生体適合性薬液製剤、その製造方法及びその保存方法
【課題】 生体に注入したときに生体機能が低下するのを抑えることが可能なブドウ糖が配合された生体適合性薬液を提供する。
【解決手段】 ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とが、互いに分離された状態で容器に収納されてなる生体適合性薬液製剤であって、第2液は、第1液よりもブドウ糖の濃度が小さく設定され、第1液は、pHが2以上,4以下に設定されていることを特徴とする生体適合性薬液製剤。
【解決手段】 ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とが、互いに分離された状態で容器に収納されてなる生体適合性薬液製剤であって、第2液は、第1液よりもブドウ糖の濃度が小さく設定され、第1液は、pHが2以上,4以下に設定されていることを特徴とする生体適合性薬液製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析液バッグをはじめとする生体適合性薬液製剤及びその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続歩行可能携帯式腹膜透析液(以下CAPD液という。)、血液透析液、輸液、細胞保存液、抗凝固剤など、生体内に注入して用いられる生体適合性薬液が知られている。
この生体適合性薬液には、生体内における体液との関係から、その浸透圧を調製する目的、また、代謝活動を向上させる目的で、ブドウ糖(グルコース)が配合され、更に、緩衝剤や生理的塩類が配合される。
【0003】
当該液の性質は、生体への影響を考慮して、通常pHは中性に設定されているものが多い。
例えば、CAPD液は、直接腹腔内に注入されて用いられるが、このCAPD液には、さらに、電解質の補充や浸透圧勾配を利用した除水作用の確保を目的として1〜7%程度のブドウ糖が配合され、緩衝剤として乳酸塩が、生理的塩類として、Na,Ca,Mgイオンを含む塩がそれぞれ配合されており、pHは中性〜弱酸性に設定されている。
【0004】
ところで、これらの生体適合性薬液は、直接体内に注入されるので、いずれも安全確保の観点から無菌液とする必要がある。そのため、一般に、生体適合性薬液がバッグなどの容器に収納された状態で、日本薬局方で規定する加熱滅菌法(高圧蒸気滅菌法)による滅菌処理が採用されている。
ところで、ブドウ糖が配合された生体適合性薬液を加熱滅菌処理すると、ブドウ糖が分解して種々の分解物(グルコース分解生成物、Glucose Degration Products 以下、「GDPs」という。)が生成されることが知られている。このブドウ糖分解物としては、従来、図14に示されるように、Formaldehyde、Methylglyoxal、Furfural、5-HMF、3-DG、Acetaldehyde、Glyoxalの7種類が一般に知られている。
【0005】
このブドウ糖分解物は、いずれも活性の高いカルボニル基を有しており、これによって、血管透過性を亢進したり、除水能を低下させたり、腹膜機能を低下させる原因になると考えられている(非特許文献1,2参照)。
従って、CAPD液バッグをはじめとして、ブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤において、生体機能を低下させるブドウ糖分解物が生成されるのを抑える技術が望まれ、そのための研究がなされている。
【0006】
例えば、腹膜透析液バッグにおいては、バッグに設けられた別々の収納室に、ブドウ糖が含有された液と乳酸塩を含有する緩衝液とを、別々に収納し、使用時に両液をバッグ内で混合して、混合された液を生体に注入するように構成されたものも開発されている。
【特許文献1】特開2003−88582号公報
【特許文献2】特開2003−19198号公報
【特許文献3】特開2000−245826号公報
【非特許文献1】「透析会誌」22(6)P633〜637,1989
【非特許文献2】「CACAPD(3)0−45」第35会日本透析療法学会総合プログラム、抄録集1990、p171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者が、ブドウ糖分解物が生体機能に及ぼす影響を調べたところ、GDPsには、上記7種類以外に新たな種類として、8番目の化合物である3,4-Dideoxyglucosone-3-ene(3,4−DGE、図15参照)というGDPsが存在することがわかり、当該3,4−DGEが、従前のGDPsに比べて特にたんぱく質との反応性の面で生体機能に及ぼす影響が大きいことを見つけた。
【0008】
このことから、ブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤において、特に3,4−DGEの発生を抑えることができれば、生体機能の低下を少なくできる可能性があるのではないかという知見を得た。
本発明は、このような背景のもとになされたものであって、ブドウ糖を含む生体適合性薬液において、加熱滅菌処理に伴って発生するブドウ糖分解物の中でも、特に3,4−DGEの発生を抑える技術を提供し、それによって、ブドウ糖を含む生体適合性薬液を生体に注入したときに生体機能が低下するのを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、ブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤において、ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とを、互いに分離された状態で容器に収納した構成とし、第2液は第1液よりもブドウ糖の濃度を小さく設定し、第1液のpHを、2以上,4以下の範囲内に設定することとした。
この生体適合性薬液製剤においては、使用前には比較的ブドウ糖濃度の高い第1液と比較的ブドウ糖濃度の低い第2液とが互いに分離されて保存されるが、使用時には、第1液と第2液とが混合されて、生体適合性薬液として生体に注入される。ここで、生体適合性薬液に必要なブドウ糖量は、第1液に含まれるブドウ糖と第2液に含まれるブドウ糖との合計によって確保されることになる。なお、第2液にはブドウ糖を含まず、第1液に含まれるブドウ糖だけで、生体適合性薬液に必要なブドウ糖量を確保することもできる。
【0010】
なお、一般に生体に注入される薬液は、従来では、生体への安全性確保等の理由により、最初からpHを中性付近に設定する必要性があるが、本発明の生体適合性薬液製剤においては、第2液のpHを7よりも高く設定しておくことによって、混合液のpHを中性近傍に設定することができる。
本発明の生体適合性薬液製剤において、乳酸塩を含有させる場合、第2液に乳酸塩を含有させ、第1液の乳酸塩濃度を第2液の乳酸塩濃度より小さく設定することが好ましい。
【0011】
ここで、第1液の乳酸塩濃度は0.1mmol/L以下とすることが好ましい。
本発明の生体適合性薬液製剤において、生理的塩類としての無機イオン(具体的にはNa,Ca,Mg,Cl)を含む塩を含有させる場合、第2液に当該無機イオンを含有させ、第1液における当該無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定することも好ましい。
【0012】
上記本発明にかかる生体適合性薬液製剤において、容器としては、仕切で隔てられた第1収納室及び第2収納室を備え、当該仕切りが、操作者が一定の操作することによって第1収納室及び第2収納室が連通するように形成されたものを用い、第1収納室に第1液を収納し、第2液を第2収納室に収納すればよい。
上記のような生体適合性薬液製剤は、第1収納室及び第2収納室を有する容器を準備し、第1収納室にブドウ糖が含有された第1液を収納すると共に、第2収納室に前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さい第2液を収納し、第1液と第2液が収納された容器を加熱滅菌することによって製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる生体適合性薬液では上記のように、ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とが、互いに分離された状態で容器に収納されているので、加熱滅菌処理も、第1液と混合される第2液とが互いに分離された状態でなすことができる。
ここで、第1液のブドウ糖濃度は、混合後の生体適合性薬液のブドウ糖濃度と比べて高いが、そのpHが2以上4以下の範囲内に設定されているので、加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低く抑えられる。また、第2液は、第1液と比べてブドウ糖の濃度が小さく設定されているので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低く抑えられる。
【0014】
従って、第1液と第2液を混合した生体適合性薬液を加熱滅菌する場合と比べて、第1液と第2液に含まれる3,4−DGEの総量が低く抑えられることになる。
よって、第1液と第2液を混合した生体適合性薬液を生体に注入したときに生体機能が低下するのが抑えられる。
なお、上記生体適合性薬液製剤において、3,4−DGEの濃度をできるだけ低く抑える上では、第2液にはブドウ糖が含まれないことが望ましいが、上記のように第2液におけるブドウ糖の濃度が第1液のブドウ糖濃度よりも小さく設定すれば3,4−DGEの濃度を低く抑える効果を得ることができる。
【0015】
また、生体適合性薬液に乳酸塩を含有させる場合には、第2液に乳酸塩を含有させ、第1液の乳酸塩濃度を第2液の乳酸塩濃度より小さく設定すれば、比較的ブドウ糖濃度が高い第1液は乳酸塩濃度が低いので、加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低くなり、一方、乳酸塩濃度の高い第2液ではブドウ糖濃度が低いので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低くなる。よって、第1液と第2液とで乳酸塩の濃度を同等に設定する場合と比べて、加熱滅菌処理後に第1液と第2液とが混合されてなる混合液における3,4−DGEの濃度がより低く抑えられる。
【0016】
なおこの場合、3,4−DGEを低減させる効果を得る上で、第1液の乳酸塩濃度を0.1mmol/L以下に設定することが好ましい。
また、生体適合性薬液に生理的塩類として無機イオンを含む塩を含有させる場合には、第2液に無機イオンを含有させ、第1液の無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定すれば、比較的ブドウ糖濃度が高い第1液は無機イオン濃度が低いので、加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低くなり、一方、無機イオン濃度が高い第2液は比較的ブドウ糖濃度が低いので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低くなる。よって、第1液と第2液とで無機イオンの濃度を同等に設定する場合と比べて、加熱滅菌処理後に第1液と第2液とが混合されてなる混合液における3,4−DGEの濃度がより低く抑えられる。
【0017】
なおこの場合、3,4−DGEを低減させる効果を得る上で、第1液の無機イオン濃度を10mmol/L以下に設定することが好ましい。
容器として、仕切りで隔てられた第1収納室及び第2収納室を備え、当該仕切りが、操作者が一定の操作することによって第1収納室及び第2収納室が連通するように形成されたものを用い、第1収納室に第1液を収納し、第2液を第2収納室に収納しておけば、操作者が上記一定の操作することによって、容器内で第1液と第2液が混合されて混合液が作製されるので、混合液を生体に注入するのに便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明にかかる生体適合性薬液製剤について、ここでは、主としてCAPD用透析液製剤に関して説明する。
