説明

生化学反応カセット

【課題】プローブ固定担体と反応チャンバを有する生化学反応カセットの検出面を保護する事が望まれているが、これまで安価かつ簡便な構造でこの目的を達成する方法はない。
そこで本発明の目的は、上記の問題点を解消した生化学反応カセットを提供することにある。
【解決手段】カセットの第一の面に検出用の第二の面を有し、作業者が第二の面を触れない程度、第二の面が第一の面よりも内部に配置されていることを特徴とする生化学反応カセットに関する。さらに本発明は、第一の面に対する第二の面の開口部の検出に影響しない部分に格子を設けたことを特徴とする生化学反応カセットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイ等の標的物質に特異的に結合できるプローブを担体に固定したプローブ固定担体を備えた生化学反応カセットに関する。特に、標的物質とプローブとの結合の検出結果に影響を与える検出用の面の汚染を低減させる構造を有する生化学反応カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体を分析する分析装置の多くは、抗原抗体反応を利用した免疫学的な方法又は核酸ハイブリダイゼーションを利用した方法を用いる。例えば、被検出物質に特異的に結合する抗体又は抗原等のタンパク質をプローブとして用いて、被検出物質を抗原抗体反応により捕捉する方法がある。或いは、一本鎖の核酸をプローブとして微粒子、ビーズ、ガラス板等の担体表面に固定し、被検出物質の核酸とハイブリダイゼーションをさせたりする方法もある。そして、酵素、蛍光性物質、もしくは発光性物質等の検知感度の高い標識物質を担持した特異的な相互作用を有する標識化物質を用いて、その抗原抗体反応や二本鎖の核酸の存在を検出し被検物質の有無の測定或いは定量測定を行っている。当該標識化物質の例としては、標識化抗体や標識化抗原又は標識化核酸等が挙げられる。
【0003】
これらの技術を発展させたものとして、例えば特許文献1には、互いに異なる塩基配列を有する多数のDNA(デオキシリボ核酸)プローブを、基板上にアレイ状に並べた所謂DNAマイクロアレイ(DNAチップ)が開示されている。
【0004】
ハイブリダイゼーション反応後、各々のスポットにおけるハイブリッドの有無を、例えば検出物質に予め標識しておいた蛍光色素、発光体などを光学的検出するなどの既知の方法で検出する。それによって、サンプル中における標的物質の有無あるいは量の検出を行うことができる。
【0005】
標的物質に含まれる蛍光色素を検出する場合は、例えば図1に示したように、励起光となる波長のレーザーをレーザー光源(104)から出力し、これをビームエキスパンダー(105)でビーム径を拡張し、ダイクロイックミラー(107)で反射させてDNAチップの基板表面に導く。ダイクロイックミラーは、用いるレーザーの波長および標識としての蛍光色素の種類によって適宜好適な物を選ぶことができる。
【0006】
また、ダイクロイックミラー(107)は、例えばガルバノによってDNAチップ上の読み取りたい位置にレーザー光を導くことができる。そしてfθレンズ(106)によって集光し、その部分に蛍光色素で標識された標的物質がある場合には、蛍光が発生する。この蛍光は、fθレンズ(106)を通り、ダイクロイックミラーは(107)を通過し、バンドパスフィルター(108)を通過し、集光レンズ(109)で集光されて光電子増倍管(110)に入る。光電増倍管で検出された信号は、不図示のマイクロコンピュータに集められ、位置情報と併せて、各スポットそれぞれの蛍光強度として処理される。
【0007】
このようなバイオアレイは医療分野、ゲノミクスなどのバイオ研究の分野などで多くの利用が期待されている。これに伴い特許文献2では、プローブアレイと試薬との反応チャンバ、試薬の流入口を備えたパッケージも開示されている。
【0008】
しかしながら、プローブ固定担体と反応チャンバとを有するパッケージ(以下、「生化学反応カセット」と呼ぶ)でプローブと標的物質を含む試料とを反応させ、読取装置でその反応の結果を検出する場面に、汚染によって正確な検出が行えない場合があるという問題があった。
【0009】
いずれの場合も励起光、蛍光、あるいは発光された光は、プローブ固定担体の基材あるいは生化学反応カセット天板を通過する。この際にプローブ固定担体の基材あるいは生化学反応カセット天板が汚れていると検出に影響がでる。すなわち、空気中の粉塵、検査者の手の接触等によって、生化学反応カセットのプローブ検出用の面などの部位が汚染され、正確な検出が行えないことがある。これに対し特許文献3では、検出用の面を保護する目的で露出可能に覆う方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、このような生化学反応カセットは通常梱包を開梱した後にすぐに使用される場合が多いため、粉塵などが検出面に付着することは少ない。それよりも作業者が開梱あるいは使用する装置にセットする際に誤って触れてしまい、汚してしまう可能性が高い。一般にこのような生化学反応カセットを用いるのは、研究者、技術者など有識者が多く、熟練した作業者であれば検出に影響する面を触ってしまう可能性は低いと言える。しかし、一度に大量に処理するような場合など、ちょっとした不注意で触ってしまう可能性も否定できない。
【0011】
【特許文献1】米国特許5,445,934号公報
【特許文献2】特開平08−166387号公報
【特許文献3】特開2006−132965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、プローブ固定担体と反応チャンバとを有する生化学反応カセットの検出用の面を接触等による汚染等から保護する事が望まれているが、これまで安価かつ簡便な構造でこの目的を達成する方法はなかった。