説明

生物処理システムおよび生物処理方法

【課題】ANAMMOX菌の流出を低減し、かつ亜酸化窒素が発生しても窒素ガスと共に効率よく回収できる生物処理システムおよび生物処理方法を提供する。
【解決手段】アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることによりガスを発生させる生物処理槽12と、処理対象物と接触するように生物処理槽内12に配置され、ガスを透過するガス透過性の分離膜を有するガス分離手段14と、ガス分離手段14の内部を減圧する減圧手段16とを具備することを特徴とする生物処理システム10、および処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることにより発生したガスをガス透過性の分離膜によって処理対象物から分離することを特徴とする生物処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ANAMMOX菌を用いた生物処理システムおよび生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業、畜産業、水産業等における廃棄物や廃水、下水や下水汚泥等に含まれる窒素成分を除去する方法として、硝化−脱窒法が知られている。
硝化−脱窒法は、硝化菌(アンモニア酸化細菌および亜硝酸酸化細菌)により、好気条件下でアンモニア性窒素(NH−N)を亜硝酸と硝酸へと酸化させる硝化工程と、脱窒菌により嫌気条件下で亜硝酸性窒素(NO−N)と硝酸性窒素(NO−N)を還元し、中間生成物である亜酸化窒素を経て窒素ガス(N)へと変換する脱窒(嫌気性生物処理)工程とを組み合わせた窒素除去法である。
【0003】
しかし、硝化−脱窒法は、上述したように脱窒工程の過程で温室効果ガスの一つとされる亜酸化窒素を発生する。亜酸化窒素はその大部分が窒素ガスへと変換されるが、その一部は窒素ガス等のガスと共に環境中に放出されたり、処理対象物中に溶存した状態で回収されたりする。亜酸化窒素は二酸化炭素の約300倍の温室効果機能を有し、地球温暖化やオゾン層の破壊など、地球環境への影響に大きく関わっていることが問題視され、京都議定書の排出規制対象となっている。そのため、今後は、処理対象物やガスから亜酸化窒素を分離して処理することが重要になる。ところで、亜酸化窒素を処理対象物から分離することは、ガスから分離することよりも煩雑であるため、極力、ガスと共に回収することが望まれる。
なお、亜酸化窒素の気相からの回収・処理方法としては、気体として存在する亜酸化窒素を水系液体である吸収液に通し吸収液中に溶解させ、嫌気条件下で亜酸化窒素が溶解した吸収液を処理する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、硝化−脱窒法は、硝化工程において供給される酸素や、脱窒工程において電子供与体として供給されるメタノールなどの有機物を多量に必要とするため、ランニングコストが高いという欠点があった。
【0005】
そこで、近年、硝化−脱窒法に代わる新たな窒素除去法として、ANAMMOX(Anaerobic Ammonium Oxidation:嫌気性アンモニア酸化)反応が注目されている。
ANAMMOX反応は、アンモニア性窒素の約半量を亜硝酸へと酸化させる部分亜硝酸化工程と、ANAMMOX菌により嫌気条件下で亜硝酸性窒素と残りのアンモニア性窒素を反応させて窒素ガスへと変換する脱窒(嫌気性生物処理)工程とを組み合わせた窒素除去法である。
【0006】
このANAMMOX反応は、硝化−脱窒法に比べて、理論必要酸素量を約6割程度、脱窒反応のための有機物添加量を約9割程度削減することが可能とされている。
また、ANAMMOX反応は、上述したように硝化−脱窒法とは異なる代謝経路にて窒素を除去するので、理論上、亜酸化窒素の発生がなく、環境に対する負荷を低減できる。
【0007】
ところで、硝化−脱窒法やANAMMOX反応のように、細菌を用いて処理対象物を窒素除去する方法では、発生した窒素ガス等のガスが処理対象物から速やかに気相へと分離できない場合、気化したガスが菌体に付着して、ガスと共に菌体が浮上する。そして、処理対象物と気相との界面において、ガスは菌体から離れて気相へと放出されるが、それと同時に菌体も処理対象物と共に処理装置から流出するといった問題があった。
この問題は、増殖速度が遅いANAMMOX菌による嫌気性生物処理では深刻な問題である。すなわち、処理装置からANAMMOX菌が流出すると処理装置内のANAMMOX菌の濃度が下がり、窒素除去性能も低下する。ANAMMOX菌は増殖速度が遅いため十分な濃度に回復するまでに時間がかかるので、窒素除去性能の回復にも時間を要することとなる。
【0008】
そこで、処理装置からの菌体の流出を防止する方法が提案されている。例えば生物担体を利用する方法(特許文献2参照)、浮上汚泥を粉砕することで菌体とガスを分離させ、沈降性を回復する方法(特許文献3、4参照)、浮上汚泥を回収し処理装置内に散布することで、内包ガスを脱気する方法(特許文献5参照)、処理装置内に回転可能な駆動軸を設け、これを回転させることで浮上汚泥を処理装置内壁と接触させガスを分離する方法(特許文献6参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−204926号公報
【特許文献2】特開2009−285640号公報
【特許文献3】特開平9−10792号公報
【特許文献4】特開2003−24981号公報
【特許文献5】特開平7−80493号公報
【特許文献6】特開平1−242197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2〜6に記載の方法は、必ずしも菌体の流出防止を満足する方法ではなく、ANAMMOX菌による嫌気性生物処理では、さらなる菌体の流出防止が求められる。
また、特許文献3、4に記載のように、浮上汚泥を粉砕する方法では、沈降性が回復する粉砕条件の設定が容易ではなく、その都度粒子測定を行って粉砕状況を確認する必要があり、運転が困難であった。
特許文献5に記載の方法では、浮上汚泥の散布により酸素が混入される懸念があった。
