説明

田植機

【課題】 苗のせ台2の下部に対向して複数の植付け機構を並列配備した複数条植え仕様の苗植付け装置を走行機体の後部に昇降自在に連結し、植付け機構への動力伝達を独立して遮断する複数の畦際クラッチを装備するとともに、これら畦際クラッチの入り切りを人為選択する選択操作手段を備えた田植機において、少数条植えが終了した後の機体方向転換時において畦際クラッチの入れ戻しが確実に行われるようにする。
【解決手段】 畦際クラッチ73の入り切りを人為選択する選択操作手段を一部の畦際クラッチ73が切られる状態に選択操作したセット状態で走行機体3が設定以上に大きく操向されたことが検知されると、選択操作手段による選択をリセットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗のせ台の下部に対向して複数の植付け機構を並列配備した複数条植え仕様の苗植付け装置を走行機体の後部に昇降自在に連結し、前記植付け機構への動力伝達を独立して遮断する複数の畦際クラッチを装備するとともに、これら畦際クラッチの入り切りを人為選択する選択操作手段を備えた田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
畦際クラッチは、主として、畦際に沿った最終の植付け行程を全条で植付けるように、その前の植付け行程で少数条の植付けを行う際に利用されるものであり、この少数条の植付け行程が終了した後に行われる植付け行程では先に切り操作された畦際クラッチを全て入り状態に復帰させておく必要がある。
【0003】
この場合、切られた畦際クラッチの入れ戻しが忘れられるおそれがあり、このような不具合を未然に回避するために、例えば、特許文献1に示されているように、少数条植えが終了した後の畦際での機体方向転換のために苗植付け装置が上限高さまで上昇されると、切られていた一部の畦際クラッチを自動的に入り作動させて全条植付け状態に復帰させることが試みられている。
【特許文献1】特開2002−262624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、少数条植えが終了した後に苗植付け装置を上限高さまで上昇させないで機体の方向転換を行うと、切られた畦際クラッチの自動入れ戻作動が行われなくなる。また、少数条での植付け行程において作業の休止のために、走行を停止して苗植付け装置を上限高さまで上昇させると全条植付け状態に復帰されることになり、作業を再開する際に再び一部の畦際クラッチを切って所定の少数条植え状態にセットし直す必要がある。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、少数条植えが終了した後の機体方向転換時において畦際クラッチの入れ戻しが確実に行われるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、苗のせ台の下部に対向して複数の植付け機構を並列配備した複数条植え仕様の苗植付け装置を走行機体の後部に昇降自在に連結し、前記植付け機構への動力伝達を独立して遮断する複数の畦際クラッチを装備するとともに、これら畦際クラッチの入り切りを人為選択する選択操作手段を備えた田植機において、
選択操作手段を一部の畦際クラッチが切られる状態に選択操作したセット状態で走行機体が設定以上に大きく操向されたことの検知に基づいて前記選択操作手段による選択をリセットするリセット手段を備えてあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、選択操作手段を操作して一部の畦際クラッチを切った少数条植えが終了して畦際に至ると機体を方向転換することになり、この際、走行機体が設定以上に大きく操向されたことが検知されると畦際クラッチセット状態がリセットされ、一部の畦際クラッチを切ったままで次の移行することが回避される。
【0008】
なお、リセット手段によるリセット形態としては、全部の畦際クラッチをクラッチ入り状態にする形態と、全部の畦際クラッチをクラッチ切り状態にする形態とが考えられ、前者の場合には、機体方向転換後に直ちに全条植付けを行う場合に便利であり、後者は、機体方向転換後に植付け作動することなく機体を回り植え開始位置まで移動する場合、などに有効に活用できる。
【0009】
