説明

生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物

【課題】生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物の提供。
【解決手段】ベニクスノキタケ抽出物中より分離した4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン(4-hydroxy-2,3-dimethoxy-6-methy-5(3,7,11-trimethyl-dodeca-2,6,10-trienyl)-cyclohex-2-enone)で、生理的疲労を効果的に緩和することができる。80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後に直ちに前記の化合物を補充し、体内クレアチンリン酸キナーゼと血中アンモニアの代謝を促進し、その濃度の回復を助け、生理的疲労を緩和する効果を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一種の抗疲労に用いる化合物に関する。特に一種のベニクスノキタケ(Antrodia camphorata)抽出物中から分離純化し、しかも生理的疲労の緩和に用いることができるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物に係る。
【背景技術】
【0002】
ベニクスノキタケ(Antrodia camphorata)は台湾では牛樟芝、樟芝、牛樟キノコ、紅樟芝などと呼称され、ヒダナシタケ目(Aphyllophorales)、多孔菌科(Polyporaceae)の多年生菌類で、台湾固有の真菌である。ベニクスノキタケは台湾の保護樹木である牛樟樹(Cinnamoum kanehirai Hay)の中空の腐敗心材内壁にのみ生長する。牛樟樹は台湾でも極めて希少な保護樹であり、不法伐採の問題もあるため、牛樟樹中に寄生する野生ベニクスノキタケはさらに希少である。しかもその子実体の生長は非常に緩慢で、生長期は六月から十月の間に限られるため、非常に高価である。
【0003】
ベニクスノキタケの子実体は多年生、無柄で、木栓質(スベリン)から木質を呈し、強烈な樟樹香気を備える。その形態は板状、鐘状、馬蹄形、塔状など様々である。初期は扁平型で鮮紅色を呈し、後にその周辺が放射状に巻き上がり、四週へと拡大し生長する。色も淡褐色或いは淡黄褐色へと変化し、多くの細孔を備える。それはベニクスノキタケの薬用価値が最も豊富な部位である。
【0004】
台湾の民間療法ではベニクスノキタケは解毒、下痢の症状軽減、消炎、肝臓関連疾病治療、抗癌薬として用いられる。ベニクスノキタケは一般の生薬とされるキノコ類同様に、多くの複雑な成分を含む。既に知られている生理活性成分中には、トリテルペノイド(triterpenoids)、多糖体(polysaccharides,β-グリコーゲンなど)、アデノシン(adenosine)、ビタミン(ビタミンB、ナイアシンなど)、タンパク質(免疫グロブリンを含む)、スーパーオキサイドディスムターゼ(superoxide dismutase, SOD)、微量元素(カルシウム、リン、ゲルマニウムなど)、核酸、ステロール類、及び血圧安定物質(antodia acidなど)などがある。これら生理活性成分は抗腫瘍、免疫能力強化、抗過敏、抗ウィルス、抗高血圧、血糖値低下、コレステロール低下などの多種の機能と効果を備えると考えられている。
【0005】
ベニクスノキタケの多種の成分の内、トリテルペノイドに対する研究が最も多い。トリテルペノイドは三十個の炭元素が六角形或いは五角形に結合した天然化合物の総称である。ベニクスノキタケが具える苦味は、トリテルペノイドが成分である。
1995年、Cherng氏などはベニクスノキタケ子実体の抽出物中に三種の新しいエルゴスタン(ergostane)を骨格とするトリテルペノイド:antcin A、antcin Bとantcin C(引用文献1)が含まれることを発見した。Chen氏などはエタノールによりベニクスノキタケ子実体を抽出後、zhankuic acid A、zhankuic acid B 及びzhankuic acid Cなど三種のトリテルペノイドを発見した(引用文献2)。
この他、Chiang氏などは1995年、子実体抽出物中より別の三種のセスキテルペンラクトン(sesquiterpene lactone)と二種のビスフェノール類派生物である新しいトリテルペノイドを発見した。これがすなわち、antrocin, 4,7-ジメトキシ-5-メチル-1,3-ベンゾジオキソール(4,7-dimethoxy-5-methy-1,3- benzodioxole)と2,2',5,5'-テラメトキシ-3,4,3',4'-ビ-メチルレネジオキシ-6,6'-ジメチルビフィニール(2,2',5,5'-teramethoxy-3,4,3',4'-bi- methylenedioxy-6,6'- dimethylbiphenyl)(引用文献3)である。
1996年になって、Cherng氏などは同様の分析方法により再度四種の新しいトリテルペノイド:antcin E、antcin F、methyl antcinate G、methyl antcinate H(引用文献4)を発見した。
またYang氏などは二種のエルゴスタンを骨格とする新化合物zhankuic acid D、zhankuic acid Eと三種のラノスタン(lanostane)を骨格とする新化合物:15 α -アセチル-デハイドロサルファレニック酸(15 α -acetyl-dehydrosulphurenic acid)、デハイドロエブリコイック酸(dehydroeburicoic acid)とデハイドラサルファレニック酸(dehydrasulphurenic acid)(引用文献5)を発見した。
【0006】
現在では様々な実験により、ベニクスノキタケ抽出物が前記効果を備えることが知られており、しかもそれが含む成分も続々と分析されている。しかし抽出物中のどの種の有効成分がベニクスノキタケの該各機能と効果を成し得るかについて、具体的な有効成分は未だ発表されていない。
内、ベニクスノキタケ抽出物が含む抗疲労の成分についてはなお、さらなる研究により明らかにされることが待たれている。よってもし該抽出物中に含まれる抗疲労に真に有効な成分を探し出し、ベニクスノキタケをヒトの生理的疲労の緩和に応用することができれば、非常に大きな益となる。
【0007】
[引用文献1] Cherng, I. H., and Chiang, H. C. 1995. Three new triterpenoids from Antrodia cinnamomea. J. Nat. Prod. 58:365-371
[引用文献2] Chen, C. H., and Yang, S. W. 1995. New steroid acids from Antrodia cinnamomea, −a fungus parasitic on Cinnamomum micranthum. J. Nat. Prod. 58:1655-1661
[引用文献3] Chiang, H. C., Wu, D. P., Cherng, I. W., and Ueng, C. H. 1995. A sesquiterpene lactone, phenyl and biphenyl compounds from Antrodia cinnamomea. Phytochemistry. 39:613-616
[引用文献4] Cherng, I. H., Wu, D. P., and Chiang, H. C. 1996. Triteroenoids from Antrodia cinnamomea. Phytochemistry. 41:263-267
[引用文献5] Yang, S. W., Shen, Y. C., and Chen, C. H. 1996. Steroids and triterpenoids of Antrodia cinnamomea−a fungus parasitic on Cinnamomum micranthum. Phytochemistry. 41:1389-1392
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を提供する。
それはベニクスノキタケ抽出物中から構造式(1)を備える化合物を分離純化する。
【化1】