そこで、本発明の目的は、上記の問題点を解消した生化学反応カセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかる生化学反応カセットは、標的物質検出用のプローブを固定するプローブ固定担体と、前記プローブに試料を反応させるための反応チャンバとを少なくとも有する標的物質検出用の生化学反応カセットであって、前記カセットの外装面の少なくとも1つの第一の面に対して前記カセットが有する検出用の少なくとも1つの第二の面が前記カセットの内側に凹んだ位置に設けられることで形成される少なくとも1つの凹み構造を有し、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明にかかる別の生化学反応カセットは、標的物質検出用のプローブを固定するプローブ固定担体と、前記プローブに試料を反応させるための反応チャンバとを少なくとも有する標的物質検出用の生化学反応カセットであって、前記生化学反応カセットの外装面の少なくとも1つの第一の面に対して前記生化学反応カセットが有する検出用の少なくとも1つの第二の面が前記カセットの内側に凹んだ位置に設けられることで形成される少なくとも1つの凹み構造を有し、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であって、前記少なくとも1つの第一の面に対する前記少なくとも1つの第二の面の開口部を通して検出に影響しない、前記少なくとも1つの凹み構造に少なくとも1つの接触防止部材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検出用の第二の面を生化学反応カセットの内部に特異的に配置することで、作業者等が不注意によって検出結果に影響を与える、前記検出用の第二の面への触れ、汚染等を最小限に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を詳細に説明する為に、以下に発明を実施する為の最良の形態を示す。なお、本実施形態は、本発明である生化学反応カセットの例であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
(第1実施形態)
本発明は、標的物質検出用プローブが固定されたプローブ固定担体と、標的物質を含む試料を反応させるための反応チャンバとを備えた生化学反応カセットにおいて、反応結果を検出するための生化学反応カセットが有する検出用の第二の面に誤って触れられる危険性を低減させる構造を有することを特徴とする。
【0018】
具体的に、本発明にかかる生化学反応カセットの第一実施形態は、標的物質検出用のプローブを固定するプローブ固定担体と、前記プローブに試料を反応させるための反応チャンバとを少なくとも有する標的物質検出用の生化学反応カセットであって、前記生化学反応カセットの外装面の少なくとも1つの第一の面に対して前記生化学反応カセットが有する検出用の少なくとも1つの第二の面が前記カセットの内側に凹んだ位置に設けられることで形成される少なくとも1つの凹み構造を有し、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であることを特徴とする。
【0019】
(定義)
本発明でいう「第一の面」は、生化学反応カセットの外装面をいい、具体的には、図6、図7、図8の111で示されている生化学反応カセットの天板部分や、図4、図5、図9の111で示される地板を言う。
【0020】
本発明でいう「第二の面」は、検出に影響する面、すなわち励起光、蛍光あるいは発光などの光が透過する面を言う。具体的には、生化学反応カセットの透明の天板の外表面、もしくは、プローブ固定担体の基材の外表面をいう。励起光がプローブ固定基材(101)を通過して蛍光色素を励起し、その蛍光を、基材を通して観測する場合では、その基材の外表面が「第二の面」である。励起光が天板を通過して蛍光色素を励起し、その蛍光を、天板を通して観測する場合では、その天板の外表面が「第二の面」である。例えば、図4、図5の112で示したプローブ固定基材(101)の外表面、図6、図7の検出面を言う。
【0021】
天板あるいは基材を通過した励起光によって励起され、その基材あるいはその天板を透過した蛍光を観測する場合は、検出に影響する面は天板表面と基材表面の両方を言う。例えば、図8の112もしくは図9の112等で示されている部分である。蛍光色素などによる蛍光ではなく、化学発光などのその他の発光を利用して観測する場合も同様に、発光が透過する天板あるいは基材の外表面を指す。
【0022】
本発明でいう「外表面」とは、生化学反応カセットの外装面に属する面であり、作業者による接触など、外部要素に触れる可能性のある面をいう。
【0023】
本発明でいう「凹み構造」とは、前記生化学反応カセットの外装面の第一の面に対して前記カセットが有する検出用の第二の面が前記生化学反応カセットの内側に凹んだ位置に設けられることで形成される空間をいう。また、第一の面が周りの生化学反応カセットの外装面より突出している場合は、その突起の先端の面を第一の面とし、第二の面との間で形成される空間をいう。例えば、図4もしくは図9の111で示されている面と112で示されている面とで構成されている空間である。
【0024】
本発明でいう「凹み構造の奥行き」とは、第二の面を第一の面より生化学反応カセットの内部に凹んだ位置に設ける場合においては第二の面と第一の面との垂直方向の距離を言う。また第一の面が周りの生化学反応カセットの外装面より突出している場合は、その突起の先端の面を第一の面とし、その第一の面と第二の面との垂直方向の距離を言う。例えば、図4もしくは図9の「d」で表している距離である。
【0025】
本発明でいう「開口部」とは、凹み構造内の第二の面の表面であり、第一の面のよって囲まれた第二の面の表面を意味する。例えば、図4で幅が「W」と「D」とで構成される表面、もしくは、図8で「W1」と「D1」とで構成されている表面である。
【0026】
本発明でいう「迫出し量」とは、本発明の生化学反応カセットを掴んだ場合、前記凹み構造に指が迫出す迫出し量である。この迫出し量は、掴む側(例えば、指(手)の大きさ、指(手)の柔らかさ、掴む強さなど)、掴まれる側(開口部の大きさ、形状、柔らかさなど)、その他の環境によって左右される。この中で特に開口部の大きさ及び形状には大きく影響されるが、その他の要因はそれほど大きいものではない。第二の面への接触による汚染の主な原因は、生化学反応カセットを掴むとき指による接触である。迫出し量が多ければ多いほど第二の面に指が触れ易くなり、第二の面を汚す可能性が高くなる。
【0027】
図4は第1実施形態の第1具体例の、図6は第1の実施形態の第2の具体例の、図8は第1実施形態の第3の具体例の、図9は第1実施形態の第4具体例の断面図及び平面図である。
【0028】
図4は、生化学反応カセットの外装面の第一の面111とプローブ固定担体の基材101の外表面の第二の面112とからなる1つの凹み構造もつ生化学反応カセットを示している。この第1具体例では、反応チャンバ113とプローブ固定担体の基材101とからなる生化学反応カセットと示している。第二の面112は第一の面111に較べて、生化学反応カセットの内側に凹んでいて、凹み構造の奥行きd(mm)の凹み構造を形成している。プローブ102を固定した固定担体の基材は接着剤114で生化学反応カセットに固定されている。
