説明

生体状況評価装置および生体状況評価方法

【課題】簡易な生体情報測定手段を用いても、高価で大型な装置と変わらない精度で、生体状態の評価を行うことができ、また被験者の個人差を考慮した生体状態の評価を可能とした生体状況評価装置及び生体状況評価方法を提供する。
【解決手段】生体状況評価装置10は、生体情報測定手段11により測定した生体情報である脈波から、特徴抽出手段12によって、前記測定された脈波の特徴情報Fを抽出する。独立成分分析手段13にて、前記抽出された特徴情報に含まれている独立成分を抽出し、有意成分算出手段14にて、抽出された独立成分から有意な成分を算出する。有意成分算出手段14に算出した生体評価信号をフィードバックして、参照信号生成手段15が生成した参照信号と比較して、有意成分算出関数の最適化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体状況を正確に評価するための生体評価装置および生体状況評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会や代謝症候群(メタボリックシンドローム)の問題で健康の自己管理が注目を浴びている。最も注目されているのは生活習慣病である。生活習慣を変えれば回避や早期回復が可能と言われている。自分の生活習慣に問題があることを気づかせるために健康状態を短時間で簡単に評価する方法が一番有効と考えられる。そこで、健康状態の指標として自律神経機能を評価するという方法が知られている。
【0003】
後述する非特許文献1では、血行循環に現れる低周波数に基づいた自立神経機能の評価方法が提案されている。
体内においては、血圧の揺らぎを抑制するためにフィードバックループに基づいて、自律神経の働きなどで心拍数の操作が常に行われている。システムに遅れが生じるため、血行循環にマイヤー波と呼ばれている周期約10秒の低周波数の揺らぎが現れる。非特許文献1で提案されている評価方法は、「生体状況が急変すると血圧と心拍数のそれぞれのマイヤー波の相互相関が変化する。」との仮説に立脚している。まず、マイヤー波の揺らぎを心拍数変動と血圧変動からそれぞれ抽出し、相互相関係数を算出し、その相互相関係数の最大値を時系列データとして蓄積する。そして、蓄積された最大相互相関係数の時系列データにより、自律神経機能の評価を行う。最大相互相関係数が1から離れれば離れるほど、自律神経機能の効率が低下していると評価できる。このように生体状況を評価する最大相互相関係数をρmaxと記す。
【0004】
ρmaxは安静時、フィードバックコントロールが乱れなく機能するため、ρmaxが高い値となる。図9(a)は、安静時の心拍数におけるマイヤー波と、血圧関連情報におけるマイヤー波を示し、図9(b)はそのマイヤー波の遅延を用いた相互相関係数およびρmaxを示す。一般に、外部刺激などの影響で、自律神経機能が崩れて制御が乱れると、ρmaxが低下すると考えられている。外部刺激はストレサ(ストレス要因)による刺激である。例えば、非特許文献1では、映像酔いを起こす手振れ映像でρmaxを検証している。図10(a)は、外部刺激があった場合の心拍数におけるマイヤー波と血圧関連情報におけるマイヤー波を示し、図10(b)は、そのマイヤー波の相互相関係数およびρmaxを示す。
【0005】
以下、この評価方法を、図面を参照して詳細に説明する。
【0006】
図11は、ρmaxを用いた従来の生体状況評価装置の構成を示すブロック図である。従来の生体状況評価装置200は、脈波を測定する脈波測定手段201と、測定された生体情報である脈波に基づいて、特徴情報を抽出する特徴抽出手段202と、抽出された特徴情報に基づいて生体評価する信号ρmaxを算出する生体評価信号算出手段203とから構成される。特徴抽出手段202は、心拍に関連する情報を抽出する心拍関連情報抽出手段205と、血圧関連情報を抽出する血圧関連情報抽出手段206とからなる。
【0007】
以下に、ρmaxを用いた従来の生体状況評価手法の詳細を図12のフローチャートを用いて説明する。
【0008】
ステップS101にて、脈波測定手段201を用いて、時系列データとして脈派の波形を測定する。測定装置としては、小型で拘束感が殆どない光電式指先容積脈波計を用いる。ステップS102にて、ユーザやシステムが測定の終了を求めているかどうかを確認する。終了が求められたらステップS103に移動する。それ以外の場合はステップS101に戻り、脈波の測定を継続する。
【0009】
