても変わる。時系列信号に過渡的に変化する部分と定常的な部分が割合不定で混在すると解析結果の比較が困難となるため、姿勢や肉体的・精神的負荷が大きく変わった場合は、十分な時間が経過して定常状態に落ち着くまで待つ必要がある。例えば、座位から立位への姿勢変更では、数分程度の時間を置く例が多い。
この制限のため、生体信号のカオス解析は安静状態または事務作業や車の運転といった準安静状態における長時間にゆっくりと変動する生体状態の評価に限られていた。
【0010】
したがって、上述のような生体信号のカオス解析において、計測時間(時系列信号のデータ点数)の要求を緩和し、より短い時系列信号を信頼性高く解析することができれば利用範囲は大きく拡大する。
すなわち、例えば、家庭や職場などにおける日常生活においては、定常的な生体状態が長く継続しない場面も多い。短い時系列信号で十分となれば、活動に制限を加えることなくカオス解析による人間状態の評価が可能となり、利用範囲が大きく拡大される。
【0011】
さらに、例えば、姿勢、作業内容、外部環境の変化など、日常生活で実際に生じる変化に際し、生体が新たな状態に適応するまでの過程を評価することが可能となり、従来の定常状態におけるカオス解析では得られなかった適応速度等の情報を用いた疲労やストレスの評価、刺激による生体の過渡的な反応をパラメータとして、薬物や映像・音などの効能評価なども可能になる。
【0012】
また、生体データに、解析に必要なデータとして利用が不適当な区間が生じた場合の対処法も重要である。利用が不適当とは、大きなノイズや体動等の影響による生体信号の大きな乱れ、あるいは、検出信号がセンサの計測レンジを越えた場合やセンサと記録機器間に通信エラーが発生した場合のデータ欠損等である。データフィルタによる補正が不可能なほど信号の乱れが大きい場合や、データ補間による補正が不可能なほどデータ欠損数が多い場合は、その区間を含む解析は結果の信頼性を大きく損ねてしまう。
【0013】
家庭や職場など日常生活において、行動を制限せずに生体データを計測する必要がある場合、体動によるセンサ電極部と生体の接触不良、ワイヤレス生体センサを用いた場合の受信機との距離や障害物等による通信障害、工作機械や家電機器等が発する電磁ノイズなどの影響により、利用不適当区間が断続的に多く発生することが予想される。
このような場合、長時間の連続した時系列信号が得られない場合が多く、断片的な短い時系列信号であっても、これらを利用して、信頼性の高いカオス解析が可能になれば、こうした日常生活下での真の生体状態を評価することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題に鑑み、発明者らは、複数の断片的な軌道を重ね合わせることにより複雑な構造を持つ軌道を復元できることに着目した。
短い時系列信号から再構成された軌道は、生体ダイナミクスと対応する複雑な軌道の一部分を切り出したものといえ、部分的な軌道を次々と時間遅れ座標系において重ね合わせていくことにより、軌道全体の構造を復元することができる。
【0015】
カオス解析に用いられる特徴量は、その定義に立ち戻って検討してみると、再構成軌道が時間的に連続した一本のものである必要はなく、例えば、相関次元は軌道上のサンプル点の分布をフラクタル次元で定量化するものとして定義され、軌道の連続性の必要はない。
また、リアプノフ指数は隣接軌道間の時間的な距離拡大率を定量化するものとして定義され、ある程度の長さの連続軌道が存在していれば十分であり、断片的な軌道の集合である復元軌道の特徴量と、連続時系列信号から再構成された一本の軌道の特徴量は、全データ点数が十分大きければ一致することに着目した。
【0016】
例えば、姿勢や精神的・肉体的な負荷または環境や外部刺激等の頻繁な変化により、定常的な生体状態は複数存在するが、カオス解析において要求されるほどの時間継続したものが存在しなかった状況を想定する。
従来のカオス解析装置においては、この状況では、解析不能とみなすか、解析結果の信頼性低下を承知の上で、短い時系列信号を単独の連続時系列信号として解析する以外、選択の余地がなかった。
【0017】
そこで、本発明の課題は、カオス解析装置において、同一の定常的な生体状態にあるとみなされる時系列信号のデータ区間を、適切に切り出し、それらを重ね合わせることで実効的にデータ点数を増大して複雑な軌道全体を復元し、データ点数不足によるカオス解析の信頼性低下を低減することを目的している。
【0018】
また、この軌道重ね合わせの手法は、生体に同一な変化が繰り返し生じる状況において、生体状態の過渡的な変化の評価にも用いることができる。
すなわち、まず変化の開始時刻を基準として時系列信号を切り取り、N個の時系列信号を作成する。
次いで過渡的な変化にかかる時間長と比べて十分短い時間長(データ点数Nw)で各時系列信号を区間分割し先頭より番号を振る。同一区間の時系列から再構成した軌道を重ね合わせ、カオス解析を行う。解析に用いる軌道はN×Nw個のデータ点の集合からなり、Nが十分大きければNwが小さくとも信頼性の高いカオス解析が可能となり、時間分解能高く対象の変化を追跡することが可能となる。
【0019】
また、再構成軌道の重ね合わせは、生体データに利用不適当区間が存在する場合にもそのまま利用できる。
すなわち、利用不適当区間を正確に特定して、これを削除し、残った断片データから再構成軌道を構成し重ね合わせることで、データ点数の短さや不適当なフィルタリングやデータ補間の悪影響を受けないカオス解析が可能となる。
【0020】
カオス解析において、この軌道重ね合わせという手法は、いくつかの研究で用いられた例がある。例えば、上記非特許文献1においては、多数の計測点において同時計測された脳波信号から作成された再構成軌道を重ね合わせている。これは脳活動の空間的な情報を取り込むことが目的である。
【0021】
また、上記非特許文献2等における短時間のカオス的軌道を経て定常状態へと遷移する過程に関する理論研究においても用いられているが、これは、一度の遷移ではカオス軌道の一部の情報しか得られないため、異なる初期値から出発した数値シミュレーションを繰り返し、軌道を重ね合わせることで、全体の軌道を復元することが目的である。
【0022】
本発明では、これら従来の手法とは異なり、重ね合わせによる軌道の復元を、例えば、日常生活における生体時系列信号を解析する際の課題である上記事項に関する制限を緩和することを目的として用いており、カオス解析の精度や時間分解能の向上を狙うとともに適用範囲の拡大を図るものである。
【0023】
具体的には、本発明のカオス解析装置においては、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、
