説明

生体関連物質検出用プローブ及び生体関連物質検出用固相化担体、並びに生体関連物質検出方法

【課題】 複数の生体関連物質を同一プローブスポット内で定量的に検出可能とし、低コストで生産可能な生体関連物質検出用プローブと、生体関連物質検出方法の提供。
【解決手段】 試料中の複数の生体関連物質検出用の、担体に固相化される生体関連物質検出用プローブであって、互いに異種の生体関連物質と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含み、プローブ領域の少なくとも1に他の蛍光物質と蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を生じ得る第一蛍光物質が結合され、少なくとも1に該第一蛍光物質が結合されていない生体関連物質検出用プローブ。試料中の生体関連物質に、第一蛍光物質とFRETを生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料とし、本発明のプローブを担体に固相化し、標識試料とプローブとを接触させ、第二蛍光物質の励起光を照射し、第二蛍光物質の発光信号及びFRETに特異的な発光信号を検出する生体関連物質検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質検出用プローブ及び生体関連物質検出用固相化担体、並びに生体関連物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ等を利用して試料中の生体関連物質を検出・解析する技術が用いられている。マイクロアレイは、通常、1〜数十センチ四方程度のスライドガラスやシリコンなどからなる基板表面に、生体関連物質を検出するためのプローブ(例えば、既知のDNA断片など)を、例えば数千〜数十万種配列し、固相化したものである。
これらプローブに、例えば核酸鎖の相補性等による特異性を利用して、未知のDNAなどの生体関連物質を結合させる。
あらかじめこのターゲットに標識をつけ、ターゲットがどのプローブと結合したかを調べることによって、ターゲットが何であるか等の生体関連物質の情報を解析することができる。このようなマイクロアレイを用いて、例えば数千〜数万の遺伝子について、その発現を同時に調べることも可能である。
【0003】
このときに、データの信頼性を高めるために、存在を検出しようとするターゲット生体関連物質の存在解析結果を、コントロール生体関連物質の解析結果をもとに補正すること(コントロール補正)が行われていた。
例えば遺伝子解析用のマイクロアレイにおいて、ターゲット遺伝子に特異的なターゲット用プローブと、コントロール遺伝子に特異的なコントロール用プローブを準備し、ターゲット用プローブを固相化したターゲット用スポットの他に、コントロール用プローブを固相化したコントロール用スポットを作製して、ターゲット遺伝子の発現状態の解析結果を、コントロール遺伝子の発現状態をもとにして補正することが行なわれていた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
一方、特許文献1には、1のプローブ分子に複数箇所のプローブ配列が設けられた核酸プローブが記載されている。
このプローブは、複数のプローブ用一本鎖核酸を、一本鎖部分を有する主幹鎖核酸の一本鎖である部分に、各々部分的にハイブリダイズさせることで作製された樹状プローブである。
【特許文献1】特開2003−294742号公報
【非特許文献1】Steen Knudsen/著、塩島 聡、松本 治、辻本豪三/監訳、「DNAマイクロアレイデータ解析入門」、羊土社、2002年、p.18−20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、生体関連物質の解析の信頼度を上げる為に、更に高精度の定量性が求められている。これに伴い、コントロール補正の正確さが求められている。特に、低発現遺伝子の発現量の正確な測定と、コントロール遺伝子の解析値によるターゲット遺伝子解析値の補正に関して工夫が求められている。
【0006】
しかし、非特許文献1に記載の方法など従来法では、補正を目的としたコントロール用スポットを、ターゲット用スポットとは独立したものとして設けていたため、ターゲット生体関連物質の解析を目的とするこれらプローブスポット(スポット)の検出結果どうしを、定量的には単純に比較できなくする要因が存在した。
例えばマイクロアレイの場合、ターゲット生体関連物質の解析や補正を目的とする複数のプローブについて、これらの固相化されたプローブスポットが別個であることで、スポットを作る操作に由来する誤差の可能性があった。例えばスポットあたりのプローブ固相化量、スポット分量、スポットの形状などの違いが、信号強度等に影響を与える誤差要因となる。また、プローブスポットが違うことで、検出系に由来する誤差要因が存在する。
特に、ターゲット生体関連物質が低発現遺伝子である場合には、スポットから得られる信号強度等の値が小さく、上記の要因が特に重大な影響を及ぼして、測定値のわずかな誤差が解析結果の大きな誤差となることがあった。
【0007】
理想的な光学系であれば、マイクロアレイのどこかにコントロール用スポットを設けて、このスポットの信号強度をもとに、ターゲット用プローブに対応する信号強度の補正を行うことが可能である。しかし、実際の光学系では、照明は必ずしも均一ではなく、レンズ系も周辺部には周辺減光が見られる。
したがって、マイクロアレイのスポット全体に渡っての正確な補正は困難であった。特に、検出器にCCDを用いてマイクロアレイのスポット全体の信号を取得する場合に、正確な補正はいっそう困難であった。
【0008】
これに対し、遺伝子解析の際に、特許文献1に記載のようなプローブ分子を、ターゲット遺伝子に相補的なプローブ領域およびコントロール遺伝子に相補的なプローブ領域を有するように設計し、ターゲット遺伝子およびコントロール遺伝子を定量的に検出することができれば、各プローブの固相化されたスポットが別個であることによる誤差要因を解消できる可能性がある。
【0009】
しかし、上述のような樹状プローブは、一本の主幹鎖核酸につき、プローブ用一本鎖核酸および複数の二本鎖形成部分の配列を存在させる必要があるため、設計上の制限が多い。
すなわち、設計通りの構造を有する樹状プローブを形成させるには、プローブ用一本鎖核酸部分のみならず、プローブ全体を、プローブ作製時に非特異的なハイブリダイゼーションを起こさないように設計する必要がある。さらに、このようなプローブの設計においては、複数のプローブ領域の配列やその組み合わせに応じて、プローブ領域の配列だけでなく二重鎖となる部分を含めたプローブ全体の配列が反応に最適となるよう設計に制限があり、プローブ領域の配列変更など、プローブの構成を変更する度に、毎回設計し直さなければならない。
このように複雑なプローブは作製に非常に手間がかかって、実際にはコスト高となってしまっていた。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、複数の生体関連物質を、同一プローブスポット内で定量的に検出可能とし、しかも低コストで生産可能な生体関連物質検出用プローブ、及びこれを用いた生体関連物質検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の生体関連物質検出用プローブは、試料中の複数の生体関連物質を検出するための、担体に固相化される生体関連物質検出用プローブであって、
互いに異種の生体関連物質と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1に、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されており、かつ、少なくとも1に、該第一蛍光物質が結合されていないことを特徴とする生体関連物質検出用プローブ。
前記プローブ領域のうち少なくとも1が、ターゲット生体関連物質と特異的に結合可能なターゲットプローブ領域であり、かつ、少なくとも1が、コントロール生体関連物質と特異的に結合可能なコントロールプローブ領域であることを特徴とする。
【0012】
前記生体関連物質は核酸であり、前記コントロール生体関連物質は、前記試料において発現量が実質的に一定である核酸及び/又は前記試料に含まれ得ない核酸であることが好ましい。
各プローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、該プローブ領域は1以上のリンカー部の同一位置または異なる位置に結合しており、当該プローブは核酸2本鎖領域を有さないことが好ましい。
【0013】
