説明

生理活性物質の固定化方法

【課題】本発明の目的は、固相基板表面に生理活性物質を固定する際、固定化効率を向上させ、かつスポット形状、サイズの再現性を向上させる為、生理活性物質を溶解させる為の水溶液組成物を提供することにある。
【解決手段】生理活性物質を基板上に固定化する方法であって、水溶性高分子を含有する水溶液に該生理活性物質を溶解し生理活性物質固定用水溶液を作製し、該生理活性物質固定用水溶液を該基板にスポットすることを特徴とする生理活性物質固定化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸やペプチド、タンパク質などの生理活性物質を基板上に複数個固定する際、スポットの形状やサイズの大きさを再現よくスポットでき、高感度な定量検出ができる生理活性物質を溶解した水溶液組成、固定化方法及びバイオチップ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップに代表されるように、基板上に生理活性物質を複数個固定し、アレイ状にしたバイオチップ製作の試みが数多くなされている。その多くは、基板上に官能基を修飾し、市販スポッタ−装置を用いて複数個の生理活性物質をスポットし、官能基と反応させることで基板上に固定化する。固定化した生理活性物質を検出する方法としては、蛍光やラジオアイソトープなどのラベル物質を結合させ、ラベル物質を検出することで生体分子あるいは分子集合体の評価をする方法がある。特に蛍光は、DNAチップの分野で幅広く使われている。一方、ラベル操作は非常に煩雑であるとともに定量性に欠け、反応をリアルタイムで観察するのは非常に困難である。そこでラベルが不要でかつ定量性があり、リアルタイムで評価可能な分析方法として、表面プラズモン共鳴法(SPR)が注目を集めている。SPRは生理活性物質を固定化した金属薄膜に光を照射して反射光をモニターし、サンプルとの相互作用を共鳴角もしくは反射光強度の変化で測定する方法である。一般的なSPRチップは、薄く蒸着した金フィルム上にカルボキシル化デキストランマトリックスを含む基板上に核酸や、ペプチド、抗体などを固定して測定が始められる。又近年US6127129のように、金属表面に複数の生理活性物質をアレイ状に作成し、2次元SPR法で複数アゴニストとアンダコニストの相互作用解析を行う方法も開示されている。
【0003】
生理活性物質をアレイ上に固定したバイオチップの解析精度は、スポットの形状、サイズの安定性、反応時の保水性、及び検出限界に左右される。スポットの形状、サイズにバラツキが大きい場合、シグナルを解析、数値化する際誤差を生じる為正確な評価が不可能となる。又反応時の保水性が低い場合、生理活性物質の固定化量にバラツキを生じ、シグナルの再現性が問題となり、S/N比も低くなって正確な評価ができなくなるなどの問題がある。これまで核酸をアレイ上に固定する際、溶解液にDMSOを添加し、スポット後反応時の保水性を保つことがしばしば行われている。ただし高密度でアレイ状にスポットしたい場合、DMSO添加量が多くてスポット同士がくっつき正確なアレイ製作ができない場合がある。又、基板材質や表面に修飾した官能基の種類により、スポットの形状やサイズのバラツキが全く改善されない場合もある。
【0004】
ペプチドを基板上にスポットする場合、同様に基板の種類や修飾する官能基で固定化量やスポットの形状、サイズはバラツキがあり、ペプチドのアミノ酸配列によっても異なる。修飾する官能基試薬は疎水性である為、電荷の多いペプチド配列は基板表面に固定しにくくスポット形状や大きさのバラツキも大きい。又スポット中は、市販スポッタ−装置内に加湿器を装着し、スポットした溶液が乾かないなどの工夫はされているが、水分の蒸発を100%防ぐことは難しく、微量なスポット後の溶液が乾くことはしばしばある。その場合、ウエットな状態の容器に基板を移し、室温で静置することでスポットした液量が復活するが、生理活性物質溶解液組成により残存する液量のバラツキが生じ、官能基との反応に影響を与え固定化量のバラツキを生ずる問題がある。
【特許文献1】特開2004−286728号公報
【特許文献2】特開2001−128683号公報
【特許文献3】特開2001−186880号公報
【特許文献4】特許 第2824460号公報
【特許文献5】特許 第3398366号公報
【非特許文献1】M-L.Lesaicherre,M.Uttamchandani,G.Y.J.Chen,s.S.Q.Tao,Bioorg. Med.Chem.Lett.,12,2085(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生理活性物質を溶解した水溶液をスポットする場合、通常リン酸緩衝液、トリス緩衝液、あるいは蒸留水や生理食塩水中に生理活性物質を溶解して点着する。しかしながらこれらの水溶液を使用した場合、基板と溶液の濡れ性、親和性が低い場合にはスポットの形状、サイズにバラツキを生じるという問題があった。又、装置内に加湿器が内蔵していてもスポット液量が少ない場合、乾燥してしまう問題もあった。
