説明

生体高分子分析チップ、分析支援装置及び生体高分子分析方法

【課題】感度の良好な生体高分子分析チップ、分析支援装置及び生体高分子分析方法を提供する。
【解決手段】表面に複数のウェル3が凹設された非磁性体基板2と、前記各ウェル3に収容されるとともに、特定の生体高分子62と結合するプローブ61を有する磁性体微粒子60とを備える生体高分子分析チップ1である。磁性体微粒子60を内部に収容するウェル3に生体高分子62を含むバッファ溶液64を入れ、非磁性体基板2の周囲の磁界を変動させることで磁性体微粒子60を動かしてウェル3内を攪拌し、特定の生体高分子62のプローブ61への結合確率を高めることができる。そして、非磁性体基板2の下方から磁石で磁性体微粒子60を引き寄せた状態で、生体高分子62を含まないバッファ溶液64でウェル3を洗浄し、プローブ61に結合しない生体高分子62を取り除くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子分析チップ、分析支援装置及び生体高分子分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な生物種の遺伝子の発現解析を行っている。遺伝子の発現解析とは、細胞で発現している遺伝子を同定することであり、具体的には、遺伝子をコードするDNAから転写されているmRNAを同定することである。
【0003】
遺伝子の発現解析のためにDNAマイクロアレイ及びその読取装置が開発されている。DNAマイクロアレイは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAをスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。ここで、既知の塩基配列のcDNAとしては、検体において既知のmRNAと同一、またはその一部と同一の塩基配列のcDNAが用いられる。DNAマイクロアレイ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0004】
まず、既知の塩基配列を有した複数種類のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAマイクロアレイを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて蛍光物質で標識したcDNA(以下、サンプルDNAという)を合成する。次に、サンプルDNAを蛍光物質で標識化してからDNAマイクロアレイ上に添加すると、サンプルDNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAマイクロアレイ上に固定される。サンプルDNAを標識する蛍光物質は励起されるとサンプルDNAが結合したプローブDNAの位置から蛍光を発することになる。
【0005】
次いで、DNAマイクロアレイを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、励起光の照射点をDNAマイクロアレイに対して二次元的に移動し、それと共に集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAマイクロアレイを二次元走査する。励起光により励起された蛍光物質から発した蛍光を集光レンズで集光させ、蛍光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAマイクロアレイの面内の蛍光強度分布を計測し、これにより、DNAマイクロアレイ上の蛍光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で蛍光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有したサンプルDNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって検体で発現しているmRNAを同定することができる。
【0006】
従来のDNAマイクロアレイにおいて、プローブDNAを固定担体上に形成するには、フォトリソグラフィにより核酸を1つずつ固定担体上に重合させ、プローブDNAとなるオリゴヌクレオチドを合成する方法がある。また、プローブDNAを含む溶液を、間隔を変更できる採取ピンによって固定担体上にスポッティングする方法もある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−131237号公報
【特許文献2】特開2001−99847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のDNAマイクロアレイでは、スライドガラス等の限られた平面上に多種のプローブDNAを形成するため、1スポット当たりのプローブDNA量に制約があった。このため、プローブDNAとハイブリダイズするサンプルDNA量にも制約が生じ、蛍光の輝度も制約されるので、高感度のフォトセンサーや高出力の励起光用光源が必要となり、装置が高価になるという問題があった。
【0008】
また、上記のDNAマイクロアレイでは、プローブDNAは固定担体上に平面的に配置されるため、サンプルDNAを含むバッファー溶液との接触が限られ、ハイブリダイズする効率が悪かった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとしてなされたものであり、感度の良好な生体高分子分析チップ、分析支援装置及び生体高分子分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、表面に複数のウェルが設けられた非磁性体基板と、前記各ウェルに収容されるとともに、特定の生体高分子と結合するプローブを有する磁性体微粒子と、を備えることを特徴とする生体高分子分析チップである。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、特定の生体高分子と結合するプローブを備える磁性体微粒子を内部に収容するウェルに、生体高分子を含むバッファーを入れ、非磁性体基板の周囲の磁界を変動させることで磁性体微粒子を動かしてウェル内を攪拌し、特定の生体高分子のプローブへの結合確率を高めることができる。そして、非磁性体基板の下方から磁石で磁性体微粒子を引き寄せた状態で、生体高分子を含まないバッファーでウェルを洗浄し、プローブに結合しない生体高分子を取り除くことができる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、
特定の生体高分子と結合するプローブを備える磁性体微粒子を、非磁性体基板の表面に設けられた各ウェルに収容し、
標識物質で標識された生体高分子サンプルを前記各ウェルに注入し、
前記非磁性体基板に磁界を形成した状態で前記非磁性体基板の各ウェルを洗い流し、
前記各ウェルに残った標識物質を検出することを特徴とする生体高分子分析方法である。
【0013】