従って、第1の発明によると、少数条での植付けが終了した後、苗植付け装置を余り大きく上げることなく機体方向転換を行う場合でも、確実に畦際クラッチセット状態をリセットして次の行程に備えることができ、使い勝手の優れたものとなる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記走行機体が設定以上に大きく操向され、かつ、前記苗植付け装置が非作業高さへ上昇されたことが検知されると、前記選択操作手段による選択をリセットするように前記リセット手段を設定してあるものである。
【0011】
上記構成によると、選択操作手段を操作して一部の畦際クラッチを切った少数条植えが終了して畦際に至ると走行機体を方向転換することになり、この際、走行機体が設定以上に大きく操向され、かつ、苗植付け装置が所定の非作業高さへ上昇されたことが検知されると、畦際クラッチセット状態がリセットされ、一部の畦際クラッチを切ったままで次の行程に移行することが回避される。
【0012】
従って、第2の発明によると、少数条での植付けが終了した後、苗植付け装置を余り大きく上げることなく機体方向転換を行う場合でも、確実に畦際クラッチセット状態をリセットして次の行程の準備とすることができ、使い勝手の優れたものとなる。
【0013】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記リセット手段によるリセット状態を、全ての畦際クラッチを同一の作動状態にするよう設定してあるものである。
【0014】
上記構成によると、一部の畦際クラッチを切った少数条植えが終了して畦際に至り、機体を方向転換すると、畦際クラッチセット状態がリセットされ、全部の畦際クラッチが入れられた状態、あるいは、全部の畦際クラッチが切られた状態となり、一部の畦際クラッチを切ったままで次の行程に移行することが回避される。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか一つの発明において、
前記畦際クラッチをアクチュエータで操作可能に構成するとともに、前記選択操作手段を、複数の押しボタンスイッチの選択操作によって対応する畦際クラッチの入り切り選択を行うよう構成してあるものである。
【0016】
上記構成によると、畦際クラッチに配置に対応して複数の押しボタンスイッチを左右に並べて配備することで、植付けを休止したい条の把握が容易となり、所望の少数条植え状態を容易にセットすることができる。
【0017】
第5の発明は、上記第4の発明において、
押しボタンスイッチを、押し込み操作の繰返しによってクラッチ入り切り選択が繰返されるとともに、内臓ランプの点灯および消灯が繰り返されるよう構成してあるものである。
【0018】
上記構成によると、畦際クラッチのセット状態を内臓ランプの点灯あるいは消灯として認識することができ、セット状態を容易に目視確認することができる。
【0019】
第6の発明は、上記第4または5の発明において、
前記選択操作手段の前記押しボタンスイッチが誤ってセットされたことを検知する判断手段と、この誤操作の検知に基づいて選択操作手段のセット状態をリセットする誤操作解除手段とを備えてあるものである。
【0020】
少数条植えは、右側の一部の植付け条、あるいは、左側の一部の植付け条を休止するものであり、中間の植付け条だけを休止したり、中間の植付け条だけで植付けを行ったりことはなく、もしもこのような状態がセットされたことが検知されると、これは誤操作と判断することができる。そして、誤操作と判断されるとそのセット状態を解除してリセットがなされ、誤った少数条植えセット状態で植付け作業が行われることはない。
【0021】
第7の発明は、上記第6の発明において、
前記誤操作解除手段によるリセット状態を、全ての畦際クラッチを同一の作動状態にするよう設定してあるものである。
【0022】
上記構成によると、誤った畦際クラッチセット状態がリセットされると、全部の畦際クラッチが入れられた状態、あるいは、全部の畦際クラッチが切られた状態となり、再び所望の少数条植え状態をセット操作すればよい。
【0023】
第8の発明は、上記第1〜7のいずれか一つの発明において、
前記苗のせ台に複数の植付け条に対応して苗送りベルトを装備するとともに、各苗送りベルトへの伝動を前記畦際クラッチに対応して独立的に遮断する苗送りクラッチを装備し、各苗送りクラッチを操作するアクチュエータを苗のせ台の背部左右に設置し、アクチュエータと苗送りクラッチとを機械式に連動連結してあるものである。
【0024】
