説明

生化学用器具

【課題】プラスチック材料の表面と親水性ポリマー層との間に、親水性を有すると同時に、加熱耐性を有し、良好な密着性を有する密着層を設けた生化学用器具を提供すること。
【解決手段】プラスチック材料の表面に親水性ポリマー層が塗布されている生化学用器具において、プラスチック材料と親水性ポリマー層の間に金属酸化物の薄膜が存在し、当該金属酸化物の薄膜の膜応力が5.4x1021 (dyn/cm2)未満であることを特徴とする、生化学用器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ポリマーを塗布したプラスチック材料からなる生化学用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の生化学用器具(例えば、容器、流路、ピペット、シリンジなど)の表面には、生体関連物質(例えば、血液、細胞、タンパク質など)や、疎水性低分子化合物(例えば、薬物化合物、界面活性剤など)を含む溶液が接触させる場合が多いが、このような表面には、生体関連物質及び疎水性低分子化合物の非特異吸着が生じないことが望ましい。生体関連物質や疎水性低分子化合物の非特異吸着を抑制するためには、プラスチック材料の疎水性表面に親水性ポリマーを塗布して表面を親水性化する方法などが考えられる。プラスチック材料の疎水性表面に親水性ポリマー層を塗布する際には、疎水性表面と親水性ポリマー層との間に密着層を設けることができる。このような密着層としては、親水性を有すると同時に、加熱耐性を有し、良好な密着性を有することが必要である。しかしながら、このような要件を充足する密着層についての検討はなされていない。また、現在のところ、生体関連物質及び疎水性低分子化合物の非特異吸着の抑制を同時に達成できる表面の開発には至っていない。
【0003】
また、特許文献1には、表面にSiOx (x は1または2)を有する金属酸化物層を被覆したプラスチック基板に、シラン化合物を含む液を塗布し、形成したシランカップリング層を、官能基を有する1級アミン誘導体を含む修飾液で処理して、表面に親水性有機物層を形成し、1級アミン誘導体の官能基どうしを架橋剤で結合する、防曇性プラスチックの製造方法が記載されている。しかしながら、特許文献1では、親水性ポリマーは使用されていない。
【0004】
また、特許文献2には、反応に有効な量の1種またはそれ以上の官能性シランカップリング剤と、被覆に有効な量の1種またはそれ以上の親水性ポリマーとを少なくとも一表面に有するバイオメディカルデバイスを含むデバイスが記載されている。しかしながら、特許文献2には金属酸化物に関する記載はない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−132574号公報
【特許文献2】特開2000−137195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来技術の問題を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、プラスチック材料の表面と親水性ポリマー層との間に、親水性を有すると同時に、加熱耐性を有し、良好な密着性を有する密着層を設けた生化学用器具を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、生体高分子の吸着抑制と疎水性低分子化合物の吸着抑制とを同時に達成できる表面を有する生化学用器具を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、プラスチック材料の表面に親水性ポリマー層が塗布されている生化学用器具において、プラスチック材料と親水性ポリマー層の間に金属酸化物の薄膜が設け、当該金属酸化物の薄膜の膜応力を5.4x1021(dyn/cm2)未満とすることによって、所望の性能を有する生化学用器具を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、プラスチック材料の表面に親水性ポリマー層が塗布されている生化学用器具において、プラスチック材料と親水性ポリマー層の間に金属酸化物の薄膜が存在し、当該金属酸化物の薄膜の膜応力が5.4x1021(dyn/cm2)未満であることを特徴とする、生化学用器具が提供される。
【0009】
好ましくは、プラスチック材料の熱膨張係数(K-1)は1.3〜15×10-5である。
好ましくは、プラスチック材料の材質は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、液晶ポリエステル(LCP)、又はポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0010】
好ましくは、金属酸化物はSiO2、Al23、TiO2、MnO2、MgO、SnO2、NiO、GeO2、又はこれらの混合物である。
好ましくは、金属酸化物の膜厚は10nm〜500nmである。
【0011】
好ましくは、親水性ポリマー層は、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と、生体高分子の吸着抑制を行う部分とを有している層である。
好ましくは、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分は、無機架橋高分子、有機架橋高分子、又は有機無機ハイブリッド高分子である。
