説明

画像処理装置および方法

【課題】所望の視点方向から観察対象物を立体視する。
【解決手段】画像取得部211は、観察対象物を拡大観察する実体顕微鏡の左右眼光路上に配置された撮像素子161L,161Rにより撮影された左右一対の観察画像を取得し、画像生成部212は、画像取得部211により取得された左右一対の観察画像に基づいて、観察対象物の3次元モデルを生成する。そして、画像生成部212は、観察者の入力装置202に対する操作に応じて視点設定部213により設定される複数の視点から、3次元モデルを見たときの左右両眼用の2次元画像である左右両眼用画像を生成し、画像出力部214は、生成された前記左右両眼用画像を、裸眼立体視ディスプレイ装置204に出力して表示させる。本発明は、例えば、実体顕微鏡から取得した観察画像に対して画像処理を行う画像処理装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹凸のある観察対象物の拡大像を、両眼で直接見る場合と同様な立体感で観察するために、実体顕微鏡が用いられている。実体顕微鏡は、例えば、観察対象物とピンセット等の道具との距離を容易に把握することができるため、精密機械工業、生物の解剖、手術等、道具を用いて緻密な作業を行う分野で特に有用である。
【0003】
実体顕微鏡は、左右の眼に写る像に視差を与えるために、左眼に入射する光が通過する光学系と右眼に入射する光が通過する光学系を少なくとも部分的に独立させるとともに、左右の光学系の光軸が観察対象物の表面で交わるように設計される。そして、観察対象物を異なる方向から見た左眼用と右眼用の拡大像を生成し、接眼レンズを介して観察することにより、微小な観察対象物の像を拡大して立体視することができる。
【0004】
また、実体顕微鏡により観察対象物を観察する場合、接眼レンズが設けられた双眼鏡筒を覗き込む姿勢は、観察者にとって自由度が少なく、長時間の観察には疲労を伴う。そこで、従来、左眼用および右眼用の光学系にそれぞれ撮像素子を設け、左眼用の画像と右眼用の画像を撮影し、得られた2つの画像を用いて観察対象物の立体画像を立体視ディスプレイ装置に表示するようにして、観察者の負担を軽減することが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3209543号公報
【特許文献2】特開2005−323876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、観察対象物の立体画像を立体視ディスプレイ装置に表示して観察するに際して、観察対象物における観察箇所を変更するためには、実体顕微鏡側で光学条件を変更したり、光学素子の配置を変更したりする必要があった。このため、そのような実体顕微鏡側の設定変更をすることなく、所望の視点方向から観察対象物を立体視したいという要求があった。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、実体顕微鏡側の設定変更をすることなく、所望の視点方向から観察対象物を立体視することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像処理装置は、観察対象物を拡大観察する実体顕微鏡の左右眼光路上に配置された撮像手段により撮影された左右一対の観察画像を取得する画像取得手段と、取得された前記左右一対の観察画像に基づいて、前記観察対象物に対応する3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段と、生成された前記3次元モデルに対する複数の視点を設定する視点設定手段と、設定された前記複数の視点から前記3次元モデルを見たときの左右両眼用の2次元画像である左右両眼用画像を生成する左右両眼用画像生成手段と、生成された前記左右両眼用画像を、立体視可能な画像を表示する立体視表示装置に出力する画像出力手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の画像処理装置および方法においては、観察対象物を拡大観察する実体顕微鏡の左右眼光路上に配置された撮像手段により撮影された左右一対の観察画像が取得され、取得された左右一対の観察画像に基づいて、観察対象物に対応する3次元モデルが生成され、生成された3次元モデルに対する複数の視点が設定され、設定された複数の視点から3次元モデルを見たときの左右両眼用の2次元画像である左右両眼用画像が生成され、生成された左右両眼用画像が、立体視可能な画像を表示する立体視表示装置に出力される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の視点方向から観察対象物を立体視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した実体顕微鏡の一実施の形態を示す外観図である。
