説明

画像形成装置

【課題】画像形成装置において像担持体を帯電する帯電部材に対する印加電圧の決定が適正に行なえなかった場合でも、印加電圧を良好に保ち、安定した画像形成が行えるようにする。
【解決手段】交流電流値測定回路14は、交流電圧の複数の既知の電圧値(ピーク間電圧値)を帯電部材(帯電ローラ8)に対して印加したとき帯電部材に流れる交流電流値を測定する。複数の既知の電圧値と測定により得られた交流電流値とに基づいて、帯電部材と像担持体1との間の放電電流量が所定値となるように、帯電部材に印加すべき交流電圧の電圧値を算出する。この電圧値が異常値であった場合は、前記基準電圧とは異なった電圧を前記帯電部材に再印加して交流電流値を再測定して、交流電圧の電圧値を再算出する。この電圧値が異常値でなければ、この電圧値による印加電圧で帯電を行う。好ましくは、交流電流値を再測定する際、現像バイアスおよび転写バイアスの少なくとも一方を停止させて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関し、より詳しくは、像担持体の帯電を行なう画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真装置、静電記録装置等の画像形成装置において、感光体・誘電体等の被帯電体としての像担持体表面を帯電させる方法としては、細いコロナ放電ワイヤに高圧を印加して発生するコロナを像担持体表面に作用させて帯電を行う、非接触帯電方式としてのコロナ帯電方式が一般的であった。
【0003】
近年は、低圧プロセス、低オゾン発生量、低コストなどの点から、ローラ型、ブレード型などの帯電部材を像担持体表面に接触させ、帯電部材に電圧を印加することにより像担持体表面を帯電させる接触帯電方式が主流となりつつある。
【0004】
特に、ローラ型の帯電部材(すなわち帯電ローラ)は、長期にわたって安定した帯電を行うことが可能であるという利点を有する。帯電部材に対する印加電圧は直流電圧のみでもよいが、振動電圧を印加し、プラス側、マイナス側への放電を交互に起こすことにより、帯電を均一に行なうことができる。例えば、直流電圧を印加したときの被帯電体の放電開始電圧(帯電開始電圧)以上のピーク間電圧を有する交流電圧と、直流電圧(直流オフセットバイアス)とを重畳した振動電圧を印加することにより、被帯電体の帯電を均す効果があり均一な帯電を行なうことが知られている。
【0005】
上記のように、帯電部材に振動電圧を印加して帯電する接触帯電方式を以下「AC帯電方式」という。また、直流電圧のみを印加して帯電する接触帯電方式を「DC帯電方式」という。AC帯電方式においては、DC帯電方式と比べ、電圧印加により帯電部材と像担持体間に生じる総放電電流量が増えるため、像担持体削れ等の像担持体劣化を促進するとともに、放電生成物による高温高湿環境での画像流れ等の異常画像が発生する場合があった。よって、放電を必要以上に行なうと、像担持体劣化の促進や画像流れ等の要因となる放電生成物が過剰に形成されてしまう。逆に、放電が十分に行なわれないと、帯電不良が生じてしまう。そこで、必要最小限の帯電電圧印加により、プラス側、マイナス側へ交互に起こす放電を帯電不良の生じない最小限とする必要がある。
【0006】
しかし、実際には電圧と放電電流量の関係は常に一定ではなく、像担持体の感光体層や誘電体層の膜厚、帯電部材や空気の環境変動等により変化する。低温低湿環境(L/L)では材料が乾燥して抵抗値が上昇し放電しにくくなるため、均一な帯電を得るためには一定値以上のピーク間電圧が必要となる。このL/L環境において帯電均一性が得られる最低の電圧値においても、高温高湿環境(H/H)で帯電動作を行った場合、逆に材料が吸湿し抵抗値が低下するため、帯電部材は必要以上の放電を起こすことになる。その結果、放電電流量が増加すると、画像流れ等の画像不良の発生、トナー融着の発生、像担持体表面の劣化による像担持体削れ・短命化などの問題が生じる。
【0007】
放電電流量の変化による不具合は、前述の環境変動による原因の他に、帯電部材の製造ばらつきや汚れによる抵抗値変動、耐久による像担持体の静電容量変動、本体高圧装置のばらつきなどでも発生することが判っている。
【0008】