ステップS103にて、特徴抽出手段202は、前記ステップS102で測定された脈波の波形データから立ち上がり点を求め、各脈拍の立ち上がり時間と終了時間を求める。ステップS104にて、生体状況評価装置200の心拍関連情報抽出手段205が、脈波測定手段201が測定した脈波の波形から心拍数の変動を算出し、その時系列データをメモリ等の記録手段に記録する。心拍数の算出は、例えば、前記ステップS103で記録された各脈拍の立ち上がり時間と終了時間から差分を算出し、逆数を求める方法がある。
【0010】
ステップS105にて、心拍関連情報抽出手段205は、前記ステップS104で記録された心拍数の時系列データから、マイヤー波を抽出する。一般的にマイヤー波を抽出するためにバンドパスフィルタが使われている。フィルター処理の方法によって、前記ステップS104で算出された心拍数の時系列データを補間する必要がある。例えば、2Hzの周波数でスプライン補間を行うことが望ましい。
【0011】
ステップS106にて、生体状況評価装置200の血圧関連抽出手段206は、脈波測定手段201が測定した脈波の波形から血圧関連情報の変動を算出して、その時系列データをメモリ等の記録手段に記録する。例えば、前記ステップS103で測定された各脈の立ち上がり時間と終了時間に基づいて、前記ステップS101で測定された脈波の波形を脈拍ごとに分解して、拍内積分値を求める方法が知られている。
【0012】
ステップS107にて、血圧関連測定手段206は、前記ステップS106で記録された血圧関連情報の時系列データから、マイヤー波を抽出する。一般的にマイヤー波を抽出するためにバンドパスフィルタが使われている。フィルター処理の方法によって、前記ステップS106で算出された血圧関連情報の時系列データを補間する必要がある。例えば、2Hzの周波数でスプライン補間を行うことが望ましい。
【0013】
ステップS108にて、マイヤー波に基づいて生体評価信号(ρmax)算出手段203がρmaxを算出する。ρmaxは次の手順で算出されている。前記ステップS105で抽出された心拍数におけるマイヤー波の時系列データと、前記ステップS107で抽出された血圧関連情報におけるマイヤー波の時系列データから、相互相関係数を算出し、最大相関係数の値を求めて、この値をρmaxとする。ステップS109にて、前記ステップS108で算出されたρmaxの時系列データを出力し、終了する。
【非特許文献1】杉田典大、吉澤 誠、田中 明、阿部健一、山家智之、仁田新一:血圧-心拍数間の最大相互相関係数を用いた映像刺激の生体影響評価、ヒューマンインタフェース学会論文誌、Vol.4、No.4、pp.227−234(2002年11月)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、例えば、非特許文献1に開示されている方法では、データの取得が容易な反面、血圧情報との乖離が課題である。上述のように小型で拘束感が殆どない光電式指先容積脈波計などを使用した場合は、脈拍の拍内積分値を用いた方法で血圧情報を求めることになるが、やはり直接血圧情報を測定する連続血圧計測装置などの測定値に比較すると、正確性が明らかに劣ってしまう。そのため、正確な生体状況評価を行うには、高価で大型、しかも拘束感が強い連続血圧計測装置などの装置が必要となり、被験者の自由度が減少し、測定できる被験者の動作が限定されてしまうことにもなる。
【0015】
また、被験者も個人差があり、生体状況を評価するにも、個人差を考慮しなければ正確な評価とはいえないが、従来の技術では十分考慮されているとは言い難い。
【0016】
本発明は、上記の問題点を考慮して、簡易な生体情報測定手段を用いても、高価で大型な装置と変わらない精度で、生体状態の評価を行うことができ、また被験者の個人差を考慮した生体状態の評価を可能とした生体状況評価装置及び生体状況評価方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、測定された生体情報に基づいて、評価対象とする生体の状態の評価を示す生体評価信号を算出する生体状況評価装置であって、
生体情報を測定する生体情報測定手段と、前記生体情報測定手段により測定された生体情報から特徴情報を抽出する特徴抽出手段と、前記特徴抽出手段により抽出された特徴情報に含まれる独立成分を独立成分分析関数に基づいて抽出する独立成分分析手段と、前記独立成分分析手段により抽出された独立成分から、有意な成分を有意成分算出関数に基づいて算出する有意成分算出手段と、前記有意成分算出手段により算出された有意成分を用いて生体評価信号を算出する生体評価信号算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記有意成分算出手段に、算出した有意成分あるいは生体評価信号をフィードバックして有意成分の最適化を行う比較基準とする基準参照信号を生成する参照信号生成手段をさらに備え、
