説明

生分解性複合体

【課題】 本発明は、耐熱性、機械強度に優れ、生分解性が良好なバランスのとれた生分解性複合体を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、(1)(A)90〜99モル%のL―乳酸単位より構成されるポリ乳酸単位Aおよび(B)90〜99モル%のD―乳酸単位より構成されるポリ乳酸単位Bからなり、ポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bとの重量比が90:10〜10:90の範囲にあり、重量平均分子量が10万〜50万であり、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が80%以上であるステレオコンプレックスポリ乳酸、並びに
(2)天然繊維を含有し、
ステレオコンプレックスポリ乳酸と天然繊維との重量比が98:2〜1:99の範囲である生分解性複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再生可能資源を利用した生分解性複合体に関し、詳しくは高融点を有するステレオコンプレックスポリ乳酸と天然繊維とを含有する生分解性複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境低負荷という視点から、汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチック分野においても再生可能、供給持続可能なバイオマス資源を利用した素材が望まれており、その実現に向けた技術開発が進められている。
特に、でんぷんやセルロースなどの生体由来高分子は、生産量、コストの点で資源として有用であるが、汎用プラスチックに比べて、一般的に耐熱性、加工性、機械強度が低い点が指摘されており、それに代わるものとしてでんぷんから生化学的に得られる乳酸を原料とするポリ乳酸が脚光を浴びている。
さらに、LまたはD乳酸のみを原料とする光学活性なポリ乳酸は結晶性で約170℃の融点を有することが知られているが、これら光学的に対掌体であるポリL乳酸とポリD乳酸を混合することによって得られるステレオコンプレックスポリ乳酸はより高い200から240℃の融点を有することが知られているが、その力学的特性との両立についてはまだ十分達成されていない。
【0003】
一方、熱物性、機械物性改良の点では、セルロースあるいは各種の天然繊維を現行の汎用プラスチックとブレンドする方法があり、有る程度の物性改善や熱可塑性を有する組成物が達成されていることは従来公知である。しかしながらかかる方法では、ブレンドするプラスチックがセルロースとの親和性を持つことが必要であり、ポリビニルアルコールやポリアクリル系樹脂などの極性樹脂、脂肪族ポリエステルなどの比較的耐熱性の低い樹脂に限定されることが多く(例えば、特許文献1、2、3等参照。)、ブレンド体の用途は衣料用繊維、医療用フィルムなど狭い範囲に限定されると同時に、再生可能資源を100%に近い量用いることはさらに困難であった。
【0004】
前出のポリL乳酸を用いてこれら各種の天然繊維とのコンポジットを製造する方法が知られており、これであれば再生可能資源を極めて高い割合で用いることができるが、その一方でポリ乳酸の低い耐熱性のために、その用途が限定されていた。
【特許文献1】特開平11−117120号公報
【特許文献2】特開平10−316767号公報
【特許文献3】特開2001−335710号公報
【特許文献4】特許第2732554号公報
【特許文献5】特許第3099064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、生分解性と機械強度、耐熱性を高い水準で兼備する、立体成形品の材料として好適に用いることのできる生分解性複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定のステレオコンプレックスポリ乳酸と天然繊維を含有する複合体が、生分解性と機械強度、耐熱性を有することを見出し本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は、(1)(A)L―乳酸単位90〜99モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位Aおよび(B)D―乳酸単位90〜99モル%とL−乳酸単位および/または共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位Bからなり、ポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bとの重量比が90:10〜10:90の範囲にあり、重量平均分子量が10万〜50万であり、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が80%以上であるステレオコンプレックスポリ乳酸、並びに
