説明

生体用インプラント及びその製造方法

【課題】インプラントの生体適合性を高め、且つ機械的性質を高める。
【解決手段】高密度金属からなる芯部を射出成形型内に配置し、この芯部と該射出成形型内との空間に、表面部を形成する金属粉末を射出し、上記芯部の表面側に上記表面部が重なって成形されたインプラント素材を成形し、インプラント素材を焼成することによって、生体組織との接合部位である表面部は空孔が形成された金属製の多孔質焼結体からなり、芯部には、空孔が無いあるいは該表面部より空孔が少ない金属体からなるインプラントを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体用インプラント及びその製造方法、特に金属製の歯科用インプラント及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体用インプラントは、一般的に金属やセラミックスで製作されている。金属の例としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、銅などが知られている。その中でも、難加工材料であるが、強度や耐食性に優れ、尚且つ生体適合性にも優れるチタン(以下、純金属チタン、チタン合金を含みチタンと称す)が良く用いられている。このような従来技術としては、例えば、チタン等の金属粉末と加熱により焼失する空隙形成材料粉末とを混合してプレス成形し、加熱して空隙形成材料を焼失させた後、焼結処理を施して多孔質金属体とし、多孔質金属体の空隙にハイドロキシアパタイトを充填した後、焼結処理を施した生体用多孔質複合体を製造することを開示している(特許文献1)。
【0003】
又、骨組織と接触する部位は骨親和性が求められることから、機械加工による形状形成の後にブラストやエッチングを行い表面に微細な起伏を設けて、骨との結合を高める工夫がなされている。又は、骨細胞との適合性を高める為に酸化チタン、アパタイト等の表面処理が行われている。このような従来技術としては、例えば、歯科用インプラントの製造方法として、表皮層と芯部とで形成し、表皮層を金属射出成形方法で形成し、芯部を射出成形方法で製造する方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−325654号公報
【特許文献2】特開2005−329244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、生体親和性が高い金属多孔質体を得ることができる。しかし、生体との親和性を確保するために空孔を設けた焼結材としているために、圧縮強度や耐圧強度等の機械強度が不足しており、実用上では課題となっていた。
【0005】
特許文献2では、金属から作られた外側本体と、プラスチックから作られた内側本体とからなる歯科用インプラントであって、チタン等の金属からなる外側本体は、金属射出成形方法で空洞部を有するように形成され、内側本体は、上記空洞部にプラスチック射出成形方法等で形成されるようにしたものが知られている。しかし、内部がプラスチックであり、インプラントとしての強度が不十分であった。また、金属から作られた外側本体とプラスチックから作られた内側本体との接合強度が十分でなく、場合によっては、剥離する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高密度の金属製の芯材を製作し、この外側に金属粉末を射出成形して多孔質な表面材を形成し、芯材に表面材が一体になった成形体を形成し、その後焼結を行なうことで複合金属体を形成し、生体適合性に優れ、且つ機械的性質を高めた複合金属体を成形することを特徴とする。
【0007】
本発明は、特に、金属射出成形法、溶製法等を用いて高密度の金属製芯材を作製し、この芯材を射出成形金型にインサートして、芯材の外側に多孔質となる金属表面材を射出成形して、焼結を行なうことで、生体適合性に優れ、且つ機械的性質を高めた複合金属体を製造することを特徴とする。又は、金属射出成形法を用いて高密度の金属芯材を作製し、焼結してない状態の芯材を射出成形金型にインサートして、この外側に多孔質となる表面金属材を射出成形して、芯材と表面材との複合材を製作し、この複合材を一緒に焼結を行なうことで生体適合性に優れ、且つ機械的性質を高めた複合金属体を製造することを特徴とする。溶製法とは、溶けた金属を金型に流し込んで、冷却して固めて所定形状に成形する一般的な成形方法であって、その成形した部材を溶製材と呼ぶ。