【0011】
また、ANAMMOX菌による処理に限らず、窒素を含む嫌気性生物処理では、処理途中でわずかではあるものの亜酸化窒素が副生してしまう可能性がある。
よって、ANAMMOX菌による生物処理においても、該生物処理により発生した窒素ガス等のガスと共に亜酸化窒素を回収することが求められる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ANAMMOX菌の流出を低減し、かつ亜酸化窒素が発生しても窒素ガスと共に効率よく回収できる生物処理システムおよび生物処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の生物処理システムは、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることによりガスを発生させる生物処理槽と、前記処理対象物と接触するように前記生物処理槽内に配置され、ガス透過性の分離膜を有するガス分離手段と、前記ガス分離手段の内部を減圧する減圧手段とを具備することを特徴とする。
ここで、前記分離膜が中空糸膜であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の生物処理方法は、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることによりガスを発生させる生物処理方法において、発生したガスをガス透過性の分離膜によって処理対象物から分離することを特徴とする。
ここで、生物処理が、上部にガス排出口を有する生物処理槽内で行われるとともに、前記分離膜により分離された後、前記ガス排出口から排出されるガス量が、前記生物処理槽の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生物処理システムおよび生物処理方法によれば、ANAMMOX菌の流出を低減し、かつ亜酸化窒素が発生しても窒素ガスと共に効率よく回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の生物処理システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の生物処理システムの他の例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の生物処理システムの他の例を示す概略構成図である。
【図4】実施例で用いた試験装置を示す概略構成図である。
【図5】経過日数とANAMMOX菌の流出量の関係を示すグラフである。
【図6】1日当たりに発生した亜酸化窒素の発生量、吸引量、流出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
[生物処理システム]
本発明の生物処理システムは、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む処理対象物から窒素成分を除去するシステムであり、処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることによりガスを発生させる生物処理槽と、処理対象物と接触するように生物処理槽内に配置され、ガス透過性の分離膜を有するガス分離手段と、ガス分離手段の内部を減圧する減圧手段とを具備する。
【0018】
なお、ANAMMOX菌は未だ分離・培養(純粋培養株)が難しく、通常の属・種の概念とは異なり正式名称が定まっておらず、遺伝子情報から推定される候補としての名前が付与されているのが現状である。一般的に、ANAMMOX菌としては、Candidatus Brocadia anammoxidansやCandidatus Brocadia fulgida、Candidatus Kuenenia stuttgartiens isなどのCandidatus属が知られている。
【0019】
<第一の実施形態>
図1は、本発明の生物処理システムの一例を示す概略構成図である。この生物処理システム10は、生物処理槽12と、生物処理槽12内に配置されたガス分離手段14と、ガス分離手段14に接続された減圧手段16と、ガス分離手段14の表面又は表面近傍に設けられた微生物担持機構18と、生物処理槽12の上部のガス排出口20と、減圧手段16から排出されるガスを貯留するガス貯留手段22と、生物処理槽12の底部側の処理対象物流入口24(以下、流入口24という)および上部側の処理済み対象物流出口26(以下、流出口26という)を備える。
なお、「処理済み対象物」とは、生物処理された処理物対象物のことである。
【0020】
生物処理槽12としては、嫌気条件下でANAMMOX菌により処理対象物に含まれるアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素を反応させて、ガスを発生させる嫌気性生物処理槽が挙げられる。生物処理槽12の形状は特に限定されず、各種用途に応じた形状を用いることができる。
【0021】
ガス分離手段14は、ガス透過性の分離膜を有するものである。
ガス分離手段14としては、公知の分離膜モジュール(中空糸膜モジュール、平膜モジュール等)が挙げられる。
分離膜としては、中空糸膜、平膜等が挙げられ、表面積が大きく充填率を高くできる点から、中空糸膜が好ましい。
【0022】
また、分離膜は、水分率の高い処理対象物を生物処理する場合であっても水分を含まないガスを分離、回収することが容易である点から、非透水性分離膜が好ましく、非透水性中空糸膜がより好ましい。
非透水性中空糸膜としては、例えば、疎水素材からなる分離膜や、ガス透過性の非多孔質分離層を多孔質支持層で挟んだ三層構造膜が挙げられる。三層構造膜は、多孔質支持層が後述の微生物担持機構18としての役割も果たすため、分離膜として好適である。
【0023】
また、分離膜は、窒素ガスなどのガスを高濃度で分離、回収することが容易になる点から、気体選択透過性分離膜が好ましく、気体選択透過性中空糸膜がより好ましい。
気体選択透過性中空糸膜としては、例えば、ポリウレタン製の非多孔質分離層を有する三層構造膜等が挙げられる。