【0009】
内、Xは酸素(O)或いはイオウ(S)で、Yは酸素(O)或いはイオウ(S)である。R1は水素(H)、メチル(CH3)或いは(CH2)m-CH3で、R2は水素、メチル或いは(CH2)m-CH3で、R3は水素、メチル或いは(CH2)m-CH3で、m=1〜12;n=1〜12である。
【0010】
構造式(1)の化合物中において、以下に示す式(2)の化合物が最適である。
【化2】

【0011】
式(2)の化合物の化学名は4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン(4-hydroxy-2,3-dimethoxy-6-methy-5(3,7,11-trimethyl-dodeca-2,6,10-trienyl)-cyclohex-2-enone)で、分子式はC24H38O4で、外観は淡黄色粉末状で、分子量は390である。
【0012】
本発明中式(1)、式(2)の化合物はベニクスノキタケ水抽出物或いは有機溶剤抽出物より分離純化し、有機溶剤はアルコール類(メタノール、エタノール或いはプロパノールなど)、エステル類(アセチジンなど)、アルケン類(ヘキサンなど)或いはハロセン(クロロメタン、エチルクロライドなど)を含むが、これらに限定しない。内、アルコール類が最適で、エタノールがより最適である。
【0013】
前記式(1)、式(2)のシクロヘキサンケトン化合物を本発明は生理的疲労の緩和に応用する。80%最大酸素摂取量(80%VO2max)の高強度消耗運動後に、直ちにベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充し、体内クレアチンリン酸キナーゼ(creatine phosphate kinase;CPK)と血中アンモニア(Ammonia)の代謝及びその濃度の回復を助ける。これにより運動が引き起こす筋肉細胞の損傷を緩和し、血液中の血中アンモニア蓄積が招く中枢疲労と周辺疲労の現象を改善し、抗疲労の効果を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物は以下の構造式を含み、
【化3】