(1)生体データに関する時系列的信号から再構成軌道を作成し、該再構成軌道に基づき生体データの評価を行うカオス解析装置において、前記時系列信号を分割し、断片的な時系列データを切り出し分類する断片データ切り出し・分類手段と、該断片データ切り出し・分類手段により切り出された、前記断片的な時系列データに基づいて、個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、該第一の再構成軌道作成手段により作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて軌道を復元する第2の再構成軌道作成手段とを備え、該第2の再構成軌道作成手段により作成された再構成軌道の特徴量により、前記生体データの評価を行えるようにした。
【0024】
(2)上記のカオス解析装置において、前記断片データ切り出し・分類手段は、前記時系列信号のうち、生体が定常状態にあるか過渡状態にあるかを識別する手段を備え、該時系列的信号から定常状態にある区間あるいは過渡状態にある区間のみを切り出し、切り出された断片的な時系列を生体の状態に応じて分類するようにした。
【0025】
(3)上記のカオス解析装置において、前記断片データ切り出し・分類手段は、過渡的な変化の発生を識別する手段を備え、該変化の発生時を基準時刻として該時系列的信号からデータ区間を切り出し、切り出された断片的な時系列データを生体の状態及び過渡状態を引き起こした原因に応じて分類するようにした。
【0026】
(4)上記のカオス解析装置において、前記断片データ切り出し・分類手段は、前記時系列的信号にノイズ、データ受信ミスあるいは計測レンジオーバーなどが発生した利用不適当区間を判別するノイズ判別手段を備え、該時系列的信号のうち該利用不適当区間を取り除くよう、前記時系列的信号を分割して切り出すようにした。
【0027】
(5)前記生体データを採取する被験者の姿勢や体動及び被験者の置かれた環境及び被験者に与えられた負荷や刺激を検出するセンサ等を備え、それらによる情報に基づき、前記断片データ切り出し・分類手段を作動させ、同一分類に属する前記断片的な時系列データを抽出するようにした。
【0028】
(6)上記のカオス解析装置において、過渡的な変化を解析する場合は、第2の再構成軌道作成は、同一の分類と判定された断片的時系列の同一の時間区間から再構成された部分的な軌道を再構成座標系で重ね合わせるものである。
【発明の効果】
【0029】
上記(1)の技術的手段によれば、断片データ切り出し・分類手段により、生体データに関する時系列的信号のうち、評価に必要な部分のデータのみを切り出して分類し、それらから再構成された部分的軌道を重ね合わせて軌道全体を復元することにより、精度の高いカオス解析が可能になるとともに、解析装置の機能性を高めることができる。
【0030】
上記(2)及び(5)の技術手段によれば、仮に生体の定常的な状態が短時間しか継続しない場合でも、その定常状態が繰り返し発生すれば生体状態評価の精度向上が可能となる。
上記(3)及び(5)及び(6)の技術手段によれば、同一の生体の過渡的変化が繰り返し発生すれば生体状態評価の精度及び時間分解能の向上が可能となる。
【0031】
上記(4)の技術的手段によれば、仮に生体データに関する時系列的信号に、被験者の体動や、解析装置自体のデータ受信エラー等が発生しても、これらを排除して精度の高い生体データの解析を行うことが可能になり、被験者の負担を低減するとともに、再検査を行うことなく早期の診断が可能となり、行動に制限を加えることなく日常生活中の人間状態を評価することも可能となる。
上記(1)〜(6)の技術手段によれば、被験者の行動に制限を加えることなく、日常生活中の生体の定常的状態と過渡的状態の両方を詳細に精度良く評価することが可能となり、適用範囲が大きく広がる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】時系列信号から再構成軌道を作成する例を示す。
【図2】同時計測された胸部三軸加速度と心電図時系列信号及び定常状態区間の判定例を示す。
【図3】定常状態を解析する実施例1のシステム構成を示す。
【図4】切り出された仰臥位における定常状態心電図時系列とその再構成軌道を示す。
【図5】定常状態における仰臥位と立位の5個の再構成軌道を重ね合わせた復元軌道を示す。
【図6】過渡状態を解析する実施例2のシステム構成を示す。
【図7】同時計測された胸部三軸加速度と心電図時系列信号及び過渡状態区間の判定例を示す。
【図8】起立動作開始を基準として切り出された過渡状態心電図時系列信号と、短時間幅で分割した後のある区間の心電図時系列と再構成軌道と、5個の再構成軌道を重ね合わせた復元軌道を示す。
【図9】起立動作における心電図時系列の相関次元を推定した結果を示す。
【図10】利用不適当区間を排除する実施例3のシステム構成を示す。
【図11】利用不適当区間の例とそれらを含めて作成された再構成軌道とそれらを削除して作成された再構成軌道を示す。
【図12】作業中や日常生活中の生体状態の変化を評価する実施例4のシステム構成を示す。
【図13】通常時と疲労時における心電図時系列の相関次元の過渡的変化を比較した例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
図2は、計測時間30分の間に、被験者が仰臥位、座位及び立位の姿勢をとった場合の心電図データ及び同時計測された胸部三軸加速度データである。
図3は、実施例1のシステム基本構成を示し、解析装置に内蔵されるCPUのソフトウェアにより、各ブロックの機能が達成される。
心電図データ及び姿勢データは、周波数フィルタによるノイズ成分の除去や短いデータ欠落区間の補間などの前処理を施す。姿勢データは、体幹部の三軸加速度情報や画像解析等により得られた、生体の姿勢や体動の程度に関する情報である。
【0035】
次いで、心電図データの定常状態区間の判定及び切り出しと分類を行う。
定常状態区間の判定は、例えば、体幹部加速度の変動が所定の範囲内であること、体幹部加速度が所定の範囲を超えた直前の時刻から所定の時間が経過していること、心電図データの指標(例えば心拍数の平均値や分散等)が所定の範囲内であること等により行う。この処理により、心電図データから定常状態区間の断片的な時系列データが切り出され分類される。
なお、定常状態区間の分類は、例えば、三軸加速度データの各成分より求めた重力加速度の方向や揺らぎのパターン等により、仰臥位、座位、立位等に姿勢毎に分類する。
【0036】
そして、さらに切り出された定常状態の時系列信号毎に、再構成軌道作成手段より、個々に再構成軌道を作成し、これらのうち同じ分類に属するもののみを重ね合わせて軌道を復元する。この処理は、断片データ切り出し・分類手段により切り出された、断片的な時系列データから個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、これにより作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて、定常状態の軌道として復元する第2の再構成軌道作成手段により構成される。
