説明

生分解性ポリウレタン

【課題】強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れ、さらに分解後に有害なアミンを発生しない生分解性ポリウレタンを提供すること。
【解決手段】生分解性ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤を反応させて得られる生分解性ポリウレタンであって、前記生分解性ポリオールがポリ−ε−カプロラクトンジオールであり、前記ジイソシアネートがリジンジイソシアネート若しくはその炭素数1〜3のアルキルエステル又はブタンジイソシアネートであり、前記鎖延長剤が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする、生分解性ポリウレタン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れ、さらに分解後に有害なアミンを発生しない生分解性ポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック廃棄物による環境汚染が世界的な問題となってから久しく、これまでに、自然環境下で分解可能な生分解性プラスチックの開発が数多くなされてきた。ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタンについても、生分解性を付与させるための種々の試みがなされてきた。しかし、生分解性ポリウレタンは、生分解性を有さない従来のポリウレタンに比べて物理的特性、機械的特性又は化学的特性において劣っていることが多く、従来のポリウレタンの代替物となり得る生分解性ポリウレタンが求められている。
そのような観点から、強度の高い生分解性ポリウレタンが開発されている。具体的には、ポリオールとしてポリ−ε−カプロラクトンジオール、ジイソシアネートとしてリジンジイソシアネート(LDI)若しくはその炭素数1〜3のアルキルエステル又はブタンジイソシアネート(BDI)を用いて、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを製造し、さらに鎖延長剤として1,4−ブタンジアミン(1,4−BDA)又は1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)を用いて得られる、強度の高い生分解性ポリウレタン及び生分解性ポリウレタンウレアが開発されている(非特許文献1及び2参照)。ほかにも、非特許文献1及び2に開示された材料に対して靭性を改善する観点から、鎖延長剤として1,2−プロパンジアミンを使用して得られる生分解性ポリウレタンウレアも開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−203404号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】白波瀬,高原ら、日本ゴム協会誌 82、349(2009年)
【非特許文献2】波多野,高原ら、日本ゴム協会誌 79、219(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された生分解性ポリウレタンウレアは、柔軟性はあるが、強度が低いという問題がある。
また、非特許文献1及び2に開示された生分解性ポリウレタン及び生分解性ポリウレタンウレアについて、本発明者らがさらに検討したところ、ポリオールとしてポリ−ε−カプロラクトンジオール(PCL)、ジイソシアネートとしてリジンジイソシアネート(LDI)を用い、鎖延長剤として1,4−ブタンジアミン(1,4−BDA)を用いた場合には、得られた生分解性ポリウレタンウレアの強度は高いが、各種溶媒に対する溶解性が乏しく、成形性が悪いことが判明した。また、ポリオールと鎖延長剤は変更せずに、ジイソシアネートをブタンジイソシアネート(BDI)に変更すると、得られる生分解性ポリウレタンウレアの強度は非常に高くなる一方、成形性がさらに悪化した。さらに、ポリオールとジイソシアネートは変更せずに、鎖延長剤を1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)に変更すると、成形性が改善されたが、強度が小さくなった。
また、生分解性のポリウレタンウレアの中には、用いたジイソシアネートの種類によっては、分解した後に有害なアミンが発生するという問題を有するものもある。
このように、高い強度、靭性及び成形性を備え、さらに分解後に有害なアミンを発生しない生分解性ポリウレタンは未だ開発されていない。
よって、本発明の課題は、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れ、さらに分解後に有害なアミンを発生しない生分解性ポリウレタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、生分解性ポリオールとしてポリ−ε−カプロラクトンジオール(PCL)、ジイソシアネートとしてリジンジイソシアネート(LDI)若しくはその炭素数1〜3のアルキルエステル又はブタンジイソシアネート(BDI)を用い、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール(1,4−BDO)を用いることにより、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れ、さらに分解後に有害なアミンを発生しない生分解性ポリウレタンを提供できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[4]に関する。
