画像処理装置
【課題】演算数を抑えつつ局所的な異常と大局的な異常を充分な精度で検出できる画像処理装置を提供する。
【解決手段】検査対象品を撮影して多数の画素からなる画像を取得する撮影部20と、撮影部20で取得した画像に基づき検査対象品が良品であるか不良品であるかを判別する判別部21とを備え、記憶部24の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度の積分値との、相関係数行列から算出され、判別部21は、検査対象品の画像について、良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別する。
【解決手段】検査対象品を撮影して多数の画素からなる画像を取得する撮影部20と、撮影部20で取得した画像に基づき検査対象品が良品であるか不良品であるかを判別する判別部21とを備え、記憶部24の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度の積分値との、相関係数行列から算出され、判別部21は、検査対象品の画像について、良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象品の外観画像から良品と不良品を判別する画像処理装置に関し、特に良品画像群と検査対象品の画像との相関関係に基づく評価式により判別を行う画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造した電気部品について検査を行うために、電気部品を撮影して画像を取得し、取得した画像について処理を行うことが知られている。そのための手法としてまず考えられるのは、正常に製造された良品について、例えば配線部分の面積や寸法、角度などを予め規定しておき、検査対象品を撮影して得た画像からこれらを検出して、合致しなければ異常を有するものと判定するものである。この手法では、予めどのような異常が発生するかを定義しておく必要があり、未知の外観異常については検出することができない。また、発生場所が予めある程度特定されている必要もある。さらには、部品毎に特有なソフトウェアが必要であり、設計変更などの度にソフトウェアを変更する必要も生じる。
【0003】
これに対し、良品の画像を予め取得しておき、検査対象品を撮影して得た画像と重ね合わせて、両者の濃度の差分画像を作成し、異常を検出する手法も考えられる。この手法によれば、良品の画像を取得しておけば、部品毎にソフトウェアを変更する必要がなく、またどの場所にどのような異常が発生するかを予め定義しておく必要もないので、様々な異常に対応することができる。
【0004】
しかし、良品の画像と検査対象品を撮影して得た画像とを重ね合わせる場合、画像同士の位置決めが少しでもずれると、差分画像に輪郭線が発生し、良品を不良品と判定しかねない。このため、輪郭部分の一定領域については、検査を行わないことで、この問題を回避することができる。ただし、検査を行わない領域については、異常を検出することができず、また輪郭線の位置、形状は部品毎に異なるので、これを個々に設定する必要も生じる。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、複数の良品画像を取得しておき、これらの画像について画素毎に輝度の平均値と標準偏差を算出し、この予め取得して算出したデータと検査対象品を撮影して取得した画像から得られるデータとを用いて、検査対象品が良品か否かの判別を行うことが知られている。このような手法を用いた画像処理装置としては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−265661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の統計的な手法を用いた画像処理装置においては、予め取得した良品画像群と検査対象品から得られた画像との、画素毎の違いは検出することができる。しかし、この手法においては、異常を検出する精度が必ずしも高いとは言えなかった。特に、取得された画像における輝度が、正常のときと異常のときで差が小さい場合や、パターンの境界部分における異常の検出が充分ではなかった。このため、ごく局所的な異常や、逆に広い範囲に渡って良品と少しずつ異なる大局的な異常などは検出が難しい。
【0008】
異常検出の精度を高くするためには、対象となる画素と画像を構成するそれ以外の全ての画素との差分を、良品画像群について予め算出しておくと共に、検査対象品から得られた画像についても算出し、これらから得られる統計的な距離を用いるとよいことが分かっている。これは、他の画素との差分を取って統計的に処理することで、対象画素とそれ以外の画素との関連性が累積的に考慮されることとなるためである。しかし、この場合には演算数が非常に多くなるため、実際の検査に用いるのは現実的ではない。
【0009】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、演算数を抑えつつ局所的な異常と大局的な異常を充分な精度で検出できる画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る画像処理装置は、検査対象品を撮影して多数の画素からなる画像を取得する撮影部と、該撮影部で取得した画像に基づき前記検査対象品が良品であるか不良品であるかを判別する判別部とを備えた画像処理装置において、
前記判別部は、良品画像群のデータとの統計的距離を算出するための画素毎の算出パラメータを記憶する記憶部を備え、該記憶部の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度または濃度の値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値との、相関係数行列から算出され、
前記判別部は、前記撮影部で取得した検査対象品の画像について、画素毎に輝度または濃度の値と、各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値とを検査データとして検出し、前記記憶部から対応する画素の前記算出パラメータを読み出して、前記検査データと良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別することを特徴として構成されている。
【0011】
また、本発明に係る画像処理装置は、前記判別部で算出する輝度または濃度の積分値は、対象画素が属する所定領域の画素の輝度または濃度を足し合わせて算出されると共に、当該所定領域内の他の画素も同じ値となるように算出されることを特徴として構成されている。
【0012】
さらに、本発明に係る画像処理装置は、前記輝度または濃度は画素毎に3つの値からなり、前記判別部が算出する輝度または濃度の差分値と積分値も、それぞれ3つの値が算出されることを特徴として構成されている。
【0013】