好ましくは、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分は、金属アルコキシドの加水分解縮合物を含む。
【0012】
好ましくは、生体高分子の吸着抑制を行う部分は、親水性高分子である。
好ましくは、親水性高分子は電荷を持たない親水性高分子である。
好ましくは、電荷を持たない親水性高分子は、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、MPCポリマー、デキストラン、アガロース、プルラン、又はポリペプチドの何れかである。
【0013】
好ましくは、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と、生体高分子の吸着抑制を行う部分は、下記式で表される構造を含む。
【化1】

(式中、Hyは、親水性高分子を示す)
【0014】
好ましくは、上記式において、Hyがポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、MPCポリマー、デキストラン、アガロース、プルラン、又はポリペプチドの何れかである。
【0015】
好ましくは、本発明の生化学用器具は、プラスチック材料の表面に、下記一般式(I)又は(II)で表される高分子を含む溶液を塗布して架橋させることによって得られるものである。
【化2】

(式中、R1〜R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数8以下の炭化水素基を表し、R7は水素原子又は一価の非金属原子団を表す。x、y及びzはそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、L1〜L3はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子より選択される原子を3種類以上有する2価の連結基を表す。A、Bはそれぞれ独立に構造単位が繰り返し構造を形成しているポリマー及びオリゴマーを表す。)
【0016】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の生化学用器具を有するバイオセンサーが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プラスチック材料の表面と親水性ポリマー層との間に、親水性を有すると同時に、加熱耐性を有し、良好な密着性を有する密着層を設けた生化学用器具を提供することが可能になった。さらに本発明によれば、生体高分子の吸着抑制と疎水性低分子化合物の吸着抑制とを同時に達成できる表面を有する生化学用器具を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の生化学用器具は、プラスチック材料の表面に親水性ポリマー層が塗布されている生化学用器具であって、プラスチック材料と親水性ポリマー層の間に金属酸化物の薄膜が存在し、当該金属酸化物の薄膜の膜応力が5.4x1021(dyn/cm2)未満であることを特徴とするものである。
【0019】
金属酸化物としては、例えば、SiO2 、SiO、Al2 3 、TiO2、MnO2、MgO、ArO2 、CaO、SnO2 、NiO、GeO2、In2 3 、WO3 、MoO3 、Ta2 5 、HfO2 、BaO、などを用いることができ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、金属酸化物としては、SiO2、Al23、TiO2、MnO2、MgO、SnO2、NiO、GeO2、又はこれらの混合物を使用することができる。本発明における金属酸化物の薄膜は、上記した材料にて形成される単層でもよいし、上記した材料の2種以上を成分とする単層でもよいし、又はこれらの単層を複数層重ねることによって形成される多層であってもよい。本発明では、SiO2 またはSiOからなる金属酸化物の薄膜、またはSiO2 またはSiOを含む組成物を用いて形成した金属酸化物の薄膜を設けることが特に好ましい。
【0020】
金属酸化物の薄膜の膜厚は適宜設定することができる。例えば、真空蒸着法によってプラスチック材料の表面にSiO2 またはSiOの薄膜を被覆する場合は、金属酸化物の薄膜は、10nm〜500nmであることが好ましい。層厚が薄すぎるとプラスチック材料の表面を完全かつ均一に覆うことができず、また膜厚が厚すぎると金属酸化物層の間で割れや層間剥離が生じるので、何れも好ましくない。
【0021】
本発明における金属酸化物の薄膜の膜応力は、5.4x1021 (dyn/cm2)未満であり、好ましくは3.8 x 1021 (dyn/cm2)以下である。ここで、膜応力(σ)は、σ=K/(r×d)で表される(式中、Kは定数を示し、rは膜を付着した基板の曲率半径を示し、dは膜厚を示す)。
【0022】
金属酸化物の薄膜の形成方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法又はスパッタリング法などの物理的蒸着法や、CVD法、メッキなどにより形成することができる。好ましくは、真空蒸着法を用いることができる。
【0023】
本発明の生化学用器具(例えば、生化学測定用器具など)の具体例としては、ビーカー、フラスコ、シャーレ、ピペット、シリンジ、遠沈管、針、チューブ、エッペンドルフ用チップ、タイタープレート、マイクロ流路、フィルター等を挙げることができる。但し、本発明の生化学用器具は、上記のものに限定されるものではなく、生体関連物質(例えば、血液、細胞、タンパク質など)や疎水性低分子化合物(例えば、薬物化合物、界面活性剤など)を含む溶液と接触する可能性のある任意の器具を包含するものとする。