【0037】
図4は、切り出された仰臥位定常状態の心電図時系列とその再構成軌道(再構成次元m=3、時間遅れτ=8と設定)である。図5は、例えば、計測開始から2分経過〜3分経過を1番目に発生した定常状態、計測開始から26経過〜27分経過を5番目に発生した定常状態としたとき、1分間再構成軌道を5個重ね合わせた復元軌道の例であり、(a)は、被験者が仰臥位のときの定常状態、(b)被験者が立位のときの定常状態を、例えば、三軸加速度データに基づいて、判定、分類し、切り出したものである。
この場合、各再構成軌道が、適切に定常状態として判定、切り出され分類されたものあれば、5分間定常状態が途切れることなく継続した場合の再構成軌道と同等の情報を持つものとして、復元された軌道の特徴量をカオス解析の手法により推定することができる。
【0038】
[実施例2]
図6は実施例2のシステム基本構成を示し、解析装置に内蔵されるCPUのソフトウェアにより、各ブロックの機能が達成される。
心電図データ及び姿勢データは、周波数フィルタによるノイズ成分の除去や短いデータ欠落区間の補間などの前処理を施す。姿勢データは、体幹部の三軸加速度情報や画像解析等により得られた、生体の姿勢や体動の程度に関する情報である。
【0039】
次いで、心電図データの過渡状態区間の判定及び切り出しと分類を行う。過渡状態区間の判定は、例えば、体幹部加速度が所定の範囲を超えた変動を示した時点をトリガーとして、次の変動の発生または所定の時間の経過により行う。
過渡状態区間の分類は、例えば、三軸加速度データの各成分の変動等により、仰臥位から座位、座位から立位、立位から仰臥位などとあらかじめ定めておいたパターンに分類する。図7は仰臥位から立位への姿勢変更を行った際の過渡状態区間の検出の例であり、点線で囲まれた部分が、仰臥位から立位への姿勢変更を行った過渡状態区間を示している。
【0040】
過渡的な変化を追跡するために、切り出された心電図時系列信号を、想定される過渡的変化の時間長と比べて十分短い時間長で区間分割する。図8(a)は図7で検出された5つの心電図時系列であり、区間分割時間長10秒の17の区間に分割されている。
同分類に属する同区間の時系列信号から再構成軌道を作成し、重ね合わせて軌道を復元する。図8(b)は、姿勢変更開始を基準時刻(計測起点)として、第3区間(姿勢変更後20秒から30秒)の心電図時系列とそこから再構成された軌道を示している。これら5個の再構成軌道を重ね合わせて軌道を復元したものが、図8(c)である。復元された軌道は、単独軌道の5倍のデータ点数から構成され、カオス解析による軌道の特徴量推定の精度を向上させることができる。
【0041】
図9(a)は、10秒間の時系列から再構成された単独軌道と5個の単独軌道を重ね合わせた復元軌道について、代表的なカオス解析手法の一つである相関次元解析を行った結果である。
図9(b)は単独軌道から求めた相関次元の平均をとったものとの比較を示している。
相関次元は軌道の複雑さを表す指標であるが、データ点数の少ない単独軌道は本来の軌道の複雑さを十分表現できていないため相関次元の値が小さく推定され、ばらつきも大きく、複数回の解析の平均をとっても相関次元は真の値に近づくことはない。
【0042】
これに対し、本発明の手法によれば、重ね合わせ数の増大により軌道構造が詳細に表現されるため、より真に近い値を推定することが可能となる。
本実施例では、姿勢変更を検出し、姿勢変更開始からの準安静状態に復帰するまでの間の心拍特性を重ねてカオス解析を行うようにしているが、姿勢変更のみならず、騒音、悪臭などの環境ストレスを負荷したり、精神的なストレスを負荷してもよく、薬物や音楽・映像等の生体への刺激の影響を評価してもよい。
【0043】
[実施例3]
図10は、実施例3のシステム基本構成を示し、解析装置に内蔵されるCPUのソフトウェアにより、各ブロックの機能が達成される。
心電図データは、周波数フィルタによるノイズ成分の除去や短いデータ欠落区間の補間などの前処理を施すとともに、所定の基準に基づき利用不適当区間を判定する。これは、例えば、ノイズレベルが所定の大きさを超えている区間、心電図波形を補間できないほどデータ欠落や計測レンジオーバーが継続している区間などである。
【0044】
次いで、心電図データから利用不適当区間を削除し、残ったそれぞれの断片的時系列を用いて再構成軌道を作成し、重ね合わせて軌道を復元する。最後に、復元された軌道の特徴量をカオス解析の手法により推定する。
図11は、利用不適当区間が再構成された軌道に与える影響の一例である。
【0045】
心電図時系列には順に、大ノイズが混入した区間、データ受信ミスにより数回分の心臓拍動が欠落してしまった区間、体動や電極接触不良等により心電計の計測レンジをオーバーした区間を想定した利用不適当区間が設定されている。全データを用いて再構成軌道を作成してしまうと図11(b)のように軌道の形状が乱されてカオス解析の信頼性が低下してしまうが、利用不適当区間を削除して重ね合わせにより復元された図11(c)の軌道を用いることにより、カオス解析の信頼性低下が防止できる。
このように、計測上の問題により生体時系列信号に断続的に利用不適当区間が生じる場合においてもデータを有効活用することが可能となる。
【0046】
[実施例4]
図12に、具体的な利用例の一つとして、作業中や日常生活中の生体状態の変化を評価するシステムを示す。
本実施例のシステムは、長時間連続計測された生体時系列信号から連続的に生体状態を評価することを目的としている。
心電図等の生体時系列信号は、別途もたらされる姿勢や作業内容といった分類情報及び生体時系列信号そのものの平均値や分散などを用いて、分類される。その後、利用不適当区間の判定と削除を行い、記憶装置に蓄積される。
【0047】
次いで、適切な解析時間区間を設定し、その区間内における定常状態、過渡状態のカオス解析を、同分類の再構成軌道を重ね合わせて軌道を復元することにより行う。カオス解析により得られた指標値により人間状態を評価し、同様の解析を続ける。
解析時間区間の設定法は、例えば、一時間として短期的な日内変動を評価するもの、一日単位で週内変動やさらに長期的な変化を評価するものなどが考えられる。ここで注意すべき点は、本発明の復元軌道作成法は、重ね合わせる軌道は生体状態に大きな差がないものから計測された時系列から再構成されたものに限られる点である。
【0048】
例えば、仰臥位と立位など姿勢が大きく異なる状況で計測された心電図から作成された軌道を重ね合わせたり、同じ姿勢でも朝と夜に計測された心電図から作成された軌道を重ね合わせたりすると、不正確な評価がもたらされる可能性がある。
なお、本システムは過去に記録されたデータを用いたオフライン的な解析とともに、連続的に計測と解析を進めるリアルタイムなオンライン解析を行うことも可能である。
【0049】
図13に、本実施例を用いて、被験者の主観評価に基づき、疲労がほとんど感じられない場合、大きな疲労を感じている場合の二つの心電図時系列に対して解析した結果を示す。カオス解析による代表的な特徴量の一つである相関次元の値が示されている。
