説明

画像形成装置用転写ベルト

【課題】 ベース層と表層を有する画像形成装置用の多層の転写ベルトであって、大きな表面抵抗率、優れた離トナー性、優れた非汚染性、さらに安定した体積抵抗値などを有する画像形成装置用転写ベルトを提供すること。
【解決手段】 ベース層上に、水性樹脂塗料(固形分換算)100重量部に対し、アルカリ金属塩類および/またはアルカリ土類金属塩類0.0001〜5重量部を含有する制電性塗料樹脂組成物により形成されるイオン導電化された弾性層、およびフッ素含有ポリマーにより形成される表層を有することを特徴とする画像形成装置用転写ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置、特にカラー複写機、カラーレーザープリンターなどのカラー画像形成装置において、感光ドラム上のトナー像を転写材(紙)に転写するために用いられる画像形成装置用転写ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラー複写機、カラーレーザープリンターなどのカラー画像形成装置における画像の転写方式として、感光ドラム上に形成されたトナー像を、画像形成装置用転写ベルトを用いて転写材(紙)に転写する方式が、標準的になりつつある。
【0003】
図6は、この方式の1つである中間転写方式の概略を示す説明図である。図6に示す通り、トナー1と現像ローラ2により、感光ドラム3上に、トナー像が形成される。この方式は、4連タンデム方式であるため、4色のトナーとそれぞれに対応する現像ローラ、感光ドラムが、設けられている。感光ドラム3上に形成されたトナー像は、一次転写ローラ4と、感光ドラム3と、画像形成装置用転写ベルト5とにより、画像形成装置用転写ベルト5に転写される。形成されたカラー画像は、二次転写ローラ6と、画像形成装置用転写ベルト5と、転写材(紙)7とにより、転写材(紙)7に転写され、定着ローラ(図示されていない。)により定着される。多重複写方式の場合も、基本的な原理は、同様である。
【0004】
これらの方式で用いられる画像形成装置用転写ベルトについては、ベルトの周方向の大きな抵抗率(表面抵抗率)、および表面抵抗率よりは小さい厚み方向の抵抗率(体積抵抗値)を有し、かつこれらの抵抗率がベルト面上の位置、使用環境、電圧などにより変動しないこと、ベルトの周方向の引張弾性率が高いこと、表面が平滑でかつ接触角が大きくトナーがベルトから転写材(紙)に転写されやすいこと(優れた離トナー性)、感光ドラムやトナーなどを化学的に汚染しないこと(優れた非汚染性)、難燃性であること、などの特性が望まれている。
【0005】
単層の画像形成装置用転写ベルトにより、これらの多数の特性を満たすことは困難であるので、多層からなる画像形成装置用転写ベルトが提案されており、例えば、特開2002−287531号公報には、低抵抗値の熱可塑性エラストマーのベース層と、高抵抗値の熱可塑性エラストマーの表層とを有し、前記ベース層と前記表層とが加熱成形により形成されていることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトが開示されている。
【0006】
また、近年は、厚み方向に弾性を有する画像形成装置用転写ベルトも望まれており、この性質を満たす画像形成装置用転写ベルトとして、上記のようなベース層と表層に加えて、弾性体により形成される弾性層を有するものも考えられる。
【0007】
この多層の画像形成装置用転写ベルトにおいては、ベルトの周方向の高引張弾性率はベース層により、厚み方向の弾性は弾性層により達成される。一方、安定した体積抵抗値は、ベース層および弾性層を形成する材質の選択などにより制御される。また、大きな表面抵抗率、優れた離トナー性、優れた非汚染性は、表層により達成されることが望まれる。
【0008】
しかし、従来は、これらの特性を十分に満足する表層は得られていなかった。
【特許文献1】特開2002−287531号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ベース層と表層を有する画像形成装置用の多層の転写ベルトであって、大きな表面抵抗率、優れた離トナー性、優れた非汚染性、さらに安定した体積抵抗値などを有する画像形成装置用転写ベルトを提供することをその課題とする。
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、表層をフッ素含有ポリマーにより形成すると共に、ベース層と表層の間に、イオン導電化された特定の制電性塗料樹脂組成物により形成される弾性層を設けることにより前記課題が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は、
ベース層上に、
水性樹脂塗料(固形分換算)100重量部に対し、アルカリ金属塩類および/またはアルカリ土類金属塩類0.0001〜5重量部を含有する制電性塗料樹脂組成物により形成されるイオン導電化された弾性層、
およびフッ素含有ポリマーにより形成される表層、
を有することを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0012】
本発明は、表層として、フッ素含有ポリマーにより形成される表層が用いられているため、大きな表面抵抗率、優れた離トナー性、優れた非汚染性を達成することができる。
【0013】
特に近年、画像形成装置のカラー化、高画質化に対応できるトナーの開発が活発に進められており、これらの中には、離型性、耐汚染性が不十分なものが多く、従来のポリイミド、ポリアミドイミドなどの単層の画像形成装置用転写ベルトや、ウレタンやシリコン等をスプレーコートした多層の画像形成装置用転写ベルトでは、これらに十分対応することができなかった。しかし、本発明により、これらに十分対応することができ画像形成装置用転写ベルトが得られるようになった。
【0014】
さらに、本発明は、ベース層と表層の間に、イオン導電化された弾性層が設けられているため、厚み方向の十分な柔軟性を有していると共に、画像形成装置用転写ベルトの体積抵抗値を安定的に制御することができる。
【0015】
本発明により、従来の単層の画像形成装置用転写ベルトでは得られなかった弾性により、トナーを潰すことなく、搬送ができ、また体積抵抗値の安定的な制御により高画質化に対応できる画像形成装置用転写ベルトが得られるようになった。