内、Xは酸素(O)或いはイオウ(S)で、Yは酸素(O)或いはイオウ(S)で、R1は水素(H)、メチル(CH3)或いは(CH2)m-CH3で、R2は水素、メチル或いは(CH2)m-CH3で、R3は水素、メチル或いは或いは(CH2)m-CH3,m=1〜12で、n=1〜12であることを特徴とする生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項2の発明は、前記化合物はベニクスノキタケの有機溶剤抽出物中から分離製造することを特徴とする請求項1記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項3の発明は、前記有機溶剤はエステル類、アルコール類、アルケン類或いはハロセンにより組成するグループから選択することを特徴とする請求項2記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項4の発明は、前記アルコール類はエタノールであることを特徴とする請求項3記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項5の発明は、前記化合物はベニクスノキタケの水抽出物中より分離製造することを特徴とする請求項1記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項6の発明は、前記化合物は4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン(4-hydroxy-2,3-dimethoxy-6-methy-5(3,7,11- trimethyl-dodeca-2,6,10-trienyl)-cyclohex-2-enone)であることを特徴とする請求項1記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項7の発明は、前記化合物は運動後の体内クレアチンリン酸キナーゼ(creatine phosphate kinase)の代謝を促進し、こうして抗疲労効果を達成することを特徴とする請求項1或いは6記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項8の発明は、前記運動は80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動であることを特徴とする請求項7記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項9の発明は、前記化合物は運動後の体内血中アンモニア(Ammonia)の代謝を促進し、こうして抗疲労効果を達成することを特徴とする請求項1或いは6記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
請求項10の発明は、前記運動は80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動であることを特徴とする請求項9記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物としている。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、本発明はベニクスノキタケ抽出物中より分離した4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン(4-hydroxy-2,3-dimethoxy-6-methy-5(3,7,11-trimethyl-dodeca-2,6,10-trienyl)-cyclohex-2-enone)で、生理的疲労を効果的に緩和することができる。本発明中では、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後に直ちに前記の化合物を補充し、体内クレアチンリン酸キナーゼと血中アンモニアの代謝を促進し、その濃度の回復を助け、生理的疲労を緩和する効果を達成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
先ず、ベニクスノキタケ(Antrodia camphorata)菌糸体、子実体或いは二者の混合物を取り、公知の抽出方式を利用し、水或いは有機溶剤により抽出し、ベニクスノキタケ水抽出物或いは有機溶剤抽出物を取得する。内、有機溶剤はアルコール類(メタノール、エタノール或いはプロパノール等)、エステル類(アセチジン等)、アルケン類(ヘキサン等)或いはハロセン(クロロメタン、エチルクロライド等)を含むが、これらに限定しない。内、アルコール類が最適で、エタノールがより最適である。
【0017】
抽出後のベニクスノキタケ水抽出物或いは有機溶剤抽出物は、さらに高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography、HPLC)により分離純化し、各一分液(fraction)に対して抗疲労関連の生物化学テストを行う。最後に、抗疲労効果を備える分液に対して成分分析を行い、抗疲労効果を生じる可能性のある成分に対してさらにそれぞれ抗疲労関連の生物化学テストを行う。こうして最終的に、本発明中の式(1)/式(2)の化合物は生理的疲労を緩和する効果を備えることが発見された。
【0018】
本発明の説明の便のために、以下に式(2)の4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン化合物について説明する。
この他、4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン化合物が備える抗疲労効果について明らかにするため、本発明中では、80%最大酸素摂取量(80%VO2max)の消耗運動後の被験者体内のクレアチンリン酸キナーゼ、血中乳酸、血糖、血中アンモニア、遊離脂肪酸などの疲労指数を計測することにより、ベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物の抗疲労能力を測定する。該各生物化学テストの結果により、4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトンは、運動が引き起こす生理的疲労を緩和する効果を備えることが証明された。前記実施方式に対して以下に詳細に説明する。
【0019】
実施例1:4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトンの分離。
【0020】
100グラム前後のベニクスノキタケ菌糸体、子実体或いは二者の混合物を、フラスコ中に入れ、適当な割合の水とアルコール類(70%以上のアルコール類水溶液)を加え、20〜25℃で少なくとも1時間以上撹拌抽出し、この後、濾紙及び0.45 mフィルターにより濾過し抽出液を集める。
【0021】
前記收集したベニクスノキタケ抽出液を、高速液体クロマトグラフィー (High Performance Liquid chromatography)を利用し、RP18のコラム(column)により分析を行い、メタノール(A)及び0.1%〜0.5%の酢酸水溶液(B)をモバイルフェーズ(mobile phase)とし(その溶液比率は:0〜10分間、B比率は95% 〜20%;10〜20分間、B比率は20%〜10%;20〜35分間、B比率は10%〜10%; 35〜40分間、B比率は10%〜95%)、毎分1 mlの速度で溶出し、同時に紫外線-可視光線全波長探知器により分析する。
【0022】
25分間から30分間の溶出液收集濃縮により、淡黄色粉末状の固体産物を得ることができる。これが4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトンである。分析により、その分子式はC24H38O4で、分子量は390、熔点(m.p.)は48℃〜52℃であることが分かる。核磁気共鳴(NMR)分析値は以下に示す。1H-NMR(CDC13)δ(ppm):1.51、1.67、1.71、1.75、1.94、2.03、2.07、2.22、2.25、3.68、4.05、5.07と5.14。13C-NMR(CDC13)δ(ppm):12.31、16.1、16.12、17.67、25.67、26.44、26.74、27.00、39.71、39.81、4.027、43.34、59.22、60.59、120.97、123.84、124.30、131.32、135.35、135.92、138.05、160.45と197.12。
【0023】
実施例2:80%最大酸素摂取量(80%VO2max)運動負荷テスト。
【0024】
高消耗運動後のベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物補充が抗疲労にもたらす影響を測定するため、80%最大酸素摂取量運動負荷を利用し、後続の高消耗運動を行う。
よって先ずは最大酸素摂取量を測定し、80%最大酸素摂取量の速度を推算する。内、酸素摂取量とは心臓の送出量と動脈静脈の血中酸素濃度差の乗を指し、最大酸素摂取量は人が海抜ゼロメートルで最も激しい運動を行った時、組織細胞が一分間に消耗、或いは利用することができる最高値を示す。それは心肺能力を評価するための最良の指標である。本発明は実験室内直接測定法により、ランニングマシーンを利用し、運動負荷を徐々に最大運動負荷まで上げた時、気体分析器を用い最大酸素摂取量を直接測定する。この種の徐々に運動負荷が上昇する持続性運動は、実際の最大酸素摂取能力をより的確に誘発可能であるため、最大酸素摂取量を直接、正確に測定可能な方法である。
【0025】
(1)被験者の基本データ収集:本発明は15名の満20歳の健康なボランティア男性を試験対象とし、薬物を服用していない、肝臓と腎臓機能が正常、心血管疾病がないことを条件とし、さらに普段から喫煙しない、飲酒しない、栄養補助剤を使用する習慣のない者を選択し、各被験者の年齢、身長、体重、BMI値を含む基本データを測定し記録する。被験者は正式にテストを受ける前、少なくとも8時間は空腹とし、テスト期間は正常な飲食形態を維持し、栄養補助剤或いは他の薬物の服用を避け、実験数値への影響を回避しなければならない。
【0026】
(2)80%最大酸素摂取量の運動負荷テスト:被験者は正式にテストを受ける前に2回の予備測定を行い、80%最大酸素摂取量(80%VO2max)を求め、80%最大酸素摂取量の運動負荷を予測する。さらに1回の80%最大酸素摂取量の確認テストを行い、この特定負荷において、被験者の80%最大酸素摂取量の運動強度を確保する。そのテストの手順は以下に詳述する。
【0027】
先ず、最大酸素摂取量テストを行う。被験者に用いる前に、先ず気体分析器(Vmax Spectra, SensorMedics)の酸素量と異なる濃度の標準気体を校正する。被験者に用いる時には、心拍数測定器(Polar810i)を装着し、安静時心拍数を記録する。さらに心拍数測定ベルトを被験者の心臓近くに装着し、しかも該心拍数測定器を測定ベルトから1メートル以内に置く。被験者は先ずランニングマシーン(Vision,T8600)上で3-5分間ウォーミングアップを行い身体を適応させ、自身でストレッチを行う。
続いて、被験者をランニングマシーン上に立たせ、気体採取マスクを装着する。該気体採取マスクと呼吸管を連接し、しかも該呼吸管は気体分析器と連通し、こうして被験者の呼気は気体採取マスクと呼吸管を通して気体分析器中に伝送される。
次にランニングマシーンの回転速度を9.6km/hrに固定し、テスト開始時の0〜3分以内はランニングマシーンは斜度0%に設定する。テスト開始3分後から、3分毎にランニングマシーンの斜度を3%づつ上げ、被験者が消耗した時点で運動を停止する。気体分析器のデータを分析後、毎回斜度を上げた時の前1分間と運動消耗前の酸素摂取量を求め、テスト中で得られた最大値は最大酸素摂取量である。
また、最大酸素摂取量到達の判断標準は少なくとも以下の条件の内の2項目に同時に符号する必要があり、それによって最大酸素摂取量と判定する。
被験者が既に全力を尽くし、運動テストを続けることができない(被験者の足の動きが遅くなり、コンベアベルトに合わせて前進することができない)。
心拍数が(220−年齢)±10回/分に達した。
呼吸比率(respiratory quotient, RQ)が1.1以上。
自覚量表(rating perceived exertion, RPE)が既に18或いは19段階に達した。
【0028】
前に測定された最大酸素摂取量と負荷強度の回帰方程式により、80%最大酸素摂取量の速度を求める。この計算過程は最大酸素摂取量テスト中に得られた酸素消費量と速度のデータにより、速度(縦座標)と酸素摂取量(横座標)の回帰線を求め、さらに個人の最大酸素摂取量に80%をかけ、80%最大酸素摂取量字の酸素摂取量を求め、この点の相対速度を線を引き探す。またさらにこの負荷強度により運動を10分間続け、しかも第5-6分及び最後の1分間の酸素摂取量を測定し、真の80%最大酸素摂取量運動負荷を確定する必要がある。
その結果は表1に示す。
表1、被験者基本データとその最大酸素摂取量。
【表1】

