説明

生体試料の分析装置

【課題】生体試料の成分濃度の分析を行う自動分析装置に投入する検体の前処理を実施する装置において、マニュアル作業の低減をはかり、処理能力の向上と低コスト化を達成することができる生体試料の分析装置を提供する。
【解決手段】生体試料の分析装置において、採血管101に異なる種類の光を異なる方向から照射するレーザー光源40および白色光源60と、レーザー光源40および白色光源60による光の照射と同時に、採血管101を側面から撮像する撮像手段70と、撮像手段70で撮像された画像を処理し、採血管101内の層に関する情報を取得する解析手段80と、レーザー光源40、白色光源60および撮像手段70を制御する制御手段90とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の中に採取した血液などの生体試料を分析する生体試料の分析装置に関し、特に、生体試料を構成する成分に対し、それぞれの残量、色、成分の分離状態等に代表されるような可視的な物理状態の自動把握と、容器、栓の形状および色の自動識別を行い、多岐の項目数と多数の試料の組み合わせからなる分析工程を管理する処理フローの最適化に貢献する情報を提供する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から生体試料を用いて成分の濃度を分析する技術が提供されてきた。そして、生体試料を自動分析装置に投入する前に行う処理(前処理)や、自動分析装置への検体の搬送を自動で行う前処理システムが登場し、現在も発展を続けている。検査室内におけるユーザーの運用も多様化し、採血管の形状を目印にした検体の分類や、栓の色に着目した検体の分類など、採血管や栓の形状または色に意味を持たせる運用方法が見受けられるようになった。
【0003】
しかしながら、前処理の完全な自動化は実現しているわけではなく、作業者によるマニュアル作業を必要とする部分も残っている。代表例に、分析にやや不適切で自動分析装置への投入を避けたい検体のピックアップ作業が該当する。例えば、血清の液量が少ない検体を自動分析装置で分析する場合、分注時にプローブが分離剤に支え詰まりエラーを生じる原因となるが、前処理において液量を確認する作業はマニュアル(目視確認)で行うケースが多い。
【0004】
また、吸光度を測定原理とする自動分析装置では、溶血や混濁がある血清の分析は結果の正確性にとって致命傷となるが、これらの検体を前処理においてチェックする作業はやはりマニュアルであるケースが多い。
【0005】
上述の問題を解決することが市場要求となり、例えば、特開平11−37845号公報(特許文献1)、特開2001−165752号公報(特許文献2)などに記載されたような、撮影手段の設置による液量や色の自動確認や異物の自動検出に関する技術が発明されている。
【0006】
この発明を発端として技術の改良が進み、現在では、例えば、特許第4092312号公報(特許文献3)、特許第3778355号公報(特許文献4)、特開2006−10453号公報(特許文献5)などに記載されたような、実際の運用状況を考慮した技術も発明されてきた。
【0007】
また、例えば、特開2009−204360号公報(特許文献6)などに記載されたような、運用時、検体の分類作業をスムーズにするために、試験管の形状を自動で識別する技術も生まれている。
【0008】
これらの先行技術は、可視光を用いてイメージングを行い、画像処理を施して情報を取得する内容や、赤外光・マイクロ波などの非可視域帯の波長を用いて透過量のプロファイルを解析して情報を取得する内容に分類できる。
【0009】
ところで、検査室における実際の運用方法の1つに、採血管の表面に患者ID・個人情報・装置運用に必要なパラメータ、などの重要情報が記載されたバーコードラベルが貼付されるという事実がある。採血管種とラベルの大きさによっては、管壁の全体が被覆されるというケースもあり、実際に検査室でも頻繁に見受けられると報告されている。
【0010】
また、通常使用する市販の採血管には、購入時に既にラベルが貼付されていることも多く、運用の都合上、この上に幾重にも重ねてラベルを貼付するという場面も少なくない。
確かに、先行技術の中には、ラベル貼付の採血管に対応できるような技術を提供しているものもある。例えば、特許第3688657号公報(特許文献7)、特許第3780229号公報(特許文献8)に記載されたような、ラベル貼付のない面を検索し、回転手段を用いて当面を撮像手段に向けるような解決方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−37845号公報
【特許文献2】特開2001−165752号公報
【特許文献3】特許第4092312号公報
【特許文献4】特許第3778355号公報