【0016】
さらに、本発明は、イオン導電化された弾性層として、水性樹脂塗料(固形分換算)100重量部に対し、アルカリ金属塩類および/またはアルカリ土類金属塩類0.0001〜5重量部を含有する制電性塗料樹脂組成物により形成されるイオン導電化された弾性層
を用いている。
【0017】
前記制電性塗料樹脂組成物は、出願公開前の特願2003−70631の発明であり、特に高い制電特性と持続性を有し、さらに詳しくは、ブリードなどの不具合がないほか、塗装膜の特性がそのまま維持され、高度な静電気対策機能を有し、かつ作業環境、健康に配慮されている。このため、本発明により、より高画質化に容易に対応できる画像形成装置用転写ベルトが得られるようになった。
【0018】
なお、本発明の転写ベルトは、画像形成装置用であり、感光ドラムなどに形成されたトナー像を、紙などの転写材に転写する機能を有するものである。ここで、画像形成装置としては、電子写真方式を用いた複写機、レーザープリンターなどが挙げられるが、これらに限定されず、トナー像を形成し、これを転写材に転写することにより転写材上に画像を形成する機能を有する装置全てを含む。
【0019】
本発明の画像形成装置用転写ベルトのベース層は、高弾性率の材質から形成され、画像形成装置用転写ベルトに高い引張弾性率を与えるものである。
【0020】
ベース層を形成する高弾性率の材質としては、弾性率1GPa以上の材質が好ましく、特に、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、またはポリビニリデンフロライド(PVDF)が好ましい。なかでも、カーボン導電化されたポリイミド(PI)、カーボン導電化されたポリアミドイミド(PAI)、またはカーボン導電化されたポリビニリデンフロライド(PVDF)が、高い弾性率を有するため好ましい。
【0021】
請求項2は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、ベース層が、カーボン導電化されたポリイミド(PI)、カーボン導電化されたポリアミドイミド(PAI)、またはカーボン導電化されたポリビニリデンフロライド(PVDF)により形成されていることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0022】
ベース層の厚みは、画像形成装置用転写ベルトの周方向の高い引張弾性率を画像形成装置用転写ベルトに付与する点等から、30〜100μmの範囲が好ましく、特に40〜80μmの範囲が好ましい。
【0023】
前記制電性塗料樹脂組成物には、さらにポリエステル化合物などの特定の化合物が含有されていることが好ましい。
【0024】
請求項3は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、制電性塗料樹脂組成物が、(A)水性樹脂塗料(固形分換算)100重量部に対し、さらに(C)下記式(1)もしくは(2)で表される構造を有するポリエステル化合物、ならびに下記式(3)で表される構造を有し、かつ全ての分子鎖端末がCH基および/またはCH基であるポリエーテル化合物の少なくとも1種0.01〜20重量部を含有する制電性塗料樹脂組成物であることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
R−(Y−Z)−Y−R ・・・(1)
X−(Z−Y)−Z−X ・・・(2)
〔式(1)〜(2)中、Rは脂肪族アルコキシ基、脂環式アルコキシ基または芳香族アルコキシ基、Yは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または芳香族ジカルボン酸残基、Xは脂肪酸残基またはベンゼンモノカルボン酸残基、Zは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基、mは0以上の整数を示す。〕
−{O(AO)}−基 ・・・(3)
〔式(3)中、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜7の整数を示す。〕
【0025】
前記水性樹脂塗料が、ポリウレタン樹脂である場合、画像形成装置用転写ベルトに最も適した弾性力が与えられる点において好ましい。
【0026】
請求項4は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、水性樹脂塗料が、ポリウレタン樹脂であることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0027】
前記アルカリ金属塩類のアルカリ金属が、リチウムである場合、画像形成装置用転写ベルトに最も適した制電特性が得られるため好ましい。特に、アルカリ金属塩類として、過塩素酸リチウムLiCl、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムLi(CFSO),ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムLi・N(CFSO,トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムLi・C(CFSOを用いることが好ましい。
【0028】
請求項5は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、アルカリ金属塩類のアルカリ金属が、リチウムであることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0029】
画像形成装置用転写ベルトにおいては、主にベース層により、抵抗値を制御した場合、面内ばらつきや、電圧依存性が出てしまう。このため、弾性層により抵抗値を制御することが好ましいこと、そのためには、弾性層の抵抗値を、ベース層の抵抗値より大きくすればよいことが分かった。
【0030】
請求項6は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、弾性層の抵抗値(Ω)が、ベース層の抵抗値(Ω)より大きいことを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0031】
