説明

生分解性衛生材

【課題】製糸性、開繊性が良好であることから、スパンボンド法によって不織布化することが可能であり、得られた不織布は柔軟性に優れており、かつ不織布の後加工においても収縮が少なく、かつ使用後にコンポスト化処理の可能な生分解性衛生材を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする不織布からなる。脂肪族ポリエステル共重合体が構成繊維の表面の少なくとも一部を形成している。脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつや生理用品等のトップシートなどの部材に用いられる生分解性衛生材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、使い捨ておむつや生理用品などに代表される衛生用品の各部材として、種々の不織布が使われている。なかでもスパンボンド法によって得られる長繊維不織布は、比較的低目付であっても実用に耐え得るだけの強力を有し、かつ、柔軟性をも持ち合わせているため、重要な材料として認識されている。現在、主に、ポリプロピレンからなる長繊維不織布が衛生用品のトップシートとして用いられている。ところで、近年の環境問題の深刻化に伴い、衛生用品の大量廃棄が問題視されるようになり、リサイクルしやすい、あるいは生分解性能を持つような素材が求められている。しかし、生理用品の効率的な回収リサイクルは非常に困難なため、生分解性素材の利用が期待されている。
【0003】
このような問題を解決しようとする手段として、ポリ乳酸を主成分とする衛生材用生分解性不織布が開発されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1のものは、繊度を低くして低目付化を図ることで、ポリ乳酸系長繊維不織布としては柔軟なものを得ることが可能ではあるが、たとえばオムツのトップシートとして使用するにはポリ乳酸のもつシャリ感がどうしても拭いきれない。
【特許文献1】特開2002−242068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、製糸性、開繊性が良好であることから、スパンボンド法によって不織布化することが可能であり、得られた不織布は柔軟性に優れており、不織布の後加工においても収縮が少なく、かつ使用後にコンポスト化処理の可能な生分解性衛生材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、特定の重合体を接着成分とすることおよび特定の繊維断面とすることにより、上記課題を解決できるという知見を得て、本発明に到達した。
【0006】
すなわち上記課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
(1)ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成とする不織布からなり、前記脂肪族ポリエステル共重合体が前記構成繊維の表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋していることを特徴とする生分解性衛生材。
【0007】
(2)目付が15〜30g/mであり、柔軟度が15cN以上60cN以下であることを特徴とする(1)の生分解性衛生材。
【0008】
(3)複合長繊維は、昇温速度10℃/分で融解した後、降温速度10℃/分で示差熱分析したときに、脂肪族ポリエステル共重合体に起因する降温結晶化温度が存在し、この降温結晶化温度が75℃以上85℃以下であり、前記複合長繊維は、結晶化熱量が20J/g以上30J/g以下であることを特徴とする(1)または(2)の生分解性衛生材。
【0009】
(4)架橋した脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールが1,4-ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸であって、その融点がポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いものであることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかの生分解性衛生材。
【0010】
(5)脂肪族ポリエステル共重合体の融点をTmとして、(Tm−10)℃の雰囲気に5分間放置したときのタテ方向の熱収縮率が2%以下であることを特徴とする(1)から(4)までのいずれかの生分解性衛生材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生分解性衛生材は、ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする不織布からなり、前記脂肪族ポリエステル共重合体が前記構成繊維の表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋しているため、製糸性、開繊性が良好であり、したがってスパンボンド法によって不織布化することが可能であり、この不織布から得られた衛生材は柔軟性に優れており、衛生用品にする際の他の部材との熱シール等の後加工においても収縮が少なく、かつ使用後にコンポスト化処理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の生分解性衛生材は、不織布の構成繊維の形成成分として、ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の熱接着成分としての脂肪族ポリエステル共重合体とを含む。
【0013】
まず、ポリ乳酸系重合体について説明する。
本発明に用いるポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも、特にヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が、分解性能や低コストの点から好ましい。