【図2】実体顕微鏡の光学系の構成例を示す図である。
【図3】本発明を適用した画像処理装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】左右両眼用画像の生成処理を説明するフローチャートである。
【図5】観察対象物の奥行き量の求め方を説明する図である。
【図6】左右一対の観察画像、3次元モデル、左右両眼用画像の生成過程を示す概略図である。
【図7】左右両眼画像による視差量の調整方法について説明する図である。
【図8】左右両眼用画像による視点方向の変更方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
2.第2の実施の形態
3.変形例
【0013】
<1.第1の実施の形態>
最初に、図1乃至図7を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0014】
[実体顕微鏡の構成例]
図1は、本発明を適用した実体顕微鏡の一実施の形態の外観図であり、図2は、光学系の構成例を示している。なお、以下に説明する本発明の第1乃至第2の実施の形態において、実体顕微鏡の外観および光学系の構成は共通である。
【0015】
実体顕微鏡101は、単対物双眼構成の平行光学系(ガリレオ式)の実体顕微鏡である。実体顕微鏡101は、ベース部(照明部)111、変倍レンズ鏡筒112、および、焦点合わせ装置113を備えている。焦点合わせ装置113は、ベース部111の上面の後端かつ左右方向の中央に立設され、変倍レンズ鏡筒112は、焦点合わせ装置113の前面の上部に設けられている。
【0016】
ベース部111には、透過照明装置(不図示)が内蔵され、透明部材が埋め込まれた観察対象載置台114が上面に設けられている。観察対象載置台114には、観察する対象となる観察対象物102(図2)が載置される。
【0017】
変倍レンズ鏡筒112の下面には、対物レンズ取付部115が設けられている。対物レンズ取付部115には、例えば、対物レンズを1つだけ取付けることが可能なタイプや、対物レンズを複数取付けて、使用する対物レンズを切替えることが可能なタイプがあり、いずれのタイプを採用してもよい。そして、観察者は、例えば、予め定められた複数の低倍率の対物レンズおよび複数の高倍率の対物レンズの中から、取付け可能な個数以下の対物レンズを選択して、対物レンズ取付部115に取付けて実体顕微鏡101を使用する。
【0018】
変倍レンズ鏡筒112には、左眼用の変倍光学系152L乃至偏向素子153L(図2)、並びに、右眼用の変倍光学系152R乃至偏向素子153R(図2)が内蔵されている。また、変倍レンズ鏡筒112の左側面および右側面には、変倍ノブ116が設けられている。さらに、変倍レンズ鏡筒112には、左眼用の撮影ユニット156L(図2)および右眼用の撮影ユニット156R(図2)を取付けることが可能である。
【0019】
変倍レンズ鏡筒112の上部には、双眼鏡筒117が設けられている。双眼鏡筒117には、左眼用の結像レンズ154L(図2)および接眼レンズ(不図示)、並びに、右眼用の結像レンズ154R(図2)および接眼レンズ(不図示)が内蔵されている。
【0020】
焦点合わせ装置113の左右の側面の上部には、焦点合わせノブ118が設けられている。また、焦点合わせ装置113には、焦点合わせノブ118の回転に伴い、変倍レンズ鏡筒112を光軸に沿って上下動させる機構部(不図示)が設けられている。
【0021】
観察対象物102からの光(以下、観察光という)は、対物レンズ151を透過した後、その光路によって変倍光学系152Lおよび変倍光学系152Rに分かれて入射する。変倍光学系152Lおよび変倍光学系152Rをそれぞれ構成する各変倍レンズ群には、観察倍率を調整するための可動群が含まれている。そして、変倍ノブ116を回転することにより、回転量に応じた距離だけ各可動群が光軸方向に移動し、観察倍率を調整することができる。また、各変倍レンズ群には可変絞り(不図示)が含まれており、変倍レンズ鏡筒112に設けられている調節機構(不図示)により、可変絞りの絞り量を調節することができる。
【0022】
変倍光学系152Lから射出された観察光は、例えば、ビームスプリッタプリズムにより構成される偏向素子153Lに入射し、偏向素子153Lを透過し、結像レンズ154Lに入射する接眼用の光と、偏向素子153Lにより反射され、可変式NDフィルタ155Lに入射する撮影用の光に分割される。可変式NDフィルタ155Lは、例えば、円環状で円周方向に透過率が連続して変化する可変式のNDフィルタにより構成される。可変式NDフィルタ155Lにより減光された観察光は、撮影ユニット156Lに入射する。
【0023】
