説明

画像形成装置用ブラシ

【課題】クリーナレスシステムに用いられ、高いトナー画像撹乱性および高いトナー通過性という相反する2つの要求を満たす画像形成装置用ブラシを提供する。
【解決手段】ブラシ毛の体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmを満たし、ブラシ毛14の径D(m)が、D≦11×10−6を満たし、ブラシ毛14の占有率P[但し、P=(πD/4)・nで表され、nはブラシ毛の密度(Mf/m)を表す]がP≦0.15を満たし、ブラシ毛14の長手方向における単位長さ当たりの表面積L(m/m)[但し、L=πD・nで表される]がL≧5000を満たすブラシは、トナー画像撹乱性およびトナー通過性の両方に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置において、転写されずに像担持体に残った残トナーの画像メモリを除去し、トナーの帯電極性を統一化するとともに、現像装置に回収させるという機能を有するブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
転写後に像担持体に残った残トナーを回収、再利用するクリーナレスシステムは、廃トナーが出ないため、エコロジーという側面において優れると共に、画像形成装置を小型化することができる。
【0003】
クリーナレスシステムを採用した画像形成装置について、図8を参照して説明する。図8は、画像形成装置の画像形成部の要部構成を示す正面図である。
【0004】
図8に示すように、画像形成部は、矢印方向に回転する感光体ドラム40を備えている。さらに、画像形成部においては、感光体ドラム40を一様に負極性に帯電させる帯電装置41、外部機器やスキャナから入力したデータに基づいて、帯電した感光体ドラム40に光像を走査することで静電潜像を形成する露光装置42、静電潜像を負極性に帯電したトナーによって顕像化する、つまりトナー画像を形成する現像装置43、用紙47を感光体ドラム40に運ぶ転写ベルト46、正極性のバイアス電圧によってトナー画像を用紙47に転写する転写装置44、および画像撹乱装置45が、感光体ドラム40の回転方向に沿って順に設置されている。
【0005】
クリーナレスシステムは、画像撹乱装置45および現像装置43によって構成される。
【0006】
クリーナレスシステムを採用した画像形成装置では、画像撹乱装置45は、用紙47に転写されずに感光体ドラム40上に残存した画像メモリを除去する。そして、現像装置43は、単に静電潜像を顕像化するだけでなく、感光体ドラム40上の残トナーを回収し、回収した残トナーを再利用するようになっている。
【0007】
図8に示すように、帯電装置41は、残トナーの上から感光体40を帯電させ、さらに露光装置42が静電潜像を形成する。そのため、画像撹乱装置45に用いられるブラシは、不必要な画像が残存しないように、トナーとよく接触し、トナー画像を機械的に充分に撹乱することが求められる。また、残トナーは、転写装置44からの電圧の印加によって、帯電極性がばらついている。それゆえ、そのままでは、残トナーが帯電装置41に付着したり、現像装置43によって回収されなかったりすることにより、不良画像が形成されてしまう。そこで、画像撹乱装置45のブラシとしては、残トナーに電圧を印加して、その帯電極性を均一化するという役割を担うものもある。
【0008】
このように、画像撹乱装置としては、感光体ドラムに摺接するブラシ毛によって、残トナーによって形成された画像メモリを機械的および電気的に撹乱するブラシ状の装置が提案されている。
【0009】
従来のクリーナレスシステムとして、特許文献1には、2つのトナー帯電量制御手段(画像撹乱装置に相当)によって、残トナーを一旦正極性に帯電させ、次いで一様に負極性に帯電させることにより、トナーを均一に帯電する技術が記載されている。特許文献2では、さらに、帯電装置に振動電圧を印加することが記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、基布に繊維を織り込んだパイルを基盤上に接着したファーブラシ(画像撹乱装置に相当)を、ファーブラシの固定位置点と感光体ドラム上の最短距離点とを結ぶ直線に対して、繊維が感光体ドラムの回転方向下流側に設置角度θ角傾斜するように配置することが記載されている。こうすることで、残トナーとファーブラシの接触性を高めることができる。
【特許文献1】特許第3280953号公報(2002年 2月22日登録)
【特許文献2】特開2002−99176号公報(2002年 4月 5日公開)
【特許文献3】特開平11−95549(1999年 4月 9日公開)