前記複数のプローブ領域のうち少なくとも1が、当該プローブあたり2箇所以上に設けられていることが好ましい。
前記プローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、前記担体に固相化される側に3´末端が位置している第一プローブ領域と、該第一プローブ領域と同一の塩基配列を有し、かつ該固相化される側に5´末端が位置している第二プローブ領域とを有することが好ましい。
【0014】
本発明の生体関連物質検出用固相化担体は、上記本発明の生体関連物質検出用プローブが担体に固相化されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の生体関連物質検出方法は、上記本発明の生体関連物質検出用プローブを用いて、生体関連物質を含む試料中の複数の生体関連物質を検出する方法であって、
前記試料中の生体関連物質に、前記第一蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する第一ステップ、
前記プローブを担体に固相化する第二ステップ、
該標識試料と前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と生体関連物質との特異的結合反応を行い、該プローブ及び複数の生体関連物質からなる複合体を形成させる第三ステップ、
前記複合体に、前記第二蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第四ステップ、
並びに、前記第二蛍光物質の発光信号、及び、該第一及び第二蛍光物質の間の蛍光共鳴エネルギー転移に特異的な波長の発光信号を検出する第五ステップ、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の生体関連物質、特にターゲット生体関連物質及びコントロール生体関連物質を、同一プローブスポット内で定量的に検出可能とし、しかも低コストで生産可能な生体関連物質検出用プローブ、これを用いた生体関連物質検出方法、及び生体関連物質検出用固相化担体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<生体関連物質検出用プローブ>
本発明の生体関連物質検出用プローブ(以下、「プローブ」という)は、試料中の複数の生体関連物質を検出するための、担体に固相化される生体関連物質検出用プローブであって、互いに異種の生体関連物質と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1に、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されており、かつ、少なくとも1に、該第一蛍光物質が結合されていないことを特徴とする。
図1aに、担体に固相化された本発明のプローブを例示する。この例では、プローブ領域A、リンカー部(以下「リンカー」と称する場合がある)、プローブ領域B、およびもう一つのリンカー部がこれらの順で設けられて直鎖状のプローブを成しており、プローブ領域AおよびBは、互いに異種の生体関連物質を検出するための構造を有している。プローブのリンカー部側末端が担体に固相化されている。プローブ領域Bに第一蛍光物質が結合されており、プローブ領域Aには該第一蛍光物質が結合されていない。第一蛍光物質がプローブ領域Aに結合し、プローブ領域Bに結合していない態様も可能である。
【0018】
上記のとおり、本発明のプローブは、試料中の複数の生体関連物質を検出するためのプローブである。
(試料)
本発明のプローブによる生体関連物質の検出に供される試料は、生体関連物質を含むものであれば、特に制限されない。
(生体関連物質)
生体関連物質とは、生体から抽出、単離等された物質を意味するが、生体から直接抽出されたものだけでなく、これらを化学処理、化学修飾等したものも含まれる。たとえばホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、糖鎖、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、mRNA、RNA、人工核酸、その他の核酸などの物質である。
【0019】
本発明のプローブは、当該プローブあたり、互いに異種の生体関連物質と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含む。
(プローブ領域)
プローブ領域は、何らかの生体関連物質と特異的に結合可能な構造を有する領域であり、例えば、ホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、糖鎖、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、RNA、人工核酸、その他の核酸等に認められ、生体関連物質との特異的結合に関与する構造を含む領域である。
プローブ領域と生体関連物質とが特異的に結合するとは、たとえばDNAやRNAなどで見られる相補的なヌクレオチド配列の間に安定な二重鎖が形成されるような場合(ハイブリダイゼーション)や、抗原と抗体、ビオチンとアビジンなどのように、特定の物質とのみ選択的に反応する極めて特異性の高い結合を意味する。
プローブ領域の種類は、そのプローブ領域が特異的に結合する生体関連物質の種別、およびプローブ領域の構造によって区別される。例えば、ターゲット核酸の塩基配列に完全に相補的な塩基配列を有する核酸プローブ領域と、該塩基配列に対し1塩基以上の塩基置換を有する核酸プローブ領域は、区別して2つとみなす。また、担体に固相化される際の空間的な配置によって区別し、例えば、特定の塩基配列を有する核酸プローブ領域のうち、担体側に3´末端が位置する場合と5´末端が位置する場合とは、区別する。
複数のプローブ領域は、互いに直接結合されていてもよいし、他の物質に結合されてプローブ構造全体を成していても構わない。
(比率)
複数のプローブ領域が、既知の比率で含まれるようなプローブを提供するには、例えば各種プローブ領域に相当する分子を個別に作製した後、これらの分子を、直接あるいはリンカーを介して結合してプローブと成せばよい。例えば、プローブ領域を核酸とする場合、担体に、DNAプローブ断片、リンカー、DNAプローブ断片をこれらの順に順次結合させてプローブを生産することも可能である。
【0020】
本発明のプローブにおいては、複数のプローブ領域のうち少なくとも1種類に、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されており、かつ、少なくとも1種類に、該第一蛍光物質が結合されていない。
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、2種類の蛍光物質が所定の距離以下に近づいた時に、一方の蛍光物質が発した光エネルギーを、他方の蛍光物質が吸収する現象である。ここで光エネルギーを発する物質はドナー、光エネルギーを吸収する物質はアクセプターと呼ばれる。FRETの検出は、通常ドナーの励起波長の励起光を照射し、ドナーあるいはアクセプターの発光波長の蛍光強度を測定することで行うことができる。
【0021】
例えばドナーの蛍光強度を測定すると、2種類の蛍光物質が近い位置にある場合はドナーの蛍光強度は低くなり、距離が離れると蛍光強度が高くなる。これは、近い位置にある場合に、光エネルギーがアクセプターに吸収されるためである。アクセプターの蛍光強度を測定する場合はその逆で、2種類の蛍光物質の距離が近いとアクセプターの蛍光強度が強くなり、離れると強度が低くなる。
【0022】
(第一蛍光物質)
第一蛍光物質は、他の蛍光物質との間でFRETを生じ得るもので、プローブ領域に結合させることが可能な物質であればよい。ここで第一蛍光物質は、上記のFRETにおいてドナーとして機能する物質であってもよいし、アクセプターとして機能する物質であってもよい。
【0023】
本発明のプローブは、プローブ領域のうち少なくとも1に、前記第一蛍光物質が結合されており、かつ、少なくとも1に、該第一蛍光物質が結合されていないことにより、生体関連物質の検出において、複数の生体関連物質の存在に対応する信号を、1プローブ上で各々分離して取得することを可能ならしめる。
これは、後述のように、この第一蛍光物質との間でFRETを起こし得る他の蛍光物質を、第二蛍光物質として試料中の生体関連物質に標識すれば、試料に含まれる生体関連物質が、第一蛍光物質の結合された特定種のプローブ領域と特異的結合をすることで、第一蛍光物質と第二蛍光物質とのFRETが起こり、試料に含まれる生体関連物質が、第一蛍光物質の結合されていない特定種のプローブ領域と特異的結合をすると、FRETが起こらないためである。
