説明

画像出力方法および画像出力装置ならびにプログラム

【課題】経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の経時的変化をより高い精度で認識して、その異常陰影候補の視認性を高めた出力を行う。
【解決手段】対応づけ手段21が、異常陰影候補C[1,i]、C[2,i]の位置情報に基づいて各候補の対応づけを行い、変化量算出手段22が、この対応づけ結果と画像P[1]とP[2]の各々から検出された各候補の属性を表す複数の特徴量に基づいて算出された悪性度スコアS[1,i]とS[2,i]を入力として、異常陰影候補C[2,i]の各々の画像P[1]とP[2]の間での悪性度スコアS[2,i]の変化量△S[i]を求め、画像出力手段23が、変化量△S[i]が所定の閾値△SThより大きい場合に、画像P[2]のその異常陰影候補の領域C[2,i]にマーカーを付した画像P[2]′を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像出力方法および装置ならびにプログラムに関し、より詳細には、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の情報に基づいて、これらの画像から検出された異常陰影候補を画像出力する方法および装置、ならびに、コンピュータにこの方法を行わせるプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、医用画像中の異常陰影候補を自動的に検出し、検出された異常陰影候補の視認性を高めた出力を行うコンピュータ支援画像診断システム(CAD: Computer Aided Diagnosis)が知られており、医師等の読影者は、このCADシステムによって検出された異常陰影候補を含む画像を読影し、画像中の異常陰影候補が腫瘤や石灰化等の病変を表す異常陰影であるかどうかを最終的に判断する。
【0003】
ところで、被検体における病変は経時的に変化するものであり、CADシステムにおいても、この変化を容易に観察できるように画像の出力を行うことができれば、診断効率や診断精度の向上に有効である。
【0004】
このような背景において、本出願人は、経時的に撮影された同一被写体の複数の放射線画像の各々から異常陰影候補を検出し、これら複数の画像中の対応する位置に異常陰影候補が存在するか否かを自動認識するとともに、異常陰影候補がこれら複数の画像中の対応する位置に存在する場合には、その異常陰影候補の大きさの変化の有無を自動認識し、これら複数の画像データのいずれかに基づく再生画像と共に、画像中の異常陰影候補の大きさの経時的変化の有無を表す情報を出力する方法を提案している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平4−129538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献記載の方法では、異常陰影候補の大きさの変化のみに着目しているが、病変を表す異常陰影の変化としては、濃度や形状等の変化も同様に重要である。したがって、大きさに変化がなく、濃度や形状が変化している異常陰影候補は、病状が進行している可能性があり、読影者に注意を促すべきであるにもかかわらず、上記文献記載の方法では、このような異常陰影候補に対しては「異常陰影候補に変化なし」という情報を出力することになり、読影者は、従来どおり、自らこのような異常陰影候補に注意を払う必要があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の経時的変化をより高い精度で認識して、その異常陰影候補の視認性を高めた出力を行う方法および装置ならびにプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による画像出力方法は、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の位置情報に基づいて、それら複数の画像間での異常陰影候補の対応づけを行い、対応づけがなされた異常陰影候補の各々に基づいて、悪性度の変化量を求め、求められた異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、その異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明による画像出力装置は、この方法を実現するものである。