説明

生産制御システム

【課題】エンジニアリングの負担を招くことなく、プラントの設備を柔軟に用いて生産工程を構成することができる生産制御システムを提供する。
【解決手段】生産手順入力手段51は、生産品に要求される生産手順の入力を受け付ける。設備情報入力手段81は、プラントの設備に関する情報(設備リスト)の入力を受け付ける。設備情報格納手段41は、設備情報入力手段81を介して入力された上記情報(設備リスト)を格納する。処方手順生成手段42は、設備情報格納手段41に格納された上記情報(設備リスト)、および生産手順入力手段51を介して入力された上記生産手順に基づいて、所定の生産品についてのプラントの設備を用いた生産の処方手順を生成する。バッチ実行手段43は、処方手順生成手段42により生成された処方手順に基づいて、プラントの設備を用いたバッチを順次実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの設備を用いた生産の生産工程を制御する生産制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製造業における製造プラントでは、一般的に、入荷から原材料倉庫管理、秤量工程、調整工程、反応工程、充填工程、包装工程、製品在庫管理などを経て、最終製品が出荷される。製造プラントには、種々の工程のための設備や、これらの設備を制御する生産制御システムが必要となる。しかし、従来の生産制御システムが対応できるのは、上記工程のうち調整工程から充填工程等、流体を取り扱う一部の工程であり、他の工程はその性格に応じて、工場向け、あるいは高速処理を得意とするPLCコントローラなどが制御を担当している。したがって、すべての工程の制御が可能なインテグレータ的な機能をもつ生産制御システムが求められている。
【0003】
一方、市場の急激な変化への対応が求められる現代においては、製造業において製品ごとに新たな設備を導入することは得策ではなくなり、既存のプラント上で新製品の開発から製造ラインの構築までを行うように変化してきている。
【0004】
このような2つの要求、すなわち統合的な制御、および多品種変量生産に適応したシステムとして、製品の製造手順が書かれた処方に基づいて動作するシーケンス制御システムが開発されている。このシステムでは、バッチプロセスを不連続型の運転、すなわち区切り型生産のプロセスと捉え、各区切りである工程に対して、工程順次起動や共有ユーティリティのインターロック管理を工程管理シーケンスにより実行するものである。従来のシステムでは、この工程管理シーケンスのアプリケーション自体も、制御システム上でシステムエンジニアが作成し、工程管理シーケンスとして動作させている。
【特許文献1】特開2006−285850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のシステムには、以下のような問題点がある。
(1)従来のシステムでは、エンジニアリングが複雑であり、新製品に応じたアプリケーションの変更作業に当該システムのエンジニアリングを熟知しているスペシャリストの対応が必要となってしまう。
(2)複数ベンダの制御システムを統括して指令を出す機能がない。
(3)商品の処方手順と設備制御が、処方ユニット手順レベルでのみマッピングが可能であるため、小規模なプラントでもアプリケーション作成に多大な工数と、当該システムのエンジニアリングに固有の知識が必要となる。
(4)アプリケーションの体系が、プロシジャー、ユニットプロシジャー、単位シーケンス、フェーズと作成しないと動作しないため、上記(3)の理由と同様、アプリケーション作成に多大な工数が必要となる。
(5)商品の処方手順と、設備制御が完全に切り分けられていないため、新商品開発のためのアプリケーション変更が大掛かりとなり、結果的にアプリケーションの変更が困難となるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、エンジニアリングの負担を招くことなく、プラントの設備を柔軟に用いて生産工程を構成することができる生産制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生産制御システムは、プラントの設備を用いた生産の生産工程を制御する生産制御システムにおいて、プラントの設備に関する情報の入力を受け付ける設備情報入力手段と、前記設備情報入力手段を介して入力された前記情報を格納する設備情報格納手段と、所定の生産品に要求される生産手順の入力を受け付ける生産手順入力手段と、前記設備情報格納手段に格納された前記情報、および前記生産手順入力手段を介して入力された前記生産手順に基づいて、所定の生産品についての前記設備を用いた生産の処方手順を生成する処方手順生成手段と、前記処方手順生成手段により生成された前記処方手順に基づいて、前記設備を用いたバッチを順次実行するバッチ実行手段と、を備えることを特徴とする。