【0014】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体であって、融点が150℃以上の重合体あるいはこれらのブレンド体を用いることが好ましい。ポリ乳酸系重合体の融点が150℃以上であると、高い結晶性を有しているため、熱処理加工時の収縮が発生しにくく、また、熱処理加工を安定して行うことができ、さらには、得られる長繊維不織布が耐熱性に優れるため、輸送時や保管時において実用的である。
【0015】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーでなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるように、モノマー成分の共重合比率を決定する。このためには、たとえばL−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合であると、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものを用いる。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、このため非晶性が高くなって、本発明の目的を達成し得ないことがある。
【0016】
次に、ポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体について説明する。この脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とする。
【0017】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。得られる共重合体の物性を考慮して、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0018】
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、これらの誘導体である酸無水物を用いてもよい。得られる共重合体の物性を考慮して、コハク酸または無水コハク酸、あるいはこれらとアジピン酸との混合物であることが好ましい。
【0019】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル乳酸、ロイシン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、メチル乳酸、カプロラクトン、バレロラクトン等が挙げられる。これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、2種以上併用してもよい。
【0020】
さらに、脂肪族ヒドロキシカルボン酸に光学異性体が存在する場合には、D体、L体またはラセミ体の何れを使用してもよく、また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、固体、液体またはオリゴマーであってもよい。
【0021】
脂肪族ポリエステル共重合体として、具体的には、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸である脂肪族ポリエステル共重合体、すなわちポリブチレンサクシネートに乳酸が共重合した共重合体を、好ましく用いることができる。このような脂肪族ポリエステル共重合体としては、例えば特許第3402006号明細書に記載されているものを使用することが好ましい。このような脂肪族ポリエステル共重合体として、具体的には、三菱化学社製、商品名「GSPla(結晶融点110℃)」を好ましく用いることができる。この「GSPla」を用いた場合は、脂肪族ポリエステル共重合体は、成分中に乳酸を共重合しているため、ポリ乳酸系重合体との相溶性が向上する。従って、溶融紡糸工程において良好に複合紡糸を行うことができる。なお、不織布化の際における熱接着性を良好にし、また得られる不織布のヒートシール性を良好にするためには、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体との融点差が50℃以上であることが好ましい。
【0022】
脂肪族ポリエステル共重合体は、原料の段階において有機過酸化物を溶融混合することが必要であり、それにより架橋が行われて、脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化速度が速くなる。このため、短繊維不織布などの製造工程に比べて、紡糸工程から冷却・延伸工程までが限られた短い距離とならざるを得ないスパンボンド不織布の製造工程においても、脂肪族ポリエステル共重合体を良好に冷却させて結晶化させることができる。これにより、開繊工程におけるブロッキングの発生を効果的に防止することができる。
【0023】
有機過酸化物は、試料1gを電熱板により4℃/分の速度で加熱したとき(急速加熱試験)に、分解を開始する温度(分解温度)が、90℃以上200℃以下であることが好ましい。分解温度が200℃よりも高いと、脂肪族ポリエステルとの溶融混合時にラジカルを発生しにくく、脂肪族ポリエステルが架橋反応を起こしにくくなる。また分解温度が90℃よりも低いと、有機過酸化物が脂肪族ポリエステル中に十分に分散する前にラジカルを発生しやすくなるため、局所的な反応が起こり、均一な架橋反応物が得られなかったり、時には局所的に爆発的な反応が起こったりする。なお、この分解温度は、有機化酸化物の純度によっても変化するため、有機過酸化物を含む組成物すなわち有機過酸化物組成物として純度を変化させて上記の範囲内に収めることも可能である。
【0024】
有機過酸化物として、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。
【0025】
溶融混合する際の有機過酸化物の配合量は、脂肪族ポリエステル共重合体100質量部に対して0.01〜1質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がより好ましく、0.01〜0.3質量部がいっそう好ましい。0.01質量部未満では所要の結晶化速度向上効果を発揮しにくく、また1質量部を超えると共重合体の粘度が高くなって溶融紡糸の際の紡糸性に劣る傾向となる。
【0026】