【0050】
解析は、分類項目として仰臥位から立位の姿勢変更、解析時間区間として一時間内を設定した。5個の170秒間心電図時系列が切り出され、それらを10秒区間17個に分割し、過渡的変化を本発明の手法を用いたカオス解析により追跡した。
疲労を感じていない通常時においては、姿勢変更により心電図時系列の相関次元が大きく変化し、100秒程度の時間をかけて立位における定常値に収束している。一方、疲労が大きい場合は姿勢変更による大きな変化は見られない。疲労による生体の適応能力の変化が評価できていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、解析装置に内蔵されるコンピュータのソフトウェアを改造するだけで、コストアップを招くことなく、解析に必要な生体データを抽出して、これを重ね合わせることにより、カオス解析装置の精度、機能を高めることができる。
それにより、検査時や解析時の負担を低減するとともに、例えば、準安静状態と、姿勢の変更や精神的・肉体的負荷により引き起こされる過渡状態とを峻別して、それぞれの解析結果及び相互関連を評価することができるから、日常生活における幅広い生体データを解析し、人間状態の適切な評価・診断を行うことが可能になり、心電図解析装置を含め、種々の生体データ解析装置として、広い分野での利用が期待できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば心電図に基づく心機能性の診断のほか、疲労度、覚醒度、熟練度、ストレスなどの心身の状態や各種刺激に対する生体の応答を解析し、評価、診断するための生体状態解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体のような複雑な現象を解析する手法の一つとして、時系列信号から再構成軌道を作成し、再構成軌道の特徴量より現象のダイナミクスの定量的評価を行う解析手法(以下、カオス解析と呼ぶ。)がある。
再構成軌道の作成にはいくつかの手法が提案されているが、最も広く用いられている1変数時系列信号から時間遅れ座標系に軌道を再構成する例を説明する。
まず、サンプリング周期Fsで計測された時系列信号xを[x(1), x(2), x(3),…]とする。この時系列信号xからτ点おきにm個の要素を取り出し、m次元時間遅れベクトルz(k)=[x(k), x(k+τ),…, x(k+(m−1)τ]を作成する。kを1から順次増やしてm次元空間において時間遅れベクトルzをプロットしていくと、再構成軌道が構成される。図1は、時間遅れτ=3、再構成次元m=3で軌道再構成を行った例である。
【0003】
カオス解析理論によれば、再構成軌道には時系列信号を生み出したシステムの非線形的特性に関する全ての情報が含まれているとされる。
したがって、再構成軌道の特徴を調べることにより、平均・分散等の統計量やパワースペクトル解析といった線形解析では得られなかった生体の複雑な非線形的特徴に関する新たな情報を得ることが可能となる。
再構成軌道の代表的な非線形特徴量として相関次元やリアプノフ指数がある。相関次元は非線形システムの自由度、リアプノフ指数は不安定性の指標とされている。これらはいずれもデータ点数(観測時間)無限大の極限で定義されている量であり、データ点数の増大により真の値に漸近的に収束していく。
このような手法では、具体的には、十分大きな有限のデータ点数を用いた近似的な解析が行われ、脈波、発話音声等に基づく生体の状態評価に用いられている。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、ヒトの疲労度評価のために加速度脈波の最大リアプノフ指数が用いられている。
また、下記特許文献2では発話音声信号のカオス解析が行われ、ストレスの評価が行うことが、そして、下記特許文献3では生体信号の最大リアプノフ指数の変化により疲労度の評価が行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開 WO2005/000119号公報
【特許文献2】特開2009−116888号公報
【特許文献3】国際公開 WO2005/039415号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Phys.Rev.E、65、041917(2002)
【非特許文献2】Phys.Rev.E、64、056207(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カオス解析理論においては、解析対象のダイナミクスを表す軌道と再構成軌道は微分同相であるとされる。したがって、解析対象が複雑になるほど再構成軌道も複雑化する。
このため、高次元空間における複雑な再構成軌道を表現するためには多数のデータ点が必要となり、データ点数が不足した場合は、軌道の一部のみを評価することになったり、軌道の微小構造を判別できなくなったりするため、相関次元やリアプノフ指数といったカオス解析で用いられる非線形特徴量の推定精度が低下してしまい推定そのものが不可能となることもある。
【0008】
また、時系列信号に混入したノイズは再構成軌道の形状を歪め微細構造を判別しにくくするため、カオス解析はノイズに敏感であるという欠点を有する。
したがって、カオス解析においては、複雑な軌道構造を表現するのに十分な長さの計測時間(時系列信号のデータ点数)を採れること、その計測時間内で解析対象の特性が大きく変動しないこと、ノイズの混入が小さいことが必要とされる。例えば、心電図や脈波を対象としたカオス解析では、解析データ区間長として数分程を設定する例が多い。
【0009】
姿勢や肉体的・精神的負荷が変化した場合、生体は循環器系及び神経系の特性を調整して新たな状態へと適応していく。適応に要する時間等には個体差があり、その時点の体調や疲労・ストレス等によっても変わる。時系列信号に過渡的に変化する部分と定常的な部分が割合不定で混在すると解析結果の比較が困難となるため、姿勢や肉体的・精神的負荷が大きく変わった場合は、十分な時間が経過して定常状態に落ち着くまで待つ必要がある。例えば、座位から立位への姿勢変更では、数分程度の時間を置く例が多い。
この制限のため、生体信号のカオス解析は安静状態または事務作業や車の運転といった準安静状態における長時間にゆっくりと変動する生体状態の評価に限られていた。
【0010】
したがって、上述のような生体信号のカオス解析において、計測時間(時系列信号のデータ点数)の要求を緩和し、より短い時系列信号を信頼性高く解析することができれば利用範囲は大きく拡大する。
すなわち、例えば、家庭や職場などにおける日常生活においては、定常的な生体状態が長く継続しない場面も多い。短い時系列信号で十分となれば、活動に制限を加えることなくカオス解析による人間状態の評価が可能となり、利用範囲が大きく拡大される。
