説明

画像処理方法および画像処理プログラム

【課題】観察対象を正確に描画することができる画像処理方法を提供する。
【解決手段】(a)は、残渣の含まれる臓器の描画において、腸等の組織12と、内腔に残っている造影剤による造影部分領域を抽出した抽出領域11を示す。また、(b)は、抽出領域11上の点p3、組織12の内壁面上の点p4、および組織12内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度を示す。本発明では、矢印Aで示す抽出領域11を画一的に描画するのではなく、CT値および不透明度の情報を加味して描画する。なお、矢印Bで示す組織12の領域は通常通り描画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボリュームデータを用いて観察対象を描画する画像処理方法および画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータを用いた画像処理技術の進展に伴い、3次元物体の内部を可視化する技術が注目されている。特に、医療分野では、生体内部を可視化することにより病巣を早期に発見することができるCT(Computed Tomography)装置もしくはMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置による医療診断が広く行われている。
【0003】
また、物体内部の3次元画像を得る方法として、ボリュームレンダリングという方法が知られている。このボリュームレンダリングでは、3次元のボクセル(微小体積要素)空間に対して光(レイ)を照射することにより投影面に画像が投影される。この操作をレイキャスティングと称する。このレイキャスティングでは、レイの経路に沿って一定間隔でサンプリングし、各サンプリング点のボクセルからボクセル値を取得する。
【0004】
ボクセルは、物体の3次元領域の構成単位であり、ボクセル値は、ボクセルの濃度値等の特性を表わす固有のデータである。物体全体はボクセル値の3次元配列であるボリュームデータで表現される。通常、CT装置により得られる2次元の断層画像データを断層面に垂直な方向に沿って積層し、必要な補間を行うことにより3次元配列のボリュームデータが得られる。
【0005】
図12は、ボリュームデータを用いて臓器を描画する状況を示す。残渣(residual)の含まれる臓器の描画において、腸50内の残渣を洗浄及び可視化するのに造影剤を注入し腸50内を洗浄すると、造影剤が腸50内に残り、図12(a)に示すように、造影部分領域56が現れる。そこで、造影部分領域56の領域抽出(segmentation)を行い、抽出された抽出領域を用いて造影部分領域56を除去して、図12(b)に示すように描画したいという要求がある。
【0006】
造影部分領域56を描画対象から除去するには、抽出領域のCT値を描画の対象とならない値に変換するという方法が従来から行われている。図13は、従来の画像処理方法における抽出領域の変換前のCT値と変換後のCT値の対応関係を示すグラフである。同図に示すように、従来は、領域内の空気、組織および造影範囲のCT値を一律に同じ値(空気のCT値)に変換していた。すなわち、領域抽出処理において造影部分領域であると判断された領域は、一律のCT値に変換するというものである。
【0007】
図14は、従来の画像処理方法のフローチャートを示す。従来の画像処理方法では、CT装置から臓器のボリュームデータを取得し(ステップS51)、例えば、腸内に残った造影剤の含まれる残渣の領域(造影部分領域)を領域抽出する(ステップS52)。そして、抽出領域のCT値を空気のCT値と同じになるように変換し(ステップS53)、変換したCT値を用いて臓器を描画していた(ステップS54)。尚、CT値の変換を行わずにマスクを用いて、抽出領域を仮想光線の計算対象から除く方法もある。
【0008】
次に、人体内部の組織の領域に対する用語について図15により説明する。ここでは、大腸のような人体内部およびその周辺の組織51に対して、53の領域を「内腔」、54の壁面を「内壁面」、55の領域を「壁の内部」と呼ぶ。また、内腔53は、空気領域52と、造影部分領域56に分けられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図16は、従来の画像処理方法の問題点を説明するための図である。従来の画像処理方法によって造影部分領域の領域抽出を行い、抽出領域を用いて造影部分領域を除去した領域57を描画しようとすると、矢印Dに示すように、描画時に空気領域52と造影部分領域を除去した領域57との界面の位置で段差が生じてしまい、その部分に存在するポリープ等を明瞭に観察することができなかった。
【0010】
図17は、組織、空気領域及び造影部分領域にかけてのCT値の変化のプロファイルを示す。また、図17(a)は、残渣の含まれる臓器の描画において、腸等の組織51と、内腔の空気領域52と、内腔に残っている造影剤による造影部分領域56を示す。