弾性層の抵抗値は、より画像形成装置用転写ベルトの抵抗値を安定して制御する観点、および実用上の観点より、抵抗値をΩで表した場合、ベース層の抵抗値(Ω)の10倍以上、10倍以下であることが好ましい。
【0032】
請求項7は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、弾性層の抵抗値(Ω)が、ベース層の抵抗値(Ω)の10倍以上、10倍以下であることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0033】
弾性層の体積抵抗値は、トナー受け渡しの点より、10〜1014Ω・cmであることが好ましい。
【0034】
請求項8は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、弾性層の体積抵抗値が、10〜1014Ω・cmであることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0035】
弾性層の厚みは、厚み方向の適度な弾性(柔軟性)を画像形成装置用転写ベルトに付与する点等から、50〜300μmの範囲が好ましく、特に100〜250μmの範囲が好ましい。
【0036】
表層を形成するフッ素含有ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキビニルエーテル(PFA)が、接触角が高く(大きく)、トナー等の付着物をきれいに剥がせることができるため好ましい。
【0037】
請求項9は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、フッ素含有ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキビニルエーテル(PFA)であることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0038】
表層を形成するフッ素含有ポリマーとしては、ビニリデンフロライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンなどの単量体の重合体、共重合体も例示される。中でも、ビニリデンフロライドを含む単量体の重合体、すなわちビニリデンフロライドの単独重合体(ポリビニリデンフロライド)やビニリデンフロライドを含む2種以上の単量体の共重合体が、好ましく例示される。これらは、柔軟性にも富んでおり、弾性層の弾性を阻害しにくいとの利点も有する。
【0039】
本発明の請求項10は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、フッ素含有ポリマーが、ビニリデンフロライドを含む単量体の重合体であることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0040】
ビニリデンフロライドを含む単量体の重合体の中でも、ポリビニリデンフロライド(PVDF)が、接触角が高いので好ましい。
【0041】
また、ポリビニリデンフロライド(PVDF)は、フッ素含有ポリマーの中では、比較的融点が低く、ウレタン(分解温度約170℃)などの弾性層を劣化させない温度(約160℃)で、アニール(焼付け)を行うことができる場合が多く、その結果、離トナー性を向上させることができるという利点も有する。
【0042】
本発明の請求項11は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、フッ素含有ポリマーが、ポリビニリデンフロライド(PVDF)であることを特徴とする転写ベルトを提供するものである。
【0043】
また、ビニリデンフロライドを含む単量体の重合体の中でも、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびビニリデンフロライドの共重合体(THV)が、接触角が特に高く、ブリードが非常に少なく、非汚染性も特に優れており、特に好ましい。
【0044】
また、ポリビニリデンフロライド(PVDF)同様に、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびビニリデンフロライドの共重合体(THV)は、フッ素含有ポリマーの中では、比較的融点が低く、ウレタン(分解温度約170℃)などの弾性層を劣化させない温度(約160℃)で、アニール(焼付け)を行うことができる場合が多く、その結果、離トナー性を向上させることができるという利点も有する。
【0045】
請求項12は、この好ましい態様に該当するものであり、前記の画像形成装置用転写ベルトであって、フッ素含有ポリマーが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびビニリデンフロライドの共重合体(THV)であることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【0046】
本発明は、ベース層、弾性層、表層のみからなる画像形成装置用転写ベルトに限られず、求められる特性に応じて、さらに他の層を設けた画像形成装置用転写ベルトも含まれる。
【0047】
このような場合においても、表層の厚みは、好ましくは、1〜15μmの範囲である。この範囲であれば、十分な耐摩耗性と柔軟性を両立させることができる。
【0048】
ベース層は、画像形成装置用転写ベルトに周方向の引張弾性率を与え、弾性層は、積層方向の弾性率を与える。また、ベース層の抵抗値を下げすぎると、電流は積層方向に流れずに、周方向に流れるので、これを避ける必要がある。ベース層の厚さと、弾性層の厚さは、適切な関係にあることが好ましく、弾性層の厚みが、ベース層の厚みの1〜10倍、特に2〜4倍であることが好ましい。
【0049】
本発明の画像形成装置用転写ベルトには、転写と定着を同時に行なう画像形成装置用転写定着ベルトも含まれ、特に効率化の面からこのような画像形成装置用転写ベルトに、本発明を適用することは好ましいことである。
【0050】
本発明の請求項13は、この好ましい態様に該当し、上記の画像形成装置用転写ベルトであって、画像形成装置用転写ベルトが、画像形成装置用転写定着ベルトであることを特徴とする画像形成装置用転写ベルトを提供するものである。
【発明の効果】
【0051】
本発明は、表層として、フッ素含有ポリマーにより形成される表層が用いられているため、大きな表面抵抗率、優れた離トナー性、優れた非汚染性を達成することができる。