【0024】
ガス分離手段14は、処理対象物に接触するように生物処理槽12内に配置される。例えば、処理対象物が液状である場合は、生物処理槽12内において、処理対象物に浸漬される位置に配置され、処理対象物が固形状の場合は、生物処理槽12内において、処理対象物に埋没する位置に配置される。
【0025】
減圧手段16としては、ガス分離手段14の内部を減圧できるものであれば特に限定されず、例えば、吸引ポンプ等が挙げられる。
【0026】
微生物担持機構18としては、膜表面や膜表面近傍に生物付着性の高い微生物担持機構を設けた分離膜が挙げられる。微生物担持機構18は、比表面積の高い多孔質体及び/又は微生物の付着し易い素材であり、炭素繊維が好ましい。微生物担持機構18には、予めANAMMOX菌を付着させておいてもよい。
【0027】
ガス貯留手段22としては、分離、回収したガスを貯留できるものであれば特に限定されず、アルミバッグや圧力容器等が挙げられる。
【0028】
つぎに、生物処理システム10を用いた生物処理方法について説明する。
生物処理槽12内に流入口24より処理対象物を入れ、処理対象物をANAMMOX菌により嫌気性生物処理し、ガスを発生させる。同時に、減圧手段16を作動させてガス分離手段14内を減圧にし、処理対象物中で発生したガスを透過して分離する。生物処理槽12の上部のガス排出口20および減圧手段16から排出されるガスは、ガス貯留手段22に回収される。処理対象物の生物処理を続けるうちに、微生物担持機構18に生物が付着し、ガス分離手段14の表面に生物層が形成される。
【0029】
処理対象物は、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含むものである。処理対象物としては、アンモニア性窒素を含む処理対象物と、亜硝酸性窒素を含む処理対象物との混合物が挙げられる。また、アンモニア性窒素を含む処理対象物をアンモニア酸化細菌により好気性条件下で生物処理し、アンモニア性窒素の一部、好ましくは半量を亜硝酸へ酸化させたものを用いてもよい。また、アンモニア性窒素を含む処理対象物の一部をアンモニア酸化細菌により好気性条件下で生物処理し、アンモニア性窒素を亜硝酸へ酸化させた後、これに残りのアンモニア性窒素を含む処理対象物を混合したものを用いてもよい。
このような処理対象物としては、例えば農業、畜産業、水産業、食品業における廃棄物及び廃水、下水、下水汚泥等が挙げられる。処理対象物は、固形状であっても液状であってもよい。
【0030】
嫌気性生物処理は、処理対象物を、ANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることにより、処理対象物に含まれるアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを反応させて、窒素ガスへと変換する脱窒処理である。
嫌気性生物処理を行う際は、ANAMMOX菌を生物処理槽に予め植種することや、処理対象物に元から存在するANAMMOX菌を利用する方法も知られているが、ANAMMOX菌は増殖速度が遅いため、ANAMMOX菌を予め植種するのが好ましい。そこで本発明では、ANAMMOX菌を集積培養したグラニュールを用いる。この際、別途、ANAMMOX菌を用いて生物処理を行った反応系(装置内)のグラニュールを用いてもよい。
【0031】
また、ガス分離手段14の表面又は表面近傍に生物層を形成することにより、生物層中の生物反応により発生したガスを分離膜に透過して分離することが容易になる。また、生物層の内部側、すなわち生物層における最も分離膜に近い側は、より高度な嫌気条件になりやすく、処理対象物の生物処理活性が向上する。生物層は、処理対象物を嫌気性生物処理する間に自然に形成されるようにしてもよく、予め生物層を形成させたガス分離手段14を用いてもよい。
【0032】
ところで、ANAMMOX菌は、嫌気性生物処理により発生したガス(気泡)が付着してガスと共に浮上することがあった。そして、処理対象物と気相との界面においてガスはANAMMOX菌から離れてガス排出口20から排出されるが、それと同時にANAMMOX菌も処理済み対象物と共に流出口26から流出するといった問題があった。
しかし、本発明によれば、ガス分離手段14により処理対象物中で発生したガスを透過して分離し、回収できる。従って、気泡となって成長するガスの割合を削減できるので、ANAMMOX菌にガスが付着して浮上するのを抑制でき、ANAMMOX菌が流出口26から流出するのを低減できる。よって、生物処理槽12内のANAMMOX菌の濃度が低下するのを抑制できるので、窒素除去性能を良好に維持できる。
【0033】
特に、本発明の生物処理方法においては、ガス排出口20から排出されるガス量が、1日当たり、生物処理槽12の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下であるのが好ましく、より好ましくは0.6L−gas/L−vol/日以下である。
ガス排出口20から排出されるガス量を0.8L−gas/L−vol/日以下とすれば、ANAMMOX菌が付着して浮上するガスの量を抑制でき、ANAMMOX菌が流出口26から流出するのをより効果的に低減できる。
【0034】
ガス排出口20から排出されるガス量を生物処理槽12の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下にするには、例えば減圧手段16によりガス分離手段14の内部の圧力を調整したり、液状の処理対象物を処理する場合は処理対象物の濃度を調整したり、生物処理槽12内のANAMMOX菌の濃度を調整したり、ガス分離手段14の分離膜の性能を調整したりすればよい。具体的には、以下のように調整すればよい。
【0035】
ガス分離手段14の内部の圧力は、0.05〜0.1MPaとなるように減圧手段16にて減圧するのが好ましい。
生物処理槽12内のANAMMOX菌の濃度は、0.05〜10.0g/Lとなるように調整するのが好ましい。
ガス分離手段14の分離膜として、気体選択透過性能を有する中空糸膜を用いるのが好ましい。
【0036】