(生体適合性薬液の収納形態)
本発明にかかるCAPD用透析液製剤では、基本的に、第1液及び第2液が、容器内に互いに隔離された状態で収納されている。
【0019】
ここでは、第1液及び第2液を収納する容器として、内部が仕切られたバッグを用いることとするが、本発明において用いる容器は、これに限らず、例えば、内部が仕切られたビンを用いることもできる。
図1は、本発明のブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤にかかる一実施形態を示すCAPD用透析液バッグを示す図である。
【0020】
このCAPD用透析液バッグ10は、第1収納室1と第2収納室2が形成されたバッグを備え、第1収納室1にはブドウ糖が含有された第1液(ブドウ糖液)が収納され、第2収納室2には、乳酸塩が含有された第2液が収納されている。
第1収納室1と第2収納室2とは隔離部3で仕切られているが、操作者が、一定の操作を加えることによって、第1収納室1と第2収納室2とが連通し、第1液と第2液が混合されるようになっている。
【0021】
このようなCAPD用透析液バッグは、例えば、CAPD用包材(PET,ナイロン、PP、塩化ビニル)でバッグを形成し、包材における隔離部3に相当する領域を圧着して隔離部3を形成することによって、バッグ内に第1収納室1と第2収納室2と形成し、第1収納室1と第2収納室2に第1液及び第2液を充填することで作製できる。このCAPD用透析液バッグにおいて、使用時に操作者がバッグに圧力を加えて隔離部3における包材どうしの接合箇所をはがし、或いは、さらにバッグを振ることによって、バッグ内で第1液と第2液とが混合される。
【0022】
或いは、バッグにおける隔離部3に相当する領域を、クリップで挟みつけることによっても、隔離部3を形成することができる。この場合は、クリップの挟みつけを解除することによって、バッグ内で第1液と第2液とが混合される。
更に、第1液を詰めた内バッグと第2液を詰めた内バッグとを収納してもよい。この場合、内バッグを破れやすく形成しておけば、使用時に操作者が外力を加えて小バッグを破ることによって、外バッグ内で第1液と第2液とが混合される。
【0023】
(第1液及び第2液の組成について)
第1収納室1に収納される第1液は、ブドウ糖が溶解された水溶液である。このブドウ糖は、主としてCAPD用透析液の浸透圧を調製する役割を果たす。そして、第1液のpHは2〜4の範囲内に調製されている。第1液におけるブドウ糖の濃度は通常数%である。
【0024】
第2収納室に収納される第2液は、緩衝剤としての乳酸塩が溶解された水溶液である。この第2液にpHは7を越す領域であって、第1液と混合したときに当該混合液のpHが中性もしくは弱酸性になるように調製されている。第2液には、基本的にブドウ糖は含有されない。第2液にブドウ糖が少量含有されていてもかまわないが、その場合も第1液のブドウ糖濃度よりも低い濃度とする。
【0025】
一方、第1液における乳酸塩濃度は第2液の乳酸塩濃度よりも低く設定する。基本的に第1液に乳酸塩を含まないことが望ましいが、含まれたとしてもその濃度を0.1mmol/L以下に設定することが好ましい。
この他に、第1液及び第2液のいずれか一方もしくは両方に、生理的塩類として、Na,Ca,Mgを含む塩が配合されている。
【0026】
第1液の無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定する上で、これらの生理的塩類は、できるだけ第1液よりも第2液に含ませて、第1液の無機イオン濃度を10mmol/L以下に設定することが好ましい。
上記第1液及び第2液のpH調製については、HClなどの酸、NaOHなどのアルカリを適量加えることによって行なうことができる。
【0027】
なお、CAPD用透析液バッグ10に収納される第1液の量と第2液の量の比率は、同程度に設定すると混合しやすいが、その比率ついては特に限定されず、適宜設定すればよい。
また、ここでは、CAPD用透析液バッグ10において、第1液と第2液の2種類の液に分割して収納する場合を説明したが、3種類以上の液に分離して、バッグ内に収納するようにしてもよい。例えば、バッグに3つの収納室を設け、ブドウ糖液、乳酸塩液、生理的塩液の3種類を、それぞれ収納するようにしてもよい。
【0028】
(本発明にかかる生体適合性薬液製剤による効果)
一般にCAPD用透析液バッグは、日本薬局方で規定する高圧蒸気滅菌法に基づいて加熱滅菌が施されるが、上記CAPD用透析液バッグ10では、第1液と第2液が分離して充填された状態で加熱滅菌されるので、CAPD用透析液が第1液第2液に分離されることなく加熱滅菌される場合と比べて、以下に述べるように3,4−DGEの生成濃度が低くなる。
【0029】
CAPD用透析液バッグ10の場合、第1液のブドウ糖濃度は、使用時のCAPD用透析液におけるブドウ糖濃度と比べて高いが、そのpHが2以上4以下の範囲内に設定されているので、当該加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低く抑えられる。
また、第2液は、第1液と比べてブドウ糖の濃度が小さく設定されているので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低く抑えられる。
【0030】
従って、第1液と第2液を混合したCAPD用透析液を加熱滅菌する場合と比べると、使用時に第1液と第2液とが混合されてなるCAPD用透析液において、3,4−DGEの濃度が低く抑えられることになる。
よって、そのCAPD用透析液を生体に注入したときに生体機能が低下するのが抑えられる。
【0031】
これに対して、CAPD用透析液が第1液第2液に分離されることなく加熱滅菌された場合には、CAPD用透析液のpHが中性の状態で加熱滅菌されるので、CAPD用透析液に3,4−DGEが生成されやすいことになる。
なお、ブドウ糖溶液を加熱滅菌処理するときに、そのpHが5以上の場合は生成される3,4−DGEの濃度が高くなり細胞毒性が高くなる傾向にあるが、当該ブドウ糖溶液のpHを2〜4の範囲に調製して行なえば、3,4−DGEの生成が抑えられること及び細胞毒性が低くなることについては、後述する図2及び図7の試験結果から裏づけられている。
【0032】
更に、上記CAPD用透析液バッグ10においては、乳酸塩は第2液に含有されており、ブドウ糖濃度が高い第1液においては乳酸塩濃度が低く設定されている。
これによって、第1液と第2液とで乳酸塩の濃度を同等に設定する場合と比べて、3,4−DGEの生成量はより低くなる。
なお、ブドウ糖溶液を加熱滅菌処理するときに、共存する乳酸塩の濃度が低いほど、生成される3,4−DGEの濃度が低くなることについても、図2試験結果から裏づけられる。
【0033】
また、CAPD用透析液バッグ10において、生理的塩類を主に第2液にを含有させ、第1液の無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定すれば、第1液と第2液とで無機イオンの濃度を同等に設定する場合と比べて、3,4−DGEの生成量はより低くなる。
なお、ブドウ糖溶液を加熱滅菌処理するときに、共存する無機イオンの濃度が低いほど、生成される3,4−DGEの濃度が低くなることについても、図2試験結果から裏づけられる。
【0034】
(輸液、人工腎臓用透析用液、血液保存液への適用形態)
CAPD用透析液製剤に関して説明したが、本発明は、ブドウ糖を含有し、生体内に注入して用いられる生体適合性薬液であれば、血液透析液、輸液、細胞保存液、抗凝固剤などに対しても適用できる。以下にその具体例を挙げるが、これらの薬液においては、カリウム、リン酸塩、炭酸塩などの無機塩や、クエン酸塩、酢酸塩、アミノ酸塩などの有機塩も用いられる。
【0035】
(1)補液、維持液、高カロリー輸液用基本液などの加糖電解質輸液
ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸水素イオンなどの無機塩類、酢酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオンなどの有機塩類を含有する加糖電解質輸液(下記の成分配合量の範囲内)において、上記電解質を含有する溶液と、ブドウ糖を含有する溶液との2液に分割して、容器に収納する形態とする。
(加糖電解質輸液の各成分の配合量)
ブドウ糖:1〜500g/L
ナトリウムイオン:10〜150 mmol/L
カリウムイオン:0〜60 mmol/L
カルシウムイオン:0〜10 mmol/L
マグネシウムイオン:0〜10 mmol/L
塩素イオン:5〜130 mmol/L
硫酸イオン:0〜10 mmol/L
リン酸イオン:0〜10 mmol/L
炭酸水素イオン:0〜50 mmol/L
酢酸イオン:0〜50 mmol/L
乳酸イオン:0〜70 mmol/L
クエン酸イオン:0〜20 mmol/L
グルコン酸イオン:0〜15 mmol/L
その他に亜鉛、銅、セレンなど微量元素を配合する事もできる。
【0036】
ブドウ糖溶液について、次のように設定する。
1)pHを2〜4に設定。
2)有機塩類を実質的に含有しない(好ましくは0.1mmol/L未満)。
【0037】
3)pH調整剤以外の電解質を実質的に含有しない(好ましくは10mmol/L未満)。
これによって、加熱滅菌に伴う3,4−DGEの生成量を抑えることができる。
(2)人工腎臓用透析用剤、ろ過型人工腎臓用補液
ブドウ糖を含有し、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンなどの無機塩類および酢酸イオン、乳酸イオンなどの有機塩類を含有する人工腎臓用透析溶剤やろ過型人工腎臓用補液(下記の成分配合量の範囲内)において、上記電解質を含有する溶液と、ブドウ糖を含有する溶液との2液に分割して、容器に収納する形態とする。
(各成分の配合量)
ブドウ糖:0.1〜10g/L
ナトリウムイオン:100〜150 mmol/L
カリウムイオン:0〜10 mmol/L
カルシウムイオン:0〜5 mmol/L
マグネシウムイオン:0〜5 mmol/L
塩素イオン:50〜130 mmol/L
炭酸水素イオン:0〜50 mmol/L
酢酸イオン:0〜40 mmol/L
乳酸イオン:0〜40 mmol/L
ブドウ糖溶液については、次のように設定する。
【0038】
pHを2〜4に設定。
有機塩類を実質的に含有しない(好ましくは0.1mmol/L未満)。
pH調整剤以外の電解質を実質的に含有しない(好ましくは10mmol/L未満)。
これによって、加熱滅菌に伴う3,4−DGEの生成量を抑えることができる。
(3)血液保存液
ブドウ糖を含有し、ナトリウムイオン、塩素イオン、リン酸イオンなどの無機塩類およびクエン酸イオンなどの有機塩類を含有する血液保存液(下記の成分配合量の範囲内)において、上記電解質を含有する溶液と、ブドウ糖を含有する溶液との2液に分割して、容器に収納する形態ととすることが好ましいが、血液保存液を2液に分割せずそのまま(1液で)収納する形態とすることもできる。
(各成分の配合量)
ブドウ糖:5〜50g/L
ナトリウムイオン:70〜150 mmol/L
塩素イオン: 0〜150 mmol/L
クエン酸イオン:5〜150 mmol/L
その他に、マンニトールとアデニンを含む場合がある。
【0039】
2液の場合はブドウ糖溶液について、次のように設定する。
pHを2〜4に設定。
有機塩類を実質的に含有しない(好ましくは0.1mmol/L未満)。
pH調整剤以外の電解質を実質的に含有しない(好ましくは10mmol/L未満)。
一方、一液の場合は、血液保存液自体のpHを2〜4に設定する。
【0040】
いずれの場合も、加熱滅菌に伴う3,4−DGEの生成量を抑えることができる。
<検証実験>