被験者特有の特性を考慮する場合、前記有意成分算出手段は、フィードバックされた有意成分と生体信号の少なくともいずれかと、前記参照信号生成手段により算出された参照信号とを比較して、その誤差が最小になる有意成分算出関数を求めて保持することを特徴とする。
【0019】
ここで、前記参照信号生成手段は、参照信号を、予め設定しておいた理想的あるいは典型的な信号として生成したり、過去に算出された生体評価信号に基づいて生成したりする場合がある。特に、過去に算出された生体評価信号に基づいて生成する場合は、過去に算出された複数の生体評価信号を平均化することにより生成する。
【0020】
また、前記独立成分分析手段は、前記特徴抽出手段により得られた特徴情報から、独立成分を抽出するための独立成分分析関数を求めて保持することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、被験者にフィードバックによる有意成分算出関数を求めるための準備動作を指示する準備動作指示手段を備えてもよい。
【0022】
また、本発明において、前記生体情報測定手段は、被験者の脈波を測定し、前記特徴抽出手段は、特定情報として心拍関連情報及び血圧関連情報を抽出し、前記生体評価信号算出手段は、前記心拍関連情報と前記血圧関連情報の特定の周波数帯の情報を抽出し、前記抽出情報から相互相関係数の最大値を生体評価信号として算出することを特徴とする。
【0023】
さらに、前記特徴抽出手段は、前記生体情報測定手段により得られた脈波の波形から拍内積分値を前記血圧関連情報として算出してもよいし、前記特定周波数帯は、0.08Hz〜0.12Hzを含んでもよい。
【0024】
本発明は、測定された生体情報に基づいて、評価対象とする生体の状態の評価を示す生体評価信号を算出する生体状況評価方法であって、
測定された生体情報から、予め設定しておいた特徴情報を抽出する特徴抽出ステップと、抽出された特徴情報に含まれる独立成分を独立成分分析関数に基づいて抽出する独立成分分析ステップと、有意成分算出手段により、抽出された独立成分から、有意な成分を有意成分算出関数に基づいて算出する有意成分算出ステップと、算出された有意成分を用いて生体評価信号を算出する生体評価信号算出ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0025】
被験者特有の特性を考慮する場合、フィードバックされた有意成分と生体信号の少なくともいずれかと、比較基準となる参照信号とを比較して、その誤差が最小になる有意成分算出関数を求める最適化ステップを備え、前記有意成分算出ステップにおいて、最適化ステップにて求めた有意成分算出関数を用いて有意成分を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、測定した生体情報から特徴情報を漏れなく抽出して、独立成分分析と有意成分算出を行って生体状況評価を行うので、高価で大型な生体情報測定装置を用いずに同等の精度が得られる。さらに、フィードバックされた有意成分と生体信号の少なくともいずれかと、比較基準となる参照信号とを比較して、有意成分算出関数を設定するので、被験者の個人差を十分に考慮した生体状況評価を行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の形態における生体状況評価装置の構成を示すブロック図である。
この生体状況評価装置10は、生体情報である脈波を測定する生体情報測定手段11と、前記測定された脈波の特徴情報Fを抽出する特徴抽出手段12と、前記抽出された特徴情報Fを分析して含まれている独立成分ICを抽出する独立成分分析手段13と、前記独立成分分析手段13により抽出された独立成分ICから有意な成分Sを算出する有意成分算出手段14と、前記有意成分算出手段14に算出した生体評価信号をフィードバックして有意成分の最適化を行う比較基準とする基準参照信号を生成する参照信号生成手段15と、スイッチスイッチ前記特徴情報Fと前記有意成分算出手段により算出された有意成分Sを用いて生体評価信号(ρmax)を算出する生体評価信号算出手段16と、被験者に準備動作を指示する準備動作指示手段17とから構成される。
【0029】
独立成分分析手段13には、独立成分抽出処理を制御するスイッチ21が配置されている。また、有意成分算出手段14には、有意成分の調整のためのフィードバックを制御するスイッチ22が配置されている。いずれも詳しいことは後述する。
【0030】
また、生体情報測定手段11で測定された測定データ、特徴抽出手段12で特定抽出するための情報、独立成分分析手段13の独立分析関数(関数の係数を含む)、有意成分算出手段14の有意成分算出関数(関数の係数を含む)等は、図示しない記録手段(例えば、メモリやハードディスク等)に記録される。
