説明

画像形成部材

【課題】リソグラフィーのための、小さな温度変化で親水性/疎水性状態などを急速に変化させることのできる、画像形成部材を備える印刷装置を提供する。
【解決手段】画像形成部材110は、基体112と表面層114とを含み、表面層114は、相溶性状態と非相溶性状態との間の短時間での可逆的切換えを可能にする感熱材料を含む。画像形成部材110を備える印刷装置100は、インク供給源130と第1熱供給源140とを備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成部材、印刷装置、印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2008年4月1日出願の米国特許出願第12/060427号に関連する。本出願は、また、[20070169−US−NP]、[20070169Q−US−NP]および[20090067/20090068−US−NP]に関連する。これら4件の特許出願を、全体で本願に引用して援用する。
【0003】
リソグラフィーは、概して平滑な表面を使用する印刷方法である。表面、例えば、版または画像形成部材の表面は、(i)溶液(水)をはじき、インクを引きつける疎水性領域;および(ii)インクをはじき、溶液を引きつける親水性領域から構成される。次いで、典型的には水をベースにした溶液である湿し水(fountain solution)を表面に塗布すると、該湿し水は、親水性(すなわち、疎油性)領域に付着し、一方、インクは、疎水性(すなわち、親油性)領域に付着して画像を形成する。
【0004】
オフセットリソグラフィーでは、次いで、画像形成部材上の画像を、一般には、インクを拾い上げる中間転写部材に転写する。次いで、中間転写部材上のインク画像を最終の被印刷体(例えば、紙)に転写する。
【0005】
オフセットリソグラフィーは、直記式リソグラフィー法と比較して、一貫して高い画像品質、広範な被印刷体の自由度、および印刷版のより長い寿命を提供する。加えて、オフセットリソグラフィーは、一般に、オフセットリソグラフィーにおけるコストの大部分が先行投資にあるので、大量複製印刷に対してより低いコストを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,175,568号明細書
【特許文献2】米国特許第5,200,762号明細書
【特許文献3】米国特許第6,108,021号明細書
【特許文献4】米国特許第6,146,798号明細書
【特許文献5】米国特許第6,146,812号明細書
【特許文献6】米国特許第6,162,578号明細書
【特許文献7】米国特許第6,387,588号明細書
【特許文献8】米国特許第6,447,978号明細書
【特許文献9】米国特許第6,465,152号明細書
【特許文献10】米国特許第6,725,777号明細書
【特許文献11】米国特許第6,893,798号明細書
【特許文献12】米国特許第7,008,751号明細書
【特許文献13】米国特許第7,020,355号明細書
【特許文献14】米国特許第7,061,513号明細書
【特許文献15】米国特許第7,194,956号明細書
【特許文献16】米国特許第7,205,091号明細書
【特許文献17】米国特許第7,351,517号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2002/0048718号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2006/0160016号明細書
【特許文献20】国際公開第03/053882号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のリソグラフィー技術は、永続的な疎水性領域および親水性領域を備える画像形成版(image plate)を使用する。しかし、このような版は、高価であり、かつ無視できないセットアップ時間を必要とする。このことは、短期運転(すなわち、少量)印刷および変動データ印刷(例えば、ダイレクトメール広告)に対するリソグラフィーの魅力を制限する。
【0008】
1つの取組みは、版または画像形成部材上の感熱材料を利用して、デジタル式の変動データ印刷を可能にすることであった。しかし、このような材料は、一般に、それらの状態を逆転するのに高い温度(例えば、100℃を超える)を必要とし、かつ/または逆転するのが遅い。小さな温度変化で親水性/疎水性状態などを急速に変化させることのできる、リソグラフィーのためのデバイスおよび/または方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、デジタル−直記式、またはデジタル−オフセット式のリソグラフィーなどの印刷方法に有用な画像形成部材を対象とする。該画像形成部材は、トナーおよびインクなどの印刷薬剤に対するその表面相溶性を温度変動に応答して十分に変化させ得る感熱材料の表面外側層を含む。この感熱材料は、典型的なオフセット印刷速度と適合する時間スケールでの小さな温度変化に曝露した後に、親水性/疎水性状態、親油性/疎油性状態、またはその他の相溶性/非相溶性状態の間で、あるいはその逆の状態に転換する。このシステムは、画像形成部材に付加される、または該画像形成部材から除去される少量の熱のみで、画像形成部材を急速に変化させて様々な画像の印刷を可能にする。画像形成部材を備える印刷装置およびこのような画像形成部材を使用する印刷方法も開示される。