以上の点に関連して、有機過酸化物と溶融混合した脂肪族ポリエステル共重合体は、原料の段階において、DSC装置を用いて昇温速度500℃/分で200℃に昇温し、その状態で5分間ホールドさせて融解させた後、降温速度500℃/分で90℃に降温し、90℃でホールドして等温結晶化させて示差熱分析したときの結晶化速度指数が3分以下であることが好ましい。この結晶化速度指数は、重合体を200℃の溶融状態から冷却し90℃にて結晶化させたときに最終的に到達する結晶化度の2分の1に到達するまでの時間(分)で示され、指数が小さいほど結晶化速度が速いことを意味する。したがって、複合繊維の原料となる脂肪族ポリエステル共重合体として、結晶化速度指数が3分以下の結晶化速度の高いものを用いることで、溶融紡糸したときの冷却性が良好になって、開繊時にブロッキングを生じにくくすることができる。
【0027】
本発明者等は、本発明において原料である脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化速度が架橋により速くなるのは、以下の理由によると推定する。すなわち、脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合させることにより、共重合体に架橋が形成され、この架橋の部分が結晶化を促進する核剤として機能して、結晶化速度が速くなると推定する。
【0028】
本発明においては、脂肪族ポリエステル共重合体が、複合繊維の表面の少なくとも一部を形成する。このような繊維を構成するための繊維断面形態として、例えば、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体とが貼り合わされたサイドバイサイド型複合断面、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し脂肪族ポリエステル共重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型複合断面、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体とが繊維表面に交互に存在する分割型複合断面や多葉型複合断面等が挙げられる。脂肪族ポリエステル共重合体は後述のように熱接着成分としての役割を果たすものであるため、その点を考慮すると、脂肪族ポリエステル共重合体が繊維の全表面を形成している芯鞘型複合断面であることが好ましい。
【0029】
ポリ乳酸系重合体が繊維形成成分としての芯部を形成し、脂肪族ポリエステル共重合体が、不織布形態を維持するためや、他の部材と熱シールにより貼り合わせするための熱接着成分として機能する鞘部を形成した芯鞘型複合断面である場合において、芯部と鞘部の複合比(質量比)は、芯部/鞘部=3/1〜1/3であることが好ましい。芯部の比率が3/1を超えると、鞘部の比率が少なくなりすぎるため、熱接着性能に劣る傾向となり、長繊維不織布の形態保持性や機械的性能が劣る傾向となるうえに、十分なヒートシール性を得にくくなる。一方、芯部の比率が1/3未満となると、得られた不織布の機械的強度が不十分なものとなりやすい。
【0030】
高速紡糸に適したポリマーの粘度を選択することも、本発明における好ましい条件である。すなわち、ポリ乳酸系重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR1」と略記する)が10〜80g/10分であることが好ましく、20〜70g/10分であることがさらに好ましい。MFR1が10g/10分未満であると、粘性が高すぎて、製造工程において溶融時のスクリューへの負担が大きくなる。反対にMFR1が80g/10分を超える場合は、粘度が低すぎるため紡糸工程において糸切れが多発しやすく操業性を損なう傾向となる。
【0031】
一方、脂肪族ポリエステル共重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR2」と略記する)が20〜45g/10分であることが好ましい。MFR2が20g/10分未満であると、脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合した場合にそれにより架橋が行われて、粘性が高い重合体となってしまい、このため溶融紡糸工程において延伸張力に耐えきれずに糸切れが発生しやすくなる。一方、MFR2が45g/10分を超える場合は、脂肪族ポリエステル共重合体の重合度が小さいために、有機過酸化物を溶融混合しても十分な架橋反応が行われず、このため得られた重合体をスパンボンドの紡糸工程で十分に冷却させるだけの結晶化速度を得ることができにくくなる。
【0032】
脂肪族ポリエステル共重合体と有機過酸化物とを溶融混合して得られる重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR4」と略記する)が10〜30g/10分、温度230℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR5」と略記する)が、20〜45g/10分であることが好ましい。このように異なる温度におけるMFR4とMFR5との複数の値を規定するのは、一つの温度条件におけるMFR値だけでは架橋の度合いを確認しにくく、複数のMFR値によって初めて架橋の度合いを正しく確認できるためである。温度210℃のときのMFR4が10g/10分未満であると、溶融混合した重合体の架橋度合いが強くなるため、溶融紡糸工程においてゴム状弾性を示し、糸条が延伸張力に耐えきれなくなって、糸切れが発生しやすくなる。一方、温度230℃のときのMFR5が45g/10分を超える場合は、溶融混合した重合体の架橋度合いが弱くなるため、結晶化速度が低くなり、したがって糸条同士が開繊工程において密着してしまって、地合の劣る不織布となってしまうおそれがある。MFR4、MFR5のより好ましい範囲は、いずれにおいても、20〜30g/10分である。このようなより好ましい範囲とすることによって、紡糸工程、延伸工程、開繊工程のいずれも問題なく実行することができるとともに、地合の良好な不織布を得ることができる。
【0033】
なお、以下においては、脂肪族ポリエステル共重合体と有機過酸化物とを溶融混合した重合体の粘度として、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR3」と略記する)を用いることもある。
