説明

甲状腺癌の処置のためのRAF阻害剤

本発明は、甲状腺癌、より具体的に乳頭様甲状腺癌(PTC)の処置のための医薬組成物の製造のためのRaf阻害剤の使用;甲状腺癌、より具体的にPTCの処置におけるRaf阻害剤の使用;甲状腺癌、より具体的にPTCを有する哺乳動物、特にヒトを含む温血動物の処置方法であって、かかる処置を必要とする該動物に該疾患に対して有効な投与量のRaf阻害剤を投与することによる方法に関する。本発明はまた、甲状腺癌、より具体的に乳頭様甲状腺癌の処置のためのプラチン化合物と組み合わせたRaf阻害剤の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、甲状腺癌、より具体的には乳頭様甲状腺癌(PTC)の処置のための医薬組成物の製造のためのRaf阻害剤の使用;甲状腺癌、より具体的にはPTCの処置におけるRaf阻害剤の使用;甲状腺癌、より具体的にはPTCを有する哺乳動物、特にヒトを含む温血動物の処置方法であって、かかる処置を必要とする該動物に該疾患に対して有効な投与量のRaf阻害剤を投与することによる方法に関する。本発明はまた、甲状腺癌、より具体的には乳頭様甲状腺癌の処置のためのプラチン化合物と組み合わせたRaf阻害剤の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
甲状腺癌は、毎年新規癌診断症例の約1%を占める比較的稀な疾患である(米国で、毎年26,000症例)。最も多いサブタイプはPTCであり、それは全症例の約80%を占める。患者の大多数は、手術とその後のアジュバント131I−放射性ヨウ素治療により治癒するが、一部の患者は応答せず、この群の患者のための処置選択肢はほとんどない。
【0003】
PTCの遺伝的特徴は、この疾患を攻撃するための標的治療の可能性があり、そして特に重要であるのは、Ras/Raf/MAPK経路内の標的であることを示唆している。PTCの70%までがB−Rafの変異形態(B−RafV600E)を発現する{Chiloeches, 2006 #270;Cohen, 2003 #287}。B−Rafは通常Rasにより活性化され、この経路内で、MEKのリン酸化および活性化を介して、細胞表面受容体から増殖および生存シグナルを伝達するために機能する。しかしながら、B−RafV600EはRasによる活性化を必要とせず、この経路を構成的に活性化し、制御不全の増殖を促進し、アポトーシスを抑制する。
【0004】
PTCにおけるこの経路の重要性は、これらの腫瘍の30%までが、受容体チロシンキナーゼ活性の構成的活性化およびMAPK経路の活性化に至るゲノム転位により引き起こされる受容体の変異形態を発現するという観察結果により強調される{Viglietto, 1995 #288}。それ故、PTC腫瘍の圧倒的多数は、B−RafまたはRET変異を介してMAPK経路を活性化するように思われ、RETまたはB−Rafを標的とする薬剤により治療上の恩恵を受ける可能性がある。それ故、新規処置方法を開発する必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
驚くべきことに、Raf阻害剤がPTCを処置し得ることが判明した。それ故、本発明は、PTCの処置用薬剤の製造のためのRaf阻害剤の使用にも関する。本発明はまた、PTCの処置におけるRaf阻害剤の使用にも関する。本発明はPTCを有する哺乳動物、特にヒトを含む温血動物の処置方法であって、かかる処置を必要とする該動物に、該疾患に対して有効な投与量のRaf阻害剤またはその薬学的に許容される塩を投与することによる、方法を提供する。
【0006】
発明の詳細な記載
Raf阻害剤は、式(I):
【化1】

〔式中、
各Rはヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、(C1−6アルキル)スルファニル、(C1−6アルキル)スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
はC1−6アルキルまたはハロ(C1−6アルキル)であり;
各Rはハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択され;
各Rはヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロ、ヘテロシクロアルキルカルボニル、カルボキシル、(C1−6アルコキシ)カルボニル、アミノカルボニル、C1−6アルキルアミノカルボニル、カルボニトリル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
ここで、R、R、RおよびRは、所望により、ヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキル、ハロ(C1−6アルキル)、C1−6アルコキシおよびハロ(C1−6アルコキシ)から独立して選択される1個以上の置換基で置換されていてよく;
aは1、2、3、4または5であり;
bは0、1、2または3であり;そして
cは1または2である。〕
を有する置換ベンゾイミダゾール化合物またはその互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物、またはプロドラッグまたは該化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの薬学的に許容される塩である。
【0007】
他の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、式(II):
【化2】