【0029】
図9は、突起(隆起)した化学反応カセットの外装面の第一の面111とプローブ固定担体の基材101の外表面の第二の面112とからなる1つの凹み構造もつ生化学反応カセットを示している。
【0030】
図4及び図9で示されている生化学反応カセットは、プローブを固定するプローブ固定担体である透明基材の外装面側における表面を第二の面とし、そこを通して標的物質に標識された蛍光色素を励起し、これから発せられた蛍光を同じく透明基材を通して検出する方法に用いられる。
【0031】
図6は、生化学反応カセットの外装面の第一の面111と反応チャンバ天板である生化学反応カセット天板103の外表面の第二の面112とから1つの凹み構造もつ生化学反応カセットを示している。図6で示されている生化学反応カセットは、反応チャンバ天板の外装面側における表面を第二の面とし、そこを通して標的物質に標識された蛍光色素を励起し、これから発せられた蛍光を同じく天板を通して検出する方法に用いられる。
【0032】
図8は、2以上の凹み構造を有する生化学反応カセットを示している。図4のように、外装面の第一の面111とプローブ固定担体の基材101の第二の面112とからなる1つ目の凹み構造と図6のように、外装面の第一の面111と反応チャンバ天板の外表面の第二の面112とからなる2つ目の凹み構造である。図8で示されている生化学反応カセットは、天板あるいは固定担体の基材を通して励起し、固定担体の基材あるいは天板を通して検出する方法に用いられることができる。
【0033】
次に凹み構造の奥行きdと当該凹み構造の開口部(第二の面の開口部)の関係について説明する。凹み構造の開口部の形状は長方形(正方形を含む)、開口部の幅を0.5、1.0、1.5、2.0、2.5mm、第二の面の開口部の短手方向の幅を0.5、0.8、1.0、1.5mmとした場合、この凹み構造に指が入り込んだ量を迫出し量として表1に示す。一般にカセットを掴む程度の強さは、200g乃至1kg程度の力であるが、少なくともこの範囲であれば表1で示した迫出し量からは大きくはずれない。
【0034】
【表1】

【0035】
図2のグラフは表1のデータをグラフ化したものである。図2からは、開口部の長手方向の幅と開口部の短手方向の幅とが最小である0.5の場合に、指の迫出し量が最小の1mmとなっていることが解る。すなわち、本実施形態の生化学反応カセットの少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であれば、指が第二の面に触れることはない。したがって、生化学反応カセットの少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であることが本発明を構成するための要件である。
【0036】
また、図2からわかるように、本発明では、開口部を長方形(正方形を含む)とした場合、第二の面の開口部の短手方向の幅が1.5cmであるとき、開口部の長手方向の幅の変化と共に、指の迫出し量が増大している。それに対して、第二の面の開口部の短手方向の幅が0.5cmであるとき、開口部の長手方向の幅によらずに、指の迫出し量は2.0mmに留まっている。第二の面の開口部の短手方向の幅が0.8cmであるとき、開口部の長手方向の幅によらずに、指の迫出し量は3.0mmに留まっている。第二の面の開口部の短手方向の幅が1.0cmであるとき、開口部の長手方向の幅によらずに、指の迫出し量は3.5mmに留まっている。
【0037】
したがって、第二の面の開口部の短手方向の幅が0.5cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約2mm以上であれば、第二の面に指が触れる恐れが極めて低くなる。同様に、第二の面の開口部の短手方向の幅が0.8cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約3mm以上であれば、第二の面に指が触れる恐れが極めて低くなる。第二の面の開口部の短手方向の幅が1.0cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約3.5mm以上であれば、第二の面に指が触れる恐れが極めて低くなる。第二の面の開口部の短手方向の幅が前記データの範囲内でかつ凹み構造の奥行きが前記データの範囲内であることは好ましい。
【0038】
さらに、表1のデータを面積換算したグラフを図3に示した。図3からわかるように、開口部の大きさが大きくなるほど、迫出し量も大きくなる。しかしながら、迫出し量の最小値は図2同様1.0mmであるため、本実施形態の生化学反応カセットの少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であれば、指が第二の面に触れることはない。
【0039】
前記同様に、指の迫出し量以上に凹み構造の奥行きを設けることができれば、指が第二の面に触れることはない。したがって、本発明では、開口部の面積が1cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約2.5mm以上、開口部の面積が2cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約3.5mm以上、開口部の面積が3cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約4.5mm以上であることが好ましい。
【0040】
この結果は一例であって、手(指)の状態、接触する角度、その他によって誤差がある。したがって、本発明の生化学反応カセットに設ける凹み構造の奥行きはこの迫出し量以上であって、マージンを設けるのがよい。マージンは適宜変更すればよく、例えば0mmを超え、2乃至4mmがよい。すなわち、開口部の大きさが1cm×0.8cmの場合、表1から迫出し量は約2.5mmであって、奥行きを2mmのマージンを取って4.5mm程度とするのがよい。なお、表1の結果並びに、図2、図3は一例であって、この数値に限定されるものではない。さらにはマージンの有無ならびにその大きさは適宜変更可能で、この範囲に限定されるものではない。
【0041】
また、本発明の凹み構造は上述した検出装置へセットする場合の位置合わせとして用いてもよい。例えば図4のように第二の面を第一の面を内部に配置する方法では、その開口部を利用して位置出しを行うことができる。図9のように第二の面の周りに突起状の第一の面がある場合では、その突起点で位置合わせをすることも可能である。