【0031】
脈波を測定する生体情報測定手段11として、指先などに装着できる光電式指先容積脈波計が多く使われている。図2に光電式指先容積脈波計を示す。この光電式指先容積脈波計30は、発光部31と、受光部32とにより構成されているものが一般的である。この脈波計30の原理は、血流量に応じて光の透過度が変化することを利用して脈波を得る方法に基づいている。得られる脈波は図3で示すような形をしている。
【0032】
得られた脈波の波形を特徴抽出手段12に入力する。特徴抽出手段12は、例えば図3に示すように、前記脈波の波形から次のような特徴情報を求める。
・心臓拡張期の時間(F
・屈曲点とその時間(F
・脈拍のピーク及びバイアス(F
・ 脈拍頻度(F
・拍内積分値または正規化拍内積分値(F
【0033】
上記の特徴情報の定義は以下の通りである。
【0034】
心臓拡張期の時間とは、脈拍のピークから次の脈拍の立ち上がり点までの時間である。屈曲点とは、脈拍のスタートからピークまでの間における脈波速度の最大値となる点である。脈拍のピークとは、脈拍の最大値である。脈拍のバイアスとは、脈拍の最終点の値である。
【0035】
脈拍頻度とは、脈波の立ち上がり点の間の間隔、言い換えれば脈拍の時間である。尚、ここでの立ち上がり点とは、図4で示すように脈波速度の最大値となる点の近傍における脈波波形の極小値である。心電図の波形で一番大きくスパイク状に出るR波と次のR波までの間隔を示すRR間隔と同等である。また、RR間隔から以下の式(1)のように瞬時心拍数HRが求められる。
【0036】
【数1】

【0037】
正規化拍内積分値とは、脈拍積分値を脈拍のRR間隔で割ったものである(以下に記載の式(2)参照)。以下より拍内積分値をPWAと、正規化拍内積分値をNPWAと記す。
【0038】
【数2】

【0039】
尚、PWAは、ベースライン(脈拍の最小値を結ぶ線)の下にある積分値を含まないように算出されるが、ベースラインの下にある積分値を足しても良いし、ベースラインの下にある積分値を特徴情報のリストに加えても良い。
【0040】
独立成分抽出処理を制御するスイッチ21がONの場合、測定生体情報に基づいた独立成分分析が有効となる。スイッチ21がOFFの場合、独立成分分析が無効になり、以前に得られた独立成分抽出関数(記録手段に記録されている独立成分抽出関数)を用いて、独立成分を出力する。
【0041】
前記有意成分算出手段14におけるフィードバックを制御するスイッチ22がONの場合、フィードバックによる最適化処理が有効となる。スイッチ22がOFFの場合、フィードバックが無効になり、以前に得られた有意成分算出関数(記録手段に記録されている有意成分算出関数)を用いて、有意成分を出力する。
【0042】
また、両方のスイッチ21、22がONである状態を以下、学習モードと呼ぶ。両方のスイッチ21、22がOFFである状態を以下、評価モードと呼ぶ。
【0043】
なお、スイッチ21がOFF、スイッチ22がONの場合も学習モードであり、求められた係数(aij)をそのまま利用し、別の条件で有意成分の最適化を行いたい時に使う。スイッチ21がONの場合、スイッチ22がOFFの場合、論理上では意味がないので、モード設定は行われない。以下の説明では、両方のスイッチ21、22が同時にONあるいはOFFの場合について説明する。
【0044】
次に、学習モードでの生体状況評価装置の動作を詳しく説明する。学習モードとは、被験者の個人差による生体評価の変動を抑えるため、予め個人差を考慮して、独立成分分析関数や有意成分算出関数を定めるモードである。
【0045】
独立成分分析手段13において、特徴抽出手段12から得られた特徴情報F〜Fから、独立成分分析方を用いて独立成分IC1、IC2、ICを抽出するための係数a11、a12、・・・、a15、a21、a22、・・・、a55を求め、独立成分IC1、IC2、ICを下記の式で算出する。算出された独立成分IC1、IC2、ICを有意成分算出手段14へ出力する。
【0046】
【数3】

【0047】
尚、独立成分分析法では係数aijを求めるために、コスト関数を設定する。例えば、算出された独立成分の非ガウス性をコスト関数と設定し、最大化になるように係数aijを求める方法が知られている。また、コスト関数を相互情報量と設定し、最小化になるように係数aijを求める方法もある。
【0048】
また、独立成分分析を行う前にprewhitening又はspheringと呼ばれている処理を行うのが一般的である。その前処理は計測されたデータの相関を無くすために用いられている。
【0049】
独立成分分析手段13は、求めた係数aijをメモリ等の記憶手段に保持する。係数aijは、独立成分ICを求める混合行列の要素であり、これを記憶手段に保持することにより、独立成分分析関数としての式(3)を保持していることになる。