【0011】
図17(b)は、内腔の空気領域52上の点p0、組織51の内壁面上の点p1、および組織51内の点p2を通るプロファイル線P0−p2上のCT値および不透明度を示す。また、図17(c)は、内腔の造影部分領域56上の点p3、組織51の内壁面上の点p4、および組織51内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度を示す。尚、通常は不透明度はCT値からルックアップテーブル(LUT:Look Up Table)を用いて一意に計算される。
【0012】
点p0から点p2に伸びるプロファイル線p0−p2上のCT値および不透明度は、図17(b)に示すように、空気領域52と組織51間でなめらかに遷移する。一方、点p3から点p5に伸びるプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度は、図17(c)の矢印Eに示すように、組織51に残った造影部分領域56と組織51のCT値が接近している場合には、造影部分領域56と組織51間の識別が難しくなり、また、造影部分領域56内の不透明度の高い箇所によって仮想光線が遮られてしまう。このように、従来の画像処理方法では、造影部分領域56の存在によってボリュームレンダリングの品質が損なわれる。
【0013】
図18は、従来の画像処理方法における問題の原因(1)を説明するための図である。また、図18(a)は、残渣の含まれる臓器の描画において、腸等の組織51と、内腔の空気領域52と、造影部分領域を除去した領域(抽出領域)57を示す。
【0014】
図18(b)は、内腔の空気領域52上の点p0、組織51の内壁面上の点p1、および組織51内の点p2を通るプロファイル線p0−p2上のCT値および不透明度を示す。また、図18(c)は、抽出領域57上の点p3、組織51の内壁面上の点p4、および組織51内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度を示す。
【0015】
点p0から点p2に伸びるプロファイル線p0−p2上のCT値および不透明度は、図18(b)の矢印Fに示すように、空気領域52と組織51の境界部分において解像度の関係でなめらかに遷移する。一方、点p3から点p5に伸びるプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度は、図18(c)の矢印Gに示すように、二値的な抽出に起因し不連続に変化するので段差が生じ、抽出領域57の内部を一律に描画する方法ではなめらかさが失われる。
【0016】
図19は、従来の画像処理方法における問題の原因(2)を説明するための図であり、抽出領域を補正することによって対処する場合を示す。図19(a)は補正前の造影部分領域56を示し、ここには矢印Hで示す病変部(ポリープ)等が存在する。図19(b)は、補正後の領域57を示し、矢印Jで示す病変部等の形状が変形している。このように、領域の補正によって病変部等の形状も変化してしまうので正確な診断が阻害され、正確な変形量の算出が困難になる場合がある。その為に、抽出領域を補正することによって対処することは望ましくない。また、この方法であっても不透明度の二値的な抽出に起因した不連続な変化は完全には除去できないので本質的な解決にはならない。
【0017】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、観察対象の情報を正確に提示することができる画像処理方法および画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の画像処理方法は、ボリュームデータを用いた画像処理方法であって、前記ボリュームデータの所定の領域を抽出するステップと、抽出した前記領域内のボクセル値を少なくとも2以上のボクセル値に変換するステップと、変換したボクセル値を用いて前記領域の情報を提示するステップと、を有する。
【0019】
上記構成によれば、抽出した所定の領域を、変換した2以上のボクセル値を用いて描画することにより、抽出した領域を画一的に描画することに起因する情報の損失の影響をなくし、また、輪郭部分の変形を防止できるため、観察対象の正確な診断に資することができる。
【0020】
また、本発明の画像処理方法は、ボリュームデータを用いた画像処理方法であって、前記ボリュームデータの所定の領域を抽出するステップと、抽出した前記領域内のボクセル値を利用して不透明度を取得するステップと、前記不透明度を、前記ボクセル値を利用して少なくとも2以上の不透明度に変換するステップと、変換した不透明度を用いて前記領域の情報を提示するステップと、を有する。
【0021】
上記構成によれば、抽出した所定の領域を、変換した透明度を用いて描画することにより、抽出した所定の領域を画一的に描画することに起因する情報の損失の影響をなくし、また、輪郭部分の変形を防止できるため、観察対象の正確な診断に資することができる。また、色情報は変えず、不透明度だけを変えることができ、観察対象の臓器に応じて適切な画像診断を行うことができる。また、陰影付け(シェーディング)は変えず、不透明度だけを変えることができ、観察対象の臓器に応じて適切な画像診断を行うことができる。