同様に、変倍光学系152Rから射出された観察光は、偏向素子153Lと同様の構成の偏向素子153Rに入射し、偏向素子153Rを透過し、結像レンズ154Rに入射する接眼用の光と、偏向素子153Rにより反射され、可変式NDフィルタ155Lと同様の構成の可変式NDフィルタ155Rを通過して、撮影ユニット156Rに入射する撮影用の光に分割される。
【0024】
そして、結像レンズ154Lおよび結像レンズ154Rにより、互いに視差が異なる左眼用および右眼用の像(以下、観察像という)が形成される。観察者は、接眼レンズ(不図示)を介して、左眼用および右眼の観察像をそれぞれ左眼および右眼で見ることにより、観察対象物102の像を立体視することができる。
【0025】
また、撮影ユニット156Lの撮像素子161Lは、偏向素子153Lにより反射された観察光による像を撮影し、得られた左眼用の画像(以下、観察画像という)を示す画像信号を画像処理装置201(図3)に供給する。同様に、撮影ユニット156Rの撮像素子161Rは、偏向素子153Rにより反射された観察光による像を撮影し、得られた右眼用の観察画像を示す画像信号を画像処理装置201(図3)に供給する。
【0026】
[画像処理装置の構成例]
図3は、実体顕微鏡101から供給された左右一対の観察画像を示す画像信号から、左右両眼用の2次元画像(以下、左右両眼用画像という)を生成して、裸眼立体視ディスプレイ装置204に出力する画像処理装置201の構成例を示している。画像処理装置201は、例えば、コンピュータ、または、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを含むようにして構成され、所定の制御プログラムを実行することにより、画像取得部211、画像生成部212、視点設定部213、および、画像出力部214を含む機能を実現する。
【0027】
なお、画像取得部211乃至画像出力部214の一連の処理例の詳細については、図4のフローチャートを用いて後述する。
【0028】
入力装置202は、例えばマウスやトラックボールに代表される観察者による指示を受け付けるための機器である。入力装置202は、例えば、画像処理装置201により実行される処理の内容の選択や、画像処理に関するパラメータの調整の指示などの、観察者の操作に応じた操作信号を画像処理装置201に供給する。
【0029】
外部記録装置203は、画像処理装置201により生成された画像のデータや、画像処理で用いられるパラメータなどの各種のデータを記録するための機器である。
【0030】
裸眼立体視ディスプレイ装置204は、例えば、レンチキュラー方式またはパララックスバリア方式の裸眼立体視ディスプレイ装置により構成される。そして、裸眼立体視ディスプレイ装置204は、画像処理装置201から供給される左右両眼用画像のデータに基づく立体画像を表示したときに、左眼用の画素列から発せられた光が観察者205の左眼に入射し、右眼用の画素列から発せられた光が観察者205の右眼に入射するように、各画素からの光の進路を調整する。
【0031】
これにより、観察者205は、専用の3D眼鏡等を用いずに、左眼用画像を左眼で見て、右眼用画像を右眼で見ることができ、観察対象物102の像を立体視することができる。
【0032】
[画像処理装置の処理の詳細]
次に、図4のフローチャートを参照して、図3の画像処理装置201により実行される、左右両眼用画像の生成処理について説明する。
【0033】
ステップS11において、画像取得部211は、実体顕微鏡101の左右眼光路上に配置された撮像素子161L,161Rにより撮影された左右一対の観察画像を取得し、画像生成部212に供給する。
【0034】
ステップS12において、画像生成部212は、画像取得部211により取得された左右一対の観察画像に基づいて、実体顕微鏡101により観察される観察対象物102に対応する3次元モデルを生成する。
【0035】
具体的には、図5に示すように、左右一対の観察画像のうち、左眼光路上の撮像素子161Lにより撮影された観察画像を左観察画像301Lとし、右眼光路上の撮像素子161Rにより撮影された観察画像を右観察画像301Rとした場合、画像生成部212は、この左右一対となる左観察画像301Lと右観察画像301Rについて、観察対象物102(図5の物体A,B)上の同じ領域に対応する要素を対応点として抽出して、各要素の座標を比較する。この対応点は、例えば、左右一対の左観察画像301Lと右観察画像301Rに共通に撮影された物体Aの同一の場所の座標であり、左観察画像301Lでの物体Aの座標をA(x,y)とし、右観察画像301Rでの物体Aの座標をA(x,y)としてXY平面上の座標で表すことにより、それらの観察画像における座標A,Aの座標位置に基づいて、物体A上の各座標における奥行き量(Z軸方向の座標)が求められる。