ここで標識物質として化学発光物質や蛍光物質等を用い、これらの標識物質から放出される光を検出してもよい。請求項6に記載の発明によれば、特定の生体高分子と結合するプローブを備える磁性体微粒子を内部に収容するウェルに、生体高分子サンプルを入れ、非磁性体基板の下方から磁石で磁性体微粒子を引き寄せた状態でウェルを洗浄し、プローブに結合しない生体高分子を取り除くことができる。そして、ウェルに残った標識物質を検出することで、生体高分子サンプル内にプローブに結合した特定の生体高分子が含まれるか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定の生体高分子と結合するプローブを備える磁性体微粒子を内部に収容するウェルに、生体高分子を含むバッファーを入れ、磁石を移動させて非磁性体基板の周囲の磁界を変動させることで磁性体微粒子を動かしてウェル内を攪拌し、特定の生体高分子のプローブへの結合確率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
〔第1の実施の形態〕
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は本発明を適用した実施形態における生体高分子分析チップ1を示す平面図である。生体高分子分析チップ1は、複数のウェル3が形成された非磁性体基板2と、各ウェル3内に収容された磁性体微粒子60(図2等に図示)とから構成される。
【0017】
非磁性体基板2は光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するスライドガラス等の非磁性体からなり、石英ガラス等といったガラス基板、又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板を有している。非磁性体基板2の上面には、複数のウェル3が直径数百μm〜1mm程度の略半球状に凹設されている。これらウェル3が、非磁性体基板2の表面に沿って数百μm〜1mm間隔でマトリクス状に配列されている。なお、図では8×8のマトリクスを示しているが、ウェル3の配列はこれに限らない。
【0018】
図2はウェル3の1つを示す鉛直断面図である。各ウェル3には、バッファ溶液64が満たされており、バッファ溶液64中には、光透過性を有する磁性体微粒子60が入っている。各ウェル3の磁性体微粒子60は、1つ又は複数あり、バッファ溶液64内を漂っている。光透過性を有する磁性体微粒子60は、光透過性を有する基材に強磁性を示す元素をドープした複合材料などで実現されており、具体的には、マンガンドープ酸化亜鉛や、コバルトドープ酸化チタンや、ネオジム磁石(Nd2Fe14B)を用いた複合材料などがある。バッファ溶液64は、磁性体を含まない或いは極めて微弱な磁性体しか含んでいない。
【0019】
磁性体微粒子60の表面には、プローブとなる既知の塩基配列の複数のDNA分子(以下、プローブDNA61という)が放射状に付着されている。ここで、プローブDNA61としては、検体において既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。1つのウェル3内の磁性体微粒子60に付着されているプローブDNA61の塩基配列は全て同じであり、ウェル3ごとに異なる塩基配列のプローブDNA61が用いられている。プローブDNA61の磁性体微粒子60への固定は、プローブDNA61を含む溶液を磁性体微粒子60の表面に付着し、乾燥させることで行う。
【0020】
〔2〕分析支援装置
次に、生体高分子分析チップ1による撮像を支援する分析支援装置50について図3を用いて説明する。図3は、分析支援装置50を示す概略図である。分析支援装置50は、生体高分子分析チップ1と、生体高分子分析チップ1が着脱可能に水平にセッティングされる支持台5と、支持台5の下部に設けられた磁界形成台6と、励起光を発振するレーザー発振装置7と、蛍光を検出する検出装置8と、光学系と、を備える。
【0021】
支持台5には、プローブDNA61が相補的な塩基配列のDNAとハイブリダイゼーションする温度範囲や、プローブDNA61がハイブリダイゼーションできない温度範囲に適宜調整する温度調整装置が設けられている。
磁界形成台6には、非磁性体基板2のウェル3に対応する位置に永久磁石、又は電流を流すことで磁界を形成する電磁石が設けられている。磁界形成台6は、非磁性体基板2に磁界を形成するものであり、磁極を非磁性体基板2に対して水平方向に移動可能に設けられている。なお、非磁性体基板2を移動せずに支持台5のみを水平方向に移動可能とすることで磁極を非磁性体基板2に対して相対的に水平方向に移動可能としてもよいし、支持台5を移動せずに磁界形成台6のみを支持台5に対して水平方向に移動可能とすることで磁極を非磁性体基板2に対して相対的に水平方向に移動可能としてもよいし、非磁性体基板2及び支持台5をともに移動して、磁極を非磁性体基板2に対して相対的に水平方向に移動可能としてもよい。磁界形成台6は、各ウェル3に対応する位置に均等に磁界が形成されることが好ましく、各ウェル3の間隔毎に磁石がそれぞれ配置されていることが好ましい。磁界形成台6の各磁石が非磁性体基板2に対して水平方向に移動すると、各磁石の磁極がウェル3に対して水平方向に移動して磁性体微粒子60をウェル3内で水平方向に移動させることができる。また、磁界形成台6の磁力を変えることによって磁性体微粒子60をウェル3内で上下方向に移動させることができる。磁界形成台6の磁界を永久磁石で形成する場合、永久磁石の磁極を非磁性体基板2に近づけたり遠ざけることで磁力を調整でき、電磁石の場合、流れる電流を制御することによって磁力を調整することができる。このようにウェル3内の磁性体微粒子60を任意の方向に移動することが可能となる。
【0022】
光学系はダイクロイックミラー9aと、ミラー9bと、その他の図示しないレンズ等を備える。
ダイクロイックミラー9aは後述する蛍光物質63の励起光波長の励起光51を反射してウェル3に照射させるとともに、ウェル3内の蛍光物質63から放出された蛍光52を透過させる。ミラー9bはダイクロイックミラー9aを透過した蛍光52を反射して、検出装置8に入射させる。
光学系のレンズにおける励起光51及び蛍光52の光路は共焦点に構成されており、光学系を生体高分子分析チップに対し二次元走査可能とされている。
【0023】
次に、分析支援装置50を用いた分析方法について説明する。
【0024】
〔3〕試料の調整
作業者が検体からmRNAを採取して、逆転写酵素を用いてcDNAを作成し、必要に応じてPCR増幅を行い、蛍光物質63を付着又は結合させる。蛍光物質63は、分析支援装置50の励起光51により励起されるものであってその励起光51によって蛍光(但し、ダイクロイックミラー9aを透過する波長の光)52を発するものを選択するが、蛍光物質63としては、例えばCyDyeのCy2(アマシャム社製)等がある。得られたcDNAは、バッファー中に含まれている。以下、この蛍光物質63で標識されたcDNAをサンプルDNA62という。