現在、CAPD液が熱処理されたとき、その中に、種々の「GDPs」が存在し、図14に示す7種類のGDPsについては、従来から生体の機能に及ぼす影響が調べられているが、本発明者は、8番目のGDPsである3,4-DGEに着目して、3,4-DGEの生成に関る因子としてpHと、塩類、乳酸塩などの共存物質との影響を調べた。
【0041】
その結果、3,4-DGEの生成には溶液のpHが強く関与しており、pH5でその生成量は増加する事が分かった。
また、GDPsに由来する細胞毒性は3,4-DGEの生成量に依存しており、pH≧5で3,4-DGEの生成量の多いものに強い細胞毒性を認めた。
つまり、3,4-DGEは、非常に強い細胞毒性を示しことが判明し、特に、弱酸性のCAPD液中に、多く存在することが明らかとなった。
【0042】
実験の詳細について、以下に説明する。
1)主目的
加熱滅菌時にGlucoseが分解して生じるGDPsのうち、3,4-DGEに注目し、Glucose溶液のpHと共存物質が3,4-DGEの生成に与える影響を調べる。
2)評価項目
2.5%グルコース液(種々のpH、共存物質を配合)を加熱滅菌し、滅菌直後〜40℃保存12週間にかけてサンプリングを行い、以下の項目について評価を実施した。
1)
【0043】
3,4-DGE濃度(HPLC)
通常CAPD液は、グルコース(浸透圧調整剤)、緩衝剤(乳酸塩)、生理的塩類(Na,Ca,Mg)により構成されていることから、発明者らは、1)グルコースのみ、2)グルコース+乳酸塩(濃度違い2つ)、3)グルコース+塩類、の3種類のCAPD試験液を作製し、共存物質による3,4-DGEの生成度合いの変化を確認した。
【0044】
さらに、上記試験液のpHを様々に調整し、pHと3,4-DGEの生成量の関係も併せて確認した。
2) 既知7種のGDPs濃度(HPLC)
上記1)と同様にして、3種類のCAPD試験液を作製し、共存物質による既知7種のGDPs生成度合いの変化を確認した。
【0045】
さらに、上記試験液のpHを様々に調整し、pHと上記7種の各GDPs生成量の関係も併せて確認した。
3) 細胞毒性(V79細胞の増殖阻害率)
3)実験方法
3−1)サンプル調整方法
2.5%Glucose液をベースとして表1に示す4種の組成の溶液を作製し、更にそれぞれについてHClまたはNaOHを添加することによりpHを2,3,4,5,6,7,8に調整した。
【0046】
この溶液をPVC製バッグに50mLづつ分注し、更にCAPD用外包材(PET、Ny、PP)で包装して加熱滅菌した。
滅菌後は、加速室(40℃、75%RH)にて保存し、2,4,8,12週保存後にサンプリングして測定するまで−30℃の環境で保存した。
<加熱滅菌条件>
滅菌条件:115℃、30分 表1にサンプルの組成を示す。
【0047】
【表1】
ペリセート(株式会社ジェイ・エム・エス 登録商標)の電解質濃度に設定
***ペリセートの乳酸濃度に設定
3−2)HPLC分析条件について
1)直接分析(3,4−DGE、5−HMF、Furfural)
column :Luna 3μ C18(2) 4.6×150 mm(Phenomenex製), 40℃
Mobile phase : 0.05M NaH2PO4(pH5.5)/MeCN = 98/2
flow rate : 1mL/min
injection vol : 20μL
detector : PDA(UV 210-350nm)
3,4-DGEは@230nm, 5-HMFおよびFurfuralは@284nmのクロマトク゛ラムにて定量、2)2,4-DNPH誘導体による分析(Formaldehyde、Acetaldehyde、3-DG、GO、MGO)サンプル500μL(pHが5以上のサンプルについては水で2倍希釈)に0.06%2,4-DNPH(1N HCl溶液)500μLを加えて室温で2時間放置し、反応させる。
【0048】
この反応液をOasis HLB30mg(waters製)にチャーシ゛し水で洗浄後、アセトニトリル200μL×5回で溶出させたものをサンプルとして以下のHPLC条件にて分析した。
column :Luna 3μ C18(2) 4.6×150 mm(Phenomenex製), 40℃
Mobile phase :A)40%MeCN
B)80%MeCN gradient
flow rate : 1mL/min
injection vol : 20μL
detector : UV 360nm
3−3)細胞毒性試験の内容
発明者らは、pHの異なるCAPD液それぞれについて、細胞毒性試験を実施した。
【0049】
V79をM05培地に懸濁し、24ウェルフ゜レート(Iwaki製)に2000cells/wellづつを播種して1晩培養した。接着後の細胞に以下の要領で中和、血清培地と混合したサンプル溶液0.5mL/wellを曝露し、4日後の細胞数をカウントした。
◆曝露サンプル組成
・滅菌/加速保存サンプル(2.5%Glucose+35mM Lactate):45v/v%
・メイロン(大塚正士 登録商標):5v/v%
・M05:50v/v%
◆曝露サンプルの性状
サンプルを重曹(メイロン: 大塚正士 登録商標 5v/v%)で中和し、更にM05で2倍希釈した後のpHと浸透圧を表2に示す。pHに若干の違いがあるものの、ほぼ同一性状であり、主にGDPsの毒性が反映される試験系であった。
【0050】
表2にV79に曝露したサンプルの性状を示す。
【0051】
【表2】
4)試験結果
4−1)3,4-DGEの生成因子について
加熱滅菌直後の3,4-DGEの生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を図2に示す。
【0052】
3,4-DGEの生成は加熱滅菌直前のpHが低いほど抑制されており、pH≧5で顕著に増加していた。またpH≧5では共存物質による違いが現れ、電解質、乳酸イオンとも3,4-DGEの生成を促進した。
3,4-DGEの生成は、電解質および乳酸塩により促進され、特に乳酸塩みる増殖効果が大きい。
【0053】
従って、3,4-DGEの生成を抑える為には、グルコースと他成分(CAPD液の成分)は分割して加熱滅菌する必要があり、少なくとも乳酸塩とは分離する事が好ましい。
3,4-DGEの生成挙動は後述する(4−2)項で示す)既知7種のGDPsと似ていたが、3,4DGEはpH2で最も抑制された点が異なった。
つまり、加熱滅菌時のグルコース水溶液のpHが低いほど毒性は低くなり、特にpH4以下の試験液で毒性が著しく低下することが分かった。
【0054】
グルコース水溶液のpHが4以下であれば、加熱滅菌後、2週間経過した実験サンプルの3,4-DGEの含量は5μM未満であった。このことより、CAPD液の加熱滅菌時におけるグルコース水溶液のpHは、4未満であることが望ましい。
グルコース水溶液のpHが4以上の領域においては、pHの上昇に伴って3,4-DGEは増加し、更に、乳酸塩や塩類の共存によって3,4-DGEの生成が促進される。
【0055】
なお、pH2においては共存物質(塩類、乳酸塩)の有無に関らず、3,4-DGEは、検出限界0.4μMを下回った。
これまでの検討で、3,4-DGEは酸性度の低いCAPD液(以下、「A液」という。)に多く、酸性度の高いCAPD液であるペリセートNには少ない事が分かっていたが、これはGlucose液のpH(A液:pH5.5、ペリセートN:pH3.5)と乳酸イオン(A液:有り、ペリセートN:なし)の違いによるもと考えられた。
4−2)他の7種GDPsの生成因子
加熱滅菌直後の7種GDPs生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を図3に示す。
【0056】
この結果から、pH≧5で3-DGが増加し、更に乳酸イオンの共存により、Acetaldehyde、GO、MGOが多く生成することが判る。
上述のように、pHが2以上、8以下の範囲においては、グルコース液のpHが小さければ小さいほど、3,4-DGEの生成が抑制される反面、、pH2においては3,4-DGE以外のGDPsが増加してしまう。
4−3)3,4-DGEの安定性(経時的変化)
CAPD透析液を40℃に保存した場合における3,4-DGEの安定性の評価結果を図4に示す。
【0057】
全体的に3,4-DGEは加熱滅菌後に経時的に減少しており、特に3,4-DGEが多く生成したpH≧5(乳酸や電解質含有溶液)のサンプルでは滅菌後2週間で大きく減少した。
その後、保存期間4〜12週間において目立った変化を認めず、電解質含有溶液(pH≧5)では5〜10μMで、乳酸塩を含有するサンプル(pH≧5)では10〜20μMで安定していた。
これらの乳酸塩含有サンプル溶液の滅菌後pHは5〜6であり、3,4-DGEの安定性にはpHか乳酸塩が関与しているものと考えられる。
4−4)pHの測定
各サンプルのpHの測定結果を表3に示す。
【0058】
pHが5以上のサンプルは加熱滅菌により大きく低下し、特にpH6,7,8のサンプルの滅菌後pHはpH4. 4〜5.8まで低下した。
pHの低下幅は共存物質により異なり、Glucoseのみのサンプルに比べてLactateを配合したサンプルでは滅菌後にやや高いpHを示した。このpHの違いは前項の3,4-DGEの生成や安定性に影響を与えているものと考えられる。40℃保存中の変化は殆どなく、pHは主に加熱滅菌時に変化した。
【0059】
表3に各サンプルのpH測定結果を示す。
【0060】
【表3】
4−6)細胞毒性
3,4-DGEの40℃保存サンプル(2.5%Glucose+35mM Na-Lactate)の細胞増殖率(カラム:V79細胞の増殖阻害率(コントロールに対する割合))を図7(グラフ左側目盛、棒グラフ)に示す。
【0061】
加熱滅菌前(調製時)のpHが2〜4のサンプルはpHが5以上のサンプルに比べて高い細胞増殖を認め、細胞毒性が小さい事が分かった。また、このpH2〜4のサンプルの毒性に経時的変化は無かった。一方、pH6〜8の中性付近のサンプルは、加熱滅菌から40℃の保存期間中を通して強い細胞毒性を示した。
つまり、加熱滅菌時のグルコース水溶液のpHが低いほど毒性は低くなり、特にpH4以下の試験液で毒性が著しく低下した。
【0062】
この実験で興味ある変化を示したサンプルはpH5であった。このサンプルの加熱滅菌直後の細胞増殖率は8%であったが、40℃保存により細胞増殖率は40%程度まで上昇した。この現象は保存中にGDPsの細胞毒性が低下した事を示している。
図7には保存中の3,4-DGEの存在量(グラフ右側目盛、折れ線グラフ)も併せて示しているが、pH5のサンプルの3,4-DGE濃度は加熱滅菌直後:46μLから保存2週後:18μMへ大きく減少しており、3,4-DGEの減少に伴って細胞毒性が改善されたものと考えられる。
【0063】
この結果からpH≦5の酸性領域におけるGDPsの細胞毒性は3,4-DGEに依存する事が示唆された。
一方、3,4-DGEの保存時の減少はpH6〜8のサンプルでも同様に観察されたが、細胞毒性に変化はなかった。pH6〜8の中性で加熱滅菌したサンプルには3,4-DGE以外に強い毒性を示す未知のGDPsが存在し、この未知のGDPsは40℃保存では減らない或いは増加するものであると考えられる。
4−8.その他の試験
3、4−DGEを含む8種類のグルコース分解物(GDPs)の細胞毒性について、細胞増殖阻害濃度を測定すべく、以下の方法により実験を行った。その手順は図8に示すように、各GDPsを添加した培地においてヒト腹膜中皮細胞(HPMC)培養し、培養3日後に細胞数を測定することで行った。
【0064】
その測定結果を図9に示す。図中、「Form」はFormaldehyde、「MGO」はMethylglyoxal、「GO」はGlyoxal、「Fur」はFurfural、「Acet」はAcetaldehydeをそれぞれ示す。当図に示すように、各種GDPsに比べて3、4−DGEの濃度がかなり低い段階(100μM程度)で、細胞成長をほぼ完全に阻害することが確認された。
次に、各GDPsの毒性濃度(細胞増殖50%阻害濃度)と、CAPD液に含まれる各GDPsの含有量を比較した結果を図10に示す。
【0065】
