画像形成装置
【課題】記録材の搬送速度を切り替えた場合も、定着ムラの少ない高画質な画像を出力することができる画像形成装置を提供する。
【解決手段】通電されることで発熱する加熱ヒータ224を有する定着器115と、交流電源からの電力供給を制御する制御部220とを備える画像形成装置において、制御部220は、交流電源の連続する複数の半波を1制御周期として電力を制御すると共に、記録材上において第1発熱体203によって加熱された部分が第2発熱体204の加熱領域に到達するタイミングと、第1発熱体203への電力供給の制御を開始してから時間差を経て第2発熱体204への電力供給の制御を開始するタイミングとが同じにならないようにする。
【解決手段】通電されることで発熱する加熱ヒータ224を有する定着器115と、交流電源からの電力供給を制御する制御部220とを備える画像形成装置において、制御部220は、交流電源の連続する複数の半波を1制御周期として電力を制御すると共に、記録材上において第1発熱体203によって加熱された部分が第2発熱体204の加熱領域に到達するタイミングと、第1発熱体203への電力供給の制御を開始してから時間差を経て第2発熱体204への電力供給の制御を開始するタイミングとが同じにならないようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を記録材上に定着させる定着器を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やレーザビームプリンタ等の画像形成装置において、セラミックヒータを熱源とするフィルム加熱方式の熱定着器が知られている。このような熱定着器では、記録材の搬送方向に複数の発熱体が配置されており、それぞれの発熱体に対してスイッチング素子を介して交流電源から電力を供給することで、発熱体の温度を所望の加熱温度に制御している。発熱体への電力供給の制御方式としては、位相制御や波数制御が知られているが、特許文献1には、複数半波を一制御周期とするうちの一部の半波を位相制御し、残りを波数制御する制御方式が提案されている。このように位相制御と波数制御とを組み合わせる制御方式を、ここでは「ハイブリッド制御」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−123941号公報
【特許文献2】特開平5−333726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記従来の画像形成装置には次の課題がある。上述の定着器では、記録材が発熱体を通過している時に発熱体のON/OFFが行われるために、記録材上には、通電状態にある発熱体を通過する領域と、通電されていない状態の発熱体を通過する領域とが存在することになる。言い換えると、記録材上には、発熱体によって加熱される部分と加熱されない部分が存在することになる。これにより、定着した画像にすじ等の濃淡差が出ることを定着ムラと呼んでいる。一般的に、波数制御やハイブリッド制御の方が、発熱体のON/OFFする周期が長いために定着ムラが見えやすい傾向にある。また、制御方式の他に、記録材の搬送速度も、定着ムラの見えやすさに影響する。
【0005】
さらに、記録材の搬送方向に対して複数の発熱体を有する場合には、複数の発熱体から与えられる総熱量が定着ムラに影響する。例えば二本の発熱体を有する場合は、記録材上に、二本の発熱体の両方に加熱される部分と、いずれの発熱体にも加熱されない部分とが生じると、それが定着ムラとして現れる。この定着ムラは、発熱体間の距離、記録材の搬送速度、及び制御方式の関係によって、ムラの濃淡差、発生周期などが変化する。
【0006】
これに対して、一本目の発熱体により加熱された部分がもう一度加熱されないように、また、一本目の発熱体で加熱されなかった部分を他の発熱体で加熱して、記録材に与える熱量が均一になるように、最適な発熱体間の距離を決定する方法が提案されている。例えば特許文献2には、複数の発熱体を位相制御するときに、交流電源周波数と記録材の搬送速度から、定着ムラの出にくい最適な発熱体間隔を決定する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これまでの画像形成装置では、記録材に対して単一の搬送速度で印字を行う場合は定着ムラを低減できるものの、記録材の種類やサイズ等に応じて搬送速度を複数に切り替えて印字する場合は定着ムラを低減することが困難である。つまり、記録材の搬送速度を切り替えると、複数の発熱体から受ける総熱量が多い部分と少ない部分との差が大きくなり、搬送速度切り替え時に定着ムラが発生する可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、記録材の搬送速度を切り替えた場合も、定着ムラの少ない高画質な画像を出力することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
記録材上に画像を形成する画像形成部と、商用電源から供給される電力によって発熱する発熱体が複数形成されている加熱ヒータと、前記加熱ヒータを内側に有する加熱回転体と、前記加熱ヒータの反対側から前記加熱回転体を挟むようにして前記加熱回転体に圧接してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部において前記加熱回転体の回転方向に搬送される記録材の搬送方向に並ぶ前記複数の発熱体から熱を付与することで、前記ニップ部において記録材上に形成されている画像を記録材上に定着させる定着器と、前記発熱体へ供給する電力を前記発熱体ごとに制御可能な制御部と、を備える画像形成装置において、前記制御部は、前記商用電源の連続する複数の半波を1制御周期として前記発熱体に供給する電力を制御すると共に、記録材上において前記複数の発熱体のうちの第1発熱体によって加熱された部分が前記第1発熱体よりも記録材の搬送方向下流側にある第2発熱体の加熱領域に到達するタイミングと、前記第1発熱体への電力供給の制御を開始してから時間差を設けて前記第2発熱体への電力供給の制御を開始するタイミングとが同じにならないように、記録材の搬送速度に応じて、前記時間差を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録材の搬送速度を切り替えた場合も、定着ムラの少ない高画質な画像を出力することができる画像形成装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る画像形成装置の概略構成図。
【図2】本発明における電力供給回路の概略構成図。
【図3】本発明におけるセラミック面発ヒータの概略構成図。
【図4】本発明における定着器の概略構成図。
【図5】本発明におけるゼロクロス検知回路、交流電源波形、及びZEROX波形。
【図6】本発明における電流波形を示す図。
【図7】本発明におけるハイブリッド制御の制御パターンを示す図。
【図8】本発明における制御パターンと電流波形を示す図。
【図9】本発明において記録材上に与える電力の分布を示す図。
【図10】本発明における制御フローを示す制御フローチャート図。
【図11】本発明における電流波形を示す図。
【図12】本発明におけるハイブリッド制御の制御パターンを示す図。
【図13】本発明における制御パターンと電流波形を示す図。
【図14】本発明において記録材上に与える電力の分布を示す図。
【図15】本発明における制御フローを示す制御フローチャート図。
【図16】本発明における制御パターンと電流波形を示す図。
【図17】本発明において記録材上に与える電力の分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
(1−1:画像形成装置の概略構成)
図1を参照して、本実施形態に係る画像形成装置の概略構成を示す。画像形成装置には、その下方に、複数の記録材を積載可能な給送カセット101が設けられている。画像形成開始の信号が入力されると、給送カセット101に積載された記録材がピックアップローラ102によって1枚ずつ給送カセット101から送出され、給送ローラ103によっ
てレジストローラ104に向けて搬送される。さらに記録材はレジストローラ104によって所定のタイミングでプロセスカートリッジ105(画像形成部)へ搬送される。
【0013】
プロセスカートリッジ105は、帯電ローラ106、現像ローラ107、クリーニング部材108、および電子写真感光体である感光体ドラム109が一体的に収容されているものであって、画像形成装置の装置本体に対して着脱可能に構成されている。
【0014】
記録材上に画像を形成する際は、まず、帯電ローラ106によって感光体ドラム109の表面が一様に帯電される。その後、像露光手段であるスキャナユニット111により、画像信号に基づいた像露光が行なわれる。スキャナユニット111内にはレーザ光を射出するレーザダイオード112、回転するポリゴンミラー113、反射ミラー114が設けられている。レーザダイオード112から射出されたレーザ光は、ポリゴンミラー113、反射ミラー114によって主走査方向に、感光体ドラム109の回転によって副走査方向に走査される。これにより、感光体ドラム109には2次元の潜像が形成される。
【0015】
感光体ドラム109に形成された潜像は、現像ローラ107から供給されるトナーによってトナー像として可視化され、トナー像は転写ローラ110と感光体ドラム109とのニップ部において、レジストローラ104から搬送されてきた記録材上に転写される。
【0016】
トナー像が転写された記録材は定着器115に搬送され、定着器115において記録材上の未定着トナー像が加熱加圧処理され、記録材上にトナー像が定着する。記録材はさらに中間排出ローラ116、排出ローラ117によって画像形成装置本体外に排出され、一連のプリント動作を終える。
【0017】
(1−2:定着器の概略構成)
図4を参照して、定着器115の概略構成について説明する。図4は、定着器115の概略構成を示すものである。定着器115は、可撓性を有する耐熱性の加熱スリーブ402(加熱回転体)と、それに圧接する弾性加圧ローラ403(加圧部材)を有する加熱フィルム方式の定着器である。加熱スリーブ402は、スリーブガイド401に外嵌した状態で弾性加圧ローラ403に従動回転し、両者によって形成される所定幅の定着ニップ部において、記録材上のトナー像を加熱、加圧することで、トナー像を記録材上に定着することができる。また、スリーブガイド401の内側には剛性部材によって形成されているステー404が設けられている。
【0018】
加熱スリーブ402の内側には、スリーブガイド401の下面側に支持されたセラミック面発ヒータ224(加熱ヒータ)が設けられている。セラミック面発ヒータ224は板状のヒータであって、その長手方向が加熱スリーブ402の回転方向に直交するように設けられている。また、弾性加圧ローラ403は、セラミック面発ヒータ224の反対側から加熱スリーブ402を挟むようにして加熱スリーブ402に圧接している。
【0019】
セラミック面発ヒータ224は、SiC、ALN、Al2O3等によって形成されるセラミックス系の絶縁基板301と、絶縁基板301上に長手方向に沿ってペースト印刷等で複数形成されている発熱体203(第1発熱体)、204(第2発熱体)を有している。さらに、2本の発熱体は、ガラス材による保護層302によって、その表面が保護されている。
【0020】