【0010】
より詳細には、いくつかの実施形態で開示されるのは、印刷薬剤に対するその相溶性または非相溶性を温度変化に応答して急速かつ十分に逆転させ得る感熱材料を含む表面層を有する画像形成部材である。
【0011】
さらなる実施形態において、該画像形成部材は、基体;および湿潤性状態間の可逆的な切換えを可能にする感熱材料を含む表面層を備える。
【0012】
画像形成部材は、エンドレスベルト、円筒状スリーブ、またはシリンダーの形態でよい。画像形成部材は、さらに、基体と表面層との間に吸収層を含むこともできる。吸収層は、集積回路で制御される個別的にアドレス可能なユニットセルなどの形態のアドレス可能なメタ材料を含むことができる。
【0013】
他の実施形態において、画像形成部材は、基体;および印刷薬剤に相溶性の状態と印刷薬剤に非相溶性の状態との間の可逆的な切換えを可能にする感熱材料を含む表面層を含む。例えば、感熱材料は、親水性状態と疎水性状態との間の、または親油性状態と疎油性状態との間の切換えを可能にすることができる。
【0014】
さらに開示されるのは、熱供給源;インク供給源;および(i)基体および(ii)印刷薬剤とのその相溶性を温度変化に応答して十分に逆転させ得る感熱材料を含む表面層を含む画像形成部材を備える印刷装置である。
【0015】
実施形態において、感熱材料は、アクリルアミドポリマーでよい。アクリルアミドポリマーは、N−イソプロピルアクリルアミドモノマーを含めて構成されるコポリマーでよいし、あるいは感熱材料はN−イソプロピルアクリルアミドホモポリマーでよい。
【0016】
感熱材料は、約10℃〜約120℃の温度、例えば、約25℃を超えかつ約90℃未満の温度、または約25℃〜約40℃の温度に曝された場合に、状態を切り換えることができる。
【0017】
表面層は、粗い、すなわち平滑でない表面であってもよい。粗さは、最上表面上に存在する規則正しい構造および/またはランダムな構造によってもたらされ得る。表面層は、横方向(表面に沿って)で約10ナノメートル〜約100マイクロメートル、および縦方向(すなわち、表面に垂直)で約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの粗さを有してもよい。このような構造は、製作/合成の工程中に自然に形成される、あるいは付加的な製造ステップとして人工的に作り出される場合がある。該構造は、マイクロメートルまたはナノメートルのスケール、あるいは多様なスケールの(階層的)構造で存在できる。粗さをもたらす構造は、例えば、溝、隆起、柱などの形状でよい。例えば、表面層は、規則正しく構築された溝を含むことができる。溝は、約10nm〜約10μmの幅、約10nm〜約10μmの深さ、および/または隣接する溝との間に約10nm〜約100μmの間隔を有することができる。
【0018】
画像形成部材は、さらに、基体と表面層との間に吸収層を含むことができる。該吸収層は、照射線吸収層でよく、アドレス可能でもよい。
【0019】
感熱材料は、(i)親水性状態と疎水性状態との間の、(ii)親油性状態と疎油性状態との間の、または(iii)印刷薬剤との相溶性状態と印刷薬剤との非相溶性状態との間の可逆的な切換えを可能にすることができる。
【0020】
熱供給源は、電磁加熱デバイス(例えば、光学的またはマイクロ波)、音響加熱デバイス、熱印刷ヘッド、抵抗加熱フィンガー、またはマイクロヒーターアレイでよい。熱供給源は、基体と表面層との間の画像形成部材内に配置することができる。熱供給源は、また、画像形成部材から離して配置することができる。
【0021】
印刷装置は、転写ニップの中または近傍に熱を供給するように構成された第2熱供給源と一緒に画像形成部材と転写ニップを形成する中間転写部材、および/または中間転写部材を洗浄するためのクリーニングユニットを任意選択で備えることができる。
【0022】
さらに他の実施形態で開示されるのは、印刷薬剤とのその相溶性を温度変化に応答して急速かつ十分に逆転させ得る感熱材料で基体を被覆して、表面層を有する画像形成部材を形成すること;該表面層を熱刺激に選択的に曝して画像領域および非画像領域を形成すること;画像領域を印刷薬剤で満たして印刷画像を形成すること;および該印刷画像を記録媒体に転写することを含む印刷方法である。この方法で作り出された印刷画像も包含される。
【0023】
印刷画像は、まず、中間転写部材に転写され得る。この転写は、画像領域を、該画像領域を印刷薬剤に非相溶性の状態に変換または転換する熱刺激に曝すことによって、促進され得る。次いで、印刷薬剤は、画像形成部材の表面層上の画像領域によってはじかれ、中間転写部材により容易に移動する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】印刷装置の典型的な第1実施形態を示す図である。
【図2】印刷装置の典型的な第2実施形態を示す図である。
【図3】印刷装置の典型的な第3実施形態を示す図である。
【図4】下限臨界溶液温度(LCST)の上下でのポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ポリマーの水素結合の相違を説明する図である。
【図5】画像形成部材の典型的実施形態を示す図である。
【図6】画像形成部材の別な典型的実施形態を示す図である。
【図7】25℃および40℃での水接触角に対する溝間隔の効果を示すグラフである。
【図8】平坦表面および6μmの溝間隔を有する表面上での水接触角に対する温度の効果を示すグラフである。