(2)天然繊維を含有し、
ステレオコンプレックスポリ乳酸と天然繊維との重量比が98:2〜1:99の範囲である生分解性複合体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性、機械強度に優れ、生分解性が良好なバランスのとれた複合体およびその成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
<ステレオコンプレックスポリ乳酸>
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、下記化学式に示す、L−乳酸単位、D−乳酸単位を基本成分とする。
【0011】
【化1】

【0012】
ステレオコンプレックスポリ乳酸において、ポリ乳酸単位Aは、L−乳酸単位と、D−乳酸単位および/またはD−乳酸以外の共重合成分単位とから構成される。L−乳酸単位は、90〜99モル%、好ましくは91〜98モル%、さらに好ましくは94〜98モル%である。またD−乳酸単位および/またはD−乳酸以外の共重合成分単位は、1〜10モル%、好ましくは2〜9モル%、さらに好ましくは2〜6モル%である。
ポリ乳酸単位Bは、D−乳酸単位と、L−乳酸単位および/またはL−乳酸以外の共重合成分単位とから構成される。D−乳酸単位は、90〜99モル%、91〜98モル%、さらに好ましくは94〜98モル%である。またL−乳酸単位および/またはL−乳酸以外の共重合成分単位は、1〜10モル%、好ましくは2〜9モル%、さらに好ましくは2〜6モル%である。ポリ乳酸単位Aおよびポリ乳酸単位Bの重量平均分子量は10万〜50万、好ましくは10万〜30万である。
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位を単独、もしくは混合して用いることができる。
【0013】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
ポリ乳酸単位AおよびBの重量平均分子量は1003〜503である。
ポリ乳酸単位Aおよびポリ乳酸単位Bは、その末端基に各種の末端封止が施されたものを用いてもよい。このような末端封止基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、アミド基、ウレタン基、などを例示することが出来る。
【0014】
本発明におけるポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bとの重量比は、90:10〜10:90である。75:25〜25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60である。
【0015】
ステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
【0016】
本発明において、ステレオコンプレックスポリ乳酸は、(a)L―乳酸単位90〜99モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成され、融点が140〜170℃で、重量平均分子量が10万〜50万の結晶性ポリマーAと、
(b)D―乳酸単位90〜99モル%とL−乳酸単位および/または共重合成分単位1〜10モル%とにより構成され、融点が140〜170℃で、重量平均分子量が10万〜50万の結晶性ポリマーBとを、
ポリマーAとポリマーBとの重量比90:10〜10:90の範囲で共存させ、250〜300℃で熱処理することにより製造されたものであることが好ましい。
【0017】
結晶性ポリマーAおよびBは、下記式で表されるL−乳酸若しくはD−乳酸単位を有するポリ乳酸である。
【0018】
【化2】

【0019】
結晶性ポリマーAおよびポリマーBは、既知の任意のポリ乳酸の重合方法により製造方法することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法などにより製造することができる。
【0020】
結晶性ポリマーAは、L−乳酸単位と、D−乳酸単位および/またはD−乳酸以外の共重合成分単位とから構成されたポリ乳酸である。L−乳酸単位は、90〜99モル%、好ましくは91〜98モル%、さらに好ましくは94〜98モル%である。またD−乳酸単位および/またはD−乳酸以外の共重合成分単位は、1〜10モル%、好ましくは2〜9モル%、さらに好ましくは2〜6モル%である。
結晶性ポリマーBは、D−乳酸単位と、L−乳酸単位および/またはL−乳酸以外の共重合成分単位とから構成されたポリ乳酸である。D−乳酸単位は、90〜99モル%、好ましくは91〜98モル%、さらに好ましくは94〜98モル%である。またL−乳酸単位および/またはL−乳酸以外の共重合成分単位は、1〜10モル%、好ましくは2〜9モル%、さらに好ましくは2〜6モル%である。