すなわち、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の位置情報に基づいて、それら複数の画像間での異常陰影候補の対応づけを行う対応づけ手段と、対応づけがなされた異常陰影候補の各々の悪性度に基づいて、悪性度の変化量を求める変化量算出手段と、求められた異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、その異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力する画像出力手段とを設けたことを特徴とするものである。
【0009】
さらに、本発明による画像出力プログラムは、コンピュータに上記の方法を行わせる(上記の各手段として機能させる)ものである。すなわち、コンピュータを、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の位置情報に基づいて、それら複数の画像間での異常陰影候補の対応づけを行う対応づけ手段と、対応づけがなされた異常陰影候補の各々の悪性度に基づいて、悪性度の変化量を求める変化量算出手段と、求められた異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、その異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力させる出力制御手段として機能させることを特徴とするものである。
【0010】
ここで、「複数の画像間での異常陰影候補の対応づけ」とは、複数の画像中でほぼ同じ位置にある異常陰影候補は、同じ陰影が経時的に変化したものと判断することを意味する。その際には、異常陰影候補の位置が複数の画像間で厳密に一致していなくても、ある程度の許容範囲内に収まっていれば対応づけを行うようにすることが好ましい。これは、被検体の姿勢等が複数の画像の撮影時において完全に同じであるとは限らないため、異常陰影候補の位置も画像間でずれてしまう可能性が高いからである。
【0011】
「異常陰影候補の複数の属性」の具体例としては、異常陰影候補の大きさ、濃度(輝度)、形状等が考えられるが、「異常陰影候補の属性を表す複数の特徴量」は、これらのうちの少なくとも2つを表すものであることが好ましい。
【0012】
「悪性度」とは、異常陰影候補の属性を表す複数の特徴量に基づいて得られた異常陰影候補の悪性の度合を意味する。すなわち、その異常陰影候補の様々な属性を表す複数の特徴量を総合的に評価することによって得られる、その異常陰影候補の悪性の度合を示す2次的特徴量である。ここで、「総合的に評価する」方法の具体例としては、複数の特徴量を入力とする評価関数に基づいて悪性度を示すスコアを求めることが考えられる。さらに、臨床データ等に基づいてその異常陰影候補の様々な属性を表す複数の特徴量の重みづけを行ったうえで、重みづけられた複数の特徴量を評価関数に入力して、悪性度を示すスコアを求めるようにすることも考えられる。
【0013】
なお、病変が新たに生じた場合や、治癒により病変が消滅した場合、複数の画像の一方には、対応する異常陰影候補が存在しないことになるが、異常陰影候補が存在しない方の画像中のその異常陰影候補の領域に対応する領域については、悪性度が0と考えて、悪性度の変化量を求めればよい。
【0014】
「異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力する」ための条件は、「異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい」ことだけでなく、さらに、その異常陰影候補の悪性度が高くなる方向に経時的に変化していることや、対応づけがなされた異常陰影候補のうち、経時的に後に撮影された画像中の異常陰影候補の悪性度が所定の閾値よりも高いことも条件としてよい。
【0015】