【0025】
〔4〕分析方法
作業者が、サンプルDNA62を含有するバッファ溶液64を支持台5にセッティングされた生体高分子分析チップ1のウェル3が設けられた面に塗布する。このとき磁性体微粒子60は磁界形成台6の磁石の磁力によってウェル3の底に固定されているため、バッファ溶液64の塗布によってウェル3から流出することはない。
【0026】
次いで、生体高分子分析チップ1を加熱し、サンプルDNA62を一本鎖に変性する。その後、サンプルDNA62のハイブリダイゼーションを引き起こすために、生体高分子分析チップ1を所定の温度まで徐々に冷却する。このとき、磁界形成台6の磁極をウェル3に対して水平方向及び上下方向に移動させ、磁性体微粒子60をウェル3内の任意の位置に移動させることでウェル3内を攪拌し、互いに相補的なサンプルDNA62とプローブDNA61とがハイブリダイズする確率を高めることができる。
【0027】
生体高分子分析チップ1が、互いに相補的なサンプルDNA62とプローブDNA61とがハイブリダイゼーションを引き起こす温度範囲まで冷却する。この間も磁界形成台6の磁極をウェル3に対して水平方向及び上下方向に移動させてもよい。その後、サンプルDNA62を含まないバッファーで生体高分子分析チップ1のウェル3が設けられた面を洗い、プローブDNA61とハイブリダイズしなかったサンプルDNA62を流し去る。流し去るまでの間、ウェル3内の温度はハイブリダイゼーションを引き起こす温度範囲内に制御されている。このときも磁性体微粒子60は磁界形成台6の磁石によってウェル3の底に引き寄せられているため、バッファーによってウェル3から流出することはない。したがって、ハイブリダイゼーションを引き起こしたサンプルDNA62が固定された磁性体微粒子60があるウェル3には、蛍光物質63で標識されたサンプルDNA62が、サンプルDNA62と結合した状態を維持しており、洗い流されることはない。
【0028】
その後、レーザー発振装置7及び光学系により励起光51の照射点をDNAマイクロアレイに対して二次元的に移動させる。このときハイブリダイゼーションが起きたウェル3内では励起された蛍光物質63から蛍光52が放出され、光学系を制御することによって検出装置8が蛍光52を検出する。このようにして、ウェル3ごとの蛍光強度を二次元の画像データとして取得することができる。また閾値を越えた強度の蛍光を発するウェル3の位置情報データを取得するようにしてもよい。なお、磁性体微粒子60は透明であり、励起光51及び蛍光52が透過するため、磁性体微粒子60の下部のプローブDNA61にハイブリダイズしたサンプルDNA62の蛍光物質63も励起することができ、蛍光52を検出することができる。またウェル3内において、検出装置8の蛍光52の光路上に複数の磁性体微粒子60が重なっていたとしても蛍光52が磁性体微粒子60を透過して検出装置8に到達することができる。得られた画像内で蛍光強度が大きい部分は、プローブDNA61と相補的なサンプルDNA62がハイブリダイズしていることを示している。したがって、蛍光強度が大きいウェル3のプローブDNA61の塩基配列からサンプルDNA62の塩基配列を特定し、検体内でどの遺伝子が発現しているかが分かる。
【0029】
以上のように、本実施の形態によれば、サンプルDNA62を含むバッファーの入ったウェル3内で、表面にプローブDNA61が設けられた磁性体微粒子60を動かすことで、ウェル3内のバッファーを攪拌し、バッファー内のサンプルDNA62とプローブDNA61とがハイブリダイズする確率を高めることができる。また、従来のようにスポットに平面的に固定されるプローブDNA61と異なり、磁性体微粒子60に固定されるプローブDNA61はバッファー内で三次元の任意の方向に配置されるので、サンプルDNA62とプローブDNA61とがハイブリダイズする確率を高めることができる。
【0030】
また、従来ではスポットに固定することができるプローブDNA61の量はスポットの面積により、つまり2次元的に制限されていたが、本実施の形態では、磁性体微粒子60の表面にプローブDNA61を固定しているため、1つの磁性体微粒子60の前後左右上下でハイブリダイゼーションが可能となり、さらに複数の磁性体微粒子60が互いに上下方向に重なって位置することも可能となり、非磁性体基板2の面方向におけるウェル3の面積よりも多くの面積でプローブDNA61を固定することも可能となる。したがって、プローブDNA61とハイブリダイズするサンプルDNA62量も増やすことができ、蛍光強度を増大させることができるのでS/N比を向上でき、また高感度のフォトセンサーや高出力の励起光用光源が不要となり、装置を安価にすることができる。
【0031】
なお、図4に示すように、ウェル3の内周面に励起光や蛍光を反射する反射コーティング4を成膜してもよい。この場合には、ウェル3に照射された励起光51が反射コーティング4で反射し、横方向や下方向からも励起光が蛍光物質63に照射されるため、励起光率を向上させることができる。また蛍光物質63から横方向や下方向に放射される蛍光52は反射コーティング4で上方に反射されるため、検出される蛍光強度を増大させることができる。
【0032】
また、光学系及び検出装置8によって生体高分子分析チップ1の表面を二次元走査することに代えて、ラインセンサを生体高分子分析チップ1の表面に沿って移動させることにより、ウェル3ごとの蛍光強度を二次元の画像データとして取得してもよい。あるいは、固体撮像素子及びレンズからなる電子撮像素子で撮像することにより、ウェル3ごとの蛍光強度を二次元の画像データとして取得してもよい。
また、分析後に磁界形成台6の磁力を弱めてから非磁性体基板2を支持台5から取り外して、ウェル3を洗浄することで、容易にウェル3内のプローブDNA61、サンプルDNA62を除去できるので非磁性体基板2を再利用することができる。
【0033】
〔第2の実施の形態〕
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
〔5〕生体高分子分析チップの全体構成
図5は、本発明を適用した実施形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図6は、図5の生体高分子分析チップ1を厚さ方向に切断した切断面VIを矢印方向に見た断面図である。本実施の形態の生体高分子分析チップ1は、第1の実施の形態と同様の非磁性体基板2に、撮像素子が一体に形成されている。
【0034】
この生体高分子分析チップ1は、透明基板17の上部に、画素としての光電変換素子を透明基板17上に二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイス10が形成され、その上部に、第1の実施の形態と同様の非磁性体基板2が密着されている。なお、ウェル3の内周面に励起光の波長域の光を反射するとともに蛍光の波長域の光を透過させる励起光反射コーティング4aを成膜してもよい。この場合には、後述する励起光照射装置72からウェル3に照射された励起光51が励起光反射コーティング4aで反射し、横方向や下方向からも励起光が蛍光物質63に照射されるため、励起光率を向上させることができる。