結晶性ポリマーAおよびBの共重合成分は2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0021】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0022】
結晶性ポリマーAおよびBの融点は共に、140〜170℃、好ましくは140〜165℃、さらに好ましくは150〜160℃である。この範囲であれば、ポリマーAおよびB自身が高い結晶性を有し、高融点で結晶化度の高いステレオコンプレックスポリ乳酸が得られる。
結晶性ポリマーAおよびBの重量平均分子量は共に、10万から50万である。好ましくは10万〜30万である。なお、結晶性ポリマーAおよびBの重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
結晶性ポリマーAおよびポリマーBは、樹脂の熱安定性を損ねない範囲で重合に関わる触媒を含有していてもよい。このような触媒としては、各種のスズ化合物、チタン化合物、カルシウム化合物、有機酸類、無機酸類などを上げることが出来、さらに同時にこれらを不活性化する安定剤を共存させていてもよい。
結晶性ポリマーAとポリマーBとの共存比は、重量比で90:10〜10:90であるが、好ましくは75:25〜25:75であり、さらに好ましくは60:40〜40:60である。一方のポリマーの重量比が10未満であるかまたは、90を超えると、ホモ結晶化が優先してしまい、ステレオコンプレックスを形成し難くなるので好ましくない。
【0023】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリマーAとポリマーBとを上記比率の範囲で共存させ250〜300℃で熱処理することにより製造することが好ましい。
【0024】
熱処理に際して、ポリマーAとポリマーBとを混合することが好ましい。混合は、それらが熱処理したときに均一に混合される方法であればいかなる方法をとることも出来る。そのような方法として、結晶性ポリマーAとポリマーBとを、溶媒の存在下で混合した後、再沈殿して混合物を得る方法や、加熱により溶媒を除去して混合物を得る方法が例示できる。この場合には結晶性ポリマーAとポリマーBとを別々に溶媒に溶解した溶液を調製し両者を混合するか、結晶性ポリマーAとポリマーBとを一緒に溶媒に溶解させ混合することにより行うことが好ましい。
【0025】
溶媒は、結晶性ポリマーAおよびポリマーBが溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
【0026】
溶媒が存在しても、加熱することにより、溶媒が蒸発し、無溶媒の状態で熱処理することができる。溶媒の蒸発後(熱処理)の昇温速度は、長時間、熱処理をすると分解する可能性があるので短時間で行うのが好ましいが特に限定されるものではない。
また本発明においては、結晶性ポリマーAおよびBを溶媒の非存在下で混合することにより行うことができる。即ち、結晶性ポリマーAおよびポリマーBをあらかじめ粉体化あるいはチップ化したものを所定量混合した後に溶融し混練によって混合する方法、結晶性ポリマーAあるいはBいずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練し混合する方法を採用することができる。
【0027】
ここで、上記において粉体あるいはチップの大きさは、結晶性ポリマーAおよびBの粉体あるいはチップが均一に混合されれば特に限定されるものではないが、3mm以下が好ましく、さらには1から0.25mmのサイズであることが好ましい。溶融混合する場合、大きさに関係なく、ステレオコンプレックス結晶を形成するが、粉体あるいはチップを均一に混合した後に単に溶融する場合、粉体あるいはチップの直径が3mm以上の大きさになると、ホモ結晶も晶析するので好ましくない。
【0028】
ポリマーAおよびポリマーBを混合するために用いる混合装置としては、溶融によって混合する場合にはバッチ式の攪拌翼がついた反応器、連続式の反応器のほか、二軸あるいは一軸のエクストルーダー、粉体で混合する場合にはタンブラー式の粉体混合器、連続式の粉体混合器、各種のミリング装置などを好適に用いることができる。
【0029】
熱処理とは、結晶性ポリマーAおよび結晶性ポリマーBを上記重量比で共存させ250℃〜300℃の温度領域で維持することをいう。熱処理の温度は好ましくは280〜290℃である。300℃を超えると、分解反応を抑制するのが難しくなるので好ましくない。熱処理の時間は特に限定されるものではないが、0.2〜60分、好ましくは1〜20分である。熱処理時の雰囲気は、常圧の不活性雰囲気下、または減圧のいずれも適用可能である。
熱処理に用いる装置、方法としては、雰囲気調整を行いながら加熱できる装置、方法であれば用いることができるが、たとえば、バッチ式の反応器、連続式の反応器、二軸あるいは一軸のエクストルーダーなど、またはプレス機、流管式の押し出し機を用いて、成型しながら処理する方法をとることが出来る。