また、「異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力する」際には、複数の画像のうちの読影対象の画像や、複数の画像に対して経時サブトラクション処理(特開2001-157675号公報等参照)を行うことによって得られる複数の画像間の差分を表す画像(経時サブトラクション画像)とともに出力してもよい。出力の具体例としては、読影対象の画像や経時サブトラクション画像中にその異常陰影候補の領域を指示する矢印等のマーカーを付して出力することや、これらの画像中のその異常陰影候補の領域の色を変えて出力することが考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の画像出力方法および装置ならびにプログラムによれば、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像間での異常陰影候補の対応づけを行い、対応づけがなされた異常陰影候補の各々の間での悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、その異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力する。ここで、悪性度は、異常陰影候補の属性を表す複数の特徴量に基づいて得られたものであるから、異常陰影候補の大きさの変化だけでなく、様々な属性を表す複数の特徴量を総合的に評価することによって得られる2次的特徴量としての悪性度の顕著な変化があった異常陰影候補について、その異常陰影候補の視認性を高めた出力を行うことができる。したがって、異常陰影候補の経時的変化をより高い精度で認識して、その異常陰影候補の適切な出力を行うことが可能になり、診断効率や診断精度の向上に資する。
【0017】
また、異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力するための条件に、その異常陰影候補の悪性度が高くなる方向に経時的に変化していることという条件を追加した場合には、悪性度が顕著に変化している異常陰影候補であっても、悪性度が低くなっている、すなわち治癒に向かっているものが識別可能な態様で出力されなくなる。また、対応づけがなされた異常陰影候補のうち、経時的に後に撮影された画像中の異常陰影候補の悪性度が所定の閾値よりも高いことという条件を追加した場合には、それほど深刻な状態になっていない異常陰影候補については、識別可能な態様で出力されなくなる。したがって、読影者は、より危険度の高い異常陰影候補の観察に注意を向けることが可能になり、より重大な見落としの防止に資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態となる胸部画像診断支援システムの論理的な構成とデータの流れを示したブロック図である。図に示すように、この胸部画像診断支援システムは、経時的に撮影された同一被検者の胸部X線画像P[1]、P[2]の画像データを入力として、画像P[1]中の異常陰影候補の領域C[1,1]からC[1,I1]を検出し、各候補の悪性度スコアS[1,1]からS[1,I1]を算出するとともに、画像P2中の異常陰影候補領域C[2,1]からC[2,I2]を検出し、各候補の悪性度スコアS[2,1]からS[2,I2]を算出する異常陰影候補検出部1と、検出された異常陰影候補C[1,1]からC[1,I1]とC[2,1]からC[2,I2]の悪性度スコアS[1,1]からS[1,I1]とS[2,1]からS[2,I2]に基づいて、画像P[2]の中で、画像P[1]とP[2]の間で悪性度が顕著に変化している異常陰影候補の領域にマーカーを付した画像P[2]′を出力する画像出力部2とから構成される。ここで、[n]は、画像を識別する番号であり、値が小さいほど過去に撮影されたものとする。また、[n,i]は、画像P[n]のi番目の異常陰影候補を表す。I1は画像P[1]から検出された異常陰影候補の数、I2は画像P[2]から検出された異常陰影候補の数を表す。なお、以下では、画像とその画像を表す画像データとを同じ符号で表す。
【0020】
この胸部画像診断支援システムは、診断用ワークステーション(コンピュータ)に実装されており、異常陰影候補検出部1と画像出力部2の各機能は、CD−ROM等の記憶媒体からこのワークステーションにインストールされたプログラムが実行されることによって、このワークステーションのCPU、主記憶装置、外部記憶装置、入出力インターフェース、オペレーティングシステム等と連携して実現される。
【0021】