ここでの信号検出は1のプローブについて、例えば1箇所のプローブスポットにおいて行われるから、信号の測定値どうしの比率は、各種生体関連物質の存在量比を正確に反映した値となる。
【0024】
(担体、固相化)
本発明のプローブは、生体関連物質の検出に際して、担体に固相化される。
ここで、本発明のプローブは、担体に固相化された後に、試料との反応に供されてもよく、また、試料との反応を経た後に、担体に固相化されてもよい。例えば、プローブが核酸からなる場合は、核酸プローブは担体に固相化された後に、試料とのハイブリダイズ反応に供されてもよく、試料とのハイブリダイズ反応を経た後に、担体に固相化されてもよい。
本発明において担体として用いることができるものには、特に制限はなく、板状の担体(基板)や、ビーズ等が例示される。さらに具体的には、ガラス製基板、シリコンウエハ、各種の多孔質基板、ゲル、マイクロタイタープレートやキャピラリー、ビーズ、中空糸等が挙げられる。特に、多孔質基板やビーズは、前記プローブ領域との特異的な結合が起こらなかった生体関連物質を、洗浄によって容易に除去することが可能であるので好ましい。
【0025】
本発明のプローブは、低コストに生産可能であり、複数の生体関連物質に各々特異的な複数箇所のプローブ領域を含み、かつ上述のとおり、各プローブ領域に対応する特異的反応体に由来する信号を、同一のプローブにおいて検出可能なものとなる。このことにより、複数の生体関連物質の存在量比データを、装置間や実験回間での解析結果のばらつきの可能性を抑制して、かつ低コストに得ることを可能ならしめる。したがって、生体関連物質の解析の信頼度向上や、さらに高精度の定量性の従来にない向上に貢献することができる。
すなわち、従来の生体関連物質検出法で問題となる、プローブが複数スポットにまたがることに由来する誤差の要因としては、各プローブの固相化量・スポット分量・スポットの形状の差異などがあった。また、検出系の性能に由来する誤差要因としては、検出装置の照明系が不均一であること、信号を取得するための光学系に周辺減光があることなどがあった。これに対し、本発明のプローブによれば、各生体関連物質を検出するためのプローブが複数スポットにまたがることに由来する誤差可能性を排除し、また存在量比の比較において、検出系の性能に由来する誤差可能性を排除しつつ、複数の生体関連物質を区別して検出することを可能とすることができる。検出器としてCCDを用いた生体関連物質検出を行う場合等は、スキャンを行わずに、例えばプローブを固相化した固相化担体の固相化領域全体を一度に照明して信号を取得することが多いので、本発明のプローブを用いると好ましい。
【0026】
本発明のプローブによれば、さらに、生体関連物質の検出に際して、効率化を図ることが可能となる。これは、プローブの低コストでの生産は勿論のこと、検出しようとする生体関連物質の種類数に対して必要なプローブ数を最小限とでき、すなわち準備するプローブスポット数を低減してマイクロアレイ等の装置数を低減することができるためである。
この効率化の点で、本発明のプローブは、存在を検出しようとする遺伝子(ターゲット遺伝子)を捕捉するために最適なプローブ塩基配列が不明である場合や、遺伝子型等を特定しようとする遺伝子領域(ターゲット遺伝子領域)にバリエーション(多型)が存在する場合の検出に、特に好適に利用可能である。このことは、本発明のプローブにおいて、あるターゲット遺伝子を検出するためのプローブ領域を、プローブあたり複数箇所かつ複数種類設けた形態が可能なためである。
【0027】
本発明のプローブにおいては、前記プローブ領域のうち少なくとも1が、ターゲット生体関連物質と特異的に結合可能なターゲットプローブ領域であり、かつ、少なくとも1が、コントロール生体関連物質と特異的に結合可能なコントロールプローブ領域であることが好ましい。
例えば、図1aに示したプローブ領域Aをターゲットプローブ領域とし、プローブ領域Bをコントロールプローブ領域とすることができる。
上述のとおり、複数のプローブ領域を有する本発明のプローブによれば、複数の生体関連物質の存在量比データを、装置間や実験回間での解析結果のばらつきの可能性を抑制して正確に、かつ低コストに得ることができる。したがって、複数のプローブ領域のうち少なくとも1種類をコントロールプローブ領域とすれば、生体関連物質の検出において、従来になく正確なコントロール補正を、低コストに実現することができる。
【0028】
従来の、ターゲット用プローブを固相化したターゲット用スポットの他に、コントロール用プローブを固相化したコントロール用スポットを作製して行うコントロール補正では、補正後の結果は必ずしも一定しなかった。これに対し、本発明のプローブのうち、ターゲットプローブ領域およびコントロールプローブ領域の双方を有する態様のプローブを用いれば、これらのプローブ領域の存在比率が既知の一定値であるから、プローブを固相化する際のプローブ領域の固相化比率は一定となり、プローブスポット等の形状などは共通となり、検出系での照射量も共通条件となる。よって、コントロール補正を正確に行うことができる。
ターゲット用プローブ領域とコントロール用プローブ領域との比率が既知であるから、例えばプローブスポット間でプローブ分子の固相化量(物質量)に差があった場合でも、コントロールを用いた規格化を正確に行うことができ、試料に含まれるターゲット生体関連物質の正確な存在量を確認することが可能となる。また、検出装置の照明系が不均一であっても、信号を取得するための光学系に周辺減光があっても、信頼性の高い補正を行うことができる。
【0029】
本発明のプローブにおいて、前記プローブ領域のうち少なくとも1を、コントロール生体関連物質と特異的に結合可能なコントロールプローブ領域とすることは、上述のようにコントロール補正の正確性向上に貢献するだけでなく、さらに、試料溶液の調製が適切であったかどうかの確認も可能ならしめる。例えば、試料溶液の調製が適切であった場合は、コントロール生体関連物質に対応する信号測定結果は所定の信号強度となり、不適切だった場合には所定の信号強度を得ることができない。
【0030】
コントロール生体関連物質(以下、「コントロール」という場合がある)は、ターゲット生体関連物質(以下「ターゲット」という場合がある)の種類等に応じて適宜選択することができる。また、コントロールとしては、インターナルコントロール生体関連物質(IC)、エクスターナルコントロール生体関連物質(EC)等が例示される。
ICとしては、試料において存在量が実質的に一定である生体関連物質を採用することができる。より具体的には、生体関連物質の検出を行おうとする所定の試料について、これが採取された検体である細胞間や組織間、さらに採取回間で存在量が変動せずほぼ一定である物質を、ICとして設定することができる。
ECとしては、前記試料に含まれ得ない生体関連物質を採用することができる。例えば、試料を採取した検体の生物種に対して近縁種ではない、別の生物種由来の生体関連物質を用いることができる。複数の検体の比較を行う場合は、試料中の生体関連物質、例えば核酸の量に対して、ECの量を正確な割合(例えば1:1)で加えると、異なる試料間、異なるチップ間等での比較が容易かつ正確になる。
【0031】
例えば、ターゲット生体関連物質が核酸である場合、コントロールとして核酸等を設定することができ、このコントロールは、ターゲットの核酸との間でクロスハイブリダイゼーションが起こらないこと、すなわち、ターゲットに特異的な配列のプローブ領域とハイブリダイゼーションし得ないことが必要である。
ICとして設定可能な核酸として、glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase (GAPD)や、actin, beta (ACTB)、similar to polyubiquitin(LOC346412)、ribosomal protein (S7´RPS7)などのハウスキーピング遺伝子が例示される。試料中に含まれている、これら以外の遺伝子をICとして用いることも可能である。ECの核酸としては、例えば検体がヒトの場合、植物の遺伝子を用いるとよい。例えば、ウミシイタケのルシフェラーゼ遺伝子などが、ECの核酸として設定可能な遺伝子として挙げられる。
【0032】
また例えば、ターゲット生体関連物質がタンパク質である場合、コントロールとしてタンパク質等を設定することができ、このコントロールは、プローブ領域との非特異的な結合を起こさないことが必要である。
ICとして設定可能なタンパク質として、上記に例示したハウスキーピング遺伝子から産生される各種タンパク質が例示される。試料中に含まれている、これら以外のタンパク質をICとすることも可能である。また、ECとして設定可能なタンパク質として、上記に例示したECの核酸から産生されたタンパク質、例えばウミシイタケのルシフェラーゼが例示される。