【0034】
本発明における不織布を構成する複合繊維の単糸繊度は、2〜7デシテックスであることが好ましい。脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合した重合体は架橋により粘性が高いために、単糸繊度が2デシテックス未満になると、紡糸工程において紡出糸条が延伸張力に耐えきれずに糸切れが頻繁に発生し、操業性が悪化しやすくなる。一方、単糸繊度が7デシテックスを超えると、肌に接した際に硬さを感じるようになり、衛生用品を装着した時に不快感をおぼえやすくなる。これらの理由により、単糸繊度は、3〜5デシテックスがより好ましい。
【0035】
本発明の生分解性衛生材の目付は、用いる部位に応じて適宜選択すればよく、特に限定しないが、一般的には15〜30g/mの範囲が好ましい。目付が15g/m未満であると、得られる不織布の構成繊維間の距離が大きく、孔が開いたような状態となるため、衛生用品のトップシートに用いた場合の着用時に濡れ戻りが生じやすく、不快に感じるおそれがある。また、機械的特性が実用性に乏しいものとなりやすい。逆に、目付が30g/mを越えると、不織布において構成繊維が密であるため、透水性に劣るばかりか、風合いも硬くなりやすい。
【0036】
本発明の生分解性衛生材は、JIS L 1906に記載のハンドルオメーター法に準じて測定した柔軟度が15cN以上60cN以下であることが好ましい。柔軟度が60cNを超えると、不織布の風合いが硬くなり衛生材として好ましくない。
【0037】
上記のようにポリ乳酸系長繊維の単糸繊度を3〜5デシテックスとし、衛生材の目付を15〜30g/mとして、これらの範囲でそれぞれ調整することにより、柔軟性に優れる衛生材用を得ることができる。
【0038】
本発明の生分解性衛生材においては、不織布を構成している複合長繊維を、昇温速度10℃/分で融解した後、降温速度10℃/分で示差熱分析したときに、熱接着成分となる架橋脂肪族ポリエステル共重合体に起因する降温結晶化温度Tccが存在し、かつこの降温結晶化温度Tccが75℃以上85℃以下であり、結晶化熱量Hexoが20J/g以上30J/g以下となる。降温結晶化温度Tccは、例えばヒートシール加工を施した場合のシール部が冷却して固化するときの温度を示すものであり、この温度が低いほど冷却時間がかかり、また、結晶化熱量Hexoは、冷却するに必要な能力であり、この値が小さい場合は、ヒートシール部がなかなか冷却固化しない現象が発生する。本発明においては、熱接着成分として架橋脂肪族ポリエステル共重合体を用いたことにより、架橋していない脂肪族ポリエステル共重合体よりも降温結晶化温度Tccを高く設定することができ、かつ結晶化熱量Hexoも大きくなり、すなわち降温結晶化温度Tccと結晶化熱量Hexoが上記範囲になり、このため本発明の衛生材を使用して衛生用品を製造する際に、ヒートシール加工がされる場合において、ヒートシール部の冷却固化が早くなり、生産性が向上することになる。
【0039】
本発明の生分解性衛生材は、熱接着成分として機能する低融点の脂肪族ポリエステル共重合体が架橋しているため、熱的に安定したものとなり、したがって、衛生用品に用いる際に、他の部材との熱シールによる貼り合わせやヒートシール加工等の後加工の際に熱収縮が発生しにくいという特長を有する。すなわち、本発明の生分解性衛生材は、具体的には、上述のように脂肪族ポリエステル共重合体の融点をTmとして、(Tm−10)℃の雰囲気に5分間放置したときのタテ方向の熱収縮率が2%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、下記の方法により実施した。
【0041】
(1)融点(℃):示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料質量を5mgとし、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0042】
(2)降温結晶化温度Tcc(℃)、結晶化熱量Hexo(J/g):パーキンエルマ社製の示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料質量を10mgとし、昇温速度を10℃/分として210℃まで昇温測定し、続いて降温速度を10℃/分として測定して得られた結晶化発熱曲線の発熱ピークの極値を与える温度を降温結晶化温度Tcc(℃)とした。また、得られた結晶化発熱曲線の発熱ピークの面積を結晶化熱量Hexo(J/g)とした。
【0043】
(3)繊度(デシテックス):ウエブ状態における50本の繊維の繊維径を光学顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0044】
(4)目付(g/m):標準状態の試料から、試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成し、平衡水分にした後、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0045】
(5)引張強力(N/5cm幅)および破断伸度(%):試料長20cm、試料幅5cmの試料片10点を作製し、各試料について、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製のテンシロンUTM−4−1−100)を用い、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸張し、得られた切断時破断荷重(N/5cm幅)の平均値を引張強力(N/5cm幅)とした。また、上記の切断時の伸度(%)の平均値を破断伸度とした。
【0046】
(6)柔軟度(cN):JIS L 1906に記載のハンドルオメーター法に準じて測定した。
【0047】
(7)肌ざわり性:不織布を手で触れた際の肌ざわり性につき、下記の3段階に官能評価した。
◎:軟らかく、肌ざわりがよい
△:ふつう
×:硬い
【0048】
(8)寸法安定性[乾熱収縮率(%)]:不織布を構成する芯鞘構造の繊維の鞘成分の融点をTmとしたときに、縦方向×横方向=20cm×20cmの試料を(Tm−10)℃の雰囲気下で5分間放置した後の縦横各辺の試料長をL(cm)として、下式によって算出した。そして、乾熱収縮率が縦方向、横方向とも2%以下のものを、寸法安定性が良好であると評価した。