【0035】
〔6〕固体撮像デバイス
図5〜図8を用いて固体撮像デバイス10について詳細に説明する。ここで、図7は、固体撮像デバイス10の画素である光電変換素子の電極構造を示した平面図であり、図8は、図7における固体撮像デバイス10の光電変換素子を厚さ方向に切断した切断面VIIIを矢印方向に見た断面図である。
この固体撮像デバイス10は透明基板17上に設けられている。透明基板17は、光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0036】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型電界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が透明基板17上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらダブルゲートトランジスタ20,20,…が保護絶縁膜31によってまとめて被覆されている。
【0037】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…は何れも、受光部である半導体膜23と、ボトムゲート絶縁膜22を挟んで半導体膜23の下に形成されたボトムゲート電極21と、トップゲート絶縁膜29を挟んで半導体膜23の上に形成されたトップゲート電極30と、半導体膜23の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜25と、半導体膜23の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜26と、不純物半導体膜25に重なったソース電極27と、不純物半導体膜25に重なったドレイン電極28と、を備え、半導体膜23において受光した光量に従ったレベルの電気信号に変換するものである。
【0038】
ボトムゲート電極21は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板17上に形成されている。また、透明基板17上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン41,41,…が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極21が共通のボトムゲートライン41と一体となって形成されている。ボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41は、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0039】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41,41,…はボトムゲート絶縁膜22によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜22は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜22は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0040】
ボトムゲート絶縁膜22上には、複数の半導体膜23がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜23は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極21に対して対向配置され、ボトムゲート電極21との間にボトムゲート絶縁膜22を挟んでいる。半導体膜23は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0041】
半導体膜23上には、チャネル保護膜24が形成されている。チャネル保護膜24は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23の中央部上に形成されている。チャネル保護膜24は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜24は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜23の界面を保護するものである。半導体膜23に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜24と半導体膜23との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜23側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜24側には電子が発生する。
【0042】
半導体膜23の一端部上には、不純物半導体膜25が一部チャネル保護膜24に重なるようにして形成されており、半導体膜23の他端部上には、不純物半導体膜26が一部チャネル保護膜24に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜25,26は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜25,26は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる

【0043】
不純物半導体膜25上には、ソース電極27が形成され、不純物半導体膜26上には、ドレイン電極28が形成されている。ソース電極27及びドレイン電極28はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン42,42,…及びドレインライン43,43,…がボトムゲート絶縁膜22上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極27は共通のソースライン42と一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極28は共通のドレインライン43と一体に形成されている。ソース電極27、ドレイン電極28、ソースライン42及びドレインライン43は、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0044】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極27及びドレイン電極28並びにソースライン42,42,…及びドレインライン43,43,…は、トップゲート絶縁膜29によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜29は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜29は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0045】