この生産制御システムによれば、設備情報格納手段に格納された情報、および生産手順に基づいて、所定の生産品についての設備を用いた生産の処方手順を生成し、処方手順に基づいて設備を用いたバッチを順次実行するので、エンジニアリングの負担を招くことなく、プラントの設備を柔軟に用いて生産工程を構成することができる。
【0008】
前記バッチ実行手段は、前記所定の生産品に関する生産のスケジューリングに基づいて前記バッチの実行を制御してもよい。
【0009】
前記バッチ実行手段は、設備の稼動状態に基づいて前記バッチの実行を制御してもよい。
【0010】
前記バッチ実行手段は、プロセスの状況に基づいて前記バッチの実行を制御してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生産制御システムによれば、設備情報格納手段に格納された情報、および生産手順に基づいて、所定の生産品についての設備を用いた生産の処方手順を生成し、処方手順に基づいて設備を用いたバッチを順次実行するので、エンジニアリングの負担を招くことなく、プラントの設備を柔軟に用いて生産工程を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1〜図4を参照して、本発明による生産制御システムの一実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の生産制御システムが適用されるプラントの構成例を示すブロック図、図2は、本実施形態の生産制御システムを機能的に示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、プラントには、入荷から出荷までの各工程を制御するPLCコントローラ11、PLCコントローラ12、PLCコントローラ13、分散制御システム用コントローラ14、PLCコントローラ15、PLCコントローラ16およびPLCコントローラ17が設けられている。図1の例では、PLCコントローラ11が入荷工程を、PLCコントローラ12が秤量工程を、PLCコントローラ13、分散制御システム用コントローラ14およびPLCコントローラ15が調整工程、反応工程および充填工程を、PLCコントローラ16が梱包工程を、PLCコントローラ17が出荷工程を、それぞれ制御している。
【0015】
また、プラントには、入庫管理用パソコン21、秤量管理用パソコン22、生産管理用パソコン23、実績管理用パソコン24、品質管理用パソコン25および在庫管理用パソコン26と、プラントの操作監視を行うための操作監視用パソコン3と、コントローラ11〜17に対する実行指令を行うアプリケーションコントローラ4と、商品の生産手順等を入力するための処方管理用パソコン5と、エンジニアリング用パソコン8と、が設けられている。
【0016】
これらのコントローラ11〜17、パソコン21〜26、操作監視用パソコン3、アプリケーションコントローラ4、処方管理用パソコン5およびエンジニアリング用パソコン8は、ネットワーク7を介して互いに接続されている。
【0017】
アプリケーションコントローラ4は、複数の制御システム間のデータ交換を可能とするデータ変換機能を備えており、コントローラ11〜17のメーカーや規格が混在していても問題ない。例えば、高度なフィードバック制御を実行できるコントローラと、リレーシーケンス的な制御を実行するPLCなどを混在させることができる。
【0018】
また、アプリケーションコントローラ4は、フィールド情報のクローズインタフェースのみならず、フィールド情報以外の情報を取り扱うためのオープンインタフェースを備える。このため、アプリケーションコントローラ4は、パソコン21〜26および操作監視用パソコン3との間で、オープンインタフェースを介してデータをやり取りすることができ、ネットワーク7上の種々の操業情報を取り扱うことができる。例えば、従来のシステムでは、バッチプロセスでは手作業によるサンプリング結果は制御システムのI/Oから得られないデータであるため、サンプリング結果のデータを得るアプリケーション作成作業の負担が大きくなる。しかし、本実施形態の生産制御システムでは、サンプリング結果も1つのデータとして容易に取り扱うことができる。
【0019】
図2に示すように、処方管理用パソコン5は、生産品に要求される生産手順の入力を受け付ける生産手順入力手段51を構成する。エンジニアリング用パソコン8は、プラントの設備に関する情報(設備リスト)の入力を受け付ける設備情報入力手段81を構成する。また、アプリケーションコントローラ4は、設備情報入力手段81を介して入力された上記情報(設備リスト)を格納する設備情報格納手段41と、設備情報格納手段41に格納された上記情報(設備リスト)、および生産手順入力手段51を介して入力された上記生産手順に基づいて、所定の生産品についてのプラントの設備を用いた生産の処方手順を生成する処方手順生成手段42と、処方手順生成手段42により生成された処方手順に基づいて、プラントの設備を用いたバッチを順次実行するバッチ実行手段43と、を構成する。