【0011】
さらに、例えば、姿勢、作業内容、外部環境の変化など、日常生活で実際に生じる変化に際し、生体が新たな状態に適応するまでの過程を評価することが可能となり、従来の定常状態におけるカオス解析では得られなかった適応速度等の情報を用いた疲労やストレスの評価、刺激による生体の過渡的な反応をパラメータとして、薬物や映像・音などの効能評価なども可能になる。
【0012】
また、生体データに、解析に必要なデータとして利用が不適当な区間が生じた場合の対処法も重要である。利用が不適当とは、大きなノイズや体動等の影響による生体信号の大きな乱れ、あるいは、検出信号がセンサの計測レンジを越えた場合やセンサと記録機器間に通信エラーが発生した場合のデータ欠損等である。データフィルタによる補正が不可能なほど信号の乱れが大きい場合や、データ補間による補正が不可能なほどデータ欠損数が多い場合は、その区間を含む解析は結果の信頼性を大きく損ねてしまう。
【0013】
家庭や職場など日常生活において、行動を制限せずに生体データを計測する必要がある場合、体動によるセンサ電極部と生体の接触不良、ワイヤレス生体センサを用いた場合の受信機との距離や障害物等による通信障害、工作機械や家電機器等が発する電磁ノイズなどの影響により、利用不適当区間が断続的に多く発生することが予想される。
このような場合、長時間の連続した時系列信号が得られない場合が多く、断片的な短い時系列信号であっても、これらを利用して、信頼性の高いカオス解析が可能になれば、こうした日常生活下での真の生体状態を評価することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題に鑑み、発明者らは、複数の断片的な軌道を重ね合わせることにより複雑な構造を持つ軌道を復元できることに着目した。
短い時系列信号から再構成された軌道は、生体ダイナミクスと対応する複雑な軌道の一部分を切り出したものといえ、部分的な軌道を次々と時間遅れ座標系において重ね合わせていくことにより、軌道全体の構造を復元することができる。
【0015】
カオス解析に用いられる特徴量は、その定義に立ち戻って検討してみると、再構成軌道が時間的に連続した一本のものである必要はなく、例えば、相関次元は軌道上のサンプル点の分布をフラクタル次元で定量化するものとして定義され、軌道の連続性の必要はない。
また、リアプノフ指数は隣接軌道間の時間的な距離拡大率を定量化するものとして定義され、ある程度の長さの連続軌道が存在していれば十分であり、断片的な軌道の集合である復元軌道の特徴量と、連続時系列信号から再構成された一本の軌道の特徴量は、全データ点数が十分大きければ一致することに着目した。
【0016】
例えば、姿勢や精神的・肉体的な負荷または環境や外部刺激等の頻繁な変化により、定常的な生体状態は複数存在するが、カオス解析において要求されるほどの時間継続したものが存在しなかった状況を想定する。
従来のカオス解析装置においては、この状況では、解析不能とみなすか、解析結果の信頼性低下を承知の上で、短い時系列信号を単独の連続時系列信号として解析する以外、選択の余地がなかった。
【0017】
そこで、本発明の課題は、カオス解析装置において、同一の定常的な生体状態にあるとみなされる時系列信号のデータ区間を、適切に切り出し、それらを重ね合わせることで実効的にデータ点数を増大して複雑な軌道全体を復元し、データ点数不足によるカオス解析の信頼性低下を低減することを目的している。
【0018】
また、この軌道重ね合わせの手法は、生体に同一な変化が繰り返し生じる状況において、生体状態の過渡的な変化の評価にも用いることができる。
すなわち、まず変化の開始時刻を基準として時系列信号を切り取り、N個の時系列信号を作成する。
次いで過渡的な変化にかかる時間長と比べて十分短い時間長(データ点数Nw)で各時系列信号を区間分割し先頭より番号を振る。同一区間の時系列から再構成した軌道を重ね合わせ、カオス解析を行う。解析に用いる軌道はN×Nw個のデータ点の集合からなり、Nが十分大きければNwが小さくとも信頼性の高いカオス解析が可能となり、時間分解能高く対象の変化を追跡することが可能となる。
【0019】
また、再構成軌道の重ね合わせは、生体データに利用不適当区間が存在する場合にもそのまま利用できる。
すなわち、利用不適当区間を正確に特定して、これを削除し、残った断片データから再構成軌道を構成し重ね合わせることで、データ点数の短さや不適当なフィルタリングやデータ補間の悪影響を受けないカオス解析が可能となる。
【0020】
カオス解析において、この軌道重ね合わせという手法は、いくつかの研究で用いられた例がある。例えば、上記非特許文献1においては、多数の計測点において同時計測された脳波信号から作成された再構成軌道を重ね合わせている。これは脳活動の空間的な情報を取り込むことが目的である。
【0021】
また、上記非特許文献2等における短時間のカオス的軌道を経て定常状態へと遷移する過程に関する理論研究においても用いられているが、これは、一度の遷移ではカオス軌道の一部の情報しか得られないため、異なる初期値から出発した数値シミュレーションを繰り返し、軌道を重ね合わせることで、全体の軌道を復元することが目的である。
【0022】
本発明では、これら従来の手法とは異なり、重ね合わせによる軌道の復元を、例えば、日常生活における生体時系列信号を解析する際の課題である上記事項に関する制限を緩和することを目的として用いており、カオス解析の精度や時間分解能の向上を狙うとともに適用範囲の拡大を図るものである。
【0023】
具体的には、本発明のカオス解析装置においては、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、
(1)生体データに関する時系列的信号から再構成軌道を作成し、該再構成軌道に基づき生体データの評価を行うカオス解析装置において、前記時系列信号を分割し、断片的な時系列データを切り出し分類する断片データ切り出し・分類手段と、該断片データ切り出し・分類手段により切り出された、前記断片的な時系列データに基づいて、個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、該第一の再構成軌道作成手段により作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて軌道を復元する第2の再構成軌道作成手段とを備え、該第2の再構成軌道作成手段により作成された再構成軌道の特徴量により、前記生体データの評価を行えるようにした。
【0024】
(2)上記のカオス解析装置において、前記断片データ切り出し・分類手段は、前記時系列信号のうち、生体が定常状態にあるか過渡状態にあるかを識別する手段を備え、該時系列的信号から定常状態にある区間あるいは過渡状態にある区間のみを切り出し、切り出された断片的な時系列を生体の状態に応じて分類するようにした。
【0025】