【0006】
DNAやペプチドなどの合成物質は、スポット後の溶液が乾いても再度基板をウエットな環境に置けば液量が再生するものの、乾き方により生理活性物質の固定化量にムラができる場合や、架橋剤との反応時間が不十分で固定化量が少なくなる場合があり問題があった。
【0007】
本発明の目的は、アルデヒド基やスクシイミド基などを修飾した固相基板表面に、共有結合可能なアミノ基やチオ−ル基などを持つ生理活性物質、特にペプチドを固定する際、固定化効率を向上させ、かつ、スポット形状、サイズの再現性を向上させる為、生理活性物質を溶解させる為の水溶液組成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出した。
1.生理活性物質を基板上に固定化する方法であって、水溶性高分子を含有する水溶液に該生理活性物質を溶解し生理活性物質固定用水溶液を作製し、該生理活性物質固定用水溶液を該基板にスポットすることを特徴とする生理活性物質固定化方法。
2.水溶性高分子が、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、セルロ−ス及びゼラチンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
3.水溶性高分子の平均重合度が200以上であることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
4.水溶性高分子の濃度が0.01重量%以上〜5重量%以下であることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
5.チオ−ル基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基及びマレイミド基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基が生理活性物質の末端にあることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
6.生理活性物質が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド及び多糖類からなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
7.基板が、ガラス、金基板又はプラスチック基板であることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
8.基板の表面上が、チオ−ル基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基及びマレイミド基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基により修飾されていることを特徴とする7の理活性物質固定化方法。
9.生理活性物質固定用水溶液を基板上へアレイ状にスポットすることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
10.生理活性物質固定用水溶液のpHが6〜10に調製されていることを特徴とする1の理活性物質固定化方法。
11.生理活性物質を基板上に固定化する有効成分として水溶性高分子を含有することを特徴とする生理活性物質固定剤。
12.水溶性高分子が、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、セルロ−ス及びゼラチンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする11の生理活性物質固定剤。
13.水溶性高分子を含有する水溶液に該生理活性物質を溶解し生理活性物質固定用水溶液を作製し、該生理活性物質固定用水溶液を該基板にスポットことを特徴とするバイオチップ製造方法。
14.水溶性高分子が、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、セルロ−ス及びゼラチンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする13のバイオチップ製造方法。
【発明の効果】
【0009】
基板表面に生理活性物質を、アレイ上に複数個固定した蛍光アレイやSPRチップにおいて、測定対象物質との反応によるシグナル変化を再現性よく得る一方、感度も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の「生理活性物質」は特に限定されないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、核酸、膜タンパク質、糖タンパク質、抗体や多糖類など低分子物質から高分子物質まで種種の物質を用いることができる。好ましい生理活性物質は、核酸、ペプチド、抗体などが挙げられる。
【0011】