図2は異常陰影候補検出部1の概略構成を示す図である。図に示すように、異常陰影候補検出部1は、胸部X線画像データP[n](n=1,2)に基づいて胸部X線画像P[n]中の異常陰影(腫瘤影)の候補領域C[n,i]を抽出する候補抽出手段11と、画像データP[n]に基づいて各候補領域C[n,1],C[n,2],・・・毎の属性を表す複数の特徴量Aj[n,i](jは特徴量の項目を識別する番号)を算出する特徴量算出手段12と、画像データP[n]に基づいて、胸部X線画像P[n]における胸部の解剖学的情報AI[n]を取得して、当該胸部の解剖学的構造を求める解剖学的情報取得手段13と、胸部X線画像P[n]中の異常陰影候補を検出すべき領域である肺野内の各位置に対応する位置に、前記各位置の解剖学的構造との相対的位置関係に応じた、上記特徴量Aj[n,i]を重み付けするための重み付け係数αk[n,x,y](kは特徴量のグループまたは項目を識別する番号、x、yは画像中の座標)を配置してなる重み付け係数マップMk[n]を作成する重み付け係数マップ作成手段14と、候補領域C[n,i]に対応する重み付け係数マップMk[n]上の位置における重み付け係数αk[n,x,y]を用いて、各候補領域C[n,i]毎の複数の特徴量Aj[n,i]を重み付けする重み付け演算手段15と、重み付けされた特徴量Aj′[n,i]に基づいて候補領域C[n,i]の悪性度スコアS[n,i]を算出する悪性度算出手段16とを備えている。
【0022】
図3は、画像出力部2の概略構成を示す図である。図に示すように、異常陰影候補検出部1において検出された異常陰影候補領域C[1,i]、C[2,i]の位置情報に基づき、画像P[1]とP[2]の間での異常陰影候補の対応づけを行う対応づけ手段21と、対応づけがなされた異常陰影候補C[1,i]とC[2,i]の各々の悪性度スコアS[1,i]とS[2,i]に基づいて、画像P[1]とP[2]の間での異常陰影候補の悪性度スコアS[2,i]の変化量△S[i]を求める変化量算出手段22と、算出された各異常陰影候補の悪性度の変化量△S[i]が所定の閾値より大きい場合に、その異常陰影候補の領域C[2,i]にマーカーを付した画像P[2]′を出力する画像出力手段23とを備えている。
【0023】
次に、上記のように構成された胸部画像診断支援システムで行われる処理の流れについて説明する。
【0024】
図4は異常陰影候補検出部1における処理フローを示した図である。
【0025】
まず、異常陰影候補検出部1に、図5に示すような、肺野部Lを含む胸部X線画像P[1]を表す画像データP[1]が入力され、この画像データP[1]は、候補抽出手段11と解剖学的情報取得手段13とに入力される(ステップ#1)。ここで画像データP[1]は、CR(Computed Radiography)システム等によって取得された画像データである。
【0026】
候補抽出手段11は、入力された画像データP[1]に基づいて、胸部X線画像P[1]中の腫瘤影の候補領域C[1,i]を、アイリスフィルタ処理等を用いた手法により抽出する(ステップ#2)。アイリスフィルタ処理を用いた手法は、特開2002−109510号公報に開示されている、画像中の濃度勾配(または輝度勾配)を濃度勾配ベクトルとして表し、この濃度勾配ベクトルの集中度の高い画像中の領域を異常陰影候補として抽出する手法である。
【0027】
特徴量算出手段12は、画像データP[1]のうち、抽出された候補C[1,i]の領域やその近傍領域に対応した画像、いわゆるROI画像を表す画像データに基づいて、候補領域C[1,i]における複数の特徴量Aj[1,i]を算出する(ステップ#3)。各特徴量としては、「特徴量選択による乳房X線像上の悪性腫瘤影判別能力の改善と選択基準の評価」(電子情報通信学会論文誌D−IIVol86−DIINo5,pp587−597)に記載されているような、各候補の、輝度、面積、エッジ、形状(円形度等)等に関するものを用い、より具体的には、輝度に関するものとしては、QL値(画素信号値)の平均、分散、二次モーメント、面積に関するものとしては、候補に対して動的輪郭モデル等の領域分割処理で囲まれた面積、エッジに関するものとしては、領域分割処理によって得られる点に対して同時生起行列から算出される特徴量、形状に関するものとしては、領域分割処理によって囲まれた図形のSpreadnessや扇平度等を採用する。
【0028】