トップゲート絶縁膜29上には、複数のトップゲート電極30がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極30は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23に対して対向配置され、半導体膜23との間にトップゲート絶縁膜29及びチャネル保護膜24を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜29上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン44,44,…が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極30が共通のトップゲートライン44と一体に形成されている。トップゲート電極30及びトップゲートライン44は、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0046】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極30及びトップゲートライン44,44,…は保護絶縁膜31によってまとめて被覆され、保護絶縁膜31は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜31は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0047】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、保護絶縁膜31の表面を受光面としており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20の半導体膜23において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。そして、保護絶縁膜31の上部には、第一の実施の形態と同様の非磁性体基板2が、各ダブルゲートトランジスタ20,20,…の上部に1つのウェル3が配置されるように密着される。なお、1つのウェル3につき隣り合う幾つかのダブルゲートトランジスタ20,20,…が重なっても良いが、この場合には何れのウェル3でも重なったダブルゲートトランジスタ20の数が同じである。
【0048】
〔7〕分析支援装置
次に、固体撮像デバイス10による生体高分子分析チップ1の撮像を支援する分析支援装置について図9、図10を用いて説明する。図9は、分析支援装置70の回路構成を示したブロック図であり、図10は、分析支援装置70に生体高分子分析チップ1をセッティングした場合の側面図である。図10において、生体高分子分析チップ1は破断して示されている。
【0049】
分析支援装置70は、生体高分子分析チップ1と、生体高分子分析チップ1が着脱可能にセッティングされる支持台71と、固体撮像デバイス10の受光面の上から受光面に向けて励起光を照射する励起光照射装置72と、固体撮像デバイス10を駆動するトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76と、励起光照射装置72、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御するコントローラ73と、コントローラ73から出力された信号により出力(表示又はプリント)を行う出力装置77と、第1の実施の形態の磁界形成台6と同様の磁界形成台78とを備える。
【0050】
支持台71には、プローブDNA61が相補的な塩基配列のDNAとハイブリダイゼーションする温度範囲や、プローブDNA61がハイブリダイゼーションできない温度範囲に適宜調整する温度調整装置が設けられている。
生体高分子分析チップ1が支持台71にセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10のトップゲートライン44,44,…がトップゲートドライバ74の端子にそれぞれ接続されるようになっている。同様に、固体撮像デバイス10のボトムゲートライン41,41,…がボトムゲートドライバ75の端子にそれぞれ接続されるようになっており、固体撮像デバイス10のドレインライン43,43,…がドレインドライバ76の端子にそれぞれ接続されるようになっている。また、生体高分子分析チップ1が支持台71にセッティングされた場合、固体撮像デバイス10のソースライン42,42,…が一定電圧源に接続され、この例ではソースライン42,42,…が接地されるようになっている。
【0051】
励起光照射装置72は支持台71に対向しており、支持台71に生体高分子分析チップ1が搭載された場合に、励起光照射装置72から面状に出射した励起光が生体高分子分析チップ1に照射されるようになっている。励起光照射装置72が照射する励起光は紫外線波長域の光である。なお、励起光照射装置72は、出射する励起光の波長域を可変可能に設けられていても良い。
【0052】
出力装置77はプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。
磁界形成台78は支持台71の下部に設けられており、第1の実施の形態の磁界形成台6と同様の構成、機能である。
【0053】
トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は、協同して固体撮像デバイス10を駆動するものである。トップゲートドライバ74は、シフトレジスタである。つまり、図11に示すように、トップゲートドライバ74はトップゲートライン44,44,…にリセットパルスを順次出力するようになっている。リセットパルスのレベルは+5〔V〕のハイレベルである。一方、トップゲートドライバ74は、リセットパルスを出力しない時にローレベルの−20〔V〕の電位をそれぞれのトップゲートライン44に印加するようになっている。
【0054】
ボトムゲートドライバ75は、シフトレジスタである。つまり、図11に示すように、ボトムゲートライン41,41,…にリードパルスを順次出力するようになっている。リードパルスのレベルは+10〔V〕のハイレベルであり、リードパルスが出力されていない時のレベルは±0〔V〕のローレベルである。
【0055】
トップゲートドライバ74が何れかの行のトップゲートライン44にリセットパルスを出力した後にキャリア蓄積期間を経てボトムゲートドライバ75が同じ行のボトムゲートライン41にリードパルスを出力するように、トップゲートドライバ74及びボトムゲートドライバ75が出力信号をシフトする。つまり、各行では、リードパルスが出力されるタイミングは、リセットパルスが出力されるタイミングより遅れている。また、何れかの行のトップゲートライン44へのリセットパルスの入力が開始してから、同じ行のボトムゲートライン41へのリードパルスの入力が終了するまでの期間は、その行の選択期間である。リセットパルスのレベルは+5〔V〕のハイレベルであり、リセットパルスが出力されていない時のレベルは−20〔V〕のローレベルである。