【0030】
<天然繊維>
本発明に用いる天然繊維は、その単繊維としての強度が、好ましくは200MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。この範囲であれば複合体として十分な力学物性を持ち、さらにフィラーとして混合する量が減るために成型表面の仕上がりなども良好な結果を得ることができるからである。
【0031】
天然繊維は、その繊維の直径が0.1μmから1mmの範囲、好ましくは1μmから500μmの範囲である。その繊維と直径の比からなるアスペクト比(長さ÷直径)が50以上であることが好ましい。この範囲であれば、樹脂と繊維との混合を良好に行うことができ、さらに複合化によって良好な物性の成型品を得ることができる。より好ましくは100〜500、さらに好ましくは100〜300である。
天然繊維は、前出の条件を満たすものであればどのようなものでも好適に用いることができるが、特にケナフ、竹、亜麻、麻、木材パルプ、木綿などの植物性繊維を好適に用いることができる。特に、廃材から得られる木質パルプや、排紙から得られるパルプ、ケナフを原料とする繊維は環境負荷が低く、再生能力が高いため非常に好ましい。
天然繊維は、その形態、強度が適切な範囲に保たれる方法であればいかなる方法によっても製造することができる。そのような方法としては、(i)化学パルピングによる繊維化、(ii)バイオパルピングによる繊維化、(iii)爆砕、(iv)機械的解砕などをあげることができる。
天然繊維はその表面が修飾されていてもよい。天然繊維の表面を修飾することによって、樹脂と繊維の界面の強度が増し、さらに耐久性などが増すような場合にはさらに好ましい。そのような修飾の方法としては、化学的に官能基を導入する方法、機械的に表面を疎化、あるいは滑化する方法、表面修飾剤を機械的刺激によって反応させる方法、などを例示することができる。
天然繊維は、単繊維であっても繊維の集合体であってもよい。
【0032】
生分解性複合体中のステレオコンプレックスポリ乳酸と天然繊維との重量比は、98:2から1:99である。好ましくは85:15から40:60、さらに好ましくは70:30から50:50である。
【0033】
<生分解性複合体の製造>
本発明の生分解性複合体は、例えば次のような方法で製造される。
(i)ステレオコンプレックスポリ乳酸を加熱溶融し、天然繊維を配合し、均一に混合分散させる方法;
(ii)予めステレオコンプレックスポリ乳酸のフィルムを作成し、その上に天然繊維を複数並べ、更にその上にステレオコンプレックスポリ乳酸のフィルムを重ねる。この操作を繰り返して得られた積層体をステレオコンプレックスポリ乳酸の融点以上に加熱し、複合化する方法;
(iii)予め賦形した天然繊維に微粒子化したステレオコンプレックスポリ乳酸を付着させ、これをステレオコンプレックスポリ乳酸の融点以上に加熱し複合化する方法;
(iv)ステレオコンプレックスポリ乳酸を繊維状に加工し、天然繊維と併せてヤーンを作り、これに所定の形状を与えた後、ステレオコンプレックスポリ乳酸のガラス転移温度以上に加熱し複合化する方法;などがあげられる。
【0034】
このようにして得られた本発明の生分解性複合体は、十分な強度を示すとともにステレオコンプレックスポリ乳酸、天然繊維ともに環境に負荷を与えることはないので、様々な成形品として好適に使用できる。特に強度を必要とする構造部材、建築材料はもちろんのこと、建具材料、建設仮設材などに好適である。本発明の生分解性複合体は、熱変形温度(HDT)が好ましくは240℃以下、さらに好ましくは200℃以下、さらに好ましくは170℃以下である。
【0035】
本発明の生分解性複合体には、その物性を改善するため、核剤、滑剤、安定化剤、酸化防止剤、界面活性剤、樹脂各種の添加物を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の生分解性複合体はシート、マットなどの成形体として種々の用途に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例をあげて更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例で製造した芳香族ポリエステル共重合体について、以下の測定を行った。
(1)結晶化点、融点、融解エンタルピーおよび195℃以上の融解ピークの割合:DSCを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定し、結晶化点(Tc)、融点(Tm)および融解エンタルピー(ΔHm)を求めた。195℃以上の融解ピークの割合(%)は、195℃以上(高温)の融解ピーク面積と140〜180℃(低温)融解ピーク面積から以下の式により算出した。
195以上(%)=A195以上/(A195以上+A140〜180)×100
195以上:195℃以上の融解ピークの割合