一方、解剖学的情報取得手段13は、入力された画像データP[1]に基づいて、胸部X線画像P[1]上の肺野部Lを抽出し、胸部X線画像P[1]のプロファイルの形状(例えば肺野部Lの輪郭形状や縦隔等)から、肺野部L内を、さらに肺野辺縁上部La、肺野辺縁下部Lb、肺門部Lc、肺尖部Ld、肺野中央部Leに区分して抽出し、肺野部Lと肺野部L内の各部の位置情報を解剖学的情報AI[1]として取得する(ステップ#4)。肺野部Lを抽出する手法としては、例えば、特許3433928号(デジタル胸部画像のリブケイジ境界検出方法及びデジタル胸部画像診断装置に関する)公報に記載されている、デジタル胸部画像からランドマーカー情報を検出し、当該ランドマーカー情報からリブケイジ境界を検出する手法を用いることができ、また、肺野部L内を各部に区分して抽出する手法としては、例えば、米国特許第6549646号明細書に記載されている、縦隔付近等についてはニューラルネットを用い、その他の部分については例えばerosion処理等を用いて領域を分割する等の手法を用いることができる。図6は、このようにして抽出された肺野辺縁上部La、肺野辺縁下部Lb、肺門部Lc、肺尖部Ld、肺野中央部Leを表した図である。
【0029】
解剖学的情報AI[1]が取得されると、重み付け係数マップ作成手段14は、胸部X腺画像P[1]における肺野部L内の各位置に対応する位置に、当該各位置の解剖学的構造との相対的位置関係、すなわち、解剖学的情報AI[n]によって特定される肺野部L内の各構造物を表す各部との相対的位置に応じて、その位置における解剖学的特徴に起因した各特徴量の信頼度が反映されるように、特徴量の種類(グループ)別もしくは項目別に、重み付け係数αk[1,x,y]を設定・配置してなる重み付け係数マップMk[1]を作成する(ステップ#5)。ここで、kは特徴量のグループもしくは項目を識別する番号であり、1つの特徴量のグループに複数の特徴量の項目を定義することができる。この場合、特定のkの値に対して複数のjの値が対応する。なお、特徴量の項目のグループ化を行わなければkの値とjの値は一致する。また、重み付け係数の設定方法については種々考えられるが、骨の形状や心臓といった解剖学的構造により存在する、解剖学的位置毎に異なる画像上の性質、すなわち、辺縁部や肺尖部に多く存在する骨の重なりや、心臓付近の肺門部に多く存在する画像上小さな円形を呈した血管等の存在を考慮し、それらと腫瘤とを判別するために各部位毎に有用な特徴量を考慮して、例えば、表1に示すように、肺野L内の各部の領域毎に、また、特徴量の種類に応じて、重み付け係数の値を設定することができる。
【表1】

【0030】
表1に示した重み付け係数の各値の幅(範囲)は、肺野部L内の各部における、重み付け係数の変化幅を意味し、例えば、肺野の辺縁上部Laでは、輝度に関する特徴量の重みを肺野の中心(脊椎側)から外側(体側側)に向かってなだらかに下げてゆく、すなわち、肺野の中央付近で1.0、外側に離れるにしたがって0.8に近い値をとるように設定する。
【0031】
図7は、このようにして作成された、輝度(ここではk=k1とする)に関する特徴量に対する重み付け係数マップMk1[1]をイメージした概念図であり、重み付け係数マップMk1[1]上に記された各値は、その値が記された位置における重み付け係数αk1[1,x,y]の値を表し、重み付け係数の値が大きいほど画像の濃度が高く(黒く)なるように表現したものである。
【0032】
特徴量算出手段12により各候補C[1,i]における複数の特徴量Aj[1,i]が算出され、重み付け係数マップ作成手段14により重み付け係数マップMk[1]が作成されると、重み付け演算手段15が、重み付け係数マップMk[1]に基づいて、各候補C[1,i]に対応する重み付け係数αk[1,x,y]を取得し、取得した重み付け係数αk[1,x,y]を用いて特徴量Aj[1,i]を重み付けする(ステップ#6)。候補C[1,i]に対応する重み付け係数αk[1,x,y]の取得方法としては、例えば、候補C[1,i]の中心位置を示す座標(xi,yi)に対応する重み付け係数αk[1,xi,yi]を、各重み付け係数マップMk[1]から読み出して取得する方法や、候補C[1,i]が占める領域内の各位置を示す座標にそれぞれ対応する重み付け係数αk[1,x,y]を、各重み付け係数マップMkから読み出し、特徴量の項目毎に平均をとって、それら平均を候補C[1,i]に対応する重み付け係数αk[1,x,y]として取得する方法等が考えられる。また、重み付けの方法としては、例えば、最も単純な方法として、特徴量Aj[1,i]に係数αk[1,x,y]を掛け合わせた、αk[1,x,y]・Aj[1,i]を重み付けされた特徴量Aj′[1,i]とすることができる。
【0033】
重み付け演算手段15により重み付けされた特徴量Aj′[1,i]が得られると、悪性度算出手段16は、この重み付けされた特徴量Aj′[1,i]に基づいて、候補C[1,i]毎の悪性度スコアS[1,i]を算出する(ステップ#7)。具体的には、悪性度スコア(指標値)S[1,i]を、重み付けされた特徴量Aj′[1,i]を用いた次式(1)にしたがって算出する。