【0050】
有意成分算出手段14において、前記独立成分分析手段13から得られた独立成分IC1、IC2、ICから有意な成分Sを以下の式で算出して、生体評価信号算出手段16へ出力する。尚、初期化の時は係数b、b、bを適当に決める。
【0051】
【数4】

【0052】
生体評価信号ρmaxは、特徴抽出手段12から出力される特徴情報F〜Fと有意成分算出手段14で算出された有意成分Sを基に生体評価信号ρmaxを算出する。ρmaxの場合、心拍数が必要であるため、特徴情報である脈拍頻度Fを特別特徴情報と選定して、生体評価信号算出手段16に出力する。
【0053】
有意成分算出手段14は、求めた係数bを算出したメモリ等の記憶手段に保持する。係数bは、有意成分Sを求める混合行列の要素であり、これを記憶手段に保持することにより、有意成分算出関数としての式(4)を保持していることになる。
【0054】
こうして、測定された生体情報から特徴情報を抽出して、独立成分、さらにその有意成分を算出して、生体評価信号を算出するので、簡易な生体情報測定装置であっても、正確な生体評価が可能となる。従来の方法に比べれば、独立成分を用いることによって、個人差と関係なく、血圧関連情報をより正確に抽出できる。具体的には、個人ごとに混合行列を算出することで、個人ごとの循環系の特性に沿ったパラメータ(係数等)の設定を行なうことができるので、個人差を解消することが可能となる。
【0055】
算出された生体評価信号ρmaxが有意成分算出手段14にフィードバックされ、参照信号生成手段15により出力された参照評価信号との二乗平均平方根誤差を求める。このときの参照評価信号は、例えば後述する曲型的な特性を有する生体評価信号ρmaxである。有意成分Sを算出するための係数b、b、bを調整し、前記の処理を繰り返す。係数b、b、bの調整方法は、例えば焼きなまし法が知られている。これは、二乗平均平方根誤差に基づいて、最適な有意成分、つまり参照信号と生体評価信号との誤差が一番少なくなるような係数b、b、bを求めて、有意成分算出関数を定め、有意成分を算出する。こうして、被験者の個人差を考慮した生体状況評価が可能となる。以上で学習モードでの動作を説明した。
【0056】
次に、評価モードでの生体状況評価装置の動作を詳しく説明する。評価モードとは、学習モードで設定した独立成分分析関数や有意成分算出関数を用いて、生体状況を評価するモードである。
【0057】
独立成分分析手段13において、学習モードで行われた独立成分分析処理の際に得られた独立成分IC1、IC2、ICを抽出するための係数a11、a12、・・・、a15、a21、a22、・・・、a55を保持しており、特徴抽出手段12で抽出された特徴情報F〜Fから以下の式(3)で独立成分IC1、IC2、ICを算出し、有意成分算出手段14へ出力する。
【0058】
有意成分算出手段14において、学習モードで行われた最適化処理の際に得られた有意成分Sを算出するための係数b〜bを保持しており、有意成分Sを式(4)で算出し、生体評価信号算出手段16へ出力する。
【0059】
生体評価信号算出手段16は特徴抽出手段12で得られた特別特徴情報F(脈拍頻度)と、有意成分算出手段14で算出された有意成分Sを基に、生体評価信号ρmaxを算出する。例えば、非特許文献1に記載の方法でρmaxを算出する。この場合、特別特徴情報として脈拍頻度もしくは心拍数を用いることが必要であり、この実施形態では上述のように脈拍頻度を用いている。以上で評価モードでの動作を説明した。
【0060】
生体状況評価手法の詳細を図5のフローチャートを用いて生体状況評価装置の動作を詳しく説明する。
【0061】
ステップS1にて、モードの設定を確認する。学習モードの場合、ステップS2にて、学習モード用の生体評価を行う。それ以外の場合、ステップS3にて評価モード用の生体状況評価を行う。これらもモード設定は、前述のように、独立成分分析手段13におけるスイッチ21と、有意成分算出手段に設けたスイッチ22のON/OFFにより切り替える。すなわち、両スイッチをONにした場合は、典型的な応答を起こす実験条件で、ユーザに合ったモデルを求めることができる学習モードである。また、両方のスイッチをOFFにすると、評価モードとすることができる。
【0062】
次に、図6のフローチャートを用いて、ステップS2における学習モード用の生体状況評価を詳しく説明する。
【0063】