(乾熱収縮率)={(20−L)/20}×100
【0049】
(9)生分解性:約58℃に維持された熟成コンポスト中に不織布を埋設し、3ヶ月後に取り出し、不織布がその形態を保持していない場合、あるいは、その形態を保持していも引張強力が埋設前の強力初期値に対して50%以下に低下している場合に、生分解性が良好であると評価し○で示した。これに対し、強力が埋設前の強力初期値に対して50%を超える場合に、生分解性能が不良であると評価し×で示した。
【0050】
(10)急速加熱試験の際の分解温度:有機過酸化物の試料1gを電熱板により4℃/分の速度で加熱したとき(急速加熱試験)に、分解を開始する温度を測定することにより求めた。
【0051】
(実施例1)
融点が168℃、MFR1が20g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.4/1.6モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体(以下、「P1」と略記する)を、芯成分として用意した。
【0052】
また、融点が110℃、190℃におけるMFR2が36g/10分である、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸および乳酸を構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体(三菱化学社製 商品名「GSPla」;以下、「P2」と略記する)と、下記の有機過酸化物とを190℃で溶融混合した重合体(チップ)をコンパウンド法により用意した。すなわち、脂肪族ポリエステル共重合体P2に、有機過酸化物として、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製 商品名「パーヘキサ25B−40」、純度40%、急速加熱試験での分解温度が125℃)を0.2質量部(有機過酸化物としては0.08質量部)の濃度で含まれるように添加し、190℃に温度設定された二軸混練機(東芝機械社製TEM−37BS)に供給した。その後、0.4mm径×3孔のダイスよりストランドを押し出した。引き続きこのストランドを冷却バスで冷却した後、ペレタイザーでカットして鞘成分の脂肪族ポリエステル共重合体(以下、「P3」と略記する)を採取した。その時の押し出し量は30kg/h、二軸混練機のスクリュー回転数は200rpmとした。
【0053】
得られた実施例1の脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化速度指数は、1.7分であった。また190℃におけるMFR3は13g/10分であった。有機過酸化物を溶融混練する前よりもMFRの値が低下したのは、有機過酸化物により架橋が起こって粘性が上昇したためであると思われる。なお、鞘成分の脂肪族ポリエステル共重合体P3の210℃におけるMFR4は20g/10分、230℃におけるMFR5は35g/10分であった。
【0054】
さらに、P1をベースとして結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%練り込み含有させたマスターバッチを用意した。
そして、P1とP3との複合比が、質量比で、P1:P3=1:1となるように、またP1の溶融重合体中にタルクが0.5質量%含まれるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて温度220℃で溶融し、芯鞘型複合繊維断面となる紡糸口金を用いて、上述のようにP1が芯部を構成しP3が鞘部を構成するように、単孔吐出量1.00g/分の条件で溶融紡糸した。
【0055】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度2100m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。開繊の際に、構成繊維の大部分が分繊され、密着糸および収束糸は認められず、開繊性は良好であった。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は、4.7デシテックスであった。
【0056】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mのポリ乳酸系長繊維不織布からなる衛生材を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を90℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0057】
得られた生分解性衛生材の性能を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例2)
単孔吐出量を0.7g/分とし、かつ牽引速度を1930m/分として、単糸繊度3.6デシテックスの複合長繊維を得たこと以外は実施例1と同様にして、生分解性衛生材を得た。
得られた生分解性衛生材の性能を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
不織布の目付を30g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、生分解性衛生材を得た。
得られた生分解性衛生材の性能を表1に示す。
【0061】
(実施例4)
P1をベースとして、タルクに代えて二酸化チタン(TI)を20質量%練り込み含有させた。そして、それ以外は実施例1と同様にして、生分解性衛生材を得た。
得られた生分解性衛生材の性能を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
芯成分として、実施例1で用いたP1を用いた。また、鞘成分として、実施例1で用いたP2に代えて、融点が110℃、190℃でのMFR2が20g/10分である、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸および乳酸を構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体(三菱化学社製 商品名「GSPla」)を用いた。
