説明

生物学的製剤注入システム

第1流体の中に懸濁された粒子を移動し、該粒子を第2流体の流れに注入するためのシステムは、マルチ内腔型遠位端を有するカテーテルを備える。先端は、複数の互いに平行な内腔を有して形成され、各内腔は所定の直径を有する。重要なことは、各内腔の直径は、粒子が第2流体の流れに流入する前に凝集するのを防ぐように、該内腔へ粒子を連続的に受け入れるような寸法を有していることである。カテーテルの外側に固定されたバルブを設けて、第2流体の流れを制御することによって粒子の第2流体の流れへの流入を容易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、粒子を流体流に導入するための注入システムに関する。本発明は、特に、生物学的物質(例えば幹細胞)を患者の血管系に導入(注入)するための注入システムに関する。本発明は、これに限定はされないが特に、後の患者の血管系への注入のために粒子をフィルタの内腔に個別に又は小さい群として流入させることが可能なマルチ内腔型フィルタを使用するシステムとして有用である。
【背景技術】
【0002】
粒子を患者の血管系に導入するには、幾つかの異なる懸案事項又は検討事項を同時に満たす必要がある。取り扱う粒子の種類により、非常に重要な懸案事項としては、粒子を血管系に注入又は導入する際に、該粒子が凝集する、すなわち塊になるのを防止するということがある。これは、凝集し得るが、個々の細胞又は細胞の小さい群として機能させると治療に最も効果的な幹細胞の場合に特に懸案となるものである。
【0003】
全ての種類の血管内治療(すなわち、冠状動脈内、動脈内、又は静脈内治療)において、治療薬(例えば、生物学的製剤や薬剤)を予め制御されたやり方で注入又は送達するということが常に基本的な懸案である。更に、治療薬を血管系内の適切な目的場所に効果的に送達することも重要である。この全てには、投与量及び送達量が関与する。また、その注入中に治療薬が損傷を受けたりあるいは支障をきたしたりするのを確実に防ぐために、治療薬の取り扱いには注意を要する。
【0004】
機械的な観点から、流体通路の直径が、該通路内での流体の流量に影響する要因であることが知られている。凝集していない粒子の小さい群を血管系の血管に注入するプロトコルにおいて、通路の直径は当然、粒子の小さい群を個別に収容するのに十分大きくなくてはならない。一方、通路の直径はまた、粒子(細胞)の大きな群を分離して、互いに固着するのを防止するのに十分小さくなくてはならない。この結果、通路内で粒子を運ぶことのできる割合は、通路の寸法によって制限される。この更なる結果として、粒子が通路を通り抜ける際に、粒子が血管系の血管内の流体(すなわち、血液)の流れによって影響を受けることがある。プロトコルの目的に応じて、これは血管系内における下流への流体流も何らかの方法で制御する必要があるということを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に鑑み、本発明の目的は、粒子の小さい群のみを流体流へ効率的に導入することが可能な注入システムを提供することである。本発明の他の目的は、粒子/流動媒体(すなわち、第1流体)の流量を、該粒子/流動媒体が導入される流体(すなわち、第2流体)の流量に対して調整する注入システムを提供することである。本発明の更に他の目的は、容易に使用でき、簡単に製造できるとともに、比較的コスト効率の良い注入システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、注入システムは、長尺のカテーテルを備え、このカテーテルは、該カテーテルの近位端と遠位端との間に延在する中央内腔を有して形成される。好ましくは、カテーテルは、円滑な円形の外面を有する環状形状を有し、また説明の目的のために、該カテーテルは長手方向の軸線を画定する。その中に粒子が懸濁された流動媒体(すなわち、粒子/流動媒体)のソースが、カテーテルの近位端と流体連通して接続され、先端(フィルタ)がカテーテルの遠位端に接続されている。本発明の目的のために、該先端(フィルタ)が設けられて、粒子を患者の血管系における血管に注入又は導入する際に、該粒子が凝集するのを防止する。本発明に関し想定されるように、粒子は生物学的製剤(すなわち、細胞、遺伝子、若しくはタンパク質)又は薬剤のいずれかとすることができる。また、それらは、冠状動脈内、動脈内、又は静脈内の治療のために血管系に導入することができる。
【0007】