【0024】
本発明の生化学用器具を構成するプラスチック材料の種類は特に限定されず、例えば、生化学用器具において通常使用される材料を使用することができる。本発明で用いるプラスチック材料の熱膨張係数(K-1)は、1.3〜15×10-5であることが好ましい。熱膨張係数とは、温度の上昇によって物体が膨張する割合を、1K(℃)当たりで示したものである。
【0025】
プラスチック材料の具体例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、液晶ポリエステル(LCP)、又はポリジメチルシロキサン(PDMS)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の好ましい態様においては、親水性ポリマー層は、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と、生体高分子の吸着抑制を行う部分とを有している層である。この場合、プラスチック材料の表面に、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と、生体高分子の吸着抑制を行う部分とが存在する。ここで、本発明の好ましい態様によれば、生体高分子の吸着抑制を行う部分は、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分より、水不溶性材料の表面から遠い場所に位置するか、及び/または上記した疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分の中の場所に位置する。即ち、本発明においては、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分及び生体高分子の吸着抑制を行う部分は積層している場合と、生体高分子の吸着抑制を行う部分が疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分に入り込み、ハイブリッド(混成)構造を形成している場合がある。
【0027】
本発明において吸着抑制の対象となる物質は、「細胞生物学事典(朝倉書店出版)」148頁〜149頁に記載されているものを例としてあげることができ、疎水性低分子化合物とは、好ましくは分子量2000以下の化合物を意味し、具体的には、薬物(医薬、麻薬、爆薬など)、界面活性剤、又は脂質などを挙げることができる。また、本発明において吸着抑制の対象となる生体高分子とは、好ましくは分子量5000以上の高分子を意味し、具体的には、タンパク質、抗体、核酸(DNA、RNA)、多糖類などを挙げることができる。
また、本明細書において「抑制」とは、種々の処理を施していない水不溶性材料への生体高分子や疎水性低分子化合物の吸着量よりも低減させることを示す。
【0028】
本明細書において「疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分」とは、どのような形状、面積、体積を有するものであってもよく、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行うという機能を有していればよい。また、「生体高分子の吸着抑制を行う部分」も同様に、どのような形状、面積、体積を有するものであってもよく、生体高分子化合物の吸着抑制を行うという機能を有していればよい。水不溶性材料の表面に対する、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と生体高分子の吸着抑制を行う部分の被覆率は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0029】
本発明において、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分の具体例としては、無機架橋高分子、又は有機架橋高分子を挙げることができ、例えば、金属アルコキシドの加水分解縮合物などでもよい。
【0030】
本発明における無機架橋高分子は、Ti−O 、Si−O 、Zr−O、Mn−O 、Ce−O 、Ba−O、Al−O、といった、金属−酸素結合が三次元架橋した構造が好ましい。このような無機架橋高分子は、ゾルゲル法と呼ばれる手法、すなわち、金属アルコキシド系化合物と水とを反応させて金属アルコキシド系化合物に含まれるアルコキシ基を水酸基に変換すると同時に、重縮合させて得られたヒドロキシ金属基を有する重合体を脱水反応または脱アルコール反応により共有結合を形成して三次元的に架橋させる方法、によって形成される。ゾロゲル法に用いる金属アルコキシドとしては、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ブトキシ、tert−ブトキシなどの低級アルコキシ基である化合物が使用できる。この無機架橋高分子を形成する金属アルコキシドは、シランカップリング剤のように、アルコキシ基の一部が官能基を有していてもよいアルキル基で置換されている化合物であってもよい。ゾルゲル法の溶媒としては、アルコール(例、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール)やケトン等の極性溶剤、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等、各種の有機溶媒が使用できる。反応を促進するため、溶液中の金属アルコキシドを予め部分加水分解しておいてもよい。また、加水分解を促進するため、金属アルコキシドの溶液に、水および/または加水分解触媒の酸を少量添加してもよい。