【特許文献5】特開2006−10453号公報
【特許文献6】特開2009−204360号公報
【特許文献7】特許第3688657号公報
【特許文献8】特許第3780229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、先行技術が直接扱っている範囲は、無色透明な管壁を通して中身が見える領域に限られており、ラベルが管壁の全体を被覆している場面までへの適用可能性についての言及はない。
【0013】
また、毎時800検体の処理能力が市場要求とされている現在では、毎回の回転動作を取り入れるような設計は、処理速度に遅延をきたす懸念から、実用に適した方法とはいえない。さらに、従来の技術により実現している内容は、液量測定、採血管形状識別、色判定、それぞれ単独のものが多く、全てを実装するにはコスト上昇が免れなかった。
【0014】
上述の特許文献に記載されているような単一光だけでは、ラベルによる遮光のため、特に全面がラベルで被覆された対象に対しては有効な結果を得るのは困難である。加えて、遠心分離の条件によっては層の境界面に傾斜が生じていることもあるが、従来の方法では対応しきれず、測定される液量の正確性には信頼性の面で問題があった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、生体試料の成分濃度の分析を行う自動分析装置に投入する検体の前処理を実施する装置において、マニュアル作業の低減をはかり、処理能力の向上と低コスト化を達成することができる生体試料の分析装置を提供することにある。
【0016】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0018】
すなわち、代表的なものの概要は、容器に収納された生体試料の分析を行う生体試料の分析装置であって、容器に、異なる種類の光を照射する2つ以上の照射手段と、照射手段による光の照射と同時に、容器を側面から撮像する撮像手段と、撮像手段で撮像された画像を処理し、容器内の層に関する情報を取得する解析手段と、照射手段および撮像手段を制御する制御手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0019】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下の通りである。
【0020】
すなわち、代表的なものによって得られる効果は、従来のマニュアル作業を低減することで作業者の負担や作業に伴う感染の危険性を低減することができ、また、採血管内に存在する血清の容量に関する情報が得られることで、測定項目の優先順位付けが可能となり、この結果、検体処理フローの改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の投入モジュール近隣に配置されたモジュールの構成を示す構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の容器と生体試料を説明するための説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置のエッジ強調処理の結果の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の血清容量検出の正確性の向上について説明するための説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の撮像手段にカラーカメラを用いたときに得られる画像についてのデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0023】
図1〜図2により、本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の構成について説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の全体構成を示す構成図であり、患者から採取した生体試料(血液)を前処理して、自動分析装置で分析する構成を示している。図2は本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の投入モジュール近隣に配置されたユニットの構成を示す構成図である。
【0024】
図1において、生体試料の分析装置は、搬送ライン2、投入モジュール3、遠心分離モジュール4、開栓モジュール5、バーコードなどのラベラ6、分注モジュール7、閉栓モジュール8、分類モジュール9、収納モジュール10を基本要素とする複数のモジュールからなる前処理システム1と、前処理システム1全体を制御する解析手段80および制御手段90となる制御部と、その先に接続された生体試料の成分を分析する自動分析装置11とから構成されている。そして、投入モジュール3の近隣には、本実施の形態の特徴となるユニット20が配置されている。