【0036】
同様に、左観察画像301Lでの物体Bの座標をB(x,y)、右観察画像301Rでの物体Bの座標をB(x,y)とすると、それらの観察画像における座標B,Bの座標位置に基づいて、物体B上の各座標における奥行き量が求められる。
【0037】
この奥行き量の求め方であるが、例えば、画像処理の公開ライブラリ集として知られている、OpenCVに公開されている処理アルゴリズムを利用することができる。このOpenCVの詳細については、OpenCVのホームページ(インターネット<URL:http://opencv.jp/>、[平成22年2月16日検索])に開示されている。
【0038】
なお、奥行き量の算出方法は、既に各種の方法が提案されており、それらの公知の方法を用いることも可能である。
【0039】
また、実体顕微鏡101の撮像素子161L,161Rにより撮影された左観察画像301Lと右観察画像301Rは、図中の左右方向(X軸方向)のみ視差を持つため、原理的にはy座標は一致するはずであるが、製造、組み立て誤差などにより若干のずれを持つ場合がある。その場合は、奥行き量の座標を決定する処理の前段において、y座標の差分がゼロになるように、画像を補正する処理を施した後で、奥行き量の座標を決定するのが望ましい。
【0040】
画像生成部212は、各対応点において決定した奥行き量を、実体顕微鏡101の中心軸に垂直な平面全体にマッピングして、いわゆるデプスマップ(Depth Map)を生成する。そして、画像生成部212は、この奥行き量の情報が表現されたデプスマップに対して、左観察画像301Lと右観察画像301Rから抽出される、物体A,B上の各座標における表面の色情報が表されたテクスチャを貼り付ける(いわゆるテクスチャマッピング処理)ことにより、物体A,Bに対応する3次元モデルを生成する。
【0041】
図6の上側には、物体A,Bを含む左観察画像301Lと右観察画像301Rから、物体A,Bに対応する3次元モデル302が生成される過程が模式的に図示されている。すなわち、先に述べたように、左観察画像301Lと右観察画像301Rから、物体A,B上の各座標における奥行き量が求められ、その奥行き量に基づきデプスマップが生成され、さらに、テクスチャマッピング処理が施されると、図6に示すように、仮想空間内に配置された、円柱形状をなす物体Aと、中空の円柱形状をなす物体Bからなる3次元モデル302が得られることになる。
【0042】
なお、3次元モデル302に対して貼り付けるテクスチャであるが、左観察画像301Lと右観察画像301Rのいずれか一方の画像のみから生成してもよいが、一方の観察画像からの情報では得ることのできないオクルージョンの領域に対する対応のために両方の観察画像から必要な部分を切り出してくるようなアルゴリズムを適応したほうが、より自然で、観察対象物102の表面情報の欠落領域が少ないテクスチャを生成できる。
【0043】
以上のようにして、左観察画像301Lと右観察画像301Rに基づいて、物体A,Bの3次元モデル302が生成される。
【0044】
図4のフローチャートに戻り、ステップS13において、視点設定部213は、画像生成部212により生成された3次元モデルに対する視点を設定し、その視点からカメラ座標を決定する。このカメラ座標は、3次元モデルを任意の視点から見たときの左右両眼用の2次元画像(左右両眼用画像)を生成するために設定される、3次元モデルを含んだ仮想空間上の座標である。従って、ここでは、観察者に対して立体視させるために、左右両眼用に2枚の2次元画像を生成する必要があるため、カメラ座標としては、仮想空間上の2箇所の座標が決定される。
【0045】
なお、設定される視点の初期値としては、例えば、実際に実体顕微鏡101の接眼光学系を使用して観察したときの視差量と同程度となるような視点が予め設定されるが、任意の視点を設定することも可能である。また、観察者に対して立体視をさせるためには、左右両眼用に2枚の2次元画像を用意する必要があるため、最低でも2つの視点を設定して2箇所のカメラ座標を決定することになるが、裸眼立体視ディスプレイ装置204の表示能力に応じて、3次元モデルを2つ以上の複数の視点から見たときの画像を表示できるようにするために、2つ以上の複数の視点を設定することも可能である。
【0046】
ステップS14において、画像生成部14は、視点設定部213により決定されたカメラ座標に基づいて、画像生成部212により生成された3次元モデルに対してレンダリング処理を行い、左右両眼用の2枚の2次元画像である左右両眼用画像を生成する。
【0047】
図6の下側には、物体A,Bに対応する3次元モデル302から、左右両眼用画像としての画像303−1乃至303−4が生成される過程が模式的に図示されている。なお、図6において、画像303−1乃至303−4は、実体顕微鏡101における左眼光学系と右眼光学系の中心軸を結んだ方向をX軸と定義したとき、2箇所のカメラ座標を、そのX軸方向に離散的に移動させながらそれぞれのカメラ座標においてレンダリング処理を行うことで得られる画像である。