また、絶縁基板301において、発熱体203、204が形成されている側とは反対側には、温度検出素子としてのサーミスタ222が設けられている。また、図4では不図示であるが、セラミック面発ヒータ224には、セラミック面発ヒータ224の長手方向端部の温度を検出するサーミスタ223や、サーモスイッチ等も設けられている。
【0021】
発熱体203、204の抵抗値は、長手方向に沿って抵抗値が均一になるようにしてもよいが、長手方向端部にいくほど発熱比率が低くなるように抵抗値を変えてもよい。例えば、小サイズの記録材を加熱する場合は、発熱体203、204の長手方向端部が記録材が通過しない非通過領域となるので、長手方向端部は中央部と比較すると温度が上昇し易い。よって、発熱体203、204の長手方向にわたって加熱温度をほぼ均一にするためにも、長手方向の端部と中央部とで抵抗値に比率を持たせてもよい。このような発熱体を有するヒータを「テーパヒータ」と呼ぶ。
【0022】
また、加熱スリーブ402の摺動性を向上させるために、加熱スリーブ402とセラミック面発ヒータ224との界面に摺動性のグリスを塗布してもよい。また、セラミック面発ヒータ224の発熱体203、204はニップ側にあっても、ニップと反対側にあってもよい。
【0023】
ここで説明した加熱フィルム方式の定着器115によれば、加熱スリーブ402の内側面とセラミック面発ヒータ224とが直接接触するので、セラミック面発ヒータ224で生じた熱を効率良く定着ニップ部に付与することができる。よって、十分な加熱温度でトナー像を加熱しつつ、定着器115の消費電力の低減、立ち上がり時間の短縮化等の効果を得ることができる。
【0024】
(1−3:電力供給回路の構成)
図2を参照して、定着器115の発熱体203、204に電力を供給するための電力供給回路について説明する。
【0025】
図2中の201は交流電源(商用電源)であり、ACフィルタ202を通して、発熱体203と発熱体204に接続されている。発熱体203と発熱体204は、交流電源201と並列に接続されており、交流電源201から供給される電力は、発熱体203と発熱体204のそれぞれに供給される。
【0026】
発熱体203への電力供給はトライアック205で通電、遮断され、発熱体204への電力供給はトライアック206により通電、遮断される。207、208はトライアック205のためのバイアス抵抗であり、209は一次側と二次側の沿面距離を確保するためのフォトトライアックカプラである。フォトトライアックカプラ209の発光ダイオードに通電することにより、トライアック205がONされる。211はフォトトライアックカプラ205の電流を制限するための抵抗である。212はトランジスタで、フォトトライアックカプラ205をON/OFF制御するものである。
【0027】
トランジスタ212は抵抗213を介してエンジンコントローラ220からのFSRD1に従って動作する。ここでエンジンコントローラ220は、発熱体203、204へ供給する電力を発熱体毎に制御可能な制御部に相当する。FSRD1は、トランジスタ212をONしてフォトトライアックをONしたいときには「High」を出力し、トランジスタ212をOFFしてフォトトライアックをOFFしたいときには「Low」を出力する。
【0028】
214、215はトライアック206のためのバイアス抵抗であり、216は一次側と二次側の沿面距離を確保するためのフォトトライアックカプラである。フォトトライアックカプラ216の発光ダイオードに通電することにより、トライアック206がONされる。217はフォトトライアックカプラ206の電流を制限するための抵抗である。218はトランジスタで、フォトトライアックカプラ206をON/OFF制御するものである。トランジスタ218は、抵抗219を介してエンジンコントローラ220からのFS
RD2に従って動作する。
【0029】
221はACフィルタ202を介して交流電源201に接続したZEROX検知回路(ゼロクロス検知回路)である。ZEROX検知回路221は、交流電源電圧が閾値以下の電圧になっていることを、エンジンコントローラ220に対してパルス信号(以下「ZEROX信号」と呼ぶ。)として報知する。エンジンコントローラ220はZEROX信号のパルスのエッジを検出し、後述する位相制御や波数制御、ハイブリッド制御と呼ぶ制御によりトライアック205、206をON/OFF制御する。
【0030】
222は、セラミック面発ヒータ224の温度を検出するためのサーミスタである。サーミスタ222は、セラミック面発ヒータ224上に発熱体203、204に対して絶縁距離を確保できるように絶縁耐圧を有する絶縁物を介して配置されている。
【0031】
また、サーミスタ223は、セラミック面発ヒータ224の長手方向端部の温度を検出するためのサーミスタである。サーミスタ223は、セラミック面発ヒータ224上の長手方向端部に発熱体203、204に対して絶縁距離を確保できるように絶縁耐圧を有する絶縁物を介して配置されている。
【0032】
サーミスタ222、223によって検出される温度は、エンジンコントローラ220にA/D入力される。セラミック面発ヒータ224の温度はエンジンコントローラ220で監視されており、エンジンコントローラ220内部に設定されている温度と比較されることによって、発熱体203、204に供給する電力が算出される。そして、供給する電力を、位相角または波数に換算し、その算出した条件により、エンジンコントローラ220がトランジスタ212にFSRD1、トランジスタ218にFSRD2を送出する。
【0033】
FSRD1は、フォトトライアックカプラ209を発光するためにトランジスタ212を駆動する信号であり、FSRD2は、フォトトライアックカプラ216を発光するために、トランジスタ218を駆動する信号である。以下、それぞれの信号をFSRD1、FSRD2と呼ぶ。このFSRD1、FSRD2を用いて、発熱体203、204に供給する電力量の制御を行っている。
【0034】
225は、記録材の搬送を行う搬送系の駆動源、及び感光体ドラム109の駆動源として利用されるモータである。エンジンコントローラ220は、モータ225から発信される速度信号パルス(FG)を受けてモータ225の速度を読み取る。また、FG信号と基準クロックとの比較を行い、加速信号(ACC)と減速信号(DEC)をモータ225に出力することにより、記録材の搬送速度、プロセス速度の制御を行っている。さらには、記録材の搬送速度を、記録材のサイズ等の条件に合わせて切り替え、モータ回転速度を変更するように命令している。
【0035】
図3(a)、(b)を参照して、セラミック面発ヒータ224の発熱体と上述した電力供給回路との接続部分について説明する。なお、図3(a)は、セラミック面発ヒータ224の概略断面図であり、その構成は上述した通りである。また、図3(b)は、セラミック面発ヒータ224の発熱体の形状を示すものである。ここでは2パターンを図示しているが、発熱体は、その長手方方向と記録材の搬送方向とが直交するように、記録材の搬送方向に複数並べて設けられていればよい。
【0036】
図3(b)に示すセラミック面発ヒータ224には、2本の発熱体203、204と、電極部303、304、305が設けられている。ここで発熱体203は、記録材の搬送方向上流側にある発熱体、発熱体204は、記録材の搬送方向下流側にある発熱体、といえる。電極部303は発熱体203への電力供給を行い、電極部304は発熱体204へ
の電力供給を行っている。電極部305は、発熱体203、204の共通の電極となっている。共通の電極305は、交流電源201のHOT側端子に接続され、電極部303はトライアック205に、電極部304はトライアック206に接続されている。
【0037】
(1−4:位相制御と波数制御について)
セラミック面発ヒータ224の発熱体203、204への電力供給は、位相制御と波数制御を組み合わせたハイブリッド制御によって行われている。ここで、位相制御と波数制御について説明する。
【0038】
位相制御は、交流電源を1半波内の任意の位相角でヒータをONすることでヒータに電力を供給する方式である。位相制御は、半波ごとに電流が流れるため、電流の変化量および変化周期が小さく、照明機器と同一電源に接続された電気機器の負荷電流変動と配電線のインピーダンスにより交流電源における電圧変動が小さい。そのため、照明機器のちらつきであるフリッカを抑えるには有利な制御方式である。しかし、ヒータをON/OFFすると急激な電流変動が生じて高調波電流が発生するため、高調波電流を抑えるには不利となる。
【0039】
一方、波数制御はヒータのON/OFFを交流電源の半波単位で行う電力制御方式である。波数制御では、半波ごとにヒータのON/OFFするために高調波電流が発生しにくいので、位相制御に比べて高調波電流を抑えるには有利である。しかし、前述したフリッカに対しては、位相制御よりも電流変動が大きく、フリッカが発生しやすい。
【0040】
また、位相制御と波数制御を組み合わせたハイブリッド制御によると、位相制御だけの場合と比較すると、高調波電流やスイッチングノイズの発生を抑えることができる。さらに、波数制御だけの場合と比較すると、フリッカを低減することができ、ヒータへの電力制御をより多段階に制御することができる。なお、本実施形態におけるハイブリッド制御の詳細については後述する。
【0041】
(1−5:ゼロクロス検知回路とZEROX波形について)
図5(a)に、ゼロクロス検知回路221(ZEROX検知回路)の詳細を示す。また、図5(b)に、交流電源波形とZEROX波形を示す。交流電源201からの交流電圧は、図5(a)に示すゼロクロス検知回路221に入力され、整流器501、502により半波整流される。本回路においては、Neutral側が整流されている。この半波整流された交流電圧は、抵抗505、コンデンサ504、電流制限抵抗503、506を介して、トランジスタ507のベースに入力される。Neutral側の電位が、不図示の全波整流するダイオードブリッジや整流器501、502、トランジスタ507により決まる閾値電圧Vzよりも高い場合、つまり、Neutral側の電位がHot側の電位よりも高い場合にトランジスタ507はONとなる。一方、Neutral側の電位がHot側の電位よりも低くなるとトランジスタ507はOFFとなる。
【0042】
フォトカプラ509は、一次・二次間の沿面距離を確保するための素子であり、抵抗508、510は、フォトカプラ509に流れる電流を制限するための抵抗である。Neutral側の電位がHot側の電位より高くなるとトランジスタ507はONするため、フォトカプラ509内の発光ダイオード509aは消灯し、フォトトランジスタ509bはOFFしてフォトカプラ509の出力電圧はHighとなる。
【0043】
一方、Neutral側の電位がHot側の電位より低くなるとトランジスタ507はOFFするのでフォトカプラ509内の発光ダイオード509aが発光し、フォトトランジスタ509bはONしてフォトカプラ509の出力電圧はLowとなる。つまり、ZEROX信号は、Hot側電位がNeutral側電位に対して、閾値電圧Vz以上/以下
の場合でレベルが切り替わるパルス信号となる。
【0044】
このフォトカプラ509の出力が抵抗512を介してゼロクロス(ZEROX)信号としてエンジンコントローラ220に報知される。エンジンコントローラ220は、このゼロクロス信号の立ち上がり及び立ち下がりのエッジを検知し、このエッジをトリガにしてトライアック205、206をON/OFFすることで発熱体203、204へ電力を供給する。