[1]生分解性ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤を反応させて得られる生分解性ポリウレタンであって、
前記生分解性ポリオールがポリ−ε−カプロラクトンジオールであり、前記ジイソシアネートがリジンジイソシアネート若しくはその炭素数1〜3のアルキルエステル又はブタンジイソシアネートであり、前記鎖延長剤が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする、生分解性ポリウレタン。
[2]前記生分解性ポリオールと前記ジイソシアネートとを反応させてプレポリマーを得た後、得られたプレポリマーと前記鎖延長剤とを反応させて得られる、上記[1]に記載の生分解性ポリウレタン。
[3]前記生分解性ポリオールと前記鎖延長剤の使用比率(生分解性ポリオール:鎖延長剤)が、モル比で1:3〜3:1であり、かつ、前記生分解性ポリオールと前記鎖延長剤との合計モル数と、前記ジイソシアネートとの使用比率(「生分解性ポリオール+鎖延長剤」:ジイソシアネート)が、モル比で2:3〜3:2である、上記[1]又は[2]に記載の生分解性ポリウレタン。
[4]前記ジイソシアネートがブタンジイソシアネートである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の生分解性ポリウレタン。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れ、さらに分解後に有害なアミンを発生しない生分解性ポリウレタンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[生分解性ポリウレタン]
本発明の生分解性ポリウレタンは、生分解性ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤を反応させて得られる生分解性ポリウレタンであって、前記生分解性ポリオールがポリ−ε−カプロラクトンジオールであり、前記ジイソシアネートがリジンジイソシアネート若しくはその炭素数1〜3のアルキルエステル又はブタンジイソシアネートであり、前記鎖延長剤が1,4−ブタンジオールである。
以下、本発明の生分解性ポリウレタンの製造に用いる成分について、詳細に説明する。
【0010】
(生分解性ポリオール)
本発明では、生分解性ポリオールとして、少なくともポリ−ε−カプロラクトンジオール(PCL)を用いる。該PCLであれば、生分解性を有するのみならず、前記した他の特定成分との組み合わせによって、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れたポリウレタンが得られる。
PCLの分子量は、好ましくは500〜3,000、より好ましくは800〜2,000、さらに好ましくは1,000〜1,500である。PCLの分子量が500以上であると、得られるポリウレタンの伸びが良好となり、また、3,000以下であると、高い強度のポリウレタンが得られ、またポリウレタンが結晶化し難い。
生分解性ポリオールとしては、本発明の効果を著しく低減しない限りにおいて、PCL以外のポリオールを併用してもよい。PCL以外のポリオールとしては、ポリウレタンを製造する際に用いられる公知のポリオールが挙げられ、具体的には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸等のポリヒドロキシカルボン酸;ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の、二塩基酸とジオールとの縮合反応により得られるポリエステルポリオール;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリ(オキシエチレン)(オキシプロピレン)グリコール、ポリオキシブチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールなどが挙げられる。これら公知のポリオールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
使用する生分解性ポリオール全量に対する前記PCLの使用量は、本発明の効果を充分に発現させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは実質的に100質量%である。
【0011】
(ジイソシアネート)
本発明では、ジイソシアネートとして、少なくともリジンジイソシアネート(LDI)若しくはその炭素数1〜3のアルキルエステル(以下、リジンジイソシアネート類(LDI類)と総称することがある)、又はブタンジイソシアネート(BDI)を用いる。該LDI類とBDIは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。LDIの炭素数1〜3のアルキルエステルとしては、リジンジイソシアネートメチルエステル、リジンジイソシアネートエチルエステルなどが挙げられ、リジンジイソシアネートメチルエステルが好ましい。
本発明の生分解性ポリウレタンが分解されると、ジイソシアネートはアミン体になるが、リジンジイソシアネート類やブタンジイソシアネートのアミン体は、生体アミン又は必須アミノ酸であるため、人体への悪影響が無い。また、リジンジイソシアネート類又はブタンジイソシアネートと、前記した他の特定成分との組み合わせであれば、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れたポリウレタンが得られる。なお、ジイソシアネートとしては、強度及び靭性の観点からは、BDIが好ましい。