〔式中、
各RはC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、(C1−6アルキル)スルファニル、(C1−6アルキル)スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
各Rはハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択され;
各Rはヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロ、カルボキシル、(C1−6アルコキシ)カルボニル、アミノカルボニル、カルボニトリル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルキルカルボニル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
ここで、R、R、RおよびRは、所望により、ヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択される1個以上の置換基で置換されていてよく;
aは1、2、3、4または5であり;
bは0、1、2または3であり;そして
cは1または2である。〕
を有するか、またはその互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物、またはプロドラッグまたは該化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの薬学的に許容される塩である。
【0008】
他の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、式(III):
【化3】

〔式中、
各RはC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、(C1−6アルキル)スルファニル、(C1−6アルキル)スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
各Rはヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロ、カルボキシル、(C1−6アルコキシ)カルボニル、アミノカルボニル、カルボニトリル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルキルカルボニル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
ここで、RおよびRは、所望により、ヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択される1個以上の置換基で置換されていてよく;
aは1、2、3、4または5であり;そして
cは1または2である。〕
を有するか、またはその互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物、またはプロドラッグ、または該化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの薬学的に許容される塩である。
【0009】
また開示されるのは、式(IV):
【化4】

〔式中、
各RはC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、(C1−6アルキル)スルファニル、(C1−6アルキル)スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
はC1−6アルキルまたはハロ(C1−6アルキル)であり;
各Rはハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択され;
各Rはヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロ、カルボキシル、(C1−6アルコキシ)カルボニル、アミノカルボニル、C1−6アルキルアミノカルボニル、カルボニトリル、カルボニトリル(C1−6アルキル)、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル(C1−6アルキル)、ヘテロシクロアルキルカルボニル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
ここで、R、R、RおよびRは、所望により、ヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択される1個以上の置換基で置換されていてよく;
aは1、2、3、4または5であり;そして
bは0、1、2または3である。〕
の化合物、またはその互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物、またはプロドラッグ、または該化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの薬学的に許容される塩である。
【0010】
他の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、各Rがヒドロキシ、クロロ、フルオロ、ブロモ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロエトキシ、トリフルオロメチルスルファニル、ピペリジニル、C1−6アルキルピペリジニル、ピペラジニル、C1−6アルキルピペラジニル、テトラヒドロフラニル、ピリジニルおよびピリミジニルから成る群から選択される、式(I)〜(IV)を有する。他の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、aが1または2であり、そして少なくとも1個のRがトリフルオロメチルのようなハロ(C1−6アルキル)である、式(I)〜(IV)を有する。他の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、Rが、例えば、メチルまたはエチルのようなC1−6アルキルである、式(I)および(IV)を有する。さらなる態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物はbが0であり、故にRが存在しない、式(I)、(II)および(IV)を有する。別の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、bが1であり、そしてRが、例えば、メトキシのようなC1−6アルコキシである、式(I)〜(IV)を提供する。さらに別の態様において、新規置換ベンゾイミダゾール化合物は、cが1または2であり、そして少なくとも1個のRが、例えば、トリフルオロメチルのようなハロ(C1−6アルキル)である、式(I)〜(III)を有する。