本発明は15名(n=15)の満20歳の健康なボランティア男性を試験対象とする。
【0029】
実施例3:ベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物の抗疲労テスト。
【0030】
運動中の筋肉疲労は広範には、固体生理過程においてその機能を一定水準に維持することができない、或いは各器官が予定の運動強度を維持することができないと定義される。身体活動疲労を引き起こす原因は、心理的、生理的、生物化学的の3つがあり、内、生物化学的疲労の潜在メカニズムには中枢と周辺疲労が含まれる。
中枢疲労を引き起こすメカニズムには低血糖(hypoglycemia)、血液中の必須アミノ酸濃度の変化、大脳中枢神経伝達物質濃度の変化がある。
周辺疲労のメカニズムには、筋肉中のリン酸クレアチン(phospocreatine; PC)消耗による血中アンモニア増加、筋肉中のグリコーゲンの消耗、酸素の供給不足などのエネルギー欠乏現象、及び筋肉中の水素イオン蓄積による乳酸の増加、筋肉中のリン酸蓄積などの代謝物蓄積がある。
【0031】
よって、本発明は被験者にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を含むプラシーボ薬及びベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を含まないプラシーボ薬をそれぞれ与え、被験者に前記の強度80%最大酸素摂取量運動負荷の消耗運動を行わせ、同時に運動前と運動後の被験者体内のクレアチンリン酸キナーゼ、血中乳酸、血糖、血中アンモニア、遊離脂肪酸など疲労指数の含量を分析し、消耗運動後にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充した時の抗疲労効果を測定する。
【0032】
被験者にランダムに4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン化合物及びベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物ではないプラシーボ薬を与える。プラシーボ薬の成分はコーンスターチ(corn starch)などのベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を含まない任意の物質とすることができる。しかもそのテストはダブルブラインド試験を採用し、被験者と試験者は共に与えた物質の成分を知らないようにする。
続いて、オーダーバランス(order balance)原則に基づき、各被験者は以下の各組テストを受ける必要がある。それは、運動せずプラシーボ薬(PR)を与える、運動しプラシーボ薬を与える(PE)、運動せずベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DR)、運動しベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DE)である。しかも異なる組のテストを受ける被験者は1週間を一期とする該組試験を完了後、一週間の休息を取り、すべての被験者が上記4組のテストを受けるまで、さらに次の組のテストを継続し受けなければならない。
内、行う運動は、前記で測定された80%最大酸素摂取量運動負荷の強度(7.61±1.87)によりランニングマシーン上で行い、被験者が運動消耗(exhausted)に達するまで続ける。しかも運動後は被験者にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物或いはプラシーボ薬を与える。
プラシーボ薬の投与量は一日0.2g/体重(kg)で、ベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物の投与量は一日0.2g/体重(kg)である。テストは一期7日間とし、運動前、消耗運動後第0、0.5、1、2、24、48、72、120、168時間に静脈採血を行う。血液は抗凝血剤(EDTAなど)を含む収拾管により収集し、3000xgで10分間遠心処理を行い、血漿部分を採取し、後続のクレアチンリン酸キナーゼ、血中乳酸、血糖、血中アンモニア、遊離脂肪酸などの疲労指数の生物化学分析を行う。また運動前と運動後に異なる補充物質を与えた場合の生理及び生物化学値の変化も比較する。
すべての生物化学分析数値は平均数と標準誤差(Mean±SEM)により示し、しかも該各分析数値は二元配置分散分析(repeated measurement two way ANOVA)により、組内、組間の各採血点の差異検定を行い、HSD 法(Tukey’s honestly significant difference )により事後比較を行う。統計後に達する顕著な水準の臨界値をα=0.05とする。該各生物化学値の分析方式及びその結果は以下に詳述する。
【0033】
(1)クレアチンリン酸キナーゼ(phosphate kinase; CPK)の分析:人体の骨格筋、心筋、脳、前立腺などの器官はすべて血清クレアチンリン酸キナーゼを作り出す。内、骨格筋の含量が最も多く、全身総量の96%を占める。
正常状況時には、血清中のクレアチンリン酸キナーゼ活性は非常に低いが、運動時筋肉の収縮過程において、クレアチンリン酸キナーゼはアデノシントリフォスフェイト(adenosine triphosphate, ATP)とリン酸クレアチン(phosphate creatine, PC)の間の高エネルギーリン酸鍵を誘発する。
その化学式は以下の通りである。
【数1】