【0048】
図6に示すように、3次元モデル302に対するレンダリング処理により得られる複数の左右両眼用画像のうち、画像303−2は、3次元モデル302を生成した元画像のうちの左観察画像301Lに相当するカメラ座標、画像303−3は、3次元モデル302を生成した元画像のうちの右観察画像301Rに相当するカメラ座標でレンダリング処理が行われて得られた画像となる。一方、複数の左右両眼用画像のうち、画像303−1は画像303−2よりも左方向、画像303−4は画像303−3よりも右方向にカメラ座標を移動したときにレンダリング処理が行われて得られる画像となる。
【0049】
すなわち、左眼用に選択された画像をレンダリングするためのカメラ座標と、右眼用に選択された画像をレンダリングするためのカメラ座標との差が、左右両眼用画像間における視差量の大きさに比例することになる。例えば、図6において、画像303−2と画像303−3との組み合わせ(図6ではP1と記述している)の場合、3次元モデル302の元画像である左観察画像301Lおよび右観察画像301Rと同じ画像であるため、左右両眼用画像間の視差量、すなわち、左眼用画像としての画像303−2と、右眼用画像としての画像303−3との視差量は、実際に実体顕微鏡101の接眼光学系を使用して観察した際に、観察者が認知する立体感と同程度となる。
【0050】
一方、左眼用画像としての画像303−1と、右眼用画像としての画像303−4との組み合わせ(図6ではP2と記述している)の場合、上述したP1の組み合わせと比べて、カメラ座標の差が大きい、つまり、視差量が増加しているので、P2の組み合わせのほうが、P1の組み合わせよりも、観察者の認知する立体感は増加することになる。
【0051】
図4のフローチャートに戻り、ステップS15において、画像出力部214は、視点の初期値として、実際に実体顕微鏡101の接眼光学系を使用して観察したときの視差量と同程度となるように設定されているので、左右両眼用画像として、左眼用画像としての画像303−2および右眼用画像としての画像303−3を、裸眼立体視ディスプレイ装置204に出力する。
【0052】
これにより、裸眼立体視ディスプレイ装置204では、左眼用画像としての画像303−2と、右眼用画像としての画像303−3がそれぞれ表示され、左眼用の画像303−2の画素列から発せられた光が観察者205の左眼に入射し、右眼用の画像303−3の画素列から発せられた光が観察者205の右眼に入射することになる。その結果、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示された左右両眼用画像間の視差量により、観察者は、実際に実体顕微鏡101の接眼光学系を使用して観察した際に認知する立体感と同程度の立体感を認知することになる。
【0053】
ステップS16において、視点設定部213は、入力装置202からの操作信号に基づいて、観察者の操作により、3次元モデルに対する視点の変更が指示されたか否かを判定する。ステップS16において、視点の変更が指示されたと判定された場合、処理は、ステップS13に戻り、先に述べたステップS13乃至S15の処理が実行され、変更された視点に対応するカメラ座標が決定され、決定されたカメラ座標に応じた左右両眼用画像が生成され、出力される。
【0054】
すなわち、画像処理装置201において、左右両眼用画像として、画像303−2および画像303−3を裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示させた場合でも、左右の眼に入力される画像における物体形状の違い(両眼視差)により、観察者は、実際に実体顕微鏡101の接眼光学系を使用して観察した際に認知する立体感と同程度の立体感を得ることができる。しかし、左右両眼用画像における視差量により立体感を認知させることができるものの、各観察者が認知する立体感の感受性の個体差により、過剰な立体感を認知する観察者にとっては疲労感を感じさせるものとなる一方、立体感が乏しければ観察者の作業効率が悪化することになる。そこで、3次元モデルに対する視点、つまり、左右両眼用画像における視差量を、観察者が自由に調整できるようにしている。この視差量の調整は、例えば、図7のインジケータ401を操作することで行われる。
【0055】