【0025】
投入モジュール3では、検体を生体試料の分析装置内に投入し、遠心分離モジュール4では、投入された検体に対して遠心分離を行う。開栓モジュール5では、遠心分離された検体の栓を開栓し、分注モジュール7では、遠心分離された検体を、自動分析装置11などで分析するために小分けする。ラベラ6では、その小分けの容器にバーコードを貼り付ける。
【0026】
閉栓モジュール8では、検体に栓を閉栓し、収納モジュール10では、閉栓された検体を収納する。分類モジュール9では、分注された検体容器の分類を行う。
【0027】
図2において、ユニット20は、まず、前処理システム1に接続するための台30が必要となる。この台30の上に、主要素として、採血管101を鉛直に固定する専用の固定具31、2つの照射手段(40、60)、撮像手段70を備え、撮像手段70で取得された画像を解析する解析手段80と、2つの照射手段(40、60)および撮像手段70を制御する制御手段90とが接続されている。
【0028】
本実施の形態では、照射手段(40、60)にはレーザー光源40と白色光源60を用いる。このレーザー光源40は、照射領域を調整するためのレンズ41と、集光度を調整する集光度調整器42とを有している。波長は、血液の代表的な色に近い値である630nmのレーザー光44を採用することとする。なお、実際は、どの波長帯でも実施することは可能であり、また、後述するように被測定物に特徴のある波長を含む複数個の波長を使い分ける方法でもよい。
【0029】
また、台30の上には、移動手段50が設けられ、レーザー光源40は棒51を介して移動手段50と接続され、上下移動が可能となっている。一方で、白色光源60には、発光部分61に以外に、角度を調整する角度調整手段である角度調整機構62、光量を調整する光量調整手段である光量調整スイッチ64、出力波長を調整するための出力波長調整手段であるフィルター65が備わっている。また、白色光源60は棒52を介して移動手段50に固定されている。
【0030】
撮像手段70について、センサーはCMOSを用いる。なお、CCDでもよい。撮像手段70の配置は図2に示す通りである。採血管の全体が写るように距離、絞り、焦点、がそれぞれ調整されているものが望ましい。撮像手段70には、フィルター71、結像レンズ72、絞り73、合焦点調整ネジ74、合焦点調整ネジ止め75、絞り調整のネジ止め76、絞り調整77や、倍率の調整機能なども備わっている。
【0031】
そして、撮像手段70の先には、画像データの取得と解析を行う解析手段80が接続されている。レーザー光源40、白色光源60、撮像手段70は、制御手段90からの電気的信号による指令により制御されている。
【0032】
採血は専用の容器である採血管101を用いて行う。採血管101には、様々な種類が存在し、各ユーザーがそれぞれの用途に応じて使い分けを行っている。形状の多種にわたっており、径が異なるもの(例えば直径16mm、13mm)、高さが異なるもの(例えば75mm、100mm)、異なる栓102を持つもの、が混在して使用される。
【0033】
次に、図3および図4により、本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置のユニット20の動作について、採血作業を規定として時系列に沿って、詳しく説明する。図3は本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の容器と生体試料を説明するための説明図、図4は本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置のエッジ強調処理の結果の一例を示す図である。
【0034】
まず、採血管101を用いて患者血液(全血)を採取する。採血管101は、投入モジュール3を通して前処理システム1に投入される。なお、採血と投入はユーザーのマニュアル作業で行い、以後の作業は前処理システム1による自動作業となる。
【0035】
採血管101は遠心分離モジュール4に運ばれ、そこで遠心分離が行われる。採血管101には予め分離剤112が入っており、遠心分離により、相対的に比重の大きい血餅113の層と、相対的に比重が小さく、血液分析に使用する血清111の層に分離される[図3(a)]。なお、分析項目によっては、分離剤112のない採血もある[図3(b)]。
【0036】