【0045】
しかしながら、閾値電圧Vz≠0(V)ではないために、ZEROX信号の立ち上がりエッジは、真のゼロクロスポイントからずれる。同様に立ち下がりエッジもずれる。このZEROX信号をそのまま位相制御のトリガ信号とすると、ずれた分の時間差が、入力電源の正負の極性による位相のずれとなる。そこで、エンジンコントローラ220が、ZEROX信号の立下がり信号の周期(2T)を測定し、その半分の時間Tを算出する。その後、エンジンコントローラ220内において、時間Tにおいて擬似的に立上がりエッジを生成する。以下、この立下がりエッジと擬似的な立上がりエッジの組み合わせを制御ZEROX信号と呼ぶ。エンジンコントローラ220は、この制御ZEROX信号をトリガ信号として制御を行う。
【0046】
(1−6:ハイブリッド制御について)
図6を参照して、本実施形態におけるハイブリッド制御について説明する。上述したようにハイブリッド制御は、1制御周期において、交流電源の半波単位でON/OFFする波数制御と、交流電源を1半波内の任意の位相角でヒータをONすることでヒータに電力を供給する位相制御とを組み合わせた制御である。電圧変動を示すフリッカを抑制することは難しいものの高調波電流の少ない波数制御と、フリッカを抑制しやすいが高調波電流を発生させてしまう位相制御の両方を用いているため、ハイブリッド制御は、フリッカと高調波の影響のバランスをとった制御といえる。例えば、連続する8半波を制御の1周期とし、1制御周期の中でONする半波の数と位相角の状態を変えていくことで、ヒータへの供給電力を制御するといった制御方法が可能である。
【0047】
図6のFSRD1とFSRD2の波形は、図2で説明したエンジンコントローラ220から出力されるFSRD1とFSRD2の波形であり、図5で説明した制御ZEROX回路を基準として出力される波形である。ハイブリッド制御の場合は、位相0または任意の位相でヒータをONするので、FSRD1とFSRD2は、図6に示すようにZEROX信号の所望の位相でパルスが出力される。
【0048】
FSRD1とFSRD2により制御され、各々の発熱体に流れる電流波形は、発熱体203の電流波形と発熱体204の電流波形に現れる。本実施形態では、発熱体203と発熱体204の抵抗値を異ならせているために、電流波形の振幅がそれぞれ異なっている。よって、ここで発熱体電流波形として示しているのは、発熱体203と発熱体204に流れる電流の合成波形である。
【0049】
(1−7:電力制御の制御パターンについて)
図7を参照して、上述したハイブリッド制御によって発熱体203、204への供給電力を制御する際の制御パターンについて説明する。図7は、8半波を1制御周期としたハイブリッド制御の制御パターンを、発熱体203と発熱体204ごとに示すものである。ここで各表の縦軸は、発熱体に供給される電力の0%から100%までを40分割して表したものである。また、横軸は、それぞれの発熱体に供給する電力に応じて、1半波内においてONしている期間が占める割合を数字で示したものである。なお、図示する制御パターン表の各セルには100(%)〜0(%)が2.5%刻みで入る。
【0050】
どちらの発熱体も1制御周期内で交流電源の正の通電位相と負の通電位相の関係が対称になるようにする。つまり、1制御周期内での電流波形は正側と負側で対称となる。そして上述したヒータ駆動回路により、上流の発熱体203と下流の発熱体204をそれぞれ独立に図7(a)、(b)に示すパターンで制御する。例えば、50%の電力を発熱体203、204に供給したい場合、上流の発熱体203は(a)の50%を、下流の発熱体204も(b)の50%を選択する。よって、両発熱体を合わせて50%の電力が発熱体に供給されることになる。この制御パターンはあらかじめ上述した図2に示すエンジンコントローラ220で記憶しておき、投入したい電力に応じて選択するとよい。
【0051】
(1−8:制御パターンの制御開始時間差について)
図8を参照して、本実施形態における制御パターンの制御開始時間差について説明する。図8(a)は、図7に示す50%の電力を投入する時の制御パターンである。発熱体203と発熱体204の制御を上下に並べ、発熱体204の制御は、発熱体203の制御パターンから制御開始タイミングをずらし、そのずらし量を場合分けして並べたものを示している。また、そのずらし量は1半波のn倍である。また、図8(b)は、図8(a)で発熱体を制御する時の電流波形を示している。ここでは、複数の半波から構成される1制御周期の先頭の1半波目を1制御周期の開始時間とする。また、交流電源1半波である交流電源の周期の半分は、交流電源の周波数に依存し、交流電源周波数の逆数で表される。
【0052】
本実施形態では、定着ムラを低減する方法として、上流の発熱体203で温められた記録材のある点が、下流の発熱体204によりもう一度温められないように、上流の発熱体203と下流の発熱体204の制御開始タイミングをずらしている。すなわち、発熱体203と発熱体204の制御開始時間差を下記の(1)式によって求めている。
【0053】
【数1】
【0054】
ここでは、vを搬送速度[mm/sec]とし、発熱体203と発熱体204のそれぞれ幅方向の中心を基準とする発熱体間の距離をA[mm]とし、交流電源の周波数をfとする。またnは整数とし、図8に示すように上述した制御開始時間差が半波の何倍に相当するかを示している。ここで交流電源周波数fは変動しないとすると、上流の発熱体203と下流の発熱体204の制御パターン開始時間差は、(1)式を満たす最適なnを選べばよいことになる。そうすることで、定着ムラを低減することができる。
【0055】
同様に、記録材の種類等が変更されて、最適な定着性を得るために搬送速度v[mm/
sec]を切り替えるときにも、搬送速度vに応じた(1)式のnを求め、制御開始時間
差を変更している。これにより、搬送速度切り替え時も定着ムラを低減可能な制御パターン開始時間差を決定することができる。つまり、記録材上において発熱体203に制御開始タイミングで加熱されたある部分が発熱体204の加熱領域に到達するタイミングと、発熱体204への電力供給を制御し始める制御開始タイミングが同じにならないようにしている。
【0056】
例として、交流電源周波数が50Hz、発熱体間距離Aを1.5[mm]とし、搬送速度vとして150[mm/sec]と200[mm/sec]の2種類の搬送速度を持つ画像形成装置の場合を考える。この場合は、上式に各値を代入することにより、搬送速度を切り替えるときには、nは、v=150の時、n≠1であれば良く、v=200の時は、n≠0.75であれば良いことがわかる。このようにnを設定することで、定着ムラを低減さ
せることができる。上式により、本実施形態では、v=150の時はn=0、v=200の時はn=4とした。このnは、予めエンジンコントローラ220に記憶しておけば良い。
【0057】
式(1)によって決定したnにより、下流の発熱体204は、上流の発熱体203の制御開始時間より1/2f×n[sec]だけ待ってから通電を開始する。上流の発熱体203の制御を開始してから下流の発熱体204の制御を開始するまでの間は、下流の発熱体204には通電しなくても良いし、図8の破線に示す次の制御周期にかかる制御パターンから制御を開始しても良い。また、制御開始時間をずらすのではなく、予め1/2f×n[sec]だけ遅らせた関係を持つFSRD1とFSRD2の制御パターンをエンジンコントローラ220に記憶しておき、搬送速度に応じて、この制御パターンを切り替えることも可能である。
【0058】
図9を参照して、上述のように発熱体203、204の制御開始時間をずらした場合における定着ムラの低減効果について説明する。図9に示すグラフは、記録材の搬送速度v[mm/sec]が150[mm/sec]の時の、発熱体203、204を通じて記録材上に付与される電力を示したものである。
【0059】
図示するグラフの横軸は記録材の先端から記録材搬送方向の距離である。また、縦軸は、記録材の各位置に発熱体により与えられる総電力を相対値で示している。点線で示しているのは定着ムラに不利な制御開始時間差n=1の時の電力分布であり、実線で示しているのは定着ムラを低減できる条件である制御開始時間差n=2の時の電力分布を示している。
【0060】
グラフからわかるように、n=1の時は、記録材のエリアごとに付与される電力の大小差が大きく、一方で、n=2の時は付与される電力の大小差が小さい。このように制御開始のタイミングをずらすことによって記録材に与えられる電力のムラが変化することがわかる。よって、(1)式に基づいて最適な制御開始時間差を決定することで、定着ムラの低減効果を得ることができる。
【0061】
(1−9:制御フローチャートについて)
図10を参照して、本実施形態における制御フローチャートについて説明する。エンジンコントローラ220がプリント開始指示を受けてから、まずS101において交流電源のZEROX信号の立下りエッジを検出する。次にS102において、この立下りエッジの周期から交流電源周波数をエンジンコントローラ220で計算する。またS103において、図5で説明した制御ZEROX信号を生成する。
【0062】
次に、S104において、サーミスタ222の温度検知によりセラミック面発ヒータ224が異常でなければ、S105において記録材のサイズ等を検知して、S106において搬送速度を記録材のサイズ等の条件から決定する。ここで、予めエンジンコントローラ220のメモリに記憶しておいた(1)式のnの値を搬送速度に応じて呼び出す。プリント開始が可能な状態に立ち上がったら、セラミック面発ヒータ224の温調開始時間をt=0として、上流の発熱体203への電力供給の制御を開始する。
【0063】
その後、S108、S109において半波のn倍時間経過したら、下流の発熱体204への電力供給の制御を開始する。以後、S110において、サーミスタ222によってセラミック面発ヒータ224の温度を監視しながら、セラミック面発ヒータ224が所望の温度になるように温調を続ける。仮にS111のように、プリント中に記録材のサイズの変更などにより搬送速度に変更が生じたら、搬送速度に応じてもう一度nの値を呼び出して制御し直す。
【0064】
このように本実施形態によれば、記録材の搬送速度が切り替わる時に、制御開始時間の差を(1)式を満たす値に切り替えて発熱体を制御すれば、搬送速度の切り替えに影響なく、定着ムラを低減した画像を出力可能な画像形成装置を提供することが可能になる。
【0065】
[第2実施形態]
本発明を適用可能な第2実施形態に係る画像形成装置について説明する。なお、ここで説明する画像形成装置の構成、定着器の構成は、上記第1実施形態で説明した画像形成装置の構成と同一であるが、第1実施形態と比較すると、より高調波電流を抑えることに有効な波数制御を用いて発熱体を制御している点が特徴といえる。以下では第1実施形態と同一構成の部材、機器に関しては同じ符号を付してその説明を省略して説明する。
【0066】
(2−1:電力制御について)
本実施形態では、図11に示すような波数制御によって、発熱体203と発熱体204に供給する電力を制御している。波数制御については上述した通りであるが、例えば12半波を制御の1周期とし、1制御周期の中でONする半波の数と状態を変えていくことで、ヒータへの供給電力を制御することができる。
【0067】