【0052】
さらに、本発明は、ベース層と表層の間に、イオン導電化された弾性層が設けられているため、厚み方向の十分な柔軟性を有していると共に、画像形成装置用転写ベルトの体積抵抗値を安定的に制御することができる。
【0053】
さらに、本発明は、イオン導電化された弾性層として、特定の制電性塗料樹脂組成物により形成されるイオン導電化された弾性層を用いているため、より高画質化に対応できる画像形成装置用転写ベルトが得られる。
【0054】
また、弾性層の抵抗値が、ベース層の抵抗値より大きい場合は、弾性層のみにより、画像形成装置用転写ベルトの安定した抵抗値の制御ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
本発明に用いられる制電性塗料樹脂組成物の形態としては、以下が挙げられる。
【0056】
(A)水性樹脂塗料
本発明に使用される制電性塗料樹脂組成物に用いられる(A)水性樹脂塗料は、水性樹脂を水系の溶媒に均一に分散させた水系の樹脂であり、樹脂の基本骨格としては、例えばポリウレタン樹脂とポリエステル樹脂が挙げられる。
このうち、ポリウレタン樹脂の溶液タイプとしては、強制乳化タイプ、自己乳化タイプが一般的であり、イオン性としてはアニオン型、カチオン型、ノニオン型がある。ポリウレタン樹脂の構造としてはポリエステル型、ポリエーテル型、ポリカーボネート型が挙げられる。
また、ポリエステル樹脂の例としては、脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
ポリエステル樹脂の溶液タイプとしては、強制乳化タイプ、自己乳化タイプがあり、イオン性は非イオン系が一般的である。(接着助剤はポリイソシアネートが使用される。)
水系媒体への分散安定化に際し、乳化剤を使用しているものと使用していないものがあるがいずれも使用可能である。
【0057】
(A)水性樹脂塗料に用いられるポリウレタン樹脂は、アニオン型として、
(1)ポリウレタンプレポリマーにジアミノフェニルカルボン酸塩を鎖延長剤とする方法、
(2)イソシアネート基にブロック化剤を反応させ安定な化合物を作り、使用時に加温して、元のイソシアネート基を再生し、架橋や、鎖延長反応を進める方法、
(3)疎水性ポリオールと芳香族イソシアネートから得たポリウレタンプレポリマーの芳香環をスルホン化し、3級アミンで中和し、媒体である水と反応させてアニオン性自己乳化型水系ポリウレタン樹脂を作成する方法、
(4)ポリウレタンプレポリマーとジアミノアルカンスルホネートの水溶液とを反応させ、アニオン性ポリウレタンポリ尿素分散体を得る方法、
(5)ジオールとジイソシアネートからプレポリマーを作り、ヒドロキシル基を有する酸と反応させて、トリエタノールアミンを加えてアイオノマーとしてから水に加えてエマルジョンとし、さらにジアミンを加えて鎖延長を行なう方法、がある。
【0058】
次にカチオン型として、
(1)ポリウレタンプレポリマーを、3級アミノ基を有する鎖延長剤でポリマー化し、その3級アミノ基を4級化剤でカチオン化する方法、
(2)ポリウレタンプレポリマーをトルエン中で、OH基を有する3級アミンと反応させ、次に酸の水溶液で中和し、乳化する方法、
(3)末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する4級塩を反応させる方法、
(4)ポリウレタン尿素ポリアミンにエピハロヒドリンと酸を反応させることでカチオン性樹脂を得る方法、
(5)ポリウレタンプレポリマーを重合しておき、尿素化合物でビスビュレット化しα−クロルアセトアミドで4級化した自己分散性オリゴマーをホルマリン水溶液で希釈し酸性にすると縮合反応を起こす方法、
がある。
【0059】
さらに、ノニオン型として、
(1)ポリウレタンプレポリマーを乳化剤で乳化し、同時にジアミンを加えて鎖延長反応を行なわせる方法、
(2)ポリウレタンプレポリマーを1,2ビス(2−シアノエチルアミノ)エタンで鎖延長し、乳化剤を用いて水に分散する方法、
(3)長鎖アルコールのアルキレンオキサイド縮合物とヒドロキシ基のような親水基を有するアミンとをポリウレタンプレポリマーと反応させることにより、非イオン性の分散体を得る方法、
がある。
【0060】
一方、(A)水性樹脂塗料に用いられる脂肪族ポリエステルとしては、ポリブチレンサクシネート(コハク酸と1,4−ブタンジオールの2元系縮合物)、ポリブチレンサクシネートアジペート(コハク酸およびアジピン酸、ならびに1,4−ブタンジオールの3元系縮合物)などが挙げられる。脂肪族ポリエステルには、イソシアネート基、ウレタン基といった反応基を構造中に導入することも可能である。さらに、脂肪族ポリエステルとして、ポリ乳酸などを共重合したコポリエステルのような種々の共重合体を用いることもできる。
【0061】
なお、以上のポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂のいずれも、水系媒体への分散安定化に際し、乳化剤を使用しているものと使用していないものがあるが、いずれも使用可能である。また、任意に架橋剤、粘度調整剤などを適宜用いてもよい。
【0062】
(B)アルカリ金属塩類またはアルカリ土類金属塩類
次に、(B)アルカリ金属塩類またはアルカリ土類金属塩類は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であるカチオン、およびイオン解離可能なアニオンとによって構成されている化合物である。
(B)成分のアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、リチウムLi、ナトリウムNa、カリウムK、マグネシウムMg2+およびカルシウムCa2+が挙げられ、好ましくはイオン半径の小さいリチウム、ナトリウム、さらに好ましくはリチウムである。
また、(B)成分のイオン解離可能なアニオンとしては、例えば、Cl,Br,F,I,NO,SCN,ClO・CFSO,BF,(CFSO,(CFSOなどが挙げられる。好ましくは、過塩素酸アニオンClO、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンCFSO、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CFSO、およびトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(CFSOであり、さらに好ましくはCFSO,(CFSO,(CFSOである。