図7に示すように、インジケータ401は、扁平な三角形の形状からなるインジケータ部411、原点表示部412、および、設定量指示部413から構成される。原点表示部412は、視差量が所定の基準値であることを示しており、例えば設定量指示部413が原点表示部412と重なった状態では、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示される左右両眼用画像間の視差量は、実際に実体顕微鏡101の接眼光学系を使用して観察した際に、観察者が認知する立体感と同程度となる。つまり、視点の初期値はこの状態に設定されており、この場合、図7のP1の組み合わせの画像303−2と画像303−2が裸眼立体視ディスプレイ装置204に出力され、表示される。
【0056】
また、観察者は、設定量指示部413を操作して、原点表示部412よりも図中左方向に移動させることで、例えば図7のP2の組み合わせの画像303−1と画像303−4が裸眼立体視ディスプレイ装置204に出力され、表示される。このとき、左眼用画像としての画像303−1と、右眼用画像としての画像303−4における視差量は、図7のP1の組み合わせによる視差量よりも大きくなっており、観察者が認知する立体感は、P1の組み合わせの場合よりも増加する。
【0057】
一方、図示はしていないが、観察者の操作により、設定量指示部413が原点表示部412よりも図中右方向に移動されると、左眼用画像と右眼用画像の間の視差量を小さくした左右両眼用画像が表示され、観察者が認知する立体感は、P1の組み合わせの場合よりも少なくなる。
【0058】
このように、観察者は、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示される左右両眼用画像を立体視しながら、入力装置202を操作して、その左右両眼用画像間の視差量を、自分の希望するものに調整することができる。そのため、スムーズに立体感を得ることができるようになるとともに、視差量を調整してなるべく作業時に疲労発生の少ない視差量となるようにすることができるので、疲労感の少ない姿勢で立体視を行いながら、実体顕微鏡101を使用した作業を行うことができる。また、観察者は、インジケータ401を操作するだけで、より直感的に、かつ、簡便に、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示される左右両眼用画像間の視差量の調整を行うことができる。
【0059】
図4のフローチャートに戻り、ステップS16において、視点の変更が指示されていないと判定され(ステップS16の「No」)、さらに、処理を終了すると判定された場合(ステップS17の「Yes」)、図4のフローチャートに示す処理は終了する。
【0060】
以上のように、画像処理装置201においては、観察者の操作に応じて設定される視点から決定される座標を、X軸方向に移動させた場合において、その座標の方向から3次元モデルを見たときの左右両眼用画像が生成され、生成された左右両眼用画像が、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示されるので、左右両眼用画像間の視差量を、観察者の希望するものに調整することができる。そして、この視差量の調整に際しては、例えば、対物レンズ151の倍率の変更などの、実体顕微鏡101側の設定変更を行うことなく、3次元モデルに対する視点の変更を行って、所望の視点方向から観察対象物101を立体視させることができる。
【0061】
<2.第2の実施の形態>
次に、図8を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0062】
第1の実施の形態においては、カメラ座標を1軸方向に移動させて、左右両眼用画像を生成する例について説明したが、このカメラ座標は、2軸方向に移動させることも可能である。そこで、次に、第2の実施の形態として、カメラ座標を2軸方向に移動させて、左右両眼用画像を生成する例について説明する。
【0063】
第2の実施の形態において、左右両眼光路上に配置された撮像素子161L、撮像素子161Rにより撮影された左観察画像301L、右観察画像301Rに基づいて、3次元モデルを生成し、その3次元モデルを含んだ仮想空間上で左右両眼用に2箇所のカメラ座標を決定して、左右両眼画像として出力するための画像のレンダリング処理を行うまでは、先に述べた第1の実施の形態と同様である。第2の実施の形態においては、カメラ座標を左右両眼光学系の中心軸を結んだ方向をX軸として定義したときのX軸方向だけでなく、このX軸と実体顕微鏡の中心軸(Z軸)とは垂直となるY軸方向にもカメラ座標を移動させてレンダリング処理を行う。
【0064】
図8には、上述したX軸方向とY軸方向の2軸方向に離散的に移動させながら、それぞれのカメラ座標においてレンダリング処理を行うことで得られる複数の画像の例が模式的に図示されている。
【0065】