【特許文献4】特開2001−215799(2001年 8月10日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、画像の高解像化に伴い、画像撹乱装置には、画像メモリを除去するために機械的な作用および電気的な作用(画像撹乱性)をより強くすることが求められている。それに対して、上記従来の技術は充分に応えているとは言えず、さらなる改良が求められている。
【0012】
画像撹乱性を高めるためには、単純にはブラシ毛の表面積を増大させればよい。しかし、単に表面積を増大させようとするとトナーがブラシ毛間をすり抜けにくくなり、ブラシ毛間にトナーが堆積してしまうという問題が起こることを、本発明者らは見出した。つまり、トナー画像の撹乱性を高めることと、トナーの通過性を高めることとは、相反する要求であり、この2つの要求を満たすことは非常に難しいことが分かった。
【0013】
また、ブラシ毛の表面積を増大させる代わりに、感光体ドラムの長手方向にトナー帯電量制御手段を往復運動させることで撹乱作用を強化する技術も提案されている(特許文献4)。しかし、この技術では、往復運動をさせるための装置を別途設ける必要があるので、部材数が増加する。それゆえ、画像形成装置の小型化が困難であると共に、製造コストが増加してしまうという問題があることが記載されている。
【0014】
また、画像撹乱装置のコストにおいてブラシの材料費の占める割合は大きい。そのため、クリーナレスシステムを備える画像形成装置において、ブラシのコストダウンが強く求められている。
【0015】
さらに、画像撹乱装置のブラシは残トナーの画像メモリを除去しトナーに電荷注入をしなくてはならないので、像担持体に常に接触している。消耗品の長寿命化が要求されると、このブラシによる像担持体の磨耗を無視することができなくなってきた。
【0016】
上記従来の技術の問題点に鑑み、本発明は、像担持体の磨耗を増大させることなく、コストも少なく済むと共に、トナー通過性、トナー撹乱性の相反する機能を満足するブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のブラシは、像担持体に付着したトナー像をブラシ毛によって撹乱する画像形成装置用のブラシであって、ブラシ毛の体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmを満たし、ブラシ毛の径D(m)が、D≦11×10−6を満たし、ブラシ毛の占有率P[但し、P=(πD/4)・nで表され、nはブラシ毛の密度(Mf/m)を表す]がP≦0.15を満たし、ブラシ毛の長手方向における単位長さ当たりの表面積L(m/m)[但し、L=πD・nで表される]がL≧5000を満たすことを特徴とする。
【0018】
上記構成によると、体積抵抗率を上記範囲とすることによって、本発明のブラシは、トナーに効率よく電圧を印加することができ、その結果トナーを一様に帯電することができる。
【0019】
また、ブラシ毛の占有率Pおよび表面積Lを上記範囲とすることによって、トナーをブラシ毛間に堆積させることなく、トナーとの接触面積を十分に大きくすることができる。つまり、本発明によると、トナー画像の撹乱性およびトナーの通過性という、両立し難い2つの性能を同時に備えるブラシを提供することができる。
【0020】
さらに、本発明は、ブラシ以外の部材を設けることなしに、つまり、部材を増加させることなしに、良好なトナー画像の撹乱性を実現することができる。また、上記構成によると、例えば不必要にブラシ毛を多く形成することを避けられる。そのため、ブラシに要する材料費も、必要最低限に抑えることもできる。
【0021】
本発明のブラシにおいて、さらに、占有率PをP≦0.1とすることもできる。こうすることで、トナー通過性により優れるブラシを実現することができる。
【0022】
また、本発明のブラシにおいて、ブラシ毛は割繊によって形成されてなるものであってもよく、化学割繊によって形成されてなるものであってもよい。こうすることで、ブラシ毛の径および断面形状をより制御しやすくなると共に、帯電性に優れたブラシを提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の画像形成装置用のブラシは、ブラシ毛の体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmを満たし、ブラシ毛の径D(m)が、D≦11×10−6を満たし、ブラシ毛の占有率P[但し、P=(πD/4)・nで表され、nはブラシ毛の密度(Mf/m)を表す]がP≦0.15を満たし、ブラシ毛の長手方向における単位長さ当たりの表面積L(m/m)[但し、L=πD・nで表される]がL≧5000を満たす。