これにより、激しい運動時に、筋肉収縮に必要なエネルギー量を確実に迅速に提供し、ATPの再合成を促進する。
運動過程において、クレアチンリン酸キナーゼ活性を高める原因は以下の通りである。すなわち運動時の酸素の欠乏により代謝産物が蓄積し、細胞内外のカルシウムイオンのバランスが崩れる。これにより、筋肉細胞膜の貫通性が高まり、或いは筋肉を伸ばす構造が損傷又は血腫が発生するなど筋肉細胞膜が損傷を受ける。これがクレアチンリン酸キナーゼを血液に出し循環させる。よって、クレアチンリン酸キナーゼはしばしば運動強度と筋肉細胞損傷の指標酵素として用いられる。
【0034】
本発明が血液中のクレアチンリン酸キナーゼの濃度を測定する方法は、乾式自動血液分析測量器(Johnson&Johnson DT-60II)を利用し、酵素作用とクロマト測定の原理により測定する。
定量の血漿中にリン酸クレアチングルコースオキシダーゼ (creatine phosphate glucose oxidase)を加え反応後、さらに4-アミノアンチピリン(4-aminoantipyrine)と1,7-ジハイドロキシナフタリン(1,7-dihydroxynaphthalene)を加え、プレオキシダーゼ(preoxidase)作用を経て白色化合物を生じる。さらに680nm波長下においてその吸光度を測定し、さらにクレアチンリン酸キナーゼ濃度を換算し得る。結果は表2と図1に示す。
表2、被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充後、各時間時点でのクレアチンリン酸キナーゼ濃度(U/L)
【表2】

n=15、数値は「平均数±標準誤差」により表示する。
*はp<05を示し、前測定と差異が存在する。aはp<05を示し、同時間点のPR組より顕著に大きい。bはp<05を示し、同時間点のPE組より顕著に大きい。cはp<05を示し、同時間点のDR組より顕著に大きい。dはp<05を示し、同時間点のDE組より顕著に大きい。
【0035】
表2と図1に示すように、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動を行った後、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)は、運動の0、0.5、1、2、24時間後に、そのクレアチンリン酸キナーゼ濃度値は増加を続け、しかも明らかに(p<0.05)運動前に安静時のクレアチンリン酸キナーゼ濃度より高い。これは被験者の運動強度が筋肉を損傷させる程度にまで既に及んでいることを示している。同時に、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)が示すクレアチンリン酸キナーゼ濃度値は明らかに(p<0.05)運動なしでプラシーボ薬(PE)を与えた組(PR)と運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DR)が示す数値より高い。しかも、該消耗運動を行わない2組(PRとDR)は、運動後120時間たっても差異の存在は認められない。
【0036】
運動しベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)は、高強度の消耗運動後に、そのクレアチンリン酸キナーゼ濃度は運動の直後に上昇しただけで、運動後0.5時間から運動前の濃度水準へと回復している。
この他、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)は消耗運動を行った後、そのクレアチンリン酸キナーゼ濃度は明らかに(p<0.05)運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)より高い。しかもこの種の濃度差異は消耗運動を1時間持続後から、運動後72時間まで観察することができる。この結果は、消耗運動後に直ちにベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充すれば、筋肉損傷を示す指標であるクレアチンリン酸キナーゼの濃度を効果的に低下させることができ、運動後に生じる生理的疲労の緩和に効果があることを示している。
【0037】
(2)空腹時血糖(Blood glucose)の分析:運動時、筋肉収縮時のカルシウムイオンの放出とアドレナリン(epinephrine)の分泌に伴い、ホスホリラーゼ(phosphorylase)を活性化し筋肉中のグリコーゲンの分解を加速することができる。同時に、増加したアドレナリンにより、肝臓はグリコーゲンの分解反応(glycogenolysis)を加速し、こうして血液中の血糖濃度は増加する。80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動において生じる疲労は、体内の血糖がしばしば酸化代謝過程で持続的に利用され、低血糖の現象が起こり、筋肉中のグリコーゲンを使い切ってしまうことによる。よって、運動時の体内の糖類の利用状況を測定すれば、生理的疲労の指標の一つとすることができる。
【0038】
本発明が血糖濃度を測定する方法は、乾式自動血液分析測量器(Johnson&Johnson DT-60II)を利用し、酵素作用とクロマト測定の原理により測定する。
定量の血漿中にグルコースオキシダーゼ (glucose oxidase)を加え反応後、さらに4-アミノアンチピリン(4-aminoantipyrine)と1,7-ジハイドロキシナフタリン(1,7-dihydroxynaphthalene)を加え、プレオキシダーゼ(preoxidase)作用を経て紅色化合物を生じる。その反応式は以下の通りである。
【数2】