【0008】
また、芯材に機械的強度の優れる合金を用い、表面の多孔体は金属溶出で問題が起こらない純金属(例えば純チタン)を用いることで金属溶出を抑制しつつ、高い機械的強度をも両立できるようにした。特に、芯材の主たる金属と表面部の金属とを同じとすることで、両者の相性、密着性を向上するようにすることが好ましい。
【0009】
具体的には、請求項1は、生体組織との接合部位である表面部と、該表面部の内部に芯部を備える生体用インプラントにおいて、該表面部は空孔が形成された金属製の多孔質焼結体からなり、該芯部は、空孔が無い、あるいは該表面部より空孔が少ない金属体からなることを特徴とする。
【0010】
請求項2は、請求項1において、前記表面部の空孔が、空孔率で10〜45%であることを特徴とする。
【0011】
請求項3は、請求項1または2において、前記表面部の空孔が、空孔の直径が1〜1000μmであることを特徴とする。
【0012】
請求項4は、請求項1〜3のいずれか1つにおいて、前記芯部がチタンを45重量%以上含有し、かつアルミ、バナジウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、ニッケル及びパラジウムから選択する少なくとも1種以上の金属を合計で0.1〜55重量%含有することを特徴とする。
【0013】
請求項5は、請求項4において、該表面部はチタンを99重量%以上含有することを特徴とする。
【0014】
請求項6は、請求項1〜3のいずれか1つにおいて、前記芯部がコバルトを50重量%以上含有し、かつ炭素,シリコン,クロム,モリブデンから選択する少なくとも1種以上の元素を合計で1〜50重量%含有することを特徴とする。
【0015】
請求項7は、請求項6において、該表面部はコバルトを99重量%以上含有することを特徴とする。
【0016】
請求項8は、請求項1〜7のいずれか1つにおいて、該芯部が金属焼結体からなることを特徴とする。
【0017】
請求項9は、請求項1〜8のいずれか1つにおいて、該表面部の厚さが、10〜1000μmであることを特徴とする。
【0018】
請求項10は、請求項1〜9のいずれか1つにおいて、該生体用インプラントに対して、該芯部の容積が70%〜98%であることを特徴とする。
【0019】
請求項11は、請求項1〜10のいずれか1つにおいて、該表面部の表皮面及び/又は空孔内部にチタン酸化物皮膜を有することを特徴とする。
【0020】
請求項12は、請求項1〜10のいずれか1つにおいて、該表面部の表皮面及び/又は空孔内部にアパタイト皮膜を有することを特徴とする。
【0021】
請求項13は、請求項1〜10のいずれか1つにおいて、該表面部の表皮面及び/又は空孔内部に炭素質薄膜を有することを特徴とする。
【0022】
請求項14は、請求項1〜13のいずれか1つに記載の生体用インプラントを製造するための生体用インプラントの製造方法であって、高密度金属からなる芯部を射出成形型内に配置し、この芯部と該射出成形型内との空間に、該表面部を形成する金属粉末を射出し、上記芯部の表面側に上記表面部が重なって成形されたインプラント素材を成形し、該インプラント素材を、焼結温度:850〜1400℃で、焼結時間:10分〜8時間で焼成し、空孔を備える金属焼結体を表面部に形成したことを特徴とする。
【0023】
請求項15は、請求項14において、該表面部を形成する該金属粉末と、焼結により消失する空隙形成材料の混合粉を用意し、この用意した混合粉を、該芯部と該射出成形型内との該空間に射出することを特徴とする。
【0024】
請求項16は、請求項15において、該芯部を形成する金属粉末とバインダーからなる素材を射出成形して所定形状の芯部用素材を形成し、該芯部用素材を該芯部として上記射出成形型内に配置することを特徴とする。
【0025】
請求項17は、請求項15または16において、前記空隙形成材料が、炭酸水素アンモニウム、尿素、ポリオキシメチレン樹脂、尿素樹脂、発泡ポリスチレン樹脂、発泡ポリウレタン樹脂のうちから選択される1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
請求項1によれば、生体適合性に優れ、且つ機械的性質を高めた複合金属体を成形することができる。
【0027】
請求項2によれば、空孔率で10〜45%であるので、生体適合性に優れた空孔とすることができる。空孔率が多いと強度が弱く、空孔率が少ないと生体適合性が悪くなるので、上記範囲とすることが好ましい。