【図9】20℃と50℃の温度の間での反復切換え中の水接触角を示すグラフである。
【図10】表面層が溝の存在によって粗くされている画像形成部材の典型的実施形態を示す図である。
【図11】可撓性ベルトの形態である画像形成部材の典型的実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、トナーおよびインクなどの印刷薬剤に対するその表面相溶性を、小さな温度変動に応答して十分に変化させ得る感熱材料を有する画像形成部材に関する。例えば、画像形成部材の表面の疎水性領域を、温度転換に曝すことにより、親水性領域へ急速に切り換えることができる。同様に、画像形成部材の表面の親油性領域を疎油性表面に切り換えることができる。本開示は、また、このような画像形成部材を含む装置、およびリソグラフィー印刷への応用などにおけるこのような画像形成部材の使用方法に関する。
【0026】
本明細書に開示される方法および装置のより完全な理解は、添付図面を参照することによって得ることができる。これらの図は、現行技術および/または本発明による進化を説明する上での便宜および平易性に基づく単なる概略的描写であり、それゆえ、組立て品またはその構成部品の相対的な大きさおよび寸法を示すことを意図しない。
【0027】
明瞭性のために以下の説明で特定の用語を使用するが、これらの用語は、単に、図面に関する説明のために選択された実施形態の特定の構造体を指すことを意図し、本開示の範囲を規定または限定することを意図しない。図面および以下の説明において、類似の数字による指定は、類似機能を有する構成要素を指すことを理解されたい。
【0028】
量に関して使用される修飾語「約」は、指定された値を包含し、文脈によって規定される意味を有する(例えば、それは、少なくとも、個々の量の測定に付随する程度の誤差を包含する)。特定の値と共に使用する場合、それは、また、その値を開示していると考えるべきである。例えば、用語「約2」は、値「2」も開示し、「約2〜約4」の範囲は、「2〜4」の範囲も開示する。
【0029】
本開示は、感熱材料(すなわち、可逆性表面エネルギー材料)の表面層を含む画像形成部材に関する。感熱材料と印刷薬剤(トナーまたはインクなど)との相溶性を、温度変化に応答して十分に逆転させることができる。感熱材料が、相溶性状態と非相溶性状態との間での可逆的な切換えを可能にすると考えることもできる。
【0030】
相溶性状態において、印刷薬剤は、表面に引き寄せられるが、一方、非相溶性状態において、印刷薬剤ははじかれる。相溶性状態と非相溶性状態との間の切換えの例には、小さな温度変化に曝された場合の、親水性状態から疎水性状態への、または親油性状態から疎油性状態への、あるいはその逆の切換えが含まれる。親水性状態において、材料は、相対的に水またはその他の水性溶液に引き寄せられ、一方、疎水性状態において、材料は、水またはその他の水性溶液をはじく傾向がある。親油性状態において、材料は、相対的にオイルに引き寄せられ、一方、疎油性状態において、材料はオイルをはじく傾向がある。
【0031】
本開示の画像形成部材は、デジタル−直記式リソグラフィーまたはデジタル−オフセット式リソグラフィーのための印刷装置で有用である可能性がある。本開示は、また、熱供給源、インク供給源、および本明細書に記載されている画像形成部材を備える印刷装置に関する。熱供給源は、画像形成部材内(それと統合して)、あるいは印刷装置の別のユニットまたは構成部品内に配置できる。
【0032】
図1は、本開示の第1実施形態の印刷装置100を示す。印刷装置100は、画像形成部材110を備える。画像形成部材は、基体112および表面層114を含む。表面層は、画像形成部材の最外層、すなわち基体から最も遠い画像形成部材の層である。表面層114は、感熱材料を含む。ここに示すように、基体はシリンダーであるが、基体は、ベルト形態(図11)などでもよい。表面層114は、約1マイクロメートル〜約100マイクロメートル、例えば、約5マイクロメートル〜約60マイクロメートル、または約10マイクロメートル〜約50マイクロメートルの厚さを有することができる。
【0033】
描写した実施形態において、画像形成部材110は反時計回りに回転する。装置は、湿し水供給源120、およびインク供給源130を備える。ここで、インクは、市販のオフセットインク(すなわちオイルをベースにしたインク)に類似している。第1熱供給源140は、湿し水およびインクを塗布するに先立って、熱が、表面層114上で発生し、かつ/または該表面層に印加されるように配置される。例えば、ここで示すように、第1熱供給源140は、熱が、画像形成部材110と湿し水供給源120との間のニップ領域122で印加されるように配置される。第1熱供給源140は、表面層114の部分を選択的に加熱して、表面層上に画像領域142および非画像領域144を作り出す。次いで、非画像領域に湿し水を塗布し、画像領域にインクを塗布してインク画像を形成する。一般に、湿し水を塗布する場合、それはインクを塗布するに先立って塗布される。
【0034】
印圧シリンダー(impression cylinder)150は、紙などの記録媒体または被印刷体160を、印圧シリンダー150と画像形成部材110との間のニップ領域152に供給する。次いで、インク画像を被印刷体に転写する。クリーニングユニット170は、何らかの残留するインクまたは湿し水を画像形成部材から取り除く。クリーニングユニットは、また、選択された領域で高められた温度から表面層の温度がその全体にわたって比較的一定である初期状態まで、表面層を冷却することができる。