S[1,i]=f(Aj′[1,i]) ・・・(1)
以上の異常陰影候補検出部1の処理の結果、画像P[1]を入力として異常陰影候補領域C[1,i]と候補毎の悪性度スコアS[1,i]が出力される(i=1,2,・・・,I1)。また、画像P[2]についても同様の処理を行い、異常陰影候補領域C[2,i]と各候補毎の悪性度スコアS[2,i]を得る(i=1,2,・・・,I2)。
【0034】
次に、画像出力部2における処理について説明する。
【0035】
まず、対応付け手段21は、異常陰影候補検出部1において検出された異常陰影候補領域C[1,i]、C[2,i]の位置情報に基づき、画像P[1]とP[2]の間での異常陰影候補の対応づけを行う。具体的には、例えば、画像P[1]中の候補領域C[1,i1]の中心画素を(x1,y1)、画像P[2]中の候補領域C[2,i2]の中心画素を(x2,y2)としたときに、次式(2)(3)を満たす場合に、候補領域C[1,i1]とC[2,i2]を同じ異常陰影候補が経時的に変化したものとして対応づける。
|x2−x1|<△Thx ・・・(2)
|y2−y1|<△Thy ・・・(3)
なお、陰影が何らかの理由で消滅してしまった場合には、画像P[1]中にしか存在しない候補領域となる。また、画像P[1]の撮影後に新たに生じた陰影は、画像P[2]中にしか存在しない候補領域となる。
【0036】
次に、変化量算出手段22は、異常陰影候補C[2,i]の画像P[1]とP[2]の間での異常陰影候補の悪性度スコアS[2,i]の変化量△S[i]を求める。具体的には、候補領域C[1,i1]とC[2,i2]が対応づけられているとすると、次式(4)により求める。
△S[i2]=S[2,i2]−S[1,i1] ・・・(4)
ここで、画像P[2]において新たに生じた陰影(C[2,inew]とする)の取扱いが問題となるが、この場合には、画像P[1]の撮影時点では悪性度が0であったことになるから、△S[inew]=S[2,inew]−0として悪性度スコアを算出する。
【0037】
そして、画像出力手段23は、異常陰影候補の悪性度スコアS[2,i]の変化量△S[i]が所定の閾値△SThより大きい場合に、画像P[2]のその異常陰影候補の領域C[2,i]にマーカーを付した画像P[2]′を出力する。図8(c)は、診断用ワークステーションのディスプレイに表示される画像P[2]′の一例である。
【0038】
以上のように、本発明の実施形態となる胸部画像診断支援システムでは、診断用ワークステーションにおいて、異常陰影候補検出部1が、経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像P[1]、P[2]から異常陰影候補C[1,i]、C[2,i]を検出するとともに、各候補の複数の属性を表す複数の特徴量Aj′[1,i]、Aj′[2,i]に基づいて、各候補の悪性度スコアS[1,i]、S[2,i]を算出し、画像出力部2では、対応づけ手段21が、異常陰影候補C[1,i]、C[2,i]の位置情報に基づいて各候補の対応づけを行い、変化量算出手段22が、異常陰影候補C[2,i]の悪性度スコアS[2,i]の画像P[1]とP[2]の間での変化量△S[i]を求め、画像出力手段23が、変化量△S[i]が所定の閾値△SThより大きい場合に、画像P[2]のその変化量△S[i]を有する異常陰影候補の領域C[2,i]にマーカーを付した画像P[2]′を出力する。したがって、異常陰影候補の経時的変化を、悪性度というより精度の高い指標に基づいて、より高い精度で認識して、その異常陰影候補の適切な出力を行うことが可能になり、診断効率や診断精度の向上に資する。
【0039】
なお、画像出力手段23は、変化量△S[i]が所定の閾値△SThより大きいという条件に、悪性度スコアS[2,i]が所定の閾値SThより大きいという条件を加えて処理を行ってもよい。例えば、対応づけがなされた3つの異常陰影候補の画像P[2]、P[1]の時点における悪性度スコアS[n,i]が下の表2に示すようになった場合、閾値△STh=0.2、閾値STh=0.4とすると、上記の2条件の判定結果は、下の表3のようになり、最終的に、候補1と3のみマーカーが出力され、候補2はマーカーが出力されなくなる。このことを模式的に表したのが図8であり、図8(a)は画像P[1]、図8(b)は画像P[2]から各々異常陰影候補を検出した結果を表しており、図8(c)は診断用ワークステーションに実際に表示される画像P[2]′を表している。このように、異常陰影候補に対するマーカーの出力条件を、より危険度の高い異常陰影候補に対してのみマーキングが行われるように変更することにより、読影者は、危険度の低い異常陰影候補に対する注意を向けにくくなり、より重大な診断上の見落としの軽減に資する。また、画像中のノイズは悪性度スコアが低くなるように定義しておけば、画像P[2]中に生じたノイズを異常陰影候補の経時的変化と誤認して、誤ってマーキングされてしまうことも防止できる。