このような放電電流量の変化を抑制する為に、特許文献1で提案された「放電電流制御方式」がある。この方式によれば、前回転工程期間、プリント工程及び紙間工程において放電電流量が一定となるよう画像形成印加電圧のピーク間電圧値を制御することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−157501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述の「放電量制御方式」では、下記のような問題があった。
【0011】
すなわち、画像形成印加電圧のピーク間電圧値の算出をリアルタイムに行なう際に、帯電の交流電流値は現像バイアス等によるノイズの影響を受ける場合がある。そのような場合、ノイズの影響により電流波形が歪んでしまい、求められる画像形成印加電圧のピーク間電圧値に誤差が生じる。
【0012】
そこで、本発明は、画像形成装置において像担持体を帯電する帯電部材に対する印加電圧の決定が適正に行なえなかった場合でも、印加電圧を良好に保ち、安定した画像形成が行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による画像形成装置は、像担持体と、前記像担持体の表面を帯電する帯電部材と、帯電された前記像担持体表面に形成された静電潜像を可視化するために、現像バイアス電圧によって前記静電潜像を可視像にする現像手段と、前記可視像を転写バイアス電圧によって転写材に転写する転写手段と、基準電圧を前記帯電部材に印加し、前記帯電部材から前記像担持体に流れる電流値を検出し、検出された電流値に基づいて前記帯電部材に印加する交流電圧の電圧値を算出する制御部と、を備え、前記制御部は、前記算出した交流電圧の電圧値が異常値であるかを判断し、前記算出された交流電圧の電圧値が異常値であった場合は、前記基準電圧とは異なった電圧を前記帯電部材に再印加し、再算出された交流電圧の電圧値が異常値でなければ、再算出された交流電圧の電圧値によって前記帯電部材による前記像担持体の帯電をおこなうことを特徴とする。
【0014】
前記算出された交流電圧の電圧値が異常値であった場合に、前記交流電流値測定手段により前記基準電圧とは異なった電圧を前記帯電部材に再印加し、前記帯電部材に流れる交流電流値を再測定して、前記交流電圧の電圧値を再算出することにより、正常な電圧値を得られる可能性がある。
【0015】
特に、前記交流電流値測定手段により前記帯電部材に流れる交流電流値を再測定する際、現像バイアスおよび転写バイアスの少なくとも一方を停止させて行うことにより、交流電流値の測定に影響するノイズの発生を抑止し、正常な電圧値が得られる可能性を高めることができる。
【0016】
前記異常値の判断方法としては、例えば、前記算出された交流電圧の電圧値が予め定められた所定範囲に入っていないとき、異常値と判断することができる。
【0017】
前記画像形成装置は、温度湿度を検出する検出手段と、前記算出手段によって算出された交流電圧の電圧値と前記検出手段によって検出された温度湿度を対応づけて履歴情報として記憶する記憶手段と、前記算出された交流電圧の電圧値の異常値を所定回連続して検出したとき、前記履歴情報を参照し、現在の温度湿度の情報と近似した過去の温度湿度の情報に対応する交流電圧の電圧値を検索する検索手段と、を備え、前記検索手段により検索された前記現在の温度湿度と近似した交流電圧の電圧値を用いて前記帯電部材に交流電圧の電圧値を印加することを特徴とする。これにより、所定回の再測定によっても電圧値として正常な値が得られない場合でも画像形成動作を続行することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、求められた帯電制御用の適正な交流電圧の電圧値を得られなくなるような場合においても、安定した画像形成が可能となり、また、像担持体の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の画像形成装置の概略構成図である。
【図2】図1に示したプリンタの動作シーケンス図である。
