説明

生分解性交互共重合体およびこれを用いた洗浄用ビルダー

【課題】生分解性を有し、かつ洗浄ビルダーとして有用な新規な交差共重合体およびこのものを用いた洗浄用ビルダーを提供する。
【解決手段】環状ケテンアセタールの開環によるエステル結合部位とα,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物の加水分解によるカルボン酸アルカリ金属塩を含む部位とが交互に配列された共生分解性交互共重合体。環状ケテンアセタールが下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の生分解性交互共重合体。
【化1】


(式中、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有する新規な交互共重合体およびこれを用いた洗剤ビルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗剤ビルダーとしては、ポリアクリル酸、無水マレイン酸−ビニルモノマー共重合体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどの高分子が用いられている(非特許文献1)。
しかしながら、このような高分子ビルダーは生分解性作用に劣り、また十分なビルダー能が得られないものが多かった。したがって、従来の高分子洗剤ビルダーは、使用後、湖水等中で生分解せず自然環境を汚染するため、生分解性の洗剤ビルダーの開発が強く望まれていた。
一方、水溶性交互共重合体としては、下記一般式で示される繰り返し単位を有するポリマーが知られているが(非特許文献2)、このものを洗浄ビルダーとして有用なポリマーに改質する試みはなされていなかった。
【化3】

【0003】
【非特許文献1】「日本化学会誌」(日本)1974年 No.9 p1724−1730
【非特許文献2】「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス パートA ポリマーケミストリー(Journal of Polymer Science PartA PolymerChemistry)」(アメリカ) 1989年 第27巻 p291-299
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生分解性を有し、かつ洗浄ビルダーとして有用な新規な交差共重合体およびこのものを用いた洗浄ビルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、生分解性を有するとともに洗浄ビルダーとしての特性を兼ね備えた新規なポリマーについて鋭意検討した結果、環状ケテンアセタール類と無水マレイン酸等との共重合体の特定な加水分解生成物が上記目的に合致することを知見し本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉環状ケテンアセタールの開環によるエステル結合部位とα,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物の加水分解によるカルボン酸アルカリ金属塩を含む部位とが交互に配列された共生分解性交互共重合体。
〈2〉環状ケテンアセタールが下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする〈1〉に記載の共生分解性交互共重合体。
【化1】

(式中、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す)
〈3〉α,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸であることを特徴とする〈1〉に記載の生分解性交互共重合体。
〈4〉下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有する〈1〉に記載の生分解性交互共重合体。
【化2】

(式中、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す。Mは、アルカリ金属原子を示す)
〈5〉〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載の生分解性交互共重合体を含有する洗浄用ビルダー。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る生分解性交互共重合体は、2‐メチレン‐1,3,6‐トリオキソカン(MTC)、2‐メチレン‐1,3‐ジオキセパン(MD)等の環状ケテンアセタールの開環によるエステル結合を有する部位と、無水マレイン酸の酸無水部の加水分解によるカルボン酸ナトリウム塩構造からなる部位が交互に配列された生分解性を有する共重合体である。
【0007】
これまでの水溶性ポリマーは、使用後、100%分解されず、環境汚染物質として大きな問題を引き起こしてきたが、本発明の水溶性交互共重合体は、使用後、湖沼、河川、海洋などの自然環境中で完全に分解され、従来の水溶性ポリマーに見られた公害問題を生ずることは無い。このものの使用用途は特に限定されないが、従来の水溶性ポリマーが使用できる用途のいずれにも使用できる。例えば、洗剤原料、金属イオン封鎖剤、スケール防止剤、陶土の解膠分散剤、鋼塊鋳造用鋳型塗料、焼入冷却剤、セメント分散剤、セラミック用分散剤、パップ型粘着剤、バインダー、高分子凝集剤、カーペット用コンパウンド増粘剤、パップ剤増粘保水剤、食品保水・湿潤剤、土壌改良剤、塗料、糊料増粘、粘着強化剤、食品添加剤、飼料用添加剤等が挙げられるが、特に洗浄ビルダーとして極めて有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の新規な交差共重合体は、環状ケテンアセタールの開環によるエステル結合部位とα,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物の加水分解によるカルボン酸アルカリ金属塩を含む部位とが交互に配列された構造を特徴としている。
【0009】
環状ケテンアセタールとしては、下記一般式(1)で示されるものが用いられる。
【化1】