【0063】
有機過酸化物は、実施例1と同じものを、0.075質量部(有機過酸化物としては0.03質量部)の濃度で含まれるように添加した。そして、それ以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリエステル共重合体(以下、「P4」と略記する)を採取した。
【0064】
得られた脂肪族ポリエステル共重合体P4の結晶化速度指数は、1.3分であった。また190℃におけるMFR3は4g/10分であった。有機過酸化物を溶融混練する前よりもMFRの値が低下したのは、有機過酸化物により架橋が起こって粘性が上昇したためであると思われる。なお、脂肪族ポリエステル共重合体P4の210℃におけるMFR4は10g/10分、230℃におけるMFR5は22g/10分であった。
【0065】
さらに、P1をベースとして結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%練り込み含有したマスターバッチを用意した。
そして、P1とP4との複合比が、質量比で、P1:P4=2:1となるように、またP1の溶融重合体中にタルクが0.5質量%含まれるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて温度230℃で溶融し、芯鞘型複合繊維断面となる紡糸口金を用いて、上述のようにP1が芯部を構成しP4が鞘部を構成するように、単孔吐出量0.86g/分の条件で溶融紡糸した。
【0066】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度2000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。開繊の際に、構成繊維の大部分が分繊され、密着糸および収束糸は認められず、開繊性は良好であった。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は、4.8デシテックスであった。
【0067】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mのポリ乳酸系長繊維不織布からなる衛生材を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を90℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
得られた生分解性衛生材の性能を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
融点が168℃、MFR1が70g/10分であるL−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体を用い、これにタルクを0.5質量%含有させ、丸形の防止口金より、紡糸温度210℃、単孔吐出量1.67g/分で溶融紡糸した。次に、紡出糸条を冷却空気流にて冷却した後、引き続いてエアーサッカーにて5000m/分で引き取り、これを開繊し移動するコンベアの捕集面上に堆積して、ウエブを形成した。堆積させた繊維の単糸繊度は3.3デシテックスであった。
【0069】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mのポリ乳酸系長繊維不織布からなる生分解性衛生材を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を130℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
得られた生分解性衛生材の性能を表1に示す。
【0070】
実施例1〜5の衛生材は、実用的な強力を有するとともに、ポリ乳酸単相のみからなる構成繊維を用いた比較例1の衛生材と比べて、柔軟性、肌ざわり性に格段に優れるものであり、肌に直接触れる衛生用品の部材として好適に用いることができるものであった。また乾熱収縮率も小さく、ヒートシール処理を良好に行えるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする不織布からなり、前記脂肪族ポリエステル共重合体が前記構成繊維の表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋していることを特徴とする生分解性衛生材。
【請求項2】
目付が15〜30g/mであり、柔軟度が15cN以上60cN以下であることを特徴とする請求項1記載の生分解性衛生材。
【請求項3】
複合長繊維は、昇温速度10℃/分で融解した後、降温速度10℃/分で示差熱分析したときに、脂肪族ポリエステル共重合体に起因する降温結晶化温度が存在し、この降温結晶化温度が75℃以上85℃以下であり、前記複合長繊維は、結晶化熱量が20J/g以上30J/g以下であることを特徴とする請求項1または2記載の生分解性衛生材。
【請求項4】
架橋した脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールが1,4-ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸であって、その融点がポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いものであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の生分解性衛生材。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル共重合体の融点をTmとして、(Tm−10)℃の雰囲気に5分間放置したときのタテ方向の熱収縮率が2%以下であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の生分解性衛生材。

【公開番号】特開2008−95237(P2008−95237A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278213(P2006−278213)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】