波数制御の場合は、1半波全てONするか、1半波全くONしないかのどちらかであるので、ON信号は、図11に示すようにZEROX信号の位相0でパルスが出力される。また、発熱体203、204に流れる電流波形も、図示の通りである。本実施形態では、発熱体203、発熱体204の抵抗値が異なるために、電流波形の振幅がそれぞれ異なっている。図11中で発熱体電流波形として示しているのは、発熱体203と発熱体204に流れる電流の合成波形である。
【0068】
(2−2:電力制御の制御パターンについて)
図12を参照して、上述した波数制御によって発熱体203、204への供給電力を制御する際の制御パターンについて説明する。図12(a)は、12半波を1制御周期として波数制御によって発熱体203への供給電力を制御する際の制御パターンである。ここで縦軸は、発熱体203に供給する電力の0%から100%までを6分割して表したものである。横軸は、発熱体203に供給する電力に応じて、1半波の期間においてON状態が占める割合を数字で示したものである。ここでは波数制御のため、制御パターン表の各セルには100(%)もしくは0(%)の数値が入っている。また、図12(b)は発熱体204の制御パターンを示すものである。
【0069】
いずれの発熱体の制御パターンも、正の半波と負の半波の数が同じ数だけONするように上下対称性を満足するように設定する。そして、上述した電力供給回路により、上流の発熱体203と下流の発熱体204を、それぞれ独立に図12(a)、(b)のパターンで制御する。
【0070】
例えば、50%の電力を発熱体に供給したい場合、上流の発熱体203は、図12(a)に示す50%を、下流の発熱体204も、図12(b)に示す50%を選択する。どちらの発熱体も12半波のうちの6半波において通電するので50%を投入していることになり、両発熱体を合わせて50%の電力が発熱体に供給されることになる。この制御パターンを予めエンジンコントローラ220に記憶させ、投入したい電力に応じて選択すればよい。
【0071】
(2−3:制御パターンの制御開始時間差について)
図13を参照して、本実施形態における制御パターンの制御開始時間差について説明する。図13(a)は、図12に示す50%の電力を供給する時の制御パターンである。発
熱体203と発熱体204の制御を上下に並べ、発熱体204の制御開始タイミングと発熱体203の制御開始タイミングをずらし、そのずらし量を場合分けして並べたものを示している。また、そのずらし量は1半波のn倍である。また、図13(b)は、図13(a)に示す制御パターンに従って発熱体を制御する時の電流波形を示している。
【0072】
例えば、第1実施形態と同様に、交流電源周波数が50Hz、発熱体間距離Aを2[m
m]とし、搬送速度vを150[mm/sec]と200[mm/sec]の二種類の搬送速
度を持つ画像形成装置を考える。この場合、v=150の時、n≠0.6であれば良く、
v=200の時は、n≠1であれば良い。
【0073】
しかし(1)式に従ってnを決めても、nの値によっては、発熱体203と発熱体204に同時に通電したり、又は同時に通電を止めたりする時には、電圧変動の差が大きくなり、照明機器等のちらつきであるフリッカの悪化に影響することがある。そこで(1)式から求められるnにおいて、発熱体203と発熱体204に同時に通電する割合を減らすことが可能なnを決定することで、定着ムラだけでなく、フリッカの対策も講じることができる。そこで本実施形態では、v=150の時はn=0とするよりも、n=2とし、また、また、v=200の時は、n=4とするよりも、n=3とした。この数値であれば、フリッカの低減効果を得ることもできる。
【0074】
図14を参照して、本実施形態における定着ムラの低減効果について説明する。図示するグラフは、搬送速度vが150[mm/sec]の時の、発熱体を通じて記録材に付与される電力を示したものである。グラフの横軸は記録材の先端から記録材の搬送方向の距離である。また、縦軸は、記録材の各位置に発熱体により与えられる総電力を相対値で示している。点線で示しているのは定着ムラに不利な制御開始時間差n=1の時の電力分布であり、実線で示しているのは定着ムラの低減できる条件の制御開始時間差n=3の時の電力分布を示している。
【0075】
n=1の時は、記録材のエリアごとに付与される電力の大小差が大きい。一方で、n=3の時は付与される電力の大小差が小さい。このように、(1)式に基づいて制御開始タイミングをずらすことによって、記録材に与えられる電力のムラを変更することができる。よって、最適な制御開始時間差を決定することで定着ムラの低減効果がある。
【0076】
(2−4:制御フローチャートについて)
図15に、上述した(1)式により求めたnを記憶させたエンジンコントローラ220によって、発熱体203、204の電力制御を行う際の制御フローチャートを示す。
【0077】
エンジンコントローラ220がプリント開始指示を受けてから、まずS201において交流電源のZEROX信号の立下りエッジを検出する。次にS202において、この立下りエッジの周期から交流電源周波数をエンジンコントローラ220で計算する。またS203において、図5で説明した制御ZEROX信号を生成する。
【0078】
次に、S204において、サーミスタ222の温度検知によりセラミック面発ヒータ224が異常でなければ、S205において記録材サイズ等を検知して、S206において搬送速度を決定する。ここで、予めエンジンコントローラ220のメモリに記憶しておいた制御パターンを搬送速度ごとに呼び出す。
【0079】
画像形成装置がプリント可能な状態に立ち上がったら、S207において上流の発熱体203と下流の発熱体204への電力供給の制御を、選択した制御パターンで同時に開始する。以後、S208、S209においてサーミスタ222でセラミック面発ヒータ224の温度を監視しながら、セラミック面発ヒータ224が所望の温度になるように温調を
続ける。仮にS210のように、プリント中に記録材のサイズ変更などにより搬送速度に変更が生じたら、搬送速度に応じて再び制御パターン呼び出して制御し直す。
【0080】
このように本実施形態によれば、波数制御においても、搬送速度を切り替える時に、制御開始時間の差を(1)式を満たす値に切り替えて発熱体を制御すれば、搬送速度の切り替えに影響なく、定着ムラを低減した画像を出力することが可能になる。
【0081】
[第3実施形態]
本発明を適用可能な第3実施形態に係る画像形成装置について説明する。なお、第1、第2実施形態で説明した画像形成装置の構成と同一構成のものは、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0082】
(3−1:定着器の概略構成)
本実施形態における定着器の概略構成、特に、セラミック面発ヒータ224の発熱体の形状について説明する。図3(c)に、本実施形態におけるセラミック面発ヒータ224の発熱体の形状を示す。第1、第2実施形態では、記録材の搬送方向に沿って2本の発熱体が設けられているが、本実施形態では、3本の発熱体が設けられている。
【0083】
ここで記録材の搬送方向に対して一番上流にある発熱体306aと真ん中の発熱体307のそれぞれ幅方向中心を基準とした間の距離をB[mm]とし、一番下流にある発熱体306bと真ん中の発熱体307の幅方向の中心を基準とした間の距離をC[mm]とする。なお、発熱体306bと発熱体306aは共通の電極303、305を有しているので、同じ制御が行われる。
【0084】
(3−2:制御パターンの制御開始時間差について)
図16を参照して、制御パターンと制御開始時間差について説明する。図16(a)は、本実施形態の制御パターンであり、図16(b)は、そのときの発熱体に流れる電流波形である。
【0085】
第1実施形態と同様に、上流の発熱体306aと真ん中の発熱体307の距離Bと搬送速度vから、下に示す(2)式の制御開始時間差nbを決定できる。同様に、発熱体306bと発熱体307の距離Cと搬送速度vから、下に示す(3)式の制御開始時間差ncを決定できる。
【数2】
【数3】
【0086】
しかしながら、発熱体306bは、発熱体306aと同じタイミングで駆動するので、発熱体306bと発熱体307間での制御開始時間差ncは、発熱体307の制御開始時間と発熱体306aの次の制御周期の先頭T[sec]との時間差(4)式に必然的に決まる。
【数4】
【0087】
よって(3)式は、(3)式と(4)式により、
【数5】
と置き換えることができる。
【0088】
このように、定着ムラを低減する発熱体306と発熱体307の制御開始時間差は、(2)式と(5)式の両方を満たすnbである。本実施形態では、交流電源周波数を50[
Hz]、発熱体中心間距離B、Cをそれぞれ1[mm]、1.5[mm]、搬送速度をv=1
50[mm/sec]とし、1制御周期Tを、8半波を1制御周期とする80[msec]とした。このときの(2)式と(5)式からnbは、nb≠1、nb≠7を両方満たせば良
いので、本実施形態ではnb=3とした。
【0089】
図17を参照して、本実施形態における定着ムラの低減効果を説明する。図17に示すグラフは、記録材の搬送速度vが150[mm/sec]の時の、発熱体を通じて記録材に付与される電力を示したものである。グラフの横軸は、記録材の先端から記録材の搬送方向の距離であり、縦軸は、記録材の各位置に発熱体により与えられる総電力を相対値で示している。
【0090】
点線で示しているのは定着ムラに不利な制御開始時間差nb=1の時の電力分布であり、実線で示しているのは定着ムラの低減できる条件の制御開始時間差nb=3の時の電力分布を示している。nb=1の時は、記録材のエリアごとに付与される電力の大小差が大きい。一方で、nb=3の時は、付与される電力の大小差が小さい。
【0091】
このように、図3(c)に示す発熱体の形状においても、記録材の搬送速度ごとに制御開始時間を変えることによって、記録材に与える電力を変えることができる。よって最適な制御開始時間差を決定することで、定着ムラの低減効果を得ることができる。また、制御フローチャートは、図10に示すものと同様であり、その説明は第1実施形態と同様であるため省略する。
【0092】
以上より、本実施形態によれば、発熱体を分岐するなどして発熱体間隔が複数ある構成においても、搬送速度の切り替えに影響なく、定着ムラを低減した画像を出力することが可能になる。
【符号の説明】
【0093】
105…プロセスカートリッジ 115…定着器 201…交流電源(商用電源) 203…発熱体 204…発熱体 220…エンジンコントローラ 224…セラミック面発ヒータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を記録材上に定着させる定着器を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やレーザビームプリンタ等の画像形成装置において、セラミックヒータを熱源とするフィルム加熱方式の熱定着器が知られている。このような熱定着器では、記録材の搬送方向に複数の発熱体が配置されており、それぞれの発熱体に対してスイッチング素子を介して交流電源から電力を供給することで、発熱体の温度を所望の加熱温度に制御している。発熱体への電力供給の制御方式としては、位相制御や波数制御が知られているが、特許文献1には、複数半波を一制御周期とするうちの一部の半波を位相制御し、残りを波数制御する制御方式が提案されている。このように位相制御と波数制御とを組み合わせる制御方式を、ここでは「ハイブリッド制御」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−123941号公報