比較結果から、CAPD液液のpHが低いとGDPsの濃度も低いことが確認できる。ここに挙げたpH5.2とpH3.5を比較しても、後者が前者に比べて1/10以下のGDPs濃度に抑えられている。このように、pHの値に伴って濃度が低くなる特性は、3、4−DGEを含めて各種GDPsに共通した特徴である。
続いて、上記pH5.2のCAPD液を用い、3、4−DGEの有無の差による細胞毒性の違いについて、図11に示すように調査を行った。
【0066】
当図11では、pH5.2のCAPD液に含まれるGDPsについて、等倍で濃度を上げた場合の細胞増殖阻害率について調べた結果を示している。
当図のグラフに示されるように、3、4−DGEを除く7種類のGDPsでは、細胞阻害特性が比較的リニアに増加するが、これに3、4−DGEが追加された8種類のGDPsでは、当初におけるCAPD液の約2倍の濃度で細胞増殖阻害率がほぼ100%に至ることがわかった。
【0067】
加熱滅菌サンプルの細胞毒性試験の結果では、細胞増殖率はpH2:50.4%、pH3:46.4%、pH4:40.4%、pH5:8.0%、pH6:0.1%であり、pH4を境界として細胞毒性が著しく変化することから、細胞毒性を抑制する観点からは、急激に増殖率が低下するpH4未満が好ましい。
また、CAPD液における人体への細胞毒性は、主に3,4-DGEが支配的であるが、細胞毒性の弱い3,4-DGE以外のGDPsも総合的に勘案すると、グルコース液のpHが約3になっていることが好ましい。
5.生態適合性薬液製剤の製法
以下、本発明の生態適合性薬液製剤について、調製例を示す。
【0068】
この生態適合性薬液製剤は、例えば、CAPD液(以下、「実施例薬液」という。)であって、2チャンバー構成を有する腹膜透析液容器内に貯留され、各チャンバーには、それぞれ酸性濃縮液とアルカリ性濃縮液とが貯留されている。
酸性濃縮液側にグルコースが配合されていることにより、3,4-DGEの生成が抑制されている。
【0069】
また、アルカリ性濃縮液側には、分解を促進する乳酸塩が配合されている。
(調整工程)
各チャンバーに充填する液として、以下のように調整する。
(酸性濃縮液)
1.グルコース(グルコース) : 239.2mmol/l
2.塩化カルシウム : 5.56mmol/l
3.塩化マグネシウム : 1.41mmol/l
4.3.5%塩酸 : 0.3ml/l
上記条件に調整後、各成分を蒸留水に溶解し、酸性濃縮液としてのpHは3.55となった。
(アルカリ性濃縮液)
1.乳酸ナトリウム : 54.9mmol/l
2.塩化ナトリウム : 151.6mmol/l
3.重炭酸ナトリウム : 2.0mmol/l
上記濃度になるように、各成分を蒸留水に溶解し、アルカリ性濃縮液としてのpHは8.1となった。
(充填工程)
腹膜透析液容器の各チャンバーに、上記酸性濃縮液と上記アルカリ性濃縮液とを充填する。
【0070】
上記調整によって得た、酸性濃縮液720mlとアルカリ性濃縮液1280mlを腹膜透析液容器の第1収納室1及び第2収納室2に各々収容する。
(滅菌処理工程)
酸性濃縮液及びアルカリ性濃縮液が収容されたプラスティック製の腹膜透析液容器を115℃で30分間高圧蒸気雰囲気に晒して滅菌処理を実施した。
【0071】
その後、腹膜透析容器の隔離部3を連通して、上記酸性濃縮液と上記アルカリ性濃縮液とを混合した。
混合後の腹膜透析液のpHは7.1〜7.3を示し、生理的な中性領域の範囲にあった。
このようにして得られた混合液、即ち、腹膜透析液に含まれる3,4-DGEは、0.7μMと極めて小さな値であった。
【0072】
発明者らは、隔離部3を有しないシングルバックの腹膜透析容器を用いた場合、即ち、グルコース液が弱酸性となっている腹膜透析液に含まれる3,4-DGEの量を確認した。
(比較試験1)
(シングルバッグのCAPD液)
1.グルコース : 239.2mmol/l
2.塩化カルシウム : 5.56mmol/l
3.塩化マグネシウム : 1.41mmol/l
4.乳酸ナトリウム : 54.9mmol/l
5.塩化ナトリウム : 151.6mmol/l
6.3.5%塩酸 : 0.3ml/l
上記濃度になるように、各成分を蒸留水に溶解してCAPD液(以下、「比較例1薬液」という。)を得た。
【0073】
なお、溶解後の比較例1薬液のpHは5.5であった。
この比較例1薬液2000mlをプラスティック製の腹膜透析容器に収容した後、115℃で30分間高圧蒸気雰囲気に晒して滅菌処理を実施した。
このようにして得られた混合液、即ち、腹膜透析液に含まれる3,4-DGEは、15.4μMであった。
(比較試験2)
上述の滅菌処理を施さない以外は、上述の比較試験1と同様の仕様で、CAPD液(以下、「比較例2薬液」という。)を生成した。
【0074】
このようにして得られるCAPD液に含まれる3,4-DGEの量は、検出限界の0.4μM未満であった。
発明者らは、実施例薬液、比較例1薬液及び比較例2薬液の生体適合性を評価するために細胞毒性を調べた。
(細胞毒性試験)
(試験方法)
20%FBS含有M199培地に懸濁させたヒト腹膜中皮細胞を、24穴細胞培養用プレートに20,000/ウェルの濃度で播種して、1晩培養した。
【0075】
翌日、CAPD液(実施例薬液、比較例1薬液、比較例2薬液)と10%FBS含有M199培地を当量で混合した試験液に交換して3日間培養した。
培養後、細胞をトリプシン処理にて剥離させ、Coulter Particle Counter Z1(ヘ゛ックマンコールター)で細胞数を計測した。
図12に示すように、3,4-DGEの生成を抑えた実施例薬液では、加熱滅菌処理していない比較例2薬液と同等の細胞増殖性を示し、比較例1薬液の示す細胞毒性が大きく改善されていた。
(タンパク質との反応性試験)
CAPD液の加熱滅菌により生成するGDPsは細胞障害性を示すのみならず、腹膜組織構成タンパク質と結合し、AGE(Advanced Glycation Endproducts)を形成する。
【0076】
AGEsはタンパク質の機能を低下させるのみならず、細胞障害性や炎症反応を誘発する事が知られている。
さらに、AGEsが形成されることによってタンパク質は凝集、不溶化して組織中に異常蓄積して組織を変性させていると考えられている。
CAPD療法においても腹膜組織へのAGEsの蓄積が確認されており、腹膜劣化を抑えるために、AGEsの形成力が弱い、即ち、反応性の高いGDPsが少ないCAPD液が必要とされている。
【0077】
このような背景から、発明者らは、生体適合性の指標とした、3,4-DGEのタンパク質との反応性を調べた。
(実験方法)
モデルタンパクとしてウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。BSA(10mg/mL)をPBS(pH7.4)に溶解させた。これに各種のGDPsを30mmol/Lの濃度で添加して37℃で24時間反応させた。BSAの変性(AGEs化)は、反応液の蛍光強度(励起波長360nm、蛍光波長430nm)で評価した。
GDPs:3,4-DGE、Methylglyoxal、Glyoxal、3-DG、Acetaldehyde、Formaldehyde、Furfural、5-HMF
(結果)
図13に示すように、3,4-DGEを加えたBSA溶液は、他のGDPsに比べて強い蛍光を示した。この結果から3,4-DGEはタンパク質との反応性に富み、強力なAGEsの前駆体となるGDPsである事が分かった。
【0078】
なお、本実施の形態では、生態適合性薬液製剤の一例として、CAPD液を挙げ説明を行ったが、これに限るわけではなく、点滴などに用いる輸液などのグルコースが配合された人体中に投入する薬液であれば、本発明の適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る生態適合性薬液製剤は、CAPD液をはじめとして、血液透析液、輸液、細胞保存液、抗凝固剤などグルコースが配合され、人体中に投入する薬液に、本発明の適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態における生態適合性薬液製剤が収容されるCAPD用透析液バッグの概略説明図である。
【図2】加熱滅菌直後の3,4-DGEの生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を示す図である。
【図3】加熱滅菌直後の7種GDPs生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を図である。
【図4】CAPD透析液を40℃に保存した場合における3,4-DGEの安定性の評価結果を示す図である。
【図5】CAPD透析液を加熱滅菌後、40℃で保存した場合における、測定波長228nmの吸光度の経時変化を示す図である。
【図6】CAPD透析液を加熱滅菌後、40℃で保存した場合における、測定波長284nmの吸光度の経時変化を示す図である。
【図7】細胞毒性試験結果を示す図である。
【図8】細胞増殖阻害濃度の測定手順を示す図である。
【図9】細胞増殖阻害濃度の測定結果を示す図である。
【図10】各GDPsの毒性濃度(細胞増殖50%阻害濃度)と、CAPD液に含まれる各GDPsの含有量を比較した結果を示す図である。
【図11】CAPD透析液における3、4−DGEの有無による細胞毒性の違いについて説明する図である。
【図12】細胞毒性試験の結果を示す図である。
【図13】生体適合性を指標とした、3,4-DGEのタンパク質との反応性を示す図である。
【図14】従前のCADP液中におけるGDPsの各含有量について説明する図である。
【図15】新たに発見されたCADP液中のGDPs(3,4-DGE)の含有量について説明する図である。
【符号の説明】
【0081】
1 第1収納室
2 第2収納室
3 隔離部
10 CAPD用透析液バッグ
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析液バッグをはじめとする生体適合性薬液製剤及びその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続歩行可能携帯式腹膜透析液(以下CAPD液という。)、血液透析液、輸液、細胞保存液、抗凝固剤など、生体内に注入して用いられる生体適合性薬液が知られている。
この生体適合性薬液には、生体内における体液との関係から、その浸透圧を調製する目的、また、代謝活動を向上させる目的で、ブドウ糖(グルコース)が配合され、更に、緩衝剤や生理的塩類が配合される。
【0003】
当該液の性質は、生体への影響を考慮して、通常pHは中性に設定されているものが多い。
例えば、CAPD液は、直接腹腔内に注入されて用いられるが、このCAPD液には、さらに、電解質の補充や浸透圧勾配を利用した除水作用の確保を目的として1〜7%程度のブドウ糖が配合され、緩衝剤として乳酸塩が、生理的塩類として、Na,Ca,Mgイオンを含む塩がそれぞれ配合されており、pHは中性〜弱酸性に設定されている。
【0004】
ところで、これらの生体適合性薬液は、直接体内に注入されるので、いずれも安全確保の観点から無菌液とする必要がある。そのため、一般に、生体適合性薬液がバッグなどの容器に収納された状態で、日本薬局方で規定する加熱滅菌法(高圧蒸気滅菌法)による滅菌処理が採用されている。
ところで、ブドウ糖が配合された生体適合性薬液を加熱滅菌処理すると、ブドウ糖が分解して種々の分解物(グルコース分解生成物、Glucose Degration Products 以下、「GDPs」という。)が生成されることが知られている。このブドウ糖分解物としては、従来、図14に示されるように、Formaldehyde、Methylglyoxal、Furfural、5-HMF、3-DG、Acetaldehyde、Glyoxalの7種類が一般に知られている。
【0005】
このブドウ糖分解物は、いずれも活性の高いカルボニル基を有しており、これによって、血管透過性を亢進したり、除水能を低下させたり、腹膜機能を低下させる原因になると考えられている(非特許文献1,2参照)。