構造的に、先端は、複数の互いに平行な内腔を有して形成される。よって、先端がカテーテルの遠位端に固定された状態で、該先端の各内腔が、カテーテルの中央内腔と流体連通するように個別に配置される。重要なことは、各内腔が、その内部に粒子の小さい群(すなわち、10個未満)のみを連続的に受け入れるような寸法を有していることである。具体的には、各内腔は一度に数個の粒子を受け入れることができるが、各内腔は、該内腔に粒子が受け入れられる際、それらの粒子が互いに固着するのを効果的に分離するのに十分なだけ小さい。それに続いて、システムはまた、粒子/流動媒体をカテーテルの内腔内を通過させて、該粒子を先端の個々の内腔内を配列させて更に通過させるようにするための手段を備える。本発明の目的のために、この粒子/流動媒体を通過させる手段は、IVポール、注射器、又はポンプ等の関連技術分野において周知の任意の手段とすることができる。
【0008】
上記先端(フィルタ)に加えて、本発明のシステムはまた、構成可能な(膨張可能な)バルブを備える。具体的には、この構成可能なバルブは、先端に近接する位置でカテーテルを囲繞するようにカテーテルの外面上に位置付けられる。更に、当該バルブは、カテーテルの軸線周りに配置された複数の開口を有して形成される。これらの開口の目的は、カテーテルの軸線に略平行な遠位方向においてカテーテルの近傍を通過する流体(例えば、血液)の軸方向移動を制御することである。好ましくは、この制御は、バルブの開口を選択的に収縮させて開口を通過する流体の流量を制御するインフレータによって実現される。
【0009】
本発明の好適な実施例において、バルブは、上記軸線を中心とする円環として形成される。この構造で、円環は、カテーテルの外面に固定される内径を有する。バルブはまた、該円環の外周に位置付けられた略非柔軟な材料を有する。バルブをベース構成に膨張させると、この非柔軟な材料が、外径をカテーテルから所定の径方向距離に維持する。上記非柔軟な材料に加えて、該円環の残りの部分は、柔軟な材料からなる。重要なことは、この柔軟な材料は、インフレータに応答して開口を選択的に収縮させることである。よって、動作中、バルブをそのベース構成を超えて追加膨張させると、外径は実質的に上記所定の径方向位置に維持される一方、開口は徐々に収縮する。
【0010】
本発明の追加の特徴には、モノレール型のガイドワイヤ全体に亘って血管系内にカテーテルを位置付けるための構成が含まれる。また、流体流コントローラを設けて、選択された液圧でソースからカテーテルの中央内腔へ流れる流体流を計測するようにすることができる。
【0011】
本発明の新規の特徴、並びに、構造及び作用に関して本発明それ自体は、添付の説明と併せて取り上げられる添付の図面から最も良く理解されるであろう。なお、同様の部分には同様の参照符号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のシステムの概略/斜視図を示し、動作環境に位置付けられたシステムのカテーテルと共に示す。
【図2】図1の2−2線に沿って見た時のシステムのカテーテルの先端(フィルタ)及び遠位部の断面図を示す。
【実施例】
【0013】
まず図1を参照すると、本発明に係る流体を導入(注入)するためのシステムが示されており、全体を通じて符号10を付す。図示のように、システム10は、患者(不図示)の血管系内の所定の位置にカテーテル10を位置付けるように血管14内へ前進させることができるカテーテル12を備える。本発明の目的のために、血管14は、好ましくは、患者の心血管系における動脈又は静脈であり、システム10は、動脈内、静脈内、又は冠状動脈内でのプロトコルのために使用される。
【0014】
詳細には、図1は、システム10が、流動媒体18を保持するソース16を備えることを示している。また図1に示すように、複数の粒子20が流動媒体18に懸濁されて、粒子/流動媒体22を形成している。本発明において、粒子20は、ある種の薬剤であってもよく、また最も高い可能性としては、粒子20はある種の生物学的製剤(すなわち、細胞、遺伝子、又はタンパク質)である。いずれの場合も、粒子20は、ソース16からシステム10を介して血管14内に移送するために粒子/流動媒体22に懸濁される。システム10について上記したように、ソース16は、関連技術分野において周知の種類の注射器とすることができる。図1はまた、システム10が、ソース16と流体連通しているコントローラ24を備えることを示している。本発明に関し想定されるように、コントローラ24は、流体(例えば、粒子/流動媒体22)を流体流システム(例えば、システム10)内を移動させるための関連技術分野において既知の任意の種類の装置とすることができる。一般的に、このような装置は、IVポンプや、IVポール、又は他の流体流計量装置であり得る。しかしながら、ソース16が注射器であるシステム10の一実施例においては、コントローラ24に関して特定の要件は無い。