【0035】
図2は、本開示の第2実施形態の印刷装置200を示す。この印刷装置200は、その上に基体212および表面層214を含む画像形成部材が配置されたシリンダー210を含む。ここで、該画像形成部材は、円筒状スリーブの形態である。印刷装置200は、また、図1に関して説明したように、インク供給源230、第1熱供給源240、印圧シリンダー250、被印刷体260、およびクリーニングユニット270を含む。しかし、湿し水供給源を具備しない。第1熱供給源240は、熱が、画像形成部材210とインク供給源230との間のニップ領域232で発生し、かつ/または該領域で印加されるように配置できる。別法として、熱は、インク供給源230の前に配置されたプレニップ領域234で再び印加することができる。
【0036】
この実施形態では、主な種類のインク(オイルをベースにした、水をベースにした、紫外線硬化型)のいずれかを使用できる。表面層214への熱の印加は、インクとの相溶性領域242および非相溶性領域244を作り出す。例えば、オイルをベースにしたインクは、親油性領域242に塗布され、一方、水をベースにしたインクは、親水性領域244に塗布される。それぞれ、疎油性または疎水性領域にはインクが付着しない。
【0037】
加えて、第2熱供給源280が、印圧シリンダー250と画像形成部材210との間のニップ領域252の近傍に配置される。第2熱供給源を使用して、画像形成部材210から被印刷体260へのインク転写の効率を高めることができるであろう。例えば、表面層214は、加熱された後に疎油性になる。表面層を選択的に加熱した後に、親油性領域にオイルをベースにしたインクを塗布する。次いで、オイルをベースにしたインクを被印刷体に転写するにつれて、第2熱供給源280は、親油性領域を加熱し、その領域を疎油性領域に切り換え、画像形成部材210からの完全なインク放出をもたらすことができるであろう。
【0038】
図3は、本開示の第3実施形態の印刷装置300を示す。この印刷装置300は、図1に関して説明したように、基体312および表面層314を有する画像形成部材310、インク供給源330、第1熱供給源340、印圧シリンダー350、被印刷体360、およびクリーニングユニット370を含む。加えて、該印刷装置は、画像形成部材310と印圧シリンダー350の間に配置された中間転写部材390を備える。画像形成部材310上に形成されたインク画像は、中間転写部材390に、次いで被印刷体360に転写される。ここに示したように、第2熱供給源380は、画像形成部材310と中間転写部材390との間の転写ニップ382の近傍に熱を供給する。転写部材のクリーニングユニット395は、中間転写部材390を洗浄するために存在することができる。
【0039】
表面層で使用される感熱材料は、アクリルアミドポリマーを含むことができる。アクリルアミドポリマーは、ホモポリマー、またはアクリルアミドモノマーを含めて構成されるコポリマーでよい。アクリルアミドポリマーは、式(I)のアクリルアミド単位を含む。
【0040】
【化1】

上記式(I)中、Rは、水素、または1〜約10個の炭素原子、例えば、約1〜約6個の炭素原子を有するアルキルである。
【0041】
特定の実施形態において、Rは、イソプロピルであり、その結果、アクリルアミドポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(すなわち、ホモポリマー)、またはN−イソプロピルアクリルアミドコポリマー、特に2種のモノマーのみを有するダイポリマーである。アクリルアミドポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)コポリマーである場合、アクリルアミドモノマーは、コポリマーの反復単位の50〜100%、またはコポリマーの50〜100モル%を構成することができる。コポリマーの他のコモノマーは、例えば、スチレン、ビスフェノール−A、アクリル酸、4−ビニルフェニルボロン酸(VPBA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル(DEAEMA)、またはメタクリル酸(MAA)でよい。その他のコモノマーは、フッ素化アクリル酸アルキル、またはメタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル(HFIPMA)もしくはメタクリル酸2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(HFBMA)などのフッ素化メタクリル酸アルキルでもよいであろう。その他のコモノマーは、N−エチルアクリルアミド(NEAM)、N−メチルアクリルアミド(NMAM)、N−n−プロピルアクリルアミド(NNPAM)、N−t−ブチルアクリルアミド(NtBA)、またはN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAM)などの別のアクリルアミドモノマーでもよいであろう。
【0042】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)は、小さな温度変化に応答して表面エネルギーの大きな変化を示す典型的な感熱材料である。PNIPAMは、約32℃〜約33℃の下限臨界溶液温度(LCST)を有する。PNIPAMで改変された表面上の水滴の接触角は、LCSTの上下で劇的に変化する。一実施形態において、画像形成部材は、PNIPAMで改変されて、水滴が塗布された。接触角は、25℃で63.5°であったが、40℃で93.2°であった。