【0063】
上記カチオンおよびアニオンによって構成されている金属塩類は数多くあるが、中でも、過塩素酸リチウムLiClO,過塩素酸ナトリウムNaClO,過塩素酸マグネシウムMg(ClO,過塩素酸カリウムKClO,トリフルオロメタンスルホン酸リチウムLi(CFSO),ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムLi・N(CFSO,ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムK・N(CFSO,ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウムNa・N(CFSO,トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムLi・C(CFSO,トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウムNa・C(CFSOが好ましい。中でも、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよびトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムがさらに好ましい。特に、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムが好ましい。
(B)成分としては、これらの金属塩類の中から1種または2種以上の混合物が目的に応じて適宜選択される。
【0064】
(B)成分は、少量存在するだけで樹脂組成物の体積(表面)抵抗率が低くなるが、配合量としては、(A)成分の固形分換算100重量部に対し、0.0001〜5重量部、好ましくは0.001〜3重量部である。0.0001重量部未満であると、導電性が不十分である。一方、5重量部を超えると、導電性は変わらず、ブリードして塗膜が剥離し易くなったり、塗膜物性を低下させる。
なお、(B)成分は、それ単独でも使用可能であるが、金属塩類の解離状態が不充分で必要以上の添加量を要する場合が多いほか、金属塩によっては危険性の高いものもあることから、好ましくは以下に示す(C)上記式(1)もしくは(2)で表されるポリエステル化合物や上記式(3)で表される構造を有するポリエーテル化合物に予め溶解したものを使用した方が好ましい。
【0065】
(C)成分
本発明に使用される制電性塗料樹脂組成物には、さらに(C)成分である上記式(1)〜(2)で表される構造を有するポリエステル化合物、および/または、上記式(3)で表されるポリエーテル化合物が含まれることが好ましい。
本発明に使用される制電性塗料樹脂組成物は、(C)成分を含むことにより、金属塩の溶解性、解離安定性、ブリードアウト防止、電気伝導性の促進、加工安定性、表面外観の改良に効果がある。
【0066】
このうち、上記(C−1)〜(C−2)成分は、一般的なエステル化合物の製造方法によって製造することができる。すなわち、多塩基酸成分と多価アルコール成分、ならびに一価アルコール成分および/または一価カルボン酸成分を用いて縮合させて製造される。
【0067】
上記多塩基酸成分としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸などの好ましくは炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸などや、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、ならびにそれらの無水物などが挙げられる。多塩基酸成分は、これら1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0068】
上記多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタン−ジオール−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオールなどの炭素数2〜18の脂肪族グリコール、およびジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
多価アルコール成分は、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0069】
一価アルコール成分としては、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、2−メチルオクタノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどの炭素数8〜18の脂肪族アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコール、2−フェニルエタノール、1−フェニルエタノール、2−フェノキシエタノール、3−フェニルー1−プロパノール、2−ヒドロキシエチルベンジルエーテルなどの芳香族アルコールが挙げられる。一価アルコール成分は、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0070】
一価カルボン酸成分としては、例えばカプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸などが挙げられ、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0071】
なお、(C−1)〜(C−2)のポリエステル化合物には、必要に応じ、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価またはそれ以上の多価アルコールおよび多塩基酸を変性剤として使用してもよい。
【0072】
また、(C−1)〜(c−2)のポリエステル化合物には、必要に応じ、カルボン酸基とアルコール基、またはカルボン酸残基とアルコール残基を分子内に有する化合物、例えばカプロラクトン、1,2−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ラノリン誘導脂肪酸、オキシ安息香酸などを、多塩基酸および多価アルコールの一部として組み込ませ用いることも可能である。