【図3】本発明の実施の形態における帯電ローラに対する帯電バイアス印加系の構成例を示すブロック回路図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるピーク間電圧Vppに対する交流電流Iacの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態におけるピーク間電圧算出処理において測定するピーク間電圧(Vpp)と交流電流(Iac)の関係の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるピーク間電圧算出の動作概念図である。
【図7】本発明の実施の形態における制御部が実行する処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0021】
(1)画像形成装置の構成と動作の概略
図1は本実施の形態の画像形成装置の概略構成図である。本実施の形態の画像形成装置は、電子写真方式のレーザプリンタを例として説明する。
【0022】
本実施の形態における像担持体は、回転ドラム型の電子写真感光体(感光ドラム)1である。この感光ドラム1は負帯電性の有機感光体であり、不図示の駆動用モータによって矢印の時計方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0023】
感光ドラム1はその回転過程で帯電装置によって負の所定電位に一様に帯電処理を受ける。本例における帯電装置は、帯電部材としての帯電ローラ8を用いた接触帯電方式を採用したものである。帯電ローラ8は感光ドラム1に対して従動回転する。帯電ローラ8に対しては、帯電バイアス電源(不図示)からバイアス電圧が印加される。帯電バイアス電圧には、放電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧を有する交流電圧に、所望のドラム上電位に相当する直流電圧を重畳印加したものを用いる。この帯電方法は、直流電圧に交流電圧を重畳印加することによって、感光ドラム上の局所的な電位ムラを解消し、感光ドラム上を直流印加電圧に等しい電位に均一帯電することを狙いとしている。
【0024】
次いで感光ドラム1は、露光手段としての露光装置(不図示)による像露光を受ける。露光装置は、均一帯電された感光ドラム1上に静電潜像を形成するものであり、本例では、半導体レーザスキャナを用いた。露光装置は、画像形成装置内のホスト装置から送られてくる画像信号に対応して変調されたレーザ光を出力して、露光窓部を介して感光ドラム1の均一帯電面を走査露光(像露光)する。感光ドラム表面には、露光箇所の電位の絶対値が帯電電位の絶対値に比べて低くなることによって、画像情報に応じた静電潜像が形成される。
【0025】
このようにして形成された静電潜像は、反転現像装置10によりトナーが付着され(現像され)て、感光ドラム1上でトナー像として顕像化される。本例では、ジャンピング現像方式を用いた。この方式では、不図示の現像バイアス電源から現像スリーブ9に対して交流と直流を重畳した現像バイアス電圧を印加することによって、現像剤層厚規制部材(不図示)と現像スリーブ9の接触箇所で摩擦帯電により負極性に帯電されたトナーを感光ドラム表面の静電潜像に適用して静電潜像を反転現像する。
【0026】
その感光ドラム面のトナー像が給紙部3から給送された紙等の記録媒体P(転写材)に対して、転写装置(転写手段)にて転写される。本例の転写装置は、転写ローラ2を用いた接触転写装置である。転写ローラ2は感光ドラム1に対して感光ドラム中心方向に不図示の押圧バネなどの付勢手段によって押圧されている。転写材Pが搬送されて転写工程が開始されると、不図示の転写バイアス電源から転写ローラ2に対して正極性の転写バイアス電圧が印加され、負極性に帯電している感光ドラム1上のトナーは転写材P上に転写される。
【0027】
トナー像の転写を受けた転写材Pは感光ドラム面から分離され、定着手段である定着装置4へ導入されてトナー像の定着処理を受ける。定着装置4は、転写材に転写されたトナー像を熱や圧力などの手段を用いて永久画像に定着するものである。定着後の転写材Pは排紙ローラ6により排紙部へ排出される。なお、図示の経路7は両面印刷のための転写材Pの反転供給のための経路であり、本発明と直接関係しない。
【0028】
転写材分離後の感光ドラム面はクリーニング装置(不図示)により転写残トナーを掻き取られて清掃され、繰り返して作像に供される。クリーニング工程終了後、感光ドラム表面は再び帯電工程に入る。
【0029】
画像形成装置は、上記の手段を用いて、帯電、露光、現像、転写、定着、クリーニングの各工程を繰り返して画像形成を行う。