【0020】
次に、本実施形態の生産制御システムの動作について説明する。
【0021】
図3は、本実施形態の生産制御システムの動作の流れをIDEFO(Integrated computer aided manufacturing DEFnition)の表記に基づいて記述した図である。
【0022】
処方手順生成手段42は、プラント(図1)の設備を用いて指定の商品を作る(ステップS1)ために、生産手順リストの中から、商品に応じた生産手順を選択し、選択された生産手順を満足するような生産の処方手順を生成する(ステップS2)。
【0023】
この生産手順は、生産手順入力手段51を介してユーザが入力することができる。また、この生産手順は、生産手順を変更するステップ(ステップS3)で、生産手順入力手段51を介してユーザが変更することができる。また、処方手順生成手段42は、設備情報格納手段41に格納された設備リストに基づいて、プラントの設備を用いて実際に生産可能な処方手順を生成する。また、生成される処方手順は、ユーザの運転指図を満たす手順とされる。
【0024】
処方手順生成手段42で生成された処方手順は、バッチ実行手段43に与えられる。
【0025】
バッチ実行手段43は、処方手順生成手段42で生成された処方手順の他、当該商品の生産スケジュール、前段の工程の手作業によるサンプリング結果、プラントにおける設備の稼動状態、工程分析ツールによるプロセス解析結果等に基づいて、所定のバッチを実行する(ステップS4)。当該商品の生産スケジュール、前段の工程の手作業によるサンプリング結果、プラントにおける設備の稼動状態、工程分析ツールによるプロセス解析結果等は、例えば、操作監視用パソコン3を介して入力することができる。
【0026】
バッチ実行手段43からの指令は、コントローラ11〜17に与えられ、これによりプラントの設備が制御され、バッチが実行される(ステップS5)。設備の稼動状態は、バッチ実行手段43にフィードバックされ(図3)、運転中のバッチの進捗を最適な状態に調整できる。
【0027】
図2に示すように、設備に変更のある場合には、ユーザは、設備情報入力手段81を介して、変更が反映された新たな上記設備リストを設備情報格納手段41に格納することができる。また、エンジニアリング用パソコン8から必要なデータをコントローラ11〜17にダウンロードすることができる。エンジニアリング用パソコン8では、I/Oの定義、フィードバック制御の定義等が実行できる。これらの定義はコントローラ11〜17にダウンロードされる。分散制御システム用コントローラ14では、定義に従って、設備制御手順、ユニット管理、I/O処理、フィードバック制御等を実行する。また、PLCコントローラ11〜13、PLCコントローラ14〜17では、定義に従って、設備制御手順、I/O処理等を実行する。このように、本実施形態の生産制御システムでは、設備の変更に柔軟に対応できる。
【0028】
以上のように、本実施形態の生産制御システムによれば、従来のシステムでは取り扱えない手作業によるサンプリング結果、工程分析ツールによるプロセス解析結果、あるいは設備の稼動状態をバッチ実行手段43に入力することによって、運転中のバッチの進捗を最適な状態に調整できる工程管理シーケンスを可能とすることができる。
【0029】
また、設備制御を生産手順の入力と分離することにより、ユーザは設備の構成を意識することなく、生産手順のみを考慮すれば、実際のプロセス制御が自動的に実行される。なお、処方手順と設備制御の任意階層によるマッピングとアプリケーションの縮退が可能とされる。ここで、アプリケーションの縮退とは、アプリケーションの体系(プロシジャー、ユニットプロシジャー、単位シーケンス、フェーズ等)の中から、必要な階層のみを作成し、不要な階層を省くことである。
【0030】
また、ユーザはベンダごとのシステム等を考慮することなく、プロセス工程を視点とする生産手順のみを意識すればよい。PLCコントローラで稼動する設備で実行される工程と、分散制御システム用コントローラの制御下で実行される工程に対し、共通のバッチIDを付加することもできる。例えば、PLCコントローラで稼動している設備制御のイベントメッセージ情報に、本来は別のシステムを構成する分散制御システム用コントローラのバッチIDのラベリングを付加し、実績データ管理では1つのバッチIDという塊でデータを取り扱うことができる。
【0031】
さらに、アプリケーションコントローラのソフトウェアは、汎用パソコンでも動作するため、小規模な単純構成のプラントにも適用できる。本発明は、プラント形態に依存せず、大規模から小規模のプラントまで広く適用できる。