【0022】
また、本発明の画像処理方法は、抽出した前記領域内のボクセル値の統計情報を用いて変換式を作成するステップを有し、作成した変換式を用いて、前記ボクセル値または前記不透明度を変換するものである。
【0023】
上記構成によれば、変換式を観察対象の特性に合わせて自動的に調整できるため、観察対象を正確にかつ迅速に描画することができる。
【0024】
また、本発明の画像処理方法は、前記領域を2以上抽出するステップを有し、それぞれの前記領域ごとに、前記ボクセル値または前記不透明度を変換するものである。
【0025】
上記構成によれば、観察対象をより正確に描画できる。
【0026】
また、本発明の画像処理方法は、前記情報の提示を描画画像の提示で行うものである。また、本発明の画像処理方法は、前記情報の提示を計測結果の提示で行うものである。また、本発明の画像処理方法は、ネットワーク分散処理を行うものである。また、本発明の画像処理方法は、GPUを使用するものである。また、本発明の画像処理方法は、処理対象が医療画像であるものである。また、本発明の画像処理プログラムは、コンピュータに、本発明の各ステップを実行させるための画像処理プログラムである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、抽出した所定の領域の情報を、変換したボクセル値(または透明度)を用いて提示することにより、抽出した領域を画一的に描画することに起因する情報の損失の影響をなくし、また、輪郭部分の変形を防止できるため、観察対象の正確な診断に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の一実施形態にかかる画像処理方法で使用されるコンピュータ断層撮影(CT)装置を概略的に示す。コンピュータ断層撮影装置は、被検体の組織等を可視化するものである。X線源101からは同図に鎖線で示す縁部ビームを有するピラミッド状のX線ビーム束102が放射される。X線ビーム束102は、例えば患者103である被検体を透過しX線検出器104に照射される。X線源101及びX線検出器104は、本実施形態の場合にはリング状のガントリー105に互いに対向配置されている。リング状のガントリー105は、このガントリーの中心点を通るシステム軸線106に対して、同図に示されていない保持装置に回転可能(矢印a参照)に支持されている。
【0029】
患者103は、本実施形態の場合には、X線が透過するテーブル107上に寝ている。このテーブルは、図示されていない支持装置によりシステム軸線106に沿って移動可能(矢印b参照)に支持されている。
【0030】
従って、X線源101及びX線検出器104は、システム軸線106に対して回転可能でありかつシステム軸線106に沿って患者103に対して相対的に移動可能である測定システムを構成するので、患者103はシステム軸線106に関して種々の投影角及び種々の位置のもとで投射されることができる。その際に発生するX線検出器104の出力信号は、ボリュームデータ生成部111に供給され、ボリュームデータに変換される。
【0031】
シーケンス走査の場合には患者103の層毎の走査が行なわれる。その際に、X線源101及びX線検出器104はシステム軸線106を中心に患者103の周りを回転し、X線源101及びX線検出器104を含む測定システムは患者103の2次元断層を走査するために多数の投影を撮影する。その際に取得された測定値から、走査された断層を表示する断層像が再構成される。相連続する断層の走査の間に、患者103はその都度システム軸線106に沿って移動される。この過程は全ての関心断層が捕捉されるまで繰り返される。
【0032】
一方、スパイラル走査中は、X線源101及びX線検出器104を含む測定システムはシステム軸線106を中心に回転し、テーブル107は連続的に矢印bの方向に移動する。すなわち、X線源101及びX線検出器104を含む測定システムは、患者103に対して相対的に連続的にスパイラル軌道上を、患者103の関心領域が全部捕捉されるまで移動する。本実施形態の場合、同図に示されたコンピュータ断層撮影装置により、患者103の診断範囲における多数の相連続する断層信号がボリュームデータ生成部111に供給される。
【0033】
ボリュームデータ生成部111で生成されたボリュームデータは、画像処理部117内の領域抽出部112に導かれる。領域抽出部112は、ボリュームデータの所定の領域を抽出するものである。LUT生成部114は、LUT(Look Up Table)関数を生成する。
【0034】