従って、CAPD液バッグをはじめとして、ブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤において、生体機能を低下させるブドウ糖分解物が生成されるのを抑える技術が望まれ、そのための研究がなされている。
【0006】
例えば、腹膜透析液バッグにおいては、バッグに設けられた別々の収納室に、ブドウ糖が含有された液と乳酸塩を含有する緩衝液とを、別々に収納し、使用時に両液をバッグ内で混合して、混合された液を生体に注入するように構成されたものも開発されている。
【特許文献1】特開2003−88582号公報
【特許文献2】特開2003−19198号公報
【特許文献3】特開2000−245826号公報
【非特許文献1】「透析会誌」22(6)P633〜637,1989
【非特許文献2】「CACAPD(3)0−45」第35会日本透析療法学会総合プログラム、抄録集1990、p171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者が、ブドウ糖分解物が生体機能に及ぼす影響を調べたところ、GDPsには、上記7種類以外に新たな種類として、8番目の化合物である3,4-Dideoxyglucosone-3-ene(3,4−DGE、図15参照)というGDPsが存在することがわかり、当該3,4−DGEが、従前のGDPsに比べて特にたんぱく質との反応性の面で生体機能に及ぼす影響が大きいことを見つけた。
【0008】
このことから、ブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤において、特に3,4−DGEの発生を抑えることができれば、生体機能の低下を少なくできる可能性があるのではないかという知見を得た。
本発明は、このような背景のもとになされたものであって、ブドウ糖を含む生体適合性薬液において、加熱滅菌処理に伴って発生するブドウ糖分解物の中でも、特に3,4−DGEの発生を抑える技術を提供し、それによって、ブドウ糖を含む生体適合性薬液を生体に注入したときに生体機能が低下するのを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、ブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤において、ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とを、互いに分離された状態で容器に収納した構成とし、第2液は第1液よりもブドウ糖の濃度を小さく設定し、第1液のpHを、2以上,4以下の範囲内に設定することとした。
この生体適合性薬液製剤においては、使用前には比較的ブドウ糖濃度の高い第1液と比較的ブドウ糖濃度の低い第2液とが互いに分離されて保存されるが、使用時には、第1液と第2液とが混合されて、生体適合性薬液として生体に注入される。ここで、生体適合性薬液に必要なブドウ糖量は、第1液に含まれるブドウ糖と第2液に含まれるブドウ糖との合計によって確保されることになる。なお、第2液にはブドウ糖を含まず、第1液に含まれるブドウ糖だけで、生体適合性薬液に必要なブドウ糖量を確保することもできる。
【0010】
なお、一般に生体に注入される薬液は、従来では、生体への安全性確保等の理由により、最初からpHを中性付近に設定する必要性があるが、本発明の生体適合性薬液製剤においては、第2液のpHを7よりも高く設定しておくことによって、混合液のpHを中性近傍に設定することができる。
本発明の生体適合性薬液製剤において、乳酸塩を含有させる場合、第2液に乳酸塩を含有させ、第1液の乳酸塩濃度を第2液の乳酸塩濃度より小さく設定することが好ましい。
【0011】
ここで、第1液の乳酸塩濃度は0.1mmol/L以下とすることが好ましい。
本発明の生体適合性薬液製剤において、生理的塩類としての無機イオン(具体的にはNa,Ca,Mg,Cl)を含む塩を含有させる場合、第2液に当該無機イオンを含有させ、第1液における当該無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定することも好ましい。
【0012】
上記本発明にかかる生体適合性薬液製剤において、容器としては、仕切で隔てられた第1収納室及び第2収納室を備え、当該仕切りが、操作者が一定の操作することによって第1収納室及び第2収納室が連通するように形成されたものを用い、第1収納室に第1液を収納し、第2液を第2収納室に収納すればよい。
上記のような生体適合性薬液製剤は、第1収納室及び第2収納室を有する容器を準備し、第1収納室にブドウ糖が含有された第1液を収納すると共に、第2収納室に前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さい第2液を収納し、第1液と第2液が収納された容器を加熱滅菌することによって製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる生体適合性薬液では上記のように、ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とが、互いに分離された状態で容器に収納されているので、加熱滅菌処理も、第1液と混合される第2液とが互いに分離された状態でなすことができる。
ここで、第1液のブドウ糖濃度は、混合後の生体適合性薬液のブドウ糖濃度と比べて高いが、そのpHが2以上4以下の範囲内に設定されているので、加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低く抑えられる。また、第2液は、第1液と比べてブドウ糖の濃度が小さく設定されているので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低く抑えられる。
【0014】
従って、第1液と第2液を混合した生体適合性薬液を加熱滅菌する場合と比べて、第1液と第2液に含まれる3,4−DGEの総量が低く抑えられることになる。
よって、第1液と第2液を混合した生体適合性薬液を生体に注入したときに生体機能が低下するのが抑えられる。
なお、上記生体適合性薬液製剤において、3,4−DGEの濃度をできるだけ低く抑える上では、第2液にはブドウ糖が含まれないことが望ましいが、上記のように第2液におけるブドウ糖の濃度が第1液のブドウ糖濃度よりも小さく設定すれば3,4−DGEの濃度を低く抑える効果を得ることができる。
【0015】
また、生体適合性薬液に乳酸塩を含有させる場合には、第2液に乳酸塩を含有させ、第1液の乳酸塩濃度を第2液の乳酸塩濃度より小さく設定すれば、比較的ブドウ糖濃度が高い第1液は乳酸塩濃度が低いので、加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低くなり、一方、乳酸塩濃度の高い第2液ではブドウ糖濃度が低いので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低くなる。よって、第1液と第2液とで乳酸塩の濃度を同等に設定する場合と比べて、加熱滅菌処理後に第1液と第2液とが混合されてなる混合液における3,4−DGEの濃度がより低く抑えられる。
【0016】
なおこの場合、3,4−DGEを低減させる効果を得る上で、第1液の乳酸塩濃度を0.1mmol/L以下に設定することが好ましい。
また、生体適合性薬液に生理的塩類として無機イオンを含む塩を含有させる場合には、第2液に無機イオンを含有させ、第1液の無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定すれば、比較的ブドウ糖濃度が高い第1液は無機イオン濃度が低いので、加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低くなり、一方、無機イオン濃度が高い第2液は比較的ブドウ糖濃度が低いので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低くなる。よって、第1液と第2液とで無機イオンの濃度を同等に設定する場合と比べて、加熱滅菌処理後に第1液と第2液とが混合されてなる混合液における3,4−DGEの濃度がより低く抑えられる。
【0017】
なおこの場合、3,4−DGEを低減させる効果を得る上で、第1液の無機イオン濃度を10mmol/L以下に設定することが好ましい。
容器として、仕切りで隔てられた第1収納室及び第2収納室を備え、当該仕切りが、操作者が一定の操作することによって第1収納室及び第2収納室が連通するように形成されたものを用い、第1収納室に第1液を収納し、第2液を第2収納室に収納しておけば、操作者が上記一定の操作することによって、容器内で第1液と第2液が混合されて混合液が作製されるので、混合液を生体に注入するのに便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明にかかる生体適合性薬液製剤について、ここでは、主としてCAPD用透析液製剤に関して説明する。
(生体適合性薬液の収納形態)
本発明にかかるCAPD用透析液製剤では、基本的に、第1液及び第2液が、容器内に互いに隔離された状態で収納されている。
【0019】
ここでは、第1液及び第2液を収納する容器として、内部が仕切られたバッグを用いることとするが、本発明において用いる容器は、これに限らず、例えば、内部が仕切られたビンを用いることもできる。
図1は、本発明のブドウ糖を含有する生体適合性薬液製剤にかかる一実施形態を示すCAPD用透析液バッグを示す図である。
【0020】
このCAPD用透析液バッグ10は、第1収納室1と第2収納室2が形成されたバッグを備え、第1収納室1にはブドウ糖が含有された第1液(ブドウ糖液)が収納され、第2収納室2には、乳酸塩が含有された第2液が収納されている。
第1収納室1と第2収納室2とは隔離部3で仕切られているが、操作者が、一定の操作を加えることによって、第1収納室1と第2収納室2とが連通し、第1液と第2液が混合されるようになっている。
【0021】
このようなCAPD用透析液バッグは、例えば、CAPD用包材(PET,ナイロン、PP、塩化ビニル)でバッグを形成し、包材における隔離部3に相当する領域を圧着して隔離部3を形成することによって、バッグ内に第1収納室1と第2収納室2と形成し、第1収納室1と第2収納室2に第1液及び第2液を充填することで作製できる。このCAPD用透析液バッグにおいて、使用時に操作者がバッグに圧力を加えて隔離部3における包材どうしの接合箇所をはがし、或いは、さらにバッグを振ることによって、バッグ内で第1液と第2液とが混合される。
【0022】
或いは、バッグにおける隔離部3に相当する領域を、クリップで挟みつけることによっても、隔離部3を形成することができる。この場合は、クリップの挟みつけを解除することによって、バッグ内で第1液と第2液とが混合される。
更に、第1液を詰めた内バッグと第2液を詰めた内バッグとを収納してもよい。この場合、内バッグを破れやすく形成しておけば、使用時に操作者が外力を加えて小バッグを破ることによって、外バッグ内で第1液と第2液とが混合される。
【0023】
(第1液及び第2液の組成について)
第1収納室1に収納される第1液は、ブドウ糖が溶解された水溶液である。このブドウ糖は、主としてCAPD用透析液の浸透圧を調製する役割を果たす。そして、第1液のpHは2〜4の範囲内に調製されている。第1液におけるブドウ糖の濃度は通常数%である。
【0024】
第2収納室に収納される第2液は、緩衝剤としての乳酸塩が溶解された水溶液である。この第2液にpHは7を越す領域であって、第1液と混合したときに当該混合液のpHが中性もしくは弱酸性になるように調製されている。第2液には、基本的にブドウ糖は含有されない。第2液にブドウ糖が少量含有されていてもかまわないが、その場合も第1液のブドウ糖濃度よりも低い濃度とする。
【0025】
一方、第1液における乳酸塩濃度は第2液の乳酸塩濃度よりも低く設定する。基本的に第1液に乳酸塩を含まないことが望ましいが、含まれたとしてもその濃度を0.1mmol/L以下に設定することが好ましい。