【0028】
請求項3によれば、空孔の直径が1〜1000μmであるので、生体適合性に優れた空孔とすることができる。空孔の直径が大きすぎると、強度が弱く、生体適合性も劣り、空孔の直径が小さ過ぎると、生体適合性が悪くなるので、上記範囲とすることが好ましい。特に、上記範囲の中で、あまりばらつかない直径となるようにすることが好ましい。特に、空孔の直径が10〜500μmであることが好ましい。
【0029】
請求項4によれば、芯材がチタンを45%以上有するので、生体適合性に優れ、強度的にも優れるものを得られる。また、アルミ、バナジウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、ニッケル及びパラジウムから選択する少なくとも1種以上の金属を合計で0.1〜55重量%含有するので、強度及び成形性に優れた芯材を得ることができる。
【0030】
請求項5によれば、表面部はチタンを99重量%以上含有するので、金属の溶出を抑制できると共に生体適合性に優れた表皮体とすることができる。また、芯材の主成分であるチタンと同じ金属であるから、両者の相性及び密着性に優れる。
【0031】
請求項6によれば、芯材がコバルトを50重量%以上含有するので、生体適合性に優れ、強度的にも優れる。また、炭素,シリコン,クロム,モリブデンから選択する少なくとも1種以上の元素を合計で1〜50重量%含有するので、強度及び成形性に優れた芯材を得ることができる。
【0032】
請求項7によれば、表面部はコバルトを99重量%以上含有するので、金属の溶出を抑制できると共に生体適合性に優れた表皮体とすることができる。また、芯材の主成分であるコバルトと同じ金属であるから、両者の相性及び密着性に優れる。
【0033】
請求項8によれば、芯部も表面部と同様に金属焼結体であり、表皮材との密着性に優れる。また、3次元の複雑な形状も精度良く成形できる。
【0034】
請求項9によれば、表面部の厚さが、10〜1000μmであるので、生体適合性に優れる。特に、表面部の厚さが薄すぎると生体適合性が劣り、厚すぎると機械的強度が不足することとなるので、上記範囲とすることが好ましい。特に、20〜50μとすることが好ましい。
【0035】
請求項10によれば、芯部の容積が全容積に対して、70%〜98%であるので、生体適合性と機械的強度とをバランスさせたインプラントを得ることができる。特に、芯部の容積が少ないと機械的強度が不足し、芯部の容積が多いと相対的に表皮材がすくなり生体適合性が悪くなるので、上記範囲とすることが好ましい。
【0036】
請求項11によれば、表面部の表皮面及び/又は空孔内部にチタン酸化物皮膜有するので、生体適合性に、更に優れる。
【0037】
請求項12によれば、表面部の表皮面及び/又は空孔内部にアパタイト皮膜を有するので、生体適合性に、更に優れる。
【0038】
請求項13によれば、表面部の表皮面及び/又は空孔内部に炭素質薄膜を有するので、生体適合性に、更に優れる。
【0039】
請求項14によれば、表面部に空孔を有する金属焼結体を備え、内部に機械的強度に優れる金属体を得ることができ、且つ両者の密着性も優れているので、高性能のインプラントを得ることができる。
【0040】
なお、焼結温度:850〜1400℃で、焼結時間:10分〜8時間で焼成することによって、空孔を備えた表面部を焼結して得られる。特に焼結温度が低いと、焼結が不足して強度が足りなくなり、温度が高いと脆くなる。また、焼結時間は、短いと焼結不足となり、長いと脆くなり、長時間は要求性能上必要ないので、上記範囲とすることが好ましい。特に、30分〜4時間とすることが好ましい。
【0041】
請求項15によれば、確実に空孔を得ることができる。
【0042】
請求項16によれば、芯部を高精度で成形できる。また、表面部との密着性に優れる。
【0043】
請求項17によれば、空隙形成材料が、炭酸水素アンモニウム、尿素、ポリオキシメチレン樹脂、尿素樹脂、発泡ポリスチレン樹脂、発泡ポリウレタン樹脂のうちから選択される1種以上であるので、確実に空孔を得ることができる。
【0044】
本発明では、さらに、焼結時の温度や時間を制御することで、表面部の密度制御(即ち空孔率、空孔の大きさ等)を行なうことができ、骨組織と接触する表面部の表面多孔質形状も同時に制御できるため、切削加工の後にエッチングやブラストなどで表面起伏を設ける複数工程による製造方法よりも安価に製造できるメリットが生まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