【0033】
以上に述べたようなICやECを用いたコントロール補正は、DNAアレイ、タンパクアレイ、抗体アレイ等のいずれにおいても望まれており、チップ間やサンプル間での比較を行う場合には、本発明を適用してコントロール補正を行うことは特に有効である。
【0034】
なお、本発明のプローブにおいて、上述のようにターゲットプローブ領域およびコントロールプローブ領域を設ける形態において、プローブあたりターゲットプローブ領域、ICに特異的なインターナルコントロールプローブ領域、およびECに特異的なエクスターナルコントロールプローブ領域を含ませることができる。この3種のプローブ領域のプローブにおける比率が既知であることにより、IC、EC両方のコントロール生体関連物質を用い、さらに正確な補正を行うことが可能となる。また、補正に適切であると考えられる一方のコントロールに対応する信号だけを選択して、ターゲット生体関連物質の検出結果を補正することも可能となる。
この形態のプローブを用いた検出を行うときには、ECにICおよびターゲットとは別の標識(FRETを起こさせる蛍光物質の組み合わせ以外で検出可能な標識)をしておけばよい。
【0035】
本発明のプローブにおいては、前記生体関連物質は核酸であり、前記コントロール生体関連物質は、前記試料において発現量が実質的に一定である核酸及び/又は前記試料に含まれ得ない核酸であることが好ましい。
すなわち、本発明のプローブにおいて、上述のようにターゲットプローブ領域およびコントロールプローブ領域を設けた形態は、検出しようとする生体関連物質が核酸の場合に、従来のプローブあるいはプローブスポットに対して特に優位なものとなる。この場合、ICに特異的なコントロールプローブ領域(「ICプローブ領域」という場合がある)またはECに特異的なコントロールプローブ領域(「ECプローブ領域」という場合がある)を設けることは勿論可能であるし、さらに、ICプローブ領域およびECプローブ領域の双方を設けることもできる。
このような形態のプローブを用いて、核酸の発現量のコントロール補正を行うには、例えば、プローブの固相化されたプローブスポットごとに、コントロール核酸の発現量と検出対象核酸の発現量との比を取得して補正を行う。
【0036】
本発明において、上述のように生体関連物質が核酸であり、ICプローブ領域を設ける場合は、なるべくICのハイブリダイゼーション反応の条件を揃えることが望ましい。したがってアクセプターとして機能しうる第一蛍光物質が、ICプローブ領域に結合されていることが好ましく、より正確な結果が得られる。これは、プローブスポット間のみならず、試料や装置間の誤差を正確に補正可能とできるためである。
本発明において、上述のように生体関連物質が核酸であり、ECプローブ領域を設ける場合は、ECプローブ領域を、プローブが担体に固相化される際に、プローブ内で該担体表面に近い側に位置するよう設計することが好ましい。ECの核酸を用いてターゲット核酸の検出結果を補正する場合、前記試料とECとをそれぞれプローブと接触させる方法で解析を実施できるが、特にECを試料より先にプローブと接触させる場合は、先の反応でECプローブ領域と結合したECの核酸が、ターゲット核酸とターゲットプローブ領域との反応を、立体障害等の物理的、あるいは化学的に阻害する可能性を避けるためである。
【0037】
本発明のプローブにおいては、各プローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、該プローブ領域は1以上のリンカー部の同一位置または異なる位置に結合しており、当該プローブは核酸2本鎖領域を有さないことが好ましい。
これは例えば、各プローブ領域が各々1本鎖核酸からなる生体関連物質検出用プローブであって、該核酸の5´末端及び/又は3´末端と結合したリンカー部(以下、「リンカー」という場合がある)をさらに有し、かつ核酸2本鎖領域を有さず、該リンカー部は、核酸の5´末端及び/又は3´末端と直接又は間接的に反応可能なリンカー物質に由来しているプローブとして実施できる。
このようにプローブ領域およびリンカー部を有し、核酸2本鎖領域を有さないプローブは、特に、検出しようとする生体関連物質が核酸である場合に、存在量比較の正確性向上に加えて、プローブ自体のコスト抑制の点で従来になく有利な効果を有する。
従来の、主幹鎖核酸への核酸のハイブリダイゼーションを利用して作製されていた樹状プローブは、上述のとおり設計の際に制限が多く、コスト高であった。
これに対し、リンカー物質に由来したリンカー部を有するこの形態のプローブを生産するには、以下に例示するような方法を採ることができるため、プローブ領域の比率が既知のプローブを、信頼性を良好としつつ生産コストを低減して得ることができる。
【0038】
例えば、まず、プローブ領域を成す1本鎖核酸(プローブ用核酸断片)を複数種類、プローブ領域の種類ごとに準備する。また、核酸の5´末端及び/又は3´末端と、直接又は間接的に反応可能なリンカー物質を準備する。
具体的には、核酸の5´末端及び/又は3´末端と直接反応可能な物質や、予め一端又は両端に官能基を付加されたプローブ用核酸断片の当該官能基と反応する官能基を有する物質を、リンカー物質として例示することができる。さらに、プローブ用核酸断片に付加された官能基と反応する化合物を準備し、この化合物と反応する官能基を有する物質を、リンカー物質として用いてもよい。また、リンカー物質における官能基の位置は制限されず、適宜選択すればよい。
ついで、これらのプローブ用核酸断片とリンカー物質を、所望の順序で混合する。
このことにより、各種プローブ用核酸断片の一端または両端と結合したリンカー部を有するプローブが得られる。
このとき、リンカー物質の種類(例えば、官能基の種類、官能基の位置等)、プローブ用核酸断片の種類、及び、リンカー物質と複数のプローブ用核酸断片を混合する順序を制御することで、種々の形態のプローブを得ることが可能である。
【0039】
上記リンカー物質の形状はとくに制限されず、例えば、鎖状分子、分岐部を有する分子等を利用することができる。
リンカー物質の有する官能基の種類は、プローブ用核酸断片の端部または該端部に付加された官能基との組み合わせ等を鑑みて適宜選択される。リンカー物質として好ましいものは、例えば、分子の末端にNHSエステル、マレイミド基、カルボジイミド、ピリジルジチオ基、ヒドラジド基、スルフォNHSエステル、フェニルジアゾ、ビオチン等の反応物質を有している架橋試薬である。利用可能なリンカー物質の例として、リジン、N‐ヒドロキシサクシンイミド、ビス[2‐(サクシンイミドオキシカルボニルオキシエチル)]スルフォン、N‐(3‐マレイミドプロピオニルオキシ)サクシンイミド、カルボジイミド等の架橋剤として知られている物質や、ペプチド等が挙げられる。
たとえばリンカー物質としてリジンを用いる場合、予め、複数のプローブ用核酸断片に、アビジンとカルボン酸とをそれぞれ付加させておく。リジンとビオチン化スクシンイミドとを反応させた後、アビジンの付加された1のプローブ用核酸断片と反応させる。さらに、リジンとカルボジイミドとを反応させた後、カルボン酸の付加された1のプローブ用核酸断片と反応させる。このことで、分岐状のプローブを作製することができる。これは、リジンがアミノ基を2つ、カルボン酸を1つ有していることによる。
【0040】
例えば、1のプローブに、2つの遺伝子型を検出する2種のプローブ領域を有するプローブを製造する場合は、2官能性のリンカー物質を用いるとよい。
予め、一方の遺伝子型を検出するためのプローブ用DNA断片の末端に官能基を付加し、他方の遺伝子型を検出するためのプローブ用DNA断片の末端に別の官能基を付加しておく。これと、上記のプローブ用DNA断片にそれぞれ付加された各官能基と反応する官能基を有したリンカーを混合すると、所望の遺伝子型を検出する複数種の塩基配列を有するプローブを製造することが可能となる。
リンカー物質は両端に官能基を有する構造のものが、より入手しやすいので、分岐していないプローブは、特に製造が容易である。
【0041】
本発明のプローブは、上記に例示したとおり、例えばリンカー物質と各種プローブ用核酸断片とを混合するのみで得ることができるので、容易に製造可能である。また、プローブ用核酸断片を、順番にリンカー物質でつなげていくだけなので非特異的な結合の心配がなく、正確で効率が良い。
また、各種プローブ用核酸断片をリンカー物質でつなげるだけで、各種プローブ領域をプローブ分子中に共存させられるので、各種類のプローブ領域の塩基配列のみを設計すればよく、設計自体が従来よりも非常に簡単で、設計時の時間や手間が短縮できる。さらに、いったん調製した各種類のプローブ用核酸断片を、別のプローブの組み合わせに使用することも可能であるため経済的である。