上記構成によると、畦際クラッチによって植付けの休止された条の苗送りをも対応する苗送りクラッチによって休止させることができ、かつ、この苗送りクラッチを操作するアクチュエータは、苗のせ台の背部における他装置の邪魔にならない状態で配備することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1、図2に、乗用型田植機の側面および平面がそれぞれが示されている。この田植機は、操向自在な左右一対の前輪1と操向不能な左右一対の後輪2とを備えた走行機体3の後部に、6条植え仕様に構成された苗植付け装置4が油圧シリンダ5によって駆動される平行四連式のリンク機構6を介して昇降自在に連結されるとともに、機体後部に施肥装置7が装備された構造となっている。
【0026】
前記走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を軸支した後部伝動ケース10がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース9から前方に延出された前フレーム11にエンジン12が横向きに搭載されてボンネット13で覆われているとともに、エンジン12の後方に位置する搭乗運転部には、前輪1を操向操作するためのステアリングハンドル14、運転座席15、ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備の苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台17が備えられている。
【0027】
前記苗植付け装置4は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗のせ台21、苗のせ台21下端から1株分づつ苗を切り出して圃場に植付けてゆく6組の回転式の植付け機構22、植付け箇所を整地する3個の整地フロート23、等を備えて構成されている。また、前記施肥装置7は、運転座席15と苗植付け装置4との間において走行機体3上に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量づつ繰り出す繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各整地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28、などを備えており、作溝器27によって田面Tに形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0028】
図3,4に、この田植機の伝動構造の概略が示されている。前記ミッションケース9の側面には、エンジン12にベルト連動された主変速装置として静油圧式の無段変速装置(HST)41が連結され、その出力がミッションケース9に入力されて作業系と走行系とに分岐される。
【0029】
図4に示すように、分岐された作業系の動力は、ワンウエイ・クラッチ42によってその正転動力のみが取出され、6段のギヤ変速が可能な株間変速機構43および植付けクラッチ44を経て作業用動力取出し軸(PTO軸)45から取出され、伸縮伝動軸46を介して苗植付け装置4に伝達されるようになっている。
【0030】
図3に示すように、分岐された走行系動力は、ギヤ式の副変速機構47によって高低2段に変速された後、前輪系と後輪系に再度分岐され、前輪系の動力はデフロック可能なデフ装置48を介して左右の前輪1に伝達されるとともに、後輪系の動力は伝動軸49を介して後部伝動ケース10に伝達され、多板式のサイドクラッ50を介して左右の後輪2に伝達される。後部伝動ケース10には機体停止用の多板式のブレーキ51が装備されており、このブレーキ51は、ステップ16の右側足元に配備された走行停止用の単一のペダル52に機械的に連動連結されている。
【0031】
ここで、前記無段変速装置41は、ステアリングハンドル14の左脇に配備された主変速レバー(変速操作具)53で変速操作されるとともに、副変速機構47は、運転座席15の左横側に配備された副変速レバー54によって切換え操作されるようになっている。また、前輪1のデフ装置48は、足元のデフロックペダル55の踏み込みによってデフロックされて、左右の前輪1が等速で駆動されるようになっている。
【0032】