「生理活性物質」には末端に官能基があってもよい。官能基により、基板への共有結合結合を可能とし、生理活性物質を基板上に効果的に固定化出来る。共有結合可能な官能基としては、例えばアミノ基、水酸基、チオ−ル基、カルボキシル基、マレイミド基、アルデヒド基などを挙げることができる。
【0012】
本発明の「基板」については、スライドガラス、金蒸着ガラスやプラスチック基板でもよい。蛍光アレイでは、スライドガラス表面にアミノ基を固定し、グルタルアルデヒドを用いて、アルデヒド基と反応させた基板に生理活性物質を固定させる方法がしばしば用いられる。SPRチップでは、アミノ基やカルボキシル基を修飾させた金基板に、アミド結合により生理活性物質を固定してもよい。
【0013】
本発明の「水溶性高分子」としては、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ルに代表される合成高分子、セルロ−スやゼラチンなどの天然高分子が上げられるが、合成高分子の方が使い易い。特にポリビニルアルコ−ルが好ましい。
【0014】
水溶性高分子の中でポリビニルアルコ−ルを溶解液に溶かす場合、含有量が多い時はバッファ中に溶解しにくい場合がある。その場合は溶解液温度を60〜80℃まで暖めスタ−ラなどで溶解液を攪拌すれば溶解しやすい。又、工業用途原料の場合不純物が含まれている場合もあるので、溶解後0.22μmのフィルタ−で濾過した方が好ましい。
【0015】
水溶性高分子の含有量は、0.01〜5重量%であり、より好ましい条件は0.03〜0.5重量%である。含有量が5重量%を越えると粘度が高すぎて、スポットした後に近接溶液がくっつくなどの問題を生ずる為、好ましくないが本発明の効果を損なわない限り使用してもよい。一方0.01W%未満では、水溶性高分子の含有効果が現れないため好ましくないが本発明の効果を損なわない限り使用してもよい。
【0016】
水溶性高分子の平均重合度は、市販試薬を用いる為特に限定はしないが、平均重合度は200以上であればよく、500以上が好ましい。
【0017】
本発明の「水溶性高分子を含有する水溶液」のpHは、基板上に修飾した官能基と生理活性物質の官能基の反応性に適したpHであればよい。上記に述べた反応基であれば、通常pH6〜10の範囲に入る緩衝液が用いられる。アルデヒド基と生理活性物質中のアミノ基を反応させる場合は、通常pH9〜10の炭酸緩衝液が用いられ、スクシイミド基とスルフォン基を反応させる場合は、pH7.5付近のトリスバッファがよく用いられる。
【0018】
本発明の「水溶性高分子を含有する水溶液」には、水溶性高分子以外の添加物として、生理活性物質の安定性を向上する為、塩やキレ−ト剤、還元剤、界面活性剤などが含有されていてもよく、適宜用いればよい。
【0019】
本発明の「生理活性物質固定剤」とは、上記の「水溶性高分子を含有する水溶液」と同等であり、生理活性物質を基板上に固定化する有効成分として「水溶性高分子」を含有する。「生理活性物質固定剤」に用いられる水溶性高分子は、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ルに代表される合成高分子、セルロ−スやゼラチンなどの天然高分子が上げられるが、合成高分子の方が使い易い。特にポリビニルアルコ−ルが好ましい。
【0020】
「生理活性物質固定剤」や「水溶性高分子を含有する水溶液」に生理活性物質を溶解し生理活性物質固定用水溶液とし、基板上にスポットし、バイオチップを作製すればよい。「生理活性物質固定剤」や「水溶性高分子を含有する水溶液」に生理活性物質を溶解する場合の生理活性物質の濃度は、0.01mg/ml以上10mg/ml以下であればよく、このましくは0.1mg/ml以上1mg/ml以下であればよい。
【0021】
本願発明のバイオチップ製造方法において、基板上に複数個の生理活性物質を固定する場合、市販スポッタ−装置が使用してもよい。スポット方法としては、ステンレス棒の先端にくぼみを作ったノズルで生理活性物質溶解液に先端を浸け、1回ずつ基板上にスタンプする方法、先端がペンのように溝を設けたノズルで、生理活性物質溶解液に先端を浸け溶液を先端溝に保持した後、基板上に連続してスポットする方法、セラミックスノズルを用い、生理活性物質溶解液を吸引後、ノズルに連結した分注ポンプの引圧/加圧を利用して基板上に溶液を吹き付ける方法がある。
【0022】
本発明のバイオチップは、生体物質の相互作用などを測定する方法などに使用できる。たとえば、蛍光法やSPR法が一般的である。本発明の検討としては、主にSPR法を用いたので、本発明の実施で使用しているSPR装置の構成を図1に示す。SPRは光学的な検出方法であるため、測定に用いる基板は透明である必要がある。また、表面プラズモン共鳴を励起するために、透明基板の片面には金属薄膜が形成されている。この金属薄膜は通常金が用いられている。金薄膜は蒸着法、又はスパッタリング法によってクロムを1nm、金を45nm積層させたものが表面厚みのムラがなく、金薄膜が剥がれ落ちにくいため好ましい。金薄膜上にチオール化合物もしくはジスルフィド化合物を、金−硫黄の結合を利用して固定できる。複数の生理活性物質の相互作用を測定するために、SPRチップで金基板に固定する生理活性物質はアレイ状にするのが好ましい。金基板上に蛋白質もしくはペプチドを固定化し、2次元SPR法によって蛋白質もしくはペプチドが固定化された部位の抗体結合による反射光強度変化をリアルタイムで解析することにより、正確なKineticsを評価することもできる。