【0032】
本発明による利点として、例えば、以下の点を挙げることができる。
(1)従来のシステムでは、アプリケーションの変更は、処方に基づく手順制御と、設備制御の両者を変更する必要があった。これに対し、本発明によれば、処方手順と設備制御が完全に分離され、例えば、タンク間の移送系シーケンスなどの場合、手順制御は設備制御の組み合わせを構成することで自動的に実行される。このため、設備の変更がない限り設備制御の変更は不要であり、商品に応じたアプリケーション変更が容易なものとなる。入力対象である生産手順からシステム依存性を排除することができ、商品の製造者のエンジニアあるいは生産制御システムの製造元のエンジニアの担当範囲でアプリケーションの変更が可能となる。また、制御システムの処理は、設備制御のアプリケーション処理に特化され、複数ベンダのシステムに対して、共通する処方手順に基づく指令を送ることができる。このため、共通の手順でプラントの全工程にアクセスでき、統合的な制御が可能なシステムを構築できる。
(2)従来のシステムでは、工程管理シーケンスを作成しない限り、実際にプラントの操業を行うことができなかった。しかし、本発明によれば、バッチ実行手段に製造工程スケジューラ管理機能をもたせることもできるため、工程管理シーケンスの作成が不要となる。図4は、スケジューラ管理機能による表示画面例を示す図である。この例では、縦方向に設備名が、横方向に時間軸がとられており、設備「FT−101」における仕込み工程のサンプリング結果が良好でないと、バッチ「B01」の設備「RT−201」における反応工程「B01」を起動しないことを示す。また、反応工程「B01」の次に、設備「ST−301」における充填工程が起動する。
【0033】
以上説明したように、本発明の生産制御システムによれば、設備情報格納手段に格納された情報、および生産手順に基づいて、所定の生産品についての設備を用いた生産の処方手順を生成し、処方手順に基づいて設備を用いたバッチを順次実行するので、エンジニアリングの負担を招くことなく、プラントの設備を柔軟に用いて生産工程を構成することができる。
【0034】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、プラントの設備を用いた生産の生産工程を制御する生産制御システムに対し、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一実施形態の生産制御システムが適用されるプラントの構成例を示すブロック図。
【図2】一実施形態の生産制御システムを機能的に示すブロック図。
【図3】一実施形態の生産制御システムの動作の流れをIDEFOの表記に基づいて記述した図。
【図4】スケジューラ管理機能による表示画面例を示す図。
【符号の説明】
【0036】
41 設備情報格納手段
42 処方手順生成手段
43 バッチ実行手段
51 生産手順入力手段
81 設備情報入力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの設備を用いた生産の生産工程を制御する生産制御システムにおいて、
プラントの設備に関する情報の入力を受け付ける設備情報入力手段と、
前記設備情報入力手段を介して入力された前記情報を格納する設備情報格納手段と、
所定の生産品に要求される生産手順の入力を受け付ける生産手順入力手段と、
前記設備情報格納手段に格納された前記情報、および前記生産手順入力手段を介して入力された前記生産手順に基づいて、所定の生産品についての前記設備を用いた生産の処方手順を生成する処方手順生成手段と、
前記処方手順生成手段により生成された前記処方手順に基づいて、前記設備を用いたバッチを順次実行するバッチ実行手段と、
を備えることを特徴とする生産制御システム。
【請求項2】
前記バッチ実行手段は、前記所定の生産品に関する生産のスケジューリングに基づいて前記バッチの実行を制御することを特徴とする請求項1に記載の生産制御システム。
【請求項3】
前記バッチ実行手段は、設備の稼動状態に基づいて前記バッチの実行を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の生産制御システム。
【請求項4】
前記バッチ実行手段は、プロセスの状況に基づいて前記バッチの実行を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生産制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−262453(P2008−262453A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105640(P2007−105640)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】