【特許文献2】特開平5−333726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記従来の画像形成装置には次の課題がある。上述の定着器では、記録材が発熱体を通過している時に発熱体のON/OFFが行われるために、記録材上には、通電状態にある発熱体を通過する領域と、通電されていない状態の発熱体を通過する領域とが存在することになる。言い換えると、記録材上には、発熱体によって加熱される部分と加熱されない部分が存在することになる。これにより、定着した画像にすじ等の濃淡差が出ることを定着ムラと呼んでいる。一般的に、波数制御やハイブリッド制御の方が、発熱体のON/OFFする周期が長いために定着ムラが見えやすい傾向にある。また、制御方式の他に、記録材の搬送速度も、定着ムラの見えやすさに影響する。
【0005】
さらに、記録材の搬送方向に対して複数の発熱体を有する場合には、複数の発熱体から与えられる総熱量が定着ムラに影響する。例えば二本の発熱体を有する場合は、記録材上に、二本の発熱体の両方に加熱される部分と、いずれの発熱体にも加熱されない部分とが生じると、それが定着ムラとして現れる。この定着ムラは、発熱体間の距離、記録材の搬送速度、及び制御方式の関係によって、ムラの濃淡差、発生周期などが変化する。
【0006】
これに対して、一本目の発熱体により加熱された部分がもう一度加熱されないように、また、一本目の発熱体で加熱されなかった部分を他の発熱体で加熱して、記録材に与える熱量が均一になるように、最適な発熱体間の距離を決定する方法が提案されている。例えば特許文献2には、複数の発熱体を位相制御するときに、交流電源周波数と記録材の搬送速度から、定着ムラの出にくい最適な発熱体間隔を決定する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これまでの画像形成装置では、記録材に対して単一の搬送速度で印字を行う場合は定着ムラを低減できるものの、記録材の種類やサイズ等に応じて搬送速度を複数に切り替えて印字する場合は定着ムラを低減することが困難である。つまり、記録材の搬送速度を切り替えると、複数の発熱体から受ける総熱量が多い部分と少ない部分との差が大きくなり、搬送速度切り替え時に定着ムラが発生する可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、記録材の搬送速度を切り替えた場合も、定着ムラの少ない高画質な画像を出力することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
記録材上に画像を形成する画像形成部と、商用電源から供給される電力によって発熱する発熱体が複数形成されている加熱ヒータと、前記加熱ヒータを内側に有する加熱回転体と、前記加熱ヒータの反対側から前記加熱回転体を挟むようにして前記加熱回転体に圧接してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部において前記加熱回転体の回転方向に搬送される記録材の搬送方向に並ぶ前記複数の発熱体から熱を付与することで、前記ニップ部において記録材上に形成されている画像を記録材上に定着させる定着器と、前記発熱体へ供給する電力を前記発熱体ごとに制御可能な制御部と、を備える画像形成装置において、前記制御部は、前記商用電源の連続する複数の半波を1制御周期として前記発熱体に供給する電力を制御すると共に、記録材上において前記複数の発熱体のうちの第1発熱体によって加熱された部分が前記第1発熱体よりも記録材の搬送方向下流側にある第2発熱体の加熱領域に到達するタイミングと、前記第1発熱体への電力供給の制御を開始してから時間差を設けて前記第2発熱体への電力供給の制御を開始するタイミングとが同じにならないように、記録材の搬送速度に応じて、前記時間差を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録材の搬送速度を切り替えた場合も、定着ムラの少ない高画質な画像を出力することができる画像形成装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る画像形成装置の概略構成図。
【図2】本発明における電力供給回路の概略構成図。
【図3】本発明におけるセラミック面発ヒータの概略構成図。
【図4】本発明における定着器の概略構成図。
【図5】本発明におけるゼロクロス検知回路、交流電源波形、及びZEROX波形。
【図6】本発明における電流波形を示す図。
【図7】本発明におけるハイブリッド制御の制御パターンを示す図。
【図8】本発明における制御パターンと電流波形を示す図。
【図9】本発明において記録材上に与える電力の分布を示す図。
【図10】本発明における制御フローを示す制御フローチャート図。
【図11】本発明における電流波形を示す図。
【図12】本発明におけるハイブリッド制御の制御パターンを示す図。
【図13】本発明における制御パターンと電流波形を示す図。
【図14】本発明において記録材上に与える電力の分布を示す図。
【図15】本発明における制御フローを示す制御フローチャート図。
【図16】本発明における制御パターンと電流波形を示す図。
【図17】本発明において記録材上に与える電力の分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
(1−1:画像形成装置の概略構成)
図1を参照して、本実施形態に係る画像形成装置の概略構成を示す。画像形成装置には、その下方に、複数の記録材を積載可能な給送カセット101が設けられている。画像形成開始の信号が入力されると、給送カセット101に積載された記録材がピックアップローラ102によって1枚ずつ給送カセット101から送出され、給送ローラ103によっ
てレジストローラ104に向けて搬送される。さらに記録材はレジストローラ104によって所定のタイミングでプロセスカートリッジ105(画像形成部)へ搬送される。
【0013】
プロセスカートリッジ105は、帯電ローラ106、現像ローラ107、クリーニング部材108、および電子写真感光体である感光体ドラム109が一体的に収容されているものであって、画像形成装置の装置本体に対して着脱可能に構成されている。
【0014】
記録材上に画像を形成する際は、まず、帯電ローラ106によって感光体ドラム109の表面が一様に帯電される。その後、像露光手段であるスキャナユニット111により、画像信号に基づいた像露光が行なわれる。スキャナユニット111内にはレーザ光を射出するレーザダイオード112、回転するポリゴンミラー113、反射ミラー114が設けられている。レーザダイオード112から射出されたレーザ光は、ポリゴンミラー113、反射ミラー114によって主走査方向に、感光体ドラム109の回転によって副走査方向に走査される。これにより、感光体ドラム109には2次元の潜像が形成される。
【0015】
感光体ドラム109に形成された潜像は、現像ローラ107から供給されるトナーによってトナー像として可視化され、トナー像は転写ローラ110と感光体ドラム109とのニップ部において、レジストローラ104から搬送されてきた記録材上に転写される。
【0016】
トナー像が転写された記録材は定着器115に搬送され、定着器115において記録材上の未定着トナー像が加熱加圧処理され、記録材上にトナー像が定着する。記録材はさらに中間排出ローラ116、排出ローラ117によって画像形成装置本体外に排出され、一連のプリント動作を終える。
【0017】
(1−2:定着器の概略構成)
図4を参照して、定着器115の概略構成について説明する。図4は、定着器115の概略構成を示すものである。定着器115は、可撓性を有する耐熱性の加熱スリーブ402(加熱回転体)と、それに圧接する弾性加圧ローラ403(加圧部材)を有する加熱フィルム方式の定着器である。加熱スリーブ402は、スリーブガイド401に外嵌した状態で弾性加圧ローラ403に従動回転し、両者によって形成される所定幅の定着ニップ部において、記録材上のトナー像を加熱、加圧することで、トナー像を記録材上に定着することができる。また、スリーブガイド401の内側には剛性部材によって形成されているステー404が設けられている。
【0018】
加熱スリーブ402の内側には、スリーブガイド401の下面側に支持されたセラミック面発ヒータ224(加熱ヒータ)が設けられている。セラミック面発ヒータ224は板状のヒータであって、その長手方向が加熱スリーブ402の回転方向に直交するように設けられている。また、弾性加圧ローラ403は、セラミック面発ヒータ224の反対側から加熱スリーブ402を挟むようにして加熱スリーブ402に圧接している。
【0019】
セラミック面発ヒータ224は、SiC、ALN、Al2O3等によって形成されるセラミックス系の絶縁基板301と、絶縁基板301上に長手方向に沿ってペースト印刷等で複数形成されている発熱体203(第1発熱体)、204(第2発熱体)を有している。さらに、2本の発熱体は、ガラス材による保護層302によって、その表面が保護されている。
【0020】
また、絶縁基板301において、発熱体203、204が形成されている側とは反対側には、温度検出素子としてのサーミスタ222が設けられている。また、図4では不図示であるが、セラミック面発ヒータ224には、セラミック面発ヒータ224の長手方向端部の温度を検出するサーミスタ223や、サーモスイッチ等も設けられている。
【0021】
発熱体203、204の抵抗値は、長手方向に沿って抵抗値が均一になるようにしてもよいが、長手方向端部にいくほど発熱比率が低くなるように抵抗値を変えてもよい。例えば、小サイズの記録材を加熱する場合は、発熱体203、204の長手方向端部が記録材が通過しない非通過領域となるので、長手方向端部は中央部と比較すると温度が上昇し易い。よって、発熱体203、204の長手方向にわたって加熱温度をほぼ均一にするためにも、長手方向の端部と中央部とで抵抗値に比率を持たせてもよい。このような発熱体を有するヒータを「テーパヒータ」と呼ぶ。
【0022】
また、加熱スリーブ402の摺動性を向上させるために、加熱スリーブ402とセラミック面発ヒータ224との界面に摺動性のグリスを塗布してもよい。また、セラミック面発ヒータ224の発熱体203、204はニップ側にあっても、ニップと反対側にあってもよい。
【0023】
ここで説明した加熱フィルム方式の定着器115によれば、加熱スリーブ402の内側面とセラミック面発ヒータ224とが直接接触するので、セラミック面発ヒータ224で生じた熱を効率良く定着ニップ部に付与することができる。よって、十分な加熱温度でトナー像を加熱しつつ、定着器115の消費電力の低減、立ち上がり時間の短縮化等の効果を得ることができる。
【0024】
(1−3:電力供給回路の構成)
図2を参照して、定着器115の発熱体203、204に電力を供給するための電力供給回路について説明する。
【0025】
図2中の201は交流電源(商用電源)であり、ACフィルタ202を通して、発熱体203と発熱体204に接続されている。発熱体203と発熱体204は、交流電源201と並列に接続されており、交流電源201から供給される電力は、発熱体203と発熱体204のそれぞれに供給される。
【0026】