さらにまた、本発明に係る画像処理装置は、前記判別部で算出する統計的距離はマハラノビス距離であることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る画像処理装置によれば、記憶部の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度または濃度の値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値との、相関係数行列から算出され、判別部は、撮影部で取得した検査対象品の画像について、画素毎に輝度または濃度の値と、各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値とを検査データとして検出し、記憶部から対応する画素の算出パラメータを読み出して、検査データと良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別することにより、差分値のデータを統計的に考慮することによる局所的な異常の発見が可能であると共に、積分値のデータを統計的に考慮することによる大局的な異常の発見も可能となり、局所的な異常と大局的な異常を充分な精度で検出することができる。また、差分値や積分値は対象画素の周囲の画素との関係のみ考慮するので、演算数を抑えて実用的な処理とすることができる。
【0015】
また、本発明に係る画像処理装置によれば、判別部で算出する輝度または濃度の積分値は、対象画素が属する所定領域の画素の輝度または濃度を足し合わせて算出されると共に、当該所定領域内の他の画素も同じ値となるように算出されることにより、積分画像を所定領域の大きさを一単位としたモザイク状の画像として、大局的な異常を確実に検出できるようにすることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る画像処理装置によれば、輝度または濃度は画素毎に3つの値からなり、判別部が算出する輝度または濃度の差分値と積分値も、それぞれ3つの値が算出されることにより、カラー画像からなる良品画像及び検査対象の画像に対しても適用することができる。
【0017】
さらにまた、本発明に係る画像処理装置によれば、判別部で算出する統計的距離はマハラノビス距離であることにより、統計的処理による良否判別を容易かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の画像処理装置で検査する電気部品の平面図である。
【図2】画像処理装置の概念的なブロック図である。
【図3】画像の取得及び位置決めのフローチャート及び各ステップにおける画像の状態について表した図である。
【図4】良品画像群の取得のフローチャートである。
【図5】1つの画素に対する輝度データ取得のフローチャートである。
【図6】差分画像作成のフローチャートである。
【図7】画像の一部における生データと差分値データの表である。
【図8】積分画像作成のフローチャートである。
【図9】画像の一部における生データと積分値データの表である。
【図10】実際の検査におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態の画像処理装置で検査する電気部品の平面図を示している。図1(a)は、正常に製造された良品の平面図であり、図1(b)と図1(c)は、製造時に異常があった不良品の平面図である。図1(a)に示すように、検査する電気部品1には、長方形の四隅が切り欠かれた形状を有する基板10上に、複数の配線11aが並列的に配置されてなる配線部11が形成されている。
【0020】
図1(b)に示す不良品の状態の電気部品1は、配線部11を構成する左端の配線11aと隣接する配線11aの間が、1箇所短絡するという局所的な異常部30を有している。また、図1(c)に示す不良品の状態の電気部品1は、配線部11の略中央領域に、薄いシミ状の汚れが付着するという比較的大局的な異常部31を有している。本実施形態の画像処理装置は、これらの不良品を良品と見分けることができるように構成される。
【0021】
図2には、画像処理装置の概念的なブロック図を示している。この図に示すように、画像処理装置は、検査対象の電気部品1を撮影して画像のデータを取得する撮影部20と、撮影部20で取得したデータに基づいて検査対象の電気部品1が良品であるか不良品であるかを判別する判別部21とを有して構成される。
【0022】
撮影部20は、電気部品1を載置して順次移動させる載置部22と、載置部22の電気部品1のうち所定位置の一つについて全体を撮影する撮影カメラ23を有している。撮影カメラ23は、CCD等の撮像素子を備え、多数の画素からなる画像をデータとして得ることができる。撮影カメラ23により撮影された電気部品1の映像は、A/D変換部25でディジタル信号の画像データに変換される。ディジタル信号の画像データは、判別部21に送られる。
【0023】
判別部21は、取得した画像について判別を行うための演算に用いるパラメータを記憶した記憶部24を有している。記憶部24には、予め取得された良品についてのデータに基づいて算出されたパラメータが、画素毎に記憶されており、判別部21は取得した画像について画素毎にパラメータを記憶部24から読み出し、演算を行う。なお、判別部21は中央演算処理装置を備える。
【0024】
画像処理装置における判別の手法は、大まかには以下の通りである。まず、予め記憶部24に記憶させるためのパラメータを算出する。そのために、良品であることが確認されている複数の電気部品1について、それぞれ画像を取得する。本実施形態においては、画像はモノクロであるものとする。このため、得られた画像は画素毎に輝度のデータを1つずつ有している。
【0025】
得られた複数の画像について画素毎に、生データとしての輝度データと、隣接する画素の輝度との差分を取った差分値データと、当該画素の輝度と周囲の所定領域の画素の輝度とを加算して得られる積分値データとを算出し、これらのデータについてそれぞれ画素毎に平均値と標準偏差も算出しておく。これらの値を基に、統計的距離を算出するためのパラメータを求め、これを記憶部24に記憶させる。
【0026】
電気部品1の検査を行う際には、撮影部20で取得した画像について、画素毎に良品画像群から算出されたパラメータを適用して、良品画像群との統計的距離を算出し、これが所定範囲内にあるか否かによって異常の有無を検出する。
【0027】
以下、画像処理装置における判別について、より詳細に説明する。まず、予め取得される良品画像群に関するデータについて説明する。図3には、画像の取得及び位置決めのフローチャート及び各ステップにおける画像の状態について示している。画像の位置決めは、良品画像群を得てパラメータを算出する際と、検査対象の電気部品1の画像を得て判別を行う際の、両方において同様に行われる。
【0028】