【0042】
上述の、プローブ領域およびリンカー部を有し、核酸2本鎖領域を有さないプローブにおいて、1のプローブに、ターゲット核酸に対して特異的なターゲットプローブ領域、ICの核酸に対して特異的なICプローブ領域、およびECの核酸に対して特異的なECプローブ領域を含ませることが、もちろん可能である。このようなプローブの作製に際して、上記に例示した方法において、ターゲットプローブ用核酸断片、ICプローブ用核酸断片、ECプローブ用核酸断片を1:1:1の物質量比で準備し、リンカー物質と順次混合すれば、これら3つに対応するプローブ領域の量比が、プローブあたり必ず1:1:1となる。したがって、ICとECという両方のコントロールを用いて更に正確な補正を行うことが可能となる。また、補正に適切であると考えられる一方のコントロールに対応する信号だけを選択して、ターゲット生体関連物質の検出結果を補正することも、もちろん可能となる。このときに、プローブや試料の高次構造を考慮してプローブを設計することによって、プローブ中に複数あるプローブ領域のキャプチャー効率を、同程度とすることも可能である。
このように、本発明のプローブは、ターゲットプローブ領域、ICプローブ領域、ECプローブ領域をプローブあたり1:1:1の比率で有する形態において、核酸の検出を図る検出に対して、特に顕著な効果を発揮する。
【0043】
本発明のプローブにおいては、前記複数のプローブ領域のうち少なくとも1が、当該プローブあたり2箇所以上に設けられていることが好ましい。
このようなプローブは、2箇所以上に設けられた当該プローブ領域に対応する生体関連物質の検出において増感を可能とするものとなる。例えば、このプローブを担体に固相化して作製したプローブスポットにおいて、当該ターゲット生体関連物質の検出を行うと、プローブスポットから検出される蛍光強度値が複数倍に向上する。これは、1プローブがターゲット生体関連物質を特異的に結合して試料を捕捉する能力が向上するためと推定される。
ここで、当該プローブスポット対応の蛍光強度値は、1(種類)のプローブ領域の、プローブあたり存在数に比例して増加することから、増感の程度を容易に制御することができる。しかも、核酸の検出を図る場合の本発明のプローブの生産においては、上記例示の、プローブ用核酸断片とリンカー物質とを順次混合する方法を採ることが可能であり、この方法を採用して、プローブ領域のリンカーへの結合回数を制御することができる。したがって、所定の程度に増感を可能ならしめるプローブを提供することが容易に行える。さらにプローブ自体を低コストに生産できる点で、従来になく有利な効果を奏する。
このような、あるプローブ領域が2箇所以上に設けられているプローブは、ターゲット生体関連物質が核酸からなるターゲット遺伝子の場合であって、かつ、このターゲット遺伝子と特異的に結合して捕捉するのに適したプローブ塩基配列が既知の場合に特に好ましい。
【0044】
本発明のプローブにおいては、複数のプローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、前記担体に固相化される側に3´末端が位置している第一プローブ領域と、該第一プローブ領域と同一の塩基配列を有し、かつ該固相化される側に5´末端が位置している第二プローブ領域とを有することが好ましい。
核酸の検出を図る場合、核酸とプローブ領域とのハイブリダイズ反応の効率は、プローブ領域の塩基配列が実質的に同一でも、プローブが担体に固相化された際に、プローブ領域のどちらの末端が担体側に位置するかによって異なる場合がある。また、ハイブリダイズ反応の効率は、ターゲット核酸を断片化するときの長さ、部位にも影響されることから、プローブ領域のいずれの末端をプローブ中でどの方向で位置させるべきかを、プローブ設計の時点で予測することは困難な場合がある。このような場合に、ハイブリダイズ反応効率が低くなるような方向で核酸プローブ領域を固相化して検出を行うと、強度の小さい信号しか得られなくなる場合がある。
これに対し、本発明のこの態様によれば、核酸プローブ領域の担体との位置関係によってプローブ領域と核酸とのハイブリダイズ反応効率が異なる場合であっても、プローブ全体におけるハイブリダイズ反応効率を平均化でき、安定して信号を得ることができる。
【0045】
本発明のプローブが、前記第一プローブ領域および前記第二プローブ領域を有する場合において、該第一プローブ領域と該第二プローブ領域の比率は制限されずに、ハイブリッド反応効率を平均化することができる。さらに、第一プローブ領域と第二プローブ領域とが、プローブ内で略1対1の比率で設けられていることがさらに好ましい。これは、ターゲット核酸の検出において、プローブ領域の方向によるハイブリダイズ反応効率のばらつきが解析結果に影響する可能性を、最小とするためにもっとも有利なためである。
核酸プローブ領域の末端で、担体に固相化される側を制御するには、例えば、リンカー物質の所定の一端に、担体へのプローブ固相化に関与する官能基を設け、他端に、上記例示のプローブ用核酸断片の末端に結合された官能基と反応する官能基を設けておく。さらに、プローブ用核酸断片の3´末端または5´末端に選択的に、リンカー物質との反応に関与する官能基を結合させておく。その後、リンカー物質とプローブ用核酸断片を混合すればよい。
【0046】
<生体関連物質検出用固相化担体>
本発明の生体関連物質検出用固相化担体は、上記本発明の生体関連物質検出用プローブが担体に固相化されていることを特徴とする。
「生体関連物質検出用プローブ」の項で上述したとおり、本発明のプローブを担体に固相化した後に、試料との反応に供することが可能である。プローブが担体に固相化されている生体関連物質検出用固相化担体を用いれば、試料中の生体関連物質検出を、少ない工程数で簡便に行うことができる。なお、以下、担体のうち所定のプローブの固相化された領域をプローブスポット(スポット)と称する。
【0047】
<生体関連物質検出方法>
本発明の生体関連物質検出方法(以下、「検出方法」という)は、上記本発明のプローブを用いて、生体関連物質を含む試料中の複数の生体関連物質を検出する方法であって、
前記試料中の生体関連物質に、前記第一蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する第一ステップ、
前記プローブを担体に固相化する第二ステップ、
該標識試料と前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と生体関連物質との特異的結合反応を行い、該プローブ及び複数の生体関連物質からなる複合体を形成させる第三ステップ、
前記複合体に、前記第二蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第四ステップ、
並びに、前記第二蛍光物質の発光信号、及び、該第一及び第二蛍光物質の間の蛍光共鳴エネルギー転移に特異的な波長の発光信号を検出する第五ステップ、
を有することを特徴とする。
本発明の方法で検出を図る生体関連物質は、上記「生体関連物質検出用プローブ」における生体関連物質の例示と同様である。
【0048】
(第一ステップ)
本発明の検出方法では、第一ステップとして、前記試料中の生体関連物質に、前記第一蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する。
この第二蛍光物質は、第一蛍光物質との組み合わせで適宜選択される。このとき、第二蛍光物質は、第一蛍光物質との間のFRETにおいて、ドナーとして機能する物質であっても、アクセプターとして機能する物質であっても構わない。すなわち、第一蛍光物質および第二蛍光物質の一方がFRETのドナー、他方がアクセプターとして機能し得ればよく、検出対象や検出目的により適宜設定することができる。
使用することができるドナーとアクセプターの組み合わせは、ドナーの蛍光波長とアクセプターの吸光波長に重なりがあれば、特に制限されない。また、ドナー、アクセプターとして機能し得る物質の材質も特に制限されず、種々の蛍光色素、ガラス、セラミックスの粒子等を使用することが可能である。
用いることのできる蛍光色素の組み合わせは、励起波長が490nm付近の蛍光色素(例えば、FITC、ローダミングリーン、Alexa(登録商標)fluor 488、Body P FL等)と励起波長が540nm付近の蛍光色素(例えば、TAMRA、テトラメチルローダミン、Cy3)、または、励起波長が540nm付近の蛍光色素と励起波長が630nm付近の蛍光色素(例えば、Cy5等)の組み合わせが好ましい。