(3)上記のカオス解析装置において、前記断片データ切り出し・分類手段は、過渡的な変化の発生を識別する手段を備え、該変化の発生時を基準時刻として該時系列的信号からデータ区間を切り出し、切り出された断片的な時系列データを生体の状態及び過渡状態を引き起こした原因に応じて分類するようにした。
【0026】
(4)上記のカオス解析装置において、前記断片データ切り出し・分類手段は、前記時系列的信号にノイズ、データ受信ミスあるいは計測レンジオーバーなどが発生した利用不適当区間を判別するノイズ判別手段を備え、該時系列的信号のうち該利用不適当区間を取り除くよう、前記時系列的信号を分割して切り出すようにした。
【0027】
(5)前記生体データを採取する被験者の姿勢や体動及び被験者の置かれた環境及び被験者に与えられた負荷や刺激を検出するセンサ等を備え、それらによる情報に基づき、前記断片データ切り出し・分類手段を作動させ、同一分類に属する前記断片的な時系列データを抽出するようにした。
【0028】
(6)上記のカオス解析装置において、過渡的な変化を解析する場合は、第2の再構成軌道作成は、同一の分類と判定された断片的時系列の同一の時間区間から再構成された部分的な軌道を再構成座標系で重ね合わせるものである。
【発明の効果】
【0029】
上記(1)の技術的手段によれば、断片データ切り出し・分類手段により、生体データに関する時系列的信号のうち、評価に必要な部分のデータのみを切り出して分類し、それらから再構成された部分的軌道を重ね合わせて軌道全体を復元することにより、精度の高いカオス解析が可能になるとともに、解析装置の機能性を高めることができる。
【0030】
上記(2)及び(5)の技術手段によれば、仮に生体の定常的な状態が短時間しか継続しない場合でも、その定常状態が繰り返し発生すれば生体状態評価の精度向上が可能となる。
上記(3)及び(5)及び(6)の技術手段によれば、同一の生体の過渡的変化が繰り返し発生すれば生体状態評価の精度及び時間分解能の向上が可能となる。
【0031】
上記(4)の技術的手段によれば、仮に生体データに関する時系列的信号に、被験者の体動や、解析装置自体のデータ受信エラー等が発生しても、これらを排除して精度の高い生体データの解析を行うことが可能になり、被験者の負担を低減するとともに、再検査を行うことなく早期の診断が可能となり、行動に制限を加えることなく日常生活中の人間状態を評価することも可能となる。
上記(1)〜(6)の技術手段によれば、被験者の行動に制限を加えることなく、日常生活中の生体の定常的状態と過渡的状態の両方を詳細に精度良く評価することが可能となり、適用範囲が大きく広がる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】時系列信号から再構成軌道を作成する例を示す。
【図2】同時計測された胸部三軸加速度と心電図時系列信号及び定常状態区間の判定例を示す。
【図3】定常状態を解析する実施例1のシステム構成を示す。
【図4】切り出された仰臥位における定常状態心電図時系列とその再構成軌道を示す。
【図5】定常状態における仰臥位と立位の5個の再構成軌道を重ね合わせた復元軌道を示す。
【図6】過渡状態を解析する実施例2のシステム構成を示す。
【図7】同時計測された胸部三軸加速度と心電図時系列信号及び過渡状態区間の判定例を示す。
【図8】起立動作開始を基準として切り出された過渡状態心電図時系列信号と、短時間幅で分割した後のある区間の心電図時系列と再構成軌道と、5個の再構成軌道を重ね合わせた復元軌道を示す。
【図9】起立動作における心電図時系列の相関次元を推定した結果を示す。
【図10】利用不適当区間を排除する実施例3のシステム構成を示す。
【図11】利用不適当区間の例とそれらを含めて作成された再構成軌道とそれらを削除して作成された再構成軌道を示す。
【図12】作業中や日常生活中の生体状態の変化を評価する実施例4のシステム構成を示す。
【図13】通常時と疲労時における心電図時系列の相関次元の過渡的変化を比較した例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
図2は、計測時間30分の間に、被験者が仰臥位、座位及び立位の姿勢をとった場合の心電図データ及び同時計測された胸部三軸加速度データである。
図3は、実施例1のシステム基本構成を示し、解析装置に内蔵されるCPUのソフトウェアにより、各ブロックの機能が達成される。
心電図データ及び姿勢データは、周波数フィルタによるノイズ成分の除去や短いデータ欠落区間の補間などの前処理を施す。姿勢データは、体幹部の三軸加速度情報や画像解析等により得られた、生体の姿勢や体動の程度に関する情報である。
【0035】
次いで、心電図データの定常状態区間の判定及び切り出しと分類を行う。
定常状態区間の判定は、例えば、体幹部加速度の変動が所定の範囲内であること、体幹部加速度が所定の範囲を超えた直前の時刻から所定の時間が経過していること、心電図データの指標(例えば心拍数の平均値や分散等)が所定の範囲内であること等により行う。この処理により、心電図データから定常状態区間の断片的な時系列データが切り出され分類される。
なお、定常状態区間の分類は、例えば、三軸加速度データの各成分より求めた重力加速度の方向や揺らぎのパターン等により、仰臥位、座位、立位等に姿勢毎に分類する。
【0036】
そして、さらに切り出された定常状態の時系列信号毎に、再構成軌道作成手段より、個々に再構成軌道を作成し、これらのうち同じ分類に属するもののみを重ね合わせて軌道を復元する。この処理は、断片データ切り出し・分類手段により切り出された、断片的な時系列データから個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、これにより作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて、定常状態の軌道として復元する第2の再構成軌道作成手段により構成される。
【0037】
図4は、切り出された仰臥位定常状態の心電図時系列とその再構成軌道(再構成次元m=3、時間遅れτ=8と設定)である。図5は、例えば、計測開始から2分経過〜3分経過を1番目に発生した定常状態、計測開始から26経過〜27分経過を5番目に発生した定常状態としたとき、1分間再構成軌道を5個重ね合わせた復元軌道の例であり、(a)は、被験者が仰臥位のときの定常状態、(b)被験者が立位のときの定常状態を、例えば、三軸加速度データに基づいて、判定、分類し、切り出したものである。
この場合、各再構成軌道が、適切に定常状態として判定、切り出され分類されたものあれば、5分間定常状態が途切れることなく継続した場合の再構成軌道と同等の情報を持つものとして、復元された軌道の特徴量をカオス解析の手法により推定することができる。
【0038】
[実施例2]
図6は実施例2のシステム基本構成を示し、解析装置に内蔵されるCPUのソフトウェアにより、各ブロックの機能が達成される。