詳細な構造は図示されていないが、左右のサイドクラッチ50は前輪1の操向に連動して自動操作されるものであり、ステアリングハンドル14によって前輪1を左または右に設定角度(例えば30°)以上に操向すると、旋回内側となる後輪2のサイドクラッチ50が自動的に切り操作されて、円滑で小回りの利いた旋回が行われる。
【0033】
図5に示すように、前記苗植付け装置4には、横長の筒状部材からなる植付けフレーム60備えられており、この植付けフレーム60に前記PTO軸45からの動力を受けるフィードケース61と後向き片持ち状の3個の植付けケース62が連結支持されている。前記フィードケース61には、苗のせ台21を一定ストロークで往復横移動させるネジ軸63、苗のせ台21に各条ごと装備された苗送りベルト30を横移動ストロークエンドごとに下方に送り作動させる苗送り駆動軸64、および、植付け駆動用の出力軸65が横架支承されている。
【0034】
植付けケース62の前部にはフィードケース61の出力軸65に連動連結された入力軸67が備えられるとともに、植付けケース65の後部には左右の植付け機構22を駆動する植付け駆動軸68が横架支承され、入力軸67に遊嵌装着した駆動スプロケット69と植付け駆動軸68に遊嵌装着した従動スプロケット70とが伝動チェーン71で巻き掛け連動されている。そして、入力軸67と駆動スプロケット69との間にトルクリミッタ72が介在されるとともに、従動スプロケット70と植付け駆動軸68との間に畦際クラッチ73が介在されている。
【0035】
図6に示すように、前記トルクリミッタ72は、入力軸67にスプライン装着したクラッチ片74をバネ75によって付勢シフトして駆動スプロケット69に側面から爪咬合させる構造となっており、駆動スプロケット69に作用する負荷トルクが設定以上になると爪咬合箇所における斜面カム作用でクラッチ片74がバネ75に抗して後退シフトされて咬合が解除され、入力軸67から駆動スプロケット69への動力伝達が遮断されるようになっている。
【0036】
前記畦際クラッチ73は、畦際に沿った植付けを全条で行うために手前の植付け行程において右側または左側の植付け機構4を2条単位で休止して少数条の植付け(左4条植え、左2条植え、あるいは、右4条植え、右2条植え)を行う際に利用されるものであり、図6に示すように、植付け駆動軸68にスプライン装着したクラッチ片76をバネ77で付勢シフトして従動スプロケット70に側面から咬合させることで従動スプロケット70から植付け駆動軸68への動力伝達がなされ、クラッチ片76をバネ77に抗して後退シフトして従動スプロケット70から離脱させることで、植付け駆動軸68の左右に備えられた2条分の植え付け機構62を休止することができるようになっている。なお、クラッチ片76の側面には乗上がりカム76aが備えられており、植え付けケース65に前方から貫通装着した操作ピン78をクラッチ入り位置で回転している乗上がりカム76aの回動奇跡内に突入させると、位置固定の操作ピン78と乗上がりカム76aとの相対回転によるカム作用によってクラッチ片76がバネ77に抗してクラッチ切り方向に強制シフトされ、植付け駆動軸68が停止されるようになっているのである。
【0037】
なお、各植付け機構62に備えた植付け爪62aが田面Tに突入しない高さに位置する回転位相で植付け駆動軸68の駆動が断たれるように、前記乗上がりカム76aのカム形状が設定されているとともに、クラッチ片76と従動スプロケット70とが咬合する回転位相も一定位置に設定されている。従って、操作ピン78を抜き出すクラッチ入り操作がなされても、植付け駆動軸68が一定の回転位相に至ってはじめてクラッチ片76が従動スプロケット70に咬合することになり、3つの畦際クラッチ73が共に入れられた全条植え状態では6組の植え付け機構62が同じタイミングで植え付け作動するようになっているのである。
【0038】
図7に示すように、畦際クラッチ73の入り切りを行う操作ピン78は、植付けケース65の側面に支点a周りに揺動可能に枢支連結された操作アーム79の一端に係合連動されるとともに、操作アーム79は支点aに装着したねじりバネ80によって操作ピン押し込み方向(クラッチ切り方向)に揺動付勢され、かつ、この操作アーム79が植付けケース65の側面に取付けられた減速器付きの電動モータ(アクチュエータの一例)81によって以下のように揺動操作されるようになっている。
【0039】