【0042】
(第二の実施形態)
本発明にかかる生化学反応カセットの第二実施形態は、標的物質検出用のプローブを固定するプローブ固定担体と、前記プローブに試料を反応させるための反応チャンバとを少なくとも有する標的物質検出用の生化学反応カセットであって、前記生化学反応カセットの外装面の少なくとも1つの第一の面に対して前記生化学反応カセットが有する検出用の少なくとも1つの第二の面が前記カセットの内側に凹んだ位置に設けられることで形成される少なくとも1つの凹み構造を有し、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であって、前記少なくとも1つの第一の面に対する前記少なくとも1つの第二の面の開口部を通して検出に影響しない、前記少なくとも1つの凹み構造に少なくとも1つの接触防止部材を設けることを特徴とする。
【0043】
前記のように、凹み構造の奥行きは大きいほど汚染の可能性は少なくなるが、生化学反応カセットの厚みが大きくなり嵩張ってしまう。また、プローブの種類が多くなり開口部が大きくなる場合、その凹み構造の奥行きを大きくする必要がある。例えば、各プローブのスポット間のピッチが100μmであって、約3万のスポットからなるバイオアレイを作製する場合、スポットパターンにもよるが約3cmの領域が必要になる。
【0044】
仮に1.5cm×2cmとした場合、表1から最低でも4.5mmの凹み構造の奥行きを設ける必要があり、これにマージン、基材の厚み、チャンバの厚み、天板の厚みを考慮すると生化学反応カセット全体の厚みが大きくなってしまう。さらには、開口部の面積が概ね3.75cmを超えると凹み構造の奥行きを大きくしても指が入ってしまう。
【0045】
そこで、本発明の第二実施形態は、前記第一実施形態示した生化学反応カセットの凹み構造にさらに接触防止部材を設ける生化学反応カセットである。図5及び図7はそれぞれ第2実施形態の第1及び第2具体例の断面図及び平面図である。
【0046】
本発明でいう接触防止部材とは、上記の方法を達成するために設ける部材であって、生化学反応カセットの天板などと同じ部材であっても、異なる部材をさらに設けてもよい。しかし製造の工程を考えると、生化学反応カセットの天板などを成型によって作製する場合などは、一体成型することが好ましい。また、検出に影響しない部材が好ましく、例えば励起光、蛍光あるいは発光などの光が散乱しないよう、黒色あるいは透明などが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0047】
このように開口部が大きい場合には、接触防止部材を設け、接触防止部材によって分割された1つあたりの第二の面の大きさを小さくすることで、凹み構造の奥行きの大きさを抑えることが可能である。
【0048】
例えば先の例では、開口部の大きさが1.5cm×2cmであったが、これを接触防止部材によって6分割し、1つあたりの第二の面の大きさを0.5cm×1cmとすれば、迫出し量は2mmとなる。これにマージンとして2mmを加えても、凹み構造の奥行きは4mmとなる。
【0049】
この接触防止部材は、検出に影響しない場所に取り付ける。例えば、プローブ固定基材に励起光を透過させて、標的物質の有する蛍光色素が励起され、その蛍光が基材を透過して、それを検出するような系では、接触防止部材によって励起光ならびに蛍光が遮られるため、接触防止部材はプローブの固定されていない部分に設置する必要がある。この接触防止部材は複数設けてもよく、また接触防止部材表面(116)が第一の面(111)と同一平面でなくてもよい。さらには接触防止部材によって分断された開口部は同じ面積を持ったものでなくてもよく、プローブのスポットパターンや検出装置の構造などによって適宜変更できる。
【0050】
また、図1のような系では、バンドパスフィルターを設けてはいるが、基材によるレーザー光の全反射を観測しないように若干の傾きを設け、レーザー光が基材に垂直に当たらないようにする場合もある。このような場合は、レーザー光、蛍光の光路を考慮して接触防止部材の設置場所を設定する必要がある。
【0051】
本発明では、接触防止部材によって分割される各開口部の面積が0.5cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約2mm以上であることが好ましい。また、各開口部の面積が1cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約2.5mm以上であることが好ましい。また、各開口部の面積が2cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約3.5mm以上であることが好ましい。また、各開口部の面積が3cm以下でかつ凹み構造の奥行きが約4.5mm以上、であることが好ましい。
【0052】
さらに、本発明の第2実施形態は図5のような接触防止部材を設けた場合はその接触防止部材を用いて位置合わせをすることも可能である。接触防止部材の設け方は適宜変更可能であり、接触防止部材の設置個数は1本とは限らず、必要によって複数設置可能である。さらに接触防止部材面と第一の面とは同一である必要はない。
【0053】
本発明の好ましい実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態であるが、そこに限定しない。また、この2つの好ましい実施形態及び他の実施形態においても共通する構造部材等に関しては以下の通りである。
【0054】
プローブ固定担体の基材としては、プローブを固定し、得られたプローブ固定担体を用いて標的物質を検出あるいは分離するのに支障のない物であれば特に限定される物ではない。例えばDNAチップを例に挙げるのであれば、標的物質の検出や汎用性を考慮すると、ガラス基板やプラスティック基板が好ましく、さらにはアルカリ成分などが含まれない無アルカリガラス基板や石英ガラス基板が特に好ましい。
【0055】
プローブを基材上に固定する方法としてはさまざまな方法が知られている。DNAを例に挙げるならば、基材上においてプローブの合成を行うことにより基材上に固定する方法と、予め用意されたプローブをピンもしくはスタンプあるいはインクジェット法などにより基材上に付与することにより固定する方法とがある。
【0056】
基体の選択された領域からアクチベ−タ−によって保護基を除去し、除去可能な保護基を有するモノマーを前記領域に結合させることを繰返し、基体上で種々の配列を有するポリマーを合成する方法を用いることができる。