ボリュームレンダリング部115は、領域抽出部112で領域抽出された所定の領域内のボリュームデータに対して、LUT生成部114で作成されたLUT関数を用いてボリュームレンダリング画像を作成する。ボリュームレンダリング部115で処理されたボリュームレンダリング画像はディスプレイ116に供給され表示される。また、ディスプレイ116にはボリュームレンダリング画像の他、臓器機能解析結果、複数種の画像の並列表示、複数の画像を順次表示するアニメーション表示、あるいは仮想内視鏡(VE)画像との同時表示などを行う。
【0035】
また、操作部113は、キーボードやマウスなどからの操作信号に応じて、領域抽出の対象となる所定の領域の設定や、ボリュームレンダリング画像の表示角度の設定等を行い、設定値の制御信号を生成し領域抽出部112、LUT関数生成部114、ボリュームレンダリング部115に供給する。これにより、ディスプレイ116に表示された画像を見ながら画像をインタラクティブに変更し、病巣を詳細に観察することができる。
【0036】
図2は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図であり、抽出領域内のCT値を利用して画像を生成する場合を示す。図2(a)は、残渣の含まれる臓器(観察対象)の描画において、腸等の組織12と、内腔に残っている造影剤による造影部分領域を領域抽出した抽出領域11を示す。なお、同図の段差は領域抽出した造影部分領域を表現したものであって、同図は最終的に表示される画像ではない。描画結果はボリュームレンダリング画像である。
【0037】
また、図2(b)は、抽出領域11上の点p3、組織12の内壁面上の点p4、および組織12内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度を示す。本実施形態では、矢印Aで示す抽出領域11のCT値及び不透明度を何らかの値で画一的に変換して描画するのではなく、CT値および不透明度の情報を加味して柔軟に変換して(2以上のCT値及び不透明度に変換して)描画する。なお、矢印Bで示す組織12の領域は通常通り(CT値または不透明度を変換することなく)描画する。
【0038】
本実施形態によれば、抽出領域11を画一的に描画するのではなく、変換前のCT値および不透明度の情報を加味して描画するので、抽出領域11の輪郭部分に含まれるポリープの形状等の重要な情報を保存したまま、臓器を正確に描画することができる。
(第1の実施形態)
【0039】
図3は、本発明の第1の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図である。図3(a)は、残渣の含まれる臓器の描画において、腸等の組織12と、内腔に残っている造影剤による造影部分領域を抽出した抽出領域11を示す。
【0040】
また、図3(b)は、抽出領域11上の点p3、組織12の内壁面上の点p4、および組織12内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値およびCT値から求められる不透明度を示す。本実施形態では、抽出領域11内のCT値を参照して新たなCT値を生成し、図3(c)に示すようなプロファイルを作成する。図3(c)では、CT値とCT値から求められる不透明度が、抽出領域と組織の間でなめらかに遷移しており、臓器を明瞭に描画することができる。
【0041】
このように本実施形態によれば、抽出領域を画一的に描画するのではなく、抽出領域11内のCT値を参照して新たなCT値を生成し、新たなCT値に基づいて抽出領域11を描画するため、造影部分領域の抽出領域11の画一的な描画によって発生する情報の損失の影響をなくして臓器を正確に描画することができる。
【0042】
図4は、本発明の第1の実施形態にかかる画像処理方法のフローチャートを示す。本実施形態では、CT装置からボリュームデータを取得し(ステップS11)、造影剤が残っている造影部分領域を領域抽出する(ステップS12)。
【0043】
次に、ルックアップテーブル(LUT:Look Up Table)を作成し(ステップS13)、抽出領域のCT値を、ルックアップテーブルを用いて変換する(ステップS14)。そして、変換したCT値に基づいて臓器を描画する(ステップS15)。
【0044】
本実施形態によれば、抽出領域を画一的に描画するのではなく、造影部分領域を領域抽出してルックアップテーブルを作成し、そのルックアップテーブルを用いて抽出領域のCT値を変換するので、造影部分領域の抽出領域の画一的な描画によって発生する情報の損失の影響をなくして臓器を正確に描画することができる。
【0045】
図5は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法における変換ルックアップテーブル関数を示す。この変換ルックアップテーブル関数は、空気と組織のCT値範囲では変換を行わず、造影範囲のCT値を、抽出領域内のCT値の統計情報を利用した変換関数に従って変換する。
【0046】