【0056】
図11に示すように、ドレインドライバ76は、それぞれの行の選択期間において、リセットパルスが出力されてからリードパルスが出力されるまでの間に、全てのドレインライン43,43,…にプリチャージパルスを出力するようになっている。プリチャージパルスのレベルは+10〔V〕のハイレベルであり、プリチャージパルスが出力されていない時のレベルは±0〔V〕のローレベルである。また、ドレインドライバ76は、プリチャージパルスの出力後にドレインライン43,43,…の電圧を増幅してコントローラ73に出力するようになっている。
【0057】
コントローラ73は励起光照射装置72を点灯させる機能を有する。また、コントローラ73は、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行わせる機能を有する。また、コントローラ73はドレインドライバ76から入力した電気信号をA/D変換することで、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして取得する機能を有する。また、コントローラ73は入力した二次元の画像データ画像データに従った画像を出力装置77に出力させる機能を有する。
【0058】
次に、生体高分子分析チップ1及び分析支援装置70の動作並びにDNAの分析方法(同定方法)について説明する。なお、試料の調整は第1の実施の形態と同様である。
【0059】
〔8〕分析方法
作業者が、サンプルDNA62を含有するバッファーを支持台5にセッティングされた生体高分子分析チップ1の非磁性体基板2面に塗布する。このとき磁性体微粒子60は磁界形成台78の磁石の磁力によってウェル3の底に固定されているため、バッファ溶液64の塗布によってウェル3から流出することはない。
【0060】
次いで、生体高分子分析チップ1を加熱し、サンプルDNA62を一本鎖に変性する。その後、サンプルDNA62のハイブリダイゼーションを引き起こすために、生体高分子分析チップ1を所定の温度まで徐々に冷却する。このとき、磁界形成台78の磁極をウェル3に対して水平方向に移動させ、磁性体微粒子60をウェル3内で移動させることでウェル3内を攪拌し、サンプルDNA62とプローブDNA61とがハイブリダイズする確率を高める。
【0061】
生体高分子分析チップ1が所定の温度まで冷却されたら、サンプルDNA62を含まないバッファーで生体高分子分析チップ1の非磁性体基板2面を洗い、プローブDNA61とハイブリダイズしなかったサンプルDNA62を流し去る。このときも磁性体微粒子60は磁界形成台78の磁石の磁力によってウェル3の底に固定されているため、バッファ溶液64の塗布によってウェル3から流出することはない。
【0062】
次いで、励起光照射装置72を非磁性体基板2面に対向させ、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76をコントローラ73に接続する。
【0063】
その後、コントローラ73を起動すると、コントローラ73が励起光照射装置72を制御して励起光照射装置72を点灯させ、励起光照射装置72から固体撮像デバイス10の受光面に向けて励起光が出射する。
【0064】
サンプルDNA62が標識されているので、ウェル3,3,3…のうちサンプルDNA62とハイブリダイゼーションしたウェル3からは蛍光(主に可視光波長域)が発し、サンプルDNA62と結合しなかったウェル3からは蛍光が発しない。そのため、サンプルDNA62と結合したウェル3に対応したダブルゲートトランジスタ20には高強度の蛍光が入射し、サンプルDNA62と結合していないウェル3に対応したダブルゲートトランジスタ20には殆ど蛍光が入射しない。固体撮像デバイス10の受光面の直上に非磁性体基板2が固定されているため、サンプルDNA62と結合したウェル3から発した蛍光はあまり減衰せずに、そのウェル3に対応したダブルゲートトランジスタ20に入射して電子−正孔対を発生させる。従って、ダブルゲートトランジスタ20,20,…の感度が低くても、十分に強度を検知することができる。ウェル3内において、ダブルゲートトランジスタ20の蛍光52の光路上に複数の磁性体微粒子60が重なっていたとしても蛍光52が磁性体微粒子60を透過してダブルゲートトランジスタ20に到達することができる。
【0065】
その後、励起光照射装置72が点灯した状態で、コントローラ73がトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御することにより、固体撮像デバイス10に撮像動作を行わせる。これにより、固体撮像デバイス10がダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれで光強度又は光量を検知し、受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして取得する。コントローラ73は、固体撮像デバイス10で取得された画像データを入力し、その画像を出力装置77に出力する。そして、コントローラの処理が終了する。
【0066】
作業者は、出力装置77により出力された画像データからハイブリダイゼーションの有無を確認し、ハイブリダイゼーションが起きていればプローブDNA6161の塩基配列からサンプルDNA62の塩基配列が特定され、検体内でどの遺伝子が発現しているかが分かる。
【0067】
ここで、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76による固体撮像デバイス10の動作について説明する。
トップゲートドライバ74が1行目のトップゲートライン44から最終行目のトップゲートライン44へと順次リセットパルスを出力し、ボトムゲートドライバ75がボトムゲートライン41,41,41,…に順次リードパルスを出力する。その際、ドレインドライバ76が各行でリセットパルスが出力されているリセット期間と各行でリードパルスが出力されている期間との間に、プリチャージパルスを全てのドレインライン43,43,…に出力する。
【0068】
i行目の各ダブルゲートトランジスタ20の動作について詳細に説明する。トップゲートドライバ74がi行目のトップゲートライン44にリセットパルスを出力すると、i行目のトップゲートライン44がハイレベルになる。i行目のトップゲートライン44がハイレベルになっている間(この期間をリセット期間という。)、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20では、半導体膜23内や半導体膜23とチャネル保護膜24との界面近傍に蓄積されたキャリア(ここでは、正孔である。)が、トップゲート電極30の電圧により反発して吐出される。