(実施形態1)
実施形態1の製造方法を図1に基づいて説明する。まず、所定形状のインサート部品(芯部としての芯材)を、溶製材で作製する。この方法は、通常の製造方法であり、簡単に説明する。(1)原料を用意し、(2)簡単な形状に切削加工する。(3)このようにして、所定形状のインサート部品を作製する。
【0046】
そして、次に、上記芯材をインサート部品として歯科用インプラントを成形する方法を説明する。(4)プラスチックの射出成形金型に、上記で作製したインサート部品(芯材)をセットする。(5)型締め後、芯材の外側と金型との間の空間に、チタン,チタン合金およびコバルト合金等の表面部としての表皮材を形成するコンパウンドを射出成形し、芯材の外側に金属粉体が成形された複合体からなる歯科用インプラント素材を成形する。(6)型開き後、歯科用インプラント素材を取り出し、その後、その成形体を脱脂した後、焼結し複合部材を作製する。
【0047】
上記の金属射出成形方法を利用して作製する歯科用インプラントの具体的な構造は、一般的に知られているインプラント形状であり、例えば、特開2007-135751号公報、特開H07-313529号公報等のように、外周にネジ部を形成した埋め込みタイプのインプラントを製作した(図示省略)。
【0048】
次に、具体的な組成、製造条件を説明する。
【0049】
(1)芯材
芯材の組成は、チタン:残部% 水素(H):0.013%以下,酸素(O):0.3%以下,窒素(N):0.07%以下,鉄(Fe):0.3%以下であり、この組成からなるものを溶製して作製した。
【0050】
(2)表皮材
(a)組成
表皮材の組成は、純チタン:99.5重量%以上、カーボン(C):0.2%以下、酸素(O):0.3%以下、バインダー : ワックス系バインダーの混合物を準備し、射出して、焼結した。即ち、芯材は溶製材で高密度なものとし、表皮材は多孔質なものとし、且つ基本的に同じ組成として両者の密着性を高めたものとした。
(b)表皮材の射出成形条件
射出温度: 155℃
射出圧力: 110MPa
射出速度: 50m/sec
射出時間: 20sec(射出時間5sec、冷却時間15sec)
(c)表皮材の焼結条件
焼結温度 1050℃
焼結時間 120分
(d)完成した焼結複合体
表皮材の厚さ : 0.5mm
【0051】
このようにして、製造した歯科用インプラントは、表面部に生体適合性に優れた多孔質金属体を備え、芯部には高密度で機械的強度に優れた複合金属体とすることができ、さらに、表面部と芯部との密着性に優れたものが得られた。特に、溶製法で芯材を作製するので、容易に作製できると共に、芯材として高強度のものを得ることができる。
【0052】
(実施形態2)
実施形態2を図2に基づいて説明する。実施形態2では、実施形態1のように、予め芯材を溶製して形成したものを用意するのではなく、芯材と表皮材とを焼結用成形体としてそれぞれ成形し、一緒に焼結することを特徴とする。
【0053】
まず、(1)原料として、芯材となる金属粉末と熱可塑性樹脂などのバインダーを用意する。(2)それらを混合・混練した材料(コンパウンド)を作製する。(3)完成したコンパウンドをプラスチック用射出成形機の所定形状の金型内に射出成形して成形体を作製する。(4)成形体を取り出す。(5)この成形した成形体を、インサート部品として、射出成形金型にセットする。(6)型締め後、芯材の外側と金型との間の空間に金属粉体とバインダーおよび空孔となる樹脂(ポーラス材)を混合・混練したものを射出成形し、芯材の外側に金属粉体が成形された複合体からなる歯科用インプラント素材を成形する。(7)型開き後、歯科用インプラント素材を取り出す。(8)その後、その成形体を脱脂した後・焼結し、金属複合部材を作製する。
【0054】
(a)組成
芯材の組成は、チタン:99.5重量%以上、カーボン(C):0.2%以下、酸素(O):0.3%以下バインダー : ワックス系バインダー
表皮材の組成は、純チタン:99.5重量%以上、カーボン(C):0.2%以下、酸素(O):0.3%以下、バインダー : ワックス系バインダー、ポーラス材 : PMMA 50vol%
【0055】
なお、芯材及び表皮材の射出条件は、実施形態1の表皮材の射出条件と同じ。芯材と表皮材とは基本的に同じ組成であるが、これらを同じ条件で焼結する時に、表皮材の多孔質化を得るために、表皮材にポーラス材を添加している。ポーラス材とは、請求項で述べる空隙形成材料のことであり、一般的に知られている。