【実施例】
【0023】
近年、細胞内シグナル伝達に関する研究は飛躍的に進歩しており、様々な種類のプロテインキナ−ゼが複雑に関連しあいながら、シグナル伝達経路において重要な役割を果たしていることが知られている。これらプロテインキナ−ゼの活性を網羅的に解析し、その細胞内における動態を一度にプロファイリングすることができれば、細胞生物学、薬学の基礎的研究はもとより、創薬開発、臨床応用などの分野においても大きく寄与しうるものと期待されている。しかしながら、これまでには簡便で効率よく数々のプロテインキナ−ゼにおける動態を同時にプロファイリングできるような技術はまだ確立されていない。上記背景により、金属薄膜上に、プロテインキナ−ゼを認識するペプチドが固定化されてなるアレイを用い、概アレイ上における物質間の相互作用を2次元SPR法により検出することで、様々なプロテインキナ−ゼ動態の迅速な解析を試みた。
【0024】
(実施例1)
本発明を以下の実施例により具体的に説明する。
1−1.SPRチップ作成
(高分子担体の種類)
ポリビニルアルコ−ル(PVA):日本合成化学製 重合度約500 ケン化度86.5〜89
ポリエチレングリコ−ル(PEG):ナカライテスク製 重合度2000
【0025】
(生理活性物質固定剤の調製)
10mMリン酸バッファ溶液(pH7.2 150mM NaCl入り)、50mM炭酸バッファ溶液(pH9.5 150mM NaCl入り)、0.05W%PVA溶液(50mM炭酸バッファpH9.5 150mM NaCl入りで溶解)、及び0.05W%PEG溶液(50mM炭酸バッファpH9.5 150mM NaCl入りで溶解)
【0026】
(cSrc用ペプチド溶解液の調製)
チロシンキナ−ゼ酵素であるcSrcの基質となるアミノ酸配列からなる基質ペプチド(Src−Y)(配列番号1)、cSrcのネガコントロ−ル(Src−F;チロシン残基がフェニルアラニン残基に置換)(配列番号2)、cSrcのポジコントロ−ル(Src−pY;チロシン残基がリン酸化)(配列番号3)の3種類を、上記生理活性物質固定剤でペプチド濃度が1mg/mlとなるよう調製した。
各cSrc基質の配列を下記に示す。
Src-Y CGIYGEFKKK-NH2, M.W. 1171.43(配列番号1)
Src-F CGIFGEFKKK-NH2, M.W. 1155.43(配列番号2)
Src-pY CGIpYGEFKKK-NH2, M.W. 1251.43(配列番号3)
【0027】
(スポッタ−の準備)
カ−ティシャン製スポッタ−は、ペンタイプのノズルを使用しており、サンプルをペン先で吸引後、スライドガラス表面や金基板表面にペプチドを連続してスポットする方式である。
【0028】
(cSrcアレイ作成)
(1)SPRチップ作成の為、18mm四方で厚さ2mmのLak10スライド(屈折率1.72、松浪硝子工業社製)に3nmクロムと45nmの金を蒸着した。
(2)金基板を1mMの4armPEG-SH(日本油脂製)に2時間浸漬後、96パタ−ンのフォトマスクでUV照射を2時間行う。再度金基板を1mM MOAM(8-amino-1-octanethiol,hydrochloride;同仁化学製)溶液中に1.5時間浸漬して、金表面にアミノ基を導入した。
(3)架橋剤:SSMCC(Sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)を400μl金表面に滴下し、室温で15分反応させる。
(4)準備したペプチド溶解液をカ−ティシャンスポッタ−装置にセットし、ポジコントロ−ル、基質、ネガコントロ−ル各ペプチドをスポットし、SSMCCのマレイミド基と、合成したペプチドのN末端のチオ−ル基を反応させる。(室温でオ−バナイト)
(5)金表面をミリQ水で洗浄後、ブロッキング液:1mMPEG−SH(日本油脂製)を金表面上に400μl滴下し、室温で30分反応させる。
(6)cSrc酵素(カルナバイオサイエンス製)0.6μlを専用希釈液300μlに溶かし30℃で5時間反応させる。
専用希釈液組成:ATP(100μM)、Mg(50mM) in 50mM MESバッファ
【0029】
(SPR測定)
作成したSPRチップをSPR装置(東洋紡製)に装着する。cSrc酵素によるリン酸化シグナルは、シグマアルドリッチ製抗リン酸化抗体PT-66(4000倍希釈)を使用して検出する。
【0030】
1−2.SPR測定結果
(ペプチドスポット結果)
cSrcアレイを5枚スポットした時点で、PVA含有溶液のスポットミスは0点、PEG含有溶液のスポットミス0点、リン酸バッファ溶液や炭酸バッファ溶液のスポットミス10点以上であり、スポット溶液に高分子担体を含有することでスポットミスを防ぐことが可能である。
(リン酸化シグナルの比較)