運用上、採血管101には、バーコードラベル118が添付されている。このバーコードラベル118には、患者のID・測定項目・診断項目・個人情報・パラメータ情報などが印字されている[図3(c)]。採血管101の径とバーコードラベル118の大きさの関係によっては、採血管101の側面の一部のみすきま120を残してほぼ全面を被覆してしまうもの[図3(d))]、全体がバーコードラベル118で覆われてしまうもの、場合によっては出荷時に貼付しているバーコードラベル118のラベル紙の上に重貼りされるものもあり、通常、目視などの容易に想定しうる手段では内部の様子を確認することはできない。
【0037】
そして、採血管101を、専用の固定具31に固定する。この状態で、レーザー光源40と白色光源60を点灯させる。レーザー光44には紙を透過するパワーがある。このため、レーザー光44を採血管101の側面に照射することにより、バーコードラベル118が全面に被覆されている状態にあっても、採血管の含有物が見える状態となる[図4(a)]。
【0038】
この状態を利用して、白色光源60で上方向の斜めから採血管101を照射する。このように、レーザー光源40のレーザー光44による透過と白色光源60の白色による照射を合わせて利用した点が本実施の形態の技術のポイントである。
【0039】
また、実際の運用では、一部に、すきま120が存在し内部が見えるもの、あるいは幾重に貼付されているものがある。前者に対しては、バーコードラベル118による遮光が少なくなるため、全面被覆と同じ条件では撮像手段70のセンサーが飽和する。一方で、後者の場合は、バーコードラベル118による遮光が大きく、全面被覆と同じ条件では撮像手段70のセンサーの受光量が不足する。これに対応するために、白色光源60に光量を調整する光量調整スイッチ64を持たせ、撮像ごとに調整できるものとしている。
【0040】
具体的には次のような方法である。バーコードラベル118が全面に被覆された状態で最適な撮像が得られるときの白色光源60の撮像条件を初期条件とする。まず、先に、レーザー光源40で採血管を照射して第1回目の撮像を行い、照射量を把握する。そこで得られる光量に基づいて、白色光源60の光量を調整する。
【0041】
調整方法としては、例えば、画像の中で飽和する画素数を所定以下とする、という方法などが考えられる。これを適用すると、ラベルが採血管の径より十分小さくすきまがあるようなケースに対して、初期条件で照射すると撮像手段70のセンサーが飽和するため、光量を一旦下げて照射することができる。
【0042】
逆に、バーコードラベル118が重ねて貼付されているケースに対して、初期条件での照射では光量が少なく有効な撮像ができないため、光量を一旦上げて照射する。このようにして、バーコードラベル118に貼付状態によらず、一定の撮像結果を得ることができる。
【0043】
なお、白色光源60のみならず、レーザー光44の光量を調整する方法でもよい。
【0044】
ここで撮像された画像から、血液についての様々な情報を得ることができる。1つは、自動分析装置11で使われる血清の量の計測である。例えば、取得した画像にエッジ処理を施す。その結果の一例を図4(b)の画像130に示す。上から順に述べると、まず、ラベルの上面132の検出に成功している。次に、血清の上面133も検出できている。血清は液体であるため、上面にはメニスカス115が存在する。この存在により、血清の表面が散乱し、結果として付近と比較して強く光る。血清134の下部で強く光っている層は分離剤136である。
【0045】
両者の境界面135も比較的明瞭である。分離剤136は光をよく通すため、画像の中でも局所的に強く光って検出される。その下の層は、血餅138である。血餅138は、成分が濃く光を通しにくいため、このように暗く写る。血餅138と分離剤136の境界面137も比較的鮮明である。
【0046】
これにより、血清111・分離剤112・血餅113の3つの層を区別して認識することが可能である。これらの面積、または高さ(厚さ)と採血管101の幅(後述)の情報から、各層の容量を算出することが可能となる。
【0047】
また、分離剤112の位置を特定できることにより、遠心分離の実施の有無について自動で判定することが可能となる。例えば、分離剤112が採血管101の最下に存在していれば遠心分離未実施、中間に存在すれば遠心分離済みと判断できる。このことにより、これまで目視で行っていた作業が低減されるだけでなく、自動判定によるスムーズな運用が可能となる。
【0048】
加えて、図4(b)から、採血管のエッジ131も鮮明に抽出されていることが確認できる。ここから、採血管の形状識別、寸法の算出、栓の有無の判定、栓の形状識別が可能となる。さらに、エッジ処理する前の画像については、印字部分の読み取りによるバーコード情報の識別が、また、カラーカメラを用いた場合は、血清種別の判定、採血管の栓の色判定なども可能となる。
【0049】
これらの判定結果は解析手段80から通信手段などを介して前処理システム1本体へ送られ、前処理システム1の処理フロー最適化のための情報として扱われる。