【0056】
(b)芯材及び表皮材からなる複合体の焼結条件
焼結温度 1150℃
焼結時間 120分
【0057】
完成した製品(金属複合部材)は内部を高密度材料にでき表面をポーラス材料にすることができた。
【0058】
また、芯材及び表皮材のどちらも同じ条件で焼結するので、両者間の分離、剥離が生じにくい。芯材及び表皮材を一緒に焼結でき、コストセーブできる。
【0059】
(実施形態3)
実施形態1では、芯材を予め用意する際に、芯材を切削してインサート材を作製したが、この方法に限らず、芯材を予め射出成形して、その後焼結して高密度の焼結体からなるインサート材としても良い。その製造方法を、図3に示す。
【0060】
まず、金属射出成形方法を図3に示す。(1)原料として、芯材となる金属粉末と熱可塑性樹脂などのバインダーを用意する。(2)それらを混合・混練した材料(コンパウンド)を作製する。(3)完成したコンパウンドをプラスチック用射出成形機の所定形状の金型内に射出成形して成形体を作製する。(4)成形体を取り出して、脱脂工程で、液体などによる溶媒脱脂や加熱による気化によりバインダーを除去する。(5)加熱脱脂によりバインダーを取り除くことでほぼ金属粉末のみになった脱脂体を、焼結装置に入れて焼結して金属粉末を焼き固めて、インサート部品(芯材)を作製する。
【0061】
そして、次に、上記芯材をインサート部品として歯科用インプラントを成形する方法は、実施形態1と同じであり、説明を省略する。
【0062】
この実施形態3では、表皮材にポーラス材を添加しなくても、焼結温度を制御することで、表皮材の多孔質化を制御でき、且つ表皮材と芯材との密着性に優れたものを得られる。
【0063】
本発明では、金属射出成形法で成形することによって、3次元の複雑形状の表皮形状であっても精度良く作製できる。インサートする材料の周りに異なる金属を成形でき、且つ射出成形で作製できるので、3次元の複雑形状部品も作製できる。
【0064】
なお、実施形態1〜3は、あくまでも例示であって、本発明はこの実施形態に限られるものではない。
【0065】
(実施例1及び2)
次に、本発明の金属複合体と、比較例として、表皮材から芯材まで同じ焼結材で作製したものとの機械的強度を比較するためにテストピースを作製して、テストした。そのテスト状況及びテスト結果を説明する。まず、図4に示すような、JIS Z 2201 14B号の引張り試験片を製作する。
【0066】
実施例1及び2の素材は、同じものを用意した。
【0067】
(A1)芯材としては、チタン:残部、水素(H):0.013%以下,酸素(O):0.3%以下,
窒素(N):0.07%以下,鉄(Fe):0.3%以下、バインダー : ワックス系バインダー
(A2)表皮材として、純チタン:99.5重量%以上、カーボン(C):0.2%以下
酸素(O):0.3%以下、バインダー : ワックス系バインダー、
ポーラス材 : PMMA 50vol%
(A3)成形方法
(A1)の芯材の素材を射出成形金型の空隙に下記条件で射出した。
射出成形条件
射出温度: 155℃
射出圧力: 110MPa
射出速度: 50m/sec
射出時間: 20sec(射出時間5sec、冷却時間15sec)
(A1)の成形体を、インサート部材として試験片用の射出成形金型にセットした。
(A2)の素材を上記射出条件で射出成形し、(A1)と(A2)の複合体を成形した。
【0068】
そして、下記条件で焼結した。
焼結条件
焼結温度 実施例1:1100℃ 実施例2:1050℃
焼結時間 120分(実施例1〜2とも同じ時間)
(A4)完成した焼結複合体
表皮材の厚さ : 0.5mm
【0069】
(実施例3)
実施例3の素材は、以下のものを用意した。
【0070】
(A1)芯材としては、チタン:残部、水素(H):0.013%以下,酸素(O):0.3%以下,
窒素(N):0.07%以下,鉄(Fe):0.3%以下
(A2)表皮材として、純チタン:99.5重量%以上、カーボン(C):0.2%以下、
酸素(O):0.3%以下、バインダー : ワックス系バインダー
(A3)成形方法
(A1)の芯材を金型にセットして、溶製法で作製し、試験片形状に切削して作製した。
【0071】
次に、射出成形金型に、上記芯材をインサート材としてセットして、(A2)の素材を下記射出条件で射出成形し、複合体を成形した。
射出成形条件