【0069】
次に、トップゲートドライバ74がi行目のトップゲートライン44にリセットパルスを出力することを終了する。i行目のトップゲートライン44のリセットパルスが終了してから、i行目のボトムゲートライン41にリードパルスが出力されるまでの間(この期間をキャリア蓄積期間という。)、光量に従った量の電子−正孔対が半導体膜23内で生成されるが、そのうちの正孔がトップゲート電極30の電界により半導体膜23内や半導体膜23とチャネル保護膜24との界面近傍に蓄積される。
【0070】
次に、キャリア蓄積期間中に、ドレインドライバ76が全てのドレインライン43,43,…にプリチャージパルスを出力する。プリチャージパルスが出力されている間(プリチャージ期間という。)では、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20においては、トップゲート電極30に印加されている電位が−20〔V〕であり、ボトムゲート電極21に印加されている電位が±0〔V〕であるため、たとえ半導体膜23内や半導体膜23とチャネル保護膜24との界面近傍に蓄積された正孔の電荷だけではゲート−ソース間電位が低いので半導体膜23にはチャネルが形成されず、ドレイン電極28とソース電極27との間に電流は流れない。プリチャージ期間において、ドレイン電極28とソース電極27との間に電流が流れないため、ドレインライン43,43,…に出力されたプリチャージパルスによってi行目の各ダブルゲートトランジスタ20のドレイン電極28に電荷がチャージされる。
【0071】
次に、ドレインドライバ76がプリチャージパルスの出力を終了するとともに、ボトムゲートドライバ75がi行目のボトムゲートライン41にリードパルスを出力する。ボトムゲートドライバ75がi行目のボトムゲートライン41にリードパルスを出力している間(この期間を、リード期間という。)では、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20のボトムゲート電極21に+10〔V〕の電位が印加されているため、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20がオン状態になる。
【0072】
リード期間においては、キャリア蓄積期間において蓄積されたキャリアがトップゲート電極30の負電界を緩和するように働くため、ボトムゲート電極21の正電界により半導体膜23にnチャネルが形成されて、ドレイン電極28からソース電極27に電流が流れるようになる。従って、リード期間では、ドレインライン43,43,…の電圧は、ドレイン−ソース間電流によって時間の経過とともに徐々に低下する傾向を示す。
【0073】
ここで、キャリア蓄積期間において半導体膜23に入射した光量が多くなるにつれて、蓄積されるキャリアも多くなり、蓄積されるキャリアが多くなるにつれて、リード期間においてドレイン電極28からソース電極27に流れる電流のレベルも大きくなる。従って、リード期間におけるドレインライン43,43,…の電圧の変化傾向は、キャリア蓄積期間で半導体膜23に入射した光量に深く関連する。そして、i行目のリード期間から次の(i+1)行目のプリチャージ期間までの間に、ドレインドライバ76を介して、リード期間が開始してから所定の時間経過後のドレインライン43,43,…の電圧を検出してA/D変換する。これにより、光の強度に換算される。なお、i行目のリード期間から次の(i+1)行目のプリチャージ期間までの間に、ドレインドライバ76を介して、所定の閾値電圧に至るまでの時間を検出しても良い。この場合でも、光の強度に換算される。また、図10では、トップゲートドライバ74の(i+1)行目のリセットパルスの立ち上がり時期は、ボトムゲートドライバ75のi行目のリードパルスが立ち下がってからであるが、これに限らず、トップゲートドライバ74の(i+1)行目のリセットパルスの立ち上がり時期は、トップゲートドライバ74のi行目のリセットパルスの立ち下がり直後からボトムゲートドライバ75のi行目のリードパルスの立ち下がりまでの間であってもよい。ただし、(i+1)行目のダブルゲートトランジスタ20のためにドレインライン43,43,…に出力されたプリチャージパルスの出力は、ボトムゲートドライバ75のi行目のリードパルスの立ち下がり以降になるように設定されている。
【0074】
上述した一連の画像読み取り動作を1サイクルとして、全ての行の各ダブルゲートトランジスタ20にも同等の処理手順を繰り返すことにより、生体高分子分析チップ1上の光の強度分布が画像として取得される。そして、光強度分布を表した画像は、コントローラに入力される。
【0075】
以上のように、本実施形態によれば、固体撮像デバイス10の受光面上に非磁性体基板2が密着しているから、励起光の走査を行わずとも固体撮像デバイス10で撮像を行うだけで二次元の画像が得られる。更に、分析支援装置70にレンズを設けなくとも、固体撮像デバイス10で鮮明な像を得ることができるので、分析支援装置70の小型化を図ることができる。更に、ウェル3から発した光が殆ど減衰せずに固体撮像デバイス10の受光面に入射するので、固体撮像デバイス10の感度が高くなくても済む。
【0076】
なお、固体撮像デバイス10の受光面に反射防止膜を成膜し、蛍光の透過率を向上させてもよい。これにより、固体撮像デバイス10の蛍光感度が低くても、固体撮像デバイス10で鮮明な像を得ることができる。
【0077】
また、分析後に磁界形成台78の磁力を弱めてから非磁性体基板2を支持台5から取り外して、ウェル3を洗浄することで、容易にウェル3内のプローブDNA61、サンプルDNA62を除去できるので非磁性体基板2を再利用することができる。
【0078】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
【0079】
〔変形例1〕
第2の実施形態では励起光照射装置72が生体高分子分析チップ1の上方に設置され、非磁性体基板2のウェル3に向けて励起光を照射するようになっている。それに対して、図12に示すように、励起光照射装置72を生体高分子分析チップ1及び固体撮像デバイス10の下方に設置しても良い。この場合、固体撮像デバイス10の裏面を励起光照射装置72の向けて生体高分子分析チップ1をセッティングし、励起光照射装置72によって励起光が固体撮像デバイス10の下から固体撮像デバイス10の裏面向けて照射される。固体撮像デバイス10はボトムゲート電極21、ボトムゲートライン41、ソース電極27、ソースライン42、ドレイン電極28、ドレインライン43の部分を除いて光透過性であるから、励起光がダブルゲートトランジスタ20,20,…の間において固体撮像デバイス10の受光面から上へ出射する。また、この場合、ボトムゲート電極21が遮光しているので励起光照射装置72から直接半導体膜23に励起光が入射されないので、励起光反射コーティング4aを設けなくてもよい。