各溶解液組成のペプチドは8点ずつスポットしている。ポジコンシグナル、及び基質リン酸化シグナルについて、シグナルの大きさやそのバラツキを表1に示す。金基板上への各スポットの構成図を図2に、各リン酸化シグナルの大きさを市販ソフトでグラフィク化したものを図3に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
ペプチド溶解液組成によるシグナルの大きさやバラツキを見ると、ポジコンシグナル及び基質リン酸化シグナルにおいては、0.05W%PVA含有溶解液を使用した場合最もシグナルが大きくバラツキも小さい。リン酸バッファや炭酸バッファを使用した場合、スポット箇所によるリン酸化シグナルのバラツキは大きい。基質リン酸化シグナルの上昇やバラツキ低減において、スポット時に高分子担体を含有させた溶解液を使用することは有効である。
【0033】
(実施例2)
スポットしたペプチドがどの程度の精度で固定化されているかを、リン酸化シグナルの定量性試験で確認した。
【0034】
2−1.PKAアレイ作成
(生理活性物質固定剤の調製)
10mMリン酸バッファ溶液(pH7.2 150mM NaCl入り)、及び0.05W%PVA溶液(50mM炭酸バッファpH9.5 150mM NaCl入り)
【0035】
(PKA用ペプチド溶解液の調製)
PKA酵素の基質となるアミノ酸配列からなる基質ペプチド(PKA−S)(配列番号4)、PKAのネガコントロ−ル(PKA−A;セリン残基がフェニルアラニン残基に置換)(配列番号5)、PKAのポジコントロ−ル(PKA−pS;セリン残基がリン酸化)(配列番号6)の3種類を、上記生理活性物質固定剤で調製した。定量試験では、ポジコンと基質ペプチドを配合し、ポジコン濃度が数段階のスポット溶液を準備し金基板にスポットした。各濃度のペプチド溶液を8点ずつスポットした。
各プロテインキナ−ゼA基質配列の配列を下記に示す。
PKA-S CGGLRRASLG-NH2, M.W. 988.19(配列番号4)
PKA-A CGGLRRAALG-NH2, M.W. 972.19(配列番号5)
PKA-pS CGGLRRApSLG-NH2, M.W. 1068.19(配列番号6)
【0036】
(PKAアレイ作成)
(1)SPRチップ作成の為、18mm四方で厚さ2mmのLak10スライド(屈折率1.72、松浪硝子工業社製)に3nmクロムと45nmの金を蒸着した。
(2)金基板を1mMの4armPEG-SH(日本油脂製)に2時間浸漬後、96パタ−ンのフォトマスクでUV照射を2時間行う。再度金基板を1mM MOAM(8-amino-1-octanethiol,hydrochloride;同仁化学製)溶液中に1.5時間浸漬して、金表面にアミノ基を導入した。
(3)架橋剤:SSMCCを金表面に滴下し、室温で15分反応させる。
(4)準備したペプチド溶解液をカ−ティシャンスポッタ−装置にセットし、ポジコン、基質、ネガコン各ペプチドをスポットし、SSMCCのマレイミド基と、合成したペプチドのN末端のSH基を反応させる。(室温でオ−バナイト)
(5)アレイ表面をミリQ水で洗浄後、ブロッキング:1mMPEG−SH(日本油脂製)をアレイ表面上に400μl滴下し、使用で室温30分反応させる。
(6)PKA(プロメガ製)1μlを専用希釈液400μlに溶かし30℃で2時間反応させる。専用希釈液:ATP(100μM)、Mg(10mM) in 50mM HEPESバッファ
【0037】
(SPR測定)
SPR測定:亜鉛キレ−ト剤BTL104(ナ−ド製)使用。濃度12μg/ml。専用希釈液で調製 室温60分反応
ストレプトアビジン(SA) Vector製 2μg/ml
抗ストレプトアビジン抗体(抗SA) BMD製 1万倍希釈
本発明の生理活性物質固定剤を使用したポジコン/ネガコンのスポットしたペプチド濃度とリン酸化シグナルの関係を図4に示す。
結果より、ポジコンではペプチド濃度が0.1mg/ml以上でリン酸化シグナルはプラト−となっている。溶解液組成の違いによる低濃度側の定量性を見る為、溶解液としては、本発明の生理活性物質固定剤と、比較例としてリン酸バッファ溶液を用いた場合で比較した。ペプチド濃度が0〜0.1mg/mlの範囲での定量性試験の結果を表2と、PVA含有溶液を用いた場合の結果を図5及びリン酸バッファ溶液を用いた場合の結果を図6に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
結果より、ペプチド濃度が低濃度の場合、溶解液組成による定量性の差が顕著に出ている。本発明の生理活性物質固定剤の場合、ペプチド濃度が0.1mg/mlまで固定化した濃度とリン酸化シグナル間に定量性が認められ、リン酸バッファ溶解液使用よりシグナルのバラツキも小さい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の理活性物質固定化方法と生理活性物質固定剤により、基板と溶液の親和性の向上を図ることが有効となる。又水溶性高分子の含有量を変化させることで、スポット後溶液の保持性が向上し、溶液の乾燥速度をコントロ−ルすることが可能であることからも、産業界に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明をSPR法に用いた場合の構成図