さらに555nm波長下においてその吸光度を測定し、さらに血糖濃度を換算し得る。結果は表3と図2に示す。
表3、被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充後、各時間時点での血糖濃度(mg/dl)
【表3】

n=15、数値は「平均数±標準誤差」により表示する。
*はp<05を示し、前測定と差異が存在する。aはp<05を示し、同時間点のPR組より顕著に大きい。bはp<05を示し、同時間点のPE組より顕著に大きい。cはp<05を示し、同時間点のDR組より顕著に大きい。dはp<05を示し、同時間点のDE組より顕著に大きい。
【0039】
表3と図2に示すように、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)は、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後、その血糖濃度値は、運動なしでプラシーボ薬を与えた組(PR)及び運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DR)と明らかに(p<0.05)差異がある。
この他、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでプラシーボ薬を与えた組(DE)の2組は、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後0.5時間の空腹時血糖濃度は運動前の水平に回復し、安静値に近付いている。
この結果は、運動後にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充すれば、空腹時血糖の代謝に影響がないことを示している。
【0040】
(3)血中アンモニア(Ammonia)の分析:血中アンモニアはたんぱく質の代謝産物で、それは体内のプリンヌクレオチドサイクル(purine nucleotide cycle; PNC)中のアミノ酸の分解及びアデノシンモノリン酸(adenosine monophosphate; AMP)脱アミノ反応(deamination)により形成される。運動時には、体内のクレアチンリン酸(creatine phosphate)の消耗により、組織中のアデニンヌクレオチド(adenine nucleotide)が分解され、ATPの再合成を加速し、この時大量の血中アンモニアを生じる。血中アンモニア濃度の増加は中枢神経システムの作用を変え、細胞外のpH値、電解質濃度、神経伝達物質濃度が変えられ、クレブスサイクル(Krebs cycle)に干渉し、疲労を引き起こす。よって、血中アンモニアの蓄積も中枢疲労と周辺疲労を招く原因の一つであるため、血中アンモニアは疲労の指数の一つとしてしばしば用いられる。
【0041】
本発明が血中アンモニアを測定する方法は、乾式自動血液分析測量器(Johnson&Johnson DT-60II)を利用し、クロマト測定の原理により測定する。
定量の血漿中にブロンフェノールブルー(bromphenol blue)を加え作用後、青色化合物を生じる。その反応式は以下の通りである。
【数3】

さらに605nm波長下においてその吸光度を測定し、さらに血中アンモニア濃度を換算し得る。結果は表4と図3に示す。
表4、被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充後、各時間時点での血中アンモニア濃度(μg/dl)
【表4】