この他に、第1液及び第2液のいずれか一方もしくは両方に、生理的塩類として、Na,Ca,Mgを含む塩が配合されている。
【0026】
第1液の無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定する上で、これらの生理的塩類は、できるだけ第1液よりも第2液に含ませて、第1液の無機イオン濃度を10mmol/L以下に設定することが好ましい。
上記第1液及び第2液のpH調製については、HClなどの酸、NaOHなどのアルカリを適量加えることによって行なうことができる。
【0027】
なお、CAPD用透析液バッグ10に収納される第1液の量と第2液の量の比率は、同程度に設定すると混合しやすいが、その比率ついては特に限定されず、適宜設定すればよい。
また、ここでは、CAPD用透析液バッグ10において、第1液と第2液の2種類の液に分割して収納する場合を説明したが、3種類以上の液に分離して、バッグ内に収納するようにしてもよい。例えば、バッグに3つの収納室を設け、ブドウ糖液、乳酸塩液、生理的塩液の3種類を、それぞれ収納するようにしてもよい。
【0028】
(本発明にかかる生体適合性薬液製剤による効果)
一般にCAPD用透析液バッグは、日本薬局方で規定する高圧蒸気滅菌法に基づいて加熱滅菌が施されるが、上記CAPD用透析液バッグ10では、第1液と第2液が分離して充填された状態で加熱滅菌されるので、CAPD用透析液が第1液第2液に分離されることなく加熱滅菌される場合と比べて、以下に述べるように3,4−DGEの生成濃度が低くなる。
【0029】
CAPD用透析液バッグ10の場合、第1液のブドウ糖濃度は、使用時のCAPD用透析液におけるブドウ糖濃度と比べて高いが、そのpHが2以上4以下の範囲内に設定されているので、当該加熱滅菌処理で第1液に生成される3,4−DGEの濃度は低く抑えられる。
また、第2液は、第1液と比べてブドウ糖の濃度が小さく設定されているので、加熱滅菌処理で第2液に生成される3,4−DGEの濃度も低く抑えられる。
【0030】
従って、第1液と第2液を混合したCAPD用透析液を加熱滅菌する場合と比べると、使用時に第1液と第2液とが混合されてなるCAPD用透析液において、3,4−DGEの濃度が低く抑えられることになる。
よって、そのCAPD用透析液を生体に注入したときに生体機能が低下するのが抑えられる。
【0031】
これに対して、CAPD用透析液が第1液第2液に分離されることなく加熱滅菌された場合には、CAPD用透析液のpHが中性の状態で加熱滅菌されるので、CAPD用透析液に3,4−DGEが生成されやすいことになる。
なお、ブドウ糖溶液を加熱滅菌処理するときに、そのpHが5以上の場合は生成される3,4−DGEの濃度が高くなり細胞毒性が高くなる傾向にあるが、当該ブドウ糖溶液のpHを2〜4の範囲に調製して行なえば、3,4−DGEの生成が抑えられること及び細胞毒性が低くなることについては、後述する図2及び図7の試験結果から裏づけられている。
【0032】
更に、上記CAPD用透析液バッグ10においては、乳酸塩は第2液に含有されており、ブドウ糖濃度が高い第1液においては乳酸塩濃度が低く設定されている。
これによって、第1液と第2液とで乳酸塩の濃度を同等に設定する場合と比べて、3,4−DGEの生成量はより低くなる。
なお、ブドウ糖溶液を加熱滅菌処理するときに、共存する乳酸塩の濃度が低いほど、生成される3,4−DGEの濃度が低くなることについても、図2試験結果から裏づけられる。
【0033】
また、CAPD用透析液バッグ10において、生理的塩類を主に第2液にを含有させ、第1液の無機イオン濃度を第2液の無機イオン濃度より小さく設定すれば、第1液と第2液とで無機イオンの濃度を同等に設定する場合と比べて、3,4−DGEの生成量はより低くなる。
なお、ブドウ糖溶液を加熱滅菌処理するときに、共存する無機イオンの濃度が低いほど、生成される3,4−DGEの濃度が低くなることについても、図2試験結果から裏づけられる。
【0034】
(輸液、人工腎臓用透析用液、血液保存液への適用形態)
CAPD用透析液製剤に関して説明したが、本発明は、ブドウ糖を含有し、生体内に注入して用いられる生体適合性薬液であれば、血液透析液、輸液、細胞保存液、抗凝固剤などに対しても適用できる。以下にその具体例を挙げるが、これらの薬液においては、カリウム、リン酸塩、炭酸塩などの無機塩や、クエン酸塩、酢酸塩、アミノ酸塩などの有機塩も用いられる。
【0035】
(1)補液、維持液、高カロリー輸液用基本液などの加糖電解質輸液
ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸水素イオンなどの無機塩類、酢酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオンなどの有機塩類を含有する加糖電解質輸液(下記の成分配合量の範囲内)において、上記電解質を含有する溶液と、ブドウ糖を含有する溶液との2液に分割して、容器に収納する形態とする。
(加糖電解質輸液の各成分の配合量)
ブドウ糖:1〜500g/L
ナトリウムイオン:10〜150 mmol/L
カリウムイオン:0〜60 mmol/L
カルシウムイオン:0〜10 mmol/L
マグネシウムイオン:0〜10 mmol/L
塩素イオン:5〜130 mmol/L
硫酸イオン:0〜10 mmol/L
リン酸イオン:0〜10 mmol/L
炭酸水素イオン:0〜50 mmol/L
酢酸イオン:0〜50 mmol/L
乳酸イオン:0〜70 mmol/L
クエン酸イオン:0〜20 mmol/L
グルコン酸イオン:0〜15 mmol/L
その他に亜鉛、銅、セレンなど微量元素を配合する事もできる。
【0036】
ブドウ糖溶液について、次のように設定する。
1)pHを2〜4に設定。
2)有機塩類を実質的に含有しない(好ましくは0.1mmol/L未満)。
【0037】
3)pH調整剤以外の電解質を実質的に含有しない(好ましくは10mmol/L未満)。
これによって、加熱滅菌に伴う3,4−DGEの生成量を抑えることができる。
(2)人工腎臓用透析用剤、ろ過型人工腎臓用補液
ブドウ糖を含有し、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンなどの無機塩類および酢酸イオン、乳酸イオンなどの有機塩類を含有する人工腎臓用透析溶剤やろ過型人工腎臓用補液(下記の成分配合量の範囲内)において、上記電解質を含有する溶液と、ブドウ糖を含有する溶液との2液に分割して、容器に収納する形態とする。
(各成分の配合量)
ブドウ糖:0.1〜10g/L
ナトリウムイオン:100〜150 mmol/L
カリウムイオン:0〜10 mmol/L
カルシウムイオン:0〜5 mmol/L
マグネシウムイオン:0〜5 mmol/L
塩素イオン:50〜130 mmol/L
炭酸水素イオン:0〜50 mmol/L
酢酸イオン:0〜40 mmol/L
乳酸イオン:0〜40 mmol/L
ブドウ糖溶液については、次のように設定する。
【0038】
pHを2〜4に設定。
有機塩類を実質的に含有しない(好ましくは0.1mmol/L未満)。
pH調整剤以外の電解質を実質的に含有しない(好ましくは10mmol/L未満)。
これによって、加熱滅菌に伴う3,4−DGEの生成量を抑えることができる。
(3)血液保存液
ブドウ糖を含有し、ナトリウムイオン、塩素イオン、リン酸イオンなどの無機塩類およびクエン酸イオンなどの有機塩類を含有する血液保存液(下記の成分配合量の範囲内)において、上記電解質を含有する溶液と、ブドウ糖を含有する溶液との2液に分割して、容器に収納する形態ととすることが好ましいが、血液保存液を2液に分割せずそのまま(1液で)収納する形態とすることもできる。
(各成分の配合量)
ブドウ糖:5〜50g/L
ナトリウムイオン:70〜150 mmol/L
塩素イオン: 0〜150 mmol/L
クエン酸イオン:5〜150 mmol/L
その他に、マンニトールとアデニンを含む場合がある。
【0039】
2液の場合はブドウ糖溶液について、次のように設定する。
pHを2〜4に設定。
有機塩類を実質的に含有しない(好ましくは0.1mmol/L未満)。
pH調整剤以外の電解質を実質的に含有しない(好ましくは10mmol/L未満)。
一方、一液の場合は、血液保存液自体のpHを2〜4に設定する。
【0040】
いずれの場合も、加熱滅菌に伴う3,4−DGEの生成量を抑えることができる。
<検証実験>
現在、CAPD液が熱処理されたとき、その中に、種々の「GDPs」が存在し、図14に示す7種類のGDPsについては、従来から生体の機能に及ぼす影響が調べられているが、本発明者は、8番目のGDPsである3,4-DGEに着目して、3,4-DGEの生成に関る因子としてpHと、塩類、乳酸塩などの共存物質との影響を調べた。
【0041】
その結果、3,4-DGEの生成には溶液のpHが強く関与しており、pH5でその生成量は増加する事が分かった。
また、GDPsに由来する細胞毒性は3,4-DGEの生成量に依存しており、pH≧5で3,4-DGEの生成量の多いものに強い細胞毒性を認めた。
つまり、3,4-DGEは、非常に強い細胞毒性を示しことが判明し、特に、弱酸性のCAPD液中に、多く存在することが明らかとなった。
【0042】
実験の詳細について、以下に説明する。
1)主目的
加熱滅菌時にGlucoseが分解して生じるGDPsのうち、3,4-DGEに注目し、Glucose溶液のpHと共存物質が3,4-DGEの生成に与える影響を調べる。
2)評価項目
2.5%グルコース液(種々のpH、共存物質を配合)を加熱滅菌し、滅菌直後〜40℃保存12週間にかけてサンプリングを行い、以下の項目について評価を実施した。
1)
【0043】
3,4-DGE濃度(HPLC)
通常CAPD液は、グルコース(浸透圧調整剤)、緩衝剤(乳酸塩)、生理的塩類(Na,Ca,Mg)により構成されていることから、発明者らは、1)グルコースのみ、2)グルコース+乳酸塩(濃度違い2つ)、3)グルコース+塩類、の3種類のCAPD試験液を作製し、共存物質による3,4-DGEの生成度合いの変化を確認した。
【0044】
さらに、上記試験液のpHを様々に調整し、pHと3,4-DGEの生成量の関係も併せて確認した。
2) 既知7種のGDPs濃度(HPLC)
上記1)と同様にして、3種類のCAPD試験液を作製し、共存物質による既知7種のGDPs生成度合いの変化を確認した。
【0045】
さらに、上記試験液のpHを様々に調整し、pHと上記7種の各GDPs生成量の関係も併せて確認した。
3) 細胞毒性(V79細胞の増殖阻害率)
3)実験方法
3−1)サンプル調整方法
2.5%Glucose液をベースとして表1に示す4種の組成の溶液を作製し、更にそれぞれについてHClまたはNaOHを添加することによりpHを2,3,4,5,6,7,8に調整した。
【0046】
この溶液をPVC製バッグに50mLづつ分注し、更にCAPD用外包材(PET、Ny、PP)で包装して加熱滅菌した。
滅菌後は、加速室(40℃、75%RH)にて保存し、2,4,8,12週保存後にサンプリングして測定するまで−30℃の環境で保存した。
<加熱滅菌条件>
滅菌条件:115℃、30分 表1にサンプルの組成を示す。
【0047】
【表1】
ペリセート(株式会社ジェイ・エム・エス 登録商標)の電解質濃度に設定
***ペリセートの乳酸濃度に設定
3−2)HPLC分析条件について
1)直接分析(3,4−DGE、5−HMF、Furfural)
column :Luna 3μ C18(2) 4.6×150 mm(Phenomenex製), 40℃
Mobile phase : 0.05M NaH2PO4(pH5.5)/MeCN = 98/2
flow rate : 1mL/min
injection vol : 20μL
detector : PDA(UV 210-350nm)
3,4-DGEは@230nm, 5-HMFおよびFurfuralは@284nmのクロマトク゛ラムにて定量、2)2,4-DNPH誘導体による分析(Formaldehyde、Acetaldehyde、3-DG、GO、MGO)サンプル500μL(pHが5以上のサンプルについては水で2倍希釈)に0.06%2,4-DNPH(1N HCl溶液)500μLを加えて室温で2時間放置し、反応させる。