【0030】
(2)プリンタの動作シーケンス
図2は、図1に示したプリンタの動作シーケンス図である。以下、順次進行順に各工程について説明する。
【0031】
a.初期回転動作(前多回転工程)
停止状態からメイン電源スイッチONによりこの状態へ移行する。この期間は、プリンタの起動時の始動動作期間(起動動作期間、ウォーミング期間)である。まず、感光ドラムを回転駆動させる。また、定着装置の所定温度への立ち上げ等の所定のプロセス機器の準備動作を実行させる。
【0032】
本実施の形態においてはこの初期回転動作期間において、印字工程の帯電工程における印加交流電圧の適切な電圧値を算出する。本実施の形態では、この電圧値としてピーク間電圧値を算出する演算プログラムを実行する。この具体的な処理については後述する。
【0033】
b.印字準備回転動作(前回転工程)
この期間は、初期回転動作終了後にプリント信号−オンとなった時点から、実際に画像形成(印字)工程動作がなされるまでの間の画像形成前の準備回転動作期間である。初期回転動作中にプリント信号が入力したときには初期回転動作に引き続いて実行される。プリント信号の入力がないときには初期回転動作の終了後にメインモータの駆動が一旦停止されて感光ドラムの回転駆動が停止され、プリンタはプリント信号が入力されるまでスタンバイ(待機)状態に保たれる。プリント信号が入力すると印字準備回転動作が実行される。
【0034】
本実施の形態においては、初期回転動作aにおいて印字工程の帯電工程における印加交流電圧のピーク間電圧値の演算結果が異常値であるかどうかをチェックし、異常値を検出した場合、この印字準備回転動作期間bにおいて、印字工程の帯電工程における印加交流電圧のピーク間電圧値の演算プログラムが再実行(リトライ)される。その際、ノイズの発生を抑えるために現像バイアスおよび転写バイアスの少なくとも一方、好ましくは両方を一時的に停止させて行う。
【0035】
c.印字工程(画像形成工程または作像工程)
所定の印字準備回転動作が終了すると、引き続いて回転感光ドラムに対する作像プロセスが実行され、回転感光ドラム面に形成されたトナー画像の転写材への転写、定着装置によるトナー画像の定着処理がなされて画像形成物がプリントアウトされる。連続印字(連続プリント)モードの場合は上記の印字工程cが所定の設定プリント枚数n分繰り返して実行される。
【0036】
d.紙間工程
この期間は、連続印字モードにおいて、一の転写材の後端部が転写位置を通過した後、次の転写材の先端部が転写位置に到達するまでの間の、転写位置における記録紙の非通紙状態期間である。
【0037】
e.後回転動作
この期間は、最後の転写材の印字工程が終了した後もしばらくの間メインモータの駆動を継続させて感光ドラムを回転駆動させ、所定の後動作を実行させる期間である。
【0038】
f.スタンバイ
所定の後回転動作が終了すると、メインモータの駆動が停止されて感光ドラムの回転駆動が停止され、プリンタは次のプリントスタ−ト信号が入力するまでスタンバイ状態に保たれる。1枚だけのプリントの場合は、そのプリント終了後、プリンタは後回転動作を経てスタンバイ状態になる。スタンバイ状態において、プリントスタート信号が入力すると、プリンタは前回転工程に移行する。
【0039】
印字工程cが画像形成時であり、初期回転動作a、印字準備回転動作b、紙間工程d、後回転動作eが非画像形成時である。
【0040】
(3)帯電手段の詳細説明
(A)帯電バイアス印加系
図3は、本発明の帯電手段を構成する、帯電ローラ8に対する帯電バイアス印加系の構成例を示すブロック回路図である。
【0041】
帯電ローラ8に対する交流電圧印加手段である電源20は、直流(DC)電源11と交流(AC)電源12を有している。この電源20は直流電圧に周波数fの交流電圧を重畳した所定の振動電圧(バイアス電圧Vdc+Vac)を生成する。生成された振動電圧は芯金8aを介して帯電ローラ8に印加される。これにより、回転する感光ドラム1の周面が所定の電位に帯電処理される。振動電圧の波形としては正弦波に限らず、矩形波、三角波、パルス波でもよい。「振動電圧」には、直流電圧を周期的にオン/オフすることによって形成された矩形波の電圧や、直流電圧の値を周期的に変化させて交流電圧と直流電圧との重畳電圧と同じ出力としたものも含むものとする。