【0043】
ポリ(N−n−プロピルアクリルアミド)(PNNPAM)は、小さな温度変化に応答して表面エネルギーの大きな変化を示すもう1つの典型的な感熱材料である。PNNPAMは、約24℃の下限臨界溶液温度(LCST)を有する。
【0044】
理論によって束縛されるものではないが、LCSTより低い温度で、PNIPAM鎖は、PNIPAM鎖と塗布された溶液中に存在する水分子との間で主に発生する分子間水素結合によってもたらされる延伸構造を形成すると考えられる。この分子間結合は、PNIPAMで改変された表面の親水性に寄与する。しかし、LCSTより高い温度で、水素結合は、PNIPAM鎖自体の間で主に発生し、1つのPNIPAM鎖のカルボニル酸素原子が、隣接PNIPAM鎖の窒素原子上の水素原子に結合する。C=Oと隣接PNIPAM鎖のN−H基との間の分子内水素結合は、LCSTより高い温度で疎水性を生じるコンパクトな立体配座をもたらす。この相互作用を図4に示す。この相互作用は、イソプロピル鎖に依存せず、したがって、他のアクリルアミドポリマーにも適用されるはずである。
【0045】
感熱材料は、少なくとも3つの異なる道筋で感熱性であると考えることができる。感熱材料は、約10℃〜約80℃の温度変化(すなわち、相対温度差)、特に約10℃〜約20℃の温度変化に曝されると、切換え状態(例えば、親水性と疎水性との間での)と見なすことができる。別法として、感熱材料は、約20℃を超えかつ約120℃未満の温度(すなわち、確実な温度(absolute temperature))に曝されると、状態を切り換えることができる。若干の実施形態において、感熱材料は、約25℃を超えかつ約90℃未満の温度、または約30℃を超えかつ約55℃未満の温度に曝されると、状態を切り換える。結局、感熱材料は、約25℃〜約40℃の温度、例えば、約32℃の温度で状態を切り換えることができる。
【0046】
熱を印加した場合に、感熱材料が切り換わる方向は、異なることができる。いくつかの実施形態において、材料は、相対的に低い温度でインクと相溶性であり、かつ相対的に高い温度でインクと非相溶性である。いくつかの他の実施形態において、材料は、相対的に高い温度でインクと相溶性であり、かつ相対的に低い温度でインクと非相溶性である。いくつかの実施形態において、材料は、室温(すなわち、約23℃〜約25℃)で親水性であり、かつ高められた温度で疎水性である。他の実施形態において、材料は、室温で親油性であり、かつ高められた温度で疎油性である。
【0047】
アクリルアミドポリマーは、他の材料と組み合わされて画像形成部材の表面層を形成することができ、または全表面層を形成することができ、または基体の表面を改変して表面層を形成することができる。若干の実施形態において、表面層は、アクリルアミドポリマーの自己集合性単層である。他の実施形態において、表面層は、アクリルアミドポリマーと別の材料との複合体である。例えば、ケイ素基体をアクリルアミドポリマーとオクタデシルシランの両方で改変して表面層を形成できる可能性がある。別法として、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブなどの強力な照射線吸収粒子を、ポリアクリルアミドポリマーをベースにしたネットワーク内に分散させて、複合表面層を形成できるであろう。図4に示すように、表面層を、基体の表面から延伸しているポリマー鎖の層と見なすことができる。表面層の形成方法は、当技術で周知である。
【0048】
表面層の特性は、異なる成分を添加することによって改変できる。例えば、NIPAMホモポリマー(すなわち100モル%)のLCSTは、約32℃である。しかし、70モル%のNIPAMと30モル%のNtBAからなるコポリマーのLCSTは、約20℃である。同様に、70モル%のNIPAMと30モル%のNEAMからなるコポリマーのLCSTは、約43℃である。70モル%のNIPAMと30モル%のNMAMからなるコポリマーのLCSTは、約40℃である。若干の実施形態において、表面層中で使用されるアクリルアミドポリマーのLCSTは、約25℃〜約45℃である。別の例として、表面層の疎水性は、NIPAMポリマーおよび疎水性オクタデシルシランを含めることによって改変され得る。
【0049】
表面層の応答時間(すなわち、感熱材料が状態を切り換えるのにかかる時間)は、印刷装置の最大印刷速度に影響を及ぼす。総応答時間に寄与する2の要因:(1)熱応答時間、および(2)立体配座応答時間が存在する。熱応答時間は、画像形成部材が、2つの操作温度の間でどれだけ急速に切り換わることができるかを示し、表面層の所定領域を加熱するのに使用される出力によって決まる。所定の加熱出力に関して、NIPAMで改変された表面の熱応答時間は、親水性状態と疎水性状態との間で切り換わるために求められる温度差が小さいため、極めて短い。立体配座応答時間は、アクリルアミドポリマー鎖が、温度変化に応答してそれらの立体配座をどれだけ急速に変化させることができるかを示す。実験で、PNIPAMポリマーは、300ミリ秒以内に非水溶性になった。したがって、二次元表面上のPNIPAM鎖からなる表面層の立体配座応答時間は、やはり、ミリ秒程度であるはずである。実施形態において、表面層は、1秒(すなわち、1000ミリ秒)以内に2つの状態の間で切り換わることができる。別の実施形態において、表面層は、500ミリ秒以内に状態を切り換えることができる。