ステップS11にて、生体状況評価装置10は、生体評価信号の典型的なレスポンスを取得するために、測定前に行う準備動作について、ユーザに指示を提示する。こうして、典型的な(あるいは理想的な)データが得られて、参照信号と比較することで、被験者の個人的な特性部分を考慮できる。例えば、図示はしていないが、液晶パネル等の表示部に文字表示で指示を提示する。典型的なレスポンスを起こすためには、例えば深呼吸後に息こらえする方法で、迷走神経を刺激するバルサルバ手技がある。迷走神経を刺激することによって、生体評価信号がV字型のレスポンスを示すことが知られている。そこで、例えば、このバルサルバ手技を行う指示と、その準備動作内容についての説明を表示する。
【0064】
ステップS12にて、ユーザの同意を待つ。すなわち、ユーザが入力装置にて測定開始の指示をするまで待機する。測定開始の指示があれば、ステップS13にて、生体情報測定手段11にて脈波の測定を行う。ステップS14にて、ユーザの操作またはシステムのメッセージに応じて、測定を終了し、ステップS15に進む。ステップS15にて、特徴抽出手段12は、測定された脈波から脈拍を検出し、ステップS16にて、各脈拍の特徴情報F〜Fを求める。ステップS17にて、独立成分分析手段13と有意成分算出手段14により、有意成分Sを抽出する。
【0065】
ここで、図7のフローチャートを用いて、ステップS17を詳しく説明する。
【0066】
ステップS21にて、参照信号生成手段15は、測定時間とバルサルバ手技が行われた時間帯に合わせて理想的あるいは典型的な参照信号を生成する。生体評価信号としてρmaxを用いる場合、ρmaxは、バルサルバ手技が実施されている前後に一定値「1」となり、それ以外の測定時間帯に0まで落ちるV字型またはU字型の形になる。そこで、参照信号生成手段15は、この典型的ρmaxを参照信号として生成する。
【0067】
ステップS22にて、独立成分分析手段13は、独立成分分析関数の係数aijを求めて独立成分分析関数を設定して、ステップS16で抽出された特徴情報F〜Fに含まれている独立成分IC1、IC2、ICを抽出する。このときの独立成分分析関数は記録手段に保持される。ステップS23にて、有意成分算出手段14は、予め設定されている有意成分算出関数に従って独立成分IC1、IC2、ICの重み付けで有意成分Sを算出し、生体評価信号算出手段16は有意成分Sと特別特徴信号Fに基づいて生体評価信号ρmaxを算出する。そして、有意成分算出手段14は、生体評価信号ρmaxをフィードバックされて、ステップS21で合成された典型的な参照信号との二乗平均平方根誤差を求める。
ステップS24にて、有意成分算出手段14は、ステップS23にて算出された二乗平均平方根誤差が一番少なくなるように、重み付けである係数b、b、bを調整して有意成分算出関数を求め、その有意成分算出関数を記録手段に保持する。
【0068】
こうして、被験者の個人差を考慮して独立成分分析関数や有意成分算出関数を求めて、生体状況を評価するので、個人差を考慮した評価結果が得られる。
以上で図6のフローチャートの説明に戻る。
【0069】
ステップS18にて、生体評価信号算出手段16は、ステップS17で抽出された有意成分Sを基に生体評価信号ρmaxを算出し、その生体評価信号ρmaxを出力する(ステップS19)。以上で学習モードにおける最適化処理を詳しく説明した。
【0070】
次に、図8のフローチャートを用いて、ステップS3における評価モード用の生体状況評価を詳しく説明する。
【0071】
ステップS31にて、生体情報測定手段11は、脈波の測定を行い、脈波の時系列データを蓄積する。ステップS32にて、ユーザの動作やシステムのメッセージにより、測定を終了し、ステップS33に進む。ステップS33にて、特徴抽出手段12は、ステップS31で蓄積された脈波の時系列データの脈拍を求める。
【0072】
ステップS34にて、特徴抽出手段12は、前記ステップS33で検出された脈拍の特徴情報を抽出し、時系列データとして蓄積する。ステップS35にて、学習モードで行われた最適化処理の際に得られた独立成分IC1、IC2、ICを抽出するための係数aijや最適な有意成分Sを算出するための重み付けを用いて、最適な有意成分Sの時系列データを出力する。
【0073】
ステップS36にて、ステップS34で抽出された特別特徴情報Fの時系列データと、前記ステップS35で出力された最適な有意成分Sの時系列データを基に、生体評価信号ρmaxを算出する。例えば、非特許文献1に記載の方法でρmaxを算出する。尚、この場合、特別特徴は心拍数もしくは脈拍の頻度とする。
ステップS37にて、前記ステップS36で算出された生体評価信号ρmaxを出力し、終了する。
【0074】
学習モードで被験者の個人差を考慮した独立成分分析関数や有意成分算出関数を求め、評価モードでは、これら関数に基づいて生体状況評価を行うので、正確な評価結果が得られる。測定した生体情報に含まれる自律神経機能の活動を表している情報を漏れなく抽出することができ、また副交感神経や交感神経の活動を表している情報を予め分別せずに自律神経機能等の生体状況評価を正確に行うことが出来る。