発熱体203への電力供給はトライアック205で通電、遮断され、発熱体204への電力供給はトライアック206により通電、遮断される。207、208はトライアック205のためのバイアス抵抗であり、209は一次側と二次側の沿面距離を確保するためのフォトトライアックカプラである。フォトトライアックカプラ209の発光ダイオードに通電することにより、トライアック205がONされる。211はフォトトライアックカプラ205の電流を制限するための抵抗である。212はトランジスタで、フォトトライアックカプラ205をON/OFF制御するものである。
【0027】
トランジスタ212は抵抗213を介してエンジンコントローラ220からのFSRD1に従って動作する。ここでエンジンコントローラ220は、発熱体203、204へ供給する電力を発熱体毎に制御可能な制御部に相当する。FSRD1は、トランジスタ212をONしてフォトトライアックをONしたいときには「High」を出力し、トランジスタ212をOFFしてフォトトライアックをOFFしたいときには「Low」を出力する。
【0028】
214、215はトライアック206のためのバイアス抵抗であり、216は一次側と二次側の沿面距離を確保するためのフォトトライアックカプラである。フォトトライアックカプラ216の発光ダイオードに通電することにより、トライアック206がONされる。217はフォトトライアックカプラ206の電流を制限するための抵抗である。218はトランジスタで、フォトトライアックカプラ206をON/OFF制御するものである。トランジスタ218は、抵抗219を介してエンジンコントローラ220からのFS
RD2に従って動作する。
【0029】
221はACフィルタ202を介して交流電源201に接続したZEROX検知回路(ゼロクロス検知回路)である。ZEROX検知回路221は、交流電源電圧が閾値以下の電圧になっていることを、エンジンコントローラ220に対してパルス信号(以下「ZEROX信号」と呼ぶ。)として報知する。エンジンコントローラ220はZEROX信号のパルスのエッジを検出し、後述する位相制御や波数制御、ハイブリッド制御と呼ぶ制御によりトライアック205、206をON/OFF制御する。
【0030】
222は、セラミック面発ヒータ224の温度を検出するためのサーミスタである。サーミスタ222は、セラミック面発ヒータ224上に発熱体203、204に対して絶縁距離を確保できるように絶縁耐圧を有する絶縁物を介して配置されている。
【0031】
また、サーミスタ223は、セラミック面発ヒータ224の長手方向端部の温度を検出するためのサーミスタである。サーミスタ223は、セラミック面発ヒータ224上の長手方向端部に発熱体203、204に対して絶縁距離を確保できるように絶縁耐圧を有する絶縁物を介して配置されている。
【0032】
サーミスタ222、223によって検出される温度は、エンジンコントローラ220にA/D入力される。セラミック面発ヒータ224の温度はエンジンコントローラ220で監視されており、エンジンコントローラ220内部に設定されている温度と比較されることによって、発熱体203、204に供給する電力が算出される。そして、供給する電力を、位相角または波数に換算し、その算出した条件により、エンジンコントローラ220がトランジスタ212にFSRD1、トランジスタ218にFSRD2を送出する。
【0033】
FSRD1は、フォトトライアックカプラ209を発光するためにトランジスタ212を駆動する信号であり、FSRD2は、フォトトライアックカプラ216を発光するために、トランジスタ218を駆動する信号である。以下、それぞれの信号をFSRD1、FSRD2と呼ぶ。このFSRD1、FSRD2を用いて、発熱体203、204に供給する電力量の制御を行っている。
【0034】
225は、記録材の搬送を行う搬送系の駆動源、及び感光体ドラム109の駆動源として利用されるモータである。エンジンコントローラ220は、モータ225から発信される速度信号パルス(FG)を受けてモータ225の速度を読み取る。また、FG信号と基準クロックとの比較を行い、加速信号(ACC)と減速信号(DEC)をモータ225に出力することにより、記録材の搬送速度、プロセス速度の制御を行っている。さらには、記録材の搬送速度を、記録材のサイズ等の条件に合わせて切り替え、モータ回転速度を変更するように命令している。
【0035】
図3(a)、(b)を参照して、セラミック面発ヒータ224の発熱体と上述した電力供給回路との接続部分について説明する。なお、図3(a)は、セラミック面発ヒータ224の概略断面図であり、その構成は上述した通りである。また、図3(b)は、セラミック面発ヒータ224の発熱体の形状を示すものである。ここでは2パターンを図示しているが、発熱体は、その長手方方向と記録材の搬送方向とが直交するように、記録材の搬送方向に複数並べて設けられていればよい。
【0036】
図3(b)に示すセラミック面発ヒータ224には、2本の発熱体203、204と、電極部303、304、305が設けられている。ここで発熱体203は、記録材の搬送方向上流側にある発熱体、発熱体204は、記録材の搬送方向下流側にある発熱体、といえる。電極部303は発熱体203への電力供給を行い、電極部304は発熱体204へ
の電力供給を行っている。電極部305は、発熱体203、204の共通の電極となっている。共通の電極305は、交流電源201のHOT側端子に接続され、電極部303はトライアック205に、電極部304はトライアック206に接続されている。
【0037】
(1−4:位相制御と波数制御について)
セラミック面発ヒータ224の発熱体203、204への電力供給は、位相制御と波数制御を組み合わせたハイブリッド制御によって行われている。ここで、位相制御と波数制御について説明する。
【0038】
位相制御は、交流電源を1半波内の任意の位相角でヒータをONすることでヒータに電力を供給する方式である。位相制御は、半波ごとに電流が流れるため、電流の変化量および変化周期が小さく、照明機器と同一電源に接続された電気機器の負荷電流変動と配電線のインピーダンスにより交流電源における電圧変動が小さい。そのため、照明機器のちらつきであるフリッカを抑えるには有利な制御方式である。しかし、ヒータをON/OFFすると急激な電流変動が生じて高調波電流が発生するため、高調波電流を抑えるには不利となる。
【0039】
一方、波数制御はヒータのON/OFFを交流電源の半波単位で行う電力制御方式である。波数制御では、半波ごとにヒータのON/OFFするために高調波電流が発生しにくいので、位相制御に比べて高調波電流を抑えるには有利である。しかし、前述したフリッカに対しては、位相制御よりも電流変動が大きく、フリッカが発生しやすい。
【0040】
また、位相制御と波数制御を組み合わせたハイブリッド制御によると、位相制御だけの場合と比較すると、高調波電流やスイッチングノイズの発生を抑えることができる。さらに、波数制御だけの場合と比較すると、フリッカを低減することができ、ヒータへの電力制御をより多段階に制御することができる。なお、本実施形態におけるハイブリッド制御の詳細については後述する。
【0041】
(1−5:ゼロクロス検知回路とZEROX波形について)
図5(a)に、ゼロクロス検知回路221(ZEROX検知回路)の詳細を示す。また、図5(b)に、交流電源波形とZEROX波形を示す。交流電源201からの交流電圧は、図5(a)に示すゼロクロス検知回路221に入力され、整流器501、502により半波整流される。本回路においては、Neutral側が整流されている。この半波整流された交流電圧は、抵抗505、コンデンサ504、電流制限抵抗503、506を介して、トランジスタ507のベースに入力される。Neutral側の電位が、不図示の全波整流するダイオードブリッジや整流器501、502、トランジスタ507により決まる閾値電圧Vzよりも高い場合、つまり、Neutral側の電位がHot側の電位よりも高い場合にトランジスタ507はONとなる。一方、Neutral側の電位がHot側の電位よりも低くなるとトランジスタ507はOFFとなる。
【0042】
フォトカプラ509は、一次・二次間の沿面距離を確保するための素子であり、抵抗508、510は、フォトカプラ509に流れる電流を制限するための抵抗である。Neutral側の電位がHot側の電位より高くなるとトランジスタ507はONするため、フォトカプラ509内の発光ダイオード509aは消灯し、フォトトランジスタ509bはOFFしてフォトカプラ509の出力電圧はHighとなる。
【0043】
一方、Neutral側の電位がHot側の電位より低くなるとトランジスタ507はOFFするのでフォトカプラ509内の発光ダイオード509aが発光し、フォトトランジスタ509bはONしてフォトカプラ509の出力電圧はLowとなる。つまり、ZEROX信号は、Hot側電位がNeutral側電位に対して、閾値電圧Vz以上/以下
の場合でレベルが切り替わるパルス信号となる。
【0044】
このフォトカプラ509の出力が抵抗512を介してゼロクロス(ZEROX)信号としてエンジンコントローラ220に報知される。エンジンコントローラ220は、このゼロクロス信号の立ち上がり及び立ち下がりのエッジを検知し、このエッジをトリガにしてトライアック205、206をON/OFFすることで発熱体203、204へ電力を供給する。
【0045】
しかしながら、閾値電圧Vz≠0(V)ではないために、ZEROX信号の立ち上がりエッジは、真のゼロクロスポイントからずれる。同様に立ち下がりエッジもずれる。このZEROX信号をそのまま位相制御のトリガ信号とすると、ずれた分の時間差が、入力電源の正負の極性による位相のずれとなる。そこで、エンジンコントローラ220が、ZEROX信号の立下がり信号の周期(2T)を測定し、その半分の時間Tを算出する。その後、エンジンコントローラ220内において、時間Tにおいて擬似的に立上がりエッジを生成する。以下、この立下がりエッジと擬似的な立上がりエッジの組み合わせを制御ZEROX信号と呼ぶ。エンジンコントローラ220は、この制御ZEROX信号をトリガ信号として制御を行う。
【0046】
(1−6:ハイブリッド制御について)
図6を参照して、本実施形態におけるハイブリッド制御について説明する。上述したようにハイブリッド制御は、1制御周期において、交流電源の半波単位でON/OFFする波数制御と、交流電源を1半波内の任意の位相角でヒータをONすることでヒータに電力を供給する位相制御とを組み合わせた制御である。電圧変動を示すフリッカを抑制することは難しいものの高調波電流の少ない波数制御と、フリッカを抑制しやすいが高調波電流を発生させてしまう位相制御の両方を用いているため、ハイブリッド制御は、フリッカと高調波の影響のバランスをとった制御といえる。例えば、連続する8半波を制御の1周期とし、1制御周期の中でONする半波の数と位相角の状態を変えていくことで、ヒータへの供給電力を制御するといった制御方法が可能である。
【0047】
図6のFSRD1とFSRD2の波形は、図2で説明したエンジンコントローラ220から出力されるFSRD1とFSRD2の波形であり、図5で説明した制御ZEROX回路を基準として出力される波形である。ハイブリッド制御の場合は、位相0または任意の位相でヒータをONするので、FSRD1とFSRD2は、図6に示すようにZEROX信号の所望の位相でパルスが出力される。
【0048】
FSRD1とFSRD2により制御され、各々の発熱体に流れる電流波形は、発熱体203の電流波形と発熱体204の電流波形に現れる。本実施形態では、発熱体203と発熱体204の抵抗値を異ならせているために、電流波形の振幅がそれぞれ異なっている。よって、ここで発熱体電流波形として示しているのは、発熱体203と発熱体204に流れる電流の合成波形である。