ドナー、アクセプターとして機能し得るガラス、セラミックスの例としては、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ディスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム等の希土類元素を含有したガラス粒子や、シリコン、InP、GaN、CdTe、ZnS等の半導体ナノ粒子が挙げられる。これらは、光を照射することにより、元素、または、化合物に特有な波長の蛍光を発光する。公知の表面処理を行うことにより、プローブや検出対象の生体関連物質と結合させることができる。
【0049】
(第二ステップ)
第二ステップとして、前記プローブを担体に固相化する。
使用可能な担体としては、上記「生体関連物質検出用プローブ」で示したのと同様のものが例示される。
第二ステップは、第一ステップの後、かつ第四ステップの前であればよく、例えば第三ステップより前でも後でもよい。
【0050】
(第三ステップ)
第三ステップとして、第一ステップで作製された標識試料と、前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と生体関連物質との特異的結合反応を行い、該プローブ及び複数の生体関連物質からなる複合体を形成させる。
この複合体においては、第二蛍光物質が結合された複数の生体関連物質が、これらと各々特異的に結合可能なプローブ領域に、それぞれ特異的に結合した結合領域が、複数形成されている。
これら複数の結合領域のうち少なくとも1は、第一蛍光物質の結合されたプローブ領域と、これに特異的に結合した、第二蛍光物質の結合された生体関連物質とからなる。かつ、結合領域のうち少なくとも1は、第一蛍光物質の結合されていないプローブ領域と、これに特異的に結合した、第二蛍光物質の結合された生体関連物質とからなる。
【0051】
本発明の検出方法において、前記第二蛍光物質がFRETのドナーとして機能する場合は、第四ステップおよび第五ステップを行う。
(第四、第五ステップ)
第四ステップとして、前記複合体に、前記第二蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する。
このことにより、複合体のうち、第一蛍光物質の結合されていないプローブ領域と、第二蛍光物質の結合された生体関連物質とからなる結合領域においては、第二蛍光物質が発光する。一方、第一蛍光物質の結合されたプローブ領域と、第二蛍光物質の結合された生体関連物質とからなる領域では、第一蛍光物質と第二蛍光物質の間のFRETの結果、第一蛍光物質の発光が起こる。
第五ステップとして、前記第二蛍光物質の発光信号、及び、該第一及び第二蛍光物質の間の蛍光共鳴エネルギー転移に特異的な波長の発光信号を検出すると、これらの順に各々対応して、第一蛍光物質の結合されていないプローブ領域に特異的な生体関連物質の存在量に対応する信号強度と、第一蛍光物質の結合されたプローブ領域に特異的な生体関連物質の存在量に対応する信号強度とが得られる。これらの信号強度の比は、各生体関連物質の存在量比に正確に対応した値となっている。
【0052】
(第六ステップ)
本発明の検出方法において、前記第二蛍光物質がFRETのアクセプターとして機能する場合は、前記第三ステップより後かつ前記第五ステップより前に、前記複合体に、前記第一蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第六ステップをさらに行い、前記第二蛍光物質固有の発光波長の発光信号を検出する。
すなわち、第五ステップにおいて、前記第二蛍光物質固有の発光信号、及び、蛍光共鳴エネルギー転移による波長の発光信号をそれぞれ検出する。一般にFRETのアクセプターとして使用される物質は、物質固有の発光波長と、FRETによって発生する発光波長とが異なることを利用して、この態様が可能である。
【0053】
このように、本発明の検出方法によれば、複数の生体関連物質を、同一プローブスポット内で定量的に検出することができる。
なお本発明の検出方法においては、前記第三ステップと前記第四ステップとの間に、複合体を形成していない生体関連物質を除去するステップをさらに行うことが好ましい。
さらに、プローブ領域のうち少なくとも1をコントロール生体関連物質とすれば、従来になく正確なコントロール補正を行い、さらに信頼度の高い検出結果を得ることができる。
【0054】
(検出方法実施態様)
以下、本発明の検出方法の一実施態様を例示する。
この例は、生体関連物質として、生物検体中の核酸の検出を図る例であり、プローブが、ターゲット核酸に特異的に結合可能なプローブ領域Aと、コントロール核酸に特異的に結合可能なプローブ領域Bとを、1:1の比率で含み、プローブ領域Bに、他の蛍光物質との間でFRETを生じるアクセプターが結合されており、かつ、プローブ領域Aに、該第一蛍光物質が結合されていない例である。
まず、図1(a)に示すように、このプローブが担体に固相化されたプローブスポットを作製する。
【0055】
次に、核酸を含む試料を準備し、この試料に対して、上記アクセプターとの間でFRETを生じるドナーを核酸に結合させてドナー標識核酸とする処理を行い、ドナー標識試料を作製する。このドナー標識試料をプローブスポットに供給する。
ドナー標識試料中に、ターゲット核酸が含まれると、図1(b)に示すように、そのターゲット核酸とプローブ領域Aとがハイブリダイズ反応して特異的な結合領域を形成する。同様に、コントロール核酸が含まれると、図1(b)に示すように、そのコントロール核酸とプローブ領域Bとがハイブリダイズ反応して特異的な結合領域を形成する。
その後、洗浄操作を行う。すると、図1(c)に示すように、ドナー標識核酸のうち結合領域を形成しなかったものが除去され、プローブ、プローブ領域Aに結合したターゲット核酸、およびプローブ領域Bに結合したコントロール核酸からなる複合体が、プローブスポットに保持された状態となる。
そして、ドナーの蛍光標識を励起することができる光を、順次、または、同時に照射し、ドナーとアクセプターの間で起こったFRETによるアクセプターの蛍光とアクセプター固有の蛍光を検出する。
【0056】
本態様では、FRETの発生に由来する、アクセプターの発光波長における蛍光強度が、コントロール核酸の発現量に対応する。また、ドナーの発光波長における蛍光強度が、ターゲット核酸の発現量に対応する。これらの蛍光強度の比を算出することで、ターゲット核酸の発現量値について、正確なコントロール補正を行うことができる。
上述の「生体関連物質検出用プローブ」で述べたとおり、従来のコントロール補正では、補正後の結果は必ずしも一定しなかったのに対し、このように本発明のプローブあるいは検出方法を適用すると、たとえ理想的な検出器を用いなくても、補正後の結果は、各スポット間におけるプローブ固相化量等の差異に影響を受けることなく、より正確なものとなり、解析結果の信頼度が上がる。
【0057】
なお、コントロール核酸を、特にエクスターナルコントロール(EC)とした場合、すなわち、プローブにおいて、さらにプローブ領域Bを、ECに特異的な領域とした場合は、以下の方式を採用することが好ましい。
まず、プローブと、蛍光物質を標識したEC核酸をハイブリダイゼーションさせる(第一回目のハイブリダイゼーション)。
次に、ハイブリダイゼーションが起こらなかった過剰のEC核酸を除去するために、緩衝液等で洗浄を行う。
その後、EC核酸の標識からの信号を取得する。EC核酸はプローブ上のプローブ領域Bの部分にのみハイブリダイズするため、ここで取得する信号は、すなわちプローブの固相化量を反映し、異なる試料間でターゲット核酸のデータを比較する際の補正を行う基準データとすることができる。
次の反応では、EC核酸の標識とは異なった標識を行なった核酸含有試料をハイブリダイゼーション反応に供し(第二回目のハイブリダイゼーション)、その後、第一回目のハイブリダイゼーションと同様に緩衝液等で洗浄をい、標識からの信号を取得する。
【0058】
このように、コントロール核酸の蛍光信号を取得した後に洗浄し、その後に目的の試料をプローブとのハイブリダイゼーションに供して、試料の蛍光信号を取得することにより、コントロール及びターゲットの核酸をそれぞれ別々に検出する方式が可能である。
したがって、ハイブリダイズ時間、温度、バッファーの組成等、それぞれ最適な条件で反応させることが可能となる。さらに、コントロール核酸とターゲット核酸の間での相互作用や、非特異的な反応が回避でき、より精度の高い解析を行うことができる。