n=15、数値は「平均数±標準誤差」により表示する。
*はp<05を示し、前測定と差異が存在する。aはp<05を示し、同時間点のPR組より顕著に大きい。bはp<05を示し、同時間点のPE組より顕著に大きい。cはp<05を示し、同時間点のDR組より顕著に大きい。dはp<05を示し、同時間点のDE組より顕著に大きい。
【0042】
表4と図3に示すように、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)は、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後、その血中アンモニア濃度値は、運動なしでプラシーボ薬を与えた組(PR)及び運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DR)より明らかに(p<0.05)に高い。運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)の血中アンモニア濃度は、運動1時間後に徐々に回復しており、しかも該時間時点での血中アンモニア濃度数値と運動前に測定した血中アンモニア濃度を比較しても顕著な差異は存在しない(p>0.05)。
運動2時間後に、運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)と運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)間の血中アンモニア濃度数値は、統計上顕著な(p<0.05)差異が見られる。
この他表4と図3に示すように、運動24時間後に、運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)の血中アンモニア濃度は顕著に(p<0.05)運動前より低い。同時間時点を比較すると、同様に消耗運動を行った後、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)の血中アンモニア濃度は、運動前の数値に近似しており、上記血中アンモニア濃度が顕著に低下する効果は見られなかった。よって、この結果は運動後にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充すれば、血中アンモニアの代謝を助け、運動後に体内に蓄積した血中アンモニアの迅速な代謝を促し、これにより消耗運動後に生じる生理的疲労を緩和することができることを示している。
【0043】
(4)血中乳酸(lactate)の分析:乳酸は筋肉と肝臓中のグリコーゲン、ブドウ糖が、無酸素糖分解作用により代謝形成される産物である。安静状態では乳酸の生成量は少ないが、激しい或いは長時間の運動を行い組織の酸欠状態が明確になると、無酸素代謝速度が加速する。乳酸の生成速度がミトコンドリアが乳酸を酸化代謝する速度より速くなると、増加した乳酸は筋肉中に徐々に蓄積する。乳酸の蓄積は筋肉中の水素イオン濃度を上昇させ、pH値を低下させ、かえって糖酵素分解のリン酸果糖キナーゼ(phosphofructokinase, PFK)の活性を抑制し、糖分解作用速度は落ち、ATPの再合成率を低下させる。別に、水素イオン濃度の増加は、筋漿の中のカルシウムイオンの放出に影響を及ぼし、筋繊維の収縮能力を低下させる。よって、乳酸の大量の蓄積は疲労反応の発生を加速するため、乳酸は疲労の指数の一つとして用いられる。
【0044】
本発明が血中乳酸濃度を測定する方法は、乾式自動血液分析測量器(Johnson&Johnson DT-60II)を利用し、酵素作用とクロマト測定の原理により測定する。
定量の血漿中に乳酸オキシダーゼ (lactate oxidase)を加え反応後、さらに4-アミノアンチピリン(4-aminoantipyrine)と1,7-ジハイドロキシナフタリン(1,7-dihydroxynaphthalene)を加え、プレオキシダーゼ(preoxidase)作用を経て紅色化合物を生じる。その反応式は以下の通りである。
【数4】

さらに540nm波長下においてその吸光度を測定し、さらに血中乳酸濃度を換算し得る。結果は表5と図4に示す。
表5、被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充後、各時間時点での血中乳酸濃度(mmol/l)
【表5】

n=15、数値は「平均数±標準誤差」により表示する。
*はp<05を示し、前測定と差異が存在する。aはp<05を示し、同時間点のPR組より顕著に大きい。bはp<05を示し、同時間点のPE組より顕著に大きい。cはp<05を示し、同時間点のDR組より顕著に大きい。dはp<05を示し、同時間点のDE組より顕著に大きい。
【0045】
表5と図4に示すように、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)は、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後0.5時間以内に、その血中乳酸濃度値は、運動なしでプラシーボ薬を与えた組(PR)及び運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DR)より顕著に(p<0.05)に高い。しかも該運動ありの2組(PEとDE)の運動強度の介入と該運動なしの2組(PRとDR)が示す血中乳酸濃度値にも顕著な(p<0.05)差異がある。運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)の2組の血中乳酸濃度は、運動1時間後に徐々に回復し運動前の安静値に近付き、しかも該時間時点での血中乳酸濃度数値と運動前に測定した血中乳酸濃度値を比較しても顕著な差異が存在しない(p>0.05)。
この結果により、運動後にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充しても、血中乳酸の代謝には影響がないことが分かる。
【0046】
(5)遊離脂肪酸(free fatty acid)の分析:遊離脂肪酸は筋繊維間の脂肪組織、或いは細胞内トリグリセリド水分解により発生する。力を使う運動時、筋肉中に蓄えられていたグリコーゲンは徐々に消費され、運動の持続時間増加に従い、糖分解作用速度は徐々に減速し、体内エネルギーの利用は脂肪酸の利用に変わって行く。この時、ATPの発生は減少し、疲労を引き起こす。
この他、脂肪分解速度が上がり、血漿中の遊離脂肪酸濃度が増加すると、遊離脂肪酸は血中トリプトファン(Tryptophan)とアルブミン(Albumin)上での結合位置を相互に競争し、血中遊離トリプトファンの増加を招く。トリプトファンはセロトニンの前駆物で、トリプトファンが脳に入ると、セロトニンの合成速度が上昇する。脳中セロトニンが増加すると中枢神経のある方面の作用システムを破壊する。すなわち、ドーパミン活性の低下などが起こり、疲労の発生と睡眠反応を招く。よって、血液中の遊離脂肪酸の濃度は脂肪分解と疲労発生の指標とすることができる。
【0047】
本発明が遊離脂肪酸濃度を測定する方法は、酵素作用とクロマト測定の原理を利用し、定量の血漿中にアシルCoAシンセターゼ (acyl CoA synthetase)、アシルCoA オキシダーゼ(acyl CoA oxidase)を加え反応させ、さらにプレオキシダーゼ(preoxidase)作用を経て紫色化合物を生じる。その反応式は以下の通りである。
【数5】

