説明

生薬剤

【課題】菱全体からその有効成分を抽出し、その抽出物を生薬剤として用いることで、菱
の有効利用の促進を図る。
【解決手段】菱の「実」又は「葉」又は「葉柄」又は「茎」又は「水中根」を抽出溶媒で
抽出して得られる抽出物を有効成分として含有するものをもって生薬剤とする。この生薬
剤によれば、菱の「実」のみではなく、菱の「葉」又は「葉柄」又は「茎」又は「水中根
」をも用いてエキスを抽出するものであることから、例えば、菱の「実」のみを用いて生
薬剤を得る場合に比して、素材原価を低く抑えて生薬剤をより安価に提供することができ
る。また、この生薬剤を医薬品、健康補助食品あるいは化粧品の素材成分として用いるこ
とで、人の健康保持等において多大な貢献をなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、菱(学名:Trapa Japonica Flerow)の抽出物を有
効成分として含有し、医薬品、健康補助食品、化粧品等の成分素材として使用されるに好
適な生薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
菱は、ヒシ科ヒシ属の浮葉植物であって、池とか湖沼に自生している水生の一年草であ
り、その実は、古くは滋養強壮、胃腸の機能改善等の薬効から、世界各地において食用に
供されていた。さらに近年は、ガン抑制の薬効の存在が数多く報告されるに至り、薬膳素
材として用いられることも多くなっている。
【0003】
ここで、菱の実の可食部の100gあたりの食品成分の一例を挙げると以下の通りであ
る。
熱量・・190kcal たんぱく質・・5.8g 脂質・・0.5g 炭水化
物・・40.6g βカロチン・・7μg ビタミンB1・・0.42mg ビタ
ミンB2・・0.08mg ナイアシン・・1.2mg パテトン酸・・0.71m
g ビタミンB6・・0.32mg 葉酸・・0.32μg ビタミンC・・12
mg ビタミンE・・1.6mg 亜鉛・・1.3mg カルウム・・430mg
カルシウム・・45mg 鉄・・1.1mg マグネシウム・・84mg マ
ンガン・・0.6mg リン・・150mg 食物繊維・・2.9g。
【0004】
このような食品成分に基づく菱の効用が注目されるに至った結果、菱の実を加熱調理し
て食するという従来からの用い方に加えて、菱の実を粉砕してお茶として利用したり(例
えば、特許文献1参照)、さらには菱の実から香味を抽出して用いる(例えば、特許文献
2参照)など、その利用形態が拡大しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−108111号公報
【特許文献2】特開平08−289759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、菱は、水底の土中に根付く土中根から水面側に向かって茎が延び、その茎の
水面近くの茎頂部には葉柄を備えた多数の葉(浮葉)が放射状に展開して一つのロゼット
株を形成する。このロゼット株は、上記茎の途中から枝分かれした他の茎の茎頂部にも形
成されるので、通常、1個の菱種から数個のロゼット株ができる。さらに、このロゼット
株の各葉柄の上記茎頂部からの分岐部には、実柄が延び、この実柄の先端に結実し、これ
が菱の実となる。
【0007】
また、上記茎頂部は、その外周面から多数の葉柄と実柄が段階状に延び出ることから、
茎よりも一段と太くなり、例えば「生わさび」のような形体となる。また、上記茎には多
数の節が形成されその各節部分には細い髭を多数本束ねたような水中根ができるが、この
水中根は葉緑素をもち光合成を行うものであって、「水中の葉」といえるものである。
【0008】
ところが、上述のように、菱の実には上掲の食品成分が含まれており、この食品成分を
摂取するために菱の実が食用に供されたところであるが、係る食品成分は菱の「実」に限
らず、「葉」、「茎」、茎の一部である「茎頂部」及び「水中根」にも含まれており、従
って、菱を有効に利用するという観点からは、従来のように菱の「実」のみならず、菱の
「葉」、「茎」、「茎頂部」、「水中根」も利用すべきであるところ、係る観点からの有
効な提案はなされておらず、従って、これらの利用の仕方についてもなんらの提案もなさ
れていない。
【0009】
そこで本願発明は、菱全体からその有効成分を抽出し、その抽出物(エキス)を生薬剤
として用いることで、菱の有効利用の促進を図ることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用して
いる。
【0011】
本願の第1の発明に係る生薬剤は、菱の「実」又は「葉」又は「葉柄」又は「茎」又は
「水中根」を抽出溶媒で抽出して得られる抽出物を有効成分として含有することを特徴と
している。
【0012】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る生薬剤において、上記抽出溶媒が、熱水
又は親水性有機溶剤又は含水性有機溶剤又は親油性有機溶剤であることを特徴としている