【0073】
これらの(C−1)〜(C−2)ポリエステル化合物の合成反応は、例えばパラトルエンスルフォン酸、リン酸などの酸触媒、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチルオキサイド、および塩化亜鉛などの金属触媒により促進されるので、通常、これらの触媒の存在下で行なうのが良い。触媒の使用量は、通常、原料モノマーに対し、0.005〜0.2重量%の範囲である。
また、その反応は、通常、100〜250℃、好ましくは130〜250℃に加熱して、反応させる。
【0074】
(C−1)〜(C−2)のポリエステル化合物の数平均分子量(Mn)は、好ましくは100〜4,000、好ましくは200〜1,000が好適である。性能の安定上、通常、(C)成分へ上記(B)成分を溶解して用いることが好ましく、数平均分子量が100未満であると溶解性は良好であるが、(c)成分の他樹脂との接触による移行、熱安定性、揮発特性の低下に伴う加工時のガス発生などの問題を引き起こす。一方、4,000を超えると、溶解した溶液の粘度が著しく上昇するため配合作業性が悪くなる。
(C−1)〜(C−2)の使用量は、(A)成分の固形分換算100重量部に対し、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部の範囲である。0.01重量部未満では、充分な導電性を得ることが難しく、一方、20重量部を超えると、塗料が剥離しやすく、塗膜物性を低下させるため良好な塗膜が得られない。
【0075】
一方、(C−3)成分は、−{O(AO)}−基(Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜7の整数を示す)を有し、かつ分子鎖末端がCH基および/またはCH基である有機化合物である。上記分子鎖末端のCH基とは、二重結合をしている炭素原子を有するものである。好ましくは、全ての分子鎖末端がCH基および/またはCH基である有機化合物である。上記分子鎖末端のCH基とは、二重結合をしている炭素原子を有するものである。
【0076】
(C−3)成分は、例えば、炭素数1〜9の直鎖、または分岐脂肪族アルコール1モルに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを1〜7モル付加して得られるアルコールと、二塩基酸とを原料として、一般的なエステル化合物の製造方法によって製造することができる。
【0077】
ここで、上記アルコールの例としては、プロパノール1モルにエチレンオキシド1〜7モル、プロピレンオキシド1〜4モル、またはブチレンオキシド1〜3モル、ブタノール1モルにエチレンオキシド1〜6モルまたはプロピレンオキシド1〜3モル、ヘキサノール1モルにエチレンオキシド1〜2モル、ペンタノール1モルにエチレンオキシド1〜5モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜2モル、オクタノール1モルにエチレンオキシド1〜5モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜3モル、ノナノール1モルにエチレンオキシド1〜4モル、プロピレンオキシド1〜2モル、またはブチレンオキシド1〜2モルを、それぞれ、付加させたヒドロキシル化合物が挙げられる。
なお、これらの化合物の中で、ブタノール1モルにエチレンオキシド2モルを付加させた2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、ブタノール1モルにエチレンオキシド1モルを付加させた2−ブトキシエタノールが、加工性とのバランスに良い。
また、上記二塩基酸としては、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、コハク酸などのカルボン酸、およびこれらのカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0078】
上記原料を使用して製造される(C−3)成分は、末端にヒドロキシル基を有さないアルキル基である化合物である。特に好ましくは、下記式(4)に示されるアジピン酸ジブトキシエトキシエチル(ビス〔2−(2ブトキシエトキシ)エチル〕アジペート)、または下記式(5)に示されるビス(2−ブトキシエチル)フタレートである。
【0079】
【化1】

【0080】
【化2】

【0081】
(C−3)成分を添加する場合の添加量は、(A)の固形分換算100重量部に対し、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部の範囲である。0.001重量部未満では、充分な導電性を得ることが難しく、一方、20重量部を超えると、塗料が剥離しやすく、塗膜物性を低下せしめるため良好な塗膜が得られない。
【0082】
本発明に使用される制電性塗料樹脂組成物には、本発明の目的を損なわないかぎり、安定剤、着色剤、可塑剤、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、補強剤、滑剤、発泡剤、耐候(光)剤、金属粉、造膜助剤(架橋剤など)、増粘剤などの添加剤を配合することができる。
【0083】
組成物を混合する混合機としては、一般的な高速回転式混合機を用いて混合攪拌することにより、製造することができる。ただし、高粘度の製造においては、例えば、プロペラミキサー、プラネタリーミキサー、Vブレンダ、三本ロール、ハイシェアミキサーなどの混合機を使用することが好ましい。
この場合、あらかじめ(B)成分を(C)成分にブレンドして安定化させたのち、これを(A)水性樹脂塗料と混合することが好ましい。
【0084】
本発明に使用される制電性塗料樹脂組成物は、固形分濃度が、通常、30〜65重量%である。
【0085】
また、本発明に使用される制電性塗料樹脂組成物は、ベース層にスプレー、ディッピングなどの塗装手段により塗布して、制電性の塗膜をベース層上に形成させることができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を示すが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施例に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0087】