また、検出時に、ドナーとアクセプターの蛍光標識を励起することができる光を、順次、または、同時に照射して、ドナーとアクセプターの間で起こったFRETによるアクセプターの蛍光とアクセプター固有の蛍光を検出することも可能である。アクセプター固有の蛍光の強度により、プローブの固相化量を見積もることができる。プローブにドナーを結合し、試料中の生体高分子にアクセプターを結合した場合は、ドナーとアクセプターの間で起こったFRETによるアクセプターの蛍光強度が、コントロール核酸の発現量に対応し、アクセプター固有の蛍光強度は、コントロール核酸の発現量とターゲット核酸の発現量の合計に対応するので、この値からコントロール核酸の発現量を差し引いて、ターゲット核酸の発現量を見積もることができる。
【0059】
以上本発明の生体関連物質検出用プローブおよびこれを用いた生体関連物質検出方法は、例えば、種々の形態の基板にプローブを固相化したマイクロアレイを用いた生体関連物質の解析等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
・実験例1
〈試料溶液の調製〉
ヒト前立腺癌細胞株 LNCap由来のtotal RNA25μgを用意し、これらを鋳型としてoligo dT primerを用いて逆転写法によって、FITC標識1本鎖cDNAを作製した。このFITC標識されたcDNAを滅菌蒸留水37.5μlに溶解させて標識cDNA溶液とし、95℃で5分間加熱して変性させ、その後、氷水中で急冷した。この標識cDNA溶液に、20×SSPE溶液(pH.6.6)を12.5μl加えて(最終塩濃度5×SSPE溶液)、FITC標識試料溶液とした。
【0061】
〈DNAプローブの作製・固相化〉
解析しようとする生体関連物質(ターゲット)たる遺伝子として、LNCapにおいて特異的に発現が上昇すると予測される遺伝子1個(「KLK−3」)を選択した。インターナルコントロール(IC)として用いる遺伝子として、代表的なハウスキーピング遺伝子であるβ−Actinを選択した。
【0062】
ターゲット及びICそれぞれのcDNA配列に特異的な塩基配列に基づいて、60merのDNAプローブ断片を、ターゲット用プローブ断片及びIC用プローブ断片として各々設計し合成した。そして、ターゲット用プローブ断片、IC用プローブ断片を、それぞれ緩衝液に溶解しターゲット用プローブ断片溶液及びIC用プローブ断片溶液を作製した。
アルミニウムの陽極酸化膜基板に、ターゲット用プローブ断片溶液及びIC用プローブ断片溶液を付着させ、IC用プローブ断片を1スポットと、ターゲット(検出対象遺伝子「KLK−3」)用プローブ断片を5スポット、基板にそれぞれ別個に固相化した三次元マイクロアレイを作製した(チップ「1」として図3に示す。)。チップ「1」において、IC用プローブ断片のスポットをスポットNo.6とし、ターゲット用プローブ断片のスポットをスポットNo.1〜5とした。
【0063】
上記と同様に合成したIC(すなわちβ−Actin)用プローブ断片にテトラメチルローダミン標識してIC用標識プローブ断片とし、さらにアミノ基を付加したものを、緩衝液に溶解して、IC用標識プローブ断片溶液を作製した。
N−ヒドロキシスクシンイミドからなるリンカーの溶液(N−ヒドロキシスクシンイミド溶液)を準備した。
IC用標識プローブ断片溶液とN−ヒドロキシスクシンイミド溶液を混合して、IC用標識プローブ断片と、N−ヒドロキシスクシンイミドとを反応させた。ここに、ターゲット(すなわちKLK−3)用プローブ断片にアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解したターゲット用プローブ断片溶液を加えて混合した。このことにより、IC用標識プローブ領域とターゲット用プローブ領域が、リンカーを介して直列につながれたプローブ1(図2に示す)を作製した。
このプローブ1を基板に5スポット、チップ「1」と同様に固相化して、三次元マイクロアレイを作製した(チップ「2」として図3に示す。)。
【0064】
〈試料のハイブリダイゼーション〉
以下1)および2)の操作を、上記で作製したチップ「1」及びチップ「2」について、それぞれ行った。なお、ハイブリダイゼーションの分析は、基板に設けられた反応フィルターの周りの溶液駆動および温度制御を自動的に行なうことができる装置を用いて行った。
1)FITC標識試料溶液をチップ(3次元マイクロアレイ)表面に供給し、150回液体駆動させ、試料中の核酸とプローブとのハイブリッド体形成を行った。なお、このときの反応温度を50℃に設定した。反応終了後、試料溶液を除去し、6×SSPE溶液50μlを加え、液体駆動を行なう工程を3回繰り返して、ハイブリッド体を形成していない標識核酸の洗浄・除去を行なった。
2)洗浄終了後、蛍光顕微鏡に搭載したCCDカメラを用い、U−MWIBA2ミラーユニット(オリンパス社製)とU−MWIG2ミラーユニット(オリンパス社製)を使用して蛍光画像を取得した。このとき、励起光としてそれぞれ、460〜490nm、520〜550nmの波長の光をマイクロアレイに照射し、各プローブスポットに対応するFITC及びテトラメチルローダミンの蛍光強度をそれぞれ測定した。
【0065】
その結果、「1」のチップのスポットNo.1〜6では、FITCのみの蛍光が観察された。
「2」のチップのスポットNo.1〜5では、FITCの蛍光およびテトラメチルローダミンの蛍光が観察された。「2」のチップにおけるFITCの蛍光は、ターゲット用プローブ領域とハイブリダイズしたFITC標識試料に由来する蛍光である。テトラメチルローダミンの蛍光は、IC用標識プローブ領域と、試料中に含まれていたβ−Actin遺伝子とのハイブリダイゼーションが起こり、試料に標識されていたFITCからIC用プローブ領域に標識されていたテトラメチルローダミンへのFRETが起こったことによる蛍光である。
【0066】
「1」と「2」のチップのハイブリダイゼーション画像解析結果を図4に示す。
図4において、発現比(Y軸)は、プローブと試料中IC物質とのハイブリダイゼーションに対応する蛍光強度値を1とした、プローブと試料中KLK−3遺伝子とのハイブリダイゼーションに対応する蛍光強度の補正値である。
チップ「1」では、スポットNo.6(IC用プローブスポット)のFITC蛍光強度値に対して、全てのKLK−3用スポット(スポットNo.1〜5)のFITC蛍光強度値をそれぞれ補正した値である。チップ「2」では、それぞれのスポット毎に、スポットにおけるテトラメチルローダミンの蛍光強度値を基準として、同スポットのFITC蛍光強度値を補正した値である。
本実験では、どのスポットにおいても測定値は同じになると予想された。しかし、チップ「1」のように、ターゲット用のスポットと別のIC用スポットを用いて、試料中ターゲット遺伝子に対応する信号を規格化した場合は、データにばらつきが見られた。これは、各スポットの固相化量や固相化密度に違いがあるので、ハイブリダイズした量がスポットにより異なってしまうためと、照明が必ずしも均一でないことが原因であると考えられる。チップ「2」では、データにばらつきは見られず、チップ「1」のスポット間で見られた発現比率データ(補正後)のばらつきが改善された。
【0067】
このように、同一のプローブにターゲット用プローブ領域およびIC用プローブ領域が配されたプローブ1を用いたチップ「2」によれば、コントロールを用いた規格化を行うことにより、試料に含まれるターゲットの正確な発現量を検出することが可能であることが示された。
【0068】
・実験例2
〈試料溶液の調製〉
実験例1と同様にFITC標識試料溶液を調製した。
〈DNAプローブの作製・固相化〉
実験例1と同様のIC(β−Actin)用プローブ断片と、ターゲット(KLK−3)用プローブ断片とを、実験例1と同様にリンカーを介して結合させ、IC用プローブ領域およびターゲット用プローブ領域が1箇所ずつ、リンカーを介して直列に結合されたプローブ1を作製した(図2参照。)。
別途、実験例1と同様にプローブ1を作製したところに、N−ヒドロキシスクシンイミドからなるリンカーを反応させ、さらに、ターゲット(KLK−3)用のDNAプローブ断片の両端にアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解した溶液を加えて混合した。このことにより、1つのIC用プローブ領域と、塩基配列の互いに同一な2つのターゲット用プローブ領域が、これらの順でリンカーを介して直列に結合されたプローブ2を作製した(図5参照)。
【0069】
実験例1と同様の基板に、プローブ1およびプローブ2を、それぞれ3スポットずつ固相化して三次元マイクロアレイを作製した(チップ「3」として図6に示す。)。このとき、プローブ1、2のいずれも、IC用プローブ領域を基板側にして、リンカーを介して基板に固相化した。
【0070】
〈試料のハイブリダイゼーション〉
実験例1と同様に、試料溶液をハイブリダイゼーション反応に供した。上記のチップ「3」を用いたハイブリダイゼーション画像解析結果を図7に示す。