【0011】
“アルキル”は、ヘテロ原子を含まない飽和ヒドロカルビル基を意味し、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどのような直鎖アルキル基を含む。アルキルはまた、単なる例として提供される次の物を含むが、これに限定されない直鎖アルキル基の分枝鎖異性体も含む:−CH(CH)、−CH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)、−C(CH)、−C(CHCH)、−CHCH(CH)、−CHCH(CH)(CHCH)、−CHCH(CHCH)、−CHC(CH)、−CHC(CHCH)、−CH(CH)−CH(CH)(CHCH)、−CHCHCH(CH)、−CHCHCH(CH)(CHCH)、−CHCHCH(CHCH)、−CHCHC(CH)、−CHCHC(CHCH)、−CH(CH)CHCH(CH)、−CH(CH)CH(CH)CH(CH)、−CH(CHCH)CH(CH)CH(CH)(CHCH)およびその他。それ故、アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基および第2級アルキル基を含む。用語“C1−12アルキル”は、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。用語“C1−6アルキル”は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。
【0012】
“アルケニル”は、2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を有し、かつ少なくとも1個所、好ましくは1〜2個所のビニル(>C=C<)不飽和を有する、直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基を意味する。かかる基の例は、例えば、ビニル、アリルおよびブト−3−エン−1−イルである。この用語に含まれるのは、cisおよびtrans異性体またはこれらの異性体の混合物である。
【0013】
“アルコキシ”は、RO−(式中、Rはアルキル基である)を意味する。ここで使用する用語“C1−6アルコキシ”は、RO−(式中、RはC1−6アルキル基である)を意味する。C1−6アルコキシ基の代表例はメトキシ、エトキシ、t−ブトキシなどを含む。
【0014】
“(C1−6アルコキシ)カルボニル”は、エステル−C(=O)−OR(式中、RはC1−6アルキル基である)を意味する。
“アミジノ”は、基−C(=NH)NHを意味する。“アミジン”は、かかる基を含む化合物を意味する。
【0015】
“アミノカルボニル”は、ここでは、基−C(O)−NHを意味する。
“C1−6アルキルアミノカルボニル”は、基−C(O)−NRR'(式中、RはC1−6アルキルであり、そしてR'は水素およびC1−6アルキルから選択される)を意味する。
“カルボニル”は、二価基−C(O)−を意味する。
【0016】
“カルボキシル”は、−C(=O)−OHを意味する。
“シアノ”、“カルボニトリル”または“ニトリル”は、−CNを意味する。
“カルボニトリル(C1−6アルキル)”は、−CNで置換されたC1−6アルキル置換を意味する。
【0017】
“シクロアルキル”は、単または多環状アルキル置換基を意味する。典型的シクロアルキル基は、3〜8炭素環原子を含む。代表的シクロアルキル基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルを含む。
【0018】
“ハロゲン”または“ハロ”は、クロロ、ブロモ、フルオロおよびヨード基を意味する。
“ハロ(C1−6アルキル)”は、1個以上のハロゲン原子、好ましくは1〜5個のハロゲン原子で置換されたC1−6アルキルラジカルを意味する。より好ましいハロ(C1−6アルキル)基は、トリフルオロメチルである。
“ハロ(C1−6アルキル)フェニル”は、ハロ(C1−6アルキル)で置換されたフェニル基を意味する。
【0019】
“ハロ(C1−6アルコキシ)”は、1個以上のハロゲン原子、好ましくは1〜5個のハロゲン原子で置換されたアルコキシラジカルを意味する。より好ましいハロ(C1−6アルコキシ)基は、トリフルオロメトキシである。
“ハロ(C1−6アルキル)スルホニル”および“ハロ(C1−6アルキル)スルファニル”は、ハロ(C1−6アルキル)基で置換されたスルホニルおよびスルファニル基を意味し、ここで、スルホニルおよびスルファニルは本明細書に定義の通りである。
【0020】
“ヘテロアリール”は、芳香環内の環原子として1〜4個のヘテロ原子を有し、環原子の残りが炭素原子である芳香族基を意味する。本発明の化合物に用いる適当なヘテロ原子は、窒素、酸素および硫黄であり、ここで、窒素および硫黄原子は、所望により酸化されていてよい。ヘテロアリール基の例は5〜14環原子を有し、例えば、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ジアザピニル、フラニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、インダゾリル、キノリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、チアゾリル、チエニルおよびトリアゾリルを含む。
【0021】
“ヘテロシクロアルキル”は、本明細書で、環構造内に1〜5個、より一般的には1〜2個のヘテロ原子を有するシクロアルキル置換基を意味する。本発明の化合物で用いる適当なヘテロ原子は、窒素、酸素および硫黄であり、ここで、窒素および硫黄原子は所望により酸化されていてよい。代表的ヘテロシクロアルキル部分は、例えば、モルホリノ、ピペラジニル、ピペリジニルなどを含む。
【0022】
“(C1−6アルキル)ヘテロシクロアルキル”は、C1−6アルキル基で置換されたヘテロシクロアルキル基を意味する。
“ヘテロシクロアルキル(C1−6アルキル)”は、ヘテロシクロアルキルで置換されたC1−6アルキル置換を意味する。
【0023】
“ヘテロシクロアルキルカルボニル”は、基−C(O)−R10(式中、R10はヘテロシクロアルキルである)を意味する。
“(C1−6アルキル)ヘテロシクロアルキルカルボニル”は、基−C(O)−R11(式中、R11は(C1−6アルキル)ヘテロシクロアルキルである)を意味する。
【0024】
“ヒドロキシ”は、−OHを意味する。
“ヒドロキシ(C1−6アルキル)”は、ヒドロキシで置換されたC1−6アルキル基を意味する。