つまり、前記電動モータ81の出力軸81aに連結した操作レバー82の先端部から延出された操作ロッド83が前記操作アーム79に形成した長孔84に係止連結されており、図7(イ)に示すように、操作レバー82が前部ストッパs1に接当規制された前向きの所定姿勢にある時、操作アーム79がねじりバネ80に抗してクラッチ入り位置にまで揺動され、また、図7(ロ)に示すように、操作レバー82が後部ストッパs2に接当規制された後向きの所定姿勢まで回動されると、操作アーム79がねじりバネ80によってクラッチ切り位置に向けて付勢揺動されるようになっている。なお、操作レバー82が後向きのクラッチ切り位相にまで回動された時、必ずしも操作ピン78がクラッチ片76における乗上がりカム76aの回動軌跡内に突入できるタイミングにあるとは限らず、タイミングが合わない場合には操作ピン78はクラッチ片76の外周面に押し当てられた状態で摺接して、乗上がりカム76aの回動軌跡に突入できる位相になるまで待機することになり、その際の操作ロッド83の後方への操作偏位は長孔84によって吸収されるのである。
【0040】
図5に示すように、前記苗のせ台21に各条ごとに装備された苗送りベルト30は下部の駆動ローラ31と上部のテンションローラ32とに亘って巻回されており、苗のせ台21が横送りストロークエンドに到達するたびに駆動ローラ31が所定量づつ回動して苗送り作動を行うよう構成されている。そして、前記畦際クラッチ73の切り操作によって植付け機構22が休止される植付け条に対応した条の苗送りを2条単位で休止するために、駆動ローラ31への動力伝達を断続する3つの苗送りクラッチ33が備えられている。
【0041】
図8に示すように、前記苗送りクラッチ33は、横送りストロークエンドごとに所定角度だけ回転される苗送り駆動軸34と、2条分の駆動ローラ31を連結したローラ支軸35との間の動力伝達を断続するものであり、操作アーム36を支点b周りに揺動操作してクラッチ片37をシフトすることでクラッチ入り切りを行うよう構成されている。そして、苗のせ台21の背部の左右に取付けた減速器付きの電動モータ38で正逆に揺動駆動される操作レバー39と前記操作アーム36とが操作ロッド40で連動連結されており、各電動モータ38を作動制御することで各苗送りクラッチ33を独立して入り切り操作することができるようになっている。
【0042】
図9に示すように、3つの畦際クラッチ73および苗送りクラッチ33を入り切り操作する前記電動モータ81,38はマイコン利用の制御装置90に接続されており、選択操作手段として備えられた3つの押しボタンスイッチ91の操作に基づいて作動制御されるようになっている。
【0043】
図10に示すように、前記押しボタンスイッチ91は、ステアリングハンドル14の下方において出し入れ揺動自在に組み付けられた操作ボックス92に装着されており、畦際クラッチ73および苗送りクラッチ33の配列に対応して押しボタンスイッチ91が左右に並べて操作ボックス92に配備されている。つまり、左の押しボタンスイッチ91(L)は左側2条、中央の押しボタンスイッチ91(C)は中央2条、また、右の押しボタンスイッチ91(R)は右側2条の植付けおよび苗送り作動を選択するようになっている。
【0044】
各押しボタンスイッチ91は、押し込み操作ごとにオン・オフが繰り返し切換えられて保持されるとともに、オン状態では内臓ランプ93が点灯し、オフ状態では内臓ランプ93が消灯する型式のものが利用されており、内臓ランプ93が消灯するオフ状態では畦際クラッチ73および苗送りクラッチ33が入り操作され、内臓ランプ93が点灯するオン状態では畦際クラッチ73および苗送りクラッチ33が切り操作されるように、これら押しボタンスイッチ91の操作状態に基づいて電動モータ81,38が作動制御されるようになっている。
【0045】
通常の植付け作業では、全部の押しボタンスイッチ91がオフ状態(消灯)となっており、全部の畦際クラッチ73および苗送りクラッチ33が入り操作されて全条(6条)での植付けが行われ、また、畦際近くの少数条植え行程においては、運転作業者が休止する植付け条に対応して押しボタンスイッチ91を選択操作して少数条植付け状態をセットすることになる。
【0046】
例えば、左側4条の植付けを行う場合には右端の押しボタンスイッチ91(R)だけを内臓ランプ92(R)がオン状態(ランプ点灯)に押し込み操作し、左側2条の植付けを行う場合には右端と中央の押しボタンスイッチ91(R),91(C)を内臓ランプがオン状態(ランプ点灯)に押し込み操作し、逆に、右側4条の植付けを行う場合には左端の押しボタンスイッチ91(L)だけをオン状態(ランプ点灯)に押し込み操作し、右側2条の植付けを行う場合には左端と中央の押しボタンスイッチ91(L),91(C)をオン状態(ランプ点灯)に押し込み操作するのである。