ジイソシアネートとしては、本発明の効果を著しく低減しない限りにおいて、LDI類やBDI以外のジイソシアネートを併用してもよい。LDI類やBDI以外のジイソシアネートとしては、ポリウレタンを製造する際に用いられる公知のジイソシアネートが挙げられる。
該公知のジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これら公知のジイソシアネートは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
使用するジイソシアネート全量に対する前記LDI類やBDIの使用量は、本発明の効果を充分に発現させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは実質的に100質量%である。
【0012】
(鎖延長剤)
本発明では、鎖延長剤として、少なくとも1,4−ブタンジオールを用いる。1,4−ブタンジオールのように、直鎖の炭素数が4つで、かつ分岐鎖が無いジオールであることが重要である。本発明では、前記特定の生分解性ポリオール及び特定のジイソシアネートと共に、鎖延長剤として1,4−ブタンジオールを用いることにより、得られる生分解性ポリウレタンが、従来の生分解性ポリウレタンよりも強度が高くなり、かつ従来の生分解性ポリウレタンよりも靭性及び成形性が優れたものとなる。
鎖延長剤としては、本発明の効果を著しく低減しない限りにおいて、1,4−ブタンジオール以外の鎖延長剤を併用してもよい。1,4−ブタンジオール以外の鎖延長剤としては、ポリウレタンを製造する際に用いられる公知の鎖延長剤が挙げられる。公知の鎖延長剤としては、分子量が好ましくは350以下、より好ましくは200以下の多価アルコールなどが挙げられる。該多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
使用する鎖延長剤全量に対する1,4−ブタンジオールの使用量は、本発明の効果を充分に発現させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%である。
【0013】
本発明の生分解性ポリウレタンは、さらに可塑剤を含有していてもよい。可塑剤としては、グリセリンエステル、脂肪酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステルなどが挙げられる。
【0014】
(各成分の使用割合)
前記生分解性ポリオールと前記鎖延長剤の使用比率(生分解性ポリオール:鎖延長剤)は、モル比で好ましくは1:3〜3:1であり、かつ、前記生分解性ポリオールと前記鎖延長剤との合計と、前記ジイソシアネートとの使用比率(「生分解性ポリオール+鎖延長剤」:ジイソシアネート)は、モル比で好ましくは2:3〜3:2である。より好ましくは、生分解性ポリオール:鎖延長剤=1:2〜2:1(モル比)、かつ「生分解性ポリオール+鎖延長剤」:ジイソシアネート=2:3〜3:2(モル比)である。さらに好ましくは、生分解性ポリオール:鎖延長剤=4:5〜5:4(モル比)、かつ「生分解性ポリオール+鎖延長剤」:ジイソシアネート=4:5〜5:4(モル比)である。特に好ましくは、生分解性ポリオールと鎖延長剤の合計使用量を、ジイソシアネートのモル比率と実質的に同じにすることである。
各成分の使用割合が上記範囲であると、得られる生分解性ポリウレタンは、従来の生分解性ポリウレタンよりも強度が高まり、かつ従来の生分解性ポリウレタンよりも靭性及び成形性が優れたものとなる。
【0015】
なお、必要に応じ、発泡剤、整泡剤及び触媒などを用いて前記各成分を反応させることによって、生分解性ポリウレタンフォームとしてもよい。
発泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知の発泡剤を使用することができ、例えば、水、メチレンクロリドなどが挙げられる。
触媒としては、アミン系触媒が好ましい。アミン系触媒には、泡化アミン触媒とそれ以外の触媒とがあり、通常、これらが混合して用いられる。泡化アミン触媒は、樹脂化活性に対する泡化活性の活性比(泡化活性/樹脂化活性)が30×10-1以上のものであり、例えば、N,N,N’,N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N',N',N'',N''−ペンタメチルジプロピレントリアミン、N,N−ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N'−トリメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N',N'',N''',N'''−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N,N',N''−テトラメチル−N''−(2−ヒドロキシルエチル)トリエチレンジアミン、N,N,N',N''−テトラメチル−(2−ヒドロキシルプロピル)トリエチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテルが好ましく、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテルがより好ましい。泡化アミン触媒以外のアミン系触媒とは、上記活性比が30×10-1未満のアミン系触媒であり、トリエチレンジアミン、N−エチルモルホリン、ジメチルエチルエタノールアミンなどが挙げられる。