【0049】
(1−7:電力制御の制御パターンについて)
図7を参照して、上述したハイブリッド制御によって発熱体203、204への供給電力を制御する際の制御パターンについて説明する。図7は、8半波を1制御周期としたハイブリッド制御の制御パターンを、発熱体203と発熱体204ごとに示すものである。ここで各表の縦軸は、発熱体に供給される電力の0%から100%までを40分割して表したものである。また、横軸は、それぞれの発熱体に供給する電力に応じて、1半波内においてONしている期間が占める割合を数字で示したものである。なお、図示する制御パターン表の各セルには100(%)〜0(%)が2.5%刻みで入る。
【0050】
どちらの発熱体も1制御周期内で交流電源の正の通電位相と負の通電位相の関係が対称になるようにする。つまり、1制御周期内での電流波形は正側と負側で対称となる。そして上述したヒータ駆動回路により、上流の発熱体203と下流の発熱体204をそれぞれ独立に図7(a)、(b)に示すパターンで制御する。例えば、50%の電力を発熱体203、204に供給したい場合、上流の発熱体203は(a)の50%を、下流の発熱体204も(b)の50%を選択する。よって、両発熱体を合わせて50%の電力が発熱体に供給されることになる。この制御パターンはあらかじめ上述した図2に示すエンジンコントローラ220で記憶しておき、投入したい電力に応じて選択するとよい。
【0051】
(1−8:制御パターンの制御開始時間差について)
図8を参照して、本実施形態における制御パターンの制御開始時間差について説明する。図8(a)は、図7に示す50%の電力を投入する時の制御パターンである。発熱体203と発熱体204の制御を上下に並べ、発熱体204の制御は、発熱体203の制御パターンから制御開始タイミングをずらし、そのずらし量を場合分けして並べたものを示している。また、そのずらし量は1半波のn倍である。また、図8(b)は、図8(a)で発熱体を制御する時の電流波形を示している。ここでは、複数の半波から構成される1制御周期の先頭の1半波目を1制御周期の開始時間とする。また、交流電源1半波である交流電源の周期の半分は、交流電源の周波数に依存し、交流電源周波数の逆数で表される。
【0052】
本実施形態では、定着ムラを低減する方法として、上流の発熱体203で温められた記録材のある点が、下流の発熱体204によりもう一度温められないように、上流の発熱体203と下流の発熱体204の制御開始タイミングをずらしている。すなわち、発熱体203と発熱体204の制御開始時間差を下記の(1)式によって求めている。
【0053】
【数1】
【0054】
ここでは、vを搬送速度[mm/sec]とし、発熱体203と発熱体204のそれぞれ幅方向の中心を基準とする発熱体間の距離をA[mm]とし、交流電源の周波数をfとする。またnは整数とし、図8に示すように上述した制御開始時間差が半波の何倍に相当するかを示している。ここで交流電源周波数fは変動しないとすると、上流の発熱体203と下流の発熱体204の制御パターン開始時間差は、(1)式を満たす最適なnを選べばよいことになる。そうすることで、定着ムラを低減することができる。
【0055】
同様に、記録材の種類等が変更されて、最適な定着性を得るために搬送速度v[mm/
sec]を切り替えるときにも、搬送速度vに応じた(1)式のnを求め、制御開始時間
差を変更している。これにより、搬送速度切り替え時も定着ムラを低減可能な制御パターン開始時間差を決定することができる。つまり、記録材上において発熱体203に制御開始タイミングで加熱されたある部分が発熱体204の加熱領域に到達するタイミングと、発熱体204への電力供給を制御し始める制御開始タイミングが同じにならないようにしている。
【0056】
例として、交流電源周波数が50Hz、発熱体間距離Aを1.5[mm]とし、搬送速度vとして150[mm/sec]と200[mm/sec]の2種類の搬送速度を持つ画像形成装置の場合を考える。この場合は、上式に各値を代入することにより、搬送速度を切り替えるときには、nは、v=150の時、n≠1であれば良く、v=200の時は、n≠0.75であれば良いことがわかる。このようにnを設定することで、定着ムラを低減さ
せることができる。上式により、本実施形態では、v=150の時はn=0、v=200の時はn=4とした。このnは、予めエンジンコントローラ220に記憶しておけば良い。
【0057】
式(1)によって決定したnにより、下流の発熱体204は、上流の発熱体203の制御開始時間より1/2f×n[sec]だけ待ってから通電を開始する。上流の発熱体203の制御を開始してから下流の発熱体204の制御を開始するまでの間は、下流の発熱体204には通電しなくても良いし、図8の破線に示す次の制御周期にかかる制御パターンから制御を開始しても良い。また、制御開始時間をずらすのではなく、予め1/2f×n[sec]だけ遅らせた関係を持つFSRD1とFSRD2の制御パターンをエンジンコントローラ220に記憶しておき、搬送速度に応じて、この制御パターンを切り替えることも可能である。
【0058】
図9を参照して、上述のように発熱体203、204の制御開始時間をずらした場合における定着ムラの低減効果について説明する。図9に示すグラフは、記録材の搬送速度v[mm/sec]が150[mm/sec]の時の、発熱体203、204を通じて記録材上に付与される電力を示したものである。
【0059】
図示するグラフの横軸は記録材の先端から記録材搬送方向の距離である。また、縦軸は、記録材の各位置に発熱体により与えられる総電力を相対値で示している。点線で示しているのは定着ムラに不利な制御開始時間差n=1の時の電力分布であり、実線で示しているのは定着ムラを低減できる条件である制御開始時間差n=2の時の電力分布を示している。
【0060】
グラフからわかるように、n=1の時は、記録材のエリアごとに付与される電力の大小差が大きく、一方で、n=2の時は付与される電力の大小差が小さい。このように制御開始のタイミングをずらすことによって記録材に与えられる電力のムラが変化することがわかる。よって、(1)式に基づいて最適な制御開始時間差を決定することで、定着ムラの低減効果を得ることができる。
【0061】
(1−9:制御フローチャートについて)
図10を参照して、本実施形態における制御フローチャートについて説明する。エンジンコントローラ220がプリント開始指示を受けてから、まずS101において交流電源のZEROX信号の立下りエッジを検出する。次にS102において、この立下りエッジの周期から交流電源周波数をエンジンコントローラ220で計算する。またS103において、図5で説明した制御ZEROX信号を生成する。
【0062】
次に、S104において、サーミスタ222の温度検知によりセラミック面発ヒータ224が異常でなければ、S105において記録材のサイズ等を検知して、S106において搬送速度を記録材のサイズ等の条件から決定する。ここで、予めエンジンコントローラ220のメモリに記憶しておいた(1)式のnの値を搬送速度に応じて呼び出す。プリント開始が可能な状態に立ち上がったら、セラミック面発ヒータ224の温調開始時間をt=0として、上流の発熱体203への電力供給の制御を開始する。
【0063】
その後、S108、S109において半波のn倍時間経過したら、下流の発熱体204への電力供給の制御を開始する。以後、S110において、サーミスタ222によってセラミック面発ヒータ224の温度を監視しながら、セラミック面発ヒータ224が所望の温度になるように温調を続ける。仮にS111のように、プリント中に記録材のサイズの変更などにより搬送速度に変更が生じたら、搬送速度に応じてもう一度nの値を呼び出して制御し直す。
【0064】
このように本実施形態によれば、記録材の搬送速度が切り替わる時に、制御開始時間の差を(1)式を満たす値に切り替えて発熱体を制御すれば、搬送速度の切り替えに影響なく、定着ムラを低減した画像を出力可能な画像形成装置を提供することが可能になる。
【0065】
[第2実施形態]
本発明を適用可能な第2実施形態に係る画像形成装置について説明する。なお、ここで説明する画像形成装置の構成、定着器の構成は、上記第1実施形態で説明した画像形成装置の構成と同一であるが、第1実施形態と比較すると、より高調波電流を抑えることに有効な波数制御を用いて発熱体を制御している点が特徴といえる。以下では第1実施形態と同一構成の部材、機器に関しては同じ符号を付してその説明を省略して説明する。
【0066】
(2−1:電力制御について)
本実施形態では、図11に示すような波数制御によって、発熱体203と発熱体204に供給する電力を制御している。波数制御については上述した通りであるが、例えば12半波を制御の1周期とし、1制御周期の中でONする半波の数と状態を変えていくことで、ヒータへの供給電力を制御することができる。
【0067】
波数制御の場合は、1半波全てONするか、1半波全くONしないかのどちらかであるので、ON信号は、図11に示すようにZEROX信号の位相0でパルスが出力される。また、発熱体203、204に流れる電流波形も、図示の通りである。本実施形態では、発熱体203、発熱体204の抵抗値が異なるために、電流波形の振幅がそれぞれ異なっている。図11中で発熱体電流波形として示しているのは、発熱体203と発熱体204に流れる電流の合成波形である。
【0068】
(2−2:電力制御の制御パターンについて)
図12を参照して、上述した波数制御によって発熱体203、204への供給電力を制御する際の制御パターンについて説明する。図12(a)は、12半波を1制御周期として波数制御によって発熱体203への供給電力を制御する際の制御パターンである。ここで縦軸は、発熱体203に供給する電力の0%から100%までを6分割して表したものである。横軸は、発熱体203に供給する電力に応じて、1半波の期間においてON状態が占める割合を数字で示したものである。ここでは波数制御のため、制御パターン表の各セルには100(%)もしくは0(%)の数値が入っている。また、図12(b)は発熱体204の制御パターンを示すものである。
【0069】
いずれの発熱体の制御パターンも、正の半波と負の半波の数が同じ数だけONするように上下対称性を満足するように設定する。そして、上述した電力供給回路により、上流の発熱体203と下流の発熱体204を、それぞれ独立に図12(a)、(b)のパターンで制御する。
【0070】
例えば、50%の電力を発熱体に供給したい場合、上流の発熱体203は、図12(a)に示す50%を、下流の発熱体204も、図12(b)に示す50%を選択する。どちらの発熱体も12半波のうちの6半波において通電するので50%を投入していることになり、両発熱体を合わせて50%の電力が発熱体に供給されることになる。この制御パターンを予めエンジンコントローラ220に記憶させ、投入したい電力に応じて選択すればよい。
【0071】
(2−3:制御パターンの制御開始時間差について)
図13を参照して、本実施形態における制御パターンの制御開始時間差について説明する。図13(a)は、図12に示す50%の電力を供給する時の制御パターンである。発