【0057】
また、基材及び該基材上に担持されたカルボジイミド基を有する高分子化合物よりなる固定用の材料と、カルボジイミド基との反応性を有する生物学的に活性な物質を接触させることにより固定する方法を用いることができる。また、生物学的に活性な物質の検出において、カルボジイミドを有する化合物上にカルボジイミド基を介して固定化することを用いて検出する方法を用いることができる。
【0058】
更に、末端部にチオール基を有するDNA断片と、チオール基と反応し共有結合可能な官能基を導入した固相基材とを液相にて接触させることによる、DNA断片の固相基材表面への固定方法を用いることができる。チオール基と反応して共有結合を形成し得る反応性置換基としては、具体的にはマレイミジル基、α、β−不飽和カルボニル基、α−ハロカルボニル基、ハロゲン化アルキル基、アジリジン基およびジスルフィド基からなる群より選ばれる基を含む置換基である。
【0059】
プローブの固定化方法に関しては、上述のようにDNA断片の固定方法だけでも多くの方法が知られているが、本発明ではプローブ種類やその固定メカニズムに関しては特に限定される物ではない。
【0060】
また、プローブを基材上に付与する方法としては、プローブを水性媒体に溶解あるいは分散した水性液を、インクジェット法、ピン法などにより塩基性基を有する基材にスポットする。
【0061】
スポッティング方法に関し、上述した方法の中でも特にインクジェット法は高速、高密度で尚且つ正確なスポッティングができることから好適なスポッティング方法である。インクジェット法とは、ごく細いノズルの中にプローブを含む溶媒を入れ、ノズルの先端近くを瞬間的に加圧ないし加熱し、ノズルの先端から正確に極微量のプローブを含む溶媒を飛び出させ、空間を飛翔させて基材面に付着させるというものである。
【0062】
プローブ媒体に含まれる成分はプローブ媒体としてインクジェットヘッドから吐出させた時にプローブに対して実質的に影響を与えないものであって、基材上に正常に吐出可能であれば特に限定されるものではない。例えば、インクジェットヘッドが媒体に熱エネルギーを付与して吐出させる機構を備える場合、グリセリン、チオジグリコール、イソプロピルアルコール、アセチレンアルコールを含む液体はプローブ媒体に含まれる成分として好ましいものである。更に具体的に述べるのであれば、グリセリン5〜10重量%、チオジグリコール5〜10重量%、アセチレンアルコール0.5〜1重量%を含む液体がプローブ媒体として好適に用いられる。
【0063】
また、インクジェットヘッドが圧電素子を用いて媒体を吐出させる場合、エチレングリコール、イソプロピルアルコールを含む液体はプローブ媒体に含まれる成分として好ましいものである。更に具体的には、エチレングリコール5〜10重量%、イソプロピルアルコール0.5〜2重量%を含む液体がプローブ媒体として好適に用いられる。
【0064】
このようにして得られたプローブ媒体をインクジェットヘッドより吐出させ基材上に付着させた時、スポットの形状が円形で、また吐出された範囲が広がることがない。高密度にプローブ媒体をスポッティングした場合にも、隣接するスポットとの連結を有効に抑えることができる。
【0065】
標的物質のプローブへの結合力(結合量)を正確に測定しようとした場合、各プローブが同じ形状で、同じ量が結合されていることが望ましい。このようなことからインクジェット方式は非常に好ましいスポット法と言える。
【0066】
また、プローブを担持するプローブ固定担体の基材の形状は制約されるものではないが、反応チャンバを形成し、生化学反応カセットに組み立てやすい形状が好ましい。例えば厚さ0.5乃至は1.5mmの厚さの板状基材であって、サイズは一辺が0.5乃至10センチメートルの長方形(正方形を含む)であることが好ましい。この形状にかかわらず楕円形その他の形状とすることも可能であり、その形状は限定されるものではない。
【0067】
プローブを担持するプローブ固定担体の基板を切断してプローブ固定担体を形成する場合には、例えば以下の方法がある。
1.ダイヤモンド・カッターを用いて基板表面を罫書いて、基板の表面にスクライブ・ラインを形成し、衝撃ブレーキングによりスクライブ・ラインで破断し、小チップ化する。(スクライブ&ブレーキング法)
2.ダイシング装置を使って切断する。
3.ダイシング装置を用いて切り代を残して切断し、その後、破断する。
4.レーザー切断法による切断する。
5.高分子材料の場合には、切削カッターによる切断方法も適用できる。
6.射出成型法の場合には、その形状・サイズに対応した金型を使用することによって可能である。
【0068】
前記1乃至4の方法は、半導体のダイシングでよく使われている方法で、シリコン基板、石英基板および石英ガラスのような材料のダイシングに適している。
【0069】
ダイシング装置を用いる場合、ダイシング中のブレードを冷却するためにブレードに冷却水を供給する必要がある。更に、ダイシング中に生成される基板の切削粒子によりプローブ担体の剥離や特性変化がないことが必要である。
【0070】
上記のスクライブ&ブレーキング法はウェット・プロセスを含まないドライ・プロセスなので、プローブ担体の切断加工には適している。
【0071】
反応チャンバは、プローブと標的物質との反応に影響しない材料で、反応の検出に影響せず、反応空間の加工性があれば、特に制限はない。一般には射出成型に適した高分子材料、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などのプラスティックが用いられる。
【0072】
プローブ固定担体と反応チャンバとの接着には、基板材料・カバー材料・ハイブリダイゼーション処理に影響を与えない接着剤であれば、特に制限はないが、本発明では液状シリコーンシール剤を用いることが好ましい。基板材料およびカバー材料が両方ともプラスティックである場合には、超音波溶着やレーザー溶着も使用することができる。
【0073】
このようにして作製された生化学反応カセットは、医療分野、ゲノミクスなどのバイオ研究の分野などで多く利用されている。プローブあるいは標的物質の種類によってその使用法は異なるが、プローブ、標的物質が核酸であるDNAチップを例に挙げて説明する。
【0074】
例えば、サンプル中に含まれている可能性のある、塩基配列が既知の標的物質である一本鎖核酸の検出に用いる場合は、標的物質の一本鎖核酸の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸をプローブとして用いる。標的物質として、プローブを含む複数のスポットが固相上に配置されているプローブ固定担体を用意し、プローブ固定担体の各々のスポットに、検知物質を含むサンプルを付与して該標的物質の一本鎖核酸とプローブとがハイブリダイズするような条件下におく。