(式中、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す)
これらの式において、R、Rは共に水素原子であるのが好ましく、また、これらが炭化水素基を示す場合、炭化水素基として好ましくはアルキル基やシクロアルキル基が挙げられ、また、Aとして好ましくは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよいアルキレン基、中でも炭素数2ないし6のアルキレン基や一般式
−〔(CH−O〕−(CH
(式中、kは2又は3、jは1又は2を示す)
で表される2価連結基が挙げられる。
【0010】
このような環状ケテンアセタール類としては、2‐メチレン‐1,3,6‐トリオキソカン(MTC)、2‐メチレン‐1,3‐ジオキセパン(MD)、2‐メチレン‐1,3‐ジオキサン、2‐メチレン‐4,8‐ジメチル‐1,3,6‐トリオキソカン、2‐メチレン‐4,7‐ジメチル‐1,3,6‐トリオキソカン、2‐メチレン‐5,7‐ジメチル‐1,3,6‐トリオキソカンなどが挙げられる。本発明で好ましく使用される環状ケテンアセタールは、MTCおよびMDであり、MTCが特に好ましい。
【0011】
また、α,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水ケイ皮酸、アルケニル無水コハク酸等が挙げられるが、無水マレイン酸が好ましい。
【0012】
本発明の生分解性交互共重合体は前記結合部位を有するものであるが、その中でも、下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【化2】

、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す。Mは、アルカリ金属原子を示す。
、R、Aの具体例としては、前述したものと同様な基を挙げることができる。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。
【0013】
上記共重合体は、重量平均分子量が通常、1000〜100000、好ましくは2000〜10000範囲であり、該共重合体において、環状ケテンアセタールの開環によるエステル結合部位とα,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物の加水分解によるカルボン酸アルカリ金属塩を含む部位の含有割合については、モル比で通常10:90〜90:10、好ましくは30:70〜70:30である。
【0014】
本発明に係る共重合体は、2‐メチレン‐1,3,6‐トリオキソカン(MTC)、2‐メチレン‐1,3‐ジオキセパン(MD)などの環状ケテンアセタールと無水マレイン酸(MA)などのα,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物を共重合させた後、酸無水部を炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液で加水分解することにより容易に得ることができる。
【0015】
上記共重合は、加熱、光・放射線照射、カチオン触媒使用等の重合条件下での重合反応、例えば光重合反応や電子線重合反応等によっても行われるが、好ましくはラジカル重合開始剤の存在下でラジカル重合反応させることにより行われる。
ラジカル重合開始剤としては、従来公知のもの、例えば、2,2´‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や、ジ‐t‐ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、1,1‐ビス(t‐ブチルペルオキシ)3,3,5‐トリメチルシロキサン等の有機過酸化物等が用いられる。
環状ケテンアセタールとβ‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物のモル比は特に制約はないが、5〜150モル好ましくは20〜100モルである。
重合反応は、10〜200℃、好ましくは40〜140℃で行われ、必要に応じ、不活性溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の炭化水素やハロゲン化炭化水素あるいはジメチルホルムアミドやテトラヒドロフランなどの窒素や酸素を含む有機溶媒の存在下で行うこともできる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0017】
実施例1
MTC 1.30g、MA 0.980g、AIBN 0.0656g、クロロベンゼン 11.26gをアンプル中で混合し、脱気封管した後、60℃で24時間加熱する。その後エーテル中に投入し、エーテル不溶部1.79gを得た。得られた共重合体の元素分析を行った結果、交互共重合体としての計算値と、実測値はよく一致した。結果を表1に示す。このMTC-MA交互共重合体の数平均分子量は4000であった。
【0018】
【表1】

【0019】
つぎに、このMTC-MA交互共重合体(エーテル不溶部)1.00gを水50mLに分散させ、0.01N炭酸ナトリウムをpH7.0になるまで滴下した。得られたカルボン酸ナトリウム塩を、溶媒を水として48時間透析した後、水を真空下除去し、カルボン酸ナトリウム塩0.086得た。
【0020】
実施例2
MTC 1.30g、MA 0.980g、ジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)0.0585g、クロロベンゼン11.26gをアンプル中で混合し、脱気封管した後、100℃で24時間加熱する。その後エーテル中に投入し、エーテル不溶部1.37gを得た。得られた共重合体の元素分析を行った結果、実施例1と同じく、交互共重合体としての計算値と、実測値はよく一致した。結果を表2に示す。このMTC-MA 交互共重合体の数平均分子量は6000であった。
【0021】
【表2】