図8において、画像303−1乃至画像303−4は、図6の画像303−1乃至画像303−4と同様に、X軸方向に離散的に移動させながらそれぞれのカメラ座標においてレンダリング処理を行うことで得られる画像である。また、図6と同様に、画像303−2は、3次元モデル302を生成した元画像のうちの左観察画像301Lに相当するカメラ座標でレンダリング処理された画像であり、画像303−3は、3次元モデル302を生成した元画像のうちの右観察画像301Rに相当するカメラ座標でレンダリング処理された画像となる。
【0066】
画像303−5と画像303−7は、画像303−2に対してY軸方向にカメラ座標を移動させてレンダリング処理をすることで得られる画像である。また、画像303−6と画像303−8は、画像303−3に対してY軸方向にカメラ座標を移動させてレンダリング処理をすることで得られる画像である。
【0067】
これらの画像303−1乃至303−8から選択される左眼用画像と右眼用画像がそれぞれ、裸眼立体視ディスプレイ装置204に出力され、表示される。例えば、左眼用画像として画像303−1、右眼用画像として画像303−2がそれぞれ選択された場合、観察者は、観察対象物102(物体A,B)に対して視点を左方向に移動させる、あるいは、観察対象物102をY軸周りに回転させたときに得られる立体感を、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示される左眼用画像としての画像303−1と、右眼用画像としての画像303−2から認知できる。
【0068】
また、例えば、左眼用画像として画像303−5、右眼用画像として画像303−6がそれぞれ選択された場合、観察者は、観察対象物102に対して視点をY軸方向に移動させる、あるいは、観察対象物102をX軸周りに回転させたときに得られる立体感を、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示される左眼用画像としての画像303−5と、右眼用画像としての画像303−6から認知できる。
【0069】
このように、カメラ座標をX軸方向に移動させて視差量を調整するのみならず、カメラ座標を、X軸とY軸の一方向またはその両方向に移動させることで、観察対象物102をY軸周りやX軸周りに回転させたときに得られる立体感を認知させることが可能となる。
【0070】
なお、デプスマップに貼り付けるテクスチャの限界もあり、元の座標からの移動量が大きくなると3次元モデルの再現性に問題が生じる場合もあるが、ある程度の移動量であれば実際に観察対象物102を動かすことなく、視点を移動させることができる。また、生成された3次元モデルのデータを数値化して外部記録装置203に記録させておくことで、観察対象物102を実際に使った観察作業が終わったあとでも、その記録しておいた3次元モデルから、実際の観察時には観察することがなかった視点からの画像を観察するといったことも可能となる。
【0071】
以上のように、画像処理装置201においては、観察者の操作に応じて設定される視点から決定される座標を、X軸とY軸の一方向またはその両方向に移動させた場合において、その座標の方向から3次元モデルを見たときの左右両眼用画像が生成され、生成された左右両眼用画像が、裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示されるので、観察対象物102をY軸周りやX軸周りに回転させて、観察対象物102における観察箇所を、観察者の希望の位置に変更することができる。そして、この観察箇所の変更に際しては、実体顕微鏡101側の設定変更を行うことなく、3次元モデルに対する視点の変更を行って、所望の視点方向から観察対象物101を立体視させることができる。
【0072】
また、従来、観察者が観察対象物を現在の実体顕微鏡の中心軸にそった視点方向から変化させた視点からの観察を意図する場合、通常は、観察対象物を手に持って回転させていたが、手に持って回転させると、微小な視点の変化量が欲しい場合や、厳密に元の視点方向に戻すことは不可能であり、そのため、細かい処置が必要となる観察対象物の場合、最適な状態で観察していたとは言い難い。一方、本発明では、観察者は、観察対象物102を実体顕微鏡101の中心軸に対して微小に回転させる事を目的として、例えばマウスやトラックボールなどの入力装置202を操作して、所望の視点方向から見た観察対象物101を裸眼立体視ディスプレイ装置204に表示させることができるため、視点を微小に変化させたり、あるいは、視点方向を元の状態に戻したりして、細かい処置が必要となる観察対象物102を最適な状態で観察することができる。
【0073】
<3.変形例>
以上の説明では、実体顕微鏡101、撮影ユニット156Lおよび撮影ユニット156R、画像処理装置201、裸眼立体視ディスプレイ装置204を別装置として説明したが、画像処理装置201の全部または一部の機能を、実体顕微鏡101や、撮影ユニット156Lおよび撮影ユニット156R、裸眼立体視ディスプレイ装置204に内蔵するようにしてもよい。