また、上述した方法以外にも、例えばANAMMOX菌に対する窒素負荷や、ガス分離手段(特に、中空糸膜モジュール)の配置などを以下に示すように設定することでも、ガス排出口20から排出されるガス量を生物処理槽12の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下にすることができる。
ANAMMOX菌に対する窒素負荷は、0.1〜50kg−N/m/日が好ましく、0.5〜20kg−N/m/日がより好ましい。
処理対象物の流動を妨げず、ガス処理量を保つため、中空糸膜モジュールを10〜60%の充填率で生物処理槽12内に配置することが好ましい。
また、発生したガスを効率よく回収するため、中空糸膜モジュールは生物処理槽12内に分散して配置することが好ましい。
【0037】
以上説明した生物処理システム10、および該システムを用いた生物処理方法にあっては、嫌気性生物処理により発生したガスをガス分離手段14の分離膜によって処理対象物から分離し、回収できる。従って、ANAMMOX菌にガスが付着して浮上するのを抑制でき、ANAMMOX菌が流出口26から流出するのを低減できる。
【0038】
ところで、ANAMMOX菌による嫌気性生物処理では、ANAMMOX反応の途中で亜酸化窒素が発生してしまう可能性がある。
しかし、本発明であれば、亜酸化窒素が発生しても窒素ガスなどと共にガス分離手段14により効率よく回収できる。従って、亜酸化窒素が処理済み対象物中に溶存する割合を削減でき、処理済み対象物と共に環境中に放出されるのを極力防ぐことができる。また、分離膜を使用することで、亜酸化窒素の発生量を低減させることもできる。
なお、窒素ガスなどと共に回収され、ガス貯留手段22に貯留された亜酸化窒素は、生物処理や触媒による接触酸化など、公知の方法によって処理すればよい。また、本発明の生物処理システム10のガス貯留手段22の下流側に亜酸化窒素を処理できる後処理手段(図示略)を設置し、ガスの回収と亜酸化窒素の処理を連続して行ってもよい。
【0039】
<第二の実施形態>
図2は、本発明の生物処理システムの他の例を示す概略構成図である。この生物処理システム30において、生物処理システム10と同じ部分については同符号を付して説明を省略する。
生物処理システム30は、生物処理槽32と、生物処理槽32内に配置されたガス分離手段34と、ガス分離手段34に接続された減圧手段16と、ガス分離手段34の表面又は表面近傍に設けられた微生物担持機構36と、生物処理槽32の上部のガス排出口38と、減圧手段16から排出されるガスを貯留するガス貯留手段22と、生物処理槽32の底部側の処理対象物流入口40(以下、流入口40という)および上部側の処理済み対象物流出口42(以下、流出口42という)を備える。
【0040】
生物処理槽32は、いわゆるUASB(Up-flow Anaerobic Sludge Blanket)リアクターであり、処理対象物が生物処理槽32の底部側に設けられた流入口40から流入し、嫌気性生物処理された処理済み対象物が上部側の流出口42から流出する。
生物処理槽32は、処理対象物が液状である場合に好適である。
【0041】
ガス分離手段34は、ガス透過性の分離膜を有するものである。
ガス分離手段34としては、公知の分離膜モジュール(中空糸膜モジュール、平膜モジュール等)が挙げられる。
中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜(分離膜44)と集気管46とを備え、中空糸膜の少なくとも一方の端部が集気管46に連通した状態で集気管46に固定されたものである。中空糸膜の他方の端部は同様に集気管に連通した状態で固定されたものでもよく、端部が封止されたものであってもよく、ループ状に折り返したものであってもよい。
【0042】
中空糸膜は、水分率の高い処理対象物を生物処理する場合であっても水分を含まないガスを分離、回収することが容易である点から、非透水性中空糸膜が好ましく、生物処理システム10において挙げたものと同じものが挙げられる。
【0043】
また、中空糸膜は、窒素ガスなどのガスを高濃度で分離、回収することが容易になる点から、気体選択透過性中空糸膜が好ましく、生物処理システム10において挙げたものと同じものが挙げられる。
【0044】
ガス分離手段34は、処理対象物に浸漬するように生物処理槽32内に配置される。ガス分離手段34は、処理対象物の流れを妨げないように配置することが好ましい。また、ガス分離手段の表面または表面近傍に生物層を形成させる場合は、形成される生物層の厚みも考慮して、処理対象物の流れを妨げないようにすればよい。
【0045】
微生物担持機構36は、生物処理システム10における微生物担持機構18と同じものを挙げることができる。
【0046】
つぎに、生物処理システム30を用いた生物処理方法について説明する。
生物処理槽32内に流入口40より処理対象物を入れ、処理対象物をANAMMOX菌により嫌気性生物処理し、ガスを発生させる。同時に、減圧手段16を作動させてガス分離手段34内を減圧にし、処理対象物中で発生したガスを透過して分離する。生物処理槽32の上部のガス排出口38および減圧手段16から排出されるガスは、ガス貯留手段22に回収される。処理対象物の生物処理を続けるうちに、微生物担持機構36に生物が付着し、ガス分離手段34の表面に生物層が形成される。
【0047】
処理対象物としては、第一の実施形態で挙げたもののうち、廃水、下水等の液状のものが挙げられる。
嫌気性生物処理は、処理対象物を、ANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることにより、処理対象物に含まれるアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを反応させて、窒素ガスへと変換する脱窒処理である。
嫌気性生物処理を行う際は、ANAMMOX菌を生物処理槽に予め植種することや、処理対象物に元から存在するANAMMOX菌を利用する方法も知られているが、ANAMMOX菌は増殖速度が遅いため、ANAMMOX菌を予め植種するのが好ましい。そこで本発明では、ANAMMOX菌を集積培養したグラニュールを用いる。この際、別途、ANAMMOX菌を用いて生物処理を行った反応系(装置内)のグラニュールを用いてもよい。このようなグラニュールとしては、第一の実施形態で例示したものが挙げられる。