まず、撮影カメラ23からの画像データを取り込んで記憶部24に記憶させる(ステップ1−1)。判別部21は、取得した画像データについて、基準位置を検出する(ステップ1−2)。ここでは、右側の図に示すように、電気部品1の左上の角部を基準位置としており、この位置を基準として画像を矩形状の所定の大きさに切り出す(ステップ1−3)。この画像を、改めて記憶部24に記憶させる。本実施形態ではこの段階での画像の画素数はP画素あるものとする。
【0029】
次に、良品画像群の取得について説明する。図4には、良品画像群の取得のフローチャートを示している。ここでは、良品画像をN枚取得するものとする。まず、取得枚数のカウントを1とし(ステップ2−1)、1つめの良品について図3で説明した画像の取得及び位置決めのフローを実行する(ステップ2−2)。1つめの良品について画像を記憶したら、取得枚数が所定のN枚であるか否かを判断する(ステップ2−3)。取得枚数がN枚より小さい場合には、取得枚数のカウントに1を加えて(ステップ2−4)、再度ステップ2−2以降を実行する。取得枚数がN枚であった場合には、そこで画像取得を終了する。
【0030】
続いて、良品画像群から画素毎のデータ算出を行う。まず輝度データについてデータ算出を行う。図5には、1つの画素に対する輝度データ取得のフローチャートを示している。画像全体についてデータ算出を行うには、以下のフローを全ての画素について行うこととなる。まず、画像の枚数のカウントを1とし(ステップ3−1)、1枚目の良品画像を読み出す(ステップ3−2)。読み出した良品画像について、画素毎に輝度データMを記憶する(ステップ3−3)。画素には、それぞれ固有の符号が割り振られており、ここでは、符号が1〜Pまで割り振られているものとし、1枚目の画像における画素nについての輝度の生データを、M11、m枚目の画像における画素nについての輝度のデータをM1mと表記する。以下、画素nについてのデータ算出を説明するが、他の画素についても同様にデータが算出される。
【0031】
読み出した画像の枚数が所定のN枚であるか否かを判断し(ステップ3−4)、枚数がN枚より小さい場合には、画像の枚数のカウントに1を加えて(ステップ3−5)、再度ステップ3−2以降を実行する。画像の枚数がN枚であった場合には、画素毎に輝度の平均値M1aveと、輝度の標準偏差M1stdを算出し、記憶部24に記憶させる(ステップ3−6)。例えば、画素nについての輝度の平均値と標準偏差は、以下の式で表される。
【0032】
【数1】
【0033】
次に、良品画像群について差分画像を作成する。図6には、差分画像作成のフローチャートを示している。まず、画像の枚数のカウントを1とし(ステップ4−1)、1枚目の良品画像を読み出す(ステップ4−2)。読み出した良品画像について、画素毎に輝度の差分値を取って差分画像を生成する(ステップ4−3)。本実施形態では、輝度の差分値は左側に隣接する画素との差分を取ることによって得るものとする。ここでは、m枚目の画像における画素nについての差分値データをM2mと表記する。
【0034】
図7には、画像の一部における生データと差分値データを示している。図7の各マスは画素を表しており、各マス内の数値は、図7(a)においては輝度の生データを、図7(b)においては差分値データを、それぞれ表している。図7(a)に示す輝度の生データに対し、各画素について左側に隣接する画素との差分M2mを算出し、その値を差分画像におけるデータとする。これを、それぞれの画素において行い、差分画像を生成する。なお、この場合には図7(b)の左端1列については、差分を取る対象がないため、差分値の算出はなされない。
【0035】
差分画像を生成したら、読み出した画像の枚数が所定のN枚であるか否かを判断し(ステップ4−4)、枚数がN枚より小さい場合には、画像の枚数のカウントに1を加えて(ステップ4−5)、再度ステップ4−2以降を実行する。画像の枚数がN枚であった場合には、画素毎に差分値の平均値M2aveと、差分値の標準偏差M2stdを算出し、記憶部24に記憶させる(ステップ4−6)。
【0036】
次に、良品画像の積分画像を作成する。図8には、積分画像作成のフローチャートを示している。まず、画像の枚数のカウントを1とし(ステップ5−1)、1枚目の良品画像を読み出す(ステップ5−2)。読み出した良品画像について、画素毎に輝度の積分値を算出して積分画像を生成する(ステップ5−3)。輝度の積分値は、所定領域毎の輝度データを足し合わせたものであり、所定領域内の各画素のデータは、いずれも同じ値とされる。
【0037】
図9には、画像の一部における生データと積分値データを示している。図9の各マスは画素を表しており、各マス内の数値は、図9(a)においては輝度の生データを、図9(b)においては積分値データを、それぞれ表している。本実施形態では、輝度データを足し合わせる所定領域は、縦3つ横3つの9画素分の領域とする。ここでは、m枚目の画像における画素nについての積分値データをM3mと表記する。
【0038】
図9では、太い実線で表された領域毎に輝度データが加算されて積分値M3mが算出される。図9の最も左上の領域は、領域内の輝度データがいずれも5であるため、当該領域内の画素の積分値M3mはいずれも45となる。この領域の右隣の領域は、領域内の輝度データが1つだけ6でありそれ以外は5であるため、当該領域内の画素の積分値M3mはいずれも46となる。同様に他の領域についても順次積分値の算出がなされ、積分画像が生成される。
【0039】
積分画像を生成したら、読み出した画像の枚数が所定のN枚であるか否かを判断し(ステップ5−4)、枚数がN枚より小さい場合には、画像の枚数のカウントに1を加えて(ステップ5−5)、再度ステップ5−2以降を実行する。画像の枚数がN枚であった場合には、画素毎に差分値の平均値M3aveと、差分値の標準偏差M3stdを算出し、記憶部24に記憶させる(ステップ5−6)
【0040】
ここまでで得た良品画像群についての各データは、画素nについては以下の表1に示すとおりである。また他の画素についても同様にデータが得られる。このデータを基に、良品画像群との統計的距離を算出するための算出パラメータを画素毎に求める。
【0041】
【表1】
【0042】
算出パラメータを求める際は、まずこれらのデータから画素毎の相関係数行列を算出する。相関係数行列は以下の式で表される。
【0043】
【数2】
【0044】
rに付された符号は、どのデータ同士の相関係数であるかを表している。符号1は輝度データに、符号2は差分値データに、符号3は積分値データに、それぞれ対応する。例えば、r12は符号1に対応する輝度データと符号2に対応する差分値データの相関係数であって、以下の式で表される。他の相関係数も同様に算出される。
【0045】
【数3】
【0046】
次に、相関係数行列の逆行列Aを作成する。逆行列Aは次式で表される。
【0047】
【数4】
【0048】
次式で定義されるマハラノビス距離MDにより、取得した画像と良品画像群について、統計的にどの程度相違するかを画素毎に評価することができる。
【0049】
【数5】
【0050】