【0050】
所望であれば、感熱材料を含む表面層の機械的強度を改善できる。例えば、ナノ充填剤などの複合材料を含めることができる。別の例として、表面層は、アクリルアミドポリマーと架橋する他のポリマーを含み得るであろう。また、感熱材料を含む表面層を、画像形成部材の基体から隔てて構築できることが想定される。表面層は、容易に取り外し、かつ交換できるスリーブの形態で作製され得るであろう。
【0051】
表面層の粗さを操作して、感熱材料のインクとの相溶性/非相溶性(親水性/疎水性)を増幅することができる。換言すれば、表面層は、平滑でなくてもよい。言い換えれば、表面層の上面は、該表面層を載せている基体から一定の距離を維持しないか、あるいは表面層は、その最低点からその最高点まで厚さを変えることができる。この表面粗さは、いくつかの手段で成し遂げることができる。例えば、材料を表面層の上部に追加または上部から除去して、表面層が平滑であるのを防止する構造を形成することができる。別の例として、表面層を基体上に被覆する場合であれば、表面層を、塗布の際にわずかに粗くし、かつ/または平滑になるのを防止することができる。一般的に言って、表面粗さは、マイクロメートルもしくはナノメートルのスケールの規則的な構造および/またはランダムに配置された構造の付加、減除、または創作によって、あるいは多様なスケールの(階層的)構造によって作り出すことができる。いくつかの実施形態では、図10に示すように、表面層400は、溝410を含むことができる(ここでは、平面として示されているが、表面層は平面である必要はない)。溝は、約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの深さ420を有することができる。溝は、約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの幅430を有することができる。隣接する溝との間に約10ナノメートル〜約100マイクロメートルの間隔440が存在できる。溝の大きさおよび間隔は、一般には規則的であるが、いくつかの実施形態では、異なってもよい。溝を、横および縦の両方向に作製し、例えば、チェッカー盤様パターンを形成することができる。しかし、任意の形状から構成される規則的で一様な任意のパターンが想定される。例えば、表面粗さは、隆起および柱などの形状から構成できるであろう。このようなパターンは、例えば、レーザー彫刻またはその他の手段によって作製できる。いくつかの実施形態において、粗さは、被覆工程の一部として作り出される。実施形態において、表面層は、横方向(すなわち、表面に沿って)で約10ナノメートル〜約100マイクロメートル、縦方向(すなわち、表面に垂直)で約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの粗さを有することができる。
【0052】
任意の適切な温度供給源を第1熱供給源として使用して、表面層中に温度変化をもたらすことができる。典型的な熱供給源には、レーザーまたはLEDバーなどの光学的加熱デバイス、熱印刷ヘッド、抵抗加熱フィンガー、あるいはマイクロヒーターアレイが含まれる。抵抗加熱フィンガーは、フィンガーが加熱されるべき表面と接触した場合に抵抗加熱をもたらす指様微小電極のアレイである。すべての場合に、熱供給源を使用して、ピクセルのアドレス可能性のために表面層を選択的に加熱できる。
【0053】
第1熱供給源および任意選択の第2熱供給源は、それらの機能を完遂できる印刷装置内のいずれかの場所に配置することができる。例えば、図1に示すように、第1熱供給源140は、円筒状の画像形成部材110内に配置される。図2では、第1熱供給源240は、熱印刷ヘッド、すなわち画像形成部材から離れたモジュールとして描かれている。図5に描かれたようないくつかの実施形態において、熱供給源は、基体と表面層との間の画像形成部材内に配置される。ここで示すように、画像形成部材500は、基体510、表面層540、およびそれらの間の熱供給源530を含む。この実施形態は、例えば、熱供給源が二次元マイクロヒーターアレイである場合に、適切である可能性がある。これらのマイクロヒーターは、個々に断続して表面層を選択的に加熱できる、抵抗器をベースにしたヒーターまたはトランジスターをベースにしたヒーターでよいであろう。マイクロヒーター532は、適切な充填材料534によって隔離される。また、基体と感熱表面層との間に断熱層520を配置して、基体を介しての熱損失を防止することができる。任意選択で、断熱層520は、整合可能な材料で作製できるであろう。断熱層および基体が、照射線に対して透明であるなら、レーザーなどの熱供給源を、画像形成部材の基体側(例えば、シリンダーの内部)に依然として配置できるであろう。
【0054】
図6に描かれた他の実施形態において、画像形成部材600は、基体610、断熱層620、吸収層630、および表面層640を含む。熱供給源、例えば、画像の位置にアドレス可能なレーザーは、吸収層630によって吸収される照射線を送出し、次いで表面層640を加熱し、表面層に選択的領域での状態切換えをもたらす。一般に、吸収層は、熱供給源からのエネルギーを吸収できる。例えば、熱供給源が、レーザーなどの照射線供給源であるなら、吸収層は、照射線吸収層である。熱供給源が、音響エネルギー供給源であるなら、吸収層は、音響エネルギー吸収層である。典型的な吸収層は、その中に包埋または分散されたカーボンブラックを含むポリマー材料である。熱供給源は、アドレス可能であり、吸収層630の特定のセルを加熱し、次に、表面層640の湿潤性状態を変える。