【0075】
以上、本発明の実施形態を説明してきたが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0076】
例えば、前記実施形態では、光電容積脈波センサを用いて脈波を測定されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、血流量センサまたは圧力センサから得られる生体情報など様々の生体情報に適用できる。
【0077】
また、前記実施形態では、特徴情報のリストを記載したが、抽出できる特徴はこのリストに記載の特定情報に限定はなく、生体情報測定手段により得られる様々の情報自体及び情報に含まれている特徴を用いても適用できる。
【0078】
また、前記実施形態では、脈拍頻度或いは心拍数と、最適な独立成分に基づいて、一つの生体評価信号が算出されているが、有意成分算出手段において、二つ以上の最適な有意成分に基づいて、生体評価信号を算出する方法にも適用できる。さらに、生体評価を行うために生体評価信号算出手段に入力される特徴情報(特別特徴情報)も複数であってもよいし、全ての特徴情報を入力する場合もあり得る。
【0079】
また、前記実施形態では、フィードバックする信号は生体評価信号のみであったが、これに限らず、算出した有意成分をフィードバックしてもよい。この場合は、参照信号を有意成分としなければならない。さらに、フィードバックは、これらを組み合わせてもよい。
【0080】
フィードバックされた生体評価信号や有意成分信号が複数ある場合、誤差が最も低いものを優先に使うなどの処理を行う。例えば、生体指標の理想的な反応が得られない場合、生体信号の理想的な反応を優先にする。
【0081】
また、前記実施形態では、脈拍頻度または心拍数を特別特徴と選定すると記載されているが、別の特徴を選んでも適用できる。また、前記実施形態では、生体状況評価指標の例としてρmaxを記載したが、他の生体状況評価指標を用いた方法にも適用できる。
【0082】
また、前記実施形態では、典型的な参照信号を合成する際、バルサルバ手技を用いると記載されているが、典型的なレスポンスを起こす別の方法にも適用できる。例えば、呼吸統制または姿勢の変更によりレスポンスを利用した方法でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の生体状況評価装置は、手軽に生態情報を測定して自律神経活動の状態の推定が可能であることから、家庭での健康管理モニターとしての応用が考えられる。さらに、携帯型にすることで、外出先や勤務先でも気軽に自分の体調をチェックするようなシステムを作ることも可能である。また、非特許文献1に記載の本来の目的である映像刺激の評価にも適用できる。例えば、映画の試写会で参加者に簡易装置を配布し、データを集めることで、映像コンテンツの安全性やエンターテイメント性を評価できる可能性があると考えられる。以上のように、本特許は、工学、医療、福祉などさまざまな分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る生体状況評価装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】脈波センサの構造例を示す図である。
【図3】脈波の波形の特徴情報を示す図である。
【図4】脈拍の立ち上がり点と終了点を示す図である。
【図5】本発明に係る生体状況評価装置の生体状況評価手順を示すフローチャートである。
【図6】図5のステップS2における学習用モード測定のフローチャートである。
【図7】図6のステップS17における有意情報抽出のフローチャートである。
【図8】図5のステップS3における評価モード測定のフローチャートである。
【図9】生体の安静時の生理指標に関する特性の一例を示す図である。
【図10】生体の有刺激時の生理指標に関する特性の一例を示す図である。
【図11】ρmaxを用いた従来の生体状況評価装置の構成を示すブロック図である。
【図12】ρmaxを用いた従来の生体状況装評価手順のフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
10 生体状況評価装置
11 生体情報測定手段
12 特徴抽出手段
13 独立成分分析手段
14 有意成分算出手段
15 参照信号生成手段
16 生体評価信号算出手段
17 準備動作指示手段
21、22 スイッチ
30 光電式指先容積脈波計
31 発光部
32 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定された生体情報に基づいて、評価対象とする生体の状態の評価を示す生体評価信号を算出する生体状況評価装置であって、