この式において、x1は検査対象画像における画素nの輝度X1を、x2は検査対象画像における画素nの差分X2を、x3は検査対象画像における画素nの積分値X3を、それぞれ良品画像群の平均値及び標準偏差で正規化したものであり、それぞれ次式で表される。
【0051】
【数6】
【0052】
以上のように、良品画像群からのマハラノビス距離を算出するための算出パラメータを求めたら、これを記憶部24に記憶しておくことで、検査の際にこの算出パラメータを読み出して用いることができる。
【0053】
このように準備しておいた上で、実際の検査を行う。図10には、実際の検査におけるフローチャートを示している。実際の検査においても、良品画像の取得と同様に、検査対象の電気部品1を撮影部20で撮影して画像を取得する(ステップ6−1)。その取得フローは図4で説明したものと同様である。続いて、判別部21において、取得した画像の全ての画素につき、輝度データと差分値データ及び積分値データを求める(ステップ6−2)。
【0054】
求めた輝度データと差分値データ及び積分値データにつき、前述の計算式により正規化する(ステップ6−3)。次にマハラノビス距離MDを算出するが、この際には対象とする画素毎に記憶部24から算出パラメータを読み出し、当該算出パラメータを検査対象の電気部品1の画像から得た輝度データと差分値データ及び積分値データが正規化された値に適用する。これにより、画素毎に良品画像群との統計的距離となるマハラノビス距離MDが算出される(ステップ6−4)。
【0055】
ここでは、上述の計算式の通り、MD2が算出されるので、この値が所定値より小さいか否かにより、判別を行う(ステップ6−5)。MD2が所定値よりも小さい場合は、異常なしと判断し(ステップ6−6)、MD2が所定値より大きい場合は、異常ありと判断する(ステップ6−7)。このフローを全ての画素について行い、最終的にはいずれの画素についてもMD2が所定値より小さい場合には、良品と判定し、いずれかの画素についてMD2が所定値より大きい場合には、不良品と判定する。
【0056】
本発明の画像処理装置では、輝度データに加えて差分値データと積分値データについて取得し、これらの相関係数を考慮した統計的距離を算出することで、検査対象の電気部品1について取得された画像の画素毎に異常の有無を判定することとしたので、差分値データを考慮することによる局所的な異常の発見が可能であると共に、積分値データを考慮することによる大局的な異常の発見も可能となる。特に、図1(c)に示すような、良品画像群との輝度差がそれほど大きくないものの、広い範囲に渡って発生した大局的な異常について、精度よく検出することができる。
【0057】
本実施形態では、良品画像群と検査対象画像のいずれもモノクロの画像であり、輝度データは1つの場合について説明したが、カラーの画像に対しても本発明を適用することができる。カラーの画像の場合、赤色(R)と青色(B)及び緑色(G)の各色について、それぞれ輝度データR1、B1、G1を取得することができる。つまり、生データとしての輝度データが1つの画素に対して3つ取得される。また、差分値データR2、B2、G2と積分値データR3、B3、G3も、各色に対応して3つずつが算出される。
【0058】
したがって、良品画像群について算出される相関係数行列は、モノクロ画像の場合は前述のように3×3の行列であるが、カラー画像の場合は9×9の行列となる。また、検査対象の電気部品1から得られるデータも、輝度データと差分値データ及び積分値データがそれぞれ3つずつの合計9つとなる。これらについても、モノクロ画像の場合と同様の手法で統計的距離を算出することができる。
【0059】
また、カラーの画像の場合に、輝度データR1、B1、G1と差分値データR2、B2、G2及び積分値データR3、B3、G3をそれぞれ1つずつのデータとしてもよい。この場合には、各色の輝度データに対し、差分値データ及び積分値データを算出し、それぞれ次式で1つのデータとすることで、カラー画像であっても相関係数行列を3×3の行列とすることができて、演算数を減らすことができる。
【0060】
【数7】
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。例えば、本実施形態では、画像の輝度データを基に判別を行っているが、画像の濃淡を表す濃度データに基づいて判別を行うようにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態において、差分値データは図7に示すように各画素について左側に隣接する画素との差分を取ることとしたが、上下右あるいは斜め方向など他の方向の画素との差分を取ることにしてもよく、また複数の方向の差分を取って平均値を算出し、その値を差分値データとしてもよい。さらには、積分値データを算出する領域は、図9では縦方向に画素3つと横方向に画素3つの領域としたが、領域はさらに小さくてもよく、また大きくてもよい。この領域を大きくすることで、より大局的な異常を検出しやすくなる。
【符号の説明】
【0063】
1 電気部品
10 基板
11 配線部
11a 配線
20 撮影部
21 判別部
22 載置部
23 撮影カメラ
24 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象品の外観画像から良品と不良品を判別する画像処理装置に関し、特に良品画像群と検査対象品の画像との相関関係に基づく評価式により判別を行う画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造した電気部品について検査を行うために、電気部品を撮影して画像を取得し、取得した画像について処理を行うことが知られている。そのための手法としてまず考えられるのは、正常に製造された良品について、例えば配線部分の面積や寸法、角度などを予め規定しておき、検査対象品を撮影して得た画像からこれらを検出して、合致しなければ異常を有するものと判定するものである。この手法では、予めどのような異常が発生するかを定義しておく必要があり、未知の外観異常については検出することができない。また、発生場所が予めある程度特定されている必要もある。さらには、部品毎に特有なソフトウェアが必要であり、設計変更などの度にソフトウェアを変更する必要も生じる。
【0003】
これに対し、良品の画像を予め取得しておき、検査対象品を撮影して得た画像と重ね合わせて、両者の濃度の差分画像を作成し、異常を検出する手法も考えられる。この手法によれば、良品の画像を取得しておけば、部品毎にソフトウェアを変更する必要がなく、またどの場所にどのような異常が発生するかを予め定義しておく必要もないので、様々な異常に対応することができる。
【0004】