【0022】
つぎに、このMTC-MA 交互共重合体(エーテル不溶部)1.00gを水50mLに分散させ、0.01N炭酸ナトリウムをpH7.0になるまで滴下した。得られたカルボン酸塩を溶媒を水として48時間透析した後、水を真空下除去し、カルボン酸ナトリウム塩0.071g得た。
【0023】
実施例3
MTC 1.30g、MA 0.980g、DTBP 0.0292g、クロロベンゼン11.26gをアンプル中で混合し、脱気封管した後、120℃で24時間加熱する。その後エーテル中に投入し、エーテル不溶部1.75gを得た。得られた共重合体の元素分析を行った結果、実施例1と同じく交互共重合体としての計算値と、実測値はよく一致した。結果を表3に示す。このMTC-MA交互共重合体の数平均分子量は7000であった。
【0024】
【表3】

【0025】
つぎに、このMTC-MA交互共重合体(エーテル不溶部)1.00gを水50mLに分散させ、0.01N炭酸ナトリウムをpH7.0になるまで滴下した。得られたカルボン酸ナトリウム塩を溶媒を水として48時間透析した後、水を真空下除去し、カルボン酸ナトリウム塩0.085gを得た。
【0026】
実施例4(カルシウムイオン捕捉能)
実施例1で得られた交互共重合体カルボン酸ナトリウム塩とドデシル硫酸ナトリウム塩の0.1%水溶液25mL(A)を6時間、30℃の恒温室で保存し、0.05N炭酸ナトリウムでA液のpHを6.5、7.1、8.6にそれぞれ調製する。また、炭酸カルシウム換算で0.1%になるように、塩化カルシウム2水和物水溶液500mL (B) を作成する。その後、Aを撹拌しながらBをビュレットから10秒に1滴の速度で滴定し、Bで滴定されたAの白く濁り始めた時のBの滴定量を読む。カルシウムイオン捕捉能を前記非特許文献1に従い、炭酸カルシウムの重さ(mg)/ A液中の交互共重合体カルボン酸ナトリウム塩の重さ(g)として表す。結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

表4から、交互共重合体カルボン酸ナトリウム塩は塩化カルシウムの捕捉能に優れていることが分かる。
【0028】
実施例5(緩衝能)
実施例1、2及び3で得られた交互共重合体カルボン酸ナトリウム塩0.5%水溶液50mL に、0.1255N塩酸をビュレットから滴下する。pH滴定曲線の初期勾配から緩衝能dB / dpHを算出した。(B : 滴定した塩酸の容積 mL)。結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

表5から、dB/dpH はいずれも高い値であり、塩酸が多く加えられても、pHが変化しにくい(下がりにくい)ことが分かる。
【0030】
実施例6(生分解性)
JIS K 6950 に従い、BODをクーロメーター(大倉電気 OM8001A)を用いて25℃で28日間測定した。なお、TODは158であった。結果を表6に示す。
【0031】
【表6】

表6から、BOD / TODは、いずれも60%を超え、満足な生分解性を持つ交互共重合体カルボン酸ナトリウム塩が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ケテンアセタールの開環によるエステル結合部位とα,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物の加水分解によるカルボン酸アルカリ金属塩を含む部位とが交互に配列された生分解性交互共重合体。
【請求項2】
環状ケテンアセタールが下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の生分解性交互共重合体。
【化1】

(式中、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す)
【請求項3】
α,β‐オレフィン性不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性交互共重合体。
【請求項4】
下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有する請求項1に記載の生分解性交互共重合体。
【化2】

(式中、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭化水素基を示すか、或いはRとRとそれらが結合する炭素原子とで脂環式環を形成し、Aは酸素原子が1個又は2個以上介在していてもよい2価炭化水素基を示す。Mは、アルカリ金属原子を示す)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性交互共重合体を含有する洗浄用ビルダー。

【公開番号】特開2008−24730(P2008−24730A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195087(P2006−195087)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】