本実施形態によれば、造影部分領域内のルックアップテーブルを抽出領域のCT値の統計情報を利用して決定するため、2値的な領域抽出に起因する段差を生じることなく、抽出領域の輪郭部分に含まれるポリープの形状等の重要な情報を保存したまま、臓器を正確に描画することができる。更に変換式を観察対象の特性に合わせて自動的に調整できるため、観察対象を正確にかつ迅速に描画することができる。
【0047】
図6は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法におけるCT値の変換に抽出領域の統計情報を利用したルックアップテーブルの例(1)を示す。本実施形態では、空気と組織のCT値範囲では変換を行わず、造影範囲のCT値を、点Pを通る折れ線で変換する。点Pのx座標の値は、抽出領域内のボクセルのCT値を統計情報の標本とし、例えば、標本上位10%の値、(標本平均値+分散値の平方根)、(標本平均値+標本最大値)/2とする。y座標の値は、抽出領域内のボクセルのCT値を統計情報の標本とし、例えば、造影範囲の標本下位10%の値、(造影範囲の標本平均値−標本の分散値の平方根)、(標本平均値+標本最小値)/2とする。抽出領域内のボクセルのCT値を統計情報の標本とし、また、x、y座標のそれぞれの値は指定の値であっても良い、例えば、空気と組織の境界とする値やユーザが指定した値でも良い。
【0048】
本実施形態によれば、抽出領域のCT値の統計情報に基づいて点Pのx、y座標を決定することにより、抽出領域の輪郭部分の厚さを設定することができ、抽出領域の輪郭部分に含まれるポリープの形状等の重要な情報を保存したまま、臓器を正確に描画することができる。更に変換式を観察対象の特性に合わせて自動的に調整できるため、観察対象を正確にかつ迅速に描画することができる。
【0049】
図7は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法におけるCT値の変換に抽出領域の統計情報を利用したルックアップテーブルの例(2)を示す。本実施形態では、空気と組織の変換前のCT値を線形に変換し、造影範囲のCT値を、点Pを通る曲線で変換する。
【0050】
本実施形態によれば、抽出領域のCT値の統計情報に基づいて点Pのx、y座標を決定して抽出領域の輪郭部分の厚さを設定するとともに、点Pを通る曲線によりCT値を変換するので、離散的な処理によって発生するアーチファクトを軽減した画像を描画することができ、抽出領域の輪郭部分に含まれるポリープ等を正確に描画することができる。
【0051】
図8は、本発明の実施形態にかかる画像処理方法におけるCT値の変換に抽出領域の統計情報を利用したルックアップテーブルの例(3)を示す。本実施形態では、空気と組織の変換前のCT値を線形に変換し、造影範囲のCT値を曲線により変換するとともに、矢印Cで示すように、変換後のCT値が組織と造影範囲の間で連続的に遷移するようにする。
【0052】
本実施形態によれば、組織と造影範囲の間を連続的に遷移する曲線によりCT値を変換するので、離散的な処理によって発生するアーチファクトを軽減した画像を描画することができ、抽出領域の輪郭部分に含まれるポリープ等を正確に描画することができる。
(第2の実施形態)
【0053】
図9は、本発明の第2の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図である。第1の実施形態では、造影剤が残っている抽出領域のCT値を所定の変換式で変換することにより、造影剤の影響をなくして臓器を描画したが、第2の実施形態では、造影剤が残っている抽出領域の不透明度を所定の変換式で変換することにより、造影剤の影響をなくして臓器を描画する。なお、不透明度は、色情報や陰影付け(シェーディング)情報とともにCT値から導かれるものである。
【0054】
図9(a)は、残渣の含まれる臓器(観察対象)の描画において、腸等の組織12と、内腔に残っている造影剤による造影部分領域を抽出した抽出領域11を示す。また、図9(b)は、抽出領域11上の点p3、組織12の内壁面上の点p4、および組織12内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度を示す。本実施形態では、図9(b)に示すプロファイルの抽出領域内の不透明度を、CT値及び不透明度を利用したルックアップテーブル関数によって変換することによって下げ、図9(c)に示すようなプロファイルを作成する。図9(c)では、抽出領域と組織の不透明度がなめらかに遷移しており、臓器を明瞭に描画することができる。
【0055】
本実施形態によれば、抽出領域内の不透明度を下げることにより、2値的な領域抽出に起因する段差を生じることなく、臓器を正確に描画することができる。また、不透明度を色情報や陰影付け(シェーディング)情報から独立して変換することにより、例えば、抽出領域内の組織を半透明に表示するときにその組織のCT値に応じた色や陰影を与えることによって、対象の状態を正確に利用者に伝達することができる。
【0056】
図10は、本発明の第2の実施形態にかかる画像処理方法のフローチャートを示す。本実施形態では、CT装置からボリュームデータを取得し(ステップS21)、造影部分領域を領域抽出する(ステップS22)。