なお、触媒としては、上記アミン系触媒の他、アミン系触媒ではない触媒、例えば有機金属触媒を併用してもよい。有機金属触媒としては、カルボン酸の金属塩などを用いることができ、該金属塩としてはスズ塩やビスマス塩などが挙げられる。有機金属触媒としては、より具体的には、オクチル酸スズ(スタナスオクトエート)、オクチル酸ビスマス(ビスマスオクトエート)、オレイン酸スズ(スタナスオレエート)、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズチオカルボキシレートなどが挙げられる。
【0016】
整泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知の整泡剤を使用することができる。その中でも、ポリジメチルシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合物からなるシリコーンが、不活性ガスの導入と機械的攪拌の併用によって発泡硬化させた場合に、セル径が安定するため好ましい。該ポリジメチルシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合物の分子構造は、通常、分子量350〜15,000程度のポリジメチルシロキサン部分と分子量200〜9,000程度のポリオキシアルキレン部分からなり、ポリオキシアルキレン部分の分子構造は、エチレンオキサイドの付加重合物やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共付加重合物が好ましく、またその末端がエチレンオキサイドであるものが好ましい。
また、イソシアネート基との反応性を有する官能基を持つ反応性シリコーンであることが好ましい。該官能基としては、水酸基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基などが挙げられる。
【0017】
(生分解性ポリウレタンの製造方法)
本発明の生分解性ポリウレタンの製造方法に特に制限はなく、公知のポリウレタンの製造方法を採用できる。例えば、前記生分解性ポリオール、前記ジイソシアネート及び前記鎖延長剤をワンショット法によって反応させることによって製造してもよいし、前記生分解性ポリオール及び前記ジイソシアネートを反応させてプレポリマーを得た後、得られたプレポリマーと前記鎖延長剤とを反応させる、いわゆるプレポリマー法によって製造してもよい。
反応温度は、いずれの方法においても、通常、好ましくは50〜120℃であり、より好ましくは70〜110℃である。また、プレポリマー法においては、プレポリマーへ鎖延長剤を滴下することにより実施することが好ましい。鎖延長剤の滴下時間(反応時間)に特に制限はないが、通常、好ましくは10分〜20時間程度、より好ましくは20分〜15時間となるようにする。鎖延長剤は、後述する非プロトン性有機溶媒に溶解してから滴下してもよい。
なお、プレポリマーと鎖延長剤との反応は、ハロゲン化アルカリ金属塩又はハロゲン化アルカリ土類金属塩の存在下に実施することが好ましい。ハロゲン化アルカリ金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウムなどが挙げられる。ハロゲン化アルカリ土類金属塩としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化バリウムなどが挙げられる。
生分解性ポリウレタンの製造は、非プロトン性有機溶媒の存在下に実施してもよい。該非プロトン性有機溶媒としては、ポリウレタンの製造に用いられる公知の有機溶媒を用いることができ、例えば、酢酸エチル等のエステル;アセトニトリル等のニトリル;テトラヒドロフラン等のエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミドなどが挙げられるが、特にこれらに制限されるものではない。
なお、前述のとおり、必要に応じて、発泡剤、整泡剤及び触媒などの存在下に上記反応を行うことにより、生分解性ポリウレタンフォームを形成してもよい。
【0018】
(生分解性ポリウレタンの性状)
本発明の生分解性ポリウレタンは、実施例に記載の方法により測定した破断伸長率が950〜1800%、詳細には1000〜1700%である。また、実施例に記載の方法により測定した破断強度は、13〜25MPa、詳細には14〜23MPaである。
さらに、本発明の生分解性ポリウレタンは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド;テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル;1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;クロロホルム等のハロゲン化炭化水素などの有機溶媒に可溶であるため、成形性に非常に優れている。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例で得られた生分解性ポリウレタンについて、以下の方法に従って、破断伸長率及び破断強度を測定した。また、有機溶媒への溶解性を調査して成形性の指標とした。
【0020】
(破断伸長率−靭性−)
溶媒キャスト法により成型したフィルムを用いて、「JIS K6251 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じ、引張り速度は10mm/minにて測定した。
なお、下記評価基準に従って破断伸長率を評価し、靭性の指標とした。
◎:1000%以上
○:600%以上〜1000%未満
×:600%未満
【0021】
(破断強度)
破断伸長率と同様の操作によって破断強度を測定した。
なお、下記評価基準に従って破断強度を評価した。
◎:13MPa以上
○:5MPa以上、13MPa未満
×:5MPa未満
【0022】
(有機溶媒への溶解性−成形性−)