【0042】
制御部13は、電源20のDC電源11とAC電源12をオン・オフ制御して帯電ローラ8に直流電圧と交流電圧のどちらか、またはその両方の重畳電圧を印加するように制御する機能と、DC電源11から帯電ローラ8に印加する直流電圧値およびAC電源12から帯電ローラ8に印加する交流電圧のピーク間電圧値を制御する機能とを有する。すなわち、制御部13は、帯電ローラ8に印加すべき交流電圧のピーク間電圧値を算出する構成とする。本実施の形態では、制御部13は、本実施の形態では中央処理装置(CPU)およびこの中央処理装置が実行する制御プログラム(前記演算プログラムを含む)を格納した記憶部(メモリ)により構成される。メモリ内には、過去の履歴情報として、上述した環境情報に対応したピーク間電圧値、すなわち前記算出された交流電圧の電圧値と前記検出された温度湿度を対応づけた情報を記憶する。制御部13は、また、履歴情報を参照し、現在の環境情報と近似した過去の環境情報に対応するピーク間電圧値を検索する検索手段を構成する。
【0043】
交流電流値測定回路14は、感光ドラム1を介して帯電ローラ8に流れる交流電流値を測定する交流電流値測定手段である。この交流電流値測定回路14で測定された交流電流値情報が制御部13に入力される。
【0044】
環境センサ15は、プリンタが設置されている環境を検知する手段としての温度計と湿度計である。この環境センサ15で検知された環境情報が上記の制御部13に入力される。
【0045】
制御部13は、交流電流値測定回路14から入力される交流電流値情報、更には環境センサ15から入力の環境情報に基づいて、印字工程の帯電工程における帯電ローラ8に対する印加交流電圧のピーク間電圧値を演算・決定する演算プログラムを実行する機能を有する。記憶部16は、制御部13により読み書きされる記憶領域(好ましくは不揮発性メモリ)を有し、電圧値が算出されたときに検出された環境情報とそのピーク間電圧値とを対応づけて履歴情報として記憶する記憶手段を構成する。
【0046】
(B)ピーク間電圧算出(「放電量制御方式」)
次に、印字時に帯電ローラ8に印加する交流電圧のピーク間電圧の算出方法について説明する。
【0047】
図4のグラフに示すように、ピーク間電圧Vppに対する交流電流Iacの関係は、帯電開始電圧Vs(V)未満の領域(すなわち未放電領域)では所定の比率での線形の関係にある。ピーク間電圧Vppが帯電開始電圧Vs以上となる放電領域に入ると、ピーク間電圧Vppが増加するにつれて交流電流Iacが上記所定の比率より大きい比率で上昇する。放電の発生しない真空中での同様の実験においては直線性が保たれるため、両比率の傾斜間の領域(図示の黒塗り部分)が、放電に関与している電流の増分ΔIacであると考えられる。
【0048】
よって、帯電開始電圧Vs(V)未満のピーク間電圧Vppに対して電流Iacの比をαとしたとき、放電による電流以外のニップ電流などの交流電流はα・Vppとなる。帯電開始電圧Vs(V)以上の電圧印加時に測定されるIacとこのα・Vppとから、次式(1)によりその差分△Iacを求めることができる。
△Iac=Iac−α・Vpp ・・・(1)
【0049】
この△Iacを放電の量を代用的に示す放電電流量と定義する。
【0050】
この放電電流量は、環境および経年により変化する。それらによりピーク間電圧と放電電流量の関係、交流電流値と放電電流量との関係が変動するからである。
【0051】
帯電部材を帯電させる際に帯電部材から被帯電体に流れる電流が所定値となるように印加電圧を制御する定電流制御方式では、帯電部材から被帯電体に流れる総電流に基づいて制御が行われる。この総電流は、上記のように、接触部へ流れる電流(以下、ニップ電流:α・Vpp)と、被接触部での放電により流れる電流(以下、放電電流量:△Iac)との和になっている。よって、定電流制御方式では、実際に被帯電体を帯電させるのに必要な電流である放電電流だけでなく、ニップ電流も含めた形で制御が行われる。
【0052】
次に、目標の放電電流量をDとしたときに、この放電電流量Dが得られるピーク間電圧を決定する方法を説明する。
【0053】
本実施の形態では、印字準備回転動作時において制御部13で印字工程時の帯電工程における帯電ローラ8に対する印加交流電圧のピーク間電圧値の演算・決定処理を実行する。本実施の形態においてこの処理は、制御部13により演算プログラムの実行により実現される。