【0080】
〔変形例2〕
第2の実施形態では、光電変換素子としてダブルゲートトランジスタ20,20,…を画素として用いた固体撮像デバイス10を用いているが、別の種類の光電変換素子を画素として用いた固体撮像デバイスを生体高分子分析チップに用いても良い。例えば、フォトダイオードを画素として用いたCCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等といった固体撮像デバイスを用いても良い。CCDイメージセンサにおいては、フォトダイオードが基板上にマトリクス状となって配列されており、それぞれのフォトダイオードの周囲には、フォトダイオードで光電変換された電気信号を転送するための垂直CCD、水平CCDが形成されている。CMOSイメージセンサにおいては、フォトダイオードが基板上にマトリクス状となって配列されており、それぞれのフォトダイオードの周囲にはフォトダイオードで光電変換された電気信号を増幅するためのCMOS回路が設けられている。CCDイメージセンサであっても、CMOSイメージセンサであっても、その受光面に反射防止膜35と同様の反射防止膜を成膜し、その反射防止膜上に複数種のスポットを点着させる。
【0081】
〔変形例3〕
また、上記実施形態では、コントローラ73が固体撮像デバイス10から入力した画像データに従った画像を出力装置77に出力し、作業者が出力された画像データから発現情報を特定したが、コントローラ73が発現情報を特定しても良い。すなわち、コントローラが、特徴抽出処理によって画像データ中のどの部分の蛍光強度が高いかを特定し、蛍光強度が高い部分に対応するスポット60を特定し、その特定したスポット60に相補的な塩基配列を出力装置から出力する。
【0082】
〔変形例4〕
第1、第2実施形態では、励起光を紫外線とし、励起光によってサンプルDNA62から発する蛍光を可視光としたが、このような光の波長域に限定されない。但し、励起光がサンプルDNA62に結合させた蛍光物質63を励起させる波長域の光であること、励起光によって蛍光物質63から発した蛍光の主たる波長域が励起光の主たる波長域と十分異なることが必要である。
【0083】
〔変形例5〕
第1、第2実施形態では、蛍光物質63から発する蛍光強度を計測したが、蛍光物質63の代わりに化学発光物質を標識物質として用い、発光強度を計測してもよい。この場合には、励起光照射装置が不要となる。ただし、検出装置8または固体撮像デバイス10が化学発光物質から発した光に対して感度を示すことが必要である。
【0084】
〔変形例6〕
第1、第2実施形態では、プローブ及びサンプルの両方にDNAを用いたが、プローブはサンプルとなる生体高分子に特異的に結合するものであればよく、例えばプローブとサンプルとの組み合わせとしては、抗原と抗体との組み合わせ、あるいは酵素と基質との組み合わせ等を用いてもよい。
【0085】
〔変形例7〕
第2実施形態では、ウェル3(バッファ溶液64)の屈折率と非磁性体基板2の屈折率が等しいとは限らないために、ウェル3から、ウェル3と非磁性体基板2との界面に向けて入射される光がこの界面で反射してしまう恐れがあるが、ウェル3からこの界面に入射される蛍光と同じ波長域の光を透過する反射防止膜がこの界面に設けられてもよい。
【0086】
また上記変形例を複数組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施の形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】生体高分子分析チップ1の1つのウェル3を示す断面図である。
【図3】分析支援装置50の全体構成を示す概略図である。
【図4】生体高分子分析チップ1の1つのウェル3の他の形態を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図6】図5の切断面VIに沿った断面図である。
【図7】固体撮像デバイス10の1つの画素の平面図である。
【図8】図7の切断面VIIIに沿った断面図である。
【図9】分析支援装置70の回路構成を示したブロック図である。
【図10】分析支援装置70の概略側面図である。
【図11】ドライバによって固体撮像デバイス10に出力される電気信号のレベルの推移を示したタイミングチャートである。
【図12】別例の分析支援装置70Aの概略側面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 生体高分子分析チップ
2 非磁性体基板
3 ウェル
4 反射コーティング
4a 励起光反射コーティング
6 磁界形成台(磁石)
10 固体撮像デバイス(光電変換素子)
60 磁性体微粒子
61 プローブDNA(プローブ)
62 サンプルDNA(生体高分子)
63 蛍光物質(標識物質)
64 バッファ溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数のウェルが設けられた非磁性体基板と、
前記各ウェルに収容されるとともに、特定の生体高分子と結合するプローブを有する磁性体微粒子と、を備えることを特徴とする生体高分子分析チップ。
【請求項2】
前記ウェルの内周面には光を反射する反射コーティングが成膜されていることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項3】
前記非磁性体基板の下部には二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子が設けられ、
前記非磁性体基板が光透過性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項4】
前記ウェルの内周面には、前記生体高分子に付着される蛍光物質を励起する励起光を反射するとともに、蛍光物質から放射される蛍光を透過させる励起光反射コーティングが成膜されていることを特徴とする請求項3に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップと、
磁界を形成することにより前記ウェル内の前記磁性体微粒子を移動可能な磁界形成手段と、
を備えることを特徴とする分析支援装置。
【請求項6】
特定の生体高分子と結合するプローブを備える磁性体微粒子を、非磁性体基板の表面に設けられた各ウェルに収容し、
標識物質で標識された生体高分子サンプルを前記各ウェルに注入し、
前記非磁性体基板に磁界を形成した状態で前記非磁性体基板の各ウェルを洗い流し、
前記各ウェルに残った標識物質を検出することを特徴とする生体高分子分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−226887(P2006−226887A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42109(P2005−42109)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】