【表2】

【表3】

【0040】
逆に、マーカーの出力条件を変化量△S[i]の絶対値が所定の閾値△SThより大きいという条件に変更してもよい。このようにすることにより、病状の悪化、回復にかかわらず、経時的変化が顕著な異常陰影候補に対してマーキングが行われるようになり、読影者は、より広い範囲での診断が可能になる。
【0041】
また、上記の実施形態では、マーカーの出力条件に応じて、マーカーの出力の有無を制御していたが、マーカーの出力の仕方を制御するようにしてもよい。例えば、表3の場合、変化量△S[i]が所定の閾値△STh(=0.2)より大きいという条件のみを満たす場合には黄色のマーキング、この条件と悪性度スコアS[2,i]が所定の閾値STh(=0.4)より大きいという条件の両方を満たす場合には赤色のマーキングというように制御することができる。このようにすることにより、読影者に対して、異常陰影候補の経時的変化に関する情報をより詳細なレベルで視覚化することが可能になり、さらなる診断効率の向上に資する。
【0042】
なお、上記の実施形態では、本発明を診断用ワークステーションに実装しているが、画像処理サーバと画像ビューワがネットワークによって接続されている分散システム環境に実装することも可能であり、例えば、異常陰影候補検出部1を画像処理サーバに実装し、画像出力部2を画像ビューワに実装することや、異常陰影候補検出部1と、画像出力部2の画像出力手段23がマーカーを付した画像P′[2]を生成するところまでを画像処理サーバに実装し、画像ビューワは生成された画像P′[2]を出力するだけの処理を行うようにすることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態となる画像診断支援システムの論理的構成とデータの流れを示すブロック図
【図2】異常陰影候補検出部の概略構成図
【図3】画像出力部の概略構成図
【図4】異常陰影候補検出部における処理フローを示す図
【図5】胸部X線画像を示す図
【図6】胸部X線画像において認識された肺野部内の各部を示す図
【図7】重み付け係数マップの一例を示す図
【図8】(a)画像P[1]から異常陰影候補を検出した結果を表す模式図、(b)画像P[2]から各々異常陰影候補を検出した結果を表す模式図、(c)診断用ワークステーションに実際に表示される画像P[2]′を表す模式図
【符号の説明】
【0044】
1 異常陰影候補検出部
2 画像出力部
11 候補抽出手段
12 特徴量算出手段
13 解剖学的情報取得手段
14 重み付け係数マップ作成手段
15 重み付け演算手段
16 悪性度算出手段
21 対応づけ手段
22 変化量算出手段
23 画像出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の位置情報に基づいて、該複数の画像間での前記異常陰影候補の対応づけを行い、
該対応づけがなされた異常陰影候補の各々の、該異常陰影候補の属性を表す複数の特徴量に基づいて得られた該異常陰影候補の悪性度に基づいて、該悪性度の変化量を求め、
該異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力することを特徴とする画像出力方法。
【請求項2】
前記異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きく、かつ、該悪性度が高くなる方向に経時的に変化している場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力することを特徴とする請求項1記載の画像出力方法。
【請求項3】
前記異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きく、かつ、前記対応づけがなされた異常陰影候補のうち、経時的に後に撮影された画像中の異常陰影候補の悪性度が所定の閾値よりも高い場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力することを特徴とする請求項1または2記載の画像出力方法。