【0054】
以下、本実施の形態の動作をより具体的に、図5のVpp−Iacグラフと、図6の動作概念図とを参照して説明する。
【0055】
制御部13はAC電源12を制御して、順次、帯電ローラ8に放電領域における複数の既知の基準電圧値、この例ではピーク間電圧(Vpp)の3点の電圧Vα1、Vα2、Vα3、および、未放電領域における複数の既知の基準電圧値、この例ではピーク間電圧の3点の電圧Vβ1、Vβ2、Vβ3を印加する。その際の感光ドラム1を介して帯電ローラ8に流れる交流電流値Iα1、Iα2、Iα3、Iβ1、Iβ2、Iβ3が交流電流値測定回路14で測定されて制御部13に入力される。又、本実施の形態における再測定時に電圧Vα1、Vα2、Vα3、および電圧Vβ1、Vβ2、Vβ3を当初の値と異なる値を印加し、ノイズによる影響を軽減させる。
【0056】
次に制御部13は、上記測定された各3点の電流値から、最小二乗法を用いて、放電、未放電領域のピーク間電圧と交流電流の関係を直線近似し、以下の式2と式3とで表される近似直線を求める。
【0057】
放電領域の近似直線 :Y=αX+A ・・・(2)
未放電領域の近似直線 :Y=βX+B ・・・(3)
【0058】
式(2)の放電領域の近似直線と式(3)の未放電領域の近似直線との差分に基づいて、放電電流量Dとなるピーク間電圧Vxを次式によって決定する。すなわち、Vxに対する式(2)のY値をYα、式(3)のY値をYβし、これらの値を式(2)(3)に代入すると次の式(2)’(3)’が得られる。
【0059】
Yα=αVx+A ・・・(2)’
Yβ=βVx+B ・・・(3)’
【0060】
これらの式(2)’(3)’から次式のようにVxが求められる。
Vx=(D−A+B)/(α−β) ・・・(4)
(ここにD=Yα−Yβである。)
【0061】
帯電ローラ8に印加するピーク間電圧Vppを上記の式(4)で求めたVxに切り替え、前記した印字工程へと移行する。
【0062】
図7は、制御部13が実行する処理を示したフローチャートである。
【0063】
制御部13は、前多回転工程において、帯電工程における印加交流電圧のピーク間電圧値を求めるための演算プログラムを実行する(S101)。ついで、この演算結果が異常値であるかどうかをチェックする(S102)。異常値かどうかは、求められたD値が予め定められた所定範囲内に入っているかどうかで判断することができる。すなわち、予め定められた所定範囲に入っていないとき、異常値と判断する。この所定範囲とは、実験により予め算出されているピーク間電圧の電圧値と交流電流値の値から±3%の範囲である。この範囲であれば、画像に影響ない。又、この所定範囲はその時点の温度湿度(以下、環境情報と明記する)によって異なる範囲としてもよい。演算結果に異常値がなければ(S102、No)、ピーク間電圧値を決定する(S107)。
【0064】
演算結果に異常値を検出した場合(S102、Yes)、異常値の検出が予め定めた所定回連続して発生したか否かを確認する(S103)。
【0065】
連続発生回数が所定回に達しなければ、前回転工程において、ノイズの発生を抑えるために現像バイアスおよび転写バイアスを一時的に停止させて、印加交流電圧のピーク間電圧値の演算プログラムを再実行(リトライ)し(S104)、ステップS102に戻る。
【0066】
異常値検出が所定回続いた場合は、過去の履歴情報を参照し(S105)、現在の環境情報に近似した過去の環境情報に対応したピーク間電圧値をメモリ内から探索する。当該ピーク間電圧値が存在すれば(S106、Yes)、それを利用して、求めるピーク間電圧値を決定する(S107)。また、履歴情報を更新する(S108)。更新は、現在の環境情報に対応したピーク間電圧値がメモリ内に記憶されていない場合に限って行うようにしてもよい。また、記憶されている場合にも、その記憶内容を新たな内容に更新するようにすれば、帯電特性の経年変化等に対応することができる。当該ピーク間電圧値が存在しなければ(S106、No)、エラー終了する。エラー終了に替えて、記憶されている過去の環境情報のうち現在の環境情報に最も近いものに対応したピーク間電圧値を用いるようにしてもよい。
【0067】