【0031】
本発明における有機架橋高分子は、疎水性低分子の吸着抑制を行うために設けられるため、親水性高分子の3次元架橋により作成されることが好ましい。親水性高分子の3次元架橋を行う方法としては公知の方法を用いることが可能であり、特開2004−314073号公報の段落番号0033〜0045に記載されているように、酸を触媒とするN−アルキルオキシ架橋剤を用いて多糖類を3次元架橋する方法、特開2000−301837号公報の段落番号0009〜0015に記載されているように、架橋剤を用いてポリビニルアルコールを3次元架橋する方法、特開平5−230101号公報の段落番号0011〜0012に記載されているように、架橋剤を用いて多糖類を3次元架橋する方法、特開平8−120003号公報の段落番号0012〜0043に記載されているように、親水性モノマーと架橋性不飽和モノマーの共重合により3次元架橋する方法、特開2004−58566号公報の段落番号0013〜0020に記載されているように、N−ビニルカルボン酸アミドと架橋剤を電子線照射することで3次元架橋する方法、特開平9−87395号公報の段落番号0006〜0016に記載されているように、ポリビニルアルコールに電子線照射することで3次元架橋する方法、等を好ましく用いることが可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
生体高分子の吸着抑制を行う部分は、好ましくは親水性高分子であり、さらに好ましくは、電荷を持たない親水性高分子である。ここで、「電荷を持たない」とは、生体高分子や疎水性低分子化合物を静電的に吸引する、及び/又はそれらと静電的に反発する程度の強い電荷を持たないことを指し、静電相互作用を示さない程度の微弱な電荷は有していてもよい。電荷を持たない親水性高分子の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、ホスホリルコリン基を側鎖に有するポリマー、多糖類、又はポリペプチドなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明における疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と生体高分子の吸着抑制を行う部分の具体例としては、以下の一般式(I)〜(II)で表される化合物を架橋させることによって得られるものを挙げることができる。
【0034】
【化3】

【0035】
また、好ましくは、以下の一般式(III)〜(IV)で表される化合物を架橋させることによって得られるものを挙げることができる。
【0036】
【化4】

【0037】
前記一般式(I)、(II)、(III)及び(IV)において、R1〜R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数8以下の炭化水素基を表し、R7は水素原子又は一価の非金属原子団を表す。また、x、y及びzはそれぞれ独立に0〜2の整数を表す。ここで、一般式(I)、(III)では−Si(OR2)3-x(R1x、−Si(OR3)3-y(R4yの部分が、一般式(II)、(IV)では−Si(OR6)3-z(R5zの部分が、架橋反応により高分子化(OR2、OR3、OR5は加水分解により系外に排出され、R1、R4、R5がSiと架橋する)し、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分を形成する。L1〜L3はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子より選択される原子を3種類以上有する2価の連結基を表す。
また、前記一般式(I)、(II)において、A、Bはそれぞれ独立に構造単位が繰り返し構造を形成しているポリマー及びオリゴマーを表す。
【0038】
1〜R6が炭化水素基を表す場合の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素数1〜8の直鎖、分岐または環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
1〜R6は、効果および入手容易性の観点から、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0039】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、Ν−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−リールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’ −アルキルウレイド基、N’,N’ −ジアルキルウレイド基、N’ −アリールウレイド基、N’,N’ −ジアリールウレイド基、N’ −アルキル−N’ −アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N’ −アルキル−N−アルキルウレイド基、N’ −アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’ −ジアルキル−N−アルキルウレイト基、N’,N’ −ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’ −アリール−Ν−アルキルウレイド基、N’ −アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’ −ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’ −ジアリール−N−アリールウレイド基、N’ −アルキル−N’ −アリール−N−アルキルウレイド基、N’ −アルキル−N’ −アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、