【0048】
また、ガス分離手段34の表面又は表面近傍に生物層を形成することにより、生物層中の生物により発生したガスを透過して分離することが容易になる。また、生物層の内側はより高度な嫌気条件になりやすく、処理対象物の生物処理活性が向上する。
【0049】
また、ガス排出口38から排出されるガス量が、1日当たり、生物処理槽32の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下であるのが好ましく、より好ましくは0.6L−gas/L−vol/日以下である。
ガス排出口38から排出されるガス量を生物処理槽32の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下にするには、第一の実施形態で挙げた方法と同様に、ガス分離手段34の内部圧力や、処理対象物の濃度や、生物処理槽32内のANAMMOX菌の濃度や、ガス分離手段34の分離膜の性能を調整すればよい。また、ANAMMOX菌に対する窒素負荷や、ガス分離手段の配置などを調整してもよい。各方法の具体的な調整条件は、第一の実施形態で挙げた条件と同様である。
【0050】
以上説明した生物処理システム30、および該システムを用いた生物処理方法にあっては、嫌気性生物処理により発生したガスをガス分離手段34の分離膜によって処理対象物から分離し、回収できる。従って、ANAMMOX菌にガスが付着して浮上するのを抑制でき、ANAMMOX菌が流出口42から流出するのを低減できる。
また、亜酸化窒素が発生しても窒素ガスなどと共にガス分離手段34により効率よく回収できる。従って、亜酸化窒素が処理済み対象物中に溶存する割合を削減でき、処理済み対象物と共に環境中に放出されるのを極力防ぐことができる。また、分離膜を使用することで、亜酸化窒素の発生量を低減させることもできる。
なお、窒素ガスなどと共に回収され、ガス貯留手段22に貯留された亜酸化窒素は、生物処理や触媒による接触酸化など、公知の方法によって処理すればよい。また、本発明の生物処理システム30のガス貯留手段22の下流側に亜酸化窒素を処理できる後処理手段(図示略)を設置し、ガスの回収と亜酸化窒素の処理を連続して行ってもよい。
【0051】
<第三の実施形態>
図3は、本発明の生物処理システムの他の例を示す概略構成図である。この生物処理システム50において、生物処理システム10と同じ部分については同符号を付して説明を省略する。
生物処理システム50は、生物処理槽52と、生物処理槽52内に配置されたガス分離手段54と、ガス分離手段54に接続された減圧手段16と、ガス分離手段34の表面又は表面近傍に設けられた微生物担持機構56と、生物処理槽52の上部のガス・処理済み対象物出口58と、処理対象物や処理済み対象物を捕集するミストトラップ60と、減圧手段16から排出されるガスを貯留するガス貯留手段22と、生物処理槽52の底部側の処理対象物流入口62(以下、流入口62という)と、ガス・処理済み対象物出口58からガスと共に流出されるANAMMOX菌を捕集する菌体捕集手段64、およびガス・処理済み対象物出口58から流出される処理済み対象物を貯留する対象物貯留手段66を備える。
【0052】
生物処理槽52は、UASBリアクターであり、処理対象物が生物処理槽52の底部側に設けられた流入口62から流入し、嫌気性生物処理された処理済み対象物がガス・処理済み対象物出口58から流出し、対象物貯留手段66へと回収される。生物処理槽52の形状は特に限定されず、各種用途に応じた形状を用いることができる。
生物処理槽52は、処理対象物が液状である場合に好適である。
【0053】
ガス分離手段54は、ガス透過性の分離膜を有するものである。
ガス分離手段54としては、公知の分離膜モジュール(中空糸膜モジュール、平膜モジュール等)が挙げられる。
中空糸膜モジュールとしては、第二の実施形態で説明した中空糸膜モジュールと同様に、複数の中空糸膜(分離膜)と集気管(いずれも図示略)とを備えたものが挙げられる。
【0054】
中空糸膜は、水分率の高い処理対象物を生物処理する場合であっても水分を含まないガスを分離、回収することが容易である点から、非透水性中空糸膜が好ましく、生物処理システム10において例示したものが挙げられる。
【0055】
また、中空糸膜は、窒素ガスなどのガスを高濃度で分離、回収することが容易になる点から、気体選択透過性中空糸膜が好ましく、生物処理システム10において例示したものが挙げられる。
【0056】
ガス分離手段54は、処理対象物に浸漬するように生物処理槽52内に配置される。ガス分離手段54は、処理対象物の流れを妨げないように配置することが好ましい。また、ガス分離手段の表面または表面近傍に生物層を形成させる場合は、形成される生物層の厚みも考慮して、処理対象物の流れを妨げないようにすればよい。
【0057】
微生物担持機構56は、生物処理システム10における微生物担持機構18と同じものを挙げることができる。
【0058】
ミストトラップ60としては、処理対象物や処理済み対象物を捕集できるものであれば特に制限されず、真空トラップ等が挙げられる。
ガス分離手段54内を減圧手段16により減圧すると、分離されたガスと共に、処理対象物や処理済み対象物も一緒に回収されることがあるが、ミストトラップ60を設けておけば、処理対象物や処理済み対象物はここで捕集されるので、減圧手段16やガス貯留手段22への侵入を防ぐことができる。
【0059】
菌体捕集手段64は、U字状に折り曲げられた管からなり、その先端64aがそれぞれ開口している。また、各先端64a付近には連結管64b、64cが枝分かれしており、連結管64bはガス・処理済み対象物出口58に、連結管64cは対象物貯留手段66にそれぞれ連結している。
菌体捕集手段64および連結管64b、64cとしては特に制限されない。
【0060】