熱体203と発熱体204の制御を上下に並べ、発熱体204の制御開始タイミングと発熱体203の制御開始タイミングをずらし、そのずらし量を場合分けして並べたものを示している。また、そのずらし量は1半波のn倍である。また、図13(b)は、図13(a)に示す制御パターンに従って発熱体を制御する時の電流波形を示している。
【0072】
例えば、第1実施形態と同様に、交流電源周波数が50Hz、発熱体間距離Aを2[m
m]とし、搬送速度vを150[mm/sec]と200[mm/sec]の二種類の搬送速
度を持つ画像形成装置を考える。この場合、v=150の時、n≠0.6であれば良く、
v=200の時は、n≠1であれば良い。
【0073】
しかし(1)式に従ってnを決めても、nの値によっては、発熱体203と発熱体204に同時に通電したり、又は同時に通電を止めたりする時には、電圧変動の差が大きくなり、照明機器等のちらつきであるフリッカの悪化に影響することがある。そこで(1)式から求められるnにおいて、発熱体203と発熱体204に同時に通電する割合を減らすことが可能なnを決定することで、定着ムラだけでなく、フリッカの対策も講じることができる。そこで本実施形態では、v=150の時はn=0とするよりも、n=2とし、また、また、v=200の時は、n=4とするよりも、n=3とした。この数値であれば、フリッカの低減効果を得ることもできる。
【0074】
図14を参照して、本実施形態における定着ムラの低減効果について説明する。図示するグラフは、搬送速度vが150[mm/sec]の時の、発熱体を通じて記録材に付与される電力を示したものである。グラフの横軸は記録材の先端から記録材の搬送方向の距離である。また、縦軸は、記録材の各位置に発熱体により与えられる総電力を相対値で示している。点線で示しているのは定着ムラに不利な制御開始時間差n=1の時の電力分布であり、実線で示しているのは定着ムラの低減できる条件の制御開始時間差n=3の時の電力分布を示している。
【0075】
n=1の時は、記録材のエリアごとに付与される電力の大小差が大きい。一方で、n=3の時は付与される電力の大小差が小さい。このように、(1)式に基づいて制御開始タイミングをずらすことによって、記録材に与えられる電力のムラを変更することができる。よって、最適な制御開始時間差を決定することで定着ムラの低減効果がある。
【0076】
(2−4:制御フローチャートについて)
図15に、上述した(1)式により求めたnを記憶させたエンジンコントローラ220によって、発熱体203、204の電力制御を行う際の制御フローチャートを示す。
【0077】
エンジンコントローラ220がプリント開始指示を受けてから、まずS201において交流電源のZEROX信号の立下りエッジを検出する。次にS202において、この立下りエッジの周期から交流電源周波数をエンジンコントローラ220で計算する。またS203において、図5で説明した制御ZEROX信号を生成する。
【0078】
次に、S204において、サーミスタ222の温度検知によりセラミック面発ヒータ224が異常でなければ、S205において記録材サイズ等を検知して、S206において搬送速度を決定する。ここで、予めエンジンコントローラ220のメモリに記憶しておいた制御パターンを搬送速度ごとに呼び出す。
【0079】
画像形成装置がプリント可能な状態に立ち上がったら、S207において上流の発熱体203と下流の発熱体204への電力供給の制御を、選択した制御パターンで同時に開始する。以後、S208、S209においてサーミスタ222でセラミック面発ヒータ224の温度を監視しながら、セラミック面発ヒータ224が所望の温度になるように温調を
続ける。仮にS210のように、プリント中に記録材のサイズ変更などにより搬送速度に変更が生じたら、搬送速度に応じて再び制御パターン呼び出して制御し直す。
【0080】
このように本実施形態によれば、波数制御においても、搬送速度を切り替える時に、制御開始時間の差を(1)式を満たす値に切り替えて発熱体を制御すれば、搬送速度の切り替えに影響なく、定着ムラを低減した画像を出力することが可能になる。
【0081】
[第3実施形態]
本発明を適用可能な第3実施形態に係る画像形成装置について説明する。なお、第1、第2実施形態で説明した画像形成装置の構成と同一構成のものは、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0082】
(3−1:定着器の概略構成)
本実施形態における定着器の概略構成、特に、セラミック面発ヒータ224の発熱体の形状について説明する。図3(c)に、本実施形態におけるセラミック面発ヒータ224の発熱体の形状を示す。第1、第2実施形態では、記録材の搬送方向に沿って2本の発熱体が設けられているが、本実施形態では、3本の発熱体が設けられている。
【0083】
ここで記録材の搬送方向に対して一番上流にある発熱体306aと真ん中の発熱体307のそれぞれ幅方向中心を基準とした間の距離をB[mm]とし、一番下流にある発熱体306bと真ん中の発熱体307の幅方向の中心を基準とした間の距離をC[mm]とする。なお、発熱体306bと発熱体306aは共通の電極303、305を有しているので、同じ制御が行われる。
【0084】
(3−2:制御パターンの制御開始時間差について)
図16を参照して、制御パターンと制御開始時間差について説明する。図16(a)は、本実施形態の制御パターンであり、図16(b)は、そのときの発熱体に流れる電流波形である。
【0085】
第1実施形態と同様に、上流の発熱体306aと真ん中の発熱体307の距離Bと搬送速度vから、下に示す(2)式の制御開始時間差nbを決定できる。同様に、発熱体306bと発熱体307の距離Cと搬送速度vから、下に示す(3)式の制御開始時間差ncを決定できる。
【数2】
【数3】
【0086】
しかしながら、発熱体306bは、発熱体306aと同じタイミングで駆動するので、発熱体306bと発熱体307間での制御開始時間差ncは、発熱体307の制御開始時間と発熱体306aの次の制御周期の先頭T[sec]との時間差(4)式に必然的に決まる。
【数4】
【0087】
よって(3)式は、(3)式と(4)式により、
【数5】
と置き換えることができる。
【0088】
このように、定着ムラを低減する発熱体306と発熱体307の制御開始時間差は、(2)式と(5)式の両方を満たすnbである。本実施形態では、交流電源周波数を50[
Hz]、発熱体中心間距離B、Cをそれぞれ1[mm]、1.5[mm]、搬送速度をv=1
50[mm/sec]とし、1制御周期Tを、8半波を1制御周期とする80[msec]とした。このときの(2)式と(5)式からnbは、nb≠1、nb≠7を両方満たせば良
いので、本実施形態ではnb=3とした。
【0089】
図17を参照して、本実施形態における定着ムラの低減効果を説明する。図17に示すグラフは、記録材の搬送速度vが150[mm/sec]の時の、発熱体を通じて記録材に付与される電力を示したものである。グラフの横軸は、記録材の先端から記録材の搬送方向の距離であり、縦軸は、記録材の各位置に発熱体により与えられる総電力を相対値で示している。
【0090】
点線で示しているのは定着ムラに不利な制御開始時間差nb=1の時の電力分布であり、実線で示しているのは定着ムラの低減できる条件の制御開始時間差nb=3の時の電力分布を示している。nb=1の時は、記録材のエリアごとに付与される電力の大小差が大きい。一方で、nb=3の時は、付与される電力の大小差が小さい。
【0091】
このように、図3(c)に示す発熱体の形状においても、記録材の搬送速度ごとに制御開始時間を変えることによって、記録材に与える電力を変えることができる。よって最適な制御開始時間差を決定することで、定着ムラの低減効果を得ることができる。また、制御フローチャートは、図10に示すものと同様であり、その説明は第1実施形態と同様であるため省略する。
【0092】
以上より、本実施形態によれば、発熱体を分岐するなどして発熱体間隔が複数ある構成においても、搬送速度の切り替えに影響なく、定着ムラを低減した画像を出力することが可能になる。
【符号の説明】
【0093】
105…プロセスカートリッジ 115…定着器 201…交流電源(商用電源) 203…発熱体 204…発熱体 220…エンジンコントローラ 224…セラミック面発ヒータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材上に画像を形成する画像形成部と、
商用電源から供給される電力によって発熱する発熱体が複数形成されている加熱ヒータと、前記加熱ヒータを内側に有する加熱回転体と、前記加熱ヒータの反対側から前記加熱回転体を挟むようにして前記加熱回転体に圧接してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部において前記加熱回転体の回転方向に搬送される記録材の搬送方向に並ぶ前記複数の発熱体から熱を付与することで、前記ニップ部において記録材上に形成されている画像を記録材上に定着させる定着器と、
前記発熱体へ供給する電力を前記発熱体ごとに制御可能な制御部と、
を備える画像形成装置において、
前記制御部は、
前記商用電源の連続する複数の半波を1制御周期として前記発熱体に供給する電力を制御すると共に、記録材上において前記複数の発熱体のうちの第1発熱体によって加熱された部分が前記第1発熱体よりも記録材の搬送方向下流側にある第2発熱体の加熱領域に到達するタイミングと、前記第1発熱体への電力供給の制御を開始してから時間差を設けて前記第2発熱体への電力供給の制御を開始するタイミングとが同じにならないように、記録材の搬送速度に応じて、前記時間差を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
記録材上に画像を形成する画像形成部と、
商用電源から供給される電力によって発熱する発熱体が複数形成されている加熱ヒータと、前記加熱ヒータを内側に有する加熱回転体と、前記加熱ヒータの反対側から前記加熱回転体を挟むようにして前記加熱回転体に圧接してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部において前記加熱回転体の回転方向に搬送される記録材の搬送方向に並ぶ前記複数の発熱体から熱を付与することで、前記ニップ部において記録材上に形成されている画像を記録材上に定着させる定着器と、
前記発熱体へ供給する電力を前記発熱体ごとに制御可能な制御部と、
を備える画像形成装置において、
前記制御部は、
前記商用電源の連続する複数の半波を1制御周期として前記発熱体に供給する電力を制御すると共に、記録材上において前記複数の発熱体のうちの第1発熱体によって加熱された部分が前記第1発熱体よりも記録材の搬送方向下流側にある第2発熱体の加熱領域に到達するタイミングと、前記第1発熱体への電力供給の制御を開始してから時間差を設けて前記第2発熱体への電力供給の制御を開始するタイミングとが同じにならないように、記録材の搬送速度に応じて、前記時間差を変更することを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−128170(P2012−128170A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279299(P2010−279299)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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