【0024】
上記構成によると、トナー画像の撹乱性を高めること、およびトナーの通過性を高めることという相反する2つの要求を満たすことができるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のブラシは、像担持体に付着したトナー像をブラシ毛によって撹乱する画像形成装置用のブラシであって、ブラシ毛の体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmを満たし、ブラシ毛の径D(m)が、D≦11×10−6を満たし、ブラシ毛の占有率P[但し、P=(πD/4)・nで表され、nはブラシ毛の密度(Mf/m)を表す]がP≦0.15を満たし、ブラシ毛の長手方向における単位長さ当たりの表面積L(m/m)[但し、L=πD・nで表される]がL≧5000を満たせばよい。
【0026】
すなわち、これ以外の構成は、特に限定されるものではなく、従来のクリーナレスシステムにおいて、画像撹乱装置に利用されてきた技術を、適宜利用することができる。
【0027】
ブラシ毛は、一本のブラシ毛中において、部位によってその横断面積が異なっていてもよい。すなわち、ブラシ毛は、例えば割繊によって枝分かれした結果、先端が根元よりも細くなっていてもよい。このような場合、「ブラシ毛の径D」とは、特にブラシ毛の先端の径を指す。なお、ブラシ毛は完全な円形とは限らない。そのため、径Dとは、ブラシ毛の断面積と同一の面積を有する円の径を意味する。
【0028】
また、ブラシ毛の密度nは、ブラシ毛の先端部分における本数と、ブラシ毛の根元における密度(基部の表面の単位面積当たりに設けられたブラシ毛の本数)とに依存する。すなわち、例えば各々がブラシ毛となるn本の繊維を一束として、基部の表面の単位面積当たりにこの束をn束備えるブラシの場合、密度nは式n=n・nで表される。そして、さらにこの繊維1本が割繊によってn本の細繊維に分割されている場合は、密度Nはn=n・n・nで表される。なお、この繊維は全体が割繊によって細繊維に分割されていてもよいし、先端のみが枝分かれするように細繊維に分割されていてもよい。
【0029】
以下に、図面を参照して、本発明のブラシについてより具体的に説明する。なお、以下の実施の形態では、ブラシ毛は、ブラシの支持台(シャフトまたは平板)上に、パイル織物に織り込まれた状態で設けられているものとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、ブラシ毛を設ける方法としては、静電植毛等、種々の技術を用いることができる。
【0030】
〔ロール型ブラシ〕
本発明の実施の一形態であるブラシは、図2に示すようにロール型のブラシとなっている。図2は、本実施の形態のロール型ブラシの要部構成を示す平面図である。
【0031】
図2に示すように、本実施の形態のロール型ブラシ21は、基部である円柱状のシャフト20と、シャフト20に接着等によって固定されたパイル織物10とを備える。なお、パイル織物10は、長尺状に切断された後、ブラシ毛14側を外側に向けてシャフト20にらせん状に巻きつけられている。ロール型ブラシ21は、パイル織物10に織り込まれたブラシ毛14によって、後述するように像担持体上のトナー像を撹乱する。
【0032】
シャフト20は、その径および材料等、特に限定されるものではなく、画像形成装置のブラシに従来用いられてきた技術を、好適に利用することができる。ただし、小型化するために、シャフト20の径は2mm〜6mm程度とすればよい。
【0033】
図1に、図2のロール型ブラシのパイル織物10を拡大した断面図を示す。パイル織物10は、横糸および縦糸(図示せず)からなる基布11に、パイル糸15がパイル織りによってW字型に織り込まれたものである。パイル糸15は基布11の単位面積当たりn本織り込まれており、1本のパイル糸15はn本の繊維が一束となったものである。
【0034】
パイル糸15が基布11上で解れることによってブラシ毛14を形成する場合、すなわち上記繊維が各々1本のブラシ毛14となる場合は、上述したように密度nはn=n・nで表される。一方、1本の上記繊維の先端が割繊によってn本の細繊維に分割され、この細繊維が各々1本のブラシ毛14となる場合は、密度nはn=n・n・nとなる。
【0035】
また、ブラシ毛14の長さhは、図1に示すように、基布11の裏面(支持台の表面)からブラシ毛14の先端までの距離であり、径Dはブラシ毛14の先端の径である。
【0036】
〔平板型ブラシ〕
本実施の形態のブラシは、上記構成の一例として、平板型のブラシとなっている。図3は、本実施の形態の平板型ブラシの平面図である。
【0037】