しかし、良品の画像と検査対象品を撮影して得た画像とを重ね合わせる場合、画像同士の位置決めが少しでもずれると、差分画像に輪郭線が発生し、良品を不良品と判定しかねない。このため、輪郭部分の一定領域については、検査を行わないことで、この問題を回避することができる。ただし、検査を行わない領域については、異常を検出することができず、また輪郭線の位置、形状は部品毎に異なるので、これを個々に設定する必要も生じる。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、複数の良品画像を取得しておき、これらの画像について画素毎に輝度の平均値と標準偏差を算出し、この予め取得して算出したデータと検査対象品を撮影して取得した画像から得られるデータとを用いて、検査対象品が良品か否かの判別を行うことが知られている。このような手法を用いた画像処理装置としては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−265661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の統計的な手法を用いた画像処理装置においては、予め取得した良品画像群と検査対象品から得られた画像との、画素毎の違いは検出することができる。しかし、この手法においては、異常を検出する精度が必ずしも高いとは言えなかった。特に、取得された画像における輝度が、正常のときと異常のときで差が小さい場合や、パターンの境界部分における異常の検出が充分ではなかった。このため、ごく局所的な異常や、逆に広い範囲に渡って良品と少しずつ異なる大局的な異常などは検出が難しい。
【0008】
異常検出の精度を高くするためには、対象となる画素と画像を構成するそれ以外の全ての画素との差分を、良品画像群について予め算出しておくと共に、検査対象品から得られた画像についても算出し、これらから得られる統計的な距離を用いるとよいことが分かっている。これは、他の画素との差分を取って統計的に処理することで、対象画素とそれ以外の画素との関連性が累積的に考慮されることとなるためである。しかし、この場合には演算数が非常に多くなるため、実際の検査に用いるのは現実的ではない。
【0009】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、演算数を抑えつつ局所的な異常と大局的な異常を充分な精度で検出できる画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る画像処理装置は、検査対象品を撮影して多数の画素からなる画像を取得する撮影部と、該撮影部で取得した画像に基づき前記検査対象品が良品であるか不良品であるかを判別する判別部とを備えた画像処理装置において、
前記判別部は、良品画像群のデータとの統計的距離を算出するための画素毎の算出パラメータを記憶する記憶部を備え、該記憶部の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度または濃度の値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値との、相関係数行列から算出され、
前記判別部は、前記撮影部で取得した検査対象品の画像について、画素毎に輝度または濃度の値と、各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値とを検査データとして検出し、前記記憶部から対応する画素の前記算出パラメータを読み出して、前記検査データと良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別することを特徴として構成されている。
【0011】
また、本発明に係る画像処理装置は、前記判別部で算出する輝度または濃度の積分値は、対象画素が属する所定領域の画素の輝度または濃度を足し合わせて算出されると共に、当該所定領域内の他の画素も同じ値となるように算出されることを特徴として構成されている。
【0012】
さらに、本発明に係る画像処理装置は、前記輝度または濃度は画素毎に3つの値からなり、前記判別部が算出する輝度または濃度の差分値と積分値も、それぞれ3つの値が算出されることを特徴として構成されている。
【0013】
さらにまた、本発明に係る画像処理装置は、前記判別部で算出する統計的距離はマハラノビス距離であることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る画像処理装置によれば、記憶部の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度または濃度の値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値との、相関係数行列から算出され、判別部は、撮影部で取得した検査対象品の画像について、画素毎に輝度または濃度の値と、各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値とを検査データとして検出し、記憶部から対応する画素の算出パラメータを読み出して、検査データと良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別することにより、差分値のデータを統計的に考慮することによる局所的な異常の発見が可能であると共に、積分値のデータを統計的に考慮することによる大局的な異常の発見も可能となり、局所的な異常と大局的な異常を充分な精度で検出することができる。また、差分値や積分値は対象画素の周囲の画素との関係のみ考慮するので、演算数を抑えて実用的な処理とすることができる。
【0015】
また、本発明に係る画像処理装置によれば、判別部で算出する輝度または濃度の積分値は、対象画素が属する所定領域の画素の輝度または濃度を足し合わせて算出されると共に、当該所定領域内の他の画素も同じ値となるように算出されることにより、積分画像を所定領域の大きさを一単位としたモザイク状の画像として、大局的な異常を確実に検出できるようにすることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る画像処理装置によれば、輝度または濃度は画素毎に3つの値からなり、判別部が算出する輝度または濃度の差分値と積分値も、それぞれ3つの値が算出されることにより、カラー画像からなる良品画像及び検査対象の画像に対しても適用することができる。
【0017】
さらにまた、本発明に係る画像処理装置によれば、判別部で算出する統計的距離はマハラノビス距離であることにより、統計的処理による良否判別を容易かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の画像処理装置で検査する電気部品の平面図である。
【図2】画像処理装置の概念的なブロック図である。
【図3】画像の取得及び位置決めのフローチャート及び各ステップにおける画像の状態について表した図である。
【図4】良品画像群の取得のフローチャートである。
【図5】1つの画素に対する輝度データ取得のフローチャートである。
【図6】差分画像作成のフローチャートである。
【図7】画像の一部における生データと差分値データの表である。