各例で得られた生分解性ポリウレタンの下記有機溶媒への溶解性を調査した。有機溶媒1質量部に対して、0.05質量部が目視にて完全に溶解していると判断できた場合に「可溶」と判断した。
(i)N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
(ii)ジメチルスルホキシド(DMSO)
(iii)テトラヒドロフラン(THF)
(iv)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)
(v)メタノール、エタノール、イソプロパノール
(vi)クロロホルム
なお、下記評価基準に従って評価し、成形性の指標とした。
◎:上記(i)〜(vi)の有機溶媒全てに対して可溶である
×:上記(i)〜(vi)の有機溶媒中、可溶であるものが3種以下である
【0023】
<実施例1>
フラスコに、生分解性ポリオールであるポリ−ε−カプロラクトンジオール25g(10mmol)を入れ、50〜60℃で溶解した。そこへ、リジンジイソシアネートメチルエステル8.48g(40mmol)を入れ、80℃で3時間反応させ、プレポリマーを得た。
次いで、フラスコにN,N−ジメチルホルムアミド80mLおよびスズ触媒を加えたのち、N,N−ジメチルホルムアミド80gと混合した1,4−ブタンジオール1.76g(20mmol)をフラスコ内に滴下しながら、室温で12時間反応させた。
得られた重合物を水での再沈殿によって精製し、生分解性ポリウレタンを得た。得られた生分解性ポリウレタンの破断伸長率及び破断強度を測定し、かつ有機溶媒への溶解性を調査して成形性の指標とした。結果を表1に示す。
【0024】
<実施例2、比較例1〜11>
実施例1において、表1に示す成分、使用量、プレポリマーとの反応時間に変更した以外は同様にして生分解性ポリウレタンを製造した。得られた生分解性ポリウレタンの破断伸長率及び破断強度を測定し、かつ有機溶媒への溶解性を調査して成形性の指標とした。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より、本発明の生分解性ポリウレタンは、強度が高く、かつ靭性及び成形性に優れていることがわかる。なお、かかる本発明の生分解性ポリウレタンは、分解後に有害なアミンを発生しないものである。
一方、比較例1〜5で得られた生分解性ポリウレタンは、生分解性ポリオールとしてPCL、ジイソシアネートとしてLDI、鎖延長剤として1,4−ブタンジアミンを用いて得られたものであり、成形性及び靭性に乏しく、中には、さらに強度が低くなっているものもある。
比較例6〜8で得られた生分解性ポリウレタンは、生分解性ポリオールとしてPCL、ジイソシアネートとしてLDI、鎖延長剤として1,3−プロパンジオールを用いて得られたものであり、成形性は良好であるが、靭性に乏しいうえ、中には強度が低くなっているものもある。
また、比較例9〜11で得られた生分解性ポリウレタンは、生分解性ポリオールとしてPCL、ジイソシアネートとしてBDI、鎖延長剤として1,4−ブタンジアミンを用いて得られたものであり、強度が高く、かつ靭性が良好であるが、成形性に乏しい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の生分解性ポリウレタンは、従来のポリウレタンの用途に用いることが可能である。例えば、ポリマーフィルムやポリマーシート、チューブ、フォーム、繊維としての一般的用途のほか、食品トレー、箸、スプーン、フォーク、コップ、ゴミ袋、保温ケース、ラップフィルム、スポンジ、ボトル、吸水シート、保湿シート、農業用マルチングフィルム、ディスクケース用基材、ポリマーステープル、ブリスターパック、ラミネート、医薬用マイクロカプセル、肥料や土壌改良剤用マイクロカプセル、縫合糸、注射筒、使い捨て衣料、骨折等治療用支持体または骨接合材、移植用装具または移植片、釣り糸、魚網、疑似餌、ゴルフボール、接着剤、ホットメルト接着剤、梱包用バンド、接着テープ、緩衝材、眼鏡フレーム、短繊維、長繊維、不織布、多孔性基材などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤を反応させて得られる生分解性ポリウレタンであって、
前記生分解性ポリオールがポリ−ε−カプロラクトンジオールであり、前記ジイソシアネートがリジンジイソシアネート又はブタンジイソシアネートであり、前記鎖延長剤が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする、生分解性ポリウレタン。
【請求項2】
前記生分解性ポリオールと前記ジイソシアネートとを反応させてプレポリマーを得た後、得られたプレポリマーと前記鎖延長剤とを反応させて得られる、請求項1に記載の生分解性ポリウレタン。
【請求項3】
前記生分解性ポリオールと前記鎖延長剤の使用比率(生分解性ポリオール:鎖延長剤)が、モル比で1:3〜3:1であり、かつ、前記生分解性ポリオールと前記鎖延長剤との合計モル数と、前記ジイソシアネートとの使用比率(「生分解性ポリオール+鎖延長剤」:ジイソシアネート)が、モル比で2:3〜3:2である、請求項1又は2に記載の生分解性ポリウレタン。
【請求項4】
前記ジイソシアネートがブタンジイソシアネートである、請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性ポリウレタン。

【公開番号】特開2012−62370(P2012−62370A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206151(P2010−206151)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】