【0075】
また、サンプル中に含まれている標的一本鎖核酸の塩基配列の特定に用いる場合は、その塩基配列に対して複数の部分を設定し、その塩基配列群に対して各々相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸をプローブとして基材上にスポッティングする。次いで、各々のスポットにサンプルを供給して標的物質の一本鎖核酸とプローブとがハイブリダイズするような条件下におく。
【0076】
また本発明に係わるプローブ固定担体の他の用途としては、例えばDNA結合蛋白質が認識する特異的な塩基配列のスクリーニングやDNAに結合する性質を有する化学物質のスクリーニングへの適用がある。
【0077】
ハイブリダイゼーションは標識した試料核酸断片が溶解あるいは分散した水性液を、上記で作製したDNAチップ上に付与することによって実施することが好ましい。
【0078】
ハイブリダイゼーションは、室温〜70℃の温度範囲で、そして2〜20時間の範囲で実施することが好ましい。ハイブリダイゼーション終了後、界面活性剤と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応の試料核酸断片を除去することが好ましい。
【0079】
界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが特に好ましい。
【0080】
前記のように、一般的に、蛍光を用いて検出する方法としては、プローブを固定するプローブ固定担体の透明基材を通して標的物質に標識された蛍光色素を励起し、これから発せられた励起光を同じく透明基材を通して検出する方法がある。逆に反応チャンバ天板を通して励起し、同じく天板を通して検出する方法、天板あるいは固定担体の基材を通して励起し、固定担体の基材あるいは天板を通して検出する方法もある。この反応を検出するため、予め標的核酸に標識した蛍光色素を検出する装置にセットする。この装置は上述した例が使用可能である。
【0081】
発光試薬を用いて検出する場合は、プローブ固定担体の基材を通過した光を検出する方法、チャンバ天板を通過した光を検出する方法がある。なお、本検出方法は一例であり、例えばレーザー光をビームエキスパンダーによってプローブ固定領域全体に拡げて全検出範囲を一度に励起し、これをCCD、CMOSといった撮像素子を用いて観測する方法などが利用でき、本発明を限定するものではない。
【0082】
また、本発明の生化学反応カセットの一例としては、標的物質を検出するプローブを担持するプローブ固定担体と、前記プローブと検体中の標的物質との反応を行わせるための反応チャンバと、前記反応チャンバに連通した流路・ポート(連通孔)とから構成される。しかしながら、これには限定されない。
【0083】
このようにして作製された生化学反応カセットは、上述したハイブリダイゼーション反応を行うことができる。例えば不図示の試料液流入口より、標的核酸を含む試料液を注入し、不図示の方法によって加温する。必要によって不図示の方法により液を攪拌することが好ましい。ハイブリダイゼーション反応の終了後、不図示の流出口から試料液を排出し、必要によっては未反応の標的核酸を除去しても良い。なお、これら生化学反応はこの方法に限定される物ではなく、一般的な方法が適用可能である。
【0084】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例における、寸法、形状、材質、プロセス条件等は本発明の一例であり、本発明の技術的範囲を満たす範囲内であれば、設計事項として任意に変更することができるものである。
【0085】
実施例
(実施例1〜15)
(1)基体の作製
合成石英製のスライドガラス(1インチ×3インチ、厚さ1mm)を予め60℃に加温した1mol/l水酸化ナトリウム水溶液にガラス基板を10分間浸した。引き続き純水流水中で十分にすすぎ、スライドガラスに付着した水酸化ナトリウムを水洗、除去した。十分にすすいだ後、純水中にスライドガラスを浸漬し、超音波洗浄を10分間行った。超音波洗浄後、純水流水中で十分にすすぎ、スライドガラスに付着したパーティクルを水洗、除去した。その後、このスライドガラスをスピンドライで乾燥させた。
アミノシランカップリング剤(商品名:KBM−603;信越化学工業(株)社製)を1重量%になるように溶解して30分間撹拌し、この水溶液にスライドガラスを30分間浸漬させた後取り出して水で洗浄し、オーブン中に入れ120℃で1時間乾燥させた。
【0086】
(2)プローブの合成
本実施例においてプローブは、検出しようとする標的核酸の全部に対して相補的な塩基配列を有し、標的核酸の塩基配列と特異的にハイブリダイズ(交雑反応)することで標的核酸を検出する一本鎖核酸を用いた。DNA自動合成機を用いて配列番号1の配列からなる一本鎖核酸を合成した。なお、この一本鎖DNA末端にはDNA自動合成機での合成時にチオールモディファイア(Thiol−Modifier)(グレンリサーチ(Glen Research)社製)を用いることによってチオール基を導入した。続いて通常の脱保護を行い、DNAを回収し、高速液体クロマトグラフィーにて精製し、以下の実験に用いた;
5’HS−(CH2)6−O−PO2−O−ACTGGCCGTCGTTTTACA3’(配列番号:1)。
【0087】
(3)プローブの固定
上記(2)で合成したDNA断片(配列番号1)をグリセリン7.5重量%、尿素7.5重量%、チオジグリコール7.5重量%、アセチレンアルコール(商品名:アセチレノールE100;川研ファインケミカル(株)社製)1重量%を含む水溶液に、0.6ODになるよう溶解させた。なお、オリゴヌクレオチドを1mlに溶解し、1cmの光路長のセルにおいて260nmの吸光度が1となる量が1ODである。
このDNA断片を含む水溶液をバブルジェット(登録商標)プリンター(商品名:BJ−F850;キヤノン(株)社製を平板への印刷が可能なように改造を施したもので、BJヘッドとスライドガラスの間隔は約1mm、吐出量は約4plである。)を用い、上記(1)の方法によって作製したスライドガラスに別々にスポッティングし、DNAチップを作製した。この際、15倍のルーペによる観測ではサテライトスポット(液体が固相表面に着弾したときの飛沫に由来するスポット)は観測されなかった。