【0055】
さらに別のシステムにおいて、吸収層630は、ピクセルの位置にアドレス可能な材料で作製される。例えば、吸収層は、メタ材料(metamaterial)から作製できるであろう。メタ材料は、天然では入手できない、特定の励起に対する2つ以上の応答の組合せを生み出すように設計された、人工の三次元的で周期的なセル状アーキテクチャーを有する巨視的複合材料である。例えば、吸収層は、吸収を調整できるセルに分割され、アドレス可能な層として機能を発揮するメタ材料を含むことができるであろう。メタ材料のセルに向けた電気信号は、特に、キャパシターなどの調整可能な素子を有する活性メタ材料に関して、そのセルの吸収係数を制御する。アドレス可能である熱供給源を要求するよりも、広く均一な光照明を、このような吸収層と共に使用できるであろう。
【0056】
別のシステムにおいて、照射線熱供給源の代わりに音響熱供給源を使用したとするなら、吸収層630は、他の層に比較して音響エネルギー吸収材となり得よう。空間分割を得るために、音響供給源は、電気的にアドレス可能な音響供給源のアレイとなり得よう。
【0057】
湿し水供給源およびインク供給源を温度制御して、それらを画像形成部材に塗布するニップ領域の温度コントラストを最適にすることもできる。
【0058】
本開示の画像形成部材は、「オンザフライ(on the fly)」デジタル式リソグラフィーを可能にする。表面層は、小さな(約15℃程の小さな)温度変化を加えた後に、状態を切り換えることができ、エネルギー必要量は、画像形成部材が200℃より高い温度に到達するまで状態を切り換えない、酸化金属をベースにした表面に比較して、わずかである。
【0059】
画像形成部材の基体は、不透明または実質的に透明でよく、必要とされる機械的特性を有する任意の適切な材料を含むことができる。例えば、基体は、無機または有機組成物などの、電気的に非伝導性、半伝導性、または伝導性の材料からなる層を含むことができる。薄い織物として可撓性のあるポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタンなどをはじめとする各種の樹脂を、非伝導性材料として採用できる。電気伝導性の基体は、任意の金属、例えば、アルミニウム、ニッケル、鋼鉄、銅など、あるいは炭素、金属粉末などの電気伝導性物質で満たされた、または有機電気伝導性材料で満たされた、前記のようなポリマー材料でよい。電気的に絶縁性、半伝導性、または伝導性の基体は、可撓性無限ベルト、織物、シリンダー上に配置される円筒状スリーブ、シリンダー、シートなどの形態でよい。特定の実施形態において、画像形成部材(および基体)は、可撓性ベルト、円筒状スリーブ、またはシリンダーの形態である。図11に、ローラー710、720、および730の周りに配置されたベルト形態の画像形成部材700を描写する。画像形成部材の基体は、ローラーと接触し、一方、表面層は外側に面する。
【0060】
基体の厚さは、強度、ならびに所望されるおよび経済的な事由を含む多くの要因によって決まる。可撓性ベルトは、最終デバイスに対して不都合な影響がないなら、実質的厚さ、例えば約250マイクロメートル、または最小厚さ、例えば50マイクロメートル未満であればよい。
【0061】
基体が伝導性でない実施形態では、電気伝導性被覆を施すことによって、その表面を電気伝導性にすることができる。伝導性被覆は、光学的透明度、所望される可撓性の度合い、および経済的要因に応じて、かなり広範な範囲にわたって厚さを異にすることができる。したがって、可撓性画像形成部材の場合、伝導性被覆の厚さは、電気伝導度、可撓性、および光透過度の最適な組合せのために、約1ナノメートル〜約10マイクロメートル、より好ましくは約10ナノメートル〜約500ナノメートルでよい。可撓性のある伝導性被覆は、真空蒸着技術または電着などの任意の適切な被覆技術によって、例えば基体上に形成される電気伝導層でよい。被覆は、任意の典型的な被覆用の金属または非金属材料、例えば、ITO、スズ、金、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウムおよびハフニウム、チタン、クロム、タングステン、モリブデンなどを使用できるであろう。
【0062】
照射線吸収層630は、例えば、その中に照射線吸収粒子を分散させた高温樹脂から作製できる。この種の層は、高い光吸収効率および良好な熱伝導性を有することができる。照射線吸収粒子は、カーボンブラック粒子およびカーボンナノチューブを含むことができる。照射線吸収粒子は、照射線吸収層の約1.0質量%〜約50質量%で存在できる。典型的な高温樹脂には、ポリイミド、モノ/ビス−マレイミド、ポリ(アミド−イミド)、ポリエーテルイミド、およびポリエーテルエーテルケトンが含まれる。銀粉末などの付加的材料を層に添加して、材料特性を改善することができる。照射線吸収層は、照射線供給源の波長に適合した波長(UV〜IR)に強い吸収を有する染料または顔料を含むこともできる。照射線吸収層の厚さは、約20ナノメートル〜約5,000ナノメートルでよい。
【0063】
断熱層は、ポリイミド、ポリウレタン、およびポリスチレンなどの低熱伝導性材料で作製できる。断熱層の厚さは、約50マイクロメートル〜約1センチメートルでよい。
【0064】