図3に示すように、平板型ブラシ25は、基部である平板24および上記平板24に固定されたパイル織物10を備えている。なお、平板型ブラシ25は、基部としてシャフト20の代わりに平板24を用いている以外、ロール型ブラシ21と同一の構成である。よって、図1・2を参照して既に説明した部材と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
〔ブラシの利用〕
本発明のブラシは、画像形成装置内に設けられ、画像撹乱装置として利用される。
【0039】
画像形成装置は、スキャナにて読み込まれた画像や、画像形成装置に外部から接続された機器(例えばパーソナルコンピュータなどの画像処理装置)からのデータを画像として記録出力するものである。画像形成装置としては、具体的に、プリンタ、複写機、ファクシミリ機等が挙げられる。
【0040】
本発明のブラシを利用するにあたっては、画像撹乱装置、およびその他の画像形成装置の構成は、特に限定されるものではなく、従来のクリーナレスシステムにおける技術を好適に利用することができる。
【0041】
以下、本発明のブラシの利用方法を、図8を参照してより詳細に説明する。なお、本実施の形態では、像担持体として感光体ドラムを例に挙げて本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明において像担持体とは、カラープリンタにおける中間転写ベルト等、感光体以外の像を担持する中間転写体も含まれる。また、本実施の形態では、ロール型ブラシ21を例にとって説明するが、勿論、これに限らず、平板型ブラシ25を同様に適用することができる。
【0042】
なお、図8に示す部材については既に説明しているので、適宜その説明を省略する。
【0043】
ロール型ブラシ21は、図8に示す画像撹乱装置45内に、ブラシ毛14が感光体ドラム40に摺接するように設けられる。感光体ドラム40が帯電装置41によって負極性に帯電する場合、ロール型ブラシ21には、負極性の電圧が、図示しない電源から印加される。そして、残トナーには、ロール型ブラシ21のブラシ毛14から負極性の電圧が印加され、残トナーは均一に負極性に帯電する。こうして負極性に帯電することで、残トナーは、帯電装置41に付着することなく、かつ現像装置43に回収されやすくなる。
【0044】
本発明のブラシは、トナー画像の移動方向に沿って、複数の画像撹乱装置を備えるクリーナレスシステムに利用することもできる。このようなクリーナレスシステムとしては、第一画像撹乱装置によってトナーを正極性に帯電させ、次いでその下流の第二画像撹乱装置によって負極性に帯電させるものが挙げられる。複数の画像撹乱装置を設けることにより、トナーの帯電極性をより均一にすることができる。
【0045】
なお、本発明のブラシを利用する際には、画像形成装置内に複数ある画像撹乱装置のうち、全てを本発明のブラシを備えるものとしても良いし、その一部に本発明のブラシを利用してもよい。
【0046】
〔実施例および比較例〕
図1・2に示すロール型ブラシ21を、図8に示す画像撹乱装置45に適用し、実施例1〜11および比較例1〜3のブラシについて、ブラシ毛の密度n、径D(m)を変化させて、その性能(トナー画像撹乱性、トナー通過性、像担持体寿命)を比較した。これらのブラシの占有率P、表面積L等のパラメータを表1に示す。また、ブラシの性能を評価した結果も併せて表1に示す。
【0047】
実施例1〜11および比較例1〜3において、ブラシ毛は、同量のカーボンが添加されたポリアミドからなり、長さh(mm)は5mmで一定とする。また、これらのブラシは、直径5mm、長さ22cmのシャフトにパイル織物を巻きつけてなる。
【0048】
(ブラシの評価方法)
(A)トナー画像撹乱性
印刷物上の残存画像メモリを目視によって評価し、画像メモリ有りを×、画像メモリ無しを○とした。さらに、○と評価されたブラシについて、紙ジャム直後に同様の評価を行い、画像メモリ無しを◎とした。
【0049】
(B)トナーの通過性
1,000枚プリント後の、ブラシの支持部面積当たりのトナー付着量が43.4g/m未満を◎、1,000枚プリント後のトナー付着量が43.4g/m以上86.8g/m未満を○、1,000枚プリント後のトナー付着量が86.8g/m以上を×とした。
【0050】
(C)像担持体寿命
特許3287760に記載の方法に則り、像担持体寿命を測定した。具体的には3万枚耐久試験を行い、画像かぶり[画像かぶり=(プリント前白色度−プリント後白色度)/プリント前白色度×100(%)]によって像担持体寿命を評価した。すなわち、3万枚耐久試験後に、感光体磨耗による画像かぶり5%未満であるときは○、3万枚耐久試験後に感光体磨耗による画像かぶり5%以上であるときは×と評価した。