【0047】
この場合、押しボタンスイッチ91が誤ってセット操作された場合にはリセット制御が行われて、全押しボタンスイッチ91がオフ状態(ランプ消灯)となる。つまり、少数条植えは、右側の一部の植付け条、あるいは、左側の一部の植付け条を休止するものであり、中間の植付け条だけを休止したり、中間の植付け条だけで植付けを行ったりことはないものであり、従って、中央の押しボタンスイッチ91(C)だけがオン状態にセットされたり、左右の押しボタンスイッチ91(L),91(R)だけがオン状態にセットされたりしたことが制御装置90で認識されると、誤操作がなされたものと判断して、そのセット状態を解除するリセット制御がなされ、全押しボタンスイッチ91がオフ状態に戻されて全部の畦際クラッチ73および苗送りクラッチ33が入り状態となるのである。
【0048】
そして、適正なセット操作に基づく少数条植付け行程が終了して畦際に到達すると、苗植付け装置4を一旦上昇させて機体の方向転換を行うことになるが、この機体方向転換作動に基づいて少数条植えのセット状態が自動的にリセットされるようになっている。
【0049】
つまり、図9の制御ブロック図に示すように、前輪1を操向するステアリングリンク機構94には、前輪1が直進姿勢から左方あるいは右方に設定角度以上に大きく操向されたことを検知するポテンショメータやリミットスイッチを利用した操向センサ95が備えられて制御装置90に接続されるとともに、走行機体3の後端には苗植付け装置4を昇降するリンク機構6が上限高さまで上昇されたことを検知する上昇検知スイッチ96が備えられて制御装置90に接続されており、これら操向センサ95および上昇検知スイッチ96からの情報に基づいて前輪1が設定角度以上に大きく操向され、かつ、苗植付け装置4が上限高さまで上昇されたことが認識されると、押しボタンスイッチ91による少数条植えセット状態が自動的にリセットされて、全条植付け状態に戻されるようになっているのである。
【0050】
〔他の実施例〕
【0051】
(1)図11に示すように、畦際クラッチ73を、植付け駆動軸68にスプライン装着したクラッチ片76をバネ77で付勢シフトして従動スプロケット70に側面から咬合させるよう構成するとともに、植付けケース65に回動自在に貫通装着した操作ピン78の内端に形成した偏心カム部78aをクラッチ片76に係合させ、この操作ピン78を、植付けケース65の上部に装着した電動モータ81で回動することでクラッチ片76をシフト操作する形態で実施することもできる。
【0052】
この場合、詳細な構造は明記しないが、植付け駆動軸68を所定の回転位相にある時に畦際クラッチ73を切るために、操作ピン78はクラッチ片76が所定の回転位相にある時にのみクラッチ切り方向に回転可能となるようにクラッチ片76に係合されている。また、操作ピン78に連結した操作アーム78bと、電動モータ81の出力軸81aに連結されて正逆に回動される操作レバー82とがねじりバネ85を介して連動連結されており、クラッチ片76がクラッチ切り作動を許容する位相にない状態で操作レバー82がクラッチ切り位置に回動された時のストローク吸収が前記ねじりバネ85のねじり変形によって吸収され、クラッチ片76がクラッチ切り作動を許容する位相にまで回転したタイミングでねじりバネ85の弾性復元力によって操作ピン78が回動操作されて畦際クラッチ73が切り操作されるようになっている。
【0053】
(2)図12,13に示すように、苗のせ台21の背部に単一の減速器付きの電動モータ101を配備し、この電動モータ101によって正逆に回転される操作軸102に3つの回転カム103を備えるとともに、各回転カム103によって接当操作されて揺動する3本の操作レバー104を配備し、各操作レバー104から導出した操作ワイヤ105を上記構成の苗送りクラッチ33の操作アーム36と、畦際クラッチ73の操作アーム79にそれぞれ連動連結し、回転カム103を正方向あるいは逆方向に所定角度だけ回転させることによって所望の植付け条の苗送りクラッチ33と畦際クラッチ73を切り操作するよう構成することもできる。