195以上:195℃以上の融解ピーク面積
140〜180:140〜180℃の融解ピーク面積
(2)還元粘度の測定:ステレオコンプレックスポリ乳酸の還元粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒10mlに対して試料120mgを溶解して得た溶液の35℃における粘度を測定した。単位はdl/gである。
(3)生分解性試験:生分解性複合体の生分解性は、実験室規模のコンポスト化装置を用いて評価した。養生コンポスト中での崩壊性を目視観察し、生分解性の有無を判定した。以下、具体的な手順について説明する。
【0038】
コンポスト容器(容積11リットル)に植種源として、多孔質木片(松下電工株式会社製バイオチップ)1.72kg、微細気孔を持つセルロース粒子(松下電工株式会社製バイオボール)0.075kg、に毎日野菜屑約1〜1.5kgを補充し、3時間に1度2分間撹拌し、1週間に1回手動にて鋤き込みし、水分50〜60%、pH7.5〜8.5、内温45〜55℃に保持した状態のコンポスト中に、生分解性複合体の成型品を入れ、所定時間後にフィルムをサンプリングした。30日間コンポスト処理した後の成型品の形状が明らかに崩壊しはじめている場合を分解性ありとした。
(4)熱変形温度(HDT):熱変形温度は、JIS K 7191記載の方法に準拠して求めた。
実施例
【0039】
(製造例1:ポリマーA1の製造)
L−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)48.75重量部とD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)1.25重量部を重合容器に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10-3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行いポリマーA1を製造した。得られたポリマーA1の還元粘度は1.48(mL/g)、重量平均分子量11万であった。融点(Tm)は158℃であった。結晶化点(Tc)は117℃であった。
【0040】
(製造例2:ポリマーB1の製造)
L−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)1.25重量部とD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)48.75重量部を用いた以外は製造例1と同様な操作を行い、ポリマーB1を製造した。ポリマーB1の還元粘度は1.69、重量平均分子量14万であった。融点(Tm)は155℃であった。結晶化点(Tc)は121℃であった。
【0041】
<実施例1>
ポリマーA1およびポリマーB1を等量、フラスコに加え、窒素置換後、280℃まで昇温し、280℃で3分間、溶融ブレンドを行った。得られた樹脂の重量平均分子量は11万で、還元粘度は1.46mL/gであり、ポリマーA1およびポリマーB1の分子量及び還元粘度と殆ど差は見られなかった。この樹脂についてDSCを測定を行った。その結果、DSCチャートには、融点207℃の融解ピークが観測され、その融解エンタルピーは40J/gであった。140〜180℃の融解ピークは観測されず、195℃以上の融解ピークの割合(R195以上)は100%であった。結晶化点は112℃であった。
【0042】
得られた樹脂3gをクロロホルム50mlに溶解して樹脂溶液とした。ケナフファイバー(繊維径200μm、繊維強度300MPa)のマット(厚み10mm)を12mm×120mm(重さ3g)を切り出して、樹脂溶液に浸漬して乾燥させた。乾燥後、170℃で熱プレスし、成型品を得た。得られた成型品のHDTは160℃であった。生分解性はありと判定された。
【0043】
<実施例2>
ポリマーA1およびポリマーB1を等量、フラスコに加え、窒素置換後、280℃まで昇温し、280℃で3分間、溶融ブレンドを行った。得られた樹脂の重量平均分子量は11万で、還元粘度は1.46mL/gであり、ポリマーA1およびポリマーB1の分子量及び還元粘度と殆ど差は見られなかった。この樹脂についてDSCを測定を行った。その結果、DSCチャートには、融点207℃の融解ピークが観測され、その融解エンタルピーは40J/gであった。140〜180℃の融解ピークは観測されず、195℃以上の融解ピークの割合(R195以上)は100%であった。結晶化点は112℃であった。
【0044】
得られた樹脂3gをクロロホルム50mlに溶解して樹脂溶液とした。ケナフファイバー(繊維径200μm、繊維強度300MPa)のマット(厚み10mm)を12mm×120mm(重さ3g)を切り出して、樹脂溶液に浸漬して乾燥させた。乾燥後、200℃で熱プレスし、成型品を得た。得られた成型品のHDTは、168℃であった。生分解性はありと判定された。
【0045】
<実施例3>