心電図データ及び姿勢データは、周波数フィルタによるノイズ成分の除去や短いデータ欠落区間の補間などの前処理を施す。姿勢データは、体幹部の三軸加速度情報や画像解析等により得られた、生体の姿勢や体動の程度に関する情報である。
【0039】
次いで、心電図データの過渡状態区間の判定及び切り出しと分類を行う。過渡状態区間の判定は、例えば、体幹部加速度が所定の範囲を超えた変動を示した時点をトリガーとして、次の変動の発生または所定の時間の経過により行う。
過渡状態区間の分類は、例えば、三軸加速度データの各成分の変動等により、仰臥位から座位、座位から立位、立位から仰臥位などとあらかじめ定めておいたパターンに分類する。図7は仰臥位から立位への姿勢変更を行った際の過渡状態区間の検出の例であり、点線で囲まれた部分が、仰臥位から立位への姿勢変更を行った過渡状態区間を示している。
【0040】
過渡的な変化を追跡するために、切り出された心電図時系列信号を、想定される過渡的変化の時間長と比べて十分短い時間長で区間分割する。図8(a)は図7で検出された5つの心電図時系列であり、区間分割時間長10秒の17の区間に分割されている。
同分類に属する同区間の時系列信号から再構成軌道を作成し、重ね合わせて軌道を復元する。図8(b)は、姿勢変更開始を基準時刻(計測起点)として、第3区間(姿勢変更後20秒から30秒)の心電図時系列とそこから再構成された軌道を示している。これら5個の再構成軌道を重ね合わせて軌道を復元したものが、図8(c)である。復元された軌道は、単独軌道の5倍のデータ点数から構成され、カオス解析による軌道の特徴量推定の精度を向上させることができる。
【0041】
図9(a)は、10秒間の時系列から再構成された単独軌道と5個の単独軌道を重ね合わせた復元軌道について、代表的なカオス解析手法の一つである相関次元解析を行った結果である。
図9(b)は単独軌道から求めた相関次元の平均をとったものとの比較を示している。
相関次元は軌道の複雑さを表す指標であるが、データ点数の少ない単独軌道は本来の軌道の複雑さを十分表現できていないため相関次元の値が小さく推定され、ばらつきも大きく、複数回の解析の平均をとっても相関次元は真の値に近づくことはない。
【0042】
これに対し、本発明の手法によれば、重ね合わせ数の増大により軌道構造が詳細に表現されるため、より真に近い値を推定することが可能となる。
本実施例では、姿勢変更を検出し、姿勢変更開始からの準安静状態に復帰するまでの間の心拍特性を重ねてカオス解析を行うようにしているが、姿勢変更のみならず、騒音、悪臭などの環境ストレスを負荷したり、精神的なストレスを負荷してもよく、薬物や音楽・映像等の生体への刺激の影響を評価してもよい。
【0043】
[実施例3]
図10は、実施例3のシステム基本構成を示し、解析装置に内蔵されるCPUのソフトウェアにより、各ブロックの機能が達成される。
心電図データは、周波数フィルタによるノイズ成分の除去や短いデータ欠落区間の補間などの前処理を施すとともに、所定の基準に基づき利用不適当区間を判定する。これは、例えば、ノイズレベルが所定の大きさを超えている区間、心電図波形を補間できないほどデータ欠落や計測レンジオーバーが継続している区間などである。
【0044】
次いで、心電図データから利用不適当区間を削除し、残ったそれぞれの断片的時系列を用いて再構成軌道を作成し、重ね合わせて軌道を復元する。最後に、復元された軌道の特徴量をカオス解析の手法により推定する。
図11は、利用不適当区間が再構成された軌道に与える影響の一例である。
【0045】
心電図時系列には順に、大ノイズが混入した区間、データ受信ミスにより数回分の心臓拍動が欠落してしまった区間、体動や電極接触不良等により心電計の計測レンジをオーバーした区間を想定した利用不適当区間が設定されている。全データを用いて再構成軌道を作成してしまうと図11(b)のように軌道の形状が乱されてカオス解析の信頼性が低下してしまうが、利用不適当区間を削除して重ね合わせにより復元された図11(c)の軌道を用いることにより、カオス解析の信頼性低下が防止できる。
このように、計測上の問題により生体時系列信号に断続的に利用不適当区間が生じる場合においてもデータを有効活用することが可能となる。
【0046】
[実施例4]
図12に、具体的な利用例の一つとして、作業中や日常生活中の生体状態の変化を評価するシステムを示す。
本実施例のシステムは、長時間連続計測された生体時系列信号から連続的に生体状態を評価することを目的としている。
心電図等の生体時系列信号は、別途もたらされる姿勢や作業内容といった分類情報及び生体時系列信号そのものの平均値や分散などを用いて、分類される。その後、利用不適当区間の判定と削除を行い、記憶装置に蓄積される。
【0047】
次いで、適切な解析時間区間を設定し、その区間内における定常状態、過渡状態のカオス解析を、同分類の再構成軌道を重ね合わせて軌道を復元することにより行う。カオス解析により得られた指標値により人間状態を評価し、同様の解析を続ける。
解析時間区間の設定法は、例えば、一時間として短期的な日内変動を評価するもの、一日単位で週内変動やさらに長期的な変化を評価するものなどが考えられる。ここで注意すべき点は、本発明の復元軌道作成法は、重ね合わせる軌道は生体状態に大きな差がないものから計測された時系列から再構成されたものに限られる点である。
【0048】
例えば、仰臥位と立位など姿勢が大きく異なる状況で計測された心電図から作成された軌道を重ね合わせたり、同じ姿勢でも朝と夜に計測された心電図から作成された軌道を重ね合わせたりすると、不正確な評価がもたらされる可能性がある。
なお、本システムは過去に記録されたデータを用いたオフライン的な解析とともに、連続的に計測と解析を進めるリアルタイムなオンライン解析を行うことも可能である。
【0049】
図13に、本実施例を用いて、被験者の主観評価に基づき、疲労がほとんど感じられない場合、大きな疲労を感じている場合の二つの心電図時系列に対して解析した結果を示す。カオス解析による代表的な特徴量の一つである相関次元の値が示されている。
【0050】
解析は、分類項目として仰臥位から立位の姿勢変更、解析時間区間として一時間内を設定した。5個の170秒間心電図時系列が切り出され、それらを10秒区間17個に分割し、過渡的変化を本発明の手法を用いたカオス解析により追跡した。
疲労を感じていない通常時においては、姿勢変更により心電図時系列の相関次元が大きく変化し、100秒程度の時間をかけて立位における定常値に収束している。一方、疲労が大きい場合は姿勢変更による大きな変化は見られない。疲労による生体の適応能力の変化が評価できていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、解析装置に内蔵されるコンピュータのソフトウェアを改造するだけで、コストアップを招くことなく、解析に必要な生体データを抽出して、これを重ね合わせることにより、カオス解析装置の精度、機能を高めることができる。