この場合、図13(イ)に示すように、回転カム103が中立位置にある時に全部の苗送りクラッチ33と畦際クラッチ73がクラッチ入り状態になって全条植え状態がもたらされ、また、図13(ロ)に示すように、回転カム103を中立位置から正方向に所定角度だけ回転させると左2条分の苗送りクラッチ33と畦際クラッ73が切られ、更に正方向に所定角度だけ回転させると、図13(ハ)に示すように、左4条分の苗送りクラッチ33と畦際クラッチ73が切られ、また、図示しないが、回転カム103を中立位置から逆方向に所定角度だけ回転させると右2条分の苗送りクラッチ33と畦際クラッチ73が切られ、更に逆方向に所定角度だけ回転させると右4条分の苗送りクラッ33と畦際クラッチ73が切られるように各回転カム103のカム形状およびカム位相が設定されている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】乗用田植機の全体側面図
【図2】乗用田植機の全体平面図
【図3】走行系の伝動系統図
【図4】作業系の伝動系統図
【図5】苗植付け装置の伝動構造を示す概略図
【図6】植付けケースの横断平面図
【図7】畦際クラッチ操作構造の側面図
【図8】苗送りクラッチ操作構造の断面図
【図9】畦際クラッチおよび苗送りクラッチの操作系を示すブロック図
【図10】ステアリングハンドル周りの斜視図
【図11】畦際クラッチ操作構造の別実施例を示す断面図
【図12】畦際クラッチおよび苗送りクラッチの操作構造の別実施例を示す概略図
【図13】別実施例の作動説明図
【符号の説明】
【0055】
3 走行機体
4 苗植付け装置
21 苗のせ台
22 植付け機構
30 苗送りベルト
33 苗送りクラッチ
38 アクチュエータ
73 畦際クラッチ
81 アクチュエータ
91 押しボタンスイッチ
93 内臓ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗のせ台の下部に対向して複数の植付け機構を並列配備した複数条植え仕様の苗植付け装置を走行機体の後部に昇降自在に連結し、前記植付け機構への動力伝達を独立して遮断する複数の畦際クラッチを装備するとともに、これら畦際クラッチの入り切りを人為選択する選択操作手段を備えた田植機において、
選択操作手段を一部の畦際クラッチが切られる状態に選択操作したセット状態で走行機体が設定以上に大きく操向されたことの検知に基づいて前記選択操作手段による選択をリセットするリセット手段を備えてあることを特徴とする田植機。
【請求項2】
前記走行機体が設定以上に大きく操向され、かつ、前記苗植付け装置が非作業高さへ上昇されたことが検知されると、前記選択操作手段による選択をリセットするように前記リセット手段を設定してある請求項1記載の田植機。
【請求項3】
前記リセット手段によるリセット状態を、全ての畦際クラッチを同一の作動状態にするよう設定してある請求項1または2記載の田植機。
【請求項4】
前記畦際クラッチをアクチュエータで操作可能に構成するとともに、前記選択操作手段を、複数の押しボタンスイッチの選択操作によって対応する畦際クラッチの入り切り選択を行うよう構成してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の田植機。
【請求項5】
押しボタンスイッチを、押し込み操作の繰返しによってクラッチ入り切り選択が繰返されるとともに、内臓ランプの点灯および消灯が繰り返されるよう構成してある請求項4記載の田植機。
【請求項6】
前記選択操作手段の前記押しボタンスイッチが誤ってセットされたことを検知する判断手段と、この誤操作の検知に基づいて選択操作手段のセット状態をリセットする誤操作解除手段とを備えてある請求項4または5記載の田植機。
【請求項7】
前記誤操作解除手段によるリセット状態を、全ての畦際クラッチを同一の作動状態にするよう設定してある請求項6記載の田植機。
【請求項8】
前記苗のせ台に複数の植付け条に対応して苗送りベルトを装備するとともに、各苗送りベルトへの伝動を前記畦際クラッチに対応して独立的に遮断する苗送りクラッチを装備し、各苗送りクラッチを操作するアクチュエータを苗のせ台の背部左右に設置し、アクチュエータと苗送りクラッチとを機械式に連動連結してある請求項1〜7のいずれか一項に記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−94743(P2006−94743A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283589(P2004−283589)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】