先ず、図2に示す通り、内面を鏡面加工した熱膨張係数1.76×10/℃の鋼鉄製の外筒8の内面に、PTFEを、ディップ法により塗布し、380℃で焼成し、表層9を設けた。
【0088】
さらに、THVを酢酸ブチルに溶融し、表層9上にディップ法により製膜して、乾燥させ、バインダー層14を設けた。さらにバインダー層14を、PTFEとTHVの融点を越える350℃で加熱し、密着させた。
【0089】
次に、図3に示す通り、ドラム状金型10表面に、カーボン導電処理を行い、体積抵抗値を調整したポリイミドを製膜し、380℃で焼成し、ベース層11を設けた。
【0090】
さらに、ベース層11上に、イオン導電処理を行い、体積抵抗率が、ベース層11の体積抵抗率の10倍になる様に調整した制電性塗料樹脂組成物を塗布し、乾燥させて弾性層12を設けた。
【0091】
なお、制電性塗料樹脂組成物は、後記した表1における実験例1の配合処方の組成物を用いた。
【0092】
次に、ドラム状金型10表面に設けられたベース層11と弾性層12の複合体を、ドラム状金型10から剥がし、円筒状に形成された複合体を、図4に示す通り、MCナイロン製の熱膨張係数8.0×10/℃の中子13外周に嵌め込んだ。
【0093】
次に、図5に示す通り、ベース層11と弾性層12の複合体が嵌め込まれた中子13を、バインダー層14と表層9の複合層が内面に設けられた外筒8に挿入し、真空中で150℃に加熱した。この加熱により、外筒8と中子13の熱膨張係数には差があるため、熱膨張した中子13が、外筒8の内面を押圧し、ベース層11と弾性層12の複合層と、バインダー層14と表層9の複合層との図1に示される4層構造の複合体が得られた。
【0094】
次に、中子13、外筒8を冷却し、これらから4層構造の複合体を分離し、画像形成装置用転写ベルトを得た。
【0095】
得られた画像形成装置用転写ベルトは、厚み60μmのベース層(ポリイミド)上に、厚み200μmの弾性層(イオン導電化されたウレタン)と、厚み3μmのバインダー層(THV)と、厚み5μmの表層(PTFE)を有する画像形成装置用転写ベルトであり、表面抵抗率、離トナー性、非汚染性共に優れた画像形成装置用転写ベルトを得ることができた。
【0096】
また、画像形成装置用転写ベルトの体積抵抗値は、弾性層12により安定して制御されていた。
【0097】
なお、前記実施例においては、中子13により外筒8の内面を押圧し、ベース層11と弾性層12の複合層と、バインダー層14と表層9の複合層との複合体を得る方法として、中子13と外筒8の熱膨張係数の差を利用したが、このような方法以外の例えば空気圧を利用したり、瞬時の爆発力を利用する方法によってもよい。
【0098】
次に、本発明に用いる制電性塗料樹脂組成物の実験例と比較例を示す。なお、実験例、比較例中の部および%は、特に断らない限り重量部および重量%である。
【0099】
実験例および比較例に用いた各種成分は、以下のとおりである。
(A)成分
ポリウレタン樹脂系として、旭電化工業(株)製、商標名『ボンタイター UX−241』(アニオン系、ポリエステル主骨格、ウレタン固形分35%)を用いた。これを(A)−1成分とする。
ポリエステル樹脂系として、昭和高分子(株)製、商標名『ビオノーレエマルジョンEM−9018』(非イオン系、脂肪族ポリエステル骨格、ポリエステル固形分52.5%)を用いた。これを(A)−2成分とする。
【0100】
(B)−1成分
過塩素酸リチウム
(B)−2成分
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム
なお、(B)成分は(C)成分へ予め溶解したものを用いた。
(C)−1成分:(B)−2成分=80:20 %〔三光化学工業(株)製 サンコノールVC−2220R〕
(C)−3成分:(B)−2成分=80:20 %〔三光化学工業(株)製 サンコノール0862−20R〕
(C)−3成分:(B)−1成分=82:18 %〔三光化学工業(株)製 サンコノール0862−18〕
【0101】
(C)−1成分
アジピン酸系ポリエステル、Mn=800、末端脂肪族アルコキシ基、大日本インキ化学工業(株)製 商品名ポリサイザーW−220−EL
(C)−3成分
アジピン酸ジブトキシエトキシエチル 三光化学工業(株)製、商品名 サンコノール0862−0
【0102】
実験例1〜4、比較例1〜3
試験膜の調製;
(A)成分中の固形分100%に対し、(C)/(B)混合成分を2%となるように配合し、室温にて高速回転式混合機を使用して約3,000rpmの条件で30分混合して、混合拡散させた溶液をガラス板上に厚み150ミクロンとなるように製膜した。溶液の乾燥条件としては、室温×12時間後、120℃×2時間で行った。
乾焼後、試験膜を室温23±2℃、相対湿度50%中で24時間調整後、下記物性の測定を行った。
【0103】
表面抵抗率は、三菱化学(株)製、ハイレスタにて、ASTM D257に準じて測定を行なった。目的とする表面抵抗率は、1010Ω/sq.以下である。
ブリードの確認は、温度40℃、相対湿度90%中で、1日、あるいは1週間放置した場合の表面状態の観察を目視にて実施し、ブリード大のもの:×、若干感じられる程度:△、無いもの:○で示す。
作業性は、攪拌時間が短く短時間で分散するもの、および金属塩の計量精度の良いもの、また、施工性の良いものを:○、多少時間を要するが使用上特に問題無いものを:△、不適合なものを:×とした。
着色性は、全ての色彩に着色可能なものを:○、特定な色彩に着色可能なものを:△、着色不可能なものを:×とした。
以上の結果は表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
*)カーボンブラック:ライオン(株)製、商品名ケッチェンブラックEC
【0107】
表1から明かなように、実験例1〜4は、本発明に用いる制電性塗料樹脂組成物であり、表面抵抗率が低く、ブリードが生起しておらず安定した塗膜を持続する。