対象物貯留手段66としては、ガス・処理済み対象物出口58から流出される処理済み対象物を貯留できるものであれば特に限定されず、タンク等が挙げられる。
【0061】
つぎに、生物処理システム50を用いた生物処理方法について説明する。
生物処理槽52内に流入口62より処理対象物を入れ、処理対象物をANAMMOX菌により嫌気性生物処理し、ガスを発生させる。同時に、減圧手段16を作動させてガス分離手段54内を減圧にし、処理対象物中で発生したガスを透過して分離する。ガス分離手段54から分離されるガスは、ミストトラップ60及び減圧手段16を介してガス貯留手段22に回収される。
一方、ガス・処理済み対象物出口58から排出されるガスは連結管64bを通り、菌体捕集手段64の先端64aから放出される。なお、ガスが付着し、該ガスと共に浮上してガス・処理済み対象物出口58から流出するANAMMOX菌は、ガスが菌体捕集手段64の先端64aから放出されるときに、自重によりガスから分離し、菌体捕集手段64の底に溜り、捕集される。菌体捕集手段64の先端64aから放出されるガスは、ガス貯留手段22へ回収してもよいし、他のガス貯留手段(図示略)を設けて回収してもよい。
また、ガス・処理済み対象物出口58から排出される処理済み対象物は対象物貯留手段66に回収される。なお、ガス・処理済み対象物出口58から流出するANAMMOX菌は、菌体捕集手段64の底に溜るので、対象物貯留手段66には回収されにくい。
処理対象物の生物処理を続けるうちに、微生物担持機構56に生物が付着し、ガス分離手段54の表面に生物層が形成される。
【0062】
処理対象物としては、第一の実施形態で挙げたもののうち、廃水、下水等の液状のものが挙げられる。
嫌気性生物処理は、処理対象物を、ANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることにより、処理対象物に含まれるアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを反応させて、窒素ガスへと変換する脱窒処理である。
嫌気性生物処理を行う際は、ANAMMOX菌を生物処理槽に予め植種することや、処理対象物に元から存在するANAMMOX菌を利用する方法も知られているが、ANAMMOX菌は増殖速度が遅いため、ANAMMOX菌を予め植種するのが好ましい。そこで本発明では、ANAMMOX菌を集積培養したグラニュールを用いる。この際、別途、ANAMMOX菌を用いて生物処理を行った反応系(装置内)のグラニュールを用いてもよい。このようなグラニュールとしては、第一の実施形態で例示したものが挙げられる。
【0063】
また、ガス分離手段54の表面又は表面近傍に生物層を形成することにより、生物層中の生物により発生したガスを透過して分離することが容易になる。また、生物層の内側はより高度な嫌気条件になりやすく、処理対象物の生物処理活性が向上する。
【0064】
また、ガス・処理済み対象物出口58を経て、菌体捕集手段64の先端64aから排出されるガス量が、1日当たり、生物処理槽52の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下であるのが好ましく、より好ましくは0.6L−gas/L−vol/日以下である。
ガス・処理済み対象物出口58を経て、菌体捕集手段64の先端64aから排出されるガス量を生物処理槽52の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下にするには、第一の実施形態で挙げた方法と同様に、ガス分離手段54の内部圧力や、処理対象物の濃度や、生物処理槽52内のANAMMOX菌の濃度や、ガス分離手段54の分離膜の性能を調整すればよい。また、ANAMMOX菌に対する窒素負荷や、ガス分離手段の配置などを調整してもよい。各方法の具体的な調整条件は、第一の実施形態で挙げた条件と同様である。
【0065】
以上説明した生物処理システム50、および該システムを用いた生物処理方法にあっては、嫌気性生物処理により発生したガスをガス分離手段54の分離膜によって処理対象物から分離し、回収できる。従って、ANAMMOX菌にガスが付着して浮上するのを抑制でき、ANAMMOX菌がガス・処理済み対象物出口58から流出するのを低減できる。
また、亜酸化窒素が発生しても窒素ガスなどと共にガス分離手段54により効率よく回収できる。従って、亜酸化窒素が処理済み対象物中に溶存する割合を削減でき、処理済み対象物と共に環境中に放出されるのを極力防ぐことができる。また、分離膜を使用することで、亜酸化窒素の発生量を低減させることもできる。
なお、窒素ガスなどと共に回収され、ガス貯留手段22に貯留された亜酸化窒素は、生物処理や触媒による接触酸化など、公知の方法によって処理すればよい。また、本発明の生物処理システム50のガス貯留手段22の下流側に亜酸化窒素を処理できる後処理手段(図示略)を設置し、ガスの回収と亜酸化窒素の処理を連続して行ってもよい。
【0066】
本発明の生物処理システムは、図1〜3に例示したものに限定されない。例えば、図2に例示した生物処理槽32を複数備え、隣接する生物処理槽32の流出口42と流入口40とを連接した生物処理システムであってもよい。
また、本発明の生物処理システムは、廃棄物や廃水等の廃棄物処理装置として用いてもよく、処理対象物から特定のガスを製造するガス製造装置として用いてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例では、図4に示す試験装置100を用いた。この試験装置100は、実施例1を実施するための生物処理システム50、および比較例1を実施するための生物処理システム70が収容された処理室80と、処理対象物を貯留する原水タンク82と、該原水タンク82から生物処理システム50、70へ処理対象物を供給する供給ポンプ84とを備える。
生物処理システム50としては、微生物担持機構56を設けなかった以外は図3に示す生物処理システム50と同じものを用いた。
生物処理システム70としては、減圧手段16、微生物担持機構56、ミストトラップ60、およびガス貯留手段22を設けなかった以外は図3に示す生物処理システム50と同じものを用いた。なお、対象物貯留手段については、生物処理システム50の対象物貯留手段66を共用した。