【0040】
アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)およびその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基ホスフォノ基(−PO32)およびその共役塩基基(以下、ホスフォナト基と称す)、ジアルキルホスフォノ基(−PO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノ基(−PO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノ基(−PO3H(alkyl))およびその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナト基と称す)、モノアリールホスフォノ基(−PO3H(aryl))およびその共役塩基基(以後、アリールホスフォナト基と称す)、ホスフォノオキシ基(−OPO32)およびその共役塩基基(以後、ホスフォナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3H(alkyl))およびその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナトオキシ基と称す)、モノアリールホスフォノオキシ基(−OPO3H(aryl))およびその共役塩基基(以後、アリールフォスホナトオキシ基と称す)、モルホルノ基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0041】
これらの置換基における、アルキル基の具体例としては、R1〜R6において挙げたアルキル基が同様に挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル2基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスフォノフェニル基、ホスフォナトフェニル基等を挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。アシル基(G1CO−)におけるG1としては、水素、ならびに上記のアルキル基、アリール基を挙げることができる。
【0042】
これら置換基のうち、より好ましいものとしてはハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0043】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状ならびに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせる事により得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチルと、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチルル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0044】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
x、yおよびzはそれぞれ独立に0、1又は2を表し、なかでも、0が好ましい。
【0045】
7は一般式(I)から(IV)が架橋した際、生体高分子の吸着抑制を行う部分に相当し、R7が表す一価の非金属原子団としてはR1〜R6の具体例として挙げられた一価の非金属原子団を挙げることができ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基等が好適に挙げられる。親水性向上及び入手可能な観点から、好ましくは水素原子、メチル基およびヒドロキシル基が挙げられる。
【0046】
1〜L3はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子より選択される原子を3種類以上有する2価の連結基を表し、具体的には、1個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、1個から100個までの水素原子、および0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。より具体的な連結基としては下記の構造単位またはこれらが組合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0047】
【化5】

【0048】
A、Bはそれぞれ独立に、構造単位が繰り返し構造を形成している親水性ポリマー及び親水性オリゴマーを表し、生体高分子の吸着抑制を行う部分である。具体的にはポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、ホスホリルコリン基を側鎖に有するポリマー、多糖類、又はポリペプチドの何れかであることがこのましい。