この様に、毎回、印字準備回転動作時において、印字時に所定の放電電流量Dを得るために必要なピーク間電圧Vxを算出し、印字中には求めたピーク間電圧Vxを用いることにより、帯電ローラ8の製造ばらつきや材質の環境変動に起因する抵抗値のふれや、本体装置の高圧ばらつきを吸収し、確実に所望の放電電流量を得ることが可能となる。
【0068】
以上のように本実施の形態によれば、ノイズの影響により、算出された印加交流電圧のピーク間電圧が異常であった場合に、その異常値を検出して、再度、ピーク間電圧算出処理を行うことにより、安定した帯電制御が可能になる。その結果、像担持体に過剰に放電が作用することに伴う像担持体の劣化の促進による削れの悪化、短寿命化、放電生成物の生成の増加による画像流れ等の画像不良や、十分な帯電が行なわれないことによる帯電不良等の問題をなくし、均一な帯電を行なうことができる。これにより、長期にわたり安定した画像形成を維持することができる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、画像形成装置として電子写真方式のレーザプリンタについて説明したが、本発明の画像形成装置はレーザ方式に限るものではなく、像担持体の帯電を行う任意の記録方式に適用できる。また、プリンタに限るものではなく、複写機、ファクシミリ等にも適用可能である。帯電部材はローラ型のものに限らない。
【符号の説明】
【0070】
2 転写ローラ
3 給紙部
4 定着装置
6 排紙ローラ
7 経路
8 帯電ローラ
8a 芯金
9 現像スリーブ
10 反転現像装置
11 電源
12 電源
13 制御部
14 交流電流値測定回路
15 環境センサ
16 記憶部
20 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電する帯電部材と、
帯電された前記像担持体表面に形成された静電潜像を可視化するために、現像バイアス電圧によって前記静電潜像を可視像にする現像手段と、
前記可視像を転写バイアス電圧によって転写材に転写する転写手段と、
基準電圧を前記帯電部材に印加し、前記帯電部材から前記像担持体に流れる電流値を検出し、検出された電流値に基づいて前記帯電部材に印加する交流電圧の電圧値を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記算出した交流電圧の電圧値が異常値であるかを判断し、前記算出された交流電圧の電圧値が異常値であった場合は、前記基準電圧とは異なった電圧を前記帯電部材に再印加し、再算出された交流電圧の電圧値が異常値でなければ、再算出された交流電圧の電圧値によって前記帯電部材による前記像担持体の帯電をおこなうことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御部により前記帯電部材に流れる電流を再測定する際、現像バイアスおよび転写バイアスの少なくとも一方を停止させておこなうことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記算出された交流電圧の電圧値が予め定められた所定範囲に入っていないとき、異常値と判断する請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
温度湿度を検出する検出手段と、
前記算出手段によって算出された交流電圧の電圧値と前記検出手段によって検出された温度湿度を対応づけて履歴情報として記憶する記憶手段と、
前記算出された交流電圧の電圧値の異常値を所定回連続して検出したとき、前記履歴情報を参照し、現在の温度湿度の情報と近似した過去の温度湿度の情報に対応する交流電圧の電圧値を検索する検索手段と、を備え、
前記検索手段により検索された前記現在の温度湿度と近似した交流電圧の電圧値を用いて前記帯電部材に交流電圧の電圧値を印加することを特徴とする請求項1、2または3に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−133686(P2011−133686A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293496(P2009−293496)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】