【0057】
次に、抽出領域のCT値より不透明度を取得し(ステップS23)、ルックアップテーブルを作成する(ステップS24)。そして、抽出領域の不透明度を、ルックアップテーブルを用いて変換し(ステップS25)、変換した不透明度を用いて描画する(ステップS26)。
【0058】
本実施形態によれば、抽出領域のCT値より不透明度を取得してルックアップテーブルを作成し、そのルックアップテーブルを用いて抽出領域の不透明度を変換するので、色情報は同一で不透明度だけを変えることができ、観察対象の臓器に応じて適切な画像診断を行うことができる。
(第3の実施形態)
【0059】
図11は、本発明の第3の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図である。図11(a)は、残渣の含まれる臓器(観察対象)の描画において、腸等の組織12と、内腔に残っている造影剤による造影部分領域を抽出した抽出領域11、および抽出領域11内の辺縁部である遷移部13を示す。
【0060】
また、図11(b)は、抽出領域11上の遷移部ではない点p3、遷移部13の点p4、組織12の内壁面上の点p6、および組織12内の点p5を通るプロファイル線p3−p5上のCT値および不透明度を示す。本実施形態では、抽出領域11の辺縁部は、遷移部13として異なるルックアップテーブルを用いる。このようにすることによって、より自然に不透明度を遷移させることが出来る。また、遷移部13は多段階であってもよい。また、遷移部13は組織内の場所によって異なっても良い。
【0061】
本実施形態によれば、抽出領域を複数の領域に分割し、それぞれの領域ごとに異なるルックアップテーブルを用いて不透明度またはCT値を変換することにより、辺縁部の段差をなくして描画するとともに、例えば、抽出領域の中央部等に誤って泡等が表示されることを防止し、臓器の正確な画像を描画することができる。
【0062】
なお、第1の実施形態では、CT値の統計情報によるルックアップテーブルを用いてCT値を変換する例を示したが、CT値の統計情報によるルックアップテーブルを用いて、不透明度を変換してもよい。色情報は同一で不透明度だけを変えることができ、観察対象の臓器に応じて適切な画像診断を行うことができる。
【0063】
また、画像を生成する計算処理は、GPU(Graphic Processing Unit)により行うことができる。GPUは、汎用のCPUと比較して特に画像処理に特化した設計がなされている演算処理装置で、通常CPUとは別個にコンピュータに搭載される。
【0064】
また、本実施形態の画像処理方法は、ボリュームレンダリングの計算を所定の角度単位、画像の領域、ボリュームの領域等で分割し、後で重ね合わせることができるので、パラレル処理やネットワーク分散処理、専用プロッセッサ、或いはそれらの複合により行うことができる。
【0065】
なお、以上の説明では、造影部分領域のCT値や不透明度を、ルックアップテーブルを用いて変換する例を示したが、ルックアップテーブル以外の区間連続関数を実現する他の手法で変換してもよい。例えば、スプライン曲線や、多項式などを用いることができる。
【0066】
なお、第2の実施形態では、CT値より導かれる不透明度を用いて、出領域内の組織を半透明及び透明に表示したが、多値のマスクを用いても良い。何らかの手段で不透明度を表現できればよいからである。
【0067】
なお、本実施形態の画像処理方法では、CT装置より得られるCT値を用いたが、一般的なボリュームデータのボクセル値に対して用いることができる。例えば、MRI装置によって得られるボリュームデータや、PET装置によって得られるボリュームデータ、前記の組み合わせや計算によって求められるボリュームデータを用いても良い。
【0068】
なお、本実施形態の画像処理方法では、腸での実施例について説明したが、胃を含めた消化器官に対しても用いることができる。すなわち、中空の臓器であれば何でも良い。
【0069】
なお、本実施形態の画像処理方法では、画像の描画を行ったが、描画に限らず、ユーザに情報を提示するのであれば何でも良い。例えば、変換後や変換前後のボクセル値や、不透明度の数値の計測結果を提示しても良い。また、変換前後のボクセル値や、不透明度を利用してポリープなどの病変部位の解析を行い、該当ポリープなどの直径、曲率、大きさなどの計測結果を提示しても良い。このようにすれば本実施形態の画像処理方法の画像表示と一致した計測結果が得られ、より正確な診断が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態にかかる画像処理方法で使用されるコンピュータ断層撮影(CT)装置の概略図
【図2】本発明の実施形態にかかる画像処理方法を説明するために、抽出領域内のCT値を利用して画像を生成する場合を示す図
【図3】本発明の第1の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図