プローブを含む溶液をスポッティングしたスライドガラスを室温で10分間放置し、1M NaCl/50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)、次いで純水で洗浄し、スピンドライを行った。
【0088】
(4)生化学反応カセットの作製
(3)で作製したプローブ(102)を固定した基材(101)をダイシング装置により表2の大きさに切断した。続いて図4のように、切断したプローブ固定基材(101)とカセット(103)部材を接着剤(114)で固定した。
【0089】
カセット(103)はポリカーボネート樹脂を用いて射出成型により作製した。これらを接着することにより反応チャンバ(113)を形成した。接着剤は基材とカセット部材を接着することが可能である液状シリコーンシール剤TSE397(GE東芝シリコーン株式会社製)を用いた。
【0090】
反応チャンバのサイズは、プローブ種類、標的物質の種類、濃度、液量などにより適宜設計することができるが、本実施例では厚み0.5mmとし、大きさは表2の通りとした。反応チャンバ(113)には不図示の試料液の流入口、排出口が設けられている。
【0091】
【表2】

【0092】
ここで、第一の面(111)である外装面よりも第二の面(112)である検出面を内部に配置し、表2の通り第二の面の凹み構造の奥行き(d)を設けた。第一の面の開口部は基材サイズより若干大きく表2のように設計した。
【0093】
実施例1〜5では表1であげた迫出し量に加え、1.5乃至2mmのマージンを加えて凹み量を設けた。各例の生化学反応カセットを用いて、市販の生化学処理装置(サーマルサイクラー、ハイブリダイゼーション装置、液体分注装置、蛍光検出装置)を利用して生化学反応カセットの配置および生化学反応処理をそれぞれ10回繰り返した。その後、検出面を目視で確認したところ、全ての実施例において明らかな汚染を確認することはできなかった。光学顕微鏡で検出面を検査したところ、実施例1〜5の生化学反応カセットでは、指による汚染は皆無であった。これに対して、実施例11〜15のカセットでは、検出面が皮脂によって汚染されたものが見つかった。また、マージンを設けなかった実施例6〜10でも皮脂による汚染は確認できなかった。
実施例1〜15においては、意図的に検出面に指を触れさせない限り、検出面を汚染することはなかった。特に、実施例1〜5においては、意図的に指を押し込んでも検出面が汚れることはなかった。
【0094】
(実施例16〜27)
格子を設けた場合の本実施例を図5に示した。実施例1〜15と同様の方法で生化学反応カセットを作製し、後から格子を設けた。格子の材質としてはカセットと同じポリカーボネート樹脂を用いて作製し、液状シリコーンシール剤TSE397(GE東芝シリコーン株式会社製)を用いてカセットに接着した。開口部のサイズは表3の通りとした。
【0095】
なお、格子を後から設けると作製時の工程が増えるため、カセット本体と一体成形することが好ましい。
【0096】
実施例16〜19では表1であげた迫出し量に加え、1乃至1.5mmのマージンを加えて凹み量を設けた。各例の生化学反応カセットを用いて、それぞれの生化学反応カセットのサイズに調整した生化学処理装置(サーマルサイクラー、ハイブリダイゼーション装置、液体分注装置、蛍光検出装置)を利用して生化学反応カセットの配置および生化学反応処理をそれぞれ10回繰り返した。その後、検出面を目視で確認したところ、全ての実施例において明らかな汚染を確認することはできなかった。光学顕微鏡で検出面を検査したところ、実施例16〜19の生化学反応カセットでは、指による汚染は皆無であった。これに対して、実施例24〜27のカセットでは、検出面が皮脂によって汚染されたものが見つかった。また、マージンを設けなかった実施例20〜23でも皮脂による汚染は確認できなかった。
実施例16〜23においては、意図的に検出面に指を触れさせない限り、検出面を汚染することはなかった。特に、実施例16〜19においては、意図的に指を押し込んでも検出面が汚れることはなかった。
【0097】
【表3】

【0098】
(実施例28)
図6のように、励起光、蛍光を天板(103)から透過させて、標的物質を観測するための生化学反応カートリッジを作製した。本実施例の天板はポリカーボネート樹脂を用いた。開口部のサイズは、D=1cm、W=1cmとし、凹み構造の奥行きdを3.5mmとした。この場合も、実施例1〜15と同様の検査を行ったが、指による汚染は皆無であった。
【0099】
(実施例29)
図7のように、励起光、蛍光を天板(103)から透過させて、標的物質を観測するために、接触防止部材を設けた生化学反応カートリッジを作製した。本実施例では接触防止部材によって分割された2つの開口部は同じ大きさであった。2つの開口部のサイズは、D=1cm、W=1cmをとし、凹み構造の奥行きdを3.5mmとした。この場合も、実施例1〜15と同様の検査を行ったが、指による汚染は皆無であった。
【0100】
(実施例30)
図8のように、励起光を天板(103)から照射し、基材(101)を透過させて、標的物質を観測する生化学反応カートリッジを作製した。本実施例の天板はポリカーボネート樹脂を用いた。天板側の開口部のサイズはW1=0.6cm、D1=0.6cmとし、基材側の開口部のサイズはW2=1cm、D2=1cmとし、凹み構造の奥行きd1及びd2は共に3.5mmとした。この場合も、実施例1〜15と同様の検査を行ったが、指による汚染は皆無であった。
【0101】
(実施例31)
図9のように、励起光を基材(101)側から照射し、標的物質を観測する生化学反応カートリッジを作製した。本実施例では第二の面(112)の周りに第一の面が突起状となって、第二の面(112)と凹み構造を形成した。天板側の開口部のサイズはW=1cm、D=1cmとし、凹み構造の奥行きdは共に3.5mmとした。この場合も、実施例1〜15と同様の検査を行ったが、指による汚染は皆無であった。
【0102】
なお、これまでの実施例からわかるように必要に応じて接触防止部材を設けてもよい。また、基材(101)から検出するのではなく、天板(103)側から検出する場合においても同様に突起状の第一の面を設けてもよい。
【0103】
(実施例32〜37)
【0104】
【表4】

【0105】
表4に実施例32〜37を示した。開口部の長手方向の幅を2.5cmに固定し、短手方向の幅を0.5乃至は1.0cmにしたものである。実施例32〜34は、図2で説明したとおり、それぞれ凹み構造の奥行きを2.0mm、3.0mm、3.5mmとした。実際例35〜37は、それに1mmのマージンを加えて凹み量を設けた。