【0015】
図1はまた、システム10が、以下に説明する目的のためのインフレータ26を備えることを示している。コントローラ24とインフレータ26との両方をシステム10に使用する場合、それらは、それぞれカテーテル12と別々の流体連通路を確立するように、コネクタ28で個別に結合させることができる。好ましくは、図示のように、このコネクタ28は、カテーテル12の近位端30と流体連通して接続される。
【0016】
なお図1を参照すると、システム10は、カテーテル12の遠位端34に固定された先端(フィルタ)32を備えることが分かる。更に、バルブ36が、遠位端34の近傍においてカテーテル12に取り付けられていること、及び、該バルブ36が複数の開口38(そのうち開口38a及び38bを例示する)を有して形成されていることが分かる。カテーテル12の遠位部分の実際の構造、及び先端(フィルタ)32とバルブ36との構造上の協働についてはおそらく図2を参照することにより最も良く理解されよう。
【0017】
図2を参照し且つ先端(フィルタ)32を特に参照すると、先端(フィルタ)32は、複数の内腔40(そのうち内腔40a,40b,及び40cを例示する)を有して形成されていることが分かる。より具体的には、内腔40は、先端(フィルタ)32内を軸方向に延在し、互いに略平行である。それらはまた、カテーテル12によって全体的に画定される軸線42に対して略平行である。重要なことは、各内腔40は、個々の粒子20の又は粒子20の小さい群のみを受け入れるような特定の寸法の直径44を有するように設置されていることである。各内腔40は、一度に幾つかの凝集していない粒子20を受け入れることができるが、個々の粒子20又は粒子の小さい群は、内腔(例えば、内腔40aを参照)を通過する間、分離した状態を保つ。更に、先端(フィルタ)32は、カテーテル12を血管14内に位置付ける目的で当業者に周知の方法で、ガイドワイヤ48と相互作用するモノレール型の内腔46を有して形成することができる。
【0018】
先端(フィルタ)32の構造を念頭に置き、上記のように、各内腔40の直径44を、凝集した粒子20の大きな群がカテーテル12の中央内腔50から内腔40内に流入するのを防止するような寸法とすることが本発明の重要な側面である。特に、異なる治療プロトコルに対して、粒子20が血管14に流入する時に分散されていることが非常に不可欠であり、これにより血管14内におけるその後の凝集の可能性を最小限にすることができる。
【0019】
思い出して頂きたいのだが、バルブ36は複数の開口38を有して形成される。更に、図1及び図2を相互に参照し、膨張時、バルブ36は全体的に円環のような形状を有し、膨張室52を有して形成される、図示のように、膨張室52は、膨張ライン54を介してインフレータ26と流体連通して接続されている。この構造において、膨張ライン54はカテーテル12に組み込むことも可能である。動作目的のために、バルブ36は、柔軟な膨張可能材料からなる弁体56を備える。バルブ36はまた、円環形状のバルブ36の周囲に位置する略非柔軟な材料からなるリム58を備える。システム10のために、バルブ36は、先端(フィルタ)32に近接して位置付けられ、接着や接合等の関連技術分野において周知の任意の手段によって、カテーテル12の外面60に固定される。
【0020】
動作時、バルブ36は、収縮構成からスタートし、インフレータ26によってベース構成(図1及び2を参照)に膨張する。ここでバルブ36は、リム58によって規制される。このベース構成において、バルブ36は、カテーテル12の表面60から径方向距離62だけ延在し、ベース構成において、バルブ36は、血管14と最も良く接触する。また、ベース構成において、各開口38(例えば、開口38a)は、直径64を有する。しかしながら、インフレータ26によってバルブ36を追加膨張させると、2つの異なる構造的な結果に至る。一方は、リム58がベース構成から拡張しないことである。従って、径方向距離62はほぼ一定を保つ。他方は、弁体56が、インフレータ26に応答して、開口38が徐々に収縮するように拡張することである。異なる言い方をすると、そして、特に開口38aを参照すると、直径64が縮小する。本発明の代替の実施例において、バルブ36の必要が無い場合もある。