【0048】
この反応液をOasis HLB30mg(waters製)にチャーシ゛し水で洗浄後、アセトニトリル200μL×5回で溶出させたものをサンプルとして以下のHPLC条件にて分析した。
column :Luna 3μ C18(2) 4.6×150 mm(Phenomenex製), 40℃
Mobile phase :A)40%MeCN
B)80%MeCN gradient
flow rate : 1mL/min
injection vol : 20μL
detector : UV 360nm
3−3)細胞毒性試験の内容
発明者らは、pHの異なるCAPD液それぞれについて、細胞毒性試験を実施した。
【0049】
V79をM05培地に懸濁し、24ウェルフ゜レート(Iwaki製)に2000cells/wellづつを播種して1晩培養した。接着後の細胞に以下の要領で中和、血清培地と混合したサンプル溶液0.5mL/wellを曝露し、4日後の細胞数をカウントした。
◆曝露サンプル組成
・滅菌/加速保存サンプル(2.5%Glucose+35mM Lactate):45v/v%
・メイロン(大塚正士 登録商標):5v/v%
・M05:50v/v%
◆曝露サンプルの性状
サンプルを重曹(メイロン: 大塚正士 登録商標 5v/v%)で中和し、更にM05で2倍希釈した後のpHと浸透圧を表2に示す。pHに若干の違いがあるものの、ほぼ同一性状であり、主にGDPsの毒性が反映される試験系であった。
【0050】
表2にV79に曝露したサンプルの性状を示す。
【0051】
【表2】
4)試験結果
4−1)3,4-DGEの生成因子について
加熱滅菌直後の3,4-DGEの生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を図2に示す。
【0052】
3,4-DGEの生成は加熱滅菌直前のpHが低いほど抑制されており、pH≧5で顕著に増加していた。またpH≧5では共存物質による違いが現れ、電解質、乳酸イオンとも3,4-DGEの生成を促進した。
3,4-DGEの生成は、電解質および乳酸塩により促進され、特に乳酸塩みる増殖効果が大きい。
【0053】
従って、3,4-DGEの生成を抑える為には、グルコースと他成分(CAPD液の成分)は分割して加熱滅菌する必要があり、少なくとも乳酸塩とは分離する事が好ましい。
3,4-DGEの生成挙動は後述する(4−2)項で示す)既知7種のGDPsと似ていたが、3,4DGEはpH2で最も抑制された点が異なった。
つまり、加熱滅菌時のグルコース水溶液のpHが低いほど毒性は低くなり、特にpH4以下の試験液で毒性が著しく低下することが分かった。
【0054】
グルコース水溶液のpHが4以下であれば、加熱滅菌後、2週間経過した実験サンプルの3,4-DGEの含量は5μM未満であった。このことより、CAPD液の加熱滅菌時におけるグルコース水溶液のpHは、4未満であることが望ましい。
グルコース水溶液のpHが4以上の領域においては、pHの上昇に伴って3,4-DGEは増加し、更に、乳酸塩や塩類の共存によって3,4-DGEの生成が促進される。
【0055】
なお、pH2においては共存物質(塩類、乳酸塩)の有無に関らず、3,4-DGEは、検出限界0.4μMを下回った。
これまでの検討で、3,4-DGEは酸性度の低いCAPD液(以下、「A液」という。)に多く、酸性度の高いCAPD液であるペリセートNには少ない事が分かっていたが、これはGlucose液のpH(A液:pH5.5、ペリセートN:pH3.5)と乳酸イオン(A液:有り、ペリセートN:なし)の違いによるもと考えられた。
4−2)他の7種GDPsの生成因子
加熱滅菌直後の7種GDPs生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を図3に示す。
【0056】
この結果から、pH≧5で3-DGが増加し、更に乳酸イオンの共存により、Acetaldehyde、GO、MGOが多く生成することが判る。
上述のように、pHが2以上、8以下の範囲においては、グルコース液のpHが小さければ小さいほど、3,4-DGEの生成が抑制される反面、、pH2においては3,4-DGE以外のGDPsが増加してしまう。
4−3)3,4-DGEの安定性(経時的変化)
CAPD透析液を40℃に保存した場合における3,4-DGEの安定性の評価結果を図4に示す。
【0057】
全体的に3,4-DGEは加熱滅菌後に経時的に減少しており、特に3,4-DGEが多く生成したpH≧5(乳酸や電解質含有溶液)のサンプルでは滅菌後2週間で大きく減少した。
その後、保存期間4〜12週間において目立った変化を認めず、電解質含有溶液(pH≧5)では5〜10μMで、乳酸塩を含有するサンプル(pH≧5)では10〜20μMで安定していた。
これらの乳酸塩含有サンプル溶液の滅菌後pHは5〜6であり、3,4-DGEの安定性にはpHか乳酸塩が関与しているものと考えられる。
4−4)pHの測定
各サンプルのpHの測定結果を表3に示す。
【0058】
pHが5以上のサンプルは加熱滅菌により大きく低下し、特にpH6,7,8のサンプルの滅菌後pHはpH4. 4〜5.8まで低下した。
pHの低下幅は共存物質により異なり、Glucoseのみのサンプルに比べてLactateを配合したサンプルでは滅菌後にやや高いpHを示した。このpHの違いは前項の3,4-DGEの生成や安定性に影響を与えているものと考えられる。40℃保存中の変化は殆どなく、pHは主に加熱滅菌時に変化した。
【0059】
表3に各サンプルのpH測定結果を示す。
【0060】
【表3】
4−6)細胞毒性
3,4-DGEの40℃保存サンプル(2.5%Glucose+35mM Na-Lactate)の細胞増殖率(カラム:V79細胞の増殖阻害率(コントロールに対する割合))を図7(グラフ左側目盛、棒グラフ)に示す。
【0061】
加熱滅菌前(調製時)のpHが2〜4のサンプルはpHが5以上のサンプルに比べて高い細胞増殖を認め、細胞毒性が小さい事が分かった。また、このpH2〜4のサンプルの毒性に経時的変化は無かった。一方、pH6〜8の中性付近のサンプルは、加熱滅菌から40℃の保存期間中を通して強い細胞毒性を示した。
つまり、加熱滅菌時のグルコース水溶液のpHが低いほど毒性は低くなり、特にpH4以下の試験液で毒性が著しく低下した。
【0062】
この実験で興味ある変化を示したサンプルはpH5であった。このサンプルの加熱滅菌直後の細胞増殖率は8%であったが、40℃保存により細胞増殖率は40%程度まで上昇した。この現象は保存中にGDPsの細胞毒性が低下した事を示している。
図7には保存中の3,4-DGEの存在量(グラフ右側目盛、折れ線グラフ)も併せて示しているが、pH5のサンプルの3,4-DGE濃度は加熱滅菌直後:46μLから保存2週後:18μMへ大きく減少しており、3,4-DGEの減少に伴って細胞毒性が改善されたものと考えられる。
【0063】
この結果からpH≦5の酸性領域におけるGDPsの細胞毒性は3,4-DGEに依存する事が示唆された。
一方、3,4-DGEの保存時の減少はpH6〜8のサンプルでも同様に観察されたが、細胞毒性に変化はなかった。pH6〜8の中性で加熱滅菌したサンプルには3,4-DGE以外に強い毒性を示す未知のGDPsが存在し、この未知のGDPsは40℃保存では減らない或いは増加するものであると考えられる。
4−8.その他の試験
3、4−DGEを含む8種類のグルコース分解物(GDPs)の細胞毒性について、細胞増殖阻害濃度を測定すべく、以下の方法により実験を行った。その手順は図8に示すように、各GDPsを添加した培地においてヒト腹膜中皮細胞(HPMC)培養し、培養3日後に細胞数を測定することで行った。
【0064】
その測定結果を図9に示す。図中、「Form」はFormaldehyde、「MGO」はMethylglyoxal、「GO」はGlyoxal、「Fur」はFurfural、「Acet」はAcetaldehydeをそれぞれ示す。当図に示すように、各種GDPsに比べて3、4−DGEの濃度がかなり低い段階(100μM程度)で、細胞成長をほぼ完全に阻害することが確認された。
次に、各GDPsの毒性濃度(細胞増殖50%阻害濃度)と、CAPD液に含まれる各GDPsの含有量を比較した結果を図10に示す。
【0065】
比較結果から、CAPD液液のpHが低いとGDPsの濃度も低いことが確認できる。ここに挙げたpH5.2とpH3.5を比較しても、後者が前者に比べて1/10以下のGDPs濃度に抑えられている。このように、pHの値に伴って濃度が低くなる特性は、3、4−DGEを含めて各種GDPsに共通した特徴である。
続いて、上記pH5.2のCAPD液を用い、3、4−DGEの有無の差による細胞毒性の違いについて、図11に示すように調査を行った。
【0066】
当図11では、pH5.2のCAPD液に含まれるGDPsについて、等倍で濃度を上げた場合の細胞増殖阻害率について調べた結果を示している。
当図のグラフに示されるように、3、4−DGEを除く7種類のGDPsでは、細胞阻害特性が比較的リニアに増加するが、これに3、4−DGEが追加された8種類のGDPsでは、当初におけるCAPD液の約2倍の濃度で細胞増殖阻害率がほぼ100%に至ることがわかった。
【0067】
加熱滅菌サンプルの細胞毒性試験の結果では、細胞増殖率はpH2:50.4%、pH3:46.4%、pH4:40.4%、pH5:8.0%、pH6:0.1%であり、pH4を境界として細胞毒性が著しく変化することから、細胞毒性を抑制する観点からは、急激に増殖率が低下するpH4未満が好ましい。
また、CAPD液における人体への細胞毒性は、主に3,4-DGEが支配的であるが、細胞毒性の弱い3,4-DGE以外のGDPsも総合的に勘案すると、グルコース液のpHが約3になっていることが好ましい。
5.生態適合性薬液製剤の製法
以下、本発明の生態適合性薬液製剤について、調製例を示す。
【0068】
この生態適合性薬液製剤は、例えば、CAPD液(以下、「実施例薬液」という。)であって、2チャンバー構成を有する腹膜透析液容器内に貯留され、各チャンバーには、それぞれ酸性濃縮液とアルカリ性濃縮液とが貯留されている。
酸性濃縮液側にグルコースが配合されていることにより、3,4-DGEの生成が抑制されている。
【0069】
また、アルカリ性濃縮液側には、分解を促進する乳酸塩が配合されている。
(調整工程)
各チャンバーに充填する液として、以下のように調整する。
(酸性濃縮液)
1.グルコース(グルコース) : 239.2mmol/l
2.塩化カルシウム : 5.56mmol/l
3.塩化マグネシウム : 1.41mmol/l
4.3.5%塩酸 : 0.3ml/l
上記条件に調整後、各成分を蒸留水に溶解し、酸性濃縮液としてのpHは3.55となった。
(アルカリ性濃縮液)
1.乳酸ナトリウム : 54.9mmol/l
2.塩化ナトリウム : 151.6mmol/l
3.重炭酸ナトリウム : 2.0mmol/l
上記濃度になるように、各成分を蒸留水に溶解し、アルカリ性濃縮液としてのpHは8.1となった。
(充填工程)
腹膜透析液容器の各チャンバーに、上記酸性濃縮液と上記アルカリ性濃縮液とを充填する。
【0070】
上記調整によって得た、酸性濃縮液720mlとアルカリ性濃縮液1280mlを腹膜透析液容器の第1収納室1及び第2収納室2に各々収容する。
(滅菌処理工程)
酸性濃縮液及びアルカリ性濃縮液が収容されたプラスティック製の腹膜透析液容器を115℃で30分間高圧蒸気雰囲気に晒して滅菌処理を実施した。
【0071】
その後、腹膜透析容器の隔離部3を連通して、上記酸性濃縮液と上記アルカリ性濃縮液とを混合した。
混合後の腹膜透析液のpHは7.1〜7.3を示し、生理的な中性領域の範囲にあった。
このようにして得られた混合液、即ち、腹膜透析液に含まれる3,4-DGEは、0.7μMと極めて小さな値であった。
【0072】