【0051】
【表1】

【0052】
(結果)
像担持体の磨耗を低減して寿命を延ばすには、繊度(径D)を小さくすることでブラシ毛の剛性を弱め、像担持体への当接力を小さくすればよい。また、パイル織物を備えるブラシの製造コストにおいては、パイル糸の材料費の比重が極めて大きい。
【0053】
径Dを比較例3の約41%にした実施例1は剛性が比較例3の3%以下となる。それにより像担持体の磨耗は少なくなり、長寿命が実現する。
【0054】
また、径Dを小さくすることによって、パイルコストは比較例3の約16%になる。パイル径を細くしたため、表面積も小さくなる。撹乱性を満足するには表面積は約5000程度(m/m)が必要であり、実施例1が下限である。
【0055】
さらに表面積を小さくした例が比較例1であるが、撹乱性は悪くなってしまう。さらに実施例11のように表面積を10000以上にすると、一度に多くのトナーを捕獲できるので、異常時、たとえば紙ジャム等が発生し、一度に多量のトナーが像担持体上に残存した場合にも良好な撹乱性が維持できる。
【0056】
しかし、表面積が増えるにつれて空間に対するパイルの占める割合(占有率)が大きくなる。占有率が大きくなりすぎると、トナーがブラシ毛の間を通過できなくなり、トナーがブラシ毛間に堆積してしまう。実施例3に示すように、占有率が0.15に近くなると、通過性が低下する傾向にある。さらに占有率が高くなると(比較例2)、すぐにトナーが堆積し、通過性の面で劣る。
【0057】
実施例4〜9はさらにパイル径を細くした例である。実施例5は占有率が約0.1であるが、異常時の大量のトナーを通過させることができる。
【0058】
このように、パイル径を細くすることにより、表面積が大きく(撹乱性が良好)で占有率が小さい(通過性が良い)領域が広くなり、自由度の高い設計が可能である。またパイル径を細くすると比表面積(単位重量あたりの表面積)は大きくなるので、経済的な設計が可能となる。
【0059】
また。機械的な撹乱性をあげるには、ブラシ毛の配列を千鳥型にすることが有効である。ブラシの使用に当たっては、そのブラシ毛を像担持体に摺接させつつ移動させる。千鳥型の配置とは、ブラシ毛の配置がこの移動方向に対して平行な直線からずれるように配置されていることを意味する。ブラシ毛の配置について、図5・6を参照して具体的に説明する。
【0060】
図5・6は、ブラシにおけるブラシ毛の配置の例を示す平面図である。なお、図5・6にそれぞれ示すブラシ21’および21’’は、図1・2を参照して説明したロール型ブラシ21とほぼ同一の部材を備えている。それゆえ、図1・2で既に説明した部材と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0061】
図5・6には、感光体ドラム40の回転方向を矢印で示している。図5に示すように、ブラシ21’は、パイル糸15が、感光体ドラム40の回転方向(ブラシ毛14の移動方向とは逆方向)に平行な直線からずれるように配置されている。
【0062】
一方、図6に示すように、ブラシ21’’は、パイル糸15の配置が、感光体ドラム40の回転方向に平行な直線をなしている。この配置を碁盤型と称する。ブラシ21’は、ブラシ21’’よりもトナーがブラシ毛をすり抜けにくいので、密度nが同じであってもトナーにより接触しやすく、トナー画像を機械的および電気的に撹乱しやすいという効果を奏する。実際、実施例1と実施例10とを比較すると、同等の表面積を有するにもかかわらず、実施例10の方が、撹乱性が良好になる。
【0063】
以上の実施例および比較例の結果から、好ましいブラシの構成をグラフ化したものが図4ある。図4ら、良好な画像撹乱性およびトナー通過性を得るための構成、すなわち占有率P≦0.15および表面積L≧5000を満たすような、ブラシ毛径Dおよび密度nを選択することができる。さらに、紙ジャム等の異常時にも良好な撹乱性を得るためには、表面積L≧10000を満たすことが好ましく、より目詰まりを起こりにくくするためには、占有率P≦0.1を満たすことが好ましい。
【0064】
(体積抵抗率)
ブラシ毛の体積抵抗率は、従来のクリーナレスシステムに用いられてきたブラシの条件を適用することができる。すなわち、ブラシ毛の体積抵抗率を1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmの範囲にすることによって、本実施形態のブラシは、トナーに効率よく電圧を印加することができ、その結果トナーを一様に帯電することができる。
【0065】