生体情報を測定する生体情報測定手段と、
前記生体情報測定手段により測定された生体情報から特徴情報を抽出する特徴抽出手段と、
前記特徴抽出手段により抽出された特徴情報に含まれる独立成分を独立成分分析関数に基づいて抽出する独立成分分析手段と、
前記独立成分分析手段により抽出された独立成分から、有意な成分を有意成分算出関数に基づいて算出する有意成分算出手段と、
前記有意成分算出手段により算出された有意成分を用いて生体評価信号を算出する生体評価信号算出手段と、
を備えたことを特徴とする生体状況評価装置。
【請求項2】
前記有意成分算出手段に、算出した有意成分あるいは生体評価信号をフィードバックして有意成分の最適化を行う比較基準とする基準参照信号を生成する参照信号生成手段をさらに備え、
被験者特有の特性を考慮する場合、
前記有意成分算出手段は、フィードバックされた有意成分と生体信号の少なくともいずれかと、前記参照信号生成手段により算出された参照信号とを比較して、その誤差が最小になる有意成分算出関数を求めて保持することを特徴とする請求項1に記載の生体状況評価装置。
【請求項3】
前記参照信号生成手段は、参照信号を、予め設定しておいた理想的あるいは典型的な信号として生成することを特徴とする請求項2に記載の生体状況評価装置。
【請求項4】
前記参照信号生成手段は、参照信号を、過去に算出された生体評価信号に基づいて生成することを特徴とする請求項2に記載の生体状況評価装置。
【請求項5】
前記参照信号生成手段は、参照信号を、過去に算出された複数の生体評価信号を平均化することにより生成することを特徴とする請求項4に記載の生体状況評価装置。
【請求項6】
前記独立成分分析手段は、前記特徴抽出手段により得られた特徴情報から、独立成分を抽出するための独立成分分析関数を求めて保持することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の生体状況評価装置。
【請求項7】
被験者にフィードバックによる有意成分算出関数を求めるための準備動作を指示する準備動作指示手段を備えることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の生体状況評価装置。
【請求項8】
前記生体情報測定手段は、被験者の脈波を測定し、
前記特徴抽出手段は、特定情報として心拍関連情報及び血圧関連情報を抽出し、
前記生体評価信号算出手段は、前記心拍関連情報と前記血圧関連情報の特定の周波数帯の情報を抽出し、前記抽出情報から相互相関係数の最大値を生体評価信号として算出することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の生体状況評価装置。
【請求項9】
前記特徴抽出手段は、前記生体情報測定手段により得られた脈波の波形から拍内積分値を前記血圧関連情報として算出することを特徴とする請求項8のいずれかに記載の生体状況評価装置。
【請求項10】
前記特定周波数帯は、0.08Hz〜0.12Hzを含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の生体状況評価装置。
【請求項11】
測定された生体情報に基づいて、評価対象とする生体の状態の評価を示す生体評価信号を算出する生体状況評価方法であって、
測定された生体情報から、予め設定しておいた特徴情報を抽出する特徴抽出ステップと、
抽出された特徴情報に含まれる独立成分を独立成分分析関数に基づいて抽出する独立成分分析ステップと、
有意成分算出手段により、抽出された独立成分から、有意な成分を有意成分算出関数に基づいて算出する有意成分算出ステップと、
算出された有意成分を用いて生体評価信号を算出する生体評価信号算出ステップと、
を備えたことを特徴とする生体状況評価方法。
【請求項12】
被験者特有の特性を考慮する場合、
フィードバックされた有意成分と生体信号の少なくともいずれかと、比較基準となる参照信号とを比較して、その誤差が最小になる有意成分算出関数を求める最適化ステップを備え、
前記有意成分算出ステップにおいて、最適化ステップにて求めた有意成分算出関数を用いて有意成分を算出することを特徴とする請求項11に記載の生体状況評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−5000(P2010−5000A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165672(P2008−165672)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】