ポリマーA1およびポリマーB1のチップをそれぞれ35重量部および、ケナフチョップドファイバー(繊維径200μm、繊維長5mm、繊維強度300MPa)30重量部を混合した。この混合物を融解シリンダーの3つの温度設定ゾーンを投入口側からそれぞれ、200℃、230℃、265℃に設定した射出成型機(日精樹脂工業製小型射出成形機PS−20)に投入し、型温度90℃で射出成型して成型品を得た。得られた成型品のHDTは170℃であった。生分解性はありと判定された。
【0046】
<比較例>
L−ラクチド500重量部を用いて製造例1に準じた操作で合成したPLLA3gをクロロホルム50mlに溶解して樹脂溶液とした。ケナフファイバー(繊維径200μm、繊維強度300MPa)のマット(厚み10mm)を12mm×120mm(重さ3g)を切り出して、樹脂溶液に浸漬して乾燥させた。乾燥後、200℃で熱プレスし、成型品を得た。得られた成型品のHDTは、90℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の生分解性複合体は、耐熱性、機械強度に優れ、生分解性が良好であるので、汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチック分野においての利用が期待される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(A)L―乳酸単位90〜99モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位Aおよび(B)D―乳酸単位90〜99モル%とL−乳酸単位および/または共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位Bからなり、ポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bとの重量比が90:10〜10:90の範囲にあり、重量平均分子量が10万〜50万であり、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が80%以上であるステレオコンプレックスポリ乳酸、並びに
(2)天然繊維を含有し、
ステレオコンプレックスポリ乳酸と天然繊維との重量比が98:2〜1:99の範囲である生分解性複合体。
【請求項2】
ステレオコンプレックスポリ乳酸のポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bの重量比が40:60〜60:40の範囲にある請求項1に記載の生分解性複合体。
【請求項3】
ステレオコンプレックスポリ乳酸が、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、その融解エンタルピーが20J/g以上であることを特徴とする請求項1記載の生分解性複合体。
【請求項4】
ステレオコンプレックスポリ乳酸が、(a)L―乳酸単位90〜99モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成され、融点が140〜170℃で、重量平均分子量が10万〜50万の結晶性ポリマーAと、
(b)D―乳酸単位90〜99モル%とL−乳酸単位および/または共重合成分単位1〜10モル%とにより構成され、融点が140〜170℃で、重量平均分子量が10万〜50万の結晶性ポリマーBとを、
ポリマーAとポリマーBとの重量比90:10〜10:90の範囲で共存させ、250〜300℃で熱処理することにより製造されたものである請求項1記載の生分解性複合体。
【請求項5】
結晶性ポリマーAと結晶性ポリマーBとを、溶媒の存在下で混合するかまたは非存在下で混合し、熱処理することを特徴とする請求項4記載の生分解性複合体。
【請求項6】
天然繊維が、短繊維の引張強度が200MPa以上の繊維である請求項1記載の生分解性複合体。
【請求項7】
天然繊維が、直径0.1μm以上1mm以下であり、そのアスペクト比が20以上の繊維である請求項1記載の生分解性複合体。
【請求項8】
天然繊維がケナフから得られる繊維である請求項1記載の生分解性複合体。
【請求項9】
熱変形温度が150℃以上である請求項1記載の生分解性複合体。
【請求項10】
請求項1記載の生分解性複合体からなる成形体。
【請求項11】
請求項1記載の生分解性複合体からなるシート。
【請求項12】
請求項1記載の生分解性複合体からなるマット。


【公開番号】特開2006−45428(P2006−45428A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230978(P2004−230978)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【出願人】(303066965)株式会社ミューチュアル (33)
【出願人】(503313454)
【Fターム(参考)】