【図8】積分画像作成のフローチャートである。
【図9】画像の一部における生データと積分値データの表である。
【図10】実際の検査におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態の画像処理装置で検査する電気部品の平面図を示している。図1(a)は、正常に製造された良品の平面図であり、図1(b)と図1(c)は、製造時に異常があった不良品の平面図である。図1(a)に示すように、検査する電気部品1には、長方形の四隅が切り欠かれた形状を有する基板10上に、複数の配線11aが並列的に配置されてなる配線部11が形成されている。
【0020】
図1(b)に示す不良品の状態の電気部品1は、配線部11を構成する左端の配線11aと隣接する配線11aの間が、1箇所短絡するという局所的な異常部30を有している。また、図1(c)に示す不良品の状態の電気部品1は、配線部11の略中央領域に、薄いシミ状の汚れが付着するという比較的大局的な異常部31を有している。本実施形態の画像処理装置は、これらの不良品を良品と見分けることができるように構成される。
【0021】
図2には、画像処理装置の概念的なブロック図を示している。この図に示すように、画像処理装置は、検査対象の電気部品1を撮影して画像のデータを取得する撮影部20と、撮影部20で取得したデータに基づいて検査対象の電気部品1が良品であるか不良品であるかを判別する判別部21とを有して構成される。
【0022】
撮影部20は、電気部品1を載置して順次移動させる載置部22と、載置部22の電気部品1のうち所定位置の一つについて全体を撮影する撮影カメラ23を有している。撮影カメラ23は、CCD等の撮像素子を備え、多数の画素からなる画像をデータとして得ることができる。撮影カメラ23により撮影された電気部品1の映像は、A/D変換部25でディジタル信号の画像データに変換される。ディジタル信号の画像データは、判別部21に送られる。
【0023】
判別部21は、取得した画像について判別を行うための演算に用いるパラメータを記憶した記憶部24を有している。記憶部24には、予め取得された良品についてのデータに基づいて算出されたパラメータが、画素毎に記憶されており、判別部21は取得した画像について画素毎にパラメータを記憶部24から読み出し、演算を行う。なお、判別部21は中央演算処理装置を備える。
【0024】
画像処理装置における判別の手法は、大まかには以下の通りである。まず、予め記憶部24に記憶させるためのパラメータを算出する。そのために、良品であることが確認されている複数の電気部品1について、それぞれ画像を取得する。本実施形態においては、画像はモノクロであるものとする。このため、得られた画像は画素毎に輝度のデータを1つずつ有している。
【0025】
得られた複数の画像について画素毎に、生データとしての輝度データと、隣接する画素の輝度との差分を取った差分値データと、当該画素の輝度と周囲の所定領域の画素の輝度とを加算して得られる積分値データとを算出し、これらのデータについてそれぞれ画素毎に平均値と標準偏差も算出しておく。これらの値を基に、統計的距離を算出するためのパラメータを求め、これを記憶部24に記憶させる。
【0026】
電気部品1の検査を行う際には、撮影部20で取得した画像について、画素毎に良品画像群から算出されたパラメータを適用して、良品画像群との統計的距離を算出し、これが所定範囲内にあるか否かによって異常の有無を検出する。
【0027】
以下、画像処理装置における判別について、より詳細に説明する。まず、予め取得される良品画像群に関するデータについて説明する。図3には、画像の取得及び位置決めのフローチャート及び各ステップにおける画像の状態について示している。画像の位置決めは、良品画像群を得てパラメータを算出する際と、検査対象の電気部品1の画像を得て判別を行う際の、両方において同様に行われる。
【0028】
まず、撮影カメラ23からの画像データを取り込んで記憶部24に記憶させる(ステップ1−1)。判別部21は、取得した画像データについて、基準位置を検出する(ステップ1−2)。ここでは、右側の図に示すように、電気部品1の左上の角部を基準位置としており、この位置を基準として画像を矩形状の所定の大きさに切り出す(ステップ1−3)。この画像を、改めて記憶部24に記憶させる。本実施形態ではこの段階での画像の画素数はP画素あるものとする。
【0029】
次に、良品画像群の取得について説明する。図4には、良品画像群の取得のフローチャートを示している。ここでは、良品画像をN枚取得するものとする。まず、取得枚数のカウントを1とし(ステップ2−1)、1つめの良品について図3で説明した画像の取得及び位置決めのフローを実行する(ステップ2−2)。1つめの良品について画像を記憶したら、取得枚数が所定のN枚であるか否かを判断する(ステップ2−3)。取得枚数がN枚より小さい場合には、取得枚数のカウントに1を加えて(ステップ2−4)、再度ステップ2−2以降を実行する。取得枚数がN枚であった場合には、そこで画像取得を終了する。
【0030】
続いて、良品画像群から画素毎のデータ算出を行う。まず輝度データについてデータ算出を行う。図5には、1つの画素に対する輝度データ取得のフローチャートを示している。画像全体についてデータ算出を行うには、以下のフローを全ての画素について行うこととなる。まず、画像の枚数のカウントを1とし(ステップ3−1)、1枚目の良品画像を読み出す(ステップ3−2)。読み出した良品画像について、画素毎に輝度データMを記憶する(ステップ3−3)。画素には、それぞれ固有の符号が割り振られており、ここでは、符号が1〜Pまで割り振られているものとし、1枚目の画像における画素nについての輝度の生データを、M11、m枚目の画像における画素nについての輝度のデータをM1mと表記する。以下、画素nについてのデータ算出を説明するが、他の画素についても同様にデータが算出される。
【0031】
読み出した画像の枚数が所定のN枚であるか否かを判断し(ステップ3−4)、枚数がN枚より小さい場合には、画像の枚数のカウントに1を加えて(ステップ3−5)、再度ステップ3−2以降を実行する。画像の枚数がN枚であった場合には、画素毎に輝度の平均値M1aveと、輝度の標準偏差M1stdを算出し、記憶部24に記憶させる(ステップ3−6)。例えば、画素nについての輝度の平均値と標準偏差は、以下の式で表される。
【0032】
【数1】
【0033】
次に、良品画像群について差分画像を作成する。図6には、差分画像作成のフローチャートを示している。まず、画像の枚数のカウントを1とし(ステップ4−1)、1枚目の良品画像を読み出す(ステップ4−2)。読み出した良品画像について、画素毎に輝度の差分値を取って差分画像を生成する(ステップ4−3)。本実施形態では、輝度の差分値は左側に隣接する画素との差分を取ることによって得るものとする。ここでは、m枚目の画像における画素nについての差分値データをM2mと表記する。
【0034】