【0068】
生物処理システム50、70において、生物処理槽52として有効容積1.4Lの生物反応リアクターを用いた。
また、ガス分離手段54として、複数の中空糸膜と、集気管とを有する下記の中空糸膜モジュールを用いた。
中空糸膜は、ポリウレタン製の気体分離層(厚さ1μm)をポリエチレン製の多孔質支持層(厚さ20μm)で挟み込んだ三層構造を有し、外径が280μmであるガス選択性の三層複合中空糸膜(三菱レイヨン社製)を用いた。
この中空糸膜モジュールの有効膜面積は1.76m、有効容積は0.6Lであった。
【0069】
処理対象物としては、表1に示す組成の模擬廃水を用いた。
【0070】
【表1】

【0071】
なお、表1中、(NH)SOとNaNOの濃度は、窒素分の濃度である。また、表1中のTE−I、TE−IIは微量元素であり、その組成を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
ANAMMOX菌としては、別途稼働していたアナモックスリアクター内のグラニュールを用い、該グラニュールを乾燥質量で1.37gずつ、各生物処理槽52に投入した。なお、担体は使用せず、グラニュールの沈降性により菌体を保持した。
【0074】
[実施例1]
図4に示す試験装置100を用い、供給ポンプ84を稼働させて、供給量4.6mL/分、処理温度37℃、水理学的滞留時間(HRT)5.1時間の条件で、処理対象物を原水タンク82から生物処理システム50へ供給し、処理対象物をANAMMOX菌により嫌気性生物処理した。処理対象物の供給を開始してから24日経過した後、減圧手段16を稼働させ、ガス分離手段54の中空糸膜内部を0.09MPaまで減圧しながら、引き続き嫌気性生物処理を行った。嫌気性生物処理は、合計80日間行った。
【0075】
嫌気性生物処理により発生したガスが付着し、該ガスと共に浮上してガス・処理済み対象物出口58から流出したANAMMOX菌を、菌体捕集手段64で捕集した。処理中、菌体捕集手段64に捕集されたANAMMOX菌の質量(累積)を測定し、これをANAMMOX菌の流出量とした。得られた結果から、処理対象物の供給開始からANAMMOX菌の質量を測定した日までの経過日数(日)を横軸に、流出量(g)の累積を縦軸にプロットした図を図5に示す。
【0076】
また、嫌気性生物処理により発生したガスのうち、ガス分離手段54を透過したガスをガス貯留手段22に回収した。
処理対象物の供給開始から75日経過した直後に、一旦、ガス貯留手段22を取り外し、ガス貯留手段22に代えてガスパックを取り付けた。また、これと同時に、菌体捕集手段64の先端64aにもガスパックを取り付け、その後丸1日その状態で処理を継続した。丸一日経過後、両方のガスパックを生物処理システム50から取りはずすとともに、再びガス貯留手段22を所定の位置に取り付けた。
そして、取り外した各ガスパックの取り付け口にそれぞれ湿式ガスメーター(株式会社シナガワ社製、「W-NK−0.5」)を取り付けることにより、ガス分離手段54を透過したガス(ガスA)、並びにガス分離手段54で分離されずにガス・処理済み対象物出口58から排出したガス(ガスB)の量を測定し、これらを1日当たりの発生量とした。
さらに、ガスAを少量、マイクロシリンジで3回採取し、それぞれについてガスクロマトグラフィー分析によりガス組成とその濃度を測定した。
同様に、ガス分離手段54で分離されずに、ガス・処理済み対象物出口58から排出され、菌体捕集手段64の先端64aから放出したガスBも、少量、マイクロシリンジで3回採取し、それぞれについてガスクロマトグラフィー分析によりガス組成とその濃度を測定した。
ガスAおよびガスBの3回分の測定結果とその平均値、および1日あたりのガスA、ガスBの発生量を表3に示す。なお、表3におけるカッコ内の数値は、ガス組成の合計を100%としたときの各ガス成分の割合である。
【0077】
また、嫌気性生物処理により発生したガス(ガスA、ガスB)中の亜酸化窒素の量を、前述のガスクロマトグラフィーによるガス分析結果から算出した。結果を表4および図6に示す。
なお、表4および図6中、「発生ガス中」とは、ガス・処理済み対象物出口58から排出したガス中に含まれる亜酸化窒素の量であり、「吸引ガス中」とは、ガス分離手段54を透過し、回収されたガスに含まれる亜酸化窒素の量である。
【0078】
また、ANAMMOX菌により嫌気性生物処理された、処理済み対象物を対象物貯留手段66に回収した。
処理対象物の供給開始から75日経過した直後に、一旦、対象物貯留手段66に貯留された処理済み対象物を排出し、対象物貯留手段66内を空にした。引き続き、ガス・処理済み対象物出口58から排出された処理済み対象物を対象物貯留手段66に回収した。そして、1日で回収された処理済み対象物に溶存した亜酸化窒素の量を湿式ガスメーターにて測定した。結果を表4および図6に示す。
なお、表4および図6中、「流出液中」とは、ガス・処理済み対象物出口58から排出した処理済み対象物中に含まれる亜酸化窒素の量である。
また、表4におけるカッコ内の数値は、各ガス中および液中に含まれる亜酸化窒素の量の合計を100%としたときの、各ガス中および液中の亜酸化窒素の量の割合である。
【0079】
[比較例1]
ガス分離手段54の中空糸膜内部を減圧しなかった以外は、実施例1と同じ条件で処理対象物を生物処理システム70へ供給し、実施例1と並行して嫌気性生物処理を行った。
処理中、生物処理システム70の菌体捕集手段64に捕集されたANAMMOX菌の質量(累積)を測定し、これをANAMMOX菌の流出量とした。得られた結果から、処理対象物の供給開始からANAMMOX菌の質量を測定した日までの経過日数(日)を横軸に、流出量(g)の累積を縦軸にプロットした図を図5に示す。
【0080】
また、処理対象物の供給開始から75日経過した直後に、一旦、菌体捕集手段64の先端64aにガスパックを取り付け、その後丸1日その状態で処理を継続した。丸一日経過後、ガスパックを生物処理システム70から取りはずした。