【0050】
次に、図5により、本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の血清容量検出の正確性の向上について説明する。図5は本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の血清容量検出の正確性の向上について説明するための説明図である。
【0051】
実際の検体は、前述の図3(a)に示すように、血清111と分離剤112の境界面116が採血管に対して完全な垂直ではなく、斜めになることがある。このようなケースで、より正確に血清量を測定するには、斜めの部分を無視せずに扱う必要がある。この方法について記述する。
【0052】
図5に測定の一例を示す。図5で示す位置に採血管101と撮像手段70が配置されているケースで考える。この配置で撮影すると、分離剤112については像306のようなイメージが得られる。この像306の各高さについて、同じ高さにある部分の光量を平均する。この平均値を縦軸307、分離剤112の高さを横軸308としてプロットすると、分離剤112の高さに対する光量のグラフ309が得られる。
【0053】
中心部分は同等の光量になるが、端の部分では、分離剤112が斜めに写っていることにより、光量は減少する。この現象のもと、血清111の容量測定の正確性を上げるために、次のいずれかの方法を採用する。
(i) 光量が上昇している区間(上昇開始301、上昇終了302)の中間点303を血清上面とみなす。
(ii) 光量が上昇している区間(上昇開始301、上昇終了302)の光量データを1次関数で近似し、傾きが所定値以上の場合、(i)に記載する方法でも正確に体積が求まらない。この状況において、(i)記載の方法以上に正確性を上げるため、近似関数を使って境界の部分の容積を直接計算するものとする。
【0054】
以上の方法により、測定する血清量の正確性を上げることができる。
【0055】
次に、図6により、本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の血清量の算出または血清種別の識別における別の例について説明する。図6は本発明の一実施の形態に係る生体試料の分析装置の撮像手段にカラーカメラを用いたときに得られる画像についてのデータを示すグラフであり、図6(a)は、分離剤112と血清111のそれぞれの光量(=sqrt(R2+G2+B2))(204、205)を示すグラフ201、図6(b)は、分離剤112と血清111のそれぞれのR/G比(214、215)を示すグラフ211である。なお、血餅は、光を通さないため、データは得られない。
【0056】
図6(a)において、横軸は画素番号202、縦軸は光量203を示し、図6(b)において、横軸は画素番号212、縦軸はR/G213を示している。
【0057】
図6に示すデータから分かるとおり、分離剤112の光量204は、血清の光量205を上回っている。そして、それぞれ平均的な値をとっている。これを利用して、一定の基準値を予め用意し、得られる画像の各画素について光量を計算し、当画素の光量と基準値を比較して、当画素が分離剤112に相当するか血清111に相当するかを判断し、分離剤112と血清111の存在位置を示すマップを構築する。構築されたマップの面積を算出することで、血清の量を求めることが可能となる。
【0058】
また、ここで求められた血清111の領域に対し、R/G比を求める。図6(b)の215は、溶血した血清111のR/G比を示すものであるが、このように分離剤112のR/G比(214)と比較することで、血清がどのような色をしているか、定量評価をすることが可能である。
【0059】
また、血清の色は種別により様々である。そのため、採取した血液により、血清が持つ色の指向性も様々である。この原理を逆利用して色被測定物に特徴のある波長を含む複数個の波長を使い分ける方法も有効である。これについて詳細を説明する。
【0060】
血清の中には、自動分析装置11による成分分析に支障をきたす種別が存在する。例えば、溶血、黄疸などである。これらを識別することは重要な課題である。種別により、照射する色に対する指向性や吸光度、あるいは色に特徴があることが知られている。例えば、溶血は、波長の長い光(赤色)を照射するとよく光るが、波長の短い光(青、紫)では強く光ることはない。一方、黄疸は、波長の短い光を吸収しやすい。これらの特徴を利用し、血清種別を特定する。
【0061】
具体的な方法としては、波長の異なる複数のレーザー光源40を設置し、交互に照射させて、データを取得するという方法が挙げられる。例えば、635nmと445nmの二波長を用意し、交互に照射する。両波長の照射に対して血清が光る場合は通常の血清、635nmのみの照射に光り、445nmの照射で光らない場合は溶血、445nmの吸収量が大きければ黄疸のように判断することができる。