“ヒドロキシ(C1−6アルキルアミノカルボニル)”は、ヒドロキシで置換されたC1−6アルキルアミノカルボニル基を意味する。
【0025】
“イミデート”または“イミデートエステル”は、基−C(=NH)O−またはかかる基を含む化合物を意味する。イミデートエステルは、例えば、メチルエステルイミデート−C(=NH)OCHを含む。
“ニトロ”は、−NOを意味する。
“スルホニル”は、本明細書で基−SO−を意味する。
【0026】
“スルファニル”は、基−S−を意味する。“アルキルスルホニル”は、構造−SO12(式中、R12はアルキルである)の置換スルホニルを意味する。“アルキルスルファニル”は、構造−SR12(式中、R12はアルキルである)の置換スルファニルを意味する。本発明の化合物において用いられるアルキルスルホニルおよびアルキルスルファニル基は、(C1−6アルキル)スルホニルおよび(C1−6アルキル)スルファニルを含む。それ故、典型的基は、例えば、メチルスルホニルおよびメチルスルファニル(すなわち、R12がメチルであるとき)、エチルスルホニル、およびエチルスルファニル(すなわち、R12がエチルであるとき)、プロピルスルホニル、およびプロピルスルファニル(すなわち、R12がプロピルであるとき)などを含む。
【0027】
“ヒドロキシ保護基”は、OH基用の保護基を意味する。本明細書で使用する本用語は、酸COOHのOH基の保護も意味する。適当なヒドロキシ保護基、ならびに特定の官能基を保護および脱保護するための適当な条件は、当分野で既知である。例えば、多くのかかる保護基がT. W. Greene and P. G. M. Wuts, Protecting Groups in Organic Synthesis, Third Edition, Wiley, NY (1999)に記載されている。このようなヒドロキシ保護基は、C1−6アルキルエーテル類、ベンジルエーテル類、p−メトキシベンジルエーテル類、シリルエーテル類などを含む。
【0028】
“所望により置換されていてよい”または“置換されている”は、1個以上の水素原子の1価または2価ラジカルでの置換を意味する。
【0029】
置換された置換基が直鎖基を含むとき、この置換は鎖の途中(例えば、2−ヒドロキシプロピル、2−アミノブチルなど)または鎖の末端(例えば、2−ヒドロキシエチル、3−シアノプロピルなど)のいずれでも起こり得る。置換された置換基は、共有結合した炭素またはヘテロ原子の直鎖、分枝鎖または環状構造であり得る。
【0030】
上記定義は、許容されない置換パターン(例えば、5個のフルオロ基で置換されたメチルまたは他のハロゲン原子で置換されたハロゲン原子)を含むことを意図しないことは理解される。このような許容されない置換パターンは、当業者に周知である。
【0031】
式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物またはそれらの立体異性体および多形、ならびにそれらのいずれかの薬学的に許容される塩、エステル、代謝物およびプロドラッグを含む、本発明の化合物は、互変異性体化の対象となり得て、それ故、分子の1原子のプロトンが他の原子にシフトし、分子のその原子間の化学結合が、その結果として変わる、種々の互変異性体形態で存在し得る。例えば、March, Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structures, Fourth Edition, John Wiley & Sons, pp. 69-74 (1992)参照。
【0032】
ここで使用する用語“薬学的に許容される塩”は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの非毒性酸またはアルカリ土類金属塩を意味する。これらの塩は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物の最終単離工程または精製工程中に製造され得るか、または別途に塩基または酸官能基と適当な有機または無機酸または塩基を各々反応させることによって製造され得る。代表的塩は、次のものを含むが、これらに限定されない:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、ジグルコン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩およびウンデカン酸塩。また、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド、例えばメチル、エチル、プロピル、およびブチルの塩化物、臭化物、およびヨウ化物;ジメチル、ジエチル、ジブチル、およびジアミルスルフェートのようなジアルキルスルフェート、長鎖ハライド、例えばデシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルの塩化物、臭化物およびヨウ化物、ベンジルおよびフェネチルの臭化物のようなフェニルアルキルハライドなどのような試薬で第4級化できる。水または油可溶性または分散性生成物をそれにより得る。
【0033】
薬学的に許容される酸付加塩の形成に用い得る酸の例は、無機酸、例えば塩酸、硫酸およびリン酸および有機酸、例えばシュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、コハク酸およびクエン酸を含む。塩基性付加塩は、式(I)の化合物の最終単離および精製中にその場で製造でき、または別々に、カルボン酸部分と、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩、または重炭酸塩のような適当な塩基、またはアンモニア、または有機第1級、第2級または第3級アミンとの反応により製造できる。薬学的に許容される塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属に基づくカチオン、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム塩など、ならびに非毒性アンモニウム、第4級アンモニウム、およびアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどおよびその他のアミンカチオンを含むが、これらに限定されない。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的有機アミンは、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどを含む。
【0034】
一つの態様において、Raf阻害剤は、化学式:
【化5】