【0074】
また、以上の説明では、画像処理装置201は、画像処理を専用に行う装置であると説明したが、画像処理装置201の代わりに、実体顕微鏡101の制御を行う顕微鏡用制御装置やパーソナルコンピュータが、上述した画像処理装置201と同様の処理を実行するようにしてもよい。
【0075】
また、以上の説明では、裸眼立体視ディスプレイ装置204を用いて左右両眼用画像を観察する例を示したが、本発明は、3D眼鏡等を用いて左右両眼用画像を観察する場合にも適用することができる。
【0076】
なお、本明細書において、プログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0077】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
101 実体顕微鏡, 102 観察対象物, 151 対物レンズ, 152L,152R 変倍光学系, 153L,153R 偏向素子, 154L,154R 結像レンズ, 155L,155R 可変式NDフィルタ, 156L,156R 撮影ユニット, 161L,161R 撮像素子, 201 画像処理装置, 202 入力装置, 203 外部記録装置, 204 裸眼立体視ディスプレイ装置, 211 画像取得部, 212 画像生成部, 213 視点設定部, 214 画像出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象物を拡大観察する実体顕微鏡の左右眼光路上に配置された撮像手段により撮影された左右一対の観察画像を取得する画像取得手段と、
取得された前記左右一対の観察画像に基づいて、前記観察対象物に対応する3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段と、
生成された前記3次元モデルに対する複数の視点を設定する視点設定手段と、
設定された前記複数の視点から前記3次元モデルを見たときの左右両眼用の2次元画像である左右両眼用画像を生成する左右両眼用画像生成手段と、
生成された前記左右両眼用画像を、立体視可能な画像を表示する立体視表示装置に出力する画像出力手段と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記複数の視点は、前記実体顕微鏡の左右両眼光学系の中心軸を結んだ方向をX軸と定義したとき、前記3次元モデルを含んだ仮想空間上のX軸上の座標で示され、
前記左右両眼用画像生成手段は、前記複数の視点に対応する座標をX軸方向に移動させた場合において、その座標の方向から前記3次元モデルを見たときの前記左右両眼用画像を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記複数の視点は、前記実体顕微鏡の左右両眼光学系の中心軸を結んだ方向をX軸とし、前記X軸および前記実体顕微鏡の中心軸と垂直の方向をY軸と定義したとき、前記3次元モデルを含んだ仮想空間上のY軸上の座標で示され、
前記左右両眼用画像生成手段は、前記複数の視点に対応する座標をY軸方向に移動させた場合において、その座標の方向から前記3次元モデルを見たときの前記左右両眼用画像を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記複数の視点は、前記実体顕微鏡の左右両眼光学系の中心軸を結んだ方向をX軸とし、前記X軸および前記実体顕微鏡の中心軸と垂直の方向をY軸と定義したとき、前記3次元モデルを含んだ仮想空間上のXY軸上の座標で示され、
前記左右両眼用画像生成手段は、前記複数の視点に対応する座標をX軸またはY軸方向に移動させた場合において、その座標の方向から前記3次元モデルを見たときの前記左右両眼用画像を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
画像処理装置が、
観察対象物を拡大観察する実体顕微鏡の左右眼光路上に配置された撮像手段により撮影された左右一対の観察画像を取得し、
取得された前記左右一対の観察画像に基づいて、前記観察対象物に対応する3次元モデルを生成し、
生成された前記3次元モデルに対する複数の視点を設定し、
設定された前記複数の視点から前記3次元モデルを見たときの左右両眼用の2次元画像である左右両眼用画像を生成し、
生成された前記左右両眼用画像を、立体視可能な画像を表示する立体視表示装置に出力する
ステップを含むことを特徴とする画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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