【図4】本発明の第1の実施形態にかかる画像処理方法のフローチャート
【図5】本発明の実施形態にかかる画像処理方法における変換ルックアップテーブル関数を示す図
【図6】本発明の実施形態にかかる画像処理方法における造影部分領域のCT値の統計情報によるルックアップテーブルの例(1)
【図7】本発明の実施形態にかかる画像処理方法における造影部分領域のCT値の統計情報によるルックアップテーブルの例(2)
【図8】本発明の実施形態にかかる画像処理方法における造影部分領域のCT値の統計情報によるルックアップテーブルの例(3)
【図9】本発明の第2の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図
【図10】本発明の第2の実施形態にかかる画像処理方法のフローチャート
【図11】本発明の第3の実施形態にかかる画像処理方法を説明するための図
【図12】ボリュームデータを用いて臓器を描画する状況を示す図
【図13】従来の画像処理方法における変換前のCT値と変換後のCT値の対応関係を示すグラフ
【図14】従来の画像処理方法のフローチャート
【図15】人体内部の組織の領域に対する用語の説明図
【図16】従来の画像処理方法の問題点を説明するための図
【図17】組織のプロファイルを示す図
【図18】従来の画像処理方法における問題の原因(1)を説明するための図
【図19】従来の画像処理方法における問題の原因(2)を説明するための図
【符号の説明】
【0071】
11 抽出領域
12,51 組織
13 遷移部
50 腸
52 空気領域
53 内腔
54 内壁面
55 壁の内部
56 造影部分領域
57 造影部分領域を除去した領域
101 X線源
102 X線ビーム束
103 患者
104 X線検出器
105 ガントリー
106 システム軸線
107 テーブル
111 ボリュームデータ生成部
112 中心パス生成部
113 操作部
114 平面生成部
115 円筒投影部
116 ディスプレイ
117 画像処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボリュームデータを用いた画像処理方法であって、
前記ボリュームデータの所定の領域を抽出するステップと、
抽出した前記領域内のボクセル値を少なくとも2以上のボクセル値に変換するステップと、
変換したボクセル値を用いて前記領域の情報を提示するステップと、
を有する画像処理方法。
【請求項2】
ボリュームデータを用いた画像処理方法であって、
前記ボリュームデータの所定の領域を抽出するステップと、
抽出した前記領域内のボクセル値を利用して不透明度を取得するステップと
前記不透明度を、前記ボクセル値を利用して少なくとも2以上の不透明度に変換するステップと、
変換した不透明度を用いて前記領域の情報を提示するステップと、
を有する画像処理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
抽出した前記領域内のボクセル値の統計情報を用いて変換式を作成するステップを有し、
作成した変換式を用いて、前記ボクセル値または前記不透明度を変換する画像処理方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
前記領域を2以上抽出するステップを有し、
それぞれの前記領域ごとに、前記ボクセル値または前記不透明度を変換する画像処理方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
前記提示は描画画像の提示である画像処理方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
前記提示は計測結果の提示である画像処理方法。
【請求項7】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
ネットワーク分散処理を行う画像処理方法。
【請求項8】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
GPUを使用する画像処理方法。
【請求項9】
請求項1または2記載の画像処理方法であって、
処理対象は医療画像である画像処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、請求項1ないし9のいずれか一項記載の各ステップを実行させるための画像処理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2007−209538(P2007−209538A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32757(P2006−32757)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(500109320)ザイオソフト株式会社 (59)
【Fターム(参考)】