体積抵抗率の測定方法としては、特に限定されるものではない。具体的には、複数本のブラシ毛を一束として電気抵抗値を測定し、その値からブラシ毛の体積抵抗率を算出する方法を用いることができる。具体的には、下記方法によって測定を行った結果に基づいて算出することができる。
【0066】
図1に示すパイル織物10において、ブラシ毛14となる繊維を複数本(N本)まとめて一束とする。この一束を測定単位として、2つ一対の電極に接触させつつ速度Uで繊維の長手方向に走行させる。走行させながら、一対の電極間に、電流を一定の電流値で流す。この状態で、一対の電極間の電圧値を、時間t間連続して測定する。この時間t間の電圧の積分値V(t)および時間t間の電流の積分値Iを、式 R(t)=V(t)/I に当てはめることで、繊維が時間tに走行した長さ当たりの抵抗値R(t)を得ることができる。
【0067】
時間tは、速度Uから導電性糸18の長さに換算できる。従って、R(t)および電極間の距離から、測定単位における長さ当たりの抵抗値Rを求めることができる。そして、当該抵抗値Rと、測定単位であるブラシ毛の本数および断面積とから、ブラシ毛の体積抵抗率を算出すればよい。
【0068】
なお、上記の方法において、電流を一定にして電圧を測定する代わりに、電圧を一定にして電流を測定して、その結果から抵抗値を算出することもできる。
【0069】
測定時に用いるブラシ毛はとくに限定されないが、50〜100本程度であれば、充分に正確な値を得ることができる。
【0070】
また、ブラシ毛の導電性を調整するためには、ブラシ毛中にカーボンまたは金属からなる導電性粒子を分散させればよい。導電性粒子の添加量は、目的の導電性に合わせて適宜設定可能であり、特に限定されるものではない。このような導電性粒子の添加量は公知であり、例えば特開2002−146629(公開日:平成14年5月22日)に記載されている。
【0071】
〔ブラシ毛の形状〕
本発明のブラシは、ブラシ毛の断面がエッジを持たないことが好ましい。ブラシ毛の断面がエッジを持たないと、ブラシが像担持体を傷つけにくい。また、ブラシ毛の断面にエッジがあると、そこから集中して放電が起こりやすい。このような放電の集中は、残トナーの帯電ムラを引き起こすことがある。それに対してブラシ毛の断面がエッジを持たないので、放電が集中することがなく、残トナーを均一に帯電することができる。
【0072】
なお、ブラシ毛の断面形状がエッジを持たないとは、ブラシ毛のうち、少なくとも像担持体と接触する部分、つまり先端付近の断面形状が、角を持たず、丸くなっていることを意味する。このような形状としては、円形または楕円形であってもよいし、多角形の角が丸くなった形状であってもよい。さらには、ブラシ毛の断面形状コーナーの丸み(アール)が、1/10D以上であることが好ましい。
【0073】
以上のように、本発明において、ブラシ毛の断面形状がエッジを持たないとは、完全に角がないことを意味するのではなく、上述のような形状を広く含むものである。つまり、微視的に見て角や突起を有する形状であっても、巨視的に見て角や突起がないと判断されるような多角形等の形状も、本発明の範疇に含まれる。このような形状の一例を図7(a)〜図7(c)に示す。
【0074】
図7(a)〜図7(c)は、ブラシ毛を形成するのに好適な海島繊維の一例を示す断面図である。海島繊維とは、溶解部である海部および非溶解部である島部からなる繊維である。図7(a)〜図7(c)に示す海島繊維70a〜70cから、海部71a〜71cを溶解および除去することによって、島部72a〜72cからなる細繊維をブラシ毛として得ることができる。島部72a〜72cは、上述したようにエッジのない形状となっている。
【0075】
このような海部および島部としては、従来の海島型繊維で用いられている材料を好適に利用することができる。海部を除去するための溶剤としては、海部を溶解させ、かつ島部を溶解させない物質であればよい。例えば、海部としてポリエチレン系の加水分解性樹脂を用い、島部として、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリアクリル系などの非加水分解性樹脂を用いて、海部を酸またはアルカリなど加水分解することにより非加水分解性樹脂からなる細繊維を得てもよい。より具体的には、海部を加水分解性樹脂のPET(アルカリ易溶性PET)、島部を非加水分解性樹脂のポリアミド(例えばナイロン−6)とし、アルカリ性の水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム水溶液によって海部を加水分解してもよい。この他の溶解部、非溶解部、および溶剤の組み合わせを表2に示す。なお、表2中P.P.とは、ポリプロピレンを意味する。
【0076】
【表2】

【0077】