射出温度: 155℃
射出圧力: 110MPa
射出速度: 50m/sec
射出時間: 20sec(射出時間5sec、冷却時間15sec)
【0072】
そして、下記条件で焼結した。
焼結条件
焼結温度 1000℃
焼結時間 120分
(A4)完成した焼結複合体
表皮材の厚さ : 0.5mm
【0073】
なお、この実施形態3では、芯材には溶製材を切削した物を用いているため表皮材のみ焼結する。その場合には、比較的低温で焼結することが好ましく、実施例1や2より低い温度で焼結した。
【0074】
また、芯材は焼結材や溶製材で予め用意しておき、表皮材のみを焼結する場合には、この表皮材で多孔質を得られやすいように、比較的低温で焼結することが好ましい。なお、この場合でも、ポーラス材を混合して、比較的高めの焼結温度にしても良い。
【0075】
比較例1〜3の素材は、同じものを用意した。
【0076】
(B1)芯材及び表皮材の区別なく、以下の組成とした。
純チタン:99.5重量%以上、
カーボン(C):0.2%以下、酸素(O):0.3%以下
バインダー : ワックス系バインダー
(B2)成形方法
(B1)の素材の試験片を本発明の実施例1と同じ条件で射出成形し、その後、この素材を本発明の実施例1と同じ条件で焼結した。
【0077】
なお、焼結温度は、比較例1〜3が実施例1〜3に対応した同じ時間とした。
【0078】
上記実施例1〜3、比較例1〜3の試験片を、各5個づつ作成し、金属材料引張試験方法(JIS Z 2241)に基づき試験を行った。その結果を、図5に示す。
【0079】
図6において、表皮材のみを多孔質とした実施例(傾斜多孔質と表示)では表皮材のSEM写真から画像処理より測定した値(面積法)でポーラス部の面積比を出した値である。それに対して、比較例(多孔質と表示)、即ち表面部〜芯部まで同じ多孔質の焼結体とした場合の相対密度とは、アルキメデス法により実際の密度を測定して真密度で割った値である。
【0080】
表皮材の空孔率(100−相対密度)は、図6に示す顕微鏡写真の中で示す空孔の総面積を計算し、全体の面積に対する比として算出した。その結果、実施例1〜3は、それぞれ相対密度が、90.1%、91.1%、94.0%となった。また、比較例1〜3の相対密度が、それぞれ、89.9%、90.8%、93.8%となった。
【0081】
実施例1〜3と比較例1〜3とを、同じ空孔率(100−相対密度)のもので比較すると解るように、表面部のみをこの空孔率とし、芯部は空孔の無い金属体とした場合である本実施例では、全部を同じ相対密度の多孔質体としたものに比較して、機械的強度が優れている。
【0082】
なお、本発明では、歯科用インプラントで説明したが、これの限られるものではなく、他の生体用インプラントに適用できる。
【0083】
なお、表面部の表皮面及び/又は空孔内部に、チタン酸化物皮膜、アパタイト皮膜、炭素質薄膜等の表面処理を行っても良く、また、凹凸を付与して接触面積を増加するような処理を付加しても良い。このような処理は、表面部の表皮面及び/又は空孔内部の必要な部位に行えば良く、全部に行う必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る生体用インプラントを利用することでより良い予後のインプラント体を提供できる。特に、本発明は、生体用インプラントとして、各種インプラントに利用できるが、咬み合い等により高い機械的強度が要求される歯科用インプラントに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施形態1に係わり、表皮材と芯材との金属複合体製造工程を説明する図を示す。
【図2】本発明の実施形態2に係わり、表皮材と芯材との金属複合体製造工程を説明する図を示す。
【図3】本発明の実施形態3に係わり、芯材の製造工程を説明する図を示す。
【図4】試験片の斜視図を示す。
【図5】本発明の実施例及び比較例の機械的強度を示す。
【図6】本発明の実施例及び比較例の顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織との接合部位である表面部と、該表面部の内部に芯部を備える生体用インプラントにおいて、
該表面部は空孔が形成された金属製の多孔質焼結体からなり、
該芯部は、空孔が無い、あるいは該表面部より空孔が少ない金属体からなることを特徴とする金属製の生体用インプラント。
【請求項2】