発明者らは、隔離部3を有しないシングルバックの腹膜透析容器を用いた場合、即ち、グルコース液が弱酸性となっている腹膜透析液に含まれる3,4-DGEの量を確認した。
(比較試験1)
(シングルバッグのCAPD液)
1.グルコース : 239.2mmol/l
2.塩化カルシウム : 5.56mmol/l
3.塩化マグネシウム : 1.41mmol/l
4.乳酸ナトリウム : 54.9mmol/l
5.塩化ナトリウム : 151.6mmol/l
6.3.5%塩酸 : 0.3ml/l
上記濃度になるように、各成分を蒸留水に溶解してCAPD液(以下、「比較例1薬液」という。)を得た。
【0073】
なお、溶解後の比較例1薬液のpHは5.5であった。
この比較例1薬液2000mlをプラスティック製の腹膜透析容器に収容した後、115℃で30分間高圧蒸気雰囲気に晒して滅菌処理を実施した。
このようにして得られた混合液、即ち、腹膜透析液に含まれる3,4-DGEは、15.4μMであった。
(比較試験2)
上述の滅菌処理を施さない以外は、上述の比較試験1と同様の仕様で、CAPD液(以下、「比較例2薬液」という。)を生成した。
【0074】
このようにして得られるCAPD液に含まれる3,4-DGEの量は、検出限界の0.4μM未満であった。
発明者らは、実施例薬液、比較例1薬液及び比較例2薬液の生体適合性を評価するために細胞毒性を調べた。
(細胞毒性試験)
(試験方法)
20%FBS含有M199培地に懸濁させたヒト腹膜中皮細胞を、24穴細胞培養用プレートに20,000/ウェルの濃度で播種して、1晩培養した。
【0075】
翌日、CAPD液(実施例薬液、比較例1薬液、比較例2薬液)と10%FBS含有M199培地を当量で混合した試験液に交換して3日間培養した。
培養後、細胞をトリプシン処理にて剥離させ、Coulter Particle Counter Z1(ヘ゛ックマンコールター)で細胞数を計測した。
図12に示すように、3,4-DGEの生成を抑えた実施例薬液では、加熱滅菌処理していない比較例2薬液と同等の細胞増殖性を示し、比較例1薬液の示す細胞毒性が大きく改善されていた。
(タンパク質との反応性試験)
CAPD液の加熱滅菌により生成するGDPsは細胞障害性を示すのみならず、腹膜組織構成タンパク質と結合し、AGE(Advanced Glycation Endproducts)を形成する。
【0076】
AGEsはタンパク質の機能を低下させるのみならず、細胞障害性や炎症反応を誘発する事が知られている。
さらに、AGEsが形成されることによってタンパク質は凝集、不溶化して組織中に異常蓄積して組織を変性させていると考えられている。
CAPD療法においても腹膜組織へのAGEsの蓄積が確認されており、腹膜劣化を抑えるために、AGEsの形成力が弱い、即ち、反応性の高いGDPsが少ないCAPD液が必要とされている。
【0077】
このような背景から、発明者らは、生体適合性の指標とした、3,4-DGEのタンパク質との反応性を調べた。
(実験方法)
モデルタンパクとしてウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。BSA(10mg/mL)をPBS(pH7.4)に溶解させた。これに各種のGDPsを30mmol/Lの濃度で添加して37℃で24時間反応させた。BSAの変性(AGEs化)は、反応液の蛍光強度(励起波長360nm、蛍光波長430nm)で評価した。
GDPs:3,4-DGE、Methylglyoxal、Glyoxal、3-DG、Acetaldehyde、Formaldehyde、Furfural、5-HMF
(結果)
図13に示すように、3,4-DGEを加えたBSA溶液は、他のGDPsに比べて強い蛍光を示した。この結果から3,4-DGEはタンパク質との反応性に富み、強力なAGEsの前駆体となるGDPsである事が分かった。
【0078】
なお、本実施の形態では、生態適合性薬液製剤の一例として、CAPD液を挙げ説明を行ったが、これに限るわけではなく、点滴などに用いる輸液などのグルコースが配合された人体中に投入する薬液であれば、本発明の適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る生態適合性薬液製剤は、CAPD液をはじめとして、血液透析液、輸液、細胞保存液、抗凝固剤などグルコースが配合され、人体中に投入する薬液に、本発明の適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態における生態適合性薬液製剤が収容されるCAPD用透析液バッグの概略説明図である。
【図2】加熱滅菌直後の3,4-DGEの生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を示す図である。
【図3】加熱滅菌直後の7種GDPs生成量と、溶液pH及び共存物質の関係を図である。
【図4】CAPD透析液を40℃に保存した場合における3,4-DGEの安定性の評価結果を示す図である。
【図5】CAPD透析液を加熱滅菌後、40℃で保存した場合における、測定波長228nmの吸光度の経時変化を示す図である。
【図6】CAPD透析液を加熱滅菌後、40℃で保存した場合における、測定波長284nmの吸光度の経時変化を示す図である。
【図7】細胞毒性試験結果を示す図である。
【図8】細胞増殖阻害濃度の測定手順を示す図である。
【図9】細胞増殖阻害濃度の測定結果を示す図である。
【図10】各GDPsの毒性濃度(細胞増殖50%阻害濃度)と、CAPD液に含まれる各GDPsの含有量を比較した結果を示す図である。
【図11】CAPD透析液における3、4−DGEの有無による細胞毒性の違いについて説明する図である。
【図12】細胞毒性試験の結果を示す図である。
【図13】生体適合性を指標とした、3,4-DGEのタンパク質との反応性を示す図である。
【図14】従前のCADP液中におけるGDPsの各含有量について説明する図である。
【図15】新たに発見されたCADP液中のGDPs(3,4-DGE)の含有量について説明する図である。
【符号の説明】
【0081】
1 第1収納室
2 第2収納室
3 隔離部
10 CAPD用透析液バッグ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とが、互いに分離された状態で容器に収納されてなる生体適合性薬液製剤であって、
前記第2液は、前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さく設定され、
前記第1液は、pHが2以上,4以下に設定されていることを特徴とする生体適合性薬液製剤。
【請求項2】
前記第2液には乳酸塩が含有され、
前記第1液の乳酸塩濃度が、前記第2液の乳酸塩濃度より小さいことを特徴とする請求項1記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項3】
前記第1液の乳酸塩濃度が0.1mmol/L以下であることを特徴とする請求項2記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項4】
前記第2液には無機イオンが含有され、
前記第1液の無機イオン濃度が、前記第2液の無機イオン濃度より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項5】
前記第1液の無機イオン濃度が10mmol/L以下であることを特徴とする請求項4記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項6】
前記容器は、仕切で隔てられた第1収納室及び第2収納室を備え、
前記第1収納室に前記第1液が収納され、前記第2液が前記第2収納室に収納され、
前記仕切りは、操作者が一定の操作することによって第1収納室及び第2収納室が連通するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項7】
第1収納室及び第2収納室を有する容器を準備する容器準備ステップと、
前記第1収納室にブドウ糖が含有された第1液を収納すると共に、前記第2収納室に前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さい第2液を収納する収納ステップと、
前記第1液と第2液が収納された容器を加熱滅菌する加熱滅菌ステップとを備えることを特徴とする生体適合性薬液製剤の製造方法。
【請求項8】
ブドウ糖を含有する生体適合性薬液を保存する保存方法であって、
ブドウ糖が含有されpHが4以下に調製された第1液と、前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さく、前記第1液と混合されることによって生体適合性薬液となる第2液とを、互いに分離した状態で保存することを特徴とする生体適合性薬液の保存方法。
【請求項1】
ブドウ糖が含有された第1液と、使用時に当該第1液と混合される第2液とが、互いに分離された状態で容器に収納されてなる生体適合性薬液製剤であって、
前記第2液は、前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さく設定され、
前記第1液は、pHが2以上,4以下に設定されていることを特徴とする生体適合性薬液製剤。
【請求項2】
前記第2液には乳酸塩が含有され、
前記第1液の乳酸塩濃度が、前記第2液の乳酸塩濃度より小さいことを特徴とする請求項1記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項3】
前記第1液の乳酸塩濃度が0.1mmol/L以下であることを特徴とする請求項2記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項4】
前記第2液には無機イオンが含有され、
前記第1液の無機イオン濃度が、前記第2液の無機イオン濃度より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項5】
前記第1液の無機イオン濃度が10mmol/L以下であることを特徴とする請求項4記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項6】
前記容器は、仕切で隔てられた第1収納室及び第2収納室を備え、
前記第1収納室に前記第1液が収納され、前記第2液が前記第2収納室に収納され、
前記仕切りは、操作者が一定の操作することによって第1収納室及び第2収納室が連通するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の生体適合性薬液製剤。
【請求項7】
第1収納室及び第2収納室を有する容器を準備する容器準備ステップと、
前記第1収納室にブドウ糖が含有された第1液を収納すると共に、前記第2収納室に前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さい第2液を収納する収納ステップと、
前記第1液と第2液が収納された容器を加熱滅菌する加熱滅菌ステップとを備えることを特徴とする生体適合性薬液製剤の製造方法。
【請求項8】
ブドウ糖を含有する生体適合性薬液を保存する保存方法であって、
ブドウ糖が含有されpHが4以下に調製された第1液と、前記第1液よりもブドウ糖の濃度が小さく、前記第1液と混合されることによって生体適合性薬液となる第2液とを、互いに分離した状態で保存することを特徴とする生体適合性薬液の保存方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図14】
【公開番号】特開2006−482(P2006−482A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181501(P2004−181501)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】
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