発現比(Y軸)は、それぞれのスポット毎に、それぞれのスポット毎に、スポットにおけるテトラメチルローダミンの蛍光強度値を1として、同スポットのFITC蛍光強度値を補正した値である。
図7から明らかなように、プローブ1を固相化した場合と、プローブ2を固相化した場合のいずれにおいても、ばらつきの解消された解析結果を得ることができた。さらに、ターゲット用プローブ領域を1箇所設けたプローブ1に対し、ターゲット用プローブ領域を2箇所設けたプローブ2は、ターゲットの存在量に対応する蛍光強度値(補正後)が約2倍であった。これは、一つのプローブにターゲット用プローブ領域が複数箇所(この場合は2箇所)設けられていることにより、プローブのターゲット捕捉能力が向上したためであると推測された。
本実験例のプローブ2では、3箇所のプローブ領域のうち2番目に位置するターゲット用プローブ領域について、その5´末端、3´末端のいずれがIC用プローブ領域側に位置するかはランダムとなる。このことにより、ターゲット用プローブ領域と試料とのハイブリダイゼーション効率を平均化することができるので好ましい。
【0071】
・実験例3
〈DNAプローブの作製・固相化〉
図8に示したようなY字型のプローブ3を作製し、実験例1と同様の基板に固相化した。図8において、リンカーは、1つの幹部(I字型部)および該幹部上の1つの分岐点から分岐した2つの分岐鎖を有するY字型リンカーである。プローブ3においては、Y字型リンカーの分岐鎖の双方に、実験例1と同様のターゲット用プローブ領域が一つずつ結合されている。また、幹部のうち上記分岐点と反対の端部(I端)に、テトラメチルローダミン標識されたIC用プローブ領域が一つ結合されている。
【0072】
プローブ3の作製手順は以下の通りとした。
まず、リジンを準備した。リジンは分子中にアミノ基を2つ、カルボン酸を1つ官能基として有している。このリジンと、アミノ基に対し選択的に反応するビオチン化スクシンイミドとを混合して反応させ、Y字型リンカーを得た。これを、実験例1と同様のターゲット用プローブ断片にアビジンを付加したものと反応させた。
次に、カルボジイミドを添加してカルボン酸と反応させた。
さらに、テトラメチルローダミン標識したIC用プローブ断片にカルボン酸を付加したものを添加して反応させた。
【0073】
得られたプローブ3を、上記プローブ2に置き換えて実験を行ったところ、実験例2のうちプローブ2を用いた場合と同様の結果が得られた。
さらに、プローブ3において、2箇所のターゲット用プローブ領域を、互いに同じ塩基配列からなる核酸領域としても、互いに塩基置換の関係にある核酸領域としても、プローブ1よりも試料を捕捉する能力が上がる効果が認められた。
【0074】
以上の実験例においては、ドナーとなる蛍光物質をサンプルに標識し、アクセプターとなる蛍光物質をIC用プローブ領域に標識した例について説明した。アクセプターとなる蛍光物質をターゲット用プローブ領域に標識して検出を行うことも可能である。また、ドナーとアクセプターを入れ換えることも可能である。
また、実験例では、図2、5に示す鎖状のプローブや、図8に示す、コントロールプローブ領域及びターゲットプローブ領域を有するY字型プローブを説明したが、本発明のプローブとして、図9に示すような、Y字型リンカーの分岐部のそれぞれに1(種類)ずつのプローブ領域が結合されたプローブ4も可能である。この場合、リンカーのI字部が担体に固相化される。
また、実験例では、核酸を検出する場合を例にとって説明を行なったが、タンパクや抗原、抗体等、他の生体関連物質の検出に同様に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のプローブの一実施形態、およびこれを用いた生体関連物質検出方法の一実施形態を示す概念図である。
【図2】実験例1における、IC用とターゲット用の各DNAプローブ断片を、リンカーを介して直列に結合したプローブ1のプローブスポットの模式図である。
【図3】実験例1におけるプローブの配置(スポット‐プローブ種類対応)を示す平面図である。
【図4】実験例1におけるハイブリダイゼーション画像解析結果(補正後)を示すグラフである。
【図5】実験例2における、IC用プローブ断片1つと、ターゲット用プローブ断片2つとを、リンカーを介して直列に結合したプローブ2の模式図である。
【図6】実験例2におけるプローブの配置(スポット‐プローブ種類対応)を示す平面図である。
【図7】実験例2におけるハイブリダイゼーション画像解析結果(補正後)を示すグラフである。
【図8】実験例3のプローブ3を示す模式図である。
【図9】本発明のプローブの一態様であるプローブ4を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の複数の生体関連物質を検出するための、担体に固相化される生体関連物質検出用プローブであって、
互いに異種の生体関連物質と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1に、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されており、かつ、少なくとも1に、該第一蛍光物質が結合されていないことを特徴とする生体関連物質検出用プローブ。
【請求項2】
前記プローブ領域のうち少なくとも1が、ターゲット生体関連物質と特異的に結合可能なターゲットプローブ領域であり、かつ、少なくとも1が、コントロール生体関連物質と特異的に結合可能なコントロールプローブ領域であることを特徴とする請求項1に記載の生体関連物質検出用プローブ。
【請求項3】
前記生体関連物質は核酸であり、前記コントロール生体関連物質は、前記試料において発現量が実質的に一定である核酸及び/又は前記試料に含まれ得ない核酸であることを特徴とする請求項2に記載の生体関連物質検出用プローブ。
【請求項4】
各プローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、該プローブ領域は1以上のリンカー部の同一位置または異なる位置に結合しており、当該プローブは核酸2本鎖領域を有さないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体関連物質検出用プローブ。
【請求項5】
前記複数のプローブ領域のうち少なくとも1が、当該プローブあたり2箇所以上に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体関連物質検出用プローブ。
【請求項6】
前記プローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、前記担体に固相化される側に3´末端が位置している第一プローブ領域と、該第一プローブ領域と同一の塩基配列を有し、かつ該固相化される側に5´末端が位置している第二プローブ領域とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体関連物質検出用プローブ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の生体関連物質検出用プローブが担体に固相化されていることを特徴とする生体関連物質検出用固相化担体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のプローブを用いて、生体関連物質を含む試料中の複数の生体関連物質を検出する方法であって、
前記試料中の生体関連物質に、前記第一蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する第一ステップ、
前記プローブを担体に固相化する第二ステップ、
該標識試料と前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と生体関連物質との特異的結合反応を行い、該プローブ及び複数の生体関連物質からなる複合体を形成させる第三ステップ、
前記複合体に、前記第二蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第四ステップ、
並びに、前記第二蛍光物質の発光信号、及び、該第一及び第二蛍光物質の間の蛍光共鳴エネルギー転移に特異的な波長の発光信号を検出する第五ステップ、
を有することを特徴とする生体関連物質検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−29954(P2006−29954A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208661(P2004−208661)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】