【図2】金基板上への各スポットの構成図
【図3】各リン酸化シグナルの大きさを市販ソフトでグラフィク化した図
【図4】PVA含有溶解液を使用したポジコン/ネガコンスポット濃度とリン酸化シグナルの関係
【図5】PVA溶解液使用リン酸化シグナル定量性
【図6】リン酸化バッファ使用リン酸化シグナル定量性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質を基板上に固定化する方法であって、水溶性高分子を含有する水溶液に該生理活性物質を溶解し生理活性物質固定用水溶液を作製し、該生理活性物質固定用水溶液を該基板にスポットすることを特徴とする生理活性物質固定化方法。
【請求項2】
水溶性高分子が、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、セルロ−ス及びゼラチンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項3】
水溶性高分子の平均重合度が200以上であることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項4】
水溶性高分子の濃度が0.01重量%以上〜5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項5】
チオ−ル基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基及びマレイミド基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基が生理活性物質の末端にあることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項6】
生理活性物質が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド及び多糖類からなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項7】
基板が、ガラス、金基板又はプラスチック基板であることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項8】
基板の表面上が、チオ−ル基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基及びマレイミド基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基により修飾されていることを特徴とする請求項7に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項9】
生理活性物質固定用水溶液を基板上へアレイ状にスポットすることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項10】
生理活性物質固定用水溶液のpHが6〜10に調製されていることを特徴とする請求項1に記載の理活性物質固定化方法。
【請求項11】
生理活性物質を基板上に固定化する有効成分として水溶性高分子を含有することを特徴とする生理活性物質固定剤。
【請求項12】
水溶性高分子が、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、セルロ−ス及びゼラチンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする請求項11に記載の生理活性物質固定剤。
【請求項13】
水溶性高分子を含有する水溶液に該生理活性物質を溶解し生理活性物質固定用水溶液を作製し、該生理活性物質固定用水溶液を該基板にスポットことを特徴とするバイオチップ製造方法。
【請求項14】
水溶性高分子が、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、セルロ−ス及びゼラチンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の水溶性高分子であることを特徴とする請求項13に記載のバイオチップ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−163354(P2007−163354A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361802(P2005−361802)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成14年度新エネルギ−・産業技術総合開発機構、研究テ−マ「ゲノム研究成果産業利用のための細胞内シグナル網羅的解析」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】