図7には、画像の一部における生データと差分値データを示している。図7の各マスは画素を表しており、各マス内の数値は、図7(a)においては輝度の生データを、図7(b)においては差分値データを、それぞれ表している。図7(a)に示す輝度の生データに対し、各画素について左側に隣接する画素との差分M2mを算出し、その値を差分画像におけるデータとする。これを、それぞれの画素において行い、差分画像を生成する。なお、この場合には図7(b)の左端1列については、差分を取る対象がないため、差分値の算出はなされない。
【0035】
差分画像を生成したら、読み出した画像の枚数が所定のN枚であるか否かを判断し(ステップ4−4)、枚数がN枚より小さい場合には、画像の枚数のカウントに1を加えて(ステップ4−5)、再度ステップ4−2以降を実行する。画像の枚数がN枚であった場合には、画素毎に差分値の平均値M2aveと、差分値の標準偏差M2stdを算出し、記憶部24に記憶させる(ステップ4−6)。
【0036】
次に、良品画像の積分画像を作成する。図8には、積分画像作成のフローチャートを示している。まず、画像の枚数のカウントを1とし(ステップ5−1)、1枚目の良品画像を読み出す(ステップ5−2)。読み出した良品画像について、画素毎に輝度の積分値を算出して積分画像を生成する(ステップ5−3)。輝度の積分値は、所定領域毎の輝度データを足し合わせたものであり、所定領域内の各画素のデータは、いずれも同じ値とされる。
【0037】
図9には、画像の一部における生データと積分値データを示している。図9の各マスは画素を表しており、各マス内の数値は、図9(a)においては輝度の生データを、図9(b)においては積分値データを、それぞれ表している。本実施形態では、輝度データを足し合わせる所定領域は、縦3つ横3つの9画素分の領域とする。ここでは、m枚目の画像における画素nについての積分値データをM3mと表記する。
【0038】
図9では、太い実線で表された領域毎に輝度データが加算されて積分値M3mが算出される。図9の最も左上の領域は、領域内の輝度データがいずれも5であるため、当該領域内の画素の積分値M3mはいずれも45となる。この領域の右隣の領域は、領域内の輝度データが1つだけ6でありそれ以外は5であるため、当該領域内の画素の積分値M3mはいずれも46となる。同様に他の領域についても順次積分値の算出がなされ、積分画像が生成される。
【0039】
積分画像を生成したら、読み出した画像の枚数が所定のN枚であるか否かを判断し(ステップ5−4)、枚数がN枚より小さい場合には、画像の枚数のカウントに1を加えて(ステップ5−5)、再度ステップ5−2以降を実行する。画像の枚数がN枚であった場合には、画素毎に差分値の平均値M3aveと、差分値の標準偏差M3stdを算出し、記憶部24に記憶させる(ステップ5−6)
【0040】
ここまでで得た良品画像群についての各データは、画素nについては以下の表1に示すとおりである。また他の画素についても同様にデータが得られる。このデータを基に、良品画像群との統計的距離を算出するための算出パラメータを画素毎に求める。
【0041】
【表1】
【0042】
算出パラメータを求める際は、まずこれらのデータから画素毎の相関係数行列を算出する。相関係数行列は以下の式で表される。
【0043】
【数2】
【0044】
rに付された符号は、どのデータ同士の相関係数であるかを表している。符号1は輝度データに、符号2は差分値データに、符号3は積分値データに、それぞれ対応する。例えば、r12は符号1に対応する輝度データと符号2に対応する差分値データの相関係数であって、以下の式で表される。他の相関係数も同様に算出される。
【0045】
【数3】
【0046】
次に、相関係数行列の逆行列Aを作成する。逆行列Aは次式で表される。
【0047】
【数4】
【0048】
次式で定義されるマハラノビス距離MDにより、取得した画像と良品画像群について、統計的にどの程度相違するかを画素毎に評価することができる。
【0049】
【数5】
【0050】
この式において、x1は検査対象画像における画素nの輝度X1を、x2は検査対象画像における画素nの差分X2を、x3は検査対象画像における画素nの積分値X3を、それぞれ良品画像群の平均値及び標準偏差で正規化したものであり、それぞれ次式で表される。
【0051】
【数6】
【0052】
以上のように、良品画像群からのマハラノビス距離を算出するための算出パラメータを求めたら、これを記憶部24に記憶しておくことで、検査の際にこの算出パラメータを読み出して用いることができる。
【0053】
このように準備しておいた上で、実際の検査を行う。図10には、実際の検査におけるフローチャートを示している。実際の検査においても、良品画像の取得と同様に、検査対象の電気部品1を撮影部20で撮影して画像を取得する(ステップ6−1)。その取得フローは図4で説明したものと同様である。続いて、判別部21において、取得した画像の全ての画素につき、輝度データと差分値データ及び積分値データを求める(ステップ6−2)。
【0054】
求めた輝度データと差分値データ及び積分値データにつき、前述の計算式により正規化する(ステップ6−3)。次にマハラノビス距離MDを算出するが、この際には対象とする画素毎に記憶部24から算出パラメータを読み出し、当該算出パラメータを検査対象の電気部品1の画像から得た輝度データと差分値データ及び積分値データが正規化された値に適用する。これにより、画素毎に良品画像群との統計的距離となるマハラノビス距離MDが算出される(ステップ6−4)。
【0055】
ここでは、上述の計算式の通り、MD2が算出されるので、この値が所定値より小さいか否かにより、判別を行う(ステップ6−5)。MD2が所定値よりも小さい場合は、異常なしと判断し(ステップ6−6)、MD2が所定値より大きい場合は、異常ありと判断する(ステップ6−7)。このフローを全ての画素について行い、最終的にはいずれの画素についてもMD2が所定値より小さい場合には、良品と判定し、いずれかの画素についてMD2が所定値より大きい場合には、不良品と判定する。
【0056】
本発明の画像処理装置では、輝度データに加えて差分値データと積分値データについて取得し、これらの相関係数を考慮した統計的距離を算出することで、検査対象の電気部品1について取得された画像の画素毎に異常の有無を判定することとしたので、差分値データを考慮することによる局所的な異常の発見が可能であると共に、積分値データを考慮することによる大局的な異常の発見も可能となる。特に、図1(c)に示すような、良品画像群との輝度差がそれほど大きくないものの、広い範囲に渡って発生した大局的な異常について、精度よく検出することができる。
【0057】
本実施形態では、良品画像群と検査対象画像のいずれもモノクロの画像であり、輝度データは1つの場合について説明したが、カラーの画像に対しても本発明を適用することができる。カラーの画像の場合、赤色(R)と青色(B)及び緑色(G)の各色について、それぞれ輝度データR1、B1、G1を取得することができる。つまり、生データとしての輝度データが1つの画素に対して3つ取得される。また、差分値データR2、B2、G2と積分値データR3、B3、G3も、各色に対応して3つずつが算出される。