【発明の効果】
【0013】
本願発明の生薬剤によれば、菱の「実」のみではなく、菱の「葉」又は「葉柄」又は「
茎」又は「水中根」をも用いてエキスを抽出するものであることから、例えば、菱の「実
」のみを用いて生薬剤を得る場合に比して、素材原価を低く抑えて生薬剤をより安価に提
供することができる。
【0014】
また、この生薬剤は、菱の「実」又は「葉」又は「葉柄」又は「茎」又は「水中根」を
抽出溶媒で抽出して得られる抽出物を有効成分として含有するものであることから、後述
の生薬剤を医薬品、健康補助食品あるいは化粧品の素材成分として用いることで、菱に含
まれた各物質が有する薬効が上記医薬品等において発揮され、人の健康保持等において多
大な貢献をなすものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明に係る生薬剤は、菱を素材とし、この菱から抽出された抽出物(エキス)を有
効成分として含有するもので、例えば、医薬品、健康補助食品あるいは化粧品の素材成分
として用いるに好適なものである。
【0016】
A:素材としての菱
菱には、ヒメビシ、トウビシ、オニビシ等の多くの種類があるが、ヒメビシ、トウビシ
は小形種であって、収穫される実は小粒である。しかし、オニビシは、大形種であって収
穫される菱の実が他の種類の菱に比して大きく、その実柄、茎、葉、葉柄等も大きいため
、実のみならず、実柄、茎、葉、葉柄等も用いてエキス抽出を行う場合の素材として好適
である。ここでは、オニビシを用いることを想定して、説明する。
【0017】
菱の実は、略三角形の外観形体をもち、最長辺が5cm程度、厚さが1cm程度である
が、硬質の外殻を備えているため、この実からのエキス抽出に際しては、外殻を取り除い
てその内部の子葉部のみを適度の大きさに破砕して使用する場合と、外殻を取り除くこと
なく実を適度の大きさに破砕して使用する場合が考えられるが、これら何れの手法によっ
てもエキス抽出の容易さという点においては大差ないため、製造コストを考慮すれば後者
の手法が優位である。
【0018】
菱の実柄は、径が30.5cm程度で、長さが5cm程度の棒状体であって、その先端
に結実した実の採取後あるいは実の採取時に、茎頂部から採取される。この実柄は、その
ままで、あるいは1cm程度の長さに切断して、抽出素材として供し得る。
【0019】
菱の茎には、多数の水中根が生えた茎の本体部と、該本体部の先端側に位置してロゼッ
ト株の基部となる茎頂部が含まれるが、これら両者の大きさ・形体から考えて、本体部と
茎頂部を分離し、これらをそれぞれ抽出素材として供するのが好ましい。この場合、茎の
本体部は、水中根が付いたまま、これを2〜3cmに分断して使用するのが良い。これに
対して、茎頂部は、太さが1.5cm程度で、長さが5cm程度であるので、これを破砕
するか、あるいは1cm程度の長さに分断して、抽出素材として供するのが好ましい。
【0020】
菱の葉は、一辺5cm程度の略三角形状で、葉厚も0.3mm程度の葉厚をもち、例え
ば、キャベツの葉のようなシッカリした触感をもつもので、葉柄とともに一体的に採取さ
れる。従って、この葉及び葉柄は、適度の大きさに分断し、抽出素材として供するのが好
ましい。
【0021】
なお、本願発明は係る素材形体に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更し得
ることは言うまでもない。
【0022】
B:抽出溶媒
抽出溶媒としては、熱水、親水性有機溶剤、含水性有機溶剤、親油性有機溶剤が好適で
ある。
【0023】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、
テトラヒドロフラン、イソプロパノール等が好適である。
【0024】
含水性有機溶剤としては、含水メタノール、含水エタノール、含水アセトン等が好適で
ある。
【0025】
親油性有機溶剤としては、n−ブタノール、n−ヘキサノール、n−アミルアルコール
、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、塩化メチレン、ジエチルエーテル、ベンゼン
、トルエン、キシレン等が好適である。
【0026】
C:抽出手法
抽出素材として、菱の「実」、「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」を使用するが、
この場合、「実」は、これ以外の「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」と比べて炭水化
物の含有量が多いため、これら「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」とは別に抽出する
ことが望ましい。また、「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」は、その成分含有量に大
きな差はないため、これらを混合した混合物として抽出することも、これらをそれぞれ個
別に抽出することもできる。
【0027】
ここで、抽出の実施例を簡単に説明する。
【0028】
実施例1:菱の「実」を素材として、含水メタノールを用いて成分抽出を行う場合
この場合には、含水メタノール中のメタノールの比率を60〜80%とし、この含水メ
タノールを、菱の「実」の重量に対して8〜15倍の比率で加え、これを常温で1週間程
度静置して行う。なお、この常温下での静置に代えて、抽出時間の短縮という点から、例
えば、還流下で加熱抽出することもできる。
【0029】
このようにして菱の「実」から抽出された抽出液から有機溶剤層を取り除いた後、これ
を乾燥させることで、菱の成分を有効成分として含有する生薬剤が得られる。
【0030】
実施例2:菱の「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」の混合物を、含水メタノールを
用いて成分抽出を行う場合
【0031】
この場合には、含水メタノール中のメタノールの比率を30〜60%とし、この含水メ
タノールを、菱の「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」の混合物に、その重量に対して
10〜20倍の比率で加え、これを常温で1週間程度静置して行う。
【0032】
このようにして菱の「葉」、「葉柄」、「茎」、「水中根」の混合物から抽出された抽
出液から有機溶剤層を取り除いた後、これを乾燥させることで、菱の成分を有効成分とし
て含有する生薬剤が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菱(学名:Trapa Japonica Flerow)の「実」又は「葉」又は「葉
柄」又は「茎」又は「水中根」を抽出溶媒で抽出して得られる抽出物を有効成分として含
有することを特徴とする生薬剤。
【請求項2】
請求項1において、
上記抽出溶媒が、熱水又は親水性有機溶剤又は含水性有機溶剤又は親油性有機溶剤であ
ることを特徴とする生薬剤。

【公開番号】特開2011−111394(P2011−111394A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266892(P2009−266892)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(507344863)株式会社インテム (9)
【Fターム(参考)】