【0049】
これらポリマー及びオリゴマーに用いられる構造単位は1種類でもよく、2種類以上であってもよい。
【0050】
上記一般式(I)から(IV)で表される、有機ケイ素化合物の分子量としては、100〜1,000,000が好ましく、400〜500,000がさらに好ましく、1,000〜200,000が最も好ましい。この好ましい分子量に適合するように、末端のアルコキシシリル基の構造、A、Bで示されるポリマー、オリゴマーの構造及び重合モル比、重合数を選択すればよい。
【0051】
本発明では、上記一般式(III)で表される化合物の特に好ましい例としては、下記式で表される高分子を挙げることができる。
【化6】

【0052】
また、本発明では、上記一般式(IV)で表される化合物の特に好ましい例としては、下記式で表される高分子を挙げることができる。
【化7】

【0053】
また本発明では、上記一般式(IV)で表される化合物の最も好ましい例としては、上記一般式Polymerで表される高分子を挙げることができる。
【0054】
本発明の生化学用器具は、バイオセンサーを構成する部材(例えば、検出面、流路など)として用いることもできる。
バイオセンサーとは最も広義に解釈され、生体分子間の相互作用を電気的信号等の信号に変換して、対象となる物質を測定・検出するセンサーを意味する。通常のバイオセンサーは、検出対象とする化学物質を認識するレセプター部位と、そこに発生する物理的変化又は化学的変化を電気信号に変換するトランスデューサー部位とから構成される。生体内には、互いに親和性のある物質として、酵素/基質、酵素/補酵素、抗原/抗体、ホルモン/レセプターなどがある。バイオセンサーでは、これら互いに親和性のある物質の一方を基板に固定化して分子認識物質として用いることによって、対応させるもう一方の物質を選択的に計測するという原理を利用している。
【0055】
バイオセンサーでは、金属表面又は金属膜を基板として用いることができる。金属表面あるいは金属膜を構成する金属としては、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0056】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上200nm以下であるのが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上10nm以下であるのが好ましい。
【0057】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0058】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0059】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
試験例1:
蒸着膜の膜応力と膜剥がれ、ワレとの関係を調べるため、シリコン基板(厚さ=0.625mm)を長さ75mm、幅26mmとした基板に各種の無機酸化物を真空蒸着、もしくはスパッター蒸着した。膜厚は100nmとした。膜応力は図1のように基板の反りを干渉顕微鏡で計測し曲率半径Rを算出した。ここで、基板の反りの曲率半径Rは下記の通り表される。
R=Es・ts2/6(1-νs)σtf
(式中、Esは基板のヤング率を示し、tsは基板厚を示し、νsは基板のポアソン比を示し、σは膜応力を示し、tfは薄膜の膜厚を示す)但し、ts(基板厚)>>tf(薄膜厚)と近似する。
【0061】
上記より、膜応力σは、
σ=Es・ts2/6(1-νs)Rtf
と表される。
【0062】
使用したシリコン単結晶基板のヤング率Esは1.9x1012dyn/cm2 ポアッソン比νsは0.2である。また、基板厚tsは0.625x10-3m、薄膜厚tfは 102x10-9 m である。従って、
σ=1.54×1023×1/R(dyn/cm2
となる。
【0063】
蒸着膜の膜応力と膜はがれについて、以下の通り測定した。
1.膜応力
シリコン単結晶基板に真空蒸着、スパッターにより100nmの薄膜を作成しその曲率半径から応力を計測した。
2.接触角
接触角計により、水滴の接触角を計測した。
3.膜剥がれ
ポリプロピレン基板にシリコン基板と同条件で成膜し、24時間室温放置後の表面を顕微鏡観察した。用いたポリプロピレン基板の線膨張係数は12x10-5 (℃-1)である。
【0064】
各種材料と各蒸着法における、膜応力、接触角、及び膜剥がれを以下の表1と図2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
以上の結果より、親水性を有してかつ良好な密着を有する膜の膜応力は5.4x1021(dyn/cm2)未満であることが分かる。
【0067】
実施例1
本実施例は、プラスチック基板上への、カルボン酸含有ポリマーの結合、およびタンパク固定能に関するものである。
【0068】
(プラスチック基板表面へのSiO2薄膜の作成)
溶融成型したPMMA(三菱化学 VH)の表面に、酸素雰囲気下でSiOを真空蒸着することで、100nmのSiO2膜を作成した。
PMMA基板の熱膨張係数(K-1)は、7x10-5である。SiO2膜の膜応力は、3.8x1021(dyn/cm2)である。
【0069】
(アミノ基の導入)