【0058】
したがって、良品画像群について算出される相関係数行列は、モノクロ画像の場合は前述のように3×3の行列であるが、カラー画像の場合は9×9の行列となる。また、検査対象の電気部品1から得られるデータも、輝度データと差分値データ及び積分値データがそれぞれ3つずつの合計9つとなる。これらについても、モノクロ画像の場合と同様の手法で統計的距離を算出することができる。
【0059】
また、カラーの画像の場合に、輝度データR1、B1、G1と差分値データR2、B2、G2及び積分値データR3、B3、G3をそれぞれ1つずつのデータとしてもよい。この場合には、各色の輝度データに対し、差分値データ及び積分値データを算出し、それぞれ次式で1つのデータとすることで、カラー画像であっても相関係数行列を3×3の行列とすることができて、演算数を減らすことができる。
【0060】
【数7】
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。例えば、本実施形態では、画像の輝度データを基に判別を行っているが、画像の濃淡を表す濃度データに基づいて判別を行うようにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態において、差分値データは図7に示すように各画素について左側に隣接する画素との差分を取ることとしたが、上下右あるいは斜め方向など他の方向の画素との差分を取ることにしてもよく、また複数の方向の差分を取って平均値を算出し、その値を差分値データとしてもよい。さらには、積分値データを算出する領域は、図9では縦方向に画素3つと横方向に画素3つの領域としたが、領域はさらに小さくてもよく、また大きくてもよい。この領域を大きくすることで、より大局的な異常を検出しやすくなる。
【符号の説明】
【0063】
1 電気部品
10 基板
11 配線部
11a 配線
20 撮影部
21 判別部
22 載置部
23 撮影カメラ
24 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象品を撮影して多数の画素からなる画像を取得する撮影部と、該撮影部で取得した画像に基づき前記検査対象品が良品であるか不良品であるかを判別する判別部とを備えた画像処理装置において、
前記判別部は、良品画像群のデータとの統計的距離を算出するための画素毎の算出パラメータを記憶する記憶部を備え、該記憶部の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度または濃度の値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値との、相関係数行列から算出され、
前記判別部は、前記撮影部で取得した検査対象品の画像について、画素毎に輝度または濃度の値と、各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値とを検査データとして検出し、前記記憶部から対応する画素の前記算出パラメータを読み出して、前記検査データと良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記判別部で算出する輝度または濃度の積分値は、対象画素が属する所定領域の画素の輝度または濃度を足し合わせて算出されると共に、当該所定領域内の他の画素も同じ値となるように算出されることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記輝度または濃度は画素毎に3つの値からなり、前記判別部が算出する輝度または濃度の差分値と積分値も、それぞれ3つの値が算出されることを特徴とする請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記判別部で算出する統計的距離はマハラノビス距離であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像処理装置
【請求項1】
検査対象品を撮影して多数の画素からなる画像を取得する撮影部と、該撮影部で取得した画像に基づき前記検査対象品が良品であるか不良品であるかを判別する判別部とを備えた画像処理装置において、
前記判別部は、良品画像群のデータとの統計的距離を算出するための画素毎の算出パラメータを記憶する記憶部を備え、該記憶部の算出パラメータは、良品画像群を構成する各画像の各画素における輝度または濃度の値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、良品画像群を構成する各画像の各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値との、相関係数行列から算出され、
前記判別部は、前記撮影部で取得した検査対象品の画像について、画素毎に輝度または濃度の値と、各画素における当該画素と隣接する画素との間の輝度または濃度の差分値と、各画素における当該画素及び周囲の画素との輝度または濃度の積分値とを検査データとして検出し、前記記憶部から対応する画素の前記算出パラメータを読み出して、前記検査データと良品画像群のデータとの統計的距離を算出し、該算出された統計的距離が所定範囲にあるか否かを判別することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記判別部で算出する輝度または濃度の積分値は、対象画素が属する所定領域の画素の輝度または濃度を足し合わせて算出されると共に、当該所定領域内の他の画素も同じ値となるように算出されることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記輝度または濃度は画素毎に3つの値からなり、前記判別部が算出する輝度または濃度の差分値と積分値も、それぞれ3つの値が算出されることを特徴とする請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記判別部で算出する統計的距離はマハラノビス距離であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像処理装置
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−276481(P2010−276481A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129545(P2009−129545)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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