他の実施形態において、整合可能な層650は、例えば、画像形成部材が、シリンダー上に取り付けるための円筒状表面の形態である場合に、画像形成部材と印刷装置の他の部分との間になされるべき良好な接触を可能にするために存在できる。典型的な整合可能な層は、シリコーン、VITON(登録商標)、双方などと炭素およびその他のナノ充填剤などの充填剤との組合せなどの材料から作製できるであろう。
【0065】
本開示の態様は、以下の実施例を参照することによってさらに理解できる。実施例は、単に、本開示の画像形成部材および印刷装置の各種態様をさらに説明するためのものであり、その実施形態を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0066】
いくつかのデバイスを作製して、得られる表面層の親水性/疎水性に対する表面粗さの効果を判定した。該デバイスは、表面層を形成するためにPNIPAMで改変されたケイ素基体からなった。次いで、該表面層に微小溝をチェッカー盤様パターンで形成した。各溝は、幅が6マイクロメートルで、深さが5マイクロメートルであった。隣接する溝間の間隔を変えた。デバイスは、4種の異なる間隔:6マイクロメートル、8マイクロメートル、18マイクロメートル、および31マイクロメートルで作製した。加えて、いかなる微小溝もまったく有さない(すなわち、無限大間隔の)デバイスについても測定した。
【0067】
[実施例1]
デバイスについて25℃および40℃の双方で水接触角を測定した。得られたグラフを図7に示す。25℃で、水接触角は減少し、6マイクロメートルの溝間隔で結局0°に達した。40℃で、水接触角は増加し、40℃で149.3°に達した。このことは、6マイクロメートルの溝間隔で、表面温度を15℃高めるだけで、PNIPAMで改変された表面を超親水性状態から超疎水性状態へ切り換え得るであろうことを示した。この比較的小さな温度差が、速やかな切換応答時間に貢献する。
【0068】
[実施例2]
2種のデバイス、一方は6マイクロメートルの溝間隔を有する表面層を有し(デバイスA)、他方は平坦な表面層を有する(デバイスB)について、ある温度範囲にわたって水接触角を測定した。グラフを図8に示す。6マイクロメートルの溝間隔を有するデバイスAは、20℃〜29℃の広い温度範囲に渡ってその超親水性を維持した。デバイスAは、次いで、接触角の急激な上昇を示し、40℃で再びプラトーに達した。この急激な上昇およびプラトー(plateau)は、温度変動に対して2つの安定状態を提供するので、デバイスAを魅力的にした。
【0069】
[実施例3]
6マイクロメートルの溝間隔を有する表面層を有するデバイスを、20℃と50℃との間で20回往復させて、状態間の切り替えが表面層の性能に影響を及ぼすか否かを判定した。グラフを図9に示す。そこに示すように、水接触角は、20℃の温度で一貫して0°のままであった。水接触角は、50℃の温度で変動したが、その変動は有意ではなく、20℃および50℃での接触角の間の急激な転移が存在し続けた。
【符号の説明】
【0070】
100,200,300 印刷装置、110,310,500,600,700 画像形成部材、112,212,312,510,610 基体、114,214,314,540,640,400 表面層、120 湿し水供給源、122,152,232,252 ニップ領域、130,230,330 インク供給源、140,240,340 第1熱供給源、142 画像領域、144 非画像領域、150,250,350 印圧シリンダー、160,260,360 被印刷体(記録媒体)、170,270,370,395 クリーニングユニット、210 シリンダー(画像形成部材)、234 プレニップ領域、242 相溶性領域(親油性領域)、244 非相溶性領域(親水性領域)、280,380 第2熱供給源、382 転写ニップ、390 中間転写部材、410 溝、420 深さ、430 幅、440 間隔、520,620 断熱層、530 熱供給源、532 マイクロヒーター、534 充填材料、630 吸収層、650 層、710,720,730 ローラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
相溶性状態と非相溶性状態との間の1秒以内での可逆的切換えを可能にする感熱材料を含む表面層と、
を備えることを特徴とする画像形成部材。
【請求項2】
熱供給源と、
インク供給源と、
(i)基体と、(ii)温度変化に応答して印刷薬剤とのその相溶性を十分に逆転させ得る感熱材料を含む表面層と、を含む画像形成部材と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
温度変化に応答して印刷薬剤とのその相溶性を十分に逆転させ得る感熱材料で基体を被覆して、表面層を有する画像形成部材を形成する工程と、
前記表面層を熱刺激に選択的に曝して、画像領域および非画像領域を形成する工程と、
前記画像領域を印刷薬剤で満たして、印刷画像を形成する工程と、
前記印刷画像を記録媒体に転写する工程と、
を含むことを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−241131(P2010−241131A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74270(P2010−74270)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】