さらに550nm波長下においてその吸光度を測定し、さらに遊離脂肪酸濃度を換算し得る。結果は表6と図5に示す。
表6、被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充後、各時間時点での遊離脂肪酸濃度(μmol/l)
【表6】

n=15、数値は「平均数±標準誤差」により表示する。
*はp<05を示し、前測定と差異が存在する。aはp<05を示し、同時間点のPR組より顕著に大きい。bはp<05を示し、同時間点のPE組より顕著に大きい。cはp<05を示し、同時間点のDR組より顕著に大きい。dはp<05を示し、同時間点のDE組より顕著に大きい。
【0048】
表6と図5に示すように、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)は、80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後2時間以内に、その血中遊離脂肪酸濃度値は、運動なしでプラシーボ薬を与えた組(PR)及び運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DR)より顕著に(p<0.05)に高い。しかも運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)及び運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)の2組の運動後の各時間時点で測定された血中遊離脂肪酸濃度値には顕著な差異がない(p>0.05)。
この結果により、運動後にベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充しても、血中遊離脂肪酸の代謝には影響がないことが分かる。
【0049】
上記のように、本発明結果は80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動後に直ちにベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充すると、クレアチンリン酸キナーゼの濃度は、運動直後に顕著に上昇するだけで、0.5時間後にはクレアチンリン酸キナーゼの濃度は運動前の水準に回復することを示している。この結果により、消耗運動後に直ちにベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充すれば、クレアチンリン酸キナーゼの代謝に対して顕著な(p<0.05)効果を備えることが分かる。
運動後の血中アンモニアの代謝に対しては、消耗運動後に直ちにベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充した組(DE)では運動2時間後に、その回復効果はベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充しなかった組(PE)より顕著に(p<0.05)優れている。
さらに血糖、血中乳酸、遊離脂肪酸などの疲労指数においては、運動ありでプラシーボ薬を与えた組(PE)と運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与えた組(DE)間には顕著な差異が認められない。よって、80%最大酸素摂取量高強度消耗運動後に直ちにベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充すれば、体内クレアチンリン酸キナーゼと血中アンモニアの回復に効果があり、これにより生理的疲労を緩和する効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明実施例の被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充し、各時間時点での体内クレアチンリン酸キナーゼ濃度の測定結果である。図中□は運動なしでプラシーボ薬を与える組(PR)、■は運動ありでプラシーボ薬を与える組(PE)、△は運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える組(DR)、▲は運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DE)組である。
【図2】本発明実施例の被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充し、各時間時点での体内血糖値濃度の測定結果である。図中□は運動なしでプラシーボ薬を与える組(PR)、■は運動ありでプラシーボ薬を与える組(PE)、△は運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える組(DR)、▲は運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DE)組である。
【図3】本発明実施例の被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充し、各時間時点での体内血中アンモニア濃度の測定結果である。図中□は運動なしでプラシーボ薬を与える組(PR)、■は運動ありでプラシーボ薬を与える組(PE)、△は運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える組(DR)、▲は運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DE)組である。
【図4】本発明実施例の被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充し、各時間時点での体内血中乳酸濃度の測定結果である。図中□は運動なしでプラシーボ薬を与える組(PR)、■は運動ありでプラシーボ薬を与える組(PE)、△は運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える組(DR)、▲は運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DE)組である。
【図5】本発明実施例の被験者が消耗運動を行い或いは運動せず、それぞれプラシーボ薬或いはベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を補充し、各時間時点での体内遊離脂肪酸濃度の測定結果である。図中□は運動なしでプラシーボ薬を与える組(PR)、■は運動ありでプラシーボ薬を与える組(PE)、△は運動なしでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える組(DR)、▲は運動ありでベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物を与える(DE)組である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物は以下の構造式を含み、
【化1】


内、Xは酸素(O)或いはイオウ(S)で、Yは酸素(O)或いはイオウ(S)で、R1は水素(H)、メチル(CH3)或い は(CH2)m-CH3で、R2は水素、メチル或いは (CH2)m-CH3で、R3は水素、メチル或いは或いは (CH2)m-CH3,m=1〜12で、n=1〜12であることを特徴とする生理的疲労の緩和に用いるベニク スノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項2】
前記化合物はベニクスノキタケの有機溶剤抽出物中から分離製造することを特徴とする請求項1記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項3】
前記有機溶剤はエステル類、アルコール類、アルケン類或いはハロセンにより組成するグループから選択することを特徴とする請求項2記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項4】
前記アルコール類はエタノールであることを特徴とする請求項3記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項5】
前記化合物はベニクスノキタケの水抽出物中より分離製造することを特徴とする請求項1記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項6】
前記化合物は4-ハイドロキシ-2,3-ジメトキシ-6-メチル-5(3,7,11-トリメチル-2,6,10-トリエニル)-2-シクロヘキサンケトン(4-hydroxy-2,3-dimethoxy-6-methy-5(3,7,11- trimethyl-dodeca-2,6,10-trienyl)-cyclohex-2-enone)であることを特徴とする請求項1記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項7】
前記化合物は運動後の体内クレアチンリン酸キナーゼ(creatine phosphate kinase)の代謝を促進し、こうして抗疲労効果を達成することを特徴とする請求項1或いは6記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項8】
前記運動は80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動であることを特徴とする請求項7記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項9】
前記化合物は運動後の体内血中アンモニア(Ammonia)の代謝を促進し、こうして抗疲労効果を達成することを特徴とする請求項1或いは6記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。
【請求項10】
前記運動は80%最大酸素摂取量の高強度消耗運動であることを特徴とする請求項9記載の生理的疲労の緩和に用いるベニクスノキタケのシクロヘキサンケトン化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−23917(P2009−23917A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185653(P2007−185653)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(505364913)國鼎生物科技股▲ふん▼有限公司 (10)
【Fターム(参考)】