各例の生化学反応カセットを用いて、それぞれの生化学反応カセットのサイズに調整した生化学処理装置(サーマルサイクラー、ハイブリダイゼーション装置、液体分注装置、蛍光検出装置)を利用して生化学反応カセットの配置および生化学反応処理をそれぞれ10回繰り返した。その後、検出面を目視で確認したところ、全ての実施例において明らかな汚染を確認することはできなかった。光学顕微鏡で検出面を検査したところ、実施例32〜37の生化学反応カセットでは、指による汚染は皆無であった。また、マージンを設けなかった実施例32〜34でも皮脂による汚染は確認できなかった。
実施例32〜37においては、意図的に検出面に指を触れさせない限り、検出面を汚染することはなかった。特に、実施例35〜37においては、意図的に指を押し込んでも検出面が汚れることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】蛍光標識を用いたハイブリッド体の検出に用いる検出系の一例を示す図である。
【図2】開口部の大きさと迫出し量の関係を示したグラフである。
【図3】開口部の大きさと迫出し量の関係を示したグラフである。
【図4】本発明の実施例1〜10にかかる生化学反応カセットの一実施例の断面図及び平面図である。
【図5】本発明の実施例11〜18にかかる生化学反応カセットの一実施例の断面図及び平面図である。
【図6】本発明の実施例19にかかる生化学反応カセットの一実施例の断面図及び平面図である。
【図7】本発明の実施例20にかかる生化学反応カセットの一実施例の断面図及び平面図である。
【図8】本発明の実施例21にかかる生化学反応カセットの一実施例の断面図及び平面図である。
【図9】本発明の実施例22にかかる生化学反応カセットの一実施例の断面図及び平面図である。
【符号の説明】
【0107】
101 プローブ固定担体の基材
102 プローブ
103 カセット天板
104 レーザー光源
105 ビームエキスパンダー
106 fθレンズ
107 ダイクロイックミラー
108 バンドパスフィルター
109 集光レンズ
110 光電子増倍管
111 第一の面
112 第二の面
113 反応チャンバ
114 接着剤
115 接触防止部材
116 接触防止部材表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質検出用のプローブを固定したプローブ固定担体と、前記プローブに試料を反応させるための反応チャンバとを少なくとも有する標的物質検出用の生化学反応カセットであって、前記生化学反応カセットの外装面の少なくとも1つの第一の面に対して、前記生化学反応カセットが有する検出用の少なくとも1つの第二の面が前記生化学反応カセットの内側に凹んだ位置に設けられることで形成される少なくとも1つの凹み構造を有し、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが1mm以上であることを特徴とする生化学反応カセット。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第一の面に対する前記少なくとも1つの第二の面の開口部の面積が1cm以下であって、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが2.5mm以上であることを特徴とする請求項1記載の生化学反応カセット。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第一の面に対する前記少なくとも1つの第二の面の開口部の面積が2cm以下であって、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが3.5mm以上であることを特徴とする請求項1記載の生化学反応カセット。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第一の面に対する前記少なくとも1つの第二の面の開口部の面積が3cm以下であって、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが4.5mm以上であることを特徴とする請求項1記載の生化学反応カセット。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第一の面に対する前記少なくとも1つの第二の面の開口部を通して検出に影響しない、前記少なくとも1つの凹み構造に少なくとも1つの接触防止部材を設けることを特徴とする請求項1に記載の生化学反応カセット。
【請求項6】
前記少なくとも1つの接触防止部材によって分割された前記開口部の各面積が3cm以下であり、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが4.5mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の生化学反応カセット。
【請求項7】
前記少なくとも1つの接触防止部材によって分割された前記開口部の各面積が2cm以下であり、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが3.5mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の生化学反応カセット。
【請求項8】
前記少なくとも1つの接触防止部材によって分割された前記開口部の各面積が1cm以下であり、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが2.5mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の生化学反応カセット。
【請求項9】
前記少なくとも1つの接触防止部材によって分割された前記開口部の各面積が0.5cm以下であり、前記少なくとも1つの凹み構造の奥行きが2mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の生化学反応カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−139418(P2010−139418A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316971(P2008−316971)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】