【0062】
この方法は、同様の方法として、白色光源60に備えたフィルター65を調整する方法でもよい。また、撮像手段70側を調整する方法として、撮像手段70のカメラなどに備わっているフィルター71を切り替える方法でもよい。
【0063】
以後、開栓モジュール5での開栓、分注モジュール7での分注、閉栓モジュール8での閉栓を経て収納モジュール10で保存される。なお、分注モジュール7では、自動分析装置11に必要な血清が必要量、小分けされる。この小分けの容器にID等のラベルを付すのがバーコードのラベラ6、また、投入する自動分析装置11ごとに小分けした血清を分類するのが分類モジュール9の役割である。
【0064】
なお、本実施の形態のユニット20の機能は、液量測定/色判定という結果の値にバラツキが入り込みやすい分野である。そのため、自動で、定期的に既知分量・既知色の検体を測定し、測定結果が正しいか否かのチェックと、必要ならば、チェック結果に基づいて、結果を補正する機能を備えたり、その結果を表示するなどの機能も重要である。
【0065】
以上のように、本実施の形態では、従来のマニュアル作業を低減することで作業者の負担や作業に伴う感染の危険性を低減することができる。また、採血管内に存在する血清の容量に関する情報が得られることで、測定項目の優先順位付けが可能となり、この結果、検体処理フローの改善が期待できる。
【0066】
また、従来は、血清量不足が生じていた場合、エラー表示は自動分析装置に投入され分注動作が始まるまで把握できないことから時間を無駄に浪費してしまうことがあるのに対し、不適量検体の早期発見が可能となることで、時間の浪費の回避と処理能力の向上が期待できる。
【0067】
また、容量測定の正確性が向上することで、より信頼性の高いシステムが構築できることとなる。さらには、不具合検体を特定し除外できることで、自動分析装置に発生する不具合の未然回避が期待でき、このことはコスト削減にも繋げることができる。
【0068】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、容器の中に採取した血液などの生体試料を分析する生体試料の分析装置に関し、生体試料を構成する成分に対し、それぞれの残量、色、成分の分離状態等に代表されるような可視的な物理状態の自動把握と、容器、栓の形状および色の自動識別を行い、多岐の項目数と多数の試料の組み合わせからなる分析工程を管理する処理フローを有するシステムや装置などに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…検体前処理システム、2…搬送ライン、3…投入モジュール、4…遠心分離モジュール、5…開栓モジュール、6…ラベラ、7…分注モジュール、8…閉栓モジュール、9…分類モジュール、10…収納モジュール、11…自動分析装置、20…ユニット、30…台、31…専用の固定具、40…レーザー光源、41…レンズ、42…集光度調整器、44…レーザー光、(照射)、50…移動手段、51、52…棒、60…白色光源、61…発光部、62…角度調整機構、64…光量調整スイッチ、65…フィルター、70…撮像手段、71…フィルター、72…結像レンズ、73…絞り、74…合焦点調整ネジ、75…合焦点調整ネジ止め、76…絞り調整のネジ止め、77…絞り調整、80…解析手段、90…制御手段、101…採血管、102…栓、111…血清、112…分離剤、113…血餅、114…血清の層の上面、115…メニスカス、116…血清と分離剤の境界面、117…分離剤と血餅の境界面、118…バーコードラベル、119…血清と血餅の境界面、120…すきま、130…エッジ処理後の画像(採血管の外形線)、131…採血管のエッジ、132…エッジ処理で検出されるラベルの上淵、133…エッジ処理で検出される血清上面、134…エッジ処理で検出される血清、135…エッジ処理で検出される境界面(血清と分離剤)、136…エッジ処理で検出される分離剤、137…エッジ処理で検出される境界面(分離剤と血餅)、138…エッジ処理で検出される血餅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの容器に収納された2つ以上の種類から構成される層のうち、少なくとも1つの層に関する情報を取得し、取得した情報に基づいて、前記容器に収納され前記層を構成する生体試料の分析を行う生体試料の分析装置であって、
前記容器に、異なる種類の光を照射する2つ以上の照射手段と、
前記照射手段による光の照射と同時に、前記容器を側面から撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像された画像を処理し、前記容器内の前記層に関する情報を取得する解析手段と、