【請求項4】
前記複数の特徴量が、異常陰影候補の大きさ、濃度、形状のうちの少なくとも2つを表すものであることを特徴とする第1項から第3項のいずれか1項に記載の画像出力方法。
【請求項5】
経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の位置情報に基づいて、該複数の画像間での前記異常陰影候補の対応づけを行う対応づけ手段と、
該対応づけがなされた異常陰影候補の各々の、該異常陰影候補の属性を表す複数の特徴量に基づいて得られた該異常陰影候補の悪性度に基づいて、該悪性度の変化量を求める変化量算出手段と、
該異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力する画像出力手段とを備えたことを特徴とする画像出力装置。
【請求項6】
前記画像出力手段が、前記異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きく、かつ、該悪性度が高くなる方向に経時的に変化している場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力することを特徴とする請求項5記載の画像出力装置。
【請求項7】
前記画像出力手段が、前記異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きく、かつ、前記対応づけがなされた異常陰影候補のうち、経時的に後に撮影された画像中の異常陰影候補の悪性度が所定の閾値よりも高い場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力するものであることを特徴とする請求項5または6記載の画像出力装置。
【請求項8】
前記複数の特徴量が、異常陰影候補の大きさ、濃度、形状のうちの少なくとも2つを表すものであることを特徴とする第5項から第7項のいずれか1項に記載の画像出力装置。
【請求項9】
コンピュータを、
経時的に撮影された同一被検体を表す複数の画像の各々から検出された異常陰影候補の位置情報に基づいて、該複数の画像間での前記異常陰影候補の対応づけを行う対応づけ手段と、
該対応づけがなされた異常陰影候補の各々の、該異常陰影候補の属性を表す複数の特徴量に基づいて得られた該異常陰影候補の悪性度に基づいて、該悪性度の変化量を求める変化量算出手段と、
該異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きい場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力させる出力制御手段として機能させることを特徴とする画像出力プログラム。
【請求項10】
前記コンピュータを、
前記出力制御手段が、前記異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きく、かつ、該悪性度が高くなる方向に経時的に変化している場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力させるように機能させることを特徴とする請求項9記載の画像出力プログラム。
【請求項11】
前記コンピュータを、
前記出力制御手段が、前記異常陰影候補の悪性度の変化量が所定の閾値より大きく、かつ、前記対応づけがなされた異常陰影候補のうち、経時的に後に撮影された画像中の異常陰影候補の悪性度が所定の閾値よりも高い場合に、該異常陰影候補の領域を他の領域と識別可能な態様で出力させるように機能させることを特徴とする請求項9または10記載の画像出力プログラム。
【請求項12】
前記複数の特徴量が、異常陰影候補の大きさ、濃度、形状のうちの少なくとも2つを表すものであることを特徴とする第9項から第11項のいずれか1項に記載の画像出力プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−255065(P2006−255065A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74655(P2005−74655)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【復代理人】
【識別番号】100124213
【弁理士】
【氏名又は名称】尾原 和貴
【Fターム(参考)】