そして、取り外したガスパックの取り付け口にそれぞれ湿式ガスメーター(株式会社シナガワ社製、「W-NK−0.5」)を取り付けることにより、ガス・処理済み対象物出口58から排出され、生物処理システム70の菌体捕集手段64の先端64aから放出したガス(ガスC)の量を測定し、これを1日当たりの発生量とした。
さらに、ガスCを少量、マイクロシリンジで3回採取し、それぞれについてガスクロマトグラフィー分析によりガス組成とその濃度を測定した。
ガスCの3回分の測定結果とその平均値、および1日あたりのガスCの発生量を表3に示す。なお、表3におけるカッコ内の数値は、ガス組成の合計を100%としたときの各ガス成分の割合である。
【0081】
また、嫌気性生物処理により発生したガス(ガスC)中の亜酸化窒素の量を、前述のガスクロマトグラフィーによるガス分析結果から算出した。
さらに、実施例1と同様にして、1日で回収された処理済み対象物に溶存した亜酸化窒素の量を湿式ガスメーターにて測定した。
これらの結果を表4および図6に示す。
なお、表4におけるカッコ内の数値は、各ガス中および液中に含まれる亜酸化窒素の量の合計を100%としたときの、各ガス中および液中の亜酸化窒素の量の割合である。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
図5から明らかなように、実施例1の場合、ガス分離手段54の中空糸膜内部を減圧する前までは、ANAMMOX菌の流出量が比較例1と同程度であったが、中空糸膜内部を減圧するとANAMMOX菌の流出を低減することができた。
【0085】
また、表4、図6から明らかなように、実施例1において1日当たりに発生した亜酸化窒素の合計量は52.24mLであった。そのうち、分離膜を介して回収された亜酸化窒素の量(吸引ガス中)は13.86mLであった。これは、1日当たりに発生した亜酸化窒素の合計量の26.5%に相当する。なお、ガスA中の亜酸化窒素の割合は表3より1.5%であった。
一方、処理済み対象物に溶存した状態でガス・処理済み対象物出口58から排出された亜酸化窒素の量(流出液中)は31.88mLであった。これは、1日当たりに発生した亜酸化窒素の合計量の61.0%に相当する。
なお、実施例1において、ガスBの量(0.8L)は、生物処理槽52の有効容積(1.4L)に対して、0.57L−gas/L−vol/日であった。
【0086】
一方、比較例1では、時間の経過と共にANAMMOX菌の流出量が増え、流出を低減できなかった。
また、比較例1では、1日当たりに発生した亜酸化窒素の合計量は65.36mLであり、実施例1と比較して多かった。そのうち、ガス・処理済み対象物出口58から排出したガス中に含まれる亜酸化窒素の量(発生中)は18.91mLであった。これは、1日当たりに発生した亜酸化窒素の合計量の28.9%に相当する。なお、ガスC中の亜酸化窒素の割合は表3より1.0%であり、ガス中の亜酸化窒素の割合が実施例1に比べて少なかった。
また、処理済み対象物に溶存した状態でガス・処理済み対象物出口58から排出された亜酸化窒素の量(流出液中)は46.45mLであった。これは、1日当たりに発生した亜酸化窒素の合計量の71.1%に相当し、実施例1に比べて多かった。すなわち、比較例1では、実施例1よりも多くの亜酸化窒素が処理済み対象物に溶存して流出した。
なお、比較例1において、ガスCの量(1.65L)は、生物処理槽52の有効容積(1.4L)に対して、1.18L−gas/L−vol/日であった。
【0087】
このように、実施例1では、1日当たりに発生する亜酸化窒素の合計量を削減できた。また、1日当たりに発生した亜酸化窒素のうち、26.5%に相当する量の亜酸化窒素を、分離膜を介して回収することできた。よって、亜酸化窒素が処理済み対象物中に溶存する割合を削減でき、処理済み対象物と共に環境中へ放出されるのを極力防ぐことができた。加えて、亜酸化窒素がガス・処理済み対象物出口58から排出されるガスと共に環境中へ放出されるのも極力防ぐことができた。
また、分離膜を介して回収されるガスには、高い割合で亜酸化窒素が含まれることから、この回収されたガス中の亜酸化窒素を後処理するに際して、処理効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0088】
10、30、50:生物処理システム
12、32、52:生物処理槽
14、34、54:ガス分離手段
20、38:ガス排出口
58:ガス・処理済み対象物出口
16:減圧手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることによりガスを発生させる生物処理槽と、
前記処理対象物と接触するように前記生物処理槽内に配置され、ガス透過性の分離膜を有するガス分離手段と、
前記ガス分離手段の内部を減圧する減圧手段とを具備することを特徴とする生物処理システム。
【請求項2】
前記分離膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項1に記載の生物処理システム。
【請求項3】
アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む処理対象物をANAMMOX菌を含むグラニュールに嫌気性条件下で接触させることによりガスを発生させる生物処理方法において、
発生したガスをガス透過性の分離膜によって処理対象物から分離することを特徴とする生物処理方法。
【請求項4】
生物処理が、上部にガス排出口を有する生物処理槽内で行われるとともに、前記分離膜により分離された後、前記ガス排出口から排出されるガス量が、前記生物処理槽の有効容積に対して、0.8L−gas/L−vol/日以下であることを特徴とする請求項3に記載の生物処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−189261(P2011−189261A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56767(P2010−56767)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】