3-アミノプロピルトリエトキシシラン(0.1g)を、0.01N塩酸水溶液/エタノール=10/90(vol/vol)の混合溶媒(100ml)に溶解した。この溶液を15分間50℃に保った後、上記試料を浸漬し、50℃12分間反応させることで、SiO2表面にアミノ基を導入した。
【0070】
(試料1の作成:カルボキシメチルデキストランの導入)
超純水に0.5重量%となるようにCMD(名糖産業製:分子量100万)を溶解した後、全量反応した場合にカルボキシル基の2%が活性化される計算量のEDC(0.4M) / NHS(0.1M)混合溶液を加え、室温で5分間攪拌した。アミノ基が導入された上記基板の上に、活性エステル化されたCMD溶液を200 μl滴下し、7000 rpmで45 秒スピンコートすることで、活性エステル化されたカルボキシメチルデキストラン薄膜を形成させた。室温で1 時間反応させた後、0.1 N NaOHで1回、超純水で1回洗浄することで、カルボキシメチルデキストランが結合した表面を有する試料1を得た。
【0071】
(試料2の作成)
PMMAをポリカーボネート(帝人 AD5503)に変更した以外は試料1と全く同様の操作を行うことで、試料2を作成した。
ポリカーボネート基板の熱膨張係数(K-1)は、6.5x10-5である。
【0072】
(試料3の作成)
PMMAをゼオネックス(日本ゼオン 330R)に変更した以外は試料1と全く同様の操作を行うことで、試料3を作成した。
ゼオネックス基板の熱膨張係数(K-1)は、7x10-5である。
【0073】
(タンパク質の結合)
試料1〜3に対し、直径約1cmの範囲をEDC/NHSにより活性した。その後、特願2005−277340に記載の、Cy5化CA(カルボニックアンヒドラーゼ)の溶液(50μg/ml、pH7.4)を、EDC/NHSにより活性化されている範囲から約5mm離した位置で、直径約1cmの範囲に5分間接触させた。この表面を、超純水で2回、10mMのNaOH水溶液で2回洗浄した後、サンプル表面の2次元蛍光像を、FLA8000(富士写真フイルム社製)を用いて、励起波長635nm、測定波長675nmで観察した。
【0074】
その結果、試料1〜3のいずれの表面でも、EDC/NHSにより活性化され、かつ、Cy5化CA溶液が接触していた部分でのみ、蛍光強度の増大が観察された。このことは、基板表面に結合したカルボキシメチルデキストランのカルボキシル基が活性エステル化され、タンパク質のアミノ基とアミド結合を形成することで、カルボキシメチルデキストランを介して、プラスチック基板上にタンパク質が固定されたことを意味している。
【0075】
本発明により、タンパク質を共有結合可能な表面を、疎水性プラスチック上に作成可能であることが証明された。
【0076】
実施例2
本実施例は、プラスチック基板上へのポリエチレングリコール誘導体の結合、およびその非特異吸着抑制能に関するものである。
【0077】
(試料4の作成)
溶液A:
溶液A:100 mlのビーカーに、エタノール(54.9 g)、アセチルアセトン(2.46 g)、 テトトラエトキシチタン(2.82 g)を加え、室温で10分間攪拌した後、超純水 0.45 gを加え、さらに室温で60分攪拌した。
【0078】
溶液B:
100 ml のビーカーに、超純水(44.12 g)、ポリマー(n=31, 1.73 g)を加え、攪拌・溶解させた後、溶液A(10.10 g)とテトラメトキシシラン(5.20 g)を添加し、撹拌した。
【0079】
【化8】

【0080】
溶液B(3.23g)に超純水(1.0g)を加え撹拌したものを塗布液とした。溶融成型したPMMA(三菱化学 VH)の表面に、酸素雰囲気下でSiOを真空蒸着することで作成された100nmのSiO2膜の上に、塗布液を300μl滴下し、300 rpm で5秒間、さらに7000 rpm で20秒間スピンコートした後、100 ℃で10 分間加熱することにより、試料4を得た。
PMMA基板の熱膨張係数(K-1)は、7x10-5 である。SiO2膜の膜応力は、3.8x1021(dyn/cm2)である。
【0081】
(試料5の作成)
PMMAをポリカーボネート(帝人 AD5503)に変更した以外は試料4と全く同様の操作を行うことで、試料5を作成した。
ポリカーボネート基板の熱膨張係数(K-1)は、6.5x10-5である。
【0082】
(試料6の作成)
PMMAをゼオネックス(日本ゼオン 330R)に変更した以外は試料4と全く同様の操作を行うことで、試料6を作成した。
ゼオネックス基板の熱膨張係数(K-1)は、7x10-5である。
【0083】
(吸着性評価)
未修飾のPMMA、ポリカーボネート、ゼオネックス、スライドグラス、および試料4〜6に対し、蛍光タンパク質であるアビジンFITCの水溶液(0.25mg/ml、pH5.0(Acetate))5μL、あるいは、疎水性色素のメタノール溶液(濃度0.6%)1μLを滴下し、室温で5分間静置後、超純水を用いて洗浄した。洗浄後のサンプル表面の蛍光強度を、FLA8000(富士写真フイルム社製)を用いて、測定波長473nm、フィルター 530DF20、Resolution 20μm、Scan Mode 400mm/sの条件で測定し、バックグランドの蛍光強度を差し引いた値を、吸着量の指標とした。得られた結果を表2に示す。
【0084】
【化9】

【0085】
【表2】

【0086】