を有する1−メチル−5−[2−(5−トリフルオロメチル−1H−イミダゾール−2−イル)−ピリジン−4−イルオキシ]−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル}−(4−トリフルオロメチルフェニル)−アミン、またはその薬学的に許容される塩である。
【0035】
一つの態様において、Raf阻害剤を、PTCの処置のためにプラチン化合物、より具体的にシスプラチンと組み合わせる。Raf阻害剤の非限定的例は、化学式:
【化6】

を有する1−メチル−5−[2−(5−トリフルオロメチル−1H−イミダゾール−2−イル)−ピリジン−4−イルオキシ]−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル}−(4−トリフルオロメチルフェニル)−アミン、またはその薬学的に許容される塩である。
【0036】
“Raf阻害剤”は、本明細書で、Rafキナーゼ活性に関して、下記に一般的に記載するRaf/Mekフィルトレーションアッセイで測定して、約100μMを超えない、より典型的に約50μMを超えないIC50を示す化合物を意味する。本発明の化合物が阻害を示すであろうRafキナーゼの好ましいアイソフォームは、A−Raf、B−RafおよびC−Raf(Raf−1)を含む。“IC50”は、酵素(例えば、Rafキナーゼ)の活性を最大の半分のレベルに低下させる阻害剤の濃度である。本発明の代表的化合物は、Rafに対して阻害活性を示すことが判明した。本発明の化合物は、ここに記載のRafキナーゼアッセイで測定して、Rafについて好ましくは約10μMを超えない、より好ましくは、約5μMを超えない、さらに好ましくは約1μMを超えない、そして最も好ましくは約200nMを超えないIC50を示す。
【0037】
本発明の化合物は、経口的に、非経腸的に、舌下に、エアロゾル化または吸入スプレーにより、直腸的にまたは局所的に、記載の通りの慣用の非毒性の薬学的に許容される担体、アジュバントおよび媒体を含む、投与量単位製剤として投与してよい。局所投与は、経皮パッチまたはイオン泳動デバイスのような経皮投与デバイスの使用も含み得る。ここで使用する用語“非経腸”は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射または輸液技術を含む。
【0038】
関連分野の当業者は、PTCに対するここに記載の有益な効果を証明するための関連試験モデルを選択することが十分に可能である。かかる化合物の薬理学的活性は、例えば、下記実施例の手段により、インビトロ試験およびインビボ試験または適当な臨床試験により証明し得る。適当な試験は、例えば、PTC患者におけるオープンラベル、非無作為化、用量漸増試験である。処置の効果は、これらの試験において、例えば、プラセボで達成される対照と共に、4週毎の腫瘍サイズの評価により測定される。
【実施例】
【0039】
実施例1 インビトロでのMAPKシグナル伝達に対する効果
インビトロでRaf阻害剤のMAPKシグナル伝達に対する効果を試験した。10種の細胞株を試験した:5種はBRAF、および5種はMAPKホスファターゼの阻害を介した耐性の可能性を試験するため、RET/PTC変異を有した。
1) 成長、細胞周期およびアポトーシスに対する影響。
2) 腫瘍異種移植片:強制喫食により50、30および10mg/kg/日。
3) RAF265のシスプラチンとの組合せの効果の、インビトロ、および異種移植片での探索。
【0040】
実施例2
RAF265の抗増殖性活性を、全てのルシフェラーゼトランスジーンを発現する4種の乳頭様甲状腺癌腫細胞株に対して試験した:BHP5−16、BHP14−9、BHP17−10、およびNPA87。細胞を384ウェルプレートに播種し、RAF265(例えば、0.0002−4μM)を添加した。プレートを、2日間、37℃でインキュベートした。細胞増殖を、Bright-Glo(Promega)で測定する、ルシフェラーゼ発現により測定した。
【0041】
RAF265の抗腫瘍活性を、インビボでBHP17−10異種移植片モデルに対し試験した。BHP17−10細胞を、皮下的に、免疫低下マウスにインプラントし、腫瘍が約70mmの平均体積に到達したら、RAF265での処置を、100、30および10mg/kgでq3dx5で開始した。腫瘍体積を週に2〜3回カリパスを使用して測定した。RAF265の抗腫瘍効果を、媒体処置対照と比較して決定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳頭様甲状腺癌の処置用薬剤の製造のための、Raf阻害剤の使用。
【請求項2】
Raf阻害剤が式(III):
【化1】