【0021】
動脈内、静脈内、又は冠状動脈内のプロトコルにおけるシステム10の動作のために、まずガイドワイヤ48を、患者の血管系内部に予め位置付ける。そして、ガイドワイヤ48を、カテーテル12のモノレール型の内腔46内に挿入し、カテーテル12を、ガイドワイヤ48を介して、患者の血管系内部の位置へ前進させる。カテーテル12を適切に位置付けしたら、バルブ36をそのベース構成に又はそれよりも超えて膨張させる。バルブ36を厳密にどの程度膨張させるかは、血管14内の開口38を通る流体の所望の流量によって決まる。バルブ36を膨張させた状態で、コントローラ24を作動させて、ソース16からカテーテル12の中央内腔50内を通る粒子/流動媒体22の流れを起こす。粒子/流動媒体22内の粒子20が先端(フィルタ)32に到達すると、先端(フィルタ)32の個々の内腔40のそれぞれの直径44によって、個々の粒子20又は粒子20の小さい群のみが内腔40に流入することができる。従って、中央内腔50内の粒子20の凝集を分解し、先端(フィルタ)32を通過した後の粒子20の凝集が最小限に抑えられる。上述の説明は、システム10を患者の心血管系内での適用に着目したものであるが、システム10は、後に個々の粒子20が流体流(例えば、血管14内の血流)に放出されるように、粒子20が粒子/流動媒体22の中に懸濁されているような任意の用途に適している。
【0022】
本明細書において示し詳細に説明した当該特定の生物学的製剤注入システムは、前述の目的を達成するとともに本明細書において前述した利点を提供することが十分に可能であるが、このシステムは本発明の現時点で好適な実施例を単に例示するものであり、添付の特許請求の範囲に記載のもの以外に本明細書において示した構造又は設計の詳細に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端と遠位端との間に延在する中央内腔を有して形成された長尺のカテーテルと、
その中に粒子が懸濁された流動媒体のソースであって、前記カテーテルの前記近位端と流体連通して接続されたソースと、
複数の互いに平行な内腔を有して形成された先端であって、該先端の各内腔を前記中央内腔と流体連通して個別に配置するように前記カテーテルの前記遠位端に固定され、各個々の内腔がその内部に粒子を連続的に受け入れるような寸法を有している、先端と、
粒子が懸濁された前記流動媒体を前記カテーテルの前記内腔内を通過させて、前記粒子を前記先端の個々の内腔内に配列させて更に通過させるようにするための手段と、
を備える注入システム。
【請求項2】
前記カテーテルは、外面を有し、管状形状を有して軸線を画定し、
前記システムは、
前記先端に近接する位置で前記カテーテルを囲繞するように前記カテーテルの前記外面上に位置付けられた構成可能なバルブであって、前記カテーテルの前記軸線に略平行な遠位方向において前記開口内及び前記カテーテルの近傍を流体が軸方向移動するのを許容するように前記カテーテルの前記軸線周りに配置された複数の開口を有して形成されたバルブと、
前記バルブを選択的に構成して、前記開口を通る流体の流量を制御する手段と
を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記バルブは、前記カテーテルの前記外面に適合する内径を有し前記軸線を中心とする円環として形成され、
前記バルブは、前記カテーテルの前記外面よりも所定の径方向距離に外径が確立されるベース構成に膨張可能であり、更に、前記バルブを追加膨張させると、前記外径は実質的に維持される一方、前記開口は徐々に収縮する、請求項2に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−511295(P2013−511295A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529945(P2012−529945)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/049367
【国際公開番号】WO2011/035182
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512071145)トランスラショナル バイオロジック インフュージョン カテーテル、エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】