それにより、検査時や解析時の負担を低減するとともに、例えば、準安静状態と、姿勢の変更や精神的・肉体的負荷により引き起こされる過渡状態とを峻別して、それぞれの解析結果及び相互関連を評価することができるから、日常生活における幅広い生体データを解析し、人間状態の適切な評価・診断を行うことが可能になり、心電図解析装置を含め、種々の生体データ解析装置として、広い分野での利用が期待できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体データに関する時系列的信号から再構成軌道を作成し、該再構成軌道に基づき生体データの評価を行うカオス解析装置において、
前記時系列信号を分割し、断片的な時系列データを切り出し分類する断片データ切り出し・分類手段と、
該断片データ切り出し・分類手段により切り出された、前記断片的な時系列データに基づいて、個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、
該第一の再構成軌道作成手段により作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて軌道を復元する第2の再構成軌道作成手段とを備え、
該第2の再構成軌道作成手段により作成された再構成軌道の特徴量により、前記生体データの評価を行えるようにしたカオス解析装置。
【請求項2】
前記断片データ切り出し・分類手段は、生体が定常状態にあるか過渡状態にあるかを識別する手段を備え、該時系列的信号から定常状態にある区間あるいは過渡的な状態にある区間のみを切り出し、切り出された断片的な時系列を生体の状態に応じて分類するようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項3】
前記断片データ切り出し・分類手段は、過渡的な変化の発生を識別する手段を備え、該変化の発生時を基準時刻として該時系列的信号からデータ区間を切り出し、切り出された断片的な時系列データを生体の状態及び過渡状態を引き起こした原因に応じて分類するようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項4】
前記断片データ切り出し・分類手段は、前記時系列的信号にノイズ、データ受信ミスあるいは計測レンジオーバーなどが発生した利用不適当区間を判別するノイズ判別手段を備え、該時系列的信号のうち該利用不適当区間を取り除くよう、前記時系列的信号を分割して切り出すようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項5】
前記生体データを採取する被験者の姿勢や体動及び被験者の置かれた環境及び被験者に与えられた負荷や刺激を検出するセンサを備え、該センサの検出値に基づき、前記断片データ切り出し・分類手段を作動させ、同一分類に属する前記断片的な時系列データを抽出するようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項6】
前記断片データ切り出し・分類手段は、前記センサの検出値に基づき、被験者の過渡的な変化を検出して、過渡的変化における断片的な時系列データを切り出し分類し、前記第2の再構成軌道作成は、同一の分類と判定された断片的時系列の同一の時間区間から再構成された部分的な軌道を再構成座標系で重ね合わせるようにした請求項5記載のカオス解析装置。
【請求項1】
生体データに関する時系列的信号から再構成軌道を作成し、該再構成軌道に基づき生体データの評価を行うカオス解析装置において、
前記時系列信号を分割し、断片的な時系列データを切り出し分類する断片データ切り出し・分類手段と、
該断片データ切り出し・分類手段により切り出された、前記断片的な時系列データに基づいて、個別に再構成軌道を作成する第1の再構成軌道作成手段と、
該第一の再構成軌道作成手段により作成された複数の再構成軌道を、再構成座標系において重ね合わせて軌道を復元する第2の再構成軌道作成手段とを備え、
該第2の再構成軌道作成手段により作成された再構成軌道の特徴量により、前記生体データの評価を行えるようにしたカオス解析装置。
【請求項2】
前記断片データ切り出し・分類手段は、生体が定常状態にあるか過渡状態にあるかを識別する手段を備え、該時系列的信号から定常状態にある区間あるいは過渡的な状態にある区間のみを切り出し、切り出された断片的な時系列を生体の状態に応じて分類するようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項3】
前記断片データ切り出し・分類手段は、過渡的な変化の発生を識別する手段を備え、該変化の発生時を基準時刻として該時系列的信号からデータ区間を切り出し、切り出された断片的な時系列データを生体の状態及び過渡状態を引き起こした原因に応じて分類するようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項4】
前記断片データ切り出し・分類手段は、前記時系列的信号にノイズ、データ受信ミスあるいは計測レンジオーバーなどが発生した利用不適当区間を判別するノイズ判別手段を備え、該時系列的信号のうち該利用不適当区間を取り除くよう、前記時系列的信号を分割して切り出すようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項5】
前記生体データを採取する被験者の姿勢や体動及び被験者の置かれた環境及び被験者に与えられた負荷や刺激を検出するセンサを備え、該センサの検出値に基づき、前記断片データ切り出し・分類手段を作動させ、同一分類に属する前記断片的な時系列データを抽出するようにした請求項1記載のカオス解析装置。
【請求項6】
前記断片データ切り出し・分類手段は、前記センサの検出値に基づき、被験者の過渡的な変化を検出して、過渡的変化における断片的な時系列データを切り出し分類し、前記第2の再構成軌道作成は、同一の分類と判定された断片的時系列の同一の時間区間から再構成された部分的な軌道を再構成座標系で重ね合わせるようにした請求項5記載のカオス解析装置。
【図3】
【図6】
【図10】
【図12】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図6】
【図10】
【図12】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2011−152194(P2011−152194A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13959(P2010−13959)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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