前記照射手段および前記撮像手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体試料の分析装置において、
前記容器は、少なくとも前記層が収納されている領域の側面の全部または一部がラベルで覆われ、
前記照射手段の少なくとも1つで前記光を前記ラベルに透過させ、他の前記照射手段で前記容器の内部を照射し、
前記撮像手段は、前記容器を側面から撮像して、前記容器内の含有物の可視的性質を確認することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記照射手段のうち、第1の照射手段は、前記容器への照射角度を制御する角度調整手段と、照射パワーを制御する光量調整手段と、照射する光の波長を制御する出力波長調整手段とを有し、
前記制御手段は、先に前記第1の照射手段とは別の前記照射手段で、前記容器を照射し、前記撮像手段からの光量のデータを取得し、取得した前記光量のデータの値に基づいて、前記第1の照射手段の前記角度調整手段、前記光量調整手段、および前記出力波長調整手段を制御し、照射条件を最適化することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記照射手段のうち、少なくとも1つがライン状に発光することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記照射手段のうち、少なくとも1つが放射状に発光することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記解析手段は、前記画像から少なくとも1つの層を特定し、特定された層の面積を計測し、計測した面積の値から前記層の容量を算出することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記解析手段は、前記撮像手段で取得した画像から色情報を抽出し、少なくとも1つの層に関する色を特定することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記容器に収納された前記層が、分離剤の層を含み、
前記解析手段は、前記分離剤の位置を特定し、特定した位置の情報に基づいて、遠心処理が実施既か未実施かを判定することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項9】
請求項6に記載の生体試料の分析装置において、
前記解析手段は、前記画像の色を識別し、識別した前記色の情報に基づいて、前記層を特定し、特定した前記層が占める高さおよび幅を計算し、計算した値に基づいて少なくとも1つの層についての容量を算出することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項10】
請求項9に記載の生体試料の分析装置において、
前記解析手段は、異なる層を隔てる境界面が斜めの形状を有する場合において、前記層の容量測定の基礎となる境界面の位置を、境界の最も高い位置と最も低い位置との平均値とすることを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項11】
請求項10に記載の生体試料の分析装置において、
前記解析手段は、予め基準値と相関関数を設定し、前記境界面と容器の側面のなす角度が、前記基準値以上であるとき、前記相関関数に基づいて前記層の容積を算出することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項12】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記解析手段は、物理量が既知の前記層を所定の時間間隔ごとに測定し、測定によって得られる前記物理量を既知の量に補正することを特徴とする生体試料の分析装置。
【請求項13】
請求項1または2に記載の生体試料の分析装置において、
前記撮像手段に入射する光を、前記層のうち特定の層に指向性のある第1波長帯域と、前記特定の層に指向性のない第2波長帯域とし、
前記解析手段は、前記撮像手段に入射する前記第1波長帯域の画像と前記第2波長帯域の画像の差分から、前記層を特定することを特徴とする生体試料の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−247635(P2011−247635A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118373(P2010−118373)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】