PMMAに対しては、タンパク質であるAvidin-FITCの吸着は少ないものの、疎水性化合物の吸着量は極めて大きい。ポリカーボネートに対しては、Avidin-FITCと疎水性化合物の両者ともの吸着量が極めて大きい。シクロオレフィン系ポリマー(ゼオネックス)に対しては、疎水性化合物の吸着量は少ないものの、Avidin-FITCの吸着量は極めて大きい。ガラスに対しては、疎水性化合物の吸着量は少ないものの、Avidin-FITCの吸着量は極めて大きい。このように、いずれの試料も、タンパク質あるいは疎水性低分子のいずれか、または両者の吸着が大きく、吸着抑制表面としては不十分であることが確認された。これに対し、ポリエチレングリコール誘導体が結合している試料4〜6はいずれも、タンパク質および疎水性低分子の両者に対し、極めて効果的な吸着抑制が可能であることが証明された。
【0087】
本発明により、タンパク質および疎水性低分子の両者に対する極めて効果的な吸着抑制表面を、疎水性プラスチック上に作成可能であることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、基板の反りを干渉顕微鏡で計測し、曲率半径Rを算出する様子を示す。
【図2】図2は、各種材料と各蒸着法における、膜応力と接触角を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料の表面に親水性ポリマー層が塗布されている生化学用器具において、プラスチック材料と親水性ポリマー層の間に金属酸化物の薄膜が存在し、当該金属酸化物の薄膜の膜応力が5.4x1021(dyn/cm2)未満であることを特徴とする、生化学用器具。
【請求項2】
プラスチック材料の熱膨張係数(K-1)が1.3〜15×10-5である、請求項1に記載の生化学用器具。
【請求項3】
プラスチック材料の材質が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、液晶ポリエステル(LCP)、又はポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項1又は2に記載の生化学用器具。
【請求項4】
金属酸化物がSiO2、Al23、TiO2、MnO2、MgO、SnO2、NiO、GeO2、又はこれらの混合物である、請求項1から3の何れかに記載の生化学用器具。
【請求項5】
金属酸化物の膜厚が10nm〜500nmである、請求項1から4の何れかに記載の生化学用器具。
【請求項6】
親水性ポリマー層が、疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と、生体高分子の吸着抑制を行う部分とを有している層である、請求項1から5の何れかに記載の生化学用器具。
【請求項7】
疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分が、無機架橋高分子、有機架橋高分子、又は有機無機ハイブリッド高分子である、請求項6に記載の生化学用器具。
【請求項8】
疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分が、金属アルコキシドの加水分解縮合物を含む、請求項6又は7に記載の生化学用器具。
【請求項9】
生体高分子の吸着抑制を行う部分が、親水性高分子である、請求項6から8の何れかに記載の生化学用器具。
【請求項10】
親水性高分子が電荷を持たない親水性高分子である、請求項9に記載の生化学用器具。
【請求項11】
電荷を持たない親水性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、MPCポリマー、デキストラン、アガロース、プルラン、又はポリペプチドの何れかである、請求項10に記載の生化学用器具。
【請求項12】
疎水性低分子化合物の吸着抑制を行う部分と、生体高分子の吸着抑制を行う部分が、下記式で表される構造を含む、請求項6から11の何れかに記載の生化学用器具。
【化1】

(式中、Hyは、親水性高分子を示す)
【請求項13】
Hyがポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、MPCポリマー、デキストラン、アガロース、プルラン、又はポリペプチドの何れかである、請求項12に記載の生化学用器具。
【請求項14】
プラスチック材料の表面に、下記一般式(I)又は(II)で表される高分子を含む溶液を塗布して架橋させることによって得られる、請求項1から13の何れかに記載の生化学用器具。
【化2】

(式中、R1〜R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数8以下の炭化水素基を表し、R7は水素原子又は一価の非金属原子団を表す。x、y及びzはそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、L1〜L3はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子より選択される原子を3種類以上有する2価の連結基を表す。A、Bはそれぞれ独立に構造単位が繰り返し構造を形成しているポリマー及びオリゴマーを表す。)
【請求項15】
請求項1から14の何れかに記載の生化学用器具を有するバイオセンサー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−86855(P2008−86855A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267938(P2006−267938)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】