〔式中、
各RはC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、(C1−6アルキル)スルファニル、(C1−6アルキル)スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
各Rはヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロ、カルボキシル、(C1−6アルコキシ)カルボニル、アミノカルボニル、カルボニトリル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルキルカルボニル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
ここで、RおよびRは、所望により、ヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択される1個以上の置換基で置換されていてよく;
aは1、2、3、4または5であり;そして
cは1または2である。〕
の化合物、またはその互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物、またはプロドラッグ、または該化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
各Rがヒドロキシ、クロロ、フルオロ、ブロモ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロエトキシ、ピペリジニル、C1−6アルキルピペリジニル、ピペラジニル、C1−6アルキルピペラジニル、テトラヒドロフラニル、ピリジニルおよびピリミジニルからなる群から独立して選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
aが1または2であり、そして少なくとも1個のRがハロ(C1−6アルキル)である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
少なくとも1個のRがトリフルオロメチルである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
aが1である、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
がトリフルオロメチルである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
cが1または2であり、そして少なくとも1個のRがハロ(C1−6アルキル)である、請求項2に記載の化合物。
【請求項9】
少なくとも1個のRがトリフルオロメチルである、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
cが1である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
式(I)の化合物が1−メチル−5−[2−(5−トリフルオロメチル−1H−イミダゾール−2−イル)−ピリジン−4−イルオキシ]−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル}−(4−トリフルオロメチルフェニル)−アミンまたはその薬学的に許容される塩である、請求項2に記載の使用。
【請求項12】
温血動物がヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
乳頭様甲状腺癌の処置方法であって、それを必要とする温血動物に治療的有効量のRaf阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項14】
治療的有効量の式(III):
【化2】

〔式中、
各RはC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、(C1−6アルキル)スルファニル、(C1−6アルキル)スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
各Rはヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロ、カルボキシル、(C1−6アルコキシ)カルボニル、アミノカルボニル、カルボニトリル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルキルカルボニル、フェニルおよびヘテロアリールから独立して選択され;
ここで、RおよびRは、所望により、ヒドロキシ、ハロ、C1−6アルキルおよびC1−6アルコキシから独立して選択される1個以上の置換基で置換されていてよく;
aは1、2、3、4または5であり;そして
cは1または2である。〕
の化合物、またはその互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物、またはプロドラッグ、または該化合物、互変異性体、立体異性体、多形、エステル、代謝物またはプロドラッグの薬学的に許容される塩を投与することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
各Rがヒドロキシ、クロロ、フルオロ、ブロモ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロエトキシ、ピペリジニル、C1−6アルキルピペリジニル、ピペラジニル、C1−6アルキルピペラジニル、テトラヒドロフラニル、ピリジニルおよびピリミジニルからなる群から独立して選択される、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
aが1または2であり、そして少なくとも1個のRがハロ(C1−6アルキル)である、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
少なくとも1個のRがトリフルオロメチルである、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
aが1である、請求項14に記載の化合物。
【請求項19】
がトリフルオロメチルである、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
cが1または2であり、そして少なくとも1個のRがハロ(C1−6アルキル)である、請求項14に記載の化合物。
【請求項21】
少なくとも1個のRがトリフルオロメチルである、請求項14に記載の化合物。
【請求項22】
cが1である、請求項21に記載の化合物。
【請求項23】
Raf阻害剤が1−メチル−5−[2−(5−トリフルオロメチル−1H−イミダゾール−2−イル)−ピリジン−4−イルオキシ]−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル}−(4−トリフルオロメチルフェニル)−アミンまたはその薬学的に許容される塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
温血動物がヒトである、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
乳頭様甲状腺癌の処置方法であって、治療的有効量のRaf阻害剤を、それを必要とする温血動物に、シスプラチンと組み合わせて投与することを含む(ここで、該Raf阻害剤は1−メチル−5−[2−(5−トリフルオロメチル−1H−イミダゾール−2−イル)−ピリジン−4−イルオキシ]−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル}−(4−トリフルオロメチルフェニル)−アミンまたはその薬学的に許容される塩である)、方法。

【公表番号】特表2010−528032(P2010−528032A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509506(P2010−509506)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/064280
【国際公開番号】WO2008/147782
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】