これに対し、比較例1は、アルカリ金属塩類および/またはアルカリ土類金属塩類を配合してない例であり、表面抵抗率が実用の範囲から外れる。比較例2は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを 7部配合したもので、ブリードがあり、塗膜が剥がれ易く、安定性のある塗料として使用できなかった。比較例3は、アルカリ金属塩類および/またはアルカリ土類金属塩類の替わりにカーボンブラックを配合したが、ポリウレタン樹脂への分散が悪く作業性が悪かった。さらに、塗膜が剥がれ易く、着色できない他、安定した塗料として使用できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の画像形成装置用転写ベルトの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の画像形成装置用転写ベルトの製造方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の画像形成装置用転写ベルトの製造方法の一例を示す図である。
【図4】本発明の画像形成装置用転写ベルトの製造方法の一例を示す図である。
【図5】本発明の画像形成装置用転写ベルトの製造方法の一例を示す図である。
【図6】画像形成装置用転写ベルトが用いられる画像転写方式の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0109】
1 トナー
2 現像ローラ
3 感光ドラム
4 一次転写ローラ
5 画像形成装置用転写ベルト
6 二次転写ローラ
7 転写材
8 外筒
9 表層
10 ドラム状金型
11 ベース層
12 弾性層
13 中子
14 バインダー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層上に、
水性樹脂塗料(固形分換算)100重量部に対し、アルカリ金属塩類および/またはアルカリ土類金属塩類0.0001〜5重量部を含有する制電性塗料樹脂組成物により形成されるイオン導電化された弾性層、
およびフッ素含有ポリマーにより形成される表層、
を有することを特徴とする画像形成装置用転写ベルト。
【請求項2】
ベース層が、カーボン導電化されたポリイミド(PI)、カーボン導電化されたポリアミドイミド(PAI)、またはカーボン導電化されたポリビニリデンフロライド(PVDF)により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項3】
制電性塗料樹脂組成物が、(A)水性樹脂塗料(固形分換算)100重量部に対し、さらに(C)下記式(1)もしくは(2)で表される構造を有するポリエステル化合物、ならびに下記式(3)で表される構造を有し、かつ全ての分子鎖端末がCH基および/またはCH基であるポリエーテル化合物の少なくとも1種0.01〜20重量部を含有する制電性塗料樹脂組成物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像形成装置用転写ベルト。
R−(Y−Z)−Y−R ・・・(1)
X−(Z−Y)−Z−X ・・・(2)
〔式(1)〜(2)中、Rは脂肪族アルコキシ基、脂環式アルコキシ基または芳香族アルコキシ基、Yは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または芳香族ジカルボン酸残基、Xは脂肪酸残基またはベンゼンモノカルボン酸残基、Zは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基、mは0以上の整数を示す。〕
−{O(AO)}−基 ・・・(3)
〔式(3)中、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜7の整数を示す。〕
【請求項4】
水性樹脂塗料が、ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項5】
アルカリ金属塩類のアルカリ金属が、リチウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項6】
弾性層の抵抗値(Ω)が、ベース層の抵抗値(Ω)より大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項7】
弾性層の抵抗値(Ω)が、ベース層の抵抗値(Ω)の10倍以上、10倍以下であることを特徴とする特徴とする請求項6に記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項8】
弾性層の体積抵抗値が、10〜1014Ω・cmであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項9】
フッ素含有ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキビニルエーテル(PFA)であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項10】
フッ素含有ポリマーが、ビニリデンフロライドを含む単量体の重合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項11】
フッ素含有ポリマーが、ポリビニリデンフロライド(PVDF)であることを特徴とする請求項10に記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項12】
フッ素含有ポリマーが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびビニリデンフロライドの共重合体(THV)であることを特徴とする請求項10に記載の画像形成装置用転写ベルト。
【請求項13】
画像形成装置用転写ベルトが、画像形成装置用転写定着ベルトであることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の画像形成装置用転写ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−78593(P2006−78593A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260071(P2004−260071)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】