前記表面部の空孔が、空孔率で10〜45%であることを特徴とする請求項1に記載の生体用インプラント。
【請求項3】
前記表面部の空孔が、空孔の直径が1〜1000μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の生体用インプラント。
【請求項4】
前記芯部がチタンを45重量%以上含有し、かつアルミ、バナジウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、ニッケル及びパラジウムから選択する少なくとも1種以上の金属を合計で0.1〜55重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項5】
該表面部はチタンを99重量%以上含有することを特徴とする請求項4に記載の生体用インプラント。
【請求項6】
前記芯部がコバルトを50重量%以上含有し、かつ炭素,シリコン,クロム,モリブデンから選択する少なくとも1種以上の元素を合計で1〜50重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項7】
該表面部はコバルトを99重量%以上含有することを特徴とする請求項6に記載の生体用インプラント。
【請求項8】
該芯部が金属焼結体からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項9】
該表面部の厚さが、10〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項10】
該生体用インプラントに対して、該芯部の容積が70%〜98%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項11】
該表面部の表皮面及び/又は空孔内部にチタン酸化物皮膜を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項12】
該表面部の表皮面及び/又は空孔内部にアパタイト皮膜を有することを特徴とすることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項13】
該表面部の表皮面及び/又は空孔内部に炭素質薄膜を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の生体用インプラント。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1つに記載の生体用インプラントを製造するための生体用インプラントの製造方法であって、
高密度金属からなる芯部を射出成形型内に配置し、
この芯部と該射出成形型内との空間に、該表面部を形成する金属粉末を射出し、
上記芯部の表面側に上記表面部が重なって成形されたインプラント素材を成形し、
該インプラント素材を、焼結温度:850〜1400℃で、焼結時間:10分〜8時間で焼成し、
空孔を備える金属焼結体を表面部に形成したことを特徴とする生体用インプラントの製造方法。
【請求項15】
該表面部を形成する該金属粉末と、焼結により消失する空隙形成材料の混合粉を用意し、この用意した混合粉を、該芯部と該射出成形型内との該空間に射出することを特徴とする請求項14に記載の生体用インプラントの製造方法。
【請求項16】
該芯部を形成する金属粉末とバインダーからなる素材を射出成形して所定形状の芯部用素材を形成し、
該芯部用素材を該芯部として上記射出成形型内に配置することを特徴とする請求項15に記載の生体用インプラントの製造方法。
【請求項17】
前記空隙形成材料が、炭酸水素アンモニウム、尿素、ポリオキシメチレン樹脂、尿素樹脂、発泡ポリスチレン樹脂、発泡ポリウレタン樹脂のうちから選択される1種以上であることを特徴とする請求項15または16に記載の生体用インプラントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−254581(P2009−254581A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107153(P2008−107153)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(393015874)株式会社キャステムエンジニアリング (4)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】