例えば、薄刃状の切込み溝を有する治具を押し当てる等、単に機械的な力によって割繊する場合、得られる細繊維の断面形状を制御することは不可能である。
【0078】
それに対して、化学的な割繊によれば、細繊維の断面形状を所望の形状とすることができる。これは、海島繊維を製造するときに、細繊維となる部分すなわち島部の形状を適宜設定することができるからである。例えばノズルからの押し出しによって海島繊維を形成する場合は、細繊維となる部分の断面形状を、ノズルの形状によって制御することができる。
【0079】
また、溶剤によって海部が除去され、島部からなる細繊維を得る場合、細繊維間に余分な成分が残留しない。その結果、ブラシが像担持体と接触する部分(具体的にはブラシ毛の先端)の成分がより均一となる。特にトナーを帯電させるブラシの場合、接触部分の成分が均一であることが好ましい。
【0080】
なお、化学割繊の具体的な方法としては、何ら限定されるものではなく、シャフトや平板等の支持部にパイル織物を固定した後に、溶剤を作用させてもよいし、先にパイル織物を溶剤で処理した後に支持部に固定してもよい。また、パイル糸に溶剤が付着する長さを調節することによって、細繊維の長さを調節することもでき、ブラシ毛中の細繊維の長さも、特に限定されるものではない。
【0081】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の画像形成装置用ブラシは、クリーナレスシステムを採用したプリンタまたはコピー機等の画像形成装置において、トナー画像を撹乱したり、トナーの帯電を制御したりするためのブラシとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態の一つであるブラシの要部構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の一つであるブラシの要部構成を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態の一つであるブラシの要部構成を示す平面図である。
【図4】好ましいブラシの構成(占有率、表面積)をグラフ化したものであり、縦軸にブラシ毛の密度n、横軸にブラシ毛の径Dを示す。
【図5】本発明のブラシにおけるパイル糸の配置の一例を示す平面図である。
【図6】本発明のブラシにおけるパイル糸の配置の他の例を示す平面図である。
【図7】本発明のブラシにおけるブラシ毛の一例である海島繊維の構成を示す断面図である。
【図8】クリーナレスシステムを備える画像形成装置の要部構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0084】
10 パイル織物
11 基布
14 ブラシ毛
15 パイル糸
20 シャフト
21 ロール型ブラシ
24 平板
25 平板型ブラシ
40 感光体ドラム(像担持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体に付着したトナー像をブラシ毛によって撹乱する画像形成装置用のブラシであって、
ブラシ毛の体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmを満たし、
ブラシ毛の径D(m)が、D≦11×10−6を満たし、
ブラシ毛の占有率P[但し、P=(πD/4)・nで表され、nはブラシ毛の密度(Mf/m)を表す]がP≦0.15を満たし、
ブラシ毛の長手方向における単位長さ当たりの表面積L(m/m)[但し、L=πD・nで表される]がL≧5000を満たすことを特徴とするブラシ。
【請求項2】
占有率PがP≦0.1を満たすことを特徴とする請求項1に記載のブラシ。
【請求項3】
表面積LがL≧10000を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のブラシ。
【請求項4】
上記ブラシ毛は割繊によって形成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシ。
【請求項5】
上記ブラシ毛は化学割繊によって形成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−248748(P2007−248748A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71150(P2006−71150)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(390026147)東英産業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】